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出産育児一時金が「現物給付」へ|第207回医療保険部会で議論された新制度の全容

出産育児一時金が「現物給付」へ|第207回医療保険部会で議論された新制度の全容

Dec 16, 2025 04:52 岡大徳

令和7年12月12日、第207回社会保障審議会医療保険部会が開催され、医療保険制度における出産に対する支援の強化について議論が行われました。正常分娩の出産費用は年々上昇を続けており、現行の出産育児一時金(原則50万円、産科医療補償制度掛金1.2万円を含む)では妊婦の経済的負担をカバーしきれない状況が生じています。本稿では、この会議で議論された新制度の方向性と今後の課題について解説します。新制度の方向性については概ね一致しつつあります。現行の出産育児一時金に代えて現物給付化を行い、給付水準は全国一律とすることが基本方針です。手厚い人員体制を整備している施設やハイリスク妊婦を積極的に受け入れる施設には加算で評価します。アメニティ等のサービス費用は無償化の対象から除外し、費用の見える化を徹底することで妊婦が納得感を持ってサービスを選択できる環境を整備します。一方で、妊婦本人への現金給付の在り方や新制度への移行時期については、引き続き議論が必要とされています。出産費用の現状と課題正常分娩の出産費用は過去10年以上にわたり上昇を続けています。令和6年度の全国平均出産費用は約52万円に達しており、現行の出産育児一時金50万円を上回っています。平成24年度の約42万円から約10万円の増加となっており、妊婦の経済的負担は確実に増大しています。出産費用には大きな地域間格差が存在します。令和6年度のデータによると、最も高いのは東京都で648,309円、最も低いのは熊本県で404,411円でした。その差は約24万円に及びます。妊婦合計負担額で見ると、東京都は754,243円、熊本県は460,634円であり、約29万円の差があります。施設類型別にも費用の差が見られます。私的病院の平均出産費用は約53.7万円、公的病院は約48.4万円、診療所(助産所含む)は約52.6万円となっています。分娩時に診療報酬を算定している割合は全体の約8割に達しており、多くの出産で何らかの医療行為が行われている実態があります。新制度の基本的な方向性新制度では、保険診療以外の分娩対応を現物給付化し、全国一律の給付水準を設定します。分娩の経過は多様であることを踏まえ、特定のケースを「標準」とするのではなく、基本単価を設定して支給する方式が検討されています。軽微な医療行為などは引き続き保険診療として対応します。手厚い体制を整備している施設への加算評価が設けられます。安全な分娩のために人員体制や設備を充実させている施設、ハイリスク妊婦を積極的に受け入れる体制を整備している施設が対象となります。身体的リスクだけでなく、精神的・社会的リスクを持つ妊産婦への支援体制も評価の対象として検討されています。アメニティ等のサービス費用は無償化の対象から除外されます。お祝い膳、写真撮影、エステなどのサービスは、妊婦自身が選択できる形とし、費用の見える化を義務付けます。現状では多くの施設でこれらのサービス費用が入院料等に含まれており、妊婦が選択しにくい状況にあるため、この点の改善が図られます。今後の議論のポイント妊婦本人に対する現金給付については意見が分かれています。現行の出産育児一時金は出産に伴う一時的な経済的負担全体の軽減を目的としており、その性格を引き継ぐべきという意見がある一方、法改正により給付の性格が変更される以上、引き継ぐ必要はないとの意見もあります。出産費用が50万円を下回る場合に発生していた差額の取り扱いも論点となっています。新制度への移行時期についても議論が続いています。妊婦の自己負担が年々上昇する中、できる限り早い段階での施行を求める声がある一方、拙速な制度変更により周産期医療供給体制が崩壊することを懸念する意見もあります。妊婦が希望に応じて施設を選択できるようにした上で、可能な施設から段階的に新制度へ移行する方策が検討されています。地域の周産期医療提供体制への配慮も重要な課題です。過疎地域の小規模施設が赤字により撤退すれば、妊婦に長距離移動という身体的リスクを強いることになります。分娩件数が減少している地域であっても、施設の体制維持に係るコストが確実に賄えるような制度設計が求められています。まとめ第207回医療保険部会では、出産育児一時金の現物給付化を軸とした新制度の方向性について議論が行われました。全国一律の給付水準の設定、手厚い体制を整備した施設への加算評価、アメニティ費用の見える化という3つの柱については方向性が概ね一致しつつあります。今後は、妊婦本人への現金給付の在り方、新制度への移行時期、地域の周産期医療提供体制への配慮について、さらに議論を深めていくことが予定されています。出産を控えた妊婦にとって経済的負担の軽減は切実な課題であり、関係者の合意形成と速やかな制度構築が期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定の基本方針を解説|4つの視点と重点課題

令和8年度診療報酬改定の基本方針を解説|4つの視点と重点課題

Dec 15, 2025 05:40 岡大徳

令和7年12月9日、社会保障審議会医療保険部会および医療部会において、令和8年度診療報酬改定の基本方針が決定されました。物価高騰や賃金上昇が続く中、医療機関の経営安定と人材確保が喫緊の課題となっています。本稿では、この基本方針の全体像と具体的方向性を解説します。今回の改定は、物価や賃金、人手不足等への対応を重点課題として位置づけています。基本方針では4つの基本的視点が示されました。第一に、医療従事者の処遇改善と人材確保への取組が重点課題となります。第二に、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携が推進されます。第三に、医療DXの活用による安心・安全で質の高い医療が推進されます。第四に、効率化・適正化を通じた医療保険制度の持続可能性向上が図られます。改定に当たっての基本認識基本方針では、令和8年度診療報酬改定に当たって4つの基本認識が示されました。これらの認識は、今回の改定全体を貫く基盤となっています。第一の認識は、日本経済が新たなステージに移行しつつある中での物価・賃金の上昇と人材確保の必要性です。日本経済は30年続いたコストカット型経済から脱却しつつあります。一方で医療分野は公定価格によるサービス提供が中心であるため、経済社会情勢の変化に機動的な対応が難しく、サービス提供や人材確保に大きな影響を受けています。第二の認識は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築です。2040年頃に向けては、生産年齢人口が減少する一方、85歳以上人口が増加していきます。こうした変化に対応するため、「治す医療」と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療提供体制を構築する必要があります。第三の認識は、医療の高度化や医療DX、イノベーションの推進による安心・安全で質の高い医療の実現です。医療技術の進歩を国民に還元するとともに、ドラッグ・ラグやデバイス・ラグへの対応が求められています。第四の認識は、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保と経済・財政との調和です。国民皆保険を堅持し次世代に継承するため、現役世代の保険料負担の抑制努力を踏まえながら、効率的・効果的な医療政策を実現することが不可欠です。重点課題:物価や賃金、人手不足等への対応今回の改定では、物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応が重点課題に位置づけられました。医療機関等は厳しい経営環境に直面しており、的確な対応が急務となっています。医療機関等は現下の持続的な物価高騰により、事業収益の悪化が続いています。人件費、医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等の物件費が増加しているためです。また、全産業で賃上げ率が高水準となる中、医療分野では賃上げ水準から乖離し、人材確保が困難な状況にあります。この重点課題に対する具体的方向性は、2つの柱で構成されています。第一の柱は、医療機関等が直面する人件費や物件費の高騰を踏まえた対応です。第二の柱は、賃上げや業務効率化・負担軽減等の業務改善による医療従事者の人材確保に向けた取組です。第二の柱である人材確保に向けた取組には、5つの具体的施策が含まれています。まず、医療従事者の処遇改善です。次に、ICT・AI・IoT等の利活用による業務効率化の推進です。さらに、タスク・シェアリング/タスク・シフティングとチーム医療の推進です。加えて、医師の働き方改革の推進と診療科偏在対策です。最後に、診療報酬上求める基準の柔軟化です。2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携第二の基本的視点として、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進が掲げられました。中長期的な人口構造や医療ニーズの変化を見据えた医療提供体制の構築が求められています。この視点における具体的方向性は、8つの分野に整理されています。第一に、患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価です。地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備や、人口の少ない地域の実情を踏まえた評価が含まれます。第二に、「治し、支える医療」の実現です。在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能を担う医療機関の評価、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等の高齢者の生活を支えるケアの推進が進められます。第三に、かかりつけ医機能、かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能の評価です。第四に、外来医療の機能分化と連携として、大病院と地域のかかりつけ医機能を担う医療機関との連携が推進されます。第五に、質の高い在宅医療・訪問看護の確保です。第六に、人口・医療資源の少ない地域への支援です。第七に、医療従事者確保の制約が増す中で必要な医療機能を確保するための取組です。第八に、医師の地域偏在対策の推進です。安心・安全で質の高い医療の推進第三の基本的視点は、安心・安全で質の高い医療の推進です。患者の安心・安全を確保しつつ、医療技術の進展や疾病構造の変化等を踏まえた取組の評価が進められます。この視点における具体的方向性は、9つの分野にわたります。第一に、患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価として、身体的拘束の最小化や医療安全対策の推進が含まれます。第二に、アウトカムにも着目した評価の推進です。第三に、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価です。電子処方箋システムの利活用やオンライン診療の推進が進められます。第四に、質の高いリハビリテーションの推進として、発症早期からの介入や土日祝日の実施体制充実が図られます。第五に、重点的な対応が求められる分野への適切な評価です。救急医療、小児・周産期医療、がん医療、精神医療、難病患者への医療が対象となります。第六から第九として、感染症対策・薬剤耐性対策の推進、歯科医療の推進、薬局機能の評価、イノベーションの適切な評価等が挙げられています。効率化・適正化を通じた制度の持続可能性向上第四の基本的視点は、効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上です。医療費増大が見込まれる中、国民皆保険を維持するための不断の取組が必要とされています。この視点における具体的方向性として、7つの取組が示されました。第一に、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進です。第二に、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直しです。第三に、費用対効果評価制度の活用です。第四に、市場実勢価格を踏まえた適正な評価です。医薬品、医療機器、検査等について効率的かつ有効・安全な利用体制の確保が図られます。第五に、電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働による医薬品の適正使用等の推進です。重複投薬、ポリファーマシー、残薬への対応が含まれます。第六に、外来医療の機能分化と連携です。第七に、医療DXやICT連携を活用する体制の評価です。今後の課題と展望基本方針では、今後取り組むべき課題も示されました。持続可能な「全世代型社会保障」の実現に向けて、診療報酬制度のみならず総合的な政策が求められています。今後の課題として、5つの点が挙げられています。第一に、診療報酬制度のみならず、医療法や医療保険各法等の制度的枠組み、補助金等の予算措置を含めた総合的な政策の必要性です。第二に、持続的な物価高騰・賃金上昇局面における適時適切な報酬措置の検討です。第三に、患者にとって身近で分かりやすい医療提供体制の実現と、国民の医療保険制度に対する納得感の向上です。第四に、予防・健康づくりやセルフケアの推進、ヘルスリテラシーの向上です。住民、医療提供者、保険者、民間企業、行政等の全ての関係者が協力・連携して国民一人一人を支援することが求められています。第五に、医療DXの推進です。医療DXへの投資は業務負担の軽減や医療の質の向上につながるため、国民の健康増進と安心・安全で質の高い医療サービスの実現に向けた推進が必要です。まとめ令和8年度診療報酬改定の基本方針は、物価高騰・賃金上昇への対応を重点課題として位置づけました。医療従事者の処遇改善と人材確保への取組、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携、医療DXを活用した安心・安全で質の高い医療の推進、効率化・適正化による制度の持続可能性向上という4つの基本的視点から、具体的な方向性が示されています。今後、中央社会保険医療協議会において、この基本方針に基づいた具体的な診療報酬点数等の議論が進められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2025年成立】医療法等改正法の3つの柱|地域医療構想・医師偏在・医療DX

【2025年成立】医療法等改正法の3つの柱|地域医療構想・医師偏在・医療DX

Dec 14, 2025 05:31 岡大徳

令和7年12月8日、第122回社会保障審議会医療部会において、医療法等の一部を改正する法律の成立が報告されました。この改正法は、高齢化に伴う医療ニーズの変化と人口減少を見据え、地域での良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を構築することを目的としています。改正法は3つの柱で構成されています。第1の柱は、2040年頃を見据えた地域医療構想の見直しです。第2の柱は、医師偏在是正に向けた総合的な対策です。第3の柱は、医療DXの推進であり、令和12年までに電子カルテ普及率約100%の達成を目指します。施行期日は令和9年4月1日を基本とし、一部規定は段階的に施行されます。地域医療構想の見直し等地域医療構想は、病床機能に限定せず、医療提供体制全体を対象とする構想へと拡大されます。改正法では、入院・外来・在宅医療、さらに介護との連携を含む将来の医療提供体制全体の構想として位置づけられました。この見直しにより、2040年頃の医療ニーズに対応できる体制の構築が可能となります。地域医療構想調整会議の構成員として市町村が明確化されました。在宅医療や介護との連携等を議題とする場合には、市町村の参画が求められます。この変更により、地域の実情に即した議論が促進されます。医療機関機能報告制度が新設されます。報告の対象となる機能は、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能等です。この制度により、各医療機関の役割が明確化され、地域全体での機能分化が進みます。オンライン診療が医療法に定義されました。具体的には、手続規定やオンライン診療を受ける場所を提供する施設に係る規定が整備されます。衆議院の附帯決議では、過剰な規制を設けないことが求められています。美容医療を行う医療機関における定期報告義務等も新設されます。この規定は公布後2年以内に政令で定める日から施行されます。病床数削減に関する支援事業も創設されました。都道府県は、地域の実情を踏まえ、医療機関の経営安定のために緊急に病床数を削減する事業を行うことができます。参議院の附帯決議では、医療費削減ありきではなく、各地域の医療の質の確保を前提とすることが求められています。医師偏在是正に向けた総合的な対策医師偏在の是正に向けて、経済的インセンティブと規制的措置の両面から対策が講じられます。具体的には、重点区域の設定、医師手当事業の創設、外来医師過多区域への対応強化、保険医療機関管理者の要件設定の4つの措置が盛り込まれました。「重点的に医師を確保すべき区域」を都道府県知事が医療計画において定めることができるようになりました。この区域では、保険者からの拠出による医師の手当支給に関する事業が実施されます。附帯決議では、手当増額に使途を限定し、保険者が実施状況を確認・検証できる体制の確保が求められています。外来医師過多区域の無床診療所への対応が強化されます。新規開設の事前届出制が導入されるほか、要請勧告の公表や保険医療機関の指定期間の短縮等の措置が設けられます。施行後3年を目途として、効果検証を行い、必要に応じて所要の措置を講ずることとされています。保険医療機関の管理者に新たな要件が設けられます。保険医として一定年数の従事経験を持つ者であること等が要件となり、管理者としての責務も課されます。この規定は令和8年4月1日から施行されます。医療DXの推進医療DXの推進は、電子カルテ情報の共有、医療情報の二次利用、推進体制の整備の3つの施策で構成されます。政府は、令和12年12月31日までに電子カルテの普及率が約100%となることを達成するよう、先端技術の活用を含めた情報の電子化を実現しなければならないとされました。電子カルテ情報共有サービスが整備されます。必要な電子診療録等情報の医療機関での共有が可能となるほか、感染症発生届の電子カルテ情報共有サービス経由の提出も可能となります。附帯決議では、普及率が最低でも5割程度に達するまでの基盤整備期間中は、国による必要な財政支援を行うことが求められています。医療情報の二次利用が推進されます。厚生労働大臣が保有する医療・介護関係のデータベースについて、仮名化情報の利用・提供が可能となります。この規定は公布後3年以内に政令で定める日から施行されます。社会保険診療報酬支払基金が医療DXの運営母体として改組されます。名称、法人の目的、組織体制等の見直しが行われます。また、厚生労働大臣は医療DXを推進するための「医療情報化推進方針」を策定します。附帯決議では、審査支払機能を十分に果たせる人員配置と運営体制の確保が求められています。施行期日と今後の展望施行期日は規定ごとに異なります。基本となる施行日は令和9年4月1日です。オンライン診療の定義、外来医師過多区域への対応、保険医療機関管理者の要件等は令和8年4月1日から施行されます。地域医療構想の見直しに関する一部規定は令和8年10月1日から施行されます。衆参両院の附帯決議には重要な指摘が含まれています。オンライン診療については過剰な規制を設けないこと、医師手当事業については保険料負担の抑制を図ること、電子カルテ情報共有サービスについては国による財政支援を行うこと等が求められています。介護・障害福祉従事者の処遇改善についても、早急な措置を講ずることが決議されました。まとめ医療法等の一部を改正する法律は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築を目指す包括的な制度改革です。地域医療構想の見直しにより病床から医療提供体制全体への視野拡大が図られ、医師偏在是正により地域間の医療格差の解消が進められ、医療DXの推進により電子カルテ普及率100%を目指す基盤整備が行われます。医療機関の経営者や医療従事者は、段階的な施行スケジュールを踏まえ、計画的な対応準備を進めることが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【総額1兆368億円】令和7年度補正予算案「医療・介護等支援パッケージ」の全容を解説

【総額1兆368億円】令和7年度補正予算案「医療・介護等支援パッケージ」の全容を解説

Dec 13, 2025 05:59 岡大徳

令和7年12月8日に開催された第122回社会保障審議会医療部会において、令和7年度補正予算案が報告されました。本予算案は、物価上昇や人手不足といった医療機関の経営課題に対応し、地域に必要な医療提供体制を確保することを目的としています。本稿では、医療分野に総額1兆368億円を投じる「医療・介護等支援パッケージ」の概要を解説します。主要な支援策は6つあります。賃上げ・物価上昇対策に5,341億円、病床数適正化に3,490億円、福祉医療機構による優遇融資に804億円、施設整備促進に462億円、生産性向上に200億円、産科・小児科支援に72億円がそれぞれ計上されています。賃上げ・物価上昇に対する支援(5,341億円)最大の予算枠である5,341億円は、医療機関・薬局における処遇改善と物価上昇対策に充てられます。この支援は、救急医療を担う医療機能の特性を踏まえつつ、物価を上回る賃上げの実現を目指すものです。病院に対する基礎的支援は、1床あたり賃金分7.2万円、物価分1.3万円の計8.5万円です。有床診療所は1床あたり賃金分8.4万円、物価分11.1万円が交付されます。医科無床診療所・歯科診療所には1施設あたり賃金分15.0万円、物価分17.0万円の計32.0万円が支給されます。保険薬局への支援は、1法人あたりの店舗数に応じて傾斜配分されます。5店舗以下は1施設あたり計23.0万円、6〜19店舗は18.0万円、20店舗以上は12.0万円となっています。訪問看護ステーションには1施設あたり22.8万円が交付されます。救急医療を担う病院には、受入件数に応じた加算があります。救急車受入件数1件以上1,000件未満で500万円、1,000件以上で1,500万円、2,000件以上で3,000万円、3,000件以上で9,000万円、5,000件以上で1.5億円、7,000件以上で2億円の加算です。三次救急病院については、受入件数5,000件未満の場合は一律1億円が加算されます。手術・分娩実績に基づく加算も設けられています。全身麻酔手術件数または分娩取扱数(分娩取扱数は3を乗じた数で算定)が800件以上の病院には1施設あたり2,000万円、2,000件以上の病院には8,000万円が加算されます。ただし、この加算は救急車受入件数3,000件未満の病院が対象であり、救急加算との併給はできません。病床数の適正化に対する支援(3,490億円)二番目に大きな予算枠である3,490億円は、病床数の適正化を進める医療機関への支援に充てられます。この支援は、「病床数適正化緊急支援基金」を新たに創設して実施されます。支援対象は、医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化を進める医療機関です。交付額は、病院(一般・療養・精神)および有床診療所の病床削減に対して1床あたり約410万円です。休床の場合は1床あたり約205万円となります。削減目標として約11万床が設定されています。この内訳は、一般病床・療養病床の必要病床数を超える約5.6万床と、精神病床の基準病床数を超える約5.3万床です。令和6年度補正予算では約1.1万床分が措置済みであり、今回の予算で残りの削減を加速します。福祉医療機構による優遇融資等(804億円)804億円は、物価高騰の影響を受けた医療機関の資金繰り支援に充てられます。独立行政法人福祉医療機構による無利子・無担保等の優遇融資を実施するための体制整備費用です。この支援は、福祉医療機構に対する出資金および運営費交付金として措置されます。融資財源は別途財政融資資金から措置されます。地域の基幹的な民間病院に対しては、資本性劣後ローンを提供し、民間金融機関と連携しながら経営改善を図ることも可能です。施設整備の促進に対する支援(462億円)462億円は、物価高騰により施設整備が困難となっている医療機関への支援に充てられます。この支援により、地域医療構想の推進と救急・周産期医療体制の確保を図ります。支援対象は、医療提供体制施設整備交付金、医療施設等施設整備費、地域医療介護総合確保基金の交付対象となる新築・増改築等を行う医療機関です。交付額は「(市場価格-補助事業単価)×国負担分相当」として算出され、㎡数に応じた建築資材高騰分等が補助されます。生産性向上に対する支援(200億円)200億円は、業務効率化・職場環境改善に取り組む医療機関への支援に充てられます。医療分野の生産性向上を図り、人材確保・定着につなげることが目的です。支援対象は、「業務効率化推進委員会(仮称)」を設置し、ICT機器等の導入など業務効率化・職場環境改善に取り組む病院です。総事業費は1病院あたり1億円であり、このうち交付額の上限は8,000万円です。負担割合は国が3分の2、都道府県が3分の1となっています。生産性向上に資する取組の具体例として、スマートフォンによるカルテ閲覧・情報共有、インカム、インタラクティブ・ホワイト・ボード等の導入が挙げられています。これらにより、DX化による情報伝達の効率化を実現します。産科・小児科への支援(72億円)72億円は、出生数・患者数の減少等を踏まえた産科・小児科への支援に充てられます。地域でこどもを安心して生み育てることができる周産期医療・小児医療体制の確保が目的です。支援は4つの事業で構成されています。分娩取扱施設支援事業は、分娩数が減少している施設に対して1施設あたり580万円〜1,740万円を補助します。地域連携周産期支援事業(分娩取扱施設)は、集約化が困難な地域の施設に最大約1,125万円を補助します。地域連携周産期支援事業(産科施設)は、妊婦健診等を行い近隣施設と連携する施設の整備・設備費用を補助します。小児医療施設支援事業は、地域の小児医療拠点病院に対して小児科部門の病床1床あたり約21万円〜約105万円を補助します。まとめ令和7年度補正予算案における医療・介護等支援パッケージは、物価上昇と人材確保という医療機関が直面する二大課題に対応するものです。総額1兆368億円の予算は、賃上げ・物価対策、病床適正化、資金繰り支援、施設整備、生産性向上、産科・小児科支援の6分野に配分されます。予算成立後は速やかに実施される予定であり、各医療機関は自院の状況に応じた支援策の活用を検討することが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【200億円支援決定】医療機関のDX化推進|厚労省が示す業務効率化の新方針

【200億円支援決定】医療機関のDX化推進|厚労省が示す業務効率化の新方針

Dec 12, 2025 04:52 岡大徳

2040年に向けて生産年齢人口が減少し、医療従事者の確保がますます困難になることが見込まれています。政府は令和7年6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025改訂版」において、人手不足が深刻な12業種の生産性向上が必要として「省力化投資促進プラン(医療分野)」を策定しました。この流れを受け、第122回社会保障審議会医療部会(令和7年12月8日開催)では、医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する方向性が示されました。本稿では、この方向性の内容を解説します。厚生労働省が示した方向性は、大きく2つの柱で構成されています。第1の柱は、医療機関の業務のDX化推進です。この柱には、令和7年度補正予算案200億円の計上、効果測定のためのエビデンス蓄積、診療報酬基準の柔軟化検討、機器・サービスの透明性確保と技術開発推進、支援体制の強化、病院の公的認定制度創設、医療法・健保法における責務の明確化が含まれます。第2の柱は、タスク・シフト/シェアの推進と医療従事者の養成体制確保です。この柱には、DX化と連動したタスク・シフト/シェアの推進、養成校の遠隔授業やサテライト化の活用、養成課程の柔軟化が含まれます。医療機関の業務のDX化推進厚生労働省は、業務効率化に取り組む医療機関の裾野を広げるため、国・自治体による支援と医療機関の責務明確化の両面から対応を進めます。その際、全ての医療機関が直ちにDX化に対応できるわけではないことを考慮し、現場の理解を得ながら丁寧に進めるとしています。国・自治体による支援等国・自治体による支援は、財政支援、エビデンス蓄積、診療報酬基準の柔軟化検討、機器・サービスの透明性確保と技術開発推進、支援体制の強化、認定制度の創設の6つの施策で構成されます。財政支援については、令和7年度補正予算案において200億円が計上されました。この予算は、これまでの試行的・先進的な取組への支援だけでなく、業務のDX化に取り組む多くの医療機関を支援することを目的としています。さらに、業務のDX化による効果の発現には一定の期間を要することを踏まえ、継続的な支援の在り方も検討されます。エビデンス蓄積については、統一的な基準によるデータ収集・分析が行われます。収集対象は、労働時間の変化、医療の質や安全の確保、経営状況に与える影響等です。データ収集の際には、医療機関の負担が過度なものにならないよう留意し、できるだけ簡便な形で収集できる方法が検討されます。また、医療機関の情報システムと連携できるよう、医療情報の標準化にも留意しながら進められます。診療報酬基準の柔軟化検討については、エビデンスの蓄積を行いながら進められます。医療の質や安全の確保と同時に、持続可能な医療提供体制を維持していくことが重要という視点から、業務の効率化を図る場合における診療報酬上求める基準の柔軟化が検討されます。ただし、第121回医療部会では、業務効率化を診療報酬の人員配置基準の緩和へつなげるには時期尚早との意見も出されています。機器・サービスの透明性確保と技術開発推進については、2つの取組が進められます。1つ目は、医療機関が業務効率化に資する機器やサービスの価格や機能、効果を透明性をもって把握できる仕組みの構築です。2つ目は、業務効率化に資する新たな技術開発等の推進です。支援体制の強化については、都道府県の医療勤務環境改善支援センターの体制拡充・機能強化が図られます。同センターは従来、労務管理等の支援を行ってきましたが、今後は業務効率化の助言・指導等も行うことが明確化されます。地域医療介護総合確保基金を活用した同センターへの支援もさらに促進されるとともに、国から都道府県への技術的助言が行われます。認定制度の創設については、業務効率化・職場環境改善に計画的に取り組む病院を公的に認定する仕組みが、地域医療介護総合確保法に創設されます。この認定を受けることで、医療従事者の職場定着にプラスとなり、労働市場における医療従事者の確保面でより有利になることが期待されています。認定の仕組みは透明性がある分かりやすいものとし、医療従事者の視点を入れることも検討されます。医療機関の責務の明確化医療機関の責務は、医療法と健保法の両面で明確化されます。医療法上の責務については、病院又は診療所の管理者が業務効率化に取り組むよう努める旨が明確化されます。現在、管理者は医療従事者の勤務環境の改善その他の医療従事者の確保に取り組む措置を講ずるよう努めることとなっていますが、今後はこれらに業務効率化が加わります。健保法上の責務については、保険医療機関の責務として業務効率化・勤務環境改善に取り組むよう努める旨が明確化されます。ただし、第121回医療部会では、医療機関の管理者に業務効率化の責務を付すことで医療機関に負担がかかるようなことは避けるべきとの意見も出されています。タスク・シフト/シェアの推進と養成体制確保厚生労働省は、タスク・シフト/シェアの推進、養成体制の確保、養成課程を含めた環境整備の3つの施策を進めます。タスク・シフト/シェアの推進タスク・シフト/シェアは、DX化と連動して推進されます。医療機関が業務のDX化に取り組む際には、併せてタスク・シフト/シェアの実施や業務プロセス自体の見直しを進めることが求められます。第121回医療部会では、タスク・シフト/シェアにより本来業務ではない部分で業務が停滞することのないよう、AIやロボット等によるDX化があることを明確にすべきとの意見も出されています。養成体制の確保養成体制の確保は、地域の実情に応じた対応が進められます。医療関係職種の養成校の定員充足率は近年低下傾向にあり、地域差も大きい状況です。今後は、各地域の人口減少の推移や今後の地域医療構想等を踏まえた各医療関係職種の需給状況を見通しつつ、遠隔授業の実施やサテライト化の活用などをはじめとした検討が進められます。養成課程を含めた環境整備養成課程を含めた環境整備は、3つの観点から進められます。第1の観点は、参入しやすい養成課程の整備です。医療関係職種の各資格間において現在でも可能となっている既修単位の履修免除の活用や、養成に係る修業年限の柔軟化などが検討されます。まずは課題等を把握し、各職種の状況に応じた支援の在り方が検討されます。第2の観点は、キャリア支援と環境整備です。意欲・能力やライフコースに合わせて、更なるキャリア・スキルの向上を目指す者や、育児・介護等の事情を抱えて働く者への支援が検討されます。セカンドキャリアとして働く上でのマネジメントに関するリカレント教育等の在り方についても、具体的に検討が進められます。第3の観点は、歯科関係職種の業務範囲等の検討です。歯科衛生士・歯科技工士の業務範囲や、歯科技工の場所の在り方については、現在進めているそれぞれの業務のあり方等に関する検討会において具体的に検討が進められます。まとめ第122回社会保障審議会医療部会で示された方向性は、医療機関の業務のDX化推進とタスク・シフト/シェアの推進・養成体制確保の2つの柱で構成されています。DX化推進では、200億円の補正予算、エビデンス蓄積、診療報酬基準の柔軟化検討、機器・サービスの透明性確保と技術開発推進、支援体制強化、認定制度創設、法改正による責務明確化が進められます。タスク・シフト/シェア推進・養成体制確保では、DX化と連動した推進、遠隔授業やサテライト化の活用、養成課程の柔軟化、キャリア支援が進められます。これらの施策は、「省力化投資促進プラン(医療分野)」を踏まえ、2040年に向けた医療従事者の安定的確保と質の高い効率的な医療提供体制の構築を目指すものです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定の基本方針を解説|4つの視点と重点課題

令和8年度診療報酬改定の基本方針を解説|4つの視点と重点課題

Dec 11, 2025 05:54 岡大徳

令和7年12月8日、第122回社会保障審議会医療部会において、令和8年度診療報酬改定の基本方針(案)が示されました。今回の改定は、持続的な物価高騰と賃金上昇が続く経済環境のもと、医療機関の経営安定と医療従事者の処遇改善が喫緊の課題となっています。本稿では、この基本方針の全体像と4つの改定視点について解説します。今回の基本方針の要点は次の4点です。第一に、物価・賃金・人手不足への対応が「重点課題」に位置づけられました。第二に、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進が掲げられています。第三に、医療DXやイノベーションによる安心・安全で質の高い医療の実現が示されました。第四に、効率化・適正化を通じた医療保険制度の持続可能性向上が求められています。改定に当たっての基本認識今回の基本方針では、改定の前提となる4つの基本認識が示されています。これらの認識は、日本の医療制度が直面する構造的課題を反映しています。第一の認識は、物価・賃金上昇と人材確保の課題です。日本経済は30年続いたコストカット型経済から脱却し、新たなステージに移行しつつあります。しかし医療分野は公定価格によるサービス提供が大宗を占めるため、経済情勢の変化に機動的な対応が難しい状況にあります。この結果、医療機関では全産業の賃上げ水準から乖離が生じ、人材確保が困難になっています。第二の認識は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築です。2040年頃に向けては、生産年齢人口が減少する一方、85歳以上人口は増加していきます。この人口構造の変化に対応するため、限りある医療資源を最適化しながら、「治す医療」と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化する必要があります。第三の認識は、安心・安全で質の高い医療の実現です。医療技術の進歩や高度化を国民に還元するとともに、ドラッグ/デバイス・ラグ/ロスへの対応が求められています。デジタル化された医療情報の利活用やAI・ICT等の活用による医療DXの推進も重要な課題です。第四の認識は、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保です。国民皆保険を堅持し次世代に継承するためには、経済・財政との調和を図りつつ、現役世代の保険料負担の抑制努力が必要です。重点課題:物価・賃金・人手不足への対応今回の改定では、「物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応」が重点課題に位置づけられました。この重点課題は、医療機関の経営安定と人材確保という2つの柱で構成されています。医療機関の経営状況は厳しさを増しています。持続的な物価高騰により、人件費や、医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等といった物件費が増加しています。この結果、事業収益の増加以上に事業費用が増加し、収益が悪化している状況にあります。人材確保も深刻な課題となっています。2年連続で5%を上回る賃上げ率となった春闘等により、全産業の賃上げ水準が高まる中、医療分野では収益悪化を背景に賃上げが進んでいません。この賃上げ水準の乖離が、医療従事者の確保を一層困難にしています。具体的方向性として、次の5つが示されています。第一に、物件費高騰を踏まえた対応です。第二に、医療従事者の処遇改善です。第三に、ICT・AI・IoT等の利活用による業務効率化です。第四に、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進です。第五に、医師の働き方改革の推進と診療報酬上の基準の柔軟化です。2040年を見据えた医療機関の機能分化・連携第二の視点は、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域における医療の確保です。この視点では、地域医療構想に基づく医療提供体制の構築が中心的なテーマとなっています。入院医療については、患者の状態と必要な医療機能に応じた評価が求められています。患者のニーズ、病院の機能・特性、地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備が必要です。人口の少ない地域の実情を踏まえた評価も重要な課題です。「治し、支える医療」の実現に向けた取組も示されています。在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能を担う医療機関の評価、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等の高齢者の生活を支えるケアの推進が具体的方向性として挙げられています。外来・在宅医療に関しては、かかりつけ医機能、かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能の評価が求められています。大病院と地域のかかりつけ医機能を担う医療機関との連携による外来患者の逆紹介の推進も重要です。質の高い在宅医療・訪問看護の確保、人口・医療資源の少ない地域への支援、医師の地域偏在対策の推進も具体的方向性に含まれています。安心・安全で質の高い医療の推進第三の視点は、安心・安全で質の高い医療の推進です。この視点では、患者の安心・安全を確保しつつ、イノベーションを推進し、新たなニーズに対応できる医療の実現を目指しています。患者の安全確保に関しては、身体的拘束の最小化や医療安全対策の推進が示されています。アウトカムに着目した評価として、データを活用した診療実績による評価の推進も求められています。医療DXの推進も重要な方向性です。電子処方箋システムによる重複投薬等チェックの利活用の推進、外来・在宅医療等におけるオンライン診療の推進が具体的に挙げられています。質の高いリハビリテーションの推進も求められています。発症早期からのリハビリテーション介入の推進、土日祝日のリハビリテーション実施体制の充実が具体的方向性として示されています。重点的な対応が求められる分野として、救急医療、小児・周産期医療、がん医療・緩和ケア、精神医療、難病患者への医療が示されています。感染症対策や薬剤耐性対策の推進、歯科医療の充実、薬局・薬剤師業務の対人業務の充実化、イノベーションの評価や医薬品の安定供給確保も具体的方向性に含まれています。効率化・適正化による制度の持続可能性向上第四の視点は、効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上です。高齢化や技術進歩、高額な医薬品の開発等により医療費の増大が見込まれる中、医療資源の効率的・重点的な配分が求められています。医薬品に関する取組として、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直しが示されています。費用対効果評価制度の活用、市場実勢価格を踏まえた適正な評価も重要な方向性です。医薬品の適正使用に向けては、電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働が求められています。重複投薬、ポリファーマシー、残薬への対応、医学的妥当性や経済性の視点を踏まえた処方の推進が具体的に挙げられています。外来医療の機能分化と連携、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制評価も再掲されています。今後の課題基本方針では、今後の課題として5つの事項が示されています。これらの課題は、診療報酬制度だけでは解決できない構造的な問題への対応を求めるものです。第一に、総合的な政策の必要性です。持続可能な「全世代型社会保障」の実現には、診療報酬制度のみならず、医療法、医療保険各法等の制度的枠組みや補助金等の予算措置を含めた総合的な対応が求められます。第二に、物価高騰・賃金上昇への適時適切な対応です。諸経費や設備投資の増加、処遇改善への支援を、保険料負担の抑制努力にも配慮しつつ、報酬措置においても適時適切に行える仕組みの検討が必要です。第三に、国民の納得感の向上です。診療報酬制度を分かりやすくする取組の継続、社会保障制度の意義に関する丁寧な説明、国民が議論の場へ参加する機会の確保が重要とされています。第四に、予防・健康づくりの推進です。住民、医療提供者、保険者、民間企業、行政等の全ての関係者が協力・連携して国民一人一人を支援することが求められています。第五に、医療DXへの投資です。医療DXは医療機関のコスト増加だけでなく、業務負担の軽減や医療の質の向上につながるものであり、国民の健康増進や地域医療連携の円滑化に寄与するとされています。まとめ令和8年度診療報酬改定の基本方針は、物価・賃金上昇への対応を重点課題に位置づけ、医療機関の経営安定と医療従事者の処遇改善を最優先としています。同時に、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築、安心・安全で質の高い医療の推進、医療保険制度の持続可能性向上という3つの視点も示されています。今後、この基本方針に基づき、中央社会保険医療協議会において具体的な点数設定等の議論が進められる見込みです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度改定】人口減少地域の医療確保と救急体制強化の方向性|中医協第631回総会

【令和8年度改定】人口減少地域の医療確保と救急体制強化の方向性|中医協第631回総会

Dec 10, 2025 05:51 岡大徳

令和7年11月28日に中央社会保険医療協議会総会(第631回)が開催され、令和8年度診療報酬改定に向けた個別事項(その10)として「人口・医療資源の少ない地域」「救急医療」「業務の簡素化」の3テーマが議論されました。人口減少と医師の高齢化が進む地域での医療提供体制の維持が喫緊の課題となる中、オンライン診療の活用や医療機関間の連携強化が検討されています。今回の議論では、主に3つの方向性が示されました。第一に、医療資源の少ない地域の対象範囲を見直すとともに、小規模二次医療圏における外来診療確保のための新たな評価の検討です。第二に、救急外来における体制評価の充実と救急患者連携搬送料の運用改善です。第三に、施設基準届出のオンライン化推進と計画書等の署名省略による業務負担軽減です。人口・医療資源の少ない地域における医療提供体制人口・医療資源の少ない地域では、診療所数の減少と医師の高齢化が深刻化しています。中医協では、対象地域の見直しと小規模二次医療圏への支援強化を軸に検討が進められています。人口規模が小さい二次医療圏においては、2012年から2022年にかけて診療所数が減少傾向にあり、従事する医師の高齢化も進んでいます。全二次医療圏の人口平均値は約28.2万人、中央値は約22.3万人であり、人口密度が全国平均以下の二次医療圏は194医療圏に上ります。医療資源の少ない地域の要件については、令和5年医療施設静態調査等を用いた見直しシミュレーションが行われました。その結果、現在該当する37医療圏のうち32医療圏が引き続き該当し、7医療圏が新たに該当する一方、5医療圏が除外となります。これにより、令和8年度改定では対象が39医療圏となる見込みです。除外される医療圏の医療機関については、運営の安定性を担保する観点から、経過措置期間の延長が検討されています。小規模な二次医療圏における外来診療体制の確保に向けて、3層構造の支援イメージが示されました。第1層は過疎地域等に所在する「へき地診療所等」で、巡回診療や医師派遣、D to P with N・D to P with Dを含むオンライン診療を活用して基礎的な医療を提供します。第2層は「へき地診療所等への支援を実施する病院」で、地域の救急患者や入院患者を受け入れながら、オンライン診療を含む巡回診療や医師派遣を行います。第3層は「拠点的機能を有する病院」で、急性期の拠点機能を担いながら地域全体への医師派遣を調整します。オンライン診療の活用については、へき地医療拠点病院358施設のうち83施設が情報通信機器を用いた診療の届出を行っています。オンライン診療による巡回診療を実施した医療機関は7施設にとどまりますが、実施した巡回診療のほとんどをオンライン診療で行っている先進事例も存在します。D to P with Nは看護師の同席により検査・処置の実施や患者状況の把握が可能となる利点があり、今後の評価のあり方について議論が求められています。救急医療体制の充実と連携強化救急医療については、過去最多となった救急搬送件数への対応と、救急外来における体制評価の充実が主な検討課題となっています。令和6年中の救急自動車による救急出動件数と搬送人員は、昭和38年の集計開始以降で最多となりました。年齢区分別では高齢者の搬送が増加しており、現場到着所要時間および病院収容所要時間は新型コロナウイルス感染症発生以降大幅に延長し、令和5年においても以前の水準には戻っていません。救急患者連携搬送料については、令和6年度改定で新設されたものの、課題が指摘されています。算定患者が多い医療機関がある一方で、ほとんどの医療機関では実際に搬送・受入を行った患者数は少数にとどまっています。また、急性疾患に対する治療を終了し、必ずしも緊急自動車等による搬送が必要でない可能性のある患者が一定程度含まれていることも判明しました。総務省消防庁では、病院救急車や患者等搬送事業者の活用による転院搬送体制の整備が検討されています。救急外来応需体制に対する評価として、夜間休日救急搬送医学管理料と院内トリアージ実施料があります。夜間休日救急搬送医学管理料の算定回数は令和2年以降増加傾向にあり、令和6年には月間約15.6万回に達しています。高次の救急医療機関ほど、地域の救急医療に関する取組への参加割合や24時間検査体制を有する割合が高い傾向にあります。救急外来における体制については、専用の区画を有し、救急患者に対応できる医師・看護師・薬剤師等を配置し、24時間検体検査・画像検査・処方等を実施できる体制の評価が検討されています。現行では、救急外来従事者の配置や地域救急医療への取組参加について直接的な評価がないことから、体制の充実に向けた議論が進められています。業務の簡素化による負担軽減業務の簡素化については、診療に係る業務と届出に係る業務の2つの観点から検討が進められています。医療機関の事務負担軽減と医療従事者の働き方改革を推進する観点から、様式の見直しや電子化が主要な論点となっています。診療に係る業務で簡素化の必要性があるものについて調査を行ったところ、施設として最も多かったのは「計画書作成」(44.2%)で、次いで「DPCデータ(様式1)の作成」(38.2%)でした。病棟では「計画書作成」に次いで「患者や家族等による署名・記名押印」が多く挙げられました。入院診療計画書については、法令上は短期間で退院が見込まれる場合は作成不要とされていますが、診療報酬上は全患者に作成を求めています。規制改革推進に関する答申では、医療機関等の負担軽減の観点から、診療報酬上の書面について署名または記名・押印を不要とすることの可否検討が求められており、代替方法で担保できるものは廃止する方向で議論されています。届出に係る業務については、施設基準等届出のオンライン化が段階的に進められています。令和4年4月から開始され、令和7年度中に326件の届出についてオンライン化が実施予定であり、令和10年度の全届出オンライン化を目指して改修が進んでいます。様式9については、記載にあたって参考にすべき注意事項が多く、看護要員等の算出における小数点以下の処理方法が項目によって異なるなど、作成が煩雑であるとの指摘があります。注意事項の記載整理や小数点以下の処理の統一等の見直しが検討されています。毎年の報告様式についても、他に代替方法がないものや次期改定に必要なものに限定し、添付書類を省略するなどの簡素化が検討されています。妥結率等にかかる報告書では大部な添付書類が必要とされており、医療機関等の負担軽減が求められています。まとめ:令和8年度改定に向けた方向性令和8年度診療報酬改定に向けて、人口減少地域における医療提供体制の維持、救急医療体制の充実、医療機関の業務負担軽減の3つの方向性が示されました。人口・医療資源の少ない地域については、対象地域の見直しに加え、小規模二次医療圏における外来診療確保のための新たな評価体系の構築が検討されています。救急医療については、救急外来における体制評価の充実と救急患者連携搬送の運用改善が課題となっています。業務の簡素化については、施設基準届出のオンライン化推進と計画書等の署名省略による負担軽減が進められる見通しです。今後の中医協総会における議論の進展に注目が必要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度改定】薬局の無菌製剤処理加算とポイント付与規制の2つの論点を解説

【令和8年度改定】薬局の無菌製剤処理加算とポイント付与規制の2つの論点を解説

Dec 9, 2025 05:18 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第631回)において、令和8年度診療報酬改定に向けた調剤に関する議論が行われました。今回の資料では、薬剤調製料の無菌製剤処理加算と、患者誘引につながるポイント付与・配送料無料の問題が取り上げられています。この資料では、2つの論点が示されました。第一の論点は、無菌製剤処理加算の対象年齢を6歳未満から15歳未満へ拡大するかどうかです。第二の論点は、ポイント付与や配送料無料の広告による患者誘引への対策をどう講じるかです。いずれも令和8年度改定に向けて、今後の議論が注目されます。無菌製剤処理加算の対象年齢拡大が論点に無菌製剤処理加算について、現行では6歳未満の乳幼児のみが加点対象ですが、6歳以上15歳未満の小児への拡大が検討されています。この背景には、小児に対する注射薬の調製において、年齢や体重に応じた投与量調整が必要となる実態があります。現行の無菌製剤処理加算は、乳幼児への無菌調製を評価する仕組みです。乳幼児では、乳幼児用の製剤がないことや体内動態が成人と異なることから、個々の患者に応じた無菌調製が必要となります。この調製を評価するため、通常は中心静脈栄養法用輸液で1日につき69点、抗悪性腫瘍剤で79点、麻薬で69点が加算されます。6歳未満の乳幼児の場合は、それぞれ137点、147点、137点と約2倍の点数が設定されています。しかし、医薬品の添付文書では「小児」は7歳以上15歳未満の児を指すとされています。15歳未満の患者に対する注射薬の調製においても、体重ごとに投与量調整が必要となることが多いのが実態です。たとえば、静脈経腸栄養ガイドラインによると、7〜12歳では60〜75kcal/kg/day、12〜15歳では40〜60kcal/kg/dayと、成人とは異なるエネルギー投与量が必要となります。こうした状況を踏まえ、中医協では「6歳以上の小児の薬剤調製の実情に鑑み、無菌製剤処理加算に加点する患者対象年齢の範囲について、どのように考えるか」という論点が示されました。ポイント付与と配送料無料による患者誘引が問題視患者誘引につながるポイント付与や配送料無料の問題について、中医協で対策が議論されています。調剤報酬は中医協での議論を経て公定されており、ポイントのような付加価値を付与することは医療保険制度上ふさわしくないとされています。ポイント付与については、平成29年の事務連絡で指導対象となる行為が明確化されています。指導対象となるのは、ポイントを用いて調剤一部負担金を減額すること、調剤一部負担金の1%を超えてポイントを付与すること、ポイント付与について建物外の看板やテレビCMなどで大々的に宣伝することの3つです。また、処方箋ネット受付を利用した「トンネルを通じた経済的利益の提供」も問題視されています。具体的には、処方箋受付サイトを通じて調剤を求めた患者にアンケート回答後の謝礼としてギフトカードを提供するケースです。アンケート謝礼という名目であっても、薬局が支払う手数料が原資となっている以上、患者への経済上の利益の提供にあたるおそれがあります。配送料無料の問題も同様の観点から指摘されています。令和7年度の薬局業務実態調査によると、1,133薬局のうち58薬局が患者希望により配送料無料で薬剤を配送しています。このうち22.4%がHP等で配送料無料であることを周知していました。HP等で宣伝した上で患者希望により薬剤を配送した場合、患者への経済上の利益の提供にあたるおそれがあります。薬担規則に基づく規制の枠組みこれらの患者誘引行為は、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(薬担規則)で禁止されています。薬担規則第二条の三の二では、健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、患者が自己の保険薬局において調剤を受けるように誘引してはならないと定められています。中医協委員からは、郵送料無料などの取扱いについて令和8年度改定の議論で取り上げるよう要望が出されました。患者が保険薬局を選択する際には、薬局が親切丁寧に調剤を担当し、薬剤師が調剤・薬学的管理・服薬指導の質を高めることが本旨であるべきとの考えが示されています。一方で、欠品等の薬局都合による配送については患者誘引に該当しないと考えられています。調査では、薬局都合で配送料無料としている薬局が720件あり、これはHP等での宣伝を伴っていないため問題とはされていません。まとめ令和8年度診療報酬改定に向けて、無菌製剤処理加算の対象年齢拡大と患者誘引対策の2つが論点として示されました。無菌製剤処理加算については、15歳未満の小児への投与量調整の実態を踏まえた対象年齢の見直しが検討されます。患者誘引対策については、ポイント付与や配送料無料の広告に対する規制強化の方向性が議論されています。薬局経営者は、今後の中医協での議論の動向に注視する必要があります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度改定】調剤報酬の対人業務見直し3つの論点|調剤管理料・吸入指導・かかりつけ薬剤師

【令和8年度改定】調剤報酬の対人業務見直し3つの論点|調剤管理料・吸入指導・かかりつけ薬剤師

Dec 8, 2025 05:13 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第631回)において、調剤報酬における対人業務の見直しが議論されました。令和8年度診療報酬改定に向け、薬局薬剤師の対人業務を適正に評価する観点から、調剤管理料関係、服薬管理指導関係、かかりつけ薬剤師関係の3分野で論点が提示されています。今回の議論では、調剤管理料の日数による点数区分の見直し、インフルエンザ等急性疾患に対する吸入薬指導の評価、かかりつけ薬剤師指導料のノルマ問題への対応が主要な検討事項となりました。本記事では、これら3つの論点について、現状の課題と今後の方向性を解説します。調剤管理料関係:日数区分と加算の見直し調剤管理料関係では、処方日数に応じた点数区分の妥当性、調剤管理加算のポリファーマシー対策との整合性、重複投薬・相互作用等防止加算の再評価という3つの論点が示されました。調剤管理料の日数区分については、令和4年度改定で調剤料が廃止された際、対人業務を評価する薬学管理料として新設されました。現行の点数は、7日分以下が4点、8日分以上14日分以下が28点、15日分以上28日分以下が50点、29日分以上が60点と設定されています。この日数区分は、旧調剤料の激変緩和措置として引き継がれたものですが、支払側からは「基本は一律点数が望ましい」との意見が出されています。調剤管理加算については、ポリファーマシー対策に逆行する可能性が指摘されています。この加算は、複数の医療機関から6種類以上の内服薬が処方された患者に対する薬学的分析を評価するものです。令和4年度改定時にも同様の懸念が示され、初めて薬局に来た患者や処方変更の患者に限定する措置が取られました。今後、さらなる見直しが検討される見込みです。重複投薬・相互作用等防止加算については、医療DXの進展に伴う再評価が求められています。オンライン資格確認の普及により、重複投薬や禁忌薬剤の使用が機械的にチェックできる環境が整いつつあります。その一方で、検出された問題について薬学的に判断し、医師に疑義照会を行う業務は依然として薬剤師の専門的判断を要します。単なる情報収集ではなく、疑義照会の要否判断や処方変更に至った専門的業務をどう評価するかが論点となっています。服薬管理指導関係:吸入指導とフォローアップの評価服薬管理指導関係では、吸入薬指導加算の対象拡大と、調剤後フォローアップ業務の評価が論点となりました。吸入管理指導加算の対象拡大については、インフルエンザ等の急性疾患への適用が検討されています。現行の吸入管理指導加算は、喘息やCOPDなどの慢性疾患に対する吸入薬指導を評価するものです。しかし、インフルエンザ吸入薬の指導にも同程度の時間を要することが調査で明らかになりました。さらに、感染症対策として個室を整備すること、患者の目の前で実際に吸入させて服用を確認すること、薬剤師自身の曝露リスクへの対応など、急性疾患特有の負担があります。これらの労力に対する評価が現状では存在しないため、見直しが求められています。調剤後フォローアップ業務については、副作用検出率の向上効果を踏まえた評価が検討されています。調査によると、患者フォローアップ未実施の場合の副作用検出率は3.36%であるのに対し、フォローアップ実施群では5.37〜6.95%と有意に上昇しています。患者側の評価も、フォローアップを受けた患者の97.8%が「よかった」と回答しています。その理由として「服薬後の症状や体調の経過に問題ないことを確認してもらい安心できた」が最も多く挙げられました。こうしたエビデンスを踏まえ、フォローアップ業務に対する調剤報酬上の評価のあり方が議論されています。かかりつけ薬剤師関係:患者選択の確保とノルマ問題かかりつけ薬剤師関係では、かかりつけ薬剤師指導料の算定に関するノルマ問題と、患者が主体的に選択できる仕組みへの転換が論点となりました。かかりつけ薬剤師指導料のノルマ問題については、深刻な実態が明らかになっています。調査によると、業務ノルマを課している薬局の約半数で、かかりつけ薬剤師指導料の算定回数や同意件数にノルマが設けられていました。患者からは「初めて会ったような薬剤師から同意を求められた」「薬局に行くたびに同意を求められるので苦痛」といった声が寄せられています。かかりつけ薬剤師は本来、患者の意思により選択されるべきものであり、現行の仕組みが患者本位の制度設計になっていない点が問題視されています。かかりつけ薬剤師機能の推進については、「患者のための薬局ビジョン」の目標達成状況も議論されました。2025年を目標年次として全ての薬局がかかりつけ薬局となることが掲げられていましたが、「かかりつけ機能が実際に発揮されているか、対物業務から対人業務へのシフトが進んだかについては、十分に達成されたとは感じられない」との厳しい評価が示されています。かかりつけ薬剤師指導料を算定していない理由についても調査が行われました。かかりつけ薬剤師業務を実施しているにもかかわらず算定していない薬剤師のうち、「従来よりかかりつけ薬剤師指導を実施しており、患者に上乗せの料金を請求できないため」との回答が一定数ありました。制度創設前から同様の業務を行っていた薬剤師にとって、追加料金を患者に請求することへの抵抗感があることがうかがえます。まとめ:対人業務の適正評価に向けて今回の中医協総会では、薬局薬剤師の対人業務を適正に評価するための論点が整理されました。調剤管理料の日数区分の見直し、急性疾患に対する吸入薬指導の評価、フォローアップ業務の評価充実、かかりつけ薬剤師制度の患者本位への転換という4つの方向性が示されています。令和8年度診療報酬改定に向け、これらの論点について引き続き議論が進められる見込みです。薬局経営者および薬剤師の皆様におかれては、今後の議論の動向を注視しつつ、対人業務の質的向上に取り組まれることをお勧めいたします。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度改定】薬局の評価体系が大きく変わる|調剤基本料・地域支援体制加算の見直し4つのポイント

【令和8年度改定】薬局の評価体系が大きく変わる|調剤基本料・地域支援体制加算の見直し4つのポイント

Dec 7, 2025 05:38 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第631回)において、調剤報酬の見直しに関する議論が行われました。「患者のための薬局ビジョン」策定から10年が経過したものの、処方箋集中率85%以上の薬局割合はむしろ増加しており、門前薬局から地域薬局への移行が進んでいません。この現状を踏まえ、医薬品提供拠点としての薬局の評価体系の見直しが検討されています。今回の議論では、調剤報酬簡素化、調剤基本料関係、地域支援体制加算関係、在宅薬学総合体制加算関係の4つの領域で論点が示されました。調剤基本料については収益状況を踏まえた見直しが、地域支援体制加算・在宅薬学総合体制加算については都市部とそれ以外の地域における届出状況の差を踏まえた実績要件の見直しが、それぞれ検討されています。調剤報酬簡素化|複雑化した体系の整理調剤報酬体系の複雑化が課題として指摘されており、簡素化の検討が求められています。令和6年度改定の答申書附帯意見では、診療報酬体系が複雑化していること、医療DXの推進において簡素化が求められていることを踏まえ、患者をはじめとする関係者にとって分かりやすい診療報酬体系となるよう検討することとされました。現行の調剤報酬では、服薬管理指導料と在宅患者訪問薬剤管理指導料で類似の加算が設けられているなど、体系が複雑になっています。例えば、重複投薬・相互作用等防止加算は調剤管理料に、在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料は在宅薬剤管理に、それぞれ別の項目として設定されています。このような複雑な体系は、患者にとって分かりにくいだけでなく、薬局の事務負担増加にもつながっています。今後の改定では、類似の評価項目の整理・統合が議論される可能性があります。調剤基本料関係|門前薬局・医療モールの適正化と敷地内薬局の取り扱い調剤基本料については、収益状況を踏まえた評価の見直しと、処方箋集中率の算出方法の適正化が主な論点です。医療経済実態調査の結果によると、調剤基本料2を算定する薬局と医療モール内の薬局の損益率が他の分類より高いことが明らかになりました。特に、処方箋集中率85%以上かつ月当たり処方箋受付回数2,000回以下で調剤基本料1を算定している薬局は、備蓄品目数が少ないにもかかわらず、令和6年度改定後も損益率が微増しています。特別区の薬局では改定後に損益率・損益差額がいずれも増加しており、地域による収益格差が生じています。処方箋集中率の計算方法についても問題が指摘されています。門前薬局であるにもかかわらず、意図的に遠方の高齢者施設等の入居者の処方箋を受け入れることで処方箋集中率を下げ、より点数の高い調剤基本料を算定するケースが存在します。また、医療機関が3つ以上存在する医療モールでは、上位3医療機関の合計集中率70%という基準を下回りやすく、現行の算定要件では適切に評価できていません。一方、敷地内薬局(特別調剤基本料A)については、令和6年度改定後に損益率・損益差額がマイナスに転じました。ただし、へき地等における自治体開設診療所の敷地内薬局については、地域医療を維持するために必要な存在であるケースもあり、一律の適用が適切かどうか検討が必要とされています。地域支援体制加算関係|都市部とそれ以外の届出格差への対応地域支援体制加算については、都市部とそれ以外の地域における届出状況の差を踏まえた実績要件の見直しが論点です。特別区や政令指定都市以外の地域では、地域支援体制加算の届出割合が低い傾向にあります。特に医療資源の少ない地域では、患者数が少ないため、実績要件の基準が高い地域支援体制加算3・4の届出割合が特に低くなっています。現行の実績要件は処方箋1万枚当たりの年間回数で設定されているため、処方箋受付回数が少ない薬局では要件を満たすことが困難です。地域支援につながる施設基準として、薬局の面積要件やセルフメディケーション関連機器の設置も検討されています。備蓄品目数は平成22年度の500品目から現在は1,200品目に引き上げられており、備蓄のために必要なスペースは約2.4倍になりました。在宅患者への医薬品提供のための無菌調製設備(クリーンベンチ等)やバイオ後続品の保管に用いる保冷庫を設置する場合には、より大きな面積が求められます。在宅薬学総合体制加算関係|地域の実情に応じた実績要件の検討在宅薬学総合体制加算についても、都市部とそれ以外の地域における届出状況の差が課題です。特別区・政令指定都市と比較して、それ以外の地域にある薬局では在宅薬学総合体制加算の届出が少ない傾向があります。在宅薬学総合体制加算1では在宅薬剤管理の実績24回以上/年、加算2ではさらにかかりつけ薬剤師指導料等の算定回数24回以上/年が求められます。患者数が少ない地域では、これらの実績要件を満たすことが難しい状況です。常勤薬剤師数と在宅関連業務の実施状況にも関連があることが示されています。夜間・休日の処方箋応需や小児特定加算を算定する調剤の実施など、在宅に関連するレセプト対応は、常勤薬剤師数が多いほど取り組まれている傾向があります。しかし、現在の在宅薬学総合体制加算には常勤薬剤師数に係る要件がなく、地域の実情を踏まえた要件設定が検討されています。まとめ中医協では、医薬品提供拠点としての薬局の評価体系について、4つの領域で見直しの議論が進められています。調剤報酬簡素化では複雑な体系の整理が、調剤基本料関係では門前薬局・医療モールの適正化と敷地内薬局の取り扱いが、地域支援体制加算・在宅薬学総合体制加算関係では都市部とそれ以外の地域における届出格差への対応が、それぞれ主な論点です。薬局ビジョンが目指す「門前からかかりつけ、そして地域へ」という方向性を実現するため、立地に依存した経営から地域医療に貢献する薬局への転換を促す評価体系への見直しが検討されています。薬局経営者は、これらの議論の動向を注視しながら、地域支援体制や在宅業務の充実に向けた準備を進めることが重要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

薬局ビジョン10年の現実|門前薬局はなぜ増え続けるのか

薬局ビジョン10年の現実|門前薬局はなぜ増え続けるのか

Dec 6, 2025 04:30 岡大徳

2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン」は、すべての薬局がかかりつけ薬局としての機能を持つことを目指しました。しかし、ビジョン策定から10年が経過した現在、門前薬局や医療モール型薬局の設立が続いています。中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第631回)では、薬局のあり方について議論が行われました。中医協の資料によると、処方箋集中率が高い薬局の割合はむしろ増加しています。85%以上の集中率を持つ薬局は2015年の32.5%から2024年には39.3%へと上昇しました。また、薬局・薬剤師の偏在により、地方での医薬品提供体制の脆弱化と、都市部での小規模薬局の乱立という二極化が進んでいます。薬局ビジョンが掲げた目標と現状のギャップ2015年10月に公表された「患者のための薬局ビジョン」は、「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」への転換を掲げました。このビジョンでは、2025年までにすべての薬局がかかりつけ薬局の機能を持つこと、2035年までに立地も地域へ移行することを目標としています。かかりつけ薬剤師・薬局に求められる基本機能は3つあります。第一に、ICTを活用した服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導です。第二に、24時間対応・在宅対応の体制整備です。第三に、医療機関をはじめとする関係機関との連携です。これらの基本機能に加えて、健康サポート薬局として健康サポート機能を発揮すること、専門機関と連携した高度薬学管理機能を持つことも期待されています。しかし、ビジョン策定後の10年間で、目標に向けた進展は限定的でした。2016年の診療報酬改定で「かかりつけ薬剤師指導料」が新設され、その後の改定でも対物業務から対人業務への転換が図られてきました。それにもかかわらず、多くの薬局は依然として立地に依存した経営を続けています。処方箋集中率の推移が示す課題処方箋集中率が高い薬局、いわゆる門前薬局の割合は増加傾向にあります。厚生局届出データによると、処方箋集中率95%以上の薬局は2015年の14.0%から2024年には17.3%へと増加しました。同様に、85%以上の薬局も32.5%から39.3%へと上昇しています。この増加傾向は、診療報酬改定による政策誘導が十分に機能していないことを示しています。対物業務から対人業務への切り替えを進めてきたにもかかわらず、特定の医療機関からの処方箋を集中的に受け付ける薬局のビジネスモデルは変わっていません。さらに、薬局が医療モールを経営する事例も出てきており、立地依存型の経営がむしろ強化されている面があります。薬局・薬剤師の偏在がもたらす問題薬局・薬剤師の地域偏在は、地方と都市部の双方で異なる課題を生じさせています。地方・過疎地域では薬局・薬剤師の不足が深刻です。都市部では小規模薬局の乱立が問題となっています。地方・過疎地域における課題は、医薬品提供体制の維持困難です。服薬指導や在宅サービスへのニーズに応えることが難しくなっています。薬剤師1人または薬局1つが欠けるだけでも地域全体に及ぼす影響が大きく、医療提供体制が脆弱化しています。都市部における課題は、小規模乱立による非効率化です。十分な機能を有さない薬局の設置が増え、薬局1つあたりの処方箋枚数が減少しています。医薬品の配送効率も低下し、流通に負荷をかけています。過剰な流通在庫は、供給不安発生時に医薬品不足を助長する要因にもなります。患者が薬局を近さのみで選ぶ傾向が強まり、薬歴の一元化が成立しにくい状況も生まれています。まとめ薬局ビジョン策定から10年が経過しましたが、「立地から機能へ」の転換は進んでいません。処方箋集中率が高い薬局の割合はむしろ増加し、薬局・薬剤師の偏在による課題も顕在化しています。令和6年改定後の中医協における付帯意見では、地域の医薬品供給拠点としての役割を担い、かかりつけ機能を発揮して地域医療に貢献する薬局の整備を進めるため、調剤報酬のあり方について引き続き検討することが示されています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【中医協報告】令和7年度消費税補てん状況|診療所・歯科で補てん不足が継続

【中医協報告】令和7年度消費税補てん状況|診療所・歯科で補てん不足が継続

Dec 5, 2025 04:13 岡大徳

令和7年11月28日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第631回)において、「医療機関等における消費税負担に関する分科会」から消費税補てん状況の報告がありました。この報告は、令和8年度診療報酬改定に向けた重要な基礎資料となります。本記事では、報告内容のポイントを医療機関種別ごとに解説します。今回の調査結果では、病院全体の補てん率が104.9%と100%を超過した一方、一般診療所は93.5%、歯科診療所は90.1%と補てん不足が継続しています。開設者別でみると、一般診療所の医療法人・その他が87.4%と最も低い補てん率となっています。物価上昇による課税経費の増加が医療機関経営に影響を与えていることが明らかになりました。補てん状況把握の目的と方法今回の調査は、令和元年10月に実施された消費税率10%引き上げに伴う診療報酬による補てん(5%→10%部分)の状況を把握するために実施されました。調査の目的は、消費税負担と診療報酬による補てんのバランスを確認し、令和8年度改定における対応を検討することです。調査対象は、第25回医療経済実態調査に回答した医療機関等です。収入面では、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)から抽出した消費税上乗せ項目の算定回数に上乗せ点数を乗じて算出しています。支出面では、医療経済実態調査の課税経費データを使用しています。補てん率の算出方法は、収入のうち診療報酬本体へ上乗せされた消費税分(A)を、支出のうち課税経費の消費税相当額(B)で除した値(A/B)です。補てん率が100%を超えていれば補てん過剰、100%未満であれば補てん不足となります。医療機関種別ごとの補てん状況令和6年度の全体結果をみると、医科全体の補てん率は101.5%でした。この数値は医療機関種別によって大きく異なります。病院全体の補てん率は104.9%であり、消費税負担を上回る補てんがなされています。病院種別では、精神科病院が109.7%と最も高く、一般病院が105.5%、特定機能病院が101.2%と続きます。一方、こども病院は90.3%と100%を大きく下回っており、病院種別中で最も補てん不足の状態にあります。一般診療所の補てん率は93.5%であり、前年度の96.8%から低下しました。開設者別にみると、個人開設は115.9%と補てん過剰ですが、医療法人・その他は87.4%と大幅な補てん不足となっています。この87.4%という数値は、今回調査した全区分の中で最も低い補てん率です。歯科診療所の補てん率は90.1%で、医療機関種別全体でみると最も低い水準です。前年度の96.6%から大きく低下しており、物価上昇の影響を強く受けていることがうかがえます。開設者別では、個人が93.6%、医療法人・その他が85.3%となっています。保険薬局の補てん率は103.7%であり、100%を超過しています。ただし、前年度の107.5%からは低下傾向にあります。DPC病院と非DPC病院の違い病院の補てん状況は、DPC対象病院か否かによっても異なります。DPC病院(一般病院)の補てん率は99.2%であり、ほぼ100%に近い水準です。特定機能病院(DPC)は101.2%と若干の補てん過剰ですが、こども病院(DPC)は90.3%と補てん不足が顕著です。こども病院は高度な専門医療を提供するため、課税経費が高くなる傾向にあることが要因と考えられます。非DPC病院では、一般病院が111.9%、精神科病院が109.7%と、いずれも補てん過剰の状態にあります。非DPC病院は規模が小さい傾向にあり、初・再診料や入院基本料の算定比率が高いことが、補てん過剰の要因となっています。令和5年度と比較すると、DPC病院(一般病院)は100.3%から99.2%へ、こども病院は98.2%から90.3%へと、いずれも補てん率が低下しています。これは物価上昇により課税経費が増加したことを反映しています。令和8年度改定に向けた論点今回の報告では、令和8年度診療報酬改定に向けたいくつかの論点が示されています。第一に、消費税率は令和元年10月以降変わっていない一方、診療報酬改定を重ねてきていることです。令和元年以降、令和2年度に+0.55%、令和4年度に+0.43%、令和6年度に+0.88%のプラス改定が行われており、消費税上乗せ項目の一部も改定されています。第二に、物価上昇により課税経費が増加していることです。特に医療材料費、食材料費、光熱水費等の高騰が医療機関経営に大きな影響を与えています。補てん率の低下は、この物価上昇を反映したものと考えられます。第三に、医療機関種別や開設者別によって補てん状況に大きな差があることです。一般診療所の医療法人・その他は87.4%、歯科診療所の医療法人・その他は85.3%、こども病院は90.3%と、補てん不足の医療機関への対応が課題となっています。まとめ令和7年度の消費税補てん状況把握結果は、病院全体では補てん過剰である一方、一般診療所・歯科診療所・こども病院では補てん不足が継続していることを示しました。特に法人開設の医療機関で補てん不足が顕著であり、一般診療所の医療法人・その他(87.4%)、歯科診療所の医療法人・その他(85.3%)は深刻な状況にあります。物価上昇により課税経費が増加する中、令和8年度診療報酬改定においては、補てん状況の医療機関種別間・開設者別のバラつきをどのように評価し対応するかが重要な論点となります。今後の中医協での議論の動向に注目が必要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

医療機関のDX化推進へ新たな支援枠組みを検討|厚労省が方向性案を提示

医療機関のDX化推進へ新たな支援枠組みを検討|厚労省が方向性案を提示

Dec 4, 2025 04:47 岡大徳

令和7年11月27日に開催された第205回社会保障審議会医療保険部会において、厚生労働省医政局から「業務効率化・職場環境改善の更なる推進に関する方向性について(案)」が示されました。2040年に向けて医療従事者の確保がますます困難となる中、医療界全体での業務効率化を実効あるものとするため、国は制度的対応を含む新たな施策の方向性を検討しています。なお、本資料は同年11月25日の第121回社会保障審議会医療部会でも提示されたものです。今回示された方向性案は、大きく2つの柱で構成されています。第1の柱は「医療機関の業務のDX化の推進」です。この柱では、国・自治体による支援等として6項目、医療機関の責務の明確化として1項目が検討事項として挙げられています。第2の柱は「タスク・シフト/シェアの推進等、医療従事者の養成体制の確保、医療従事者確保に資する環境整備等」です。以下、各項目の内容を解説します。医療機関の業務DX化推進に向けた国・自治体による支援等(6項目)厚生労働省は、業務DX化に取り組む医療機関の裾野を広げるため、6つの支援策の方向性を提案しています。いずれも「〜してはどうか」という検討段階の提案です。第1に、多くの医療機関を支援する新たな枠組みの創設が提案されています。従来の試行的・先進的な取組への支援だけでなく、業務のDX化に取り組む多くの医療機関を対象とした支援体制を構築することが検討されています。DX化の効果発現には一定期間を要するため、継続的な支援の在り方も論点となっています。第2に、統一的な基準によるデータ収集の実施が提案されています。DX化を推進するにあたり、効果等のエビデンスを蓄積することが重要とされています。具体的には、労働時間の変化、医療の質や安全の確保、経営状況に与える影響等に関する必要なデータを収集することが検討されています。第3に、診療報酬上求める基準の柔軟化が提案されています。上記のエビデンスの蓄積を行いながら、業務の効率化を図る場合における基準の見直しを検討するとされています。第4に、適正価格での機器・サービス導入を支援する仕組みの構築が提案されています。医療機関が製品やサービスの価格・機能・効果を客観的に把握できる環境を整備することが検討されています。第5に、都道府県の医療勤務環境改善支援センターの体制拡充・機能強化が提案されています。業務効率化や職場環境改善に取り組む医療機関への伴走支援を強化することが検討されています。第6に、計画的に取り組む病院の公的認定制度の創設が提案されています。業務効率化・職場環境改善に積極的に取り組むことが、医療従事者の職場定着にプラスとなり、労働市場における医療従事者の確保の面でより有利になるよう、対外的にも発信できる仕組みを整えることが検討されています。医療機関の責務の明確化国・自治体による支援等に加え、医療機関の責務についても見直しが検討されています。現行制度では、病院又は診療所の管理者は、医療従事者の勤務環境の改善その他の医療従事者の確保に取り組む措置を講ずるよう努めることとなっています。今後は、これらに加え「業務効率化」にも取り組むよう努めることとしてはどうか、と提案されています。タスク・シフト/シェアの推進と医療従事者養成体制の確保第2の柱として、タスク・シフト/シェアの推進と医療従事者の養成体制確保に関する方向性が示されています。タスク・シフト/シェアについては、医療機関における取組がさらに定着するよう、国等の支援を受けて業務のDX化に取り組む際には、併せてタスク・シフト/シェアの実施や業務プロセス自体の見直しを進めることとしてはどうか、と提案されています。医療従事者の養成体制については、地域において医療関係職種を安定的に確保できるよう検討を進めることが提案されています。具体的には、各地域の人口減少の推移や今後の地域医療構想等を踏まえた各医療関係職種の需給状況を見通しつつ、遠隔授業の実施やサテライト化の活用などをはじめ、地域における安定的な養成体制を確保するため国・都道府県等が取り組むべき事項について検討を進めることとされています。医療関係職種の魅力向上に向けた3つの対応医療水準を維持しつつ、より少ない人員でも必要な医療が提供できる体制、また医療関係職種が意欲・能力やライフコースに合わせた働き方・キャリアの選択が可能となる体制を構築するため、3つの対応が提案されています。これらは、若者・社会人にとって医療関係職種がより魅力あるものとなることを目指しています。第1に、養成課程への参入しやすさの向上が挙げられています。医療関係職種の各資格間において現在でも可能となっている既修単位の履修免除の活用や、養成に係る修業年限の柔軟化など、若者・社会人にとっても参入しやすい養成課程となるよう、まずは課題等を把握し、各職種の状況に応じた支援の在り方を検討することとされています。第2に、キャリア・スキル向上等への支援が挙げられています。意欲・能力やライフコースに合わせて、更なるキャリア・スキルの向上を目指す者や、育児・介護等の事情を抱えて働く者への支援、そうした者が地域や職場でより能力を発揮できる環境整備やセカンドキャリアとして働く上でのマネジメントに関するリカレント教育等の在り方について、具体的に検討を進めることとされています。第3に、歯科衛生士・歯科技工士の業務範囲等の見直しが挙げられています。歯科衛生士・歯科技工士の業務範囲や、歯科技工の場所の在り方については、現在進めているそれぞれの業務のあり方等に関する検討会において具体的に検討を進めることとされています。まとめ今回示された方向性案は、「医療機関の業務のDX化の推進」と「タスク・シフト/シェアの推進等、医療従事者の養成体制の確保、医療従事者確保に資する環境整備等」という2つの柱で構成されています。DX化については、新たな支援枠組みの創設、エビデンス蓄積のためのデータ収集、診療報酬基準の柔軟化、適正価格での導入支援、伴走支援の強化、公的認定制度の創設という6項目の支援策が検討されています。また、医療機関の責務として業務効率化を追加することも提案されています。これらはいずれも検討段階の提案であり、今後の審議会等での議論を経て具体化される見込みです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度】国民健康保険料の賦課限度額1万円引き上げを提案|110万円へ

【令和8年度】国民健康保険料の賦課限度額1万円引き上げを提案|110万円へ

Dec 3, 2025 05:24 岡大徳

令和7年11月27日に開催された第205回社会保障審議会医療保険部会において、令和8年度の国民健康保険料(税)の賦課限度額の見直しが議論されました。高齢化に伴う医療費増加を背景に、中間所得層の負担に配慮しながら、高所得層により多くの負担を求める方向性が提案されています。この記事では、賦課限度額引き上げの仕組みと令和8年度の改定案を解説します。令和8年度の賦課限度額については、医療分(基礎賦課分)で1万円引き上げ、合計110万円とする案が示されました。この引き上げにより、賦課限度額超過世帯割合の増加を抑制できます。また、中間所得層の保険料負担の伸びを軽減する効果が期待されます。賦課限度額とは何か賦課限度額とは、国民健康保険料(税)の年間上限額のことです。この制度は、保険料負担の公平性と被保険者の納付意欲のバランスを取るために設けられています。国民健康保険制度では、保険料負担は負担能力に応じた公平なものである必要があります。しかし、受益との関連において、被保険者の納付意欲に与える影響や、制度の円滑な運営を確保する観点から、保険料負担に一定の上限を設けています。令和7年度の賦課限度額は合計109万円で、内訳は医療分92万円(基礎賦課額66万円+後期高齢者支援金賦課額26万円)と介護分17万円です。賦課限度額の引き上げは、中間所得層の負担軽減に直結します。医療給付費等が増加する中で、保険料率の引き上げのみで必要な保険料収入を確保した場合、高所得層の負担は変わらず、中間所得層の負担が重くなります。一方、賦課限度額を引き上げれば、高所得層により多く負担していただくことで、中間所得層に配慮した保険料設定が可能となります。賦課限度額引き上げの基本方針賦課限度額の引き上げは、法律に基づき毎年度検討されています。被用者保険とのバランスを考慮しながら、段階的な引き上げが行われてきました。この引き上げの根拠は、社会保障改革プログラム法(平成25年法律第112号)と社会保障制度改革国民会議報告書(平成25年8月)にあります。これらを踏まえ、毎年度、事務レベルワーキンググループや医療保険部会での議論を経て、国保保険料(税)の賦課限度額の引き上げが行われています。引き上げの際には、3つの観点が考慮されます。第一に、被用者保険におけるルールとのバランスです。被用者保険では、最高等級の標準報酬月額に該当する被保険者の割合が0.5%から1.5%の間となるよう法定されています。このため、国保においても将来的に賦課限度額超過世帯割合が1.5%に近づくように段階的に引き上げる方針が取られています。第二に、医療の基礎賦課分、後期高齢者支援金分、介護納付金分の超過世帯割合が前年と比較して増加しているか、それぞれにばらつきが見られるかを基準として引き上げ幅が設定されます。第三に、過去の実績として、過去20年間で最大の引き上げ幅は4万円となっています。令和8年度の改定案令和8年度は、医療分の基礎賦課分を1万円引き上げ、合計110万円とする案が提示されました。介護納付金分は据え置きとなります。具体的な改定内容は以下のとおりです。医療分(計)は92万円から93万円へ1万円引き上げられます。このうち、基礎賦課分は66万円から67万円へ1万円引き上げ、後期高齢者支援金等賦課分は26万円で据え置きです。介護納付金賦課分も17万円で据え置きとなり、合計は109万円から110万円へ1万円引き上げられます。この改定の背景には、限度額超過世帯割合のバランス調整があります。令和8年度においては、限度額(合計額)の超過世帯割合が引き上げ前で1.45%となる一方、基礎賦課分の超過世帯割合が1.7%を超えています。令和7年度と比較した超過世帯割合の増加をできるだけ抑えるとともに、区分間のバランスを整える観点から、基礎賦課分の1万円引き上げが提案されました。なお、子ども・子育て支援納付金分については、令和8年度から新設される予定です。この納付金分の限度額は、令和8年度予算編成過程で決定される納付金総額を踏まえた上で、被用者保険におけるルールとのバランスを考慮し、超過世帯割合が概ね0.5から1.5%の間となるように決定されます。収入別の保険料への影響令和8年度の改定は、中間所得層と高所得層で異なる影響をもたらします。中間所得層では保険料上昇を抑制し、高所得層では限度額到達により負担増となります。年収400万円世帯の保険料への影響は次のとおりです。賦課限度額を引き上げた場合、合計保険料は33万8千円となり、前年度比で5.7%の増加です。一方、据え置きの場合は33万9千円で5.9%の増加となります。この差は、引き上げにより中間所得層の保険料の伸びが抑えられることを示しています。限度額該当世帯(高所得世帯)への影響も確認します。引き上げ後の合計保険料は110万円となり、前年度比で0.9%の増加です。据え置きの場合は109万円で増減なしとなります。高所得世帯が追加で1万円を負担することで、中間所得層の負担軽減が実現します。賦課限度額に達する収入水準についても把握しておく必要があります。令和8年度に医療分(93万円)に達する収入は、給与収入・年金収入ともに約1,170万円、所得換算で約980万円です。この水準を超える世帯が限度額の適用を受けることになります。まとめ令和8年度の国民健康保険料の賦課限度額については、医療分(基礎賦課分)で1万円引き上げ、合計110万円とする案が医療保険部会で議論されました。この改定案は、中間所得層の保険料負担の伸びを抑制しながら、高所得層に応分の負担を求めるものです。賦課限度額超過世帯割合のバランス調整も図られています。今後、子ども・子育て支援納付金分の限度額設定も含め、令和8年度予算編成過程で最終決定される予定です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【速報】医療費適正化計画に腰痛症への鎮痛薬処方が追加|プレガバリンの適正使用とは

【速報】医療費適正化計画に腰痛症への鎮痛薬処方が追加|プレガバリンの適正使用とは

Dec 2, 2025 05:32 岡大徳

2025年11月27日に開催された第205回社会保障審議会医療保険部会において、第4期医療費適正化計画における医療資源の効果的・効率的な活用が議論されました。本稿では、新たに「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」に追加される腰痛症へのプレガバリン処方と、今後の対応方針について解説します。今回の議論では、神経障害性疼痛を除く腰痛症に対するプレガバリン処方が、抗菌薬処方に続いて適正化の対象に追加される方針が示されました。この追加により、都道府県ごとの医療費見込みの推計式にプレガバリンの薬剤費が組み込まれます。また、厚生労働省は研究班と連携して「効果が乏しい医療」の探索を継続し、医療技術評価分科会で学会等からの提案募集を行う方針です。第4期医療費適正化計画における医療資源活用の枠組み第4期医療費適正化計画(2024〜2029年度)では、医療資源の効果的・効率的な活用が重要な柱として位置づけられています。この枠組みでは、2種類の医療が適正化の対象となっています。1つ目は「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」です。この代表例として、急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方があります。2つ目は「医療資源の投入量に地域差がある医療」です。白内障手術や化学療法の外来での実施状況、リフィル処方箋がこれに該当します。白内障手術については、OECDにより多くの国で90%以上が外来で実施されている一方、日本での外来実施割合は全国平均54%にとどまり、都道府県ごとに実施状況が様々であることが指摘されています(第165回医療保険部会資料より)。腰痛症に対するプレガバリン処方の追加今回新たに追加されるのは、腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン(商品名:リリカ錠)の処方です。プレガバリンは本来、神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛を適応とする薬剤であり、薬理作用はカルシウムチャネルα2δ遮断薬です。神経障害性疼痛では有効なケースもありますが、非神経障害性腰痛では効果が限定的であることが先行研究で指摘されています。この追加は、国内の診療ガイドラインとも整合しています。腰痛診療ガイドライン2019では、急性腰痛および慢性腰痛に対するCaチャネルα2δリガンドについて質の高い論文は存在しなかったとされています。また、有害事象に対するメタアナリシスでは、Caチャネルα2δリガンドはプラセボと比較して有意に頻度が高いことが示されています。プレガバリンの添付文書においても、効能・効果は神経障害性疼痛と線維筋痛症に伴う疼痛に限定されています。重要な基本的注意として、めまいや傾眠、意識消失等があらわれる可能性があり、自動車事故に至った例もあることから、自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意することが記載されています。適正化計画基本方針への具体的な追記内容今回の見直しにより、医療費適正化計画の基本方針には以下の内容が追記されます。急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方に加えて、神経障害性疼痛を除く腰痛症患者に対するプレガバリン処方が「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」として明記されます。医療費見込みの推計式にも変更が加わります。従来の抗菌薬処方や白内障手術・化学療法の外来実施に関する推計式に、腰痛に対するプレガバリン処方の薬剤費が追加されます。具体的な推計式は、都道府県ごとに「当該県の令和元年度の腰痛に対するプレガバリン処方の薬剤費÷当該県の令和元年度の入院外医療費(÷2)×当該県の令和11年度の入院外医療費(推計)」となっています。基本方針では留意点も示されています。個別の診療行為としては医師の判断に基づき必要な場合があることに留意しつつ、地域ごとに関係者が実情を把握し、医療資源の効果的・効率的な活用に向けた検討を進めることが重要とされています。今後の対応方針と診療報酬への影響厚生労働省は、研究班等と連携して「効果が乏しい医療」の探索を継続する方針を示しています。厚労科研「レセプト情報・特定健診等情報を用いた医療保健事業・施策等のエビデンス構築等に資する研究」等において、先行研究の調査やNDBを活用した実態分析が進められています。先行研究の収集に加えて、医療技術評価分科会での取り組みも予定されています。令和8年度診療報酬改定の次の改定に向けた対応として、医療技術の評価の一環で学会等から提案を広く募集することになりました。国内の関連学会に取り扱いを照会し、診療報酬上の留意事項通知や疑義解釈との整合を確認した上で、整合性等があることを確認できたものは医療費適正化計画へ記載され、関係学会調整後に中央社会保険医療協議会で診療報酬上の取扱について個別に議論される見込みです。医療保険部会(2025年9月18日、9月26日、10月2日開催分)では、低価値・無価値医療への対応についてさまざまな意見が出されています。費用対効果や経済性を考慮した医薬品の使用促進や、治療や薬剤の臨床上の有効性を適切に評価する制度設計の重要性が指摘されています。まとめ第4期医療費適正化計画において、神経障害性疼痛を除く腰痛症に対するプレガバリン処方が「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」に追加される方針が示されました。この追加は、国内の腰痛診療ガイドライン2019やプレガバリン添付文書との整合性を確認した上で行われるものです。厚生労働省は来年度以降も研究班と連携して適正化対象の探索を継続し、医療技術評価分科会での学会からの提案募集も進める方針です。医療現場においては、エビデンスに基づく処方の重要性が改めて求められることになります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2026年度実施】OTC類似薬の自己負担見直しと国保改革の3つの柱を解説

【2026年度実施】OTC類似薬の自己負担見直しと国保改革の3つの柱を解説

Dec 1, 2025 04:39 岡大徳

令和7年11月27日、第205回社会保障審議会医療保険部会が開催されました。本部会では、骨太方針2025および三党合意を踏まえ、医療保険制度の持続可能性確保に向けた具体的な制度設計が議論されています。本稿では、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しと国民健康保険制度の取組強化という2つの重要テーマについて解説します。今回の議論では、OTC類似薬について保険給付を維持しつつ別途負担を求める方向での検討が進められています。国民健康保険制度については、子どもの均等割保険料軽減を高校生年代まで拡充することや、保険料水準統一の加速化、保険者努力支援制度へのマイナス指標導入が提案されています。これらの改革は令和8年度からの実施を目指しており、医療機関経営や患者負担に大きな影響を与える可能性があります。OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しOTC類似薬の保険給付見直しは、現役世代の保険料負担軽減と医療保険制度の持続可能性確保を目的としています。骨太方針2025では、2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現可能なものについて2026年度から実行するとされました。本節では、費用負担の在り方、配慮が必要な者の範囲、対象となるOTC類似薬の範囲という3つの論点について整理します。費用負担の在り方については、薬剤そのものを保険給付の対象外とはしない前提で検討が進められています。医療保険部会での議論では、OTC医薬品への変更や保険適用除外とした場合、患者の自己負担がかなり増えるケースがあるとの指摘がありました。このため、保険の枠内に置きつつ、選定療養のような形で別途負担を求める仕組みが検討されています。患者団体からも、OTC類似薬については保険適用とした上で患者負担を変更する方法が弊害が少ないとの意見が出されました。配慮が必要な者の範囲については、新たな負担を求めない対象として複数の類型が論点として提示されています。子どもについては、成人年齢が18歳以上であることやこども医療費助成制度の普及を踏まえ、18歳以下の者を配慮対象とすることが検討されています。また、医療費に着目して公的な支援を受けている方、長期にOTC類似薬の利用を必要とする方、入院患者についても配慮が必要とされています。患者団体ヒアリングでは、がん患者や難病患者、アレルギー疾患患者など、OTC類似薬を日常的・長期的に使用する方への経済的負担増大への懸念が示されました。OTC類似薬の範囲については、医療用医薬品とOTC医薬品の同等性をどう判断するかが課題となっています。成分が一致していても、用法・用量、効能・効果、対象年齢、投与経路、剤形など様々な違いがあり、単純に保険適用から外すことは難しいとの意見があります。一方で、OTC医薬品を購入する方との公平性や医療保険制度の持続可能性の観点から、OTCで代替可能なものはできるだけ広い範囲を対象として検討を進めるべきとの意見も出されました。国民健康保険制度の取組強化国民健康保険制度は、被保険者の高齢化や所得水準の低さ、小規模保険者の多さなど構造的な課題を抱えています。人口減少・少子高齢化に伴い地方公共団体の人材不足も深刻化しており、保険者事務の持続可能性確保が急務となっています。本節では、医療費適正化のインセンティブ強化、子育て世帯の保険料負担軽減、持続的な国保運営のための取組強化、国保組合に係る見直しについて解説します。医療費適正化のインセンティブ強化については、保険者努力支援制度(都道府県取組評価分)の見直しが決定されました。現行の普通調整交付金は、理由にかかわらず医療費に応じて配分額が増減される仕組みとなっており、医療費適正化のインセンティブが働かないとの指摘がありました。地方団体からは、普通調整交付金が担う所得調整機能は重要であり、政策誘導に使われるべきではないとの意見が出されています。このため、保険者努力支援制度の医療費適正化のアウトカム評価指標において、令和8年度分からマイナス指標を導入し、医療費適正化のインセンティブがより働くようメリハリを強化することとされました。子育て世帯の保険料負担軽減については、均等割保険料の軽減対象を高校生年代まで拡充することが提案されました。現行制度では令和4年4月から、未就学児に係る均等割保険料について5割を公費(国1/2、都道府県1/4、市町村1/4)により軽減する措置が講じられています。全国知事会、全国市長会、全国町村会からは、対象年齢の18歳までの引上げや軽減割合の拡充を求める要望が出されており、今回の拡充はこれらの要望に応えるものです。持続的な国保運営のための取組強化は、保険料水準の統一と事務負担軽減の2つの柱で構成されています。保険料水準統一については、令和8年度の国保運営方針中間見直しに向けて、納付金ベースの統一や完全統一に係る目標年度の設定・前倒しの検討を含め、議論を加速化することとされました。納付金ベースの統一は令和12年度保険料算定までの達成が目標とされ、完全統一は令和15年度までの移行を目指しつつ、遅くとも令和17年度までの移行が目標とされています。財政安定化基金についても、保険料水準統一や制度改正により納付金が著しく上昇する場合等に取崩しを認め、従来の3年間よりも長い期間での積戻しを可能とする見直しが提案されています。市町村の事務負担軽減については、都道府県国保連合会の役割強化が検討されています。また、国民健康保険の資格喪失日を1日前倒しし、資格喪失の原因たる事実が発生した日を資格喪失日とする運用見直しも提案されました。これは令和7年度地方分権提案で報告された支障事例を踏まえたもので、保険者間の資格重複による軽減判定への影響を解消することが目的です。国保組合に係る見直しでは、負担能力に応じた負担を進める観点から定率補助の見直しが提案されています。現行の補助率下限13%を原則としつつ、以下の3要件すべてに該当する国保組合には、例外的に12%(平均所得270万円以上)または10%(平均所得280万円以上)の補助率を適用することとされました。3要件とは、①保険料負担率(被保険者一人当たり保険料÷国保組合の平均所得)が低いこと、②積立金が多いこと(かつ被保険者数3,000人以上)、③医療費適正化等の取組の実施状況が低調であることです。併せて、健康保険適用除外に係る手続の簡素化や、補助率判定に用いる所得上限額を1,200万円から2,200万円に見直すことも行われます。まとめ第205回医療保険部会では、医療保険制度の持続可能性確保に向けた重要な改革の方向性が示されました。OTC類似薬については、保険給付を維持しつつ別途負担を求める制度設計が進められ、子どもや慢性疾患患者、低所得者への配慮が図られます。国民健康保険制度については、保険者努力支援制度へのマイナス指標導入による医療費適正化インセンティブの強化、子育て世帯支援の拡充、保険料水準統一の加速化により、制度の安定性向上が目指されています。これらの改革は令和8年度からの実施に向けて、今後さらに具体的な制度設計が進められる見込みです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

医療費2.4〜8.3兆円削減の可能性:健康を守りながら実現する5つの改革案

医療費2.4〜8.3兆円削減の可能性:健康を守りながら実現する5つの改革案

Nov 30, 2025 05:59 岡大徳

日本では社会保障費の負担増が社会問題化しており、医療費の適正化をどのように達成するかが重要な論点となっています。高額療養費の自己負担上限引き上げが議論されていますが、重症患者に負担を強いる前に、軽症患者の不要不急な医療利用を抑制する方策を検討すべきではないでしょうか。このような問題意識のもと、日本医療政策学会は2025年11月23日、「医療費適正化の実現に必要なエビデンスに関するレポート」を発表しました。本レポートでは、国民の健康に悪影響を与えることなく、2.4〜8.3兆円(総医療費の5〜17%)の医療費削減が可能であると提言しています。具体的には、70歳以上の自己負担割合3割への引き上げで1.3〜6.7兆円、OTC類似薬の保険除外で3,300億〜6,500億円、無価値・低価値医療の削減で7,800〜9,000億円の削減効果が見込まれます。これらに加え、外来への包括支払制度導入とエビデンスのある予防医療の保険収載という5つの改革が提案されています。70歳以上の自己負担割合引き上げ:1.3〜6.7兆円の削減効果本レポートで最も大きな削減効果が見込まれるのは、70歳以上の自己負担割合を一律3割に引き上げる施策です。医療サービスの価格が上がれば需要が減るという経済学の原則は、医療分野でも確認されています。東京大学の重岡仁氏の研究によると、医療サービスの窓口での自己負担額が10%増加すると、需要は約2%減少します。この需要の変化を「価格弾力性」と呼び、日本のデータでは外来医療で-0.34〜-0.15、入院医療で-0.166〜-0.057、高齢者では-0.26〜-0.048と報告されています。自己負担割合を引き上げても、健康への悪影響はないか、あっても小さいことが複数の研究で示されています。この背景には、自己負担割合の増加で影響を受けるのが主に軽症患者であるという点があります。手術や抗がん剤などの重症医療は高額療養費制度でカバーされるため受診控えは起こりにくく、風邪での外来受診など軽医療サービスが抑制されると考えられます。厚生労働省のデータを用いた試算では、価格弾力性を-0.2と仮定した場合に約6.7兆円、-0.04と仮定した場合でも約1.3兆円の医療費削減効果が期待できます。ただし、この試算が有効なのは高額療養費制度が適切に機能している前提であり、同制度が弱体化すれば重症患者の受診控えによる健康被害が生じる可能性があります。OTC類似薬の保険除外:3,300億〜6,500億円の削減効果2番目の改革案は、OTC類似薬の全てまたは一部を保険収載から外すことです。OTC類似薬とは、風邪薬・湿布・胃腸薬・ビタミン剤など、薬局で処方箋なしに購入できるOTC医薬品と効果やリスクが似ているにもかかわらず、健康保険でカバーされている医薬品を指します。これらに支出されている医療費は3,200億円〜1兆円規模と報告されており、五十嵐らの推計では、狭い定義で3,278億円、広い定義で6,513億円に達します。OTC類似薬が保険から外されても、患者はドラッグストアで比較的安価に購入できます。OTC医薬品は一般的に軽症患者が使う薬であるため、受診控えが起きても健康被害はないか小さいと考えられます。さらに、OTC類似薬にはそもそも効果がないものも含まれています。例えば風邪はウイルス感染であり、総合感冒薬には回復を早める効果がありません。また、湿布は年間54億枚も処方されていますが、12週間以上の長期使用に関しては有効性のエビデンスが不十分です。無価値・低価値医療の削減:7,800〜9,000億円の削減効果3番目の改革案は、効果がないことが証明されている医療サービスの保険収載を見直すことです。日本では新しい薬や医療機器が承認されると多くの場合自動的に保険適用となり、その後の研究で効果がないと判明しても保険から除外されることは稀です。この硬直的な制度が、効果の低い医療の積み重ねと医療費増加を招いています。研究チームの調査では、52種類の無価値医療に年間2,100億〜3,300億円の医療費が使われていると推計されました。具体的には、湿布(特にサリチル酸使用や長期使用)に456億円、深刻な兆候のない腰痛への早期画像検査に316〜369億円、安定冠動脈疾患への経皮的カテーテル治療に103〜640億円などが挙げられています。これに加え、後発品が存在する先発品の使用も低価値とみなされます。ジェネリック医薬品への完全置換で約4,400億円、バイオシミラーへの完全置換で約1,300億円の削減が可能です。これらを合計すると、7,800〜9,000億円程度の削減が患者の健康を悪化させることなく実現可能であり、総医療費の約1.6〜1.9%に相当します。外来への包括支払制度導入4番目の改革案は、外来医療に包括支払制度を導入することです。日本の外来は出来高払いを採用しており、医療サービスの提供量を多くするほど医療機関の利益が増える仕組みになっています。この制度では過剰医療のインセンティブが働き、外来受診回数や入院日数が欧米の2〜3倍となっています。日本で「医師不足」が叫ばれる背景には、医師数自体の不足ではなく、業務量が多すぎる「相対的医師不足」があります。包括支払制度では、かかりつけ患者の総数に対して月額定額が支払われるサブスクリプションモデルとなります。例えば、安定した糖尿病患者の推奨されるHbA1c測定頻度は6ヵ月に1回ですが、日本ではより頻回に行われています。包括支払いになれば、受診頻度もHbA1c測定頻度も欧米と同水準の3〜6ヵ月に1回に変わると考えられます。医療機関の売り上げが減少しても、人件費・光熱費・検査機材コストが下がるため、収益を維持しながら医療費を削減できる可能性があります。ただし、包括支払制度には過小医療のリスクがあります。この問題を解決するため、ペイ・フォー・パフォーマンス(P4P)の併用が必要です。P4Pは医療の質や患者アウトカムを測定し、質の高い医療が行われていない場合に経済的ペナルティーを与える制度であり、「量」ではなく「価値」に対して報酬を支払う仕組みを実現します。エビデンスに基づく予防医療の保険収載5番目の改革案は、エビデンスのある予防医療を保険収載することです。日本では歴史的背景から、健康保険がカバーするのは治療的な医療サービスのみで、ワクチンや検診などの予防医療は保険でカバーされていません。これは世界的に見て特殊な制度であり、医療提供者に予防を推進するインセンティブがありません。エビデンスのある予防を保険収載し、予防も治療も分け隔てなくカバーすることで、この問題を解消できます。予防医療の約2割は健康増進効果だけでなく医療費削減効果があると報告されています。現在、「日本予防医療専門委員会(JPPSTF)」が日本人にとってエビデンスのある予防医療サービスのリスト作成を進めており、このリストに含まれるサービスが保険収載されれば、健康増進と医療費削減の両立が期待できます。まとめ本レポートは、高額療養費制度を維持しながら医療費を適正化する5つの改革案を提示しています。70歳以上の自己負担割合引き上げ、OTC類似薬の保険除外、無価値・低価値医療の削減、外来への包括支払制度導入、エビデンスに基づく予防医療の保険収載という5つの施策を組み合わせることで、国民の健康に悪影響を与えることなく、2.4〜8.3兆円の医療費削減が可能です。皆保険制度の根幹である高額療養費制度を守りつつ、軽症患者の不要不急な医療利用を抑制することが、持続可能な医療制度を実現する鍵となります。出典:津川友介・加藤弘陸・五十嵐中・宮脇敦士・玉田雄大・後藤励「医療費適正化の実現に必要なエビデンスに関するレポート」JHPRA Working Paper, 2025-1, 一般社団法人日本医療政策学会, 2025年11月23日 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2040年に向けて】介護人材確保の新戦略|福祉人材確保専門委員会が示す4つの柱

【2040年に向けて】介護人材確保の新戦略|福祉人材確保専門委員会が示す4つの柱

Nov 29, 2025 05:31 岡大徳

2040年には65歳以上の高齢者数がピークを迎え、介護と医療の複合ニーズを抱える85歳以上人口が増加します。一方で生産年齢人口は減少し、介護の担い手確保は喫緊の課題となっています。このような状況を踏まえ、社会保障審議会福祉部会の福祉人材確保専門委員会は、令和7年11月11日に「議論の整理」をとりまとめ、第31回福祉部会に報告しました。この報告書は、地域差を踏まえたプラットフォーム機能の充実、多様な人材の確保・育成、中核的介護人材の確保・育成、外国人介護人材の確保・定着という4つの柱で構成されています。介護関係職種の有効求人倍率は令和7年9月時点で4.02倍と、全職業の有効求人倍率(1.10倍)と比較しても非常に高い水準にあり、都道府県によっては8倍台となる地域もあります。本稿では、この報告書の主要なポイントを解説します。地域差を踏まえたプラットフォーム機能の充実都道府県が設置主体となり、介護人材確保に関するプラットフォームを制度として構築する方針が示されました。このプラットフォームは、地域の関係者が情報を収集・共有・分析し、協働して課題解決に取り組むための仕組みです。プラットフォームの構造は重層的な設計となっています。第1層は都道府県単位で関係者が人材確保の課題を認識・共有する場として機能します。第2層は市町村単位や複数市町村の圏域単位など、より狭い地域で設置され、「人材確保・定着」「職場環境の改善、生産性向上・経営支援」「介護のイメージ改善・理解促進」などの個別課題に応じたプロジェクトチームとして活動します。このプラットフォームには、市町村、ハローワーク、福祉人材センター、介護労働安定センター、介護事業者、介護福祉士養成施設、職能団体などの関係者が参画します。福祉人材センターがコーディネーター的な中核的役割を担い、関係者の取組を連携させることが想定されています。これにより、情報の収集・共有・分析から課題の発見、取組の実施、効果検証、改善までのPDCAサイクルを回すことが可能となります。多様な人材の確保・育成・定着のための取組若者・高齢者・未経験者などの多様な人材を確保・育成するため、情報発信・広報戦略の強化と、テクノロジー活用による業務改善の2つのアプローチが提案されています。情報発信については、テクノロジー導入や社会的課題への対応など、介護現場における最新の取組を積極的に発信することが重要です。テクノロジーの導入により、介護職員の負担軽減と利用者と関わる時間の確保が両立できている事例があります。また、職場体験やインターンシップを通じて、地域の関係者に福祉現場を理解してもらう取組も重要とされています。人材の定着支援については、テクノロジーの活用による介護の質の向上と業務負担軽減に加え、いわゆる「介護助手」の活用が提案されています。業務の整理・切り出しにより介護の直接業務とその他業務を明確化し、周辺業務を介護助手が担うことで、タスクシフト/シェアを進め、業務改善・生産性向上を図ります。この取組は人手不足解決だけでなく、介護の専門性の明確化にもつながるものと位置づけられています。中核的介護人材の確保・育成と資格制度の見直し中核的介護人材の確保・育成については、山脈型キャリアモデルの深化、介護福祉士の届出制度拡充、複数資格取得の促進という3つの方策が示されています。山脈型キャリアモデルとは、サービスや経営のマネジメントを行う役割に加え、認知症ケア・看取りケア等の特定のスキルを極めることや、地域全体の介護力向上を進めることなど、介護人材が目指す複数のキャリアパスを示すものです。中核的介護人材が担うべき具体的役割・機能や必要な資質・能力の整理と、これを身につけるための研修体系の整備が必要とされています。介護福祉士の届出制度については、現行の潜在介護福祉士への復職支援に加え、現任の介護福祉士にも届出の努力義務を課すことが提案されています。これにより、地域における介護人材の実態把握や必要なキャリア支援を行う仕組みへと発展させることが目指されています。介護福祉士養成施設卒業者の国家試験義務付けの経過措置については、令和8年度卒業者までとされている現行の経過措置の取扱いが議論されました。資格の質の担保・専門性の向上等の観点から終了すべきとの意見と、養成施設の入学者確保・介護人材確保等の観点から延長すべきとの意見の両方が示されています。今後、介護福祉士養成施設の役割も勘案しながら、必要な対応が講じられる見込みです。外国人介護人材の確保・定着策と准介護福祉士の在り方外国人介護人材の確保・定着については、プラットフォーム機能を活用した地域ごとの支援策が提案されています。特に小規模法人における外国人介護人材の受入れが課題となっており、海外現地での働きかけなどの確保策や、日本語教育、文化の違いへの対応、生活環境整備などの定着策を地域ごとに検討することが必要です。令和7年4月からは、一定の要件のもとで技能実習生と特定技能外国人が訪問系サービスに従事することが可能となりました。緊急時の対応やトラブルの未然防止に向けたリスク管理、利用者・家族からの同意取得、ハラスメント対策としてのマニュアル整備等が重要とされています。准介護福祉士については、国家試験に合格していない者に付与される資格であり、フィリピンとのEPA(経済連携協定)締結時の経緯から創設されたものです。本専門委員会では、資格に対する社会的評価・資質の担保や、介護福祉士の専門職としての地位の向上・確立の観点から廃止すべきとの意見が示されました。フィリピン国政府との関係等も考慮しながら、適切な対応が検討される予定です。まとめ福祉人材確保専門委員会の議論の整理は、2040年に向けた介護人材確保の方向性を示す重要な報告書です。都道府県主導のプラットフォーム構築による地域連携の強化、多様な人材の確保とテクノロジー活用による業務改善、中核的介護人材の育成と資格制度の見直し、外国人介護人材の支援体制整備という4つの柱が提示されました。今後、この報告書の内容は社会保障審議会福祉部会でさらに議論を深めるとともに、介護保険部会その他関係審議会等においても議論が進められます。処遇改善なしに人材確保はなしえないとの意見が多くの委員から示されており、福祉・介護分野の処遇改善や専門性の評価も重要な課題として引き続き検討されることになります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2025年最新】介護保険部会が示す3つの重点施策|身寄りのない高齢者支援・介護予防・過疎地域対策

【2025年最新】介護保険部会が示す3つの重点施策|身寄りのない高齢者支援・介護予防・過疎地域対策

Nov 28, 2025 05:47 岡大徳

令和7年11月17日に開催された第31回社会保障審議会福祉部会において、介護保険部会における議論の状況が報告されました。この報告は、第126回(令和7年10月9日)、第127回、第128回(令和7年11月10日)の介護保険部会での議論をまとめたものです。2050年頃には全世帯の5世帯に1世帯が高齢者単身世帯になると想定される中、身寄りのない高齢者等への対応が喫緊の課題となっています。介護保険部会では主に2つの論点が議論されています。第一に、身寄りのない高齢者等への支援に向けた地域ケア会議の活用推進と相談体制の充実です。第二に、介護予防の推進として通いの場の機能強化と多機能拠点の整備が検討されています。なお、過疎地域等における包括的な支援体制については、福祉部会での議論が介護保険部会に報告され、委員からの意見が出されています。身寄りのない高齢者等への支援体制の整備身寄りのない高齢者等への支援は、介護保険部会における最重要課題のひとつです。高齢者単身世帯の増加に伴い、生活支援、財産管理、身元保証、死後事務といった課題への対応が急務となっています。現状では、これらの課題に対してケアマネジャーが法定外業務(シャドウワーク)として対応せざるを得ないケースが増加しており、ケアマネジャーの専門性発揮を阻害する要因となっています。この課題への対応として、地域ケア会議の活用推進が検討されています。ただし、現状では地域ケア個別会議と地域ケア推進会議を連携できていない、または地域ケア個別会議での議論がそもそも十分ではないと回答した市町村が合わせて半数程度あります。地域包括支援センターが主導して地域ケア会議を開催し、身寄りのない高齢者等の生活課題を地域全体で協議する体制の構築が目指されています。先進的な取組事例として、3つの自治体が紹介されています。兵庫県朝来市では、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所が中核となって地域ケア会議の中にワーキングを設置し、主任ケアマネジャー、司法書士、医師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー等の多分野の関係者による議論を経て「身寄りのない人を支える資源マップ」を作成しています。島根県出雲市では、市が住民主体の互助団体の連絡会と地域ケア会議を連動させる体系を整備し、生活支援コーディネーターを中心とした個別課題解決の場づくりを推進しています。愛知県岡崎市では、金融機関をコアメンバーとする「岡崎市SDGs公民連携プラットフォーム」を活用し、「終活応援事業」を創設しています。相談体制の充実に向けては、地域包括支援センターの総合相談支援事業において身寄りのない高齢者等への相談対応を明確化することが検討されています。介護保険部会の委員からは、地域包括支援センターの業務量過多や人材不足への対応として、国による財政支援と人材確保の強化を求める意見が出されました。介護予防の推進と多機能拠点の整備介護予防の推進は、高齢者の健康寿命延伸と地域の支え合い強化の両面から重要な施策です。「通いの場」は、住民主体の介護予防の取組を推進する場として、高齢者の社会参加を促すとともに、地域共生社会の実現に貢献してきました。2040年を見据えると、高齢化や人口減少のスピードは地域によって大きな差が生じることが想定されており、より効果的な介護予防の仕組みが必要とされています。この課題に対応するため、「介護予防・地域ささえあいサポート拠点」の整備に向けたモデル事業が実施されています。令和6年度補正予算(令和7年度繰越実施)で措置されたこのモデル事業では、介護予防を主軸としながら、障害、子育て、生活困窮分野の支援機能も併せ持つ多機能拠点の整備が検証されています。この拠点は、住民主体の通いの場の機能に加え、地域ささえあいネットワークとの連携により、地域の多様なニーズに対応することが期待されています。介護保険部会では、こうした多機能拠点の整備・運営を総合事業に位置づけることが検討されています。委員からは、老人保健施設を介護予防の活動拠点として活用する提案や、専門職の関与を確保するための具体的方策を求める意見が出されました。財源については、介護保険で対応する部分は介護予防に限定すべきとの意見や、地域支援事業の上限額廃止と必要な予算確保を求める意見が出されています。過疎地域等における包括的な支援体制過疎地域等における包括的な支援体制の整備については、福祉部会で詳細な検討が行われており、その議論の状況が介護保険部会にも報告されています。これらの地域では、担い手不足により地域の支え合い機能が脆弱化する一方、福祉ニーズの多様化・複雑化が進んでいます。現行の重層的支援体制整備事業は、各分野の配置基準を満たした上で追加的に事業を実施する必要があり、小規模自治体では実施率が低い状況にあります。令和7年6月13日閣議決定の「地方創生の基本構想」では、中山間・人口減少地域において介護・障害・こども・生活困窮分野の相談支援・地域づくり事業を一本化し、機能強化を図る制度改正の実施が盛り込まれました。福祉部会における議論では、相談支援と地域づくりを分野別の縦割りではなく機能別に構造化し、包括的な実施を可能とする仕組みの検討が進められています。介護保険部会の委員からは、この方向性について合理的であるとの評価がある一方、相談支援に当たる専門職が多領域にわたる相談支援に対応できるよう人材育成が大きな課題との指摘がありました。また、各市町村の実情を踏まえた体制構築の必要性も指摘されています。まとめ介護保険部会では、2040年を見据えた介護保険制度の見直しに向けた議論が進められています。身寄りのない高齢者等への支援については、地域ケア会議の活用推進と相談体制の充実により、地域全体で課題に対応する体制の構築が目指されています。介護予防の推進については、通いの場の機能強化と多機能拠点の整備がモデル事業として検証されています。過疎地域等における包括的な支援体制については、福祉部会での議論を踏まえ、相談支援・地域づくり事業の機能別構造化による対応が検討されています。今後も介護保険部会および福祉部会における議論の動向に注目が必要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2025年福祉制度改革】第31回福祉部会が示す5つの論点と検討の方向性

【2025年福祉制度改革】第31回福祉部会が示す5つの論点と検討の方向性

Nov 27, 2025 06:27 岡大徳

令和7年11月17日、第31回社会保障審議会福祉部会が開催されました。本部会では、地域共生社会の在り方検討会議や2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会の議論を踏まえ、福祉制度改革の具体的な方向性が示されました。本稿では、これまでのご意見を踏まえた論点に関する議論の状況について解説します。福祉部会で示された論点は5つの柱で構成されています。第1に、地域共生社会の更なる展開として、包括的な支援体制整備の推進と過疎地域向けの新たな仕組みの創設が検討されています。第2に、身寄りのない高齢者等への対応として、日常生活自立支援事業を拡充・発展させた新たな第二種社会福祉事業の創設が提案されています。第3に、社会福祉連携推進法人制度の見直しとして、一定の要件下での社会福祉事業の実施が可能となる方向性が示されました。第4に、災害福祉支援体制の強化として、DWAT(災害派遣福祉チーム)の法制化が検討されています。第5に、共同募金事業について、寄附募集禁止規定の撤廃と準備金使途の拡大が提案されています。地域共生社会の更なる展開について地域共生社会の実現に向けた取組として、包括的な支援体制整備の推進と過疎地域等における新たな仕組みの創設が検討されています。2040年に向けて人口減少と単身世帯の増加が進む中、地域で支え合う社会の実現がより一層重要となっています。包括的な支援体制整備については、重層的支援体制整備事業の質の向上が課題となっています。現状では、事業実施に向けた検討プロセスや事業評価が十分に行われていない状況が見られます。検討の方向性として、事業実施にあたって地域資源の把握や関係者との対話等の検討プロセスを経ることを要件とすべきとされています。重層的支援体制整備事業実施計画についても、必須記載事項として目標・評価等に関する事項を追加し、計画の定期的な見直しを行うことが求められています。市町村における体制整備の推進も重要な論点です。重層的支援体制整備事業を実施していない市町村においても支援会議の活用を可能とする等により、体制整備を促進すべきとされています。地域住民等と支援関係機関の連携・協働を図るため、市町村が協力団体を委嘱できる仕組みの創設等も検討されています。過疎地域等における新たな仕組みについては、介護・障害・こども・生活困窮分野の相談支援・地域づくり事業を一本化する方向性が示されています。過疎地域等では担い手不足が深刻化しており、現行の重層的支援体制整備事業の実施が困難な状況にあります。新たな仕組みでは、分野横断的な配置基準を設け、一次相談対応と専門的相談対応を構造化することで、小規模自治体でも実施可能な体制を構築することが目指されています。身寄りのない高齢者等への対応・成年後見制度の見直しへの対応について身寄りのない高齢者等が地域で安心して自立した生活を続けられるよう、新たな第二種社会福祉事業の創設が検討されています。頼れる身寄りがいないことにより、入院・入所の手続等支援や死後事務支援などが必要とされる高齢者等への対応が課題となっています。新たな事業の概要として、日常生活自立支援事業を拡充・発展させた事業が提案されています。判断能力が不十分な人や頼れる身寄りがいない高齢者等に対して、日常生活支援、円滑な入院・入所の手続支援、死後事務支援などを提供することが想定されています。この事業は、資力が十分でなくても利用できるよう、利用者のうち一定割合以上が無料又は低額の料金で利用できる事業とする方向性が示されています。自治体の役割についても明確化が検討されています。身寄りのない高齢者等への支援は社会福祉法第106条の3に基づく「地域生活課題」に含まれることを明確化し、大臣指針や市町村地域福祉計画の計画策定ガイドラインにおいて、支援に係る事項を明記する方向性が示されています。事業者に対するチェック体制として、運営適正化委員会による助言・勧告の実施や、適正な事業運営の確保策を盛り込んだガイドライン等の策定も検討されています。社会福祉法人制度・社会福祉連携推進法人制度の在り方について社会福祉連携推進法人制度の活用を一層促進するため、制度の見直しが検討されています。人口減少が進む過疎地域等では、法人単独では事業を実施することが困難な状況にあり、複数の法人間での連携・協働による経営基盤の強化が求められています。社会福祉連携推進法人による社会福祉事業の実施について、一定の要件を満たす場合には可能とする方向性が示されています。現行制度では社会福祉連携推進法人は社会福祉事業を行うことができませんが、地域住民に必要不可欠な事業を維持し、利用者を保護する観点から、第二種社会福祉事業及び社会福祉事業以外の社会福祉を目的とする福祉サービスの実施を可能とすることが検討されています。その際、当該地域において福祉ニーズを充足できていないこと、他のサービス事業主体の参入が期待できないこと、連携推進業務を行う体制が確保されていることが要件として示されています。既存施設の土地・建物の有効活用についても検討が進められています。社会福祉連携推進法人が社員法人間の土地・建物の貸付に関する支援業務を行うことや、社会福祉法人の解散時における残余財産の帰属先の拡大が議論されています。解散した社会福祉法人の土地・建物について、社会福祉事業を現に行っていない地方公共団体であっても、地域に不可欠な事業の維持のために有効活用する場合には帰属を受けることができるようにする方向性が示されています。災害に備えた福祉的支援体制について令和6年能登半島地震の教訓を踏まえ、平時からの災害福祉支援体制の整備とDWATの法制化が検討されています。災害救助法の改正により災害時の福祉支援は法定化されましたが、平時からの体制整備については未だ法制化されていない状況にあります。平時からの連携体制の構築について、包括的な支援体制の整備において「防災」との連携を加えることが提案されています。地域福祉計画の記載事項に災害福祉に関する事項を追加し、市町村地域福祉計画においては防災関連施策や災害ボランティア活動との連携・協力内容、福祉サービス提供体制の維持方策等を記載することが求められる方向性が示されています。都道府県地域福祉支援計画においては、DWATの整備状況や災害時における役割・実施内容について記載することが検討されています。DWATの法制化については、災害時における福祉従事者の確保を可能とするため、登録制度の整備と研修・訓練の実施に関する規定を設けることが提案されています。国が登録名簿の管理や研修を実施するとともに、都道府県においても研修・訓練の機会提供等を行うよう努めることとする方向性が示されています。DWATチーム員の派遣元使用者に対する配慮義務や、チーム員への秘密保持義務についても規定を設けることが検討されています。共同募金事業の在り方について共同募金事業が地域福祉を支える役割を果たし続けられるよう、寄附募集禁止規定の撤廃と準備金使途の拡大が検討されています。共同募金事業は戦後間もなく開始されて以降、地域福祉の推進に大きな役割を果たしてきましたが、時代の変化に対応した見直しが求められています。寄附募集禁止規定については、共同募金の配分を受けた者に対する制限を撤廃する方向性が示されています。現行では配分を受けた者への寄附募集が制限されていますが、共同募金の配分の有無によって公平性を考慮する必要性が薄れつつあることに加え、この制限が民間支援に逆行し時代にそぐわなくなってきているとの認識が示されています。撤廃にあたっては、共同募金事業が引き続き包括指定寄附金の対象となることを前提に検討を行うべきとされています。準備金の使途についても拡大が検討されています。現行では災害時に限定されている準備金の積立について、公的制度だけでは対応困難な社会課題への取組や地域のモデル的な取組など、一定規模の継続事業に対しても取崩ができるようにすることが提案されています。その際、使途の透明性の確保や準備金不足とならないよう一定の取崩上限の目安を設定することが求められています。まとめ第31回福祉部会では、2040年に向けた福祉制度改革の具体的な方向性が示されました。地域共生社会の更なる展開として、包括的な支援体制整備の推進と過疎地域向けの新たな仕組みの創設が検討されています。身寄りのない高齢者等への対応として、新たな第二種社会福祉事業の創設が提案され、社会福祉連携推進法人制度については社会福祉事業の実施を可能とする見直しが進められています。災害福祉支援体制の強化としてDWATの法制化が検討され、共同募金事業については規制緩和による活性化が目指されています。これらの論点について、今後さらに具体的な検討が進められる見込みです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

AkiのAI「と」ゼロから学ぶラジオ

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この番組はエンジニアの「もっさん」が日々思ったことを1トピック1エピソードでコンパクトに話す番組です。 ※ 2024/6/27に「みるみる積もる!積読術」からタイトル変更しました ●【Twitter @mossan_hoshi】 ●【Youtube @mossanhoshi7158】 ●【オライリー本サブスクについて】 https://zenn.dev/mossan_hoshi/articles/20230128_oreilly_learning ●【積読本リスト】 https://1drv.ms/x/s!AqxcPJT01sLlgdsJJ2-wA9mRn1dimA?e=uvyGdD ●【Zenn @mossan_hoshi】 ●【Qiita @mossan_hoshi】

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日本酒を世界酒に! 日本酒×Web3のパイオニアが業界に革新を与えます!! CHIMNEY TOWN DAO運営 Japan Sake Community代表 中学校教員が世界で活躍するプロデューサーに 川原卓巳プロデュースの学校0期生として活動 日本酒を世界酒にしていくまでの過程がみれます。 ビジネスでのマインドセット。思考法など音声を通じて伝えます。 https://listen.style/p/guricoproduce?2wfSmibn

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くろますおのNEXT NOW / 「”次”のトレンドを”今”学べる」ラジオ

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