人を尊重して話を聞かせていただく「アクティブリスニング」エバンジェリスト『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』著者赤羽雄二氏公認|『アクションリーディング』読書会開催|仲間と一緒に成長できる「親子のクオリティタイム」「最速ロールプレイング」「A4メモ書き」などのグループ運営|株式会社miiboのmiibo Designer|一般社団法人 遠隔健康医療相談適正推進機構 正会員
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【速報】令和8年度診療報酬改定の基本方針|4つの視点と重点課題を徹底解説
令和7年11月20日、第204回社会保障審議会医療保険部会において、令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)が示されました。本稿では、この骨子案の内容を解説します。今回の骨子案は、4つの基本認識と4つの基本的視点で構成されています。基本認識では、物価・賃金上昇への対応、2040年を見据えた医療提供体制の構築、医療DXの推進、制度の持続可能性確保が掲げられました。基本的視点では、物価・賃金・人手不足への対応を「重点課題」に位置付け、医療機関の機能分化・連携、安心・安全で質の高い医療の推進、効率化・適正化の4つの方向性が示されています。改定に当たっての4つの基本認識骨子案では、令和8年度改定の前提となる4つの基本認識が示されています。第一に物価・賃金上昇への対応、第二に2040年を見据えた医療提供体制の構築、第三に医療DXとイノベーションの推進、第四に制度の安定性・持続可能性の確保です。第一の基本認識は、日本経済が新たなステージに移行しつつある中での物価・賃金上昇、人口構造の変化や人口減少の中での人材確保、現役世代の負担抑制努力の必要性です。医療分野は公定価格によるサービス提供が太宗を占めるため、経済社会情勢の変化に機動的な対応を行うことが難しい状況にあります。このため、医療機関等の経営の安定や現場で働く幅広い職種の賃上げに確実につながる的確な対応が必要とされています。第二の基本認識は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築です。85歳以上人口が増加し、高齢者人口には地域差が生じることが見込まれます。こうした変化に対応するため、「治す医療」と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療提供体制を構築する必要があります。第三の基本認識は、医療の高度化や医療DX、イノベーションの推進による安心・安全で質の高い医療の実現です。デジタル化された医療情報の利活用促進や、AI・ICT等の活用による医療DXの推進が、効果的・効率的かつ安心・安全で質の高い医療の実現に重要とされています。第四の基本認識は、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保と経済・財政との調和です。国民皆保険を堅持し次世代に継承するため、経済・財政との調和を図りつつ、効率的・効果的な医療政策を実現することが不可欠とされています。【重点課題】物価・賃金・人手不足への対応4つの基本的視点のうち、「物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応」が重点課題に位置付けられました。医療機関等の経営悪化と人材確保の困難さを踏まえ、物価高騰への対応と医療従事者の処遇改善が急務とされています。医療機関等が直面する課題として、人件費、医療材料費、食材料費、光熱水費及び委託費等の物件費の高騰が挙げられています。2年連続で5%を上回る賃上げ率となった春闘等により全産業において賃上げ率が高水準となる中、医療分野では事業収益の悪化を背景に全産業の賃上げ水準から乖離し、人材確保も難しい状況にあります。この視点における具体的方向性は、物件費高騰への対応と医療従事者の人材確保に向けた取組の2つです。物件費高騰については、医療機関等が直面する人件費や物件費の高騰を踏まえた対応が求められています。人材確保については、医療従事者の処遇改善、ICT・AI・IoT等の利活用による業務効率化、タスク・シェアリング/タスク・シフティングの推進、医師の働き方改革の推進・診療科偏在対策、診療報酬上求める基準の柔軟化が具体的方向性として示されました。2040年を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進第二の視点は、中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの変化を見据えた医療提供体制の構築です。入院医療を始めとして、外来医療・在宅医療、介護との連携を図ることが重要とされています。この視点では8つの具体的方向性が示されています。第一に、患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価です。患者のニーズ、病院の機能・特性、地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備と、人口の少ない地域の実情を踏まえた評価が含まれます。第二に、「治し、支える医療」の実現です。在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能を担う医療機関の評価、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等の高齢者の生活を支えるケアの推進が具体的内容として挙げられています。第三から第八は、かかりつけ医機能・かかりつけ歯科医機能・かかりつけ薬剤師機能の評価、外来医療の機能分化と連携、質の高い在宅医療・訪問看護の確保、人口・医療資源の少ない地域への支援、医療従事者確保の制約が増す中で必要な医療機能を確保するための取組、医師の地域偏在対策の推進です。安心・安全で質の高い医療の推進第三の視点は、患者の安心・安全を確保しつつ、イノベーションを推進し、新たなニーズにも対応できる医療の実現です。第三者による評価やアウトカム評価等の客観的な評価を進めることが求められています。この視点における具体的方向性は9つあります。第一に、患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価として、身体的拘束の最小化の推進と医療安全対策の推進が挙げられています。第二に、アウトカムにも着目した評価の推進として、データを活用した診療実績による評価の推進が示されました。第三に、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価、第四に質の高いリハビリテーションの推進が挙げられています。第五に、重点的な対応が求められる分野として、救急医療、小児・周産期医療、がん医療及び緩和ケア、精神医療、難病患者への医療への適切な評価が示されました。第六から第九は、感染症対策や薬剤耐性対策の推進、口腔疾患の重症化予防等の歯科医療の推進、地域の医薬品供給拠点としての薬局機能の評価、イノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の確保等です。効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上第四の視点は、医療費増大が見込まれる中、国民皆保険を維持するための制度の安定性・持続可能性を高める取組です。医療資源を効率的・重点的に配分する観点が重要とされています。この視点における具体的方向性は7つあります。第一に後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、第二にOTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直し、第三に費用対効果評価制度の活用、第四に市場実勢価格を踏まえた適正な評価です。第五に、電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働の取組による医薬品の適正使用等の推進です。重複投薬、ポリファーマシー、残薬への対応、医師及び薬剤師の適切な連携による医薬品の効率的かつ安全で有効な使用の促進が具体的内容として挙げられています。第六に外来医療の機能分化と連携(再掲)、第七に医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価(再掲)が示されました。今後の課題と基本方針策定スケジュール骨子案では、診療報酬制度だけでなく総合的な政策対応の必要性や、物価高騰・賃金上昇局面における適時適切な報酬措置の検討、診療報酬制度の分かりやすさの向上が今後の課題として示されています。今後のスケジュールとしては、11月下旬に医療部会でも骨子案が議論され、12月上旬に基本方針(案)が両部会で審議される予定です。基本方針の発表は12月上旬が見込まれています。まとめ令和8年度診療報酬改定の基本方針骨子案では、物価・賃金・人手不足への対応を重点課題とし、4つの基本認識と4つの基本的視点が示されました。医療機関経営者は、物価高騰対応と処遇改善、2040年を見据えた機能分化・連携、医療DXの推進、効率化・適正化という改定の方向性を踏まえ、経営戦略を検討する必要があります。今後の基本方針の確定と中央社会保険医療協議会における具体的な議論の動向に注目が必要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
入院時の食費・光熱水費見直しへ|物価高騰で18年ぶりの大改定検討中
令和7年11月20日、第204回社会保障審議会医療保険部会が開催されました。この部会では、食材費や光熱水費の継続的な高騰を受けて、入院時の食費と光熱水費の標準負担額の見直しについて議論されました。入院時の食費については、令和6年6月と令和7年4月に計50円の引上げを実施したにもかかわらず、令和7年4月以降も物価高騰が続いています。入院時の光熱水費については、平成18年の制度創設時から基準額(総額)が据え置かれており、昨今の光熱水費の大幅な高騰により病院経営に影響を及ぼしています。この見直しは、患者の負担と病院経営の両立という観点から進められています。入院時の食費では、令和7年4月以降も食材費等の高騰が続いており、更なる標準負担額の見直しが検討されています。入院時の光熱水費では、令和6年度介護報酬改定で多床室の居住費が60円引き上げられたことにより、介護保険の居住費と医療保険の光熱水費の間で負担額に差が生じています。中央社会保険医療協議会でも、基準額(総額)の観点から並行して議論が進められており、患者負担への影響を慎重に検討する必要があります。入院時の食費をめぐる現状と課題入院時の食費は、令和6年6月に1食当たり30円、令和7年4月に1食当たり20円の計50円が引き上げられました。この見直しは、食材費等の高騰に対応するために実施されたものです。しかし、令和7年4月以降も食材費等の高騰は続いており、医療機関の経営を圧迫している状況が明らかになっています。この見直しに伴い、医療機関は給食提供体制の変更を余儀なくされました。全面委託を行っている医療機関では、約5割が「給食委託費を増額した」と回答しています。一部委託や完全直営の医療機関では、約5割が「給食の内容を変えて経費の削減を行った(食材料を安価なものに変更等)」と回答しています。さらに、令和6年6月以降、全面委託の約7割、一部委託の約5割の医療機関では、委託事業者から値上げの申し出がありました。これらの医療機関は、委託事業者との契約変更に対応しています。完全直営の医療機関では3.6%(22施設)が、給食運営を委託から完全直営に切り替える対応を取っています。これらの状況を踏まえ、社会保障審議会医療保険部会では、更なる入院時の食費の標準負担額の見直しについて検討が進められています。中央社会保険医療協議会においても、食費の基準額(総額)の観点から並行して議論されています。入院時の光熱水費をめぐる現状と課題入院時の光熱水費は、平成18年に入院時生活療養費制度が創設されて以来、基準額(総額)が据え置かれています。この基準額は398円(1日当たり)で設定されており、18年以上変更されていません。一方で、昨今の光熱・水道費は特に足下で大きく高騰しており、病院経営に少なからず影響を及ぼしている状況です。入院時の光熱水費は、療養病床に入院する65歳以上の者について入院時生活療養費の光熱水費として評価されています。一般所得者の場合、1日当たりの総額398円のうち、自己負担額は370円、保険給付額は28円です。一般病床、精神病床、療養病床に入院する65歳未満の者については、入院料の中で評価されています。平成29年10月と平成30年4月には、介護保険の居住費に係る基準費用額を勘案して、自己負担額の段階的な引上げが行われました。この見直しでは、基準額(総額)を維持した上で、医療区分Ⅰの者の自己負担額を320円から370円に引き上げました。医療区分ⅡⅢの者の自己負担額も、0円から200円、その後370円へと段階的に引き上げられました。しかし、これらの見直し後も光熱水費の高騰は続いており、基準額(総額)の据え置きが病院経営を圧迫する要因となっています。中央社会保険医療協議会においても、基準額(総額)の観点から議論が進められています。介護保険との負担格差と均衡の必要性介護保険では、令和6年度介護報酬改定において、多床室の居住費の基準費用額・負担限度額が60円引き上げられました。この見直しは、令和4年の家計調査によれば高齢者世帯の光熱・水道費が令和元年家計調査に比べて上昇していることを踏まえたものです。在宅で生活する者との負担の均衡を図る観点や、令和5年度介護経営実態調査の費用の状況等を総合的に勘案して実施されました。この見直しにより、介護保険の居住費と医療保険の光熱水費の間で負担額に差が生じています。介護保険では、全ての居室類型で1日当たり60円分が増額されました。従来から補足給付の仕組みにおける負担限度額を0円としている利用者負担第1段階の多床室利用者については、負担限度額を据え置き、利用者負担が増えないように配慮されています。健康保険法第85条の2では、入院時生活療養費の額を定める際、介護保険法第51条の3第2項第2号に規定する居住費の基準費用額に相当する費用の額を勘案することが規定されています。介護保険法第51条の3第3項では、厚生労働大臣は居住費の基準費用額を定めた後に、施設における居住等に要する費用の状況その他の事情が著しく変動したときは、速やかにそれらの額を改定しなければならないとされています。こうした法的な枠組みを踏まえ、社会保障審議会医療保険部会では、近年の光熱・水道費の高騰を踏まえた対応を行う観点から、入院時の光熱水費の標準負担額の見直しについて議論が進められています。家計における光熱・水道支出を勘案して行われた令和6年度介護報酬改定による多床室の居住費の基準費用額の引上げを踏まえた対応が検討されています。今後の議論の方向性と患者負担への影響入院時の食費と光熱水費の見直しは、社会保障審議会医療保険部会と中央社会保険医療協議会の両方で並行して議論が進められています。社会保障審議会医療保険部会では、標準負担額(患者の自己負担額)の見直しが論点となっています。中央社会保険医療協議会では、基準額(総額)の観点から技術的な検討が行われています。入院時の食費については、令和6年6月と令和7年4月の2回の見直し後も、引き続き食材費等の高騰が続いている状況を踏まえた更なる見直しが検討されています。医療機関では、委託事業者からの値上げ申し出への対応や、給食内容の変更による経費削減など、様々な対応が取られています。患者の栄養管理の質を維持しながら、持続可能な給食提供体制を構築することが課題となっています。入院時の光熱水費については、近年の光熱・水道費の高騰を踏まえた対応が検討されています。家計における光熱・水道支出を勘案して行われた令和6年度介護報酬改定により、介護保険では居住費が60円引き上げられました。この引上げを踏まえ、医療保険における光熱水費についても見直しが論点となっています。病院経営の持続可能性を確保しながら、患者の負担増を最小限に抑える方策が求められています。これらの見直しが実施される場合、入院患者の自己負担額が増加する可能性があります。特に、長期入院を要する患者や、住民税非課税世帯などの低所得者層への影響に配慮した制度設計が重要です。高額療養費制度や、指定難病患者への医療費助成、こども医療費助成などの各種医療費助成制度との整合性も考慮する必要があります。まとめ令和7年11月20日の第204回社会保障審議会医療保険部会では、入院時の食費と光熱水費の標準負担額の見直しについて議論されました。入院時の食費は、令和6年6月と令和7年4月に計50円の引上げを実施したにもかかわらず、物価高騰が続いており、更なる見直しが検討されています。入院時の光熱水費は、平成18年の制度創設時から基準額が据え置かれており、令和6年度に介護保険の居住費が60円引き上げられたことを踏まえた対応が論点となっています。今後、中央社会保険医療協議会での技術的な検討も踏まえながら、患者負担と病院経営の両立を目指した制度改革が進められていきます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
標準的な出産費用の自己負担無償化へ:医療保険部会が示す給付体系見直しの方向性
令和7年11月20日に開催された第204回社会保障審議会医療保険部会において、医療保険制度における出産に対する支援強化の議論が本格化しました。この部会では、令和8年度を目途とした標準的な出産費用の自己負担無償化に向け、給付体系の骨格を令和7年冬頃までにとりまとめる方針が示されました。議論の焦点は、現在の出産育児一時金という現金給付から、妊婦の自己負担が発生しない給付方式への転換、そして地域差・施設差がある出産費用への対応という2つの論点です。本稿では、部会で提示された給付体系見直しの方向性、産科医療機関の経営実態を踏まえた制度設計の課題、令和7年冬のとりまとめに向けた今後のスケジュールの3点を解説します。この制度改革は、妊婦の経済的負担軽減と周産期医療提供体制の維持という2つの政策目的を同時に実現する必要があり、特に経営困難に直面する一次施設への配慮が重要な検討事項となっています。制度設計では、出産費用の見える化を進め、妊婦が十分な情報に基づいて意思決定できる環境整備も求められています。出産支援強化の背景と制度見直しの必要性令和7年5月に公表された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」の議論の整理において、令和8年度を目途に標準的な出産費用の自己負担無償化に向けた具体的な制度設計を進めることが示されました。この方針を受けて、社会保障審議会医療保険部会で給付体系の見直しについての検討が開始されています。制度見直しの背景には、現行の出産育児一時金制度に対する当事者からの指摘があります。部会の議論では、出産育児一時金の引き上げが行われるたびに、医療機関側も出産費用を値上げする傾向があり、結果として妊婦の負担軽減につながっていないという意見が示されました。この構造的な課題を解決するため、給付方式の抜本的な見直しが必要とされています。見直しの目的は、妊婦が経済的負担を心配せずに安心して出産できる環境を整備することです。具体的には、標準的なケースで妊婦の自己負担が発生しない仕組みへの転換を目指しています。この転換により、出産費用の高額化に伴う不安を解消し、子供を産みたいと考える人々への支援を強化します。給付体系見直しの2つの主要論点部会では、給付体系見直しに関する2つの主要論点が提示されました。第一の論点は、給付方式の在り方についてです。現在の出産育児一時金は現金給付の仕組みですが、これを標準的なケースで妊婦の自己負担が発生しないような給付方式に転換することが検討されています。給付方式の転換では、現物給付化が一つの選択肢として議論されています。部会での意見では、現金給付から現物給付への移行により、出産費用の直接的な支援が可能になるという指摘がありました。現物給付化により、医療機関への支払いを医療保険制度が直接行う仕組みとなり、妊婦の経済的負担が軽減されます。第二の論点は、給付の内容についてです。出産費用には地域差や施設差が存在する現状があり、これらの差異に配慮した給付内容の設計が求められています。また、産科医療機関の経営状況も踏まえた検討が必要とされています。給付内容の検討では、標準的な出産費用の範囲をどう定めるか、その後の検証をどのように行うかという点も議論の対象となっています。標準的な出産費用の範囲設定における課題標準的な出産費用の範囲設定は、給付体系見直しにおける最も重要な検討課題の一つです。部会での議論では、負担とのバランスを考慮しながら、今後報告される出産費用に関するさらなるデータを踏まえて検討を進める必要性が指摘されました。範囲設定では、妊婦が十分な情報に基づいて出産に関する自己決定を行える環境整備が前提となります。部会では、出産にかかる費用とサービスの関係が不明確であるという妊産婦からの声が紹介されました。この課題に対応するため、出産費用の見える化をより一層進めることが求められています。見える化により、妊婦は提供されるサービスの内容とその費用を明確に理解でき、納得感のある選択が可能になります。標準的な出産費用には、地域差と施設間格差への対応という2つの論点があります。地域による医療資源の違いや、施設ごとの設備・人員体制の差異が出産費用に影響を与えています。また、無痛分娩などの妊婦のニーズが高いサービスを標準の範囲に含めるかどうかも議論の対象です。無痛分娩については、リスクやデメリットもあるため、まず安全に提供できる体制整備が必要であり、慎重な検討が求められるという意見が示されました。産科医療機関の経営実態と周産期医療体制の維持給付体系の見直しにおいて、産科医療機関の経営実態への配慮は極めて重要な検討事項です。日本医師会総合政策研究機構の調査によれば、2022年度の産科医療機関の経常利益では赤字施設が全体の41.9%を占め、2023年度には42.4%へと拡大しています。この経営悪化の背景には、少子化の進行と物価高騰があります。地域の周産期医療を支えているのは一次施設です。一次施設は、正常分娩を取り扱う診療所や病院を指します。部会での議論では、一次施設が機能しなくなれば、お産難民が今以上に増加するという懸念が示されました。そのため、制度設計では一次施設を守るという観点が最優先されるべきとの意見が複数の委員から出されています。現在、分娩を取り扱う一次施設の減少により、三次施設にローリスクの妊産婦が集中する状況が生じています。三次施設とは、ハイリスク妊娠や重症新生児に対応する総合周産期母子医療センターです。この集中により、三次施設では人員確保や病床確保が困難になっています。制度設計では、地域の一次施設を守り、拙速な集約化を招かないよう、特に丁寧な検討を進める必要があります。妊産婦の多様なニーズへの対応と選択の保障新たな給付体系では、妊産婦の多様なニーズに対応し、選択を制限しない仕組みが求められています。部会での議論では、出産に関しては医療的な安全確保とともに、助産師による助産ケアを通じて妊産婦の不安を軽減することが重要であるという指摘がありました。妊産婦の選択を保障するためには、出産費用とサービス内容の関係を明確にする必要があります。検討会のヒアリングでは、何のために費用を払っているのか、なぜ病院ごとに費用が違うのかが当事者には分からないという声が上がっていました。この情報の非対称性を解消するため、出産費用の見える化を前提とした制度設計が求められています。妊産婦の多様なニーズには、助産所における出産や無痛分娩など、様々な出産スタイルへの希望が含まれます。部会では、助産所における出産を含め、全ての出産の場が新たな枠組みの中に適切に位置づけられることへの期待が示されました。また、WHO(世界保健機関)が推奨するエビデンスに基づいた産痛緩和ケアを標準の範囲に含める方向での検討も提案されています。ただし、こうしたサービスの標準化にあたっては、安全性の確保と体制整備が前提条件となります。税と保険料の役割分担と財源確保の課題給付体系の見直しでは、税と保険料の性格の違いを踏まえた財源確保の議論も重要です。部会では、限りある保険医療財政を踏まえ、それぞれの目的に応じた施策を検討していくべきという意見が示されました。財源確保の議論では、周産期医療提供体制の確保という課題をどう位置づけるかが論点となっています。一部の委員からは、周産期医療提供体制の確保は国としての体制整備の問題であり、出産に対する給付体系の見直しとは切り離して別途解決を図るべきという意見が出されました。この意見は、産科医療機関の経営支援と妊婦の負担軽減を別の政策として整理すべきという考え方を示しています。保険料を負担する被保険者の納得感も重要な検討事項です。標準的な出産費用の範囲を設定する際には、保険診療の考え方や保険料負担者の理解が得られる内容とする必要があります。部会では、こうした観点も念頭に置いて議論を深めていくべきという指摘がありました。また、出産費用の自己負担無償化が子育て支援策なのか、出産費用の負担抑制策なのかについても整理が必要という意見が示されています。今後のスケジュールと制度施行に向けた検討プロセス医療保険部会における今後の議論の進め方は、段階的なアプローチが採用されています。令和7年冬頃までの議論では、給付体系の骨格の在り方について整理することを目指しています。この骨格には、給付方式と給付内容の基本的な枠組みが含まれます。給付体系の骨格が固まった後、産科臨床現場で行われる個々の対応についての具体的な当てはめなど、個別具体的な内容については制度施行に向けてさらに議論を深める予定です。このように、まず大枠を決定し、その後に詳細を詰めていくという二段階のプロセスが採用されています。検討プロセスでは、出産費用に関するさらなるデータの報告も予定されています。これらのデータは、標準的な出産費用の範囲設定や地域差・施設差への対応策を検討する際の基礎資料となります。データに基づいた議論により、実態を踏まえた制度設計が可能になります。最終的に令和8年度を目途として、産科医療機関等の経営実態等にも十分配慮しながら、標準的な出産費用の自己負担無償化に向けた具体的な制度設計が完成する見込みです。まとめ第204回社会保障審議会医療保険部会では、医療保険制度における出産支援強化の方向性が示されました。制度見直しの焦点は、給付方式の転換と給付内容の設定という2つの論点です。令和7年冬頃までに給付体系の骨格をとりまとめ、令和8年度を目途に標準的な出産費用の自己負担無償化を実現する方針です。制度設計では、妊婦の経済的負担軽減と産科医療機関の経営実態への配慮、特に一次施設の維持という課題の両立が求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
OTC類似薬の保険給付除外に9つの患者団体が反対表明【第204回医療保険部会】
2025年11月20日に開催された第204回社会保障審議会医療保険部会において、OTC類似薬の保険給付の在り方について患者団体からのヒアリングが実施されました。厚生労働省がOTC類似薬を保険給付の対象から外すことを検討している背景には、医療費の適正化があります。この提案に対し、患者の立場から具体的な懸念と問題点を提示する必要性が生じました。3つの患者団体グループ(合計9団体)がOTC類似薬の保険給付除外に反対する意見を表明しました。全国がん患者団体連合会は、がんや難病患者がOTC類似薬を長期継続使用している実態と、保険適用除外による数十倍の負担増を指摘しました。7つのアレルギー関連団体(一般社団法人アレルギー及び呼吸器疾患患者の声を届ける会、認定NPO法人日本アレルギー友の会など)は連名で、難治・重症アレルギー患者への影響と国民皆保険制度の理念との矛盾を提起しました。ささえあい医療人権センターCOMLは、OTC類似薬の範囲設定の困難さと医療用医薬品とOTC医薬品の違いを明らかにしました。全国がん患者団体連合会が指摘する4つの影響と代替案の提示全国がん患者団体連合会は、OTC類似薬を保険給付の対象から外すことによる4つの重大な影響を指摘しました。同団体は、がんや難病患者がアセトアミノフェン、ロキソニンテープ、酸化マグネシウムなどのOTC類似薬を日常的に、あるいは長期にわたり継続して使用している実態を示しました。第一の影響は、患者負担の大幅な増加です。保険給付から外れると、メーカー希望小売価格と比較した場合には数十倍の負担増となります。市場価格の最安値と比較した場合でも、過重な負担増となる可能性があります。第二の影響は、各種医療費助成制度の対象外になることです。保険給付から外れると、高額療養費、指定難病患者への医療費助成、こども医療費助成、小児慢性特定疾病児童等への医療費助成など、各種の医療費助成の対象とならなくなります。第三の影響は、医療機関への受診機会の喪失です。負担増により、医療機関への受診機会の喪失、あるいは遅延が生じ、健康被害が生じる可能性があります。第四の影響は、処方シフトの問題です。患者負担割合はより安価であるが、薬価がより高い薬剤が処方されるようになる可能性があります。代替案として、同団体は具体的な提案を行いました。どうしても見直しが必要な場合には、公的な保険給付の対象から外すのではなく、患者の自己負担割合を変更する対応を検討すべきであると提案しました。この方法であれば、公的な薬価が維持され、患者の負担増は一定程度抑えられ、高額療養費や各種の医療費助成の対象であることも維持され、医療機関への受診機会も確保される可能性があります。ただし、患者の自己負担割合の変更でも、患者の負担増となることは避けられず、処方シフトなどの問題が生じる可能性も依然として残ります。7つのアレルギー関連団体が連名で懸念を表明7つのアレルギー関連団体は連名で、OTC類似薬の保険適用除外が国民皆保険制度の理念に反する可能性を指摘しました。提出団体は、一般社団法人アレルギー及び呼吸器疾患患者の声を届ける会、認定NPO法人日本アレルギー友の会、NPO法人環境汚染等から呼吸器病患者を守る会、NPO法人アレルギーを考える母の会、NPOアレルギー児を支える全国ネット「アラジーポット」、NPO法人ピアサポートF.A.cafe、NPO法人アレルギーの正しい理解をサポートするみんなの会です。これらの団体は、国民皆保険制度は社会全体で医療費を分担する仕組みであり、経済的な理由で医療を受けられない人を減らすという理念のもとに成り立っていることを強調しました。難治・重症アレルギー患者への深刻な影響が予想されます。喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、標準治療のもとで多くの患者が症状をコントロールできるようになっています。しかし、一部の難治・重症患者は高額な生物学的製剤などを長期にわたって使う必要があり、医療費の増加は治療継続を困難にし、生活や就業に深刻な影響を及ぼします。子どものアレルギー治療における家計負担の増加も重大な問題です。OTC類似薬の保険適用除外は、特に子どものアレルギー治療において家計に大きな負担を強いることになります。この負担増は、子どもの健全な成長や家庭生活に悪影響を及ぼす可能性があります。具体的な懸念として、ステロイド外用薬の問題があります。アトピー性皮膚炎治療の標準治療であるステロイド外用薬は、効果の強度により5段階に分類されています。現在は医師が症状の重症度を判定し、適切な薬を処方していますが、薬局で購入する場合、強度を認識せずに使用して副作用が出たり、症状に対して弱すぎるために効果が出ず、炎症が持続して重症化してしまう可能性があります。これらの団体は3つの要望を提出しました。高額療養費制度の自己負担限度額引き上げは、家計への影響を考慮し、治療継続が可能となるよう見直すことです。OTC類似薬の保険適用除外は、アレルギー疾患の標準治療に使われる薬剤・保湿剤には適用しないことです。制度改正にあたっては、患者の声を適切に反映することです。ささえあい医療人権センターCOMLが提起する制度設計上の課題ささえあい医療人権センターCOMLは、OTC類似薬の範囲を病名や病状で線引きすることの困難さを指摘しました。同団体は、医療用医薬品とOTC医薬品では効能・効果のみならず、成分や用量が異なるなかで「OTC類似薬」と一括りに判断できないこと、しかも患者にはその違いや判断ができないことを明らかにしました。医師の診療上の判断への影響も懸念されます。他の疾患との関連で使用している医薬品の場合、一部が保険外になることで医師の診療上の判断が適切にできない場合も生じかねません。医師の管理下を離れることで、患者が自己判断で量や服用頻度などを変える可能性もあります。配慮すべき対象の範囲の問題もあります。「こどもや慢性疾患、低所得者に配慮」すれば対象は激減し、特に慢性疾患患者が多いことから本来の目的を果たせない改革になる可能性があります。「近隣に薬局がない」「インターネットで購入できない高齢者」など、購入の利便性の地域差・個人差もあります。同団体は、混在している議論を整理する提案をしました。医療用医薬品の代わりにOTCを患者に購入してもらう案では、患者が使用するのはOTCであり、医師の管理下を離れ、成分や用量が異なる、利便性の差があるなど問題が多いと指摘しました。OTCにもあるような医療用医薬品の保険負担を検討する案では、患者が使用するのは医療用医薬品であり、医師の管理下で安全は保たれますが、OTC類似薬を10割負担にすると患者負担が重くなりすぎるため、追加負担を求めるとしても患者負担が重くなりすぎないように配慮が必要であると提案しました。医師の判断で医薬品を処方せず患者がOTC薬を購入することになると、費用が高くなるので購入しない患者が出て「治療」が成立しなくなり、症状悪化でさらに高い医療費が必要な治療が必要になる可能性があります。ほかに医薬品を使用している場合の飲み合わせや相互作用の判断ができない問題もあり、現在のドラッグストアの薬剤師や登録販売者の実態では対応不可能ではないかという懸念も示しました。まとめ3つの患者団体グループ(合計9団体)は、OTC類似薬の保険給付除外について、患者への重大な影響と制度設計上の課題を指摘しました。全国がん患者団体連合会は数十倍の負担増と医療費助成対象外になる問題を、7つのアレルギー関連団体は連名で国民皆保険制度の理念との矛盾と子どもへの影響を、ささえあい医療人権センターCOMLは範囲設定の困難さと医師の管理下を離れる問題を提起しました。今後の医療保険部会での議論において、これらの患者の声がどのように反映されるかが注目されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
マイナ保険証の利用率が37%超に|12月の経過措置終了に向けた対応を解説
令和7年11月13日に開催された第203回社会保障審議会医療保険部会において、マイナ保険証の利用促進等に関する報告が行われました。本報告では、マイナ保険証の利用状況、12月1日の経過措置終了に向けた対応、国民と医療機関への周知活動の3点が示されました。マイナ保険証の利用率は令和7年10月時点で37.14%に達し、レセプト件数ベースでは44.40%を記録しました。12月1日には全保険者で発行済みの健康保険証が利用できる経過措置が終了するため、国民への登録促進と医療機関への運用体制整備が急務となっています。厚生労働省は多様な媒体を通じた周知活動を展開し、円滑な移行を目指しています。マイナ保険証の利用状況と直近の実績マイナ保険証の利用状況は着実な増加傾向を示しています。令和7年10月のオンライン資格確認の利用件数は総計2億7,460万件に達し、このうちマイナ保険証による利用は1億199万件でした。利用率は37.14%となり、前月から1.52ポイント上昇しました。オンライン資格確認の利用件数を施設類型別に見ると、医科診療所が最も多く1億1,572万件を記録しました。薬局は1億1,151万件、病院は2,334万件、歯科診療所は2,401万件と続いています。マイナ保険証の利用率は施設類型により差があり、病院では57.00%と高い水準に達する一方、医科診療所は36.17%、薬局は31.22%となっています。レセプト件数ベースの利用率は、実際に医療機関を受診した人数に基づく指標として重要です。令和7年9月時点でのレセプト件数ベース利用率は44.40%に達し、前月から1.23ポイント上昇しました。レセプトの枚数は受診月から2か月遅れの数字となるため、10月分の実績は12月に判明する予定です。この利用率は令和6年1月の3.99%から継続的に上昇しており、マイナ保険証が着実に浸透していることが確認できます。診療情報等の閲覧状況も活用が進んでいます。令和7年10月には、特定健診等情報が3,070万件、薬剤情報が2,292万件、診療情報が5,936万件閲覧されました。医療機関や薬局が患者の過去の診療情報を活用することで、より質の高い医療提供が可能になっています。12月の経過措置終了に向けた対応令和7年12月1日をもって、全保険者で発行済みの健康保険証が利用できる経過措置が終了します。経過措置終了後は、マイナ保険証が医療機関での資格確認の基本となるため、国民と医療機関の双方に準備が求められています。経過措置終了後の資格確認方法には3つの選択肢があります。第一に、資格確認書による確認です。資格確認書は保険者から発行される書面で、マイナ保険証を持参できない場合に利用できます。第二に、マイナ保険証と「資格情報のお知らせ」の組み合わせによる確認です。第三に、マイナ保険証とマイナポータルの資格情報画面の組み合わせによる確認です。医療機関はこれらの方法で適切に資格確認を行う必要があります。被用者保険の加入者約7,700万人については、12月1日に健康保険証の有効期限が切れます。厚生労働省は、被用者保険の保険者が活用できるリーフレットを作成し、マイナ保険証のメリットや健康保険証の有効期限、利用登録状況の確認方法、電子証明書の有効期限等について周知しています。保険者を通じた周知活動により、加入者への情報伝達を強化しています。医療機関と薬局には、マイナ保険証を基本とした運用への移行準備が求められています。受付窓口における患者の動線や職員体制の確認、顔認証付きカードリーダーの不具合対応、マイナ保険証で資格確認ができない場合の請求方法など、具体的な運用面での準備が必要です。厚生労働省は、医療機関と薬局向けに詳細なガイドラインを提供し、円滑な移行を支援しています。周知広報の取り組みと今後の展開厚生労働省は、マイナ保険証への円滑な移行を目的として、多様な媒体を通じた周知活動を展開しています。周知活動は、継続的に実施しているもの、現在実施中のもの、今後実施予定のものの3段階に分類されています。継続的に実施している周知活動には、医療機関と薬局向けの取り組みと国民向けの取り組みがあります。医療機関と薬局向けには、支払基金から各施設への周知メールの配信、毎月のオンライン請求時のポップアップ画面表示、受診方法や電子証明書の有効期限に関するリーフレットの作成と周知を行っています。国民向けには、自治体への周知広報物の配布、厚生労働省ホームページでのリーフレットとポスターの掲載、SNSによる周知を継続しています。現在実施中の周知活動では、より幅広い層への情報伝達を目指しています。厚生労働省作成の12月の切替えに関するリーフレットを保険者を介して周知依頼し、各種縦型動画をYouTubeでショート動画として配信しています。LINE広告での周知も実施しており、多くの国民にリーチする体制を整えています。健康保険組合連合会による広報として、「私たちをもっと守る、マイナ保険証」のテレビCMやデジタル広告も展開されています。今後実施予定の周知活動として、11月中旬には医療機関と薬局向けに今後の資格確認方法などに関するオンラインセミナーを実施します。11月下旬には、国民向けに12月以降の資格確認方法等に関する記者勉強会を開催します。12月初旬にはYahoo!バナー広告を展開し、12月中旬には医療機関と薬局向けに資格確認方法に関するポスターなどを郵送します。段階的な周知活動により、移行期における混乱を最小限に抑える方針です。まとめマイナ保険証の利用率は37.14%に達し、レセプト件数ベースでは44.40%を記録しました。12月1日には全保険者で発行済みの健康保険証が利用できる経過措置が終了するため、国民への登録促進と医療機関への運用体制整備が急務となっています。厚生労働省は継続的な周知活動、現在実施中の施策、今後実施予定の取り組みを通じて、マイナ保険証への円滑な移行を支援しています。医療機関と国民の双方が適切な準備を行うことで、デジタル化された効率的な医療提供体制の実現が期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
医療機関の業務効率化・職場環境改善:2040年に向けた4つの論点
令和7年11月13日に開催された第203回社会保障審議会医療保険部会において、医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する論点が議論されました。2040年に向けて高齢者人口がピークを迎える一方、15歳~64歳人口が減少する中、医療従事者の確保はますます困難となることが見込まれます。厚生労働省は2019年に「医療・福祉サービス改革プラン」をとりまとめており、2040年時点で単位時間当たりのサービス提供を5%(医師は7%)以上改善することとしています。この状況を踏まえ、医療界全体での実効ある取組を進めるための制度的枠組みが検討されています。本稿では、業務のDX化推進、タスク・シフト/シェアの推進、医療従事者の養成体制確保、環境整備という4つの論点について、現状認識、具体的な取組、今後の方向性を説明します。DX化については、省力化投資促進プランに基づく先進的医療機関の事例と支援策の必要性を示します。タスク・シフト/シェアについては、看護師の特定行為研修制度とオンライン診療の活用を取り上げます。養成体制については、遠隔授業やサテライト化の活用を紹介します。環境整備については、医師の時間外労働削減目標と看護職員の超過勤務時間削減目標に基づく賃上げの実施と多様な働き方の推進を述べます。業務のDX化推進:省力化投資促進プランに基づく取組業務のDX化については、2025年6月に策定された「省力化投資促進プラン(医療分野)」に基づき、医療界全体での取組が求められています。現状では、物価や賃金の上昇等の影響で投資を行う余力がない医療機関がある一方、先進的な医療機関が成果を上げています。先進的医療機関では、ICT機器の導入や生成AIサービスの活用によって、文書や記録作成等の業務を効率化し、超過勤務時間の減少や職場満足度の向上といった結果につなげています。省力化投資促進プランでは、看護業務の効率化に資する機器等の導入支援、医師の労働時間短縮に資する機器等の導入支援、医療DXの推進のための情報基盤の整備を多面的な促進策として掲げています。目標として、省力化機器を導入している医療機関数の増加、AMED事業による医療機器等の研究開発支援における採択課題数の増加、電子カルテ情報共有サービスの普及が設定されています。サポート体制の整備として、省力化投資を通じた看護業務効率化のためのサポート体制、看護師養成におけるDX促進のための支援、省力化投資を通じた勤務環境改善のためのサポート体制が用意されています。先進的医療機関の取組をさらに加速化させるとともに、業務効率化に取り組む医療機関の裾野を広げるために、支援や制度的枠組みの整備が必要です。医療部会では、業務効率化を実現した場合の人員配置基準の緩和を検討すべきとの指摘がありました。人員配置基準が医療従事者確保の足かせになっているならば、見直しや緩和を検討すべきとの意見が示されています。医療機関が適正な価格でICT機器等を導入できるような環境整備も重要であり、医療機関の経営を圧迫することなく、現場で使いこなしていけるように、国や自治体による支援体制のさらなる構築が求められています。タスク・シフト/シェアと人材確保:時間外労働削減の数値目標タスク・シフト/シェアについては、医師の働き方改革に関する具体的な数値目標が設定されています。2024年4月から医師の時間外労働に関する上限規制が施行されており、地域医療確保暫定特例水準適用医師の時間外労働の目標時間数は、現状の上限1,860時間から2029年度までに上限1,410時間へと削減することが目標とされています。看護職員の月平均超過勤務時間については、現状5.1時間から2029年度までに2027年度比で月平均超過勤務時間の減少を目指すこととされています。看護師の特定行為研修制度については、本年9月に「看護師の特定行為研修制度見直しに係るワーキンググループ」が設置され、見直しに向けた議論が開始されました。特定行為研修を修了した看護師の活躍促進に向けて、どのような取組が必要かが検討されています。医師の働き方改革の推進に伴い、タスク・シフト/シェアの取組を進めてきていますが、これまでの取組の定着化が必要です。医療職一人一人が専門性を十分に発揮できるよう、タスク・シフト/シェアやチーム医療に加えて、多職種連携も促進する必要があります。医療の質や安全の確保を前提に、医療従事者の業務効率化という観点から、オンライン診療などを適切に普及・推進することも重要です。いわゆる「D to P with N」等によるオンライン診療を推進するためにどのような対応が考えられるかが議論されています。医療従事者でなければできない患者への直接的なケアやコミュニケーションに時間を割くためにも、AIやICTの活用、DXを積極的に進めるべきとの意見が示されています。限られた人材で安全かつ効率的な医療を提供するためには、タスク・シフト/シェア、ICTの活用、多職種連携等が不可欠です。医療従事者の養成体制確保:地域の実情に応じた環境整備地域における医療従事者の養成体制の確保については、養成校の定員充足率の低下傾向と18歳以下人口の減少が課題です。多くの医療関係職種の養成校の定員充足率は低下傾向にあり、今後、地域によっては18歳以下人口の減少が急激に進むところもあります。医療関係職を目指す若者が地域において必要な教育を受けられる体制を安定的に確保することが必要です。養成体制の安定的確保のために、多様な学び手のニーズを踏まえた学習環境の整備が求められています。養成校における遠隔授業の活用、地域や養成校の実情に応じたサテライト化の活用など、柔軟な対応が必要です。実際に、沖縄県名護市の北部看護学校では、学校設置者変更により2026年4月に公立大学法人名桜大学附属北部看護学校として公立化される予定であり、学費の負担軽減、教育環境の充実、地域への貢献などが期待されています。医療従事者の需給の状況を見通しつつ、都道府県等が養成体制の確保のために講ずることが考えられる施策のメニューを整理していくことも重要です。地域の実情に応じた多様な施策を用意することで、医療従事者の安定的な供給を図ることができます。看護師養成におけるDX促進のための支援など、時代に即した取組も進められており、省力化投資促進プランのサポート体制の一環として位置づけられています。環境整備と支援体制:賃上げと多様な働き方の推進医療従事者の確保に資する環境整備については、賃上げの継続実施と多様な働き方の推進が重要です。15~64歳人口の減少が急激に進む地域では、医療機関等における医療従事者の確保が難しくなるほか、医療から他産業への人材流出が進んでいるとの指摘があります。2017年から2019年当時と比べ、医療従事者の不足状況は悪化しているとともに、新型コロナウイルス感染症等による医療需要の動向の変化や、物価や賃金の上昇など、医療機関をとりまく状況はさらに変わってきています。現在の医療従事者が医療の現場に定着し、今後も就業者が安定的に医療分野に参入する環境の整備が必要です。他産業と遜色ない賃上げを継続的に実施できるようにするとともに、医療水準を維持しつつ、より少ない人員でも必要な医療が提供できる環境整備を進める必要があります。省力化に伴う生産性の向上を、賃金の増加に的確に結びつけていくことも重要です。働き方改革については、時間外労働の上限規制だけでなく、多様な働き方の選択肢を導入して、担い手を増やす取組を進めていくべきとの意見が示されています。医療勤務環境改善支援センターによる支援体制の活用も重要です。医療勤務環境改善支援センターは、医療従事者の勤務環境改善を促進するための拠点として、各都道府県が設置しています。医療労務管理アドバイザーや医業経営アドバイザーが配置され、医療機関からの相談に応じて、勤務環境改善や医師の働き方改革の取組を支援しています。医療機関に対するアンケート調査の実施、多職種による意見交換会の実施、タスク・シフト/シェアやICTの導入等に関する助言など、多様な支援が提供されています。医師に関する適切な労務管理に関する助言、副業・兼業、研鑽、宿日直許可取得後の適切な労務管理等の支援も行われています。まとめ第203回社会保障審議会医療保険部会では、医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する4つの論点が議論されました。業務のDX化については、2025年6月に策定された省力化投資促進プランに基づき、先進的医療機関の取組を医療界全体に広げるための支援や制度的枠組みが必要です。タスク・シフト/シェアについては、2024年4月から施行された医師の時間外労働上限規制に基づき、地域医療確保暫定特例水準適用医師の時間外労働を現状1,860時間から2029年度までに1,410時間へ削減すること、看護職員の月平均超過勤務時間を現状5.1時間から2029年度までに削減することが目標とされています。医療従事者の養成体制については、遠隔授業やサテライト化の活用など、多様な学び手のニーズを踏まえた環境整備が求められています。環境整備については、賃上げの継続実施と多様な働き方の推進、医療勤務環境改善支援センターの活用が重要とされています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
医療保険の不公平を是正!金融所得勘案の制度改革が2026年度から実行へ
令和7年11月13日、第203回社会保障審議会医療保険部会が開催されました。議題は「医療保険における金融所得の勘案について」です。現在の医療保険制度では、株式の配当や譲渡益などの金融所得について、確定申告の有無で保険料や窓口負担が変わる不公平が生じています。2040年頃の高齢者人口ピークを見据え、全世代が安心できる社会保障制度を構築するため、この不公平を是正する制度改革が進められています。本制度改革の概要は以下の3点です。第一に、確定申告を行わない金融所得についても、保険料や窓口負担の算定に反映させることで、応能負担を徹底します。第二に、法定調書を活用した情報把握の仕組みを構築し、マイナンバーの付番やオンライン提出の義務化などの課題に取り組みます。第三に、2026年度からの実施を目指し、税制改正や関係者との調整を含めた具体的な制度設計を進めます。現行制度における不公平の実態現行制度では、同じ収入でも確定申告の有無により保険料負担が大きく異なる問題があります。株式等の配当や譲渡益などの金融所得は、源泉徴収で課税関係を終了させ確定申告を行わない場合、市町村民税の課税所得に含まれません。このため、保険料や窓口負担等の算定においても勘案されず、不公平な取扱いとなっています。この不公平の具体例として、70代後半で配偶者がおり、収入280万円の方のケースがあります。パターン①は年金230万円に加えて金融資産2500万円からの配当50万円があるケースです。パターン②は金融所得がなく年金のみ280万円のケースです。確定申告を行わない場合、パターン①の窓口負担割合は1割ですが、パターン②は2割となります。保険料額も、パターン①は年118,928円(月9,911円)ですが、パターン②は年169,978円(月14,165円)と年間約5万円の差が生じます。同じ収入でも、金融所得の確定申告の有無により、窓口負担割合や保険料額が変わるこの状況は、負担の公平性の観点から問題です。制度改革の背景と政策的位置づけ制度改革の必要性は、複数の政策文書で明確に示されています。令和7年6月11日に署名された自由民主党・公明党・日本維新の会の三党合意では、「現役世代に偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底」が掲げられました。三党合意では、税制における確定申告の有無により負担等が変わる不公平な取扱いを是正する必要性が指摘されています。三党合意を踏まえ、令和7年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)でも、同様の改革方針が示されました。骨太方針2025では、「OTC類似薬」を含む薬剤自己負担の見直しとともに、金融所得の反映などの応能負担の徹底が明記されています。さらに、令和7年10月20日に署名された自由民主党・日本維新の会の連立政権合意書においても、社会保障全体の改革の一環として金融所得の反映が位置づけられています。これらの政策文書では、税制における金融所得に係る法定調書の現状を踏まえつつ、マイナンバーの記載や情報提出のオンライン化等の課題、負担の公平性、関係者の事務負担等に留意しながら、具体的な制度設計を進めることとされています。令和5年12月22日に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」では、「加速化プラン」の実施が完了する2028年度までに実施について検討する取組として位置づけられており、2026年度からの早期実現が目指されています。金融所得勘案の具体的方法金融所得を保険料や窓口負担の算定に反映させる方法として、法定調書を活用する仕組みが検討されています。法定調書とは、税制上、金融機関等が税務署に提出する支払調書のことです。この法定調書の情報を活用し、確定申告されていない金融所得についても、保険者が把握できる仕組みを構築します。法定調書方式のイメージでは、金融機関等が法定調書を提出し、その情報を法定調書データベース(仮称)に集約します。保険者は、市町村民税の課税所得に加えて、法定調書データベースから計算された金融所得の情報を取得します。両者を合算した所得に基づいて、保険料の算定や窓口負担区分の決定を行います。この方式により、確定申告の有無にかかわらず、金融所得を適切に勘案できるようになります。この実現には、いくつかの実務面の課題があります。第一に、法定調書のオンライン提出義務化を進める必要があります。第二に、法定調書へのマイナンバーの付番と正確性の確保が必要です。第三に、法定調書データベースや保険者のシステム整備が必要です。第四に、金融機関、税務当局、保険者など関係者との調整が必要です。特に国民健康保険制度については、地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化のスケジュールに留意する必要があります。これらの課題について、コストとスケジュールを含めた検討が進められています。制度改革の論点と今後の方向性制度改革における主要な論点は3点あります。第一に、高齢者人口がピークを迎える2040年頃を見据え、全世代が安心できる社会保障制度を構築する必要があります。制度の持続可能性を高める観点から、負担能力に応じた負担と給付内容の不断の見直しが必要です。後期高齢者の金融所得が増加している中、確定申告を行わない場合に課税所得に含まれない不公平な取扱いの是正に取り組む必要があります。第二に、金融所得を勘案する方式として、税制における法定調書を活用し、社会保険における保険料や窓口負担等の算定に活用することが考えられます。実務面では、法定調書のオンライン提出義務化、法定調書へのマイナンバーの付番・正確性確保、システムの整備、関係者との調整など、コストとスケジュールの検討が必要です。第三に、制度間のバランスへの配慮が必要です。後期高齢者医療制度は一律に75歳以上の高齢者が対象となります。一方、国民健康保険制度は後期高齢者医療制度と同じく市町村の税情報をベースに賦課しますが、賃金をベースに保険料等を賦課する被用者保険とのバランスについても検討が必要です。年齢に関わらず負担能力に応じた負担を目指す観点から、現役世代から後期高齢者への支援金負担の軽減にも配慮します。まとめ医療保険における金融所得の勘案は、全世代型社会保障の構築に向けた重要な改革です。確定申告の有無により保険料や窓口負担が変わる不公平を是正し、応能負担を徹底することで、制度の公平性と持続可能性を高めます。法定調書を活用した具体的な仕組みの構築が進められており、2026年度からの実施が目指されています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
2025年医療制度改革の焦点:高齢者の「現役並み所得」基準見直しで変わる負担構造
2025年11月13日に開催された第203回社会保障審議会医療保険部会において、高齢者医療における負担の在り方が議論されました。現役世代の負担増が加速する中、世代内・世代間の公平性を確保する全世代型社会保障の構築が喫緊の課題となっています。本稿では、19年ぶりの見直しが検討されている「現役並み所得」の判断基準について、その背景、現状の課題、見直しの方向性を解説します。医療保険部会では、平成18年以降見直されていない「現役並み所得」の判断基準を抜本的に見直す方向性が示されました。現在の基準では課税所得145万円以上かつ世帯収入520万円以上(単身383万円以上)が「現役並み所得」とされ、該当者は窓口負担3割となります。この基準は現役世代の平均所得を基に設定されましたが、給与所得控除と公的年金等控除の両方が積み上げられており、現役世代との公平性に課題があります。さらに現役並み所得者の医療給付費には公費負担がなく、全額が現役世代の支援金で賄われるいびつな財源構造となっています。今回の見直しでは、賃金・物価上昇の反映に加え、基準設定の在り方自体を問い直す議論が求められています。「現役並み所得」判断基準の現状と課題「現役並み所得」の判断基準は、平成18年に設定されて以降19年間見直されていません。現在の基準は、課税所得145万円以上かつ世帯収入520万円以上(単身383万円以上)という2つの要件で構成されています。課税所得要件は平成16年度の政管健保の平均標準報酬月額に基づく平均収入額から、夫婦2人世帯をモデルとした諸控除を差し引いて算出されました。収入要件は課税所得を元に高齢者の総収入に換算して設定されています。この基準には3つの構造的な問題があります。第一に、給与所得控除と公的年金等控除の両方が積み上げられており、年金収入と給与収入の両方を有する高齢者世帯では高い控除額が反映されています。第二に、賃金や物価が上昇している局面でも基準額が更新されていないため、実質的な基準が低下しています。第三に、現役並み所得者に該当する高齢者は全体の約7%にすぎず、現役世代との公平性の観点から課題があるとの指摘があります。基準の硬直性により、高齢者の所得状況が変化しても制度が対応できていません。全体に占める所得が低い層や年金受給額が低い層の割合は低下傾向にあり、高齢者全体でみると所得は増加・多様化しています。年齢階級別の一人当たり医療費は高齢になるにつれ高くなりますが、一人当たり自己負担額は60代後半をピークに70代以降は低く抑えられており、医療費と自己負担額の逆転が生じています。現役世代への過重な負担構造「現役並み所得」の判断基準を見直す際の最大の課題は、現役世代の負担構造にあります。現役並み所得を有する後期高齢者の医療給付費には公費負担がなく、その分は現役世代の支援金による負担となっています。このため、「現役並み所得」の対象拡大のみを行う場合、現役世代の支援金の負担が増加することとなります。後期高齢者の医療給付費の財源構成をみると、一般の後期高齢者の給付費は公費約5割、現役世代の支援金約4割、後期高齢者の保険料約1割で構成されています。一方、現役並み所得者の給付費は公費負担がなく、現役世代の支援金約9割と後期高齢者の保険料約1割で賄われています。この財源構造は平成14年の旧老人保健制度における公費負担割合引き上げの際に設けられたものです。現役世代の負担は加速度的に増加しています。後期高齢者医療制度の創設以降、高齢者世代と現役世代の人口バランスが大きく変化し、制度の支え手である現役世代に対する負担が増大しています。令和7年度中に具体的な骨子について合意し、令和8年度中に具体的な制度設計を行うことが、自由民主党・日本維新の会の連立政権合意書において示されています。新たに「現役並み所得」に該当する場合の影響判断基準の見直しにより新たに「現役並み所得」に該当することとなる高齢者には、2つの影響が生じます。第一に、窓口負担割合が1割または2割から3割に引き上げられます。第二に、高額療養費制度の区分も1つ上の区分が適用されることとなり、月額上限が引き上がるとともに、外来特例の対象から外れることとなります。高額療養費制度における現役並み所得者の自己負担上限額は、収入に応じて80,100円から252,600円に、医療費から一定額(267,000円から842,000円)を控除した金額の1%を加算した額となっています。多数回該当の場合は44,400円から140,100円となります。一方、一般区分(課税所得28万円未満で1割負担)の場合、外来のみの上限は月18,000円(年間14.4万円)、外来及び入院を合わせた上限は57,600円(多数回該当44,400円)となっており、両者の差は大きいものとなっています。このため、判断基準の見直しを検討する際には、窓口負担割合の見直しの施行状況等を注視する必要があります。令和4年10月に施行された一定以上所得のある方への2割負担の導入の影響を確認しながら、慎重に進めることが求められています。窓口負担は受益に応じて負担する仕組みであり、高額療養費は高額な医療や長期の療養が必要な場合のセーフティネットとして、それぞれの制度の役割分担を考慮した検討が必要です。見直しに向けた論点と今後の方向性医療保険部会では、「現役並み所得」の判断基準の見直しに関する複数の論点が示されています。第一に、賃金や物価上昇、税制等を踏まえた時点更新のみではなく、基準設定の在り方自体を見直す必要があるという点です。財政制度等審議会からは、課税要件の撤廃とともに、世帯収入要件については「年金収入プラスその他合計所得金額」へと変更することを軸に検討すべきとの指摘がありました。第二に、現役世代の支援金と公費の取扱いの在り方に係る課題への対応です。現役並み所得者の給付費に公費負担がないいびつな負担構造を是正する方策が求められています。公費の投入を行うべきとの意見がある一方、財政的制約の中でどのように実現するかが課題となっています。第三に、高齢者の受診の状況等は様々であり、経済状況も多様であることを踏まえた見直しが必要という点です。高齢者は一般的に所得が低い一方で医療費が高い傾向にあります。所得が低い層や年金受給額が低い層も一定数存在し、これらの方々への配慮が必要です。一方で、高齢者の受診状況等は改善傾向にあり、全体でみると所得は増加・多様化しています。医療保険部会では、低所得者に配慮した自己負担の設定を前提としながら、負担能力に応じたきめ細かい制度設計を進める方向性が示されています。まとめ第203回社会保障審議会医療保険部会では、19年ぶりに「現役並み所得」の判断基準の見直しが本格的に議論されました。現在の基準は給与所得控除と公的年金等控除の両方が積み上げられており、現役世代との公平性に課題があります。現役並み所得者の給付費に公費負担がなく全額が現役世代の支援金で賄われるいびつな財源構造も、早急な是正が求められています。見直しに当たっては、窓口負担割合と高額療養費制度の両面での影響、高齢者の多様な経済状況への配慮、現役世代の負担への留意が必要となります。令和7年度中の骨子合意、令和8年度中の制度設計に向けて、世代内・世代間の公平性を確保する全世代型社会保障の構築が進められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
医療DXと病院DXの違いとは?成功の鍵となる3つのRを解説
国はマイナンバーカードと健康保険証の一体化や全国医療情報プラットフォームの構築など、データヘルス改革として医療DXを推進しています。この医療DXは、患者にもメリットがありますが、それ以上に行政や財政の効率化を目的としています。一方で、病院が取り組むべきDXは、医療の質向上と組織の効率化という異なる目的を持ちます。全日本病院協会の会長である神野正博氏は、この違いと病院DXを成功させるための本質を解説しています。病院DXの本質は、医療の質向上と病院組織の効率化にあります。国が推進する医療DXは、マイナンバーカードと健康保険証の一体化、診療報酬改定DXなど、行政・財政の効率化が中心です。病院DXを成功させるには、リデザイン(業務の仕組みをゼロから見直す)、リダクション(不要な業務の削減)、リスキリング(スキルの見直しとキャリアチェンジ)という三つのRが必要です。外部からDX人材を募集することはもちろん重要ですが、それだけでなく、既存のスタッフに学習の機会を提供し、キャリアチェンジを促すことが重要です。医療DXと病院DXの目的の違い国が推進する医療DXは、患者にもメリットがありますが、それ以上に行政や財政の効率化を目的としています。マイナンバーカードと健康保険証の一体化が進められています。全国医療情報プラットフォームの構築では、いくつかの文章や情報を、どこの病院・医療機関にかかっても見えるようにすることが目指されています。診療報酬改定DXでは、2年に1回の改定の度に発生する膨大な作業に対し、非常に負担がかかるという課題に対応するため、国がシステムを作っていく流れです。これらの医療DXに対し、病院の現場では、それ以上に病院DXに注力する時代になりつつあります。病院DXの主戦場は、医療の質を良くすること、患者の安全のため、チームや地域の連携のため、業務効率・生産性アップのため、働き方改革のためにあります。医療の質向上と病院組織の効率化が本質です。病院にとってのDXのゴールは、技術ではなく、信頼と安心の再構築です。医療DXには対応しつつも、病院は病院DXに注力することが求められています。病院DXを成功させる三つのR病院DXを成功させるには、リデザイン、リダクション、リスキリングという三つのRが重要です。これらは医療分野だけでなく、他の業界でも共通して重要な要素です。第一のRであるリデザインは、仕事のやり方そのもの、仕組みそのものを変えることを意味します。DXは業務のやり方や仕組みをゼロから見直し、業務組織を改革することが必要です。単に既存の業務をデジタル化するだけでなく、業務そのものを変革することが求められます。第二のRであるリダクションは、やめること、削減すること、減らすことを指します。現在の医療は、質の向上と高回転(短い日数で治さなければならない)が求められています。働き方改革も進み、質をよくしなければならないという課題もあります。これらすべてをやろうと思っても、もう回っていかない状況です。捨てる覚悟、業務削減、仕事の棚卸は必須です。第三のRであるリスキリングは、スキルの見直しを意味します。業務を見直し、キャリアを変えることも必要になります。DXを進めるには、このようなスキルの見直しとキャリアチェンジの視点が不可欠です。DX人材の育成とキャリアチェンジの可能性DX人材はすべての業界で不足しています。外部に向かってDX人材を募集することは、もちろんとても大事です。しかし、それだけではなく、今いる人の中で、パソコンが得意な方に学習の機会を与えることによって、キャリアを変えていただくことも有効です。医療の場合、看護師でパソコンが得意な人がいるならば、その看護の技術や医療の知識をもとにして、DX人材になっていただくことが考えられます。これがまさにキャリアチェンジです。このような人材育成の視点を持ちながらDXを進めていくことが重要です。看護の技術や医療の知識を持つ人材がDX人材になることで、現場のニーズを理解したシステムやツールの導入が可能になります。外部からの採用と内部からの育成を組み合わせることで、病院DXを効果的に推進できます。まとめ病院DXの本質は、医療の質向上と組織の効率化にあります。国の医療DXは行政・財政の効率化が中心ですが、病院は医療DXに対応しつつも、それ以上に病院DXに注力する時代になりつつあります。リデザイン、リダクション、リスキリングという三つのRを実践し、外部からのDX人材募集だけでなく、今いるスタッフに学習の機会を提供してキャリアチェンジを促すことが重要です。DXのゴールは技術ではなく、信頼と安心の再構築です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
医療DXと働き方改革の本質|労働時間削減と生産性向上を両立する5つの方法
労働基準法の厳格化とワークライフバランスの推進により、医療現場では労働時間の削減が求められています。労働時間を減らしながら業績を維持するには、仕事のやり方を変える必要があります。全日本病院協会の神野正博会長が解説する動画「医療のトリセツ 第6回『医療DXと働き方改革』」では、この課題に対する具体的な解決策が示されています。神野会長は、働き方改革を生産性向上改革と定義し、5つの具体的方法を提示しています。ミッションの明確化により本来業務を特定します。タスクシフティングとタスクシェアリングにより業務を適切に分配します。効率化活動により無駄を排除します。最善の標準治療工程表により最短時間で最高の質を実現します。DXによりICT、AI、ロボットを活用します。労働時間と生産性の関係が医療機関の業績を決定する労働時間と生産性の関係は、医療機関の業績に直結します。神野会長は「労働時間×労働生産性=業績」という関係式を提示し、この方程式が働き方改革の本質を表していると説明しています。労働時間を減らすだけでは業績は低下します。労働基準法が厳格化され、ワークライフバランスの推進により労働時間の削減が求められている現状では、従来と同じ仕事のやり方を続けていては医療機関の業績は必ず下がります。労働時間の削減を補うには、生産性の向上が不可欠です。労働時間を少なくする代わりに、仕事のやり方を変えることで、業績を維持または向上させることが可能になります。この認識が、働き方改革を成功させる出発点となります。生産性を向上させる5つの具体的方法が医療現場を変革する生産性向上には、体系的なアプローチが必要です。神野会長は、医療現場で実践可能な5つの方法を提示し、働き方改革を生産性向上改革として位置づけています。第一の方法はミッションの明確化です。本来業務が何であるかを明確に定義し、本当に自分がやらなければならない仕事を特定します。第二の方法はタスクシフティングとタスクシェアリングです。本来業務でない仕事を他者に移管し、複数の担当者で業務を分担します。第三の方法は効率化活動です。TQC(トータルクオリティコントロール)、TQM(トータルクオリティマネジメント)、改善活動により、業務プロセスの無駄を排除します。第四の方法は最善の標準治療工程表の作成です。クリティカルパスと呼ばれるこの手法により、最短時間、最小資源で最高の質を目指します。第五の方法はDXの活用です。ICT、AI、ロボットといった技術を導入し、業務の自動化と効率化を推進します。タスクシフティングをカスケード構造で理解すると業務分担の本質が見えるタスクシフティングの成功には、業務の適切な流れが重要です。神野会長は、この概念を「カスケード(小さな滝)」という比喩で説明し、業務分担の理想的な形を示しています。医師の仕事を看護師に移管します。看護師の仕事を次の担当者に移管します。この流れを継続的に下位に展開することで、小さな滝のように業務が段階的に流れていきます。一か所に仕事が集中すると危険です。誰かが業務を抱え込んで次に渡さない状態は、ダムのように業務を堰き止めることになります。このダムが決壊すると、下流に大洪水が発生し、医療現場に深刻な影響を及ぼします。DXが最終的な受け皿となります。業務を下位に流し続けた結果、最終的に人間が受け取れなくなった段階で、デジタル技術が業務を引き受けます。この構造により、働き方改革とDXの関係が明確になります。まとめ|働き方改革の成功は生産性向上にかかっている働き方改革を成功させるには、労働時間削減と生産性向上を同時に実現する必要があります。神野会長が提示した5つの方法を体系的に実践することで、医療機関は業績を維持しながら労働環境を改善できます。タスクシフティングをカスケード構造で理解し、DXを最終的な受け皿として活用することが、持続可能な医療提供体制の構築につながります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
なぜ今、医療DXが必要なのか?全日本病院協会会長が語る医療の未来
社会の文化が急速に変化する中で、医療の分野でもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が求められています。このメールマガジンでは、全日本病院協会会長の神野正博氏による解説動画「医療のトリセツ 第5回『なぜ医療DXが必要なのか』」をご紹介します。神野氏は、動画の中で医療DXの必要性と、医療の未来を想像することの重要性について語っています。神野氏は、医療DXを理解するために、デジタル化の進化を3つの段階に分けて解説しています。第一段階のデジタイゼーションは、紙カルテを電子カルテに変えるデータ化の段階です。第二段階のデジタライゼーションは、電子カルテのデータを業務効率化に活用する段階です。第三段階のデジタルトランスフォーメーションは、AIの診療支援や遠隔医療を通じて医療提供の仕組み自体を再構築する段階です。神野氏は、変化する社会に応じて医療の文化を変革していく必要性を強調しています。デジタル化進化の3段階を理解するデジタル化の進化は、一般社会でも医療現場でも、3つの段階を経て発展します。神野氏は、カメラの進化を例に挙げてこの3段階を分かりやすく説明しています。第一段階は「デジタイゼーション」です。デジタイゼーションは、フィルムカメラがデジタルカメラになるような、アナログからデジタルへのデータ化を指します。情報をデジタル形式で保存できるようになる段階です。第二段階は「デジタライゼーション」です。デジタライゼーションは、デジタルカメラで撮影したデータをクラウドに保存したり、SNSで共有したりする段階です。デジタル化されたデータを活用して、業務や生活を効率化します。第三段階は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。デジタルトランスフォーメーションは、画像とAIやIoTが融合して新たな価値を共創する段階です。医療では画像診断への応用や、自動車では自動運転技術などがこの段階に該当します。医療現場におけるデジタル化の3段階を知る医療現場では、3段階のデジタル化がそれぞれ異なる形で展開されています。神野氏は、一般論で説明した3段階を医療現場に当てはめて具体的に解説しています。第一段階の医療現場におけるデジタイゼーションは、紙カルテを電子カルテに変換する取り組みです。紙で管理していた情報を電子的に保存することで、情報の検索性や保管性が向上します。データ化そのものが目的となる段階です。第二段階のデジタライゼーションは、電子カルテのデータを診療・検査・看護などの各業務と連携させる段階です。電子カルテに蓄積されたデータを活用することで、ミスの防止や時間短縮が実現します。業務の効率化・自動化を通じて、働き方改革にもつながる生産性向上のフェーズです。第三段階のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、AIの診療支援や遠隔医療、地域連携などを通じて、医療提供のあり方や文化そのものを変革する段階です。医療の仕組みを根本から再構築することで、より質の高い医療提供体制を目指します。医療文化の変革に向けた展望を描く神野氏は、医療DXの推進において、医療の未来を想像することの重要性を強調しています。社会の文化が急速に変化する中で、医療の分野も変革が求められています。医療の未来を想像することが極めて重要になっています。神野氏は、私たちの身の回りの文化がどんどん変わってきていることを指摘しています。デジタル技術の進化により、日常生活のあらゆる場面で変化が起きています。医療提供者は、変化する社会に応じて、医療の文化を変えていく必要があります。神野氏は、医療DXが単なる技術導入ではなく、医療提供のあり方そのものを見直す契機になると述べています。社会の変化に対応することで、これからの時代に求められる医療を実現できます。まとめ医療DXは、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという3つの段階を経て、医療の仕組みそのものを変革する取り組みです。全日本病院協会会長の神野正博氏による解説動画「医療のトリセツ 第5回」では、なぜ医療DXが必要なのかを分かりやすく学べます。社会の文化が変化する中で、医療の文化も変革していく必要性を理解する機会として、ぜひご覧ください。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【2025年医療保険改革】長期収載品・バイオ医薬品・OTC類似薬の保険給付見直しで何が変わる?
令和7年11月6日に開催された第202回社会保障審議会医療保険部会において、薬剤給付の在り方に関する重要な議論が行われました。医療保険制度の持続可能性を確保するため、長期収載品の選定療養の更なる活用、先行バイオ医薬品の保険給付の在り方、OTC類似薬の保険給付範囲の見直しという3つの重要なテーマが検討されています。今回の議論では、令和6年10月から施行された長期収載品の選定療養制度の効果検証が示されました。後発医薬品の使用割合は数量ベースで90%以上に上昇し、一定の効果が確認されています。この成果を踏まえ、患者負担額の引き上げや対象範囲の拡大が論点となりました。先行バイオ医薬品については、バイオ後続品への置き換え率が金額ベースで33.7%と低いことから、使用促進に向けた選定療養の導入が検討されています。OTC類似薬については、医療機関における必要な受診の確保、子どもや慢性疾患を抱える方への配慮、低所得者の負担増加への対応という3つの重要な配慮事項が示されました。長期収載品の選定療養制度の効果と今後の方向性長期収載品の選定療養制度は、令和6年10月に施行されました。この制度は、患者が後発医薬品ではなく長期収載品を希望する場合に、両者の価格差の4分の1を患者が追加負担する仕組みです。施行後約5ヶ月が経過した令和7年3月時点で、後発医薬品の使用割合は数量ベースで90.6%に達しており、後発医薬品の使用促進に一定の効果を示しています。制度の運用状況を見ると、長期収載品の銘柄名で処方された医薬品のうち73.6%が後発医薬品へ変更されています。残りの25.4%で長期収載品が調剤された理由は、医療上の必要性による変更不可が23.3%、患者希望が17.8%、後発医薬品の在庫不足が43.9%でした。この結果から、供給不安が依然として医療現場の課題となっていることがわかります。一方で、薬局からは患者への説明負担が大きいという指摘があります。長期収載品の選定療養制度導入による影響を尋ねた調査では、78.9%の薬局が患者への説明や質問対応に係る負担が大きいと回答しました。制度そのものや特別料金の計算がわかりづらいという意見も寄せられており、現場への配慮が求められます。医療保険部会では、後発医薬品使用促進をさらに進めるため、選定療養の更なる活用が議論されました。具体的には、現在の価格差4分の1という患者負担を、2分の1、4分の3、全額へと段階的に引き上げる案が示されています。複数の委員から価格差全額を患者負担とすべきという意見が出された一方、後発医薬品の供給不安定が解消されていない現状への配慮を求める意見もありました。先行バイオ医薬品への選定療養導入に向けた課題先行バイオ医薬品のバイオ後続品への置き換えは、低分子医薬品の後発医薬品への置き換えと比較して大幅に遅れています。令和6年の薬価調査によると、バイオ後続品への置き換え率は金額ベースで33.7%にとどまります。政府目標では、2029年度までにバイオ後続品が80%以上を占める成分数を全体の60%以上とすることを掲げていますが、現状では22.2%と大きく乖離しています。バイオ医薬品が後発医薬品と異なる特性を持つことが、置き換えの障壁となっています。バイオ医薬品は製造工程が複雑で、細胞株由来のばらつきが生じる可能性があります。先行品と後続品は同質・同等性が確認されていますが、完全な同一性は認められていません。このため、低分子医薬品のように処方変更や変更調剤で対応することが困難です。さらに、バイオ医薬品には先行品と後続品に共通の一般名が存在せず、一般名処方加算の仕組みが適用できません。後発医薬品調剤体制加算に相当する評価も存在しないため、医療機関や薬局がバイオ後続品を積極的に使用するインセンティブが限られています。保存や運搬にも特別な配慮が必要で、安定供給の確保が課題です。医療保険部会では、バイオ後続品への置き換えが一定程度進んでいる先行バイオ医薬品について選定療養の対象とすべきという意見が複数示されました。高額療養費制度の持続可能性確保の観点からも検討が必要という指摘があります。ただし、急性期で一時的に使用する薬と、自己注射のように患者が継続使用する薬では対応が異なるため、デバイスの使用方法の違いなども考慮した丁寧な制度設計が求められます。OTC類似薬の保険給付見直しにおける3つの配慮事項OTC類似薬の保険給付の在り方見直しは、骨太方針2025および三党合意で示された重要課題です。医療保険制度の持続可能性確保と現役世代の保険料負担軽減を実現するため、令和7年末までに十分な検討を行い、令和8年度からの実施を目指しています。検討に当たっては、医療機関における必要な受診の確保、子どもや慢性疾患を抱える方・低所得者の患者負担への配慮、成分や用量がOTC医薬品と同等のOTC類似薬の扱いという3つの視点が示されました。医療機関における必要な受診の確保については、複数の懸念が指摘されています。OTC類似薬を保険適用から外した場合、受診遅延による健康被害が生じる可能性があります。医療の基本は早期発見・早期治療であり、軽症段階での対応を困難にすれば、結果として重症化により多額の医療費を要することになりかねません。薬の過剰摂取や飲み合わせリスクも考慮が必要です。へき地では医療機関にアクセスできても薬局がない地域があり、OTC医薬品の入手自体が困難な場合があります。スイッチOTC化された医薬品についても、単に保険給付の対象から外すだけではセルフメディケーションの適切な実施は難しく、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師と相談しながら薬歴管理を行う体制が望ましいという意見が出されました。子どもや慢性疾患を抱える方、低所得者への配慮も重要な論点です。過度な負担や急激な変化が生じないよう十分な配慮が必要です。難病や心身障害のある方にとっては、一般用医薬品が医療用医薬品の10倍以上の価格になることもあり、負担が非常に重くなる可能性があります。医療保険部会では、こうした方々への配慮が必須という認識が共有されました。OTC医薬品と医療用医薬品の違いにも留意が必要です。有効成分が一致していても、用法・用量、効能・効果、対象年齢、投与経路・剤形などに違いがあります。配合剤で包装単位が決まっている大多数のOTC医薬品は、医療用医薬品のように患者個々の量に対応して提供できません。OTC医薬品の安定供給も十分ではなく、全薬局で一律な対応ができない状況も指摘されています。まとめ:医療保険制度の持続可能性確保に向けた取組の方向性薬剤給付の在り方見直しは、医療保険制度の持続可能性確保と現役世代の負担軽減という重要な政策目標を実現するための取組です。長期収載品については選定療養制度が一定の効果を示しており、更なる活用が検討されています。先行バイオ医薬品についてはバイオ後続品への置き換えを促進するための環境整備が課題です。OTC類似薬については、必要な受診の確保と患者への配慮を前提とした慎重な検討が求められます。いずれの課題についても、医療の質の維持とアクセスの確保を図りながら、効率的で持続可能な制度設計を進めることが重要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
高額療養費制度の見直し議論が本格化―3つの論点と患者負担への影響を徹底解説
令和7年11月6日に開催された第202回社会保障審議会医療保険部会では、高額療養費制度の在り方について重要な議論が行われました。高齢化の進展と医療の高度化により医療費が増大する中、制度を将来にわたって維持するための改革が求められています。医療保険部会では、高額療養費制度の在り方に関する専門委員会での議論を踏まえ、自己負担限度額の見直し、70歳以上の外来特例の在り方、所得区分の細分化という3つの論点を中心に検討を進めています。議論の焦点は、制度の持続可能性と現役世代の保険料負担軽減の必要性、年齢によらない負担能力に応じた負担の実現、長期療養患者や低所得者への配慮というセーフティネット機能の維持という3点にあります。専門委員会では患者団体や保険者からのヒアリングを丁寧に実施し、具体的な患者の医療費負担の実態を踏まえた検討が行われました。本制度の見直しは、全世代型社会保障の構築に向けた医療保険制度改革全体の中で位置づけられており、今後の改革の方向性が注目されています。高齢化と医療高度化により増大する医療費への対応医療費は高齢化の進展と医療の高度化により今後も増大が見込まれます。専門委員会では、人口構造の変化や医療費の高騰という状況を踏まえると、高額療養費制度を現行のままで維持していくことは困難という認識が示されました。医療の高度化や高額薬剤の普及により高額療養費制度の重要性が増している一方で、制度を支える加入者の保険料負担も増加しています。専門委員会での議論では、現役世代の保険料負担を軽減していくことが非常に重要という意見が出されました。この観点から、医療保険制度全体の改革を進めていくことが不可欠であり、高額療養費制度についても改革項目の一つとして一定程度の見直しを行うべきとされています。ただし、見直しに当たっては、利用者の家計の破綻につながらないよう十分配慮することが求められています。一方で、患者団体からは切実な声も寄せられています。患者やその家族、医療者からは、自己負担限度額を上げられたらもう治療を受けられなくなるという意見が出されました。特に希少疾患患者にとって、病気の責任は自身になく必要に迫られて医療を利用しているのであり、過度な負担は公的保険制度の公平性を損なうおそれがあるという指摘もありました。現行制度においても医療費負担が極めて厳しい状況にある患者がいる一方で、制度を将来にわたって維持する必要性も認識されています。制度を見直す際は、仮のモデルを設定した負担のイメージやデータを踏まえる必要があるという意見が出されており、丁寧な検討が求められています。具体的には、年収約200万円未満の乳がん患者の事例では、総医療費約658.2万円に対して高額療養費制度により自己負担は約44.7万円となっていますが、年間収入に占める割合は決して軽くない負担となっています。年齢によらない負担能力に応じた負担の実現全世代型社会保障を目指す中で、年齢ではなく負担能力に応じた負担という考え方が重要視されています。専門委員会では、70歳以上の高齢者のみに設けられている外来特例の在り方が主要な論点となりました。外来特例は、高齢者の外来受診時の自己負担限度額を引き下げる仕組みですが、世代間の公平性の観点から見直しが必要という意見が出されています。外来特例の見直しについては、複数の視点から議論されています。医療者からは、抗がん剤治療において高齢者は外来特例により一定の負担で治療を受けられる一方で、現役世代、特に子育て世代は厳しい経済環境の中でその治療を受けることができないという公平性の問題が指摘されました。年齢階級別のデータでは、一人当たり医療費が年齢とともに増えている一方で、一人当たり自己負担額は70歳を境に大きく減っており、この点について世代間の公平性の議論が求められています。一方で、外来特例の必要性を主張する意見もあります。一定の年齢になると疾病数が増え医療機関にかかる回数が多くなるという高齢者の特性を踏まえた仕組みは必要ではないかという指摘です。高齢者は若い世代と違って失った所得を回復させることが難しく、また病気になる確率が高いという事情があり、これらを考慮する必要があるとされています。所得区分の在り方も重要な論点となっています。負担能力に応じたきめ細かい制度設計をしていく観点から、現行制度において大括りとなっている所得区分について、低所得者に配慮した自己負担の設定を前提としながらも細分化が必要ではないかという意見が出されました。所得区分を細分化する方向は合理的と考えられていますが、細分化しすぎたり複雑なものにしすぎると国民にも分かりにくく、市町村窓口などの現場で混乱が生じることにもなりかねないため、制度設計に当たっては留意が必要とされています。他方で、一定の所得を有する方は応分の保険料を負担している中において、給付面の応能負担をこれ以上強めることは制度への納得性を損なうのではないかという意見もありました。負担能力という観点では、所得のみならず資産も勘案する必要があるという指摘もなされています。セーフティネット機能を維持した制度設計の在り方高額療養費制度はセーフティネット機能として患者にとってなくてはならない制度であり、今後もこの制度を堅持していく必要性については認識が一致しています。専門委員会では、制度を将来にわたり維持していく観点から、仮に自己負担限度額の見直しを行っていく場合であっても、特に長期にわたって継続して治療を受けられる方や所得が低い方の負担が過重なものとならないよう配慮すべきという意見が多く出されました。長期療養患者への配慮は特に重要視されています。難病やがんなどの慢性疾患を有する方で長期間療養を必要とする方への配慮が、現行の多数回該当制度だけでは弱いのではないかという指摘がなされました。多数回該当制度は、直近12か月以内に3回以上高額療養費の支給を受けた場合に4回目から自己負担限度額が引き下げられる仕組みですが、年間上限を設けてはどうかといった追加的な配慮の必要性が議論されています。既に現行制度においてもWHOが定義する「破滅的医療支出」を大きく超えている患者が存在するという実態も示されました。今後の持続可能性の観点だけではなく、患者の過重な負担にならないという観点からは、こうした患者が既に存在していることに十分配慮しながら制度の検討を行う必要があるとされています。具体的な事例として、年収約200万円未満の20歳代女性の白血病患者では、多数回該当により自己負担は約14.5万円となっていますが、年間収入に占める割合は依然として重い負担となっています。制度設計に当たっては、医療の質を落とさずに患者が治療を継続できることが前提となります。これまでのヒアリングや提示されたモデルも参考に、実態を踏まえて丁寧に検討することが求められています。悪性腫瘍や難病の患者のような長期療養の方々の医療へのアクセスが妨げられないような制度設計とすべきという意見が出されており、セーフティネット機能の維持と制度の持続可能性の両立が課題となっています。現役世代においても高額療養費制度が活用されており、制度変更により家計に対する医療費の自己負担が過重なものとならないようにすることが重要とされています。年収約410万円の30歳代男性が超高額医薬品(薬価約3,265万円)を使用した事例では、高額療養費制度により自己負担は約40.4万円に抑えられていますが、家計調査によれば年間の税・社会保険料が約66.7万円であることを考えると、決して軽い負担ではありません。まとめ高額療養費制度の見直し議論は、制度の持続可能性の確保、全世代型社会保障の実現、セーフティネット機能の維持という3つの要請のバランスを取ることが求められています。医療保険部会では、高齢化の進展や医療の高度化等により増大する医療費への対応、年齢によらない負担能力に応じた負担の実現、患者の経済的負担に配慮したセーフティネット機能の在り方という3つの論点を中心に、今後さらに議論を深めていくことが必要とされています。制度改革は医療保険制度全体の中で検討されており、患者団体や保険者、医療関係者の意見を踏まえた丁寧な制度設計が期待されています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
短期滞在手術の外来移行促進:中医協が示す診療報酬見直しの3つのポイント【2026年改定】
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会(第625回)で、入院から外来への移行に関する診療報酬の見直しが議論されました。2026年度診療報酬改定に向けて、短期滞在手術における入院と外来の評価体系を見直し、医療の効率化を図ることが目的です。本稿では、この見直しの背景、具体的な検討内容、医療機関への影響を解説します。中医協では短期滞在手術等基本料の見直しが3つの視点から検討されています。第一に、主として外来で実施される手術について入院と外来の点数差を縮小します。第二に、複数の算定方法が混在している現状を統一します。第三に、短期滞在手術等基本料1の包括評価を診療実態に合わせて調整します。これらの見直しにより、特に内視鏡的大腸ポリープ切除術と白内障に対する水晶体再建術の外来実施率向上が期待されます。短期滞在手術等基本料3の見直し:入院・外来の点数差縮小短期滞在手術等基本料3の対象手術のうち、主として外来で実施される手術について、入院と外来の点数差を縮小する方向で見直しが検討されています。現状では、内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術(長径2センチメートル未満)と水晶体再建術(眼内レンズを挿入する場合、その他のもの)について、入院で実施した場合の総請求点数が病院の外来で実施した場合より高くなっています。この点数差が、臨床的に入院で実施する必要性が乏しい症例でも入院を選択する要因となっています。医療機関ごとの分析では、外来実施率が0パーセントの医療機関が一定数存在します。特に白内障に対する水晶体再建術については、第165回社会保障審議会医療保険部会において、OECD諸外国と比較して日本の外来実施率が低いことが指摘されました。点数差を縮小することで、医療機関が臨床的必要性に基づいて入院・外来を選択しやすい環境を整備します。これにより、患者の利便性向上と医療資源の効率的活用が両立します。短期滞在手術等基本料の算定方法統一化短期滞在手術等の算定方法については、短期滞在手術等基本料をはじめ、複数の算定方法が混在しています。病院がDPC対象病院であるかどうかにより算定方法が異なり、医療機関の事務負担が増大しています。中医協では、病院がDPC対象病院であるかどうかにかかわらず、短期滞在手術等基本料3を算定するよう見直すことが検討されています。算定方法を統一することで、医療機関の事務処理が簡素化されます。患者にとっても、医療機関の種別によらず同じ評価体系で診療を受けられるため、わかりやすい制度になります。この統一化により、医療機関は診療報酬の算定業務に要する時間を削減できます。削減された時間を患者ケアの質向上に振り向けることが可能になります。短期滞在手術等基本料1の評価適正化短期滞在手術等基本料1については、令和4年度診療報酬改定において施設基準等の見直しを行った結果、特に診療所での算定回数が著しく増加しました。短期滞在手術等基本料1は検査料等を包括した点数として設定されています。短期滞在手術等基本料1を算定する場合と算定しない場合の手術実施月の総請求点数の差は、短期滞在手術等基本料1の点数と同程度でした。短期滞在手術等基本料1が一部検査料等を包括して評価している一方で、包括評価による効率化の効果は限定的でした。中医協では、手術実施月の点数の差等を踏まえ、診療の実態に見合った評価とすることが検討されています。評価を適正化することで、包括評価の本来の目的である医療の効率化を実現します。医療機関にとっては、適切な診療報酬を得ながら質の高い医療を提供できる環境が整います。入院実施の臨床的背景と今後の課題内視鏡的大腸ポリープ切除術と水晶体再建術を原則外来で実施している医療機関が入院で実施する理由として、「臨床上、入院での周術期管理を行う必要性が高いため」が最多でした。具体的には、前者については出血リスクの高い症例等が、後者については全身麻酔を行う必要性が高い症例等が挙げられました。水晶体再建術を全身麻酔で実施する理由としては、「臨床上、局所麻酔での実施が困難であるため」が最多でした。具体的な理由としては「認知症により安静を保つことが困難」といった回答が多くみられました。今回の見直しは、こうした臨床的必要性を否定するものではありません。臨床的必要性が高い症例では引き続き入院での対応が可能です。一方、臨床的必要性が乏しいにもかかわらず点数差により入院を選択している症例については、外来への移行を促します。医療機関は、個々の患者の状態を適切に評価し、最適な診療形態を選択することが求められます。まとめ中医協が提案する短期滞在手術の外来移行促進策は、入院・外来の点数差縮小、算定方法の統一化、評価の適正化という3つの柱で構成されています。これらの見直しにより、医療資源の効率的活用と患者の利便性向上が期待されます。医療機関は臨床的必要性に基づいて入院・外来を適切に選択し、質の高い医療を提供することが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
入院時の光熱水費398円、18年ぶりの見直し検討へ【中医協総会速報】
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会(第625回)において、入院時の光熱水費の見直しが議論されました。現行の基準額398円は平成18年の制度創設時から据え置かれています。近年の光熱・水道費の高騰により病院経営が圧迫されている状況があります。令和6年8月施行の介護報酬改定で介護保険の居住費が引き上げられ、医療保険との間に自己負担の差が生じています。今回の議論は、基準額の見直しの必要性を検討することを目的としています。今回の議論では4つの重要なポイントが示されました。第一に、現行制度では療養病床に入院する65歳以上の者について1日当たり総額398円(自己負担370円、保険給付28円)が設定されています。第二に、平成18年以降、基準額が一度も改定されていない中で光熱・水道費が大きく高騰しています。第三に、令和6年8月施行の介護報酬改定では多床室の居住費が60円引き上げられ、医療保険との間に自己負担の差が生じています。第四に、家計における光熱・水道支出を勘案した基準額の見直しが論点となっています。入院時の光熱水費制度の現状入院時の光熱水費は、療養病床に入院する患者と一般病床に入院する患者で評価方法が異なります。療養病床に入院する65歳以上の者については、入院時生活療養費として1日当たりの総額と自己負担を国が定めています。一般所得者の場合、総額398円のうち自己負担が370円、保険給付が28円です。一般病床、精神病床、療養病床に入院する65歳未満の者については、光熱水費を入院料中で評価しています。この制度は、介護保険との均衡を図る観点から平成18年10月に創設されました。介護保険では平成17年10月より、介護病床を含む介護保険3施設における食費および居住費が原則として保険給付外とされました。この改定に伴い、同じ「住まい」としての機能を有する介護病床(介護保険)と療養病床(医療保険)の患者負担の均衡を図るため、入院時生活療養費が創設されました。制度創設時の基準額は総額398円(自己負担320円)でした。平成29年10月には、介護保険の居住費に係る基準費用額を勘案し、基準額(総額)を維持した上で自己負担額を50円引き上げ、370円としました。光熱水費を巡る現在の課題現行制度には3つの課題が指摘されています。第一の課題は、基準額の長期据え置きです。入院時生活療養費の光熱水費の基準額(総額)398円は、平成18年の創設時から据え置かれています。この間、光熱・水道費は大きく高騰しました。基準額が据え置かれていることが、病院経営に少なからず影響を及ぼしている状況です。第二の課題は、介護保険との負担差の拡大です。介護保険では、令和6年8月施行の介護報酬改定において対応が行われました。家計調査によると、高齢者世帯の光熱・水道費は令和元年調査に比べて上昇しています。この状況を踏まえ、介護保険では在宅で生活する者との負担の均衡を図る観点から、基準費用額(居住費)を60円引き上げました。この結果、介護保険の居住費の自己負担(430円)と医療保険の光熱水費の自己負担(370円)の間で、60円の差が存在しています。第三の課題は、医療機関の経営環境の悪化です。昨今の光熱・水道費は特に足下で大きく高騰しています。基準額が据え置かれている中での費用増加は、医療機関の経営を圧迫する要因となっています。療養病床を有する病院にとって、光熱水費の実費と基準額との乖離が経営課題となっています。今後の検討の方向性今回の中医協総会では、基準額見直しに向けた論点が示されました。論点は、近年の光熱・水道費の高騰を踏まえた対応を行う観点から、基準額の見直しについてどのように考えるかというものです。具体的には、家計における光熱・水道支出を勘案して行われた令和6年8月施行の介護報酬改定による多床室の居住費の基準費用額の引上げを踏まえた検討が求められています。検討にあたっては、複数の要素を総合的に勘案することが必要です。第一に、家計調査における高齢者世帯の光熱・水道費の動向です。令和4年の家計調査によれば、高齢者世帯の光熱・水道費は令和元年調査に比べて上昇しています。第二に、介護保険との整合性です。医療保険と介護保険は同じ社会保障制度の中で、患者・利用者の負担の均衡を図る必要があります。第三に、病院経営への影響です。療養病床を有する医療機関の経営実態を踏まえた検討が求められています。今後の診療報酬改定に向けて、これらの論点について議論が深められることが予想されます。基準額の見直しは、患者負担と病院経営の両面に影響を与える重要な課題です。中医協での議論を注視していく必要があります。まとめ中央社会保険医療協議会総会において、入院時の光熱水費の基準額見直しが議論されました。平成18年の制度創設以来据え置かれてきた基準額398円について、近年の光熱・水道費の高騰と令和6年8月施行の介護報酬改定を踏まえた対応が検討されています。家計における光熱・水道支出、介護保険との整合性、病院経営への影響を総合的に勘案した見直しが論点となっており、今後の診療報酬改定に向けた議論の動向が注目されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定に向けた議論:入院時の食費制度の現状と課題を中医協資料から読み解く
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会第625回では、入院時の食費・光熱水費について議論されました。令和7年4月に実施された食費基準額の引き上げを振り返るとともに、令和8年度診療報酬改定に向けた検討が行われています。食材費の高騰が続く中、医療機関が提供する食事の質を確保する観点から、1食あたり20円の引き上げが実施され、基準額は690円となりました。入院時の食費は医療の一環として提供されるものです。令和7年4月改定により、一般所得者の患者負担は1食510円、住民税非課税世帯は240円、低所得高齢者は110円に据え置かれました。医療機関は入院時食事療養(Ⅰ)または(Ⅱ)を選択でき、(Ⅰ)を届け出た場合は特別食加算や食堂加算を算定できます。特別食加算は1食76円で腎臓食や糖尿食などの疾病治療に必要な食事に適用され、現在32.5%の算定率となっています。入院時の食費制度の基本的な仕組み入院時に必要な食費は国が定めた仕組みで運用されています。この仕組みは、1食あたりの総額を「食事療養基準額」として設定し、患者が負担する「標準負担額」との差額を保険給付として支給するものです。入院時食事療養費は、保険給付額が食事療養基準額から標準負担額を差し引いた金額として計算されます。この制度は入院患者の年齢と病床の種類により区分されています。一般病床、精神病床、療養病床に入院する65歳未満の患者には入院時食事療養費が適用されます。一方、療養病床に入院する65歳以上の患者には、入院時生活療養費の食費部分として評価されます。療養病床の入院患者は食費に加えて居住費も負担することが特徴です。入院患者に提供される食事は医療の一環として位置づけられています。各患者の病状に応じて必要な栄養量が提供され、食事の質の向上と患者サービスの改善が求められます。管理栄養士や栄養士による専門的な栄養管理のもとで、医師との連携により個別的な医学的・栄養学的管理が行われています。令和7年4月に実施された食費基準額引き上げの内容食材費の継続的な高騰を受けて、令和7年4月に入院時の食費基準額が1食あたり20円引き上げられました。この引き上げは、令和6年6月に実施された30円の引き上げに続くもので、医療機関が質の高い食事を提供し続けるための措置です。基準額は670円から690円へと引き上げられ、医療機関の経営安定化が図られました。患者負担額は所得区分に応じて異なる設定となりました。一般所得者の自己負担は490円から510円へと20円引き上げられました。住民税非課税世帯の患者負担は230円から240円へと10円の引き上げにとどめられ、所得への配慮がなされました。住民税非課税世帯かつ所得が一定基準に満たない70歳以上の患者については、110円に据え置かれ、低所得高齢者への負担増加が回避されました。保険給付額は基準額と患者負担額の差額として自動的に調整されます。一般所得者の保険給付は180円、住民税非課税世帯では450円、低所得高齢者では580円となります。この仕組みにより、所得が低い患者ほど保険給付の割合が高くなり、医療へのアクセスが確保されています。入院時食事療養(Ⅰ)と(Ⅱ)の評価体系入院時食事療養には(Ⅰ)と(Ⅱ)の2つの区分があります。入院時食事療養(Ⅰ)は1食690円で評価され、届出を行った医療機関が算定できます。この区分では流動食のみを提供する場合は625円となります。入院時食事療養(Ⅱ)は届出が不要で、1食556円で算定されます。流動食のみの場合は510円です。入院時食事療養(Ⅰ)を届け出るには一定の要件を満たす必要があります。常勤の管理栄養士または栄養士が食事療養の責任者となることが求められます。医師、管理栄養士または栄養士による検食が毎食行われることも必須要件です。食事療養関係の各種帳簿の整備、病状により特別食を必要とする患者への特別食の提供、適時の食事提供、保温食器等を用いた適温の食事提供などが義務づけられています。令和6年時点で7,761施設が入院時食事療養(Ⅰ)を届け出ています。これらの医療機関では、質の高い食事療養を提供する体制が整備されています。多くの病院がこの基準を満たすことで、入院患者に適切な栄養管理と食事サービスが提供されています。特別食加算と食堂加算の算定要件特別食加算は疾病治療の直接手段として提供される食事に対する評価です。この加算は1食につき76円で、1日3食を限度として算定できます。医師が発行する食事箋に基づき、腎臓食、肝臓食、糖尿食、胃潰瘍食、貧血食、膵臓食、脂質異常症食、痛風食などの特別食が提供された場合に適用されます。令和6年の社会医療診療行為別統計では、入院時食事療養(Ⅰ)において32.5%の算定率となっています。特別食加算が適用される食事は厚生労働大臣が定めた基準を満たす必要があります。てんかん食、フェニールケトン尿症食、楓糖尿症食、ホモシスチン尿症食、ガラクトース血症食、治療乳、無菌食、特別な場合の検査食も対象です。単なる流動食や軟食は対象外となります。流動食のみを提供する患者には特別食加算を算定できません。食堂加算は入院患者の食事環境を評価する加算です。一定基準を満たす食堂を備えた病棟または診療所において、入院患者に食事が提供された場合に1日につき50円を算定できます。この加算は療養病棟に入院している患者を除くすべての入院患者が対象となります。食堂の設置や食器への配慮など、食事の提供を行う環境の整備が求められています。特別メニューの食事提供と患者負担入院患者に提供される食事に関する多様なニーズに対応するため、特別メニューの食事を提供することができます。患者から特別の料金の支払を受ける特別メニューの食事を別に用意し、一定の要件を満たした場合に妥当な範囲内の患者負担を求めることが認められています。複数メニューの選択では、1食あたり17円を標準とした社会的に妥当な額の支払を受けることができます。特別メニューの食事提供では患者への十分な情報提供が必須です。患者の自由な選択と同意に基づいて提供する必要があり、患者の意に反した提供は禁止されています。患者の同意がない場合は標準食を提供しなければなりません。各病棟内等の見やすい場所に特別メニューの食事のメニューおよび料金を掲示し、文書を交付してわかりやすく説明することが求められます。特別メニューの食事は通常の入院時食事療養の費用では提供が困難な内容でなければなりません。高価な材料を使用し特別な調理を行う場合や、標準食の材料と同程度の価格でも異なる材料を用いるため別途費用がかかる場合が該当します。当該患者の療養上支障がないことについて、診療を担う保険医の確認を得る必要があります。医療機関は特別メニューの食事を提供することにより、それ以外の食事の内容および質を損なうことがないように配慮しなければなりません。まとめ入院時の食費制度は食材費の高騰に対応しながら、医療の質を維持し、低所得者への配慮を両立させる仕組みです。令和7年4月に実施された基準額引き上げにより、一般所得者の患者負担は1食510円、住民税非課税世帯は240円、低所得高齢者は110円に据え置かれ、所得区分に応じた負担設定となりました。医療機関は入院時食事療養(Ⅰ)を届け出ることで、特別食加算や食堂加算を算定でき、質の高い食事療養を提供する体制が評価されています。中医協では令和8年度診療報酬改定に向けて、この制度の効果検証と今後の方向性について議論が続けられています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
中医協第625回で議論されたオンライン診療の評価見直し:3つの診療形態と個別課題を解説
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会第625回において、情報通信機器を用いた診療についての議論が行われました。本議論では、オンライン診療の適正な推進と評価拡大を目的として、3つの診療形態における現状課題と今後の方向性が示されました。今回の議論の要点は、第一にD to P(医師対患者)における適正推進のための評価のあり方、第二にD to P with D(患者が医師といる場合)の対象拡大と評価見直し、第三にD to P with N(患者が看護師等といる場合)の評価明確化、第四に外来栄養食事指導料等の個別事項についての制度改善です。D to P:オンライン診療の適正推進に向けた課題と対応D to Pは医師と患者が情報通信機器を用いて直接診療を行う形態です。この形態では、患者側に医療従事者が同席せず、医師が初診料・再診料・外来診療料、各種医学管理料を算定できます。情報通信機器を用いた診療に係る報告書によると、「自身では対応困難な疾患・病態の患者や緊急性がある場合」として他の医療機関へ紹介を実施した割合は、患者の所在が医療機関と同一の場合で0.49%、患者の所在が医療機関と異なる場合で0.59%でした。この結果から、緊急時や対応困難な症例における他医療機関との連携体制に課題があることが明らかになりました。具体的には、事前合意なく患者に他医療機関への受診を指示していた事例や、医師が国外から診療を実施した事例が報告されています。オンライン診療の適切な実施に関する指針や医療広告ガイドラインを遵守していない事例も確認されました。これらの課題を踏まえ、中医協では直接の対面診療を行える体制の整備状況について、施設基準の更なる明確化を検討する方針が示されました。D to P with D:遠隔連携診療の対象拡大と評価見直しD to P with Dは患者が医師といる場合にオンライン診療を行う形態です。現在の診療報酬では、遠隔連携診療料として、難病患者及びてんかん患者に対する専門医との連携が評価されています。遠隔連携診療料は令和2年度に新設されて以降、算定回数は限られています。令和6年度入院・外来医療等における実態調査によると、過去1年間にD to P with Dによるオンライン診療を実施した医療機関は1.0%(3,546施設中37施設)でした。遠隔連携診療料を算定できる状況以外でも、医療的ケア児との連携が26.9%、訪問診療における眼科・皮膚科・耳鼻科等の専門医との連携が15.4%の施設で実施されていました。D to P with D型やD to D型の遠隔医療については、緊急性が高い状況や専門の医師による対面診療が困難な状況下において、有用性が高いことが考えられます。オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針における遠隔医療に期待される役割を踏まえ、中医協ではD to P with D型及びD to D型の遠隔医療の診療報酬上の評価を一定の考え方を踏まえて検討する方針が示されました。皮膚科領域における活用事例として、日本臨床皮膚科医会及び日本看護協会が実施した調査結果が示されました。この調査では、訪問看護を利用する566名の在宅療養者のうち399名(70.5%)が何らかの皮膚疾患を有していました。そのうち114名(28.1%)が未治療であり、理由として「近くに往診する皮膚科医がいない」「皮膚科は往診しないと思っていた」等が挙げられています。このような地域における皮膚科医療へのニーズに対応するため、オンライン診療の活用により皮膚科の専門的医療へのアクセスを改善することが有益であると考えられます。D to P with N:看護師等遠隔診療補助の評価明確化D to P with Nは患者が看護師等といる場合にオンライン診療を行う形態です。令和6年度診療報酬改定では、へき地診療所及びへき地医療拠点病院において、適切な研修を修了した医師がD to P with Nを実施できる体制を確保している場合の評価として、看護師等遠隔診療補助加算(50点)が新設されました。規制改革実行計画(令和7年6月13日閣議決定)において、D to P with Nにおける診療報酬の算定方法に不明確な部分があるとの指摘がありました。D to P with Nとして想定される診療形態には、看護師等の所属や定期的な訪問の有無等の違いがあります。訪問看護については介護保険との整理に留意が必要です。令和7年度厚生労働科学特別研究事業の調査によると、D to P with Nで実際に実施している診療の補助行為として、検査では採血、咽頭拭い液を用いた検査、尿検査、心電図等が挙げられました。処置・注射としては点滴注射、創傷処置、皮膚科軟膏処置等が挙げられました。中医協では、看護師等の所属や定期的な訪問時に行われるか等の看護の提供形態の違いを踏まえて、看護師の訪問に係る評価を明確化する方針が示されました。個別事項:外来栄養食事指導料の評価明確化外来栄養食事指導料については、令和2年度から初回の情報通信機器等の活用が評価され、令和4年度からは2回目以降も算定可能となっています。しかし、算定回数は極めて少なく、規制改革実施計画において、オンライン診療の特性を十分に活かした活用が進まない算定要件となっていると指摘されています。外来栄養食事指導料は、管理栄養士が医師の指示に基づき、初回は概ね30分以上、2回目以降は概ね20分以上の栄養指導を行った場合に算定できます。情報通信機器等を用いる場合の要件として、事前に対面による指導と情報通信機器等による指導を組み合わせた指導計画を作成することが求められています。中医協では、情報通信機器を活用した外来栄養食事指導料の推進の観点から、オンラインのみでの実施も可能であることの明確化や、電話と情報通信機器を同様としている取扱いについて検討する方針が示されました。この見直しにより、栄養指導におけるオンライン診療の活用が進むことが期待されます。まとめ:遠隔医療の推進に向けた評価見直しの方向性中医協第625回総会では、情報通信機器を用いた診療について、D to P、D to P with D、D to P with Nの3つの診療形態と個別事項における現状課題と今後の方向性が議論されました。今後の診療報酬改定では、オンライン診療の適正推進と評価拡大により、地域医療における専門医へのアクセス改善や、へき地医療における医療提供体制の充実が期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
療養・就労両立支援指導料の見直し:算定率0%の現状から考える制度改善の方向性
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会において、療養・就労両立支援指導料の見直しが議論されました。この指導料は平成30年度に新設されましたが、算定回数が極めて低調な状況が続いています。中医協は、がん診療連携拠点病院等における算定率が0%という実態調査結果を踏まえ、制度の抜本的な見直しを論点として提示しました。今回の議論では、対象疾患の限定撤廃と算定期間の延長という2つの主要論点が示されました。対象疾患については、現在は悪性新生物、脳梗塞や脳出血などの急性発症した脳血管疾患、慢性肝疾患、心疾患、糖尿病、若年性認知症、指定難病その他これに準ずる疾患に限定されていることが、両立支援を必要とする多くの患者を排除している問題があります。算定期間については、初回から3月以内という制限が実態と乖離しており、実際の平均指導期間は6.8ヶ月となっています。これらの課題解決に向けた制度改善が、次期診療報酬改定での重要な検討事項となります。療養・就労両立支援指導料の制度概要と算定実績療養・就労両立支援指導料は、就労中の患者の療養と就労の両立を支援するため、平成30年度診療報酬改定で新設された評価項目です。この指導料の算定要件は、患者と事業者が共同作成した勤務情報を踏まえた療養指導の実施、患者の事業場の産業医等への情報提供、情報提供後の勤務環境変化を踏まえた継続的な療養指導という3つの要素から構成されています。初回算定で800点、2回目以降は初回算定月またはその翌月から起算して3月を限度として400点を算定できます。この指導料の算定回数は、新設以降増加傾向にあるものの極めて低調な水準です。令和6年8月審査分のデータによると、初回算定が116回、2回目以降の算定が89回にとどまっています。相談支援加算の届出医療機関数は965施設(病院457施設、診療所508施設)まで増加しましたが、算定回数は月31回と、届出施設数に対して著しく少ない状況が続いています。この乖離は、制度を整備しても実際の運用段階で多くの課題が存在することを示しています。がん診療連携拠点病院等を対象とした実態調査では、令和6年8月から10月の期間に療養・就労両立支援指導料を算定した施設は0%でした。算定しない理由として、専門職員の確保困難が52.6%で最も多く、就労上の留意点指導が困難が28.9%、患者から勤務情報を受け取ることが困難が26.3%と続きました。これらの結果は、制度設計と現場の実態が大きく乖離していることを明確に示しています。対象疾患の限定がもたらす課題現行制度における対象疾患は、悪性新生物、脳梗塞や脳出血などの急性発症した脳血管疾患、慢性肝疾患、心疾患、糖尿病、若年性認知症、指定難病その他これに準ずる疾患に限定されています。この限定は平成30年の制度新設時から段階的に拡大されてきましたが、就労の状況を考慮した療養指導を必要とする患者はこれらの疾患に限られていません。両立支援コーディネーター基礎研修修了者へのフォローアップ調査によると、実際に両立支援に携わった疾患は、がんが24%で最も多いものの、うつ病などのこころの病気が21%と高い割合を占めています。この調査結果は、現行の対象疾患では精神疾患が含まれていないという重要な課題を浮き彫りにしています。脳卒中が12%、指定難病が11%、糖尿病が9%、心疾患が9%、骨折などの外傷が7%という結果を見ると、対象疾患に含まれない疾患でも相当数の両立支援ニーズが存在することがわかります。特に精神疾患については、厚生労働省が令和7年3月に「メンタルヘルス不調者の主治医向け支援マニュアル」を作成しており、両立支援の枠組みが整備されつつあります。厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の参考資料として、主な疾患の留意事項を作成しています。がん、難病、肝疾患、脳血管疾患、心疾患、糖尿病については既に留意事項が整備されており、令和7年10月には慢性腎臓病の手引きも作成されました。これらの疾患別ガイドラインの整備状況を考慮すると、対象疾患の限定を見直し、より幅広い疾患を対象とすることが妥当と考えられます。算定期間の制限と実態の乖離現行制度では、2回目以降の指導について初回算定日の属する月またはその翌月から起算して3月を限度としています。この期間制限は、令和2年度診療報酬改定で2回目以降の評価が新設された際に設定されたものです。制度新設当初は初回のみの評価でしたが、診療情報提供後の勤務環境変化を踏まえた継続的な指導の重要性が認識され、2回目以降の評価が追加されました。入院・外来医療等における実態調査によると、算定期間の要件を満たさなかったため算定できなかった事例の平均指導期間は6.8ヶ月でした。この結果は、実際の両立支援では3月を超える継続的な指導が必要とされていることを示しています。疾患の治療経過や職場復帰のプロセスを考慮すると、3月という期間は実態に合っていない可能性があります。特に、治療の副作用が長期にわたる場合や、段階的な職場復帰を支援する場合には、より長期の指導期間が必要となります。両立支援の実務においては、初回の勤務情報提供と主治医意見書の作成だけでなく、その後の勤務環境の調整状況の確認、治療計画の変更に伴う就労上の配慮事項の見直し、患者の心理的支援など、多岐にわたる継続的なサポートが求められています。厚生労働省の両立支援ガイドラインでも、企業、労働者、主治医、産業医等の連携による継続的な支援プロセスが示されており、3月という期間制限はこの支援プロセスの実態と整合していません。専門職員確保の困難性と施設基準の課題療養・就労両立支援指導料の算定には、就労上の留意点に係る指導を医師または医師の指示を受けた看護師、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師が行う必要があります。相談支援加算を算定する場合には、これらの専門職を専任で配置し、かつ厚生労働省の定める両立支援コーディネーター養成研修を修了していることが求められます。がん診療連携拠点病院等の実態調査では、専門職員の確保困難が算定しない理由の52.6%を占め、最大の課題となっています。この専門職員確保の困難性には、複数の要因が存在します。両立支援コーディネーター養成研修の受講機会が限られていること、専任配置の要件が厳しいこと、そもそも看護師や社会福祉士等の専門職が不足していることなどが挙げられます。特に、患者サポート体制充実加算との兼任が認められているとはいえ、実際には両立支援業務に専念できる職員を確保することが困難な医療機関が多くあります。就労上の留意点に係る指導が困難という回答が28.9%を占めたことも、重要な課題を示しています。両立支援には、医学的知識に加えて労働法規や産業保健の知識、企業との調整能力など、多様な専門性が求められます。現場の医療従事者がこれらの知識やスキルを習得し、実践することは容易ではありません。厚生労働省は各疾患のマニュアルを整備していますが、これらを効果的に活用するための研修体制の充実が必要です。患者からの勤務情報入手の課題患者から勤務情報を記載した文書を受け取ることが困難という回答が26.3%を占めたことは、両立支援の入口段階での課題を示しています。療養・就労両立支援指導料の算定には、患者と事業者が共同して作成した勤務情報を記載した文書が必要です。この文書には、現在の勤務状況、就業上の配慮が必要な事項、事業者の確認などが含まれ、両立支援の基礎となる重要な情報が記載されます。患者が勤務情報を医療機関に提出できない理由として、職場に病気を開示していないケース、企業側の協力が得られないケース、患者自身が両立支援制度を知らないケースなどが考えられます。厚生労働省は「治療と仕事の両立支援カード」を作成し、従来の勤務情報提供書よりも簡便な手続きで両立支援を進められる仕組みを整備しました。このカードは、患者が配慮を受けたいという意思表示をすることから始まり、企業の産業医等または人事労務担当者等の確認を経て主治医に提出される流れとなっています。両立支援を推進するためには、医療機関だけでなく企業側の理解と協力が不可欠です。厚生労働省は、都道府県の産業保健総合支援センターによる企業支援、地域両立支援推進チームの設置、ポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」による情報発信など、多面的な取組を進めています。これらの取組により、企業側の両立支援に対する理解が深まり、患者が勤務情報を提出しやすい環境が整備されることが期待されます。中医協が示した見直しの論点中医協は、療養・就労両立支援指導料について2つの主要な論点を提示しました。第一の論点は、指導に至るプロセスや対象疾患の限定を見直すことです。現行制度では対象疾患が7疾患に限定されていますが、就労の状況を考慮した療養指導を必要とする患者はこれらの疾病に限られていません。患者に関する勤務情報が事業者の確認を受けた上で医療機関に提供されることや、就業の継続に配慮が必要な患者が対象となることなどを前提として、療養と就労の両立支援をさらに推進する観点から見直しを検討するとしています。第二の論点は、2回目以降指導の算定上限の見直しです。実態調査では、算定期間の要件である3月以上の期間にわたって指導が継続されている実態が明らかになりました。平均指導期間が6.8ヶ月という結果は、現行の3月という算定上限が実態と大きく乖離していることを示しています。継続的な両立支援の重要性を考慮すると、算定上限の延長は妥当な方向性といえます。これらの論点は、療養・就労両立支援制度を実効性のあるものにするための重要な見直しです。対象疾患の拡大により、精神疾患や慢性腎臓病、骨折などの外傷など、現在対象外となっている疾患の患者も制度を利用できるようになります。算定期間の延長により、治療の長期化や段階的な職場復帰に対応した継続的な支援が可能となります。これらの見直しにより、制度の利用促進と両立支援の質の向上が期待されます。まとめ療養・就労両立支援指導料は、治療と仕事の両立という重要な社会課題に対応する制度として平成30年度に新設されましたが、算定実績が極めて低調な状況が続いています。中医協が示した実態調査結果は、専門職員の確保困難、就労上の留意点指導の困難性、患者からの勤務情報入手の困難性という3つの主要な課題を明らかにしました。これらの課題は、制度設計と現場の実態が乖離していることを示しており、抜本的な見直しが必要です。中医協が提示した2つの論点、すなわち対象疾患の限定見直しと算定期間の延長は、制度を実効性のあるものにするための重要な方向性です。対象疾患の拡大により、現在制度の対象外となっている精神疾患などの患者も両立支援を受けられるようになり、算定期間の延長により実態に即した継続的な支援が可能となります。次期診療報酬改定において、これらの論点がどのように具体化されるか、注目が集まっています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和6年度診療報酬改定の総括:外来診療評価の5つの重要改定ポイント
令和7年7月16日に開催された中央社会保険医療協議会総会第612回では、外来診療に係る診療報酬上の評価について重要な議論が行われました。高齢化の進展と生産年齢人口の減少を背景に、外来医療提供体制の再構築が急務となっています。今回の議論では5つの重点テーマが設定されました。初・再診料等の基本診療料の評価、令和7年4月施行のかかりつけ医機能報告制度を踏まえた評価体系、令和6年度改定で大幅に見直された生活習慣病管理の評価、特定機能病院等における外来機能分化の推進、そして情報通信機器を用いた診療の適切な推進です。本稿では、これら5つのテーマについて診療報酬上の評価の現状と今後の方向性を詳しく解説します。初・再診料等の評価:病診機能分化を促進する基本診療料体系初・再診料は外来診療の基本となる診療報酬であり、医療機関の機能分化を促進する重要な役割を担っています。令和6年度現在、初診料は診療所291点、病院216点と設定されています。この評価は、診療所が地域における日常的な医療を担い、病院が専門的・入院医療を担うという機能分化を反映したものです。平成24年度改定以降、病院と診療所で異なる評価体系が維持され、外来医療における役割分担が明確化されてきました。再診料と外来管理加算の評価体系も同様の考え方に基づいています。再診料は診療所75点、病院76点となっており、外来管理加算は73点です。外来管理加算は、処置やリハビリテーションを行わずに計画的な医学管理を行った場合に算定できる評価です。特定機能病院や大規模病院においては、紹介割合・逆紹介割合による減算規定が設けられています。令和4年度改定では紹介受診重点医療機関が追加され、一般病床200床以上の医療機関が対象となりました。この仕組みにより、高度専門医療を担う医療機関への患者集中を防ぎ、地域の診療所との連携を促進しています。令和6年度の調査では、対象病院における紹介割合・逆紹介割合は令和5年度と比較して不変またはやや増加しており、制度が一定の効果を上げていることが確認されています。かかりつけ医機能の評価:報告制度施行を見据えた体制整備の推進かかりつけ医機能の評価は、地域包括ケアシステムの構築において中核的な役割を果たしています。令和7年4月から医療法に基づく「かかりつけ医機能報告制度」が施行されます。この制度は、各医療機関が担うかかりつけ医機能の内容を都道府県に報告し、国民・患者への情報提供を強化するものです。診療報酬においても、この制度整備を踏まえた評価体系の見直しが議論されています。現行の診療報酬では、機能強化加算と地域包括診療料・加算がかかりつけ医機能を評価する中心的な項目です。機能強化加算は初診時に80点を算定でき、地域包括診療料・加算、小児かかりつけ診療料、在宅時医学総合管理料等の届出を要件としています。この加算は、服薬管理、専門医療機関への紹介、健康管理に係る相談、時間外診療に関する情報提供等を評価するものです。令和3年までは届出医療機関数が増加傾向でしたが、近年は横ばいとなっています。地域包括診療料・加算は、複数の慢性疾患を有する患者に対して継続的かつ全人的な医療を提供することを評価します。対象疾患は高血圧症、糖尿病、脂質異常症、慢性心不全、慢性腎臓病、認知症の6疾病のうち2つ以上です。地域包括診療料1は1,660点、地域包括診療料2は1,600点で月1回算定できます。地域包括診療加算1は28点、加算2は21点で1回につき算定可能です。これらの評価には、24時間対応体制の整備、在宅医療の提供、介護保険制度との連携など、包括的な要件が設定されています。小児かかりつけ診療料は、継続的に受診する未就学児に対して包括的な小児医療を提供する体制を評価するものです。処方箋を交付する場合の初診時652点、再診時458点など、小児の特性に配慮した評価体系が設けられています。生活習慣病管理の評価:検査包括型と非包括型の二本立て体系令和6年度診療報酬改定では、生活習慣病管理の評価が大幅に見直されました。最も重要な変更は、生活習慣病管理料が生活習慣病管理料(Ⅰ)と生活習慣病管理料(Ⅱ)の二本立てとなったことです。生活習慣病管理料(Ⅰ)は検査等を包括する従来型の評価で、脂質異常症610点、高血圧症660点、糖尿病760点となっています。新設された生活習慣病管理料(Ⅱ)は検査等を包括せず333点で、医療機関が患者の状態に応じて柔軟に選択できる仕組みです。この改定に伴い、特定疾患療養管理料の対象疾患から糖尿病、脂質異常症、高血圧が除外されました。その結果、特定疾患療養管理料の算定回数は令和4年の約2,632万回から令和6年には約1,021万回へと大幅に減少しました。一方、生活習慣病管理料の算定回数は約31万回から約1,392万回へと大幅に増加しています。算定医療機関数も、生活習慣病管理料では約3,550施設から約6万351施設へと大幅に増加しました。主傷病名が糖尿病、高血圧症、脂質異常症である外来患者の算定状況を見ると、令和4年では外来管理加算が最も多く算定されていましたが、令和6年では生活習慣病管理料(Ⅱ)が最多となっています。この変化は、新たな評価体系が医療現場に浸透していることを示しています。生活習慣病管理料の要件も簡素化されました。療養計画書の記載項目が整理され、令和7年から運用開始される電子カルテ情報共有サービスを活用する場合は血液検査項目の記載が不要となりました。また、月1回以上の総合的な治療管理を行う要件が廃止され、医療機関の負担軽減が図られています。一方で、多職種との連携が望ましい要件として追加され、糖尿病患者への歯科受診推奨が明確化されるなど、包括的な疾病管理の重要性が強調されています。外来機能分化の推進:紹介・逆紹介による医療連携の強化外来機能の分化は、医療資源の効率的配分と患者の適切な医療機関選択を実現するための重要な政策です。病院の1日平均外来患者数は長期的に減少傾向にあります。紹介なしで外来受診した患者の割合も減少しており、令和5年は特定機能病院で34.1%、地域医療支援病院で58.5%となっています。これらのデータは、医療機関間の機能分化と連携が徐々に進展していることを示しています。紹介割合・逆紹介割合による初診料・外来診療料の減算規定は、外来機能分化を推進する主要な仕組みです。対象となる医療機関は、特定機能病院、地域医療支援病院(一般病床200床以上)、紹介受診重点医療機関(一般病床200床以上)、許可病床400床以上の病院(一般病床200床以上)です。令和6年度の調査では、これらの医療機関における紹介割合・逆紹介割合は令和5年度と比較して不変またはやや増加していました。減算規定の対象病院における再診患者の約6割以上は2年以内に初診料の算定がない患者であり、平均して8割程度の患者が直近6か月以内に再診を受けています。外来診療料を算定した患者の主傷病名を見ると、特定機能病院では悪性腫瘍が約18%、指定難病が約4%、小児慢性特定疾病が約16%を占めています。これらのデータは、継続的な専門医療を必要とする患者が一定数存在することを示しています。医療機関間の連携を促進する評価として、診療情報提供料(Ⅰ)、診療情報提供料(Ⅱ)、連携強化診療情報提供料が設けられています。診療情報提供料の算定回数は令和2年に低下しましたが、令和3年以降は増加しています。特に連携強化診療情報提供料は令和6年に算定回数が大きく増加しており、医療機関間の情報連携が強化されていることがうかがえます。逆紹介を行う上での課題として、治療管理上の不安を持つ患者の理解を得ることの困難さや、複数科を受診している患者の診療科間調整の難しさが挙げられています。いわゆる「2人主治医制」など、病院の専門医師と地域のかかりつけ医師が連携しながら共同で継続的に治療管理を行う取組も一部で実施されており、今後の展開が注目されます。情報通信機器を用いた診療の評価:オンライン診療の適切な推進令和4年度診療報酬改定では、オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しを踏まえ、情報通信機器を用いた診療の評価が大幅に見直されました。情報通信機器を用いた初診料は251点、再診料は73点、外来診療料は73点と設定されています。初診料の点数水準は、対面診療の初診料288点と新型コロナウイルス感染症の時限的・特例的対応の214点の中間程度に設定されました。この水準設定は、オンライン診療では触診・打診・聴診等が実施できない一方で、オンライン診療のみで診療を終え得ることや、国民にオンラインでも適切に診療を届けていくことの重要性を勘案したものです。情報通信機器を用いた診療の届出医療機関数は増加傾向にあり、初・再診料等の算定回数も令和5年4月以降増加しています。令和5年における情報通信機器を用いた初診料等の算定回数は初・再診料等全体の0.063%を占めています。年齢階級別では、対面診療と比較して若年者の算定割合が高く、再診料・外来診療料では年齢構成に地域差が見られます。オンライン診療の算定要件では、オンライン診療の適切な実施に関する指針に沿った診療の実施が求められています。保険医療機関においては対面診療を提供できる体制を有すること、患者の状況によって対応が困難な場合には他の医療機関と連携して対応できる体制を有することが要件となっています。医療機関と患者との間の時間・距離要件や、オンライン診療の実施割合の上限については要件として設定されていません。遠隔連携診療料(D to P with D)は令和2年度に新設されましたが、算定回数は限られています。過去1年間にD to P with Dによるオンライン診療を実施した医療機関は1.0%にとどまっています。しかし、医療的ケア児に対する診療や訪問診療における眼科・皮膚科・耳鼻科等の専門医との連携など、遠隔連携診療料を算定できる状況以外でも連携事例が見られます。令和6年度診療報酬改定では看護師等遠隔診療補助加算(D to P with N)が新設されました。届出医療機関数は令和7年4月1日時点で78施設、研修受講者は合計約4,000名程度となっています。規制改革実行計画では、D to P with Nにおける診療報酬の算定方法に不明確な部分があるとの指摘があり、今後の明確化が期待されています。まとめ:外来医療提供体制の再構築に向けて中医協総会第612回で議論された外来診療に係る診療報酬上の評価は、今後の外来医療提供体制の方向性を示す重要な内容でした。初・再診料等による医療機関の機能分化、かかりつけ医機能報告制度を踏まえた評価体系の整備、生活習慣病管理の効率化と充実、特定機能病院等における外来機能分化の推進、オンライン診療の適切な推進という5つのテーマは、いずれも高齢化の進展と生産年齢人口の減少という社会構造の変化に対応するための重要な施策です。令和6年度診療報酬改定の影響を検証しつつ、次期改定に向けた継続的な議論が求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
中医協が明らかにした外来診療の最新動向|診療報酬構成と医療費の変化を徹底解説
令和7年7月16日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会第612回において、外来診療の診療内容と医療費に関する重要なデータが報告されました。この報告は、外来医療の実態を把握し、今後の診療報酬改定の基礎資料とする目的で作成されました。社会医療診療行為別統計と医療費の動向調査を基に、病院と診療所における外来診療の診療報酬構成の変化、診療科別の医療費動向、令和6年度診療報酬改定後の影響が明らかになりました。報告の要点は3つあります。第一に、病院の外来診療では診療報酬点数が平成30年の1,516点から令和6年には1,891点へと大きく増加した一方、診療所では898点から932点へとわずかな増加にとどまり、ほぼ横ばいで推移しています。第二に、診療科別では整形外科の1施設あたり月額医療費が約1,000万円と最も高く、令和6年度改定後にさらに増加しました。第三に、診療報酬構成では病院で注射が約225点増加するなど大幅に増加し、診療所では検査と在宅医療が増加する一方で注射は大きく減少しています。外来診療における診療報酬点数の推移と病院・診療所の違い外来診療の診療報酬点数は、病院と診療所で異なる推移を示しています。病院の入院外1日あたりの診療報酬点数は、平成30年の1,516点から令和6年には1,891点へと約375点増加しました。この増加は、主に注射が291点から516点へと約225点増加、在宅医療が103点から141点へ約38点増加、検査が293点から349点へ約56点増加したことによります。診療所の診療報酬点数は、平成30年の898点から令和6年には932点へと約34点増加し、ほぼ横ばいで推移しています。診療所では、検査が116点から142点へ約26点増加、在宅医療が46点から66点へ約20点増加、医学管理等が80点から98点へ約18点増加した一方で、投薬が210点から182点へ約28点減少、注射が72点から31点へ約41点減少しました。この違いは、病院と診療所の機能分化を反映しています。病院では高度な医療技術を要する注射や在宅医療が大きく増加し、診療所では日常的な検査と在宅医療の提供が強化される一方、投薬や注射は減少しています。診療科別にみる1施設あたり月額医療費の動向診療科別の1施設あたり月額医療費では、整形外科が最も高い水準を示しました。令和6年6月から令和7年2月までのデータによると、整形外科は約1,000万円、内科は約500万円、眼科は約500万円でした。令和6年度診療報酬改定後の変化では、診療科による違いが明確になりました。整形外科、皮膚科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科では医療費が増加し、内科、小児科、外科、その他では減少しました。整形外科の医療費が高い理由は、1施設あたり月間受診延日数が約2,500日と最も多く、リハビリテーションや処置などの診療報酬点数が高いためです。内科は受診延日数が約1,000日と整形外科の半分以下ですが、投薬や検査が診療報酬の主要な構成要素となっています。診療所における診療科別の診療報酬構成の特徴診療所の診療科別診療報酬構成は、各診療科の特性を反映した特徴的なパターンを示しています。令和6年のデータでは、内科の1日あたり診療報酬は約730点で、投薬が約180点、検査が約140点、医学管理等が約100点を占めました。精神科は約880点と診療所全体の平均より高く、精神科専門療法が約280点、投薬が約180点と特徴的な構成です。小児科は約610点で、医学管理等が約170点と他の診療科より高い割合を占め、小児かかりつけ診療料などが含まれています。泌尿器科は約1,050点と高い水準で、処置が約420点と診療報酬の約4割を占めます。この処置には人工腎臓及び特定保険医療材料等が含まれており、透析医療を反映した特徴的な構成となっています。整形外科は約940点で、リハビリテーションが約270点、処置が約140点と、機能回復を重視した診療内容が示されています。診療所の入院外受診延日数の診療科別分布診療所の入院外受診延日数を診療科別に分析すると、外来医療需要の構造が明らかになります。令和5年度のデータでは、総受診延日数約12億日のうち、内科が38%、整形外科が17%、眼科が8%、皮膚科と耳鼻咽喉科がそれぞれ7%、小児科が6%でした。内科の受診延日数が最も多い理由は、高血圧症や糖尿病などの慢性疾患患者が継続的に受診するためです。整形外科は腰部脊柱管狭窄症や変形性膝関節症などの患者が定期的なリハビリテーションや処置のために受診します。令和6年度診療報酬改定後、小児科、産婦人科、耳鼻咽喉科では受診延日数が増加し、その他の診療科では横ばいから微減となりました。この変化は、改定による評価の見直しが診療行動に影響を与えたことを示唆しています。まとめ中医協第612回総会で報告された外来診療の診療内容と医療費のデータから、3つの重要な動向が明らかになりました。病院では診療報酬点数が平成30年の1,516点から令和6年には1,891点へと約375点増加し、特に注射が約225点増加するなど大幅な伸びを示しました。診療所では898点から932点へとわずか34点の増加にとどまり、ほぼ横ばいで推移しています。診療科別では整形外科の1施設あたり月額医療費が約1,000万円と最も高く、令和6年度改定後も増加を続けました。診療報酬構成では病院で注射と在宅医療が大きく増加し、診療所では検査と在宅医療が増加する一方で注射は大幅に減少しています。これらのデータは、外来医療における病院と診療所の機能分化の進展と、各診療科の特性に応じた診療内容の変化を示しており、今後の診療報酬改定における重要な基礎資料となります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
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