大沼竜也(おおぬま・たつや)
鍼灸師。1991年宮城県生。
身体の教養──自分の身体の状態を感じ取り、自分で調整できるようになること。読み書きと同じように、誰もが身につけるべきリテラシーだと考えています。
漠然とした不安、疲れ、行き詰まり。その原因を思考で探しても、また同じ不調が戻ってくる。身体の状態が変わっていないからかもしれません。
身体は常に何かを感じています。あなたが気づいていなくても。この「感じ」が、気分も判断も行動も──暮らし全体を方向づけています。
身体の構造を知り、自分の身体に通し、感覚が立ち上がる。コーヒーを飲む、本を開く、誰かと話す。行為は同じでも、身体の状態が変われば暮らしの質が変わります。
自分の手で触れ、ゆすり、さする。感じて、解いていく。僕はこれを身体動態瞑想と呼んでいます。瞑想は身体的な行為であり、感じ解いていくことです。
変われないのは、あなたのせいではありません。身体が固まったまま思考だけで何とかしようとしている構造のせいかもしれない。この番組では、身体の教養という視点から暮らしを見つめ直します。
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番組の魅力・推薦
【中編】考えても答えが出ないとき|キキが飛べなくなった日
考えても考えても答えが出ない。でも考えるのを止められない。いつもと同じはずなのに、急に自分が言うことを聞かなくなる──そういう夜、ありませんか。それは思考力の問題ではなくて、「身体図式」というあなたの中の無意識の当たり前が、状況の変化に追いつけなくなっているサインなのかもしれません。今回はキキが突然飛べなくなった日に身体で起きていたことを、メルロ=ポンティの「習慣の獲得は身体図式の組み換えである」という言葉を補助線に読み解いていきます。「キキはなぜ飛べたのか|宮崎駿『血で飛ぶ』と身体の話」シリーズの中編です。中編(今回)でお話ししているのはこんな内容です。・血で飛ぶの限界──新しい状況が身体に「組み直してくれ」と要求してくる・メルロ=ポンティ「習慣の獲得とは身体図式の組み替えであり更新である」・「自分を持てあます」──思春期だけの話ではない・飛べない時に身体に現れる3つの兆候(身体が変わる感じが訪れない/問題解決の言葉ばかりが先行する/感覚の具体性が消えていく)・思春期に限らない人生の節目──引っ越し、独立、出産、子離れ、転職、引退、更年期、退院後…・画家ウルスラがキキに伝えた言葉──「ジタバタするしかないよ/何もしない/そのうちに急に描きたくなるんだよ」・コントロールするのではなく、身体がぴったり合う瞬間を待つ・思考の檻から出て、世界と身体の手触りを取り戻していく後編では、宮崎駿監督の「俯瞰で意識的に見つめる」を身体の方から読み替え、「身体の教養」とは何かまでを話していきます。「変わりたいのに変われない」「自分を分析するほど、生きづらさが増している気がする」と感じている方に、聴いてほしい一本です。------身体の教養ラヂオ/のんべんだらりと暮らすだけお手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma#身体の教養 #ソマティクス #魔女の宅急便 #ジブリ #身体図式 #思考の檻 #身体知の書庫
【前編】キキはなぜ飛べたのか|宮崎駿『血で飛ぶ』と身体の話
何も考えずにできていたことが、ある日急にできなくなる。子供の頃は当たり前にできていたのに、今は同じことがどうしてもうまくいかない──そんな感覚を、誰しも一度はくぐっているのではないかと思います。その「できる/できない」を分けているものは、意志の強さでも頑張りの量でもなく、身体に組み込まれていた「ある条件の整い方」だった。今回は魔女の宅急便のキキを起点に、その「整い方」の正体を身体論の側から読み解いていきます。「キキはなぜ飛べたのか|宮崎駿『血で飛ぶ』と身体の話」シリーズの前編です。3回に分けてお話ししていきます。前編(今回)でお話ししているのはこんな内容です。・魔女の宅急便、キキが突然飛べなくなる場面の不思議・宮崎駿監督の「血っていったいなんですか?親からもらったものでしょう?」「無意識に成長することは不可能である」という二つの言葉・アフォーダンス──環境が私たちに「こうできるよ」と差し出してくる可能性(ジェームズ・J・ギブソン)・メルロ=ポンティの「I can/je peux」──「私はできると信じる」ではない、別の意味の「できる」・コップに手が伸びるとき、私たちは「取ろう」と決意してから動いているわけではない・「できる」を支える4つの条件──身体合理性/身体図式/物理的条件/環境・生まれたばかりの赤ん坊が走れない理由(身体合理性は高いのに)・キキの「血で飛ぶ」の正体──野生としての身体知中編・後編では、キキが飛べなくなった日に身体で何が起きていたのか、そして「俯瞰で意識的に見つめる」を身体の方から読み替えるとどうなるのか、までを話していきます。「子供の頃のあの感覚が懐かしい」と感じる方、「最近、急にできなくなったことがある」という方に、聴いてほしいシリーズです。------身体の教養ラヂオ/のんべんだらりと暮らすだけお手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma#身体の教養 #ソマティクス #魔女の宅急便 #ジブリ #アフォーダンス #宮崎駿 #身体知の書庫
信頼は、結果と関係がない|裏切られても、傷つけられてもそれで良いと思える?
人を信頼するって、本当はどういうことなんだろう。信頼は、たぶん、結果と関係がない。信頼するから、関わり続ける。質問回答エピソード後編です。前編からの続きですが、後編単独でも聴けます。「やっぱりクズだった」と判定して離れる動きは、もう信頼の話ではないのかもしれない。それは、結果の答え合わせ。信頼そのものは、結果に関わりなく、その手前で動いている。そんな整理を、現象学のエポケー(判定の保留)、イエス・キリストの「右の頬を打たれたら左の頬を」が示す身体合理性の極限、関わりがカジュアル化した時代論などを補助線にしながら話しました。最後には、「解いていけば、解けていく」── これが大沼竜也なりの幸せの形です。参考にした古今東西の信頼論(ブログ版で明示):- ニクラス・ルーマン『信頼』(Trust vs Confidence)- アネット・バイヤー "Trust and Antitrust" (Trust vs Reliance)- 山岸俊男『信頼の構造』(信頼 vs 安心)- キェルケゴール『おそれとおののき』(信仰の飛躍)- キリスト教 / 仏教ブログ記事「信頼するから、関わり続ける」と合わせてどうぞ。------お手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
人間不信になりそう|人を見抜くことは「不可能」なの?
いろんなことが重なって、人間不信になってしまいそう。「やっぱりクズだった」を繰り返してしまう人、人を見抜こうとして疲れている。そもそも、人を見抜くということが原理的に難しいのではないか、という話をしました。癖と野生のあいだで、身体に何が起きているのか。質問回答エピソード前編です。ソマティックスタジオサポーターからいただいたDM質問への回答です。最初の印象では良くない感じがした人。話してみたら心地よかった。でも、会話の中の言葉から「この人はクズみたいな人だ」という感じが立ち上がる。それでも信じて関係を進めてみたら、やっぱりクズだった。そういうことが、最近続いている。ラベルは必要なのか。感覚だけではダメなのか。そんな悩みを起点に、「見抜くこと自体が原理的に難しい」という入口から、野生・理性・癖の三層整理、そして「身体の反応は、ただ起きている事実」というところまで話しました。「あの人がクズかどうかは、本当のところはわからない」──この一言が、たぶん前編の核心です。続きの後編では、「信頼は結果と関係がない」「現象学のエポケー」「キリストと身体合理性の極限」まで踏み込みます。ブログ記事「信頼するから、関わり続ける」と合わせてどうぞ。------お手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
【後編】コリと疲労と鬱な気分|脳疲労が原因だった?
「取れない疲れは『脳疲労』が原因かも?」シリーズの後編です。前編・中編で脳疲労のメカニズムと、身体動態瞑想の入口までお話ししてきました。今回はもう一段深く、宮本武蔵が示した「ゆるみ」の深さと、それを日常に織り込んでいくところまで、お話ししています。後編(今回)でお話ししているのは、こんな内容です。・宮本武蔵『五輪書』にある一節──「心を静かにゆるがせて、其ゆるぎのせつなも、ゆるぎやまぬやうに、能々吟味すべし」・武蔵が要求しているのは、深層筋・肋間筋・大腰筋・横隔膜まで届くゆるみ。お風呂で気持ちいいレベルでは、まだ表層にすぎない・「ゆるむ」と「たるむ」は違う──だらーっとたるむ状態と、ギュッと締まる状態、その両方を最大限に自由に行き来できる状態こそが、身体合理性が高い状態。自由度の問題である・生理学的にも、筋肉が「ゆるんでいる」状態は何もしていない状態ではない。ATPというエネルギー物質を使い続けている。死後硬直──ATPの供給が止まった瞬間に身体が固まる現象──を思い起こせば分かりやすい・努力の方向を「気持ちよさを引き出すこと」に置き換える──座るときも、移動も、食事も、お風呂も、ベッドに入るときも、心地よさを最大限に味わうように生きる・落とし穴:今の自分の身体の小余りを前提とした気持ちよさしか感じられない。背中が丸ければ、その状態の中での気持ちよさしか拾えない・だから理性があり、他者がいる。身体動態瞑想は、解剖学的な構造の側からその落とし穴に補助線を引く実践。胸をさすると、肋骨を通じて背中の丸さに届く身体に蓋をして頑張り続けてきた人にこそ、聴いてほしいシリーズの締めくくりです。日常の所作のひとつひとつに、気持ちよさを引き出す姿勢を織り込んでいくきっかけになれば嬉しいです。ソマティックスタジオでは身体動態瞑想を詳しく解説する場や、一緒に実践する場を用意しています。興味のある方はぜひ覗いてみてください。【参考文献】(後編で言及)・宮本武蔵『五輪書』お手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
【中編】コリと疲労と鬱な気分|脳疲労が原因だった?
「取れない疲れは『脳疲労』が原因かも?」シリーズの中編です。前編では脳疲労のメカニズムと、アスリートの脳疲労の話までしました。今回はその続きから、現代人がなぜ脳疲労を抱えやすいのかという構造の話と、対処としての「身体動態瞑想」の導入まで、お話ししています。中編(今回)でお話ししているのは、こんな内容です。・座位時間そのものが運動量とは独立して身体に効いてくる──100万人を超える人々を統合した2016年のLancetの研究では、1日8時間以上の座位と低い活動量が重なると、全死因死亡リスクが約1.6倍になることが示されている・現代人は「自分が疲れていることに気づけないくらい疲れている」状態にある。本人は肩こりを感じていないけれど、施術側から触ると相当に硬い──臨床で頻繁に出会う光景・2023年の研究では、座位時間が1分増えるごとに、自分の身体の内側を感じ取る力(内受容感覚)が低下することが示されている・ペンフィールドのホムンクルス──手・足・口・顔の支配領域は圧倒的に広く、体幹は極めて狭い・発達の視点から:魚・爬虫類・四足動物まで遡れば、運動の本来の主役は脊椎・体幹だった・2023年、Gordonらが『Nature』に発表した「Somato-Cognitive Action Network」(体幹・呼吸・腹部を司る認知と運動の統合ネットワーク)・身体動態瞑想の核心──自分の脳を使って、自分の身体の硬さを感じ取り、ゆっくり動かし、気持ちいいなを指標にほぐしていく実践・受動的にマッサージ機・甘いもの・お風呂・音楽に頼り続けると、自分で自分を調整する能力が低下していく・解剖学者Robert Schleipの筋膜研究:能動的に「感じ取りながら触れる・動かす」とき、内受容感覚に関わる脳の部位が活性化する・「脳が疲れているなら脳を休めればいい」は逆。脳を「使いながらゆるめる」ことで、脳の能動的活動の能力そのものが鍛えられる・具体例:盆の窪を椅子の背もたれにあずけて、1センチ幅で首をゆっくり動かす実践後編では、宮本武蔵『五輪書』が示す身体合理性の深さと、「ゆるむ」と「たるむ」の違い、ATPと弛緩の生理学、そして日常そのものを「気持ちよさを引き出す努力」に変えていく話までいきます。【参考文献】(中編で言及)・Ekelund U, et al. (2016) Lancet 388(10051):1302-1310.・Wallman-Jones A, et al. (2023) Biological Psychology 181:108600.・Gordon EM, et al. (2023) Nature 617(7960):351-359.・Schleip R. (2003) Journal of Bodywork and Movement Therapies 7(1):11-19 / 7(2):104-116.お手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
【前編】コリと疲労と鬱な気分。脳疲労が原因だった?
寝ても疲れが取れない。週末に休んだはずなのに、月曜の朝にはもう体が重い。激しく動いたわけでもないのに、夕方には頭がぼんやりして、目の奥が痛い。検査をしても異常は出ない。「年のせい」「ストレス」と言われて、それ以上の言葉が続かない──そういう疲れの正体について、僕は「脳疲労」という言葉で捉えています。今回から3回に分けて、脳疲労とは何か、なぜ起きるのか、どう向き合うかについて、臨床と現代の神経科学の両方の側から話していきます。前編(今回)でお話ししているのは、こんな内容です。・脳疲労と身体の固まりは「別々の現象」ではなく、同じ一つの現象の二つの顔である・「身体合理性」という観点──体の不合理は脳の不合理に直結する・トップアスリートの脳疲労──体を動かしているように見えて、相手の動きを読み、戦略を立て、瞬時に判断する脳活動が極限まで使われている。試合の後半・連戦で出せるパフォーマンスが落ちていくのは、筋肉や心肺だけでなく脳の側が疲労しているから・Marcoraの実験(2009年):90分の認知タスクを課しただけで、その後の運動継続時間が15%短くなる。心肺機能も筋肉のエネルギー指標も変わっていないのに、身体は早く力尽きる・これは僕たちのデスクワークの疲れと構造として地続き中編・後編では、現代人の脳疲労が構造的に起きている理由(直立二足歩行、デスクワーク、幼稚園からの座位訓練、ペンフィールドのホムンクルスと動かしにくい体幹)と、対処としての「身体動態瞑想」の核心について話していきます。身体に蓋をして頑張り続けてきた人にこそ、聴いてほしいシリーズです。【参考文献】(前編で言及)・Wiehler A, Branzoli F, Adanyeguh I, Mochel F, Pessiglione M. (2022) "A neuro-metabolic account of why daylong cognitive work alters the control of economic decisions." Current Biology 32(16):3564-3575.・Marcora SM, Staiano W, Manning V. (2009) "Mental fatigue impairs physical performance in humans." Journal of Applied Physiology 106(3):857-864.お手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
自己愛が歪むと、人は差別したくなる?|陰謀論者と他責思考は藁をも掴む
「あの人のせいだ」「中国人のせいだ」「あの世代のせいだ」── SNSを開けば一日中、誰かが誰かを糾弾している。気づくと自分も巻き上げられて、傷ついて、なんだか疲れている。なぜ、人は誰かを悪者にしたくなるのか。最近、こんな言葉を聞きました。「絶望を知らないからクズになる。だから誰かのせいにしたくなる」と。確かに一理あります。けれど、深く考えてみると、見えてくるものがありました。絶望って、「想像」でもあります。想像は、これまでの経験や体験を基盤にして初めてできるもの。自分の身体で絶望を感じたことがなければ、世界の絶望や他者の苦しみを想像できるわけがない。だから、差別の向こうで誰がどんな痛みを感じるかも想像できない。かといって、その痛みを思い出すこともできない。代わりに、「あいつのせいだ」「陰謀だ」という記号を、藁にもすがる思いで掴む。── 自己愛が歪んだ時、人はこの「藁」を本気で握りしめます。自信満々だった人も、人生の疲弊の中で自己愛が歪むと、「〇〇のせい」が止まらなくなる。このエピソードでは:・なぜ「絶望を知らない人」が藁にすがるのか・身体的な絶望体験(父との対峙、雪山、波)が想像の基盤になる仕組み・「絶望が足りない」を生む2つの社会構造(危険を排除する社会/効率化を強いる社会)・ブッダの「苦は遍く知られるべし」が、なぜ身体に降りる話なのか・健全な希望は、絶望を知った身体に立ち上がるを、丁寧に語ります。「あの人のせい」と言いたくなった時、身体は何を伝えているのか。一緒に考えてみませんか。参考文献:『初転法輪経(相応部 SN 56.11)』、メルロ=ポンティ『知覚の現象学』、養老孟司『唯脳論』、ハン・ビョンチョル『疲労社会』、増谷文雄/梅原猛『仏教の思想10 絶望と歓喜〈親鸞〉』
禁欲ってどうなの?|身体論から見る「快楽」の捉え方
「幸福とは〇〇だ」のラヂオを聴いてくださったある方から、こんなご質問をいただきました。「禁欲についてもう少し詳しく聞きたい。性欲が強くて悩んでいる場合、その欲求に従うことでその時は快に向かうのですが、事後毎回不快な気持ちになります。寂しいというか虚しいというか。これを解消するにはどのように体と向き合えばいいのでしょうか。どれが自分の声かわからなくて」すごく大切な問いだと感じました。今回はそのご質問を出発点に、欲と身体について少し丁寧に話しました。「欲しい」と「心地よい」── どちらも広く言えば「快楽」と呼ばれるシステムの一部ですが、その内側にまったく違う2つの働きがあります。神経科学の研究でも、両者はそれぞれ別の脳の回路で動いていることがわかってきています。「欲しい」のほうはドーパミンが関係する駆動の回路(wanting)、「心地よい」のほうはオピオイドなどが関わる質感の回路(liking)。事後に虚しさが残るのは、片方の回路だけが強く燃えて、もう片方が一緒に動いていない状態なのかもしれない。そして「自分の声がわからない」というのは、感受性が低いからではなくて、大きい声と小さい声を聞き分ける練習がまだ追いついていないだけ、ということなのかもしれません。禁欲は、たぶん答えではない。欲を抑え込むのではなく、「心地よい」のほうの回路を、すこしずつ太くしていく。そうすると、「欲しい」だけが暴走することが、自然と減っていく。そして、「欲しい」を強く引き出してくる装置に満ちた現代社会のなかで、それは個人の弱さではなくて環境の側の問題でもある──そんな話をしました。▼ 今回のお話・「欲しい」と「心地よい」は、似ているようでまったく別のもの・どちらも「快楽」と呼ばれるシステムの一部、というのが共通点・なぜ事後に虚しくなるのか・「自分の声」とは、どこから聞こえるのか・力を抜きながら、溶けていくように、心地よい感覚を頼りに動くこと・禁欲は、たぶん答えではない・「欲しい」を強く引き出してくる現代社会のなかで▼参照した文献Berridge, K. C. (2007). The debate over dopamine's role in reward: the case for incentive salience. Psychopharmacology, 191(3), 391-431.Berridge, K. C., & Kringelbach, M. L. (2015). Pleasure systems in the brain. Neuron, 86(3), 646-664.Schultz, W., Dayan, P., & Montague, P. R. (1997). A neural substrate of prediction and reward. Science, 275(5306), 1593-1599.Anna Lembke (2021) Dopamine Nation: Finding Balance in the Age of Indulgence. Dutton.Koob, G. F., & Le Moal, M. (2008). Addiction and the brain antireward system. Annual Review of Psychology, 59, 29-53.身体の教養ラヂオ/のんべんだらりと暮らすだけお手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
幸福とは〇〇だ|身体論から見る幸福論
「幸せになりたい」と人は言う。けれどその幸せがどこから来るのかを明確に答えられる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。19世紀ドイツの哲学者ショーペンハウアーは「幸福は積極的なものではない、苦の不在にすぎない」と書きました。人生は欲望と退屈のあいだを揺れる振り子である、と。今回はこの振り子モデルに、身体論の側から読みを重ねていきます。古代ギリシアのアリストテレス(エウダイモニア)から、エピクロス、ベンサム、ヒルティ・アラン・ラッセルの三大幸福論を辿り、最終的にはスピノザのコナトゥス、カール・ロジャースの実現傾向、ユージン・ジェンドリンのフェルトセンスへとつながる「身体内在の動き」の系譜のなかにショーペンハウアーを置き直してみたい、という回です。施術室で17年、人の身体に触れてきて見えてきたのは、苦と快が別々のものではなく、同じ一つのナビゲーション装置の両面であるということ。苦は、身体合理性から外れているサイン。快は、合理性に向かっているサイン。意志を否定するのではなく、サインに従って動いた結果として、「求めない」状態は立ち上がってくる。幸福は追いかけて獲得するものではなく、身体が発しているサインに従って動いた結果、覆いを取り除かれて立ち上がってくるもの。その覆いの正体には、認知の物語だけではなく、身体合理性から外れた状態を別の快で覆ってしまう「マスキングの快」、そして社会の構造そのものも含まれます。神経科学のライキング(オピオイド系)とウォンティング(ドーパミン系)の区別を手がかりに、現代社会がなぜ身体のサインを聞こえなくしてしまうのかも、一緒に考えていきます。▼ 今回のお話・三大幸福論(ヒルティ・アラン・ラッセル)と、そこから外れたショーペンハウアーの異質さ・「快は消極的、苦は積極的」というショーペンハウアーの命題に、臨床から重ねる読み・振り子モデルが射程に入れられない「フローの瞬間」のこと・幸福のベースラインが高い人と低い人がいるのはなぜか・ショーペンハウアーの「意志」は思考レベルではない──スピノザのコナトゥスへの帰り道・「意志を否定する」ではなく「サインに従う」という処方・触れている手が受け取っている「共苦(Mitleid)」という出来事・成果主義と感情資本主義のなかで、身体のサインが埋もれていくこと・ライキング(オピオイド系)とウォンティング(ドーパミン系)の神経科学話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma#身体の教養 #ソマティクス #幸福論 #ショーペンハウアー #身体合理性 #身体知の書庫
しなやかで強い心は身体からつくることができる|精神性と身体
身体を鍛え、心を育む。他国と比較しても、日本には独特な精神が根付いています。それが、心と身体は表裏一体の同じものであり、「身体を鍛えることで精神性を育む」という思想です。「健康が大事」とかの類ではない、身体という希望の世界を新体論の観点からご紹介します。※この動画は以前に作成したもので、すでに公開済みのものを再利用しています。既知の方はすみません。初めて見るという方は、こうしたテイストも面白いじゃん、と思っていただけたらういれしいです。
「私らしさ」とは「匂い」である
「私はこういう人間だから」そう思うこと、ありますよね。人見知りだから、緊張しやすいから、気が弱いから──いろんな言い方がありますけど、そういう自己認識って、どこから来ているんでしょうか。生まれつきの性格。よく言われます。でも、施術室で毎日、人の身体に触れていると、ちょっと違う景色が見えてくるんです。性格と呼んでいるものの正体は、長い時間のなかで身体に染みついた「匂い」のようなものかもしれません。お香が服に染みつくように、繰り返した行為が、身体に痕跡として残っていく。肩の構え、呼吸の深さ、触れられたときの反応──そういう具体的なかたちとして。シリーズ「癖──あなたの性格は、身体が覚えている」第2回。今回は、2500年前のインドに飛びます。ブッダや、そのあとに現れた人たちは、この「癖が染みついていく仕組み」を、驚くほど精密に見ていました。身体の癖、言葉の癖、思考の癖──それがどう作られ、どう重なり合っていくのか。施術室で毎日出会っていることと、2500年前の人たちが見ていたことが、入り口は違うのに、ほとんど重なっている。そのことに気づいたときの驚きを、そのまま話してみました。「私はこういう人間」という感覚は、身体の匂いなんじゃないか。焚きしめられたものなら、少しずつ、別の香りに変わっていくこともできる。話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
あなたの「人見知り」は肩が覚えている|「性格」という「癖」シリーズ
人と話すのが苦手で、会議で発言を求められると肩が耳まで上がってしまう。頭では「大丈夫」と分かっているのに、胸が閉じる、息が止まる。17年間、身体に触れてきて気づいたことがあります。「人見知り」の正体は、心の弱さではなく、身体の防御反応が固定化したもの──つまり「癖」ではないか、と。今回は『セルフリセット』第3章をベースに、身体図式、防御反応、そして「性格」と呼ばれているものの解像度を上げていきます。2500年前のインドから13世紀のヨーロッパ、20世紀のフランスまで。人類がこの「癖」をどう見てきたか、全5回で追いかけます。▼ 話していること・人づきあいの悩みの身体的な正体・身体図式──身体が「覚えてしまう」メカニズム・「性格」の解像度を上げると「癖」が見える・癖の三つの性質・「分かる」と「感じる」の違い・コミュニケーションの心地よい記憶を身体に刻む▼ 参考書籍大沼竜也『ストレス専門のはり師が教える 心と体のコリをほぐすセルフリセット』(大和出版, 2024)話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
「ゆるむ言葉」言葉ならぬ言葉が、私たちをやらかくしてくれる。
「力を抜いてください」と言われても、なかなか抜けない。でも「だらーっとしてみてください」と言うと、肩がほどけて息が落ち着いてくる人がいます。この差は一体何なのか。今日はオノマトペの話です。だらー、ふわー、じんわり。子どもの頃に使っていた、言葉にならない言葉たち。イメージというのは、空想でも妄想でもありません。レモンという言葉で口に唾液が湧くのは、かつて体で経験した酸っぱさが呼び戻されているからです。だらーという音も同じで、お風呂にどぶんと沈んだ瞬間、布団に倒れ込んだ背中、猫が伸びているあの空気。そうした体の記憶に紐づいているから、言葉を聞いた瞬間に、実際に体が緩むんですね。逆に言うと、日常的に力んで頑張っている人は、だらーの感覚そのものが細くなっています。思い出す元が痩せ細っているから、言われてもピンとこない。リラックスしようとしてうまくいかないのは、頑張りが足りないからでも、知識が足りないからでもありません。想像力を支えている体の方が、その感覚を忘れてしまっているからです。経済の中で顔の見えない相手とコミュニケーションするうちに、僕らはオノマトペを手放して、論理的な言語化を身につけてきました。便利ではあるけれど、その代償として体は静かになっていく。AIの台頭で、この流れはさらに加速しているかもしれません。今日は提案です。だらーでもふわーでも、子どもの頃に使っていたような音を、頭の中でもいいのでポロッと口にしてみる。記号の意味合いが強い言葉から少し離れて、体験的な言葉に立ち返ってみる。案外、そこから何か戻ってくるものがあるかもしれません。🎙 身体の教養ラヂオ|ポッドキャスト配信中🏠 somatic studio|大沼竜也と身体の教養を深める実践と対話の場お手紙・ハガキ募集中です。〒981-0811宮城県仙台市青葉区一番町一丁目12-39-503大沼鍼灸 宛話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
「何をしても治らない」意識の方向を変えるだけで、変わりはじめます。
ストレッチ、筋トレ、サウナ、ヨガ──いろいろやっているのに身体が楽にならない。そんなお悩みに答えます。足りないのはメソッドではなく、自分の身体を感じ取る力のほうかもしれません。同じ動きを繰り返すと脳が感覚を間引いてしまう仕組み、「身体に気をつけているつもり」と「実際に感じ取れている」の乖離、そして感じようとすること自体が運動を変えるという話。同じストレッチでいいんです。やりながら意識の矛先を変えるだけ。今の身体を感じて、心地よさを探してみてください。そして、それをもっと心地良くなるようにしてみてください。——大沼竜也についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma「身体の教養」を日常に──Somatic Studio身体動態瞑想、水夜身体論、定期配信。月額¥3,300で身体の教養を暮らしに取り入れるオンラインスタジオです。https://www.somaticstudiojapan.com/somatic-studio
暮らしが身体を壊す。暮らしが身体を直す。
折坂悠太さんの「寂しさ」を聴いて、その余韻のまま一日を過ごした。コーヒーを飲んでも、仕事をしても、なんかいつもと違う。あれ、今俺「丁寧な暮らし」してる?──そんな体験から始まる話です。丁寧な暮らしって、お気に入りのアイテムで周りを囲むこと、時間を贅沢に使うことだと思わされがちだけど、体がゴワゴワで苦しい状態で「今日はゆっくりしていいよ」って言われても、あんまりいい時間にならない。逆に体がほぐれていれば、同じコーヒーでもパソコン作業でも全然違う手触りになる。身体知性の話、感受性の話、感情資本主義の話。いろいろ広がりましたが、結局たどり着くのは「体が先に応答している」ということ。のんべんだらりと。話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
自分探しの答えは、〇〇にある。
MBTI、HSP、エニアグラム。自分を知るためのツールは、たくさんあります。でも、ラベルが増えても「自分がわかった」という実感が来ない、という方が少なくないんですよね。なぜなのか。千葉雅也『センスの哲学』にヒントがありました。千葉はセンスを「直観的にわかること」と定義しています。分析して導くのではなく、パッとわかる力のことです。この「パッとわかる」が機能するには、前提があります。身体が感じ取れる状態にあること。呼吸が浅く、肋骨が動かず、身体が「感じること」を後回しにしていると、直観の回路そのものが鈍ります。だからラベルで補おうとするわけです。施術を重ねて身体が開いてくると、面白いことが起きます。「今日はなんか魚が食べたい」「いつもと違う道を歩いてみた」。小さな「選ぶ」が戻ってくる。自分を見つけたわけではなくて、身体が選べるようになっただけなんです。「自分がわからない」のは、頭のせいではないかもしれません。話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
【メンタル回復法】鍼灸師が教える入浴法
鍼灸師で身体論研究者の大沼竜也が、温泉に入るときにいつも意識していることをお話しします。「溶けるように力を抜いて入る」──ソマティクスの視点から、ただの入浴ハックでは終わらない、身体感覚を軸にした温泉の入り方。・入水時に力まない練習・坐骨で座り、呼吸で内臓を動かす体操・露天風呂で「頭寒足熱」を実現する(東洋医学の視点)・水風呂=現代の滝行。交互浴の極意・温泉で培う"構え"は、日常の苦手な場面にも効く気持ちよさを指標に、身体の声を聞いてあげる。今日ものんべんだらりとお過ごしください。#身体の教養ラジオ #のんべんだらりと暮らすだけ #温泉 #入浴法 #ソマティクス #東洋医学 #メンタル回復 #水風呂 #交互浴 #頭寒足熱
話が通じない人はなぜ勉強熱心なのか|人を学ぶほどに陥りやすい落とし穴
「施術のとき何をしてるんですか?」とたまに聞かれる。正直に言えば、わからない。触れている、感じている、応答している、促している。四つが同時に起きていて、順番が説明できない。養老孟司の「手入れ」という言葉がしっくりくる。でも植物と人間はちょっと違う。庭師は一方的に応答するけど、人間に触れるときは、相手が自分で自分の手入れをできるようになることを促している。庭師が庭師を育てている。「この筋肉は硬い。だからこうしよう」と思って触る手と、「この身体は今なにかを感じている、それが何かは私にはわからない」と思って触る手は、違う手になる。わかった気になることが、感じることを妨げる。不完全さを知っていることと、知らないことのあいだには、大きな違いがあるのではないかと感じている。話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
約束した時は楽しみなのに直前になると急にめんどくさくなってしまうあの現象を分析してみた
約束を守れない鍼灸師が、養老孟司の「万物流転、情報不変」と國分功一郎の「中動態」から、身体が変わるということの意味を考える。養老孟司は『バカの壁』で、現代人が自分は変わらないと思い込み、約束のほうを軽くしていると批判した。しかし臨床17年、毎日身体に触れていると少し違うことが見えてくる。自分が変わるものだと身体で知っている人間にとって、約束が変わるのは当然ではないのか。沖縄の「うちなータイム」は、お互いが変わるものだという前提を共有しているから成り立つ。鴨長明は社会的な約束を手放した場所で「ゆく河の流れ」を見た。哲学者・國分功一郎は『中動態の世界』で、「する/される」の二択の手前にある身体の過程を掘り起こした。約束を守る/守らないは意志の問題として語られる。しかし身体は意志の外で動いている。心臓は意志で鼓動しない。眠りは意志すれば遠ざかる。身体は中動態で動いている。身体の教養──それは、変わり続ける身体の中で何が起きているかに気づくことかもしれない。話している人についてhttps://www.somaticstudiojapan.com/tatsuyaonuma
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