病院事務長が実務と経営の視点で語る、医療制度の最新動向。急性期〜回復期で幅広い部門を統括してきた経験をもとに、最新の令和8年度診療報酬改定(算定要件・疑義解釈)や施設基準、医療DXの解説を音声で配信。経営層から現場の事務担当者まで、忙しい合間に「現場で使える知識」をアップデートできます。
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番組の魅力・推薦
令和8年度改定 身体的拘束最小化の3つの見直しを解説
令和6年度診療報酬改定では、身体的拘束の最小化に向けた取組が入院料の通則に規定されました。この規定により、医療機関は緊急やむを得ない場合を除いて身体的拘束を行わない方針と、組織的に拘束を最小化する体制の整備を求められています。しかし、その後の調査では、施設間で身体的拘束の実施状況に大きな差が残ることが明らかになりました。本記事は、この差を埋めるために行われる令和8年度改定の見直しを、3つのポイントに整理して解説します。令和8年度改定は、3つの見直しで身体的拘束の最小化を更に推進します。第1の見直しは、組織風土や実績の要件を加えた通則基準の充実です。第2の見直しは、体制の基準を満たす施設の減算を40点から20点へ軽減する見直しです。第3の見直しは、1日40点を算定できる「身体的拘束最小化推進体制加算」の新設です。1.通則基準の充実 ― 取組の「質」を3つの追加で高める通則基準の充実は、取組の質を高めるための3つの追加で構成されます。1つ目は組織風土に関する追加です。2つ目は研修内容に関する追加です。3つ目は実績要件の追加です。以下、それぞれを順に説明します。組織風土の醸成は、基準に新たに明記された考え方です。改定後の基準は、患者の尊厳の保持と療養環境の質の確保という観点を冒頭に掲げます。この観点のもとで、医療機関は緊急やむを得ない場合を除き身体的拘束を行わない方針を徹底します。さらに、こうした方針を組織全体に根づかせる組織風土の醸成にも努めることが求められます。研修内容の充実は、職員の意識を高めるための追加です。改定後の研修では、含むことが望ましい内容として2つの項目が新たに示されました。1つは身体的拘束の代替手段に関する内容です。もう1つは患者の尊厳の保持の重要性に関する内容です。あわせて、拘束を最小化する指針には、鎮静を目的とした薬物の適正使用などの内容を必ず盛り込むことになりました(従来は「盛り込むことが望ましい」)。実績要件の追加は、取組の成果を確認するための新しい基準です。この要件は、2つの選択肢のいずれかを満たすことを求めます。1つ目の選択肢は、身体的拘束の実施割合を医療機関内で1割5分(15%)以下に抑えることです。2つ目の選択肢は、拘束の原則廃止に向けて、3つの取組すべてを継続することです。3つの取組とは、3か月に1回以上の委員会の開催、拘束病棟での解除・代替策の検討(巡回または都度の多職種検討)、年2回以上の研修です。実績要件には、施設の準備期間を見込んだ経過措置が用意されています。令和8年3月31日時点で届出を行っている病棟は、令和9年5月31日まで猶予されます。この期間は、指針への記載と実績の要件を満たしているものとして扱われます。2.減算の見直し ― 体制を整えた施設は20点へ軽減減算の見直しは、体制づくりに努める施設の負担を和らげる仕組みです。従来は、身体的拘束最小化の基準を満たせない施設に対し、入院料から1日40点を一律に減算していました。改定後は、この40点減算を原則としつつ、体制の基準を満たす施設には20点減算という軽い扱いを設けます。20点減算の対象は、体制は整えたが実績の基準には届かない施設です。改定後の基準は、体制に関する基準と実績等に関する基準の2階建てに分かれます。このうち体制の基準だけを満たす施設は、40点ではなく20点の減算ですみます。一方、体制の基準すら満たせない施設は、これまでどおり40点の減算となります。3.新加算の創設 ― 質の高い取組を1日40点で評価身体的拘束最小化推進体制加算は、特に質の高い取組を評価する新しい加算です。この加算は、1日につき40点を算定できます。算定できる病棟は、療養病棟入院基本料をはじめとする6つの入院料・管理料を算定する病棟に限られます。算定には、体制・実績・情報公開という3種類の施設基準を満たす必要があります。対象となる病棟は、6つの入院料・管理料に対応します。具体的には、療養病棟入院基本料、障害者施設等入院基本料、有床診療所療養病床入院基本料、地域包括ケア病棟入院料、特殊疾患入院医療管理料、特殊疾患病棟入院料です。これら以外の入院料を算定する病棟は、本加算の対象に含まれません。施設基準は、3つの柱で組み立てられています。第1の柱は、拘束の最小化に資する十分な体制の整備です。第2の柱は、当該病棟における十分な実績の確保です。第3の柱は、取組内容の情報公開です。具体的には、病院全体としての取組・原則として拘束を行わない方針・拘束の実施状況の3点を、院内の見やすい場所に掲示し、あわせて原則としてウェブサイトにも掲載します。まとめ ― 患者の尊厳を守るケアを後押しする改定令和8年度改定は、3つの見直しで身体的拘束の最小化を更に推進します。通則の基準は、組織風土と実績の要件を加えて充実します。減算は、体制の基準を満たす施設で40点から20点へ軽減されます。そして、質の高い取組には「身体的拘束最小化推進体制加算」として1日40点が新たに評価されます。これらの見直しは、患者の尊厳を守るケアを後押しするものといえます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|腹膜透析の医療機関間連携をやさしく解説
腹膜透析を管理できる医療機関は、二次医療圏によって偏りがある。この偏りのため、基幹病院から遠い地域の患者は、質の高い腹膜透析管理を受けにくい。本稿は、この課題に対応する令和8年度診療報酬改定の項目「医療機関間連携による腹膜透析管理の推進」を解説する。今回の改定は、腹膜透析を導入する基幹病院と、患者の身近で管理を行うかかりつけ医との役割分担を、新たに評価する。具体的には、在宅自己腹膜灌流指導管理料を「管理料1」と「管理料2」に区分した。さらに、管理料2(1,500点)を新設し、基幹病院がかかりつけ医の求めに応じて指導管理を行った場合に算定できるようにした。ただし、管理料2の算定には、施設基準の届出と「一連の治療につき2回まで」という制限が設けられている。なぜ連携が必要か|腹膜透析管理の地域格差腹膜透析の管理には専門的な体制が必要であり、その体制を備えた医療機関は地域に偏在している。腹膜透析は、患者自身の腹膜を使って血液を浄化する在宅治療である。患者は、おなかに留置したカテーテルから透析液を出し入れする。この入れ替えを自宅で続けることで、透析が成立する。腹膜透析は、通院回数が少なく、生活の自由度が高いという利点を持つ。一方で、感染症や合併症を防ぐため、専門的な指導管理が欠かせない。こうした専門的な管理を担うのは、腹膜透析の導入から指導までを行う基幹病院が中心である。しかし、基幹病院は都市部に集中し、腹膜透析を管理できる医療機関が乏しい二次医療圏は多い。その結果、基幹病院から遠い地域の患者は、頻繁な通院が難しく、適切な管理を受けにくい。この医療アクセスの課題を解決する手段が、基幹病院とかかりつけ医の連携である。改定の具体的内容|管理料の区分と管理料2の新設今回の改定は、在宅自己腹膜灌流指導管理料を2つに区分し、連携を担う管理料2を新設した。現行の在宅自己腹膜灌流指導管理料は、4,000点の一本立てであった。改定後は、この管理料を「管理料1」と「管理料2」の2つに区分する。管理料1は、従来どおり4,000点であり、患者を継続的に管理するかかりつけ医が算定する。新設された管理料2は、1,500点であり、連携先の基幹病院が算定する。具体的には、管理料1を算定しているかかりつけ医の求めに応じて、基幹病院が指導管理を行った場合に算定できる。対象となるのは、頻回に指導管理を行う必要がある患者である。この仕組みにより、患者は身近なかかりつけ医に通いながら、必要なときに基幹病院の専門的な管理を受けられる。管理料2の算定要件|施設基準と算定回数の制限管理料2の算定には、施設基準の届出と算定回数の制限という2つの要件がある。1つ目の要件は、施設基準の届出である。管理料2を算定する医療機関は、「腹膜透析患者に対する診療を行うにつき必要な体制が整備されていること」という施設基準を満たさなければならない。そのうえで、地方厚生局長等に届け出る必要がある。2つ目の要件は、算定回数の制限である。管理料2は、一連の治療につき2回までしか算定できない。この制限により、連携は患者にとって必要な範囲に保たれる。補足|算定にあたっての留意点ここで、算定にあたって誤解しやすい3つの点を補足する。第一に、これらの管理料の算定対象は、在宅自己連続携行式腹膜灌流(CAPD)を行う患者である。CAPDは、透析液の出し入れを患者が一日数回くり返す腹膜透析の代表的な方法を指す。本稿では腹膜透析と総称してきたが、算定上の対象はこのCAPDを行う入院中以外の患者に限られる。第二に、管理料1には、現行から変わらない算定ルールが残っている。頻回に指導管理を行う場合、同一月内の2回目以降は1回2,000点を月2回まで算定できる。ただし、同一月内に人工腎臓(J038)または腹膜灌流の1(J042)を算定する場合、この2回目以降の費用は算定しない。第三に、「2回」という回数が、2つの異なる意味で登場する。管理料1の頻回時の算定は「同一月内に月2回まで」を指す。一方、新設の管理料2は「一連の治療につき2回まで」を指す。両者は対象も期間も異なるため、混同しないよう注意したい。まとめ今回の改定は、腹膜透析を導入する基幹病院とかかりつけ医の役割分担を、新たに評価する。在宅自己腹膜灌流指導管理料を管理料1と管理料2に区分し、基幹病院がかかりつけ医の求めに応じて指導管理を行う管理料2(1,500点)を新設した。この連携の仕組みは、施設基準の届出と一連の治療につき2回までの制限のもとで運用される。腹膜透析を管理できる医療機関が乏しい地域でも、患者は医療アクセスを確保しつつ、質の高い管理を受けられるようになる。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
経皮的シャント拡張術・血栓除去術の適正化|令和8年度改定で初回点数が2区分に
人工透析を続ける患者にとって、血液を体の外に出し入れする「シャント」は命綱です。このシャントは狭くなったり詰まったりを繰り返すため、その都度「経皮的シャント拡張術・血栓除去術」(K616-4)で治療されます。現行制度では、この初回治療の診療報酬が病態の重症度を問わず一律12,000点に設定されており、比較的軽い狭窄にも重い閉塞と同じ評価がされてきました。本稿は、令和8年度診療報酬改定でこの一律評価がどう見直されるのかを、改定前後の対比とともに整理することを目的とします。令和8年度改定では、初回治療の点数を重症度に応じて2区分に分け、軽症側の評価を引き下げます。具体的には、シャント閉塞または高度狭窄に該当する場合(区分イ)は12,000点を据え置きます。一方、それ以外の場合(区分ロ)は9,840点に引き下げます。さらに、高い区分イを算定する際には、超音波検査などの画像所見による医学的根拠を診療報酬明細書の摘要欄に記載することが求められます。改定の背景:一律評価が見直される理由今回の改定は、治療効果が病態によって異なるという事実を診療報酬に反映させるものです。経皮的シャント拡張術・血栓除去術は、シャントが完全に詰まった「閉塞」や、強く狭くなった「高度狭窄」に対して大きな治療効果を発揮します。これに対し、まだ血流が比較的保たれている軽度の狭窄では、同じ治療を行っても得られる効果は相対的に小さくなります。それにもかかわらず、現行制度はどちらの病態にも同じ12,000点を割り当ててきました。この一律評価が、適正化(=メリハリのある評価への見直し)の対象となりました。重症度を問わない評価は、軽症例への過剰な実施を誘発しかねないという課題を抱えていたためです。そこで令和8年度改定では、重い病態とそれ以外の病態とで治療効果に差があるという考え方に基づき、初回治療の算定要件を見直すこととなりました。改定の中心:初回治療が2区分に分かれる改定の中心は、これまで一本だった初回治療の点数を、重症度に応じた2つの区分に分けることです。現行の「1 初回 12,000点」は、改定後に区分イと区分ロの2段階へと再編されます。区分イは重い病態を対象に12,000点を維持し、区分ロはそれ以外の病態を対象に9,840点へ引き下げられます。区分イは、重い病態に該当する場合を対象とし、点数は12,000点で据え置かれます。対象となるのは、透析シャント閉塞の場合か、または超音波検査でシャント血流量が400ml以下もしくは血管抵抗指数(RI)が0.6以上の場合です。これらは血流が大きく損なわれた状態であり、治療効果が高いと評価されるため、現行点数が維持されます。区分ロは、区分イに当てはまらないその他の場合を対象とし、点数は9,840点へ引き下げられます。9,840点は12,000点から2,160点低い水準であり、軽症例の評価を相対的に抑える設定です。この区分により、病態の軽い症例と重い症例とで支払われる診療報酬に明確な差が生まれます。算定の条件:高い区分には医学的根拠の記載が必要高い区分イを算定するには、その病態を裏づける医学的根拠を記載しなければなりません。区分イの対象は、前述のとおり透析シャント閉塞の場合か、または超音波検査でシャント血流量が400ml以下もしくはRIが0.6以上の場合です。これらいずれかの要件を満たす画像所見等の医学的根拠を、診療報酬明細書の摘要欄に記載することが算定の条件となります。なお、3月以内の再実施(「2」12,000点)の取扱いは、対象病態と摘要欄への記載要件を含め、実質的に現行どおりです。改定後の「2 1の実施後3月以内に実施する場合 12,000点」は、シャント閉塞または超音波検査の基準を満たす病態に限り、1回を限度として算定できます。今回新たに重症度の区分が設けられたのは、初回治療(「1」)です。初回治療を3月に1回に限り算定する点も、現行と変わりません。まとめ令和8年度改定では、経皮的シャント拡張術・血栓除去術の初回治療が重症度に応じて2区分に再編されます。シャント閉塞または高度狭窄に該当する場合(区分イ)は12,000点が据え置かれ、それ以外の場合(区分ロ)は9,840点へ引き下げられます。高い区分イを算定する際は、超音波検査などの画像所見による医学的根拠を診療報酬明細書の摘要欄に記載しなければなりません。治療効果の違いを評価に反映させるこの見直しにより、シャント治療の診療報酬は重症度に応じたメリハリのある体系へと改められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
医療メディエーターとは|患者と医療者の対話を促す専門人材の役割
医療現場では、患者と医療者の間で認識の齟齬やコミュニケーション不全が生じます。こうした齟齬は医療の質と安全性を損ない、ときに医療事故や紛争へ発展します。そこで本記事は、患者と医療者の対話を促す専門人材「医療メディエーター」について、その定義、役割、倫理を解説します。医療メディエーターは、患者と医療者の対話を促し、両者の関係構築を支援する専門人材です。この人材は、双方の語りを偏りなく受け止め、自身の見解や評価を示しません。その関わりは、認知の齟齬を予防し、調整する点に価値があります。役割の要点は、直接対話の促進、判断・評価の不実施、関係構築の重視、分け隔てのないケアの4つです。医療メディエーターの定義と誕生の背景医療メディエーターは、患者と医療者の対話を仲介する専門人材であり、医療不信が深刻化した社会的背景のなかで生まれました。ここでは、その定義と誕生の経緯を順に確認します。医療メディエーターとは、患者と医療者双方の語りを偏りなく受け止め、対話の促進を通じて情報共有と認知齟齬の調整を支援する人材です。この人材は、自身の見解や評価、判断を示しません。その関わりは、医療の基盤をなす対話促進のはたらきとして、医療行為の一部を構成します。医療メディエーターが用いるメディエーションは、英米で広く普及した対話促進のモデルです。このモデルは、当事者間の対話を通じて認知の変容を促し、納得のいく合意と関係の再構築を支援します。調停とは異なり、メディエーターは調停案の提示や説得、評価を行いません。英米では、学校で子どもにも教えられるほど、日常的な問題克服のモデルとして根づいています。この専門人材は、1999年以降に深刻化した医療不信への対応から生まれました。従来の対立的な事故対応は、問題を解決するどころか、患者の怒りを増幅させていました。そこで2003年、医療機能評価機構の橋本理事が和田仁孝氏に事故後対応の人材育成を依頼します。依頼を受けた和田仁孝氏と中西淑美氏は、対話を軸とする育成プログラムを開発しました。開発されたプログラムは、2005年の育成開始から急速に広がりました。ニーズの増加を受けて、2008年には日本医療メディエーター協会が設立されます。現在では年間100回ほどの研修が開催され、当初の事故後対応から日常の患者対応まで応用範囲が広がっています。さらに、終末期医療の意思決定やインフォームド・コンセントなど、多様な場面でも活用されています。医療メディエーションを支える4つの本質医療メディエーションには、4つの本質があります。すなわち、医療行為の一部であること、主役は当事者であること、目標は関係構築であること、不偏性に立つことの4つです。第一の本質は、医療メディエーションが医療の基礎をなす対話と情報共有のモデルだという点です。このモデルは、単なる紛争解決の手段ではありません。医療そのものの質を高める要素として、医療行為の一部に位置づけられます。第二の本質は、医療メディエーションの主役が当事者である患者と医療者だという点です。主役である当事者に対し、メディエーターは尊重と傾聴の姿勢で対話を促すだけで、評価や判断はしません。この姿勢は、「その人がその人自身であることを支える」というケアの理念にもとづいています。答えは第三者ではなく、つねに当事者自身のなかにあるからです。第三の本質は、医療メディエーションの目標が解決ではなく関係構築だという点です。関係構築を目標とするメディエーターは、法的権利や賠償といった紛争解決には関与しません。メディエーターの役割は「つなぐこと」であって、「解決すること」ではないのです。深い情報共有によって関係が築かれていけば、問題は自然に克服されていきます。第四の本質は、医療メディエーターが構造的中立性ではなく信頼にもとづく不偏性に立つという点です。院内のメディエーターは病院職員であるため、中立性を標榜してはなりません。しかし、分け隔てのないケアの姿勢があれば、患者からも医療者からも信頼される存在になれます。傷ついたすべての人へ同じケア・マインドで接することが、この不偏性を支えます。医療メディエーターが守る4つの約束医療メディエーターには、4つの約束があります。すなわち、直接対話を促すこと、判断や評価をしないこと、関係構築を目的とすること、分け隔てなく心を聴くことの4つです。第一の約束は、伝言ではなく直接対話を促すことです。メディエーターは、患者と医療者が直接向き合う場を設定し、その対話を促進します。患者は医療者との直接の対話によってこそ納得でき、代弁では受け入れられないからです。間接的な伝言は、誤解や齟齬のリスクを何倍にも高め、最悪の場合は情報操作のリスクすら招きます。第二の約束は、判断・評価・意見を表明しないことです。メディエーターは、事故原因の説明や改善案の提示、賠償や法的評価をいっさい行いません。こうした説明は、医師や事務担当者、顧問弁護士が当事者として患者と向き合うべき事柄だからです。中身に踏み込んだ発言は、メディエーターの不偏性を損ない、その信頼と対話の場を崩してしまいます。第三の約束は、解決ではなく情報共有と関係構築を目的とすることです。問題を克服できるのは当事者だけであり、それはメディエーターが達成する目的ではありません。解決しようと考えると、つい意見や提案をしてしまい、かえって対話が止まってしまいます。メディエーターは黒子に徹し、関係の再構築だけを支援します。第四の約束は、分け隔てのないケアの姿勢で心を聴くことです。メディエーターは、傷ついた患者だけでなく、事故に関わった医療者にも同じケアの姿勢で接します。患者だけに共感すると、医療者は防御的になり、対話が閉じてしまうからです。メディエーターは「言葉でなく心を聴く」姿勢のなかで、対立の背景にある想いへの気づきを支えます。医療メディエーターの実際の役割と活動医療メディエーターの役割は、患者と医療者が直接向き合う対話の場をつくり、チームで支援することです。ここでは、その実務の流れと、活動の広がりを紹介します。実務は、事案の報告・要請を受けるところから始まります。メディエーターは、まず患者との1対1の対応を行い、続いて医療者への対応や症例検討を経て、対話の場を設定・実施します。この過程では、出迎えや記録、文書の扱いまで、細やかな配慮が求められます。対話の場でのメディエーターは、バレーボールのセッターにたとえられます。セッターであるメディエーターがトスを上げ、アタッカーである医療者と患者が向き合います。メディエーターは医療者に代わって対応するのではなく、あくまで対話を促し支える役割に徹します。この役割は、病院上層部の理解や、事故調査・真実開示との連携を前提とします。対話の後には、継続的なフォローアップが続きます。メディエーターは、翌日や週一回のフォローを通じて、向き合い続ける姿勢を示します。このフォローは、医療機関が真摯に向き合っていることを患者へ伝える機会になります。丁寧なフォローの積み重ねが、信頼関係の再構築を促します。こうした役割は、事故後の対応だけでなく、日常の患者対応にも応用できます。現場の小さなクレームへの対応や、職種間・スタッフ間の調整にも、メディエーションの技法は役立ちます。実際、ロンドンの病院では管理者全員が研修を受け、部署内の人間関係の調整に活用しています。医療メディエーションは、医療機関全体の対話文化を高め、コンフリクトの予防にも寄与します。医療メディエーターは「資格」ではない医療メディエーターは「資格」ではなく、だれもが学べる対話のモデルを実践する人材です。ここでは、認定の位置づけと、対象が限定される理由を説明します。日本医療メディエーター協会の認定は、研鑽の場の提供と質の保証を目的としています。メディエーションは、いつでもどこでも活用できる汎用的な考え方です。協会の認定は、医療機関のスタッフを対象に、専門知識の理解、専門技法の習得、倫理性の涵養を支える仕組みとして設けられています。院内メディエーターの認定が医療機関スタッフに限られるのは、弁護士法との関係によります。弁護士法は、弁護士以外の者が紛争解決などの法律業務に従事することを禁じています。そのため、院外の第三者が医療事故紛争に関わると、弁護士法に抵触するおそれがあります。一方、院内スタッフが患者と医療者の関係再構築を支援する場合は、示談交渉の一形態とみなされ、抵触の問題は生じません。患者や市民が医療をめぐって関わる活動は、こうした法律業務とはまったく異なります。協会は「患者・市民と創るメディエーション(PCM)」として、市民団体や患者団体と協働しています。この取組は、さまざまな場面でのメディエーションの応用可能性を広げています。診療報酬制度における位置づけと意義医療メディエーターの重要性は、診療報酬制度でも認められています。ここでは、2012年に新設された加算の内容と、その意義を確認します。2012年には、「患者サポート体制充実加算」が新設されました。この加算は、患者や家族からの相談に適切に応じる体制を評価するものです。医療機関は、専門部署を設け、研修を受けた職員を配置することで、この加算の対象になります。患者サポート体制充実加算は、医療メディエーションの考え方を制度面から支えています。医療機関は、この加算を通じて、患者と医療者の対話を促す体制を整えることが推奨されます。整備された体制は、医療の質向上、患者満足度の向上、医療安全の強化につながります。加算の背景には、医療機関全体の対話文化を高めるという目的があります。苦情対応の窓口を置くだけでなく、メディエーションの考え方を取り入れることで、患者・家族との信頼関係が築かれます。医療メディエーターは、こうした患者サポート体制の中核を担う専門人材です。医療メディエーター導入の効果と広がり医療メディエーターの導入は、医療現場に多面的な効果をもたらします。ここでは、3つの効果と、応用範囲の広がりを紹介します。第一の効果は、事故対応の専従者として初期対応を適切に行えることです。専従者が対応にあたることで、患者側の不安や怒りの増幅を防げます。これにより、医療者側の負担も軽くなります。第二の効果は、管理者が現場のトラブルを芽のうちに摘めることです。小さな不満や誤解は、大きな問題に発展する前に、対話で修復できます。早期の修復は、医療の質向上と医療者のストレス軽減につながります。第三の効果は、各スタッフへの浸透により日常の対話が向上することです。メディエーションを学んだスタッフは、患者対応だけでなく職種間の対話にも技法を活かせます。技法の浸透は、病院全体の対話文化を高め、働きやすい職場を実現します。これらの効果を生む応用範囲は、事故対応だけにとどまりません。終末期医療の意思決定、インフォームド・コンセント、救急医療での説明など、多様な場面で活用できます。さらに、日本モデルの導入は海外にも広がり、国際的な注目を集めています。まとめ医療メディエーターは、患者と医療者の対話を促し、関係調整を支援する専門人材です。その実践は、直接対話の促進、判断・評価の不実施、関係構築の重視、分け隔てのないケアという4つの原則に支えられています。これらの原則のもとで、医療メディエーターは事故後の対応から日常の患者対応まで幅広く活躍しています。重要なのは、医療メディエーターが「資格」ではなく、だれもが学べる対話のモデルを実践する人材だという点です。このモデルは、診療報酬の患者サポート体制充実加算としても評価され、医療機関の対話文化の向上に貢献しています。患者中心の医療を実現するために、医療メディエーターの役割は今後ますます重要になります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
人工腎臓の評価見直し|令和8年度診療報酬改定で新設「腎代替療法診療体制充実加算」を解説
慢性透析患者は全国で約34万人にのぼり、その平均年齢は70歳を超えて高齢化が進んでいます。この透析医療では、災害時の継続体制や腎代替療法の情報提供、シャントトラブルへの対応といった取組に、医療機関ごとのばらつきが課題となっていました。そこで令和8年度診療報酬改定では、血液透析患者がより安心・安全に医療を受けられる体制を確保するため、人工腎臓(J038)の評価を見直すことになりました。本記事では、この見直しの内容を改定案と現行の比較を交えて解説します。今回の見直しは、基本点数の引き下げと新加算の創設という2本立てで行われます。第一に、人工腎臓の基本点数を区分にかかわらず一律20点引き下げます。第二に、引き下げ分を補う形で「腎代替療法診療体制充実加算」(20点)を新設します。この加算は、災害対策・腎代替療法の情報提供・シャントトラブルの医療機関間連携という3つの要件を満たした医療機関で算定でき、要件の一部には届出のための経過措置が設けられています。見直しの背景:透析医療を取り巻く現状と課題今回の見直しは、透析医療の現状に残る体制面の課題を背景としています。慢性透析患者は約34万人で、新規導入患者も年間約3.9万人にのぼります。患者の高齢化が進むなか、災害時にも透析を止めない体制や、患者一人ひとりに適した治療法を選べる支援の重要性が増しています。この体制面の課題は、複数の調査結果にあらわれています。災害対策では、対応マニュアルを策定済みの医療機関が80.5%にのぼる一方、日本透析医会の災害時情報ネットワーク等への登録や自治体等との連携体制を確保している医療機関は76.1%にとどまります。腎代替療法の情報提供では、血液透析・腹膜透析・腎移植という3つの選択肢をすべての患者に提示している医療機関は51.2%にすぎません。シャントトラブルへの対応では、自院での治療や事前に連携した医療機関への紹介を行う施設が93.6%を占める一方、事前連携のないまま紹介する施設も5.9%残っています。これらのばらつきを是正することが、今回の評価見直しのねらいです。すなわち、安心・安全で質の高い透析体制を整えた医療機関を評価する仕組みを通じて、医療機関全体の取組の底上げをめざします。改定内容①:人工腎臓の基本点数を一律20点引き下げ第一の見直しは、人工腎臓の基本点数の一律20点引き下げです。この引き下げは、慢性維持透析1〜3の各区分と「その他の場合」のすべてに適用されます。引き下げ後も、後述の新加算を算定すれば実質的な点数水準は維持される設計になっています。引き下げの内容は、区分ごとに現行点数と改定案を並べると確認できます。最も算定の多い慢性維持透析1では、4時間未満が1,876点から1,856点へ、4時間以上5時間未満が2,036点から2,016点へ、5時間以上が2,171点から2,151点へと引き下げられます。慢性維持透析2では、4時間未満が1,836点から1,816点へ、4時間以上5時間未満が1,996点から1,976点へ、5時間以上が2,126点から2,106点へと引き下げられます。慢性維持透析3では、4時間未満が1,796点から1,776点へ、4時間以上5時間未満が1,951点から1,931点へ、5時間以上が2,081点から2,061点へと引き下げられます。「その他の場合」も1,580点から1,560点へと引き下げられます。改定内容②:腎代替療法診療体制充実加算(20点)の新設第二の見直しは、引き下げ分を補う「腎代替療法診療体制充実加算」(20点)の新設です。この加算は、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合し、地方厚生局長等に届け出た医療機関で算定できます。引き下げと同額の20点であるため、基準を満たした医療機関では従来どおりの点数水準を確保できます。裏を返せば、この加算は体制整備のインセンティブとして機能します。つまり、基準を満たさない医療機関は実質的に20点の引き下げとなり、基準を満たす医療機関だけが従来水準を維持できる仕組みです。こうして、安心・安全な透析体制を整えた医療機関に診療報酬が手厚く配分されます。加算の施設基準:満たすべき3つの要件腎代替療法診療体制充実加算には、満たすべき3つの要件があります。第一に災害対策、第二に腎代替療法の情報提供、第三にシャントトラブルの医療機関間連携です。これらに加え、緩和ケアの提供体制を整えることが望ましいとされています。第一の要件は、災害対策です。具体的には、ハザードマップで自院の災害発生時のリスクを把握したうえで災害対応マニュアルを作成していること、そして日本透析医会等による災害時の情報伝達訓練に年1回以上参加していることの両方を満たす必要があります。第二の要件は、腎代替療法の情報提供です。情報提供では、関係学会の資料に基づき、患者ごとの適応に応じて腎代替療法を説明していることが前提となります。この説明は導入期に限らず、患者の病状や求めに応じて繰り返し行うこととされています。そのうえで、在宅自己腹膜灌流指導管理料(C102)を過去1年間で24回以上算定していること(腹膜透析の実績)、または腎移植の相談に応じ移植手続を行った患者が前年に2人以上いること(腎移植の実績)のいずれかを満たす必要があります。第三の要件は、シャントトラブルの医療機関間連携です。透析シャントの閉塞等で経皮的シャント拡張術・血栓除去術などの治療を要する場合に、自院で治療する場合を除き、治療を行う他の医療機関とあらかじめ連携し、必要に応じて診療情報を提供する体制を整えていることが求められます。なお、緩和ケアの体制整備は努力義務にとどまります。すなわち、患者の症状に応じた治療やケアを提供できる体制を整えることが望ましいとされ、その際は「腎不全患者のための緩和ケアガイダンス」を参考にすることとされています。届出への対応:要件の一部に経過措置加算の要件のうち一部には、届出のための経過措置が設けられています。この経過措置は、加算の届出を行った医療機関を対象に、特定の要件を一定期間満たしているものとみなすものです。これにより、医療機関は段階的に体制を整えられます。経過措置の対象は、2つの要件です。第一に、災害時の情報伝達訓練への参加(災害対策のイ)は、令和9年5月31日までの間は基準に該当するものとみなされます。第二に、腹膜透析の実績と腎移植の実績(情報提供のイ・ウ)は、令和10年5月31日までの間は基準に該当するものとみなされます。まとめ:体制整備を評価する2本立ての見直し令和8年度改定における人工腎臓の評価見直しは、基本点数の引き下げと新加算の創設という2本立てで行われます。人工腎臓の基本点数は一律20点引き下げられ、その分を補う腎代替療法診療体制充実加算(20点)が新設されます。この加算は、災害対策・腎代替療法の情報提供・シャントトラブルの医療機関間連携という3つの要件を満たした医療機関で算定でき、要件の一部には令和9年・令和10年までの経過措置が設けられています。透析医療を提供する医療機関は、これらの要件と猶予期間を確認し、届出に向けた体制整備を計画的に進めることが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【令和8年度改定】心不全再入院予防継続管理料を徹底解説|算定要件と点数
心不全は、退院後に再入院をくり返しやすい疾患です。再入院のたびに、患者の心機能は低下します。同時に、患者の生活の質も損なわれます。こうした再入院を防ぐには、退院後の継続した管理が欠かせません。しかし、退院後の継続管理を評価するしくみは、これまで十分ではありませんでした。そこで令和8年度診療報酬改定では、心不全再入院予防継続管理料が新設されました。本記事では、この新しい管理料のしくみと算定のポイントを解説します。心不全再入院予防継続管理料は、急性心不全の入院から退院後の外来までを一貫して評価する点数です。本管理料は、イ・ロ・ハの3区分で構成されます。イは、入院中に1回算定する区分です。ロとハは、退院後の外来で月1回算定する区分です。これらの算定には、多職種による介入が求められます。さらに、施設基準では、地域連携の体制が求められます。新設の背景:再入院予防を地域全体で推進する心不全再入院予防継続管理料は、心不全の再入院予防を推進する目的で新設されました。急性心不全で入院した患者は、退院後に再入院するリスクが高い患者です。このリスクを下げるには、早期からの介入と退院後の継続管理が必要です。そこで本管理料は、入院中の早期介入から退院後の地域連携までを、一連の取組として評価します。この取組の特徴は、多職種による介入にあります。心不全の管理には、薬物治療だけでなく、療養指導・食事指導・運動指導が欠かせません。これらの指導は、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士がそれぞれの専門性をいかして担います。本管理料は、こうした多職種の共同による介入を評価します。点数体系:入院中のイと退院後のロ・ハ本管理料は、入院中のイと退院後のロ・ハの3区分で構成されます。イは、入院中の早期介入を評価する区分です。ロとハは、退院後の外来での継続管理を評価する区分です。各区分の点数は、次のとおりです。イは、入院中に1回算定する区分で、1,000点です。ロは、退院後の外来で月1回算定する区分で、6回目までが700点、7回目以降が225点です。ハも、退院後の外来で月1回算定する区分で、6回目までが400点、7回目以降が225点です。イは、入院中に1回だけ算定する区分です。算定の対象は、急性心不全で入院した患者です。この患者に対し、再入院予防を目的とした計画的な評価と治療を行った場合に算定します。ロとハは、退院後の外来で算定する区分です。いずれも、入院中にイを算定した患者が対象です。つまり、入院中にイを算定し、退院後にロまたはハで継続管理する流れになります。算定は、初回算定日の属する月から1年を限度に、月1回行います。ロは、多職種の共同による評価と治療を行う場合の区分です。ハは、継続した評価と治療を行う場合の区分です。両者の点数差は、介入の手厚さの違いを反映します。対象患者と算定要件:ガイドラインに基づく評価が前提本管理料を算定するには、ガイドラインに基づく評価と治療が前提となります。算定の対象は、慢性心不全の急性増悪を含む急性心不全で入院した患者です。この患者に対し、関係学会の「心不全診療ガイドライン」に基づく評価を行います。具体的には、心機能の評価・原因精査・リスク評価を実施します。イの算定には、入院中の運動療法の実施も要件となります。心不全の患者には、薬物治療に加えて運動療法が有効です。そのため、イを算定する患者には、入院中に運動療法を実施します。あわせて、療養指導・食事指導・運動指導を、必要に応じて個別に実施します。なお、本管理料には、併算定できない点数があります。心不全を主病とする特定疾患療養管理料は、本管理料と併せて算定できません。地域包括診療料も、原則として併算定できません。ただし、慢性心不全以外の慢性疾患もあわせて持つ患者について算定する場合は、地域包括診療料を併算定できます。また、ロについては、外来栄養食事指導料や心大血管疾患リハビリテーション料などを、同一日に算定できません。施設基準:多職種の配置と地域連携の体制施設基準では、多職種の配置と地域連携の体制が求められます。まず、心不全の診療を行う十分な体制が必要です。この体制には、医師・看護師または保健師・薬剤師・管理栄養士を適切に配置します。これらの職種が共同して、心不全の管理にあたります。イを算定する病棟には、入院基本料の要件もあります。対象となるのは、一般病棟入院基本料の届出を行った病棟です。また、7対1または10対1入院基本料の病棟も対象です。ただし、後者は特定機能病院入院基本料または専門病院入院基本料に限られます。まとめ:入院から退院後まで一貫して支える新評価心不全再入院予防継続管理料は、再入院予防を推進する目的で新設されました。本管理料は、入院中のイと退院後のロ・ハの3区分で構成されます。算定には、ガイドラインに基づく評価と多職種の介入が要件となります。さらに、施設基準では、地域連携の体制が求められます。この新評価により、心不全の患者は、入院から退院後まで一貫した管理を受けられます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【令和8年度診療報酬改定】カルタヘナ法に基づく医学管理の推進|個室管理を評価する新加算300点を解説
近年、遺伝子組換え生物等を含む薬剤の投与機会が増えています。ところが、こうした薬剤の取扱いに必要なカルタヘナ法上の管理は、従来の診療報酬で評価されてきませんでした。そこで令和8年度診療報酬改定では、カルタヘナ法を遵守した薬剤投与と医学管理を推進する評価を新設します。本改定の見直しは、大きく2つです。1つ目は、入院中の個室管理を評価する「特定薬剤治療環境特別加算」(1日につき300点)の新設です。2つ目は、特定薬剤治療管理料の対象拡大であり、自宅等での管理指導を新たに評価します。いずれの見直しも、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤を対象とし、新設加算ではその対象に再生医療等製品を含みます。カルタヘナ法と対象薬剤を理解するはじめに、カルタヘナ法と今回の対象薬剤を確認します。カルタヘナ法は、遺伝子組換え生物等が環境へ広がることを防ぐ法律です。医療では、この遺伝子組換え生物等を含む薬剤が、管理の対象となります。カルタヘナ法は、遺伝子組換え生物等の使用を規制し、生物の多様性を守る法律です。正式名称は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」といいます。この法律は、遺伝子組換え生物等が自然環境へ広がり、在来の生態系に影響を及ぼす事態を防ぐことを目的とします。医療分野では、遺伝子組換え技術を用いた薬剤が、この規制の対象に含まれます。対象薬剤は、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤であり、再生医療等製品を含みます。具体的には、ウイルスを用いたがん治療薬や、遺伝子を導入する治療製品などが該当します。これらの薬剤は、投与後に患者の体液や排泄物を通じて、遺伝子組換え生物等が外部へ排出される可能性があります。そのため、薬剤を投与する医療機関には、拡散を防ぐための管理が求められます。1つ目の見直し:個室管理を評価する「特定薬剤治療環境特別加算」1つ目の見直しは、入院中の個室管理を評価する「特定薬剤治療環境特別加算」の新設です。この加算は、1日につき300点を算定できます。対象は、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤を投与する目的で個室に入院する患者です。この加算は、遺伝子組換え生物等の拡散を防ぐ個室入院を評価します。対象薬剤を投与すると、遺伝子組換え生物等が患者から外部へ排出される可能性があります。個室での入院管理は、この排出物が他の患者や環境へ広がることを防ぎます。新設の加算は、こうした拡散防止の体制を、診療報酬の面から支えます。算定要件は、対象薬剤の投与を目的とした個室入院です。具体的には、本加算を算定できる入院基本料または特定入院料を現に算定している患者が、算定の前提となります。この患者を、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤を投与する目的で個室に入院させた場合に、所定点数へ加算します。なお、対象薬剤には再生医療等製品も含まれます。2つ目の見直し:特定薬剤治療管理料の対象拡大2つ目の見直しは、特定薬剤治療管理料の対象拡大です。改定後は、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤を投与する患者への、自宅等での管理指導が評価対象に加わります。算定は、月1回に限られます。今回拡大するのは、特定薬剤治療管理料のうち「注11 ロ」の規定です。この規定は現行で、サリドマイド及びその誘導体を投与している患者を対象としています。具体的には、これらの薬剤を投与している患者について、服薬の安全管理の遵守状況を確認し、その結果を所定の機関に報告するなどの管理を評価します。この確認により投与の妥当性を見極め、必要な指導を行った場合に、月1回算定できます。改定後は、この注11 ロの対象に、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤を投与している患者が加わります。これらの患者は、退院後も自宅等で薬剤に由来する遺伝子組換え生物等を排出する可能性があります。そこで、自宅等における管理に必要な指導を行った場合に、月1回に限り所定点数を算定できるようにします。この拡大により、入院中だけでなく退院後の管理も、診療報酬で評価されます。まとめ令和8年度診療報酬改定では、カルタヘナ法に基づく医学管理を推進するため、2つの見直しを行います。1つ目は、入院中の個室管理を評価する「特定薬剤治療環境特別加算」(1日につき300点)の新設です。2つ目は、特定薬剤治療管理料の対象拡大であり、自宅等での管理指導を新たに評価します。これらの見直しにより、遺伝子組換え生物等を含む薬剤の安全な投与と管理が、診療報酬の面から支えられます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
検体検査管理加算の見直し|令和8年度改定でパニック値対応が要件に
令和8年度診療報酬改定では、検体検査管理加算の施設基準が見直されます。検体検査管理加算とは、院内で実施する検体検査の精度を組織的に管理する医療機関を評価する加算です。これまでの基準には、検査結果が生命に関わる異常値を示した際の対応について、明確な定めがありませんでした。今回の改定は、この異常値への対応体制を施設基準に位置づけ、患者への安心・安全な医療の提供を更に推進することを目的としています。今回の見直しでは、検体検査管理加算(Ⅱ)、(Ⅲ)及び(Ⅳ)に、パニック値への対応体制を整えることが望ましいという要件が追加されます。パニック値とは、生命が危ぶまれるような状態を示唆する検査の異常値です。医療機関には第一に、グルコース、カリウム及び血小板についてパニック値の閾値を設定することが求められます。第二に、パニック値が出た際に速やかに担当医師へ連絡することが求められます。第三に、検査結果報告書にパニック値であることがわかる表示を行うことが求められます。見直しの背景と基本的な考え方今回の見直しは、医療安全対策の推進という改定方針に沿うものです。令和8年度改定では「患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価」が重点項目に掲げられました。検体検査管理加算の見直しは、この重点項目を構成する個別改定項目の一つに位置づけられます。検体検査管理加算は、院内検査の品質を組織的に管理する体制を評価する加算です。この加算は管理体制の水準に応じて(Ⅰ)から(Ⅳ)まで段階的に区分されています。これらの区分のうち、より高い管理水準を評価する(Ⅱ)、(Ⅲ)及び(Ⅳ)が、今回の見直しの対象です。見直しの対象となった3区分では、検査結果が異常値を示した際の対応が課題でした。検査値の中には、放置すれば患者の生命を脅かすパニック値が含まれます。このパニック値への対応は、これまで各医療機関の運用に委ねられ、施設基準には明示されていませんでした。そこで今回の改定は、パニック値への対応体制を施設基準に追加し、安心・安全な医療の提供を更に推進することとしました。パニック値の閾値設定(要件ア)第一の要件は、パニック値の閾値を設定することです。閾値とは、検査値が異常値かどうかを判定する境界の数値を指します。医療機関は、院内で実施する検体検査について、この閾値をあらかじめ定めておくことが望ましいとされます。閾値の設定が望ましい検査項目は、少なくともグルコース、カリウム及び血小板の3項目です。グルコースは血糖値であり、極端な高値や低値が意識障害を招きます。カリウムは電解質であり、異常値が重い不整脈の原因となります。血小板は止血に関わる成分であり、著しい減少が出血の危険を高めます。これら3項目は、いずれも異常値が生命に直結するため、優先して閾値を設定する対象とされました。パニック値が出た際の対応体制(要件イ・ウ)第二と第三の要件は、パニック値が出た際の連絡と表示の体制です。閾値を設定するだけでは、異常値を見逃すおそれが残ります。そこで改定案は、パニック値を検出した後の具体的な対応も体制として整えることを望ましいとしました。連絡の要件では、パニック値が出た際に速やかに担当医師へ伝えることが求められます。医師への伝達は、看護師等を経由して連絡しても差し支えありません。また、連絡を受けた医師は、パニック値に対して行った対応を遅滞なく診療録に記載するよう努めることとされています。表示の要件では、検査結果報告書にパニック値であることがわかる表示を行うことが求められます。報告書の中で異常値が他の数値に埋もれると、対応が遅れるおそれがあります。そのため、結果がパニック値であると一目で判別できる表示を行うよう努めることとされました。加算(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ)への反映今回追加された要件は、3区分すべてに連動して反映されます。新しい要件は、まず検体検査管理加算(Ⅳ)の施設基準に項目(7)として新設されます。続いて、上位区分の(Ⅱ)と(Ⅲ)が(Ⅳ)の基準を引用する形で、この新要件を取り込みます。具体的には、(Ⅱ)と(Ⅲ)が引用する(Ⅳ)の基準の範囲が広がります。現行では、(Ⅱ)は(Ⅳ)の(3)から(6)までを、(Ⅲ)は(Ⅳ)の(2)から(6)までを満たすこととされていました。改定案では、(Ⅱ)は(Ⅳ)の(3)から(7)までを、(Ⅲ)は(Ⅳ)の(2)から(7)までを満たすこととされます。この引用範囲の拡大により、新設された(7)が(Ⅱ)と(Ⅲ)にも適用されます。なお、これらの要件はいずれも「望ましい」と位置づけられている点に留意が必要です。望ましいとは、必須ではないものの実施が推奨される努力義務的な扱いを指します。したがって、各医療機関は自院の体制を見直し、パニック値への対応を整えていくことが期待されます。まとめ令和8年度改定では、医療安全対策の推進を目的として、検体検査管理加算の施設基準が見直されます。見直しの対象は、検体検査管理加算(Ⅱ)、(Ⅲ)及び(Ⅳ)の3区分です。これらの区分には、生命が危ぶまれる異常値であるパニック値への対応体制を整えることが望ましいという要件が追加されます。具体的には、グルコース・カリウム・血小板の閾値設定、パニック値検出時の医師への速やかな連絡と診療録への記載、検査結果報告書での明示の3点が求められます。各医療機関は、これらの要件に沿って院内の検査体制を点検し、より安心・安全な医療の提供につなげることが期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
近視進行抑制薬の検査を新たに評価|令和8年度改定で年2回・2種類までの算定要件を新設
近視の進行抑制を効能・効果とする医薬品が、令和6年12月に薬事承認されました。この医薬品の治療では、関係学会の指針により、治療開始時と治療中に屈折検査などの検査が推奨されています。しかし、近視進行抑制薬の処方に係る検査については、診療報酬上の算定の取り扱いが定められていませんでした。本記事は、令和8年度診療報酬改定で新設された眼科学的検査の算定要件を整理します。令和8年度改定は、近視進行抑制薬を投与している患者の眼科学的検査に、新たな算定要件を設けました。対象は、近視の進行抑制を目的として診療を行い、近視進行抑制薬を投与している患者です。この患者への眼科学的検査は、年2回の受診に限り算定します。さらに、1回の受診で複数の検査を行った場合は、2種類を限度として算定します。改定の背景|近視進行抑制薬の承認と検査の必要性今回の改定は、近視進行抑制薬の薬事承認を契機としています。承認されたのは、近視の進行抑制を効能・効果とする医薬品(一般名:アトロピン硫酸塩水和物、販売名:リジュセアミニ点眼液0.025%)です。承認日は、令和6年12月27日でした。この医薬品は、1日1回就寝前に1滴を点眼する低濃度アトロピン点眼薬であり、主に小児の近視治療に用いられます。この医薬品は薬価収載されておらず、選定療養への追加が提案されました。選定療養とは、保険外の医薬品や治療を、保険診療と併用できる仕組みです。この仕組みが認められれば、患者は保険診療を受けながら、自己負担で近視進行抑制薬による治療を併せて受けられます。令和8年度改定に向けた提案・意見募集では、この医薬品を選定療養に追加する提案が寄せられました。この治療では、定期的な検査が欠かせません。関係学会の治療指針は、治療開始時と治療中に屈折検査等を行うよう推奨しています。具体的には、治療開始時に近視の有無を確認し、治療中は3〜6か月ごとに近視の進行状況を確認します。こうした検査の代表例が、屈折検査(D261、69点)と矯正視力検査(D263、69点)です。これらの検査自体は従来から算定できましたが、近視進行抑制薬の処方に係る検査としての取り扱いは定められていませんでした。改定の内容|眼科学的検査の新たな算定要件改定後は、眼科学的検査に「対象」「回数」「種類」の3つの要件が加わります。これらの要件は、近視進行抑制薬を投与している患者への検査を、適切に評価するためのものです。以下、3つの要件を順に説明します。第1の要件は、算定の対象です。対象は、近視の進行抑制を目的として診療を行い、当該効能・効果を有する医薬品を投与している患者です。つまり、近視進行抑制薬による治療を受けている患者が対象となります。第2の要件は、算定の回数です。この患者への眼科学的検査は、年2回の受診に限り算定します。年2回という上限は、治療中の定期観察にあわせた頻度です。第3の要件は、算定する検査の種類です。1回の受診で複数の検査を行った場合は、2種類を限度として算定します。3種類以上の検査を行っても、算定できるのは2種類までとなります。現行との違い|新設される検査の取り扱いこの算定要件は、これまで規定のなかった検査の取り扱いを新たに設けるものです。現行の眼科学的検査の通則には、近視進行抑制薬に関する規定がありませんでした。改定後は、通則に新たな項目が加わり、対象・回数・種類の取り扱いが明確になります。実務では、近視進行抑制薬を投与している患者かどうかの確認が出発点になります。対象患者であれば、眼科学的検査の算定は年2回までです。同じ受診日に複数の検査を行った場合は、算定する検査を2種類までに整理します。これらの点に注意することで、新たな算定要件に沿った適切な請求が可能になります。まとめ|年2回・2種類までの新ルールを押さえる令和8年度診療報酬改定は、近視進行抑制薬を投与している患者の眼科学的検査を新たに評価しました。対象は、近視進行抑制薬による治療を受けている患者です。この患者への眼科学的検査は、年2回の受診に限り算定します。また、1回の受診で複数の検査を行った場合は、2種類を限度として算定します。承認された近視進行抑制薬の背景とあわせて、この「年2回・2種類まで」のルールを押さえておきましょう。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【令和8年度改定】骨塩定量検査の算定回数が「4月に1回」から「1年に1回」へ
骨塩定量検査は、骨粗鬆症の診断と経過観察に用いる検査です。現行では、医療機関はこの検査を4月に1回算定できます。しかし、この算定頻度は、関係学会が示す治療管理での位置付けと一致していません。本稿は、令和8年度診療報酬改定で見直される骨塩定量検査の算定回数を、現行と比較して解説します。今回の改定は、骨塩定量検査の算定回数を見直し、頻回な検査を適正化します。見直しの背景には、学会ガイドラインにおける骨塩定量検査の位置付けがあります。原則の算定頻度は、4月に1回から1年に1回に変わります。ただし、治療開始1年以内や骨量が急激に変動する患者など、6つのケースでは、引き続き4月に1回算定できます。改定の背景:学会ガイドラインを踏まえた頻度の見直し今回の見直しは、関係学会が示す骨粗鬆症の治療管理での骨塩定量検査の位置付けを踏まえています。現行の算定要件は、検査の種類を問わず一律に4月に1回を認めています。一方、関係学会は、骨粗鬆症の治療管理のなかで骨塩定量検査の位置付けを整理しています。今回の改定は、この学会の位置付けを踏まえ、一律のルールを見直すものです。この見直しによって、骨量が安定している患者の算定頻度が、学会の位置付けに沿った形に改められます。これにより、診療報酬の算定ルールが、骨粗鬆症診療の実態に近づきます。改定内容:原則の算定頻度を「4月に1回」から「1年に1回」へ改定後は、骨塩定量検査(D217)の原則の算定頻度を、4月に1回から1年に1回に変更します。現行の算定要件は、検査の種類にかかわらず、患者1人につき4月に1回を上限としています。改定後の算定要件は、この上限を患者1人につき1年に1回に引き下げます。つまり、骨量が安定している患者では、年に1回の測定が標準になります。ただし、治療開始後の早い時期は、例外として4月に1回を維持します。改定案では、骨粗鬆症の治療を開始した日から1年以内の場合に、患者1人につき4月に1回算定できると定めています。治療開始直後は骨量の変化を細かく確認する必要があるためです。現行と改定案の違いは、次の3点に整理できます。第1に、原則の算定頻度は、現行の4月に1回から、改定案では1年に1回に変わります。第2に、治療開始1年以内の取り扱いは、現行では区別なく4月に1回でしたが、改定案でも引き続き4月に1回となります。第3に、例外の取り扱いは、現行では規定がありませんでしたが、改定案では6つのケースに限って4月に1回を認めます。例外:引き続き「4月に1回」算定できる6つのケース治療開始1年以内や骨量が急激に変動する患者など、特定の6つのケースでは、例外として、引き続き4月に1回算定できます。改定案は、急激な骨減少または骨増加をきたす病態や薬剤投与時を、例外として位置付けています。これらの患者は、骨量の変化を短い間隔で確認する必要があるためです。具体的には、以下のアからカのいずれかに該当する場合に、4月に1回算定できます。* ア 骨粗鬆症の治療を開始した日から1年以内の場合* イ 新たに骨折した場合* ウ 関係学会のガイドラインで示されている骨折危険因子が新規に増えた場合* エ ビスホスホネート薬治療の中断を検討する場合* オ グルココルチコイド、アロマターゼ阻害薬、抗アンドロゲン薬、骨形成促進薬など、骨減少または骨増加をきたす薬剤を投与する場合* カ 吸収不良、全身性炎症性疾患、長期不動、人工閉経など、骨減少または骨増加をきたす疾患などを有する場合これらに該当しない患者は、原則どおり1年に1回の算定となります。したがって、医療機関は、患者がアからカのいずれかに該当するかを確認したうえで、算定頻度を判断します。まとめ:原則は「年1回」、骨量が変動する例外は「4月1回」今回の改定は、骨塩定量検査の算定回数を見直し、頻回な検査を適正化します。見直しの背景には、学会ガイドラインにおける骨塩定量検査の位置付けがあります。原則の算定頻度は、4月に1回から1年に1回に変わります。ただし、治療開始1年以内や骨量が急激に変動する患者など、6つのケースでは、引き続き4月に1回算定できます。医療機関は、患者が例外に該当するかを確認したうえで、適切な算定頻度を選択することが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|質の高い臨床検査の評価と検査料新設をわかりやすく解説
令和8年度診療報酬改定では、質の高い臨床検査を適切に評価する見直しが行われます。新規に保険適用された検査の一部は、専用の点数を持たず、既存の検査の点数を借りて算定されてきました。本記事では、この「準用点数」の課題を解消する検査料の新設について、背景から具体例まで解説します。今回の見直しは、E3区分で保険適用された新規の検査に、専用の検査料を新設するものです。対象となるのは、現在「準用点数」で算定されている新規臨床検査です。新設される検査料は、E3区分で保険適用された新規体外診断用医薬品等を対象とします。具体例として、感染症免疫学的検査のアスペルギルスIgG抗体に390点が新設されます。準用点数とは何か——新規検査が抱えてきた課題今回の見直しは、新規検査が「準用点数」で評価されてきた課題に対応します。準用点数とは、新しい検査に専用の点数がないとき、既存の似た検査の点数を借りて算定する仕組みです。新しい検査が保険適用されると、まずはこの準用点数で算定が始まります。準用点数は、新規検査をすばやく保険適用するうえで欠かせない仕組みです。専用の点数を一から設定するには、検査の手間やコストを丁寧に評価する時間が必要になります。そこで、評価が整うまでの間は、性質の近い既存検査の点数を準用して算定します。この仕組みにより、患者は新しい検査を早期に保険診療で受けられます。ただし準用点数には、検査の価値を正確に反映しにくいという課題があります。準用元の検査と新規検査では、手間やコストが必ずしも一致しません。そのため、準用点数のままでは、新規検査の実際の負担と点数がずれる場合があります。このずれを解消するには、新規検査に専用の検査料を設定する必要があります。E3区分の新規検査に検査料を新設する今回の改定では、E3区分で保険適用された新規体外診断用医薬品等に、専用の検査料を新設します。E3区分とは、既存の検査と測定する項目が異なる、新しい検査を指す分類です。測定項目そのものが新しいため、E3区分の検査には準用できる既存検査が見つかりにくいという特徴があります。E3区分の検査は、これまで準用点数で算定されてきました。測定項目が新しくても、保険適用の段階では暫定的に近い検査の点数を準用します。この暫定的な扱いが続くと、新規検査の価値が点数に反映されないまま固定化してしまいます。そこで改定では、E3区分の検査を準用点数から専用の検査料へと切り替えます。専用の検査料は、その検査の手間やコストに見合った水準で新設されます。この見直しにより、質の高い臨床検査が、その価値に応じて適切に評価されるようになります。具体例:アスペルギルスIgG抗体に390点検査料新設の具体例が、感染症免疫学的検査のアスペルギルスIgG抗体です。アスペルギルスIgG抗体は、真菌の一種であるアスペルギルスへの体の反応を調べる検査です。この検査は、慢性の肺アスペルギルス症などの診断に役立ちます。アスペルギルスIgG抗体は、これまで準用点数で算定されてきました。測定項目が新しいE3区分の検査であるため、専用の点数が設定されていませんでした。この準用の状態を解消するのが、今回の検査料新設です。新設される検査料は、アスペルギルスIgG抗体に対して390点です。診療報酬は1点を10円として計算するため、検査料の総額は3,900円となります。なお患者が窓口で支払うのは、このうち自己負担割合(1~3割)分です。この専用点数の新設により、アスペルギルスIgG抗体は準用ではなく、検査そのものの価値に応じて評価されます。まとめ:質の高い臨床検査を、価値に応じて評価する令和8年度診療報酬改定は、質の高い臨床検査を適切に評価するため、専用の検査料を新設します。対象は、現在準用点数で算定されているE3区分の新規体外診断用医薬品等です。具体例として、感染症免疫学的検査のアスペルギルスIgG抗体に390点が設定されます。この見直しにより、新規検査は準用点数の課題から解放され、その価値に応じて評価されるようになります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【令和8年度診療報酬改定】迅速フィブリノゲン測定加算150点を徹底解説
フィブリノゲン製剤は、出血を止める血液凝固に欠かせないたんぱく質「フィブリノゲン」を補い、大量出血時の止血を助ける重要な製剤です。この製剤を適正に使うには、投与の前に患者のフィブリノゲン値を迅速に測定する必要があります。しかし従来は、その迅速な測定を評価する仕組みがありませんでした。本稿では、迅速な測定を後押しするために令和8年度診療報酬改定で新設された「迅速フィブリノゲン測定加算」を解説します。令和8年度改定では、迅速フィブリノゲン測定加算として150点が新設されました。この加算の対象は、後天性低フィブリノゲン血症の患者です。測定の目的は、フィブリノゲン製剤を投与すべきかどうかの判断です。そして算定には、手術室等の場所で迅速に測定することが求められます。なぜ迅速フィブリノゲン測定加算が新設されたのか迅速フィブリノゲン測定加算は、フィブリノゲン製剤の適正使用を支えるために新設されました。適正使用とは、必要な患者に、必要なタイミングで、過不足なく製剤を使うことです。この適正使用を実現するうえで鍵となるのが、フィブリノゲン値の迅速な測定です。フィブリノゲン製剤を投与すべきかどうかは、患者のフィブリノゲン値を踏まえて判断します。一般にフィブリノゲン値が大きく下がっていれば、製剤の投与が検討されます。逆に値が十分であれば、投与は要らないと考えられます。いずれにせよフィブリノゲン値の把握が、投与判断の出発点になります。その値を把握するための測定では、結果が出るまでに時間を要する場合があると考えられます。一般に検査は、採取した検体を検査室へ送り、そこで分析する流れになるためです。大量出血が進む手術室では、こうした待ち時間が課題になりうると考えられます。そこで令和8年度改定では、手術室等での迅速な測定を新たに評価することになりました。手術室等でその場で測定すれば、待ち時間を抑えられると考えられます。この迅速な測定を評価することで、フィブリノゲン製剤の適正使用を後押しするのが、今回の加算のねらいです。迅速フィブリノゲン測定加算の概要迅速フィブリノゲン測定加算は、既存の出血・凝固検査に上乗せして算定します。上乗せの対象は、「フィブリノゲン半定量」と「フィブリノゲン定量」という2つの検査です。いずれもフィブリノゲンの量を調べる検査で、半定量はおおよその量を、定量は正確な量を測定します。この2つの検査を迅速に行った場合に、所定点数へ150点を加算します。加算とは、もともとの検査の点数(所定点数)に上乗せする点数のことです。診療報酬は1点を10円として計算するため、150点は1,500円に相当します。なお現行では、この加算は設けられていません。今回の改定で初めて新設される項目です。算定できる3つの要件迅速フィブリノゲン測定加算の算定には、3つの要件をすべて満たす必要があります。3つの要件とは、対象患者、測定目的、実施場所です。以下、順に説明します。第1の要件は、対象患者です。対象は、後天性低フィブリノゲン血症の患者に限られます。後天性低フィブリノゲン血症とは、大量出血などによって後天的にフィブリノゲンが不足した状態を指します。第2の要件は、測定目的です。測定は、フィブリノゲン製剤の適応の可否を判断する目的で行う必要があります。適応の可否とは、その患者に製剤を投与してよいかどうかの判断です。第3の要件は、実施場所です。測定は、手術室等の場所で実施しなければなりません。手術室等でその場で測定することが、「迅速」な測定の条件となります。まとめ令和8年度診療報酬改定では、迅速フィブリノゲン測定加算150点が新設されました。この加算は、フィブリノゲン製剤の適正使用を支えることをねらいとしています。算定するには、後天性低フィブリノゲン血症の患者に対し、製剤の適応の可否を判断する目的で、手術室等の場所で測定する、という3つの要件を満たす必要があります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|遺伝学的検査の対象疾患拡大をわかりやすく解説
令和8年度診療報酬改定で、遺伝学的検査の対象疾患が拡大されました。背景には、国が指定する難病(指定難病)が新たに追加され、診断に遺伝学的検査が欠かせない疾患が増えている事情があります。ところが現行の診療報酬では、こうした新しい疾患の多くが検査の算定対象から漏れていました。そこで本稿は、今回の改定で何がどう変わったのかを、検査区分ごとに整理して解説します。今回の改定の柱は、遺伝学的検査の対象疾患の拡大です。拡大の背景には、診断に遺伝学的検査が必須となる指定難病の追加があります。この追加を受けて、検査区分のエと区分オを中心に、20を超える疾患が新たに対象へ加わりました。あわせて、一部の疾患では名称の変更や区分の整理も行われています。改定の背景:指定難病の追加が出発点今回の改定は、指定難病の追加という制度の動きを受けて行われました。指定難病とは、難病のうち、患者数や診断基準などの条件を満たし、国が医療費助成の対象として定めた疾患です。この指定難病は近年も追加が続いています。追加された疾患のなかには、確定診断に遺伝学的検査が必須となるものが含まれます。しかし、こうした新しい疾患は現行の算定対象から漏れていました。遺伝学的検査とは、遺伝子の変化を調べ、遺伝性の病気を診断するための検査です。この検査は、算定できる疾患があらかじめリストで定められています。リストにない疾患は、検査を行っても診療報酬を算定できません。その結果、診断に検査が必須でありながら算定できない、という不整合が生じていました。そこで今回の改定は、この不整合を解消しました。具体的には、診断に遺伝学的検査が必須とされる指定難病を、対象疾患のリストへ追加しています。難病患者が必要な検査を確実に受けられる体制を整えることが、改定のねらいです。何が変わったか:検査区分エ・オを中心とした対象拡大今回の改定は、検査区分のエと区分オを中心に、対象疾患を大きく追加しました。遺伝学的検査のリストは、検査の手法や実施体制に応じて区分アから区分オまでに分かれています。区分アは、PCR法やDNAシーケンス法などの基本的な手法で算定できる疾患です。区分エは、施設基準を満たして届け出た保険医療機関で算定できる疾患です。区分オは、臨床症状や他の検査では診断がつかない場合に、同じく届出医療機関で算定できる疾患です。今回の追加は、専門性の高い区分エと区分オに集中しています。区分エでは、より多くの遺伝性疾患が新たに対象へ加わりました。たとえば、レット症候群、ロウ症候群、三好型ミオパチー、肺胞低換気症候群、脳腱黄色腫症などが追加されています。また、先天性魚鱗癬、眼皮膚白皮症、シャルコー・マリー・トゥース病なども対象に含まれました。これらは、施設基準を届け出た医療機関での検査が想定される疾患群です。区分オでも、診断が難しい疾患が幅広く追加されました。たとえば、無虹彩症、レーベル遺伝性視神経症、進行性骨化性線維異形成症などが新たに対象となっています。また、ウェルナー症候群、コケイン症候群、ダイアモンド・ブラックファン貧血なども加わりました。これらは、臨床症状だけでは診断がつかない場合に検査が想定される疾患群です。名称の変更と区分の整理:あわせて見直された点今回の改定は、対象の追加だけでなく、疾患名の変更と区分の整理もあわせて行いました。これは、医学的な疾患概念の整理や、新しい病名への対応を反映したものです。実務では、見慣れた病名が置き換わっている点に注意が必要です。疾患名の変更は、おもに3つの疾患で行われました。区分アでは、家族性アミロイドーシスが全身性アミロイドーシスへ変わりました。区分エでは、ペリー症候群がペリー病へ変わりました。区分オでは、禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症が、HTRA1関連脳小血管病へ変わりました。区分の整理は、ロイス・ディーツ症候群で行われました。この疾患は、現行では区分ウに置かれていました。改定後は区分ウから外れ、区分エでマルファン症候群と併記される形(マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群)へ整理されています。実務上の留意点:算定回数と施設基準を確認する実務では、算定回数のルールと施設基準の確認が重要になります。対象疾患が拡大しても、算定の基本的な枠組みは現行から変わっていないためです。新しく対象となった疾患でも、これらのルールは共通して適用されます。算定回数は、原則として患者1人につき1回です。2回以上実施する場合は、その医療上の必要性を診療報酬明細書の摘要欄に記載する必要があります。このルールは、追加された疾患にも同じく当てはまります。施設基準は、区分エと区分オで求められます。これらの区分の検査は、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合し、地方厚生(支)局長へ届け出た保険医療機関でのみ算定できます。今回追加された疾患の多くはこの2区分に属するため、検査を実施する前に届出の有無を確認することが欠かせません。まとめ令和8年度診療報酬改定では、遺伝学的検査の対象疾患が拡大されました。背景には、診断に遺伝学的検査が必須となる指定難病の追加があります。この追加を受けて、検査区分エと区分オを中心に、20を超える疾患が新たに対象へ加わりました。あわせて、家族性アミロイドーシスなど一部の疾患で名称の変更や区分の整理も行われています。実務では、原則1人1回という算定回数のルールと、区分エ・オで求められる施設基準の届出を、あらためて確認しておきましょう。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
「遺伝性疾患療養指導管理料」新設で変わる遺伝医療の評価【令和8年度診療報酬改定】
質の高いゲノム医療の推進が、令和8年度診療報酬改定における重要な論点となっています。現行の遺伝カウンセリング加算は、検査実施時に月1回1,000点を所定点数に加算する仕組みであり、検査前の説明やライフステージの変化に応じた継続的な指導を評価できませんでした。本記事では、令和8年度改定で新設される「遺伝性疾患療養指導管理料」の内容と算定要件を解説します。令和8年度改定は、遺伝性疾患の療養指導を「加算」から「医学管理料」へと評価体系を再編します。新設の「遺伝性疾患療養指導管理料」は、検査前の説明(300点)と検査後の療養指導(初回700点、2回目200点)の3段階で評価されます。これに伴い、従来の遺伝カウンセリング加算と遺伝性腫瘍カウンセリング加算は廃止されます。さらに、遠隔連携による療養指導や、がんゲノムプロファイリング検査時の算定方法も新管理料の枠組みで整理されます。改定の背景:質の高いゲノム医療の推進が課題ゲノム医療の質向上には、検査前後を通じた継続的な遺伝情報の伝達が不可欠です。遺伝学的検査の結果は患者本人だけでなく血縁者にも影響を及ぼします。そのため、検査前の十分な説明と、検査後のライフステージに応じた継続的な指導が求められます。しかし、現行の評価体系は、検査実施時の遺伝カウンセリング加算に限定されていました。現行の遺伝カウンセリング加算は、療養指導を1回しか評価できない点が課題でした。具体的には、難病に関する検査や遺伝性腫瘍に関する検査の実施時に、月1回1,000点を所定点数に加算する仕組みです。また、がんゲノムプロファイリング検査については、別途「遺伝性腫瘍カウンセリング加算」として月1回1,000点が設定されていました。これらの加算は、検査前の意思決定支援や、検査後のライフステージ変化に応じた指導には対応していませんでした。そこで令和8年度改定では、療養指導の評価体系を抜本的に見直すこととしました。具体的には、評価の枠組みを「加算」から「医学管理料」へと変更し、検査前後のライフステージ変化に応じて算定できる仕組みを新設します。この見直しにより、検査前の意思決定支援から検査後の継続的な療養指導までを、一貫して評価できる体系が構築されます。新設「遺伝性疾患療養指導管理料」の3段階評価遺伝性疾患療養指導管理料は、検査前後の各段階に応じて3区分で評価されます。3区分は、検査前の説明、検査後の初回指導、検査後の2回目指導に対応します。それぞれの区分は、患者1人につき1回に限り算定できます。検査前の説明には、「1 医師が遺伝子検査の必要性等について文書により説明を行った場合」として300点が設定されます。この区分は、検査または病理診断を実施する前に算定する仕組みです。算定対象となるのは、遺伝学的検査(D006-4)、角膜ジストロフィー遺伝子検査(D006-20)、染色体構造変異解析(D006-26)、遺伝性網膜ジストロフィ遺伝子検査(D006-30)、遺伝性腫瘍に関する検査などです。検査後の初回指導には、「2 イ 初回」として700点が設定されます。この区分は、検査または病理診断の結果に基づき療養上必要な指導を行った場合に算定します。検査結果が判明した後の最初の指導を評価する仕組みです。検査後の2回目指導には、「2 ロ 2回目」として200点が設定されます。この区分は、過去に検査を実施した患者に対し、改めて療養上必要な指導を行った場合に算定します。具体的には、ライフステージの変化に応じた継続的な指導を想定した区分です。旧加算の廃止と算定上の留意点新管理料の創設に伴い、従来の遺伝カウンセリング加算と遺伝性腫瘍カウンセリング加算は廃止されます。両加算は、月1回1,000点として検体検査判断料やミスマッチ修復タンパク免疫染色に加算する仕組みでした。両加算は、検査時の1回のみの評価という限界を抱えていました。新管理料はこの限界を解消し、検査前後の継続的な評価を可能にします。遠隔連携での療養指導も、新管理料の枠組みで評価されます。「遠隔連携遺伝性疾患療養指導管理」として、情報通信機器を用いて他の保険医療機関と連携して行う療養指導が算定対象となります。ただし、遠隔連携の対象は難病に関する検査に係るものに限られ、別途定める施設基準を満たす保険医療機関でのみ算定できます。がんゲノムプロファイリング検査については、新管理料の中で取扱いが整理されます。具体的には、D006-19に掲げるがんゲノムプロファイリング検査について、検査前の説明(300点)、検査後の初回指導(700点)、検査後の2回目指導(200点)をそれぞれ患者1人につき1回算定できます。また、がん患者指導管理料のニを算定する場合、新管理料の「1」(検査前の説明)は併算定できません。施設基準は、医師の配置と体制整備の2点が求められます。具体的には、遺伝性疾患の診療につき十分な経験を有する常勤医師の配置と、療養指導を行うにつき十分な体制の整備が必要です。遠隔連携での算定には、これらに加えて情報通信機器を用いた診療体制の整備も求められます。まとめ:継続的な遺伝医療を支える評価体系へ令和8年度改定は、遺伝性疾患の療養指導を「医学管理料」として段階的に評価する仕組みへと再編します。新設の「遺伝性疾患療養指導管理料」は、検査前の説明(300点)、検査後の初回指導(700点)、検査後の2回目指導(200点)の3段階で構成されます。これに伴い、従来の遺伝カウンセリング加算と遺伝性腫瘍カウンセリング加算は廃止されます。検査前の意思決定支援からライフステージに応じた継続的な指導までを一貫して評価することで、質の高いゲノム医療の推進が期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度改定|全身麻酔の評価が3つの軸で抜本再編
令和8年度診療報酬改定では、全身麻酔の評価体系が抜本的に見直されます。現行の評価体系は、麻酔の深度や気道確保デバイスの違い、麻酔管理体制を十分に反映していません。この課題を解消し、安全で質の高い麻酔管理を適切に評価するため、本記事では改定内容を整理して解説します。全身麻酔の評価は、「麻酔の深度」「気道確保デバイスの有無」「麻酔管理体制」の3つの軸で再構築されます。第1に、短時間の鎮静を評価する区分として「吸入麻酔又は静脈麻酔による鎮静」(L001)が新設されます。第2に、深鎮静の評価は麻酔管理体制に応じた4区分に整理されます。第3に、L008の名称が「声門上器具又は気管挿管による気道確保を伴う閉鎖循環式全身麻酔」に変更され、点数も調整されます。短時間鎮静を評価するL001「吸入麻酔又は静脈麻酔による鎮静」が新設短時間の鎮静については、現行の複数区分を統合して新区分が設けられます。統合対象は、現行の区分番号L000「迷もう麻酔」、L001「筋肉注射による全身麻酔、注腸による麻酔」、L001-2「静脈麻酔」の1、およびL007「開放点滴式全身麻酔」です。なお、L001-2「静脈麻酔」の1とは、現行のL001-2が短時間(1)・長時間で十分な体制下(2)・その他(3)の3区分で構成されているうちの「短時間」を指します。これらの区分を統合する形で、L001「吸入麻酔又は静脈麻酔による鎮静」が新設されます。新設されるL001は、実施時間に応じた2区分で評価されます。1つ目は「10分未満のもの」で120点が算定されます。2つ目は「10分以上20分未満のもの」で310点が算定されます。これら2区分は、短時間鎮静の実態に即した時間軸で整理された評価体系です。深鎮静の評価は麻酔管理体制に応じた4区分に再編深鎮静についても、麻酔管理体制を反映した評価体系へと見直されます。現行のL001-2「静脈麻酔」の2および3を整理する観点から、深鎮静の評価が新L007「吸入麻酔又は静脈麻酔による深鎮静(声門上器具又は気管挿管による気道確保を伴わないもの)」として整備されます。なお、旧L007「開放点滴式全身麻酔」の内容は前述のとおり新L001に統合されるため、L007という区分番号は深鎮静の評価へと役割を変えます。新L007は、麻酔に従事する医師の関与度に応じた4段階の評価で構成されます。L007の4区分は、麻酔専従医師の関与度に応じて段階的に点数が設定されます。第1区分は「麻酔に従事する医師が専従で実施する場合」で2,600点となります。第2区分は「麻酔に従事する医師の指導下で麻酔を専従で実施する場合」で1,700点となります。第3区分は「麻酔を専従で実施する場合」で900点となります。第4区分は「1から3まで以外の場合」で600点となります。L007には、複数の加算と算定要件が設定されます。実施時間が2時間を超えた場合は、麻酔管理時間加算として30分又はその端数を増すごとに、第1区分で780点、第2区分で510点が加算されます。3歳以上6歳未満の幼児に対しては、幼児加算として所定点数の10%が加算されます。なお、第1区分および第2区分の算定には、施設基準への適合と地方厚生局長等への届出が要件となります。L008は名称変更と点数調整で気道確保デバイスの評価を明確化L008については、気道確保デバイスを用いた全身麻酔の評価であることを名称で明確化します。現行の「マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔」は、「声門上器具又は気管挿管による気道確保を伴う閉鎖循環式全身麻酔」へと変更されます。この名称変更により、評価対象となる気道確保デバイスの範囲が明確になります。L008の点数は、名称変更とあわせて一部が調整されます。腹腔鏡を用いた手術等が行われる場合の点数は、麻酔困難患者で9,130点から9,015点へ、それ以外で6,610点から6,500点へと改定されます。麻酔管理時間加算も同様に、該当区分で660点から650点へと調整されます。これらの点数調整は、改定全体の整合性を踏まえた見直しです。改定全体を貫く3つの軸を踏まえた対応が必要令和8年度改定における全身麻酔の評価は、3つの軸での再編が共通の柱となります。第1の軸である麻酔の深度に応じて、短時間鎮静のL001と深鎮静のL007が整理されます。第2の軸である気道確保デバイスの有無に応じて、L007とL008が区分されます。第3の軸である麻酔管理体制に応じて、L007が4段階に区分されます。医療機関は、これら3つの軸を踏まえて自院の麻酔管理体制を点検し、施設基準の届出など必要な対応を進めることが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度改定で新設、ロボット手術200例以上の病院に15,000点加算
ロボット手術は、平成24年度の保険適用以降、累次の診療報酬改定で対象術式が拡大し、現在32項目が保険収載されている。しかし、令和6年時点では、ロボット手術を実施する675施設のうち年間150回未満の施設が59%を占め、算定回数の分散が顕著である。本稿では、こうした状況を背景に令和8年度改定で新設された「内視鏡手術用支援機器加算」について、加算の趣旨、対象手術、施設基準、経過措置を解説する。内視鏡手術用支援機器加算は、年間200例以上のロボット手術を実施する保険医療機関を対象に15,000点を算定する新加算である。算定対象は、悪性腫瘍手術等の25区分(区分番号ベース)のK番号手術である。施設基準は、年間症例数、人員配置、機器管理体制、情報公開の4つの観点で構成される。情報公開要件のうち前年実績のウェブサイト掲載については、令和9年5月31日まで経過措置が設けられている。新加算の背景:算定の分散と高額な医療材料費新加算の背景には、ロボット手術の算定実績の分散と医療材料費の高さという2つの課題がある。厚生労働省は、これらの課題を踏まえ、高額医療機器の効率的活用と集約化を促す方針を示した。ロボット手術の算定実績は、医療機関ごとに大きく分散している。令和6年の算定医療機関数は675施設、総算定回数は約11.3万回である。このうち、年間算定回数が150回未満の医療機関は全体の59%を占める一方、250回以上の医療機関は22.8%にとどまる。さらに、250回以上の医療機関で実施されるロボット手術は全体の55.5%に達し、症例の集約傾向が認められる。医療材料費は、ロボット手術が腹腔鏡下等手術と比較して約2〜3倍高い。外保連試案2026によれば、肺悪性腫瘍手術(肺葉切除等)の償還できない医療材料費は、腹腔鏡下等手術が175,762円であるのに対し、ロボット手術は511,584円である。胃悪性腫瘍手術(全摘)でも、腹腔鏡下等手術346,240円に対しロボット手術697,582円と、同様の傾向がみられる。こうした課題を踏まえ、令和8年度改定では、多数の手術を実施する保険医療機関への評価を新設する方針が示された。具体的には、医療機器の効率的な活用と高額医療機器の集約化を図る観点から、年間手術実績に応じた評価を行うこととされた。新加算は、この方針を実現する具体的な手段として位置づけられる。新加算の概要:15,000点で25区分が算定対象内視鏡手術用支援機器加算は、所定の手術を実施する際に手術1件ごとに15,000点を算定する加算である。算定対象は、悪性腫瘍手術およびそれに準じた手術のうち、内視鏡手術用支援機器を用いた症例である。算定対象となるK区分番号は25区分にわたる。ただし、区分番号は25であっても、K514-2は枝番2と枝番3が、K655-2は枝番3が、K655-5は枝番3が、K657-2は枝番4のみが対象となるため、対象手術項目としては実質的に26項目となる点に留意が必要である。具体的な対象手術は、領域別に整理すると以下のとおりである。頭頸部領域では、K374-2(鏡視下咽頭悪性腫瘍手術)およびK394-2(鏡視下喉頭悪性腫瘍手術)が対象となる。胸部領域では、K502-5(胸腔鏡下拡大胸腺摘出術)、K504-2(胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術)、K514-2の2・3(胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術)、K529-2・K529-3(食道悪性腫瘍手術)、K554-2(胸腔鏡下弁形成術)、K555-3(胸腔鏡下弁置換術)が含まれる。腹部領域では、K655-2の3(腹腔鏡下胃切除術・悪性腫瘍手術)、K655-5の3(腹腔鏡下噴門側胃切除術・悪性腫瘍手術)、K657-2の4(腹腔鏡下胃全摘術・悪性腫瘍手術)、K674-2(腹腔鏡下総胆管拡張症手術)、K695-2(腹腔鏡下肝切除術)、K702-2(腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術)、K703-2(腹腔鏡下膵頭部腫瘍切除術)、K719-3(腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術)、K740-2(腹腔鏡下直腸切除・切断術)が対象となる。泌尿器・婦人科領域では、K755-2(腹腔鏡下副腎髄質腫瘍摘出術)、K773-5(腹腔鏡下腎悪性腫瘍手術)、K773-6(腹腔鏡下尿管悪性腫瘍手術)、K778-2(腹腔鏡下腎盂形成手術)、K803-2(腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術)、K865-2(腹腔鏡下仙骨腟固定術)、K879-2(腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術、子宮体がんに限る)が含まれる。算定対象と症例数カウント対象の非対称:K843-4の取扱いに要注意本加算の最大の注意点は、加算の算定対象となる手術と、200例の症例数要件をカウントする対象となる手術が、完全には一致しない点にある。具体的には、K843-4(腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術)が両者で異なる扱いを受ける。K843-4は、施設基準告示において200例の症例数要件をカウントする対象に含まれている。つまり、年間200例という分子の集計には、K843-4の症例を算入できる。前立腺癌に対するロボット手術は症例数の多い領域であるため、施設基準の充足にあたって重要な意味を持つ。一方で、K843-4は、加算15,000点の算定対象には含まれていない。つまり、K843-4の手術自体には本加算を上乗せして算定することはできない。本加算が算定できるのは、前項で列挙した25区分(実質26項目)の手術に限られる。この非対称な構造を踏まえると、医療機関は2つのリストを明確に区別して運用する必要がある。施設基準の充足判定には26区分(K843-4を含む)の合計症例数を、加算の算定可否判断には25区分(K843-4を除く)の対象手術リストを参照することになる。リストを取り違えると、施設基準誤届出や算定誤りの原因となりうる。施設基準:症例数、人員配置、機器管理、情報公開の4要件施設基準は、症例数、人員配置、機器管理、情報公開の4つの観点から構成される。これらの基準を満たし、地方厚生局長等への届出を行った保険医療機関のみが、本加算を算定できる。症例数要件は、年間200例以上のロボット手術実績である。対象手術は、施設基準告示に列挙された26区分のK番号手術(K843-4を含む)を合算する。この要件は、医療機器の効率的活用と集約化を促す本加算の中核的な要件である。人員配置要件は、麻酔科の標榜、常勤麻酔科標榜医の配置、常勤臨床工学技士1名以上の配置の3点である。あわせて、緊急手術が可能な体制を整備することも求められる。これらは、ロボット手術を安全に実施するための周術期体制を担保する要件である。機器管理要件は、保守管理計画の策定と適切な保守管理の実施である。また、関連学会が行うレジストリへの参加も求められ、手術患者の長期予後情報の収集に貢献することが施設に課せられる。これらの要件は、機器の安全性確保と医療技術のエビデンス蓄積を目的とする。情報公開要件は、前年の実績(症例数および平均在院日数)をウェブサイトに掲載することである。本要件には経過措置が設けられ、令和9年5月31日までの間は、未掲載であっても要件を満たすものとみなされる。算定を予定する医療機関は、経過措置期間内にウェブサイトを整備する必要がある。まとめ:集約化の方針を踏まえた体制整備と運用設計が鍵内視鏡手術用支援機器加算は、年間200例以上のロボット手術を実施する保険医療機関を対象とする新加算である。本加算は、算定実績の分散と医療材料費の高さを背景に、高額医療機器の集約化を促す目的で新設された。算定対象は悪性腫瘍手術等の25区分(実質26項目)で、施設基準は症例数、人員配置、機器管理、情報公開の4要件から構成される。特に、K843-4(腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術)は症例数要件のカウント対象には含まれるが加算算定対象には含まれないという非対称な扱いには注意が必要である。情報公開要件のうちウェブサイト掲載については、令和9年5月31日までの経過措置が設けられている。算定を目指す保険医療機関は、経過措置期間内に体制整備とウェブサイト掲載を完了させることが求められる。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|手術等の医療技術の適切な評価4つの柱を徹底解説
医療技術は日々進歩しており、新しい手術手技や検査が次々と臨床現場に登場しています。一方で、診療報酬上の評価は必ずしも技術の実態や人件費・材料費に追いついておらず、医療機関の持ち出しが恒常化している術式も少なくありません。令和8年度診療報酬改定では、こうした課題に対応するため、手術等の医療技術について評価の見直しが行われます。今回の改定では、手術等の医療技術の適切な評価として4つの柱で見直しが行われます。第1に、医療技術評価分科会の検討結果を踏まえた新規技術の保険導入と既存技術の再評価が行われます。第2に、新規医療材料等として保険適用された準用点数技術への新たな評価が行われます。第3に、外保連試案2026を参考にした技術料の見直しが行われます。第4に、整形外科領域のKコードが部位別に細分化されます。1.新規技術の保険導入と既存技術の再評価医療技術評価分科会の検討結果を踏まえ、新規技術の保険導入と既存技術の再評価(廃止を含む)が行われます。学会等から提案された技術のうち、優先度が高いものが新たに保険適用され、エビデンスが乏しくなった技術は廃止されます。あわせて、LDTs(Laboratory Developed Tests)の評価のあり方も整理されます。優先度が高い新規技術として、学会等からの提案では5項目が例示されています。具体的には、骨盤内臓全摘術(ロボット支援)、死体移植腎機械灌流保存技術、自己免疫性脳炎に対する血漿交換療法、肝エラストグラフィ撮影加算、細菌培養同定検査(血液又は穿刺液)です。先進医療として実施されている技術では、陽子線治療と重粒子線治療が対象となり、いずれも切除不能の3個以内の大腸癌肺転移に係るもので、かつ原発巣切除後であり局所再発のないものに限られます。保険医療材料等専門組織で審議された技術では、「注意欠如多動症治療補助プログラム」の使用に係る医療技術や、在宅振戦等刺激装置治療指導管理料及び疼痛等管理用送信器加算(遠隔プログラミングを算定対象とするための再評価)が対象となります。廃止される技術の例として、ヒッチコック療法が挙げられます。臨床的な使用実績や有効性のエビデンスを踏まえ、診療報酬上の評価から削除される技術が整理されます。LDTsの評価については、令和8年度改定の次の改定における医療技術評価分科会の評価対象とする方向が示されました。具体的には、性能評価や精度管理等の要件を満たすことが客観的に担保された施設で実施されていること、国内診療において一定の使用実績があることの2要件を満たすLDTsが対象となります。LDTsとは、単一の検査室または検査室ネットワーク内で設計・開発・製造され、臨床診断の補助や臨床的管理の意思決定に用いられる検査を指します。2.新規医療材料等の準用点数技術への新たな評価C2区分で保険適用された新規医療材料等について、これまで準用点数で算定されていた医療技術に技術料が新設されます。準用点数とは、新規材料が保険適用された際に、既存の類似技術の点数を準用して算定する仕組みです。今回の改定では、こうした準用状態の技術に独立した点数が設定されます。技術料新設の代表例として、植込型除細動器移植術に「4 胸骨下植込型リードを用いるもの 24,310点」が新設されます。胸骨下植込型リードという新しい医療材料の特性を踏まえ、従来の経静脈リード等を用いるものとは区別された独立評価が行われます。これにより、医療機関は技術の実態に即した算定が可能となります。3.外保連試案2026に基づく技術料の見直し外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の「外保連試案2026」における人件費及び材料費の調査結果等を参考に、技術料の見直しが行われます。外保連試案は、各術式に要する人件費・医療材料費等を学会が積算した資料であり、診療報酬の適正化を検討する際の重要な参考データです。今回の改定で見直される区分の例として、CT撮影が挙げられます。CT撮影については、機器のマルチスライス列数による区分が見直されます。現行では「64列以上」「16列以上64列未満」「4列以上16列未満」「その他」の4区分でしたが、改定後は「128列以上」が新設され5区分となります。具体的な点数は、128列以上の共同利用施設で1,120点、その他で1,100点となり、64列以上128列未満は共同利用施設で1,020点、その他で1,000点とされます。最新の高性能機器による撮影が独立して評価されることで、機器更新を進める医療機関のインセンティブとなります。4.整形外科領域のKコードの部位別見直し整形外科領域のKコードについて、部位別を基本として区分が見直されます。これまで複数部位を一括りにしていた区分が、部位ごとに細分化されます。背景には、外科系学会社会保険委員会連合の手術基幹コードであるSTEM7の分類に基づく解析により、手術時間に有意な差があることが明らかになった点があります。骨折観血的手術(K046)を例にとると、現行の3区分が改定後は15区分に細分化されます。現行では「肩甲骨、上腕、大腿」(21,630点)、「前腕、下腿、手舟状骨」(18,370点)、「鎖骨、膝蓋骨、手(舟状骨を除く。)、足、指(手、足)その他」(11,370点)の3区分でした。改定後は、肩甲骨骨折、上腕骨骨折、大腿骨骨折、前腕骨骨折、下腿骨骨折、手舟状骨骨折、鎖骨骨折、膝蓋骨骨折、手根骨(舟状骨を除く。)骨折、中手骨骨折、手指骨骨折、足根骨骨折、中足骨骨折、足趾骨骨折、その他の骨折観血的手術の15項目に整理されます。点数水準は現行と同様の3階層(21,630点、18,370点、11,370点)が維持されつつ、各部位がどの階層に該当するかが明確化されます。部位別細分化により、診療実態に即した算定がしやすくなります。これまで複数部位がまとめられていた区分が部位ごとに独立して整理されることで、レセプト記載の明確化と統計データの精緻化が期待されます。まとめ:手術等医療技術の評価が実態に即したものへ令和8年度診療報酬改定では、手術等の医療技術の適切な評価として4つの見直しが行われます。新規技術の保険導入と既存技術の再評価、準用点数技術への技術料新設、外保連試案2026に基づくCT撮影等の技術料見直し、整形外科Kコードの部位別細分化です。いずれも、医療技術の進歩や実態に即した適正な評価を目指したものです。医療機関の事務担当者や臨床現場の医師・看護師にとっては、改定後の点数算定ルールの確認が不可欠です。特にCT撮影の128列以上の新設や、整形外科Kコードの細分化は、施設基準の届出やレセプト記載の運用に直接影響します。改定告示・通知の発出後、速やかに自院の対応状況を点検することをお勧めします。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【令和8年度改定】健診後の保険診療|初再診料の算定ルールが明確化
医療機関では、健康診断、検診、予防接種等(以下「健診等」)の受診後に、健診等で発見された疾病について保険診療を行う場面が日常的に発生している。しかし、現行の通則では、こうした健診後の保険診療における初診料、再診料、外来診療料(以下「初再診料等」)の算定ルールが明記されていない。令和8年度診療報酬改定では、この健診後の保険診療に関する初再診料等の算定方法を、通則に新たな規定を追加して明確化する。本改定は、通則13〜17の新設により、健診後の保険診療における算定ルールを4つの観点から整理する。第一に、健診等の費用は「療養の給付と直接関係ないサービス等」として別途徴収できることを明確化する。第二に、健診等と同日に1回の受診で保険診療を行う場合、初再診料等は算定できないことを明確化する。第三に、健診等の後に別の受診として保険診療を行う場合、再診料または外来診療料は算定できることを明確化する。第四に、健診後に行う検査や治療について、保険給付の対象として算定できる要件を明確化する。1. 健診等の費用は「療養の給付と直接関係ないサービス等」として別途徴収できる(通則13)健診等の費用は、保険診療とは別の枠組みとして患者から直接徴収できることが、通則13により明確化される。健診等とは、健康診断、検診、予防接種等を指し、これらは保険給付の対象外である。保険給付の対象外であるため、健診等の費用は保険診療の費用と区別して取り扱う必要がある。改定後の通則13では、この健診等の費用を「療養の給付と直接関係ないサービス等」に分類することが明記される。「療養の給付と直接関係ないサービス等」とは、保険診療と直接関係しない費用を患者から実費徴収できる仕組みである。本規定により、医療機関は健診等の費用を保険診療の費用と独立して請求できる根拠が明確になる。2. 健診等と同日に1回の受診で保険診療を行う場合、初再診料等は算定できない(通則14前段、通則15)健診等と同日に同一の受診機会で健診関連疾病の保険診療を行う場合、初診料、再診料、外来診療料はいずれも算定できないことが、通則14の前段により明確化される。同日に1回の受診で保険診療を行うケースとは、健診等を実施した医療機関で、同一日に1回の受診として健診関連疾病の保険診療を行う場合を指す。例えば、健診を受けた患者がその場で高血圧の指摘を受け、同日に高血圧の治療を開始する場合がこれに該当する。このケースでは、初診料に加え、再診料および外来診療料も算定できない。これは、現行の初診料の取扱いと同じ考え方を、再診料および外来診療料にも適用するものである。受診の機会が1回である以上、初再診料等を重複して請求できないという整理である。加えて通則15では、算定できない初再診料等に含まれる特掲診療料や、初再診料等と併せて算定できない特掲診療料についても、同様に算定できないことが規定される。ただし、検査、画像診断、投薬、注射、リハビリテーション、処置、手術、麻酔、放射線治療、病理診断は、保険診療として実施する場合に限り算定できる。3. 健診等の後に別の受診として保険診療を行う場合、再診料等は算定できる(通則14後段)健診等の後に、改めて別の受診として保険診療を行う場合、初診料は算定できないものの、再診料または外来診療料は算定できることが、通則14の後段により明確化される。別の受診として保険診療を行うケースとは、健診等を実施した医療機関で、健診等とは別の受診機会として健診関連疾病の保険診療を行う場合を指す。例えば、健診結果の説明を後日改めて行い、その場で治療を開始する場合がこれに該当する。このケースでは、「A001」再診料または「A002」外来診療料を、それぞれの規定に従い算定できる。これは、現行の保険診療における再診料の取扱いと同じ考え方である。健診等が初診の機能を果たしているとみなし、その後の受診を再診として整理するものである。4. 健診後の検査・治療は要件を満たせば保険給付の対象として算定できる(通則16、通則17)健診等の結果、疾病またはその疑いが判明した場合に行う検査や治療の費用は、所定の要件を満たせば医療保険給付の対象として算定できることが、通則16および通則17により明確化される。通則16では、健診結果に基づき治療方針を確立するために行う検査の算定要件が示される。具体的には、当該検査が健診等の一環としてあらかじめ計画または予定されていたものではないことが客観的に明らかである場合に限り、医療保険給付の対象として診療報酬を算定できる。本規定は、健診費用に含まれるべき検査と、保険診療として実施する検査を明確に区別する趣旨である。通則17では、健診結果に基づき治療を開始した場合の治療費用の算定要件が示される。具体的には、健診等の結果、特に治療の必要性を認めて治療を開始した場合、当該治療費用について医療保険給付の対象として診療報酬を算定できる。ただし、通則14および通則15により算定できないとされる費用は対象から除外される。まとめ|健診後の保険診療における算定ルールの整理本改定により、健診等の受診後に保険診療を行う際の初再診料等の算定ルールが明確化される。健診等の費用は別途徴収できる一方、同日に1回の受診で保険診療を行う場合は初再診料等を算定できず、別の受診として保険診療を行う場合は再診料または外来診療料を算定できる。さらに、健診後の検査や治療の費用は、所定の要件を満たせば医療保険給付の対象として算定できる。なお、本改定は歯科においても同様に適用される。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
総合診療医とは?4つの役割と地域医療の未来を旭川の医師が語る
総合診療医という言葉が、ドラマ「19番目のカルテ」の放送をきっかけに、少しずつ社会に知られはじめています。しかし、総合診療医が実際に何をする医師なのか、その専門性と地域医療における役割は、まだ十分に理解されていません。本記事では、北海道旭川市で総合診療医として活動する西村涼医師へのインタビューから、総合診療医の本当の役割と価値を伝えます。総合診療医は、「なんでも診る医者」を超え、地域医療のインフラを担う専門医です。西村医師は、総合診療医の役割を4つに整理しています。また、旭川市では2024年4月から、総合診療医を育てる専門研修プログラム(KAMUI総合診療プログラム)を開始しました。このプログラムは、医療・介護・福祉を一つの法人内で学べるエコシステムを強みとしています。総合診療医の4つの役割総合診療医の専門性は、4つの役割に整理できます。西村医師は、入り口の整理、コンテキストに基づく個別化医療、在宅医療、医療・介護・福祉の包括的ケアという4つの軸で、総合診療医の仕事を説明します。入り口の整理は、総合診療医の第一の役割です。患者が「お腹が痛い」「背中が苦しい」「めまいがする」「足がしびれる」といった症状を抱えたとき、何科にかかればよいか迷うことが少なくありません。総合診療科にまず受診すれば、適切な検査と診断を行ったうえで、専門科への紹介や自科での治療の判断ができます。総合診療医は、患者と専門医療をつなぐ窓口として機能します。コンテキストに基づく個別化医療は、第二の役割です。コンテキストとは、患者のライフステージや価値観のことを指します。たとえば、20代・30代で心疾患を発症した患者には、ガイドラインに沿った標準治療を組み合わせて進行を予防します。一方、90代後半で認知症症状のある患者には、症状緩和を優先し、薬剤を減量調整します。総合診療医は、患者の人生に合わせたオーダーメイドの処方を提供します。在宅医療は、第三の役割であり、総合診療医の得意分野です。西村医師は、患者の自宅を訪問し、玄関の上がりかまちの高さ、寝室からトイレまでの距離、段差、手すりの有無を詳細に評価します。この評価をもとに、ケアマネージャーと連携して住環境の改善を提案します。在宅医療では、患者の生活全体を支える視点が求められます。医療・介護・福祉の包括的ケアは、第四の役割です。総合診療医は、医療だけでなく、介護や福祉の専門職と連携し、患者を地域で支える仕組みをつくります。この役割を果たすには、医療機関の中だけで完結する診療ではなく、地域全体を見渡す視点が必要です。西村医師が総合診療医を目指した原体験西村医師が総合診療医を目指した原体験は、学生時代の大学病院での実習にあります。当時、各診療科の外来で、患者が「ついでに他の症状も相談したい」と話す場面を何度も目撃しました。その場面で、医師は「それはうちの科ではなく、他科に行ってください」と患者を回していました。この対応に、西村医師は強いモヤモヤを感じたと振り返ります。患者を病気という文脈ではなく、「その人の困っていること」として捉えたいと思うようになりました。このモヤモヤが、総合診療科を目指す出発点になりました。西村医師は、患者の困りごとを全体として受け止め、整理できる専門性を身につけるため、総合診療の道を選びました。旭川での専門研修プログラムとビジョン西村医師のビジョンは、「総合診療科という名前が当たり前に社会に知られている状態」をつくることです。総合診療専門医制度は2018年に開始されたばかりで、2025年時点でも全国に1000人未満の専門医しかいません。専門研修プログラムも、全国に十分整備されていない状況です。このビジョンを実現するため、西村医師は2024年4月から、旭川でKAMUI総合診療プログラムを開始しました。プログラムは、専門医機構が定める整備基準にもとづき、入院病棟管理、外来診療、在宅での終末期ケア、家族との話し合いをカリキュラムに組み込んでいます。一つの病院では完結できないため、旭川市内の大学病院、大規模病院、道外の病院と連携し、3カ月ごとのローテーションを組んでいます。プログラムの強みは、医療・介護・福祉を一つの法人内で学べるエコシステムです。所属法人は、病院に加えて、介護事業所の経営、ソーシャルワーカーの配置、社会福祉協議会との提携を備えています。研修医は、患者を地域で生活させるためのすべてのリソースを、均等に学ぶことができます。地域医療における総合診療医の意義総合診療医は、地方の中小病院と在宅医療において、二つの意義を持ちます。西村医師は、病院側の意義と患者側の意義の両方から、総合診療医の役割を整理しています。病院側の意義は、収益向上です。総合診療医は、来院した患者を幅広く診察し、適切に整理して専門医に送るか、自科で対応するかを判断します。この機能により、病院全体の患者動線が整理され、収益が安定します。患者側の意義は、受診先の明確化です。患者は「総合診療医がいる病院」を目印にして、最初の受診先を決められます。動線が整理されることで、たとえば血圧高値程度で大病院の夜間救急を受診し、当直医に怒られるような悲しい体験を減らせます。総合診療科を受診するタイミング総合診療科は、いつでも、何のきっかけでも受診できます。西村医師は、リスナーに向けて、受診のハードルを下げるメッセージを送っています。健康診断で異常を指摘されたときは、総合診療科にまず相談できます。受診すれば、必要な検査を組んで、診断と治療方針を整理します。家族の物忘れが気になるときも、総合診療科で相談できます。受診するかどうか悩む段階の相談も歓迎です。入院中の家族の退院支援も、総合診療科の役割です。人工呼吸器や点滴管などの医療機器がついたまま在宅に戻る場合、介護の方法や生活の整え方を一緒に考えます。患者本人と家族がつらくない状況をつくるため、総合診療医は伴走者として関わります。まとめ総合診療医は、「なんでも診る医者」を超え、地域医療のインフラを担う専門医です。西村医師は、入り口の整理、コンテキストに基づく個別化医療、在宅医療、医療・介護・福祉の包括的ケアという4つの役割を、旭川の現場で実装しています。総合診療専門医はまだ全国に1000人未満ですが、旭川のKAMUI総合診療プログラムは、医療・介護・福祉を一つの法人内で学べるエコシステムを強みに、地域医療の中心を担う総合診療医を育てています。総合診療医を地域医療のインフラに据える取り組みは、病院の仕組みそのものを再設計する挑戦でもあります。西村医師は、Substack「『病院』再設計ノート」で、現場から病院の仕組みをどう組み直すかを書き続けています。総合診療、在宅医療、病院運営、AI実装を一つの絵としてつなぐ視点に触れたい方は、ぜひご覧ください。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
療養・就労両立支援指導料の見直し|令和8年度改定の4つのポイント
治療と仕事の両立は、日本社会における重要な課題となっています。現行の療養・就労両立支援指導料は、対象疾患が限定されており、評価額や算定期間の面でも十分とは言えない状況にあります。本記事は、令和8年度診療報酬改定で行われる療養・就労両立支援指導料の見直し内容を解説します。療養・就労両立支援指導料の見直しは、4つの観点から行われます。第1の見直しは、勤務情報の提供方法に「治療と仕事の両立支援カード」を追加する点です。第2の見直しは、対象疾患の定めを廃止する点です。第3の見直しは、2回目以降の算定可能期間を3月から6月に延長する点です。第4の見直しは、初回・2回目以降の点数および相談支援加算を引き上げる点です。勤務情報の提供方法の拡大勤務情報の提供方法に「治療と仕事の両立支援カード」が追加されます。これまで医療機関が患者と事業者の共同作成文書を受け取る方法に限定されていた仕組みが、改定によって柔軟化されます。現行制度では、患者と事業者が共同して作成した勤務情報を記載した文書が、算定の前提条件となっています。この共同作成文書には、病状や就労状況などを医療機関に伝えるための情報が記載されます。共同作成という形式が必要なため、患者と事業者の双方に作成負担が生じている状況です。改定後は、患者が作成した「治療と仕事の両立支援カード」が、事業者の確認を経て医療機関に提供された場合も算定可能となります。この両立支援カードは、患者自身が病状や就労上の希望を記載するツールです。事業者の確認のみで足りるため、共同作成に比べて手続きの負担が軽減されます。対象疾患の定めの廃止対象疾患の定めが廃止され、算定対象が大幅に拡大されます。現行では7区分に限定されていた対象が、就業継続への配慮が必要な入院中以外の患者へと広がります。現行制度の対象疾患は、悪性新生物、脳血管疾患、肝疾患(慢性)、心疾患、糖尿病、若年性認知症、指定難病等の7区分に限定されています。これらの疾患に該当しない患者は、就業継続に配慮が必要であっても算定対象とはなりません。疾患の限定は、両立支援を必要とする多様な患者を制度から排除する要因となっていました。改定後は、疾患の増悪防止等のための反復継続した治療が必要な入院中の患者以外の患者であって、就業の継続に配慮が必要なものが算定対象となります。本指導料は外来患者を対象とした評価であるため、入院中の患者は引き続き対象外です。疾患名による制限が撤廃されるため、対象範囲はこれまでより広くなり、従来の7区分に含まれなかった疾患の外来患者にも、両立支援指導の機会が拓かれます。算定可能期間の延長と評価の引き上げ算定可能期間が6月に延長され、点数も全体的に引き上げられます。この見直しは、両立支援指導が3月を超えて継続されている実態を踏まえたものです。算定可能期間は、現行の3月から改定後の6月へと延長されます。2回目以降の指導について、現行では1を算定した日の属する月またはその翌月から起算して3月が限度となっています。改定後は、同じ起算点から6月までが限度となり、より長期にわたる継続的な支援が評価対象になります。評価の引き上げは、初回・2回目以降・相談支援加算・情報通信機器使用時のすべての項目で行われます。初回は800点から850点へ、2回目以降は400点から500点へ引き上げられます。相談支援加算は50点から400点へと大幅に増点されます。情報通信機器を用いた場合は、初回696点から740点へ、2回目以降348点から435点へとそれぞれ引き上げられます。まとめ令和8年度改定では、療養・就労両立支援指導料が4つの観点から見直されます。第1に、勤務情報の提供方法に「治療と仕事の両立支援カード」が追加されます。第2に、対象疾患の定めが廃止され、入院中の患者以外の算定対象が拡大されます。第3に、2回目以降の算定可能期間が3月から6月に延長されます。第4に、初回・2回目以降の点数および相談支援加算が引き上げられます。これらの見直しにより、治療と仕事の両立支援がさらに推進される改定となっています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
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