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近視進行抑制薬が薬事承認|処方時の検査評価を中医協が検討

近視進行抑制薬が薬事承認|処方時の検査評価を中医協が検討

Jan 13, 2026 05:21 岡大徳

令和8年1月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、近視進行抑制薬の処方に係る検査の評価が議題となりました。令和6年12月に薬事承認された「近視の進行抑制」を効能・効果とするアトロピン硫酸塩水和物(リジュセアミニ点眼液)について、処方時に必要な検査の診療報酬上の取り扱いが検討されています。中医協では、関係学会のガイドラインを踏まえた検査評価の在り方が論点として示されました。近視進行抑制薬による治療開始時および治療中には屈折検査等の実施が推奨されており、これらの検査に対する適切な評価が求められています。本稿では、近視進行抑制薬の概要、学会指針に基づく検査手順、そして今後の診療報酬上の対応について解説します。近視進行抑制薬の概要と選定療養への追加令和6年12月27日、「近視の進行抑制」を効能・効果とする医薬品が薬事承認されました。この医薬品は一般名をアトロピン硫酸塩水和物といい、販売名は「リジュセアミニ点眼液0.025%」です。用法・用量は1回1滴、1日1回就寝前の点眼となっています。この薬剤の有効性は国内第Ⅱ/Ⅲ相試験で確認されています。試験では5歳から15歳の近視患者299例を対象に、無作為化二重遮蔽並行群間比較が実施されました。投与24ヵ月後における調節麻痺下の他覚的等価球面度数の変化量について、本剤群はプラセボ群と比較して統計学的に有意な差が認められ、優越性が検証されました。本剤群の変化量は-1.006D、プラセボ群は-1.643Dであり、群間差は0.637D(p

【令和8年1月】選定療養の4つの見直しポイント|近視治療薬から長期収載品まで

【令和8年1月】選定療養の4つの見直しポイント|近視治療薬から長期収載品まで

Jan 12, 2026 05:48 岡大徳

令和8年1月9日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集の結果への対応方針が示されました。この対応方針は、令和7年9月に報告された343件の意見を踏まえたものです。本稿では、医療機関の実務に影響を与える見直し内容を解説します。今回の見直しは4つの分野に及びます。第一に、近視進行抑制薬が新たに選定療養に追加されます。第二に、時間外の指導管理や調剤、リハビリテーションの回数制限に関して、既存の選定療養の対象範囲が拡大されます。第三に、予約システム利用料やキャンセル料など、療養の給付と直接関係ないサービス等が明確化されます。第四に、長期収載品の患者負担が価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられます。近視進行抑制薬が選定療養に新規追加令和6年12月に薬事承認されたアトロピン硫酸塩水和物が、選定療養の対象として追加されます。この医薬品は近視の進行抑制を効能・効果としていますが、薬価収載はされていません。背景には、小中学生の近視増加があります。裸眼視力1.0未満の小中学生の割合は年々増加しており、近視の進行抑制に対する患者ニーズは高まっています。選定療養への追加により、保険診療との併用が可能になります。例えば、コンタクトレンズの処方目的で受診した患者が、アトロピン硫酸塩水和物の処方も希望した場合を考えます。従来は、コンタクトレンズ処方のための検査が保険診療である一方、近視進行抑制薬の処方は保険外診療であり、療養担当規則に抵触するおそれがありました。選定療養に追加されることで、この問題が解消され、患者は近視に係る治療を円滑に受けられるようになります。既存の選定療養の対象範囲が拡大既存の選定療養について、2つの類型で対象範囲が拡大されます。時間外の指導管理・調剤が対象に追加「保険医療機関が表示する診療時間以外の時間における診察」の対象が拡大されます。具体的には、医師の診察と別日に実施される時間外の指導管理が追加されます。対象となる指導管理は、外来栄養食事指導料、心理支援加算、がん患者指導管理料、乳腺炎重症化予防ケア・指導料などです。また、緊急性のない保険薬局の開店時間外における調剤も追加されます。この見直しの背景には、国民の生活時間帯の多様化があります。緊急性のない患者都合による時間外の指導管理や調剤には一定のニーズがある一方で、診療時間内の受診・調剤を働きかけることで、医療関係職種の負担軽減と医療の質向上が期待されます。ただし、緊急やむを得ない事情による時間外の指導管理・調剤については、現行の時間外診察と同様に、特別の料金徴収は認められません。リハビリテーションの回数超過が対象に追加「医科点数表等に規定する回数を超えて受けた診療」の対象に、摂食機能療法とリンパ浮腫複合的治療料が追加されます。現行では、疾患別リハビリテーションについて、患者の治療意欲を高める必要がある場合に、規定回数を超えた診療への特別料金徴収が認められています。今回の見直しにより、疾患別リハビリテーション以外のリハビリテーションについても、一定の患者ニーズに応えることが可能となり、患者の治療意欲向上が期待されます。療養の給付と直接関係ないサービス等が明確化療養の給付と直接関係ないサービス等として、4つの項目が追加・明確化されます。なお、費用徴収に当たっては、患者への明確かつ懇切な説明と同意確認が必要であり、徴収費用は社会的に妥当適切なものとすることが求められています。予約・オンライン診療のシステム利用料予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料が明確化されます。システムの利用により、患者は医療機関の診療時間に関係なく診療予約が可能となり、通院負担の軽減など利便性が向上します。予約キャンセル料予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料が認められます。対象となるのは、診察日の直前にキャンセルした場合に限定されます。また、傷病が治癒したことによるキャンセルは対象外です。これは、疾病治癒時のキャンセル料徴収を可能とすると、不要な診療を惹起するおそれがあるためです。予約診察では患者ごとに適切な診療体制が確保されており、キャンセルに伴う医療機関の機会損失に対応する措置となります。Wi-Fi利用料Wi-Fi利用料について、既存の「インターネットの利用」と同様の取扱いであることが明確化されます。在留外国人の多言語対応費用在留外国人の診療に当たり必要となる多言語対応費用が追加されます。対象となる費用は、通訳の手配料や翻訳機の使用料などです。在留外国人が増加する中、言語の問題で診療に多くの人員・時間を要することがあります。在留外国人が診療内容を的確に理解し、納得した上で医療を受けられる環境整備を目的としています。薬剤自己負担の在り方も見直し今回の意見募集では、薬剤自己負担の在り方に関する意見も寄せられました。令和8年度予算編成過程を踏まえ、以下の対応方針が示されています。長期収載品の患者負担が引き上げ長期収載品の選定療養について、患者負担の水準が価格差の4分の1相当から2分の1相当へ引き上げられます。この見直しは、後発医薬品の供給状況や患者負担の変化にも配慮しつつ、創薬イノベーションの推進と後発医薬品の更なる使用促進を目的としています。バイオ後続品は継続検討バイオ後続品のある先行バイオ医薬品については、中医協においてバイオ医薬品に係る一般名処方のルール整備や、医療機関・薬局における備蓄等の体制評価について議論が進められています。社会保障審議会医療保険部会においても引き続き検討するとされており、必要に応じて中医協でも議論される予定です。OTC類似薬は新たな仕組みを創設OTC類似薬の薬剤自己負担については、選定療養への追加ではなく、別途の保険外負担(特別の料金)を求める新たな仕組みが創設されます。令和7年12月24日の大臣折衝事項において、令和8年度中(令和9年3月)に実施することが示されました。対象となるのは、OTC医薬品の対応する症状に適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品のうち、他の被保険者の保険料負担により給付する必要性が低いと考えられるものです。まずは77成分(約1,100品目)を対象とし、薬剤費の4分の1に特別の料金が設定されます。引き続き議論の状況を注視しつつ、必要に応じて中医協でも議論される予定です。まとめ今回の中医協総会では、選定療養に関する4分野の見直し方針が示されました。近視進行抑制薬の新規追加、時間外指導管理・調剤とリハビリ回数超過への対象拡大、システム利用料等の明確化、そして長期収載品の患者負担引き上げです。医療機関においては、これらの見直しに対応した体制整備と患者への説明準備が求められます。特に、選定療養に係る費用徴収に当たっては、サービス内容や料金等について患者に明確かつ懇切に説明し、同意を確認することが重要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定における物価対応の全体像:外来・入院別の配分方法を解説

令和8年度診療報酬改定における物価対応の全体像:外来・入院別の配分方法を解説

Jan 11, 2026 04:33 岡大徳

令和8年1月9日に開催された中央社会保険医療協議会 総会(第640回)において、診療報酬改定における物価対応の具体的な配分方法が示されました。本稿では、大臣折衝で決定された物価対応分+0.76%の配分について、外来・入院それぞれの対応方法と、施設類型ごとの配分の考え方を解説します。今回の改定では、物価対応分+0.76%と緊急対応分+0.44%の2つの枠組みで対応が行われます。物価対応分+0.76%の内訳は、令和8年度以降の物価上昇への対応(+0.62%)と高度医療機能を担う病院への特例的対応(+0.14%)です。これに加えて、令和6年度改定以降の経営環境悪化を踏まえた緊急対応分として+0.44%が別途措置されます。外来診療では初・再診料とは別に物価上昇に関する評価を新設し、入院診療では令和元年の消費税補填の手法を参考に入院料ごとの物件費率等をもとに配分額を算出する方針です。大臣折衝で決定された物価対応の枠組み令和7年12月24日の大臣折衝において、令和8年度診療報酬改定の物価対応に関する基本的な枠組みが決定されました。物価対応分として+0.76%(令和8年度+0.55%、令和9年度+0.97%の2年度平均)が設定され、診療報酬に特別な項目を設定することで対応する方針が示されています。令和8年度以降の物価上昇への対応には+0.62%が充てられます。この財源は施設類型ごとの費用関係データに基づき、病院+0.49%、医科診療所+0.10%、歯科診療所+0.02%、保険薬局+0.01%と配分されます。病院の中でも、担う医療機能に応じた配分を行うこととされています。高度医療機能を担う病院への特例的対応として+0.14%が措置されます。大学病院を含むこれらの病院は、医療技術の高度化等の進展の影響を先行的に受けやすい特性があります。汎用性が低く価格競争原理の働きにくい医療機器等を調達する必要性から、物価高の影響を受けやすいことが考慮されました。令和6年度改定以降の経営環境悪化を踏まえた緊急対応分として+0.44%が配分されます。配分に当たっては、令和7年度補正予算の効果を減じることのないよう、施設類型ごとのメリハリを維持することとされています。具体的には、病院+0.40%、医科診療所+0.02%、歯科診療所+0.01%、保険薬局+0.01%の配分となります。外来診療における物価上昇対応の方法外来診療に関する物価上昇への対応について、中医協総会では大臣折衝における考え方を踏まえた具体的な方法が提案されました。対応方法は、物価上昇の時期によって2つに区分されています。令和8年度以降の物価上昇への対応については、初・再診料等とは別に物価上昇に関する評価を新設する方針です。この評価は、初・再診時等に算定できる独立した項目として設定されます。段階的に対応する必要があることを踏まえ、令和8年度に設定された評価は令和9年度には2倍となることが想定されています。初・再診料に加え、訪問診療料や初・再診料の評価が包括される診療報酬項目も対象に含まれます。令和6年度診療報酬改定以降の経営環境悪化への対応分については、令和8年度改定時に初・再診料等の評価に含める方式が採用されます。これは、令和7年度補正予算による物価上昇支援を診療報酬に置き換えるものです。評価の水準については、医科診療所・歯科診療所の改定率を踏まえて設定されます。こうした2段階の対応方式により、物価上昇の性質に応じた適切な評価が可能となります。令和8年度以降の物価上昇は継続的な対応が必要であるため独立した評価項目を設定し、経営環境悪化への対応は基本診療料への組み込みで恒久的な措置とする考え方です。入院診療における物価上昇対応の方法入院診療に関する物価上昇への対応についても、外来と同様に2段階の対応方式が提案されています。入院料等(入院基本料、特定入院料及び短期滞在手術等基本料3)の算定時に算定可能な評価を設定する方針です。令和8年度以降の物価上昇への対応については、入院料等とは別に物価上昇に関する評価を設定します。この評価は外来における物価上昇対応と同様に段階的な対応が行われ、令和8年度の評価は令和9年度には2倍となることが想定されています。評価の水準は、病院の改定率(入院・外来を含む)から外来診療における物価上昇対応の評価を差し引いた規模となるよう調整されます。令和6年度改定以降の経営環境悪化への対応分については、令和8年度改定時に入院料等の評価に含める方式が採用されます。配分の算出に当たっては、令和元年の消費税補填における対応が参考にされます。グループ分けした入院料毎の物件費率等をもとに、入院料毎の1人1日の入院診療報酬に占める物件費を算出して上乗せする評価を設定することが検討されています。高度医療機能を担う病院への特例的な対応分については、その趣旨に沿ってそうした機能を担う病院への評価に上乗せする方針です。今後の関係調査において実績等を検証し、所要の対応を図ることとされています。病院における外来物価上昇対応の補正病院・有床診療所の外来における物価上昇分への対応については、診療所とのコスト構造の違いを考慮した補正が行われます。外来における物価上昇分の評価は診療所と同一の初再診時の評価が適用されますが、病院における外来は診療所とコスト構造が異なるため、実際の物価上昇分と一致しないことが想定されます。初再診時の評価での対応で不足する外来における物価上昇分については、入院時の評価に当たって補正する方式が提案されています。具体的には、病院における実際の物価上昇分から外来の物価上昇に関する評価を差し引き、その差額を入院時の評価に含める形となります。逆に、初再診時の評価が外来で対応すべき物価上昇分より大きい場合には、入院時に対応すべき物価上昇分から差し引いて入院時の評価を算出することとなります。このような補正により、病院全体として適切な物価上昇対応が実現されます。入院料への配分方法と令和7年度補正予算との整合性令和6年度改定以降の経営状況悪化に対する対応については、令和7年度補正予算による支援の考え方を踏まえた配分方法が採用されます。大臣折衝において、補正予算の効果を減じることのないよう施設類型ごとのメリハリを維持することが明記されています。回復期、精神、慢性期については、入院1日当たり定額を配分する方式が採用されます。これは補正予算における1床あたりでの支援の考え方を踏襲したものです。入院料の種類にかかわらず一律の配分となるため、簡潔な仕組みとなります。急性期については、財源を一体化した上で3つの類型に配分する方式が採用されます。第1類型は特定機能病院の急性期病床、第2類型は急性期病院の急性期病床、第3類型はその他の病院の急性期病床です。各類型への配分額は補正予算の配分額に応じて算出され、さらに入院料ごとの物件費等の額に応じて配分額が決定されます。補正予算では救急加算として救急搬送件数に応じた支援が行われていました。診療報酬においてもこの考え方を踏まえた対応が検討されており、精神科病院への救急搬送件数に応じた必要な対応についても検討が進められています。まとめ令和8年度診療報酬改定における物価対応は、大臣折衝で決定された+0.76%の物価対応分と+0.44%の緊急対応分を、外来・入院それぞれの特性に応じて配分する方針です。外来では初・再診料とは別に物価上昇に関する評価を新設し、入院では令和元年の消費税補填の手法を参考に入院料ごとの物件費率等をもとに配分額を算出します。病院については外来と入院で一体的に補正を行い、補正予算の効果を維持しつつ施設類型ごとのメリハリある配分が実現されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定|支払側・診療側の意見を徹底解説

令和8年度診療報酬改定|支払側・診療側の意見を徹底解説

Jan 10, 2026 04:36 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、令和8年度診療報酬改定に向けた支払側(1号委員)と診療側(2号委員)の意見書が提出されました。本稿では、両者の意見を整理し、今回の改定における論点を解説します。物価高騰・賃上げへの対応、入院医療の機能分化、かかりつけ医機能の強化が共通の重要テーマとなっています。両者は「物価・賃上げへの確実な対応」と「医療DXの推進」で方向性が一致しています。一方、支払側が「適正化・効率化」を重視するのに対し、診療側は「基本診療料の引上げ」を強く求めており、財源配分の優先順位に違いがみられます。以下、医科・歯科・調剤の各分野について、両者の主張を対比しながら解説します。基本的考え方|両者の共通認識と相違点支払側と診療側は、現下の経済状況への対応について共通の認識を持っています。両者とも物価高騰と賃上げへの対応を重点課題と位置づけ、医療従事者の処遇改善が不可欠であると主張しています。支払側は「国民皆保険制度と医療提供体制の持続可能性の両立」を基本方針に掲げています。具体的には、外来受診の適正化、残薬対策、短時間・頻回な訪問看護の是正、門前薬局や敷地内薬局の合理化を通じた適正化の徹底が不可欠と主張しています。2040年頃を見据えた医療提供体制の再構築も意識し、メリハリのある診療報酬により政策課題の解決に取り組むべきとしています。診療側は「国民皆保険という財産を守り抜き、次世代へつなぐ」ことを基本理念としています。急激な物価高騰の中、診療報酬改定が追いついておらず、医療機関の経営状況が著しくひっ迫していると訴えています。診療報酬は国民にとって安心・安全で質の高い医療を提供するための原資であり、賃金や物価の動向が適切かつ十分に反映されるべきと主張しています。入院医療|機能分化と評価体系の見直し入院医療については、機能分化・連携の推進という方向性で両者は一致しています。ただし、具体的な施策の優先順位や評価の考え方には違いがあります。支払側は、病院機能を重視した評価体系への見直しを提案しています。全身麻酔手術と救急搬送受入れの実績を主な指標として、これまで以上に病院機能を重視した評価体系に見直すことで、病院の再編・統合につなげるべきとしています。急性期一般入院料1については、救急搬送受入れと全身麻酔手術の基準を導入し、実績に応じて評価を細分化すべきと主張しています。診療側は、医療機関の運営継続を可能とする評価体系を求めています。重症度、医療・看護必要度については、改定のたびに評価項目を変更すること自体が医療現場にとって大きな負担となっており、今改定での大幅な見直しは避けるべきと主張しています。各医療機関が地域の医療提供体制も踏まえながら、時間をかけて対応できる仕組みを求めています。地域包括医療病棟については、両者とも高齢者救急への対応強化を認めています。支払側は令和6年度改定で新設したコンセプトを損なう見直しは行うべきでないとしつつ、内科系疾患の評価見直しは合理的と述べています。診療側は施設基準が全般的に厳しく、要件緩和を求めています。外来医療|かかりつけ医機能と管理料の評価外来医療では、かかりつけ医機能の強化について両者の方向性は一致しています。ただし、既存の管理料の評価については見解が分かれています。支払側は、かかりつけ医機能報告制度と整合的な評価体系への移行を提案しています。機能強化加算について、現行の地域包括診療料等と紐づいた仕組みから離れ、かかりつけ医機能報告制度と整合的な仕組みへと発展的に組み替えるべきとしています。生活習慣病管理料については、診療実績に基づく適正化や、継続受診率が低い場合の減算導入を求めています。外来管理加算については、再診料に含まれる当然の行為であり、加算としての評価を廃止すべきと主張しています。診療側は、かかりつけ医機能の評価に係る点数の重要性を強調しています。外来管理加算や特定疾患療養管理料等は、質の高い生活習慣病の治療・管理に貢献してきた経緯があり、これまでの運用を軽視するような見直しはすべきでないと主張しています。かかりつけ医は患者が自由に選択できるものであり、フリーアクセスを阻害するような評価とならないよう注意が必要としています。歯科医療|口腔機能管理とデジタル化歯科医療については、口腔機能管理の充実と歯科治療のデジタル化推進で両者は共通しています。支払側は、ライフステージに応じた口腔機能管理の評価を支持しています。高齢者の口腔機能低下症や小児の口腔機能発達不全症について、学会の診断基準に基づく対象範囲の拡大は合理的としています。歯科疾患管理料については、初診減算の廃止と合わせて再診時の評価を適正化すべきと主張しています。光学印象やCAD/CAM冠の活用拡大など、歯科治療のデジタル化推進も求めています。診療側は、初診料・再診料の大幅引上げを最優先課題としています。昨今の急激な物価上昇により歯科医療機関の経営状況は悪化しており、ホスピタルフィーである初診料・再診料での評価拡充が不可欠と訴えています。歯科衛生士等の給与水準は一般病院の医療技術員よりも低く、処遇改善が急務としています。歯科用貴金属材料を用いないデジタル技術の適用拡大は喫緊の課題と認識しています。調剤|薬局機能と医薬品供給体制調剤については、かかりつけ薬剤師機能の強化という方向性で一致していますが、薬局の立地や経営効率に関する評価では見解が分かれています。支払側は、門前薬局・敷地内薬局の適正化を強く求めています。敷地内薬局の定義を厳格化し、医療モールを含めて特別な関係にある場合には全て特別調剤基本料Aを適用することを原則とすべきとしています。後発医薬品調剤体制加算は廃止して減算の仕組みに移行し、後発医薬品の数量割合の維持は地域支援体制加算の基準として位置付けることも提案しています。かかりつけ薬剤師指導料・包括管理料は廃止し、実施した業務の内容を評価すべきとしています。診療側は、薬局の経営基盤強化を優先課題としています。物価高騰・賃上げ等の影響により薬局の経営は年々厳しさを増しており、医薬品の仕入価高騰や「逆ザヤ」品目の急増により経営状況は極めて逼迫していると訴えています。調剤基本料とその加算による医薬品供給拠点としての機能評価の充実を求めています。かかりつけ機能を活用した薬学管理指導の評価充実も重要としています。在宅医療|訪問看護と多職種連携在宅医療については、ニーズ増加への対応と適切な評価の両立が課題となっています。支払側は、短時間・頻回な訪問看護の適正化を重点課題としています。高齢者住宅等に隣接する訪問看護ステーションにおいて、短時間の訪問看護が頻回に続けて提供され医療費が高額化している実態があるため、一連の訪問看護を包括評価する仕組みを導入すべきとしています。精神科訪問看護についても、機能強化型3の訪問看護ステーションによる対応を推進すべきと主張しています。診療側は、在宅医療の評価充実を求めています。機能強化型在宅療養支援診療所における病床の有無による点数格差の是正や、下り搬送を受け入れた側の医療機関への評価を提案しています。多様で複雑な疾患をもつ患者が増加しており、在宅医療のさらなる推進のためには月に複数回の訪問診療料の算定を可能とすべきとしています。賃上げ・物価対応|確実な処遇改善に向けて賃上げと物価上昇への対応については、両者とも確実な対応を求める点で一致しています。支払側は、検証可能な仕組みの創設を求めています。看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料は幅広い職種を対象とし、統合した分かりやすい報酬体系とすることを提案しています。月額給与の引上げに伴い賞与を減額する等の不適切な運用が生じないよう、正当な処遇改善を担保する要件設定も必要としています。物価上昇への対応については、医療機関の機能等により影響が異なることを踏まえ、費用構造の違いを反映した手当てとすべきとしています。診療側は、基本診療料を中心とした上乗せを求めています。ベースアップ評価料は対象職種が限定されている等の課題があり、基本診療料への上乗せで対応すべきとしています。春闘賃上げ2年連続5%超えに比べて診療報酬改定によるベースアップ評価料は低い水準に留まっており、医療機関に従事するすべての職員を対象とした適切な評価の見直しを求めています。まとめ|令和8年度改定の焦点令和8年度診療報酬改定において、支払側と診療側は「物価・賃上げへの対応」「医療DXの推進」「かかりつけ機能の強化」で方向性が一致しています。一方、具体的な財源配分については、支払側が「適正化・効率化によるメリハリある評価」を重視するのに対し、診療側は「基本診療料の引上げによる経営基盤の安定」を優先しており、調整が必要な状況です。今後の中医協における議論では、医療機関の経営実態と医療費の適正化をどうバランスさせるかが焦点となります。特に入院医療の機能分化、外来管理料の見直し、調剤報酬の体系整理については、両者の主張に隔たりがあり、具体的な点数設定に向けた詰めの議論が注目されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定|診療側委員が示す7つの基本方針と具体的要望を解説

令和8年度診療報酬改定|診療側委員が示す7つの基本方針と具体的要望を解説

Jan 9, 2026 04:29 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度診療報酬改定に対する二号(診療側)委員の意見が提出されました。この意見書は、医科・歯科・調剤の3分野にわたり、物価高騰・賃上げへの対応を最重点課題として位置づけています。診療側委員は、医療機関の経営がひっ迫する現状を踏まえ、診療報酬の適切な引上げと制度の簡素化を強く求めています。本稿では、令和7年12月26日に提出された二号委員意見の内容を解説します。意見書は、医科において7つの基本方針と12の具体的検討事項を示しています。歯科は4つの基本方針と23の具体的検討事項、調剤は保険薬局と病院・診療所に分けて方針を提示しています。これらの意見は、今後の中医協における議論の土台となります。医科分野|国民皆保険を守り抜くための7つの基本方針診療側委員は、医科分野において7つの基本方針を掲げています。これらの方針は、急激な物価高騰と人件費上昇のなかで医療機関の経営を安定させ、国民に安心・安全で質の高い医療を提供するための原資として診療報酬を位置づけています。第1の方針は「診療報酬体系の見直し」です。医療機関の創意工夫による運営を可能とする告示・通知等の見直し、施設基準等の簡素化や要件緩和、人件費・医療材料費・食材料費・光熱水費・委託費等の高騰を踏まえた適切な対応を求めています。第2の方針は「あるべき医療提供体制コスト等の適切な反映」です。「もの」と「技術」の分離の促進、医学・医療の進歩への速やかな対応、無形の技術を含めた基本的な技術評価の重視を掲げています。医療DXやICT連携、業務効率化のためのAI・IoT等に必要な経費への確実な手当も求めています。第3の方針は「大病院、中小病院、診療所の機能評価と地域医療の安定化」です。急性期から慢性期に至るまで良好に運営できる診療報酬体系の整備、救急医療等の不採算医療を引き受けてきた医療機関への評価、地域の診療所や中小病院のかかりつけ医機能への手厚い評価を要望しています。第4の方針は「医師・医療従事者の働き方改革対応」です。医師等の働き方改革の推進、医療従事者の負担軽減策や勤務環境の改善への評価、タスク・シェア・タスク・シフトの推進を掲げています。第5の方針は「小児・周産期医療の充実」、第6の方針は「不合理な診療報酬項目の見直し」、第7の方針は「その他必要事項の手当」です。医科分野|初・再診料から入院医療までの具体的検討事項診療側委員は、12の領域にわたる具体的検討事項を示しています。これらの検討事項は、医療現場の実態を踏まえた切実な要望です。初・再診料については、医師の技術料の最も基本となる部分として適切な評価の引上げを求めています。具体的には、同一医療機関における同一日複数科受診の評価見直し、医療DX推進のための評価、かかりつけ医機能のさらなる評価、外来感染対策向上加算の見直しなどを挙げています。かかりつけ医機能については、フリーアクセスを阻害しないよう注意が必要であり、過度な機能分化やかかりつけ医の制度化は導入しないことを求めています。入院基本料については、急激な物価高騰・光熱費等の高騰に対応するとともに、多職種協働によるチーム医療の推進を踏まえた医療従事者の人件費の適切な評価を求めています。重症度、医療・看護必要度については、改定のたびに評価項目を変更すること自体が医療現場の大きな負担となっており、今改定での大幅な見直しは避けるべきとしています。入院中の患者の他医療機関受診時の減算については、懲罰的な規則であり、国民の受療する権利を阻害していると指摘しています。入院基本料等加算・特定入院料については、医師事務作業補助体制加算の算定病棟拡大と外来診療所での算定、特定集中治療室管理料等の臨床現場の実態に合致した評価への見直し、地域包括医療病棟入院料の施設基準の要件緩和、精神科地域包括ケア病棟入院料の経過措置期間の再設定などを求めています。医科分野|在宅医療から処置・手術までの具体的検討事項在宅医療については、機能強化型在宅療養支援診療所における病床の有無による点数格差の是正を求めています。有床・無床にかかわらず医療行為は同等であり、無床診療所では連携後方支援病院への入院依頼などの対応が発生していることから、同等の点数とすることを要望しています。また、下り搬送を受け入れた側の医療機関への評価、在宅患者訪問診療料の要件緩和、小児在宅医療の充実、終末期に向けての意思決定支援管理料の新設なども求めています。検査・画像診断については、DPC病院を退院した月と同月の外来における検査料の算定要件緩和、原材料費の高騰に伴う検査料の見直し、休日夜間の緊急遠隔読影における医師の要件見直しを求めています。投薬・注射については、7種類以上の内服薬処方時等の減算の撤廃を要望しています。多数の疾患を抱える患者、特に高齢者をかかりつけ医が担当するためには多剤投与が必要となるケースは避けられず、かかりつけ医機能を発揮する観点からも減算の廃止を求めています。処置・手術・麻酔については、手術料の適正な評価として、9割以上の術式において外保連手術試案上の人件費のみで実際の診療報酬額を上回っていることから、一層の増点を求めています。同一手術野で実施する複数手術の評価については、主たる手術の所定点数のみならず、同時併施手術すべての所定点数を加えることを要望しています。また、第11部麻酔の通則における休日・時間外・深夜加算の新設も求めています。ベースアップ評価料については、対象職種が限定されている等の課題があることから、基本診療料を中心として上乗せすることを求めています。春闘賃上げ2年連続5%超えに比べて、診療報酬改定によるベースアップ評価料は低い水準に留まっており、医療機関に従事するすべての職員を対象とした適切な評価の見直しを要望しています。歯科分野|口腔の健康と健康寿命の延伸に向けた要望歯科分野では、口腔の健康が全身の健康及び健康寿命の延伸に寄与するエビデンスが示されるなか、歯科医療の果たす役割は非常に大きいとの認識を示しています。ライフコースに応じたう蝕や歯周病を含めた口腔疾患の重症化予防及び口腔機能の獲得・維持・向上に資する歯科医療を「かかりつけ歯科医」が中心となって提供することが重要としています。重点課題として、物価や賃金、人手不足等の医療機関を取り巻く環境の変化への対応を掲げています。医療経済実態調査の結果から、個人立歯科診療所においては収入の増加を費用の増加が上回り、設備投資やスタッフの処遇改善もままならない厳しい経営状況が続いていることが明らかになりました。歯科衛生士等の給与水準は一般病院の医療技術員よりも低い水準にとどまっており、個人立歯科診療所における歯科衛生士の賃上げ状況は、2025年春季労使交渉の平均賃上げ率5.26%に到底及んでいません。求人倍率も高止まりしている状況です。具体的検討事項として、ホスピタルフィーである初診料・再診料での評価拡充、歯科衛生士等の処遇改善、歯科診療所と病院歯科の機能分化・連携の強化、周術期等口腔機能管理の更なる推進、医療DXに係る診療報酬上の評価の導入などを求めています。また、歯科用貴金属の代替材料の開発・保険収載についても、金パラ価格が最高値を更新し続けていることから、市場価格の影響を受けやすい歯科用貴金属に代わる材料の開発・保険収載・適用拡大を推進することを要望しています。調剤分野|薬局経営の安定と医薬品供給体制の確保調剤分野は、保険薬局における調剤報酬関係と病院・診療所における薬剤師業務関係の2つに分けて意見を示しています。保険薬局については、物価高騰・賃上げ等の影響により薬局の経営が年々厳しさを増しており、医薬品の仕入価の高騰、「逆ザヤ」品目の急増及び毎年の薬価改定により、経営状況は極めて逼迫しているとの現状認識を示しています。保険薬局における基本方針として、薬局における物価高・賃上げ対応、医薬品供給拠点としての経営基盤・機能の強化、かかりつけ薬剤師・薬局機能の推進、医療機関や介護施設と薬局の連携強化、対物業務を基盤とした対人中心業務の推進、多職種連携による在宅薬剤管理指導の推進、医薬品の適正使用や医療安全確保のための病診薬連携の推進、医薬品供給不足問題への対応と後発医薬品・バイオ後続品の更なる普及促進、医療DXの推進や薬局業務の見直しによる働き方の効率化など10項目を掲げています。病院・診療所における薬剤師業務関係については、6つの基本方針と7つの具体的検討事項を示しています。高齢化に伴う医療・介護ニーズの変化や物価の高騰・人件費の増加等、医療機関を取り巻く環境の厳しさが増していること、令和6年4月から実施された第8次医療計画には薬剤師の確保が明記されているものの、医療機関に従事する薬剤師の不足及び偏在問題は深刻であることを指摘しています。具体的検討事項として、病院・診療所薬剤師の処遇改善、転院・転所時のポリファーマシー対策を含めた薬剤関連情報の連携に関する評価、回復期リハビリテーション病棟等での病棟薬剤業務の評価、救急外来における薬剤業務の評価、外来腫瘍化学療法診療料の算定対象拡大、訪問診療への薬剤師の同行訪問に関する評価などを求めています。まとめ|診療報酬改定に向けた今後の議論の方向性令和8年度診療報酬改定に対する二号(診療側)委員の意見は、物価高騰と人件費上昇のなかで医療機関の経営を安定させることを最重要課題として位置づけています。意見書では、診療報酬は国民に安心・安全で質の高い医療を提供するための原資であり、2年間の賃金や物価の動向が適切かつ十分に反映されるものでなければならないとの認識が示されました。医科・歯科・調剤の3分野に共通するのは、初・再診料等の基本診療料の引上げ、医療従事者の処遇改善、医療DXの推進に対する評価の充実、施設基準等の簡素化です。これらの要望は、これまで中医協で検討してきた項目を踏まえつつ、医療機関が置かれている窮状を認識した上での優先順位を前提としています。今後の中医協における議論では、支払側(一号委員)の意見との調整が行われ、具体的な点数設定が検討されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定|支払側が求める「6つの重点事項」と適正化の方向性

令和8年度診療報酬改定|支払側が求める「6つの重点事項」と適正化の方向性

Jan 8, 2026 04:58 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)は、令和7年12月26日の総会(第639回)において、令和8年度診療報酬改定に向けた各号意見を取りまとめました。本稿では、健康保険組合や事業主の立場を代表する支払側(1号側)委員が提出した意見書の内容を解説します。支払側は、賃上げと物価高への確実な対応を求める一方、医療費適正化の徹底と病院機能の再編を強く主張しています。支払側の意見は6つの重点事項で構成されています。医科については、入院医療における病院機能の分化・連携・集約化と、外来医療におけるかかりつけ医機能報告制度と整合した評価体系への移行を求めています。歯科については、口腔機能管理の対象範囲拡大とメリハリのある評価を主張しています。調剤については、敷地内薬局の定義厳格化と門前薬局の適正化を要求しています。在宅医療については、短時間・頻回な訪問看護の是正を求めています。賃上げと物価への対応については、検証可能な仕組みの創設を主張しています。なお、意見書には個別事項として医療DXや救急医療等の11項目も含まれています。基本的考え方:適正化と持続可能性の両立支払側は、診療報酬改定の基本姿勢として、賃上げと適正化の両立を求めています。診療報酬本体の引上げ財源は、その大部分を賃上げと物価高への対応に充当することが大臣折衝で合意されました。支払側は、この合意を踏まえ、医療サービスの対価としての正当性を担保するため、確実な賃上げときめ細かい物価高への対応を行い、その結果を検証できる仕組みにすべきであると主張しています。一方で、国民皆保険制度と医療提供体制の持続可能性を両立することも重要であると指摘しています。そのために必要な適正化策として、外来受診の抑制、残薬対策、短時間・頻回な訪問看護の是正、門前薬局や敷地内薬局の合理化を挙げています。これらの適正化を通じて、メリハリのある診療報酬により政策課題の解決に取り組むべきであるとしています。医科・入院医療:病院機能の再編と集約化を促進入院医療については、病院機能の分化・連携・集約化を強力に推進するよう求めています。高度急性期については、選択と集中が必要であると主張しています。専門性の高い人材や高額な医療機器は基幹病院に集約化し、重篤な救急搬送の受入れや難易度の高い全身麻酔手術等を集中的に実施する拠点的な急性期機能を確立すべきであるとしています。この拠点的機能を担う病院は、物価・賃金上昇による影響を最も大きく受けるため、財源を重点配分すべきであると述べています。急性期一般病棟については、評価体系の見直しを求めています。急性期一般入院料1について、救急搬送受入れと全身麻酔手術の基準を導入し、実績が一定以上の場合のみ看護配置7対1の拠点的な急性期一般病棟として認める等、評価を細分化すべきであるとしています。看護配置7対1と10対1の差分を多職種配置で補充する場合には、看護職による病棟マネジメントと業務負担のモニタリングの仕組みを実装すべきであるとしています。DPC/PDPSについては、全ての急性期病棟への参加義務付けを求めています。急性期医療の標準化を徹底する観点から、現在は任意参加となっているDPC制度への参加を義務化すべきであるとしています。標準病院群については、救急搬送の受入れ件数が少ない病院で包括範囲出来高点数が特に低い傾向を踏まえ、細分化して基礎係数を設定すべきであるとしています。地域包括医療病棟については、令和6年度改定で新設したコンセプトを維持すべきであると主張しています。平均在院日数の基準やADL低下患者5%未満の要件は一律に緩和せず、限定的な対応にとどめるべきであるとしています。ただし、内科系症例において医療資源投入量が十分に評価されていない実態を踏まえ、内科系疾患の高齢者救急の受入れを阻害しないよう、きめ細かな評価体系に見直すことは合理的であるとしています。医科・外来医療:かかりつけ医機能と適正化の推進外来医療については、かかりつけ医機能の評価体系の見直しと各種管理料の適正化を求めています。かかりつけ医機能については、機能強化加算の抜本的な見直しを主張しています。現行の地域包括診療料や在宅療養支援診療所等と紐づいた仕組みから離れ、かかりつけ医機能報告制度と整合的な仕組みへと、名称を含めて発展的に組み替えるべきであるとしています。一次診療が可能な診療領域や疾患の範囲、研修受講、学生実習・研修医の受入れ、BCP等を指標とし、機能の充実度に応じた評価体系とすべきであるとしています。生活習慣病管理料については、適正化と減算の導入を求めています。長期処方・リフィル処方をより積極的に活用して、状態が安定した患者の受診間隔を延長し、通院負担を軽減すべきであるとしています。療養計画書を定期的に交付していない場合やガイドラインに沿った検査を実施していない場合、継続受診率が低い場合には減算を導入すべきであるとしています。外来管理加算については、廃止または包括化を求めています。地域包括診療加算や特定疾患療養管理料等との計画的な管理の重複評価は依然として解消されておらず、是正すべきであるとしています。算定要件である「丁寧な問診や詳細な診察、懇切丁寧な説明」等は再診料に含まれる当然の行為であり、加算としての評価を廃止すべきであるとしています。歯科:口腔機能管理の拡大とメリハリある評価歯科については、ライフステージや患者の特性に応じたメリハリのある評価を求めています。口腔機能管理については、対象範囲の拡大を認めています。高齢者の口腔機能低下症や小児の口腔機能発達不全症について、機能的な特性だけでなく、通常と異なる特別な管理を行うのであれば、学会の診断基準に基づき口腔機能管理料や小児口腔機能管理料の対象範囲を拡大することは合理性があるとしています。歯科疾患管理料については、初診減算の廃止と再診時評価の適正化を求めています。歯科医師の手間が初診と再診で変わらないのであれば、初診減算の廃止と合わせて再診時の評価を適正化すべきであるとしています。継続的な歯科疾患の管理という趣旨が徹底されるよう、算定対象となる患者像を明確化し、初診時に管理計画を患者に説明して理解を得ることも必要であるとしています。歯周病治療については、財政中立での統合を求めています。患者に違いが分かりにくい歯周病安定期治療と歯周病重症化予防治療は財政中立で統合するとともに、実質的に3か月毎のメンテナンスとして運用されている状況を改め、病態に応じた治療を運用面で担保すべきであるとしています。多職種連携については、医科との連携強化を求めています。周術期等口腔機能管理計画を変更する際も評価することや、医科のリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算や生活習慣病管理料における歯科受診勧奨の受け皿となった場合の評価が考えられるとしています。障害者歯科については、専門施設による重点的な対応を新たに評価する場合には、口腔保健センター等の専門施設が障害児や障害者に対して歯科医学的管理を実施した場合に限る等、適切な運用を担保すべきであるとしています。へき地等の特に人口が少ない地域の患者に必要な歯科医療を提供する観点から、巡回診療車の活用も考えられるとしています。歯科治療のデジタル化については、推進を求めています。業務の効率化や貴金属価格の影響を受けないようにする観点から、光学印象やCAD/CAM冠の活用を拡大する等、歯科治療のデジタル化を推進すべきであるとしています。調剤:門前・敷地内薬局の適正化と薬局機能の強化調剤については、門前薬局や敷地内薬局の適正化と、かかりつけ薬剤師機能の見直しを求めています。敷地内薬局については、定義の厳格化を求めています。医療モールを含めて特別な関係にある場合には、全て特別調剤基本料Aを適用することを原則とすべきであるとしています。医療モールにある薬局は、処方箋枚数が上位3番目までに限らず、モール内にある全ての医療機関を集中率の分子に含めるべきであるとしています。調剤基本料については、門前薬局の損益率が高いことを踏まえた適正化を求めています。将来的に薬局の立地が変わっていく中で調剤基本料を一本化することが望ましいが、当面は経営効率に応じた評価の徹底が必要であり、調剤基本料2を適正化すべきであるとしています。調剤処方箋600回超かつ集中率85%の小規模薬局については、特に損益率が高い大都市の場合は調剤基本料1から除外し、薬局の集約化・大規模化につなげるべきであるとしています。後発医薬品調剤体制加算については、減算の仕組みへの移行を主張しています。後発医薬品の使用は相当程度まで上昇したことを踏まえ、加算の仕組みを継続する妥当性は低いとしています。地域の医薬品供給拠点機能を評価する他の加算があることを踏まえ、減算を中心とする仕組みに切り替えるべきであるとしています。かかりつけ薬剤師指導料については、廃止を求めています。かかりつけ薬剤師として実施した業務の内容を評価する仕組みに見直すべきであるとしています。在宅医療:効率性を踏まえた適正化在宅医療については、訪問診療・往診、訪問看護、歯科訪問診療、訪問薬剤管理指導の各分野で適正化を求めています。在宅療養支援診療所については、よりきめ細かい評価体系への見直しを求めています。機能強化型については、在宅緩和ケア充実加算の要件を上回る実績がある医療機関が多いことを踏まえ、在宅緩和ケア充実加算を統合する形で、実績・体制・役割の違いに着目して評価を細分化し、更に積極的な機能の発揮を促すべきであるとしています。連携型の機能強化型については、24時間体制に協力する度合いに応じて評価にメリハリを付けるべきであるとしています。訪問看護については、短時間・頻回な訪問看護の是正を強く求めています。高齢者住宅等に隣接する訪問看護ステーションにおいて、医療機関に入院中の患者への看護に似た形で短時間の訪問看護が頻回に続けて提供されることにより、加算が積み上がって医療費が高額化している実態があると指摘しています。効率性を踏まえて適正化する観点から、一連の訪問看護を包括評価する仕組みを導入すべきであるとしています。頻回な訪問看護が必要な場合には主治医の指示書に明記することを求めるべきであるとしています。歯科訪問診療については、診療時間に応じた適正化を求めています。歯科訪問診療料について、同一建物に居住する多人数を訪問して1人当たり診療時間が20分未満の場合、適切な処置等が実施されていないと考えられるため、適正化すべきであるとしています。訪問歯科衛生指導料についても、同一建物の患者数が多いほど指導時間が短い傾向を踏まえ、時間区分によるメリハリのある評価体系に見直すべきであるとしています。訪問薬剤管理指導については、時間外対応の要件化を求めています。訪問薬剤管理指導を実施している薬局に夜間や休日に連絡がつかず、他の薬局が代わりに対応する事例がみられることを踏まえ、訪問薬剤管理指導料の要件に時間外対応を位置づけるべきであるとしています。在宅薬学総合体制加算2については、無菌製剤処理の実績が極めて乏しく、高い加算を算定するために無菌調剤設備を設置している可能性があることから、施設基準から無菌調剤設備を除外すべきであるとしています。賃上げと物価への対応:検証可能な仕組みの創設賃上げへの対応については、検証が可能な手当ての仕組みを創設すべきであると主張しています。看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料については、幅広い職種を対象とし、統合した分かりやすい報酬体系とすることを求めています。夜勤における人材確保に向けて夜勤手当の増額等の対応も考えられるとしています。月額給与の引上げに伴い賞与を減額する等の不適切な運用が生じないよう、正当な処遇改善を担保する要件を設定することも必要であるとしています。物価上昇への対応については、費用構造の違いを反映した手当てを求めています。医療機関の機能等により物価高の影響が異なることを踏まえ、費用構造の違いを反映した手当てとすべきであるとしています。物価水準は常に変動するものであり、長期推移も念頭に置き、物価上昇率の見込み値と実績値に差異が生じることを想定した検討も必要であるとしています。まとめ:メリハリある改定で持続可能性を確保支払側の意見は、賃上げと物価への確実な対応を求めつつ、医療費適正化の徹底を強く主張する内容となっています。医科の入院医療については、病院機能の分化・連携・集約化を促進し、急性期病棟の評価を実績に応じて細分化することで、拠点的な機能を担う病院への財源重点配分を求めています。医科の外来医療については、かかりつけ医機能報告制度との整合性を重視し、各種管理料の適正化と減算の導入を主張しています。歯科については、口腔機能管理の対象範囲拡大を認めつつ、歯科疾患管理料や歯周病治療の適正化を求めています。調剤については、門前・敷地内薬局の適正化と後発医薬品調剤体制加算の減算への移行を求めています。在宅医療については、短時間・頻回な訪問看護の是正に加え、歯科訪問診療や訪問薬剤管理指導の適正化も求めています。これらの意見は、2040年を見据えた医療提供体制の再構築と、国民皆保険制度の持続可能性確保を目指すものといえます。 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令和8年度薬価制度改革の骨子を解説|革新的新薬薬価維持制度など5つの重要変更点

令和8年度薬価制度改革の骨子を解説|革新的新薬薬価維持制度など5つの重要変更点

Jan 7, 2026 04:53 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度薬価制度改革の骨子(案)が示されました。この骨子案は、「経済財政運営と改革の基本方針2025」で掲げられた「国民負担の軽減と創薬イノベーションの両立」を実現するための具体策を定めています。本稿では、医療機関や製薬企業に影響を与える主要な変更点を解説します。令和8年度薬価制度改革の骨子案では、5つの重要な変更が示されています。第一に、新薬創出・適応外薬解消等促進加算が「革新的新薬薬価維持制度(PMP)」へ名称変更されます。第二に、長期収載品の薬価は後発品上市後5年でG1が適用され、段階的に引き下げられます。第三に、AG(オーソライズド・ジェネリック)およびバイオAGの薬価は先発品・バイオ先行品と同額に設定されます。第四に、年間販売額が3,000億円を超え急拡大した高額医薬品には、引き下げ幅上限が66.7%に引き上げられます。第五に、後発品の安定供給確保のため、価格帯集約ルールが見直されます。革新的新薬薬価維持制度(PMP)への名称変更と制度見直し新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度は、「革新的新薬薬価維持制度」へ名称変更されます。この変更は、特許期間中の革新的な新薬の薬価維持という制度趣旨を明確化するためです。英語名は「Patent-period price Maintenance Program for Innovative Drugs(PMP)」となります。品目要件については、透明性向上の観点から見直しが行われます。具体的には、「新規作用機序医薬品又は新規作用機序医薬品に相当すると認められる効能若しくは効果が追加されたものであって、別表10の基準に該当する医薬品」などの要件が削除されます。この変更は、今後新たに薬価収載される品目に適用されます。一方、乖離率が平均乖離率を超える品目を対象外とする要件は維持されます。累積額の控除と薬価の下支えに係るルールの適用順序も見直されます。従来どおり改定前薬価と市場実勢価格に基づく改定額との差額の累積額は控除されます。ただし、累積額控除により最低薬価未満となる事態を防ぐため、累積額控除を適用した後に薬価の下支えルールを適用する順序に変更されます。長期収載品の薬価の更なる適正化長期収載品の薬価については、後発品置換え期間が5年に設定されます。この変更は、長期収載品に依存するビジネスモデルからの脱却を促進する目的で実施されます。5年経過後は後発品置換率によらずG1が適用され、後発品の加重平均薬価を基準として段階的に引き下げられます。従来のZ2およびG2は廃止されます。また、Cも廃止され、G1の補完的引下げは後発品置換率によらず一律2.0%となります。G1による引下げ後の額と2.0%の補完的引下げ後の額のうち、いずれか低い額が適用されます。後発品の加重平均薬価まで価格を引き下げた長期収載品については、G1の適用対象外となります。バイオ先行品についても、バイオシミラーが収載されている場合はG1が適用されます。引下げの下限および円滑実施措置は原則廃止されますが、令和8年度は大きな制度変更であることから、経過措置として適用されます。AG・バイオAGの新たな薬価ルールバイオAGの新規収載時の薬価は、バイオ先行品と同額に設定されます。この変更は、バイオシミラーとの適切な競争環境を形成・維持する観点から導入されます。バイオAGとは、先行品と有効成分、原薬、添加物、製法等が同一のバイオ医薬品であって、後発品として薬事承認を受けたものを指します。AG(オーソライズド・ジェネリック)についても同様の措置が講じられます。先発品と有効成分、原薬、添加物、製法等が同一の後発品(AG)の薬価は、先発品と同額となります。この変更も、後発品の適切な競争環境の形成・維持を目的としています。AGであるか否かの客観的判断が困難なため、薬価基準収載希望書にAGである旨の記載を製造販売業者に求める運用が導入されます。薬価改定時には、AG・バイオAGと先発品・バイオ先行品の価格帯集約が行われます。先発品の薬価と同額で算定されたAG又はバイオAGについては、当該AGおよび先発品、当該バイオAGおよびバイオ先行品の薬価をそれぞれ加重平均し、価格帯を集約することになります。高額な医薬品に対する対応強化年間1,500億円の市場規模を超える高額な医薬品への対応が強化されます。市場拡大再算定の特例は「持続可能性特例価格調整」(英語名:Special Price Adjustment for Sustainable Health System and Sales Scale(SPA-SSS))に名称変更されます。この名称変更は、イノベーション評価と国民皆保険維持の両立という趣旨を明確化するためです。持続可能性特例価格調整の引き下げ幅上限が引き上げられます。年間販売額が予測販売額から10倍以上かつ3,000億円超に急拡大した場合に限り、従来の上限50%から66.7%(2/3)に引き上げられます。この措置により、予想を大幅に超えて市場が拡大した高額医薬品に対して、より強い価格調整が可能となります。市場拡大再算定の類似品への適用は廃止されます。企業の予見可能性を確保し、国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する観点から、この変更が行われます。一方、市場拡大再算定対象品目の薬理作用類似薬については、効能追加等の有無に関わらず、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)により使用量を把握し、薬価改定以外の機会も含めて再算定が実施されます。後発品の安定供給確保のための対応後発品の価格帯集約ルールが見直されます。注射薬およびバイオシミラーについては、同一規格・剤形内の品目数が少ない状況を踏まえ、最高価格の30%を下回る薬価のものを除き、価格帯集約の対象外となります。G1品目に係る後発品の1価格帯集約は廃止されます。薬価の下支え制度も充実されます。最低薬価については、外用塗布剤に規格単位に応じた最低薬価が設定されます。点眼・点鼻・点耳液には点眼剤の最低薬価が適用されます。最低薬価の水準自体も引き上げられますが、前回調査における最低薬価品目の平均乖離率を超えた乖離率であった品目は引き上げ対象外となります。不採算品再算定の要件も緩和されます。従来の「全ての類似薬について該当する場合に限る」という要件が削除され、該当する類似薬のシェアが5割以上であれば対象となります。対象品目は、基礎的医薬品と同一の品目、重要供給確保医薬品、極めて長い使用経験があり供給不足の影響が大きい品目などに限定されます。まとめ令和8年度薬価制度改革の骨子案は、国民負担の軽減と創薬イノベーションの両立を目指した包括的な制度改正です。革新的新薬薬価維持制度(PMP)への名称変更により特許期間中の薬価維持の趣旨が明確化されます。長期収載品は後発品上市後5年でG1適用となり、段階的に引き下げられます。AG・バイオAGは先発品・バイオ先行品と同額で収載され、適切な競争環境が形成されます。高額医薬品への対応は強化され、急拡大した場合の引き下げ幅上限は66.7%となります。後発品の安定供給確保のため、価格帯集約の見直しと下支え制度の充実が図られます。医療機関および製薬企業は、これらの変更点を踏まえた対応が求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度改定】保険医療材料制度改革の骨子案|7つの改革ポイントを徹底解説

【令和8年度改定】保険医療材料制度改革の骨子案|7つの改革ポイントを徹底解説

Jan 6, 2026 05:26 岡大徳

令和7年12月26日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度保険医療材料制度改革の骨子案が示されました。物価上昇による原材料費高騰が続く中、実勢価格が償還価格を上回る「逆ザヤ」の機能区分が全体の35%に達しています。このような状況を踏まえ、今回の改革ではイノベーション評価の厳格化、プログラム医療機器の評価基準整備、医療機器の安定供給確保など7つの柱で制度見直しが行われます。今回の骨子案は、医療機器産業と医療現場の双方に大きな影響を与える内容です。チャレンジ申請におけるRCT(ランダム化比較試験)の原則化、体外診断用医薬品の評価基準の厳格化、逆ザヤ機能区分への市場シェアに応じた対応など、実務に直結する改定が多く含まれています。この記事では、医療機関の経営者や医療機器メーカーの担当者が押さえるべきポイントを解説します。改革の背景:逆ザヤ機能区分が35%に増加保険医療材料制度を取り巻く環境は大きく変化しています。物価上昇による原材料費の高騰を背景に、実勢価格が償還価格を上回る「逆ザヤ」状態の機能区分が急増しているためです。逆ザヤとは、医療機関と卸業者との間の価格交渉で形成される実勢価格が、保険償還価格を上回る状態を指します。特定保険医療材料価格調査によると、逆ザヤの機能区分数は平成30年度の260(全体の22%)から令和7年度には460(同35%)へと増加しました。この5年間で割合は1.6倍に拡大しています。今回の制度改革は、この逆ザヤ問題への対応を含め、イノベーションの適切な評価、医療機器等の安定供給、内外価格差の是正、保険適用手続の効率化という4つの観点から検討が行われました。その結果、7つの柱からなる具体的な改革内容が示されています。1. イノベーション評価:チャレンジ申請と補正加算の厳格化イノベーション評価では、チャレンジ申請の要件厳格化と補正加算の定量的評価の明確化が行われます。データの質と客観性を高めることで、真に革新的な医療機器を適切に評価する狙いがあります。チャレンジ申請(使用成績を踏まえた再評価に係る申請)については、3つの点で要件が厳格化されます。第一に、製造販売業者が提出する研究計画には原則として比較試験を求めます。具体的にはRCT(ランダム化比較試験)が望ましいとされていますが、RCTが困難な場合は、バイアスのリスクを軽減する方法を十分に検討した研究計画の提示が必要です。第二に、データの客観性担保のため、査読付き論文として公表されたデータの提出を審議の前提とします。製造販売業者による独自の解析は評価対象外となります。第三に、RCTで実現可能性の高い研究計画については、事務局確認と保材専委員長の承認により、保材専への報告のみでチャレンジ権を付与できます。補正加算(画期性加算、有用性加算、改良加算)については、定量的評価の試行案が明確化されます。評価項目ごとにポイント制が導入され、臨床上有用な新規の機序、類似材料に比した高い有効性・安全性、対象疾病の治療方法の改善などが点数化されます。平成28年から令和7年9月まで該当品目がなかった改良加算の「ロ」「ト」「チ」については、引き続き試行案として取り扱われます。2. 体外診断用医薬品の評価基準明確化体外診断用医薬品については、臨床上の有用性を重視した評価基準が明確化されます。療養担当規則の趣旨を踏まえ、区分E3(新項目、改良項目)の保険適用希望品目に対して、より厳格な審査が行われます。F区分(保険適用しない)となる条件は、以下の3つのいずれかに該当する場合です。第一に、臨床上の位置づけ(対象患者、実施時期)が不明確な場合です。対象患者が明らかでなく、スクリーニングとして実施することが想定される場合がこれに該当します。第二に、臨床上の位置づけに応じた性能を有していない場合です。確定診断に用いるとした体外診断用医薬品の特異度が低く、確定診断が困難と認められる場合などが該当します。第三に、当該検査の結果により治療が変化する等の臨床上の有用性が示されていない場合です。検査結果に関わらず同じ診断・治療を行う場合がこれに該当します。希少疾病等の検査に用いる体外診断用医薬品については、評価対象が拡大されます。想定される検査回数が少ない再生医療等製品の適応判定の補助に必要な検査にも適用が拡大されます。技術料の見直しにおいては、希少性が重複評価されることを避けるため、参照する準用技術料は保険収載時に準用した技術料であることが明確化されます。3. プログラム医療機器の評価基準整備プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)の評価については、令和6年度改定で示された基準を踏まえ、引き続き整備が進められます。臨床アウトカムの向上と医療従事者の負担軽減という2つの観点から評価が行われます。診療報酬上の評価は、患者の臨床アウトカムの向上が示された場合に限り、加算による評価を検討します。医療従事者の労働時間短縮や人員削減等を実現するプログラム医療機器については、施設基準の緩和等による評価を検討します。これにより、治療効果を高めるものと業務効率を改善するものとで、評価の方向性が明確に区別されます。特定保険医療材料として評価されるプログラム医療機器の算定方法も明確化されます。初・再診料、プログラム医療機器指導管理料(導入期加算を含む)、その他の医学管理料等、特定保険医療材料料を組み合わせて算定できることが示されます。選定療養の活用については、保険適用期間終了後に患者希望で使用する場合の特別料金の説明を、アプリケーション内で行うことも可能となります。4. 医療機器の安定供給確保:小児用医療機器と不採算品再算定医療機器の安定供給確保では、小児用医療機器への配慮と不採算品再算定の対象拡大が行われます。対象患者数が少ない分野での供給継続を支援する施策です。小児用医療機器については、その特殊性への配慮が明記されます。成長に伴い使用する医療機器のサイズが変化すること、対象患者数が少ないことなどを考慮し、新規機能区分の基準材料価格が外国平均価格の0.8倍以下となる場合は、原価計算方式による算定を製造販売業者が希望できるようになります。機能区分の細分化(「小児用」と「成人用」の区分分け)についても、業界要望を踏まえつつ検討が続けられます。不採算品再算定の対象選定基準も見直されます。「代替するものがないこと」という要件について、市場シェア状況に応じた3つのパターンが設定されます。パターン1(1社でシェアの大半を占める場合)は既に令和6年度改定で対象となっています。今回新たにパターン2(上位2社でシェアの大半を占める場合)も、両者が供給困難となった場合に安定供給に支障をきたすため、代替困難性の要件を満たすこととなります。パターン3(シェアが分散している場合)は、他社による供給補完の可能性があるため対象外です。5. 逆ザヤ機能区分への対応と内外価格差是正市場実勢価格が償還価格を上回る逆ザヤ機能区分への対応は、市場シェア状況に応じて異なる方針がとられます。競争的市場かどうかによって、価格引き上げの可否が判断されます。パターン1・2(1社または上位2社でシェアの大半を占める場合)では、供給側の価格決定力が強いことが想定されるため、市場実勢価格に基づく保険償還価格の引き上げは行われません。一方、パターン3(シェアが分散している場合)では、競争的市場と判断され、市場実勢価格の加重平均値や物価変動等を参考にしつつ保険償還価格が設定されます。内外価格差の是正については、外国価格再算定の算出方法が見直されます。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアの各国平均価格は、外国価格調査の結果に加え、国内での使用状況等を考慮した加重平均により算出されます。外国平均価格は従来どおり各国の平均価格を相加平均して算出します。6. 市場拡大再算定と保険適用手続の効率化市場拡大再算定については、特定保険医療材料と技術料包括の医療機器・体外診断用医薬品の双方で、基準年間販売額の決定方法や技術料の見直し計算方法が整備されます。特定保険医療材料の市場拡大再算定では、機能区分の見直し時における基準年間販売額の取扱いが明確化されます。名称のみ変更の場合は変更前の設定時期や予想年間販売額を確認します。機能区分が新設された場合は、見直し前機能区分の設定から10年経過前後で異なる対応がとられます。チャレンジ申請により再評価を受け、原価計算方式以外で算定された特定保険医療材料も、市場拡大再算定の対象となり得ることが明確化されます。技術料包括の医療機器・体外診断用医薬品については、見直しの計算方法が特定保険医療材料の市場拡大再算定に準じて設定されます。計算式では、医療機器等に係る金額の割合(β)と市場規模拡大率(X)を用いて改定後の技術料が算出されます。7. 保険適用手続の合理化保険適用手続については、医療技術評価分科会での評価対象の明確化、適用時期の見直し、様式の簡素化など、複数の改善が行われます。患者アクセスの確保と手続の効率化を両立させる狙いです。医療技術評価分科会での評価を要するものの例示が見直されます。類似する既存技術との評価の整合性から当該技術の評価も見直す必要があるもの、保険適用されていない医療技術を実施するための医療機器等、オンライン診療での実施を目的とする医療機器等、管理料の新設についての審議が必要なものなどが対象となります。評価療養の対象期間は「保険適用希望書の受理から2年まで」から、直近の診療報酬改定の次の改定での保険適用を想定した期間に見直されます。医薬品等の適応判定を目的として使用される体外診断用医薬品等については、中医協で了承された保険適用日から保険適用されます。保険適用希望書の様式は、製品の有効性・安全性に係るデータや加算項目への該当性など重要な論点を簡潔に整理して記載するよう見直されます。製造販売業者からの不服申し立ては、原則として翌月に2回目の保材専を実施し、同意が得られない場合は取り下げとして扱われます。まとめ令和8年度保険医療材料制度改革の骨子案は、逆ザヤ問題への対応を中心に、イノベーション評価の厳格化、プログラム医療機器の評価基準整備、医療機器の安定供給確保、内外価格差の是正、市場拡大再算定の見直し、保険適用手続の効率化という7つの柱で構成されています。医療機器メーカーにとっては、チャレンジ申請におけるRCT原則化や査読付き論文の必須化など、開発段階からのエビデンス構築がより重要になります。医療機関にとっては、逆ザヤ機能区分への対応方針を踏まえた調達戦略の検討が必要です。今後の中医協での審議を注視しながら、令和8年4月の施行に向けた準備を進めることが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子案を解説|3つの改革ポイントと今後の展望

令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子案を解説|3つの改革ポイントと今後の展望

Jan 5, 2026 05:53 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回、令和7年12月26日開催)において、「令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子(案)」が議論されました。2019年の制度導入から6年が経過し、72品目が評価対象となり53品目が評価を終了した実績を踏まえ、制度の透明性・公平性の向上と更なる活用に向けた見直しが示されています。今回の改革は、制度検証の結果、分析方法の見直し、分析体制の充実の3つを柱としています。特に注目すべきは、追加的有用性が示されない品目に対する価格調整範囲の拡大です。本稿では、骨子案の内容を解説し、医療機関や製薬企業への影響を考察します。費用対効果評価制度の検証結果費用対効果評価専門部会において、これまでの運用状況が客観的に検証されました。制度導入後の新規収載数は、医薬品が年間50品目前後、医療機器が25品目前後で推移しています。2025年9月1日までに費用対効果評価に指定された67品目の予測市場規模(ピーク時)は、中央値156億円/年でした。この数値は、25パーセンタイル117億円/年、75パーセンタイル249億円/年と分布しており、市場規模の大きい品目が対象となっていることがわかります。評価終了した49品目のうち、実際に分析が実施されたのは39品目でした。このうち公的分析が実施されず企業分析が受け入れられたものが2品目あり、費用対効果評価専門組織の決定に対して製造販売業者から不服申立てがあったものは20品目に上りました。価格調整が行われた38品目では、価格全体に対する調整額の割合が中央値-4.29%となっています。今後は令和8年9月に中医協での検証報告の議論を行い、関係業界からの意見も踏まえた技術的な議論を継続します。分析方法に関する見直し分析プロセスと価格調整方法について、複数の重要な見直しが示されました。品目指定手続きの簡素化として、費用対効果評価終了後に新たな知見が得られた品目の再指定について、薬価算定組織等での手続きを不要とします。費用対効果評価専門組織からの提案を中医協総会で直接承認する方式に変更されます。比較対照技術の設定方法も明確化されました。臨床的に幅広く用いられているもののうち治療効果がより高いものを1つ選定することが原則となります。一意的に決められない場合は、費用対効果の観点から相対的に安価なものを選択することもあり得ますが、他の考慮要素を踏まえて決定します。用語の明確化として、「追加的有用性」を「比較技術に対する健康アウトカム指標での改善」と表現することになりました。これは薬価算定における「有用性」との混同を防ぐための措置です。介護費用の取扱いについては、レケンビの事例で指摘された技術的・学術的な課題を踏まえ、諸外国の状況も参考にしながら引き続き研究を進めます。価格調整の対象範囲の見直し価格調整方法について、制度の更なる活用に向けた重要な変更が示されました。価格引き上げの条件が変更されます。従来の「薬理作用等が比較対照技術と著しく異なること」という要件は、「比較対照技術と異なり、臨床上有用な新規の作用機序を有すること」に改められます。医療機器についても同様に、「基本構造や作用原理が著しく異なる」から「臨床上有用な新規の機序を有する」に変更されます。追加的有用性が示されずICERの区分が「費用増加」となった品目の価格調整方法も見直されます。現行の有用性系加算部分に価格調整係数を乗じる方法ではなく、例えば比較対照技術の1日薬価を評価対象技術の1日薬価で除した比を価格に乗じる方法を含め、政策決定の透明性や説明責任を高める方向で見直しが図られます。価格調整後の下限は、価格全体の85%(調整額15%)を基本に引き続き議論されます。なお、令和8年4月以降に評価結果が中医協に報告された品目については、令和8年9月の検証報告の議論終了後に具体的な方法を定めた上で価格調整を実施します。分析体制の充実公的分析を担う体制の強化が課題として挙げられました。現在は立命館大学と慶應義塾大学の2大学が公的分析班として分析を担当しています。対象品目の増加が予想される中、体制の充実が必要です。公的分析結果の学術的な取扱いとして、国立保健医療科学院がホームページで公開している分析結果を論文形式で公的刊行物に掲載する取組を継続します。厚生労働省は関係学会等への制度周知、人材育成、分析体制への支援を通じて、公的分析班の人材確保と組織充実を図ります。国際的な知見の取り入れも推進されます。海外の評価実施機関における実務経験や研究機会を通じて、国際標準となっている知見をより早期に導入するための支援が検討されます。評価結果の活用促進費用対効果評価の結果を医療現場で活用するための取組も進められます。厚生労働省と国立保健医療科学院は、関係学会や関係機関に対して必要な情報提供を行います。各学会における診療ガイドラインへの経済性評価の反映を促進し、診療現場での普及を目指します。まとめ令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子案は、6年間の運用実績に基づく制度の最適化を目指しています。72品目の評価対象指定と53品目の評価終了という実績を踏まえ、制度の透明性・公平性の向上、分析プロセスの効率化、分析体制の充実が図られます。特に追加的有用性のない品目への価格調整範囲拡大は、費用対効果評価制度の更なる活用に向けた重要な一歩となります。令和8年9月の検証報告を経て、具体的な運用方法が確定する予定です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【生成AI×認知心理学】巨大LLM時代にこそRAGが必要な理由|記号接地問題とエピソード記憶の視点から

【生成AI×認知心理学】巨大LLM時代にこそRAGが必要な理由|記号接地問題とエピソード記憶の視点から

Jan 4, 2026 05:54 岡大徳

本記事は、生成AIの活用を検討する企業のDX推進担当者やAIエンジニアに向けて執筆しています。「LLMのコンテキストウィンドウが広がれば、RAGは不要になるのではないか」という疑問に対し、認知心理学の視点から明確な答えを提示します。生成AIの進化に伴い「RAG不要論」が聞こえる一方で、認知心理学の視点で見るとRAGは依然として不可欠です。本記事では、「短期記憶・長期記憶・メンタルモデル」のアナロジーを用いて、AIの動作原理を解説します。さらに「記号接地問題」と「エピソード記憶」という概念から、AIを実務に接地(グラウンディング)させるためのRAGの本質的な役割を明らかにします。はじめに:AIは人の脳と同じ構造で働いている生成AIの仕組みは、認知心理学における人間の記憶モデルと驚くほど類似しています。この類似性を理解することで、RAGがなぜ必要なのかが明確になります。本章では、認知心理学の3つの要素を用いて、生成AIの動作原理を解説します。認知心理学で読み解く3つの要素生成AIの構成要素は、認知心理学における「短期記憶」「長期記憶」「メンタルモデル」に対応しています。この対応関係を理解することが、RAGの本質を把握する第一歩です。1つ目の要素は「プロンプト」です。プロンプトは、認知心理学における短期記憶(ワーキングメモリ)に相当します。人間が作業机の上に広げられる資料には限りがあるように、プロンプトに入力できる情報量にも制約があります。この作業机では、今まさに取り組んでいるタスクに必要な情報だけを扱います。2つ目の要素は「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」です。RAGは、認知心理学における長期記憶に相当します。人間が必要な時に書庫から資料を取り出すように、RAGは膨大なドキュメントの中から関連情報を検索して取得します。この書庫には、マニュアル、過去の議事録、成功・失敗事例など、組織の知識が蓄積されています。3つ目の要素は「LLM本体」です。LLM本体は、認知心理学におけるメンタルモデルに相当します。メンタルモデルとは、人が頭の中に作る「世界の理解の仕方」のことです。LLMは大量のテキストから学習した「思考の枠組み」を持っており、入力された情報をこの枠組みで解釈して応答を生成します。優秀なコンサルタントが持つ「ものの見方」のようなものです。この3つの要素の関係は、次のように整理できます。LLM(コンサルタント)は優れた思考の枠組みを持っています。しかし、そのコンサルタントが適切な判断を下すためには、作業机(プロンプト)に必要な情報が載っていなければなりません。そして、その情報は書庫(RAG)から適切に取り出される必要があります。なぜ巨大LLMになってもRAG(書庫)が必要なのか?LLMのコンテキストウィンドウ(入力可能な文字数)は急速に拡大しています。しかし、この拡大によってRAGが不要になるわけではありません。本章では、その理由を2つの観点から解説します。プロンプト(作業机)の限界と「継続性」の問題コンテキストウィンドウが拡大しても、プロンプトには本質的な限界があります。その限界とは、「継続性」と「効率性」の問題です。継続性の問題は、会話が途切れるたびに作業机がリセットされることに起因します。人間が複数日にわたるプロジェクトを進める場合、毎朝すべての資料を最初から読み直すことはしません。必要な情報は書庫に整理しておき、必要な時に取り出します。同様に、AIとの対話においても、過去の会話履歴や業務文脈を毎回プロンプトに含めることは現実的ではありません。効率性の問題は、情報量と処理速度のトレードオフに関係します。作業机が大きくなったからといって、すべての資料を常に広げておくのは非効率です。100万文字のコンテキストウィンドウがあっても、そのすべてを使うと処理時間が長くなり、コストも増大します。必要な情報だけを必要な時に取り出す仕組みが、実務では不可欠です。メンタルモデルを「絞り込む」という役割RAGには、情報を取り出すだけでなく、LLMの思考を「絞り込む」という重要な役割があります。この絞り込みがなければ、AIは一般論や幻覚を語り出してしまいます。LLMは「何でも知っている」が故に、制約がないと広すぎる可能性の中を彷徨います。たとえば、「契約書のレビュー」を依頼した場合、一般的な法律知識に基づいた回答が返ってくるかもしれません。しかし、実際に必要なのは「自社の契約テンプレート」や「過去の修正履歴」に基づいた具体的なアドバイスです。RAGとプロンプトは、この広すぎる可能性を「特定の業務・文脈」に強制的にフォーカスさせる装置です。書庫から取り出した具体的な資料が作業机に載ることで、コンサルタント(LLM)は「この文脈で」「この資料に基づいて」考えるようになります。この制約こそが、実務で使えるAIを実現するための鍵です。AIの最大の弱点「記号接地問題」とグラウンディングAIには、人間には当たり前に備わっている能力が欠けています。それは「言葉の意味を現実と結びつける能力」です。本章では、この「記号接地問題」とその解決策としての「グラウンディング」について解説します。言葉の意味を知らないAI(記号接地問題とは)記号接地問題とは、AIが言葉を「記号」として処理しているだけで、その意味を現実体験と結びつけていないという問題です。この問題があるからこそ、AIは平気で嘘をつきます。この問題を理解するために、辞書のたとえを使いましょう。辞書で「りんご」を引くと、「バラ科の落葉高木、またはその果実」と書かれています。では「バラ科」とは何か。辞書を引くと別の言葉で説明されています。この連鎖は永遠に続き、言葉は言葉でしか説明されません。しかし私たちは、実際にりんごを見て、触って、食べた経験があるからこそ、「りんご」という言葉の意味を理解しています。AIには、この「実際に経験する」という回路がありません。AIは大量のテキストから言葉同士の関係性を学習していますが、言葉が指し示す現実を体験したことはありません。そのため、言葉の統計的なパターンに基づいて「それらしい」文章を生成しますが、その内容が現実と一致している保証はないのです。これがハルシネーション(幻覚)の根本原因です。RAGによる「グラウンディング(接地)」RAGは、AIの思考を「現実」に繋ぎ止める装置として機能します。この繋ぎ止める行為を「グラウンディング(接地)」と呼びます。グラウンディングとは、もともと電気工学の用語で「接地」を意味します。電気機器を地面(Ground)に接続することで、余分な電流を逃がし、機器を安定させます。同様に、AIの思考を「根拠となるドキュメント(Ground)」に接続することで、空想への暴走を防ぎ、出力を安定させることができます。RAGは、ドキュメントという「局所的な現実」をAIに与える行為です。AIは言葉の意味を現実体験と結びつけることはできません。しかし、「この文書にはこう書いてある」という事実に基づいて回答することはできます。この「提供された根拠に基づいて回答する」という制約が、AIの思考を空想から現実へと繋ぎ止めます。たとえば、「当社の返品ポリシーは?」という質問に対して、RAGなしのAIは一般的な返品ポリシーを想像で語るかもしれません。しかし、RAGで自社の返品規定を参照させれば、AIはその文書に基づいた正確な回答を返します。これがグラウンディングの効果です。RAGの進化:知識(意味記憶)から知恵(エピソード記憶)へ従来のRAGは、マニュアルやFAQなどの「事実」を参照させることが主流でした。しかし、RAGの真の可能性は、「経験」を参照させることにあります。本章では、認知心理学の「意味記憶」と「エピソード記憶」の概念を用いて、RAGの進化の方向性を解説します。意味記憶とエピソード記憶の違い認知心理学では、長期記憶を「意味記憶」と「エピソード記憶」に分類します。この分類は、RAGに何を学習させるべきかを考える上で重要な示唆を与えます。意味記憶とは、事実やルールに関する記憶です。「日本の首都は東京である」「1キログラムは1000グラムである」といった一般的な知識がこれに該当します。ビジネスの文脈では、マニュアル、規定集、製品仕様書などが意味記憶に相当します。エピソード記憶とは、個人的な体験に関する記憶です。「先週の商談でこういう質問をされて困った」「あのプロジェクトではこの判断が失敗だった」といった、時間・場所・感情を伴う記憶がこれに該当します。ビジネスの文脈では、議事録、日報、成功・失敗事例の記録などがエピソード記憶に相当します。この2つの記憶には、決定的な違いがあります。意味記憶は「何が正しいか」を教えてくれますが、エピソード記憶は「何がうまくいったか、何が失敗したか」を教えてくれます。熟練者の判断力は、この2つの記憶が統合されることで生まれます。AIに「熟練の直感」を持たせる方法従来のRAGは、意味記憶(マニュアル)を中心に構築されてきました。しかし、マニュアルだけを参照するAIは「頭でっかちな新人」のようなものです。ルールは知っているが、現場の機微がわかりません。熟練者が持つ「直感」の正体は、豊富なエピソード記憶です。「以前、似たような状況で失敗した」「あの時はこうしたらうまくいった」という経験の蓄積が、瞬時の判断を可能にします。この直感をAIに持たせるためには、エピソード記憶をRAGに組み込む必要があります。具体的には、以下のようなデータをRAGの対象に加えることが有効です。1つ目は、成功・失敗事例の記録です。「このアプローチで成約に至った」「この提案は却下された理由はこうだった」といった結果を伴う事例は、意思決定の質を高めます。2つ目は、商談や会議の議事録です。「顧客がどんな懸念を示したか」「どう対応したか」という文脈情報は、類似状況での判断に役立ちます。3つ目は、ベテラン社員の暗黙知を言語化した記録です。「なぜその判断をしたか」「何に注意すべきか」といったノウハウは、マニュアルには載っていない貴重な知識です。このように、意味記憶(事実・ルール)とエピソード記憶(体験・結果)の両方をRAGに組み込むことで、AIは「知識」だけでなく「知恵」を持つようになります。結果や感情に基づいた「接地」が可能になり、AIはより賢明な判断ができるようになるのです。まとめ本記事では、認知心理学の視点から「なぜ巨大LLM時代にもRAGが必要なのか」を解説しました。RAGが必要な理由は、大きく3つあります。1つ目は、プロンプト(作業机)の限界です。コンテキストウィンドウが拡大しても、継続性と効率性の観点から、必要な情報を必要な時に取り出す仕組みは不可欠です。2つ目は、メンタルモデルの絞り込みです。LLMの広すぎる可能性を特定の業務・文脈にフォーカスさせるために、RAGによる制約が必要です。3つ目は、グラウンディングです。記号接地問題を抱えるAIを現実に繋ぎ止め、ハルシネーションを防ぐために、根拠となるドキュメントが必要です。パラメータ数が増えても、AIを「現実」に繋ぎ止め、「文脈」を維持するためにRAGは必要不可欠です。そして、今後のAI活用の質を分けるのは「何をRAGさせるか」という設計思想です。単なるマニュアル検索(意味記憶)だけでなく、成功・失敗事例(エピソード記憶)をRAGに組み込むことで、AIは「頭でっかちな新人」から「経験豊富な熟練者」へと進化します。自社のAI活用を見直す際には、ぜひ「どんなエピソード記憶をAIに与えられるか」という視点でデータ整備を検討してみてください。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定|改定率+3.09%の内訳と5つの重要ポイント

令和8年度診療報酬改定|改定率+3.09%の内訳と5つの重要ポイント

Jan 4, 2026 05:12 岡大徳

令和7年12月24日の予算大臣折衝を経て、令和8年度診療報酬改定の改定率が決定しました。令和6年度改定以降の経営環境悪化を踏まえた緊急対応と、物価上昇への本格的な対応が盛り込まれています。本稿では、中央社会保険医療協議会総会(第639回)で示された改定率の内訳と制度変更のポイントを解説します。今回の改定の要点は5つです。診療報酬本体は2年度平均で+3.09%の引き上げとなり、賃上げ分+1.70%と物価対応分+0.76%が主な内訳です。施設類型ごとにメリハリをつけた配分が行われ、特に病院への重点配分が図られました。薬価等は▲0.87%の引き下げとなります。制度面では、医師偏在対策や経営情報の見える化に向けた対応が盛り込まれました。診療報酬本体の改定率診療報酬本体の改定率は、2年度平均で+3.09%です。令和8年度は+2.41%(国費2,348億円程度)、令和9年度は+3.77%となります。施行日は令和8年6月です。この改定率は、当初予算段階から所要の歳出歳入を織り込む運営への質的転換を図る観点で設計されました。「経済財政運営と改革の基本方針2025」および「強い経済を実現する総合経済対策」に基づき、施設類型ごとの費用構造や経営実態を踏まえた対応が行われています。各科改定率は、医科+0.28%、歯科+0.31%、調剤+0.08%です。改定率の内訳改定率+3.09%は、6つの要素で構成されています。賃上げ分が+1.70%、物価対応分が+0.76%、食費・光熱水費分が+0.09%、緊急対応分が+0.44%です。効率化による▲0.15%を差し引き、その他改定分+0.25%が加わります。賃上げ分+1.70%は、医療関係職種の処遇改善を目的としています。令和8年度・令和9年度それぞれで+3.2%のベースアップ実現を支援し、看護補助者と事務職員については5.7%のベースアップを目指します。賃上げ分のうち+0.28%は、医療機関の賃上げ余力回復のための特例的な対応として措置されました。物価対応分+0.76%は、施設類型ごとに配分されます。病院は+0.49%、医科診療所は+0.10%、歯科診療所は+0.02%、保険薬局は+0.01%です。高度機能医療を担う病院(大学病院を含む)については、物価高の影響を受けやすいことを踏まえ、+0.14%の特例的な対応が追加されました。食費・光熱水費分+0.09%では、入院時の食費基準額を1食あたり40円引き上げます。光熱水費基準額は1日あたり60円の引き上げです。患者負担については、低所得者や指定難病患者等への配慮措置が設けられています。緊急対応分+0.44%は、令和6年度改定以降の経営環境悪化に対応するものです。病院に+0.40%、医科診療所に+0.02%、歯科診療所に+0.01%、保険薬局に+0.01%が配分されます。効率化▲0.15%は、後発医薬品への置換え進展を踏まえた処方・調剤評価の適正化によるものです。在宅医療・訪問看護関係の評価適正化や、長期処方・リフィル処方の取組強化も含まれています。薬価等の改定薬価等は合計で▲0.87%の引き下げです。内訳は、薬価が▲0.86%(国費▲1,052億円程度)、材料価格が▲0.01%(国費▲11億円程度)です。薬価は令和8年4月施行、材料価格は令和8年6月施行となります。薬価制度改革では、市場拡大再算定の類似品の薬価引下げ(いわゆる共連れ)が廃止されます。この変更は、製薬企業の予見可能性を高める観点から行われました。診療報酬制度の関連事項制度面では、4つの重要な対応が示されました。令和9年度の調整、賃上げの実効性確保、医師偏在対策、経営情報の見える化です。令和9年度の調整については、経済・物価動向が見通しから大きく変動した場合に対応します。令和9年度予算編成において加減算を含む調整を行うため、令和8年度の医療機関の経営状況調査を実施します。賃上げの実効性確保では、より多くの職種を対象とした仕組みを構築します。令和6年度改定で入院基本料や初・再診料により賃上げ原資が配分された職種(40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者)についても、ベースアップ評価料の対象職種と同様の実効性確保の仕組みが適用されます。医師偏在対策では、診療報酬上の減算措置が導入されます。外来医師過多区域において無床診療所の新規開業者が都道府県知事からの要請に従わない場合が対象です。医師多数区域での更なるディスインセンティブ措置の在り方や、重点医師偏在対策支援区域における医師手当事業に関する診療報酬での財源確保の在り方については、令和10年度改定で結論を得ることとされました。経営情報の見える化では、MCDB(医療法人の経営情報のデータベース)の活用が進みます。職種別の給与・人数の報告義務化を含め、令和8年中に必要な見直しについて結論を得る予定です。診療所の「その他の医業費用」の内容把握など、報告様式の精緻化も検討されます。まとめ令和8年度診療報酬改定は、2年度平均で+3.09%のプラス改定となりました。賃上げ分+1.70%と物価対応分+0.76%を中心に、施設類型ごとにメリハリをつけた配分が行われます。特に病院への重点配分と、看護補助者・事務職員への手厚い賃上げ支援が特徴です。制度面では、賃上げ実効性確保の仕組み構築、医師偏在対策の強化、経営情報の見える化が進められます。令和9年度には経済・物価動向を踏まえた調整が予定されており、継続的な対応が図られる見込みです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2025年12月】医療保険制度改革の全体像|出産費用の無償化から高額療養費まで5つの改革ポイント

【2025年12月】医療保険制度改革の全体像|出産費用の無償化から高額療養費まで5つの改革ポイント

Jan 3, 2026 05:15 岡大徳

令和7年12月25日、社会保障審議会医療保険部会は「議論の整理」を取りまとめました。この議論の整理は、骨太の方針2025や経済・財政新生計画改革実行プログラム2024に基づき、令和7年9月18日以降13回にわたる議論の成果です。2040年に高齢者数がピークを迎えることを見据え、全世代型社会保障の構築に向けた改革の方向性が示されました。議論の整理では、4つの視点から5つの改革パッケージが提示されています。第一に、高額療養費制度の見直しによるセーフティネット機能の確保です。第二に、出産費用の現物給付化や国民健康保険における子育て世代支援など次世代支援の強化です。第三に、金融所得の勘案や高齢者窓口負担の在り方など世代間公平の確保です。第四に、OTC類似薬の自己負担見直しや長期収載品の選定療養拡充など効率的な給付の推進です。第五に、国民健康保険制度改革の推進です。セーフティネット機能の確保:高額療養費制度の見直し高額療養費制度の見直しは、専門委員会で8回にわたり多様な議論が行われました。この議論では、患者団体や保険者、医療関係者、学識経験者からのヒアリングが実施され、複数の事例に基づく経済的影響のイメージやデータを踏まえた検討が行われています。専門委員会では、令和7年12月16日に「高額療養費制度の見直しを行っていく場合の基本的な考え方」がとりまとめられました。この基本的な考え方は、医療保険制度改革全体の中で全体感を持った見直しが行われることを前提としています。高齢者からのヒアリングでは、外来特例の維持を求める声や、制度の周知・説明の改善を求める意見が出されました。現役世代及び次世代の支援強化:出産に対する新たな給付体系の創設出産費用については、出産育児一時金が令和5年度に原則42万円から原則50万円に引き上げられた後も上昇が続き、妊産婦の経済的負担が増加しています。この状況を踏まえ、現行の出産育児一時金に代わる新たな給付体系の創設が提案されました。新たな給付体系の骨格は、保険診療以外の分娩対応に要する費用について、全国一律の水準で保険者から分娩取扱施設に直接支給する現物給付化です。具体的には、療養の給付とは異なる出産独自の給付類型を設け、妊婦に負担を求めず費用の10割を保険給付とします。分娩1件当たりの基本単価を国が設定し、手厚い人員体制やハイリスク妊婦の受入体制などを評価する加算を設けることが適当とされています。新たな給付体系への移行については、妊産婦の期待に応えて早期施行を求める意見がある一方、個々の施設が対応できる十分な時間的余裕を確保すべきとの意見もありました。当分の間は施設単位で現行の出産育児一時金の仕組みも併存させ、可能な施設から新制度に移行していく方針が示されています。国民健康保険においては、子育て世帯の負担軽減のため、未就学児に係る均等割保険料の5割軽減措置の対象を高校生年代まで拡充する方向性が示されました。この拡充は地方団体からも要望が強く、法改正を含めた対応が求められています。世代内、世代間の公平の確保:金融所得の勘案と高齢者窓口負担高齢者の窓口負担割合について、議論の整理では高齢者の状態像の変化が確認されています。高齢者の受診率や受診日数は改善傾向にあり、医療費水準は5歳程度若返っています。また、高齢者の就業率・平均所得は上昇傾向にあり、所得は増加・多様化しています。窓口負担割合の見直しについては、3割負担や2割負担の対象者拡大、負担割合の区切りとなる年齢の引き上げ、負担割合のきめ細かい設定といった複数の選択肢が議論されました。経済対策では「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」について、令和7年度中に具体的な骨子の合意、令和8年度中に具体的な制度設計を行い順次実施することとされています。金融所得の勘案については、確定申告を行わない場合に保険料や窓口負担等の算定で勘案されない不公平を是正するため、法定調書を活用する方法が提案されました。まずは後期高齢者医療制度から金融所得を勘案する方針です。具体的な法制上の措置は令和7年度中に講じるとされています。必要な医療の提供と効率的な給付の推進:薬剤自己負担と入院時費用OTC類似薬の保険給付の見直しでは、医療機関における必要な受診を確保しつつ、薬剤を保険適用としたまま薬剤費の一部を保険給付の対象外とする新たな仕組みの創設が提案されました。この仕組みでは、OTC医薬品と成分が同一で代替性が高い医療用医薬品について、保険外併用療養費制度の中で患者に「特別の料金」を求めます。特別の料金を徴収しない配慮対象として、こども、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方、入院患者や処置等の一環でOTC類似薬の処方が必要な方、医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方が挙げられています。長期収載品の選定療養については、令和6年度の制度導入後、後発医薬品の使用割合が約4ポイント上昇し90%以上となりました。この効果を踏まえ、患者負担の水準を価格差の1/2以上へと引き上げる方向で検討が進められています。後発医薬品の安定供給確保に取り組みながら、供給状況や患者負担の変化に配慮することが求められています。入院時の食費については、食材料費の高騰を踏まえ、令和6年6月に1食当たり30円、令和7年4月にさらに1食当たり20円の引上げが行われました。令和7年4月以降も食材料費等の上昇が続いていることから、標準負担額のさらなる引上げの方向で見直しが検討されています。入院時の光熱水費についても、令和6年度介護報酬改定において多床室の居住費の基準費用額・負担限度額が60円引き上げられたことを踏まえ、同様に引上げの方向で見直しが検討されています。いずれも所得区分等に応じた一定の配慮が行われる方針です。効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療については、「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン処方」の適正化を新たに医療費適正化計画に位置付けることとされました。今後も厚生労働科学研究や医療技術評価分科会での学会等からの提案募集などから対象を探索し、医療費適正化計画への追加や診療報酬上の取り扱いなどについて引き続き検討が行われます。国民健康保険制度改革の推進国民健康保険制度については、被保険者の年齢構成が高く医療費水準が高いこと、被保険者の所得水準が低いこと、小規模保険者が多く財政運営が不安定になりやすいことなどの課題があります。これらの課題に対応するため、複数の見直しが提案されています。具体的な見直し内容として、子どもに係る均等割保険料の軽減措置の対象を高校生年代まで拡充すること、令和8年度に向けて保険料水準統一加速化プランの改定を検討すること、財政安定化基金の使途を拡充し積戻し期間を延長すること、都道府県国保連合会の役割を強化し市町村の事務負担を軽減すること、資格喪失日を1日前倒しすることなどが挙げられています。国保組合については、定率補助の補助率の下限の見直しが提案されました。補助率の下限13%を原則としつつ、財政力や被保険者の健康の保持増進等の取組の実施状況が一定の水準に該当する組合には、例外的に新たな補助率(12%・10%)を適用する方針です。この見直しに対しては、医師国保をはじめとする関係者から慎重な対応を求める意見も出されています。まとめ今回の議論の整理は、2040年に向けた全世代型社会保障の構築という中長期的な視点から、医療保険制度改革の方向性を示したものです。現役世代の負担軽減と高齢者の応能負担の実現、次世代支援の強化、効率的な給付の推進という複数の改革を総合的なパッケージとして進めることが求められています。厚生労働省には、十分な準備期間の確保と丁寧な周知を行いながら、確実に改革を実行することが期待されています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

日本の高額療養費制度は皆保険の屋台骨:アメリカUSAプランが示す医療保険改革の本質

日本の高額療養費制度は皆保険の屋台骨:アメリカUSAプランが示す医療保険改革の本質

Jan 2, 2026 16:30 岡大徳

日本では高額療養費制度の変更が議論されています。UCLA准教授の津川友介氏は、自身のnote記事「日本の高額療養費制度と、いまアメリカで議論されている最先端の医療保険制度の関係について」(2025年12月25日公開)で、アメリカの医療経済学者ダナ・ゴールドマン氏が提唱する「USAプラン」を紹介し、日本の高額療養費制度が皆保険制度における「ど真ん中」の問題であると指摘しています。本記事では、津川氏のnote記事で紹介された内容を基に、高額療養費制度の本質と日本への示唆を解説します。高額療養費制度は、医療費の自己負担に上限額を設ける制度です。津川氏によれば、この制度は他国では「破滅的医療費保険制度(Catastrophic health insurance)」と呼ばれ、国民を破滅的医療費から保護するものです(出典:津川友介氏note記事、2025年12月25日)。世界保健機関(WHO)は、破滅的医療費を「家計の医療費自己負担額が家計の支払い能力の40%を超える状態」と定義しており、この状態では他の基本的な生活必需品が賄えなくなります。アメリカでは、医療に市場原理の効率性を維持しながら皆保険のような状態を達成する方法が議論されており、ダナ・ゴールドマン氏の「USAプラン」はその代表例です。この新しい医療保険プランは、すべての医療サービスをカバーするのではなく、セーフティネットとして機能するという考え方に基づいています。USAプランの設計:所得に応じた自己負担構造USAプランは、65歳未満の国民を対象に、所得ベースの自己負担額構造を採用しています(出典:津川友介氏note記事、2025年12月25日)。年収75,000ドル以下の家族には医療が無料で提供されます。年収75,000ドルを超える家族では、所得の10%までが免責金額となり、この金額までは保険は何もカバーしません。例えば、年収100,000ドルの4人家族の場合、1人あたりの自己負担額は2,500ドルです。自己負担額には上限があります(出典:同上)。個人の自己負担額は1人あたり年間7,500ドル、または年収300,000ドルの4人家族の場合は年間3万ドルが上限です。平均すると、アメリカ人は約1,300ドルの個人自己負担額に直面することになります。予防医療や慢性疾患治療など、独立した第三者機関が「高価値医療」と認定した医療サービスは、自己負担から除外されます。この除外条項は、医療費の自己負担の障壁が必要な予防医療を妨げないようにしながら、日常的な医療サービスを受けるかどうかに関してより合理的な判断をすることを目的としています。USAプランの経済哲学:モラルハザードの抑制とセーフティネットの両立ゴールドマン氏の提案は、日常的な軽症医療に対するモラルハザードを引き起こす医療保険のデメリットを取り除くものです(出典:津川友介氏note記事、2025年12月25日)。津川氏は別のnote記事「モラルハザードとは、コンビニ受診のことである」(2024年10月16日公開)で、モラルハザードについて詳しく解説しています。モラルハザードとは、医療保険の影響で患者が支払う価格が市場価格よりも低くなっているため、本来必要としているサービスよりも多くの量のサービスを消費してしまう現象のことです。日本で言われている「コンビニ受診」のことを経済学ではモラルハザードと呼び、医療保険のようなシステムがあるときに起こるべくして起こる人間の行動パターンの変化を指します。ランド医療保険実験により、医療サービスの価格弾力性は-0.2~-0.3であることが判明しました(出典:津川友介氏note記事「モラルハザードとは、コンビニ受診のことである」、2024年10月16日)。これは、自己負担の価格が10%上昇すると、患者が希望する医療サービスの量が2~3%下がることを意味します。USAプランは、この経済原理を活用し、日常的な医療サービスに関して国民がより合理的な判断をすることを促します。一方で、USAプランはセーフティネットとして高額な医療費による経済的リスクから国民を守ります(出典:津川友介氏note記事、2025年12月25日)。高額な医療費負担によって不幸になってしまう人や、破産してしまう人を防ぐという、医療保険の本来の役割を果たします。ゴールドマン氏は、医療保険は「すべての人にすべての医療サービスを提供する必要はないが、すべての人に対するセーフティネットであるべき」という考え方を示しています。高額療養費制度の国際的位置づけと日本の課題高額療養費制度は日本特有のものではありません(出典:津川友介氏note記事、2025年12月25日)。津川氏によれば、ほぼすべての先進国で存在する制度です。ゴールドマン氏のUSAプランのように、これさえきちんと維持しておけば、あとは100%自己負担であっても「皆保険」の目的は達成できると考えられているような、皆保険の屋台骨とも言える制度です。津川氏は、アメリカやシンガポールのように、健康リスクに関して自己責任の価値観の強い国であっても、そして医療保険への加入を義務としない国であっても、高額療養費制度だけは維持しておく必要があると考えられていると指摘しています(出典:同上)。この点は、高額療養費制度が単なる補助的な制度ではなく、医療保険制度の根幹をなすものであることを示しています。USAプランの自己負担額の上限額と比べても、日本の高額療養費制度の上限額は現時点でも高く、さらに今後引き上げられることが検討されており、皆保険としての役割を果たさなくなってきていることを示唆しています(出典:同上)。ダナ・ゴールドマン氏とキップ・ハゴピアン氏は、論文「The Health-Insurance Solution」(National Affairs, 2012)において、破滅的医療費保険の設計原理を詳細に論じており、所得に応じた免責金額の設定や自己負担上限額の重要性を強調しています。日本への示唆:窓口負担割合と上限額のトレードオフ津川氏は、USAプランが示す重要な示唆として次の点を指摘しています(出典:津川友介氏note記事、2025年12月25日)。日本の医療費の窓口自己負担は現在1~3割ですが、USAプランが意味しているのは、窓口負担割合を5割などに上げても、高額療養費制度の自己負担上限額を低めに設定しておけば、国民が医療サービスによる経済的リスクを負うことはないということです。この考え方は、医療保険制度の設計において重要な選択肢を提示しています。日常的な医療サービスでは患者がより多くを自己負担することで、医療サービスの価値を意識した受診行動を促す一方、高額な医療費が発生した場合には確実に保護されるという、メリハリのある制度設計が可能になります。津川氏は、日本の高額療養費制度をどうするかは、日本の皆保険制度における枝葉の問題ではなく、「ど真ん中」の問題であると強調しています(出典:同上)。日本が「皆保険が崩壊した国」とならないためにも、①高額療養費制度の上限額を上げるのか、それとも②窓口自己負担割合を上げるのか、どちらの方がより国民の求める制度なのか、国民的議論が必要だと指摘しています。まとめ高額療養費制度は、破滅的医療費から国民を守る皆保険の屋台骨です。アメリカで議論されているダナ・ゴールドマン氏のUSAプランは、高額療養費制度を軸としたセーフティネットの重要性を示しています。このプランは、日常的な医療でのモラルハザードを抑制しながら、高額な医療費から国民を守るという、医療保険の本質的な役割を明確にしています。日本では高額療養費制度の上限額引き上げが検討されていますが、これは皆保険制度の根幹に関わる問題です。窓口自己負担割合と上限額のトレードオフを含め、国民的議論が求められています。著作権・引用について本記事は、津川友介氏のnote記事を引用元として明示した上で、その内容を紹介するものです。津川氏のnote記事には「当サイトの情報を転載、複製、改変等は禁止いたします。その他の記事に引用する場合には許可を取ってください(無断引用を禁じます)。ご理解のほどよろしくお願いいたします。」との記載があります。本記事は、著作権法に定める引用の要件(引用の必然性、主従関係の明確性、出典の明示)を満たす形で、津川氏の論考を紹介するものです。詳細な内容については、必ず以下の原典をご参照ください。参考文献・原典:【主要引用元】* 津川友介「日本の高額療養費制度と、いまアメリカで議論されている最先端の医療保険制度の関係について」note、2025年12月25日公開* 津川友介「モラルハザードとは、コンビニ受診のことである」note、2024年10月16日公開【USAプラン関連の原典】* Dana Goldman “Money Alone Can’t Fix the ACA. Here’s How to Cover Everyone Without Increasing Costs.” USC Schaeffer, December 3, 2025 https://healthpolicy.usc.edu/article/money-alone-cant-fix-the-aca-heres-how-to-cover-everyone-without-increasing-costs/* Kip Hagopian and Dana Goldman “The Health-Insurance Solution” National Affairs, Fall 2012 https://www.nationalaffairs.com/publications/detail/the-health-insurance-solution Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

AIの文章がわかりやすい理由|日本人が知らない「パラグラフ・ライティング」の正体

AIの文章がわかりやすい理由|日本人が知らない「パラグラフ・ライティング」の正体

Jan 1, 2026 05:15 岡大徳

生成AIが書く文章を読んで、「自分より上手い」と感じたことはありませんか。ChatGPTやClaudeの出力は、結論が早く、論理の流れが明確です。この「わかりやすさ」には理由があります。AIは英語圏で標準的に教えられる「パラグラフ・ライティング」という文章技法を学習しており、その構造を日本語でも再現しているのです。本記事では、パラグラフ・ライティングの基本と、日本人がこの技法を学ぶべき理由を解説します。パラグラフ・ライティングとは「1つの段落に1つのトピック」を書く文章術です。この技法を身につければ、読み手に負担をかけない、伝わる文章が書けるようになります。さらに、AIへの指示精度も向上し、ビジネスコミュニケーション全体の質が上がります。なぜAIの文章は結論が早いのか生成AIの文章には共通する特徴があります。結論が冒頭にあり、理由や具体例がその後に続きます。この構造こそが、多くの人が感じる「AI文章の整理された感」の正体です。AIが結論を先に書くのは、英語の文章構造を学習しているからです。英語圏では、ビジネス文書やアカデミック・ライティングにおいて「最初に結論を述べる」ことが基本ルールとなっています。AIは大量の英語テキストから、この論理構造を学習しました。その結果、日本語で文章を生成する際にも、結論先行型の構造を適用しているのです。一方、日本語の伝統的な文章構造は異なります。「起承転結」に代表されるように、日本語では結論を最後に持ってくることが多いです。読み手は文章の最後まで読まなければ、書き手の主張がわかりません。この構造の違いが、AIの文章を「わかりやすい」と感じさせる原因です。日本人が学校で教わらなかった「パラグラフ・ライティング」パラグラフ・ライティングとは、「1つの段落に1つのトピック」を書く文章技法です。英語圏では「One Paragraph, One Idea」として、小学校から徹底的に教えられます。しかし、日本の国語教育ではこの概念をほとんど扱いません。パラグラフ・ライティングの核心は「トピックセンテンス」にあります。トピックセンテンスとは、段落の冒頭に置く要約文のことです。読み手はトピックセンテンスだけを拾い読みすれば、文章全体の要点を把握できます。この構造があるからこそ、長い文章でも素早く内容を理解できるのです。日本語の文章が「わかりにくい」と言われる原因は、この構造の欠如にあります。日本語話者は、文脈から意味を推測する「ハイコンテキスト」なコミュニケーションに慣れています。書き手は「察してもらえる」ことを前提に、結論を明示しないまま文章を終えることも少なくありません。しかし、この習慣はビジネス文書では致命的です。読み手に推測を強いる文章は、誤解を生み、時間を浪費させます。AI時代だからこそ、人間が「構造」を学ぶべき理由パラグラフ・ライティングを身につけることで、2つのメリットが得られます。1つ目は、読み手の負担を減らせることです。2つ目は、AIへの指示精度が向上することです。読み手の負担が減る理由は、推測コストの削減にあります。論理構造が明確な文章では、読み手は書き手の意図を推測する必要がありません。トピックセンテンスを読めば段落の内容がわかり、接続詞を追えば論理の流れが見えます。この構造があれば、読み手は一読で内容を理解できます。AIへの指示精度が向上する理由は、AIと人間の「共通言語」にあります。AIはパラグラフ・ライティングの構造を理解しています。したがって、人間が同じ構造で指示を出せば、AIは意図を正確に把握できます。曖昧な指示では曖昧な出力しか得られませんが、構造化された指示は構造化された出力を生みます。パラグラフ・ライティングを実践するには、3つの基本ルールを守ってください。第1に、トピックセンテンスを段落の先頭に置きます。第2に、接続詞で論理をつなぎます。第3に、1つの段落に複数の話題を混ぜません。この3つを意識するだけで、文章のわかりやすさは劇的に向上します。まとめ:AIを「論理の先生」にする生成AIの文章がわかりやすい理由は、パラグラフ・ライティングという文章技法にあります。この技法は英語圏では常識ですが、日本の教育では教わりません。だからこそ、今から学ぶ価値があります。AIを「ライバル」と見なす必要はありません。むしろ「論理の先生」として活用してください。AIの出力を分析し、トピックセンテンスの置き方や接続詞の使い方を観察するのです。その学びを自分の文章に取り入れれば、「何が言いたいの?」と言われることはなくなります。パラグラフ・ライティングは、AI時代のビジネスパーソンにとって必須のスキルです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

医療に市場原理が通用しない7つの理由|UCLA津川友介准教授が解説する医療経済学

医療に市場原理が通用しない7つの理由|UCLA津川友介准教授が解説する医療経済学

Jan 1, 2026 15:15 岡大徳

日本では社会保障費の増加に伴い、医療制度への批判的な意見が増えています。「医療を規制緩和すれば効率化するのではないか」という主張がその代表例です。しかし、医療経済学の研究成果は、この考えに明確な反論を示しています。UCLA准教授で医療政策学者の津川友介氏は、noteの記事「なぜ医療に市場原理は通用しないのか?」で、医療に市場原理が通用しない理由を体系的に解説しています。津川氏によれば、医療保険では「モラルハザード」と「逆選択」、医療サービスでは「情報の非対称性」「不完全競争」「緊急性と予測不能性」「医療保険による市場のゆがみ」「外部効果」の計7つの要因が市場原理の機能を阻害します。本稿では、この記事の内容を紹介しながら、医療における市場の失敗について解説します。先進国はなぜ医療を規制するのか津川氏は記事の冒頭で、先進国における医療規制の普遍性を指摘しています。規制が最も緩いとされるアメリカでさえ、医療は強い規制のもとで管理されています。医療が規制されていないのは、医療保険も医療機関も整備されていない発展途上国のみであり、先進国はすべて医療に規制を導入してきた歴史があります。この背景には、医療では市場原理が機能しないという経済学的な事実があります。津川氏は「医療経済学は医療における市場の失敗(Market failure)を学ぶ学問だと言っても過言ではありません」と述べています(津川友介「なぜ医療に市場原理は通用しないのか?」note、2025年12月22日)。医療を規制緩和すると、患者の医療費は高騰し、医療へのアクセスは悪化するというのが経済学の示す結論です。医療保険に市場原理が通用しない2つの理由医療保険で市場原理が機能しない理由は、モラルハザードと逆選択の2つです。これらは医療経済学における最重要概念とされています。モラルハザードとは、医療保険によって患者の自己負担額が本来の価格より低くなるため、需要が経済学的に最適な水準を超えてしまう現象です。津川氏の別記事「モラルハザードとは、コンビニ受診のことである」によれば、これは道徳的な問題ではなく、合理的な人間であれば当然起こる行動パターンの変化です。日本でいう「コンビニ受診」が、経済学でいうモラルハザードに該当します。逆選択とは、不健康な人ほどカバーの手厚い医療保険を購入し、健康な人ほど安価なプランを選ぶ現象です。津川氏の記事「医療経済学の「逆選択」ってなに?」では、ハーバード大学の医療保険プランで実際に起きた「逆選択の死のスパイラル」の事例が紹介されています。1995年から1998年にかけて、高価で手厚いプランは高リスクの人ばかりになり保険料が高騰、最終的に市場から撤退に追い込まれました。医療サービスに市場原理が通用しない5つの理由医療サービスにおいても、市場原理は機能しません。津川氏は5つの理由を挙げています。第一の理由は、情報の非対称性です。患者は病院に行く前に自分がどのような検査や治療を必要としているか分からず、医療費がいくらかかるかも把握できません。医師からMRIが必要と言われれば、その判断の妥当性を評価することは困難です。テレビを購入する際には価格や機能を比較検討できますが、医療サービスではそれが難しいのです。第二の理由は、不完全な競争市場です。大都市圏を除けば、同じ機能を持つ病院が地域に1つしかないことは珍しくありません。選択肢が限られた状態では、競争原理は働きません。アメリカでは医療機関の統合が進んだ結果、医療の質は改善せず医療費だけが高騰するという現象が認められています。第三の理由は、多くの病気の緊急性と予測不能性です。胸痛で病院を受診したところ急性心筋梗塞と診断された場合、その段階で隣町の評判の良い病院に移ることは難しいのが実情です。痛みや呼吸苦などの症状があれば、冷静な判断すら困難になります。このような状況では、病院側が価格を吊り上げても患者は「ノー」と言えません。第四の理由は、医療保険による市場のゆがみです。自由市場では売り手の価格と買い手の支払意思額が均衡しますが、医療保険があると患者は3割負担で済むため、保険がない場合より多くの医療サービスを希望します。自由市場を導入しても、取引量は経済学的な最適水準を超えてしまいます。第五の理由は、外部効果です。感染症の治療を例にとると、患者を治療すれば本人だけでなく周囲の人々も病気に感染するリスクが減ります。このような正の外部効果がある場合、自由市場に任せると取引量は社会的に最適な水準を下回ってしまいます。アメリカのオバマケアに見る「規制された市場」津川氏は、アメリカのオバマケアを「規制された市場」の例として紹介しています。アメリカでは民間保険会社と民間医療機関が強大な力を持っていたため、日本のような社会保険制度の導入は政治的に不可能でした。そこでオバマケアでは、市場の失敗を最小限にとどめるための規制を整備する方法が採られました。この事例は、医療には市場原理が通用しないため、何らかの規制が必要であるという経済学の知見を裏付けています。医療は規制がないよりもあった方がうまく機能し、経済学的に最適な状態に近づくと考えられています。まとめ医療に市場原理が通用しない理由は、医療保険の2つの要因と医療サービスの5つの要因、計7つに整理できます。モラルハザード、逆選択、情報の非対称性、不完全競争、緊急性と予測不能性、医療保険による市場のゆがみ、外部効果です。これらの要因により、医療を規制緩和しても効率は改善せず、むしろ医療費の高騰とアクセスの悪化を招きます。津川氏の記事は、医療経済学の視点から医療制度を理解するための基礎を提供しています。参考文献* 津川友介「なぜ医療に市場原理は通用しないのか?」note、2025年12月22日* 津川友介「モラルハザードとは、コンビニ受診のことである」note、2024年10月16日* 津川友介「医療経済学の「逆選択」ってなに?」note、2024年11月12日 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

OTC類似薬の保険給付見直しで薬剤費の自己負担が増加|2026年度から新制度スタート

OTC類似薬の保険給付見直しで薬剤費の自己負担が増加|2026年度から新制度スタート

Dec 31, 2025 04:57 岡大徳

令和7年12月25日に開催された第209回社会保障審議会医療保険部会において、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しが議論されました。この見直しは、OTC医薬品で対応している患者との公平性確保と、現役世代の保険料負担軽減を目的としています。本記事では、令和8年度中に実施予定の新制度の内容を解説します。新制度では、OTC医薬品と成分・投与経路が同一の医療用医薬品77成分(約1,100品目)に対し、薬剤費の4分の1を「特別の料金」として保険外負担とします。対象となる症状は、風邪・鼻炎・胃痛・便秘など日常的な軽症状が中心です。こどもやがん患者、難病患者、低所得者などには配慮措置が設けられ、特別の料金は徴収されません。新制度創設の背景と目的OTC類似薬の保険給付見直しは、2つの課題を解決するために創設されます。第一の課題は、OTC医薬品利用者と医療用医薬品利用者の間に生じている不公平です。現役世代を中心に、平日の診療時間中に受診することが困難な患者は、OTC医薬品を自費で購入して対応しています。一方、同じ症状であっても医療機関を受診すれば、他の被保険者の保険料負担で医療用医薬品の給付を受けられます。この負担の不均衡が問題視されてきました。第二の課題は、現役世代の保険料負担の増大です。高齢化の進展に伴い、医療費は増加を続けています。OTC医薬品で対応可能な軽症状にまで保険給付を行うことは、現役世代の保険料負担をさらに重くする要因となっています。これらの課題を踏まえ、政府は保険外併用療養費制度の中に「特別の料金」を求める新たな仕組みを創設することを決定しました。この仕組みは長期収載品(後発医薬品のある先発医薬品)で既に導入されている方式を参考にしています。対象となる医薬品と特別の料金特別の料金の対象となる医薬品は、77成分・約1,100品目です。対象医薬品の選定基準は、OTC医薬品との代替性の高さに基づいています。具体的には、OTC医薬品と成分が同一であること、投与経路が同一であること、一日最大用量が異ならないことの3条件を満たす医療用医薬品が機械的に選定されました。主な対応症状は以下のとおりです。* 鼻炎(内服・点鼻)* 胃痛・胸やけ* 便秘* 解熱・痛み止め* 風邪症状全般* 腰痛・肩こり(外用)* みずむし* 殺菌・消毒* 口内炎* おでき・ふきでもの* 皮膚のかゆみ・乾燥肌特別の料金は、対象薬剤の薬剤費の4分の1と設定されました。患者は従来の定率負担(1〜3割)に加えて、薬剤費の4分の1を保険外負担として支払うことになります。配慮措置の対象者新制度では、特定の患者に対して特別の料金を徴収しない配慮措置が設けられます。配慮措置の対象となるのは、以下の方々です。* こども* がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方* 低所得者* 入院患者* 医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方これらの配慮措置は、患者団体からのヒアリング結果を踏まえて設計されました。がん患者の疼痛治療や難病患者の長期治療には、OTC類似薬が不可欠なケースがあります。また、アトピー性皮膚炎などの慢性疾患では、症状コントロールのために継続的な投薬が必要です。こうした医療上の必要性がある場合には、追加負担を求めないこととしています。今後のスケジュールと将来展望新制度は令和8年度中に実施される予定であり、法改正を伴います。実施に向けた技術的な検討として、対象医薬品の詳細な範囲や、長期使用等の医療上の必要性を判断する考え方などが専門家の意見を聞きながら進められます。将来的には、制度の対象範囲を拡大する方針が示されています。令和9年度以降、OTC医薬品の対応する症状の適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品の相当部分にまで対象を広げることが目指されています。また、特別の料金をいただく薬剤費の割合(現行4分の1)の引き上げも検討される予定です。制度拡大に向けた環境整備として、政府は3つの取組を推進します。第一に、セルフメディケーションに関する国民の理解を深める取組です。第二に、OTC医薬品に関する医師・薬剤師の理解を深める取組です。第三に、医療用医薬品のスイッチOTC化に係る政府目標の達成に向けた取組です。まとめOTC類似薬の保険給付見直しは、令和8年度中に実施予定の医療保険制度改革です。この改革は、OTC医薬品利用者との公平性確保と現役世代の保険料負担軽減を目的としています。対象は77成分・約1,100品目で、薬剤費の4分の1が特別の料金として保険外負担となります。こどもや慢性疾患患者、低所得者などには配慮措置が設けられており、医療上必要な場合には追加負担は求められません。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2025年12月決定】高額療養費制度の見直し内容を徹底解説|長期療養者・低所得者への配慮と負担変化

【2025年12月決定】高額療養費制度の見直し内容を徹底解説|長期療養者・低所得者への配慮と負担変化

Dec 30, 2025 05:46 岡大徳

高額療養費制度は、高齢化の進展や高額薬剤の開発・普及等を背景に、医療費全体の約2倍のスピードで伸びています。この状況を受け、厚生労働省は2025年5月に「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を設置し、制度の見直しに向けた検討を進めてきました。本稿では、2025年12月25日に開催された第209回社会保障審議会医療保険部会・第9回専門委員会の合同会議で示された見直し内容について解説します。今回の見直しは、長期療養者と低所得者への配慮を重視しながら、応能負担の考え方に基づいて所得区分を細分化する内容となっています。具体的には、多数回該当の金額を現行水準で据え置くとともに、新たに「年間上限」を導入して長期療養者の負担軽減を図ります。また、住民税非課税ラインを若干上回る年収200万円未満の方については、令和8年8月から多数回該当の金額を引き下げる措置を講じます。施行は令和8年8月(月額限度額見直し・年間上限導入)と令和9年8月(所得区分細分化)の2段階で行われ、国民や医療関係者への周知期間を確保したうえで順次実施されます。見直しの背景と基本的な考え方高額療養費制度の見直しは、医療保険制度全体の持続可能性を確保するために行われます。高齢化の進展や医療の高度化、とりわけ高額薬剤の開発・普及等を背景に医療費全体が増大するなか、現役世代の保険料負担に配慮しつつ、セーフティネット機能を将来にわたって堅持することが求められています。専門委員会では、患者団体や保険者、医療関係者、学識経験者など様々な立場の方からヒアリングを行い、計8回にわたる議論を経て基本的な考え方を取りまとめました。見直しの基本方針は4つの柱で構成されています。第1に、長期療養者への配慮として多数回該当の金額据え置きと年間上限の導入を行います。第2に、低所得者への配慮として住民税非課税区分の限度額引上げ率を緩和するとともに、年収200万円未満の方の多数回該当金額を引き下げます。第3に、応能負担の強化として所得区分を細分化し、所得に応じたきめ細かい制度設計とします。第4に、70歳以上の外来特例について応能負担の考え方を踏まえた見直しを行います。現行制度の課題として、所得区分があまりにも大括りになっている点が挙げられます。年収約370万円の方と年収約770万円の方が同じ区分に整理され、限度額も同じ取扱いとなっています。また、所得区分が1段階変更となるだけで限度額が2倍程度に増加するなど、応能負担の考え方からは改善の余地があります。そのため、住民税非課税区分を除く各所得区分を3区分に細分化し、所得区分の変更に応じて限度額が急増または急減しない制度設計とすることが適当とされました。具体的な見直し内容月額限度額の見直しは、令和8年8月から実施されます。70歳未満の自己負担限度額について、年収約1,160万円以上の区分では現行の252,600円+1%から270,300円+1%に引き上げられます。年収約770万円〜約1,160万円の区分では現行の167,400円+1%から179,100円+1%に、年収約370万円〜約770万円の区分では現行の80,100円+1%から85,800円+1%に、それぞれ見直されます。一方、多数回該当の金額は全ての所得区分で現行水準を維持し、長期療養者の負担増加を防ぎます。所得区分の細分化は、令和9年8月から実施されます。年収約1,160万円以上の区分は、年収約1,650万円以上(342,000円+1%)、年収約1,410万円〜約1,650万円(303,000円+1%)、年収約1,160万円〜約1,410万円(270,300円+1%)の3区分に細分化されます。同様に、年収約770万円〜約1,160万円の区分と年収約370万円〜約770万円の区分もそれぞれ3区分に細分化されます。この細分化により、応能負担の考え方に基づいたよりきめ細かい制度設計が実現します。年間上限の導入は、今回の見直しにおける重要な新制度です。現行制度では、直近12ヶ月の間に3回以上の高額療養費制度の利用がなければ多数回該当の対象とならず、長期療養者であっても大きな経済的負担が生じる場合があります。新たに導入される年間上限は、令和8年8月時点では年収約370万円〜約770万円の区分で53万円(月額平均約44,200円)に設定され、令和9年8月の所得区分細分化後は細分化後の各区分に適用されます。月単位の限度額に到達しない方であっても、年間上限に達した場合にはそれ以上の負担は不要となり、保険者から償還を受けられます。まずは患者本人からの申出を前提とした運用で開始されます。なお、年収約200万円未満の区分に該当することが確認できた方については、年間上限41万円が適用され、令和9年8月以降に償還払いとなります。外来特例の見直しも実施されます。70歳以上の高齢者に設けられている外来特例について、応能負担の考え方を踏まえた限度額の見直しが行われます。住民税非課税区分では月額上限が現行の8,000円から11,000円(令和8年8月)、13,000円(令和9年8月)に引き上げられます。現行制度では住民税非課税区分に年間上限がありませんが、今回の見直しで新たに年間上限(9.6万円)が導入されるため、毎月上限額を利用される方の年間最大負担額は現在と変わりません。一方、年金年収約80万円以下の一定所得以下の区分では、月額上限8,000円が据え置かれ、低所得者への配慮がなされています。外来特例の対象年齢については、「強い経済」を実現する総合経済対策(令和7年11月21日閣議決定)において「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」が掲げられていることを踏まえ、高齢者の窓口負担の見直しと併せて具体案を検討し、一定の結論を得ることとされています。患者負担への影響長期療養者の負担は、今回の見直しにおいて手厚く配慮されています。多数回該当の対象者については、多数回該当の金額が据え置かれるため負担額は変わりません。例えば、慢性骨髄性白血病で前年から継続して多数回該当となっている40歳代・女性(年収約480万円)のケースでは、見直し後も年間の自己負担額は22.2万円のまま維持されます。年間上限の導入により、これまで多数回該当に該当しなかった長期療養者の負担は軽減されます。年収約370万円〜約510万円で現在の自己負担が76.7万円のケースでは、年間上限53万円の適用により年間約23.7万円の負担減となります。また、限度額見直しにより多数回該当から外れてしまう方についても、年間上限に該当することで年間約2.2万円の負担減となる見込みです。高額薬剤を単月処方された方(例:遺伝性網膜ジストロフィーでルクスターナ注を使用、薬価約4,960万円)についても、年間上限の適用により年間約4.3万円の負担減となります。低所得者への配慮も手厚く行われています。年収200万円未満の多数回該当の対象者については、令和8年8月から多数回該当の金額が現行の44,400円から34,500円に引き下げられます。例えば、乳がんで分子標的薬を使用している40歳代・女性(年収約200万円)のケースでは、年間の自己負担額が現行の約44.7万円から約34.8万円に減少し、年間約9.9万円の負担減となります。一方、高額療養費の利用頻度が低い方については負担増となります。単月のみ高額療養費に該当する方(例:胃がん・内視鏡手術、年収約410万円)の場合、月単位の限度額見直しにより年間約0.6万円の負担増となります。年3回高額療養費に該当する方(年収約770万円)の場合は、年間約8.8万円の負担増となります。ただし、これらの方についても年間上限が導入されることで、仮に新たな治療が必要となった場合でも年間上限額を超えて医療費を支払う必要は生じません。今後の検討課題多数回該当のカウントリセット問題は、今後検討が進められる課題です。現行制度では、加入する保険者が変わる際に多数回該当のカウントがリセットされる仕組みとなっています。転職や退職などで保険者が変わった場合、それまでの高額療養費の利用回数が引き継がれず、多数回該当の適用を受けられなくなる問題があります。専門委員会では、実務的な課題はあるものの、カウントが引き継がれる仕組みの実現に向けた検討を進めていくべきとされました。医療費総額の見える化も重要な課題として挙げられています。高額療養費が現物給付化されていることで費用総額が見えにくくなっているとの指摘があり、高額療養費制度を利用した場合に全体としてどの程度の医療費がかかっているのか、また高額療養費としてどの程度の金額が還付されているのかといった全体像の見える化を進めていくことが重要とされました。実務的にどのような対応が可能かも含め、今後検討が深められる予定です。まとめ高額療養費制度の見直しは、セーフティネット機能を維持しながら応能負担を強化する内容となっています。長期療養者については多数回該当の金額据え置きと年間上限の導入により負担増加を防ぎ、低所得者については住民税非課税区分の限度額引上げ率緩和と年収200万円未満の方の多数回該当金額引き下げにより配慮がなされています。施行は令和8年8月(月額限度額見直し・年間上限導入)と令和9年8月(所得区分細分化)の2段階で行われます。外来特例の対象年齢引上げや多数回該当のカウントリセット問題など、今後の検討課題も残されており、医療保険部会における医療保険制度改革全体の議論と歩調を合わせながら、具体的な制度設計が進められていく予定です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

2040年を見据えた医療保険制度改革の全体像|5つの柱と今後の方向性

2040年を見据えた医療保険制度改革の全体像|5つの柱と今後の方向性

Dec 29, 2025 04:52 岡大徳

社会保障審議会医療保険部会は、2025年9月から12回の議論を重ね、医療保険制度改革の方向性を「議論の整理(案)」としてまとめました。この改革は、2040年頃に現役世代が急速に減少し高齢者数がピークを迎えることを見据え、全世代で支え合う持続可能な医療保険制度の構築を目指すものです。今回の改革は、セーフティネット機能の確保、現役世代・次世代への支援強化、世代間の公平確保、効率的な給付の推進、国民健康保険制度改革の5つの柱で構成されています。出産費用の現物給付化による妊婦負担の軽減、高額療養費制度の見直し、後期高齢者医療制度への金融所得の勘案、OTC類似薬の薬剤自己負担の見直しなど、幅広い施策が総合的なパッケージとして提案されています。本記事では、各改革の背景と具体的な内容を解説します。改革の背景と4つの視点今回の医療保険制度改革は、人口構造の変化と経済情勢の変化という2つの大きな背景を踏まえて検討されました。人口構造については、2025年までに団塊の世代全員が75歳以上となり、その後は生産年齢人口の減少が加速します。現役世代の保険料負担の上昇を放置することは、医療保険制度の持続可能性の観点から適切ではありません。経済情勢については、物価や賃金の上昇により、日本経済が新たなステージに移行しつつあることへの対応が求められています。これらの背景を踏まえ、医療保険部会は4つの視点から議論を進めました。第1の視点は、高度な医療を取り入れつつセーフティネット機能を確保し、命を守る仕組みを持続可能とすることです。第2の視点は、現役世代からの予防・健康づくりや出産等の次世代支援を進めることです。第3の視点は、世代内・世代間の公平をより確保し、全世代型社会保障の構築を一層進めることです。第4の視点は、患者にとって必要な医療を提供しつつ、より効率的な給付とすることです。セーフティネット機能の確保|高額療養費制度の見直し高額療養費制度の在り方については、医療保険部会の下に設置された「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」において、計8回にわたり多様な議論が行われました。専門委員会には、保険者や労使団体、学識経験者に加え、患者団体の方など当事者やその声を伝える立場の方が参画しました。検討に当たっては、患者団体、保険者、医療関係者、学識経験者からのヒアリングを実施しています。複数の事例に基づく経済的影響のイメージやデータを踏まえた多角的かつ定量的な視点での議論も行われました。専門委員会では「高額療養費制度の見直しを行っていく場合の基本的な考え方」がとりまとめられました。高齢者からのヒアリングでは、外来特例を利用する当事者から「この制度は絶対に廃止しないでほしい」という声が届いていること、制度の周知や説明の改善が強く求められていること、高額療養費制度は高齢者の生活を支える大切な仕組みであり今後も継続してほしいことなどの意見がありました。現役世代及び次世代の支援強化|出産支援と子育て世代支援現役世代及び次世代の支援強化として、出産に対する支援の強化、国民健康保険制度における子育て世代への支援拡充、協会けんぽにおける予防・健康づくりの取組の3つの施策が提案されています。出産に対する新たな給付体系出産費用については、少子化の進行や物価・賃金の上昇等を背景に、令和5年度に出産育児一時金が原則42万円から原則50万円に引き上げられた後も上昇し、妊産婦の経済的負担が増加しています。現行の出産育児一時金という給付方式では、出産に伴う経済的負担軽減の目的が十分に達せられなくなりつつあると考えられます。新たな給付体系では、現行の出産育児一時金に代えて、保険診療以外の分娩対応に要する費用について、全国一律の水準で保険者から分娩取扱施設に対して直接支給する現物給付化を図ります。分娩を取り扱う病院、診療所及び助産所における分娩を対象に、出産独自の給付類型を設けた上で、妊婦に負担を求めず、設定した費用の10割を保険給付とします。分娩1件当たりの基本単価を国が設定し、手厚い人員体制を講じている場合やハイリスク妊婦を積極的に受け入れる体制を整備している場合など、施設の体制・役割等を評価して加算を設けることが適当とされました。また、全ての妊婦を対象とした現金給付を設けることで、保険診療が行われた際の一部負担金など、それ以外に生じる費用についても一定の負担軽減が図られます。新たな給付体系への移行時期については、当分の間、施設単位で現行の出産育児一時金の仕組みも併存し、可能な施設から新制度に移行していくことが適当とされました。国民健康保険制度における子育て世代への支援拡充国民健康保険では、令和4年4月から、未就学児に係る均等割保険料について、その5割を公費により軽減する措置が講じられています。この軽減措置の対象を高校生年代まで拡充することについて、国と地方の間で調整が行われ、法改正を含め対応する方向性が示されました。協会けんぽにおける予防・健康づくりの取組協会けんぽでは、医療費の適正化及び加入者の健康の保持増進を一層推進するため、健診体系の見直しや重症化予防対策の充実に取り組んでいます。「加入者の年齢・性別・健康状態等の特性に応じたきめ細かい予防・健康づくり」を適切かつ有効に実施していくことを法令上明確化していくことが提案されました。世代内、世代間の公平の確保|高齢者医療と金融所得の勘案世代内・世代間の公平の確保として、高齢者医療における負担の在り方と、医療保険における金融所得の勘案について議論が行われました。高齢者医療における負担の在り方高齢者の受診の状況や所得の状況について確認したところ、高齢者の受診率や受診日数は改善傾向にあり、医療費水準は5歳程度若返っていることが分かりました。高齢者の就業率・平均所得は上昇傾向にあり、所得や年金収入の分布の推移を見ても「所得なし」の者や低年金の者の割合は減少傾向にあります。年齢階級別の一人当たり医療費と一人当たり自己負担額をみると、高齢になるにつれ一人当たり医療費は高くなりますが、一人当たり自己負担額のピークは60代後半です。70代前半は60代後半より、70代後半は70代前半より自己負担額が低くなり、一人当たり医療費と自己負担額の逆転が生じています。高齢者の窓口負担割合の在り方については、経済対策において「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」について「令和7年度中に具体的な骨子について合意し、令和8年度中に具体的な制度設計を行い、順次実施する」項目とされており、引き続き検討されます。医療保険における金融所得の勘案上場株式の配当などの金融所得については、確定申告を行う場合は保険料や窓口負担等の算定において所得として勘案されますが、確定申告を行わない場合は勘案されない不公平な取扱いとなっています。金融所得の把握方法については、本人の確定申告の有無に関わらず、金融機関等に対し所得税法などの規定により税務署に提出が義務付けられている法定調書を活用することが提案されました。対象となる医療制度としては、まずは後期高齢者医療制度から金融所得を勘案することとされています。必要な医療の提供と効率的な給付の推進|薬剤費と入院費用の見直し必要な医療の提供と効率的な給付の推進として、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、長期収載品の選定療養の見直し、入院時の食費・光熱水費の引上げなどが議論されました。OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し医療機関における必要な受診を確保しつつ、OTC医薬品で対応している患者とOTC医薬品で対応できる症状であるにもかかわらず医療用医薬品の給付を受ける患者との公平性を確保する観点から、薬剤を保険適用としつつ、薬剤費の一部を保険給付の対象外とし、患者に「特別の料金」を求める新たな仕組みを創設することが提案されました。こども、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方、入院患者や処置等の一環でOTC類似薬の処方が必要な方、医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方については、特別の料金を徴収しない方向で検討が進められます。長期収載品の選定療養の見直し令和6年度診療報酬改定において、長期収載品を選定療養の対象とし、患者の希望により長期収載品を使用する場合には、長期収載品と後発医薬品の価格差の1/4相当を患者負担としました。施行後、後発医薬品の数量ベースでの使用割合は約4ポイント上昇し90%以上になっており、一定の効果があったと言えます。後発医薬品の安定供給の確保に取り組むとともに、供給状況や患者負担の変化にも配慮しつつ、患者負担の水準を価格差の1/2以上へと引き上げる方向で検討することが提案されました。入院時の食費・光熱水費入院時の食費については、食材料費等の高騰を踏まえ、標準負担額について引上げの方向で見直しを行うとともに、所得区分等に応じて一定の配慮を行うことが提案されました。入院時の光熱水費についても同様に、近年の光熱・水道費の上昇を踏まえ、標準負担額について引上げの方向で見直しを行うことが提案されています。国民健康保険制度改革の推進国民健康保険制度については、被保険者の年齢構成が高く医療費水準が高いこと、被保険者の所得水準が低いこと、小規模保険者が多く財政運営が不安定になるリスクが高いことなどの課題があります。具体的な改革として、子どもに係る均等割保険料の軽減措置の対象を高校生年代まで拡充すること、保険料水準統一加速化プランの改定について検討し目標年度の設定や前倒しの検討を含め統一に向けた議論を積極的に行うこと、財政安定化基金の使途を拡充することなどが提案されました。国民健康保険組合については、負担能力に応じた負担等を進める観点から、定率補助の補助率の見直しが検討されています。財政力及び被保険者の健康の保持増進等の取組の実施状況が一定の水準に該当する国保組合のみ、例外的に新たな補助率を適用することが提案されました。まとめ今回の医療保険制度改革は、2040年頃を見据えた中長期的な時間軸で、現役世代の負担を軽減しつつ、年齢に関わりなく能力に応じて負担し支え合う「全世代型社会保障」の構築を目指すものです。改革は、セーフティネット機能の確保、現役世代・次世代への支援強化、世代間の公平確保、効率的な給付の推進、国民健康保険制度改革の5つの柱で構成されています。出産費用の現物給付化による妊婦負担の軽減、後期高齢者医療制度への金融所得の勘案、OTC類似薬の薬剤自己負担の見直しなど、幅広い施策が総合的なパッケージとして提案されています。厚生労働省においては、十分な準備期間や国による支援・丁寧な周知を行いながら、改革を進めていくことが求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2025年医療法改正】中医協が示す外来医師過多区域とオンライン診療の診療報酬対応

【2025年医療法改正】中医協が示す外来医師過多区域とオンライン診療の診療報酬対応

Dec 28, 2025 05:26 岡大徳

令和7年12月12日に公布された医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号)に基づき、中央社会保険医療協議会では診療報酬上の対応について議論を開始しました。この改正は、高齢化に伴う医療ニーズの変化や人口減少を見据え、地域での良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を構築することを目的としています。中医協における議論の焦点は、外来医師過多区域における診療報酬上の対応とオンライン診療受診施設の保険診療上の位置付けの2点です。外来医師過多区域では、地域医療への要請に応じない医療機関に対して保険医療機関の指定期間を短縮できる仕組みが導入されます。オンライン診療では、新たに設けられる「オンライン診療受診施設」の保険薬局内への開設について、医薬分業の観点から検討が必要となります。本稿では、これらの課題と論点を解説します。外来医師過多区域における診療報酬上の対応外来医師過多区域における診療報酬上の対応は、医師偏在是正に向けた総合的な対策の一環として位置付けられています。この対応では、地域で不足している医療機能等の提供要請に応じない医療機関に対し、保険医療機関の指定期間を6年から3年以内に短縮できる仕組みが導入されます。都道府県は、外来医師過多区域の新規開業者に対し、開業6か月前に提供予定の医療機能等の届出を求めることができます。届出後、都道府県は協議の場への参加を求め、地域で不足する医療や医師不足地域での医療の提供を要請します。要請に応じない場合は、都道府県医療審議会への出席と理由説明を求め、それでも応じなければ勧告・公表を行います。保険医療機関の指定期間短縮は、これらの手続きを経ても要請に応じない医療機関に対して適用されます。具体的には、要請に応じなかった場合、勧告を受けた場合、または勧告に従わなかった場合に、厚生労働大臣が保険医療機関の指定を3年以内の期限付きとすることができます。指定期間が3年の間は、医療機関名等の公表、保健所等による確認、診療報酬上の対応、補助金の不交付といった措置が講じられます。中医協では、指定期間が3年以内となった医療機関の診療報酬上の対応が論点となっています。この医療機関は「地域医療への寄与が不十分」との位置づけであることから、機能強化加算や地域包括診療加算等のかかりつけ医機能や地域医療提供体制への貢献に関する評価が含まれる診療報酬項目について、どのように取り扱うかが検討されます。オンライン診療に関する総体的な規定の創設に伴う対応オンライン診療に関しては、医療法改正により総体的な規定が設けられ、新たに「オンライン診療受診施設」という施設類型が創設されます。この改正は、これまで解釈運用によって機動的・柔軟に実施されてきたオンライン診療について、法制上の位置づけを明確化することを目的としています。改正法では、オンライン診療を医療法に定義し、オンライン診療を行う医療機関はその旨を都道府県に届け出ることとなります。厚生労働大臣はオンライン診療の適切な実施に関する基準(オンライン診療基準)を定め、医療機関の管理者はこの基準を遵守するための措置を講じる義務を負います。オンライン診療基準には、診療計画、本人確認、薬剤処方・管理、診察方法、医師・患者の所在、通信環境などに関する事項が含まれます。オンライン診療受診施設は、患者がオンライン診療を受ける専用の施設として新たに創設されます。設置者は、業として、オンライン診療を行う医師または歯科医師の勤務する医療機関に対して、オンライン診療を患者が受ける場所を提供します。設置者は設置後10日以内に都道府県知事に届け出る義務があり、オンライン診療を行う医療機関の管理者は受診施設の設置者に対してオンライン診療基準への適合性を確認することとされています。保険薬局内のオンライン診療受診施設の開設に関する課題保険薬局内にオンライン診療受診施設を開設することについては、医薬分業に関する療担規則および薬担規則の規定やその趣旨を踏まえた検討が必要です。医療法上はオンライン診療受診施設の設置場所に制限がなく、保険薬局内への設置も可能ですが、保険診療の観点からは3つの課題が指摘されています。第一の課題は、保険薬局と保険医療機関の独立性です。薬担規則では、健康保険事業の健全な運営の確保の観点から、保険薬局は保険医療機関と一体的な構造・経営が禁止されています。保険薬局内で患者が保険医療機関によるオンライン診療を受ける状況となることについて、独立性の観点からあり方を整理する必要があります。第二の課題は、特定の保険薬局への誘導です。療担規則では保険医療機関が特定の保険薬局へ誘導することが禁止されており、薬担規則では保険薬局が当該薬局への誘導の対償として保険医療機関等に金品その他の財産上の利益を供与することが禁止されています。薬局内で患者が受けたオンライン診療で発行された処方箋は、概ね当該薬局で調剤されると想定されることから、保険薬局でのオンライン診療受診施設は当該薬局で調剤を受けるよう誘導する効果を生むことが懸念されます。第三の課題は、経済上の利益の提供による誘引です。薬担規則では、事業者またはその従業員に対し、患者を紹介する対価として金品その他経済上の利益を提供することにより、当該患者が自己の保険薬局において調剤を受けるように誘引することが禁止されています。保険薬局が自らオンライン診療受診施設を開設しない場合でも、オンライン診療受診施設を運営する事業者に場所を提供する場合、事業者に経済上の利益を提供し患者が自己の保険薬局にて調剤を受けるよう誘引する効果を生じることが懸念されます。まとめ医療法等改正を踏まえた診療報酬上の対応について、中医協では2つの論点が示されています。第一に、外来医師過多区域において地域医療への要請に応じず保険医療機関の指定が3年以内となった医療機関について、機能強化加算や地域包括診療加算等の診療報酬項目の評価をどのように考えるかという点です。第二に、オンライン診療受診施設の保険薬局内への開設について、医薬分業の観点からその是非や取り扱いをどうするか、また医療資源が少ない地域の医療提供体制確保を踏まえた配慮をどうするかという点です。外来医師過多区域対応やオンライン診療関連は令和8年4月、その他の規定は令和9年4月を中心に段階的に施行されます。今後の中医協での議論が注目されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定へ向けた3つの技術的論点|骨密度検査・遠隔心臓リハビリ・コロナ治療薬の扱いを解説

令和8年度診療報酬改定へ向けた3つの技術的論点|骨密度検査・遠隔心臓リハビリ・コロナ治療薬の扱いを解説

Dec 27, 2025 04:34 岡大徳

令和7年12月24日に開催された中央社会保険医療協議会総会(第638回)において、令和8年度診療報酬改定に向けた技術的事項が審議されました。本稿では、骨密度検査の算定要件見直し、情報通信機器を用いた心大血管疾患リハビリテーション、新型コロナウイルス感染症治療薬の扱いという3つの論点について解説します。今回の審議では、骨塩定量検査の算定間隔について学会ガイドラインとの整合性を図る方向性が示されました。遠隔心臓リハビリテーションについては、薬事承認されたプログラム医療機器に対応した評価のあり方が検討されています。新型コロナウイルス感染症については、5類移行後の状況を踏まえ、DPCにおける診断群分類の設定検討と抗ウイルス剤の特例措置終了が論点となっています。骨密度検査の算定要件見直し骨塩定量検査の現行算定要件は、患者1人につき4月に1回に限り算定可能とされています。この要件は、関連学会のガイドライン推奨と乖離している状況です。骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版では、測定間隔について一般的に開始1年後、治療法が確立された後は1年間以上の間隔でよいとされています。このガイドラインでは、年に1回以上の測定を要する場合として、新規骨折発生時やビスホスホネート薬治療の一時中止を検討する場合等が挙げられています。測定間隔を短縮する必要がある場合も明示されています。急激な骨減少・増加をきたす薬剤(グルココルチコイド、アロマターゼ阻害薬、抗アンドロゲン療法、骨形成促進薬)の投与時や、急激な骨減少・増加をきたす病態(吸収不良、全身性炎症疾患、長期不動、人工閉経)がある場合には、観察期間の短縮が推奨されています。今回の論点は、このガイドライン推奨を踏まえた算定要件の見直しです。現行の「4月に1回」という要件を、ガイドラインに沿った形で調整することが検討されています。情報通信機器を用いた心大血管疾患リハビリテーション遠隔で心臓リハビリテーションを実施するプログラム医療機器「リモハブ CR U」が薬事承認されました。この機器は、専用のエルゴメータとウェアラブル心電計を併用し、遠隔で在宅の患者を最大8名同時にモニタリングしながら心臓リハビリテーションを実施できます。このプログラム医療機器の有効性は、医師主導治験で確認されています。治験では、入院中の集団心大血管疾患リハビリテーション及び退院後3~4週間の通院による心大血管リハビリテーション後に患者を無作為に割り付け、当該製品を用いた遠隔心リハを実施した群と通院群を比較しました。12週間の介入終了時の6分間歩行距離の変化量について、非劣性が示されています。安全性についても検証されています。有害事象の発生率は遠隔心リハ群49.1%、通院心リハ群35.7%でした。発生した有害事象はいずれも本品使用との因果関係は否定されています。現行制度との整合性が課題となっています。心大血管リハビリテーション料の算定要件には、医師が直接監視を行うか、同一建物内において直接監視をしている他の従事者と常時連絡が取れる状態かつ緊急事態に即時的に対応できる態勢であることが求められています。施設基準には、専用の機能訓練室や酸素供給装置、除細動器、心電図モニター装置等の設置が規定されています。現時点では、情報通信機器を用いた場合の規定は示されていません。日本心臓リハビリテーション学会のステートメント(2023年10月)では、緊急時対応の観点からケアギバーが状況把握できることが望ましいとされています。独居で近傍にもサポートできるケアギバーがいない場合には、遠隔心リハの適応には慎重を期するとの指針が示されています。今回の論点は、これらの算定要件・施設基準と学会指針を踏まえた、遠隔心臓リハビリテーションの評価のあり方です。新型コロナウイルス感染症治療薬の扱いDPC/PDPSにおける新型コロナウイルス感染症の扱いについて、2つの論点が示されています。1つ目は診断群分類の設定検討、2つ目は抗ウイルス剤に係る特例措置の終了です。診断群分類については、これまで出来高算定とされてきました。令和6年度診療報酬改定時は、改定に用いるデータの対象期間中(令和4年10月~令和5年9月)に感染症法上の位置づけの変更等が行われ、入院診療の実態が大きく変化していたため、引き続き出来高算定とされました。令和8年度改定では、データの対象期間中(令和6年10月~令和7年9月)に感染症法上の位置づけの変更等は行われていません。このため、「MDC毎の診断群分類見直し技術班」において、診断群分類の検討を行うことが論点となっています。抗ウイルス剤の特例措置については、終了が検討されています。令和6年4月以降も当面の間、地域包括ケア病棟入院料や療養病棟入院基本料等を算定する患者、及び介護保険施設入所中の患者について、新型コロナウイルス感染症に係る抗ウイルス剤を包括範囲からの除外薬剤として薬剤料を算定できるとされてきました。令和5年度の千床あたり1月あたりの患者数は、最も多い地域包括ケア病棟で23.4人、療養病棟入院料1で15.3人、療養病棟入院料2で6.7人でした。介護保険施設では、介護老人保健施設で定員千人あたり2.8人、介護医療院で定員千人あたり19.6人でした。今回の論点は、通常の医療提供体制へ移行していることを踏まえ、これらの特例的な取扱いを終了することについてです。まとめ令和8年度診療報酬改定に向けて、3つの技術的事項が審議されています。骨塩定量検査の算定要件は、ガイドラインとの整合性を図る方向で見直しが検討されています。情報通信機器を用いた心大血管疾患リハビリテーションは、薬事承認されたプログラム医療機器に対応した評価のあり方が論点となっています。新型コロナウイルス感染症については、5類移行後の状況を踏まえ、DPCにおける診断群分類の設定検討と抗ウイルス剤の特例措置終了が検討されています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

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