令和8年1月14日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会において「賃上げについて(その2)」が議論されました。令和8年度診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを確実に実現するため、診療報酬上の評価体系が大幅に見直されます。
今回の改定では、令和8・9年度にそれぞれ3.2%(看護補助者・事務職員は5.7%)のベースアップ実現を目指し、改定率+1.70%(2年度平均)が確保されました。主な変更点は、入院ベースアップ評価料の入院基本料への統合、調剤報酬への新たな評価体系の導入、届出手続きの大幅な簡素化の3点です。本稿では、これらの制度変更の詳細と医療機関への影響を解説します。
賃上げに対応する財源配分の概要
令和8年度診療報酬改定における賃上げ財源は、2年度平均で+1.70%が確保されています。この財源は、対象職種と目標水準に応じて配分されます。
賃上げの対象職種は大きく2つのグループに分かれます。第1グループは、令和6年度改定でベースアップ評価料の対象とされた職種(看護補助者以外)、40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、歯科技工所等で従事する者、ベースアップ評価料の対象外のその他の職員です。このグループには3.2%のベースアップ目標が設定されています。第2グループは看護補助者と事務職員で、他産業との人材獲得競争に直面していることを踏まえ、5.7%のベースアップ目標が設定されています。
財源配分の考え方として、改定率+1.70%のうち0.28%は特例的な対応として位置づけられています。この特例的対応は、医療機関等における賃上げ余力の回復・確保を図りつつ、幅広い医療関係職種での賃上げを確実にするために措置されます。
外来・在宅ベースアップ評価料の見直し
外来・在宅ベースアップ評価料については、現行の評価体系を基本としつつ、令和6・7年度の届出状況に応じた対応が検討されています。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の届出状況は、病院が約9割である一方、診療所は約4割にとどまっています。令和7年7月時点で、病院7,207施設(89.6%)、診療所60,053施設(38.8%)が届出を行っています。この届出率の差を踏まえ、令和8年度改定では令和6・7年度の届出の有無により評価に差を設けることが検討されています。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)については、評価料(Ⅰ)を届け出ている医療機関のうち約4%のみが届出を行っている状況です。この評価料は追加で賃上げ措置が必要な医療機関のみを対象としており、現行の体系を継続する方向で検討が進められています。
点数設定の方法は、令和6年度改定と同様に、医療機関ごとの必要点数の中央値として設定する案が示されています。
入院ベースアップ評価料の入院基本料への統合
入院ベースアップ評価料については、令和6年度分の評価料を入院基本料に統合する方向で検討が進められています。
統合の具体的な方法として、入院料ごとのベースアップ評価料の平均的な水準をもとに入院基本料へ合算することが提案されています。例えば急性期一般入院料1の届出医療機関における入院ベースアップ評価料の中央値は69区分であり、このような平均的水準を基準として統合が行われます。
令和7年度にベースアップ評価料を届け出ていなかった医療機関については、一定の控除を行う方向で検討されています。これは、令和6・7年度に賃上げに取り組んでいなかった医療機関との公平性を確保するための措置です。
令和8年度改定での賃上げ余力の回復・確保分についても、入院基本料に合算する方向で検討が進められています。
対象職種の拡大と算定方法の変更
令和8年度改定では、ベースアップ評価料の対象職種が拡大されます。新たに対象となるのは、事務職員、40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師、ベースアップ評価料の対象外であったその他の職員です。
40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師については、勤務形態や賃金水準が極めて多様であることを踏まえ、特別な算出方法が採用されます。常勤医師や一定時間以上勤務する非常勤医師の人数に基づき、1人あたり一定額(平均の給与から算出される賃上げ水準)に人数を乗じたものを、ベースアップ評価料の算出の基礎とする案が示されています。
事務職員については、他の職種と同様に給与総額を基礎として算出する方法が提案されています。これにより、新たな職種分も含め、ベースアップ評価料の算定総額が賃上げに活用される仕組みが構築されます。
調剤報酬における新たな評価体系
調剤報酬においても、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)と同様の評価体系を導入することが検討されています。
医療経済実態調査のデータに基づき、薬剤師3.2%、事務職員5.7%の賃上げのために必要な点数の分布を算出した結果、中央値は処方箋1枚あたり3.9点でした。この数値を基準として、調剤基本料1回あたりの新たな評価を設ける方向で検討が進められています。
この新たな評価は、薬局の薬剤師及び事務職員の確実な賃上げを図る観点から導入されるものです。
届出手続きの大幅な簡素化
届出手続きについては、医療機関の負担軽減と賃上げ実績の迅速かつ詳細な把握を両立させる観点から、大幅な簡素化が図られます。
届出時の負担軽減策として、ベースアップ評価料による収入を全て給与改善に活用することを前提に、申請時の賃金改善計画書の提出を不要とすることが検討されています。また、対象職員の月額給与の総額を記入することにより、賞与や法定福利費等に相当する一定の係数を乗じることで区分を決定できる仕組みも提案されています。
算定期間中の区分見直しについては、現行の3か月に1回の再計算を原則として不要とし、対象職員数等に大幅な変動があった場合のみ任意で行える仕組みへの変更が検討されています。
報告時期については、算定年の8月頃に賃上げ状況の中間報告、算定終了後の8月頃に算定額と賃上げ額に関する実績報告の提出を求める案が示されています。
複数事業所を有する法人への対応
一法人が複数の事業所を有する場合の対応として、給与総額や賃金改善総額の算出を複数事業所で合算した上で按分できる仕組みが検討されています。
具体的には、給与体系を共通とする法人が複数の保険医療機関または複数の訪問看護ステーションを有する場合、これらをまとめて給与総額や賃金改善に必要な額を計算できることとする案が示されています。各事業所の社会保険診療収入で按分することで、各事業所の給与総額や賃金改善に必要な額を算出し、入院ベースアップ評価料等の算定区分を決定します。
実績報告においても合計で評価することとし、合計で給与改善総額が算定総額以上であればよいとする案が提案されています。この仕組みは、給与体系を共通とする法人内の複数の保険薬局にも同様に適用される予定です。
まとめ
令和8年度診療報酬改定における賃上げ対応は、医療従事者の処遇改善を確実に実現するための重要な制度改正です。主な変更点は、令和8・9年度にそれぞれ3.2%(看護補助者・事務職員は5.7%)のベースアップ目標の設定、入院ベースアップ評価料の入院基本料への統合、調剤報酬への新たな評価体系の導入、届出手続きの大幅な簡素化の4点です。医療機関においては、今後示される具体的な要件や届出様式を確認し、適切な対応を行うことが求められます。
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サマリー
令和8年度診療報酬改定により、3.2%の賃上げが目指されており、特に看護補助者や事務職員向けに新たな評価体系が導入されます。この改定は、医療従事者の賃金改善だけではなく、日本の医療制度の持続可能性にも影響を与える重要な施策です。
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