岡大徳のポッドキャスト
spotify apple_podcasts youtube_music amazon_music youtube substack discord
R+

岡大徳のポッドキャスト

岡大徳 283 Episodes
岡大徳
木暮貴子
赤羽雄二
野嶋成美
オトーワン
下鳥誠
畑中伸枝
yuko6891
原田聡
あーるん
竹内友美
功刀雅士
齋藤愛子
金井夢子
吉田圭子
佐々木靖子
池本毅
酒井秀仁
與野和樹
KevinYanagihara
中村亮一
モトコレ
YasukoTerado
岩田恭子

人を尊重して話を聞かせていただく「アクティブリスニング」エバンジェリスト『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』著者赤羽雄二氏公認|『アクションリーディング』読書会開催|仲間と一緒に成長できる「親子のクオリティタイム」「最速ロールプレイング」「A4メモ書き」などのグループ運営|株式会社miiboのmiibo Designer|一般社団法人 遠隔健康医療相談適正推進機構 正会員

【配信内容】
配信URL;https://www.daitoku0110.news
3つの内容を配信中

1. 岡大徳
アクティブリスニングなどについて配信しています。
ブログなどの内容はこちら
https://daitoku0110.com
https://daitoku0110.jp
https://daitoku.site/

2. miiboDesigner
株式会社miiboのmiiboDesignerの岡大徳がmiiboについての新しい情報や気になった情報、ノウハウなど話していきます。
miiboデザイナーとは、miiboの会話の精度があがるように設計をしていく人のことです。
・プロフィールサイト:https://daitoku0110.net/
・miiboガイド(初めての人はこちらから):https://daitoku0110.net/miibo/
・miibo情報:https://daitoku0110.net/miibo-information/
・スライド共有サービスドクセル:https://www.docswell.com/tag/miibo

3. ナレッジマネジメント
岡大徳のNotesをもとにナレッジマネジメントの一環として配信しています。
岡大徳のNotes:https://daitoku0110.wiki


【Clubhouse】
https://www.clubhouse.com/@daitoku0110
・『アクションリーディング』行動が変わり人生が変わる読書会
https://bit.ly/38uMBJP
・親子のクオリティタイム
https://bit.ly/3Rf8X6z

【Peatix】
https://peatix.com/user/1425712/
・実践『アクションリーディング』自分を変える行動読書
https://action-reading.peatix.com/

【Facebook】
https://ms-my.facebook.com/oka.hironori.1
グループ
・実践『アクションリーディング』自分を変える行動読書:https://www.facebook.com/groups/practiceactionreading
・実践 最速ロールプレイング:https://www.facebook.com/groups/551556716178832
・実践『ゼロ秒思考』A4メモ書き:https://www.facebook.com/groups/notewriting

【Unstoppable Domains】
https://ud.me/daitoku0110.x

【ドクセル】
https://www.docswell.com/user/daitoku0110

https://www.daitoku0110.news?utm_medium=podcast">www.daitoku0110.news

https://www.daitoku0110.news/podcast
日本の医療が抱える「トリレンマ」とは?全日病会長が解説する医療の未来

日本の医療が抱える「トリレンマ」とは?全日病会長が解説する医療の未来

Oct 18, 2025 07:10 岡大徳

全日本病院協会会長の神野正博氏がYouTube動画シリーズ「医療のトリセツ」第1回を公開しました。この動画では、日本の医療システムが直面する「トリレンマ」について解説しています。日本の医療は現在、医療従事者や病院の犠牲の上に「アクセス」「コスト」「質」という3つの要素を何とか満たしています。しかし、働き方改革や物価上昇により、この仕組みは限界を迎えつつあります。日本の医療は、世界の常識である「オレゴンルール」を無視した形で3つの要素を満たしていますが、今後は2つを選択する必要に迫られています。オレゴンルールによれば、医療における3つの要素(アクセス、コスト、質)を同時に満たすことは不可能です。日本の医療システムは現在、医療従事者と病院の犠牲によって3つを何とか維持しています。しかし、働き方改革と物価上昇により、国民はどの2つを優先するかの選択を迫られています。オレゴンルールが示す医療の本質医療システムを構成する3つの要素は、同時に満たすことができないという原則があります。この原則は、アメリカのオレゴン州で確立された考え方で、「オレゴンルール」と呼ばれています。このルールは、医療における3つの要素、すなわち「アクセス(医療にかかりやすさ)」「コスト(費用)」「質」を同時に全て満たすことは不可能であるため、国民は2つを選ぶしかないという考え方です。この原則は、世界の医療システムにおける常識とされています。医療資源は有限であるため、3つの要素すべてを高い水準で維持することは現実的ではありません。そのため、各国は自国の事情や国民の価値観に応じて、3つのうち2つを優先する選択をしています。この選択が、各国の医療システムの特徴を決定づけています。世界各国の医療システムにおける選択世界の主要国は、オレゴンルールに従って異なる選択をしています。それぞれの選択には、明確な利点と引き換えに犠牲にする要素があります。「すぐに診てもらえて安い」という選択は、患者にとって魅力的に見えます。この組み合わせでは、医療へのアクセスが良好で、費用負担も軽くなります。しかし、資源が有限である以上、医療の質を犠牲にせざるを得ません。多くの患者を短時間で診察することになるため、一人ひとりへの丁寧な対応や高度な医療の提供が難しくなります。「安くて質が高い」という選択は、費用を抑えながら良質な医療を提供します。イギリスの医療システムがこの典型例です。イギリスでは、国民は比較的安い費用で質の高い医療を受けられます。しかし、その代償として、手術や専門医の診察まで長期間待たされることがあります。医療へのアクセスが制限されることで、コストと質のバランスを保っているのです。「すぐに診てもらえて質が高い」という選択は、最高水準の医療を提供します。アメリカの医療システムがこの例に該当します。アメリカでは、患者は迅速に専門医の診察や高度な治療を受けられます。ただし、この利便性と質の高さには高額な費用が伴います。高い保険料や自己負担を覚悟する必要があります。日本の医療システムの現状と持続可能性の課題日本の医療システムは、世界的に見て特異な状況にあります。日本では現在、「すぐに診てもらえて、費用もそこそこで、質も高い」という3つの要素が何とか成り立っています。これは、オレゴンルールを無視している状態です。この一見理想的な状況は、医療従事者と病院の犠牲の上に成り立っています。医療従事者は長時間労働を強いられ、病院は厳しい経営環境の中で診療報酬の範囲内で質の高い医療を提供し続けています。この仕組みによって、国民は世界的に見ても恵まれた医療環境を享受してきました。しかし、この仕組みは持続可能性の限界に達しつつあります。働き方改革により、これまでの長時間労働を前提とした医療提供体制を維持することが困難になっています。同時に、物価上昇や賃金上昇により、病院経営はさらに厳しさを増しています。これらの変化により、日本国民は重要な選択を迫られています。医療の3つの要素のうち、どの2つを優先するのか。この選択は、今後の日本の医療システムの方向性を決定づける重大な決断となります。まとめ日本の医療システムは、医療従事者と病院の犠牲によって、世界的に稀な「3つの要素を満たす医療」を実現してきました。しかし、働き方改革と経済環境の変化により、この仕組みの維持は困難になっています。神野会長が提起した「トリレンマ」は、今後の日本の医療を考える上で避けて通れない課題です。国民一人ひとりが、医療の未来について真剣に考え、議論する時期に来ています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

GLIM基準の活用状況が明らかに:病棟種別で最大約60ポイントの差、地域包括医療病棟100%達成の背景

GLIM基準の活用状況が明らかに:病棟種別で最大約60ポイントの差、地域包括医療病棟100%達成の背景

Oct 17, 2025 08:33 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会は、令和6年度診療報酬改定で導入された栄養管理体制の基準明確化に関する調査結果を公表しました。この改定では、世界の主要栄養学会が策定したGLIM基準を活用した低栄養評価が推奨されました。調査の目的は、GLIM基準の活用状況と低栄養患者の実態を把握し、今後の栄養管理体制の充実に向けた課題を明らかにすることです。調査結果は、病棟種別によってGLIM基準の活用状況に大きな差があることを示しました。GLIM基準の活用率は、地域包括医療病棟が100%と最も高く、特定機能病院が40.4%と最も低い状況です。低栄養リスクを有する患者の割合は、急性期一般入院料で約4割、地域包括医療病棟等で約8割に達しました。GLIM基準による低栄養(重度・中等度)に該当する患者は、地域包括医療病棟や回復期リハビリテーション病棟等で約3割を占めました。GLIM基準の導入により、多職種連携が進んだという回答が約5割ありました(回復期リハビリテーション病棟入院料1での調査)。分科会では、管理栄養士の病棟配置が的確な栄養スクリーニングを可能にしているとの評価がなされました。GLIM基準の活用状況に見る病棟種別の特徴GLIM基準の活用率は病棟種別で顕著な差を示しています。地域包括医療病棟入院料を算定している施設では100%がGLIM基準を栄養管理手順に位置づけていました。この高い活用率は、令和6年度改定で栄養管理体制の基準が明確化され、標準的な栄養スクリーニングを含む栄養状態の評価が求められたことに対応したものです。地域包括医療病棟に続いて、回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定している施設が98.0%、地域包括ケア病棟入院料を算定している施設が80.8%とGLIM基準を活用していました。これらの病棟では、退院後の生活を見据えた栄養管理が特に重視されています。対照的に、特定機能病院入院基本料を算定している施設では40.4%にとどまりました。急性期一般入院料1を算定している施設でも73.6%と、地域包括系の病棟と比較して低い水準です。特定機能病院では高度急性期医療に重点が置かれており、栄養管理手順へのGLIM基準の組み込みが他の病棟種別と比べて進んでいない実態が明らかになりました。低栄養リスク患者の分布から見える病棟機能の違い低栄養リスクを有する患者の割合は、病棟の機能特性によって大きく異なります。急性期一般入院料を算定している病棟では、低栄養リスクを有する患者が約4割でした。急性期病棟では、手術や急性疾患の治療を目的とした入院が中心であり、比較的短期間の入院が想定されています。地域包括医療病棟では、低栄養リスクを有する患者が約8割に達しました。地域包括ケア病棟入院料や回復期リハビリテーション病棟でも同様に高い割合を示しています。これらの病棟では、急性期治療を経た患者や在宅復帰を目指す患者を受け入れており、低栄養リスクの高い患者層が集中する傾向にあります。療養病棟入院料を算定している病棟でも、低栄養リスクを有する患者の割合は高い水準です。療養病棟では長期療養を必要とする患者が多く、栄養状態の維持が重要な課題となっています。病棟種別による低栄養リスク患者の分布の違いは、各病棟が担う医療機能と患者特性を反映したものといえます。GLIM基準による低栄養患者の実態と評価の精度GLIM基準による低栄養(重度・中等度)に該当する患者は、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟等で約3割を占めました。この結果は、単なる低栄養リスクの評価を超えて、GLIM基準による具体的な低栄養診断が行われている実態を示しています。GLIM基準では、表現型基準(意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少)と病因基準(食事摂取量減少・消化吸収能低下、疾病負荷・炎症)の両方から評価し、重症度判定まで行います。分科会では、地域包括医療病棟で低栄養リスク患者が多く検出されている要因について議論されました。管理栄養士が病棟配置されていることで、的確な栄養スクリーニングが実施できているという評価です。病棟配置された管理栄養士は、患者の日々の食事摂取状況を直接観察し、他職種と密接に連携して栄養状態を評価できます。分科会からは、低栄養リスクだけでなくGLIM基準で低栄養と判定された患者の状況についても詳細に示すべきとの指摘がありました。今後は、低栄養と判定された患者に対する栄養管理計画の内容や、栄養状態の改善度合いなど、より詳細な分析が求められています。GLIM基準導入がもたらした多職種連携の進展と課題回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定している病棟を対象とした調査では、GLIM基準の評価導入による影響が明らかになりました。「栄養評価に時間がかかるようになった」という回答が69.9%と最も多く、標準的な評価基準の導入に伴う業務負担の増加が示されています。GLIM基準では、体重減少率やBMI、筋肉量の測定など、複数の指標を総合的に評価する必要があります。一方で、「多職種連携が進んだ」という回答が52.8%に達しました。この結果は、GLIM基準という共通の評価基準を用いることで、医師、看護師、管理栄養士、リハビリテーション職種などが、患者の栄養状態について同じ認識を持ち、協働して栄養管理に取り組めるようになったことを示唆しています。「低栄養と判定される患者が増えた」という回答も39.2%ありました。これは、GLIM基準という標準的な評価基準の導入により、従来は見逃されていた低栄養患者が適切に抽出されるようになった可能性を示しています。栄養評価の精度向上は、適切な栄養介入の実施につながり、患者の予後改善に寄与することが期待されます。栄養管理体制の充実に向けた今後の展望令和6年度診療報酬改定では、栄養管理体制の基準が明確化され、標準的な栄養スクリーニングを含む栄養状態の評価が入院基本料等の施設基準に位置づけられました。各医療機関は、機能や患者特性等に応じた栄養管理手順を作成し、GLIM基準を活用することが望ましいとされています。今回の調査結果は、病棟種別によって取り組み状況に差があることを示しました。特定機能病院をはじめとする急性期病棟でのGLIM基準活用率の向上が課題です。高度急性期医療を担う病棟においても、患者の栄養状態を的確に評価し、早期から適切な栄養介入を行うことは、治療効果の向上や合併症の予防につながります。病棟の特性に応じた栄養管理手順の整備と、多職種による協働体制の構築が求められています。地域包括医療病棟や回復期リハビリテーション病棟での成功事例は、管理栄養士の病棟配置の重要性を示しています。病棟に配置された管理栄養士は、患者の栄養状態を継続的にモニタリングし、医師や看護師、リハビリテーション職種と密接に連携して、個別性の高い栄養管理計画を実施できます。分科会での議論を踏まえ、今後はGLIM基準で低栄養と判定された患者に対する栄養介入の内容や効果についても詳細な分析が進められる見込みです。標準的な評価基準の活用により、栄養管理の質の向上と、エビデンスに基づいた栄養介入の推進が期待されます。退院後の生活を見据えた入院患者の栄養管理体制の充実は、医療の質向上に欠かせない要素となっています。まとめ令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会の調査結果は、GLIM基準の活用状況が病棟種別で大きく異なることを明らかにしました。地域包括医療病棟での100%活用という成果は、管理栄養士の病棟配置による的確な栄養スクリーニング体制の重要性を示しています。回復期リハビリテーション病棟入院料1での調査では、多職種連携の進展という効果も確認されました。今後は、急性期病棟を含むすべての病棟種別での標準的な栄養評価体制の構築と、低栄養患者に対する効果的な栄養介入の実践が課題です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

医療機関の身体的拘束を最小化する取組:令和6年度診療報酬改定の効果と課題

医療機関の身体的拘束を最小化する取組:令和6年度診療報酬改定の効果と課題

Oct 16, 2025 08:13 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会は、医療機関における身体的拘束の実態を明らかにしました。高齢患者の増加に伴い、身体的拘束の実施率は施設によって大きな差があります。患者の尊厳を守る観点から、身体的拘束を最小化する組織的な取組が求められています。分科会の調査結果によると、身体的拘束の実施率は急性期から慢性期まで幅広く、特に認知症患者において実施率が高いことが判明しました。令和6年度診療報酬改定では認知症ケア加算の見直しが行われ、身体的拘束を実施した日の算定割合は28.1%に減少しています。身体的拘束を最小化するための指針は9割の医療機関で策定されているものの、管理者から職員への方針発信や代替方策の検討といった具体的な取組は5割から7割程度にとどまっています。身体的拘束を減らすには、経営者や管理者のリーダーシップによる組織一丸となった取組が必要です。身体的拘束の実施状況と実施理由身体的拘束の実施状況は病棟の種類によって異なり、実施理由も多様です。急性期から慢性期までの多くの入院料で、身体的拘束の実施率は0%から10%未満の施設が最も多い状況です。一方、回復期リハビリテーション病棟では実施率20%以上の施設が約3割、療養病棟と障害者施設等入院基本料では約4割を占めています。身体的拘束の実施理由として、治療室と療養病棟では「ライン・チューブ類の自己抜去防止」が5割を超えています。地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、障害者施設では「転倒・転落防止」が5割を超えています。身体的拘束が行われている患者のうち、「常時:手指・四肢・体幹抑制」の割合は、治療室、地域包括医療病棟、療養病棟で約4割に達しています。身体的拘束の実施期間について、調査基準日から過去7日間において身体的拘束を実施した日数が「7日間」である割合を見ると、地域包括ケア病棟で70.7%、回復期リハビリテーション病棟で78.8%、療養病棟で89.3%、障害者施設等で86.7%となっています。この数値は、これらの病棟では身体的拘束が継続的に実施されている実態を示しています。認知症患者と身体的拘束の関係認知症患者における身体的拘束の実施率は、認知症のない患者と比較して顕著に高い状況です。患者の状態別の身体的拘束の実施状況では、「認知症あり」「BPSDあり」「せん妄あり」の患者において実施率が高くなっています。要支援よりも要介護の患者で実施率が高く、認知症高齢者の日常生活自立度が低いほど実施率が高い傾向があります。いずれの入院料においても、「認知症あり」の場合は身体的拘束の実施率が高い結果となっています。「認知症なし」の場合における身体的拘束の実施率は、治療室で26.2%、療養病棟で11.7%、障害者施設等で25.1%ですが、それ以外の病棟では10%以下です。認知症の有無が身体的拘束の実施に大きく影響していることが明らかになっています。認知症患者の適切な医療を評価する目的で、平成28年度診療報酬改定において認知症ケア加算が新設されました。令和6年度診療報酬改定では、身体的拘束を実施しなかった日と実施した日の点数についてそれぞれ見直しが行われています。「身体的拘束を実施した日」として算定した割合は、令和6年では28.1%と減少に転じています。特に認知症ケア加算1では、令和5年の29.8%から令和6年の25.8%へと4%減少しており、診療報酬改定の効果が表れています。身体的拘束を最小化する組織的取組身体的拘束を最小化するには、指針の策定と体制整備が重要です。令和6年11月1日時点において、身体的拘束を最小化するための指針を策定している医療機関は90.9%、身体的拘束の実施・解除基準を策定している医療機関は90.1%となっています。令和6年度診療報酬改定では、入院料の施設基準に身体的拘束を最小化する体制整備が規定されています。身体的拘束廃止に向けた方針として、「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き(令和6年3月)」では、特に管理者等の責任者が「身体的拘束を原則しない」という決意を持つことが示されています。責任者は職員をバックアップする方針を徹底し、組織一丸となって考えを共有して取り組む必要があります。身体的拘束を必要としない環境の整備、患者本人や家族との対話や意思確認、やむを得ず身体的拘束を行った場合でも常に代替手段を検討することが求められています。身体的拘束を予防・最小化するための具体的な取組として、「院長・看護師長が、身体的拘束を最小化する方針を自らの言葉で職員に伝え、発信している」医療機関は53.4%です。「身体的拘束が行われるたびに、代替方策がないかどうか複数人数で検討する仕組みがある」医療機関は71.0%となっています。身体的拘束最小化の指針の中に薬物の適正使用についての内容を定めている施設は40.9%です。職員向けのデータの可視化に取り組んでいる施設は47.2%ですが、対外的に公表している施設は10.7%にとどまっています。令和6年度診療報酬改定において、DPC/PDPSの機能評価係数Ⅱにおける新たな評価として、医療の質に係るデータの提出や病院情報等の公開を評価するようになりました。この指標の1つとして身体的拘束の実施率が含まれており、医療機関の取組を促進する仕組みが整備されています。分科会での議論と今後の方向性分科会では、身体的拘束を最小化する取組の推進について活発な議論が行われました。委員からは、入院患者として高齢者が増えている中で、転倒防止のために行動を制限することは本末転倒であるとの意見が出されています。医療機関内で転倒しても大事に至らないような環境整備等を行うとともに、不要な医療処置は行わない、早期に慣れた環境に戻るなどの対応が進むように社会全体での議論を醸成していくべきとの指摘があります。身体的拘束を最小化する取組は、患者の尊厳を守る観点からも重要であり、取組を推進する工夫が必要です。経営者や管理者のリーダーシップをはじめとして組織一丸となっての取組が求められています。指針の策定は進められている一方で、患者に医療処置を説明する掲示物の導入、緩衝マットの活用、管理者から職員への発信等の取組は比較的実施が少ないことが調査結果からも明らかになっています。委員からは、身体的拘束を最小化する取組への努力は必要だが、転倒・転落のリスクは生じるとの指摘もあります。離床センサーマットの活用や段差の解消等は必要ですが、家族の理解も重要となります。病院にいたら転倒しないと思われるのは異なるため、風土を醸成する必要があります。組織が一丸となって取り組むことも重要であり、そのような取組が表に出やすい評価を工夫する必要があるとの意見が出されています。認知症ケア加算について、令和5年から令和6年にかけて身体的拘束の実施割合が減少していますが、令和6年度診療報酬改定による減算の見直しによって身体的拘束が減少しているのだとすれば、もう少し評価を厳格化することもあり得るのではないかとの意見もあります。ICTやAIの活用で拘束を減らすことを評価するようなプラスの評価も重要であり、取組をインセンティブとして活用するのがよいのではないかとの提案もなされています。まとめ入院・外来医療等の調査・評価分科会の調査結果から、医療機関における身体的拘束の実施状況と課題が明らかになりました。身体的拘束の実施率は施設によって大きな差があり、特に認知症患者において実施率が高い状況です。令和6年度診療報酬改定による認知症ケア加算の見直しは一定の効果を示していますが、身体的拘束を最小化する具体的な取組は道半ばです。経営者や管理者のリーダーシップのもと、組織一丸となって患者の尊厳を守る医療を実現することが求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

意思決定支援の診療報酬要件化後の実態調査:医療機関の指針策定は8割達成も残る課題

意思決定支援の診療報酬要件化後の実態調査:医療機関の指針策定は8割達成も残る課題

Oct 15, 2025 07:48 岡大徳

令和6年度診療報酬改定では、人生の最終段階における適切な意思決定支援を推進するため、厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえた指針の策定が入院料の通則に規定され、原則としてすべての入院料の算定要件となりました。改定後の令和6年11月時点で、入院・外来医療等の調査・評価分科会は医療機関における実施状況の調査結果をまとめました。本稿では、この調査結果と分科会で示された今後の課題について報告します。調査結果から、意思決定支援の指針策定は着実に進展しているものの、地域全体での情報共有と多職種連携に課題があることが明らかになりました。入院料の算定要件となった指針策定は80.3%の医療機関で完了し、定期的な見直しも70.5%の医療機関で実施されています。一方、地域包括診療料等の届出医療機関における指針策定率には病院と診療所で大きな格差があり、病院84.0%に対して診療所は19.6%にとどまりました。さらに、分科会では地域での情報共有プロセスの評価、患者本人の意思決定を尊重する評価の在り方、多職種間の認識一致という3つの重要な課題が提起されました。入院料における意思決定支援の実施状況:8割の医療機関が指針策定を完了入院料の算定要件となった意思決定支援の指針策定は、令和6年11月時点で8割の医療機関において完了しています。調査では、指針を作成している医療機関は80.3%でした。この指針は、厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえ、患者本人の意思決定を支援するプロセスを定めたものです。指針策定だけでなく、定期的な見直しも重要な要件となっています。調査では、定期的な見直しを行っている医療機関は70.5%でした。指針は一度作成すれば終わりではなく、医療現場の実態や患者ニーズの変化に応じて継続的に改善していく必要があります。定期的な見直しの実施率が策定率よりやや低い点は、今後の改善が求められる領域といえます。令和6年度診療報酬改定では、意思決定支援の指針策定を原則としてすべての入院料の算定要件としました。この要件化の対象から除外されたのは、小児特定集中治療室管理料、総合周産期特定集中治療室管理料、新生児特定集中治療室管理料、新生児治療回復室入院医療管理料、小児入院医療管理料、児童・思春期精神科入院医療管理料を算定する病棟のみを有する医療機関です。これらの病棟では、患者の特性上、人生の最終段階における意思決定支援の在り方が成人とは異なるため、別途の配慮が必要と判断されました。経過措置として、令和6年3月31日時点で入院基本料等の届出を行っていた病棟については、令和7年5月31日まで指針の作成基準を満たすものとみなされます。この経過措置により、医療機関は時間的余裕を持って指針の策定と院内体制の整備を進めることができます。地域包括診療における意思決定支援の実施状況:病院と診療所で大きな格差地域包括診療料・加算、認知症地域包括診療料・加算においても、令和6年度診療報酬改定で意思決定支援の指針策定が要件に追加されました。これらの診療報酬は、複数の慢性疾患を有する患者に対して、継続的かつ全人的な医療を提供することを評価するものです。患者の価値観や生活背景を踏まえた意思決定支援は、このような包括的な医療提供において不可欠な要素となります。令和6年11月時点の調査では、指針を作成している病院は84.0%であった一方、診療所は19.6%にとどまりました。病院と診療所の間には64.4ポイントという大きな格差が存在しています。この格差の背景には、診療所における人的リソースや体制整備の困難さがあると考えられます。診療所では医師数が限られており、指針の策定や院内教育に割ける時間的余裕が少ないという実情があります。定期的な見直しを行っている医療機関については、病院67.5%、診療所51.2%でした。指針策定率と同様に病院と診療所で差がありますが、策定率ほどの大きな格差ではありません。診療所において、一度指針を策定した医療機関では、比較的高い割合で見直しが実施されていることがわかります。地域包括診療料と地域包括診療加算の届出医療機関に限定すると、指針策定率はそれぞれ70.1%、41.5%でした。地域包括診療料の届出医療機関では7割が指針を策定している一方、地域包括診療加算の届出医療機関では4割程度にとどまっています。地域包括診療加算は主に診療所が算定する加算であり、前述の診療所全体の傾向と一致しています。分科会で示された今後の課題:地域連携と多職種連携の強化が鍵入院・外来医療等の調査・評価分科会では、調査結果を踏まえて今後の課題について議論が行われました。分科会での評価・分析に関する意見からは、意思決定支援をさらに推進するための3つの重要な方向性が示されました。第一の課題は、地域全体での切れ目ない情報共有の推進です。分科会では、入院時における自院以外の施設からの医療・ケアの方針についての情報提供の有無について、改定前と大きく変化がないことが指摘されました。この状況を改善するため、意思決定支援とアドバンス・ケア・プランニングの情報提供に係る一連のプロセスについて評価を行うべきとの意見が出されました。患者が医療機関や施設を移動する際に、それまでの意思決定支援の内容が適切に引き継がれることが重要です。第二の課題は、患者本人の意思決定を尊重する評価の在り方です。分科会では、患者本人が意思決定の主体となることから、医療機関が個別にアドバンス・ケア・プランニングに係る指導を行うことを押し付けるような評価は行うべきではないとの指摘がありました。意思決定支援は、医療者が一方的に進めるものではなく、患者本人の意思や価値観を最大限尊重しながら、必要な情報提供と対話を通じて行うべきものです。診療報酬上の評価も、このような本質を踏まえた設計が求められます。第三の課題は、多職種間の認識一致です。分科会では、アドバンス・ケア・プランニングに関して、多職種間での理解の不一致がある場合があるため、多職種間の認識一致を目指していくべきとの意見がありました。意思決定支援は、医師、看護師、薬剤師、リハビリテーション専門職、医療ソーシャルワーカーなど多様な職種が関わる取組です。各職種がアドバンス・ケア・プランニングの目的や方法について共通の理解を持ち、チームとして一貫した支援を提供することが求められます。まとめ:指針策定の進展と残された課題への対応令和6年度診療報酬改定により意思決定支援の指針策定が入院料の要件となり、令和6年11月時点で8割の医療機関で指針策定が完了しました。一方、地域包括診療における診療所の対応状況には課題が残り、地域全体での情報共有と多職種連携の強化が今後の重要な方向性として示されました。分科会で提起された3つの課題に対応することで、患者本人の意思を尊重した質の高い医療提供体制の構築が期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

人口・医療資源の少ない地域の医療提供体制|派遣元医療機関の評価と基準緩和の必要性

人口・医療資源の少ない地域の医療提供体制|派遣元医療機関の評価と基準緩和の必要性

Oct 14, 2025 06:43 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、人口・医療資源の少ない地域における医療提供体制の在り方が検討されました。人口規模が小さい二次医療圏では、2012年から2022年にかけて診療所数が減少傾向にあり、従事する医師の高齢化も進んでいます。この現状は、地域医療提供体制の維持が困難になりつつあることを示しており、持続可能な体制構築に向けた評価の見直しが急務となっています。分科会では、へき地医療拠点病院等による医師派遣が地域医療の継続に寄与していること、オンライン診療の活用が進んでいる一方で地域特有の課題も存在すること、そして地域の実情を踏まえた評価の在り方の見直しが必要であることが明らかになりました。特に、巡回診療、医師派遣、代診医派遣を実施する派遣元医療機関の機能に着目した評価、人口の少ない二次医療圏における総合入院体制加算等の件数要件達成の困難さへの対応、都市部とは性質が異なる人口・医療資源の少ない地域におけるオンライン診療の特性を考慮した評価が重要な論点として議論されました。人口・医療資源の少ない地域の現状と課題人口・医療資源の少ない地域では、診療所数の減少と医師の高齢化が同時進行しており、地域医療提供体制の維持が深刻な課題となっています。人口規模が小さい二次医療圏においては、2012年から2022年にかけて診療所数が減少傾向にあります。この減少傾向に加えて、従事する医師の高齢化も進んでいます。二次医療圏の人口規模と医療資源には大きなばらつきがあります。全二次医療圏の人口平均値は約28.2万人であり、中央値は約22.3万人でした。全二次医療圏の平均値以下である二次医療圏は268医療圏に上り、全国の人口密度以下である二次医療圏は194医療圏でした。このような人口密度のばらつきは、地域ごとに異なる医療提供体制の課題を浮き彫りにしています。ヒアリング調査では、地域医療の維持に関する具体的な課題が明らかになりました。地域の外来診療を近隣病院からの医師派遣に頼っている現状があります。へき地で高齢者を対象にオンライン診療を実施する場合には、機器の操作などを手助けするためのコストや時間がかかる現状も指摘されました。さらに、地域の外来診療を、へき地医療拠点病院ではない近隣病院からの医師派遣に頼っている実態も報告されました。へき地医療拠点病院等による医師派遣の実態と役割へき地医療拠点病院は、主要3事業を通じて地域医療提供体制の確保において重要な役割を担っています。主要3事業とは、巡回診療、医師派遣、代診医派遣を指します。これらの事業の実施状況について、総合入院体制加算や急性期充実体制加算の届出の有無と実施状況に大きな違いは見られませんでした。ただし、代診医派遣については、届出のない医療機関と比較して、届出のある医療機関の方が多く実施していました。へき地医療拠点病院の約半数は、20万人未満二次医療圏に所在しています。人口20万人未満の小さな二次医療圏におけるへき地医療拠点病院では、20万人以上二次医療圏のへき地医療拠点病院と比較して、総合入院体制加算や急性期充実体制加算を届け出ている病院の割合が低い状況でした。このような拠点的な病院では、自院における救急搬送受入や手術等の診療に加えて、当該事業等を通じて地域医療提供体制の確保において重要な役割を担っている病院もあると考えられます。急性期拠点機能を担う医療機関は、地域の医療資源の状況を踏まえた取り組みを行っています。地域医療構想調整会議での協議のうえ、地域の医療機関へ代診医などの医師を派遣することが想定されています。この医師派遣の仕組みは、へき地医療拠点病院に限らず、へき地医療拠点病院以外の医療機関においても実施されているとのヒアリング調査結果が得られました。オンライン診療の活用状況と地域特有の課題人口・医療資源の少ない地域におけるオンライン診療の活用は着実に進展しています。情報通信機器を用いた診療の届出を行っているへき地医療拠点病院は83施設、へき地診療所は134施設でした。へき地拠点病院において、オンライン診療による巡回診療を実施した医療機関は7施設であり、実施した巡回診療のうちほとんどをオンライン診療で実施している医療機関もみられました。情報通信機器を用いた診療により算定可能な医学管理料の算定回数は増加傾向にあります。令和6年度改定前から算定可能な医学管理料の多くで増加が確認されました。都道府県別の情報通信機器を用いた診療による医学管理料の算定回数については、管理料ごとにそれぞれ地域差が見られます。この地域差は、各地域の医療提供体制や患者ニーズの違いを反映していると考えられます。人口・医療資源の少ない地域におけるオンライン診療は、都市部とは異なる特性を有しています。外来医療について代替手段が乏しく、医療アクセスが困難である地域への補完という特性があります。都市部における利便性向上を目的としたオンライン診療とは性質が異なるとの意見が分科会で示されました。D to P with Nについては、看護師の同席により、オンライン診療では対応困難な検査・処置の実施や、患者の状況把握、生活に即した療養支援が可能となるなどの利点があります。これらの実態を踏まえて今後の評価の在り方を議論すべきではないかとの意見がありました。診療報酬上の評価と今後の検討の方向性医療資源の少ない地域については、平成24年度改定以降、継続的に配慮した評価が行われています。医療従事者が少ないことや、医療機関が少ないため機能分化が困難であることに着目し、施設基準の緩和等、その特性に配慮した評価が実施されてきました。急性期から回復期における機能分化が困難である観点から、一般病棟入院基本料や地域包括ケア病棟入院料について要件緩和や混合病棟を認める等の対応が行われています。令和6年度改定では、新たな配慮措置が講じられました。回復期リハビリテーション病棟に相当する機能を有する病室について、届出を病室単位で可能な区分が新設されました。地域包括ケア病棟入院料2及び4の施設基準における、自院の一般病棟からの転棟患者の割合に関する要件が緩和されました。在宅療養支援病院・診療所に係る24時間の往診体制の要件について、D to P with Nの実施体制を整備することで要件を満たすこととする緩和が行われました。分科会では、今後の評価の在り方について重要な意見が示されました。巡回診療、医師派遣、代診医派遣は、へき地医療拠点病院やへき地医療拠点病院以外の医療機関においても実施されているとのヒアリング調査を踏まえ、このような派遣元の医療機関が果たしている機能に着目した評価の在り方について検討することは、地域医療の継続的な確保に資するのではないかとの意見がありました。人口の少ない二次医療圏では、総合入院体制加算や急性期充実体制加算の件数要件の達成が困難な場合があるため、地域の実情を踏まえた基準緩和や代替的な評価の検討が必要ではないかとの意見もありました。地域医療支援病院の役割についても見直しが行われています。地域の医療従事者の資質の向上を図るための研修を行うこととされていましたが、令和5年医療法改正において、地域におけるかかりつけ医機能の確保のための研修も含めて研修を行うこととされました。この見直しは、地域医療提供体制の充実に向けた取り組みの一環として位置づけられます。まとめ人口・医療資源の少ない地域における医療提供体制の維持には、派遣元医療機関の機能評価、地域実情に応じた基準設定、オンライン診療の適切な活用が不可欠です。へき地医療拠点病院等による医師派遣が地域医療の継続に寄与している実態を踏まえ、派遣元の医療機関が果たしている機能に着目した評価の在り方を検討することが重要です。人口の少ない二次医療圏における総合入院体制加算等の件数要件達成の困難さに対しては、地域の実情を踏まえた基準緩和や代替的な評価の検討が求められます。オンライン診療については、都市部とは性質が異なる人口・医療資源の少ない地域における特性を考慮した評価、D to P with Nの利点を踏まえた評価の在り方を議論していく必要があります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

医療従事者の賃上げ実態と課題:ベースアップ評価料の届出率9割でも残る3つの問題点

医療従事者の賃上げ実態と課題:ベースアップ評価料の届出率9割でも残る3つの問題点

Oct 13, 2025 07:07 岡大徳

令和7年6月13日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2025において、医療現場で働く幅広い職種の賃上げに確実につながる対応が求められています。この方針を受けて、医療機関では診療報酬のベースアップ評価料による賃上げが進められていますが、届出手続きの煩雑さが課題となっています。本稿では、入院・外来医療等の調査・評価分科会が取りまとめた賃上げ・処遇改善の実態を明らかにします。ベースアップ評価料の届出状況は病院で約9割、診療所で約4割となっています。届出していない医療機関の最も多い理由は「届出内容が煩雑なため」でした。令和7年度の賃上げ計画は平均3.40%の引上げとなっていますが、政府目標の4.5%には届いていません。分科会では、届出書類の簡素化や看護職員処遇改善評価料との統合を求める意見が出されています。ベースアップ評価料の届出状況:病院と診療所で大きな差ベースアップ評価料の届出率は、医療機関の種別によって大きく異なります。病院では約9割が届出を行っている一方、診療所では約4割にとどまっています。届出をしていない病院の特徴を見ると、公立病院、医療法人(社会医療法人を除く)、許可病床数100床未満の病院が多くなっています。特に小規模病院では、事務職員の不足により届出書類の作成に係る事務負担が大きいことが指摘されています。外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)を届け出ている医療機関は、評価料(Ⅰ)届出医療機関のうち約4%でした。診療科別に見ると、小児科、皮膚科、耳鼻咽喉科において外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の算定割合が低い傾向にあります。評価料(Ⅱ)について特徴的に併算定されている診療行為は、血液透析に関連したものが多くなっていました。届出手続きの複雑さ:書類作成が医療機関の負担に届出をしていない理由として最も多かったのは「届出内容が煩雑なため」でした。この煩雑さは、届出に必要な書類の多さと計算の複雑さに起因しています。各医療機関は、ベースアップ評価料の算定にあたって複数の書類を作成する必要があります。具体的には、職員給与や診療報酬の算定回数等に基づく届出区分の計算、賃金改善計画書の作成、賃金改善実績報告書の作成などです。賃金改善計画書は新規届出時及び毎年6月に提出が必要であり、賃金改善実績報告書は毎年8月に提出することになっています。看護職員処遇改善評価料と入院ベースアップ評価料は、それぞれ異なる要件と書類様式を持っています。看護職員処遇改善評価料は令和4年10月に新設され、看護職員の賃金を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げることを目的としています。入院ベースアップ評価料は令和6年6月に新設され、対象職員の令和5年度賃金を2.3%引き上げることを目的としています。この2つの評価料について、分科会では書類作成が非常に煩雑であり、統合することについて検討の余地があるとの意見が出されました。賃上げの実施状況:目標との乖離と業態による差ベースアップ評価料による賃上げは一定程度進んでいますが、政府目標との間には乖離があります。賃金改善計画書において、令和5年度と比較した対象職員の賃上げ計画の平均値は、令和6年度で2.69%、令和7年度で3.40%の引上げとなっています。これは、2年間の累積で見ると一定の賃上げが計画されていることを示していますが、政府が掲げる4.5%という目標には届いていません。ただし、分科会では、この目標は賃上げ促進税制も含めた数値であるため、税制の活用状況も含めて分析する必要があるとの意見が出されました。40歳未満医師及び事務職員の賃上げについては、初再診料、入院基本料等の引き上げ等により対応することとされています。令和5年度と比較した令和7年度の賃上げ計画の平均値は、40歳未満医師で2.89%、事務職員で3.18%の引上げとなっていました。歯科技工所における従業員の基本給等総額は、令和6年4月と令和7年4月を比較すると6.1%上昇しており、比較的高い賃上げ率を実現しています。薬局においては、令和6年度に約5割が賃上げを実施しており、薬剤師では20~49店舗の薬局、事務職員では300店舗以上の薬局において賃上げ率が大きい傾向が見られました。今後の制度改善の方向性:簡素化と統合の議論分科会では、今後の制度改善に向けた様々な意見が出されました。第一に、医療人材確保に繋がる賃上げが可能な報酬制度とすべきとの意見がありました。医療従事者の賃上げ率は他産業と比較して少ないため、職責に見合った賃上げが必須であるとの指摘です。第二に、届出書類の簡素化を求める意見が複数出されました。病床規模の小さい医療機関におけるベースアップ評価料の届出が進んでいない背景として、事務職員が不足している中、届出書類の作成に係る事務負担が大きいことが挙げられています。第三に、看護職員処遇改善評価料とベースアップ評価料の統合に関する意見がありました。両者の書類作成が非常に煩雑であることから、統合することについて検討の余地があるとの意見です。ただし、様々な影響を勘案して慎重に対応していくことが重要であるとの意見も出されました。さらに、賃上げの原資は入院基本料等の増分から賄われるべきであり、ベースアップ評価料を入院基本料等に統合すべきであるが、難しければ、届出書類の簡素化や対象職種の見直し等を講じるべきとの意見もありました。まとめベースアップ評価料により医療従事者の賃上げは一定程度進んでいますが、届出手続きの煩雑さが課題となっています。病院では約9割が届出している一方、診療所では約4割にとどまり、小規模医療機関では事務負担が特に大きくなっています。賃上げ計画は令和7年度で平均3.40%ですが、政府目標の4.5%には届いていません。今後は、届出書類の簡素化や看護職員処遇改善評価料との統合など、医療機関の負担を軽減しながら確実な賃上げを実現する制度設計が求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

短期滞在手術の外来移行が進まない理由と2026年診療報酬改定の方向性

短期滞在手術の外来移行が進まない理由と2026年診療報酬改定の方向性

Oct 12, 2025 07:22 岡大徳

入院・外来医療等の調査・評価分科会は、短期滞在手術等の外来移行が十分に進んでいない現状を指摘しました。令和4年度診療報酬改定で診療所での算定は著しく増加したものの、病院での外来実施率は依然として低調です。入院実施の方が外来実施より診療報酬が高く設定されており、医療費増加の要因となっています。分科会は、外来移行を進めるべきという意見で一致した一方、施設要因への配慮も必要だとしています。短期滞在手術等の算定方法は医療機関の類型ごとに複雑に分かれており、制度の簡素化が課題です。白内障手術の外来実施率は全国平均54%ですが、OECD諸国では90%以上が外来で実施されており、国際的に見て日本の外来移行は大きく遅れています。水晶体再建術を入院で実施すると外来実施の約1.3倍から2倍の診療報酬となるため、医療費適正化の観点からも外来移行の推進が求められます。令和8年度診療報酬改定では、算定方法の統一化と施設基準の見直しが検討課題となっています。短期滞在手術等の複雑な算定方法と制度の現状短期滞在手術等の算定方法は、入院・外来の別と医療機関の類型により複数に分かれています。短期滞在手術等基本料1は日帰り手術を対象とし、届出が必要です。短期滞在手術等基本料3は4泊5日までの入院を対象とし、届出は不要ですが、DPC対象病院と診療所では算定できません。外来実施の場合、短期滞在手術等基本料1の届出の有無により、包括される検査等の範囲が異なります。令和4年度診療報酬改定では、短期滞在手術等基本料1の評価引き上げと麻酔科医の配置要件の見直しを行いました。この改定により、診療所での算定回数が著しく増加しました。病院での算定は令和6年に1万5,447回だったのに対し、診療所では12万3,814回と約8倍の差がありました。対象手術のうち水晶体再建術が算定の大部分を占め、次いで内視鏡的大腸ポリープ切除術、経皮的シャント拡張術の順となっています。算定方法が複雑であるため、医療機関にとって制度理解と適切な算定が困難な状況です。DPC対象病院では短期滞在手術等基本料3を算定できないため、4泊5日までの入院でもDPC算定または出来高算定となります。DPC対象病院以外の病院では原則として短期滞在手術等基本料3を算定する必要があるなど、医療機関の類型により算定ルールが大きく異なります。分科会では、算定方法を統一すべきという意見が出されました。外来移行の進捗状況と医療機関間の大きな格差短期滞在手術等基本料1の対象手術の外来実施率は、手術により大きく異なります。内視鏡的大腸ポリープ切除術は76.7%、水晶体再建術は62.5%、経皮的シャント拡張術は76.4%でした。水晶体再建術の外来実施率は平成28年以降上昇傾向にあり、約6割の手術が外来で実施されています。令和4年度改定での要件見直し後も、外来実施率の伸びに明らかな影響はみられませんでした。病院における水晶体再建術の外来実施率は約2割にとどまり、低調に推移しています。医療機関別の分析では、水晶体再建術の外来実施率が0%の病院が一定数存在しました。内視鏡的大腸ポリープ切除術でも同様の傾向がみられ、医療機関間で外来実施率に大きなばらつきがありました。外来実施率100%の医療機関がある一方で、全く外来実施していない医療機関も存在するという二極化した状況です。白内障手術の外来実施率は都道府県別でも大きな差があります。全国平均は54%ですが、最も高い県では約100%、最も低い県では約40%と、約2.5倍の開きがありました。OECD諸国では白内障手術の90%以上が外来で実施されており、日本の54%という水準は国際的に見て著しく低い状況です。第165回社会保障審議会医療保険部会でも、この国際比較における格差が指摘されました。入院実施による診療報酬増加と医療経済への影響短期滞在手術等を入院で実施する場合、外来で実施する場合と比較して診療報酬が総じて高くなります。水晶体再建術を病院で実施する場合、外来での短期滞在手術等基本料1なしでは1万4,186点、ありでは1万7,285点です。入院でDPC算定すると1万8,804点、短期滞在手術等基本料3では1万7,457点、地域包括ケア病棟での出来高算定では2万8,640点となります。外来実施と比較すると、入院実施では約1.3倍から2倍の診療報酬となっています。内視鏡的大腸ポリープ切除術でも同様の傾向がみられます。外来での短期滞在手術等基本料1なしでは7,340点、ありでは9,970点です。入院でDPC算定すると1万4,210点、短期滞在手術等基本料3では1万2,580点、地域包括ケア病棟での出来高算定では1万6,755点となります。入院実施は外来実施の約1.3倍から2.3倍の診療報酬であり、医療費適正化の観点から外来移行の推進が求められています。令和5年度特別調査では、入院実施の理由として病院の構造的理由と症例ごとの臨床的理由が挙げられました。構造的理由には、回復室の不足や24時間緊急対応体制の確保が困難といった施設要因があります。臨床的理由には、患者の併存疾患や術後管理の必要性が含まれます。DPC作業グループでは、DPC対象病院の中に短期滞在手術等の症例割合が高い医療機関が存在することが指摘され、また当分科会でも地域包括ケア病棟で短期滞在手術等基本料3の対象となる入院例が多いことが指摘されました。短期滞在手術等基本料3は平成30年度以降も一定程度算定されています。対象となっている手術等は入院外での実施割合が増加しており、制度が継続的に活用されている状況です。対象手術等については平均在院日数が減少していました。多くの手術で令和4年度と比較して令和6年度に平均在院日数が短縮しており、例えば内視鏡的大腸ポリープ切除術2cm未満では2.397日から2.327日へ減少しました。在院日数の短縮は医療資源の効率的活用と医療費適正化に寄与しています。令和8年度診療報酬改定に向けた今後の方向性分科会では、水晶体再建術などの一部手術について外来移行を進めるべきという意見で一致しました。外来で実施可能な手術を入院で行うことは、医療資源の効率的活用の観点から見直しが必要です。OECD諸国と比較して外来実施率が著しく低い白内障手術については、特に外来移行の推進が求められます。患者の安全性を確保しつつ、在院期間の短縮によるCOVID-19などの院内感染リスクの低減も期待されます。短期滞在手術等の算定方法については、統一化すべきという意見が出されました。算定する入院料等によって患者像が異なるとは考えがたいため、医療機関の類型にかかわらず同一の算定ルールを適用することが望ましいとされています。算定方法の簡素化により、医療機関の事務負担軽減と適切な算定の促進が期待されます。現在の複雑な算定ルールは、外来移行の阻害要因の一つとなっている可能性があります。外来移行の阻害要因のうち、施設要因については一定の配慮が必要という意見も出されました。回復室の整備や24時間緊急対応体制の確保には、一定の投資と人員配置が必要です。中小規模の病院や診療所では、これらの施設基準を満たすことが困難な場合があります。令和8年度診療報酬改定では、外来移行の推進と施設要因への配慮のバランスを取った制度設計が求められています。まとめ短期滞在手術等の外来移行を推進するため、令和8年度診療報酬改定では算定方法の統一化と施設基準の見直しが検討課題となります。白内障手術の外来実施率54%をOECD諸国水準の90%以上に引き上げることで、医療費の適正化と医療資源の効率的活用が期待されます。外来移行の推進にあたっては、医療機関の施設要因への配慮も必要であり、段階的な制度改正が求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

オンライン診療の現状と課題2025:4つの診療形態と評価の明確化に向けた検討

オンライン診療の現状と課題2025:4つの診療形態と評価の明確化に向けた検討

Oct 11, 2025 07:22 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会は、情報通信機器を用いた診療について検討結果をとりまとめました。令和4年度診療報酬改定における見直し以降、オンライン診療の届出医療機関数と算定回数は増加しています。精神科領域や皮膚科領域での増加が目立ち、向精神薬の不適切な処方のリスクが懸念されています。D to P with Nの診療報酬算定方法には不明確な部分があり、明確化が求められています。オンライン診療は増加傾向にあるものの、診療内容の検証と評価の明確化が必要です。D to Pは精神疾患での利用が多く、対面診療との診療内容比較による実態検証が求められています。D to P with Dは算定が限定的ですが、医療的ケア児や訪問診療における専門医連携で評価の余地があります。D to P with Nは新設されましたが、看護師等による診療補助行為の評価について算定方法の明確化が必要です。へき地におけるオンライン診療は、医療アクセス確保という都市部とは異なる特性を持ちます。D to Pの実態:精神疾患での利用増加と実態検証の必要性情報通信機器を用いた診療のうち、医師と患者が直接やりとりするD to Pの利用実態が明らかになりました。初診料では呼吸器感染症、再診料等では精神疾患に類する傷病名が占める割合が大きくなっています。対面診療の割合が5割未満の医療機関においても同様の傾向でした。この傾向について、令和6年のデータでは令和4年と比較して精神科領域や皮膚科領域の増加が目立っています。分科会では、オンライン診療と対面診療を比較した場合の診療内容の比較等により実態を検証してはどうかとの意見がありました。精神科領域での利用増加に関連して、オンライン診療による向精神薬の不適切な処方のリスクが懸念されています。診療内容についてより詳細に実態を検証してはどうかという意見が出されました。受診者の地域分布については、受診医療機関の所在都道府県が居住地と異なる割合が19.1%でした。この結果は、オンライン診療が地域を超えた医療アクセスを可能にしている実態を示しています。D to P with Dの可能性:医療的ケア児と専門医連携での活用患者が医師といる場合に他の医師がオンラインで参加するD to P with Dの実施状況が調査されました。遠隔連携診療料は令和2年度に新設されて以降、算定回数は限られています。過去1年間にD to P with Dによるオンライン診療を実施した医療機関は1.0%でした。この形態の診療は、遠隔連携診療料を算定できる状況以外でも実施されています。医療的ケア児に対する診療や、訪問診療における眼科・皮膚科・耳鼻科等の専門医との連携等の事例が見られました。分科会での評価では、D to P with Dについて新たな評価の可能性が議論されました。医療的ケア児に対する診療や訪問診療における耳鼻科等の疾患に対する評価が考えられるのではないかという意見があったためです。現行の遠隔連携診療料の算定要件では評価されない診療形態であっても、医療の質向上や患者の利便性向上に寄与している事例があります。今後は、こうした実態を踏まえた評価のあり方について検討が必要です。D to P with Nの課題:評価の明確化と患者ニーズへの対応看護師等が患者のそばにいる状態で医師がオンライン診療を行うD to P with Nについて、新たな動きがありました。令和6年度診療報酬改定において再診料・外来診療料に係る看護師等遠隔診療補助加算が新設されました。届出医療機関数は令和7年4月1日時点で78施設となっています。研修受講者も合計約4,000名程度となりました。患者の受診体験について、課題が明らかになっています。オンライン診療を受けた感想として、「対面診療であればすぐに受けられる検査や処置が受けられないと感じた」と回答した患者が45.3%でした。オンライン診療より対面診療を希望する理由として、「検査や処置がすぐに受けられるから」が83.2%で最多でした。規制改革実行計画において、D to P with Nの課題が指摘されました。令和7年6月13日に閣議決定された規制改革実行計画では、D to P with Nにおける診療報酬の算定方法に不明確な部分があるとの指摘がありました。分科会での議論では、評価の明確化が求められています。D to P with Nにおいては、看護師等による診療の補助等も行われていることから、その評価については明確化も含めて検討してはどうかという意見がありました。へき地におけるオンライン診療:医療アクセス確保の補完的役割へき地医療におけるオンライン診療の活用状況について、重要な実態が明らかになりました。第8次医療計画におけるへき地の医療提供体制において、主要3事業の評価のうち、オンライン診療を活用して行った巡回診療・代診医派遣についても、主要3事業の実績に含めることが明確化されたところです。令和5年度実績によると、活用は限定的です。巡回診療を実施したへき地拠点病院のうち、オンライン診療による巡回診療を実施した医療機関数が7施設(7.1%)でした。へき地診療所において、へき地の住民に対するオンライン診療で活用したと回答した医療機関は75施設(6.7%)でした。受診者が患家にいるケースよりも受診者が診療所にいるケースの件数が多かったです。地域差の実態について、二次医療圏別の分析結果が示されました。医療機関住所地ベースでは、東京都(23区内)での算定回数が多く、66の二次医療圏で算定回数が0回でした。患者住所地ベースでは、全ての二次医療圏で算定されていました。分科会での議論では、へき地におけるオンライン診療の特性が強調されました。人口・医療資源の少ない地域におけるオンライン診療は、外来医療について代替手段が乏しく、医療アクセスが困難である地域への補完という特性を有しています。都市部における利便性向上を目的としたオンライン診療とは性質が異なるとの意見がありました。まとめ情報通信機器を用いた診療は増加傾向にありますが、健全な普及に向けた課題があります。D to Pでは精神科領域での利用増加に対する実態検証が必要です。D to P with Dでは医療的ケア児や専門医連携での新たな評価の可能性があります。D to P with Nでは看護師等による診療補助行為の評価の明確化が求められています。へき地におけるオンライン診療は、医療アクセス確保という都市部とは異なる特性を持つため、地域の実情を踏まえた評価のあり方について検討が必要です。中央社会保険医療協議会における今後の議論では、これらの実態を踏まえた診療報酬上の評価の見直しが期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度外来医療改定の3つの焦点:生活習慣病管理料・かかりつけ医機能・外来機能分化を徹底解説

令和8年度外来医療改定の3つの焦点:生活習慣病管理料・かかりつけ医機能・外来機能分化を徹底解説

Oct 10, 2025 08:12 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、外来医療に関する検討結果のとりまとめが公表されました。この報告書は、生活習慣病管理料と地域包括診療料の運用実態、かかりつけ医機能の評価体制、特定機能病院等における外来機能分化の進捗状況という3つの重要テーマを扱っています。次期診療報酬改定に向けて、療養計画書の作成負担軽減、患者の継続受診を促す体制整備、医療機関間の連携強化が主要な検討課題として浮かび上がっています。本報告書では、生活習慣病管理料(Ⅰ)(Ⅱ)の算定実態と継続受診率の医療機関間格差が明らかになりました。かかりつけ医機能については、機能強化加算の届出状況とかかりつけ医機能報告制度との関係性が議論されています。外来機能分化では、特定機能病院等における再診患者の長期通院実態と逆紹介推進の課題が示されました。生活習慣病管理料の運用実態と課題生活習慣病管理料の算定状況には、令和6年度改定を境に大きな変化が見られます。令和4年では外来管理加算が最も多く算定されていましたが、令和6年では生活習慣病管理料(Ⅱ)が最多となりました。この変化は、改定によって生活習慣病管理の評価体系が再編されたことを反映しています。地域包括診療料の届出医療機関数は近年横ばいでしたが、算定回数は減少傾向にあります。一方、地域包括診療加算の届出医療機関数と算定回数は増加傾向を示しています。算定患者の主傷病名は、高血圧症、糖尿病、脂質異常症が多い傾向ですが、多岐にわたっています。特定疾患療養管理料については、令和6年度改定以前は生活習慣病が多くを占めていました。改定後は気管支喘息や慢性胃炎の占める割合が増加し、算定回数は大幅に減少、算定医療機関数もやや減少しています。この変化は、生活習慣病管理が特定疾患療養管理料から生活習慣病管理料(Ⅱ)へシフトしたことを示唆しています。生活習慣病管理料を算定していない理由として、対象患者が少ないこと以外に、療養計画書に記載する項目が多く業務負担が大きいことが14.4%の医療機関から挙げられています。過去に簡素化がなされたものの、依然として負担感が残っており、分科会では療養計画書のあり方について見直しの検討が必要との意見が出されました。生活習慣病管理料を算定された患者の6か月ごとの継続算定率は、医療機関ごとにばらつきがあります。患者が治療から脱落せず継続的に受診を続けることが重要な観点であり、外来患者を対象とした調査では、定期的な受診を続ける上で必要な体制として「予約診療を行っていること」が最も多く、次いで「28日以上の長期処方に対応していること」が多く選択されています。生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)の使い分けについては、受診頻度が2か月に1回より少ない患者や検査頻度が2か月に1回より少ない患者については生活習慣病管理料(Ⅰ)の算定が多く、その他の患者については生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定が多い傾向があります。生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定した外来患者の6か月当たりの血液検査算定回数を調べたところ、平均して6か月に2回以下の頻度で算定している患者が全体の約7~9割以上でした。6か月に1回も算定がない患者も一定数を占めており、分科会では適切な医学管理が行われているか疑問があるとの意見が出されています。高齢者の生活習慣病管理については、学会のガイドライン等において特有な状態への配慮が必要とされています。糖尿病の管理では、高齢者の患者とそれ以外の患者では治療目標の推奨が異なっています。分科会では、複数疾患への罹患やポリファーマシー、フレイルの進行などを包括的に診る役割を担うことが、かかりつけ医の重要な機能であるとの意見が出されました。糖尿病患者に対する合併症予防の観点では、診療所又は200床未満の病院において、眼科受診を指導した患者数は平均で21.5人、中央値は0人であり、歯科受診を促した患者数は平均で14.1人、中央値は0人でした。分科会では、糖尿病患者に対する歯科受診は、オーラルフレイルの予防や口腔機能の低下への早期対応の観点から重要であり、歯科診療所への定期的な受診を促す体制がさらに必要ではないかとの意見がありました。かかりつけ医機能の評価と今後の方向性機能強化加算の届出医療機関数は、令和3年までは増加傾向でしたが、近年は横ばいです。算定回数は令和2年に大きく減少していましたが、令和5年には令和元年以前よりも増加しました。令和5年時点で、病院1,289施設、診療所13,518施設が届出を行っています。外来受診した医療機関において「かかりつけ医機能に関する説明を受けたことがある」と回答した患者は38.9%、「かかりつけ医機能に関する院内掲示を見たことがある」と回答した患者は46.2%でした。機能強化加算の届出医療機関は、算定要件の一部となっている「処方薬の把握」「健診に関する相談」「予防接種」「学校医」等に関する機能を有している割合が大きくなっています。かかりつけ医に関連した研修等については、「日本医師会のかかりつけ医機能研修」を修了又は一部受講した医師の在籍割合が最も高く43.5%でした。医学生の実習、臨床研修医の受入れを行っている診療所は約10%前後であり、専攻医の受入れを行っている診療所は約4.2%でした。分科会では、現在の機能強化加算は地域包括診療料・加算、小児かかりつけ診療料、在宅時医学総合管理料等の届出をもってかかりつけ医機能が高いと評価する考え方となっていますが、かかりつけ医機能報告制度が開始されることを踏まえると、この制度に沿った形で再検討することが求められるのではないかとの意見がありました。一方で、かかりつけ医機能報告制度は医療機関の機能を認定する制度ではなく現状を把握するための報告制度であり、地域における専門性を有する医療機関が連携して面としてかかりつけ医機能を発揮することを目指すものであるため、かかりつけ医機能報告制度と診療報酬は関連させるものではないとの慎重な意見も出されました。地域包括診療料・加算の算定診療所では、それ以外の診療所と比較して、介護との連携に関する取組を実施している割合が高くなっています。認知症地域包括診療料・加算を算定された患者に占める65歳以上の患者の割合は、認知症地域包括診療料では約93%、認知症地域包括診療加算では約77%でした。診療所における検査体制については、いずれの検査項目も、機能強化加算の算定医療機関において、より早期に結果を出せる体制が確保されている傾向がありました。このことは、機能強化加算が一定の体制整備を促す効果を持っていることを示しています。外来機能分化の進捗状況と医療機関連携の課題病院の1日平均外来患者数は長期的には減少傾向です。紹介なしで外来受診した患者の割合を病院機能別に見たところ、その割合は長期的に減少傾向にあり、令和5年は特定機能病院では34.1%、地域医療支援病院では58.5%でした。これは、外来機能分化が徐々に進展していることを示しています。紹介割合・逆紹介割合による初診料・外来診療料の減算規定の対象病院における令和6年度の紹介割合・逆紹介割合は、令和5年度と比較して不変からやや増加していました。減算規定の対象病院における令和6年10月の再診の患者数の平均値・中央値は、令和5年10月と比較して増加しました。全受診患者に占める初診患者割合の平均値・中央値は、特定機能病院では約5%、その他の区分では約10%でした。減算規定の対象病院の再診患者のうち約6割以上の患者は、2年以内に初診料の算定がない患者でした。平均して8割程度の患者が直近6か月以内に再診を受けています。分科会では、相当数の患者が2年以上通院していることや半年以内に外来再診していることについて、当該患者が本来逆紹介すべき患者であるのか、あるいは地域の医療機関で日常的な管理を受けつつ専門外来でフォローアップされているのか、現状のデータだけでは判断が困難であるため、今後他の医療機関への受診状況や疾患の種類等も含めて分析を行い、継続的な受診の妥当性について検討することが必要ではないかとの意見がありました。外来診療料を算定した患者の主傷病名を見ると、特定機能病院では悪性腫瘍が約18%、指定難病が約4%、小児慢性特定疾病(悪性腫瘍除く)が約16%でした。地域医療支援病院又は紹介重点医療機関では、悪性腫瘍が約14%、指定難病が約2%、小児慢性特定疾病(悪性腫瘍除く)が約15%でした。分科会では、特定機能病院等の再診患者には悪性腫瘍のフォローアップや化学療法を要する患者など継続的な医学的管理が必要な患者が含まれていると考えられ、どのような患者が再診を継続しているのか更なる分析が必要ではないかとの意見がありました。医療機関間の連携に関する評価として診療情報提供料(Ⅰ)、診療情報提供料(Ⅱ)、連携強化情報提供料を設けています。診療情報提供料の算定回数は、令和2年に低下し、令和3年以降は増加しています。特に連携強化情報提供料は、令和6年に算定回数が大きく増加しました。分科会では、かかりつけ医機能の充実に向け診療情報のやりとりは重要であり、診療情報提供料の算定回数増加は好ましい傾向であるとの評価がなされています。一方で、連携強化診療情報提供料は病院での算定が大きく伸びる一方で診療所では伸びておらず、その要因が算定要件が複雑であるためであるならば、要件の見直しが必要ではないかとの意見がありました。再診患者の逆紹介を行う上での課題としては、「逆紹介を行うことについて治療管理上の不安を持つ患者の理解を得ることが困難」が最も多く、次いで「自院の複数科を受診している患者について診療科間での調整が困難」が多くなっています。1人の患者に対して病院の専門医師と地域のかかりつけ医師が連携をしながら共同で継続的に治療管理を行う取組、いわゆる「2人主治医制」等の状況を調査したところ、特定機能病院では「案内をWebサイトに掲載している」が最も多く、それ以外の病院では「案内を直接患者に行っている」が最も多くなっています。診療所では「特に取組を行っていない」が最も多く、次いで「取組に関する案内を直接患者に行っている」「近隣の病院と取組に関する取り決めを行っている」が多くなっています。分科会では、逆紹介が可能な場合には積極的に逆紹介を行うことが望ましく、特定機能病院等と地域の診療所等との連携の取組を進めるとともに、いわゆる「2人主治医制」などの導入も含め、継続的な医学管理のあり方について検討することが重要であるとの意見がありました。まとめ令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会の検討結果は、生活習慣病管理料の運用改善、かかりつけ医機能の評価体制の見直し、外来機能分化の推進という3つの重点課題を明確にしました。療養計画書の作成負担軽減、患者の継続受診を促す予約診療や長期処方への対応強化、医療機関間の情報連携と逆紹介の推進が、次期診療報酬改定に向けた主要な検討テーマとなります。かかりつけ医機能報告制度の開始を見据えた診療報酬上の評価のあり方や、特定機能病院等における継続的な医学管理の妥当性の検証も重要な論点として位置づけられています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

病棟多職種連携の現状と課題|2026年診療報酬改定への示唆

病棟多職種連携の現状と課題|2026年診療報酬改定への示唆

Oct 9, 2025 07:02 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、病棟における多職種でのケアに関する検討結果がとりまとめられました。高齢化の進展により入院患者のADL維持・向上が重要課題となる中、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の届出率が9.0%にとどまるなど、多職種連携の推進に複数の障壁が存在することが明らかになりました。今回の分科会では、療法士、管理栄養士、薬剤師、看護職員等の病棟配置の実態と効果を詳細に分析し、次期診療報酬改定に向けた重要な示唆を提示しています。分科会の検討結果は、病棟における多職種連携の重要性と具体的な課題を明確にしました。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は、ADL改善効果が高く休日リハ提供量も平日の86.5%を実現していますが、体制加算算定患者は要介護度が高い患者や高齢の患者が多く、ADL悪化率は算定なしと明らかな差はありませんでした。常勤専従の療法士2名以上配置などの人員要件が届出の障壁となっています。管理栄養士の病棟配置は進んでおらず、就業時間の2割未満しか病棟業務に従事していない病棟が約3割を占めています。病棟薬剤業務実施加算は年々増加しているものの、小規模病院では診療報酬によって薬剤師の人件費が確保できない現状があります。看護業務タイムスタディ調査により、多職種配置による効果的なタスクシェアの可能性が示されました。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の効果と患者背景の検証リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は、ADL改善において効果を示していますが、算定患者の背景を考慮した評価が重要です。退院時にADL悪化した患者の割合は、算定ありで5.0%、算定なしで4.6%と明らかな違いはみられませんでした。一方、ADLが大きく改善した患者の割合は、算定ありで25.7%と、算定なしの14.1%と比べて顕著に高い結果でした。体制加算算定患者は、算定なしと比べて要介護度が高い患者や高齢の患者が多く、これらはもともと入院中にADLが低下しやすい患者の特徴と一致していました。体制加算の届出施設においては、ADLが低下する患者の割合は3%未満という施設基準を満たしていました。算定していない施設においては、ADL低下割合4%以上5%未満に緩やかなピークが見られ、施設基準を満たせない医療機関が存在することが示されました。入院3日目までにリハビリテーションが開始された割合は、算定ありで約9割に達しています。体制加算算定ありの患者は、算定なしの患者と比べてリハビリテーションの実施割合が高く、早期介入が実現されていました。患者1人当たりの1日平均リハビリテーション単位数は、算定なしの場合が平日2.3単位であるのに対し、算定ありの場合は3.1単位と多く、休日も平日と変わらない水準を維持しています。施設全体におけるリハビリテーション提供体制は、算定ありの場合、土日祝日全体での提供単位数が平日の86.5%に達し、土曜日は94.1%、日曜日は87.8%、祝日は65.1%となっています。一方、算定なし施設では休日全体で平日の34.1%にとどまり、土曜日50.1%、日曜日22.1%、祝日26.8%という結果でした。この差は、体制加算の施設基準が「土日祝日における1日あたりの疾患別リハビリテーション料の提供単位数が平日の提供単位数の8割以上」を求めていることに起因しています。体制加算算定病棟では、多職種が病棟業務に積極的に関与しています。栄養状態のスクリーニング・定期的な評価において、管理栄養士が主として関わる割合は算定ありの病棟で59.70%、算定なしの病棟で44.67%でした。ADLのスクリーニング・定期的な評価において、理学療法士が主として関わる割合は算定ありの病棟で34.72%、算定なしの病棟で19.95%でした。口腔の状態のスクリーニング・定期的な評価において、言語聴覚士が主として関わる割合は算定ありの病棟で38.57%、算定なしの病棟で24.54%でした。体制加算算定ありの患者のほうが、低栄養の入力割合と入院栄養食事指導料の算定患者割合が高い結果でした。算定ありの患者のほうが、入院時の低栄養の割合が高く、栄養管理を必要とする患者が多く含まれていました。体制加算の算定有無による退院後の歯科受診状況に大きな差はなく、歯科受診率は低い状況でした。病棟専従の療法士は、疾患別リハビリテーション以外の業務も担当しており、場面に応じたワンポイントのADL動作の指導や、看護職員の業務としても実施される体重測定や環境調整といった業務を、療法士としての観点から行っている事例があります。体制加算の普及を阻む施設基準の課題体制加算の届出率は9.0%にとどまっています。届出していない理由として最も多かったのは、「常勤専従の理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士を2名以上配置(うち1名は専任でも可)することが困難なため」で56.3%を占めました。次いで「土日祝日における1日あたりの疾患別リハビリテーション料の提供単位数が平日の提供単位数の8割以上を満たさないため」が53.9%でした。「当該保険医療機関において、リハビリテーション医療における経験を3年以上有し、適切な研修を受けた常勤医師を確保することが困難なため」も19.2%ありました。分科会での評価・分析に関する意見では、土日祝日に提供するリハビリテーション単位数が平日の8割以上であることの要件が厳しすぎるのではないかとの指摘がありました。体制加算に取り組みたい医療機関は多いものの、人員配置等の施設基準が厳しいため、算定が伸び悩んでいるのではないかとの意見もありました。病棟配置によって、ADLの評価、維持や廃用予防といった観点から意義があるのではないかとの意見があった一方、入院中の患者のADLの維持や向上を趣旨とした体制加算や病棟の施設基準における多職種配置が進みつつあるが、生活機能を落とさないためには、より一層こうした病棟での多職種連携の推進が必要ではないかとの意見がありました。生活機能の回復に向けた支援において、療法士が関与している割合は体制加算算定病棟で高く、食事支援で76.1%、排泄支援で41.2%、離床の促しで46.4%となっています。療法士が生活機能回復や栄養・口腔状態に係る項目へ関与している割合が高く、多職種連携による効果的なケアが実践されていました。体制加算における多職種配置により、医師や看護職員が主として関わる割合は低下し、各専門職が専門性を活かした業務に集中できる体制が構築されていました。病棟における各専門職種の配置状況と役割管理栄養士の病棟配置は、多くの病棟で十分に進んでいません。管理栄養士が病棟で従事する時間が就業時間のうち2割未満の病棟が約3割あり、そのような病棟では栄養情報提供書の作成やミールラウンドの実施割合が特に低い状況でした。累次の診療報酬改定において管理栄養士の病棟での業務が推進されているものの、給食管理業務の負担が大きく、調理員不足により調理等の業務が増えている場合もあり、病棟での栄養管理に専念できない状況があります。栄養サポートチーム加算の届出施設数は増加していますが、入院料により算定状況は様々です。未届出の理由としては、研修を受けた専門職確保が困難であることが多く、チーム設置のメリットが少ないことも3割超となっていました。管理栄養士の病棟配置や多職種連携が要件となっている特定入院料や加算は、原則として栄養サポートチーム加算の出来高算定や併算定はできません。高齢者の入院が今後ますます増加する中で、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士が共同で診療を行うことの負担が大きく、栄養管理の観点からどのように推進するか検証すべきとの意見がありました。病棟薬剤業務実施加算の届出医療機関数は、平成24年度の加算新設以来、年々増加しています。病棟薬剤業務実施加算の算定状況によらず、薬剤師による介入が医師の負担軽減に寄与しています。令和6年度に新設された薬剤業務向上加算について、算定医療機関数は今後増加の見込みですが、地域の医療機関に出向できる薬剤師の確保が課題となっています。調剤以外の病棟業務等のニーズが増え、病院薬剤師数は増加していますが、小規模病院では病棟薬剤業務実施加算により150床程度の算定で得られる診療報酬でようやく1人分の人件費となり、当該診療報酬によって薬剤師の人件費が確保できない現状があります。地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟の施設基準においては、専従常勤の療法士数が規定されており、かつ疾患別リハビリテーションを担当する専従者と兼務はできないとされています。専従の療法士が病棟において疾患別リハビリテーションと別に行う業務については、地域包括医療病棟以外では明記されていません。療法士の疾患別リハビリテーションの提供以外の業務として、ADL等の評価、他職種へのポジショニング等に関する助言、可動域等や退院後を考慮した患者へのケア提供、疾患別リハビリテーション料等の対象とならない患者へのADLの維持・向上を目的とした指導等を行っていました。回復期リハビリテーション病棟入院料1~4を算定する病棟のうち、生活の場における短時間のリハビリテーションを実施していた病棟は10~20%でした。地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟のうち、疾患別リハビリテーション等以外のADLの維持、向上等を目的とした指導を実施している割合は地域包括医療病棟にて最も高く、実施した患者数はいずれの病棟でも同程度でした。病棟における生活の場に即した短時間のリハビリテーションは重要ですが、トイレ場面の介助等は短時間で終わり、カルテ記載を含めるとカルテ記載のほうが長くかかることもあるため、こうしたリハビリテーションの位置づけを検討してはどうかとの意見がありました。病棟配置の療法士の役割は明示されていませんが、病棟における生活機能回復のための介入は重要であるとの意見がありました。一方、一部は生活介助の延長ともとらえられるため、リハビリテーションとして実施する効果を科学的に検証する必要もあるのではないかという指摘がありました。回復期リハビリテーション病棟では、「生活機能の回復に向けた支援」等、ADLに係る項目について、療法士が関与している割合が比較的高い状況でした。地域包括医療病棟では、地域包括ケア病棟と比べ、生活機能の回復に向けた排泄や離床の促しの支援、体位交換等の業務について療法士が関与している割合が高い傾向でした。多職種連携によるタスクシェアの実態と今後の展望急性期から慢性期の43病棟の看護師を対象とした病棟の看護業務タイムスタディ調査の結果では、「診察・治療」「患者のケア」に従事している時間が長く、全体の半分程度を占めていました。「看護記録」や「情報共有」の時間がそれに続きました。病棟業務への多職種の関与として、「診察・治療」のうち栄養状態、摂食・嚥下状態、ADL、口腔の状態等に関するスクリーニング・評価や、各種計画の作成は、管理栄養士や療法士がそれぞれ主として実施している病棟が多い状況です。薬剤の準備・投与に関する業務は薬剤師が関与している病棟が多く、検査の準備や実施は、臨床検査技師が関与している病棟が約3割ありました。病棟におけるリハビリテーションや自立援助、嚥下訓練に関する業務は療法士、食事に関する業務は管理栄養士が関与している病棟が多い結果となりました。「患者のケア」に係る業務の多くは、看護師が主として実施していましたが、食事の配膳や排泄介助、見守り・付き添い、食事介助、体位交換は、看護補助者が主として実施していると回答した病棟が1割~2割程度みられました。離床の取組や患者宅への訪問は、理学療法士や作業療法士が関与している又は主として実施している病棟が多い状況でした。調査で分担していることが明らかになった各業務においては、専門職が関わることにより、業務の安全性向上や効率化、対応の迅速化といったメリットがあると考えられました。今後、病棟では多様な職種の関わりが増えてくることで、各専門職種がそれぞれの視点を活かした支援業務を行っていくことが必要となります。効果的なケアを行うためには、多様な職種が関わるタイミングや内容、病棟全体の患者の状況等に応じた様々な業務分担の在り方を検討し、有機的な多職種の連携が不可欠です。日常生活動作に関してオンデマンドでリアルタイムに介入していくことが、退院後の生活に直結しています。看護師は看護の視点で日々こうした支援を実施しています。今後、病棟での多様な職種の関わりが増えることにより、各職種それぞれの視点を活かして日常生活動作への支援が行われるようになると考えられますが、各職種がばらばらに関わることがないよう、有機的に連携させることが不可欠です。マネジメントの知識や経験のある人材がしっかりとまとめていくことが重要であり、看護管理者によるマネジメントも重要との意見がありました。多職種連携が加算等で評価されることとなると、大病院に雇用が集中し需給バランスが崩れる懸念があります。医療機関ごとの需要に応じた柔軟な体制をとれるよう、技術的に検討すべきとの意見がありました。特に療法士が病棟で担う役割には期待しており、どのような業務・ケアを担当しうるか詳細に検討してはどうかとの意見もありました。入院中の患者のADLの維持や向上を趣旨とした体制加算や病棟の施設基準における多職種配置が進みつつありますが、生活機能を落とさないためには、より一層こうした病棟での多職種連携の推進が必要です。まとめ病棟における多職種連携は、患者のADL維持・向上に重要な役割を果たしています。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は、ADL改善効果が高く休日リハ提供量も充実していますが、算定患者は要介護度が高い・高齢といった背景があり、ADL悪化率は算定なしと差がありませんでした。人員配置要件の厳しさから届出率が9.0%にとどまり、管理栄養士の病棟配置も十分に進んでいない状況です。病棟薬剤業務実施加算は増加傾向にありますが、小規模病院では人件費確保が課題となっています。今後は、各専門職種の役割を明確にしつつ、有機的な多職種連携を推進し、看護管理者によるマネジメントのもと、医療機関ごとの需要に応じた柔軟な体制構築が求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

医療現場の働き方改革2025:医師・看護師の負担軽減と人材確保の最新動向

医療現場の働き方改革2025:医師・看護師の負担軽減と人材確保の最新動向

Oct 8, 2025 07:32 岡大徳

令和6年4月から医師の時間外・休日労働の上限規制と健康確保措置が適用され、医療現場の働き方改革が本格化しました。令和6年12月時点で460施設が特定労務管理対象機関として指定されています。医師の47%が勤務状況の改善が必要と回答し、看護職員の約8割が施設基準を満たす配置に困難を感じています。入院・外来医療等の調査・評価分科会の検討結果から、医療従事者の働き方改革とタスクシフト/シェアの現状と課題を明らかにします。医療現場では人材確保と処遇改善、ICT活用による業務効率化が喫緊の課題となっています。医師事務作業補助者の40%が必要数を確保できず、看護補助者も減少し続けています。夜勤手当は2010年代からほとんど変化せず、夜勤可能な職員の確保が困難になっています。ICT・AI・IoT活用が約7割の医療機関で進むものの、維持管理コストや使いこなせない職員の存在が課題となっています。医師の働き方改革の現状と課題医師の時間外労働規制が本格化する中、勤務環境の改善と人材確保が重要な課題となっています。地域医療体制確保加算を届け出ている医療機関では、届け出のない医療機関と比較して休日・時間外労働の平均値や最大値は長い傾向にあります。一方で、勤務環境の現状把握・分析を実施している割合やICTを活用した業務見直しの取組を実施している割合が高く、令和5年度と比較して令和6年度では休日・時間外労働の平均値や最大値が減少傾向にありました。医師事務作業補助体制加算の届出医療機関数は年々増加傾向にあります。届出医療機関の約40%で必要数の医師事務作業補助者が確保できていません。医師事務作業補助者の定着に向けた効果のある取組として、評価・報酬に関する取組では「給与・賞与の見直し」「面談による評価フィードバックの実施」「人事評価制度の整備」が多く挙げられました。医師事務作業補助体制加算を算定している医療機関の57%において、医師事務作業補助者の人事考課が実施されています。ICTを活用した医師事務業務の省力化の取組について、「作業効率の上昇」と「労働時間の短縮」が得られる効果の中で最も多く報告されました。労働時間の短縮の効果が得られるとの回答の割合が多い取組として「臨床データ集計等でのRPA活用」「退院サマリー等の作成補助を行う生成AI文書作成補助システム」「説明動画の活用」がありました。分科会では、医師の働き方改革を進める中で医師にかかる経費は増えており、地域医療確保体制加算はより評価されるべきとの意見や、ICT導入には多額の費用が必要であり支援を考慮すべきとの意見が出されています。看護職員の確保と業務負担軽減の取組看護職員就業者数は2023年(令和5年)に174.6万人となりました。看護職員の就業場所は病院・診療所が多いものの、訪問看護ステーション等において増加傾向となっています。新規の看護師資格取得者や看護師学校養成所(3年課程・大学を含む)の入学者数・卒業者数は減少に転じています。令和6年度には大学の定員充足率も100%を切っており、今後一層の少子化の進展を考えると、看護職員の確保と働き続けられる環境整備の取組が喫緊の課題となっています。看護補助者の数は減少し続けており、正規雇用の割合は低下しています。許可病床100床当たりの看護補助者数も全体的に減少傾向にあります。看護補助者の定着に向けて、研修の実施、ラダーの活用、看護補助業務の細分化等の取組が進められています。看護補助者の定着を促進するための取組として、「看護補助者業務のマニュアルの整備」は77.2%、「看護補助者の研修の充実」は72.7%で実施されています。入院料の施設基準を満たす看護職員の配置を行うにあたり、困難を感じることがあるか尋ねたところ、「大いに感じる」「感じる」は約8割でした。勤務シフトが組みにくくなったが3割を超え、看護職員の夜勤の回数(1人当たり)について「増えた」が2〜3割となっています。看護職員の負担の軽減及び処遇の改善に関わる具体的な取組としては、「妊娠・子育て中、介護中の看護職員に対する配慮」は最も多く実施されていました。子育てや介護を担う職員への配慮が進んでいる一方で、夜勤が可能な職員の確保や負担軽減が課題となっています。病院勤務看護職員の夜勤手当(夜勤1回当たり)額は、2010年代に入ってほとんど変化がありません。看護職員の負担の軽減及び処遇の改善に関わる具体的な取組として「夜勤手当の見直し」は15.0%で実施、直近3年以内に実施した看護職員の夜勤者の確保策として、「夜勤者確保のための夜勤手当の増額(一律)」は12.4%、「夜勤回数に応じた夜勤手当以外の手当の支給」は8.7%で行われています。分科会では、夜勤手当は2010年代に入ってほとんど増加が見られず、割増賃金のみの支給にとどまる病院も4.4%存在する状況などがあるため、夜勤者の確保に向け夜勤手当の引き上げが必要ではないかとの意見が出されました。ICT・AI活用による生産性向上の推進ICT(情報通信技術)の活用は約7割で進められています。具体的な取組として「ビデオ通話(WEB形式)による会議の実施」「勤怠管理のICT化」「紹介状や診断書の入力支援ソフトの活用」が進められています。看護職員の記録に関する負担軽減の取組として、ICTを活用した取組としては、「電子カルテシステム等を活用したカルテ様式間の自動転記」「バイタルサイン等の測定機器からの自動入力」「文書作成補助システムの活用」が進められていました。令和6年度診療報酬改定では、看護職員の更なる業務負担軽減の観点から、「夜間看護体制加算」等の夜間における看護業務の負担軽減に資する業務管理等のうち、「ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減」に取り組むことが望ましいことと位置づけられました。令和6年度補正予算では、人口減少や医療機関の経営状況の急変に対応する緊急的な支援パッケージ(生産性向上・職場環境整備等事業)として、生産性向上に資する取組として、ICT機器の導入による業務の効率化、職員間の情報伝達の効率化(チーム医療の推進)等の対応がなされました。ICT機器活用継続についての課題について、「ICTの維持・管理等のメンテナンスにコストがかかる」「ICTを使いこなせていない職員がいる又は多い」「ICTの導入にあたって教育や人材育成に時間がかかる」の順で多く挙げられました。分科会では、ICT、AI、IoTを導入して取り組みたい一方、機器活用には初期の導入費用、維持メンテナンス費用、投資額も必要となり、一部導入時の補助金はあるものの、維持メンテナンス費用までを入院基本料等で補ってもらう必要があるのではないかとの意見が出されています。生産性向上や業務負担軽減の点では、音声入力やバイタルデータの自動入力などが有効だと考えられるものの、具体的な活用が進むための方策について検討が必要との指摘もありました。タスクシフト/シェアの推進状況と今後の展望医師から看護師へのタスクシフト/シェアが進んでおり、特定行為研修修了者も病床規模に関わらず配置されています。医師から看護師へのタスクシフト/シェアとして行われている内容として、「注射、採血、静脈路の確保」、次いで「事前に取り決めたプロトコールに基づく薬剤の投与、採血・検査の実施」「カテーテルの留置、抜去等の各種行為」「特定行為の実施」の順で推進されていました。特定行為研修の領域別パッケージ研修において、令和7年9月時点で、指定研修機関は277機関、修了者数は2,765人であり、特定行為研修修了者の85.9%は病院に就業している実態があります。病棟業務におけるタスクシフト・シェアの取組の進行状況について、「とてもよく進んでいる」は1.6%、「進んでいる」は32.9%でした。タスクシフト・シェアを進めるための工夫・取組として、「看護管理者を中心に整理・見直しを行っている」が69.1%、「各職種の代表者が集まり整理・見直しを行っている」が63.4%が進められていました。分科会では、病院の看護の状況をよくわかっている看護管理者がキーパーソンとなり、各医療機関の実際の医療・看護業務の状況に応じて、看護の充実や質の向上のためにどうICT機器を活用するかをよく検討した上で導入されている好事例が示されました。令和6年度診療報酬改定では、感染対策等の専門的な知見を有する者が、介護保険施設等からの求めに応じてその専門性に基づく助言を行えるようにする観点から、感染対策向上加算、緩和ケア診療加算、外来緩和ケア診療管理料及び褥瘡ハイリスク患者ケア加算のチームの構成員の専従業務に当該助言が含まれることを明確化しました。地域の介護保険施設等に対して、医療ケア等に関する支援を行う病院が一定存在しており、病院規模に関わらず、特定行為研修修了者等の専門性の高い看護師が訪問による支援等を実施しています。今後、このような取組を推進していくために、効率的な実施に係る整備が進められることが期待されています。まとめ医療現場では人材確保と処遇改善、ICT活用による業務効率化が喫緊の課題となっています。医師の時間外労働規制と看護職員の配置基準を満たしながら、質の高い医療を提供するためには、医師事務作業補助者や看護補助者の確保と定着、夜勤手当の見直しによる夜勤者の確保、ICT・AI・IoT活用の推進が不可欠です。タスクシフト/シェアの取組も、看護管理者を中心とした現場主導の見直しや、特定行為研修修了者の活用により着実に進展しています。今後は、維持管理コストを含めた財政的支援の充実と、各医療機関の実情に応じた効果的な取組の推進が求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

入退院支援加算の最新動向2025:算定回数増加と身寄りのない患者への対応課題

入退院支援加算の最新動向2025:算定回数増加と身寄りのない患者への対応課題

Oct 7, 2025 07:06 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会は、入退院支援の現状を分析し、今後の課題を明らかにしました。令和5年6月審査分において、入退院支援加算の算定回数は389,081件、入院時支援加算は82,205件に達しています。入院時支援加算の届出がある医療機関では、急性期一般入院基本料で平均0.6日、地域包括ケア病棟入院料で平均4.8日、在院日数が短縮されていました。退院調整に時間や人手を要する患者として、「身寄りがなく同居者が不明な者」が最も多く、現行の算定要件に含まれていないこの要因への対応が課題となっています。今回の分科会では、入退院支援の効果が数値で示されるとともに、3つの重要な課題が浮き彫りになりました。第一に、入院時支援加算が平均在院日数の短縮に有効であることが実証されました。第二に、身寄りのない患者への退院調整に多大な時間と労力がかかっている実態が明らかになりました。第三に、協力医療機関との実効性のある連携体制の構築には、まだ改善の余地があることが判明しました。入退院支援加算の算定状況と入院時支援の効果入退院支援加算と入院時支援加算の届出施設数は微増を続けています。入退院支援加算の届出施設数は令和6年8月時点で4,895施設、入院時支援加算は2,689施設でした。算定回数は年々増加しており、入退院支援の重要性が医療現場で認識されている状況が読み取れます。入院時支援加算の効果は明確に表れています。入院時支援加算は、入院を予定する患者に対し、入院前の外来で治療の説明、入院生活のオリエンテーション、服薬状況の確認、褥瘡・栄養スクリーニング等を実施する取り組みを評価する制度です。この加算の届出がある医療機関では、届出がない医療機関と比較して平均在院日数が短くなりました。予定入院の場合、退院困難な要因の有無を入院前に評価でき、入退院支援の準備を早期から進められることが、在院日数短縮につながっています。入退院支援加算を算定した患者の「退院困難な要因」を見ると、病棟種別にかかわらず「緊急入院であること」が最も多い状況でした。地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟では、「入院前に比べADLが低下し、退院後の生活様式の再編が必要であること」も多く見られます。退棟先については、急性期入院料では自宅から入棟し自宅へ退棟する割合が高い一方、地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟・回復期リハビリテーション病棟では、転院や介護施設等への入所等、退棟先がより多様になっています。退院調整の課題と連携機関数の増加退院調整完了までに時間や人手を要する患者について尋ねたところ、「身寄りがなく同居者が不明な者」が最も多い結果となりました。この要因は現行の算定要件に明示されていませんが、実際の医療現場では大きな負担となっています。日本の世帯数の将来推計では独居の高齢者が増加しており、近親者のいない高齢者が急増すると見込まれています。退院先の確保のために工夫している取組としては、3つのアプローチが実施されていました。「退院を見据えた調整を入院直後から開始する」こと、「入院後速やかに患者及び家族などに説明を行う」こと、「退院に向けた要介護認定の区分変更の必要性を判断する」ことです。これらの取組には、ケアマネジャーとの密接な連携が重要となります。令和6年度診療報酬改定では、入退院支援における関係機関との連携強化が図られました。入退院支援加算1の施設基準で求める連携機関数について、急性期病棟を有する医療機関では病院・診療所との連携を、地域包括ケア病棟を有する医療機関では介護サービス事業所及び障害福祉サービス事業所等との連携を一定程度求める改定が行われました。連携機関の施設数は、前回調査と比較していずれの入院料も増加しており、介護保険サービス事業所との連携が最も多い状況でした。協力医療機関との連携強化と今後の方向性協力医療機関となっている施設数は、入院料や病棟の組合せによらず5件以下の医療機関が最多でした。急性期一般入院料2-6を算定するケアミックス型の医療機関や、地域包括医療病棟を有する医療機関で対象施設数が多い傾向が見られます。施設類型別では、特別養護老人ホームと介護老人保健施設の件数が多くなっていました。協力医療機関としての実効性のある連携に資する3要件全てを満たす医療機関の割合は、半数程度にとどまっています。特に急性期一般入院料1を算定する急性期病棟のみの医療機関では、その割合が低い状況でした。協力医療機関ごとに10床当たりの協力対象施設入居者数を見ると、1人以下の医療機関も一定数存在する一方、一部の医療機関では50人以上となっており、取組には差が見られます。在宅医療を提供している患者について、入院が必要になった場合の病床確保方法を見ると、診療所の59.8%が平時から連携体制を取っている他の医療機関を地域で確保していました。一方で、11.7%が基本的に救急搬送を依頼するため特定の医療機関とは連携していない状況でした。在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院、地域包括ケア病棟を有する病院のいずれかに該当する施設において、協力対象施設入所者入院加算を届け出ているのは約4割にとどまっています。届出していない理由として、ICTによる情報共有の体制整備や、カンファレンスの要件が困難と回答した施設が多く見られました。令和6年度診療報酬改定で新設された精神科入退院支援加算については、330施設のうち「届出あり」が26.4%、「届出の予定はない」が66.4%でした。届出をしていない理由は「看護師等の配置が困難であるため」が最も多く、77.4%を占めています。精神病床に入院する患者に対して、入院早期から包括的支援マネジメントに基づく入退院支援を行う体制の整備が、今後の課題となっています。ICT活用と面会制限の影響病院において地域医療情報連携ネットワーク等のICTを活用している施設は約3割でした。ICTを活用した情報共有の体制整備は、協力医療機関との連携を円滑に進める上で重要な要素となっています。地域連携診療計画加算の届出施設は微増していますが、算定回数はほぼ横ばいとなっています。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う一般病棟での面会制限は、入退院支援に大きな影響を及ぼしました。患者と家族の関係性の把握や、家族の思いを共有することが難しくなり、患者や家族の状況、家族の意向を踏まえた退院支援を進めることが困難な状況が生じていました。面会時のルールについては、「面会時間を日中に制限している」のほか、「面会者の年齢に制限を設けている」、「患者1人につき1日の面会人数を制限している」、「面会は予約制である」等を定めている現状があります。家族とのコミュニケーションが取れないことは、意思決定支援の観点からも大きな課題です。一部の医療機関では、ICTを活用したコミュニケーションをセッティングする等の工夫を行っています。5類感染症となった後も、各医療機関で対応にばらつきがあり、状況に応じた柔軟な対応方針が求められています。実効性のある連携体制の構築に向けて分科会では、介護施設等における対応力強化について重要な意見が出されました。高齢者施設で診ている心不全患者においては、水分貯留による体重増加や症状・兆候によって早期に外来を受診させる、訪問診療で利尿剤を調整する、病院の看護職員等が出向いてケア体制の支援を行う等によって、無駄な救急搬送・救急入院を減らすことが可能なケースがあります。救急搬送前の連携対応の評価を行うことで、施設からの高齢者の救急搬送を減らすことにつながる可能性が指摘されています。入院時支援加算については、入院支援部門が入院前に外来等で関わることにより、病棟看護師の業務軽減にも結びついています。病院全体の効率化に向けた動きが進んできている状況が確認されました。退院困難な患者のうち「身寄りがなく同居者が不明な者」は、現行の算定要件に示されていませんが、退院調整に時間あるいは人手を要している実態が明らかになりました。患者本人の状況だけではなく、周辺の要素と組み合わせて評価すべきとの考え方が示されています。平時からの連携として、現状は月に一度、協力医療機関と介護施設とでカンファレンス等によって入所者の情報を共有することが定められています。しかし、これだけでは介護施設の機能強化にまでつながるような連携は難しいとの指摘があります。協力医療機関の専門性の高い人材が介護施設を訪問して支援する等の取組が実際に行われており、より一層、介護施設と医療機関との連携体制を強化する上で、実効的な連携が進むように検討していくべきとの意見が出されました。協力医療機関は、必要時にすぐ相談・診療に応じ、緊急時に入院できる体制や病床を確保する機能が求められています。その負担を考慮した報酬評価が必要との意見も示されており、今後の診療報酬改定における検討課題となっています。まとめ入退院支援加算と入院時支援加算の算定回数は年々増加しており、入院時支援加算の届出がある医療機関では平均在院日数が短縮される効果が実証されました。退院調整に時間や人手を要する「身寄りがなく同居者が不明な者」への対応が新たな課題として浮き彫りになり、協力医療機関との実効性のある連携体制の構築が求められています。令和6年度診療報酬改定では連携機関数の要件が強化されましたが、ICT活用やカンファレンス要件等の課題も残されており、医療と介護の切れ目のない連携体制の構築に向けて、さらなる取組が必要となっています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

救急医療の需要増加に対応する診療報酬評価の課題と改善方向【2025年度】

救急医療の需要増加に対応する診療報酬評価の課題と改善方向【2025年度】

Oct 6, 2025 06:35 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、救急医療に関する検討結果がとりまとめられました。令和6年中の救急出動件数と搬送人員は過去最多を記録し、特に高齢者の搬送が増加しています。現場到着時間と病院収容時間はいずれも延伸しており、救急医療体制への負担が増大しています。現在の診療報酬制度では、救急患者連携搬送料の届出率が17%にとどまり、受入側医療機関への評価が不足しています。救急外来応需体制についても、24時間体制を構築する医療機関への適切な評価が課題となっています。分科会では、救急医療需要の増加に対応するため、搬送連携と外来応需体制の両面で診療報酬評価の見直しが必要との認識が示されました。救急搬送の現状では、救急患者連携搬送料の届出が低調であり、搬送元医療機関のみが評価される一方で受入側医療機関への評価がないことが指摘されました。救急外来応需体制では、院内トリアージ実施料と夜間休日救急搬送医学管理料の算定状況が報告され、ウォークイン救急患者を多数受け入れる医療機関の実態が明らかになりました。分科会からは、受入側医療機関への評価の必要性、地域包括ケア病棟での受入評価の充実、患者等搬送事業者の活用検討、24時間診療体制への適切な評価という4つの改善提案が示されています。救急搬送の現状と救急患者連携搬送料の課題令和6年中の救急自動車による救急出動件数と搬送人員は、集計開始以来の過去最多を記録しました。年齢区分別の搬送人員をみると、高齢者が増加している傾向が顕著です。搬送時間の延伸も深刻な課題となっています。令和5年中の救急自動車による現場到着所要時間は全国平均で約10.0分でした。病院収容所要時間は全国平均で約45.6分でした。新型コロナウイルス感染症の発生前の令和元年と比較すると、現場到着所要時間は約1.3分延伸し、病院収容所要時間は約6.1分延伸しています。救急患者連携搬送料の届出状況は低調でした。高度救命救急センター、救命救急センター及び第二次救急医療機関において、救急患者連携搬送料を届け出ている医療機関は17%にとどまりました。救急患者連携搬送料の届出医療機関数は、令和6年7月時点で224施設でしたが、令和7年5月には387施設へ大幅に増加しました。届出していない理由には複数の要因がありました。「救急用の自動車又は救急医療用ヘリコプターによる救急搬送件数が年間で2,000件未満であるため」という回答が多くありました。「搬送に同乗するスタッフが確保できないため」という人員配置の課題を挙げる医療機関もありました。「自院又は連携先医療機関が緊急自動車を保有していないため」という設備面の課題も指摘されました。「地域のメディカルコントロール協議会等と協議を行った上で、候補となる保険医療機関のリストを作成するという要件の達成が困難であるため」という体制整備の困難さも挙げられました。算定実態をみると、令和6年10月1か月に救急患者連携搬送料を算定した患者数は、ほとんどの医療機関において少数でした。搬送理由としては、「処置・手術等を必要としないが、急性疾患に対する治療を必要とする状態であった患者」が最も多くなっていました。転院搬送の実態も明らかになりました。第二次救急医療機関の一部には、入院した救急患者の25%以上が転院搬送で受け入れた患者である医療機関がありました。救急外来応需体制の評価状況救急外来医療に対する診療報酬評価として、院内トリアージ実施料と夜間休日救急搬送医学管理料があります。院内トリアージ実施料の算定医療機関数は、やや増加傾向を示しています。算定回数は、新型コロナウイルス感染症流行後に大幅に増加しましたが、令和6年には以前の水準まで減少しました。夜間休日救急搬送医学管理料の算定回数は、令和2年以降増加傾向が続いています。第二次救急医療機関における年間救急搬送患者受入人数に占める夜間休日救急搬送医学管理料の年間算定回数の割合を医療機関ごとに算出すると、令和2年度の平均値は24.6%、令和4年度の平均値は21.9%でした。ウォークイン救急患者の受入実態も注目されました。救急車等の救急受入患者数が少ない医療機関でも、相当数のウォークイン救急患者を受け入れている医療機関が多数存在することが明らかになりました。救急医療管理加算の算定状況も報告されました。救急医療管理加算の算定回数は、令和2年に減少したものの、以降は増加傾向を示しています。届出医療機関数は、令和2年以降横ばいからやや増加傾向となっています。入院した救急患者のうち、ウォークイン救急受診患者を含めて平均54.4%の患者に救急医療管理加算が算定されていました。分科会が示す改善の方向性分科会では、救急患者連携搬送における評価の課題について意見が示されました。救急患者連携搬送料は搬送元医療機関で算定するものである一方、受入側医療機関の評価がないことが指摘されました。救急患者連携搬送は受入側医療機関の協力を前提とした制度であることから、受入側にも一定の評価を設けることが必要との意見がありました。地域包括ケア病棟における受入評価についても提案がありました。地域包括ケア病棟において救急患者連携搬送料を算定した患者を受け入れた場合について、在宅患者支援病床初期支援加算の対象としたことには意義があるとされました。救急連携搬送における受入側医療機関への評価をさらに充実させることで、医療機関間の機能分担や連携の促進につながるのではないかとの意見がありました。搬送手段の多様化についても検討の余地が示されました。救急患者連携搬送にあたっては、病院救急車だけでなく、患者等搬送事業者を活用することについても、今後検討の余地があるのではないかとの意見がありました。救急外来応需体制に関しては、24時間診療体制への評価の必要性が提起されました。救急患者を多数受け入れる医療機関においては、医師・看護師等の人員配置に加え、24時間体制で検査・処方等が可能な診療体制の整備が不可欠であるとされました。こうした体制を構築し、地域の救急医療において重要な役割を果たしている医療機関については、適切な評価がなされるべきではないかとの意見がありました。まとめ救急医療需要の増加に対応するため、診療報酬評価の見直しが必要です。救急患者連携搬送では、搬送元だけでなく受入側医療機関への評価を設け、医療機関間の機能分担と連携を促進することが求められています。救急外来応需体制では、24時間診療体制を構築する医療機関への適切な評価が必要とされています。分科会が示した改善提案を踏まえ、救急医療提供体制の充実に向けた診療報酬制度の見直しが期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

重症度、医療・看護必要度の評価項目見直しと測定負担軽減への課題

重症度、医療・看護必要度の評価項目見直しと測定負担軽減への課題

Oct 5, 2025 06:48 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、重症度、医療・看護必要度の評価体系に関する重要な検討結果が示されました。分科会では、特定集中治療室・ハイケアユニット用の評価項目の適正化と、一般病棟用のB項目測定における負担軽減という2つの重要テーマを扱いました。現行の評価体系には、活用されていない項目の存在、実態と乖離した基準設定、医療現場における記録負担という3つの課題が明らかになっています。本稿では、集中治療室における致死性不整脈管理の評価のあり方、動脈圧測定・中心静脈圧測定の位置づけの見直し、一般病棟におけるB項目の特性分析と測定の合理化という3つの論点を詳述します。これらの検討結果は、次期診療報酬改定における重症度、医療・看護必要度の見直しに直接的な影響を与える重要な知見です。分科会が提示した課題と改善の方向性を理解することは、医療機関における今後の体制整備を考える上で不可欠です。特定集中治療室・ハイケアユニット用評価項目の課題と見直しの方向性特定集中治療室用とハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度には、評価項目の配点と実際の活用状況に大きな乖離があります。現行制度では、シリンジポンプの管理は1点という配点になっており、該当基準が2点以上であるため、この項目は実質的に基準該当の判定に活用されていません。一方、動脈圧測定と中心静脈圧測定はいずれも2点の配点となっており、これら単独の実施のみで基準を満たすことになります。日本集中治療医学会のICU入退室指針では、人工臓器サポートや心血管作動薬などの薬剤持続投与を行わない動脈圧測定や中心静脈圧測定の患者については、中間ユニットでの管理を考慮するとされています。現行の評価体系は、この学会指針と整合性がとれていない状況です。特定集中治療室用の重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者は全体の約92%に達しており、施設基準である7割または8割を大きく上回っています。該当患者割合が最も高い項目は動脈圧測定で約84%、最も低い項目は肺動脈圧測定で約6%でした。ハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度では、基準①を満たす患者は概ね3割であり、要件の1割5分を上回っています。基準②を満たす患者は概ね9割であり、要件の6割5分または8割を大きく上回っています。分科会では、現行基準が実態と乖離しているため、該当患者や施設の割合を踏まえた基準の見直しが必要であるとの意見が示されました。集中治療室における致死性不整脈管理の評価強化特定集中治療室とハイケアユニットの入室患者の傷病名では、急性心筋梗塞後の患者が上位を占めています。急性冠症候群ガイドラインでは、急性心筋梗塞発症直後は致死性不整脈の管理等を目的として、CCU(cardiac care unit)での管理が推奨されています。致死性不整脈が確認された場合には直ちに電気的除細動を行うこと、必要に応じて抗不整脈薬の投与を考慮することが推奨されています。また、病態に応じて一時的ペーシングが必要となる場合があります。特定集中治療室管理料の算定患者のうち、蘇生術の施行(電気的除細動を含む)に該当する患者割合は約5%、抗不整脈剤の使用は約12%、一時的ペーシングは約1%でした。ハイケアユニット入院医療管理料の算定患者では、抗不整脈剤の使用に該当する患者割合は約4~6%、一時的ペーシングに該当する患者割合は約0.1~0.3%でした。現行の特定集中治療室用・ハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度では、これらの処置を評価する項目がありません。分科会では、急性冠症候群の治療後や心停止蘇生後の患者は、人工呼吸器の管理等を要さない場合であっても、ICUやHCUにおいて厳格な不整脈のモニタリングを要する場合があるとの意見が出されました。致死性不整脈等のリスクに備えた管理は、ICUやHCUの重要な役割の一つであることを踏まえ、蘇生術の施行、電気的除細動、抗不整脈薬の投与、一時的ペーシング等の処置について、特定集中治療室用とハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度での位置づけを検討してはどうかとの提案がなされました。一般病棟用の重症度、医療・看護必要度における必要度Ⅱの普及と課題令和6年度診療報酬改定において、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価項目が見直され、急性期一般入院料1では割合①と割合②が設定されました。令和6年11月1日時点で、必要度Ⅱを届け出ている施設は、急性期一般入院料1で99.0%、急性期一般入院料2-3で78.3%、急性期一般入院料4-6で41.0%となり、令和4年11月1日時点より増加しています。必要度Ⅱの普及により、レセプト電算処理システム用コードを用いた評価が広がり、看護職員の記録負担の軽減が期待されています。重症度、医療・看護必要度Ⅰの該当患者割合は、急性期一般入院料2-3においてのみ令和4年より令和6年の割合が高くなりましたが、その他の入院料については令和6年の割合は低下しています。重症度、医療・看護必要度の記録について、病棟看護管理者が課題に感じていることを調査したところ、「特になし」と回答した割合は必要度Ⅰが26.1%、必要度Ⅱが28.9%であり、必要度Ⅱの方が課題を感じていない割合が高くなっています。看護職員による記録忘れが多いとの回答は必要度Ⅰが51.7%、必要度Ⅱが47.4%、看護必要度に関する職員研修に手間がかかるとの回答は必要度Ⅰが35.5%、必要度Ⅱが31.8%と、いずれも必要度Ⅰの方が課題を感じている割合が高くなっています。必要度の記録により時間外勤務が発生しているとの回答は、必要度Ⅰが19.7%、必要度Ⅱが21.0%でした。分科会では、看護師による重症度、医療・看護必要度の評価に係る負担が軽減されてきたと考えられる一方で、どこにどのような負担があるのかをもう少しデータとして調べていく必要があるのではないかとの意見が出されました。また、令和2年度診療報酬改定における記録簡素化について再度周知すべきとの意見もありました。B項目の特性分析と測定の合理化に向けた検討令和2年度診療報酬改定において、重症度、医療・看護必要度のB項目について、「患者の状態」と「介助の実施」に分けた評価とし、「評価の手引き」により求めている「根拠となる記録」を不要とする見直しが行われました。令和6年度診療報酬改定では、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価項目の見直しに伴い、急性期一般入院料1等では、B項目は基準から除外されましたが、当該評価票を用いて評価を行っていることが要件となっています。急性期一般入院料1は、急性期一般入院料2~6と比較して、基準1~3に該当する割合およびA得点2点以上の割合が高く、B得点3点以上の割合は低くなっています。地域包括医療病棟は、急性期一般入院料と比較して、B得点3点以上に該当する割合が高く、70%を超えています。入院初日にB得点が3点以上である割合は、特定機能病院や急性期一般入院料1で低く、急性期一般入院料2~6や地域一般入院料1、地域包括医療病棟で高くなっています。地域包括医療病棟では入院初日にB得点が3点以上である割合が68%であり、令和6年では最も高い割合を占めています。急性期一般入院料2~6、地域包括医療病棟における入院時と退院時のB得点は、要介護度との高い相関がみられました。特に要介護4~5においては、入院時から退院時にかけてB得点の変化がほとんどみられませんでした。患者全体の入院中のB項目の平均値は、入院後日数が経つにつれ、患者数の減少とともに緩やかに上昇しています。B項目の前日との差分の平均は、入院3日目頃からマイナス(改善)であり、7日目頃から変化がなくなっています。この時期には前日とB項目の変化がない患者が約7割程度となっています。分科会の分析では、B項目は、疾患によって悪化した身体機能によるケアの必要性と、発症前からの身体機能によるケアの必要性の双方を反映した指標であると考えられました。入院4日目、術後7日目以降はB項目の変化が少ない患者の割合が約7割に収束すること、A項目が±2点以上変化した場合にB項目も同じ方向に変化する患者の割合が増えること、要介護度が高いとB点数が高いこと、要介護度の高い患者では退院時まで変化しないケースが多いことが明らかになりました。内科系症例の重症度評価と救急搬送受入の評価案急性期一般入院料1において、外科系症例(手術に係るKコード算定症例)と比較して、内科系症例(それ以外の症例)では、A得点2点以上、3点以上となる該当割合はいずれも低く、B得点3点以上の割合は高くなっています。救急搬送により入院した内科系症例の重症度、医療・看護必要度の該当割合は、救急搬送ではない外科系症例の重症度、医療・看護必要度の該当割合と比較して、いずれの入院料においても低くなっています。救急搬送からの入院や緊急入院の約8割を内科系症例が占めています。日本内科学会提出資料によれば、現行のA・C項目に内科系の診療負荷が高い検査や処置を追加する案では、内科系症例と外科系症例の該当患者割合の差は、24.3%から22.8%に縮まりました。A・C項目を精緻化するのではなく、病棟や病院の負荷を直接的に医療・看護必要度の底上げに用いる方法として、救急医療や緊急入院を評価する案が検討されました。令和6年度改定でA項目の「救急に入院を要する状態」の評価日数が5日から2日に引き下げられており、単純に日数を戻すことによる入院延長の誘因となりうることが考慮されました。分科会では、救急搬送応需件数を各病棟に按分した病床あたり件数や、協力対象施設入所者入院加算の病床あたり算定回数に一定の係数を乗じること等により連続的に評価し、当該病棟の基準該当割合に加算する案について議論されました。この方法に基づくと、基準該当割合への加算分が大きい施設は、概ね内科系症例の割合が多い施設となります。この評価案は、個々の症例の評価指標を精緻化するのではなく、病院・病棟全体の負荷を必要度の基準該当割合に反映する方法として提案されています。まとめ令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会における重症度、医療・看護必要度の検討では、特定集中治療室・ハイケアユニット用と一般病棟用の双方について、評価体系の適正化に向けた重要な課題が明らかになりました。集中治療室では、致死性不整脈管理の評価項目追加と、動脈圧測定・中心静脈圧測定の位置づけ見直しが論点です。一般病棟では、B項目の特性を踏まえた測定の合理化と、内科系症例を適切に評価する新たな指標の構築が課題です。これらの検討結果は、次期診療報酬改定における重症度、医療・看護必要度の見直しに直接的に反映されることが予想されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

療養病棟入院基本料の現状分析:医療区分充足率と身体的拘束の実態から見る課題

療養病棟入院基本料の現状分析:医療区分充足率と身体的拘束の実態から見る課題

Oct 4, 2025 08:40 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会では、療養病棟入院基本料等の現状について検討結果がまとまりました。令和6年度末に介護療養病床が廃止されることに伴い、看護配置25対1の経過措置が令和6年5月末で終了したことを受け、慢性期医療提供体制の構築が求められています。新たな地域医療構想では、在宅医療需要への対応を見据え、療養病床だけでなく在宅医療や介護施設等とあわせた体制整備が重要とされました。分科会では療養病棟における医療区分の充足状況、栄養管理体制、在宅復帰の取組、障害者施設等入院基本料の4つの観点から現状を分析しました。医療区分2・3の施設基準を満たさない医療機関が入院料1で12.8%、入院料2で3.8%存在する一方、DPCデータでは入院料2の95.5%が医療区分2・3を6割以上受け入れていました。身体的拘束は認知症患者で25.7%、認知症のない患者でも13.6%実施され、病棟間でばらつきがありました。経腸栄養管理加算は届出910施設のうち約9割が算定実績なしで、栄養サポート体制の構築が課題です。在宅復帰機能強化加算は709施設が届出し、加算届出施設では在宅退院割合が高い傾向でしたが、加算ありでも死亡退院50%超の病棟が存在しました。医療区分の充足状況と身体的拘束の実態療養病棟における医療区分の充足状況は施設間で差がみられ、改善の余地があります。令和6年度診療報酬改定で中心静脈栄養の医療区分が病態と実施期間に応じて見直され、令和6年10月時点で入院料1の12.8%、入院料2の3.8%が施設基準(入院料1で医療区分2・3が8割、入院料2で5割)を満たしていませんでした。一方、DPCデータでは入院料2の95.5%が医療区分2・3を6割以上受け入れていることから、入院料2の施設基準を検討する余地があるとの意見が出されました。医療区分2・3の疾患・状態、処置等に該当する患者割合は入院料1・2ともに増加しており、特に「医師及び看護師の常時の管理」に該当する患者が増えていました。分科会では、療養病棟の看護職員配置が20対1であることから、医療区分の高い患者を受け入れられる医療体制の検討が必要との意見がありました。また、褥瘡と肺炎を併発するなど同じ処置区分に複数該当する場合の医療資源投入量についても評価すべきとの指摘がありました。身体的拘束の実施状況は認知症の有無で大きく異なり、課題が浮き彫りになりました。認知症のある患者では25.7%、認知症のない患者では13.6%に身体的拘束が実施されていました。病棟ごとの分析では、挿入デバイスのある認知症患者でも約3割の病棟が身体的拘束を全く実施していない一方、挿入デバイスのない認知症でない患者にも20%以上身体的拘束を実施している病棟が約2割存在しました。分科会では、デバイスや認知症以外の要素で患者像に違いがあるのか、病棟の見守り体制や夜間を含めた人員配置等まで踏まえて現状を評価し、検討を進めるべきとの意見が出されました。経腸栄養管理と摂食嚥下機能回復の課題療養病棟における栄養管理の現状は、中心静脈栄養への依存度が高く、経腸栄養への移行が進んでいません。医療行為・処置等の実施状況は令和4年度調査と同様の傾向で、中心静脈栄養が16.3%、胃ろう・腸ろうによる栄養管理が13.0%、経鼻経管栄養が26.7%でした。1か月に中心静脈栄養を実施した人数は11-20人の病棟が最多で半数弱を占め、中心静脈栄養を実施した患者のうち身体的拘束を行った患者の割合が高い病棟もみられました。摂食嚥下機能回復の取組に係る診療報酬上の評価として複数の加算が設けられていますが、算定実績は低調です。中心静脈栄養を実施している患者の摂食・嚥下機能回復に必要な体制は、入院料1で約3割、入院料2で約4割が整備していました。しかし、体制を整備できていない医療機関のうち9割が今後も整備予定なしと回答し、その理由として内視鏡下嚥下機能検査または嚥下造影の実施体制確保が困難という回答が約8割に達しました。分科会では、日常的な嚥下訓練では反復唾液嚥下テストや水飲みテストのような簡易な評価法でもタイムリーに実施可能であり、全ての施設で検査体制が必要かは検討の余地があるとの意見が出されました。経腸栄養管理加算の算定率は極めて低く、制度設計の見直しが求められています。令和6年8月から10月の3か月で経腸栄養管理加算を1回以上算定した施設は9.3%にとどまり、届出施設910のうち約9割が算定回数0回でした。届出が困難な理由として「栄養サポートチーム加算を届け出ていないため」が80%以上を占め、研修を受けた医師・看護師等の配置が難しいことが調査で示されました。分科会では、施設基準について検討を深めるべきとの意見がありました。また、認知症がないのに身体的拘束を受けながら中心静脈栄養を続けている患者の栄養管理のあり方は、さらなる議論が必要との指摘もありました。在宅復帰に向けた取組と評価療養病棟における在宅復帰の取組は一定の成果を上げていますが、機能の明確化が求められています。在宅への退院を評価する在宅復帰機能強化加算は令和6年8月時点で709施設が届け出ていました。加算では退院後1か月以内に患者が在宅生活を継続していることを、患者居宅への訪問または在宅医療を担当する医療機関等からの情報提供により確認することとされています。在宅復帰機能強化加算の届出施設では在宅退院の成果が高い傾向がみられました。療養病棟における在宅への退院割合や死亡退院割合は施設ごとにばらつきがありましたが、在宅復帰機能強化加算を届け出ている施設では在宅へ退院する患者の割合が高く、死亡退院の割合は低い傾向でした。ただし、在宅へ退院する患者の割合が比較的高くても加算を届け出ていない施設が存在しました。在宅復帰機能強化加算の要件については見直しの余地があるとの意見が出されました。加算ありでも死亡退院が50%を超える病棟があることが明らかになり、分科会では医療保険の療養病棟として望ましい姿とは言えず、加算の要件として死亡退院を含めた在宅復帰率を見ることもあり得るとの意見がありました。療養病棟は在宅医療とともに整備され、メリハリある体制となるべきであり、身体的拘束の実施状況も踏まえつつ、経腸栄養に切り替えるための工夫についても検討すべきとの指摘がありました。障害者施設等入院基本料と特殊疾患病棟入院料の状況障害者施設等入院基本料における患者要件の充足状況は看護配置により差がみられます。障害者施設等入院基本料の病棟における該当患者7割の基準は、7対1病棟では概ね満たされていましたが、10対1以下の病棟では7割に満たない施設が17.3%ありました。障害者施設等入院基本料・特殊疾患病棟入院料2においては重度の肢体不自由児(者)の該当割合が高く、対象疾患に該当する割合は全体で8割を超えていました。特殊疾患病棟入院料1においては難病患者等の割合が高い傾向でした。障害者施設等入院基本料の病棟では廃用症候群が主傷病である患者の割合が多いことが明らかになりました。この背景として、レセプトやDPCにおいては元々の患者要件に係る傷病名ではなく、入院契機となった病名が記録されるため、入棟要件のいずれに該当するのかを把握することが難しいという課題があります。まとめ療養病棟入院基本料等の現状分析から、医療区分の充足率向上、身体的拘束の最小化、経腸栄養管理体制の整備、在宅復帰機能の強化という4つの課題が明確になりました。慢性期医療提供体制は在宅医療需要の増加に対応するため、限りある資源を活用し、地域の実情に応じた体制構築が求められています。今後の診療報酬改定では、これらの課題に対する施設基準の見直しや評価方法の改善が検討されることが期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

回復期リハビリ病棟の評価見直しへ:実績指数除外基準の課題が明らかに

回復期リハビリ病棟の評価見直しへ:実績指数除外基準の課題が明らかに

Oct 3, 2025 07:17 岡大徳

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会では、回復期リハビリテーション病棟入院料の評価体系について検討を行いました。この検討では、実績指数の除外基準に該当する患者が全体の86%に達している現状が明らかになりました。回復期リハビリテーション病棟の届出病床数は約9.5万床、届出機関数は1,620施設であり、直近10年で届出病床数が約1.4倍に増加しています。分科会での議論では、実績指数の除外基準の見直し、重症患者割合と実績指数除外基準の重複問題、リハビリテーション単位数増加の効果の3点が主な論点となりました。実績指数の除外基準では「年齢が80歳以上」の該当割合が50%以上の施設が9割を超えている状況です。重症患者基準と実績指数除外基準の両方に該当する患者は、FIM運動項目では49.6%、FIM認知項目では85.9%でした。リハビリテーション単位数については、運動器リハビリテーション料と廃用症候群リハビリテーション料で7単位以上の提供ではFIM利得が比較的小さい結果が示されました。退院前訪問指導の実施率向上や高次脳機能障害患者への支援強化も課題として指摘されています。実績指数の除外基準が抱える構造的問題実績指数は回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価の指標です。この実績指数では、医療機関の判断で各月の入棟患者数の3割以下の範囲で除外できることとされています。除外が可能な要件には「年齢が80歳以上」「FIM運動項目20点以下」「FIM認知項目24点以下」などがあります。除外基準の該当状況を見ると、「年齢が80歳以上」の該当割合が50%以上の施設が9割を超えています。いずれかの除外項目が該当する患者の割合が70%を超える施設は全体の86%に達しています。この状況について、分科会ではほぼ全ての患者が除外基準に該当している施設もあり、現行の基準で病棟の機能を正しく評価できているのか疑問であるとの意見が出されました。「年齢が80歳以上」や「FIM認知項目24点以下」に該当する患者のFIM利得の分布は、患者全体と概ね同様でした。この結果から、これらの患者でもFIMが改善しないわけではないため、実績指数の計算対象から除外する必要性は乏しいのではないかとの意見がありました。一方で、FIM下位項目の得点が2点から3点に上がるのと5点から6点に上がるのでは自宅復帰への意味が異なる可能性があり、FIM利得には現れない効果を見落とさないよう評価を検討すべきとの指摘もありました。重症患者割合と実績指数除外基準の重複が示す課題回復期リハビリテーション病棟に入棟する患者の要件として、重症患者割合の要件が定められています。回復期リハビリテーション病棟1・2では重症患者割合が4割以上、3・4では3割以上とされています。令和6年5月から10月の実績では、回復期リハビリテーション病棟1・2における重症患者割合は約40から50%でした。重症患者基準に該当する患者のうち、リハビリテーション実績指数の除外基準にも該当する患者の割合が高いことが明らかになりました。重症患者基準に該当する患者のうち、「FIM運動項目20点以下」にも該当する患者は49.6%、「FIM認知項目24点以下」にも該当する患者は85.9%でした。入棟時に「FIM運動項目20点以下」の患者は、脳血管疾患等リハビリテーション料と廃用症候群リハビリテーション料ではFIM利得が比較的小さい結果でした。この重複について、分科会では重症患者と実績指数の除外基準両方に該当する患者が増えていることは理解できるものの、重複しないようにすると重症な患者も選別せずに入院を受け入れてほしいという当初の理念と食い違いが生じるため、慎重に検討すべきとの意見が出されました。リハビリテーション単位数増加の効果検証令和6年度改定では、回復期リハビリテーション病棟入院料または特定機能病院リハビリテーション病棟入院料を算定する患者で、運動器リハビリテーション料を算定するものについて、1日6単位までの算定とする見直しを行いました。この見直しは、運動器疾患に対する1日6単位を超えた実施単位数の増加に伴うADLの明らかな改善が見られなかったことを踏まえたものです。運動器リハビリテーション料と廃用症候群リハビリテーション料において、7単位以上の提供ではFIM利得が比較的小さい結果でした。運動器リハビリテーション料については、改定前後で1日6単位を超えた算定は6割程度に減少しています。改定前に1日6単位を超えて実施した患者は、改定後に1日5から6単位実施した患者と比べ、FIM利得の上昇は少ない結果でした。回復期リハビリテーション病棟における疾患別リハビリテーションの実施割合は、脳血管疾患等が54.3%、運動器が38.2%、廃用症候群が7.3%でした。廃用症候群リハビリテーションが実施された患者における医療資源を最も投入した傷病名としては、廃用症候群が55.0%で最も多い結果でした。分科会では、令和6年度改定後も運動器リハビリテーション料について6単位を超えて実施している患者が相当数いるが、単位数が増えてもFIM利得がほとんど変わっていないため、6単位を超えるリハビリを実施できる対象について分析を深めてはどうかとの意見が出されました。質の高いリハビリテーション医療の推進に向けた取り組み発症後の機能回復を図る上では、ベッド上等で行われる徒手でのアプローチのみでは不十分であり、他のアプローチと組み合わせた介入が重要です。入棟時のFIM運動項目が20点以下かつ要介護4、5の患者は、FIM21点以上や要介護4、5以外と比較し、患者1日当たりの平均リハビリテーション実施単位数は変わらないものの、運動項目のFIM利得が低い結果でした。退院前訪問指導は回復期リハビリテーション病棟において包括されているものの、全入院患者の3から5%ほどに実施されており、その割合は他の病棟よりも高い状況です。各入院料を算定する施設において退院前訪問指導を実施している病院の割合は14から24%に留まっていました。退院前訪問指導はほとんどの施設で60分以上の実施時間を要しており、120分以上150分未満の割合が最も多い結果でした。具体的な実施内容として、家屋調査の他に外部との調整に係る項目も80%以上の病棟で行われていました。高次脳機能障害者への支援に係る11の関係機関へのヒアリング調査では、入院医療機関における高次脳機能障害の診断や説明が不十分な場合があることや、支援に係る情報提供の不足、高齢者が多い病棟における障害福祉関連機関とのネットワークの希薄さ、退院時に相談窓口の情報を伝えることの重要性等について指摘がありました。令和6年診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟入院料1及び2について地域支援事業に参加していることが望ましいこととしており、令和6年11月1日時点で地域支援事業に参加している回復期リハビリテーション病棟は約70%でした。生活機能の回復に資する診療報酬には排尿自立支援加算や摂食嚥下機能回復体制加算がありますが、回復期リハビリテーション病棟入院料の届出施設においては、これらの加算を届け出ている施設はそれぞれ24.2%、8.7%に留まっています。分科会では、退院前訪問指導は60分以上かけて行っている施設が9割を超えており、実施内容を踏まえた適切な評価方法について検討を進めるべきとの意見や、高次脳機能障害について特に就労支援に関してはかかりつけ医等との密な連携に対してより評価をすべきではないかとの意見が出されました。まとめ回復期リハビリテーション病棟入院料の評価体系には、実績指数の除外基準に該当する患者が全体の86%に達している課題、重症患者基準と実績指数除外基準が重複している課題、リハビリテーション単位数増加の効果が限定的である課題の3つの構造的問題があります。分科会では、これらの課題について除外基準の見直し、重症患者受け入れの理念との整合性の確保、リハビリテーション単位数上限の在り方の検討が必要との意見が出されました。退院前訪問指導の実施内容を踏まえた適切な評価方法の検討や高次脳機能障害患者への支援強化も今後の重要な論点となります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟の現状と課題―高齢者救急の受け皿となる包括的入院医療の検証結果

地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟の現状と課題―高齢者救急の受け皿となる包括的入院医療の検証結果

Oct 2, 2025 08:13 岡大徳

令和7年9月25日に開催された第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、包括的な機能を担う入院医療の検証結果がとりまとめられました。85歳以上の高齢者入院患者数が増加する中、新たな地域医療構想で位置づけられた「高齢者救急・地域急性期機能」と「在宅医療等連携機能」を担う地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟について、その実態と課題が明らかになりました。地域包括医療病棟は急性期病棟との併設が多く、高齢者救急の受け皿として機能しています。地域包括ケア病棟は在宅復帰支援の役割を果たしていますが、白内障や大腸ポリープなど短期滞在手術が上位疾患となっている点が課題として指摘されました。両病棟ともに救急受入や後方支援機能には施設間で大きなばらつきがあり、高額薬剤使用患者の受入困難という課題を抱えています。この検証では、地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の届出状況、入院患者の特徴、施設基準の充足状況、救急受入と後方支援の実態、高額薬剤使用の課題という4つの観点から分析が行われました。地域包括医療病棟では、緊急入院や手術の有無により医療資源投入量に差があり、85歳以上で在院日数が5~6日延長する傾向が確認されました。地域包括ケア病棟では、直接入院割合や救急受入件数に施設間で大きな差があり、救急搬送からの入院が15%を超える施設も存在します。両病棟ともに救急告示病院が多く、救急受入を実施していますが、後方支援機能を評価する加算の算定は二極化しています。高額薬剤使用患者の受入困難は、トルバプタンやパーキンソン病治療薬、骨粗鬆症治療薬、生物学的製剤、回復期リハビリテーション病棟では4分の1超の施設で抗がん剤が課題となっています。地域包括医療病棟入院料の届出状況と医療機関の特徴地域包括医療病棟を届け出た医療機関は、約3分の2が同一医療機関内に急性期一般入院料1~6のいずれかを有しており、地域包括ケア病棟を有する医療機関が半数以上でした。約3分の2が同一医療機関内にDPC対象病床を有しています。届出前から減少した入院料は、急性期一般入院料1が4割程度と最多であり、急性期一般入院料2~6、地域包括ケア病棟が続きました。急性期一般入院料2~6から移行したと思われる医療機関の半数程度では、地域包括医療病棟の届出後に急性期一般入院料を算定する病棟がなくなっています。地域包括医療病棟を有する医療機関が併設している病棟の組み合わせは様々です。二次医療圏の人口区分別にみると、大都市型の二次医療圏では急性期機能を有する病院が多く、過疎地域型になるにつれ、回復期等~慢性期病棟のみを有する病院の割合が多くなっていました。地域包括医療病棟入院料を届け出ている施設のうち、同一・隣接敷地内に約半数が訪問看護ステーションを有しており、居宅介護支援事業所を有する施設も多くみられます。地域包括医療病棟の届出を行った理由は、「高齢者の救急搬送の増加に伴いニーズに沿った対応が可能」「経営が安定すると考えた」「急性期一般病棟入院基本料等の重症度、医療・看護必要度の基準を満たすことが困難」が多く挙げられています。届出を行った結果、現時点で感じていることとしては、「他の入院料の病棟と組み合わせることで患者の状態に即した医療を提供できている」「経営が安定してきている」「実際の患者の状態により即した入院料等であると感じている」が上位でした。急性期病棟を有する医療機関のうち、地域包括医療病棟を届け出ていない医療機関において、今後の届出を検討したものの実際には届け出ていない医療機関は約15%であり、届出を検討中の医療機関は3.7%です。地域包括ケア病棟を届け出ている施設では、届出を検討した医療機関は30.5%あり、実際に検討中の医療機関は7.5%で、急性期の医療機関と比較して届出を検討している施設が多い状況です。急性期病棟を有する医療機関の約8割、地域包括ケア病棟・病室を届け出ている施設の約6割は届出を検討していないと回答しています。地域包括医療病棟に入院する患者像と施設基準の課題地域包括医療病棟に入院する患者は、急性期一般入院料2~6の病棟と比べ年齢や要介護度が高く、認知症や低栄養リスクを有する患者の割合が多い特徴があります。入院初日のB項目3点以上、重症度、医療・看護必要度等の要件は概ね全ての病棟で満たされていました。入院患者数の多い疾患は、誤嚥性肺炎、肺炎、尿路感染症、心不全、脱水、その他の感染症などの内科系疾患と、股関節骨折(手術あり)、胸腰椎の圧迫骨折(手術なし)などの整形外科疾患です。医療機関毎に手術に係るKコードの実施割合や、全体として患者数が上位である内科系疾患の入棟割合には大きなばらつきがあり、診療のパターンは一定ではありませんでした。急性期一般入院料2~6を算定する病棟と地域包括医療病棟の双方を有している場合に、各病棟に入院する疾患や要介護度、年齢層の分布には目立った特徴はみられていません。分科会では、多疾患を有する救急患者は、搬送時点で急性期病棟と地域包括医療病棟のいずれが適しているか判断が難しいとの意見や、患者像は大きな違いはなく、高齢者において頻度の高い疾患をそうした病棟でみることも考えられるのではないかとの意見がありました。地域包括医療病棟に入院する患者の入棟元は自宅が最も多く、退棟先も自宅が最も多い結果です。自宅・居住系施設等への退院は全体の約85%でした。年齢は、在院日数の延長と関連する独立した因子であるとの文献的報告があり、急性期一般入院料2~6、地域包括医療病棟のいずれにおいても、年齢階級が上がるほど在院日数が長くなる傾向です。85歳以上では、在院日数の中央値が85歳未満と比べて5~6日程度延長していました。各施設における85歳以上の患者の割合にはばらつきがあります。分科会では、高齢であるほど在院日数が長いのは当然の結果であると思われ、どのような患者を受け入れているかを、急性期を含む入院の評価に組み込んではどうかとの意見がありました。急性期病棟を有する医療機関は、地域包括医療病棟の届出にあたって満たすことが困難な施設基準として、「休日を含めすべての日にリハビリテーションを提供できる体制の整備」を回答した医療機関が半数を超えていました。続いて、「自院の一般病棟からの転棟が5%未満」「常勤のPT/OT/STの配置」「ADLが低下した患者が5%未満」が多くあげられています。一方、地域包括ケア病棟を有する医療機関における届出にあたって満たすことが困難な施設基準として、「重症度、医療・看護必要度の基準①を満たすこと」を回答した医療機関が半数程度でした。続いて、「在宅復帰率8割」「休日を含むリハビリの体制整備」「初日にB項目3点以上」「ADL低下が5%未満」を回答した施設が多く、急性期病棟を有する医療機関とは違った傾向がみられています。同一医療機関内に地域包括医療病棟と急性期一般入院料2~6の病棟の双方を有する施設に直接入院した患者について、いずれの病棟に入院したかに分類して、入退院時のADLの変化を比較したところ、病棟の種類による違いは大きくありませんでした。一方、ADLの変化のパターンは疾病ごとに異なり、誤嚥性肺炎や心不全では、整形外科系症例と比較し、入院期間中のADLの改善幅は少ない結果です。急性期一般入院料2~6の病棟と地域包括医療病棟では、地域包括医療病棟においてADLが改善する患者が多い傾向でした。しかし、ADLが低下した患者の割合はいずれも5%を超えており、一時的に施設基準を満たせない医療機関があることが想定されました。リハビリテーション・栄養・口腔連携加算の効果と課題地域包括医療病棟において、リハビリテーション・栄養・口腔連携加算を届け出て算定している施設とそれ以外の施設で、入院中のADL変化の分布に大きな差はみられませんでした。算定している医療機関におけるADLが低下した患者の割合は4.7%であり、算定していない医療機関における5.5%より少ないものの、基準である3%未満には達していません。連携加算の算定回数が1回以上の施設は地域包括医療病棟全体の約11%でした。70%にあたる19施設が加算を届け出ていない理由を回答し、「休日のリハビリテーション料の提供単位数が平日の提供単位数の8割以上を満たさないため」が最も多い結果です。次いで、「リハビリに習熟した常勤医師の確保が困難」「入棟後3日までに疾患別リハビリを算定された患者割合が8割に満たない」を回答した施設が多くありました。実際に、「休日のリハビリ提供単位数」については満たせていない施設が約6割あり、「ADLが低下した患者の割合が3%未満」を回答した施設も約3割ありました。退院時にADLが悪化した患者の割合は連携加算の算定あり施設で7.9%、なし施設で4.9%でしたが、ADLが大きく改善した患者の割合は算定あり施設で多い結果です。ADLが低下する患者は要介護度や年齢が高い傾向でした。連携加算の算定有無によらず、退院時にADLが低下した患者の割合が5%未満の施設は60%程度です。連携加算の算定施設では、リハビリ実施割合、3日以内にリハビリ開始した割合がともに高く、1人1日当たりの平均リハビリ実施単位数は算定施設で3.3単位、算定なし施設で2.3単位と算定施設で多くなっています。土日祝日の施設全体のリハビリ提供量は算定施設で86%、算定なし施設で68%でした。分科会では、ADLについて、リハビリテーション・栄養・口腔連携加算の算定有無とADLスコア平均や改善幅の検討だけでなく、実際に提供されたリハビリの量や介入の時期等を踏まえ、どのような取組が効果的なのかといった検討を進めるべきとの指摘がありました。地域包括医療病棟における医療資源投入量の特徴包括内の出来高点数に対する請求点数の比は、整形外科系の疾患等、出来高算定の手技を伴う疾患で高い傾向にありました。一方、誤嚥性肺炎、脳梗塞、尿路感染症等の内科系疾患においては包括内の出来高実績点数に比して請求点数が低い傾向です。内科系疾患は外科系疾患に比べ、救急搬送からの入院、緊急入院の割合が高く、高齢者では特に強くその傾向がみられました。包括内の出来高実績点数にはばらつきがあり、緊急入院が多い診断群分類や、手術を行うことが少ない診断群分類において包括内の出来高実績点数が高い傾向です。地域包括医療病棟において、緊急入院の割合や手術実施の割合に基づいて診断群分類を層別化すると、1日あたりの包括内の出来高実績点数の分布は、手術のない緊急入院、手術を行う緊急入院、手術予定のない予定入院、手術目的の予定入院の順に高い結果でした。患者ごとに予定/緊急入院、手術実施の有無により、1日当たりの包括内の出来高実績点数の患者ごと分布を比較すると、手術を行わない緊急入院群では手術目的の予定入院群と比較し、1日当たり包括内出来高実績点数の平均値は約440点高く、群による差が大きい状況です。医療資源投入量や年齢層が同じであってもADLや要介護度は様々であり、医療資源投入量では測定されない診療上の手間が示唆されました。分科会では、手術に係るKコードを算定している地域包括医療病棟が多く、整形外科の標ぼうがある医療機関では療法士数や他の要件との兼ね合いから地域包括医療病棟を届出やすいのではないかとの指摘がありました。高齢者の疾患を幅広くみるという観点から、内科系疾患と外科系疾患の包括範囲内の医療資源投入量について、バランスがとれるよう、その内訳や診療内容を更に検討すべきではないかとの意見がありました。緊急入院の受入時には様々な手間がかかるので、看護師等の療養の世話の手間について、投入している医療資源の一環として評価方法を検討してはどうかとの意見もあります。地域包括医療病棟の届出が伸びてこないのは施設基準の厳しさが影響している可能性があり、地域包括ケア病棟との患者像の類似も踏まえ、緩やかに統一していくような評価方法も検討できるのではないかとの意見がありました。下り搬送については、最初の搬送先が病床稼働率等の観点で、本来その病院で診療する必要のない患者を入院させるという事象もあるようなので、機能分化を進めても経営できるよう、評価を検討していってはどうかとの意見もあります。地域包括ケア病棟入院料の在院日数と包括範囲の特徴令和6年度改定で、入院41日目以降は入院料が低減する仕組みが導入されたものの、地域包括ケア病棟における入院日数の中央値は23日程度で、改定前後で変化はみられませんでした。地域包括ケア病棟及び病室を届け出ている病棟における在宅復帰率は、入院料・管理料1~2において90%以上の施設が基準を満たしており、改定前後を比較すると、改定後に高い傾向がみられています。入院料・管理料3~4においては在宅復帰率の施設基準を満たしていない施設がみられました。地域包括ケア病棟における自宅等からの直接の入院割合は、医療機関ごとにばらついています。急性期病棟を有する施設では、有さない施設に比べ、直接入院する患者の割合は少ない施設が多いものの、施設によっては直接入院を多く受け入れていました。直接入院のうち、緊急入院の患者が少ない傾向にあります。地域包括ケア病棟の入院患者数上位50位までの疾患について、1日あたりの包括内の出来高換算点数は地域包括医療病棟と比べて一定の範囲に集中していました。短期滞在手術等基本料3に該当する疾患では、請求点数が高い傾向です。地域包括ケア病棟における包括内の出来高実績点数は、地域包括医療病棟と比較しばらつきが少ない結果でした。入棟経路による包括内出来高実績点数の差は小さく、直接入院した群について、予定/緊急入院と手術の有無により群分けすると、地域包括医療病棟のように4群の差は明らかでないが、緊急入院は予定入院に比べて包括内の出来高実績点数が高い傾向です。分科会では、地域包括ケア病棟の患者数上位2疾患が白内障や大腸ポリープであることについては、病棟の役割をふまえてどのように評価するか検討が必要であるとともに、地域包括医療病棟にそうした患者が少ないことは初日のB得点3点以上の患者が5割という要件が影響している可能性があるとの意見がありました。地域包括ケア病棟では、管理栄養士の配置基準はなく、栄養管理に係る加算や管理料は包括されています。病棟における管理栄養士の配置数は全病棟種類の中でも少なく病棟で業務に従事している時間も短い傾向であり、低栄養リスクがスクリーニングで把握されている割合は低い状況です。分科会では、管理栄養士が介入することによって経口摂取に復せる割合は多いと思われ、管理栄養士の介入を評価する視点は重要ではないかとの指摘がありました。包括的入院医療を担う医療機関の救急受入機能地域包括医療病棟を有する医療機関の95%、地域包括ケア病棟入院料1を届け出ている医療機関の77.7%、地域包括ケア病棟入院料2を届け出ている医療機関の92.9%が救急告示病院です。地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟入院料1~2を届け出ている医療機関の75%以上は二次救急医療機関であり、地域包括医療病棟を有する医療機関で救急部門のない医療機関はありませんでした。地域包括医療病棟を有する医療機関の約90%、地域包括ケア病棟を有する医療機関の約70%が毎日救急受入をしています。地域包括ケア病棟を有する医療機関では、救急受入が日中のみの病院が1割弱みられました。救急受入件数の中央値は784件です。救急受入件数が2000件以上の医療機関は約22%あり、1~199件の医療機関数と同程度でした。救急受入件数が2000件以上の医療機関は、いずれも急性期病棟を有しています。救急搬送からの入院や、自宅または施設からの緊急入院は、地域包括医療病棟では多く、地域包括ケア病棟では少ない医療機関が多い状況です。救急搬送からの入院が15%を超える地域包括ケア病棟があり、これらは在宅復帰率80%以上、平均在院日数22日以下の施設が多いが、重症度、医療・看護必要度の得点は低い傾向でした。分科会では、緊急入院等を多く受け入れている地域包括ケア病棟は一定の評価を検討すべきではないかとの意見がありました。後方支援機能の実態と評価の課題後方支援に関する現状の評価として、在宅かかりつけ医の求めに応じて入院医療を提供した場合に算定する在宅患者緊急入院診療加算や、介護保険施設の入所者が入院を要する状態になった場合に、当該介護保険施設の職員の求めに応じて往診した際の介護保険施設等連携往診加算、必要に応じて入院医療を提供した場合に算定する協力対象施設入所者入院加算等があります。地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟の双方において、救急搬送受入件数が少なくても、これらの加算を多く算定している医療機関が存在しました。地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟における在宅患者緊急入院診療加算1~3、協力対象施設入所者入院加算1・2の病床あたり算定回数は、いずれの加算についても0件の施設が最も多く、算定回数は二極化しています。入院料ごとに比較すると、地域包括医療病棟が最も多く、地域包括ケア病棟では入院料1・3で2・4より多い結果です。介護保険施設等連携往診加算は届出医療機関数が少ないが、その8割は包括期の病棟を有する医療機関でした。在宅患者緊急入院診療加算や協力対象施設入所者入院加算の算定回数、緊急入院の件数等は互いに相関していませんでした。これらの加算の病床あたり算定回数は、包括期の病棟単独よりも病院全体でみたほうが多く、急性期の病棟でより算定されている施設が多いことが示唆されます。協力対象施設入所者入院加算の施設基準である在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院、地域包括ケア病棟を有する病院のいずれも満たさなくても、施設からの緊急入院を多く受け入れている地域包括医療病棟がありました。在宅患者緊急入院診療加算や協力対象施設入所者入院加算の算定件数が多い施設では、退院時共同指導も多く行われる傾向にあります。地域包括医療病棟入院料・地域包括ケア病棟入院料1・2を届け出ている施設のうち、入退院支援加算1を届け出ている施設における連携機関数は、25~50施設が最も多い結果です。地域包括医療病棟を届出施設の半数以上で、10以上の介護保険施設の協力医療機関を引き受けています。地域包括医療病棟を有する医療機関の約1割において、7以上の障害者支援施設と連携していました。協力対象施設への医療提供内容として、診療の求めがあった場合の診療、入所者の急変時等の相談体制の確保、入院を要する入所者の原則受入体制確保を9割以上の医療機関が提供しています。協力医療機関となることを断った件数が1件以上ある場合の理由として、「診療の求めがあった場合の診療が困難」「入院必要時の受入困難」「既に複数の介護施設と連携しており、これ以上の拡充が困難」をあげた施設が多い状況です。各病棟を届け出ている医療機関の半数以上が、地域貢献活動の取組として「地域ケア会議への参加」「地域医療構想調整会議への参加」を実施していました。地域包括医療病棟を有する医療機関では、特に地域医療構想調整会議へ参加している割合が多い結果です。分科会における後方支援機能の評価に関する議論分科会では、高齢者の入院医療においては、救急の受入とともに在宅との連携も重要であり、在宅医療を含めて地域医療全体を考えることは重要なテーマとの意見がありました。救急搬送から自宅に退院するまで1つの病院で加療できることが望ましく、病院単位でどのような役割をどのように評価するかといった観点で検討が必要ではないかとの意見もあります。新たな地域医療構想のとりまとめが行われましたが、まだ医療法は審議中、かつガイドラインの議論は始まっていないため、診療報酬のみで先に議論を始めないよう、慎重に進めるべきとの指摘がありました。地域包括ケア病棟の3つの機能について、病院単位で救急受入等を評価すると、結局ほとんど急性期の病棟に入院している場合があるので、形だけの救急告示ではなく、実際に果たしている後方支援機能等を評価する仕組みが必要ではないか、との意見があります。後方支援の加算について、病棟の役割という観点では何割程度を実際に包括期の病棟で受け入れているかを指標とする考え方もあるのではないかとの意見がありました。介護施設からの入院を多く受け入れている地域包括医療病棟があり、その役割に照らせば加算等の評価対象としてもよいことを検討しうるのではないかとの意見もあります。後方支援機能は地域の拠点を担う上で重要と考えられますが、指標として検討された加算の現行の施設基準では、200床や400床といった病床規模の制限が設けられています。地域の医療資源を有効に活用できるよう、柔軟に見直しを検討してもよいのではないかとの意見がありました。包括算定病棟における高額薬剤使用の課題地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、療養病棟において、入院受入が困難となる理由として「高額薬剤を使用している」と回答した施設の割合は、いずれの入院料においても40%を超えています。特に困難である薬剤として、4割を超える施設がトルバプタン、パーキンソン病治療薬、血友病以外の出血傾向の抑制に係る医薬品が該当すると回答しました。自由記載では、骨粗鬆症治療薬や、生物学的製剤を含む分子標的治療薬が多く挙げられています。4分の1を超える回復期リハビリテーション病棟を有する病院で抗がん剤が回答されており、他の病棟と除外薬剤の範囲が異なる影響と考えられました。療養病棟では特定の薬剤ではなく「高額な薬剤」のように薬価に言及した施設が多い状況です。分科会では、転院前に急性期の病院で大量の高額薬剤の処方をしなければならなくなり、包括期だけの問題ではなく、急性期の病院の負担になっているケースも多いとの指摘がありました。高額薬剤を使用しているために、包括期の病棟の適応があるにも関わらず受入困難となる事例は実際にあり、適切な在宅復帰等の観点で不合理であると思われます。薬剤や有害事象の管理が難しいといった事由がないか、維持期の薬剤として使われうるか、薬価と入院料の関係等の視点を踏まえ、使用や受入の状況について検討を深めてはどうかとの意見がありました。抗悪性腫瘍剤や生物学的製剤を長期に使いながら維持期を過ごす患者が増えていることは事実であり、回復期リハビリテーション病棟と地域包括ケア病棟との間に除外薬剤の差があることや、除外薬剤そのものの考え方について改めて検討する必要があるのではないかとの意見がありました。まとめ令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会の検証結果から、地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟が高齢者救急と在宅医療の受け皿として重要な役割を果たしていることが明らかになりました。地域包括医療病棟では、緊急入院や手術の有無により医療資源投入量に差があり、手術を行わない緊急入院群で1日当たり約440点高い状況です。85歳以上で在院日数が5~6日延長する傾向があり、医療資源投入量が同程度でもADLや要介護度は様々であることから、医療資源投入量では測定されない看護ケアの手間が示唆されています。地域包括ケア病棟では、救急受入や後方支援機能に施設間でばらつきがあり、実際に果たしている機能を評価する仕組みが求められます。白内障や大腸ポリープが上位疾患となっている点や、管理栄養士の介入評価の重要性も指摘されました。両病棟ともに救急告示病院が多く、75%以上が二次救急医療機関ですが、後方支援機能を評価する加算の算定は二極化しています。協力医療機関として10以上の介護保険施設と連携している施設もある一方、施設基準を満たさなくても緊急入院を多く受け入れている病棟の存在も確認されました。高額薬剤使用患者の受入困難は40%超の施設で課題となっており、トルバプタン、パーキンソン病治療薬、骨粗鬆症治療薬、生物学的製剤、回復期リハビリテーション病棟では4分の1超の施設で抗がん剤が問題となっています。新たな地域医療構想で位置づけられた「高齢者救急・地域急性期機能」と「在宅医療等連携機能」を担う包括的入院医療の適切な評価に向けて、まだ医療法は審議中、かつガイドラインの議論は始まっていないため、診療報酬のみで先に議論を始めないよう慎重に進めるべきとの意見がありました。病院単位での役割の評価、緊急入院を多く受け入れる病棟への評価、後方支援の実態を反映した指標、病床規模制限の柔軟な見直しなどが検討課題として挙げられており、引き続き診療データの分析と実態調査が進められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和7年度】DPC制度の5つの重要見直しポイント|入院医療の評価方法が変わる

【令和7年度】DPC制度の5つの重要見直しポイント|入院医療の評価方法が変わる

Oct 1, 2025 06:43 岡大徳

令和6年度診療報酬改定後、地域包括医療病棟等への病棟再編によりDPC対象病院数は減少しています。DPC対象病院の構造は変化しており、全許可病床に占めるDPC算定病床の割合が50%未満の病院が増加傾向にあります。このような状況の中、DPC制度の適正化と急性期入院医療の評価見直しが求められています。入院・外来医療等の調査・評価分科会は、DPC制度に関する5つの重要課題について検討結果をまとめました。複雑性係数については入院初期を重視した評価方法への見直しが提案されました。再入院・再転棟ルールと持参薬ルールについては、制度の趣旨を徹底するための厳格化が検討されました。点数設定方式については、平均在院日数から中央値への移行が提案されました。特別調査からは、DPC制度からの退出を検討する医療機関の実態や、制度参加のメリットが明らかになりました。機能評価係数Ⅱの評価方法見直し|入院初期を重視した複雑性係数へ複雑性係数の評価方法については、現行制度における課題が明らかになりました。診療対象とする診断群分類の種類が少ない病院で、誤嚥性肺炎等の平均在院日数が長く、1日当たり包括範囲出来高点数の小さい疾患に偏った症例構成の場合、急性期入院医療における評価として不適当な結果となっていました。この課題に対し、DPC/PDPS等作業グループは重要な指摘を行いました。DPC制度における「急性期」は「患者の病態が不安定な状態から、治療によりある程度安定した状態に至るまで」と定義されています。機能評価係数は「急性期」を反映する係数として設計されています。複雑性係数についても、これらの価値を反映する指標とすべきです。作業グループは、入院初期を特に重視する趣旨で、入院日数の25%tile値までの包括範囲出来高点数により評価すべきではないかと指摘しました。一入院当たりの包括範囲出来高点数が高い診断群分類の中には、平均的に入院初期の包括範囲出来高点数が高い診断群分類もあれば、1日当たりの包括範囲出来高点数が全診断群分類の平均値及び中央値よりも低い診断群分類もみられました。この実態を踏まえ、より適切な評価方法への見直しが求められています。地域医療係数については、大学病院本院群における医師派遣の評価が検討されました。「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」において、特定機能病院が満たすべき「基礎的基準」として「地域に一定の医師派遣を行っていること」を設定することが議論されています。作業グループは、地域医療係数における派遣医師数の定義を、特定機能病院の基礎的基準における医師派遣の定義と整合的に検討すべきではないかと意見を述べました。再入院・再転棟ルールの見直し|8日目の再転棟が突出する実態への対応DPC制度は、入院初期を重点評価するため、入院期間Ⅰの1日当たりの点数を相対的に高く設定しています。この設定に対し、患者を短期間で退院・再入院させ、単価の高い入院期間Ⅰを繰り返し算定する事例への対応が課題となっていました。現行制度では、一定の条件を満たす再入院及び再転棟については一連の入院とみなすこととし、累次の改定を行ってきました。DPC病棟からの転棟後、再転棟までの日数の分布を分析したところ、DPC制度において一連の入院と見なされなくなる8日目の再転棟の件数が突出して多いことが明らかになりました。作業グループは、この実態に対する見解を示しました。DPC制度を構成する医療機関の内訳が変化しており、DPC算定病床以外の病床を有する医療機関の割合が増加しています。この構造変化により、「再転棟」が起こりやすい状況になっているのではないかという指摘がありました。作業グループは、同一傷病による再転棟については、転棟後7日間を超える場合であっても原則として一連の入院として扱うこととすべきではないかとの意見を述べました。この提案は、制度の趣旨に沿った適正な運用を確保するための重要な見直しとなります。持参薬ルールの周知徹底|算定ルール違反への対応強化DPC制度では、患者の負担軽減やDPC制度下での公平な支払いの観点等を踏まえ、入院中の患者に対して使用する薬剤は入院する病院において入院中に処方することが原則です。「入院の契機となった傷病」に対する持参薬の使用は、特別な理由がある場合を除き認められていません。実態調査の結果、制度の趣旨が十分に徹底されていない状況が明らかになりました。医療機関ごとの全症例数に占める持参薬を使用した症例数の割合を分析したところ、持参薬使用割合が5%未満の医療機関が最も多かったものの、55%以上60%未満の医療機関も一定数みられました。入院の契機となった傷病に対する持参薬使用割合の分析では、算定ルール上認められていない入院の契機となった傷病に対する持参薬の使用割合が5%以上となる医療機関が一定数みられました。自院の外来で処方した医薬品を入院の契機となった傷病に対して使用した割合が5%以上となる医療機関も一定数存在していました。作業グループは、現行ルールの更なる周知徹底を図るべきではないかと指摘しました。具体的には、DPC算定を行う場合は入院の契機となった傷病に対して使用する医薬品は院内で処方されるのが原則であること、DPC算定を行う場合の入院料の中には一般的に入院の契機となった傷病に対して使用する医薬品の薬剤料が含まれていることについて、患者への説明を求めるべきではないかとの意見がありました。「入院の契機となった傷病」以外の傷病に対する持参薬の使用の可否については、令和10年度診療報酬改定に向けて引き続き議論する必要があります。検討に当たっては、まず持参薬を使用する理由や、使用される頻度が高い持参薬及び診断群分類等について調査を行う必要があるのではないかとの意見がありました。点数設定方式の変更|平均在院日数から中央値への移行を検討DPC制度は、入院初期を重点評価するため、在院日数に応じた3段階の定額報酬を設定しています。入院初期に要する医療資源投入量等に応じて、5種類の点数設定方式を設けています。点数設定方式D以外においては、第Ⅱ日は平均在院日数により規定されています。診断群分類毎の平均在院日数について分析したところ、ばらつきが小さく標準化が進んでいる診断群分類がみられました。一方で、ばらつきが大きく十分に標準化が進んでいない診断群分類もみられました。特定の在院日数のみ患者数が顕著に多い診断群分類が存在していました。多くの診断群分類において、平均在院日数は在院日数の中央値を上回っていました。作業グループは、多くの診断群分類で在院日数の分布は正の歪度を有していることから、在院日数の中心傾向の指標として平均在院日数は適切でないのではないかと指摘しました。特定の在院日数の患者数が顕著に多い診断群分類について、制度上、特定の日数までの在院を促すインセンティブが内在しているのではないかとの意見がありました。この指摘に対し、1日当たり入院数の最大値に対する日ごとの入院数の割合の変動係数が著しく低い医療機関が一定数存在していることを踏まえた意見もありました。病床稼働率を過度に重視した病院経営を行うと、病床の活用が硬直的になり、柔軟な対応をできなくなります。必ずしも高い病床稼働率を維持しなくてもよい設計とすべきではないかとの意見です。作業グループは、点数設定方式における入院期間Ⅱについて、在院日数の標準化が進んでいる診断群分類を中心として、原則として平均在院日数から在院日数の中央値に移行すべきではないかとの意見を述べました。一方で、入院期間Ⅱを在院日数の中央値に移行した場合、一部の診断群分類では入院期間Ⅱが著しく変化しうることから、激変緩和措置を設けるべきではないかとの意見もありました。特別調査が明らかにしたDPC制度の実態|退出検討と参加意向特別調査として、在院日数の短縮に向けた取り組みや課題等に関する調査、DPC制度の安定的な運用に関する調査、急性期医療の標準化の推進に関する調査を実施しました。DPC制度の安定的な運用に関する調査については、作業グループにおいてヒアリングを行いました。在院日数の短縮に向けた取り組みや課題等に関する調査では、全DPC対象病院の約9割においてクリニカルパスが採用されていることが分かりました。クリニカルパスの入院期間の設定に際して主として参照しているものについては、約6割の医療機関が「診断群分類点数表上の第Ⅱ日」と回答しました。この結果は、点数設定方式が医療機関の診療行動に影響を与えていることを示しています。DPC制度の安定的な運用に関する調査では、データ数が下位25%の439医療機関のうち、約2割の医療機関がDPC制度からの退出について「直ちに退出する予定である」または「直ちにではないが、今後退出を検討している」と回答しました。このうち約4割の医療機関が病床の転換を予定しており、転換先としては「地域包括医療病棟」及び「地域包括ケア病棟」が多い結果となりました。DPC制度に参加したメリットとしては、医療の標準化や平均在院日数の短縮といった点が挙げられました。この結果は、DPC制度が医療の質向上に一定の効果をもたらしていることを示唆しています。急性期医療の標準化の推進に関する調査では、DPC算定可能病床を有する出来高算定病院におけるDPC制度への参加意向を調査しました。調査対象となった404医療機関のうち、「現時点で参加は検討していない」と回答した医療機関は約86%でした。その理由としては、「DPC制度に参加する必要性を感じないため」が最も多く、次いで「診療報酬の算定上、DPC制度に参加しない利点が大きいため」が多い結果となりました。まとめ入院・外来医療等の調査・評価分科会は、DPC制度の5つの重要課題について検討結果をまとめました。複雑性係数は入院初期を重視した評価方法への見直しが提案されました。再入院・再転棟ルールと持参薬ルールについては、制度の趣旨を徹底するための厳格化が検討されました。点数設定方式は、平均在院日数から中央値への移行が提案されました。特別調査からは、DPC制度の実態と課題が明らかになりました。これらの検討結果は、令和8年度診療報酬改定に向けた議論の基礎となります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

高度急性期医療の転換点:特定集中治療室の医師配置要件緩和と新たな支援体制

高度急性期医療の転換点:特定集中治療室の医師配置要件緩和と新たな支援体制

Sep 30, 2025 08:18 岡大徳

令和6年度診療報酬改定により、特定集中治療室の医師配置要件に大きな変更が加えられました。この改定は、医師不足と働き方改革という二つの課題に直面する高度急性期医療の転換点となっています。入院・外来医療等の調査・評価分科会の分析結果から、集中治療室運営の現状と今後の方向性が明らかになりました。本稿では、特定集中治療室等を有する病院の実態調査結果を踏まえ、医師配置要件の緩和による影響を分析します。年間救急搬送件数と医療資源投入量の相関関係から、集中治療室の適正配置基準を検討します。さらに、新設された遠隔支援加算の活用状況と、特定機能病院における重症患者対応体制強化加算の課題について考察します。これらの分析を通じて、高度急性期医療の質を維持しながら、持続可能な運営体制を構築するための政策的示唆を提示します。特定集中治療室の運営実態と患者受入状況の詳細分析特定集中治療室管理料等の届出医療機関数は長期的に増加傾向にあり、高度急性期医療への需要の高まりを反映しています。調査結果によると、特定集中治療室管理料およびハイケアユニット入院医療管理料を算定する病院の多くは二次・三次救急医療施設であり、約6割が年間救急搬送件数4,000件以上の高度な救急医療を提供していました。しかし、一部には年間救急搬送件数が1,000件未満の病院や、救急部門を有していない病院も存在することが明らかになりました。実際の患者受入状況を見ると、特定集中治療室管理料およびハイケアユニット入院医療管理料を算定した患者のうち、救急搬送され入院した患者は約38%、全身麻酔を受けた患者は約58%でした。注目すべきは、いずれも受けていない患者が約14%存在したことです。この結果は、集中治療室が必ずしも救急や術後管理だけでなく、院内急変患者への対応も担っていることを示しています。入室経路の分析では、救命救急入院料と脳卒中ケアユニット入院医療管理料では救急外来からの入室が多い一方、特定集中治療室管理料とハイケアユニット入院医療管理料では救急外来に加えて手術室からの入室が多いという特徴が確認されました。いずれの区分においても、急変による入室が一定割合存在しており、院内の重症患者管理における集中治療室の重要性が明らかになりました。医療資源投入量の分析では、年間救急搬送件数が多い病院ほど入室患者の1日当たり医療資源投入量が高い傾向が確認されました。特に、年間救急搬送件数が1,000件以上2,000件未満の病院では、年間全身麻酔件数が多いほど医療資源投入量の高い患者数が多い傾向があった一方で、年間救急搬送件数が1,000件未満の病院では逆の傾向が見られました。この結果は、病院の規模と機能により、集中治療室の役割が異なることを示唆しています。脳卒中ケアユニットの運営実態と専門治療への対応状況脳卒中ケアユニット入院医療管理料を算定する病院の調査では、重要な課題が浮き彫りになりました。多くの病院が超急性期脳卒中加算または経皮的脳血栓回収術を一定回数実施していた一方で、これらの治療を全く実施していない病院も存在していました。分科会では、rt-PAの投与や血栓回収術の実績が一定程度ある病院が脳卒中ケアユニットを設置すべきという意見が出されました。脳卒中ケアユニットの受入体制を詳細に見ると、「頭蓋内圧持続測定を必要とする患者」を原則受け入れ可能な治療室は約5割にとどまりました。一方、「脳梗塞に対するrt-PA療法・血栓回収療法を受けた患者」を原則受け入れ可能な治療室は約8割となっており、施設間で対応能力に差があることが明らかになりました。この状況は、脳卒中ケアユニットの質の標準化と、適切な患者配分の必要性を示しています。医師配置要件の緩和がもたらした構造的変化令和6年度診療報酬改定において、専任医師の常時配置要件を緩和した「特定集中治療室管理料5、6」が新設されました。この新区分では、専任医師に宿日直を行う医師を含めることが可能となり、医師の働き方改革に対応した柔軟な運営が可能となりました。改定後の届出状況を見ると、特定集中治療室管理料5、6の届出医療機関・病床数が大幅に増加し、その多くが従来の特定集中治療室管理料1~4から変更したものでした。変更理由として最も多かったのは「専任医師が当該治療室において宿日直勤務を行っており、交代勤務体制が組めないため」であり、医師確保の困難さが浮き彫りとなりました。この変更により、近年増加傾向にあったハイケアユニット入院医療管理料の病床数は減少に転じており、診療報酬体系の変更が医療提供体制に直接的な影響を与えたことが確認されました。注目すべき点は、特定集中治療室管理料5、6とそれ以外の区分において、処置・モニタリングや患者状態に関する受入方針に大きな差が認められなかったことです。集中治療の経験を5年以上有する医師は、当該医師の配置が要件とされていない区分においても一定の配置が行われており、医療の質の維持に向けた各施設の努力が見られました。ただし、特定集中治療室管理料5、6では、夜間・休日に「その他の診療科の医師」を配置している割合が多く、専門性の観点からは課題が残ることも明らかになりました。分科会では、「治療室内に常時勤務」との要件の厳格性について議論がありました。治療室外に医師がいる場合でも適切な対応が可能な体制があれば、必ずしも室内常駐にこだわる必要はないのではないかとの意見も出されました。一方で、医師の働き方改革の趣旨を踏まえると、宿日直ではない交代勤務体制の維持は重要であり、バランスの取れた制度設計が求められています。遠隔支援加算の導入と地域医療支援の実態特定集中治療室遠隔支援加算は、医師少数区域や医療資源の少ない地域への支援を促進する目的で新設されました。この加算により、特定集中治療室管理料1、2を算定する施設から、遠隔モニタリングによる支援を受けることが評価されるようになりました。被支援側への支援を行う医療機関については、医師少数区域又は医療資源の少ない地域に所在する医療機関が含まれていることが要件となっています。しかし、現状では加算を算定している医療機関は全国で5施設にとどまっています。医師少数区域または医療資源の少ない地域に所在する特定集中治療室管理料5、6算定医療機関は全国に25箇所存在するにもかかわらず、実際に遠隔支援を受けている施設は医師少数区域等の1施設とそれ以外の4施設のみという状況です。この低い活用率は、技術的な課題や運用面での困難さが存在する可能性を示唆しています。分科会では、地域において必要な役割を果たしている集中治療室であることを前提として、集中治療を専門とする医師等の不足が見込まれる地域に対しては、遠隔支援を活用することが有効であるとの意見が出されました。また、医師少数区域以外にも専門医が不足している地域が存在することが指摘され、今後の要件緩和や支援体制の充実により、より広範な地域での活用が期待されます。重症患者対応体制強化加算における特定機能病院の制度的課題重症患者対応体制強化加算は、重症患者に対する24時間体制の医療提供や、専門性の高い看護師・臨床工学技士の手厚い配置、重症患者への対応力向上を目的とした院内・院外研修等を評価する制度です。しかし、特定機能病院は急性期充実体制加算を届け出ることができないため、結果として重症患者対応体制強化加算も算定できない状況にあります。調査によると、特定機能病院が重症患者対応体制強化加算を届け出できない理由の82.9%が「急性期充実体制加算を届け出ていない」ことでした。その他の理由はいずれも20%未満であり、制度設計上の問題が主要な障壁となっていることが明確になりました。特定機能病院は、その性質上、高度な医療を提供し重症患者への対応能力が高いにもかかわらず、制度的な制約により適切な評価を受けられない矛盾が生じています。分科会では、この問題について強い見直しの必要性が指摘されました。特定機能病院が算定対象外となる理由や意義について再検討すべきとの意見が出され、特定機能病院の役割と機能を考慮した独立した評価体系の構築が求められています。今後の診療報酬改定において、特定機能病院の実態に即した評価方法の検討が急務となっています。まとめ:持続可能な高度急性期医療体制の構築に向けて高度急性期入院医療は、医師不足と働き方改革という二つの課題への対応を迫られています。令和6年度診療報酬改定による医師配置要件の緩和は、これらの課題に対する現実的な対応策として機能し始めています。年間救急搬送件数と医療資源投入量の相関関係、脳卒中ケアユニットにおける専門治療実績の重要性、そして患者の入室経路の多様性から、集中治療室の適正配置基準を設定することが可能であることが示されました。遠隔支援加算の活用促進と特定機能病院における評価体系の見直しが、今後の重要な政策課題として浮上しています。これらの取り組みを通じて、医療の質を維持しながら持続可能な高度急性期医療体制を構築することが求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

急性期入院医療の転換点:令和8年度診療報酬改定に向けた3つの論点

急性期入院医療の転換点:令和8年度診療報酬改定に向けた3つの論点

Sep 29, 2025 07:16 岡大徳

入院・外来医療等の調査・評価分科会は、急性期入院医療の現状分析を通じて、令和8年度診療報酬改定に向けた重要な論点を明らかにしました。看護配置7対1の病床数が令和6年に大きく減少し、急性期医療の機能分化が加速している現状において、地域医療の持続可能性を確保するための制度設計が求められています。本報告では、一般的な急性期機能、拠点的な急性期機能、そして専門病院・離島等の特殊な医療提供体制という3つの視点から、急性期入院医療の課題と改革の方向性を整理します。調査結果は、急性期入院医療における3つの重要な転換点を示しています。第一に、急性期一般入院料1算定病院の約半数がケアミックス病院となり、医療機能の複合化が進んでいます。第二に、人口20万人未満の二次医療圏の約8割で急性期充実体制加算等の届出病院が存在せず、地域格差が顕在化しています。第三に、救急搬送受入件数と手術実施件数にばらつきが見られ、同じ入院料区分でも医療資源投入量に大きな差が生じています。一般的な急性期機能の実態と評価の必要性急性期一般入院料1を算定している病院の分析により、同規模の医療機関でも救急搬送受入件数や手術実施件数に大きなばらつきが存在することが判明しました。人口20万人未満の二次医療圏では、救急搬送件数は比較的少ないものの、地域の救急搬送の多くをカバーする最大救急搬送受入医療機関の地域シェア率が高い傾向にあります。この地域シェア率という指標は、単純な件数だけでは評価できない地域医療への貢献度を示す重要な指標となっています。夜間・深夜の救急搬送受入体制にも医療機関間で大きな差が見られました。急性期一般入院料1算定病院では夜間・深夜の受入割合が高い傾向にありますが、深夜の受入割合は10~30%の病院が多く、医療機関によってばらつきがあります。救急搬送受入件数が多い病院ほど医業費用が増加し、医業利益率が低下する傾向も明らかになり、救急医療提供に対する適切な評価の必要性が示されています。DPC制度への参加状況も重要な論点となっています。DPC制度により算定する病床は急性期一般入院基本料等の約85%を占める一方で、約1,800の医療機関は出来高算定を継続しています。分科会では、急性期入院医療の標準化と地域医療機能の適正評価の観点から、急性期一般病棟のDPC制度参画を推進すべきとの意見が出されています。拠点的な急性期機能の再定義と統合の方向性総合入院体制加算と急性期充実体制加算を算定している病院は、主に人口20万人以上の二次医療圏に集中しており、地域による偏在が顕著です。救急搬送件数4,000件以上の病院では多くがいずれかの加算を算定していますが、加算を算定していない病院でも地域の救急搬送の半数以上をカバーしている事例が確認されています。この事実は、現行の加算要件が必ずしも地域医療への貢献度を反映していない可能性を示唆しています。両加算の比較分析により、施設基準に共通部分が多く、実績要件の充足状況も類似していることが明らかになりました。総合入院体制加算1と急性期充実体制加算1では、救命救急センター等の体制整備や全身麻酔手術件数等で共通する基準がある一方、総合的な診療体制は総合入院体制加算1でのみ、手術実績等は急性期充実体制加算1でのみ求められています。14日間で算定できる点数総額は、総合入院体制加算1が急性期充実体制加算1より低く設定されており、評価の不整合が生じています。人口の少ない地域における拠点病院の課題も浮き彫りになりました。総合入院体制加算3を届け出ている病院の約15%は人口の少ない地域に属しており、地理的事情から症例や医療従事者を集約しても実績要件を満たすことが困難な状況にあります。分科会では、地域性に配慮した評価体系の構築や、両加算の統合による制度の簡素化と機能の明確化が提案されています。専門病院・離島等の特殊な医療提供体制への対応200床未満の専門病院では、救急搬送件数は少ないものの全身麻酔手術件数が多い傾向が確認されました。特に子ども病院では、同じ救急搬送件数を受けている一般病院と比較して全身麻酔手術件数が多い一方、地域シェア率が4分の1を超える医療機関は存在しませんでした。これらの専門病院は、地域の救急医療を面的にカバーするのではなく、特定の専門領域で高度な医療を提供する役割を担っています。有人離島からなる二次医療圏の病院では、救急搬送受入件数が少なく、年間3,000件を超える病院が存在しない実態が明らかになりました。離島医療においては、現場でできることに限界があり、患者搬送機能の向上やリモート診療の活用など、本土とは異なる医療提供体制の構築が必要です。分科会では、離島の最前線で頑張る医療機関と、離島からの患者流入を受け入れる本土の医療機関の双方を適切に評価する必要性が指摘されています。へき地医療拠点病院の約半数は20万人未満の二次医療圏に所在し、総合入院体制加算や急性期充実体制加算を届け出ていないものの、主要3事業を実施しており、加算算定病院と実施状況に大きな違いは見られませんでした。この事実は、現行の加算体系が地域医療の実態を十分に反映していない可能性を示しており、地域特性を考慮した新たな評価指標の必要性を示唆しています。急性期入院医療改革の展望と課題入院・外来医療等の調査・評価分科会の検討結果は、急性期入院医療が大きな転換期を迎えていることを明確に示しています。看護配置7対1病床の減少と急性期機能の分化が進む中で、地域医療の持続可能性を確保するためには、救急搬送受入の実態に応じた評価、地域シェア率を考慮した新たな指標の導入、そして総合入院体制加算と急性期充実体制加算の統合による制度の簡素化が必要です。令和8年度診療報酬改定では、これらの課題に対する具体的な制度設計が求められており、地域特性に配慮しつつ、医療機能の明確化と適正配置を促進する改革が期待されています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

Recalog

Recalog

Recalogは一週間にあったニュースや記事からkokorokagamiとtoudenがピックアップして話す番組です https://listen.style/p/recalog?bqOBxHVT

加門の業務効率爆上げチャンネル

加門の業務効率爆上げチャンネル

業歴15年の現役エンジニアの加門が、ITノウハウや業務工数9割削減実績をもとにIT関連の情報を発信。   ・人材採用の広告費でキャッシュが圧迫され続けている ・頑張っても頑張っても売上が上がらない ・売上は上がっても利益がなぜか下がってしまう ・残業ばっかりで従業員の退職が続いていしまう ・部下の教育やマネジメントといった重要な仕事ができない ・社長が頑張って頑張って、全然楽にならない ・折角IT導入をしたのに、効果を全く感じられない   など、こういった思いをしている方へ   ・生産性向上の秘訣 ・IT化のポイント ・ITやDX関係の裏側や闇 ・AI関連情報 ・業務効率化事例   といった情報を発信中✴️   自己紹介 ━━━━━━━━━━━━━━ 『業務工数90%削減。働く人をハッピーに‼️』 ◻︎加門 和幸 株式会社 皆人(みなと)代表取締役   キャリア15年の現役エンジニア JAL・無印良品・KDDIなど開発プロジェクトにも参画 業務工数9割削減のITツール開発   ━━━━━━━━━━━━━━ ■【個別AIコンサル】受付中 ・生成AIの使い方が分からない ・誰に何を聞いたらいいか分からない ・ビジネスでどう使えばいいの?   といった方向けにAIコンサルを実施しております。 ご希望の方はレター✉️ または公式LINEよりお気軽にご連絡ください↓↓↓   https://line.me/R/ti/p/%40799mnvvv   ━━━━━━━━━━━━━━ ■時間と労力のかかる業務を数クリック完了 あなた専用の使いやすいITツールでデジタル化しませんか? 100%使いこなせるデジタル化を実現します。   個別無料相談のお申し込みの際は、公式LINEにお友達登録ください!↓↓↓ https://line.me/R/ti/p/%40799mnvvv   ◻️実績👇 ▶︎ 2人で5日かけていた業務を10分に短縮‼️ ⇩他クライアント実績⇩ https://minato-ltd.co.jp/achivement/   ポッドキャストの書き起こしサービス「LISTEN」はこちら https://listen.style/p/kamon_standfm?DP5rtePo

Akiの毎日仕事でAI活用ラジオ

Akiの毎日仕事でAI活用ラジオ

元手取り16万経理→AI活用で月50万 AIデザインツール「MiriCanvas」公式アンバサダー 僕が学んだAI×SNSの無料勉強会は こちらから申し込めます👇 https://utage-system.com/line/open/06N7h9X9FI1n?mtid=d4ZmdrW9N1MG MiriCanvas はこちらから体験できます👇 https://www.miricanvas.com/s/3152 自己紹介 ━━━━━━━━━━━━ 🟧プロフィール ▶︎AIを活用した動画編集・SNS運用代行・メルマガ構築 ▶︎31歳・元手取り16万の経理 ▶︎ぶっちょすさん(https://stand.fm/channels/65c792dc0a4a74f98f3b7b69)プロデュース AI×TikTokアフィ初期講座生 ▶︎2024年12月から「AI×SNSアフィリエイト」スタート ▶︎知識ゼロから5日目で2万収益化→4ヶ月で累計100万達成 ▶渋谷クロスFMラジオ出演しました ▶︎MiriCanvas公式アンバサダー 🟧好きなもの 読書・映画・音楽・ファッション・食べ歩き 漫画・アニメ・アート・モノづくり 実績 ━━━━━━━━━━━━ ▶︎アフィリエイト知識ゼロで初月7万→3ヶ月目50万突破 ▶︎アフィリエイト4ヶ月合計で100万突破 ▶︎AI活用したメルマガ100通構築で30万マネタイズ×2 ▶︎登録者5万人超えのYouTubeチャンネル運営 ▶︎SNS×AI運用で複数の収入源を構築 ▶︎TikTokで企業様の広告動画を納品 配信内容が少しでもお聴きくださる方の お役に立てましたなら幸いです! ポッドキャストの書き起こしサービス 「LISTEN」はこちらから 文章で読みたい方はこちらがオススメです https://listen.style/p/akiradio?51zaFzjY

エンジニアトーク「ROLE MODEL」

エンジニアトーク「ROLE MODEL」

ROLE MODEL(ロールモデル)は、エンジニアのサクセスストーリーを届けるポッドキャストです。各エピソードで実績のあるエンジニアをお招きし、その仕事を徹底的に掘り下げて、キャリア形成に役立つ情報を配信していきます。 番組の感想・リクエストはこちらから: https://pitpa.jp

思ったら即アウトプットするプログラマー

思ったら即アウトプットするプログラマー

この番組はエンジニアの「もっさん」が日々思ったことを1トピック1エピソードでコンパクトに話す番組です。 ※ 2024/6/27に「みるみる積もる!積読術」からタイトル変更しました ●【Twitter @mossan_hoshi】 ●【Youtube @mossanhoshi7158】 ●【オライリー本サブスクについて】 https://zenn.dev/mossan_hoshi/articles/20230128_oreilly_learning ●【積読本リスト】 https://1drv.ms/x/s!AqxcPJT01sLlgdsJJ2-wA9mRn1dimA?e=uvyGdD ●【Zenn @mossan_hoshi】 ●【Qiita @mossan_hoshi】

ヨンイチのちょっとお仕事が変わる話

ヨンイチのちょっとお仕事が変わる話

普段の仕事が少し変わる働き方やAI・アプリなどのお話。