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2025-12-15 05:40

令和8年度診療報酬改定の基本方針を解説|4つの視点と重点課題

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令和7年12月9日、社会保障審議会医療保険部会および医療部会において、令和8年度診療報酬改定の基本方針が決定されました。物価高騰や賃金上昇が続く中、医療機関の経営安定と人材確保が喫緊の課題となっています。本稿では、この基本方針の全体像と具体的方向性を解説します。

今回の改定は、物価や賃金、人手不足等への対応を重点課題として位置づけています。基本方針では4つの基本的視点が示されました。第一に、医療従事者の処遇改善と人材確保への取組が重点課題となります。第二に、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携が推進されます。第三に、医療DXの活用による安心・安全で質の高い医療が推進されます。第四に、効率化・適正化を通じた医療保険制度の持続可能性向上が図られます。

改定に当たっての基本認識

基本方針では、令和8年度診療報酬改定に当たって4つの基本認識が示されました。これらの認識は、今回の改定全体を貫く基盤となっています。

第一の認識は、日本経済が新たなステージに移行しつつある中での物価・賃金の上昇と人材確保の必要性です。日本経済は30年続いたコストカット型経済から脱却しつつあります。一方で医療分野は公定価格によるサービス提供が中心であるため、経済社会情勢の変化に機動的な対応が難しく、サービス提供や人材確保に大きな影響を受けています。

第二の認識は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築です。2040年頃に向けては、生産年齢人口が減少する一方、85歳以上人口が増加していきます。こうした変化に対応するため、「治す医療」と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療提供体制を構築する必要があります。

第三の認識は、医療の高度化や医療DX、イノベーションの推進による安心・安全で質の高い医療の実現です。医療技術の進歩を国民に還元するとともに、ドラッグ・ラグやデバイス・ラグへの対応が求められています。

第四の認識は、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保と経済・財政との調和です。国民皆保険を堅持し次世代に継承するため、現役世代の保険料負担の抑制努力を踏まえながら、効率的・効果的な医療政策を実現することが不可欠です。

重点課題:物価や賃金、人手不足等への対応

今回の改定では、物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応が重点課題に位置づけられました。医療機関等は厳しい経営環境に直面しており、的確な対応が急務となっています。

医療機関等は現下の持続的な物価高騰により、事業収益の悪化が続いています。人件費、医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等の物件費が増加しているためです。また、全産業で賃上げ率が高水準となる中、医療分野では賃上げ水準から乖離し、人材確保が困難な状況にあります。

この重点課題に対する具体的方向性は、2つの柱で構成されています。第一の柱は、医療機関等が直面する人件費や物件費の高騰を踏まえた対応です。第二の柱は、賃上げや業務効率化・負担軽減等の業務改善による医療従事者の人材確保に向けた取組です。

第二の柱である人材確保に向けた取組には、5つの具体的施策が含まれています。まず、医療従事者の処遇改善です。次に、ICT・AI・IoT等の利活用による業務効率化の推進です。さらに、タスク・シェアリング/タスク・シフティングとチーム医療の推進です。加えて、医師の働き方改革の推進と診療科偏在対策です。最後に、診療報酬上求める基準の柔軟化です。

2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携

第二の基本的視点として、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進が掲げられました。中長期的な人口構造や医療ニーズの変化を見据えた医療提供体制の構築が求められています。

この視点における具体的方向性は、8つの分野に整理されています。第一に、患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価です。地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備や、人口の少ない地域の実情を踏まえた評価が含まれます。

第二に、「治し、支える医療」の実現です。在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能を担う医療機関の評価、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等の高齢者の生活を支えるケアの推進が進められます。

第三に、かかりつけ医機能、かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能の評価です。第四に、外来医療の機能分化と連携として、大病院と地域のかかりつけ医機能を担う医療機関との連携が推進されます。第五に、質の高い在宅医療・訪問看護の確保です。

第六に、人口・医療資源の少ない地域への支援です。第七に、医療従事者確保の制約が増す中で必要な医療機能を確保するための取組です。第八に、医師の地域偏在対策の推進です。

安心・安全で質の高い医療の推進

第三の基本的視点は、安心・安全で質の高い医療の推進です。患者の安心・安全を確保しつつ、医療技術の進展や疾病構造の変化等を踏まえた取組の評価が進められます。

この視点における具体的方向性は、9つの分野にわたります。第一に、患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価として、身体的拘束の最小化や医療安全対策の推進が含まれます。第二に、アウトカムにも着目した評価の推進です。

第三に、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価です。電子処方箋システムの利活用やオンライン診療の推進が進められます。第四に、質の高いリハビリテーションの推進として、発症早期からの介入や土日祝日の実施体制充実が図られます。

第五に、重点的な対応が求められる分野への適切な評価です。救急医療、小児・周産期医療、がん医療、精神医療、難病患者への医療が対象となります。第六から第九として、感染症対策・薬剤耐性対策の推進、歯科医療の推進、薬局機能の評価、イノベーションの適切な評価等が挙げられています。

効率化・適正化を通じた制度の持続可能性向上

第四の基本的視点は、効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上です。医療費増大が見込まれる中、国民皆保険を維持するための不断の取組が必要とされています。

この視点における具体的方向性として、7つの取組が示されました。第一に、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進です。第二に、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直しです。第三に、費用対効果評価制度の活用です。

第四に、市場実勢価格を踏まえた適正な評価です。医薬品、医療機器、検査等について効率的かつ有効・安全な利用体制の確保が図られます。第五に、電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働による医薬品の適正使用等の推進です。重複投薬、ポリファーマシー、残薬への対応が含まれます。第六に、外来医療の機能分化と連携です。第七に、医療DXやICT連携を活用する体制の評価です。

今後の課題と展望

基本方針では、今後取り組むべき課題も示されました。持続可能な「全世代型社会保障」の実現に向けて、診療報酬制度のみならず総合的な政策が求められています。

今後の課題として、5つの点が挙げられています。第一に、診療報酬制度のみならず、医療法や医療保険各法等の制度的枠組み、補助金等の予算措置を含めた総合的な政策の必要性です。第二に、持続的な物価高騰・賃金上昇局面における適時適切な報酬措置の検討です。

第三に、患者にとって身近で分かりやすい医療提供体制の実現と、国民の医療保険制度に対する納得感の向上です。第四に、予防・健康づくりやセルフケアの推進、ヘルスリテラシーの向上です。住民、医療提供者、保険者、民間企業、行政等の全ての関係者が協力・連携して国民一人一人を支援することが求められています。第五に、医療DXの推進です。医療DXへの投資は業務負担の軽減や医療の質の向上につながるため、国民の健康増進と安心・安全で質の高い医療サービスの実現に向けた推進が必要です。

まとめ

令和8年度診療報酬改定の基本方針は、物価高騰・賃金上昇への対応を重点課題として位置づけました。医療従事者の処遇改善と人材確保への取組、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携、医療DXを活用した安心・安全で質の高い医療の推進、効率化・適正化による制度の持続可能性向上という4つの基本的視点から、具体的な方向性が示されています。今後、中央社会保険医療協議会において、この基本方針に基づいた具体的な診療報酬点数等の議論が進められます。



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サマリー

令和8年度診療報酬改定の基本方針は、医療現場の構造的な変化を目指しています。タスクシェアリングやチーム医療を通じて、人材確保や役割分担の明確化を図っています。この改定は、医療の効率化と地域連携の強化を目指しており、未来の医療制度を支えるためのシステムを構築する取り組みです。

医療現場の変革
こんにちは。さて今日はですね、数日前に決まったばかりの、令和8年度診療報酬改定の基本方針。これを深盛りしたいなと。
はい。 これ単なる料金見直しって話じゃないんですよね。 まさに。むしろこれから15年後、あなたや家族がどんな医療を受けられるか、その未来の設計座そのものだ。
日本経済が長年のコストカット型から転換する中で、医療現場がどう変わるか。これは保険料とか窓口の支払いだけじゃなくて、日本のいわばOSがアップデートされるような大きな転換点なんですよ。
OSのアップデートですか。面白いですね。ではその物語の第一章はやっぱり人の話からですね。
資料にも全産業で賃上げが進む中、医療分野では乖離し人材確保が困難とありますけど、これもう悲鳴に聞こえますよね。聞こえますね。
そこで出てくるのがタスクシェアリングとかチーム医療っていう考え方なんです。
よく聞く言葉ですね。これまでどうしても意思に集中しすぎていた業務を看護師さんとか薬剤師さん、他の専門家と分担していくと、それぞれのプロが専門性を最大限に生かせるようにするわけです。
でもそのチーム医療って言葉はよく聞きますけど、正直ちょっと理想論っぽく聞こえません。
なるほど。現場では職種間の壁とか責任の所在がとかいろいろありそうですけど。
上位ご指摘ですね。だからこそ今回の改定でその業務範囲とか責任の所在をルールとして明確にしていこうという動きなんです。
なるほど。単なるスローガンじゃなくて本当に実効性のあるチームを作るための仕組み作りが今まさに始まっているということですね。
なるほど。まず現場の人を支える仕組みが第一歩だと。でもその人たちが働く場所、つまり病院の在り方自体も変わっていく必要がありますよね。
おっしゃる通りです。資料を見ると第2章のテーマなまさに医療の機能文化。で、治す医療と治し支える医療という言葉が出てくるんですけど、これハッとさせられました。
これは医療の役割分担をよりはっきりさせましょうということですね。
役割分担。
はい。例えば大病院は言ってみれば消防隊みたいなものです。
消防隊。
家事、つまり急な大病を消すのが専門。でも賃貨後の家の再建とか生活のサポートまではなかなか手が回らない。
そこを引き受けるのが地元のかかりつけ医とか訪問看護師さんといった大工さんとか地域のサポーターなんです。
今まではその消防隊が家の再建まで手伝おうとしてパンク寸前だったんですよ。
未来の医療制度
あーなるほど。その消防隊と大工さん、つまり大病院と地域のクリニックがどうやって連携するんですか?
ここで第3章の医療DXの話につながってくるわけですね。
その通りです。でもDXって聞くと多くの人は病院の予約がスマホで楽になるくらいのイメージじゃないですか?
正直そうですね。
でも実は本質はそこじゃないんですよ。本当の狙いは、例えばですね、あなたが気づかないうちに起きているような医療事故、これを防ぐことなんです。
例えばA病院の薬とBクリニックの薬が実は危険な飲み合わせだった、なんていう事態をシステムが未然に防いでくれる。
あなた専属の薬の番人が24時間ついてくれるようなものなんです。
それは心強いですね。自分の知らないところで安全が守られていると。
さて、ここまで未来の医療の素晴らしい話を聞いてきましたけど、最後の第4章、やっぱり気になるのはお金の話です。
効率化、適正化とありますが、要は誰がこれを負担していくのかですよね。
はい。そこで重要になるのが、費用対効果評価という考え方です。
費用対効果。
ものすごく高価な薬とか治療が、その値段に見合うだけの効果が本当にあるのかというのを、より厳しく見ていこうというながらです。
でもそれって結局、値段の高い治療は受けさせないという話につながりませんか?
患者からすると、効果があるならやっぱり最新最高の治療を受けたい。
もちろん、必要な治療が受けられなくなるわけでは全くありません。
はい。
目的は、限られた財源の中で、より多くの人が、より価値の高い医療を受けられるようにすること。
無駄をなくして、本当に効果のあるものにお金を集中させる。
それで、あなたやあなたのお子さん、お孫さんの世代まで、この国民皆保険制度を引き継いでいくための、いばば知恵なんですよ。
なるほど。
今日の話をまとめると、今回の改定って、現場の悲鳴におこえるところから始まって、病院の役割分担を決め、DXでそれらをつないで、最後はみんなで支える仕組みを作るという壮大な物語だったんですね。
そうですね。そして資料の最後には、診療報酬制度のみならず、総合的な政策が必要とちゃんと書かれているんです。
ああ。
これは、もう医療だけの問題じゃない、社会全体で取り組むべき課題なんだ、という強いメッセージですね。
そこに私たち自身の役割もありそうですね。資料には、予防・健康づくりとか、ヘルスリテラシーの向上という言葉も出てきます。
制度というOSがアップデートされる中で、ユーザーである私たち自身は、自分の健康とか医療との関わり方をどうアップデートしていくべきなのか、ぜひ少し考えてみてください。
はい。
05:40

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