病院事務長が実務と経営の視点で語る、医療制度の最新動向。急性期〜回復期で幅広い部門を統括してきた経験をもとに、最新の令和8年度診療報酬改定(算定要件・疑義解釈)や施設基準、医療DXの解説を音声で配信。経営層から現場の事務担当者まで、忙しい合間に「現場で使える知識」をアップデートできます。
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【令和8年度改定】重症度、医療・看護必要度の見直しシミュレーション結果を徹底解説
中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の見直しに関するシミュレーション結果が示されました。令和6年度改定以降、内科系症例の評価が課題となっていたことを受け、A・C項目への治療項目の追加と救急搬送受入件数に応じた加算という2つの方策が検討されています。今回のシミュレーションでは、これらの見直しにより手術なし症例や救急搬送受入の多い病院で該当患者割合が増加する傾向が確認されました。急性期一般入院料1では基準①で平均7.1ポイント、基準②で平均6.9ポイントの上昇が見込まれます。地域包括医療病棟についても、基準そのものの変更と項目追加により、内科的疾患を多く診療する病院の評価改善が期待されます。シミュレーションの背景と方針令和6年度診療報酬改定後、内科系症例の重症度、医療・看護必要度の該当割合低下が指摘されていました。中医協総会での議論を踏まえ、今回のシミュレーションは3つの柱で構成されています。第一の柱は、内科系疾病に関連したA・C項目への治療・薬剤等の追加です。日本内科学会からの提案項目を基本としつつ、外来で実施される割合が多い項目と比較的実施が容易で診療行為に影響を与えるおそれのある項目は除外されています。追加候補には、中心静脈注射用カテーテル挿入、吸着式血液浄化法、経食道心エコー法などの検査・処置が含まれます。第二の柱は、救急搬送受入件数による加算の導入です。病床あたりの年間救急搬送受入件数に一定の係数(0.005)を乗じた割合を該当患者割合に加算する仕組みが検討されています。この方式は、入院や入院期間延長へのインセンティブを生じにくくする利点があります。第三の柱は、地域包括医療病棟における基準の見直しです。肺炎や尿路感染症など入院頻度の高い内科的疾患ではA3点以上となる割合が他の手術なし症例より低いことから、「A2点以上又はC1点以上」への基準変更が検討されています。A・C項目追加の具体的内容内科学会が提案するA・C項目への追加候補は、医師の診療負荷が高い症例で頻回に行われる診療行為と医薬品です。選定にあたっては、内保連負荷度ランクでD・Eランクの疾患における実施割合の高さ、モラルハザードの起きにくさ、入院での算定割合の高さが考慮されました。C21(救命等に係る内科的治療)への追加候補には、中心静脈注射用カテーテル挿入、脳脊髄腔注射(腰椎)、腰椎穿刺、吸着式血液浄化法、持続緩徐式血液濾過などが含まれます。これらは重症内科患者の管理に不可欠な処置です。C22(別に定める検査)への追加候補には、経食道心エコー法、負荷心エコー法、EBUS-TBNA、気管支カテーテル気管支肺胞洗浄法検査などが含まれます。循環器・呼吸器領域の専門的検査が中心となっています。C23(別に定める手術)への追加候補には、内シャント設置術、胸水・腹水濾過濃縮再静注法、胃瘻造設術、経皮的胆管ドレナージ術などが含まれます。内科的管理を要する患者に対する処置が網羅されています。A6(専門的な治療・処置)への追加候補には、アザシチジン、カルフィルゾミブ、ボルテゾミブなどの抗悪性腫瘍剤が含まれます。血液内科領域の治療薬が中心です。急性期一般入院料1のシミュレーション結果急性期一般入院料1におけるシミュレーション結果は、病院の特性によって変化量が異なることを示しています。基準①(A3点以上又はC1点以上)について、全体の平均は現行28.3%から35.4%へと7.1ポイント上昇しました。病床あたり救急搬送数が多く手術なし症例も多い病院では9.2ポイントの上昇となり、最も大きな改善効果が見られます。一方、救急搬送数が少なく手術症例が多い病院では4.7ポイントの上昇にとどまりました。基準②(A2点以上又はC1点以上)についても同様の傾向が見られ、全体の平均は現行36.7%から43.6%へと6.9ポイント上昇しました。救急搬送受入の多い病院では約9ポイントの上昇が見込まれる一方、救急搬送受入の少ない病院では約5ポイントの上昇となっています。これらの結果は、A・C項目の追加と救急搬送受入件数による加算が、手術なし症例と救急搬送の両方が多い病院において特に効果的であることを示しています。急性期一般入院料2~5のシミュレーション結果急性期一般入院料2~5においても、同様の傾向が確認されました。急性期一般入院料2では、全体の平均が現行27.2%から32.8%へと5.6ポイント上昇しました。救急搬送数が多い病院では約8ポイントの上昇が見込まれます。急性期一般入院料3では、全体の平均が現行23.3%から29.0%へと5.7ポイント上昇しました。手術なし症例が多く救急搬送も多い病院では7.5ポイントの上昇となっています。急性期一般入院料4では、全体の平均が現行24.5%から28.9%へと4.4ポイント上昇しました。救急搬送数の多い病院での効果がより顕著です。急性期一般入院料5では、全体の平均が現行15.9%から18.4%へと2.5ポイント上昇しました。上昇幅は他の入院料より小さいものの、救急搬送の多い病院では約4ポイントの改善が見込まれます。地域包括医療病棟のシミュレーション結果地域包括医療病棟については、基準そのものの変更とA・C項目追加、救急搬送受入加算を組み合わせたシミュレーションが実施されました。現行の基準は「A3点以上」「A2点以上かつB3点以上」「C1点以上」のいずれかですが、肺炎や尿路感染症などの内科的疾患ではA3点以上となる割合が非常に低い状況にあります。このため、急性期一般入院料1の基準②と同様の「A2点以上又はC1点以上」への変更が検討されています。シミュレーション結果では、全体の平均が現行21.5%から28.1%へと6.5ポイント上昇しました。特に手術なし症例が多く救急搬送も多い病院では9.3ポイントの上昇が見込まれます。この変更により、高齢者救急における内科的疾患の受入れがより適切に評価されることが期待されます。救急搬送受入件数による加算の仕組み救急搬送受入件数による加算は、入院延長へのインセンティブを生じさせない設計となっています。計算方法は、病床あたりの年間救急搬送受入件数に係数0.005を乗じるものです。例えば、100床の病棟で年間1,000件の救急搬送を受け入れている場合、10件÷床÷年となり、これに0.005を乗じると5%の加算となります。元の該当患者割合が15%であれば、加算後は20%となります。加算には上限が設けられており、各入院料の該当患者割合の概ね1/2を超えないよう設定されています。急性期一般入院料1では10%、急性期一般入院料4では7%が上限となっています。この方式の利点は、外来で対応した救急搬送も含めて評価できる点にあります。入院させなかった場合や早期退院した場合も評価対象に含まれるため、不要な入院や入院期間延長のインセンティブが生じにくい構造となっています。内科系症例の評価における課題内科系症例では、外科系症例と比較してA項目・C項目の該当割合に大きな差があります。急性期一般入院料2~6における内科系症例では、A項目2点以上の割合が18.8%にとどまり、外科系症例の22.6%を下回っています。A項目3点以上では、内科系が9.8%、外科系が14.5%とさらに差が広がります。C項目についてはより顕著な差があります。外科系症例ではC項目1点以上の割合が44.7%であるのに対し、内科系症例ではわずか1.9%にとどまっています。手術を伴わない内科的治療が現行の評価体系で十分に反映されていないことがわかります。肺炎や尿路感染症といった高齢者に多い疾患では、さらに該当割合が低くなります。急性期一般入院料1における肺炎等では、A項目2点以上の割合が24.2%、C項目1点以上の割合がわずか0.4%です。尿路感染症ではA項目2点以上が17.2%、C項目1点以上が1.1%と、内科症例全体よりもさらに低い水準にあります。まとめ今回のシミュレーション結果は、A・C項目の追加と救急搬送受入件数による加算が、内科系症例の評価改善に一定の効果を持つことを示しています。急性期一般入院料では、手術なし症例が多く救急搬送受入も多い病院において、該当患者割合が大きく上昇する傾向が確認されました。一方、救急搬送受入の少ない病院では該当患者割合の上昇幅が小さく、病院の特性による影響の違いがより明確になることが予想されます。地域包括医療病棟については、基準そのものの変更により内科的疾患を主として診療する病院の評価が改善される見込みです。高齢者救急を担う病棟の役割と評価のバランスが取れた制度設計が期待されます。中医協では引き続き、これらのシミュレーション結果を踏まえた該当患者割合の基準設定について議論が行われる予定です。令和8年度診療報酬改定に向けて、内科系症例と救急応需体制の適切な評価に関する議論の動向に注目が集まっています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年4月施行|オンライン診療受診施設と保険医療機関管理者の新ルールを解説
令和7年12月に公布された医療法等の一部を改正する法律により、オンライン診療と保険医療機関の管理体制に関する新たな規定が設けられました。この改正を受けて、中央社会保険医療協議会では保険診療上の具体的な対応について議論が進められています。本記事では、中医協総会(第641回)で示された2つの主要論点を解説します。第一に、新設される「オンライン診療受診施設」の保険診療における位置づけです。第二に、保険医療機関の管理者に新たに課される責務と経験要件です。いずれも令和8年4月1日の施行に向けて、療担規則等の改正が検討されています。オンライン診療受診施設の保険診療上の対応医療法改正により、患者がオンライン診療を受ける専用の施設として「オンライン診療受診施設」が新たに創設されます。この施設は、公民館や郵便局、駅ナカブース、職場、介護事業所など、医療機関以外の場所に設置できます。オンライン診療受診施設の定義は、施設の設置者が業として、オンライン診療を行う医師または歯科医師の勤務する医療機関に対して、患者がオンライン診療を受ける場所を提供する施設です。設置者は設置後10日以内に都道府県へ届け出る必要があります。オンライン診療を行う医療機関の管理者は、受診施設の設置者に対してオンライン診療基準への適合性を確認する責務を負います。厚生労働大臣は「オンライン診療基準」を定め、医療機関はこの基準に従ってオンライン診療を実施することになります。オンライン診療基準には、医師-患者関係や患者合意、診療計画、本人確認、薬剤処方・管理、診察方法といった診療提供に関する事項が含まれます。加えて、医師の所在、患者の所在、通信環境といった提供体制に関する事項も規定されます。保険薬局内へのオンライン診療受診施設開設に関する論点医療法上、オンライン診療受診施設の設置場所に制限はありません。しかし、保険薬局内に設置する場合は、医薬分業の観点から複数の課題が生じます。第一の課題は、保険薬局と保険医療機関の独立性です。薬担規則では、健康保険事業の健全な運営を確保するため、保険薬局は保険医療機関と一体的な構造・経営が禁止されています。保険薬局内で患者が保険医療機関による診療を受ける状況は、この独立性の観点から整理が必要です。第二の課題は、特定の保険薬局への誘導です。療担規則では保険医療機関が特定の保険薬局へ誘導することが禁止されています。薬局内で患者が受けたオンライン診療で発行された処方箋は、概ね当該薬局で調剤されると想定されます。保険薬局でのオンライン診療受診施設は、当該薬局での調剤へ誘導する効果を生むことになります。第三の課題は、経済上の利益の提供による誘引です。薬担規則では、患者を紹介する対価として経済上の利益を提供し、自己の保険薬局で調剤を受けるよう誘引することが禁止されています。保険薬局が自らオンライン診療受診施設を開設しない場合でも、運営事業者に場所を提供すれば、同様の誘引効果が生じる可能性があります。これらの課題を踏まえ、中医協では薬担規則において保険薬局とオンライン診療受診施設の一体的な構造・経営の禁止、経済上の利益の提供による誘引の禁止を明記する方向で検討が進められています。ただし、医療資源が少ない地域への配慮として、医療計画におけるへき地に所在する保険薬局については、一体的な構造・経営の禁止を適用せず、薬局内での受診施設設置を可能とする例外措置も検討されています。保険医療機関の管理者に課される責務医療法改正に伴い、保険医療機関の管理者に新たな責務が課されます。この責務は療担規則において規定され、適正な保険医療を効率的に提供するための体制整備を求めるものです。管理者に課される責務は4つあります。第一は、保険医療機関内の保険医が療担規則第2章「保険医の診療方針等」を遵守するよう監督することです。第二は、厚生労働大臣等に対する申請・届出や診療報酬の請求に係る手続が適正に行われるよう監督することです。第三は、診療録の記載・整備および帳簿・書類等の保存が適正に行われるよう監督することです。第四は、医師・歯科医師・薬剤師その他の従業者の連携を図るとともに、地域の保健医療サービス・福祉サービス提供者との連携を図ることです。管理者がこれらの責務を果たさず、相当の注意及び監督を尽くしていなかったために診療報酬の不正請求等が行われた場合は、厚生労働大臣が保険医療機関の指定取消しまたは保険医の登録取消しを行うことが可能となります。責務違反の判断は、監査要綱に基づき故意または重大な過失の繰り返しに該当するか否かを個別具体的に判断することになります。保険医療機関の管理者に求められる経験要件保険医療機関の管理者には、一定の経験を有することが要件として求められます。健康保険法第70条の2第1項において、管理者は現に保険医であること、および臨床研修修了後に保険医療機関で3年以上診療に従事した経験を有することが定められました。医師の場合は、2年の臨床研修修了後、保険医療機関(病院に限る)における3年以上の保険医従事経験が必要です。歯科医師の場合は、1年の臨床研修修了後、保険医療機関における3年以上の保険医従事経験が必要です。従事経験は週4日以上常態として勤務し、かつ所定労働時間が週32時間以上であることを基本とします。育児・介護により所定労働時間が短縮されている者には配慮措置が設けられ、週4日常態として勤務する要件を求めないとともに、所定労働時間を週30時間以上に緩和します。原則的な要件を満たせない場合でも、以下の4類型に該当すれば管理者となることができます。第一類型は、キャリアの事情により要件を満たせない場合です。地域枠や自治医科大学卒業者のうち義務年限中の医師、基本領域の専門医資格を持つ者などが該当します。第二類型は、公務員等として5年以上勤務した場合です。矯正医官や医師である自衛官などが該当します。第三類型は、複数の経験を合算して5年の経験年数がある場合です。第四類型は、管理者の急逝により緊急に保険医療機関を承継するなど、やむを得ない事情がある場合です。経過措置と届出の留意点令和8年4月1日の施行に向けて、既存の保険医療機関に対する経過措置が設けられています。施行日において現に保険医療機関の管理者である者は、3年間は要件を満たさない場合でも引き続き管理者であり続けることが可能です。ただし、この経過措置は同一機関の管理者である間に限って適用されます。施行日において現に臨床研修を修了した医師または歯科医師である者は、保険医療機関において3年以上保険医として診療その他管理及び運営に関する業務を行った経験があれば、管理者となることが可能です。この要件は、法に規定する「病院での診療従事経験」に比べて診療以外の業務も認める緩和した要件となっています。届出については、既存の保険医療機関の管理者情報は厚生労働省(地方厚生局)で把握済みのため、施行に伴う新たな届出は不要です。施行日以降に管理者を変更する場合は、従来どおり変更届出を行います。届出に際しては、要件を満たすことを証明する書類の添付が求められる予定です。まとめ令和7年医療法改正により、オンライン診療受診施設の創設と保険医療機関管理者への新たな責務・要件が定められました。中医協では、保険薬局とオンライン診療受診施設の一体的な構造・経営の禁止を薬担規則で明記する方向で検討が進んでいます。保険医療機関の管理者には、保険医の監督や適正な手続の確保、診療録管理、地域連携という4つの責務が課されます。管理者要件として臨床研修後3年以上の経験が求められますが、代替要件や経過措置も設けられています。令和8年4月1日の施行に向けて、医療機関は新たなルールへの対応準備を進める必要があります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
患者申出療養の令和7年度実績|技術数5種類・総額1.7億円に縮小
中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第641回)において、患者申出療養の令和7年度実績報告が公表されました。本報告は、患者が自ら治療を希望し申し出ることで保険外の先進的医療を受けられる「患者申出療養制度」の運用状況を示すものです。令和7年度の実績を分析することで、同制度の現状と課題が明らかになります。令和7年度(令和6年7月1日〜令和7年6月30日)の患者申出療養は、技術数5種類、実施医療機関数13施設、全患者数182人、総金額約1.7億円でした。前年度と比較すると、技術数は7種類から5種類に減少し、全患者数も287人から182人へと大幅に減少しています。この結果から、同制度の規模が縮小傾向にあることがわかります。令和7年度の実績概要令和7年度の患者申出療養は、5種類の技術が13施設で実施され、総金額は約1.7億円でした。このうち保険診療分(保険外併用療養費)が約1.0億円、患者が負担する患者申出療養費用が約0.7億円を占めています。患者申出療養費用の割合は40.7%であり、患者の自己負担が全体の約4割に達しています。実施件数の内訳を見ると、マルチプレックス遺伝子パネル検査による分子標的治療が151件と全体の83%を占めています。この技術は国立がん研究センター中央病院を中心に12の医療機関で実施されており、患者申出療養の中核を担っています。1件あたりの患者申出療養費用は約27.5万円です。その他の4技術は、タゼメトスタット経口投与療法が1件、経皮的胸部悪性腫瘍凍結融解壊死療法が8件、ペミガチニブ経口投与療法が1件、遺伝子パネル検査結果等に基づく分子標的治療が21件でした。これら5技術はすべてがん領域の治療法であり、患者申出療養はがん治療に特化した制度運用となっています。技術数の変動状況令和7年度は、技術数が7種類から5種類に減少しました。この減少は、2種類の技術が実施取り下げとなったことによるものです。新規承認技術、保険収載技術、削除技術はいずれもありませんでした。実施取り下げとは、医療機関側の判断により患者申出療養としての実施を中止することを指します。取り下げの理由としては、症例登録の完了や、他の治療法の普及などが考えられます。一方で、新規承認がなかったことは、患者からの新たな申出が実を結ばなかったことを示しています。保険収載技術がなかったことも注目すべき点です。患者申出療養制度の目的のひとつは、将来の保険適用に向けたエビデンスの蓄積です。保険収載に至る技術がなかったことは、制度の出口戦略に課題があることを示唆しています。過去5年間の推移分析過去5年間の実績を見ると、患者申出療養は縮小傾向にあります。技術数は令和3年度の8種類から令和5年度に10種類まで増加した後、令和6年度に7種類、令和7年度に5種類と減少しました。実施医療機関数も同様の傾向を示しています。令和3年度から令和5年度までは23〜24施設で推移していましたが、令和6年度以降は13施設に半減しています。この急激な減少は、特定の技術が終了したことや、協力医療機関の撤退などが影響していると考えられます。全患者数と総金額も減少傾向にあります。全患者数は令和5年度の312人をピークに、令和7年度は182人まで減少しました。総金額も令和4年度の約2.6億円から令和7年度は約1.7億円に減少しています。患者申出療養費用の割合は40.7%〜52.5%で推移しており、患者負担の割合に大きな変化はありません。実施中の5技術の詳細現在実施中の5技術は、いずれも悪性腫瘍(がん)を対象としています。最も実施件数が多いマルチプレックス遺伝子パネル検査による分子標的治療は、根治切除が不可能な進行固形がんを対象とし、令和元年10月から実施されています。終了予定日は令和12年8月31日であり、長期にわたる臨床研究が計画されています。タゼメトスタット経口投与療法は悪性固形腫瘍を対象とし、令和5年2月から国立がん研究センター中央病院で実施されています。経皮的胸部悪性腫瘍凍結融解壊死療法は肺や縦隔、胸膜の悪性腫瘍を対象とし、慶應義塾大学病院が臨床研究中核病院として実施しています。ペミガチニブ経口投与療法は進行固形がんを対象に名古屋大学医学部附属病院で実施されています。遺伝子パネル検査結果等に基づく分子標的治療は悪性腫瘍全般を対象とし、国立がん研究センター中央病院を中心に4機関で21件実施されました。これら5技術の終了予定日は令和10年〜12年に設定されています。まとめ令和7年度の患者申出療養は、技術数5種類、全患者数182人、総金額約1.7億円と、前年度から縮小しました。実施取り下げにより2技術が減少し、新規承認や保険収載はありませんでした。実施中の5技術はすべてがん領域であり、特にマルチプレックス遺伝子パネル検査による分子標的治療が全体の8割以上を占めています。過去5年間の推移を見ると、技術数・施設数・患者数のいずれも減少傾向にあり、制度の活性化に向けた取り組みが求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
先進医療の総額1084億円突破|令和7年度実績報告で患者数21万人超に
令和8年1月14日に開催された中央社会保険医療協議会総会(第641回)において、先進医療会議から令和7年度の実績報告がなされました。本報告では、令和6年7月1日から令和7年6月30日までの先進医療の実施状況が取りまとめられています。先進医療の動向は、将来の保険収載の方向性を示すものであり、医療機関の経営戦略を検討する上で重要な情報となります。令和7年度の先進医療は、総額約1084億円、患者数211,153人と過去5年間で最高を記録しました。実施医療機関数は542施設に拡大し、技術数は73種類となっています。特に不妊治療関連技術が患者数全体の大部分を占め、タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養だけで98,871件の実施件数となりました。一方で、先進医療Bでは臨床試験の進捗により実施件数が0件となった技術もあり、保険収載に向けた評価が進んでいます。先進医療AとBの実績概要令和7年6月30日時点で実施されていた先進医療の全体像を説明します。先進医療Aは未承認・適応外の医薬品や医療機器を用いない技術であり、先進医療Bは未承認・適応外の医薬品や医療機器を用いる技術、または薬事承認を目指す臨床試験を兼ねた技術です。両者の実績には大きな差があります。先進医療Aは26種類の技術が456施設で実施され、患者数は210,079人でした。総金額は約1071.4億円に達し、そのうち先進医療費用(患者の自己負担分)は約121.8億円、保険外併用療養費(保険診療分)は約949.6億円となっています。全医療費に占める先進医療分の割合は11.4%でした。先進医療Bは47種類の技術が163施設で実施され、患者数は1,074人でした。総金額は約12.5億円であり、先進医療費用は約4.7億円、保険外併用療養費は約7.8億円となっています。全医療費に占める先進医療分の割合は37.5%と、先進医療Aより高い割合を示しています。この違いは、先進医療Bでは未承認・適応外の医薬品や医療機器を用いるため、先進的な技術の費用割合が高くなることを反映しています。不妊治療関連技術が牽引する患者数の急増先進医療Aにおける患者数の大部分は、不妊治療関連技術によるものです。令和4年4月の不妊治療保険適用拡大に伴い、保険適用外の技術が先進医療として位置づけられ、患者数が急増しました。先進医療Aの患者数210,079人のうち、不妊治療関連技術が約99%を占めています。タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養は、年間98,871件の実施件数で最多となりました。この技術は307施設で実施され、総金額は約525.5億円に達しています。次いで、子宮内膜刺激術が28,090件(203施設、約118.0億円)、強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術が17,209件(90施設、約64.4億円)と続きます。不妊治療以外の技術では、陽子線治療が739件(20施設、約26.2億円)、重粒子線治療が303件(7施設、約10.1億円)となっています。これらの粒子線治療は、平成13年・15年から実施されている歴史のある先進医療技術です。過去5年間の実績推移先進医療の実績は、過去5年間で大きく変化しています。この変化の主な要因は、令和4年度の不妊治療保険適用拡大です。令和3年6月30日時点(令和2年7月~令和3年6月)の実績では、技術数83種類、267施設、5,843人、総金額約103億円でした。令和4年6月30日時点では、技術数83種類、428施設、26,556人、総金額約151億円に増加しました。令和5年6月30日時点では、技術数81種類、477施設、144,281人、総金額約765億円と急増しています。令和6年6月30日時点では、技術数76種類、449施設、177,269人、総金額約928億円となりました。そして令和7年6月30日時点では、技術数73種類、542施設、211,153人、総金額約1084億円に達しています。5年間で患者数は約36倍、総金額は約10.5倍に増加しました。技術数が減少している理由は、一部の技術が保険収載または削除されたためです。令和4年度および令和6年度の診療報酬改定の際に、一部の技術が保険導入または廃止されたことに留意が必要です。令和7年度における技術の変動令和7年度(令和6年7月1日~令和7年6月30日)における先進医療技術の変動状況を説明します。新規承認、保険収載、実施取り下げ、削除の4つの観点から整理します。新規承認技術数は計7種類でした。先進医療Aでは2種類が承認され、先進医療Bでは5種類が承認されています。新たな技術が先進医療として評価対象に加わりました。保険収載技術数は計2種類であり、いずれも先進医療Aからの収載でした。先進医療Bからの保険収載は0種類となっています。保険収載は先進医療の最終目標の一つであり、有効性・安全性が確認された技術が保険診療に組み込まれます。実施取り下げ技術数は、先進医療Bで7種類ありました。これは臨床試験の終了や中止によるものです。削除技術数は先進医療Aで1種類でした。また、先進医療Bでは総括報告書が6種類受理されており、臨床試験の結果がまとめられています。実施件数0件の技術と医療機関の対応一部の先進医療技術では、年間の実施件数が0件となっています。これらの技術について、医療機関から0件の理由と今後の対応方針が報告されています。先進医療Aでは、糖鎖ナノテクノロジーを用いた高感度ウイルス検査が4施設で0件でした。理由として、インフルエンザ患者の流行が小規模であったこと、新型コロナウイルスとの同時検査キットが普及したことが挙げられています。医療機関は体制維持に努めるとしています。先進医療Bでは、腹腔鏡下センチネルリンパ節生検(早期胃がん)が0件でした。これは2020年5月に症例登録期間が終了しているためです。また、ボツリヌス毒素の膀胱内局所注入療法も症例登録期間終了により0件となり、総括報告書の作成が進められています。自家末梢血CD34陽性細胞移植による下肢血管再生療法では、2020年8月に承認された直接灌流型吸着器(レオカーナ)が保険適用となったため、そちらが優先的に選択されていることが0件の理由として報告されています。今後はレオカーナが奏効しなかった患者に対して当該技術が適用される見込みです。まとめ令和7年度の先進医療実績報告では、総額約1084億円、患者数211,153人と過去5年間で最高を記録しました。不妊治療関連技術が全体の約9割を占め、タイムラプス撮像法を中心に実施件数が大幅に増加しています。先進医療Bでは臨床試験の進捗に伴い、総括報告書の受理や実施取り下げが進んでいます。今後の診療報酬改定において、有効性・安全性が確認された技術の保険収載が検討される見込みです。医療機関においては、先進医療の動向を注視し、経営戦略に反映することが重要となります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定「効率化・適正化」6つの柱を徹底解説
中央社会保険医療協議会総会(第640回)において、令和8年度診療報酬改定に係る「これまでの議論の整理(案)」が示されました。高齢化や高額医薬品の開発等により医療費の増大が見込まれる中、国民皆保険を維持するためには、医療資源を効率的・重点的に配分し、制度の安定性・持続可能性を高める取り組みが不可欠です。本記事では、「Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」の内容を解説します。今回の改定では、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、費用対効果評価制度の活用、市場実勢価格を踏まえた適正な評価、電子処方箋を活用した医薬品適正使用の推進、外来医療の機能分化と連携、医療DX・ICT連携の活用という6つの柱が示されています。後発医薬品・バイオ後続品の使用促進後発医薬品・バイオ後続品の使用促進として、処方・調剤体制の見直しと長期収載品の患者負担見直しが主な対応策として示されています。後発医薬品については、使用促進等の観点から処方等に係る評価体系の見直しが行われます。後発医薬品の使用が定着しつつある一方、主に後発医薬品において不安定な供給が発生しており、これにより医療機関及び薬局において追加的な業務が生じています。この状況を踏まえ、医薬品の安定供給に資する体制について新たな評価が設けられます。バイオ後続品については、使用促進体制が整備されている医療機関をより適切に評価するため、バイオ後続品使用体制加算の要件が見直されます。薬局においても、バイオ後続品の調剤体制の整備及び患者への説明について新たな評価が行われます。長期収載品の選定療養については、後発医薬品の供給状況や患者負担の変化に配慮しつつ、創薬イノベーションの推進や後発医薬品の更なる使用促進に向けて、患者負担の見直しが行われます。なお、中医協総会(第640回)資料「総-2選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集の結果への対応等について」では、患者負担の水準を価格差の4分の1相当から2分の1相当へと引き上げる方向性が示されています。費用対効果評価制度の活用費用対効果評価制度については、費用対効果評価専門部会の議論を踏まえて取りまとめられた「令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子」に基づき対応が行われます。なお、中医協総会(第640回)資料「総-1令和8年度診療報酬改定の改定率等について」では、医療保険制度の運営の中で費用対効果評価を推進する観点から、同制度の更なる活用が図られることが示されています。具体的には、既存の比較対照技術と比べて追加的な有用性がなく、単に費用増加となる医薬品に係る価格調整範囲の拡大が検討されています。適切な評価手法の確立や実施体制の強化を進める中で、対象品目や価格調整の範囲の拡大、診療ガイドラインへの反映を含めた医療現場での普及など、同制度の発展に向けた見直しが進められます。市場実勢価格を踏まえた適正な評価市場実勢価格を踏まえた適正な評価では、薬価制度改革と検体検査実施料の見直しが行われます。医薬品・医療機器については、薬価専門部会の議論を踏まえて取りまとめられた「令和8年度薬価制度改革の骨子」及び保険医療材料専門部会の議論を踏まえて取りまとめられた「令和8年度保険医療材料制度改革の骨子」に基づき対応が行われます。検体検査については、衛生検査所検査料金調査による実勢価格等を踏まえ、検体検査の実施料等について評価が見直されます。電子処方箋の活用と医薬品適正使用の推進電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働の取り組みによる医薬品適正使用の推進として、重複投薬・ポリファーマシー対策、医師と薬剤師の連携強化、処方の適正化、電子処方箋システムの利活用という4つの対応が示されています。重複投薬・ポリファーマシー対策では、薬剤情報連携の強化が図られます。処方変更理由や服薬状況等の薬剤情報が適切に共有されないことにより、ポリファーマシー対策が途切れてしまうことを防止する観点から、病院薬剤師による施設間の薬剤情報連携が促進されるよう、薬剤総合評価調整加算の要件及び評価が見直されます。向精神薬については、情報通信機器を用いた診療において処方する場合には、電子処方箋管理サービスによる重複投薬等チェックを行うことが要件となります。情報通信機器を用いた医学管理において重複投薬等チェックを行う際に電子処方箋を発行する場合については、新たな評価が設けられます。残薬対策として、保険薬局において患家に残薬があることを確認した場合に、保険医療機関と保険薬局が連携して円滑に処方内容を調整できるよう、処方箋様式が見直されます。長期処方及びリフィル処方箋による処方を適切に推進する観点から、計画的な医学管理を継続して行うこと等を評価する医学管理料の要件見直しとともに、処方箋様式の見直しが行われます。医師と薬剤師の連携強化では、病棟薬剤業務の実績評価が見直されます。ポリファーマシー対策や施設間の薬剤情報連携、転院・退院時の服薬指導等に資する薬学的介入の実績を適切に評価する観点から、病棟薬剤業務実施加算について、薬剤総合評価調整や退院時薬剤情報管理指導の実績に応じた評価に見直されます。在宅医療におけるポリファーマシー対策及び残薬対策を推進する観点から、医師と薬剤師が同時訪問することについて新たな評価が設けられます。処方の適正化では、保険給付の適正化の観点から、栄養保持を目的とした医薬品の保険給付の要件が見直されます。外来医療の機能分化と連携外来医療の機能分化と連携については、「Ⅱ-4」において詳細が示されています。この項目は効率化・適正化の観点からも重要な位置づけとなっており、かかりつけ医機能の評価や紹介受診重点医療機関の評価などを通じて、医療資源の効率的な活用が図られます。医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価については、「Ⅲ-3」において詳細が示されています。電子処方箋システムによる重複投薬等チェックの利活用の推進や、オンライン診療の推進などを通じて、医療の質向上と効率化の両立が目指されています。OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方について令和8年度診療報酬改定の基本方針においては、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直しも含まれています。ただし、この項目については中央社会保険医療協議会において議論が行われていないため、「これまでの議論の整理」には含まれていません。社会保障審議会医療保険部会における議論や、令和8年度予算案に係る「大臣折衝事項」(令和7年12月24日)も踏まえ、今後、必要に応じて中央社会保険医療協議会においても議論される予定です。なお、「大臣折衝事項」では、OTC医薬品の対応する症状に適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品のうち、他の被保険者の保険料負担により給付する必要性が低いと考えられるものについて、患者の状況や負担能力に配慮しつつ、別途の保険外負担(特別の料金)を求める新たな仕組みを創設し、令和8年度中(令和9年3月)に実施するとされています。まとめ令和8年度診療報酬改定における効率化・適正化の方向性は、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、費用対効果評価制度の活用、市場実勢価格を踏まえた適正な評価、電子処方箋を活用した医薬品適正使用の推進、外来医療の機能分化と連携、医療DX・ICT連携の活用という6つの柱で構成されています。これらの取り組みを通じて、医療サービスの維持・向上と効率化・適正化の両立が図られます。医療関係者には、これらの改定内容を理解し、適切な対応を準備することが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
Microsoft Copilot Studioで業務変革|国内外企業の導入事例と成果を解説
企業のデジタル変革において、AIエージェントの活用が急速に広がっています。Microsoft Copilot Studioは、自然言語やグラフィカルインターフェースを使用して、専門的な開発スキルがなくてもAIエージェントを構築できるプラットフォームです。本記事では、Copilot Studioの機能と導入事例に加え、関連するMicrosoft Copilot製品の活用事例も解説します。Copilot Studioを導入した企業では、顧客対応の自動化、業務プロセスの効率化、知識管理の高度化といった成果が報告されています。Pacific Gas & Electric(PG&E)はCopilot Studioで構築したチャットボットにより年間110万ドル以上のコスト削減を達成し、Amgenは6週間でR&D支援エージェントを構築しました。国内ではベネッセホールディングスがCopilot Studioで社内相談AIを構築し、回答精度を81%から86%に向上させています。Microsoft Copilot StudioとはMicrosoft Copilot Studioは、AIエージェントを作成・カスタマイズ・展開するためのエンドツーエンドの会話型AIプラットフォームです。このプラットフォームでは、ノーコード・ローコードでエージェントを設計でき、Microsoft 365やWebサイト、各種メッセージングチャネルへの公開が可能です。Copilot Studioで構築できるエージェントには、3つの種類があります。1つ目は、ユーザーの質問に対して情報を取得・要約して回答を返す「会話型エージェント」です。2つ目は、指示を受けてワークフローの自動化や反復的なタスクを代行する「タスク実行エージェント」です。3つ目は、計画・学習・エスカレーションを動的に行う「自律型エージェント」です。このプラットフォームの特長は、組織の既存データやシステムとの連携にあります。1,400以上の外部コネクタを利用でき、Microsoft 365アプリケーションやCRM、ERPシステムとの統合が可能です。Power Platform管理センターからエージェントの管理、セキュリティ設定、効果測定を一元的に行えます。Copilot Studioの4つの主要機能Copilot Studioは、エージェントの「作成」「カスタマイズ」「展開」「管理」という4つの主要機能を提供しています。これらの機能により、企業は自社のビジネスニーズに合わせたAIエージェントを構築・運用できます。作成:多様なエージェントタイプの構築エージェントの作成機能では、4種類のエージェントを構築できます。1つ目は「会話型エージェント」で、質問への回答、ワークフローのガイド、ビジネスデータを使用したタスク完了など、自然言語のプロンプトに会話形式で応答します。2つ目は「自律型エージェント」で、計画立案、学習、作業項目のエスカレーションなど、タスクやビジネスプロセスを自律的に管理します。3つ目は「事前構築済みエージェント」で、エージェントストアからすぐに使えるエージェントを入手するか、テンプレートからカスタマイズできます。4つ目は「音声エージェント」で、生成AIを活用した音声または電話対応により、ユーザーや顧客を迅速に支援します。カスタマイズ:組織のナレッジとシステム連携カスタマイズ機能では、エージェントを組織固有のニーズに適合させることができます。Work IQというインテリジェンスレイヤーを活用することで、Copilotがユーザー、職務、企業を理解し、ワークフローに合わせたカスタムエージェントを構築できます。Model Context Protocol(MCP)サーバーや1,400以上の外部コネクタも利用可能です。構造化された指示を追加することで、エージェントの応答方法について明確なガイドラインを設定できます。プロンプトの使用、書式設定ルール、要約などを指定し、一貫性と正確性を確保します。フロー、プロンプト、APIなどのツールを通じてユーザーに代わってアクションを実行するエージェントも構築できます。複雑なプロセスには、マルチエージェントオーケストレーションで専門知識や特定アクションが必要な場合にタスクを適切なエージェントに転送することも可能です。展開:多様なチャネルへの公開展開機能では、エージェントを多様なチャネルに公開できます。Microsoft Teams、SharePoint、Microsoft 365 Copilotなど、従業員が毎日使用するMicrosoft 365アプリに直接展開可能です。WebアプリやメッセージングプラットフォームなどのWebサイトやソーシャルチャネルにも埋め込めます。カスタムアプリやワークフローとの統合により、基幹業務プロセスを強化することも可能です。管理:ガバナンスと効果測定管理機能では、エージェントのライフサイクル全体を統制できます。Power Platform管理センターから、データの保護、エージェントの作成と共有の管理、影響の測定を一元的に行えます。専用開発環境の管理、エージェントライフサイクル管理制御の導入、エージェント支出状況の監視も可能です。分析とレポート機能では、エージェントの準備状況と採用状況を追跡できます。Microsoft Purview、Power Platform管理センター、Viva Insightsを通じてエージェントのROIを追跡し、効果を可視化します。機密情報の保護、AIセキュリティの確保、コンプライアンスの維持にはPower Platformのガバナンスツールを活用できます。業種別ユースケースCopilot Studioは、金融、人事、カスタマーサービス、情報技術、法務など、幅広い業種で活用できます。各業種に特化したエージェントを構築することで、業務効率化と品質向上を実現できます。金融分野では「貸借対照表調整エージェント」が活用されています。このエージェントは差異を検出し、正確な貸借対照表を維持しながら修正を自動化します。人事分野では「人事採用アシスタントエージェント」が候補者のスクリーニングと最適な候補者のハイライトを行い、採用プロセスを迅速化します。カスタマーサービス分野では「パーソナライズされたクロスセル・アップセルエージェント」が顧客の好みを把握し、個別化された提案を提供します。情報技術分野では「ITサポートエージェント」がチケットの受付・作成、分類、コミュニケーションを自動化します。法務分野では「自動契約書レビューエージェント」がリスク、逸脱、問題を検出し、変更を提案することで法務レビューを加速します。海外企業の導入事例海外では、金融、小売、製造、医薬品など幅広い業界でCopilot Studioの導入が進んでいます。各社は顧客対応の自動化、業務プロセスの効率化、知識管理の高度化において具体的な成果を上げています。Holland America Line:顧客対応AIエージェント「Anna」クルーズ会社のHolland America Lineは、顧客対応を強化するためにCopilot Studioでバーチャルエージェント「Anna」を開発しました。同社のEコマース担当シニアディレクターScot Pettit氏は「クルーズの予約は複雑なプロセスになりがちで、予約後も準備方法や追加サービスの理解が容易ではありませんでした」と背景を説明しています。Annaは、新規クルーズの予約支援、既存予約への商品・サービス追加、一般的な質問への回答という3つの主要シナリオに対応します。CRMシステムや予約システムと連携し、自然言語で顧客の質問に24時間対応できます。開発期間はわずか3カ月でした。導入効果として、顧客がAnnaと対話した場合、対話しなかった場合と比較してニーズに合ったクルーズを見つける確率が向上しました。コンタクトセンターへの基本的な問い合わせの削減も見込まれています。Virgin Money:銀行サービスを変革するAIアシスタント「Redi」英国の大手リテール銀行Virgin Moneyは、顧客体験の変革を目指してCopilot Studioで「Redi」を開発しました。Rediは複数のバーチャルアシスタントを統合し、リアルタイムサポートとインテリジェントな自動化を実現しています。Rediの具体的な機能として、カード更新時の住所確認メッセージ送信があります。この機能では、アウトバウンドメッセージに対する顧客エンゲージメント率が54%に達し、対話を開始した顧客の97%がプロセスを完了しています。Virgin MoneyのBizApps CoEリードRuaridh Wallace氏は「旧来のチャットボットから会話型バンキングへ移行し、複数のバーチャルアシスタントを単一のスマートな体験に統合できました」と成果を述べています。同社はこの取り組みで「金融サービスにおけるAI活用ベスト賞」を受賞しました。Pacific Gas & Electric:チャットボットで年間110万ドル以上を削減米国の大手電力・ガス会社PG&Eは、Copilot Studio(旧Power Virtual Agents)で構築したチャットボット「Peggy」により、ヘルプデスク業務を大幅に効率化しました。同社はPower Platform全体を活用した業務自動化にも取り組んでおり、デジタル生産性センターオブエクセレンス(CoE)を設立して4,300人以上の開発者を育成しています。Peggyは、従業員からの問い合わせに直接回答するか、適切なリソースへ誘導するチャットボットです。ヘルプデスク需要の25〜40%をPeggyが自動処理しており、この自動化だけで年間110万ドル以上のコスト削減に貢献しています。SAPアカウントのロック解除リクエスト処理では年間840時間を節約しています。同社は生成AIの活用も進めています。Copilot Studioの生成回答機能を使用することで、Peggyは企業のナレッジベースに自動アクセスし、スクリプトなしでより多くの質問に回答できるようになる予定です。Amgen:6週間でR&D支援エージェントを構築バイオテクノロジー企業のAmgenは、研究開発における知識管理の課題を解決するためにCopilot Studioを活用しました。同社のR&Dナレッジ&ラーニング担当エグゼクティブディレクターBryan Yee氏は「過去の治験デザインや特定の分子に関するリソースを検索すると、大量のリンクが返ってきて、それを一つずつ確認する必要がありました。これには何時間も、時には何日もかかることがありました」と課題を説明しています。Amgenの技術チームは、Copilot Studioを使用してわずか6週間で「Catalyst Copilot」を開発しました。このエージェントは、同社のナレッジマネジメントプラットフォーム「Catalyst」に組み込まれ、大量の情報を推論・分析し、自然言語インターフェースで回答を提供します。Catalyst Copilotにより、創薬担当者は組織の集合知にこれまでより早くアクセスできるようになりました。「どこに情報があるか」という段階から「すでに何がわかっているか」という段階へ直接進めるようになり、創薬サイクルの短縮に貢献しています。Dow:貨物請求書分析の自動化で数百万ドルを節約素材科学企業のDowは、Copilot Studioを活用して貨物請求書の分析プロセスを自動化しました。同社は年間数十億ドルを輸送費に費やしており、請求書に埋もれた誤った料金や検出されないエラーが課題でした。Dowは2種類のAIエージェントを構築しました。1つ目は、メールで届くPDF請求書を監視し、データを構造化して分析する自律型エージェントです。2つ目は、自然言語でデータと対話できるプロンプト応答型の「Freight Agent」です。プルーフオブコンセプト段階のわずか数週間で、エージェントは数千件の請求書を分析し、異常を検出して潜在的な節約機会を特定しました。全モードでのグローバル展開後、初年度で数百万ドルの輸送コスト削減が見込まれています。同社は物流・運用に影響を与える100以上のエージェント活用ユースケースを特定しています。Pets at Home:不正検知の効率を10倍に向上英国最大のペットケア企業Pets at Homeは、Copilot Studioで小売不正検知エージェントを開発しました。同社は約450の実店舗、小売サイト、約450の動物病院、グルーミングサービスを運営しており、データの統合と活用が課題でした。不正検知エージェントは、大量のデータを迅速にふるい分け、同じ写真が異なる人物によって複数回使用されているケースなど、体系的な不正を検出します。同社のシニアフロードマネージャーKay Birkby氏は「異常やパターンを発見することで、不正行為の特定だけでなく、製品に問題がないかを確認すべきケースも見つけられます」と述べています。導入効果として、不正検知のスピードが10倍に向上し、1日あたりの処理ケース数が20倍に増加しました。国内企業の導入事例国内でも、大手企業を中心にCopilot Studioおよび関連するMicrosoft Copilot製品の導入が進んでいます。Copilot Studioによるエージェント構築事例と、Microsoft 365 Copilotによる生産性向上事例をそれぞれ紹介します。Copilot Studioの導入事例ベネッセホールディングス:社内相談AIで問い合わせ対応を効率化ベネッセホールディングスは、新企画立案時の社内相談業務を効率化するためにCopilot Studioで「社内相談AI」を構築しました。新企画の立ち上げ時には経理・財務・法務・情報セキュリティなど多岐にわたる部門への相談が必要となり、それが新事業発足の足かせになっていたことが背景です。同社は2023年10月にオリジナル版の社内相談AIをリリースしましたが、新規データセットの再投入やログ分析をクイックに反映することが難しいという課題がありました。そこで2024年2月にCopilot Studio版へ移行しました。データソースは各部門のマニュアルを中心に約750ページです。Copilot Studio版の導入効果として、回答精度が81%から86%に向上しました。ノーコードで構築できることに加え、利用状況や回答精度の良し悪しが具体的にわかるため改善しやすい点がメリットです。同社専務執行役員CDXO橋本英知氏は「24年度内にCopilot Studioで簡単な質問を解決できること、翌年には一部の手続きのAI化を目標にしている」と述べています。Microsoft CopilotとAzure AIの導入事例(参考)以下は、Copilot Studioと関連するMicrosoft CopilotおよびAzure AIの活用事例です。伊藤忠商事:データ分析基盤とAIの連携で商品企画を支援伊藤忠商事は、Microsoft Copilotを全社的に導入し、業務効率化と新たなビジネスモデルの創出を目指しています。繊維、食料、情報、金融など多岐にわたる事業を展開する同社では、各部門で生み出される膨大なデータの分析・活用が課題でした。特に食料カンパニーでは、既存のデータ分析基盤「FOODATA」にAzure AIを組み込み、Copilotと連携させることで、商品企画・開発プロセスにおけるデータ活用を飛躍的に向上させました。Copilotが市場トレンドや消費者ニーズを分析し、新商品のコンセプト立案やキャッチフレーズ作成を支援します。商品のパッケージデザインのイメージ生成など、これまで言語化が難しかった業務もサポートしています。導入効果として、これまで一部の専門家しか扱えなかったデータ分析が、現場社員レベルでも容易に実現できるようになりました。データに基づいた迅速な意思決定が可能となり、業務効率が大幅に向上しています。同社はCopilotを「商いの未来」を創造するパートナーと位置づけ、全社的な活用を推進しています。Microsoft 365 Copilotの導入事例(参考)以下は、Copilot Studioとは別製品であるMicrosoft 365 Copilotの導入事例です。Copilot Studioがエージェント構築プラットフォームであるのに対し、Microsoft 365 CopilotはOfficeアプリケーションに組み込まれたAIアシスタントです。デンソー:3段階展開で30,000人への全社導入を決定自動車部品メーカーのデンソーは、Microsoft 365 Copilotを3段階のステップで展開しました。同社ITデジタル本部デジタル活用推進部長の白井智明氏は「AIを当たり前に活用する風土・働き方変革を一気に進めていきたい」と導入の背景を説明しています。第1ステップとして2023年10月にIT部門と各部門の有志300人で先行利用を実施し、ひとりあたり月12時間の業務時間削減を確認しました。第2ステップとして2024年4月に各部門長と選出社員6,000人に拡大しました。第3ステップとして2024年7月に本社30,000人への本格導入が決断されています。導入効果として、時間削減に加えて品質向上面でも成果がありました。設計部門では、Microsoft 365 Copilotから社内に蓄積されたデータを基にこれまで気づかなかった注意点などのアドバイスを得ることができ、設計品質の向上につながった事例があります。同社ではプロンプトと回答例を掲載した社内利用事例集を作成し、全社への浸透を図っています。住友商事:日本企業初のグローバル全社導入住友商事は、日本企業として初めてグローバル全社でCopilot for Microsoft 365を導入しました。同社デジタル戦略推進部長の塩谷渉氏は「使わない人たちにこそ、自身の生産性や創造性を高めるために使ってもらわなければならない」という経営層の強い思いが全社導入の背景にあったと説明しています。2023年9月にEAP(Early Access Program)で300ライセンスを先行導入し、経営層やIT戦略委員会などで検証を実施しました。EAPでのアンケートでは「満足」との回答が7割を占めました。2024年4月には全従業員・派遣スタッフに向けて8,800ライセンスを配布しています。定着化に向けて、プロンプトのテンプレート展開、各SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)へのアンバサダー配置、Microsoft Viva Insightsを活用した定量的効果測定など、1年間で定着させるための施策を次々と打ち出しています。まとめMicrosoft Copilot Studioは、AIエージェントを簡単に作成・展開できるプラットフォームとして、国内外の企業で導入が進んでいます。顧客対応の自動化ではHolland America LineやVirgin Moneyが成果を上げ、業務プロセスの効率化ではPG&Eが年間110万ドル以上、Dowが数百万ドル規模のコスト削減を見込んでいます。知識管理の高度化ではAmgenが創薬サイクルの短縮に成功しています。国内ではベネッセホールディングスがCopilot Studioで社内相談AIを構築し、回答精度を向上させました。Copilot Studioの利点は、ノーコード・ローコードでエージェントを構築でき、利用状況や回答精度を可視化して継続的に改善できる点です。URLを指定するだけで公開Webサイトや社内イントラサイトからCopilotを作成でき、SharePoint、Teams、Webサイトなど多様なチャネルへの展開も容易です。導入を成功させるポイントは3つあります。1つ目は、最大の業務課題を特定してからAIを適用することです。2つ目は、組織のデータと既存システムとの連携を重視することです。3つ目は、スモールスタートで効果を検証してから全社展開することです。Fortune 500の90%がCopilot Studioを選択しており、AIエージェントによる業務変革は今後さらに加速すると見込まれます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【令和8年度診療報酬改定】安心・安全で質の高い医療の推進|9つの重点施策を徹底解説
中央社会保険医療協議会(中医協)総会第640回において、令和8年度診療報酬改定に向けた「これまでの議論の整理(案)」が示されました。本稿では、このうち「Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進」について解説します。今回の改定案では、患者安全体制の強化、医療DXの推進、救急・小児・がん・精神医療などの重点分野の充実、感染症対策、歯科医療、薬局機能、イノベーション評価の9分野で見直しが行われます。身体的拘束の最小化に向けた新評価の創設、オンライン診療の拡大、電子処方箋の活用促進など、医療の質向上と患者の利便性向上を両立させる施策が盛り込まれています。患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価患者が安心して医療を受けられる体制を整備するため、治療と仕事の両立支援、医療技術の評価見直し、検査体制の充実など多岐にわたる施策が示されています。療養・就労両立支援指導料については、対象患者、算定可能な期間及び評価が見直されます。健康診断や検診、予防接種等の受診後に保険診療を実施する場合の初再診料等の算定方法も明確化されます。手術等の医療技術については、医療技術評価分科会の検討結果を踏まえた新規技術の評価が行われます。新規医療材料等として保険適用され現在準用点数で行われている医療技術にも新評価が設けられます。外保連試案を参考にした評価見直し、整形外科領域のKコード分類の見直しも実施されます。ロボット手術については、年間手術実績に応じた新評価が創設され、高額医療機器の効率的活用と集約化が図られます。全身麻酔の評価は、麻酔の深度、気道確保デバイスの有無及び麻酔管理体制に応じた評価に見直されます。ゲノム医療については、遺伝学的な情報に基づく療養指導の回数等の要件が見直されるとともに、指定難病の診断に必要な遺伝学的検査の対象疾患が拡大されます。検査関連では、フィブリノゲン製剤の適正使用のための迅速測定、新規臨床検査として保険適用され現在準用点数で行われている検査、骨粗鬆症治療管理での骨塩定量検査、近視進行抑制薬の処方に係る検査について評価の見直しや新設が行われます。検体検査管理加算の要件見直しやカルタヘナ法遵守のための新評価も導入されます。心不全治療については、急性心不全で入院した患者に対する早期からの多職種介入と退院後の地域連携による治療継続に新評価が設けられます。透析医療では、人工腎臓における災害対策やシャントトラブル連携について新評価が設けられます。経皮的シャント拡張術・血栓除去術については、シャント閉塞及び高度なシャント狭窄とその他の場合の治療効果の違いを踏まえ算定要件が見直されます。腹膜透析についても、基幹病院とかかりつけ医師の連携により在宅自己腹膜灌流指導管理料の算定要件が見直されます。身体的拘束の最小化の推進身体的拘束の最小化は、患者の尊厳を守る観点から重要な取組です。質の高い取組を行う場合の体制について新たな評価が創設されるとともに、身体的拘束を行った日の入院料評価が見直されます。認知症ケア加算については、認知症を有する患者へのアセスメントやケアの充実を図りながら身体的拘束の最小化を推進する観点から評価が見直されます。医療安全対策の推進医療安全対策加算については、患者への安心・安全な医療提供を更に推進する観点から、要件及び評価が見直されます。アウトカムにも着目した評価の推進医療の質を客観的に評価するため、アウトカム評価の推進とデータ活用が進められます。回復期リハビリテーション病棟では、リハビリテーション実績指数の算出方法及び除外対象患者の基準が見直されます。入院基本料や特定入院料における平均在院日数、在宅復帰率の計算対象も明確化されます。短期滞在手術等基本料3を算定する患者は特定入院料の患者割合等の計算から除外されます。また、1病棟で届け出ることのできる特定入院料の種類数が明確化されます。データを活用した診療実績による評価の推進データ提出加算に係る届出を要件とする入院料の範囲が拡大されます。外来医療についてもデータ提出に係る評価が見直されます。在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料及び終夜睡眠ポリグラフィーの要件・評価も見直されます。医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価医療DX関連施策の進捗状況を踏まえ、診療録管理体制加算、医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の評価が見直されます。普及した関連サービスの活用を基本としつつ、更なる活用による質の高い医療提供が評価されます。電子処方箋システムによる重複投薬等チェックの利活用の推進向精神薬の処方実態を踏まえ、情報通信機器を用いた診療において向精神薬を処方する場合には、電子処方箋管理サービス等による重複投薬等チェックが要件化されます。情報通信機器を用いた医学管理において重複投薬等チェックを行い電子処方箋を発行する場合には、新たな評価が設けられます。外来、在宅医療等、様々な場面におけるオンライン診療の推進情報通信機器を用いた診療の施設基準には、チェックリストのウェブサイト等への掲示及び医療広告ガイドラインの遵守等が追加されます。D to P with Nによるオンライン診療については、診療時の看護職員の訪問に関する評価、訪問看護療養費等との併算定方法、検査及び処置等の算定方法が明確化されます。D to P with Dについては、遠隔連携診療料の対象疾患が見直されるとともに、入院及び訪問診療における新評価が創設されます。情報通信機器等を用いた外来栄養食事指導について、電話による指導の評価が見直されるとともに、情報通信機器による指導のみでの算定も可能となります。不随意運動症に対する脳深部刺激療法の遠隔プログラミングについても新評価が設けられます。在宅療養指導料については、在宅自己注射指導管理料を算定している患者及び慢性心不全の患者に係る要件が見直されます。プログラム医療機器等指導管理料にも情報通信機器を用いた場合の規定が設けられます。質の高いリハビリテーションの推進リハビリテーションの質向上のため、退院時指導、医療機関外でのリハビリ、訓練内容に応じた評価など多面的な見直しが行われます。退院時リハビリテーション指導料の対象患者の要件が見直されます。医療機関外における疾患別リハビリテーション料の上限単位数も見直されます。運動器リハビリテーション料等の算定単位数上限が緩和される対象患者も見直されます。疾患別リハビリテーション料については、訓練内容に応じた評価に見直されます。リハビリテーション総合計画評価料の評価等は書類簡素化の観点から見直されます。リンパ浮腫複合的治療料も実態に即した評価に見直されます。発症早期からのリハビリテーション介入の推進入院直後における早期リハビリテーション介入を推進する観点から、より早期に開始するリハビリテーションが評価されます。土日祝日のリハビリテーション実施体制の充実休日であっても平日と同様のリハビリテーションを推進する観点から、休日におけるリハビリテーションについて新たな評価が設けられます。重点的な対応が求められる分野への適切な評価救急、小児・周産期、がん、精神、難病の各分野について、専門性に応じた評価の見直しが行われます。救急医療の充実救急医療機関における夜間休日を含めた応需体制の構築を踏まえ、院内トリアージ実施料及び夜間休日救急搬送医学管理料等が見直されます。救急外来医療を24時間提供するための人員・設備・検査体制等に応じた新評価が創設されます。救急患者連携搬送料については、高次救急医療機関と他の医療機関との連携強化、適切な転院搬送の推進の観点から要件及び評価が見直されます。小児・周産期医療の充実周産期医療体制の適切な維持のため、母体・胎児集中治療室管理料の要件が見直されます。新生児特定集中治療室管理料2については、低出生体重児の新規入院患者数に関する実績基準が見直されます。成人移行期の小児について、難病外来指導管理料の要件が見直されます。小児入院医療管理料等及び小児科外来診療料は、高額な検査・薬剤の必要性等を踏まえて見直されます。6歳以上の小児の薬剤調製における無菌製剤処理加算の評価対象も見直されます。分娩件数の減少に伴う産科病棟の混合病棟化等を踏まえ、母子の心身の安定・安全に配慮した産科管理や妊娠・産後を含む継続ケアの体制について新評価が設けられます。質の高いがん医療及び緩和ケアの評価外来腫瘍化学療法診療料については、要件の見直しとともに皮下注射を実施した場合の評価も行われます。がんゲノムプロファイリング評価提供料及び検査は、エキスパートパネル省略可能な症例の知見を踏まえて見直されます。強度変調放射線治療(IMRT)については、遠隔の医師と共同で放射線治療計画を作成できるよう医師配置の要件が見直されます。がん患者指導管理料は、意思決定支援や心理的不安軽減の観点から算定要件が見直されます。遺伝性乳癌卵巣癌症候群について、乳癌・卵巣癌未発症患者への予防的手術のエビデンスを踏まえ、BRCA1/2遺伝子検査及びがん患者指導管理料の要件が見直されます。抗がん剤ばく露リスクを踏まえ、閉鎖式接続器具使用時の無菌製剤処理料に新評価が設けられます。緩和ケアについては、末期呼吸器疾患患者及び終末期腎不全患者を対象に加えた上で、緩和ケア病棟入院料の包括範囲が見直されます。質の高い精神医療の評価急性期等の入院料における精神保健福祉士、作業療法士又は公認心理師の病棟配置について新評価が設けられます。小規模医療機関や病床削減に取り組む医療機関が、多職種配置による質の高い入院医療と地域定着支援を一体的に行う場合の新評価も創設されます。精神科リエゾンチーム加算の要件・評価が見直されます。精神病床入院患者の高齢化に伴う身体合併症への対応として、精神科以外の医師による継続的管理の新評価が設けられます。維持透析を必要とする精神病床入院患者への対応も推進されます。精神科救急医療体制加算の要件・評価が見直されます。精神科救急急性期医療入院料等については、医療保護入院等の割合に係る要件が緊急的な入院医療の必要性等に関する指標に見直されます。精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の医療提供体制普及のため、精神科救急急性期医療入院料等の要件も見直されます。長期入院患者の地域移行推進のため、人員配置基準の低い精神病棟入院基本料の長期入院患者評価が見直されます。精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者、急性期の精神疾患患者及び治療抵抗性統合失調症患者の医療提供体制普及のため、精神科急性期医師配置の要件が見直されます。通院・在宅精神療法の要件・評価が見直されます。同一の精神保健福祉士による継続的な伴走支援を推進するため、病棟に専従配置されている精神保健福祉士に係る要件が見直されます。心理支援加算、認知療法・認知行動療法の要件・評価も見直されます。児童思春期支援指導加算、早期診療体制充実加算の要件・評価が見直されます。情報通信機器を用いた精神療法についても、新たに策定された指針を踏まえて要件が見直されます。公認心理師の養成状況を踏まえ、臨床心理技術者に係る経過措置も見直されます。難病患者等に対する適切な医療の評価脳死臓器提供管理料については、認定ドナーコーディネーターの配置による効果や脳死判定基準改正を踏まえて評価が見直されます。臓器採取術及び臓器移植術、臍帯血移植についても新評価や評価見直しが行われます。抗HLA抗体スクリーニング検査の対象患者は、臓器生着率向上の観点から見直されます。感染症対策や薬剤耐性対策の推進抗菌薬の適正使用推進のため、薬剤感受性検査の要件が見直されるとともに、一部感染症に係る検査の要件も見直されます。感染対策向上加算1については、微生物学的検査室を有する医療機関への新評価が設けられます。結核病棟の維持が困難になっている状況を踏まえ、ユニット化病床やモデル病床等における重症度、医療・看護必要度等の対象患者範囲が見直されます。特定感染症入院医療管理加算及び特定感染症患者療養環境特別加算の対象疾病範囲も見直されます。口腔疾患の重症化予防等の生活の質に配慮した歯科医療の推進障害者歯科治療を専門に担う歯科医療機関の歯科医学的管理について新評価が設けられます。歯科疾患管理料、小児口腔機能管理料及び口腔機能管理料の要件・評価が見直され、対象患者も拡大されます。新製有床義歯管理料の算定単位、歯周病安定期治療及び歯周病重症化予防治療の評価体系、小児保隙装置の調整・修理・製作についても見直しや新評価が行われます。歯科矯正治療については、連続する3歯以上の先天性欠損歯を有する者が対象に追加されます。周術期等口腔機能管理計画策定料等の評価見直し、口腔機能指導加算の評価体系見直し、歯科技工士連携加算の評価範囲・施設基準見直しも行われます。CAD/CAMインレー・冠の活用促進のため、大臼歯の咬合支持等の要件やクラウン・ブリッジ維持管理料の対象範囲が見直されます。局部義歯のクラスプ・バーは原則として貴金属材料以外を使用する運用に見直されます。CAD/CAM冠製作時の光学印象、3次元プリント有床義歯についても新評価が設けられます。歯科点数表については、解釈が示されていない内容の明確化、類似項目や算定実績がない項目の整理、算定告示と算定要件の整合、麻酔薬剤料が算定できない項目の整理が行われます。歯科固有の技術についても、医療技術評価分科会等での検討結果、歯科技工料調査の結果、臨床現場の実態を踏まえた評価・運用の見直しが行われます。地域の医薬品供給拠点としての薬局に求められる機能に応じた適切な評価「患者のための薬局ビジョン」策定から10年が経過した現状を踏まえ、調剤基本料が見直されます。立地依存から脱却し薬剤師の職能発揮を促進する観点での見直しです。特別調剤基本料Aの対象薬局の要件、地域支援体制加算の要件も見直されます。調剤管理料については、内服薬の調剤日数による4区分が見直されます。重複投薬・相互作用等防止加算等、かかりつけ薬剤師指導料及び服薬管理指導料の評価体系も見直されます。保険薬局におけるインフルエンザ吸入薬指導について、吸入薬管理指導加算の要件・評価が見直されます。服用薬剤調整支援料も要件・評価が見直されます。調剤報酬の簡素化のため、類似する算定項目の統合も行われます。イノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の確保等医薬品・医療機器等のイノベーションの適切な評価と安定供給確保のため、「令和8年度薬価制度改革の骨子」及び「令和8年度保険医療材料制度改革の骨子」に基づく対応が行われます。まとめ令和8年度診療報酬改定における「安心・安全で質の高い医療の推進」は、患者安全体制の強化から医療DXの推進、重点分野の充実まで9分野にわたる包括的な見直しとなっています。身体的拘束の最小化やオンライン診療の拡大など患者の権利と利便性に配慮した施策、データに基づくアウトカム評価の推進、救急・小児・がん・精神医療など専門分野の充実が図られます。医療機関においては、今後の告示・通知等を注視し、算定要件や施設基準の変更に対応した体制整備を進めることが求められます。 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令和8年度診療報酬改定|2040年に向けた医療提供体制の8つの柱を徹底解説
中央社会保険医療協議会(中医協)総会第640回において、令和8年度診療報酬改定に向けた「これまでの議論の整理(案)」が示されました。この整理案では、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築に向けて、8つの柱から成る具体的な方向性が提示されています。本稿では、この議論の整理案の第Ⅱ章「2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進」の全容を解説します。今回の改定方針における8つの柱は次のとおりです。第1の柱は「入院医療の評価」で、急性期から療養病棟まで各機能に応じた評価体系の見直しが進められます。第2の柱は「治し、支える医療の実現」で、後方支援・入退院支援・高齢者ケアが推進されます。第3の柱は「かかりつけ医機能等の評価」で、医科・歯科・薬剤師の機能強化が図られます。第4の柱は「外来医療の機能分化」で、大病院と診療所の連携が強化されます。第5の柱は「在宅医療・訪問看護の確保」で、重症患者対応と適正化が両立されます。第6の柱は「人口・医療資源の少ない地域への支援」です。第7の柱は「医療従事者確保のための取組」です。第8の柱は「医師の地域偏在対策」です。【第1の柱】入院医療の評価|急性期から療養病棟まで入院医療の見直しは、患者のニーズと病院機能に応じた評価体系の再構築を目指しています。この柱は「患者のニーズ、病院の機能・特性、地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備」と「人口の少ない地域の実情を踏まえた評価」の2つの項目で構成されます。医療提供体制の整備(17項目)急性期医療の評価見直しでは、病院が地域で果たす救急・手術機能に着目した施設基準が新設されます。この新基準では、救急搬送の受入実績や手術件数に基づく体制整備が評価対象となります。重症度、医療・看護必要度についても、救急搬送症例や手術なし症例の適切な評価を進める観点から評価方法が見直されます。総合入院体制加算と急性期充実体制加算は見直され、新たな評価が行われます。人口の少ない地域で救急搬送を担う病院への配慮も行われます。特定機能病院入院基本料については、高度医療提供の拠点機能と地域医療における役割を評価する観点から区分が見直されます。特定集中治療室管理料の見直しでは、7つの改定項目が示されています。第一に、救急搬送件数と全身麻酔手術件数に関する病院実績が要件化されます。第二に、宿日直を行う医師を含む治療室の範囲と施設基準が見直されます。第三に、急性冠症候群治療後や心停止蘇生後患者への処置を踏まえ、重症度・医療・看護必要度の項目が見直されます。第四に、SOFAスコア要件が見直されます。第五に、特定機能病院でも重症患者対応体制強化加算が算定可能となります。第六に、特定集中治療室遠隔支援加算の施設基準が見直されます。第七に、広範囲熱傷特定集中治療管理料の区分が統合・簡素化されます。ハイケアユニット入院医療管理料については、3つの見直しが行われます。救急搬送件数と全身麻酔手術件数に関する病院実績が要件化されます。重症度・医療・看護必要度の項目が見直されます。基準を満たす患者割合の要件も見直されます。救命救急入院料は、簡素化の観点から区分が統合・整理されます。脳卒中ケアユニット入院医療管理料についても、医療機能に係る実績に応じた要件見直しが行われます。地域包括医療病棟では、高齢者の中等症までの救急疾患等の幅広い受入を推進するため、複数の見直しが行われます。平均在院日数、ADL低下割合、重症度・医療・看護必要度の基準が見直されます。医療資源投入量や急性期病棟の併設状況に応じた評価が導入されます。リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的取組を推進する観点から、加算体系も見直されます。回復期リハビリテーション病棟入院料については、より質の高いリハビリテーション医療を推進する観点から施設基準と要件が見直されます。回復期リハビリテーション入院医療管理料と特定機能病院リハビリテーション病棟入院料も同様の見直し対象となります。療養病棟入院基本料では、患者の病態や医療資源投入量をより適切に反映させる見直しが行われます。医療区分2または3に該当する疾患や状態、処置等の内容が見直されます。療養病棟入院料2については、医療区分2・3の患者割合が引き上げられます。障害者施設等入院基本料では、2つの見直しが行われます。重度の肢体不自由児(者)に該当しない廃用症候群に係る評価が見直されます。看護補助加算と看護補助体制充実加算についても、看護職員と看護補助者の業務分担・協働および夜間の負担軽減を推進する観点から評価が見直されます。入院料全般に関わる見直しとして、薬剤料が包括されない薬剤と注射薬の範囲が見直されます。DPC/PDPSについては、医療の標準化・効率化を推進する観点から、診断群分類点数表の改定、医療機関別係数の設定、算定ルールの見直しが行われます。短期滞在手術等基本料については、手術の外来移行を促すとともに実態に即した評価を行うため、対象手術の追加と要件・評価の見直しが行われます。地域加算については、令和6年人事院勧告における地域手当の見直しに伴い、対象地域と評価が見直されます。人口の少ない地域の実情を踏まえた評価(3項目)人口の少ない地域への配慮では、3つの対応が示されています。医療資源の少ない地域に配慮した評価では、対象地域と経過措置が見直されます。人口の少ない地域における外来・在宅医療の確保では、地域の外来・在宅診療の確保に係る支援を行い、病状急変時に緊急入院患者を受け入れる体制を有する医療機関に対して新たな評価が創設されます。歯科医療が十分に提供されていない地域等では、地方自治体等と連携して実施する歯科巡回診療車を用いた巡回診療に対して新たな評価が創設されます。【第2の柱】「治し、支える医療」の実現「治し、支える医療」の実現に向けて、3つの領域での取組が示されています。在宅療養患者や介護保険施設入所者の後方支援、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的推進が柱となります。後方支援機能の強化(3項目)後方支援機能の強化では、3つの見直しが行われます。協力医療機関と協力対象施設との情報共有・カンファレンスの頻度が見直され、業務効率化が図られます。地域包括医療病棟入院料と地域包括ケア病棟入院料については、高齢者救急・在宅医療・介護保険施設の後方支援体制と実績を持つ医療機関がさらに評価されます。地域包括ケア病棟の初期加算については、対象患者の範囲・評価・退院支援に係る包括範囲が見直されます。円滑な入退院の実現(4項目)円滑な入退院の実現では、4つの取組が進められます。入退院支援加算等については、関係機関との連携、生活に配慮した支援、入院前からの支援を強化する観点から評価・要件が見直されます。介護支援等連携指導料については、居宅介護支援事業所等の介護支援専門員等との連携強化の観点から要件が見直されます。回復期リハビリテーション病棟入院料には、高次脳機能障害患者の退院支援体制に係る要件が追加されます。感染対策向上加算等については、介護保険施設等への専門的助言を促進する観点から要件が見直されます。リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的推進(4項目)リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的取組では、4つの見直しが行われます。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の算定要件が見直されます。地域包括医療病棟のリハビリテーション・栄養・口腔連携加算も同様に見直されます。地域包括ケア病棟でもリハビリテーション・栄養・口腔連携加算が算定可能となります。摂食嚥下機能回復体制加算の施設基準における言語聴覚士の専従要件や実績の計算方法が見直されます。療養病棟入院基本料における経腸栄養管理加算についても、対象となる患者の要件が見直されます。医科歯科連携については、入院患者の口腔状態への対応を推進する観点から新たな評価が創設されます。医科点数表により診療報酬を算定する保険医療機関が歯科医療機関と連携体制を構築し、入院患者が歯科診療を受けられるよう連携した場合が評価対象となります。歯科訪問診療についても、医科保険医療機関からの依頼に基づく入院患者への実施に対して新たな評価が創設されます。【第3の柱】かかりつけ医機能等の評価(8項目)かかりつけ医機能、かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能の評価では、8つの見直しが示されています。医科、歯科、薬局のそれぞれについて、機能強化と適切な評価が図られます。かかりつけ医機能については、3つの見直しが行われます。機能強化加算の要件等が見直され、体制整備が推進されます。生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)が見直され、質の高い疾病管理が推進されます。特定疾患療養管理料については、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師による計画的な療養管理を適切に評価する観点から、対象疾患の要件が見直されます。地域包括診療加算等については、2つの観点から見直しが行われます。対象疾患を有する要介護高齢者等への継続的・全人的な医療を推進する観点と、適切な服薬指導の実施を推進する観点から、対象患者や要件が見直されます。時間外対応加算については、休日・夜間等の問い合わせや受診への対応体制整備を推進する観点から評価が見直されます。かかりつけ歯科医機能については、2つの見直しが行われます。歯科疾患管理料、小児口腔機能管理料、口腔機能管理料の要件と評価が見直されます。小児口腔機能管理料と口腔機能管理料については、対象患者の範囲も拡大されます。歯周病治療については、ライフコースを通じた継続的・効果的な治療を推進する観点から、歯周病安定期治療と歯周病重症化予防治療の評価体系が見直されます。かかりつけ薬剤師機能については、本来の趣旨に立ち返り、普及と患者による選択を促進する観点から見直しが行われます。かかりつけ薬剤師指導料と服薬管理指導料の評価体系が見直されます。【第4の柱】外来医療の機能分化と連携(3項目)外来医療の機能分化と連携では、大病院と地域のかかりつけ医機能を担う医療機関との連携による逆紹介の推進が図られます。3つの見直しを通じて、外来機能の明確化と医療機関間の連携が推進されます。紹介患者・逆紹介患者の割合が低い特定機能病院等については、2つの見直しが行われます。紹介状なしで受診した患者等に係る初診料と外来診療料について、逆紹介割合の基準が引き上げられます。初診料と外来診療料が減算となる対象患者については、頻繁に再診を受けている患者を含むよう見直されます。診療所または許可病床数200床未満の病院については、新たな評価が創設されます。特定機能病院等からの紹介を受けた患者に対する初診を行った場合が評価対象となります。連携強化診療情報提供料については、評価体系が見直されます。病院の専門医師と地域のかかりつけ医師が連携しながら共同で継続的に治療管理を行う取組が推進されます。【第5の柱】質の高い在宅医療・訪問看護の確保在宅医療・訪問看護の確保では、適正な提供体制の構築と質の高い医療提供の両立が図られます。訪問看護の運営基準見直し、重症患者対応の評価、過疎地域への支援など、多岐にわたる改定が行われます。訪問看護の適正化に向けた基盤整備(3項目)訪問看護の適正化に向けて、3つの基盤整備が行われます。訪問看護ステーションに作成を求めている記録書の記載内容が明確化されます。指定訪問看護の運営基準に、安全管理と適正な請求等に関する新たな規定が設けられます。療養担当規則において、保険医療機関が特定の訪問看護ステーション等を利用させる対価として財産上の利益を収受することを禁止する規定が新設されます。重症患者対応を担う医療機関・薬局の評価(13項目)地域において重症患者の訪問診療や在宅看取り等を担う医療機関・薬局の評価では、13項目の見直しが行われます。在宅緩和ケア充実診療所・病院加算については、名称変更と要件・評価の見直しが行われます。往診時医療情報連携加算の要件が見直され、24時間の在宅医療提供体制を面として支える取組が推進されます。退院直後の訪問栄養食事指導に対する新たな評価が創設されます。連携型の機能強化型在宅療養支援診療所については、自ら医療提供体制を確保している時間に応じた評価が導入されます。在宅療養支援診療所と在宅療養支援病院については、災害時における在宅患者への診療体制確保の観点から要件が見直されます。在宅時医学総合管理料と施設入居時等医学総合管理料については、患者の医療・介護の状態を踏まえた適切な訪問診療の提供、安心・安全な医療提供体制の確保の観点から要件が見直されます。在宅療養指導管理材料加算の算定要件も見直されます。医師と薬剤師の同時訪問については、ポリファーマシー対策と残薬対策を推進する観点から新たな評価が創設されます。残薬対策については、地域包括診療加算等並びに在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の要件が見直されます。指定訪問看護の運営基準においても残薬対策に係る取組が明確化されます。へき地における在宅医療の提供体制を確保する観点から、在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の要件が見直されます。在宅歯科医療については、6つの見直しが行われます。歯科訪問診療1の評価が見直され、急遽診療する必要が生じた場合の運用が明確化されます。歯科訪問診療4と歯科訪問診療5には新たな施設基準が設けられます。在宅療養支援歯科病院の施設基準が見直され、歯科診療所からの依頼により患者を受け入れた場合の実績が要件に加えられます。在宅療養支援歯科診療所と在宅療養支援歯科病院には、歯科訪問診療の研修・教育体制が要件に加えられます。訪問歯科衛生指導料は、指導人数に応じた評価と特別の関係の施設等に対する評価の適正化が図られます。在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料の要件が見直されます。在宅薬剤管理指導については、2つの見直しが行われます。在宅薬学総合体制加算については、高度な在宅訪問薬剤管理指導を含む必要な体制整備の観点から要件と評価が見直されます。在宅患者訪問薬剤管理指導料については、円滑な実施と実効性の改善に向けて要件が見直されます。重症患者等への訪問看護の評価(8項目)重症患者等への訪問看護の評価では、8つの見直しが行われます。特別地域訪問看護加算については、過疎地域等における遠方への移動負担を考慮し、対象となる訪問の要件が見直されます。在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料を算定する利用者については、訪問看護基本療養費等を算定できる回数が見直されます。ICTを活用した診療情報等の活用に対して新たな評価が創設されます。精神科訪問看護については、支援ニーズの高い利用者への対応を担う訪問看護ステーションに対する機能強化型の新たな評価が創設されます。乳幼児加算の評価が見直されます。訪問看護管理療養費の評価が見直されます。訪問看護基本療養費(Ⅱ)等とその加算については、訪問日数や訪問人数等に応じたきめ細かな評価に見直されます。高齢者住まい等に併設・隣接する訪問看護ステーションについては、包括評価体系が新設されます。【第6の柱】人口・医療資源の少ない地域への支援(4項目・再掲)人口・医療資源の少ない地域への支援では、4つの対応が示されています。これらはいずれも他の柱で示された内容の再掲となります。医療資源の少ない地域に配慮した評価については、対象地域と経過措置が見直されます(第1の柱で再掲)。人口の少ない地域における外来・在宅医療提供機能の確保に向けた新たな評価が創設されます(第1の柱で再掲)。へき地における在宅医療の提供体制を確保する観点から、在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の要件が見直されます(第5の柱で再掲)。歯科医療が十分に提供されていない地域等では、歯科巡回診療に対する新たな評価が創設されます(第1の柱で再掲)。【第7の柱】医療従事者確保のための取組(再掲)医療従事者確保の制約が増す中で必要な医療機能を確保するための取組については、2つの項目が示されています。これらはいずれも第Ⅰ章で詳述されている内容の再掲となります。業務の効率化に資するICT・AI・IoT等の利活用の推進が進められます(Ⅰ-2-2再掲)。タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進が図られます(Ⅰ-2-3再掲)。【第8の柱】医師の地域偏在対策の推進(3項目)医師の地域偏在対策の推進では、3つの対応が示されています。医療資源の少ない地域に配慮した評価については、対象地域と経過措置が見直されます(第1の柱で再掲)。人口の少ない地域における外来・在宅医療提供機能の確保に向けた新たな評価が創設されます(第1の柱で再掲)。新たな対応として、改正医療法に基づく都道府県知事の医療提供要請への対応が評価に反映されます。改正医療法に基づき都道府県知事が行う、地域で不足している医療機能等に係る医療提供の要請に応じず、保険医療機関の指定が3年以内とされた医療機関については、地域医療への寄与が不十分との位置付けであることを踏まえ、機能強化加算、地域包括診療加算、地域包括診療料の対象外とするなど、評価が見直されます。まとめ|2040年に向けた医療提供体制の8つの柱令和8年度診療報酬改定の議論整理案では、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築に向けて、8つの柱から成る具体的な方向性が示されました。第1の柱「入院医療の評価」では、急性期から療養病棟まで各機能に応じた評価体系の見直しが進められます。第2の柱「治し、支える医療の実現」では、後方支援・入退院支援・高齢者ケアが推進されます。第3の柱「かかりつけ医機能等の評価」では、医科・歯科・薬剤師の機能強化が図られます。第4の柱「外来医療の機能分化」では、大病院と診療所の連携が強化されます。第5の柱「在宅医療・訪問看護の確保」では、重症患者対応と適正化が両立されます。第6の柱「人口・医療資源の少ない地域への支援」では、地域の実情に応じた柔軟な対応が可能となります。第7の柱「医療従事者確保のための取組」では、ICT活用やタスク・シフティングが推進されます。第8の柱「医師の地域偏在対策」では、改正医療法と連動した評価見直しが行われます。今後、中医協における議論を経て、具体的な点数設定や施設基準の詳細が決定されます。医療機関経営者、医療従事者、関係者の皆様におかれましては、引き続き議論の動向にご注目ください。 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【令和8年度診療報酬改定】物価高騰と人材確保への6つの対応策を徹底解説
中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第640回)において、令和8年度診療報酬改定に向けた議論の整理(案)が示されました。医療機関は、持続的な物価高騰により事業収益が悪化し、全産業の賃上げ水準との乖離から人材確保も困難な状況にあります。このメールマガジンでは、「物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応」について、物件費高騰対策と人材確保施策の両面から詳しく解説します。今回の議論の整理では、大きく2つの方向性が示されました。ひとつは、初・再診料等および入院基本料等の見直しを含む物件費高騰への対応です。もうひとつは、処遇改善・ICT活用・タスクシフト・働き方改革・基準柔軟化という5つの柱による医療従事者の人材確保施策です。これらの施策は、医療機関の経営安定と持続可能な医療提供体制の維持を両立させることを目指しています。物件費の高騰を踏まえた対応医療機関等が直面する人件費や医療材料費、食材料費、光熱水費および委託費等の高騰に対応するため、診療報酬の見直しが行われます。この対応は、初・再診料等の見直し、入院時の食費・光熱水費の基準額引き上げ、食事療養の質向上という3つの施策で構成されています。初・再診料等および入院基本料等については、これまでの物価高騰による物件費負担の増加を踏まえた見直しが行われます。加えて、令和8年度および令和9年度における物件費の更なる高騰に対応するため、医療機関が担う医療機能を踏まえた新たな評価が設けられます。この評価では、病院・医科診療所・歯科診療所・保険薬局それぞれの費用関係データに基づく配分が行われ、病院の中でも担う医療機能に応じた傾斜配分が実施されます。入院時の食費および光熱水費については、基準額の引き上げが行われます。食費基準額は1食あたり40円引き上げられ、患者負担については原則40円、低所得者については所得区分等に応じて20円から30円となります。光熱水費基準額は1日あたり60円引き上げられ、患者負担については原則60円、指定難病患者等については据え置きとなります。入院時の食事療養の質向上に向けては、嚥下調整食への新たな評価が設けられます。この評価は、おいしく安全な食形態で適切な栄養量を有する嚥下調整食を提供する医療機関を対象としています。また、多様なニーズに対応できるよう、特別料金の支払を受けることができる食事の要件も見直されます。医療従事者の処遇改善医療従事者の人材確保に向けた取組として、処遇改善施策が強化されます。この施策は、賃上げ評価の見直しと看護職員の夜勤負担軽減という2つの柱で構成されています。賃上げに係る評価については、より実効性の高い仕組みへと見直されます。看護職員、病院薬剤師その他医療関係職種の確実な賃上げを更に推進するとともに、令和6年度診療報酬改定で入院基本料や初・再診料により賃上げ原資が配分された職種(40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師・事務職員・歯科技工所等で従事する者)についても、ベースアップ評価料の対象職種と同様に、実際に支給される給与(賞与を含む)に係る賃上げ措置の実効性が確保される仕組みが構築されます。看護職員の夜勤負担軽減については、組織的な取組を促進する見直しが行われます。看護職員夜間配置加算等において、夜勤に係る負担の軽減や処遇の改善に資する計画を立案し、体制の整備が促進されるよう要件が明確化されます。令和6年度改定では、ICT・AI・IoT等の活用による業務負担軽減が「取り組むことが望ましい」項目として位置づけられており、今回の改定ではこの方向性が更に推進されます。ICT・AI・IoT等の活用による業務効率化業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用が推進されます。この施策は、看護業務の効率化、医師事務作業の効率化、様式・届出の簡素化、および「様式9」の見直しという4つの取組で構成されています。看護業務におけるICT機器等の活用については、配置基準の柔軟化が図られます。見守り、記録および医療従事者間の情報共有に関し、業務効率化に有用なICT機器等を組織的に活用した場合に、入院基本料等に規定する看護職員の配置基準が柔軟化されます。実態調査によれば、ICT・AI・IoT等の活用が看護職員の業務負担軽減に「効果がある」「どちらかと言えば効果がある」と答えた割合は約7割に達しており、転倒・転落予測システムAIやスマートグラスと見守りカメラの導入など、具体的な効率化事例も報告されています。医師事務作業補助体制加算については、ICT等の活用による業務効率化・負担軽減等の業務改善推進の観点から、人員配置基準が柔軟化されます。医師事務作業補助者が実施している業務のうち、紹介状の返書の下書きや診療情報提供書の作成などについては、生成AIによる文書作成補助システムの活用が想定されており、診断書作成支援システムやRPA(定型業務自動化システム)、音声入力なども活用が進んでいます。様式・届出の簡素化については、診療に係る様式の簡素化や署名・記名押印の見直し、施設基準等に係る届出や報告事項の見直しが行われます。「様式9」については、医療現場の実態を踏まえ、病棟における勤務時間に算入できる内容の見直しとともに、小数点以下の処理方法を含む注意事項の記載が整理されます。タスク・シェアリング/タスク・シフティングとチーム医療の推進更なる生産年齢人口の減少に伴う医療従事者確保の制約に対応するため、多職種協働による病棟業務体制が評価されます。この評価は、患者像に合わせた専門的な治療やケアを提供しながら、患者のADLの維持・向上等に係る取組を推進することを目的としています。重症度、医療・看護必要度の高い高齢者等が主に入棟する病棟において、看護職員や他の医療職種が協働して病棟業務を行う体制について、新たな評価が行われます。実態調査によれば、看護補助者や他職種との業務分担は、看護職員の業務負担軽減策として最も効果が高いと評価されています。入退院支援部門のスタッフ(MSW等)との業務分担、看護補助者との業務分担、病棟クラークの配置、PT・OT・STとの業務分担などが、特に効果的な取組として挙げられています。医師の働き方改革の推進と診療科偏在対策医師の働き方改革を推進しつつ、診療科偏在の是正を図るための対応が行われます。この対応は、診療科偏在対策と休日・時間外加算の要件見直しという2つの施策で構成されています。診療科偏在対策については、外科医師の減少等に対応するため、診療科偏在による医師数の減少が課題となっている診療科の医師の勤務環境・処遇の改善を図りつつ、高度な医療を提供する医療機関等への新たな評価が行われます。特定地域医療提供機関および連携型特定地域医療提供機関においては、医師の働き方改革を更に推進しつつ、勤務環境・処遇改善等により医師の診療科偏在を解消して医療提供体制を確保する観点から、地域医療体制確保加算の要件が見直されます。処置および手術に係る休日加算1、時間外加算1および深夜加算1については、医師の働き方改革を推進する観点から要件が見直されます。令和6年度改定では、交代勤務制またはチーム制のいずれかおよび手当に関する要件を満たす必要があることとされ、令和8年5月31日までの経過措置が設けられていました。今回の改定では、この方向性を踏まえた更なる見直しが検討されています。診療報酬上求める基準の柔軟化医療現場を取り巻く人手不足の状況を踏まえ、質の高い医療提供体制の維持と人材確保の両立を図るための基準柔軟化が行われます。この柔軟化は、看護職員の配置基準、専従要件、常勤要件、摂食嚥下機能回復体制加算、およびリハビリテーション提供体制という5つの領域で実施されます。看護職員の配置基準については、やむを得ない事情による一時的な看護職員確保ができない場合の柔軟化が図られます。公共職業安定所や無料職業紹介事業者、適正認定事業者を活用する等により、平時から看護職員確保の取組を行っている医療機関が対象となります。専従要件については、医療安全管理加算、感染対策向上加算および入院栄養管理体制加算における基準が見直されます。常勤要件については、一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律に規定されている1日当たり勤務時間を踏まえ、常勤職員の常勤要件に係る所定労働時間数が見直されます。摂食嚥下機能回復体制加算については、言語聴覚士の専従要件や実績の計算方法が見直されます。療養病棟入院基本料における経腸栄養管理加算についても、対象となる患者の要件が見直されます。リハビリテーション提供体制については、疾患別リハビリテーションや病棟の業務に専従の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が従事できる業務の範囲が広げられるとともに、明確化されます。まとめ令和8年度診療報酬改定に向けた議論の整理では、物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応として、物件費高騰対策と人材確保施策の両面から包括的な見直しが示されました。物件費高騰への対応では、初・再診料等および入院基本料等の見直しに加え、入院時の食費・光熱水費の基準額引き上げが行われます。人材確保に向けた取組では、処遇改善・ICT活用・タスクシフト・働き方改革・基準柔軟化という5つの柱により、医療従事者の賃上げと業務効率化が推進されます。これらの施策は、今後の中医協における議論を経て具体化されていきます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定の全体像|中医協が示す4つの重点課題と改定方針
中央社会保険医療協議会(中医協)総会は令和8年1月9日、令和8年度診療報酬改定に係る「これまでの議論の整理(案)」を公表しました。この資料は、令和7年12月9日に社会保障審議会医療保険部会・医療部会でとりまとめられた「令和8年度診療報酬改定の基本方針」を踏まえて作成されたものです。今回の議論の整理では、物価高騰への対応と医療従事者の処遇改善、2040年を見据えた医療提供体制の整備、医療DXの推進、医療保険制度の持続可能性向上の4つが重点課題として示されました。具体的には、初・再診料や入院基本料等の見直し、ICT・AI活用による業務効率化、地域包括医療病棟の評価見直し、後発医薬品の使用促進などが主要な改定項目となっています。本稿では、この議論の整理の全体像を解説します。Ⅰ 物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応令和8年度診療報酬改定の第1の柱は、医療機関等が直面する物価高騰と人材確保の課題への対応です。この分野では、診療報酬による経済的支援と業務効率化の両面から施策が講じられます。物件費高騰への対応医療機関等が直面する人件費、医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等の高騰に対して、初・再診料等及び入院基本料等の見直しが行われます。令和8年度及び令和9年度における物件費の更なる高騰にも対応するため、医療機能を踏まえた新たな評価が導入されます。入院時の食費及び光熱水費の基準額も引き上げられ、嚥下調整食への新たな評価や特別料金の要件見直しも実施されます。医療従事者の処遇改善看護職員、病院薬剤師その他医療関係職種の賃上げを更に推進するため、賃上げに係る評価が見直されます。令和6年度改定で入院基本料や初・再診料により賃上げ原資が配分された職種についても、他の職種と同様に賃上げ措置の実効性が確保される仕組みが構築されます。看護職員の夜勤負担軽減を目的として、看護職員夜間配置加算等における負担軽減計画の立案・体制整備に関する要件も明確化されます。ICT・AI・IoT等の利活用推進業務効率化の観点から、ICT機器等を組織的に活用した場合の入院基本料等における看護職員配置基準の柔軟化が図られます。医師事務作業補助体制加算の人員配置基準も柔軟化され、診療に係る様式の簡素化や署名・記名押印の見直し、施設基準等に係る届出・報告事項の見直しも行われます。「様式9」についても、病棟における勤務時間に算入できる内容の見直しや小数点以下の処理方法の整理が実施されます。タスク・シェアリング/タスク・シフティングの推進生産年齢人口の減少に伴う医療従事者確保の制約に対応するため、重症度、医療・看護必要度の高い高齢者等が主に入棟する病棟において、看護職員や他の医療職種が協働して病棟業務を行う体制について新たな評価が行われます。医師の働き方改革と診療科偏在対策外科医師の減少等に対応するため、診療科偏在による医師数減少が課題となっている診療科の医師の勤務環境・処遇改善と、高度医療を提供する医療機関等への新たな評価が導入されます。地域医療体制確保加算の要件見直しや、処置・手術に係る休日加算1、時間外加算1、深夜加算1の要件見直しも実施されます。診療報酬上の基準の柔軟化人手不足の状況下で質の高い医療提供体制を維持するため、公共職業安定所等を活用して平時から看護職員確保の取組を行っているにもかかわらず一時的に確保できない場合の配置基準柔軟化が図られます。医療安全管理加算、感染対策向上加算、入院栄養管理体制加算における専従要件の見直しや、常勤職員の所定労働時間数の見直しも行われます。摂食嚥下機能回復体制加算の言語聴覚士専従要件や、疾患別リハビリテーション等における理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の従事可能業務範囲の拡大・明確化も実施されます。Ⅱ 2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進第2の柱は、2040年頃の医療需要を見据えた医療提供体制の整備です。入院医療、外来医療、在宅医療それぞれにおいて、機能分化と連携の強化が図られます。入院医療の評価見直し地域で病院が果たしている救急搬送受入や手術等の急性期機能に着目し、病院機能に着目した施設基準と新たな評価が導入されます。重症度、医療・看護必要度による評価方法も見直され、総合入院体制加算及び急性期充実体制加算の見直しと新たな評価が行われます。特定機能病院入院基本料の区分見直しも実施されます。特定集中治療室管理料については、救急搬送件数及び全身麻酔手術件数に関する病院実績の要件化、宿日直医師が含まれる治療室の範囲・施設基準見直し、重症度・医療・看護必要度の項目見直し、SOFAスコア要件の見直しなどが行われます。ハイケアユニット入院医療管理料、救命救急入院料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料についても同様の見直しが実施されます。地域包括医療病棟では、高齢者の中等症までの救急疾患等の幅広い受入を推進するため、平均在院日数、ADL低下割合、重症度・医療・看護必要度の基準見直しが行われます。回復期リハビリテーション病棟入院料、療養病棟入院基本料、障害者施設等入院基本料等についても、それぞれの機能に応じた評価の見直しが実施されます。DPC/PDPSについては、診断群分類点数表の改定、医療機関別係数の設定、算定ルールの見直し等が講じられます。人口の少ない地域への配慮医療資源の少ない地域に配慮した評価を適切に行うため、対象地域及び経過措置の見直しが行われます。人口の少ない地域における外来・在宅を含む医療提供機能を確保するため、地域の外来・在宅医療確保の支援を行い緊急入院患者を受け入れる体制を有する医療機関への新たな評価も導入されます。歯科巡回診療車を用いた巡回診療についても新たな評価が行われます。「治し、支える医療」の実現介護保険施設や在宅医療機関の後方支援について、協力医療機関に求めている情報共有・カンファレンスの頻度の見直しが行われます。地域包括医療病棟入院料及び地域包括ケア病棟入院料について、高齢者救急・在宅医療・介護保険施設の後方支援体制及び実績を持つ医療機関を更に評価する仕組みが導入されます。入退院支援では、関係機関との連携、生活に配慮した支援、入院前からの支援を強化するため、入退院支援加算等の評価・要件見直しが行われます。介護支援等連携指導料の要件見直しや、回復期リハビリテーション病棟入院料への高次脳機能障害患者退院支援体制要件の追加も実施されます。リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的取組を更に推進するため、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の算定要件見直しが行われます。入院患者の口腔状態への対応を推進するため、医科点数表により診療報酬を算定する保険医療機関が歯科医療機関と連携体制を構築した場合の新たな評価も導入されます。かかりつけ医機能等の評価かかりつけ医機能に係る体制整備を推進するため、機能強化加算の要件等見直しが行われます。生活習慣病管理料(Ⅰ)及び(Ⅱ)、特定疾患療養管理料、地域包括診療加算等についても、それぞれの目的に沿った要件見直しが実施されます。時間外対応加算の評価見直しも行われます。歯科分野では、歯科疾患管理料、小児口腔機能管理料、口腔機能管理料の要件・評価見直しと対象患者範囲の拡大、歯周病安定期治療及び歯周病重症化予防治療の評価体系見直しが行われます。かかりつけ薬剤師指導料及び服薬管理指導料についても評価体系の見直しが実施されます。外来医療の機能分化と連携紹介患者・逆紹介患者の割合が低い特定機能病院等を紹介状なしで受診した患者等に係る初診料及び外来診療料について、逆紹介割合基準の引き上げや対象患者の見直しが行われます。診療所又は200床未満の病院において特定機能病院等からの紹介を受けた患者に対する初診を行った場合の新たな評価や、連携強化診療情報提供料の評価体系見直しも実施されます。在宅医療・訪問看護の充実訪問看護ステーションに対して、指定訪問看護の実施に係る記録書の記載内容明確化、安全管理や適正請求に関する運営基準への新規定追加が行われます。療養担当規則には、特定の訪問看護ステーション等を利用するべき旨の指示等を行うことの対償として財産上の利益を収受することを禁止する規定が新設されます。在宅緩和ケア充実診療所・病院加算の名称変更・要件・評価見直し、往診時医療情報連携加算の要件見直し、退院直後の訪問栄養食事指導への新たな評価、連携型機能強化型在宅療養支援診療所の評価見直しなどが行われます。在宅療養支援診療所・病院の災害時診療体制確保要件の見直し、在宅時医学総合管理料等の要件見直し、医師・薬剤師同時訪問への新たな評価も導入されます。訪問歯科診療では、歯科訪問診療1の評価見直し、歯科訪問診療4・5の施設基準新設、在宅療養支援歯科病院・歯科診療所の施設基準見直しなどが行われます。在宅薬学総合体制加算、在宅患者訪問薬剤管理指導料の要件・評価見直しも実施されます。訪問看護分野では、特別地域訪問看護加算の対象要件見直し、在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料算定利用者の訪問看護回数見直し、ICTを活用した計画的管理への新たな評価、精神科訪問看護の質向上に係る機能強化型訪問看護ステーションへの新たな評価などが行われます。乳幼児加算の評価見直し、訪問看護管理療養費の評価見直し、訪問看護基本療養費(Ⅱ)等の日数・人数に応じたきめ細かな評価への見直し、高齢者住まい等併設訪問看護ステーションの包括評価体系新設も実施されます。医師の地域偏在対策改正医療法に基づき都道府県知事が行う医療提供要請に応じず保険医療機関の指定が3年以内とされた医療機関については、機能強化加算、地域包括診療加算、地域包括診療料の対象としないなど、評価の見直しが行われます。Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進第3の柱は、患者にとっての安心・安全と医療の質向上です。医療技術の評価、医療DXの推進、重点分野への対応など多岐にわたる施策が講じられます。患者の安心・安全のための体制評価治療と仕事の両立推進の観点から、療養・就労両立支援指導料の対象患者・算定期間・評価の見直しが行われます。健診等受診後の保険診療に係る初再診料等の算定方法の明確化も実施されます。手術等の医療技術については、医療技術評価分科会の検討結果を踏まえた新規技術の評価・既存技術の再評価、新規医療材料等の準用点数からの独立評価、外保連試案を参考にした外科的手術等の評価見直し、STEM7分類に基づく整形外科領域Kコードの分類見直しが行われます。ロボット手術の年間手術実績に応じた新たな評価、全身麻酔の麻酔深度・気道確保デバイス・管理体制に応じた評価見直しも実施されます。遺伝学的検査・療養指導に係る評価の要件見直し、指定難病診断に必要な遺伝学的検査の対象疾患拡大、フィブリノゲン測定への新たな評価、新規臨床検査の独立評価、骨塩定量検査の算定回数見直し、近視進行抑制医薬品処方に係る検査への新たな評価なども行われます。心不全治療による再入院予防を推進するため、急性心不全入院患者への早期多職種介入・退院後地域連携への新たな評価が導入されます。人工腎臓に関する腎代替療法情報提供・災害対策・シャントトラブル連携等への新たな評価、経皮的シャント拡張術・血栓除去術の算定要件見直し、在宅自己腹膜灌流指導管理料の算定要件見直しも実施されます。身体的拘束の最小化身体的拘束の最小化に向けた取組を更に推進するため、質の高い取組を行う場合の体制への新たな評価と、身体的拘束を行った日の入院料評価の見直しが行われます。認知症ケア加算についても評価の見直しが実施されます。医療安全対策の推進患者への安心・安全な医療提供を更に推進するため、医療安全対策加算の要件及び評価の見直しが行われます。アウトカム評価の推進回復期リハビリテーション病棟のリハビリテーション実績指数の算出方法・除外対象患者基準の見直しが行われます。入院基本料・特定入院料における平均在院日数・在宅復帰率の計算対象の明確化、短期滞在手術等基本料3算定患者の特定入院料計算からの除外、1病棟で届出可能な特定入院料種類数の明確化も実施されます。データ提出加算に係る届出を要件とする入院料の範囲拡大、外来医療のデータ提出評価見直し、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料・終夜睡眠ポリグラフィーの要件・評価見直しも行われます。医療DX・ICT連携の推進医療DX関連施策の進捗を踏まえ、診療録管理体制加算、医療情報取得加算、医療DX推進体制整備加算の評価見直しが行われます。電子処方箋システムについては、情報通信機器を用いた診療で向精神薬を処方する場合の重複投薬等チェック要件化、情報通信機器を用いた医学管理で電子処方箋を発行する場合の新たな評価が導入されます。オンライン診療では、チェックリストのウェブサイト掲示・医療広告ガイドライン遵守等の施設基準追加、D to P with Nによる診療時の看護職員訪問評価・併算定方法の明確化、D to P with Dの対象疾患見直し・入院及び訪問診療における新たな評価などが行われます。外来栄養食事指導料の情報通信機器・電話による指導の評価見直し、在宅振戦等刺激装置治療指導管理料の情報通信機器使用時の新たな評価、在宅療養指導料の要件見直し、プログラム医療機器等指導管理料の情報通信機器使用規定新設も実施されます。質の高いリハビリテーションの推進退院時リハビリテーション指導料の対象患者要件見直し、医療機関外における疾患別リハビリテーション料の上限単位数見直し、運動器リハビリテーション料等の上限緩和対象患者見直し、疾患別リハビリテーション料の訓練内容に応じた評価見直しが行われます。リハビリテーション総合計画評価料の評価見直し、リンパ浮腫複合的治療料の評価見直しも実施されます。発症早期からのリハビリテーション介入を推進するため、より早期に開始するリハビリテーションへの評価が導入されます。休日におけるリハビリテーションについても新たな評価が行われます。救急医療の充実救急医療機関における夜間休日を含めた応需体制構築と地域救急医療への取組を踏まえ、院内トリアージ実施料・夜間休日救急搬送医学管理料等の見直しと、救急外来医療を24時間提供するための人員・設備・検査体制等に応じた新たな評価が行われます。救急患者連携搬送料の要件・評価見直しも実施されます。小児・周産期医療の充実母体・胎児集中治療室管理料の要件見直し、新生児特定集中治療室管理料2の低出生体重児新規入院患者数基準見直し、難病外来指導管理料の要件見直し、小児入院医療管理料等・小児科外来診療料の見直しが行われます。分娩件数減少に伴う産科における管理や妊娠・産後を含む継続ケア体制への新たな評価、無菌製剤処理加算の評価対象見直しも実施されます。がん医療・緩和ケアの評価外来腫瘍化学療法診療料の要件見直しと皮下注射実施時の評価、がんゲノムプロファイリング評価提供料・検査の要件・評価見直し、がん診療連携拠点病院等における遠隔医師との放射線治療計画共同作成要件の見直しが行われます。がん患者指導管理料の算定要件見直し、遺伝性乳癌卵巣癌症候群患者へのBRCA1/2遺伝子検査要件見直し、無菌製剤処理料の閉鎖式接続器具使用時の新たな評価も実施されます。緩和ケアについては、末期呼吸器疾患患者及び終末期腎不全患者を対象に加え、緩和ケア病棟入院料の包括範囲見直しが行われます。精神医療の評価急性期等入院料における精神保健福祉士・作業療法士・公認心理師の病棟配置への新たな評価、小規模医療機関等が質の高い入院医療・外来医療・障害福祉サービス等を一体的に提供する場合の新たな評価が導入されます。精神科リエゾンチーム加算の要件・評価見直し、慢性身体合併症への精神科以外医師による診療体制への新たな評価、維持透析を必要とする精神病床入院患者への包括範囲見直しなども行われます。精神科救急医療体制加算の要件・評価見直し、精神科救急急性期医療入院料等の医療保護入院等割合要件の見直し、長期入院患者に対する評価見直し、通院・在宅精神療法の要件・評価見直し、精神保健福祉士の専従配置要件見直しなどが実施されます。心理支援加算、認知療法・認知行動療法の要件・評価見直し、臨床心理技術者に係る経過措置見直し、児童思春期支援指導加算・早期診療体制充実加算の要件・評価見直し、情報通信機器を用いた精神療法の要件見直しも行われます。難病患者等への対応脳死臓器提供管理料の評価見直し、臓器採取術・臓器移植術への新たな評価、臍帯血移植の評価見直し、抗HLA抗体スクリーニング検査の対象患者見直しが行われます。感染症対策・薬剤耐性対策抗菌薬適正使用推進のため、薬剤感受性検査の要件見直しと一部感染症検査の要件見直しが行われます。感染対策向上加算1について、微生物学的検査室を有する医療機関への新たな評価が導入されます。結核病棟のユニット化病床・モデル病床等における重症度、医療・看護必要度等の対象患者範囲見直し、特定感染症入院医療管理加算・特定感染症患者療養環境特別加算の対象疾病範囲見直しも実施されます。歯科医療の推進障害者歯科治療を専門に担う歯科医療機関が歯科医学的管理を行った場合の新たな評価、新製有床義歯管理料の算定単位・要件見直し、小児保隙装置の調整・修理・製作への新たな評価が行われます。歯科矯正治療の対象患者への連続3歯以上先天性欠損歯患者の追加、周術期等口腔機能管理計画策定料等の評価見直しなども実施されます。歯科衛生士による実地指導推進のため口腔機能指導加算の評価体系・要件見直し、歯科技工士連携加算の評価範囲・施設基準見直し、CAD/CAMインレー・CAD/CAM冠の要件見直し、光学印象への新たな評価、3次元プリント有床義歯への新たな評価などが行われます。薬局機能に応じた評価保険薬局が立地に依存する構造から脱却し薬剤師の職能発揮を促進するため、調剤基本料の見直しが行われます。特別調剤基本料Aの対象薬局要件見直し、地域支援体制加算の要件見直し、調剤管理料の見直し、重複投薬・相互作用等防止加算等の見直しも実施されます。吸入薬管理指導加算の要件・評価見直し、服用薬剤調整支援料の要件・評価見直し、類似する算定項目の統合による調剤報酬の簡素化も行われます。イノベーション評価・安定供給確保医薬品・医療機器等のイノベーションの適切な評価や安定供給確保等のため、「令和8年度薬価制度改革の骨子」「令和8年度保険医療材料制度改革の骨子」に基づく対応が行われます。Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上第4の柱は、医療保険制度の持続可能性向上です。後発医薬品の使用促進、費用対効果評価の活用、医薬品の適正使用などの施策が講じられます。後発医薬品・バイオ後続品の使用促進後発医薬品の使用促進等のため、処方等に係る評価体系の見直しが行われます。バイオ後続品使用体制加算の要件見直し、医薬品の安定供給に資する体制への新たな評価、薬局におけるバイオ後続品の調剤体制整備・患者説明への新たな評価が導入されます。長期収載品の選定療養について、後発医薬品の供給状況や患者負担の変化に配慮しつつ、患者負担の見直しが行われます。費用対効果評価制度の活用「令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子」に基づく対応が行われます。市場実勢価格を踏まえた適正な評価「令和8年度薬価制度改革の骨子」「令和8年度保険医療材料制度改革の骨子」に基づく対応が行われます。衛生検査所検査料金調査による実勢価格等を踏まえ、検体検査の実施料等の評価見直しも実施されます。医薬品の適正使用等の推進ポリファーマシー対策が途切れることを防止するため、病院薬剤師による施設間の薬剤情報連携が促進されるよう薬剤総合評価調整加算の要件・評価見直しが行われます。病棟薬剤業務実施加算について、薬剤総合評価調整や退院時薬剤情報管理指導の実績に応じた評価への見直しも実施されます。患家に残薬がある場合の保険医療機関・保険薬局連携による処方内容調整のため、処方箋様式の見直しが行われます。長期処方及びリフィル処方箋による処方を適切に推進するため、医学管理料の要件見直しと処方箋様式の見直しが実施されます。保険給付の適正化のため、栄養保持を目的とした医薬品の保険給付要件の見直しも行われます。まとめ令和8年度診療報酬改定の議論の整理は、医療機関等を取りまく環境変化への対応、2040年を見据えた医療提供体制の整備、安心・安全で質の高い医療の推進、医療保険制度の持続可能性向上の4つの柱で構成されています。物価高騰への対応として初・再診料等及び入院基本料等の見直しが行われ、医療従事者の処遇改善とICT・AI活用による業務効率化が推進されます。2040年に向けては、入院医療の機能分化、かかりつけ医機能の強化、在宅医療・訪問看護の充実が図られます。医療の質向上では、医療DXの推進、リハビリテーションの充実、重点分野への対応が進められます。医療保険制度の持続可能性向上のため、後発医薬品の使用促進や医薬品の適正使用が推進されます。今後、中央社会保険医療協議会における議論を経て、必要な変更が加えられることとなります。医療機関の経営者や実務担当者は、今回示された方向性を踏まえ、自院の体制整備に向けた準備を進めることが重要です。 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近視進行抑制薬が薬事承認|処方時の検査評価を中医協が検討
令和8年1月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、近視進行抑制薬の処方に係る検査の評価が議題となりました。令和6年12月に薬事承認された「近視の進行抑制」を効能・効果とするアトロピン硫酸塩水和物(リジュセアミニ点眼液)について、処方時に必要な検査の診療報酬上の取り扱いが検討されています。中医協では、関係学会のガイドラインを踏まえた検査評価の在り方が論点として示されました。近視進行抑制薬による治療開始時および治療中には屈折検査等の実施が推奨されており、これらの検査に対する適切な評価が求められています。本稿では、近視進行抑制薬の概要、学会指針に基づく検査手順、そして今後の診療報酬上の対応について解説します。近視進行抑制薬の概要と選定療養への追加令和6年12月27日、「近視の進行抑制」を効能・効果とする医薬品が薬事承認されました。この医薬品は一般名をアトロピン硫酸塩水和物といい、販売名は「リジュセアミニ点眼液0.025%」です。用法・用量は1回1滴、1日1回就寝前の点眼となっています。この薬剤の有効性は国内第Ⅱ/Ⅲ相試験で確認されています。試験では5歳から15歳の近視患者299例を対象に、無作為化二重遮蔽並行群間比較が実施されました。投与24ヵ月後における調節麻痺下の他覚的等価球面度数の変化量について、本剤群はプラセボ群と比較して統計学的に有意な差が認められ、優越性が検証されました。本剤群の変化量は-1.006D、プラセボ群は-1.643Dであり、群間差は0.637D(p
【令和8年1月】選定療養の4つの見直しポイント|近視治療薬から長期収載品まで
令和8年1月9日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集の結果への対応方針が示されました。この対応方針は、令和7年9月に報告された343件の意見を踏まえたものです。本稿では、医療機関の実務に影響を与える見直し内容を解説します。今回の見直しは4つの分野に及びます。第一に、近視進行抑制薬が新たに選定療養に追加されます。第二に、時間外の指導管理や調剤、リハビリテーションの回数制限に関して、既存の選定療養の対象範囲が拡大されます。第三に、予約システム利用料やキャンセル料など、療養の給付と直接関係ないサービス等が明確化されます。第四に、長期収載品の患者負担が価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられます。近視進行抑制薬が選定療養に新規追加令和6年12月に薬事承認されたアトロピン硫酸塩水和物が、選定療養の対象として追加されます。この医薬品は近視の進行抑制を効能・効果としていますが、薬価収載はされていません。背景には、小中学生の近視増加があります。裸眼視力1.0未満の小中学生の割合は年々増加しており、近視の進行抑制に対する患者ニーズは高まっています。選定療養への追加により、保険診療との併用が可能になります。例えば、コンタクトレンズの処方目的で受診した患者が、アトロピン硫酸塩水和物の処方も希望した場合を考えます。従来は、コンタクトレンズ処方のための検査が保険診療である一方、近視進行抑制薬の処方は保険外診療であり、療養担当規則に抵触するおそれがありました。選定療養に追加されることで、この問題が解消され、患者は近視に係る治療を円滑に受けられるようになります。既存の選定療養の対象範囲が拡大既存の選定療養について、2つの類型で対象範囲が拡大されます。時間外の指導管理・調剤が対象に追加「保険医療機関が表示する診療時間以外の時間における診察」の対象が拡大されます。具体的には、医師の診察と別日に実施される時間外の指導管理が追加されます。対象となる指導管理は、外来栄養食事指導料、心理支援加算、がん患者指導管理料、乳腺炎重症化予防ケア・指導料などです。また、緊急性のない保険薬局の開店時間外における調剤も追加されます。この見直しの背景には、国民の生活時間帯の多様化があります。緊急性のない患者都合による時間外の指導管理や調剤には一定のニーズがある一方で、診療時間内の受診・調剤を働きかけることで、医療関係職種の負担軽減と医療の質向上が期待されます。ただし、緊急やむを得ない事情による時間外の指導管理・調剤については、現行の時間外診察と同様に、特別の料金徴収は認められません。リハビリテーションの回数超過が対象に追加「医科点数表等に規定する回数を超えて受けた診療」の対象に、摂食機能療法とリンパ浮腫複合的治療料が追加されます。現行では、疾患別リハビリテーションについて、患者の治療意欲を高める必要がある場合に、規定回数を超えた診療への特別料金徴収が認められています。今回の見直しにより、疾患別リハビリテーション以外のリハビリテーションについても、一定の患者ニーズに応えることが可能となり、患者の治療意欲向上が期待されます。療養の給付と直接関係ないサービス等が明確化療養の給付と直接関係ないサービス等として、4つの項目が追加・明確化されます。なお、費用徴収に当たっては、患者への明確かつ懇切な説明と同意確認が必要であり、徴収費用は社会的に妥当適切なものとすることが求められています。予約・オンライン診療のシステム利用料予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料が明確化されます。システムの利用により、患者は医療機関の診療時間に関係なく診療予約が可能となり、通院負担の軽減など利便性が向上します。予約キャンセル料予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料が認められます。対象となるのは、診察日の直前にキャンセルした場合に限定されます。また、傷病が治癒したことによるキャンセルは対象外です。これは、疾病治癒時のキャンセル料徴収を可能とすると、不要な診療を惹起するおそれがあるためです。予約診察では患者ごとに適切な診療体制が確保されており、キャンセルに伴う医療機関の機会損失に対応する措置となります。Wi-Fi利用料Wi-Fi利用料について、既存の「インターネットの利用」と同様の取扱いであることが明確化されます。在留外国人の多言語対応費用在留外国人の診療に当たり必要となる多言語対応費用が追加されます。対象となる費用は、通訳の手配料や翻訳機の使用料などです。在留外国人が増加する中、言語の問題で診療に多くの人員・時間を要することがあります。在留外国人が診療内容を的確に理解し、納得した上で医療を受けられる環境整備を目的としています。薬剤自己負担の在り方も見直し今回の意見募集では、薬剤自己負担の在り方に関する意見も寄せられました。令和8年度予算編成過程を踏まえ、以下の対応方針が示されています。長期収載品の患者負担が引き上げ長期収載品の選定療養について、患者負担の水準が価格差の4分の1相当から2分の1相当へ引き上げられます。この見直しは、後発医薬品の供給状況や患者負担の変化にも配慮しつつ、創薬イノベーションの推進と後発医薬品の更なる使用促進を目的としています。バイオ後続品は継続検討バイオ後続品のある先行バイオ医薬品については、中医協においてバイオ医薬品に係る一般名処方のルール整備や、医療機関・薬局における備蓄等の体制評価について議論が進められています。社会保障審議会医療保険部会においても引き続き検討するとされており、必要に応じて中医協でも議論される予定です。OTC類似薬は新たな仕組みを創設OTC類似薬の薬剤自己負担については、選定療養への追加ではなく、別途の保険外負担(特別の料金)を求める新たな仕組みが創設されます。令和7年12月24日の大臣折衝事項において、令和8年度中(令和9年3月)に実施することが示されました。対象となるのは、OTC医薬品の対応する症状に適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品のうち、他の被保険者の保険料負担により給付する必要性が低いと考えられるものです。まずは77成分(約1,100品目)を対象とし、薬剤費の4分の1に特別の料金が設定されます。引き続き議論の状況を注視しつつ、必要に応じて中医協でも議論される予定です。まとめ今回の中医協総会では、選定療養に関する4分野の見直し方針が示されました。近視進行抑制薬の新規追加、時間外指導管理・調剤とリハビリ回数超過への対象拡大、システム利用料等の明確化、そして長期収載品の患者負担引き上げです。医療機関においては、これらの見直しに対応した体制整備と患者への説明準備が求められます。特に、選定療養に係る費用徴収に当たっては、サービス内容や料金等について患者に明確かつ懇切に説明し、同意を確認することが重要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定における物価対応の全体像:外来・入院別の配分方法を解説
令和8年1月9日に開催された中央社会保険医療協議会 総会(第640回)において、診療報酬改定における物価対応の具体的な配分方法が示されました。本稿では、大臣折衝で決定された物価対応分+0.76%の配分について、外来・入院それぞれの対応方法と、施設類型ごとの配分の考え方を解説します。今回の改定では、物価対応分+0.76%と緊急対応分+0.44%の2つの枠組みで対応が行われます。物価対応分+0.76%の内訳は、令和8年度以降の物価上昇への対応(+0.62%)と高度医療機能を担う病院への特例的対応(+0.14%)です。これに加えて、令和6年度改定以降の経営環境悪化を踏まえた緊急対応分として+0.44%が別途措置されます。外来診療では初・再診料とは別に物価上昇に関する評価を新設し、入院診療では令和元年の消費税補填の手法を参考に入院料ごとの物件費率等をもとに配分額を算出する方針です。大臣折衝で決定された物価対応の枠組み令和7年12月24日の大臣折衝において、令和8年度診療報酬改定の物価対応に関する基本的な枠組みが決定されました。物価対応分として+0.76%(令和8年度+0.55%、令和9年度+0.97%の2年度平均)が設定され、診療報酬に特別な項目を設定することで対応する方針が示されています。令和8年度以降の物価上昇への対応には+0.62%が充てられます。この財源は施設類型ごとの費用関係データに基づき、病院+0.49%、医科診療所+0.10%、歯科診療所+0.02%、保険薬局+0.01%と配分されます。病院の中でも、担う医療機能に応じた配分を行うこととされています。高度医療機能を担う病院への特例的対応として+0.14%が措置されます。大学病院を含むこれらの病院は、医療技術の高度化等の進展の影響を先行的に受けやすい特性があります。汎用性が低く価格競争原理の働きにくい医療機器等を調達する必要性から、物価高の影響を受けやすいことが考慮されました。令和6年度改定以降の経営環境悪化を踏まえた緊急対応分として+0.44%が配分されます。配分に当たっては、令和7年度補正予算の効果を減じることのないよう、施設類型ごとのメリハリを維持することとされています。具体的には、病院+0.40%、医科診療所+0.02%、歯科診療所+0.01%、保険薬局+0.01%の配分となります。外来診療における物価上昇対応の方法外来診療に関する物価上昇への対応について、中医協総会では大臣折衝における考え方を踏まえた具体的な方法が提案されました。対応方法は、物価上昇の時期によって2つに区分されています。令和8年度以降の物価上昇への対応については、初・再診料等とは別に物価上昇に関する評価を新設する方針です。この評価は、初・再診時等に算定できる独立した項目として設定されます。段階的に対応する必要があることを踏まえ、令和8年度に設定された評価は令和9年度には2倍となることが想定されています。初・再診料に加え、訪問診療料や初・再診料の評価が包括される診療報酬項目も対象に含まれます。令和6年度診療報酬改定以降の経営環境悪化への対応分については、令和8年度改定時に初・再診料等の評価に含める方式が採用されます。これは、令和7年度補正予算による物価上昇支援を診療報酬に置き換えるものです。評価の水準については、医科診療所・歯科診療所の改定率を踏まえて設定されます。こうした2段階の対応方式により、物価上昇の性質に応じた適切な評価が可能となります。令和8年度以降の物価上昇は継続的な対応が必要であるため独立した評価項目を設定し、経営環境悪化への対応は基本診療料への組み込みで恒久的な措置とする考え方です。入院診療における物価上昇対応の方法入院診療に関する物価上昇への対応についても、外来と同様に2段階の対応方式が提案されています。入院料等(入院基本料、特定入院料及び短期滞在手術等基本料3)の算定時に算定可能な評価を設定する方針です。令和8年度以降の物価上昇への対応については、入院料等とは別に物価上昇に関する評価を設定します。この評価は外来における物価上昇対応と同様に段階的な対応が行われ、令和8年度の評価は令和9年度には2倍となることが想定されています。評価の水準は、病院の改定率(入院・外来を含む)から外来診療における物価上昇対応の評価を差し引いた規模となるよう調整されます。令和6年度改定以降の経営環境悪化への対応分については、令和8年度改定時に入院料等の評価に含める方式が採用されます。配分の算出に当たっては、令和元年の消費税補填における対応が参考にされます。グループ分けした入院料毎の物件費率等をもとに、入院料毎の1人1日の入院診療報酬に占める物件費を算出して上乗せする評価を設定することが検討されています。高度医療機能を担う病院への特例的な対応分については、その趣旨に沿ってそうした機能を担う病院への評価に上乗せする方針です。今後の関係調査において実績等を検証し、所要の対応を図ることとされています。病院における外来物価上昇対応の補正病院・有床診療所の外来における物価上昇分への対応については、診療所とのコスト構造の違いを考慮した補正が行われます。外来における物価上昇分の評価は診療所と同一の初再診時の評価が適用されますが、病院における外来は診療所とコスト構造が異なるため、実際の物価上昇分と一致しないことが想定されます。初再診時の評価での対応で不足する外来における物価上昇分については、入院時の評価に当たって補正する方式が提案されています。具体的には、病院における実際の物価上昇分から外来の物価上昇に関する評価を差し引き、その差額を入院時の評価に含める形となります。逆に、初再診時の評価が外来で対応すべき物価上昇分より大きい場合には、入院時に対応すべき物価上昇分から差し引いて入院時の評価を算出することとなります。このような補正により、病院全体として適切な物価上昇対応が実現されます。入院料への配分方法と令和7年度補正予算との整合性令和6年度改定以降の経営状況悪化に対する対応については、令和7年度補正予算による支援の考え方を踏まえた配分方法が採用されます。大臣折衝において、補正予算の効果を減じることのないよう施設類型ごとのメリハリを維持することが明記されています。回復期、精神、慢性期については、入院1日当たり定額を配分する方式が採用されます。これは補正予算における1床あたりでの支援の考え方を踏襲したものです。入院料の種類にかかわらず一律の配分となるため、簡潔な仕組みとなります。急性期については、財源を一体化した上で3つの類型に配分する方式が採用されます。第1類型は特定機能病院の急性期病床、第2類型は急性期病院の急性期病床、第3類型はその他の病院の急性期病床です。各類型への配分額は補正予算の配分額に応じて算出され、さらに入院料ごとの物件費等の額に応じて配分額が決定されます。補正予算では救急加算として救急搬送件数に応じた支援が行われていました。診療報酬においてもこの考え方を踏まえた対応が検討されており、精神科病院への救急搬送件数に応じた必要な対応についても検討が進められています。まとめ令和8年度診療報酬改定における物価対応は、大臣折衝で決定された+0.76%の物価対応分と+0.44%の緊急対応分を、外来・入院それぞれの特性に応じて配分する方針です。外来では初・再診料とは別に物価上昇に関する評価を新設し、入院では令和元年の消費税補填の手法を参考に入院料ごとの物件費率等をもとに配分額を算出します。病院については外来と入院で一体的に補正を行い、補正予算の効果を維持しつつ施設類型ごとのメリハリある配分が実現されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|支払側・診療側の意見を徹底解説
中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、令和8年度診療報酬改定に向けた支払側(1号委員)と診療側(2号委員)の意見書が提出されました。本稿では、両者の意見を整理し、今回の改定における論点を解説します。物価高騰・賃上げへの対応、入院医療の機能分化、かかりつけ医機能の強化が共通の重要テーマとなっています。両者は「物価・賃上げへの確実な対応」と「医療DXの推進」で方向性が一致しています。一方、支払側が「適正化・効率化」を重視するのに対し、診療側は「基本診療料の引上げ」を強く求めており、財源配分の優先順位に違いがみられます。以下、医科・歯科・調剤の各分野について、両者の主張を対比しながら解説します。基本的考え方|両者の共通認識と相違点支払側と診療側は、現下の経済状況への対応について共通の認識を持っています。両者とも物価高騰と賃上げへの対応を重点課題と位置づけ、医療従事者の処遇改善が不可欠であると主張しています。支払側は「国民皆保険制度と医療提供体制の持続可能性の両立」を基本方針に掲げています。具体的には、外来受診の適正化、残薬対策、短時間・頻回な訪問看護の是正、門前薬局や敷地内薬局の合理化を通じた適正化の徹底が不可欠と主張しています。2040年頃を見据えた医療提供体制の再構築も意識し、メリハリのある診療報酬により政策課題の解決に取り組むべきとしています。診療側は「国民皆保険という財産を守り抜き、次世代へつなぐ」ことを基本理念としています。急激な物価高騰の中、診療報酬改定が追いついておらず、医療機関の経営状況が著しくひっ迫していると訴えています。診療報酬は国民にとって安心・安全で質の高い医療を提供するための原資であり、賃金や物価の動向が適切かつ十分に反映されるべきと主張しています。入院医療|機能分化と評価体系の見直し入院医療については、機能分化・連携の推進という方向性で両者は一致しています。ただし、具体的な施策の優先順位や評価の考え方には違いがあります。支払側は、病院機能を重視した評価体系への見直しを提案しています。全身麻酔手術と救急搬送受入れの実績を主な指標として、これまで以上に病院機能を重視した評価体系に見直すことで、病院の再編・統合につなげるべきとしています。急性期一般入院料1については、救急搬送受入れと全身麻酔手術の基準を導入し、実績に応じて評価を細分化すべきと主張しています。診療側は、医療機関の運営継続を可能とする評価体系を求めています。重症度、医療・看護必要度については、改定のたびに評価項目を変更すること自体が医療現場にとって大きな負担となっており、今改定での大幅な見直しは避けるべきと主張しています。各医療機関が地域の医療提供体制も踏まえながら、時間をかけて対応できる仕組みを求めています。地域包括医療病棟については、両者とも高齢者救急への対応強化を認めています。支払側は令和6年度改定で新設したコンセプトを損なう見直しは行うべきでないとしつつ、内科系疾患の評価見直しは合理的と述べています。診療側は施設基準が全般的に厳しく、要件緩和を求めています。外来医療|かかりつけ医機能と管理料の評価外来医療では、かかりつけ医機能の強化について両者の方向性は一致しています。ただし、既存の管理料の評価については見解が分かれています。支払側は、かかりつけ医機能報告制度と整合的な評価体系への移行を提案しています。機能強化加算について、現行の地域包括診療料等と紐づいた仕組みから離れ、かかりつけ医機能報告制度と整合的な仕組みへと発展的に組み替えるべきとしています。生活習慣病管理料については、診療実績に基づく適正化や、継続受診率が低い場合の減算導入を求めています。外来管理加算については、再診料に含まれる当然の行為であり、加算としての評価を廃止すべきと主張しています。診療側は、かかりつけ医機能の評価に係る点数の重要性を強調しています。外来管理加算や特定疾患療養管理料等は、質の高い生活習慣病の治療・管理に貢献してきた経緯があり、これまでの運用を軽視するような見直しはすべきでないと主張しています。かかりつけ医は患者が自由に選択できるものであり、フリーアクセスを阻害するような評価とならないよう注意が必要としています。歯科医療|口腔機能管理とデジタル化歯科医療については、口腔機能管理の充実と歯科治療のデジタル化推進で両者は共通しています。支払側は、ライフステージに応じた口腔機能管理の評価を支持しています。高齢者の口腔機能低下症や小児の口腔機能発達不全症について、学会の診断基準に基づく対象範囲の拡大は合理的としています。歯科疾患管理料については、初診減算の廃止と合わせて再診時の評価を適正化すべきと主張しています。光学印象やCAD/CAM冠の活用拡大など、歯科治療のデジタル化推進も求めています。診療側は、初診料・再診料の大幅引上げを最優先課題としています。昨今の急激な物価上昇により歯科医療機関の経営状況は悪化しており、ホスピタルフィーである初診料・再診料での評価拡充が不可欠と訴えています。歯科衛生士等の給与水準は一般病院の医療技術員よりも低く、処遇改善が急務としています。歯科用貴金属材料を用いないデジタル技術の適用拡大は喫緊の課題と認識しています。調剤|薬局機能と医薬品供給体制調剤については、かかりつけ薬剤師機能の強化という方向性で一致していますが、薬局の立地や経営効率に関する評価では見解が分かれています。支払側は、門前薬局・敷地内薬局の適正化を強く求めています。敷地内薬局の定義を厳格化し、医療モールを含めて特別な関係にある場合には全て特別調剤基本料Aを適用することを原則とすべきとしています。後発医薬品調剤体制加算は廃止して減算の仕組みに移行し、後発医薬品の数量割合の維持は地域支援体制加算の基準として位置付けることも提案しています。かかりつけ薬剤師指導料・包括管理料は廃止し、実施した業務の内容を評価すべきとしています。診療側は、薬局の経営基盤強化を優先課題としています。物価高騰・賃上げ等の影響により薬局の経営は年々厳しさを増しており、医薬品の仕入価高騰や「逆ザヤ」品目の急増により経営状況は極めて逼迫していると訴えています。調剤基本料とその加算による医薬品供給拠点としての機能評価の充実を求めています。かかりつけ機能を活用した薬学管理指導の評価充実も重要としています。在宅医療|訪問看護と多職種連携在宅医療については、ニーズ増加への対応と適切な評価の両立が課題となっています。支払側は、短時間・頻回な訪問看護の適正化を重点課題としています。高齢者住宅等に隣接する訪問看護ステーションにおいて、短時間の訪問看護が頻回に続けて提供され医療費が高額化している実態があるため、一連の訪問看護を包括評価する仕組みを導入すべきとしています。精神科訪問看護についても、機能強化型3の訪問看護ステーションによる対応を推進すべきと主張しています。診療側は、在宅医療の評価充実を求めています。機能強化型在宅療養支援診療所における病床の有無による点数格差の是正や、下り搬送を受け入れた側の医療機関への評価を提案しています。多様で複雑な疾患をもつ患者が増加しており、在宅医療のさらなる推進のためには月に複数回の訪問診療料の算定を可能とすべきとしています。賃上げ・物価対応|確実な処遇改善に向けて賃上げと物価上昇への対応については、両者とも確実な対応を求める点で一致しています。支払側は、検証可能な仕組みの創設を求めています。看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料は幅広い職種を対象とし、統合した分かりやすい報酬体系とすることを提案しています。月額給与の引上げに伴い賞与を減額する等の不適切な運用が生じないよう、正当な処遇改善を担保する要件設定も必要としています。物価上昇への対応については、医療機関の機能等により影響が異なることを踏まえ、費用構造の違いを反映した手当てとすべきとしています。診療側は、基本診療料を中心とした上乗せを求めています。ベースアップ評価料は対象職種が限定されている等の課題があり、基本診療料への上乗せで対応すべきとしています。春闘賃上げ2年連続5%超えに比べて診療報酬改定によるベースアップ評価料は低い水準に留まっており、医療機関に従事するすべての職員を対象とした適切な評価の見直しを求めています。まとめ|令和8年度改定の焦点令和8年度診療報酬改定において、支払側と診療側は「物価・賃上げへの対応」「医療DXの推進」「かかりつけ機能の強化」で方向性が一致しています。一方、具体的な財源配分については、支払側が「適正化・効率化によるメリハリある評価」を重視するのに対し、診療側は「基本診療料の引上げによる経営基盤の安定」を優先しており、調整が必要な状況です。今後の中医協における議論では、医療機関の経営実態と医療費の適正化をどうバランスさせるかが焦点となります。特に入院医療の機能分化、外来管理料の見直し、調剤報酬の体系整理については、両者の主張に隔たりがあり、具体的な点数設定に向けた詰めの議論が注目されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|診療側委員が示す7つの基本方針と具体的要望を解説
中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度診療報酬改定に対する二号(診療側)委員の意見が提出されました。この意見書は、医科・歯科・調剤の3分野にわたり、物価高騰・賃上げへの対応を最重点課題として位置づけています。診療側委員は、医療機関の経営がひっ迫する現状を踏まえ、診療報酬の適切な引上げと制度の簡素化を強く求めています。本稿では、令和7年12月26日に提出された二号委員意見の内容を解説します。意見書は、医科において7つの基本方針と12の具体的検討事項を示しています。歯科は4つの基本方針と23の具体的検討事項、調剤は保険薬局と病院・診療所に分けて方針を提示しています。これらの意見は、今後の中医協における議論の土台となります。医科分野|国民皆保険を守り抜くための7つの基本方針診療側委員は、医科分野において7つの基本方針を掲げています。これらの方針は、急激な物価高騰と人件費上昇のなかで医療機関の経営を安定させ、国民に安心・安全で質の高い医療を提供するための原資として診療報酬を位置づけています。第1の方針は「診療報酬体系の見直し」です。医療機関の創意工夫による運営を可能とする告示・通知等の見直し、施設基準等の簡素化や要件緩和、人件費・医療材料費・食材料費・光熱水費・委託費等の高騰を踏まえた適切な対応を求めています。第2の方針は「あるべき医療提供体制コスト等の適切な反映」です。「もの」と「技術」の分離の促進、医学・医療の進歩への速やかな対応、無形の技術を含めた基本的な技術評価の重視を掲げています。医療DXやICT連携、業務効率化のためのAI・IoT等に必要な経費への確実な手当も求めています。第3の方針は「大病院、中小病院、診療所の機能評価と地域医療の安定化」です。急性期から慢性期に至るまで良好に運営できる診療報酬体系の整備、救急医療等の不採算医療を引き受けてきた医療機関への評価、地域の診療所や中小病院のかかりつけ医機能への手厚い評価を要望しています。第4の方針は「医師・医療従事者の働き方改革対応」です。医師等の働き方改革の推進、医療従事者の負担軽減策や勤務環境の改善への評価、タスク・シェア・タスク・シフトの推進を掲げています。第5の方針は「小児・周産期医療の充実」、第6の方針は「不合理な診療報酬項目の見直し」、第7の方針は「その他必要事項の手当」です。医科分野|初・再診料から入院医療までの具体的検討事項診療側委員は、12の領域にわたる具体的検討事項を示しています。これらの検討事項は、医療現場の実態を踏まえた切実な要望です。初・再診料については、医師の技術料の最も基本となる部分として適切な評価の引上げを求めています。具体的には、同一医療機関における同一日複数科受診の評価見直し、医療DX推進のための評価、かかりつけ医機能のさらなる評価、外来感染対策向上加算の見直しなどを挙げています。かかりつけ医機能については、フリーアクセスを阻害しないよう注意が必要であり、過度な機能分化やかかりつけ医の制度化は導入しないことを求めています。入院基本料については、急激な物価高騰・光熱費等の高騰に対応するとともに、多職種協働によるチーム医療の推進を踏まえた医療従事者の人件費の適切な評価を求めています。重症度、医療・看護必要度については、改定のたびに評価項目を変更すること自体が医療現場の大きな負担となっており、今改定での大幅な見直しは避けるべきとしています。入院中の患者の他医療機関受診時の減算については、懲罰的な規則であり、国民の受療する権利を阻害していると指摘しています。入院基本料等加算・特定入院料については、医師事務作業補助体制加算の算定病棟拡大と外来診療所での算定、特定集中治療室管理料等の臨床現場の実態に合致した評価への見直し、地域包括医療病棟入院料の施設基準の要件緩和、精神科地域包括ケア病棟入院料の経過措置期間の再設定などを求めています。医科分野|在宅医療から処置・手術までの具体的検討事項在宅医療については、機能強化型在宅療養支援診療所における病床の有無による点数格差の是正を求めています。有床・無床にかかわらず医療行為は同等であり、無床診療所では連携後方支援病院への入院依頼などの対応が発生していることから、同等の点数とすることを要望しています。また、下り搬送を受け入れた側の医療機関への評価、在宅患者訪問診療料の要件緩和、小児在宅医療の充実、終末期に向けての意思決定支援管理料の新設なども求めています。検査・画像診断については、DPC病院を退院した月と同月の外来における検査料の算定要件緩和、原材料費の高騰に伴う検査料の見直し、休日夜間の緊急遠隔読影における医師の要件見直しを求めています。投薬・注射については、7種類以上の内服薬処方時等の減算の撤廃を要望しています。多数の疾患を抱える患者、特に高齢者をかかりつけ医が担当するためには多剤投与が必要となるケースは避けられず、かかりつけ医機能を発揮する観点からも減算の廃止を求めています。処置・手術・麻酔については、手術料の適正な評価として、9割以上の術式において外保連手術試案上の人件費のみで実際の診療報酬額を上回っていることから、一層の増点を求めています。同一手術野で実施する複数手術の評価については、主たる手術の所定点数のみならず、同時併施手術すべての所定点数を加えることを要望しています。また、第11部麻酔の通則における休日・時間外・深夜加算の新設も求めています。ベースアップ評価料については、対象職種が限定されている等の課題があることから、基本診療料を中心として上乗せすることを求めています。春闘賃上げ2年連続5%超えに比べて、診療報酬改定によるベースアップ評価料は低い水準に留まっており、医療機関に従事するすべての職員を対象とした適切な評価の見直しを要望しています。歯科分野|口腔の健康と健康寿命の延伸に向けた要望歯科分野では、口腔の健康が全身の健康及び健康寿命の延伸に寄与するエビデンスが示されるなか、歯科医療の果たす役割は非常に大きいとの認識を示しています。ライフコースに応じたう蝕や歯周病を含めた口腔疾患の重症化予防及び口腔機能の獲得・維持・向上に資する歯科医療を「かかりつけ歯科医」が中心となって提供することが重要としています。重点課題として、物価や賃金、人手不足等の医療機関を取り巻く環境の変化への対応を掲げています。医療経済実態調査の結果から、個人立歯科診療所においては収入の増加を費用の増加が上回り、設備投資やスタッフの処遇改善もままならない厳しい経営状況が続いていることが明らかになりました。歯科衛生士等の給与水準は一般病院の医療技術員よりも低い水準にとどまっており、個人立歯科診療所における歯科衛生士の賃上げ状況は、2025年春季労使交渉の平均賃上げ率5.26%に到底及んでいません。求人倍率も高止まりしている状況です。具体的検討事項として、ホスピタルフィーである初診料・再診料での評価拡充、歯科衛生士等の処遇改善、歯科診療所と病院歯科の機能分化・連携の強化、周術期等口腔機能管理の更なる推進、医療DXに係る診療報酬上の評価の導入などを求めています。また、歯科用貴金属の代替材料の開発・保険収載についても、金パラ価格が最高値を更新し続けていることから、市場価格の影響を受けやすい歯科用貴金属に代わる材料の開発・保険収載・適用拡大を推進することを要望しています。調剤分野|薬局経営の安定と医薬品供給体制の確保調剤分野は、保険薬局における調剤報酬関係と病院・診療所における薬剤師業務関係の2つに分けて意見を示しています。保険薬局については、物価高騰・賃上げ等の影響により薬局の経営が年々厳しさを増しており、医薬品の仕入価の高騰、「逆ザヤ」品目の急増及び毎年の薬価改定により、経営状況は極めて逼迫しているとの現状認識を示しています。保険薬局における基本方針として、薬局における物価高・賃上げ対応、医薬品供給拠点としての経営基盤・機能の強化、かかりつけ薬剤師・薬局機能の推進、医療機関や介護施設と薬局の連携強化、対物業務を基盤とした対人中心業務の推進、多職種連携による在宅薬剤管理指導の推進、医薬品の適正使用や医療安全確保のための病診薬連携の推進、医薬品供給不足問題への対応と後発医薬品・バイオ後続品の更なる普及促進、医療DXの推進や薬局業務の見直しによる働き方の効率化など10項目を掲げています。病院・診療所における薬剤師業務関係については、6つの基本方針と7つの具体的検討事項を示しています。高齢化に伴う医療・介護ニーズの変化や物価の高騰・人件費の増加等、医療機関を取り巻く環境の厳しさが増していること、令和6年4月から実施された第8次医療計画には薬剤師の確保が明記されているものの、医療機関に従事する薬剤師の不足及び偏在問題は深刻であることを指摘しています。具体的検討事項として、病院・診療所薬剤師の処遇改善、転院・転所時のポリファーマシー対策を含めた薬剤関連情報の連携に関する評価、回復期リハビリテーション病棟等での病棟薬剤業務の評価、救急外来における薬剤業務の評価、外来腫瘍化学療法診療料の算定対象拡大、訪問診療への薬剤師の同行訪問に関する評価などを求めています。まとめ|診療報酬改定に向けた今後の議論の方向性令和8年度診療報酬改定に対する二号(診療側)委員の意見は、物価高騰と人件費上昇のなかで医療機関の経営を安定させることを最重要課題として位置づけています。意見書では、診療報酬は国民に安心・安全で質の高い医療を提供するための原資であり、2年間の賃金や物価の動向が適切かつ十分に反映されるものでなければならないとの認識が示されました。医科・歯科・調剤の3分野に共通するのは、初・再診料等の基本診療料の引上げ、医療従事者の処遇改善、医療DXの推進に対する評価の充実、施設基準等の簡素化です。これらの要望は、これまで中医協で検討してきた項目を踏まえつつ、医療機関が置かれている窮状を認識した上での優先順位を前提としています。今後の中医協における議論では、支払側(一号委員)の意見との調整が行われ、具体的な点数設定が検討されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|支払側が求める「6つの重点事項」と適正化の方向性
中央社会保険医療協議会(中医協)は、令和7年12月26日の総会(第639回)において、令和8年度診療報酬改定に向けた各号意見を取りまとめました。本稿では、健康保険組合や事業主の立場を代表する支払側(1号側)委員が提出した意見書の内容を解説します。支払側は、賃上げと物価高への確実な対応を求める一方、医療費適正化の徹底と病院機能の再編を強く主張しています。支払側の意見は6つの重点事項で構成されています。医科については、入院医療における病院機能の分化・連携・集約化と、外来医療におけるかかりつけ医機能報告制度と整合した評価体系への移行を求めています。歯科については、口腔機能管理の対象範囲拡大とメリハリのある評価を主張しています。調剤については、敷地内薬局の定義厳格化と門前薬局の適正化を要求しています。在宅医療については、短時間・頻回な訪問看護の是正を求めています。賃上げと物価への対応については、検証可能な仕組みの創設を主張しています。なお、意見書には個別事項として医療DXや救急医療等の11項目も含まれています。基本的考え方:適正化と持続可能性の両立支払側は、診療報酬改定の基本姿勢として、賃上げと適正化の両立を求めています。診療報酬本体の引上げ財源は、その大部分を賃上げと物価高への対応に充当することが大臣折衝で合意されました。支払側は、この合意を踏まえ、医療サービスの対価としての正当性を担保するため、確実な賃上げときめ細かい物価高への対応を行い、その結果を検証できる仕組みにすべきであると主張しています。一方で、国民皆保険制度と医療提供体制の持続可能性を両立することも重要であると指摘しています。そのために必要な適正化策として、外来受診の抑制、残薬対策、短時間・頻回な訪問看護の是正、門前薬局や敷地内薬局の合理化を挙げています。これらの適正化を通じて、メリハリのある診療報酬により政策課題の解決に取り組むべきであるとしています。医科・入院医療:病院機能の再編と集約化を促進入院医療については、病院機能の分化・連携・集約化を強力に推進するよう求めています。高度急性期については、選択と集中が必要であると主張しています。専門性の高い人材や高額な医療機器は基幹病院に集約化し、重篤な救急搬送の受入れや難易度の高い全身麻酔手術等を集中的に実施する拠点的な急性期機能を確立すべきであるとしています。この拠点的機能を担う病院は、物価・賃金上昇による影響を最も大きく受けるため、財源を重点配分すべきであると述べています。急性期一般病棟については、評価体系の見直しを求めています。急性期一般入院料1について、救急搬送受入れと全身麻酔手術の基準を導入し、実績が一定以上の場合のみ看護配置7対1の拠点的な急性期一般病棟として認める等、評価を細分化すべきであるとしています。看護配置7対1と10対1の差分を多職種配置で補充する場合には、看護職による病棟マネジメントと業務負担のモニタリングの仕組みを実装すべきであるとしています。DPC/PDPSについては、全ての急性期病棟への参加義務付けを求めています。急性期医療の標準化を徹底する観点から、現在は任意参加となっているDPC制度への参加を義務化すべきであるとしています。標準病院群については、救急搬送の受入れ件数が少ない病院で包括範囲出来高点数が特に低い傾向を踏まえ、細分化して基礎係数を設定すべきであるとしています。地域包括医療病棟については、令和6年度改定で新設したコンセプトを維持すべきであると主張しています。平均在院日数の基準やADL低下患者5%未満の要件は一律に緩和せず、限定的な対応にとどめるべきであるとしています。ただし、内科系症例において医療資源投入量が十分に評価されていない実態を踏まえ、内科系疾患の高齢者救急の受入れを阻害しないよう、きめ細かな評価体系に見直すことは合理的であるとしています。医科・外来医療:かかりつけ医機能と適正化の推進外来医療については、かかりつけ医機能の評価体系の見直しと各種管理料の適正化を求めています。かかりつけ医機能については、機能強化加算の抜本的な見直しを主張しています。現行の地域包括診療料や在宅療養支援診療所等と紐づいた仕組みから離れ、かかりつけ医機能報告制度と整合的な仕組みへと、名称を含めて発展的に組み替えるべきであるとしています。一次診療が可能な診療領域や疾患の範囲、研修受講、学生実習・研修医の受入れ、BCP等を指標とし、機能の充実度に応じた評価体系とすべきであるとしています。生活習慣病管理料については、適正化と減算の導入を求めています。長期処方・リフィル処方をより積極的に活用して、状態が安定した患者の受診間隔を延長し、通院負担を軽減すべきであるとしています。療養計画書を定期的に交付していない場合やガイドラインに沿った検査を実施していない場合、継続受診率が低い場合には減算を導入すべきであるとしています。外来管理加算については、廃止または包括化を求めています。地域包括診療加算や特定疾患療養管理料等との計画的な管理の重複評価は依然として解消されておらず、是正すべきであるとしています。算定要件である「丁寧な問診や詳細な診察、懇切丁寧な説明」等は再診料に含まれる当然の行為であり、加算としての評価を廃止すべきであるとしています。歯科:口腔機能管理の拡大とメリハリある評価歯科については、ライフステージや患者の特性に応じたメリハリのある評価を求めています。口腔機能管理については、対象範囲の拡大を認めています。高齢者の口腔機能低下症や小児の口腔機能発達不全症について、機能的な特性だけでなく、通常と異なる特別な管理を行うのであれば、学会の診断基準に基づき口腔機能管理料や小児口腔機能管理料の対象範囲を拡大することは合理性があるとしています。歯科疾患管理料については、初診減算の廃止と再診時評価の適正化を求めています。歯科医師の手間が初診と再診で変わらないのであれば、初診減算の廃止と合わせて再診時の評価を適正化すべきであるとしています。継続的な歯科疾患の管理という趣旨が徹底されるよう、算定対象となる患者像を明確化し、初診時に管理計画を患者に説明して理解を得ることも必要であるとしています。歯周病治療については、財政中立での統合を求めています。患者に違いが分かりにくい歯周病安定期治療と歯周病重症化予防治療は財政中立で統合するとともに、実質的に3か月毎のメンテナンスとして運用されている状況を改め、病態に応じた治療を運用面で担保すべきであるとしています。多職種連携については、医科との連携強化を求めています。周術期等口腔機能管理計画を変更する際も評価することや、医科のリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算や生活習慣病管理料における歯科受診勧奨の受け皿となった場合の評価が考えられるとしています。障害者歯科については、専門施設による重点的な対応を新たに評価する場合には、口腔保健センター等の専門施設が障害児や障害者に対して歯科医学的管理を実施した場合に限る等、適切な運用を担保すべきであるとしています。へき地等の特に人口が少ない地域の患者に必要な歯科医療を提供する観点から、巡回診療車の活用も考えられるとしています。歯科治療のデジタル化については、推進を求めています。業務の効率化や貴金属価格の影響を受けないようにする観点から、光学印象やCAD/CAM冠の活用を拡大する等、歯科治療のデジタル化を推進すべきであるとしています。調剤:門前・敷地内薬局の適正化と薬局機能の強化調剤については、門前薬局や敷地内薬局の適正化と、かかりつけ薬剤師機能の見直しを求めています。敷地内薬局については、定義の厳格化を求めています。医療モールを含めて特別な関係にある場合には、全て特別調剤基本料Aを適用することを原則とすべきであるとしています。医療モールにある薬局は、処方箋枚数が上位3番目までに限らず、モール内にある全ての医療機関を集中率の分子に含めるべきであるとしています。調剤基本料については、門前薬局の損益率が高いことを踏まえた適正化を求めています。将来的に薬局の立地が変わっていく中で調剤基本料を一本化することが望ましいが、当面は経営効率に応じた評価の徹底が必要であり、調剤基本料2を適正化すべきであるとしています。調剤処方箋600回超かつ集中率85%の小規模薬局については、特に損益率が高い大都市の場合は調剤基本料1から除外し、薬局の集約化・大規模化につなげるべきであるとしています。後発医薬品調剤体制加算については、減算の仕組みへの移行を主張しています。後発医薬品の使用は相当程度まで上昇したことを踏まえ、加算の仕組みを継続する妥当性は低いとしています。地域の医薬品供給拠点機能を評価する他の加算があることを踏まえ、減算を中心とする仕組みに切り替えるべきであるとしています。かかりつけ薬剤師指導料については、廃止を求めています。かかりつけ薬剤師として実施した業務の内容を評価する仕組みに見直すべきであるとしています。在宅医療:効率性を踏まえた適正化在宅医療については、訪問診療・往診、訪問看護、歯科訪問診療、訪問薬剤管理指導の各分野で適正化を求めています。在宅療養支援診療所については、よりきめ細かい評価体系への見直しを求めています。機能強化型については、在宅緩和ケア充実加算の要件を上回る実績がある医療機関が多いことを踏まえ、在宅緩和ケア充実加算を統合する形で、実績・体制・役割の違いに着目して評価を細分化し、更に積極的な機能の発揮を促すべきであるとしています。連携型の機能強化型については、24時間体制に協力する度合いに応じて評価にメリハリを付けるべきであるとしています。訪問看護については、短時間・頻回な訪問看護の是正を強く求めています。高齢者住宅等に隣接する訪問看護ステーションにおいて、医療機関に入院中の患者への看護に似た形で短時間の訪問看護が頻回に続けて提供されることにより、加算が積み上がって医療費が高額化している実態があると指摘しています。効率性を踏まえて適正化する観点から、一連の訪問看護を包括評価する仕組みを導入すべきであるとしています。頻回な訪問看護が必要な場合には主治医の指示書に明記することを求めるべきであるとしています。歯科訪問診療については、診療時間に応じた適正化を求めています。歯科訪問診療料について、同一建物に居住する多人数を訪問して1人当たり診療時間が20分未満の場合、適切な処置等が実施されていないと考えられるため、適正化すべきであるとしています。訪問歯科衛生指導料についても、同一建物の患者数が多いほど指導時間が短い傾向を踏まえ、時間区分によるメリハリのある評価体系に見直すべきであるとしています。訪問薬剤管理指導については、時間外対応の要件化を求めています。訪問薬剤管理指導を実施している薬局に夜間や休日に連絡がつかず、他の薬局が代わりに対応する事例がみられることを踏まえ、訪問薬剤管理指導料の要件に時間外対応を位置づけるべきであるとしています。在宅薬学総合体制加算2については、無菌製剤処理の実績が極めて乏しく、高い加算を算定するために無菌調剤設備を設置している可能性があることから、施設基準から無菌調剤設備を除外すべきであるとしています。賃上げと物価への対応:検証可能な仕組みの創設賃上げへの対応については、検証が可能な手当ての仕組みを創設すべきであると主張しています。看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料については、幅広い職種を対象とし、統合した分かりやすい報酬体系とすることを求めています。夜勤における人材確保に向けて夜勤手当の増額等の対応も考えられるとしています。月額給与の引上げに伴い賞与を減額する等の不適切な運用が生じないよう、正当な処遇改善を担保する要件を設定することも必要であるとしています。物価上昇への対応については、費用構造の違いを反映した手当てを求めています。医療機関の機能等により物価高の影響が異なることを踏まえ、費用構造の違いを反映した手当てとすべきであるとしています。物価水準は常に変動するものであり、長期推移も念頭に置き、物価上昇率の見込み値と実績値に差異が生じることを想定した検討も必要であるとしています。まとめ:メリハリある改定で持続可能性を確保支払側の意見は、賃上げと物価への確実な対応を求めつつ、医療費適正化の徹底を強く主張する内容となっています。医科の入院医療については、病院機能の分化・連携・集約化を促進し、急性期病棟の評価を実績に応じて細分化することで、拠点的な機能を担う病院への財源重点配分を求めています。医科の外来医療については、かかりつけ医機能報告制度との整合性を重視し、各種管理料の適正化と減算の導入を主張しています。歯科については、口腔機能管理の対象範囲拡大を認めつつ、歯科疾患管理料や歯周病治療の適正化を求めています。調剤については、門前・敷地内薬局の適正化と後発医薬品調剤体制加算の減算への移行を求めています。在宅医療については、短時間・頻回な訪問看護の是正に加え、歯科訪問診療や訪問薬剤管理指導の適正化も求めています。これらの意見は、2040年を見据えた医療提供体制の再構築と、国民皆保険制度の持続可能性確保を目指すものといえます。 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令和8年度薬価制度改革の骨子を解説|革新的新薬薬価維持制度など5つの重要変更点
中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度薬価制度改革の骨子(案)が示されました。この骨子案は、「経済財政運営と改革の基本方針2025」で掲げられた「国民負担の軽減と創薬イノベーションの両立」を実現するための具体策を定めています。本稿では、医療機関や製薬企業に影響を与える主要な変更点を解説します。令和8年度薬価制度改革の骨子案では、5つの重要な変更が示されています。第一に、新薬創出・適応外薬解消等促進加算が「革新的新薬薬価維持制度(PMP)」へ名称変更されます。第二に、長期収載品の薬価は後発品上市後5年でG1が適用され、段階的に引き下げられます。第三に、AG(オーソライズド・ジェネリック)およびバイオAGの薬価は先発品・バイオ先行品と同額に設定されます。第四に、年間販売額が3,000億円を超え急拡大した高額医薬品には、引き下げ幅上限が66.7%に引き上げられます。第五に、後発品の安定供給確保のため、価格帯集約ルールが見直されます。革新的新薬薬価維持制度(PMP)への名称変更と制度見直し新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度は、「革新的新薬薬価維持制度」へ名称変更されます。この変更は、特許期間中の革新的な新薬の薬価維持という制度趣旨を明確化するためです。英語名は「Patent-period price Maintenance Program for Innovative Drugs(PMP)」となります。品目要件については、透明性向上の観点から見直しが行われます。具体的には、「新規作用機序医薬品又は新規作用機序医薬品に相当すると認められる効能若しくは効果が追加されたものであって、別表10の基準に該当する医薬品」などの要件が削除されます。この変更は、今後新たに薬価収載される品目に適用されます。一方、乖離率が平均乖離率を超える品目を対象外とする要件は維持されます。累積額の控除と薬価の下支えに係るルールの適用順序も見直されます。従来どおり改定前薬価と市場実勢価格に基づく改定額との差額の累積額は控除されます。ただし、累積額控除により最低薬価未満となる事態を防ぐため、累積額控除を適用した後に薬価の下支えルールを適用する順序に変更されます。長期収載品の薬価の更なる適正化長期収載品の薬価については、後発品置換え期間が5年に設定されます。この変更は、長期収載品に依存するビジネスモデルからの脱却を促進する目的で実施されます。5年経過後は後発品置換率によらずG1が適用され、後発品の加重平均薬価を基準として段階的に引き下げられます。従来のZ2およびG2は廃止されます。また、Cも廃止され、G1の補完的引下げは後発品置換率によらず一律2.0%となります。G1による引下げ後の額と2.0%の補完的引下げ後の額のうち、いずれか低い額が適用されます。後発品の加重平均薬価まで価格を引き下げた長期収載品については、G1の適用対象外となります。バイオ先行品についても、バイオシミラーが収載されている場合はG1が適用されます。引下げの下限および円滑実施措置は原則廃止されますが、令和8年度は大きな制度変更であることから、経過措置として適用されます。AG・バイオAGの新たな薬価ルールバイオAGの新規収載時の薬価は、バイオ先行品と同額に設定されます。この変更は、バイオシミラーとの適切な競争環境を形成・維持する観点から導入されます。バイオAGとは、先行品と有効成分、原薬、添加物、製法等が同一のバイオ医薬品であって、後発品として薬事承認を受けたものを指します。AG(オーソライズド・ジェネリック)についても同様の措置が講じられます。先発品と有効成分、原薬、添加物、製法等が同一の後発品(AG)の薬価は、先発品と同額となります。この変更も、後発品の適切な競争環境の形成・維持を目的としています。AGであるか否かの客観的判断が困難なため、薬価基準収載希望書にAGである旨の記載を製造販売業者に求める運用が導入されます。薬価改定時には、AG・バイオAGと先発品・バイオ先行品の価格帯集約が行われます。先発品の薬価と同額で算定されたAG又はバイオAGについては、当該AGおよび先発品、当該バイオAGおよびバイオ先行品の薬価をそれぞれ加重平均し、価格帯を集約することになります。高額な医薬品に対する対応強化年間1,500億円の市場規模を超える高額な医薬品への対応が強化されます。市場拡大再算定の特例は「持続可能性特例価格調整」(英語名:Special Price Adjustment for Sustainable Health System and Sales Scale(SPA-SSS))に名称変更されます。この名称変更は、イノベーション評価と国民皆保険維持の両立という趣旨を明確化するためです。持続可能性特例価格調整の引き下げ幅上限が引き上げられます。年間販売額が予測販売額から10倍以上かつ3,000億円超に急拡大した場合に限り、従来の上限50%から66.7%(2/3)に引き上げられます。この措置により、予想を大幅に超えて市場が拡大した高額医薬品に対して、より強い価格調整が可能となります。市場拡大再算定の類似品への適用は廃止されます。企業の予見可能性を確保し、国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する観点から、この変更が行われます。一方、市場拡大再算定対象品目の薬理作用類似薬については、効能追加等の有無に関わらず、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)により使用量を把握し、薬価改定以外の機会も含めて再算定が実施されます。後発品の安定供給確保のための対応後発品の価格帯集約ルールが見直されます。注射薬およびバイオシミラーについては、同一規格・剤形内の品目数が少ない状況を踏まえ、最高価格の30%を下回る薬価のものを除き、価格帯集約の対象外となります。G1品目に係る後発品の1価格帯集約は廃止されます。薬価の下支え制度も充実されます。最低薬価については、外用塗布剤に規格単位に応じた最低薬価が設定されます。点眼・点鼻・点耳液には点眼剤の最低薬価が適用されます。最低薬価の水準自体も引き上げられますが、前回調査における最低薬価品目の平均乖離率を超えた乖離率であった品目は引き上げ対象外となります。不採算品再算定の要件も緩和されます。従来の「全ての類似薬について該当する場合に限る」という要件が削除され、該当する類似薬のシェアが5割以上であれば対象となります。対象品目は、基礎的医薬品と同一の品目、重要供給確保医薬品、極めて長い使用経験があり供給不足の影響が大きい品目などに限定されます。まとめ令和8年度薬価制度改革の骨子案は、国民負担の軽減と創薬イノベーションの両立を目指した包括的な制度改正です。革新的新薬薬価維持制度(PMP)への名称変更により特許期間中の薬価維持の趣旨が明確化されます。長期収載品は後発品上市後5年でG1適用となり、段階的に引き下げられます。AG・バイオAGは先発品・バイオ先行品と同額で収載され、適切な競争環境が形成されます。高額医薬品への対応は強化され、急拡大した場合の引き下げ幅上限は66.7%となります。後発品の安定供給確保のため、価格帯集約の見直しと下支え制度の充実が図られます。医療機関および製薬企業は、これらの変更点を踏まえた対応が求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【令和8年度改定】保険医療材料制度改革の骨子案|7つの改革ポイントを徹底解説
令和7年12月26日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度保険医療材料制度改革の骨子案が示されました。物価上昇による原材料費高騰が続く中、実勢価格が償還価格を上回る「逆ザヤ」の機能区分が全体の35%に達しています。このような状況を踏まえ、今回の改革ではイノベーション評価の厳格化、プログラム医療機器の評価基準整備、医療機器の安定供給確保など7つの柱で制度見直しが行われます。今回の骨子案は、医療機器産業と医療現場の双方に大きな影響を与える内容です。チャレンジ申請におけるRCT(ランダム化比較試験)の原則化、体外診断用医薬品の評価基準の厳格化、逆ザヤ機能区分への市場シェアに応じた対応など、実務に直結する改定が多く含まれています。この記事では、医療機関の経営者や医療機器メーカーの担当者が押さえるべきポイントを解説します。改革の背景:逆ザヤ機能区分が35%に増加保険医療材料制度を取り巻く環境は大きく変化しています。物価上昇による原材料費の高騰を背景に、実勢価格が償還価格を上回る「逆ザヤ」状態の機能区分が急増しているためです。逆ザヤとは、医療機関と卸業者との間の価格交渉で形成される実勢価格が、保険償還価格を上回る状態を指します。特定保険医療材料価格調査によると、逆ザヤの機能区分数は平成30年度の260(全体の22%)から令和7年度には460(同35%)へと増加しました。この5年間で割合は1.6倍に拡大しています。今回の制度改革は、この逆ザヤ問題への対応を含め、イノベーションの適切な評価、医療機器等の安定供給、内外価格差の是正、保険適用手続の効率化という4つの観点から検討が行われました。その結果、7つの柱からなる具体的な改革内容が示されています。1. イノベーション評価:チャレンジ申請と補正加算の厳格化イノベーション評価では、チャレンジ申請の要件厳格化と補正加算の定量的評価の明確化が行われます。データの質と客観性を高めることで、真に革新的な医療機器を適切に評価する狙いがあります。チャレンジ申請(使用成績を踏まえた再評価に係る申請)については、3つの点で要件が厳格化されます。第一に、製造販売業者が提出する研究計画には原則として比較試験を求めます。具体的にはRCT(ランダム化比較試験)が望ましいとされていますが、RCTが困難な場合は、バイアスのリスクを軽減する方法を十分に検討した研究計画の提示が必要です。第二に、データの客観性担保のため、査読付き論文として公表されたデータの提出を審議の前提とします。製造販売業者による独自の解析は評価対象外となります。第三に、RCTで実現可能性の高い研究計画については、事務局確認と保材専委員長の承認により、保材専への報告のみでチャレンジ権を付与できます。補正加算(画期性加算、有用性加算、改良加算)については、定量的評価の試行案が明確化されます。評価項目ごとにポイント制が導入され、臨床上有用な新規の機序、類似材料に比した高い有効性・安全性、対象疾病の治療方法の改善などが点数化されます。平成28年から令和7年9月まで該当品目がなかった改良加算の「ロ」「ト」「チ」については、引き続き試行案として取り扱われます。2. 体外診断用医薬品の評価基準明確化体外診断用医薬品については、臨床上の有用性を重視した評価基準が明確化されます。療養担当規則の趣旨を踏まえ、区分E3(新項目、改良項目)の保険適用希望品目に対して、より厳格な審査が行われます。F区分(保険適用しない)となる条件は、以下の3つのいずれかに該当する場合です。第一に、臨床上の位置づけ(対象患者、実施時期)が不明確な場合です。対象患者が明らかでなく、スクリーニングとして実施することが想定される場合がこれに該当します。第二に、臨床上の位置づけに応じた性能を有していない場合です。確定診断に用いるとした体外診断用医薬品の特異度が低く、確定診断が困難と認められる場合などが該当します。第三に、当該検査の結果により治療が変化する等の臨床上の有用性が示されていない場合です。検査結果に関わらず同じ診断・治療を行う場合がこれに該当します。希少疾病等の検査に用いる体外診断用医薬品については、評価対象が拡大されます。想定される検査回数が少ない再生医療等製品の適応判定の補助に必要な検査にも適用が拡大されます。技術料の見直しにおいては、希少性が重複評価されることを避けるため、参照する準用技術料は保険収載時に準用した技術料であることが明確化されます。3. プログラム医療機器の評価基準整備プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)の評価については、令和6年度改定で示された基準を踏まえ、引き続き整備が進められます。臨床アウトカムの向上と医療従事者の負担軽減という2つの観点から評価が行われます。診療報酬上の評価は、患者の臨床アウトカムの向上が示された場合に限り、加算による評価を検討します。医療従事者の労働時間短縮や人員削減等を実現するプログラム医療機器については、施設基準の緩和等による評価を検討します。これにより、治療効果を高めるものと業務効率を改善するものとで、評価の方向性が明確に区別されます。特定保険医療材料として評価されるプログラム医療機器の算定方法も明確化されます。初・再診料、プログラム医療機器指導管理料(導入期加算を含む)、その他の医学管理料等、特定保険医療材料料を組み合わせて算定できることが示されます。選定療養の活用については、保険適用期間終了後に患者希望で使用する場合の特別料金の説明を、アプリケーション内で行うことも可能となります。4. 医療機器の安定供給確保:小児用医療機器と不採算品再算定医療機器の安定供給確保では、小児用医療機器への配慮と不採算品再算定の対象拡大が行われます。対象患者数が少ない分野での供給継続を支援する施策です。小児用医療機器については、その特殊性への配慮が明記されます。成長に伴い使用する医療機器のサイズが変化すること、対象患者数が少ないことなどを考慮し、新規機能区分の基準材料価格が外国平均価格の0.8倍以下となる場合は、原価計算方式による算定を製造販売業者が希望できるようになります。機能区分の細分化(「小児用」と「成人用」の区分分け)についても、業界要望を踏まえつつ検討が続けられます。不採算品再算定の対象選定基準も見直されます。「代替するものがないこと」という要件について、市場シェア状況に応じた3つのパターンが設定されます。パターン1(1社でシェアの大半を占める場合)は既に令和6年度改定で対象となっています。今回新たにパターン2(上位2社でシェアの大半を占める場合)も、両者が供給困難となった場合に安定供給に支障をきたすため、代替困難性の要件を満たすこととなります。パターン3(シェアが分散している場合)は、他社による供給補完の可能性があるため対象外です。5. 逆ザヤ機能区分への対応と内外価格差是正市場実勢価格が償還価格を上回る逆ザヤ機能区分への対応は、市場シェア状況に応じて異なる方針がとられます。競争的市場かどうかによって、価格引き上げの可否が判断されます。パターン1・2(1社または上位2社でシェアの大半を占める場合)では、供給側の価格決定力が強いことが想定されるため、市場実勢価格に基づく保険償還価格の引き上げは行われません。一方、パターン3(シェアが分散している場合)では、競争的市場と判断され、市場実勢価格の加重平均値や物価変動等を参考にしつつ保険償還価格が設定されます。内外価格差の是正については、外国価格再算定の算出方法が見直されます。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアの各国平均価格は、外国価格調査の結果に加え、国内での使用状況等を考慮した加重平均により算出されます。外国平均価格は従来どおり各国の平均価格を相加平均して算出します。6. 市場拡大再算定と保険適用手続の効率化市場拡大再算定については、特定保険医療材料と技術料包括の医療機器・体外診断用医薬品の双方で、基準年間販売額の決定方法や技術料の見直し計算方法が整備されます。特定保険医療材料の市場拡大再算定では、機能区分の見直し時における基準年間販売額の取扱いが明確化されます。名称のみ変更の場合は変更前の設定時期や予想年間販売額を確認します。機能区分が新設された場合は、見直し前機能区分の設定から10年経過前後で異なる対応がとられます。チャレンジ申請により再評価を受け、原価計算方式以外で算定された特定保険医療材料も、市場拡大再算定の対象となり得ることが明確化されます。技術料包括の医療機器・体外診断用医薬品については、見直しの計算方法が特定保険医療材料の市場拡大再算定に準じて設定されます。計算式では、医療機器等に係る金額の割合(β)と市場規模拡大率(X)を用いて改定後の技術料が算出されます。7. 保険適用手続の合理化保険適用手続については、医療技術評価分科会での評価対象の明確化、適用時期の見直し、様式の簡素化など、複数の改善が行われます。患者アクセスの確保と手続の効率化を両立させる狙いです。医療技術評価分科会での評価を要するものの例示が見直されます。類似する既存技術との評価の整合性から当該技術の評価も見直す必要があるもの、保険適用されていない医療技術を実施するための医療機器等、オンライン診療での実施を目的とする医療機器等、管理料の新設についての審議が必要なものなどが対象となります。評価療養の対象期間は「保険適用希望書の受理から2年まで」から、直近の診療報酬改定の次の改定での保険適用を想定した期間に見直されます。医薬品等の適応判定を目的として使用される体外診断用医薬品等については、中医協で了承された保険適用日から保険適用されます。保険適用希望書の様式は、製品の有効性・安全性に係るデータや加算項目への該当性など重要な論点を簡潔に整理して記載するよう見直されます。製造販売業者からの不服申し立ては、原則として翌月に2回目の保材専を実施し、同意が得られない場合は取り下げとして扱われます。まとめ令和8年度保険医療材料制度改革の骨子案は、逆ザヤ問題への対応を中心に、イノベーション評価の厳格化、プログラム医療機器の評価基準整備、医療機器の安定供給確保、内外価格差の是正、市場拡大再算定の見直し、保険適用手続の効率化という7つの柱で構成されています。医療機器メーカーにとっては、チャレンジ申請におけるRCT原則化や査読付き論文の必須化など、開発段階からのエビデンス構築がより重要になります。医療機関にとっては、逆ザヤ機能区分への対応方針を踏まえた調達戦略の検討が必要です。今後の中医協での審議を注視しながら、令和8年4月の施行に向けた準備を進めることが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子案を解説|3つの改革ポイントと今後の展望
中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回、令和7年12月26日開催)において、「令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子(案)」が議論されました。2019年の制度導入から6年が経過し、72品目が評価対象となり53品目が評価を終了した実績を踏まえ、制度の透明性・公平性の向上と更なる活用に向けた見直しが示されています。今回の改革は、制度検証の結果、分析方法の見直し、分析体制の充実の3つを柱としています。特に注目すべきは、追加的有用性が示されない品目に対する価格調整範囲の拡大です。本稿では、骨子案の内容を解説し、医療機関や製薬企業への影響を考察します。費用対効果評価制度の検証結果費用対効果評価専門部会において、これまでの運用状況が客観的に検証されました。制度導入後の新規収載数は、医薬品が年間50品目前後、医療機器が25品目前後で推移しています。2025年9月1日までに費用対効果評価に指定された67品目の予測市場規模(ピーク時)は、中央値156億円/年でした。この数値は、25パーセンタイル117億円/年、75パーセンタイル249億円/年と分布しており、市場規模の大きい品目が対象となっていることがわかります。評価終了した49品目のうち、実際に分析が実施されたのは39品目でした。このうち公的分析が実施されず企業分析が受け入れられたものが2品目あり、費用対効果評価専門組織の決定に対して製造販売業者から不服申立てがあったものは20品目に上りました。価格調整が行われた38品目では、価格全体に対する調整額の割合が中央値-4.29%となっています。今後は令和8年9月に中医協での検証報告の議論を行い、関係業界からの意見も踏まえた技術的な議論を継続します。分析方法に関する見直し分析プロセスと価格調整方法について、複数の重要な見直しが示されました。品目指定手続きの簡素化として、費用対効果評価終了後に新たな知見が得られた品目の再指定について、薬価算定組織等での手続きを不要とします。費用対効果評価専門組織からの提案を中医協総会で直接承認する方式に変更されます。比較対照技術の設定方法も明確化されました。臨床的に幅広く用いられているもののうち治療効果がより高いものを1つ選定することが原則となります。一意的に決められない場合は、費用対効果の観点から相対的に安価なものを選択することもあり得ますが、他の考慮要素を踏まえて決定します。用語の明確化として、「追加的有用性」を「比較技術に対する健康アウトカム指標での改善」と表現することになりました。これは薬価算定における「有用性」との混同を防ぐための措置です。介護費用の取扱いについては、レケンビの事例で指摘された技術的・学術的な課題を踏まえ、諸外国の状況も参考にしながら引き続き研究を進めます。価格調整の対象範囲の見直し価格調整方法について、制度の更なる活用に向けた重要な変更が示されました。価格引き上げの条件が変更されます。従来の「薬理作用等が比較対照技術と著しく異なること」という要件は、「比較対照技術と異なり、臨床上有用な新規の作用機序を有すること」に改められます。医療機器についても同様に、「基本構造や作用原理が著しく異なる」から「臨床上有用な新規の機序を有する」に変更されます。追加的有用性が示されずICERの区分が「費用増加」となった品目の価格調整方法も見直されます。現行の有用性系加算部分に価格調整係数を乗じる方法ではなく、例えば比較対照技術の1日薬価を評価対象技術の1日薬価で除した比を価格に乗じる方法を含め、政策決定の透明性や説明責任を高める方向で見直しが図られます。価格調整後の下限は、価格全体の85%(調整額15%)を基本に引き続き議論されます。なお、令和8年4月以降に評価結果が中医協に報告された品目については、令和8年9月の検証報告の議論終了後に具体的な方法を定めた上で価格調整を実施します。分析体制の充実公的分析を担う体制の強化が課題として挙げられました。現在は立命館大学と慶應義塾大学の2大学が公的分析班として分析を担当しています。対象品目の増加が予想される中、体制の充実が必要です。公的分析結果の学術的な取扱いとして、国立保健医療科学院がホームページで公開している分析結果を論文形式で公的刊行物に掲載する取組を継続します。厚生労働省は関係学会等への制度周知、人材育成、分析体制への支援を通じて、公的分析班の人材確保と組織充実を図ります。国際的な知見の取り入れも推進されます。海外の評価実施機関における実務経験や研究機会を通じて、国際標準となっている知見をより早期に導入するための支援が検討されます。評価結果の活用促進費用対効果評価の結果を医療現場で活用するための取組も進められます。厚生労働省と国立保健医療科学院は、関係学会や関係機関に対して必要な情報提供を行います。各学会における診療ガイドラインへの経済性評価の反映を促進し、診療現場での普及を目指します。まとめ令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子案は、6年間の運用実績に基づく制度の最適化を目指しています。72品目の評価対象指定と53品目の評価終了という実績を踏まえ、制度の透明性・公平性の向上、分析プロセスの効率化、分析体制の充実が図られます。特に追加的有用性のない品目への価格調整範囲拡大は、費用対効果評価制度の更なる活用に向けた重要な一歩となります。令和8年9月の検証報告を経て、具体的な運用方法が確定する予定です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【生成AI×認知心理学】巨大LLM時代にこそRAGが必要な理由|記号接地問題とエピソード記憶の視点から
本記事は、生成AIの活用を検討する企業のDX推進担当者やAIエンジニアに向けて執筆しています。「LLMのコンテキストウィンドウが広がれば、RAGは不要になるのではないか」という疑問に対し、認知心理学の視点から明確な答えを提示します。生成AIの進化に伴い「RAG不要論」が聞こえる一方で、認知心理学の視点で見るとRAGは依然として不可欠です。本記事では、「短期記憶・長期記憶・メンタルモデル」のアナロジーを用いて、AIの動作原理を解説します。さらに「記号接地問題」と「エピソード記憶」という概念から、AIを実務に接地(グラウンディング)させるためのRAGの本質的な役割を明らかにします。はじめに:AIは人の脳と同じ構造で働いている生成AIの仕組みは、認知心理学における人間の記憶モデルと驚くほど類似しています。この類似性を理解することで、RAGがなぜ必要なのかが明確になります。本章では、認知心理学の3つの要素を用いて、生成AIの動作原理を解説します。認知心理学で読み解く3つの要素生成AIの構成要素は、認知心理学における「短期記憶」「長期記憶」「メンタルモデル」に対応しています。この対応関係を理解することが、RAGの本質を把握する第一歩です。1つ目の要素は「プロンプト」です。プロンプトは、認知心理学における短期記憶(ワーキングメモリ)に相当します。人間が作業机の上に広げられる資料には限りがあるように、プロンプトに入力できる情報量にも制約があります。この作業机では、今まさに取り組んでいるタスクに必要な情報だけを扱います。2つ目の要素は「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」です。RAGは、認知心理学における長期記憶に相当します。人間が必要な時に書庫から資料を取り出すように、RAGは膨大なドキュメントの中から関連情報を検索して取得します。この書庫には、マニュアル、過去の議事録、成功・失敗事例など、組織の知識が蓄積されています。3つ目の要素は「LLM本体」です。LLM本体は、認知心理学におけるメンタルモデルに相当します。メンタルモデルとは、人が頭の中に作る「世界の理解の仕方」のことです。LLMは大量のテキストから学習した「思考の枠組み」を持っており、入力された情報をこの枠組みで解釈して応答を生成します。優秀なコンサルタントが持つ「ものの見方」のようなものです。この3つの要素の関係は、次のように整理できます。LLM(コンサルタント)は優れた思考の枠組みを持っています。しかし、そのコンサルタントが適切な判断を下すためには、作業机(プロンプト)に必要な情報が載っていなければなりません。そして、その情報は書庫(RAG)から適切に取り出される必要があります。なぜ巨大LLMになってもRAG(書庫)が必要なのか?LLMのコンテキストウィンドウ(入力可能な文字数)は急速に拡大しています。しかし、この拡大によってRAGが不要になるわけではありません。本章では、その理由を2つの観点から解説します。プロンプト(作業机)の限界と「継続性」の問題コンテキストウィンドウが拡大しても、プロンプトには本質的な限界があります。その限界とは、「継続性」と「効率性」の問題です。継続性の問題は、会話が途切れるたびに作業机がリセットされることに起因します。人間が複数日にわたるプロジェクトを進める場合、毎朝すべての資料を最初から読み直すことはしません。必要な情報は書庫に整理しておき、必要な時に取り出します。同様に、AIとの対話においても、過去の会話履歴や業務文脈を毎回プロンプトに含めることは現実的ではありません。効率性の問題は、情報量と処理速度のトレードオフに関係します。作業机が大きくなったからといって、すべての資料を常に広げておくのは非効率です。100万文字のコンテキストウィンドウがあっても、そのすべてを使うと処理時間が長くなり、コストも増大します。必要な情報だけを必要な時に取り出す仕組みが、実務では不可欠です。メンタルモデルを「絞り込む」という役割RAGには、情報を取り出すだけでなく、LLMの思考を「絞り込む」という重要な役割があります。この絞り込みがなければ、AIは一般論や幻覚を語り出してしまいます。LLMは「何でも知っている」が故に、制約がないと広すぎる可能性の中を彷徨います。たとえば、「契約書のレビュー」を依頼した場合、一般的な法律知識に基づいた回答が返ってくるかもしれません。しかし、実際に必要なのは「自社の契約テンプレート」や「過去の修正履歴」に基づいた具体的なアドバイスです。RAGとプロンプトは、この広すぎる可能性を「特定の業務・文脈」に強制的にフォーカスさせる装置です。書庫から取り出した具体的な資料が作業机に載ることで、コンサルタント(LLM)は「この文脈で」「この資料に基づいて」考えるようになります。この制約こそが、実務で使えるAIを実現するための鍵です。AIの最大の弱点「記号接地問題」とグラウンディングAIには、人間には当たり前に備わっている能力が欠けています。それは「言葉の意味を現実と結びつける能力」です。本章では、この「記号接地問題」とその解決策としての「グラウンディング」について解説します。言葉の意味を知らないAI(記号接地問題とは)記号接地問題とは、AIが言葉を「記号」として処理しているだけで、その意味を現実体験と結びつけていないという問題です。この問題があるからこそ、AIは平気で嘘をつきます。この問題を理解するために、辞書のたとえを使いましょう。辞書で「りんご」を引くと、「バラ科の落葉高木、またはその果実」と書かれています。では「バラ科」とは何か。辞書を引くと別の言葉で説明されています。この連鎖は永遠に続き、言葉は言葉でしか説明されません。しかし私たちは、実際にりんごを見て、触って、食べた経験があるからこそ、「りんご」という言葉の意味を理解しています。AIには、この「実際に経験する」という回路がありません。AIは大量のテキストから言葉同士の関係性を学習していますが、言葉が指し示す現実を体験したことはありません。そのため、言葉の統計的なパターンに基づいて「それらしい」文章を生成しますが、その内容が現実と一致している保証はないのです。これがハルシネーション(幻覚)の根本原因です。RAGによる「グラウンディング(接地)」RAGは、AIの思考を「現実」に繋ぎ止める装置として機能します。この繋ぎ止める行為を「グラウンディング(接地)」と呼びます。グラウンディングとは、もともと電気工学の用語で「接地」を意味します。電気機器を地面(Ground)に接続することで、余分な電流を逃がし、機器を安定させます。同様に、AIの思考を「根拠となるドキュメント(Ground)」に接続することで、空想への暴走を防ぎ、出力を安定させることができます。RAGは、ドキュメントという「局所的な現実」をAIに与える行為です。AIは言葉の意味を現実体験と結びつけることはできません。しかし、「この文書にはこう書いてある」という事実に基づいて回答することはできます。この「提供された根拠に基づいて回答する」という制約が、AIの思考を空想から現実へと繋ぎ止めます。たとえば、「当社の返品ポリシーは?」という質問に対して、RAGなしのAIは一般的な返品ポリシーを想像で語るかもしれません。しかし、RAGで自社の返品規定を参照させれば、AIはその文書に基づいた正確な回答を返します。これがグラウンディングの効果です。RAGの進化:知識(意味記憶)から知恵(エピソード記憶)へ従来のRAGは、マニュアルやFAQなどの「事実」を参照させることが主流でした。しかし、RAGの真の可能性は、「経験」を参照させることにあります。本章では、認知心理学の「意味記憶」と「エピソード記憶」の概念を用いて、RAGの進化の方向性を解説します。意味記憶とエピソード記憶の違い認知心理学では、長期記憶を「意味記憶」と「エピソード記憶」に分類します。この分類は、RAGに何を学習させるべきかを考える上で重要な示唆を与えます。意味記憶とは、事実やルールに関する記憶です。「日本の首都は東京である」「1キログラムは1000グラムである」といった一般的な知識がこれに該当します。ビジネスの文脈では、マニュアル、規定集、製品仕様書などが意味記憶に相当します。エピソード記憶とは、個人的な体験に関する記憶です。「先週の商談でこういう質問をされて困った」「あのプロジェクトではこの判断が失敗だった」といった、時間・場所・感情を伴う記憶がこれに該当します。ビジネスの文脈では、議事録、日報、成功・失敗事例の記録などがエピソード記憶に相当します。この2つの記憶には、決定的な違いがあります。意味記憶は「何が正しいか」を教えてくれますが、エピソード記憶は「何がうまくいったか、何が失敗したか」を教えてくれます。熟練者の判断力は、この2つの記憶が統合されることで生まれます。AIに「熟練の直感」を持たせる方法従来のRAGは、意味記憶(マニュアル)を中心に構築されてきました。しかし、マニュアルだけを参照するAIは「頭でっかちな新人」のようなものです。ルールは知っているが、現場の機微がわかりません。熟練者が持つ「直感」の正体は、豊富なエピソード記憶です。「以前、似たような状況で失敗した」「あの時はこうしたらうまくいった」という経験の蓄積が、瞬時の判断を可能にします。この直感をAIに持たせるためには、エピソード記憶をRAGに組み込む必要があります。具体的には、以下のようなデータをRAGの対象に加えることが有効です。1つ目は、成功・失敗事例の記録です。「このアプローチで成約に至った」「この提案は却下された理由はこうだった」といった結果を伴う事例は、意思決定の質を高めます。2つ目は、商談や会議の議事録です。「顧客がどんな懸念を示したか」「どう対応したか」という文脈情報は、類似状況での判断に役立ちます。3つ目は、ベテラン社員の暗黙知を言語化した記録です。「なぜその判断をしたか」「何に注意すべきか」といったノウハウは、マニュアルには載っていない貴重な知識です。このように、意味記憶(事実・ルール)とエピソード記憶(体験・結果)の両方をRAGに組み込むことで、AIは「知識」だけでなく「知恵」を持つようになります。結果や感情に基づいた「接地」が可能になり、AIはより賢明な判断ができるようになるのです。まとめ本記事では、認知心理学の視点から「なぜ巨大LLM時代にもRAGが必要なのか」を解説しました。RAGが必要な理由は、大きく3つあります。1つ目は、プロンプト(作業机)の限界です。コンテキストウィンドウが拡大しても、継続性と効率性の観点から、必要な情報を必要な時に取り出す仕組みは不可欠です。2つ目は、メンタルモデルの絞り込みです。LLMの広すぎる可能性を特定の業務・文脈にフォーカスさせるために、RAGによる制約が必要です。3つ目は、グラウンディングです。記号接地問題を抱えるAIを現実に繋ぎ止め、ハルシネーションを防ぐために、根拠となるドキュメントが必要です。パラメータ数が増えても、AIを「現実」に繋ぎ止め、「文脈」を維持するためにRAGは必要不可欠です。そして、今後のAI活用の質を分けるのは「何をRAGさせるか」という設計思想です。単なるマニュアル検索(意味記憶)だけでなく、成功・失敗事例(エピソード記憶)をRAGに組み込むことで、AIは「頭でっかちな新人」から「経験豊富な熟練者」へと進化します。自社のAI活用を見直す際には、ぜひ「どんなエピソード記憶をAIに与えられるか」という視点でデータ整備を検討してみてください。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
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