中央社会保険医療協議会(中医協)は、令和8年1月16日の総会(第642回)において、市場拡大再算定の対象品目を公表しました。市場拡大再算定とは、薬価収載後に市場規模が大幅に拡大した医薬品の薬価を引き下げる制度です。この記事では、令和8年度薬価改定における市場拡大再算定の対象品目と制度改革のポイントを解説します。
令和8年度の市場拡大再算定は、13成分31品目が対象となりました。内訳は内用薬が7成分22品目、注射薬が6成分9品目です。対象品目には、効能追加による市場拡大を理由とするものが多く、エンレストやリクシアナは持続可能性特例価格調整の対象となっています。また、改定時加算の対象として13成分24品目が選定されており、小児適応や希少疾病に係る加算が適用されます。
市場拡大再算定の対象品目
市場拡大再算定の対象となった13成分31品目のうち、効能追加や剤形追加を理由とするものが大部分を占めています。精神神経用剤、高脂血症用剤、腫瘍用薬など、幅広い薬効分類の医薬品が含まれています。
効能追加による市場規模拡大を理由とする主な品目には、レキサルティ(ブレクスピプラゾール)、オテズラ(アプレミラスト)、セムブリックス(アシミニブ塩酸塩)があります。レキサルティは精神神経用剤として、オテズラは代謝性医薬品として、それぞれ効能追加により市場が拡大しました。セムブリックスは成人と小児の同時開発に係る補正加算5%が適用されます。
注射薬では、スキリージ(リサンキズマブ)、サークリサ(イサツキシマブ)、ダラキューロ(ダラツムマブ配合剤)、パドセブ(エンホルツマブベドチン)が効能追加を理由に対象となりました。ダラキューロには真の臨床的有用性の検証に係る補正加算5%が適用されます。
原価計算方式で算定された品目として、ジャカビ(ルキソリチニブリン酸塩)、ロミプレート(ロミプロスチム)、イラリス(カナキヌマブ)が市場規模の拡大を理由に対象となりました。これらの品目は、当初の予想を大きく上回る市場拡大が認められたものです。
持続可能性特例価格調整の対象品目
持続可能性特例価格調整は、年間販売額が極めて大きい医薬品を対象とする制度です。エンレストとリクシアナの2成分がこの対象となりました。
エンレスト(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)は、年間販売額が1,000億円を超えたことで持続可能性特例価格調整の対象となりました。50mg、100mg、200mgの3規格が対象です。この医薬品は血圧降下剤および循環器官用薬として広く使用されています。
リクシアナ(エドキサバントシル酸塩水和物)は、年間販売額が1,500億円を超えたことで対象となりました。通常錠とOD錠を合わせた6規格が対象です。血液凝固阻止剤として、心房細動患者の脳卒中予防などに広く処方されています。
改定時加算の対象品目
改定時加算は、薬価収載後に小児適応の追加や希少疾病の効能追加などがあった品目に適用される制度です。令和8年度は13成分24品目が対象となりました。
小児適応の効能追加等に係る加算の対象には、ウプトラビ(セレキシパグ、加算率15%)、マグミット(酸化マグネシウム、加算率5%)、リアルダ(メサラジン、加算率10%)、プレバイミス(レテルモビル、錠剤で加算率15%、注射剤で加算率20%)があります。これらは小児への適応拡大により、臨床上の貢献が認められた品目です。
希少疾病の効能追加等に係る加算の対象には、ファビハルタ(イプタコパン塩酸塩水和物、C3腎症、加算率15%)、バビースモ(ファリシマブ、網膜色素線条、加算率15%)、ヒフデュラ(エフガルチギモドアルファ配合剤、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎、加算率10%)があります。これらは希少疾病への適応拡大が評価されました。
迅速導入による効能追加等に係る加算の対象には、アムヴトラ(ブトリシランナトリウム、心アミロイドーシス、加算率5%)、イミフィンジ(デュルバルマブ、限局型小細胞肺癌、加算率5%)があります。真の臨床的有用性の検証に係る加算として、リベルサス(セマグルチド、2型糖尿病、加算率5%)、イムデトラ(タルラタマブ、小細胞肺癌、加算率5%)が対象となりました。
国内の標準的治療法となった既収載品に係る加算として、ビロイ(ゾルベツキシマブ、CLDN18.2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌、加算率5%)が対象となりました。この加算は、市販後に診療ガイドラインにおいて標準療法となったと評価された品目に適用されるものです。
令和8年度制度改革の重要な変更点
令和8年度薬価制度改革では、市場拡大再算定の類似品に関する取り扱いが大きく変更されました。企業の予見可能性を確保しつつ、国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する観点から見直しが行われています。
従来、市場拡大再算定または持続可能性特例価格調整の対象品の類似品には、連動して再算定が適用されていました。この連動ルールが廃止され、類似品への自動適用はなくなりました。この変更により、後発品を開発した企業が予期せぬ薬価引き下げを受けるリスクが軽減されます。
一方で、薬理作用類似薬については新たな仕組みが導入されました。レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)により使用量を把握し、効能追加等の有無に関わらず、薬価改定以外の機会も含めて市場拡大再算定または持続可能性特例価格調整を実施します。対象となる薬理作用類似薬には、セムブリックスの類似薬(ボスチニブ水和物、ポナチニブ塩酸塩)、スキリージの類似薬(ミリキズマブ、グセルクマブ)、サークリサ・ダラキューロの類似薬(ダラツムマブ)があります。
まとめ
令和8年度の市場拡大再算定は、13成分31品目を対象として実施されます。効能追加による市場拡大を理由とするものが多く、エンレストとリクシアナは持続可能性特例価格調整の対象となりました。改定時加算では13成分24品目が選定され、小児適応や希少疾病に係る加算が適用されます。制度改革により類似品への連動適用は廃止されましたが、薬理作用類似薬についてはNDBを活用した新たな仕組みで再算定が実施されます。最終的な薬価は、市場拡大再算定による算定額と市場実勢価格に基づく薬価改定等による算定額のうち、低い額が適用されます。
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サマリー
令和8年度薬価改定において、市場拡大再算定が焦点となり、高価な新薬の価格見直しのメカニズムとそれに伴う仕組みの変更が議論されています。特に、NDBデータベースを用いた評価方法の導入により、薬価制度はデータ主義へと移行し、極めて重要な変化がもたらされています。