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goryugo 108 Episodes
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倉下忠憲
魚住惇

面白かった本について語るポッドキャスト&ニュースレターです。1冊の本が触媒となって、そこからどんどん「面白い本」が増えていく。そんな本の楽しみ方を考えていきます。

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BC069 『アトミック・リーディング』

BC069 『アトミック・リーディング』

Aug 1, 2023 1:00:01 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『アトミック・リーディング』について語ります。『アトミック・リーディング』(内容紹介)今回紹介する本は、去年ごりゅごが書いた本『アトミック・シンキング』の続編的な内容のものです。(去年書いた本の紹介はこちら→BC044 『アトミック・シンキング: 書いて考える、ノートと思考の整理術』)去年書いた本の中で一番反応が多かった「読書と書くこと」についてをより深めた、という感じの内容です。と同時に、この本を書いた理由と言うのは世の中でよく見かける「速読」「多読」「コスパ」「タイパ」みたいな用語に対するアンチテーゼ的な思いもたくさん込めています。そして、こうやって自分が思ってたことを本にぶつけると、自分の感情が書くことによって整理されるからなのか「不満」「怒り」みたいなものは見事に消え去って、同時に本の中身も「丸く」なっていきます。Kill 'Em All コスパ・タイパ、とか思ってても、そのSt.AngerがBatteryになって執筆が進み、書き終えればPurifyされるのです。メタリカを思いだして適当なことを書いてしまいましたが「書くことで気持ちが整理される」という効果が、ノートを書くという小さな単位だけで起こるのではなく、本を書くというわりと規模の大きなことでも自分に起こったということ。自分自身の体験としてこの感情の変化を実感できたのは、とても興味深いものでした。そう考えると、やはり今の自分が安定した気持ちで生きていくことができているのは「書いている」からなんだろうなあ。そういえばもっと若い頃は世の中のいろんなことに対して意味もなく不満をぶちまけていたなあ、ということを思いだしたりもしました。この本を通じて、より多くの人に「書く」ことの効果を実感していただけたら嬉しいです。(読書の本なのに今回もテーマは「書く」ことです)『アトミック・リーディング』(はじめに、などをこちらからご覧いただきます) This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC068「忘却と知的生産」

BC068「忘却と知的生産」

Jul 18, 2023 1:03:22 goryugo

今回のテーマは「忘却と知的生産」。以下の二冊の本を題材に、知的生産において「忘れる」ことがいかに大切なのかを考えてみます。* 『まちがえる脳 (岩波新書 新赤版 1972)』* 『忘却の整理学 (ちくま文庫 と-1-10)』Scrapboxのページは以下。◇ブックカタリストBC068用メモ - 倉下忠憲の発想工房書誌情報* 『まちがえる脳 (岩波新書 新赤版 1972)』* 著者* 櫻井芳雄* 出版社* 岩波書店* 出版日* 2023/4/24* 内容紹介* 人はまちがえる。それは、どんなにがんばっても、脳がまちがいを生み出すような情報処理を行っているから。しかし脳がまちがえるからこそ、わたしたちは新たなアイデアを創造し、高次機能を実現し、損傷から回復する。そのような脳の実態と特性を、最新の研究成果をふまえて解説。心とは何か、人間とは何かに迫る。* 目次* はじめに* 序章 人は必ずまちがえる* 第1章 サイコロを振って伝えている?──いい加減な信号伝達* 第2章 まちがえるから役に立つ──創造、高次機能、機能回復* 第3章 単なる精密機械ではない──変革をもたらす新事実* 第4章 迷信を超えて──脳の実態に迫るために* おわりに* 『忘却の整理学 (ちくま文庫 と-1-10)』* 著者* 外山滋比古* 出版社* 筑摩書房* 出版日* 2023/3/13* 内容紹介* 驚愕の270万部突破、時代を超える〈知のバイブル〉『思考の整理学』の続編、待望の文庫化!* 「忘れる」ことはイケないこと、それはとんでもない勘違いだった……〈忘却〉はあなたにとって最大の武器だ!* 目次* Ⅰ* 忘却とは* 選択的記憶と選択的忘却* 忘却は内助の功* 記憶の変化・変貌* 入れたら出す* 知的メタボリック症候群* 思考力のリハビリ* 記憶と忘却で編集される過去* ハイブリッド思考* Ⅱ* 空腹時の頭はフル回転* 思考に最適 三上・三中* 感情のガス抜き* 風を入れる* カタルシスは忘却* スクリーニングが個性を作る* 継続の危険性* 解釈の味方* Ⅲ* よく遊びよく学べ* 一夜漬けの功罪* メモはしないほうが良い* 思い出はみな美しい* ひとつでは多すぎる* 〝絶対語感〞と三つ子の魂* 無敵は大敵* 頭の働きを良くする脳とコンピュータ全体を通して言いたいことはたった一つです。脳とコンピュータは違った器官/機械である。ただこれだけ。違った器官なのですから、比較しても仕方がないでしょう。ラグビーと日本舞踊のどちらが優れているかを比較しても意味がありません。にもかかわらず、あたかも脳とコンピュータが同じようなものであると捉えられ、その上コンピュータの能力を起点として、脳の性能が劣っているかのように語られるのは物事の価値基準が大きく歪んでいると言わざるを得ません(これは最近環読プロジェクトで読み進めている『人を賢くする道具』と問題意識が共通しています)。たしかに脳は、コンピュータに比べれば「忘れっぽい」と言えるでしょう。それは脳が無意識で情報処理を行ってくれているから起きることであり、そうした情報処理があるからこそ私たちは高次の処理に向かえるのです。知的生産においては「忘れるためにメモする」という観点があって、これも間違いなく重要なのですが、ここで考えているのはもっと積極的な忘却の肯定です。情報を事細かく正確に覚えることを是とするような価値観からの反転とも言えるかもしれません。たとえば正確な記憶が重要であれば、このブックカタリストは読み終えた直後の本を紹介するのがベストでしょう。しかし、私はそういうやり方にはなっていません(たぶんごりゅごさんも同じでしょう)。結構時間が経ってから、それこそ細かい部分を結構忘れてしまってから本を紹介する準備を始めるようなところがあります。その方がうまくいく感じがあるのです。このことが感覚的に肯定できるならば、それは「正確な記憶が一番重要なものである」という価値観ではないものを持っていると言えるでしょう。「正確な記憶が一番重要なものである」という価値観だと、ともかく情報を集めることに注力してしまうはずです。しかし、それは精神的な健康面でもよくないことでしょうし、その人なりの考えを持った表現(エクスプレッション)をする上でも弊害があると考えます。当たり前ですが、正確な記録が重要ではない、という話をしたいわけではありません。そういうものはすべてコンピュータに任せればいいのです。そうなったとき、じゃあこの私の脳はいったい何をするのか。それを考える上で、「忘却」というのは一つの鍵を握っているのだと思います。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC067『逆境に負けない 学校DX物語』

BC067『逆境に負けない 学校DX物語』

Jul 4, 2023 58:23 goryugo 倉下忠憲 魚住惇

今回はゲスト回です。『逆境に負けない 学校DX物語』の著者である魚住惇さんをお招きして、本に関するお話をお聞きしました。書誌情報* 著者* 魚住 惇(うおずみ・じゅん)* Twitter:@jun3010me* Blog:さおとめらいふ – 魚住惇のブログ* Substack:こだわりらいふ Newsletter* プロフィール:* 1986年愛知県春日井市生まれ。* 日本福祉大学を卒業後、期限付任用講師、非常勤講師、塾講師を経て2015年より愛知県立高等学校の情報科教諭となる。iPadとHHKBが大好き。iPadはProモデルを毎年買い替える。趣味は珈琲と読書とサーバーいじり。WordPressの勉強として大学時代から書き続けているブログ「さおとめらいふ」は15年目を迎え、2021年からは Newsletter「こだわりらいふ」を毎週水曜日に配信している。* 出版社* 学事出版 * 出版日* 2023/6/2* 目次* 序章-魚住はこうして嫌われた* 第1章 なぜ、学校DXが必要なのか* 第2章 できそうなところから導入を試みる* 第3章 まずはここからDX* 第4章 やっとここまでDX* 第5章 なぜDXが進まないのかGIGAスクール構想GIGAスクール構想については「名前だけ知っている」くらいの状態だったので、この機会にちょっと調べてみました。◇GIGAスクール構想の実現について:文部科学省文部科学大臣メッセージの「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育 ICT 環境の実現に向けて」というPDFが上のサイトからダウンロードできます。1人1台端末環境は、もはや令和の時代における学校の「スタンダード」であり、特別なことではありません。これまでの我が国の 150 年に及ぶ教育実践の蓄積の上に、最先端の ICT 教育を取り入れ、これまでの実践と ICT とのベストミックスを図っていくことにより、これからの学校教育は劇的に変わります。この新たな教育の技術革新は、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びや創造性を育む学びにも寄与するものであり、特別な支援が必要な子供たちの可能性も大きく広げるものです。また、1人1台端末の整備と併せて、統合型校務支援システムをはじめとした ICT の導入・運用を加速していくことで、授業準備や成績処理等の負担軽減にも資するものであり、学校における働き方改革にもつなげていきます。全体として素晴らしいメッセージが込められていると思います。まず教育においては、画一的な教育の提供ではなくそれぞれの子どもに合った方法を提供できるようになること。それこそ教室に行けない子どもであっても自宅で学習ができるようになる環境を提供できることは、デジタルツールを通して授業を行うからこそ実現できることでしょう。また社会に出れば、デジタル端末を使い、情報を操作する場面が避け難く出てきます。それは仕事の場面だけでなく生活の隅々にまで顔をのぞかせるはずです。デジタル端末を扱うことは特別なものではなく、日常的なものである。そうした視点で教育環境も再構築していくことには利点も多いでしょう。そして、「創造性を育む」学びです。デジタル端末を使うことでどうやってその学びが育まれるのかはこのメッセージからでは見えてきませんが、そうした素養が重要だと認識されていることは大切でしょう。さらに教育以外でも教員の負担軽減にも言及されています。忙しすぎる先生の問題はよく見聞きしますし、ICTの導入によってそれが解決するならば万万歳です。というわけで、基本的に前向きで評価できるメッセージなわけですが、一点だけ気にかかることがあります。「これまでの我が国の 150 年に及ぶ教育実践の蓄積の上に、最先端の ICT 教育を取り入れ、これまでの実践と ICT とのベストミックスを図っていくこと」もちろん、これまでの蓄積を無視するのはもったいないものです。またこの文言によってそれまでの教育方針に自負を持つ先生方を置き去りにしないよ、という心意気も添えられているのだとは思います。しかし、上記のような「ベストミックス」は、一歩間違えれば二階建ての建物に無理やり三階を増改築するみたいなことになりかねません。たいへんいびつで不安定な建物になってしまうのです。そうなると、だったらゼロから作ったほうが早いとなるわけですがそうなると疎外される人たちが出てきて侃々諤々の争いが勃発します。既存の知見をベースに新しい技術を導入するというのは、一つの創造的な営みです。それは間違いなくクリエイティブな仕事なのです。「ベストミックス」という表現では、ちょっと混ぜたらうまくいくんじゃないみたいな感覚が生まれてしまいますが、そんなに簡単なものではないでしょう。でもって、学校という現場においてそういうクリエイティブな営みがどれだけ可能なのか、というのが私が一番引っかかったところです。クリエイティブな営みはそれにてきした土壌が必要で、その土壌を育んでいなければなかなか花咲かせることは難しいでしょう。ファーストペンギンの悲劇 というわけで、著者の魚住先生は侃々諤々ストリームに巻き込まれてしまったわけですが、これはもう避け難いことだったのでしょう。ゆっくり進めば波風が立たなかった物事でも、その変化の角度が急激になれば、一気に慌ただしくなります。人間の心には慣れが必要で、慣れには時間が必要だからです。もちろん、その他もろもろの環境的な要因もあったと思います。管理する人がどういう人なのか、改革を担った人がどういう立ち回りをしたのかも影響を与えます。しかし、そうしたものもやっぱり時間というパラメータが強く影響しています。だからまあ──当人には申し訳ないのですが──これはもうしょーがないのだなと思いました。あるいは「しょーがないと思うしかない」くらいが正確なのかもしれません。なんであれ、魚住先生がファーストペンギンになったことで、たしかに変化が起きたことが重要です。一つの土壌が、あるいはそのための種が蒔かれたのだと言えます。あとはそこからどんな芽がはえてくるのか。それは時間をかけて見守るしかありません。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC066 『Remember 記憶の科学:しっかり覚えて上手に忘れるための18章』

BC066 『Remember 記憶の科学:しっかり覚えて上手に忘れるための18章』

Jun 20, 2023 1:08:13 goryugo 倉下忠憲

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『Remember 記憶の科学:しっかり覚えて上手に忘れるための18章』について語ります。今回の本は、いわゆる「記憶」系のことを学ぶ一冊目として非常に素晴らしい、と感じた本でした。そして、本編でも語っていることですが、記憶について考えるときに重要なのは「忘れる」ということ。それについてもきちんと忘れずにカバーされている、というのも本書の好印象の理由になっています。私たちがものごとを「理解」できるのは、見たこと聞いたことすべてを覚えておくことができないから。一部を「忘れる」から、それを自分の中で整理して、自分自身に取り込んでいける。結局のところ、人類の大半の脳が「忘れる仕様」になっている(本書では「なにもかも覚えている人」が登場します)ということは、結局そういう「忘れる脳」を持った生物の方が生き残りやすかった、ということでしょう。そのことをきちんと理解した上で、忘れる自分を受け入れて、覚えたいことを覚える工夫をする。なによりも大事なのは「注意を払う」ことです。結局そうなると、なにかを覚えようと思ったら「素早く」「効率的に」行うことは果たして正解なのか。そのあたりのことも、一度考えてみても良いのかもしれません。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC065「英語・数学・プログラミングを学ぶ」

BC065「英語・数学・プログラミングを学ぶ」

Jun 6, 2023 1:05:04 goryugo 倉下忠憲

今回は好例の三冊セットでお送りします。* 『英語は10000時間でモノになる ~ハードワークで挫折しない「日本語断ち」の実践法~』* 『こころを旅する数学: 直観と好奇心がひらく秘密の世界』* 『プログラマー脳 ~優れたプログラマーになるための認知科学に基づくアプローチ』書誌情報などは、以下のページ(のリンク)からどうぞ。ブックカタリストBC065用メモ - 倉下忠憲の発想工房『英語は10000時間でモノになる』ポイントは、知識英語ではなく感覚英語を身につけよう、という姿勢です。言い換えれば「英語を使おう」ということ。英語を「学んで」使えるようになるのではなく、使おうとすることを通して使えるようになる、という道筋はしごくまっとうなものと言えます。で、その「使おう」という姿勢を維持するならば、「日本語を極力使わないようにする」というアプローチもごく自然に思えます。日本語が使えるから日本語を使う→英語を使わない、が起こるのですからその日本語使用を抑制すれば英語を使うようになってきます(≒使わざるを得ないようになってくる)。ちょっとした背水の陣です。さらに「学ぶ」のではなく、「使う」ことを考えたら、なるべく楽しい対象を狙うことが必要でしょう。楽しいことでなければ「使おうとすること」は続かないからです。頭に「知識」をどんどんストックし続けたら、いつか「英語」がマスターできる、という感覚だとその道中は苦しいものになるでしょうし、試験以外の日常的な場面で英語を「使う」ことはそんなに簡単にはならないでしょう。不完全でもいいからともかく英語を「使ってみる」こと。それを続けていけば英語が「使える」ようになる、というのは私たちの母国語学習のやり方からみてもごく"当たり前"なやり方と言えるかもしれません。『こころを旅する数学』ポイントは、数学は身体活動である、という主張です。論理や公式を暗記すれば、いつか「数学」がマスターできるというのではなく、子どもがスプーンの使い方を学ぶように数学の「やり方」も後天的に学習できる、という主張は上記の英語学習と重なる部分が多いでしょう。著者は、とにかく直観が鍵なのだと何度も主張します。まずパッと閃く直観がどれだけ適切に機能するのか。それによって数学の世界における成果が変わってくる。しかし、直観というのは間違いやすい(バイアスを持つ)と散々言われていて、頼りにするにはあまりにも不安定な存在だと昨今では認識されています。そこで著者が提案するのが「システム3」です。システム1とシステム2を独立的で不干渉な存在だと捉えるのではなく、システム1の直観をシステム2のフィードバックによって鍛えていく、というやり方。でもってそれはあらゆる学習の基本的な在り方であり、数学的直観にも適用できる、というのが本書の面白い主張です。本書は数学を題材にしていますが、実際は「人の知性とはどのようなものか」を扱う非常に射程の広い話です。その分、少し分厚めになっていますが、通して読むだけの価値がある本です。『プログラマー脳』プログラミングの教材では、プログラミングの基礎知識を教えてもらえます。四則演算や変数の宣言、forやifといった構文の書き方。あらゆるプログラミングは、そうした基礎の組み合わせでできているのは間違いありません。では、そうした知識があればどんなプログラムでも書くことができ、どんなプログラムでも読めるようになるかというと、これが無理なのです。「ちょっとわからない」から「まったく意味不明」のレベルまで、読めない困難はさまざまに登場します。で、プログラム(≒コード)が読めないと、それを使うことも、一部分だけ拝借することも、多少カスタマイズすることもできません。「使え」ないのです。本書の著者はそうしたコードの読解における三つの困難を提示しました。長期記憶、短期記憶、ワーキングメモリ、の三つの記憶に関係する困難です。それぞれの困難を意識し、具体的な対策やトレーニングをすることで私たちのプログラミング読解力があがり、引いてはそれがコーディングの能力アップにもつながっていく。そんな期待感を持つことができます。現在は、ほとんどコピペだけでプログラムが書けてしまう時代ですが、だからこそ「コードを読めて、書ける」という基礎的な能力が存外に大切になってくるかもしれません。細かい部分ではなく、大きな部分で差を生むのがそうした能力だからです。というわけで、今回は三冊の本を紹介しました。どれもビビッドに「学び方」についての考えをゆさぶってくれる良書です。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC064 『体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』

BC064 『体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』

May 23, 2023 1:01:19 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』について語ります。前回の「運動することと食べること、痩せること」シリーズに続く「テクノロジー×身体」がテーマになった本です。今回の本は(今のところ)今年読み終えた中で一番面白かった本でした。内容は決して難しいというわけでなく、でも同時に読みながら関連した様々な考えを引き出させる。あらためて自分が好きな本のジャンルは「テクノロジー」を応用してなにか世の中をよくする話なんだな、ということがわかりました。そして最後の結論。これもまたごりゅごの好みというか、自分が伊藤亜紗さんを好きだなーと思うところは、この結論の落とし込み方。みんなについて優しく、もっとよい世の中になることが期待できるような話で締めてくれるところ。これもまたこの本が「(今のところ)今年一番よかった」と思った本である理由とも言えるのでしょう。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC063 『再読こそが創造的な読書術である』

BC063 『再読こそが創造的な読書術である』

May 9, 2023 58:19 goryugo

今回は、永田希さんの『再読こそが創造的な読書術である』を取り上げます。書誌情報* 著者* 永田希ながた・のぞみ* 著述家、書評家。1979年、アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。書評サイト「Book News」主宰。著書に『積読こそが完全な読書術である』(イースト・プレス)、『書物と貨幣の五千年史』(集英社新書)。* 出版社* 筑摩書房* 出版日* 2023/3/20* 目次* 第一章 再読で「自分の時間」を生きる* 第二章 本を読むことは困難である* 第三章 ネットワークとテラフォーミング* 第四章 再読だけが創造的な読書術である* 第五章 創造的になることは孤独になることである倉下のScrapboxメモネットワークとテラフォーミング本書で語られる内容をごく端的に、しかも自己啓発的に言えば「再読することで自分を作ろう」という話ですが、これではあまりにも乱暴すぎるでしょう。本書ではもっと繊細なメッセージが綴られています。まず、現代を生きる私たちは情報の濁流に飲み込まれやすい環境にあります。これは単に情報の量が多いだけではなく、人の注意を惹きつけ、ある行動へと動員させる力を持った情報に取り囲まれている、ということです。メディアはメッセージでもありマッサージでもあるので、一つの方向に過剰に力がかかっている状態だと言えるでしょう。すると自分がどんな方向に進みたいのか、といった認識がかき乱されます。にもかかわらず、どこかに向かって進んでしまうのですから非常に厄介な状態だと言えるでしょう。結果、「自分が求めているのはこういうことではなかった」という残念感が生じます。「自分の時間」を消失した状態です。そうなると、その「自分の時間」を回復させることが急務だと感じられるようになるわけですが、注意したいのは「さあ、自分の時間を回復しましょう」というメッセージもまたマッサージになり、人を誘因してしまうことです。妙なたとえになりますが、独裁をふるう王様を退場させて、別の独裁する王様を据えたのと同じなのです。「民主主義」のようなそれまでとはまったく違うプロセスが確立されたわけではありません。大雑把に言えば別に何も変わっていないのです。倉下の印象ですが、本書ではそうしたメッセージの取り扱いが非常に慎重に行われています。著者は大切なことを伝えようとしているが、しかしそれを「通りの良い形」ではなく、何か別種の変換を通さないと受容できないような形で伝えている。そんな印象です。で、本題に戻るとそうした「自分の時間」の回復のために再読という営みが一定の役割を果たすことが語られるわけですが、ポイントは本書において創造がゼロからのクリエーションではなく既存の要素の再配置として位置づけられている点です。再びよくある自己啓発的メッセージでは「明日から本当の自分の人生を生きる」的なことが語られていて、あたかもそこでは今までの自分とまったく自分がクリエーションされる雰囲気があるわけですが、もちろんそんな魔法のようなことが簡単に実現するわけではありません。できることは、今の自分を少しだけ変えていくことだけです。「今の自分」を捨てることなく、時間をかけて変化させていくこと。「自分の時間」を回復させるとは、そのようなプロセスを受容することでしょう。つまり、まったく新しい「自分」の創造に駆り立てられるのではなく、今そこにある「自分」について知り、新しいものを取り込んで、少しばかりの差異を生じさせること。その結果を吟味し気に入ったら採用し、そうでなければ抑制する。そうした行為全体に時間を使っていくこと。それこそが「自分の時間」の回復であり、情報の濁流に対して別の軸を立てるために必要なことだと感じます。■一冊の本は誰かが書いたものであり、その本を読む行為は──直接的ではないにせよ──その著者との対話を試みている営みだと言えます。しかし一方では、その本のどこにも「著者」なる存在はいません。書かれた文章を読み取り(≒読み解き)、メッセージをくみ出すのは読者その人です。よって、本を読むことは半分では著者との対話でありながら、もう半分では自分自身との対話でもあるのです。だからこそ、本を読むこと、読み込んでいくことは自分を知ることにつながり、自分を「創造」することにつながります。と、すでに倉下バイアスでかなり強めのメッセージに置き換えられていますが、きっと皆さんが本書を読んだ印象はまた違ったものになるでしょう。そう、その差異こそが「自分」の源泉なのです。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC062『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』

BC062『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』

Apr 25, 2023 1:01:01 goryugo

今回は『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』を取り上げました。本書は二人とも読んでいた本だったので、いつもとは違ったスタイルになっております。書誌情報* 著者* ラッセル・A・ポルドラック * スタンフォード大学心理学部教授。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にてPh.D.を取得。2014年より現職。人間の脳が、意思決定や実行機能調節、学習や記憶をどのように行っているのかを理解することを目標としている。計算神経科学に基づいたツールの開発や、よりよいデータの解釈に寄与するリソースの提供を通して、研究実践の改革に取り組んでいる。著書にThe New Mind Readers What Neuroimaging Can and Cannot Reveal about Our Thoughts(Princeton University Press, 2018)がある。* 翻訳・監訳* 児島修(訳)* 英日翻訳者。1970年生。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。主な訳書に『サイコロジー・オブ・マネー』(2021)『DIE WITH ZERO』(2020、以上ダイヤモンド社)、『ハーバードの心理学講義』(2016、大和書房)など。* 神谷之康 (監訳)* 京都大学 大学院情報学研究科・教授、ATR情報研究所・客員室長(ATRフェロー)。専門は脳情報学。奈良県生まれ。東京大学教養学部卒業。カリフォルニア工科大学でPh.D.取得。機械学習を用いて脳信号を解読する「ブレイン・デコーディング」法を開発し、ヒトの脳活動パターンから視覚イメージや夢を解読することに成功した。SCIENTIFIC AMERICAN誌「科学技術に貢献した50人」(2005)、塚原仲晃賞(2013)、日本学術振興会賞(2014)、大阪科学賞(2015)。サーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)でのピエール・ユイグの展示 「UUmwelt」(2018)への映像提供など、アーティストとのコラボレーションも行う。* 出版社* みすず書房* 出版日* 2023/2/14* 目次* 第I部 習慣の機械――なぜ人は習慣から抜け出せないのか* 第1章 習慣とは何か?* 第2章 脳が習慣を生み出すメカニズム* 第3章 一度習慣化すれば、いつまでも続く* 第4章 「私」を巡る闘い* 第5章 自制心――人間の最大の力?* 第6章 依存症――習慣が悪さするとき* 第II部 習慣を変えるには――行動変容の科学* 第7章 新しい行動変容の科学に向けて* 第8章 成功に向けた計画――行動変容がうまくいくための鍵* 第9章 習慣をハックする――行動変容のための新たなツール* 第10章 エピローグ* 簡単な概要* 「習慣」とは何であり、それはどのようなメカニズムによって形成されるのか。脳科学や認知心理学の知見をベースにしながら検討される。また、その知見を元にいかにして行動変容を起こすのか、という科学的な視点からの提案もなされる。* 随所に「科学的な知見とどのように付き合えばよいのか」という話題が差し込まれていて、ポピュラー・サイエンス的な読み物としても楽しめる。ポイント本書は「習慣」がいかにねばり強く私たちの行動に影響を与えるか、という話が主旨なのですが、それとは別に「二つの学習メカニズム」の話が出てきて、倉下の興味はそこに強く惹きつけられました。一つは、この世界が固定的なものだとしてその世界と効率的に付き合う方法で、習慣が相当します。もう一つは、この世界の変化に対応する方法で、宣言的な(言葉によって表現される)知識として扱うものです。記憶の領域で言えば、前者は手続き的記憶で後者が宣言的記憶に相当するでしょう。たしかにこの世界はほとんど変化しない部分があり、しかし変化する部分もあります。そして、人類が築き上げてきた文明は概ね変化する部分を増やしてきたと言えるでしょう。そうした状況は習慣的なものだけでは対応できないから、現代では「言葉」の扱いが重要になっている、とも言えます。この話からは他にもいろいろな教訓が引き出せると思いますが、やはり重要なのは「固定に対応するもの」と「変化に対応するもの」という二区分で、しかもそれらを一つのシステムの中で組み合わせて使う、という視点です。静的なものと動的なものの両方が必要で、しかもそれらを支えるメカニズムは違っている。そのように捉えると物事の構図はもっと立体的になっていくでしょう。私たちはついつい単一の原理性で物事を片付けたくなりますが、解像度を上げればそこにはさまざまなベクトルが働いています。その観点は忘れないようにしたいものです。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC061『+iPad ちょっとした場面で使えるかんたん活用アイデアノート』

BC061『+iPad ちょっとした場面で使えるかんたん活用アイデアノート』

Apr 11, 2023 58:29 goryugo

今回は、五藤晴菜さんをゲストにお迎えして5月30日発売予定の『+iPad ちょっとした場面で使えるかんたん活用アイデアノート』をご紹介頂きました。◇+iPad ちょっとした場面で使えるかんたん活用アイデアノート | SBクリエイティブ書誌情報* 著者* 五藤晴菜* 出版社* SBクリエイティブ* 発売日* 2023年5月30日(火)* ISBN* 978-4-8156-1793-6* サイズ* A5判* ページ数* 192* 目次* Chapter0 iPadの魅力を最大限に生かすためには* Chapter1 使いこなすために必ず覚えておきたい基本操作と設定* Chapter2 メモならiPadにお任せ!誰もが使えるiPadのメモ術* Chapter3 効率を格段にアップさせるちょっとしたテクニック* Chapter4 ちょっとした業務がはかどるiPad 活用術!* Chapter5 作業がさらにはかどる周辺機器の活用* Chapter6 おすすめアプリ目次や紹介ページを拝見した感じだと、標準アプリや無料アプリをベースにiPadの「使い方」が紹介されている本のようで、いわゆる「ライフハック」的な話題が好きな人なら本書はマッチしそうという印象です。本編でも述べていますが、標準アプリのメモ・カレンダー・リマインダー(地図や連絡帳を加えてもいいでしょう)はいわゆる"手帳"を構成する要素であり、その探求は仕事術・ライフハックの系譜でもあります。その意味でおそらく「デジタル仕事術」の一冊に位置づけることもできるのではないかと現時点では予想しています。生産性の高さもう一つ興味深いのは、五藤晴菜さんは2022年の9月に『はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で』を出版されており、単純な期間で言えば半年くらいで二冊目の本を書かれています。そういうスピード感もまた、仕事術・ライフハックが求める生産性と重なる部分ではあるでしょう。◇はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で | 五藤 晴菜 |本 | 通販 | Amazonそういう仕事のやり方や考え方そのものも、一つの学びの対象になるかもしれません。メタな学びというやつです。ともあれ、まだ本自体が出版されていないので、今からを読むのが楽しみです。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC060『運動しても痩せないのはなぜか』『科学者たちが語る食欲』

BC060『運動しても痩せないのはなぜか』『科学者たちが語る食欲』

Mar 29, 2023 58:10 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『運動しても痩せないのはなぜか: 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」』と、『科学者たちが語る食欲』の2冊を語ります。2023年が始まってからごりゅごがずっと続けてきた「運動することと食べること、痩せること」シリーズの最後の回です。今回はちょうどごりゅごが花粉症の症状が最悪レベルのときと重なって、自分で聞いててかわいそうな声になっておりました。このシリーズの目論見というか、これらの本を読みながら考えていたことの一つとして、運動すれば無駄な炎症反応が減るので、花粉症の症状も出にくくなすはず、という考えなんかもあったりします。今年は、Podcast収録ちょっと前まで花粉症の症状はほとんど現れず、去年に比べて運動してるからなー、バランスボール椅子も使ってるからなー、なんて考えてたんですが、そう簡単に思った通りの結果は出せませんでした。なかなかに今年も花粉症がつらいです……とは言え、これはアフタートークで話したことなんですが、調子が悪いからって動かずに何もしないとどんどん調子が悪くなるのに対して、多少調子が悪くなっても体を動かすことで症状が改善しているように感じられる、ということも実感としては存在しています。運動によって、花粉症に対する効果は「あると思う」けど、やっぱり難しい……それだけでは説明しきれないのかもしれません(今はほとんど症状なし)📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC059『Chatter(チャッター): 「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』

BC059『Chatter(チャッター): 「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』

Mar 14, 2023 57:48 goryugo

今回取り上げるのは、『Chatter(チャッター): 「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』。やっかいな「頭の中の声」と付きあうための方法が提示される一冊です。書誌情報以下のページにまとめました。ブックカタリストBC059用のメモ - 倉下忠憲の発想工房チャッターとは人間には特殊な能力がある。目の前の現実から離れて、別の対象について思いを巡らせる能力だ。過去の出来事を思い出し、あのときはこうしておけばもっとよい結果が得られだろう、などと考えたり、未来の目標を設定し、今はこれに取り組むべきだ、などと考えたりできる。そのような思考は言語というフォーマットを用いて行われるが、たいてい口に発することなく内面の声を通すことになる。つまり、内面の声とは、セルフコミュニケーションのツールなわけだ。さて、他の人とのコミュニケーションでも良き関係とそうでない関係がある。他者が適切なメンターになったり、厳しい批判者になったりする。厳しい批判者は、人を萎縮させ、過剰なストレスを与え、ときに過剰な防衛反応を呼んだりもする。同じことがセルフコミュニケーションでも起きる。それが本書がいうChatter(チャッター)である。本来は、"自分"(行為主体者)を適切に導くためのセルフコミュニケーション=内面の声なわけだが、環境や状況が悪ければその役割は一変してしまう。あたかもタロットカードの向きが逆になるかのように。内面の声は、自発的な注意の対象の変更をもたらすが、それが無意識的な体の動きを阻害したり、行為主体者にネガティブな対象にだけ注意を向けるように促してしまう。そのようなネガティブな結果が訪れると、さらにChatterは声を大きくし、「ほら、やっぱりダメじゃん。ここがダメなんだよ」とさらにネガティブな要素に注意を向けさせる。循環構造の中にはまりこんでしまうわけだ。内面の声そのものは、有益な働きを持つが、かといって完璧なものではない。馬の近くで大きな音を立てると制御不能になるという話を聞くがそれに似ているだろう。音を立てる→馬が暴れる→周りが慌てる→さらに馬が驚いて暴れる→……。そうしたときは、むしろすごく落ち着いて対処する厩務員が必要だろう。内面の声でも同じなのだ。本書ではさまざまなテクニックが紹介されているが基本的には「距離を置くこと」がコンセプトになっている。心理的な距離、時間的な距離。形は多様だが、どれも引きつけられた注意をズームアウトすることによって、チャッターの声を静めることを目指す。そう。人間は、たしかに考える能力を持つ。システム2は(特殊な状況を除けば)誰しもが持っている。あとはそれが発揮させやすい環境にあるかどうかだ。あるいは、そういうものがあり、環境によって発揮されたりされにくかったりするのだ、という知識(というよりも知恵)を有しているかだ。よって本書は「内面の声」とのつき合い方を提示する本でもあるが、さらにいえば「アテンション・マネジメント」に関する本でもある。注意をどのように制動するのか。そこで重要な鍵を握るのが「ズームインとズームアウト」だ。これは、倉下が最近考えている「思考のための道具」の重要なツールセットになるだろう。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC058 『運動の神話 下』

BC058 『運動の神話 下』

Feb 28, 2023 1:05:26 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『運動の神話』の「下巻」について語ります。今回は、はじめての「前後編に分かれたシリーズ」の後編であり、全3回を予定している「運動と食事を改めて考える」シリーズの中編でもあります。こうやって連続ものにしてみたら「次の本はなにを紹介しよう」と考えることに使うエネルギー全部を内容のブラッシュアップに使える、ということに気がつきました。また、ある程度の長期にわたる(3ヶ月の見込み)シリーズなので、その期間ずっと「1つのテーマについて考え続けることが出来た」というのもよかったところの1つかもしれません。なお、運動に関する内容についていうと、本書の結論はきわめて「普通」です。もちろんその結論にたどり着くまでのいろいろな話が面白いのは間違いないんですが「効率」を求めるのであれば特に読む必要はない、という言い方も出来てしまう本です。ただ、人の心を変えるのは「効率」ではないんですよね。少なくともごりゅごはこの本から得られた科学的知見という物語から「運動の意義」は理解、納得ができました。「何で運動しないといけないんだろう」「運動するとどういういいことがあるんだろう」という理由は、どんなダイエット本よりも参考になりました。おそらくブックカタリストを聞いてくれている方はごりゅごと同じように感じるタイプの人も多いはずで、そういう点では「非常に素晴らしいダイエット本」だとも言える本でした。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC057『人を賢くする道具』とセカンドブレイン

BC057『人を賢くする道具』とセカンドブレイン

Feb 14, 2023 1:23:26 goryugo

収録前の準備として読書メモを作るのが常なのですが、それをやるまではちょっと気楽に構えていました。面白いことはいっぱいあるし、いくつか拾えばOKだろう、くらいに。しかしいざ実際に作りはじめてみると「とても一時間の収録で手に負える本ではないし、二週間やそこらの準備で太刀打ちできる本でもない」と思い知りました。よって大きくかじ取りを変更します。本編でもお話していますが「一冊の本を、一年かけてゆっくり読んで行く」というアプローチです。具体的にそれをどう進めて行くのかは、サポーター向け記事として別途を投稿しますので、ご興味あればサポーター・プランの検討もお願いします(宣伝終わり)。本書の概要今回のメモは以下です。◇ブックカタリストBC057用のメモ - 倉下忠憲の発想工房本の概要だけなら、比較的簡単にまとめられます。『人を賢くする道具』の原題は、『Things That Make Us SMART』で、「人を賢くするThings」です。で本文にもありますが、Thingsは人を賢くするだけでなく愚かにもします。人が make した thingsによって 人がある性質に makeされるという循環的な構造がある、と著者は指摘します。人類の歴史(あるいは文化の発展)は「私たち自身を make する things を makeすること」の繰り返しによって生まれてきている、というのが基盤となる視点で、つまり「小さなクレーンが作れれば、それよりも大きいクレーンを作ることができ、その大きなクレーンが作れれば、さらにそれよりも大きなクレーンが作れる」的に、道具作りが別の道具作りへと接続していく(しかもメタ的に上に登っていける)というのがこうしたthingsの面白いところです。その上で、著者は人の知的作業を体験型と内省型に分類し、現代の(1993年当時の)テクノロジーは体験型に偏りすぎているのではないか、と指摘します。すると、二つの知的作業のバランスが崩れて、人は「愚かに」なってしまう。でも、それは人間の性質が「愚か」なわけではなく、人の性質をうまくいかせていないテクノロジーやその運用に問題があるのではないか、というのが著者の問題意識です。つまり、「Things That Make Us 体験的」なものが強まっている、ということです。ここでの「体験的」とは「受動的」「反応的」であり、自分の心の声(これが内省です)が力を持たず、ただ周りの状態(環境)によって自分の行動が決まってしまう状態が含意されています。著者は書いていませんが、そうした状態は資本主義=消費主義社会に利することは間違いないでしょうし、政治がポピュリズムに傾いてしまう契機にもなります。まさにオルテガが言う「大衆」が生まれるわけです。だからテクノロジーそのものやそれを使うための道具のデザインをしっかり考えようよ、人間の二つの認知をうまく働かせるようにしようと、と主張しているのが本書と言ってよいでしょう。以上のようにざっとまとめることはできるのですが、各論についてはさらに他の分野と接続できる話が多い点と、ひとつのチャプタに話題が盛りだくさんなことが本書の「読解」を難しくしています。難易度が高いというのではなく、新設のテーマパークに入ったら遊びたいアトラクションがあってどこから行こうか迷ってしまう、的な難しさです。なので「一年書けてゆっくり本を読んでいこう」プロジェクトが発足した次第です。話の後半では「最近のノートツール」についても言及していますが、たぶん本書を読めばノートツールや情報整理ツールをどう自分で運用したらいいのかをかなりそもそも論から考え直すことができるかと思います。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC056 『運動の神話(上)』

BC056 『運動の神話(上)』

Jan 31, 2023 1:15:53 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『運動の神話』の「上巻」について語ります。今回は、はじめての「前後編に分かれたシリーズ」です。というか、最初は「複数回を使って複数の本を紹介しつつ、全体で大きなテーマを含んだもの」にする予定だったんですが、最初に紹介しようとする『運動の神話』がものすごく面白く、しかもこの本は「上下2冊構成の本」それなら「1エピソードで1冊紹介」という切り口でも面白いかな、と2回に分けて1冊を語ることにしました。また、今回からブックカタリストサポーターの方向けには、アーリーアクセス的なサービスとして、最速で無編集バージョンの動画を公開していきます。BC056 アーリーアクセス - by goryugo - ブックカタリストブックカタリストの収録は(ほとんどの場合)隔週火曜日の午後。ここから動画を書き出して、さらにSubstack側での動画処理などなんやかんや時間がかかることを済ませて、公開できるのはだいたい20時だとか21時だとかになるんですが、おそらくこれからは毎回アーリーアクセスコンテンツをお届けできるようになるかと思います。(ごりゅごのターンでは同時に台本もここに加えています)それと同時に、各配信の文字起こしPDFも配信に添付していく予定です。このあたりのプロジェクトについては冒頭でも軽く話しているので、そちらもご視聴いただけたら幸いです。今回の文字起こしバージョンはこちらです。プロジェクトの一環として、githubでも文字起こしデータの公開をしていますので、過去分などはこちらをご覧ください。goryugocast/bookcatalyst_transcription: ブックカタリストの文字起こしデータを共有し、それを使って様々な場面で活用できるようにするという感じでブックカタリストシーズン3となる2023年は、こんな感じでいろいろと新しいことにも調整しています。これらのプロジェクトを応援いただける方は、サポーターの加入もご検討いただけると嬉しいです。ということで本編。今回のテーマは「運動すること」「食べること」「ダイエット」というものについて複数の本から学んだことをじっくりまとめて考えてみよう、というものです。そして、運動の神話というタイトルでありながら今回はその「神話的要素」について触れただけで、あとは運動の前段階「座る」「睡眠」についての話だけで終わってしまいました。ただ、今回話した「座る」についてはいきなり今回のシリーズで「一番面白いと思った部分」であり、一番影響を受けて行動を変えた部分でもあります。影響を受けてこんな感じのバランスボールを使い始めたり、新しくバランスボールクッションなんかも購入して、これを使いながらアメフトを観る、なんてことをするようになりました。(片足立ちでバランスとりながらテレビを観る。さらにこれを使うことで集中して1試合を観戦できるようになった)また、今回は時間的な理由や難易度的な理由で省略しましたが、上巻の後半にかかれている「ATPを使ったエネルギー発生の仕組み」というのも非常に興味深いものでした。現代科学の目線で見ると、人間が体を動かすには「エネルギー」が必要です。そこまでは直感的にもよくわかるんですが、そのエネルギーを発生させているのは「化学反応」です。このあたりの仕組みについての解像度も、本書を読んで一段階理解が深まったような感じがします。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish(改めて紹介した本を順番にまとめる予定) This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC055『限りある時間の使い方』から考える「時間の使い方」

BC055『限りある時間の使い方』から考える「時間の使い方」

Jan 17, 2023 1:09:46 goryugo

今回は『限りある時間の使い方』を起点にして、「時間の使い方」について考えてみました。以下が倉下が作ったメモのScrapboxページです。◇ブックカタリストBC055用のメモ - 倉下忠憲の発想工房書誌情報* 著者:オリバー・バークマン* Oliver Burkeman - Wikipedia* オリバー・バークマン は英国の作家兼ジャーナリストであり、以前はガーディアン紙の週刊コラム This Column Will Change Your Life を執筆していました。* 翻訳:高橋璃子* 『エッセンシャル思考』『エフォートレス思考』『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門』(小社刊)、『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(河出書房新社)など* 出版社:かんき出版* 発売日:2022年6月22日目次は、上記のScrapboxページに記載してあります。限られた時間をどう「使う」のか、という問い「ファスト映画」や「ファスト教養」など、時間効率を求める姿勢(タイパと言うらしいです)は現代特有の傾向でしょうが、しかし人の人生が限られているという点においては、人類が生まれてからずっと続いている「性質」ではあります。人生の時間が限られており、しかし達成したいことがたくさんあるならば、「もっとはやく」「もっと多く」となってしまうのは仕方がないのかもしれません。そうしたとき活躍するのが「タイムマネジメント」です。アメリカでもたくさんの著作が刊行されているでしょうが日本も負けていません。何かしらの時間管理手法を使えば──つまり時間の「使い方」がうまくなれば──、「もっとはやく」「もっとたくさん」を叶えることができる。そんなことを謳う本は枚挙にいとまがありません。しかし、それは困難な問いから目を背けているだけだと著者であるオリバー・バークマンは述べます。私たちは限られた存在であり、何かを手にすれば別の何かを捨てなければなりません。言い換えれば、そこで私たちは「何を選ぶのか」を問われることになります。そんな問いに答えるのは簡単ではありませんし、自分で決めてしまえばそこに「責任」のようなものが発生してしまいます(他人のせいにできない、ということです)。だから私たちは、そうした問いと取り組む代わりに、「なんでもできる」という幻想を貸与してくれるノウハウに惹かれてしまうというわけです。著者はハイデガーを引きながら、そもそもそうした「時間をうまく使う」という考えから脱却することが大事なのではないかと説き、そのためのアプローチを提示してくれます。その考えを端的にまとめるとすれば、人生に何かを求めるのではなく、人生に何を与えるのかを考えよ、となるでしょう。私たちは(だいたい)4000週間という人生の時間を「与え」られます。望んだものであるかどうかは別にして私たちの生はそのようにして貸与されたものなのです。これは時間は「自分のもの」ではなく神のものであるといった話ではありません。私という存在そのものが、その時間によって成り立っている、という話です。私=時間。ハイデガー風に言えば現存在となるでしょうか。私は時間としてただそこに在るのです。そうした込み入った議論はさておくにしても、「人生に何かを求めるのではなく、人生に何を与えるのかを考える」というある種のコペルニクス的転回は、現代においてせわしなく追い立てられ、結果的に孤独になりがちな私たちにおいて有用なものでしょう。別にたいそうなことをせよ、という話ではありません。貪欲に求めるよりも、自分が為せることを為す方が、きっと気分良く生きていける。それだけの話です。ちなみに、つい最近書店にいったら『限られた時間を超える方法』(リサ・ブローデリック)という本を見かけました。思わず「そういうとこだぞ」とツッコミを入れてしまいました。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC054 『語学の天才まで1億光年』

BC054 『語学の天才まで1億光年』

Jan 3, 2023 1:20:17 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。2023年最初の更新は、『語学の天才まで1億光年』をメインの題材に「外国語を学ぶこと」について語ります。今年は「ブックカタリストシーズン3」として、これまでと同じようなことを続けながら、同時にちょっとだけ新しいことを試し続けていく、ということをテーマに、毎度隔週火曜日の更新を続けていく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。ごりゅご個人のテーマとしては、メインで取り上げる本は1冊なんだけど、その本に書いてあることだけでなく、できるだけ「他の本とつなげて話す」ということを主眼にして、いい意味で「1冊の本を紹介するだけではない」というスタイルを目指していこうと思っています。で、今回取り上げた『語学の天才まで1億光年』について。ごりゅごは、著者高野秀行氏のファンであり、この本に出てくるさまざまな地域を舞台にした著作をほとんど読んでいます。そういう観点で読むと、まずこの本は「舞台裏を垣間見る」という楽しみ方があります。そして、高野さんが訪れている地域は多くが「日本人にとって一般的ではない場所(アフリカのコンゴだとか、ミャンマーのカチン州だとか)」であるために、単純に旅行記として読んでも非常に物珍しくて面白い。最後に、高野さんは大抵それらの地域を訪れる際には「その地域の言語を勉強してから」訪れており、そうやって大量の言語を学んだ経験を元にした「語学の学び方を学ぶ本」としての楽しみ方。ブックカタリスト本編では全般的に「語学の学び方を学ぶ本」という観点で紹介しましたが、この本は「そういう難しいこと抜きにして単純にエンターテイメントとして非常に楽しい」本です。こういうちょっとまじめな切り口で紹介して、同じような「高野秀行ファン」が増えることを目指した更新でもあるのです。みんなして"人の行かないところへ行き、人のやらないことをやり、それを面白おかしく書く辺境作家"を応援しましょう。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC053 2022年の振り返り

BC053 2022年の振り返り

Dec 20, 2022 1:14:22 goryugo

今年最後の回となります(アフタートークの配信は残っております)。一年間の配信リストは以下のScrapboxページにまとめてみました。◇2022年ブックカタリスト配信リスト - BCBookReadingCircleまず、全体を通して言えるのが「とにかく続けることができた」という点です。物事において一番難しいといっても過言ではないのが「継続」なので、それが為せたことは(手前みそですが)功績と言えます。こういう活動は、一人でも続けるのが難しいのですが、二人以上となるとさまざまな問題が発生して余計に続けにくくなるかのように思えますが、案外「自分ではない相手」がいることで続けられる効果があるような気もします。自分ひとりでやるのは自由なのですが、その「自由」はきっと限定的な力しか持たないのでしょう。この辺の話は、私の昨今のテーマとも重なります。で、そのテーマですが、私(倉下)は「個人・教養・自己啓発のこれから」が大きな括りになるでしょう。そこには、知的生産/知的生活、啓蒙主義、私たちの社会における知性(あるいは理性)の役割、といくつものサブテーマが重なり合っています。『啓蒙思想2.0』で論じられているように、私たちの理性はそこまで強大な存在でも完璧な存在でもありません。一方で、それ抜きにしては現代の文明社会はほとんど成立しないことも確かです。であれば、いかにその「理性」なるものを発揮させられるようにするのか。それを個人や環境の側面から考えていくことが、私の大きな関心事になりそうです。一方でごりゅごさんは、哲学から広がって社会の有り様に目を向けつつ、私たち生物やもっと大きく地球の歴史にも関心を広げておられました。哲学というものが、目の前の「生」から視点を動かし、より広い視野・深い視座で物事を考える知的営為だとするならば、遺伝子や生物史に目を向けるのは同じような視点の動きだと言えるかもしれません。あと、ここでも「歴史」に関心を持たれているのが印象的です。なにかしらの歴史・ログ・足跡といったものに惹かれる傾向をお持ちなのかもしれません。大きな議題さて、一年の配信を振り返って考えたいのが、「一体この番組は何なのか」という話です。「面白い本を紹介する」という漠然としたテーマでスタートした当番組ですが、今のブックカタリストの有り様は単純にそれだけでは無いような気がしています。「面白い本を読んで、紹介する」は依然としてあるものの、「本を面白く読む姿勢」も関係していますし、それ以上に「本を読んでどうするのか」という部分も関わっている気がします。不思議な話で、主催者である私たちもこの番組が一体何なのがわかっていません。むしろ試行錯誤しながら何か新しいものを作ろうとしている、というのが正確なところでしょう。先駆的に答えがないものに取り組んでいるわけです。というわけで、今後も少しずつ何かを変えながら、「一体この番組は何なのか」という答えを模索していこう思います。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

ゲスト回BC052『私たちはどう学んでいるのか』

ゲスト回BC052『私たちはどう学んでいるのか』

Dec 6, 2022 1:17:26 goryugo

ゲストにtksさんをお迎えして、『私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)』をご紹介頂きました。tksさんのプロフィール* Twitter:@tks_1988b* Scrapbox:公開練習場* 『私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)』 - 公開練習場*  tks - BCBookReadingCircle書誌情報私たちはどう学んでいるのか: 創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書 403)* 著者:鈴木宏昭* 1958年生まれ。東京大学大学院単位取得退学。博士(教育学)。東京工業大学助手、エジンバラ大学客員研究員を経て、現在青山学院大学教授。認知科学が研究領域であり、特に思考、学習における創発過程の研究を行っている。日本認知科学会(元会長等)、人工知能学会、日本心理学会、Cognitive Science Society各会員.* 他の著作* 『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス) 』* 『類似と思考 改訂版 (ちくま学芸文庫) 』* 出版社:筑摩書房* レーベル:ちくまプリマー新書* 出版日:2022/6/9* 目次:* はじめに* 第1章 能力という虚構* 第2章 知識は構築される* 第3章 上達する* 第4章 育つ * 第5章 ひらめく* 第6章 教育をどう考えるか概要本書は私たちがどのように学んでいるのかを認知科学の視点から検討する。キーワードとして挙げられるのは以下の三点。* 認知的変化* 無意識的なメカニズム* 創発ここでの"認知的変化"はいわゆる「学習」なのだが、本書ではあえてその言葉が使われていない。それは私たちが「学習」と聞いて思い浮かべるイメージが日本の学校教育のイメージと強く重なっているからである。誰かから正解を教えられ、それを覚え、筆記試験でテストされる、といったタイプの学習だけが人間の学びではない。その点に注意を促す意味で本書では認知的変化と呼ばれている。残り二つの要素は本編でも詳しく紹介されているのでそちらを参照されたい。ともあれ本書では「認知的変化に働く無意識的なメカニズムを創発という観点」から検討しているのが特徴と言える。いわゆる「勉強法」などよりは抽象度の高い話が展開される。その意味で、少し取っつきにくい側面はあるかもしれない。その分、そのメカニズムや性質に理解すれば、特定の科目や分野に限定されない「学び方」へと目が開かれる。何かを学ぶ前に、まず「学ぶとはどういうことか」を学ぶことは非常に有用だろう。もちろん、本書が適切に述べるように「知識は伝わらない」。本書の内容が理解できたとしても、その知識が使えるようになったわけではない。それでも「どう考えたらいいのか」という知見は、すぐれて実用的である。言い換えれば、自身の勉強観・学習観を変えることは、具体的に取り組む勉強やその結果についての理解(≒物語・意味づけ)を変えることにつながる。学習というものを、直線的・固定的・還元的に捉えるのではなく、流動的かつ創発的な視点で捉えることで、日々の学びはよりしなやかになっていくだろう。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC051『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』

BC051『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』

Nov 22, 2022 1:04:21 goryugo

今回は、マーク・クーケルバーク の『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』を取り上げました。日本の危ない「自己啓発セミナー」についてではなく、もっと"健全"な自己発展が持つ危険性について論じた一冊です。書誌情報* 著者:マーク・クーケルバーク* ウィーン大学哲学部メディア・技術哲学分野教授。バーミンガム大学博士。イギリス・デモンフォート大学コンピューターと社会的責任研究センター非常勤教授も兼務。1975年ベルギー生れ。国際技術哲学会会長、ヨーロッパ委員会の人工知能に関する高度専門家会議委員なども歴任。AIやロボットに関する倫理学、哲学の第一人者* 邦訳されている他の著作* 『AIの倫理学』* 翻訳者:田畑暁生* 『ブラックボックス化する社会──金融と情報を支配する隠されたアルゴリズム』* 『監視文化の誕生 社会に監視される時代から、ひとびとが進んで監視する時代へ』* 出版社:青土社* 出版日:2022/10/26* 目次:* 1. 現象* 自己啓発の強制* 2. 歴史* 自己知や完全性を求めた古代の哲学者、聖職者、人文主義者* 3. 社会* 近代の自己執着 ルソーからヒップスター実存主義まで* 4. 政治経済* ウィルネス資本主義の下での自己馴致と搾取* 5. テクノロジー* カテゴリー化、測定、数値化、強化、もしくは、なぜAIは私たちについて私たち自身より知っているのか* 6. 解決策(第一部)* 関係性自己と社会変化* 7. 解決策(第二部) * 私たちについて異なった物語を語るテクノロジー倉下のScrapboxページ◇ブックカタリストBC051用のメモ - 倉下忠憲の発想工房概要原題は『Self-Improvement: Technologies of the Soul in the Age of Artificial Intelligence』。直訳すれば「自己改善:人工知能時代における魂のテクノロジー」。著者の専門を考えると、AIと私たちの関係が論じられるのだろうと予想されるが、実際は西洋思想をさかのぼり、そこにある「自己啓発」的な要素を現代までの射程で捉え、しかしそこにある差異を取り出そうとする試みが展開されていく。まずタイトルから。「Self-Improvement」は、「自己改善」が日本語としてはふさわしいだろう。邦訳の「自己啓発」とは少しニュアンスが違う。自己啓発は、「人間として高い段階に至ろうとする試み」であり、そこには明白に「何が高い段階であるか」という審級が内在化されている。自己啓発は、英語では「Self-Enlightenment」であり、enlightは啓発を意味しつつ、それはlightの語感の通りに「照らす」という含意がある。無知蒙昧な闇に置かれた状態(プラトンの洞窟のメタファー)に、光を照らして真理へと至る。そういったニュアンスにおいては、真理=何が正しいのか、という絶対的な基準が先駆的に存在している。それに対して、「Self-Improvement」≒自己改善には、そのような絶対的な規範はない。改善は、今ある悪いところを少し直す、くらいのニュアンスである。何か絶対的に正しいものに向かっていく行為ではないわけだ。しかしながら、それが「(今の状態よりも)より良くする」というスタンスで行われる限り、自己啓発が持つ問題と同じ構造が立ち現れる。その意味で、本書において「自己啓発」と呼ばれているものは、感覚的に「自己改善」と呼びうるようなごく些細なものも含まれていると考えてよい。アプリを使って精神を整え、ストレスの多い職場に立ち向かうといった行為ですらも本書がまなざしを注ぐ「自己啓発」であるわけだ。もう一点タイトルに関して、原題は「罠」に相当する言葉はない。一方で内容を読めば、本書に"自己啓発"への批判が込められていることは間違いない。ここは難しいところだ。本書は全体的に「自己啓発」という営みそのものを断絶させようとはしていない。新しい形の「自己啓発」のスタイルを模索し、そこにこれまでとは別の仕方でAI≒テクノロジーとの関係性を紡いでいけないかと検討している。そのような大局的な視点だからこそ、著者は「Self-Improvement」とつけたのだろう。一方で、仮に日本語のタイトルで「自己啓発」という本が出たら、上記のような内容だとはとても思われないだろう。よって、フックとして「自己啓発の罠」という邦訳の選択は絶妙だと言える。ただし著者の主張を汲まずにタイトルだけからこの本が自己啓発を抹消しようとしている本だと理解しない方がよい。その点は注意が必要だろう。さて、長くなってしまったが、本書そのものはあまり長くない。この手の本にしては珍しくソフトカバーだし、150ページ前後の内容である。思想や哲学を扱っているが晦渋な文章は出てこない。いくつかの予備知識がないとわかりにくい箇所はあるだろうが、それでも著者の主張ははっきり汲み取れる。簡単にそれをまとめれば以下のようになる。古代ギリシャの時代からヘレニズム思想的なものには全般的に「個人とその内面」に注力する傾向があった。その傾向は近代化と共に強まり、個人主義の跋扈とテクノロジーの強力化と共に「自己啓発ビジネス」へと発展した。かつては人文主義者は「印刷された本」というテクノロジーを使い、人々を啓蒙しようと(あるいは、啓蒙を目指す人々の数を増やそうと)してきたが、現代のインターネットテクノロジーはそうした人文主義的なものと基本的なマインドセットの点で違っている。それは自己を知り、自己を愛するというあり方ではなく、「他人にとっての自分や、他人からどう見られるか」に強い関心が注がれている。それはますます利己的な自己を強めるばかりである。そのような"自己啓発"は現代のテクノロジーの力を借り、さらに強まっている。そこでは、私たち以上に私たちのことを知るAIが登場する。言い換えれば、私たちはもうそれ以上自分について知る必要がない。すべてAIが設定し、なすべきことと決めたアプローチに沿って"改善"を進めていけばいい。これは古代ギリシャ時代に掲げられた「汝自身を知れ」とはまったく異なる(むしろ逆の)アプローチである。私たちは、AIの檻に入りながら、自分のことを何も知らないままに万能感と物足りなさという両極する要素を抱えたまま生きていくことになる。はたしてその未来は、私たちが望む未来なのであろうか。上記のような視点において、著者は問題提起している。自己を扱う「テクノロジー」についてはフーコーが、対抗文化が文化に飲み込まれていくのは『反逆の神話』が、AIに完全に依託した人間がどうなるのかは『PSYCHO-PASS』シリーズが、自分が扱う自分の記録については拙著『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』がそれぞれ参考になるだろう。日本における自己啓発受容については、牧野智和の『日常に侵入する自己啓発』や大澤絢子の『「修養」の日本近代』が面白い。というように、短い本でありながらも、さまざまな事柄に枝葉が伸びる内容になっている。「自分を高めていくこと」を正しいこと、まっとうなことだと信じて疑わない人ほど、本書はささるのではないだろうか。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC050 1年で表現する『超圧縮 地球生物全史』

BC050 1年で表現する『超圧縮 地球生物全史』

Nov 8, 2022 1:07:19 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『超圧縮 地球生物全史』をメインの題材にしつつ「46億年の地球を1年にたとえて俯瞰する地球史」について語ります。本編でも冒頭に話していますが、人間の直感では「1万年前」のことも「1億年前」のこともどっちも「すごい昔」以上の区別ができません。それを相対的に俯瞰する方法として素晴らしいな、と思うのが地球の46億年を「1年」という期間に変換して考えてみること。この変換をしてざっと計算をすると、1万年前は12月31日の23時59分ごろの出来事で、1億年前は12月23日ごろになります。地球の年齢を元に大ざっぱに計算するとだいたい以下のような計算結果が出てきます。6月まではほとんどなにもない時代上記表を元にして地球全史を振り返ると、まずわかるのが地球が存在していた期間の半分くらいはいわゆる「生き物」は存在していませんでした。6月になってミトコンドリアを含んだ真核生物が誕生して、そこからさらに月日は流れ、動き回れる動物が生まれたのが11月半ば。4本足の生き物が誕生したのは12月に入ってからのこと。恐竜がだいたい12月15日から26日くらいまで存在していて、2足歩行の人類が登場するのは12月31日の午前6時。火を使い始めたのが午後9時で、農業を始めたのは23時59分の出来事。23時59分50秒くらいに聖徳太子が生まれて、23時59分59秒にようやく明治時代が始まった、というくらいの計算です。こういうふうに地球の歴史を振り返ってみると、生物の「進化」という言葉一つ取っても見えてくるものの距離感が変わってくるように感じます。「歴史」は複数の本をつなげるのが簡単年に1回の頻度でこういう感じで「今まで読んできた本を横断的にまとめる」ということをやっていますが、今回の「1年でまとめる」というやつはまとめるのが非常に楽しい行為でした。また、BC049「物語」とどう付きあうかのように複数の本の「つながり」を見つけるのは難しいかもしれないですが、今回のような「時間軸」でまとめるだけのことであれば簡単です。手間暇はかかるかもしれませんが、それぞれの出来事をどこに位置づければよいかは小学校の算数の能力さえあれば問題なし。ある意味で「アトミックな読書メモ作り」の第一歩としてこういうノートのまとめ方は中々よい練習にもなるのではないかな、ということも思った次第です。今回の参考文献なお、今回の話は『超圧縮地球全史』以外は主に以下の本の内容を参考にしています。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

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リテールトーク / RETAIL TALK - 中小小売経営のリアル -

リテールトーク / RETAIL TALK - 中小小売経営のリアル -

この番組は、中小小売企業の取締役経験のあるふたりがそのリアルについてゆるくお話します。 人事に軸足をおいたジェネラリスト戸部祐理が、2度のM&A経験がある連続起業家、樋口幸太郎に話を聞いていきます。 既に小売企業を経営している方、これから小売ビジネスで起業を考えられている方に役立つ情報を楽しく語っていきます。 樋口幸太郎 / 山梨県甲府市出身。株式会社Bizgem代表取締役。新卒で伊藤忠商事入社→就職活動生向けWebメディアで起業→人材系ベンチャー企業にM&Aで売却→子供服D2Cブランド「pairmanon」運営会社の取締役就任→アダストリアグループにM&Aで売却。 戸部祐理 / 株式会社デジタリフト HR・PR / アパレル企業で取締役→アパレル×ITスタートアップ→現職 / 11年在籍したアパレルでは店舗現場からバイイング、ブランド立ち上げ、バックオフィスにも広く携わり5年間取締役 ご質問・メッセージは下記URLからお気軽にご連絡ください。 https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSePaafkg7l4K-cm-SSZkQZGYJFfT4xscc6eH_3ws-xTCVKohA/viewform?usp=sf_link

iPad Workers

iPad Workers

iPad活用のヒントになる情報をお届けするポッドキャスト番組 ■LISTENで文字起こしも見られます https://listen.style/p/ipadworkers ipadworkers.substack.com

SBCast. Ch2

SBCast. Ch2

SIDE BEACH CITY.の今をご紹介するSBCast. チャンネル2 いつもSBCast.でさまざまな地域活動コミュニティ活動を紹介しているわたくし高見が、SIDE BEACH CITY.内部をご紹介する番組です。 SIDE BEACH CITY.とは何をやっている団体なのか、どのような団体なのか。それを深掘りをする番組としていこうと思っています。

耳ヨリな音の話-音マーケティング情報-

耳ヨリな音の話-音マーケティング情報-

様々なゲストと共に、音を使ったマーケティング情報を発信していきます。リスナーとのエンゲージメントを高め、ブランドの理解や共感をつくりやすい「音を使ったマーケティング」について、楽しくそしてわかりやすく、皆様にお届けします。番組の最後には「ゲストが選ぶ神回」のコーナーもあります。音声コンテンツの中から、ゲストが皆様におすすめしたい神回、傑作トーク情報についてお話しいただきます。番組ホストはデジタル広告代理店D2C Rで音のマーケティングを担当している郡茜。 <Twitterハッシュタグ> #ミミヨリ <音マーケティング (note)> https://note.com/d2cradmimi/

ごりゅごcast

ごりゅごcast

テクノロジーを駆使して、仕事や生活がちょっと便利に、楽しくなるテクニックをお届けする番組です。平日お昼に毎週更新。1話1テーマ。 Obsidianやそれに関連する話、自作キーボードと日本語入力なんかの話が最近は多いです。