面白かった本について語るポッドキャスト&ニュースレターです。1冊の本が触媒となって、そこからどんどん「面白い本」が増えていく。そんな本の楽しみ方を考えていきます。
https://bookcatalyst.substack.com?utm_medium=podcast">bookcatalyst.substack.com
BC058 『運動の神話 下』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『運動の神話』の「下巻」について語ります。今回は、はじめての「前後編に分かれたシリーズ」の後編であり、全3回を予定している「運動と食事を改めて考える」シリーズの中編でもあります。こうやって連続ものにしてみたら「次の本はなにを紹介しよう」と考えることに使うエネルギー全部を内容のブラッシュアップに使える、ということに気がつきました。また、ある程度の長期にわたる(3ヶ月の見込み)シリーズなので、その期間ずっと「1つのテーマについて考え続けることが出来た」というのもよかったところの1つかもしれません。なお、運動に関する内容についていうと、本書の結論はきわめて「普通」です。もちろんその結論にたどり着くまでのいろいろな話が面白いのは間違いないんですが「効率」を求めるのであれば特に読む必要はない、という言い方も出来てしまう本です。ただ、人の心を変えるのは「効率」ではないんですよね。少なくともごりゅごはこの本から得られた科学的知見という物語から「運動の意義」は理解、納得ができました。「何で運動しないといけないんだろう」「運動するとどういういいことがあるんだろう」という理由は、どんなダイエット本よりも参考になりました。おそらくブックカタリストを聞いてくれている方はごりゅごと同じように感じるタイプの人も多いはずで、そういう点では「非常に素晴らしいダイエット本」だとも言える本でした。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC057『人を賢くする道具』とセカンドブレイン
収録前の準備として読書メモを作るのが常なのですが、それをやるまではちょっと気楽に構えていました。面白いことはいっぱいあるし、いくつか拾えばOKだろう、くらいに。しかしいざ実際に作りはじめてみると「とても一時間の収録で手に負える本ではないし、二週間やそこらの準備で太刀打ちできる本でもない」と思い知りました。よって大きくかじ取りを変更します。本編でもお話していますが「一冊の本を、一年かけてゆっくり読んで行く」というアプローチです。具体的にそれをどう進めて行くのかは、サポーター向け記事として別途を投稿しますので、ご興味あればサポーター・プランの検討もお願いします(宣伝終わり)。本書の概要今回のメモは以下です。◇ブックカタリストBC057用のメモ - 倉下忠憲の発想工房本の概要だけなら、比較的簡単にまとめられます。『人を賢くする道具』の原題は、『Things That Make Us SMART』で、「人を賢くするThings」です。で本文にもありますが、Thingsは人を賢くするだけでなく愚かにもします。人が make した thingsによって 人がある性質に makeされるという循環的な構造がある、と著者は指摘します。人類の歴史(あるいは文化の発展)は「私たち自身を make する things を makeすること」の繰り返しによって生まれてきている、というのが基盤となる視点で、つまり「小さなクレーンが作れれば、それよりも大きいクレーンを作ることができ、その大きなクレーンが作れれば、さらにそれよりも大きなクレーンが作れる」的に、道具作りが別の道具作りへと接続していく(しかもメタ的に上に登っていける)というのがこうしたthingsの面白いところです。その上で、著者は人の知的作業を体験型と内省型に分類し、現代の(1993年当時の)テクノロジーは体験型に偏りすぎているのではないか、と指摘します。すると、二つの知的作業のバランスが崩れて、人は「愚かに」なってしまう。でも、それは人間の性質が「愚か」なわけではなく、人の性質をうまくいかせていないテクノロジーやその運用に問題があるのではないか、というのが著者の問題意識です。つまり、「Things That Make Us 体験的」なものが強まっている、ということです。ここでの「体験的」とは「受動的」「反応的」であり、自分の心の声(これが内省です)が力を持たず、ただ周りの状態(環境)によって自分の行動が決まってしまう状態が含意されています。著者は書いていませんが、そうした状態は資本主義=消費主義社会に利することは間違いないでしょうし、政治がポピュリズムに傾いてしまう契機にもなります。まさにオルテガが言う「大衆」が生まれるわけです。だからテクノロジーそのものやそれを使うための道具のデザインをしっかり考えようよ、人間の二つの認知をうまく働かせるようにしようと、と主張しているのが本書と言ってよいでしょう。以上のようにざっとまとめることはできるのですが、各論についてはさらに他の分野と接続できる話が多い点と、ひとつのチャプタに話題が盛りだくさんなことが本書の「読解」を難しくしています。難易度が高いというのではなく、新設のテーマパークに入ったら遊びたいアトラクションがあってどこから行こうか迷ってしまう、的な難しさです。なので「一年書けてゆっくり本を読んでいこう」プロジェクトが発足した次第です。話の後半では「最近のノートツール」についても言及していますが、たぶん本書を読めばノートツールや情報整理ツールをどう自分で運用したらいいのかをかなりそもそも論から考え直すことができるかと思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC056 『運動の神話(上)』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『運動の神話』の「上巻」について語ります。今回は、はじめての「前後編に分かれたシリーズ」です。というか、最初は「複数回を使って複数の本を紹介しつつ、全体で大きなテーマを含んだもの」にする予定だったんですが、最初に紹介しようとする『運動の神話』がものすごく面白く、しかもこの本は「上下2冊構成の本」それなら「1エピソードで1冊紹介」という切り口でも面白いかな、と2回に分けて1冊を語ることにしました。また、今回からブックカタリストサポーターの方向けには、アーリーアクセス的なサービスとして、最速で無編集バージョンの動画を公開していきます。BC056 アーリーアクセス - by goryugo - ブックカタリストブックカタリストの収録は(ほとんどの場合)隔週火曜日の午後。ここから動画を書き出して、さらにSubstack側での動画処理などなんやかんや時間がかかることを済ませて、公開できるのはだいたい20時だとか21時だとかになるんですが、おそらくこれからは毎回アーリーアクセスコンテンツをお届けできるようになるかと思います。(ごりゅごのターンでは同時に台本もここに加えています)それと同時に、各配信の文字起こしPDFも配信に添付していく予定です。このあたりのプロジェクトについては冒頭でも軽く話しているので、そちらもご視聴いただけたら幸いです。今回の文字起こしバージョンはこちらです。プロジェクトの一環として、githubでも文字起こしデータの公開をしていますので、過去分などはこちらをご覧ください。goryugocast/bookcatalyst_transcription: ブックカタリストの文字起こしデータを共有し、それを使って様々な場面で活用できるようにするという感じでブックカタリストシーズン3となる2023年は、こんな感じでいろいろと新しいことにも調整しています。これらのプロジェクトを応援いただける方は、サポーターの加入もご検討いただけると嬉しいです。ということで本編。今回のテーマは「運動すること」「食べること」「ダイエット」というものについて複数の本から学んだことをじっくりまとめて考えてみよう、というものです。そして、運動の神話というタイトルでありながら今回はその「神話的要素」について触れただけで、あとは運動の前段階「座る」「睡眠」についての話だけで終わってしまいました。ただ、今回話した「座る」についてはいきなり今回のシリーズで「一番面白いと思った部分」であり、一番影響を受けて行動を変えた部分でもあります。影響を受けてこんな感じのバランスボールを使い始めたり、新しくバランスボールクッションなんかも購入して、これを使いながらアメフトを観る、なんてことをするようになりました。(片足立ちでバランスとりながらテレビを観る。さらにこれを使うことで集中して1試合を観戦できるようになった)また、今回は時間的な理由や難易度的な理由で省略しましたが、上巻の後半にかかれている「ATPを使ったエネルギー発生の仕組み」というのも非常に興味深いものでした。現代科学の目線で見ると、人間が体を動かすには「エネルギー」が必要です。そこまでは直感的にもよくわかるんですが、そのエネルギーを発生させているのは「化学反応」です。このあたりの仕組みについての解像度も、本書を読んで一段階理解が深まったような感じがします。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish(改めて紹介した本を順番にまとめる予定) This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC055『限りある時間の使い方』から考える「時間の使い方」
今回は『限りある時間の使い方』を起点にして、「時間の使い方」について考えてみました。以下が倉下が作ったメモのScrapboxページです。◇ブックカタリストBC055用のメモ - 倉下忠憲の発想工房書誌情報* 著者:オリバー・バークマン* Oliver Burkeman - Wikipedia* オリバー・バークマン は英国の作家兼ジャーナリストであり、以前はガーディアン紙の週刊コラム This Column Will Change Your Life を執筆していました。* 翻訳:高橋璃子* 『エッセンシャル思考』『エフォートレス思考』『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門』(小社刊)、『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(河出書房新社)など* 出版社:かんき出版* 発売日:2022年6月22日目次は、上記のScrapboxページに記載してあります。限られた時間をどう「使う」のか、という問い「ファスト映画」や「ファスト教養」など、時間効率を求める姿勢(タイパと言うらしいです)は現代特有の傾向でしょうが、しかし人の人生が限られているという点においては、人類が生まれてからずっと続いている「性質」ではあります。人生の時間が限られており、しかし達成したいことがたくさんあるならば、「もっとはやく」「もっと多く」となってしまうのは仕方がないのかもしれません。そうしたとき活躍するのが「タイムマネジメント」です。アメリカでもたくさんの著作が刊行されているでしょうが日本も負けていません。何かしらの時間管理手法を使えば──つまり時間の「使い方」がうまくなれば──、「もっとはやく」「もっとたくさん」を叶えることができる。そんなことを謳う本は枚挙にいとまがありません。しかし、それは困難な問いから目を背けているだけだと著者であるオリバー・バークマンは述べます。私たちは限られた存在であり、何かを手にすれば別の何かを捨てなければなりません。言い換えれば、そこで私たちは「何を選ぶのか」を問われることになります。そんな問いに答えるのは簡単ではありませんし、自分で決めてしまえばそこに「責任」のようなものが発生してしまいます(他人のせいにできない、ということです)。だから私たちは、そうした問いと取り組む代わりに、「なんでもできる」という幻想を貸与してくれるノウハウに惹かれてしまうというわけです。著者はハイデガーを引きながら、そもそもそうした「時間をうまく使う」という考えから脱却することが大事なのではないかと説き、そのためのアプローチを提示してくれます。その考えを端的にまとめるとすれば、人生に何かを求めるのではなく、人生に何を与えるのかを考えよ、となるでしょう。私たちは(だいたい)4000週間という人生の時間を「与え」られます。望んだものであるかどうかは別にして私たちの生はそのようにして貸与されたものなのです。これは時間は「自分のもの」ではなく神のものであるといった話ではありません。私という存在そのものが、その時間によって成り立っている、という話です。私=時間。ハイデガー風に言えば現存在となるでしょうか。私は時間としてただそこに在るのです。そうした込み入った議論はさておくにしても、「人生に何かを求めるのではなく、人生に何を与えるのかを考える」というある種のコペルニクス的転回は、現代においてせわしなく追い立てられ、結果的に孤独になりがちな私たちにおいて有用なものでしょう。別にたいそうなことをせよ、という話ではありません。貪欲に求めるよりも、自分が為せることを為す方が、きっと気分良く生きていける。それだけの話です。ちなみに、つい最近書店にいったら『限られた時間を超える方法』(リサ・ブローデリック)という本を見かけました。思わず「そういうとこだぞ」とツッコミを入れてしまいました。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC054 『語学の天才まで1億光年』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。2023年最初の更新は、『語学の天才まで1億光年』をメインの題材に「外国語を学ぶこと」について語ります。今年は「ブックカタリストシーズン3」として、これまでと同じようなことを続けながら、同時にちょっとだけ新しいことを試し続けていく、ということをテーマに、毎度隔週火曜日の更新を続けていく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。ごりゅご個人のテーマとしては、メインで取り上げる本は1冊なんだけど、その本に書いてあることだけでなく、できるだけ「他の本とつなげて話す」ということを主眼にして、いい意味で「1冊の本を紹介するだけではない」というスタイルを目指していこうと思っています。で、今回取り上げた『語学の天才まで1億光年』について。ごりゅごは、著者高野秀行氏のファンであり、この本に出てくるさまざまな地域を舞台にした著作をほとんど読んでいます。そういう観点で読むと、まずこの本は「舞台裏を垣間見る」という楽しみ方があります。そして、高野さんが訪れている地域は多くが「日本人にとって一般的ではない場所(アフリカのコンゴだとか、ミャンマーのカチン州だとか)」であるために、単純に旅行記として読んでも非常に物珍しくて面白い。最後に、高野さんは大抵それらの地域を訪れる際には「その地域の言語を勉強してから」訪れており、そうやって大量の言語を学んだ経験を元にした「語学の学び方を学ぶ本」としての楽しみ方。ブックカタリスト本編では全般的に「語学の学び方を学ぶ本」という観点で紹介しましたが、この本は「そういう難しいこと抜きにして単純にエンターテイメントとして非常に楽しい」本です。こういうちょっとまじめな切り口で紹介して、同じような「高野秀行ファン」が増えることを目指した更新でもあるのです。みんなして"人の行かないところへ行き、人のやらないことをやり、それを面白おかしく書く辺境作家"を応援しましょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC053 2022年の振り返り
今年最後の回となります(アフタートークの配信は残っております)。一年間の配信リストは以下のScrapboxページにまとめてみました。◇2022年ブックカタリスト配信リスト - BCBookReadingCircleまず、全体を通して言えるのが「とにかく続けることができた」という点です。物事において一番難しいといっても過言ではないのが「継続」なので、それが為せたことは(手前みそですが)功績と言えます。こういう活動は、一人でも続けるのが難しいのですが、二人以上となるとさまざまな問題が発生して余計に続けにくくなるかのように思えますが、案外「自分ではない相手」がいることで続けられる効果があるような気もします。自分ひとりでやるのは自由なのですが、その「自由」はきっと限定的な力しか持たないのでしょう。この辺の話は、私の昨今のテーマとも重なります。で、そのテーマですが、私(倉下)は「個人・教養・自己啓発のこれから」が大きな括りになるでしょう。そこには、知的生産/知的生活、啓蒙主義、私たちの社会における知性(あるいは理性)の役割、といくつものサブテーマが重なり合っています。『啓蒙思想2.0』で論じられているように、私たちの理性はそこまで強大な存在でも完璧な存在でもありません。一方で、それ抜きにしては現代の文明社会はほとんど成立しないことも確かです。であれば、いかにその「理性」なるものを発揮させられるようにするのか。それを個人や環境の側面から考えていくことが、私の大きな関心事になりそうです。一方でごりゅごさんは、哲学から広がって社会の有り様に目を向けつつ、私たち生物やもっと大きく地球の歴史にも関心を広げておられました。哲学というものが、目の前の「生」から視点を動かし、より広い視野・深い視座で物事を考える知的営為だとするならば、遺伝子や生物史に目を向けるのは同じような視点の動きだと言えるかもしれません。あと、ここでも「歴史」に関心を持たれているのが印象的です。なにかしらの歴史・ログ・足跡といったものに惹かれる傾向をお持ちなのかもしれません。大きな議題さて、一年の配信を振り返って考えたいのが、「一体この番組は何なのか」という話です。「面白い本を紹介する」という漠然としたテーマでスタートした当番組ですが、今のブックカタリストの有り様は単純にそれだけでは無いような気がしています。「面白い本を読んで、紹介する」は依然としてあるものの、「本を面白く読む姿勢」も関係していますし、それ以上に「本を読んでどうするのか」という部分も関わっている気がします。不思議な話で、主催者である私たちもこの番組が一体何なのがわかっていません。むしろ試行錯誤しながら何か新しいものを作ろうとしている、というのが正確なところでしょう。先駆的に答えがないものに取り組んでいるわけです。というわけで、今後も少しずつ何かを変えながら、「一体この番組は何なのか」という答えを模索していこう思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC052『私たちはどう学んでいるのか』
ゲストにtksさんをお迎えして、『私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)』をご紹介頂きました。tksさんのプロフィール* Twitter:@tks_1988b* Scrapbox:公開練習場* 『私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)』 - 公開練習場* tks - BCBookReadingCircle書誌情報私たちはどう学んでいるのか: 創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書 403)* 著者:鈴木宏昭* 1958年生まれ。東京大学大学院単位取得退学。博士(教育学)。東京工業大学助手、エジンバラ大学客員研究員を経て、現在青山学院大学教授。認知科学が研究領域であり、特に思考、学習における創発過程の研究を行っている。日本認知科学会(元会長等)、人工知能学会、日本心理学会、Cognitive Science Society各会員.* 他の著作* 『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス) 』* 『類似と思考 改訂版 (ちくま学芸文庫) 』* 出版社:筑摩書房* レーベル:ちくまプリマー新書* 出版日:2022/6/9* 目次:* はじめに* 第1章 能力という虚構* 第2章 知識は構築される* 第3章 上達する* 第4章 育つ * 第5章 ひらめく* 第6章 教育をどう考えるか概要本書は私たちがどのように学んでいるのかを認知科学の視点から検討する。キーワードとして挙げられるのは以下の三点。* 認知的変化* 無意識的なメカニズム* 創発ここでの"認知的変化"はいわゆる「学習」なのだが、本書ではあえてその言葉が使われていない。それは私たちが「学習」と聞いて思い浮かべるイメージが日本の学校教育のイメージと強く重なっているからである。誰かから正解を教えられ、それを覚え、筆記試験でテストされる、といったタイプの学習だけが人間の学びではない。その点に注意を促す意味で本書では認知的変化と呼ばれている。残り二つの要素は本編でも詳しく紹介されているのでそちらを参照されたい。ともあれ本書では「認知的変化に働く無意識的なメカニズムを創発という観点」から検討しているのが特徴と言える。いわゆる「勉強法」などよりは抽象度の高い話が展開される。その意味で、少し取っつきにくい側面はあるかもしれない。その分、そのメカニズムや性質に理解すれば、特定の科目や分野に限定されない「学び方」へと目が開かれる。何かを学ぶ前に、まず「学ぶとはどういうことか」を学ぶことは非常に有用だろう。もちろん、本書が適切に述べるように「知識は伝わらない」。本書の内容が理解できたとしても、その知識が使えるようになったわけではない。それでも「どう考えたらいいのか」という知見は、すぐれて実用的である。言い換えれば、自身の勉強観・学習観を変えることは、具体的に取り組む勉強やその結果についての理解(≒物語・意味づけ)を変えることにつながる。学習というものを、直線的・固定的・還元的に捉えるのではなく、流動的かつ創発的な視点で捉えることで、日々の学びはよりしなやかになっていくだろう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC051『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』
今回は、マーク・クーケルバーク の『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』を取り上げました。日本の危ない「自己啓発セミナー」についてではなく、もっと"健全"な自己発展が持つ危険性について論じた一冊です。書誌情報* 著者:マーク・クーケルバーク* ウィーン大学哲学部メディア・技術哲学分野教授。バーミンガム大学博士。イギリス・デモンフォート大学コンピューターと社会的責任研究センター非常勤教授も兼務。1975年ベルギー生れ。国際技術哲学会会長、ヨーロッパ委員会の人工知能に関する高度専門家会議委員なども歴任。AIやロボットに関する倫理学、哲学の第一人者* 邦訳されている他の著作* 『AIの倫理学』* 翻訳者:田畑暁生* 『ブラックボックス化する社会──金融と情報を支配する隠されたアルゴリズム』* 『監視文化の誕生 社会に監視される時代から、ひとびとが進んで監視する時代へ』* 出版社:青土社* 出版日:2022/10/26* 目次:* 1. 現象* 自己啓発の強制* 2. 歴史* 自己知や完全性を求めた古代の哲学者、聖職者、人文主義者* 3. 社会* 近代の自己執着 ルソーからヒップスター実存主義まで* 4. 政治経済* ウィルネス資本主義の下での自己馴致と搾取* 5. テクノロジー* カテゴリー化、測定、数値化、強化、もしくは、なぜAIは私たちについて私たち自身より知っているのか* 6. 解決策(第一部)* 関係性自己と社会変化* 7. 解決策(第二部) * 私たちについて異なった物語を語るテクノロジー倉下のScrapboxページ◇ブックカタリストBC051用のメモ - 倉下忠憲の発想工房概要原題は『Self-Improvement: Technologies of the Soul in the Age of Artificial Intelligence』。直訳すれば「自己改善:人工知能時代における魂のテクノロジー」。著者の専門を考えると、AIと私たちの関係が論じられるのだろうと予想されるが、実際は西洋思想をさかのぼり、そこにある「自己啓発」的な要素を現代までの射程で捉え、しかしそこにある差異を取り出そうとする試みが展開されていく。まずタイトルから。「Self-Improvement」は、「自己改善」が日本語としてはふさわしいだろう。邦訳の「自己啓発」とは少しニュアンスが違う。自己啓発は、「人間として高い段階に至ろうとする試み」であり、そこには明白に「何が高い段階であるか」という審級が内在化されている。自己啓発は、英語では「Self-Enlightenment」であり、enlightは啓発を意味しつつ、それはlightの語感の通りに「照らす」という含意がある。無知蒙昧な闇に置かれた状態(プラトンの洞窟のメタファー)に、光を照らして真理へと至る。そういったニュアンスにおいては、真理=何が正しいのか、という絶対的な基準が先駆的に存在している。それに対して、「Self-Improvement」≒自己改善には、そのような絶対的な規範はない。改善は、今ある悪いところを少し直す、くらいのニュアンスである。何か絶対的に正しいものに向かっていく行為ではないわけだ。しかしながら、それが「(今の状態よりも)より良くする」というスタンスで行われる限り、自己啓発が持つ問題と同じ構造が立ち現れる。その意味で、本書において「自己啓発」と呼ばれているものは、感覚的に「自己改善」と呼びうるようなごく些細なものも含まれていると考えてよい。アプリを使って精神を整え、ストレスの多い職場に立ち向かうといった行為ですらも本書がまなざしを注ぐ「自己啓発」であるわけだ。もう一点タイトルに関して、原題は「罠」に相当する言葉はない。一方で内容を読めば、本書に"自己啓発"への批判が込められていることは間違いない。ここは難しいところだ。本書は全体的に「自己啓発」という営みそのものを断絶させようとはしていない。新しい形の「自己啓発」のスタイルを模索し、そこにこれまでとは別の仕方でAI≒テクノロジーとの関係性を紡いでいけないかと検討している。そのような大局的な視点だからこそ、著者は「Self-Improvement」とつけたのだろう。一方で、仮に日本語のタイトルで「自己啓発」という本が出たら、上記のような内容だとはとても思われないだろう。よって、フックとして「自己啓発の罠」という邦訳の選択は絶妙だと言える。ただし著者の主張を汲まずにタイトルだけからこの本が自己啓発を抹消しようとしている本だと理解しない方がよい。その点は注意が必要だろう。さて、長くなってしまったが、本書そのものはあまり長くない。この手の本にしては珍しくソフトカバーだし、150ページ前後の内容である。思想や哲学を扱っているが晦渋な文章は出てこない。いくつかの予備知識がないとわかりにくい箇所はあるだろうが、それでも著者の主張ははっきり汲み取れる。簡単にそれをまとめれば以下のようになる。古代ギリシャの時代からヘレニズム思想的なものには全般的に「個人とその内面」に注力する傾向があった。その傾向は近代化と共に強まり、個人主義の跋扈とテクノロジーの強力化と共に「自己啓発ビジネス」へと発展した。かつては人文主義者は「印刷された本」というテクノロジーを使い、人々を啓蒙しようと(あるいは、啓蒙を目指す人々の数を増やそうと)してきたが、現代のインターネットテクノロジーはそうした人文主義的なものと基本的なマインドセットの点で違っている。それは自己を知り、自己を愛するというあり方ではなく、「他人にとっての自分や、他人からどう見られるか」に強い関心が注がれている。それはますます利己的な自己を強めるばかりである。そのような"自己啓発"は現代のテクノロジーの力を借り、さらに強まっている。そこでは、私たち以上に私たちのことを知るAIが登場する。言い換えれば、私たちはもうそれ以上自分について知る必要がない。すべてAIが設定し、なすべきことと決めたアプローチに沿って"改善"を進めていけばいい。これは古代ギリシャ時代に掲げられた「汝自身を知れ」とはまったく異なる(むしろ逆の)アプローチである。私たちは、AIの檻に入りながら、自分のことを何も知らないままに万能感と物足りなさという両極する要素を抱えたまま生きていくことになる。はたしてその未来は、私たちが望む未来なのであろうか。上記のような視点において、著者は問題提起している。自己を扱う「テクノロジー」についてはフーコーが、対抗文化が文化に飲み込まれていくのは『反逆の神話』が、AIに完全に依託した人間がどうなるのかは『PSYCHO-PASS』シリーズが、自分が扱う自分の記録については拙著『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』がそれぞれ参考になるだろう。日本における自己啓発受容については、牧野智和の『日常に侵入する自己啓発』や大澤絢子の『「修養」の日本近代』が面白い。というように、短い本でありながらも、さまざまな事柄に枝葉が伸びる内容になっている。「自分を高めていくこと」を正しいこと、まっとうなことだと信じて疑わない人ほど、本書はささるのではないだろうか。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC050 1年で表現する『超圧縮 地球生物全史』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『超圧縮 地球生物全史』をメインの題材にしつつ「46億年の地球を1年にたとえて俯瞰する地球史」について語ります。本編でも冒頭に話していますが、人間の直感では「1万年前」のことも「1億年前」のこともどっちも「すごい昔」以上の区別ができません。それを相対的に俯瞰する方法として素晴らしいな、と思うのが地球の46億年を「1年」という期間に変換して考えてみること。この変換をしてざっと計算をすると、1万年前は12月31日の23時59分ごろの出来事で、1億年前は12月23日ごろになります。地球の年齢を元に大ざっぱに計算するとだいたい以下のような計算結果が出てきます。6月まではほとんどなにもない時代上記表を元にして地球全史を振り返ると、まずわかるのが地球が存在していた期間の半分くらいはいわゆる「生き物」は存在していませんでした。6月になってミトコンドリアを含んだ真核生物が誕生して、そこからさらに月日は流れ、動き回れる動物が生まれたのが11月半ば。4本足の生き物が誕生したのは12月に入ってからのこと。恐竜がだいたい12月15日から26日くらいまで存在していて、2足歩行の人類が登場するのは12月31日の午前6時。火を使い始めたのが午後9時で、農業を始めたのは23時59分の出来事。23時59分50秒くらいに聖徳太子が生まれて、23時59分59秒にようやく明治時代が始まった、というくらいの計算です。こういうふうに地球の歴史を振り返ってみると、生物の「進化」という言葉一つ取っても見えてくるものの距離感が変わってくるように感じます。「歴史」は複数の本をつなげるのが簡単年に1回の頻度でこういう感じで「今まで読んできた本を横断的にまとめる」ということをやっていますが、今回の「1年でまとめる」というやつはまとめるのが非常に楽しい行為でした。また、BC049「物語」とどう付きあうかのように複数の本の「つながり」を見つけるのは難しいかもしれないですが、今回のような「時間軸」でまとめるだけのことであれば簡単です。手間暇はかかるかもしれませんが、それぞれの出来事をどこに位置づければよいかは小学校の算数の能力さえあれば問題なし。ある意味で「アトミックな読書メモ作り」の第一歩としてこういうノートのまとめ方は中々よい練習にもなるのではないかな、ということも思った次第です。今回の参考文献なお、今回の話は『超圧縮地球全史』以外は主に以下の本の内容を参考にしています。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC049「物語」とどう付きあうか
テーマは”「物語」とどう付きあうか”。以下の二冊を取り上げました。* 『ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する』* 『物語のカギ : 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』二冊の書誌情報『ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する』* 著者* ジョナサン・ゴットシャル* ワシントン&ジェファーソン大学英語学科特別研究員* 邦訳されているものだと他に『人はなぜ格闘に魅せられるのか――大学教師がリングに上がって考える』がある。* 前著にあたる『The Storytelling Animal』は未邦訳。* 翻訳* 月谷真紀 * 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』も訳されています。* 出版社* 東洋経済新報社* 出版日* 2022/7/29* 目次* 序 章 物語の語り手を絶対に信用するな。だが私たちは信用してしまう* 第1章 「ストーリーテラーが世界を支配する」* 第2章 ストーリーテリングという闇の芸術* 第3章 ストーリーランド大戦* 第4章 「ニュース」などない。あるのは「ドラマ」のみである* 第5章 悪魔は「他者」ではない。悪魔は「私たち」だ* 第6章 「現実」対「虚構」* 終 章 私たちを分断する物語の中で生きぬく『物語のカギ : 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』* 著者* 渡辺 祐真/スケザネ* 東京のゲーム会社でシナリオライターとして勤務する傍ら、2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。* YouTubeチャンネル「スケザネ図書館」主催。* 『季刊 アンソロジスト』『スピン/spin』* 出版社* 笠間書院* 『“深読み”の技法』(小池陽慈)という本も* 出版日* 2022/7/27* 目次* はじめに* 序章 なんで物語を読むのか? 物語を味わうってどんなこと?* 第一章 物語の基本的な仕組み* 第二章 虫の視線で読んでみる* 第三章 鳥の視点で読んでみる* 第四章 理論を駆使してみる* 第五章 能動的な読みの工夫* おわりにストーリー・パラドックスジョナサン・ゴットシャルの主張は以下の二つにまとめられます。* 私たちにとって物語は必要不可欠であるが、場合によっては毒にもなりうる* 現代社会の「物語の技術」はすさまじいものがあるので注意が必要情報としての物語は、複雑で無秩序なさまざまな出来事に秩序と構造を与えて、私たちが把握・理解しやすいようにしてくれます。たとえば、その人が勧善懲悪な物語ばかりに触れていたら、現実の認識はだいたい「敵と味方」の構図に落とし込まれるでしょう。言い換えれば、その人が持つ物語のバリエーションが、その人の現実認識のバリエーションに直結するのです。『啓蒙思想2.0』の言い方を借りれば、物語それ自体が一つの「外部足場」であって、それを使って私たちは現実を理解し、どのように反応するのかを決定しているのです。どれだけ優れた科学知識を持っていても、それをどのように用いるのかまでは「科学」は決めてくれません。それを支えるのは、まさしく「物語」です。この世に生まれる人と人の対決は、それぞれの価値観を醸成している物語と物語の対決として捉えることもできるでしょう。ミームとしての物語、というわけです。かといって、私たちは「脱物語」的に生きていくことができません。伊藤計劃の『ハーモニー』は、そうしたことが可能になる世界の可能性を描いていますが、残念ながら現代の科学技術はそうした段階には至っていませんし、至っていたとしても人類がそれを選択すべきなのかは、別途倫理的な議論が必要でしょう。なんにせよ、現時点では私たちは物語と付き合い続けていくしかありません。では、どうすれば好ましく物語と付きあっていけるのか?それは、多様な(あるいは多様に)物語を楽しむことです。物語を楽しむ本編では部分的にしか言及できなかったので、『物語のカギ』のカギ一覧をリストしておきます。* 1. 多義性を知ろう!* 2. 多義性から「物語文」を作れ!* 3. 内容と語りに分けよう* 4. 時間の進行を計れ!* 5. 人称ってなに?* 6. 焦点化ってなに?* 7. 語り手の種類を知ろう!* 8. 語り手を信頼するな!* 9. ジャンルを意識してみよう* 10. 作者の死* 11. メタファーを使いこなせ!* 12. 書き出しを楽しもう* 13. 小道具に着目してみよう* 14. 自然描写の想起するイメージを掴め!* 15. 五感をフル稼働させよう!* 16. 書かれたことをそのまま受け取るべからず!* 17. 結末を味わい尽くせ!* 18. 言葉を味わおう!* 19. 自分の人生を賭して読んでみよう!* 20. キーワードを設定してみよう!* 21. 二項対立を設定してみよう!* 22. 二項対立を打ち破れ!* 23. 隠されたものを復元せよ!* 24. 他ジャンルを使ってみよう!* 25. 作家の伝記を調べてみよう!* 26. 比較・変遷をたどれ!* 27. 元ネタを探ろう* 28. 理論の使い方や歴史を知ろう* 29. ケアに気を配ろう* 30. 自然の視点に立ってみよう* 31. ジェンダーについて考えよう* 32. 時代背景を考えよう!* 33. 時代背景を考えよう!* 34. 暗記してみよう* 35. 書き込みをしてみよう* 36. 注釈を活用してみよう* 37. 再読をしよう* 38. 翻訳を読み比べてみよう!「本の読み方」はあまり教えてもらわないものです。本好きの人が、少しずつ身につけていく「伝統の技法」感が若干あります。しかし、それらは言語化できないわけではありません。上記のように、さまざまな技法=技術が概念化可能です。一冊の本を読むにも、さまざまな視点・観点の取り方が可能ですし、複数の本を読んで見ることで浮かび上がってくる情報もあります。そうしたことを体験的に知れば、私たちは一回一回の読書において没頭し、ときに理性を置き去りにしてしまったのとしても、そこから帰ってきたときに別様のまなざしをその本に向けることができるようになるでしょう。でもって、それと同じ態度は、この社会を流れるさまざまな情報(物語)にも適用できるものだと思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC048『はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で』
『はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で』(五藤 晴菜)ゲストは、五藤晴菜さん。* Twitter:@haruna1221 * Newsletter:iPad Workers Newsletter* YouTubeチャンネル:ごりゅごcast* Amazon著者ページ書誌情報* 発売日:2022/9/13* 出版社:インプレス目次* Chapter0 Introduction* Chapter1 iPad でアイデアを出す* Chapter2 iPadで企画書作成のヒント* Chapter3 iPadで会議を制する* Chapter4 iPadでプレゼン攻略* Chapter5 iPadで時間・タスク・データ管理内容と特徴iPadの取り扱い説明書ではなく、特定のアプリの解説書でもない、これまでに無かったタイプのiPad本。実際の仕事のシチュエーションを想定し、それぞれの場面でどのようにiPadが「活きる」のかを紹介してくれる。具体的なTipsよりは、「どうiPadを使うのか」という考え方を提示してくれる点が特徴と言える。仕事と手書きとiPadどのくらいの人が所有しているかはわかりませんが、それでもiPadは「なんとなく欲しい」ガジェットの一つです。どういう用途で使うのかは具体的にイメージできないけども、なんかあると良さそう。そんな感覚がするガジェットなのです。そんな感覚のままiPadを購入すると、だいたいは「高性能ビュアー」がその居場所となります。なんといっても、便利でちょうどよいサイズ感なのです。動画を見る、PDFを読む、SNSをしながらゲームをする。高性能なスペックが、心地よい体験をもたらしてくれます。これは別に悪いことではありません。むしろ、純粋なiPadの使い方と言えるでしょう。つまり、「iPad単体の使い方」としては自然なものなのです。変化が生まれるのは、そこに「外付けキーボード」か「Apple Pencil 2」が加わったときです。そうしたとき、iPadは仕事道具に生まれ変わります。「外付けキーボード」を使えば、iPadはグッとパソコンに近づきます。文章入力をするための装置に化けるのです。さまざまな資料を参照しながら書くような文章は、画面を二つに分けられるiPadは──iPhoneと比べれば──非常に作成しやすいでしょう。パソコンに完全に並ぶほどではなくても、メールやら報告書といったものであれば、悠々と入力できます。一方で、「Apple Pencil 2」を使えば、iPadはデジタル文房具へと変身します。デジタルノート、あるいはデジタル手帳としての存在感が生まれはじめるのです。こちらの変化は、「外付けキーボード」によるミニ・パソコン化よりもはるかに強力です。なぜなら、ミニ・パソコンは機能の劣化が多少あるわけですが、デジタル文房具は、むしろアナログ文房具の強力版だからです。* やり直しができる* コピー&ペーストができる* テキストとして認識してくれる(なので検索できる)* 共有や送信がそのままできるアナログの文房具では不可能だったり、手間がかかりすぎていた行為が、iPadなら一気に簡単になります。でもって、そうやって仕事で活躍する文房具は、趣味の文房具とは違って「使えればそれでいい」ところがあります。実用性が最優先事項なのです。*もちろん、仕事の文房具に趣味を持ち込んではいけない、という話ではありません。その意味で、仕事におけるデジタル文房具としてのiPadは過不足がないどころか、一番良い働きをしてくれるとすら言えます。特に、普段仕事で手書き作業をよく行っているならばなおさらです。私も、仕事でよく手書きのメモを作っていますが、iPad Air + Apple Pencil 2 を導入して以降は、その比率がデジタルにかなり傾きました。iPad : アナログノート が 7:3 や 8:2 くらいになっています。むしろ「広い画面を一覧したい」という欲求がない場合は、ほとんどiPadを使っていると言ってもいいかもしれません。もちろん、私はデザイナーではないので、今日突然iPadが世界から消滅しても大きく困ることはありません。それよりも、MacOSとキーボードが消える方がはるかに困ります。それでも、この iPad + Apple Pencil 2 による「デジタル手書き体験」は、ずいぶんと大きいインパクトを持っています。世界が変わった感覚があるのです。合わせて言えば、私のように字が汚い人ほど──手軽に直したり、整形できるので──デジタル文房具の恩恵は大きいでしょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC047『リベラルアーツ 「遊び」を極めて賢者になる』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、久しぶり?な気がする「ごりゅごが普通に喋る会」でした。テーマは、タイトルにもある通り「リベラルアーツ」なんですが、個人的にはこの本はBC039「現代のインターネット環境と退屈の哲学」から繋がる「幸福論」の一つとして解釈した部分が多いです。きっかけは、ブックカタリストの読書会でこの本を紹介してもらい、そういえば自分は「リベラルアーツ」ということばの意味をきちんとわかってないし、考えたこともないかもしれないな、というところから。そんなことを考えながら読んでみて、もっとも自分の印象に残ったのが7章の「江戸に遊ぶ編」でした。ここは、主に(著者が大変好きであろう)杉浦日向子さんという、漫画家、江戸風俗研究家の方の著書を参考にしたエピソードも多く、杉浦日向子さんの著書を読んでみよう、と思えるきっかけにもなりました。今回は「こうやって読みたい本が増える」みたいなパターンの、もっとも典型的なものの一つを体験できたという感覚です。電子書籍を積んだ状態になっていた下記2冊なんかも、この本きっかけで「読んでみようかな」となっています。(2章が古代中国の六芸の説明)本の内容自体は「一言で結論を言ったらいかんやつ」「考えるという過程が大事」というタイプのものなので、リベラルアーツってなんなん、という「答え」は簡単に得られるものではないんですが、本の中身自体も「古代ギリシア・古代ローマ」的な話から古代中国や、日本の江戸時代。歴史的なところだけでも様々な時代から学ぼう、という幅広いもので、こうやって「いろいろなことを学ぶ」ことを通じて考えることがリベラルアーツに繋がる行為なんだろうな、ということを考えることはできるようになりました。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC046「オープンさと知的好奇心」
今回は、倉下が二冊の本を取り上げました。* 『OPEN(オープン):「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る (NewsPicksパブリッシング)』* 『子どもは40000回質問する~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~ (光文社未来ライブラリー)』一見異なる本から、関連する「トピック」を取り出すというシントピカル・リーディングの実践です。◇シントピカル・リーディング - BCBookReadingCircle 『OPEN(オープン): 「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る』書誌情報* 原題* 『OPEN:The Story of Human Progress』* 著者* ヨハン・ノルベリ * 『進歩: 人類の未来が明るい10の理由』(晶文社)* 翻訳* 山形浩生* 森本正史* 出版社* NewsPicksパブリッシング* 出版日* 2022/4/29* Amazonリンク* https://amzn.to/3cSOMNa開かれたグループ・組織・文化が持つ力を明らかにする。『子どもは40000回質問する~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~』書誌情報* 原題* 『CURIOUS:The Desire to Know and Why Your Future Depens on it』* 著者* イアン・レズリー* 『CONFLICTED~衝突を成果に変える方法~』(光文社)* 翻訳* 須川綾子* 出版社* 光文社(光文社未来ライブラリー)* 出版日* 2022/5/11* Amazonリンク* https://amzn.to/3QsaBkl人間を人間たらしめている能力である好奇心。それを深めることが、人生を豊かにし、また情報化社会で活躍するために必要である、と説く。オープンさと好奇心倉下は「開く・開かれている」という概念に興味があります。関心軸の一つと言っていいでしょう。そして、「閉じているよりは、開いている方がいいだろう」とイノセントに考えております。青年期にインターネットの洗礼を受けた経験があるからに違いありません。『伽藍とバザール』といったお話も大好きです。一方で、何でも開けっ広げにすればそれでいいだろうとも思っていません。誰しもが、心の内側に篭もれるドアを必要としてるでしょうし、細胞は細胞膜でおおわれていますし、なんといっても「私」は、私という閉じた存在です。「閉じ」というのは必要で、もっと言えばそれが基本的な在り方で、だからこそ逆向きのベクトルを持つ「開く」が有用なのだと言えるのかもしれません。そんなことを考えていると、そもそもどういう状態であれば「開いている」と言えるのかも面白い問題だと言えます。人間存在は一つの閉じた系ではあるものの、一方で人間の知識は外部の環境とセットで機能するわけですから、そこは開いていると言えます。この閉じと開きの微妙な関係が私の興味をそそるわけです。今回は二つの本を通じて、その「開いている」を考えてみました。一つは、一つの組織や文化としての「開き」。たとえば、科学は開かれた営みですが、陰謀論は閉じられた試みです。その二つで使われる単語が似ていたとしても、行われている営みはまったく反対の性質を持つのです。一人の人間の知識や能力や視点は限られている。だから、いろいろな人を集めた方がいい。そして、ただ集めるだけでなく、その中でさまざまな意見交換や能力の習得が行われた方がいい。そういった最近ではごく当たり前のように感じられる──これは私のバイアスでしょう──事柄が、人類の歴史をさかのぼって論証されていきます。『OPEN』における重要な指摘は、そうした自由な交流や精神が現在盛んに盛り上がっているのは、ほとんど奇跡に近い出来事である、という点です。それはきちんと守っていかないと、簡単に崩れていってしまうものなのです。さらに、その精神性は別段「西洋」と深いつながりがあるわけではない、という指摘も面白いものです。グローバリズムと西洋化を切り離したことで、西洋至上主義とは違った形でその普遍性を浮かび上がらせようとしています。知的好奇心は育む必要がある『子どもは40000回質問する』では、そうしたオープンさを個人のマインドセットに見出します。私なりの読み方をすれば、好奇心があるとは、心が開かれている状態です。他者に向けて関心を持ち、外部に向けて関心を持つ。それだけでなく、その対象を自分の内側に招待するような、そんなマインドセットが好奇心です。そのような状態のとき、私たちの心は「閉じていながらも、開かれている」という不思議な状態に置かれます。自分の底に他人がいて、他人の底に自分がいる。まるで西田幾多郎の哲学です。おそらく「確固たる自己」というのは、他人をまったく無視するものではなく、他人を視野に入れながらも維持されるアイデンティティが確立されている状態のことなのでしょう。「分人」の考え方を拝借すれば、たとえ誰と会っていても、共通して立ち上がってくる「自分」というものがある状態。それがしなやかなアイデンティティではないかと想像します。付け加えて言えば、『子どもは40000回質問する』の重要な指摘は知的好奇心は育む必要があり、また基盤となる知識がなければ創造力も思考力もろくに機能してくれない、という点です。言い換えれば、誰かが「自由に」考えられるようになるためには、一定の「押しつけ」(という名の教育)が欠かせないことになります。これだけみると、あまりにもパタナーリズムな感じがするかもしれません。しかし、たとえば「子どもの自由にさせよう」と思い、周りの大人が一切母国語を教えず(=話さず)、子どもが自分の「言語」を立ち上げるに任せているとしたらどうなるでしょうか。その子どもが、「自由に」考えられるようになるでしょうか。この点からも、「開く・開かれている」というのがそんなに簡単な話でないことがわかります。何も手を加えないことが「開く」ではありません。そうではなく、「開かれた状態」に持っていくことが「開く」なのでしょう。ということは、その前段階として「閉じる」ことが必要になります。ここが難しいところです。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC045『Obsidianでつなげる情報管理術』
ゲストはPouhonさん。* Twitter:@Pouhon158* Blog:Output 0.1* Amazon著者ページ『Obsidianでつなげる情報管理術』について数少ない、日本語で書かれたObsidianについての書籍です。ちなみにもう一冊、以下の本があります。『情報をまとめて・並べるだけ!超シンプルな「手帳」兼「アイデア帳」運用術: 文章を書き、考える人のためのObsidian活用術 情報整理大全』(choiyaki)個人的には、こんな風にいろいろな人がObsidianの使い方を公開していくと、きっと良い未来がやってくると感じます。コピペでコンテンツを切り売りするような「アウトプット」はもうおなかいっぱいですね。概要本書の目次は以下の通り。目次:* はじめに* 第一章 言葉の形、記憶のカタチ、メモのかたち* 第二章 Obsidianの準備* 間章 情報管理の課題と対策* 第三章 DiMFiTを構築する* 第四章 Obsidianの検索機能* 第五章 Obsidianアンチパターン* 第六章 実践 読書メモの作り方Obsidianの操作説明書ではなく、Obsidianの特性を活かす考え方を提示し、「こう使っていこうよ」と提案している一冊です。前半部分が非常に分析的であり、拙著『Scrapbox情報整理術』とも近しい雰囲気で楽しめます。DiMFiTについて本書の白眉はDiMFiT(ディムフィット)という概念でしょう。ググってみるとフランス・リヨンのスポーツジムに同じ名前のものがあるようですが、もちろんまったく関係ありません。以下の要素の頭文字 or 二文字目 を取った言葉です。*頭文字が全部大文字なので、普通につなげると言葉にしにくかったのだと推測します。* Daily note* Link* Metadata* Folder* Title* Tagデジタルノートにおける、「情報を引っ張り出すときに使用される要素」が簡潔に整理されています。でもって、これはObsidianに限らず、他のデジタルノートにおいても適用できる概念でしょう。ツールによって、それぞれの要素の強弱はありますが、何かしらの形でこれらが使われていることが確認できると思います。本書のこの部分は、実用的なノウハウを超えて、「知的生産の技術書」として今後も参照されることになると思います。関連ページ◇ぷーおんさんに聞きたいこと - BCBookReadingCircle This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC044 『アトミック・シンキング: 書いて考える、ノートと思考の整理術』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。本日は、いつもより早いタイミングで本を紹介させていただきます。今回は、ごりゅごが2022年頭から書き進めた本『アトミック・シンキング: 書いて考える、ノートと思考の整理術』が8月11日に発売となるので、その本について自ら語らせていただきました。かつてBC017で倉下さんが自分の本を紹介して以来の、セルフ・カタリストです。BC017『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』 - by 倉下忠憲@rashita2本編の中で倉下さんが「感想戦」ということばを使っていたのですが、今回話した内容は、まさに将棋の感想戦のような「書いた本について他の選択肢を検討してみる」という実に面白い、興味深い体験でした。今回できあがった本はこういう形になったけど、他にもこういう書き方もあったかもしれない。そうすると、こう展開が変わって、こんな人にも面白がってもらえるような書き方ができたかもしれない。感想戦を終えてからこれを家に持ち帰って「研究」し、次の対局(執筆)ではそれを踏まえた成果を披露できるようにする。「正しい本のプロモーション」としては、やはり「この本はこんなすごい本です!こういう効果があります。読めばこんなすごいことができますよ」ということを話すべきかもしれないんですが、それよりも、次にもっといい本を書けるようになりたいという思いが強く、結果として「感想戦」は非常によい体験になりました。まあ、そう言っておきながらも終盤は(できるだけブックカタリスト本編では突っ込みすぎないようにしている)デジタルツールの話なんかも盛り上がったりしてしまったわけですが、たまには、一応今回は特別な回ということで、生暖かくお聴きいただけましたら幸いです。本に関する意見、感想、質問などありましたら、別ニュースレターになりますが、質問用の場所も設けております。『アトミック・シンキング』に関する質問スレッド - by goryugo - ナレッジスタック内容に関しては、ここで可能な限り全力でお答えさせていただきます。また、いただいた感想には、可能な限り全力でハートボタンをクリックさせていただきます。是非こちらもお気軽にご利用ください。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC043『進化を超える進化 サピエンスに人類を超越させた4つの秘密』
今回の本は、実はこれまで紹介したことがなかった歴史系?進化論系?の本。個人的にはこの分野もわりと昔から好きなジャンルで、今回の本は読んでて『サピエンス全史』を思い出すようなワクワク感がありました。人間を人間たらしめるものは「火」「ことば」「美」「時間」という4つのものがあった。とした上で、それぞれどのような貢献をしてきたのか、というのをまとめた本。特に興味深かったのは、人類最初のテクノロジー「火」の話。人間は、火を手に入れたから他の動物と違う生き物になることができた。動物は火を恐れるが、人間は火を恐れない。小さい頃にそういう話を聞いて、ふーんそんなものなのか、と思った記憶があるんですが、今思えばそれってなんの説明にもなっていない!じゃあいったい、人は火を手に入れてなにが変わったのか。少なくともごりゅごは本書を読んでようやく納得できる説明を手に入れることができました。正直、火の話以降は少しずつまとまりがなくなり、最後のほうは「小ネタ集」「豆知識集」というような印象も受けたりもしました。が、それを差し引いても「火」がよかった。それだけで十分面白かった。そんな話です。また今回は『人体大全』という本に書かれていた話もたくさん登場しています。この本もある意味「豆知識集」なんですが、豆知識の量と深さが半端無く、これもまたオススメの一冊でもあったりします。今週も、サポーターの方向けにブックカタリスト本編で使った台本をお届けしています。【台本】BC043 - by goryugo - ブックカタリスト This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC042『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』
今回取り上げたのは、『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』。タイトルはノウハウ書っぽい響きですが、実際は「デジタル時代のナレッジワークに必要なこと」を提言する一冊です。書誌情報* 著者:カル・ニューポート* 翻訳:池田真紀子* 原題:『A World Without Email: Reimagining Work in an Age of Communication Overload』* 出版社:早川書房* 出版日:2022/5/24概要大きく二つの部で構成されている。第一部は「メールが持つ問題」が指摘されるが、別段電子メールを使わないようにしようと著者は主張したいわけではない。そうではなく、メールによる常時接続性、不要なタスクの発生、返信しなければならないという心理的圧力が、働き手のポテンシャルを抑えてしまう点を問題視している。電子メールはあっという間に、私たちの「仕事」に入り込んだが、電子メールがどのような機能を持ち、私たちのワークフローにどのような影響を与えるのかがそれぞれの職場で検討された後はあまりうかがえない。むしろちょっとした会話はおしゃべりの代替として「するっと」入り込んできた、というのが実態に近いだろう。そんな運用では、いずれ破綻するのは目に見えているし、運用を変えないままにツールを替えたとしても状況は変わらず、むしろ悪化することも懸念される。電子メールを起点とした、「注意散漫な集合精神」はナレッジワーカーにとって百害あって一利くらいしかない(メールはなにしろ手軽なのだ)。その百害を理解した上で、変化を呼び込んでいかなければならない。そこで第二部では、どのようなワークフローを構築していけばいいのかについての原則が四つ示される。注意資本の原則知識産業の生産性は、人間の頭脳が持つ、情報に継続して価値を付け加える能力をこれまで以上に最適に活用できるようなワークフローを確立することにより、大幅な向上を望める。工程(プロセス)の原則洗練された生産工程のナレッジワークへの導入は、業績を大幅に向上させるとともに、ストレスを軽減する。プロトコルの原則職場で業務の調整をいつどのように行うかを最適化するルールの設計は、短期的には労力をようするが、長期的にははるかに生産的な行身という成果を生む。専門家の原則* ナレッジワークでは、取り組む仕事の数を減らし、一つひとつの仕事の質を上げて結果に責任を負うことが、生産性を大幅に向上させるための土台になりうる。また、「効果的な生産工程に共通する特徴」として以下の三点を挙げる。* 作業ごとの担当者と進捗を容易に確認できる。* 散発的なコミニケーションが最小限でも作業が進む。* 工程の進行に合わせて担当者を更新する際の手続きがあらかじめ決められている。さて、皆さんの職場(あるいは自分の働き方)において、これらの原則や特徴はどの程度備わっているだろうか。もし備わっていないとしたら、何をどう買えれば、働き手が自らの注意を活用できるようになるだろうか。などと、考えるフックがたくさん含まれている本である。シン・ドラッカー私はドラッカーが大好きなので、著者が本書内でドラッカーをやや批判的に取り上げようとしているのを感じて、「ほほぅ、お手並み拝見」と挑発的な感じで読み進めていたが、著者の指摘は至極もとっともなものであった。ようは、知識労働者の「仕事の仕方」は管理者がコントロールすることはできないが、しかしすべての裁量を与えなければいけない、というわけではなく、むしろそうすると全体の生産性が下がってしまうことが十分に起こりえる、という点だ。「業務の遂行とワークフローを区別する」と著者は述べる。この場合の「業務の遂行」が、いわゆる知識労働者の領分であり、マネージャーが口出しすべきないものだ。アイデアを考えるのに、紙を使ってもいいし、散歩してもいいし、雑談してもいいし、本を読んでもいい。そんなことをいちいち管理するのは筋が悪い。一方で、組織の中で仕事がどう流れていくのかについては、マネージャーが全体的な視点で統括した方がいい。むしろそれがマネージャーという「知識労働者」の仕事であろう。こうした区別を設けるだけで、仕事の見通しはぐっとつきやすくなるだろう。でもってこれは実はフリーランスにおいても言えることだと思う。たとえば倉下は、「一冊の本を書き上げる」という行為をテンプレート的に進めていくことは毛嫌いするが、かといって一日のタスクをどう割り振り、進めるかということまで非管理的になってしまったらすぐさま破綻する。これまでこの二種類の異なる進め方をどう考えれば整合性を持たせられるかを考えていたが、上記のように捉えればずいぶんとスッキリする。書き手の私と、マネージャーの私は「異なるやり方」で仕事(執筆/マネジメント)に向かえば良いのだ。というわけで、基本的には組織の仕事向けの話ではあるが、もっと広く「ナレッジワークをどうデザインすればいいのか」という大きな視点で問題提起が為されている本である。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC041 『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』
今回の本は、なんだかこれまで紹介してきた本を全部まとめて一冊にしたかのような、すごくいろんなことが「THINK AGAIN」という一つのテーマにまとめられた本でした。個人的には書いてあったことはだいたい知ってたことではありました。ただ「ブックカタリストで紹介した本から一冊だけお勧めを選べ」と言われたら『独学大全』かこの『THINK AGAIN』を選ぶのではないか、というくらい網羅性が高い本でした。ざっと思いつく範囲で、以下の回で語った内容と大きく関連した話が出てきます。* BC037『現代思想入門』 - by 倉下忠憲@rashita2 - ブックカタリスト* BC036『CONFLICTED 衝突を成果に変える方法』 - by 倉下忠憲@rashita2 - ブックカタリスト* BC030 『パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる』 - by goryugo - ブックカタリスト* BC029『NOISE: 組織はなぜ判断を誤るのか?』 - by 倉下忠憲@rashita2 - ブックカタリスト* BC023 『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』 - by goryugo - ブックカタリスト* BC014 『How to Take Smart Notes』 - by goryugo - ブックカタリスト* BC011 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』 - by goryugo網羅性だけでなく、本の中に出てくる事例は素晴らしいものが多く、本編でも長々と語った「学習」についてのエピソードは、様々な場面に応用できそうな素晴らしいものでした。「再考」というものがベースのテーマにあるんですが、たとえば「決めつけてはいけない」(バイナリーバイアスに気をつける)だとか「リレーションシップ・コンフリクトとタスク・コンフリクト」という2種類の人間関係の衝突についてなど、事例や考え方に対する名付けの上手さも注目できる内容でした。たくさんの理由を連ねるより一つだけの理由の方が効果が高い、なんていうのもなかなかに興味深い話。1冊で450ページもあって、正直これは「長いわ」とは思うんですが、それでも10冊分くらいのブックカタリストで紹介してきた本の中身が凝縮されてる、と考えれば長くはないと言えるのかもしれないです。(これまで紹介してきた本を全部読まれている方であれば、興味深いところだけ読むような読み方で十分だとも言えます) This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BCB040『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』
今回は、『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』最近読んだ脳関係の本では抜群に面白い一冊でした。書誌情報* 著者* ジェフ・ホーキンス* 神経科学者でりながら、起業家でもあるいかにもアメリカっぽい人。1992年にパーム・コンピューティングを設立して、「パームパイロット(PalmPilot)」を開発したすごい人でもある。* 翻訳者* 大田直子* 出版社* 早川書房* 出版日* 2022/4/20ちなみに、序文はあのリチャード・ドーキンスが書いている。構成大きく三部立て。第一部は「1000の脳理論」(座標系理論)について。第二部は機械知能について。第三部は脳と知能から見る人類の未来について。及び遺伝子 VS 知能の構図。実際の目次は、以下の通り。目次 序文(リチャード・ドーキンス) 第1部 脳についての新しい理解 第一章 古い脳と新しい脳 第二章 ヴァーノン・マウントキャッスルのすばらしい発想 第三章 頭のなかの世界モデル 第四章 脳がその秘密を明かす 第五章 脳のなかの地図 第六章 概念、言語、高度な思考 第七章 知能の一〇〇〇の脳理論 第2部 機械の知能 第八章 なぜAIに「I」はないのか 第九章 機械に意識があるのはどういうときか 第十章 機械知能の未来 第十一章 機械知能による人類存亡のリスク 第3部 人間の知能 第十二章 誤った信念 第十三章 人間の知能による人類存亡のリスク 第十四章 脳と機械の融合 第十五章 人類の遺産計画 第十六章 遺伝子VS.知識 おわりに 脳科学、あるいは認知科学の話題としては第1部がすこぶる面白い。AIの現状と未来については第2部で展開され、SF的な「人類が進む道とは?」という大きな問いが提示されるのが第3部。どれも面白い。「1000の脳」理論本書に登場する「1000の脳」理論について簡単にまとめる。まず、脳は増築された建物のように、(進化的に)古い部分の上に新しい部分が作られている。しかし、新皮質と呼ばれる高い知性を司ると言われる部分は、少し構造が異なっている。その全体が「似たような構造」ででき上がっているというのだ。視覚を司る部分と、聴覚を司る部分は「結構似ている」(もちろん、違いもある)。そのように同じものを大量に作るならば、進化的に長い時間は必要ない。コピペで作っていける。そのような大量の似た脳の部分(コラムと呼ばれる)が、さまざまな機能を担当している。しかし、その機能は「刺激に反応して運動を起こす」という単純なものではない。そうではなく、新皮質は「予測」をしている。こういう動きをしたら、こうなるだろうと予測し、実際にその通りになっったときに、非常に素早く行動を起こせるようになっている。そのような状態は進化論的に適応であろう。その予測を支えるのがモデルである。世界についてのモデル。「こうしたらこうなる」という理路があるからこそ、予測が可能となる。モデルなしでは予測はできない。私たちの脳は、常にそのモデルを学習している。適切に予測するために。そのモデルが「座標」を使っている、というのが本書の大きな胆。座標があるからこそ、多様な動きに応えるモデルが構築できる。この座標は物理的な存在の理解だけでなく、概念的なものの理解にも関わっている。私たちの概念的なものの学習においても「座標」が重要だ、という点からいろいろなことが考えられるだろう。改めて知能とは?私たち人間は、知的生命体である。生きている限り、私たちの脳は外界について学習し続けている。生きている限り、変化が起こりうるからだ。脳は学び続ける。よって知能とは、「変化し続ける世界に対応する能力」だとプラグマズティックに定義することもできるだろう。今「独学」が盛んであるが、そのように「強いて」行わなくても、脳は学習しているのだ。勉強が不得意だといっても、大きなスーパーに何度か通えば配置を覚えるし、人の性格なども把握するし、何をしたら起こられるのかも学んでいく。人間は学ぶ動物なのだ。その意味で、「生きる上で特別に必要というわけではないことを学ぶ」というのが"人間"にとっての学習であり、引いてはそれこそが「贅沢な学び」であるとも言えるだろう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC039「現代のインターネット環境と退屈の哲学」
今回は三冊の本を紹介しました。* 『退屈とポスト・トゥルース SNSに搾取されないための哲学 (集英社新書)』* 『暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)』* 『何もしない』書誌情報はAmazonなどで確認してもらうとして、話の要旨をまとめておきます。導入なぜ「退屈」に注目するのか?「どう生きるのか」とは、「どう時間を使うのか」にパラフレーズできる。そして現代では「有意義なこと」に時間を使ったほうが言い、という風潮がある。でも、はたして本当にそうなのだろうか。そんな天の邪鬼な観点から「退屈」に注目する。一つの前提として、この社会は「資本主義」にどっぷり浸かっており、それ以外の社会をうまく想像できなくなっている、という点がある。ITツールやネットメディアは私たちに「環境」を提供してくれているが、それが「正しい」のか(あるいは適切なものなのか)は、判然としない。むしろ、あまり良くないのではないか、という懸念も多い。その観点も含めて、退屈の哲学を用いて考えていきたい。『退屈とポスト・トゥルース SNSに搾取されないための哲学 (集英社新書)』簡単にまとめれば、これまでの「退屈の哲学」を振り返りながら、現代に特有の「退屈」状況を考察し、その問題点を指摘する一冊。ポイントは、退屈にいくつかの区分を設定したこと。* 哲学の起源としての退屈* 精神分析的退屈* 政治的退屈* 「創造的」退屈* ネオリベラル的退屈一番最後の」「ネオリベラル的退屈」は、著者が本書で設定した用語。その中核をなすのが「インターフェース」という概念。IT用語としては一般的だが、著者は「入り口(しかないもの)」という含意で用いている。人を誘い込む入り口でありながら、そこからはどこにもいくことができない。人はその場所に留まり続けることになる。TwitterやYouTubeなどでも、特に何かを見たいわけではないのに、延々とスクロールしているときがある。そうしたとき、私たちはネオリベラル的退屈にはまりこんでいる。その退屈は、実際は「手持ちぶさた」なわけではない。何かをしているし、ちょっと興奮もしている(ドーパミンが出ている)。しかし、深い満足感も納得感もそこにはなく、むしろ少しのいらだちや妬みが心に忍び込んでくる。それを解消するために、再び新しい投稿を求めてスクロールしたり、いらないものをスワイプで消したりしていく。まさに現代的な「退屈」の在り方であり、そういう退屈に入り込んでいるとき、「退屈とは何か」「自分とは何か」「人生とは何か」という(哲学的な)問いに人は向き合うことがない。その意味でも、「どこにも出口がない」退屈である。『暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)』今回の中核をなす本で、面白いのでぜひ読んでいただきたい。著者はさまざまな考察を繰り広げるが、一番のポイントはハイデッガーの退屈論を引き受けながらも、それをさらに展開させている部分。ただし、そこに至るまでに「退屈」に関する前提をいくつか押さえておく必要がある。* 人類は最初移動していたが、途中から定住するようになった* 移動する生活では毎日新しい風景に出会い、認知的処理を行わなければならなかったが、定住生活ではそれが不要になった* つまり、定住生活では認知エネルギーが余ってしまう→退屈が感じられる* 私たちは「退屈」を気晴らしでやり過ごそうとする* 気晴らしは熱中できるものであれば何でも構わない(苦しいものであっても人は選択する)* むしろ、楽しいものを選ぶためには訓練された能力が必要かもしれない* かつての有閑階級はそうした能力を持っていた(暇はあるが退屈ではない生き方があった)* そうした能力を持たない人は、苦しいものを選ぶしかなくなる* ただ、どちらにせよどんな気晴らしも効果がない根源的な退屈がある* 「なんとなく退屈だ」がそれだ* それは根源的であるがゆえに気晴らしでやり過ごすことはできず、私たちはその問いに直面せざるを得なくなる* そこから哲学的な思考が始まる* だから、そうした退屈を通り抜けて決断せよ、それが人間が自由であることだとハイデッガーは言った* しかし、著者はその点を問題視した上で、さらに退屈についての論を深めていくここからの展開が非常にスリリングである。環世界と人間の自由の話も面白いので通読されたし。『何もしない』時間の関係であまり取り上げられなかったが、本書も非常に面白く、「奇妙」な一冊。「何もしない」というタイトルであるが、本当に何もしないことを(つまりサボタージュを)進めているわけではない。ある種の「効果的」な行為を行わない、というくらいのニュアンス。結局のところ「効果的」とは、ある基準で測定可能な行為であり、そういう単純な行為は容易に資本主義にとらわれてしまう。だからこそ、「何もしない」。意義ある行為をしないことで、結果的に意義ある行為にたどり着く、というちょっと禅的な感じもある。「生産性」ばかりを求めると、私たちは失敗する。考え方が単純化し、二項対立にとらわれてしまうからだ。だから、そこから距離をとる必要がある。資本主義に投げやりになるのではなく、かといってそのゲームに従順になるわけでもない。資本主義の中にいながらも、その外を想像できるようになるために。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
こちらもおすすめ
Over Realism Radio
「生きながら、好きなことをやっていく」ために考える会です。 ▼ここで喋る人たち にくきゅう(https://twitter.com/nikuniku9) 影織(https://twitter.com/kageori_ar) にっとメガネ(https://twitter.com/nitmegane) ▼お便り・質問フォーム https://over-realism-club.blogspot.com/p/contact.html
ごりゅごcast
テクノロジーを駆使して、仕事や生活がちょっと便利に、楽しくなるテクニックをお届けする番組です。平日お昼に毎週更新。1話1テーマ。 Obsidianやそれに関連する話、自作キーボードと日本語入力なんかの話が最近は多いです。
うちあわせCast
rashitaがいろんな人とおしゃべりするポッドキャストです。知的生産系の話題が多いかと思います。
レイマシキャスト
またよし れいのポッドキャスト。海外のことや仕事のことをお話します。 https://listen.style/p/raymashi?muFyW3np
iPad Workers
iPad活用のヒントになる情報をお届けするポッドキャスト番組 ■LISTENで文字起こしも見られます https://listen.style/p/ipadworkers ipadworkers.substack.com
りびぃの「もの技ラジオ」
生産設備の現役設計者であるりびぃが、ものづくりや技術に関する様々な話をお届けする番組です。 LISTEN https://listen.style/p/rivi-m-susume?HC0gtzEE