BC018 アフタートーク&倉下メモ

Aug 17, 2021 goryugo

『WILLPOWER 意志力の科学』倉下メモ意志力のお話です。認知資源という言い方をしてもよいでしょう。倉下はその概念を伝えるためにMP(エムピー)というたとえをよく使います。メンタルポイントでも、マジックポイントでも、その他その人がイメージしやすい何かであればよい、というゆるい意味でのMPです。それは使ってしまうとなくなってしまう。なくなってしまうと「思うようにできない」。それがHPとは別にある。そういうイメージです。これは、総合的な意味での体力の一部なのですが、一方で体は動くけれども判断力が摩耗している状態というのがあって(仕事終わりにスーパーに行くと実感します)、その辺の感覚を捉えるためにMPという概念を錬成したわけです(MPと聞くとゲームに親しんでいる人は自然とHPと別のパラメータだと認識するからです)。いろいろ厳密に考えていくとMPというたとえでは無理な部分もでてきますが、そもそもたとえは厳密に一致するものではないからたとえなわけですから、個人的にはそれで十分だろうと考えています。とにかく「難しい問題に判断力をつかうと、その後はその力が弱ってしまう」ということが伝わればOKかな、と。で、ゲームのイメージでもわかりますが、それって夜寝て朝起きると回復しているんですね。実は仮眠しても戻る感覚があります。つまり、MPのイメージを持てば、具体的にどのように対処すればいいのかのイメージもわきやすい、というわけです。だいたいのゲームでは、HPを回復するアイテムは入手しやすくてもMPとなると途端に難しくなるので、そういう「希少性の高さ」みたいなものもMPというメタファーには潜んでいるのがお得です。ようするに、MPというメタファーはそれを(デカルト的な)心身二元論に持ち込みたいのではなく、「個人のパラメータの一部であり、使えば減少していくようなところがある(だから無理をするな)」というメッセージを伝えたいために作った次第です。そこさえ伝わればだいたいOKです。近隣の本さて、この手の話は実はいろいろリンクしている話があります。その中でも近隣性が高いのはいかの本。『マシュマロ・テスト――成功する子・しない子』『いつも「時間がない」あなたに (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 』『なぜ意志の力はあてにならないのか―自己コントロールの文化史』2hop先まで提示すると莫大に膨れ上がりますので、まずはこのあたりから探索されるのがよろしいでしょう。次の本の候補紹介する、紹介すると言って先送りになっていた『理不尽な進化』を取り上げます。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC018 『WILLPOWER 意志力の科学』

Aug 10, 2021 goryugo

面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第18回の本日は『WILLPOWER 意志力の科学』について語ります。今回の本は「決断疲れ」というキーワードを掘り下げていく過程でごりゅごが知った心理学者ロイ・バウマイスター氏の「意志力」に関する成果をまとめた本。この意思力関連の話は、ニュースレター「ナレッジスタック」でもたくさん取り上げています。🧘‍♂️選択肢は少ない方がいい - by goryugo - ナレッジスタック🧘‍♂️「あとでやる」を戦略的に使い分ける - by goryugo - ナレッジスタック🧘‍♂️意志力を高める方法は「お金持ちになる方法」と同じ - by goryugo - ナレッジスタック意志の力は「脳の筋力」今回の本は、倉下さんと一緒に話してたくさんの発見をすることができた本でした。話す内容に関しては事前の準備を(結構たくさん)しているんですが、それでも自分一人ではなかなか気がつけないことは多く、人と話すことで新しい発見ができるという体験は貴重です。一人では思いつかなかったであろう内容が、一緒に喋っている本番で見つかるというのは、やはり「やっててよかった」という感覚がありますね。意志の力に関しては「ドラクエのMPにたとえるとわかりやすいけど、細かい点ではちょっと違う」というような話を最初の話として準備していました。そこからの話で「意志の力というものも人間から出てくるもの」という話題になり「意志の力というのは脳の筋肉と言えるかもしれない」という「思いつき」が出てきたのは1つの成果と言えるのかもしれません。脳も筋肉と同じように「動かすためのエネルギー」が必要。さらに、ずっと強い負荷をかけ続けるとだんだん力を出せなくなっていく。ただし、使わなければ弱っていくし、強くするためには負荷をかけて「鍛える」必要がある。この辺りの感覚は、意志力は脳の筋力、という喩えを持ってくると非常にわかりやすくなるイメージがあります。意志の力は「投資」に使うまた、もう1つ「意志の力は消費ではなく投資に使うことが重要」という話。これもまた、話していたその場で思いついた「発見」でした。事前に「意思は無駄に消費しないようにする」というところまでは考えていましたが、それってお金と一緒だね、というのもまた話し相手がいたからこそのこと。高い意思力を持っている人は意志の力を「無駄遣いしない」じゃあその貴重な意志の力をなにに使うのかっていうと「よい習慣」というものに投資する。あ、それって「よいお金の使い方」と一緒だね。人に話すことで考えがまとまる、というのはずっと前から考えいることですが、今回は特に「まとまる」を一歩越えた、新しいアイデアが出てくる、という体験が多かったような気がしています。今回のアフタートークでは、そこをもう一歩広げて、みんなが参加できる「読書会」を開催したいねという話と、それに関わる「サポータープラン」というものについて話していますので、興味をお持ちいただけたら次回も楽しみにお待ちください。参考リンクたすくまの使い方を見てたらタスクシュートの考え方がすごくしっくり来たのでちょっと使ってみることにした – ごりゅご.comたすくまというタスク管理アプリを200日ほど使い続けてわかったこと – ごりゅご.com🧘‍♂️4時間以上働いたら「生産性が下がる」 - by goryugo - ナレッジスタック今回の書籍、残念ながら日本語の電子版がありません。WILLPOWER 意志力の科学 | ロイ・バウマイスター, ジョン・ティアニー, 渡会圭子 |本 | 通販 | AmazonAmazon | Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength (English Edition) [Kindle edition] by Baumeister, Roy F., John Tierney | Behavioral Sciences | Kindleストア This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC017 アフタートーク

Aug 3, 2021 goryugo

参考リンクブックカタリスト - アープラノート(ブックカタリストについて言及してくれていたScrapbox)Apple Podcast内のゆる言語学ラジオごりゅごcast: 🎙668 NGSLという英単語リスト2800語を一通り学習できたのでコツや感想を語る on Apple PodcastsAnkiを使った英語学習が紙より20倍以上効率がいいので是非試してみて欲しい – ごりゅご.com This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC017『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』

Jul 27, 2021 goryugo

今回は『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』を取り上げます。というか、倉下の新刊です。著者が自分の本をテーマに取り上げる。まるで『ロラン・バルトによるロラン・バルト』みたいですね。ただ、著者による本の解説というよりは、「そういう風に読める」という一つの視点として聞いていただければと思います。この本は?ノートの本です。ただし、「ノート術」として連想される本とはちょっと違っているかもしれません。むしろ「ノート論」(ノート論考)が近いかも。とは言え、小難しい議論を展開してはいません。だいたい言いたいことは、「みんなもっとノートを書こうぜ(いろいろな場面で利用しようぜ)ってことです。第一章で、記録という「テクノロジー」の話をし、そこから情報と記録と私たち人間の関係を論じています。第二章からはいよいよノートの話で、第三章と合わせて「実行」に関するノーティング(ノートを書くこと)を紹介しています。いわゆるタスク管理系の話題です。で、第四章からはいわゆる知的生産系の話題に移るわけですが、この辺から本の展開が「妙な具合」になってきます。転調が始まるのです。つまり、一般的なビジネス書・自己啓発書が奏でるメロディーとは変わってくるのです。続く第五章では読書におけるノートの使い方で、片方は「本の読み方」を紹介する章であり、もう片方ではこれまでの章で紹介してきた技法の実際例を検討する章でもあります。第六章では、自分のために書くノートから他の人に向けて書くノートへと話題が移り、ここまで論じてきた話が有機的に接合します。つまり、自分=他人、書くこと=読むこと、ノート=本、という概念の連続性が見出されます。最後を飾る第七章では、いわゆる自己啓発的なものへの超克が試みられています。簡単に言えば、「人生を誤配させようぜ」というメッセージです。だいぶヤバイこと言っている自覚はありますが、自分の人生を振り返ってみても、そしてたくさんの人の話を聞いても、やっぱり人生にとって重要なことの多くって、そういう形で起こるのだという感覚があります。自分で自分の人生を支配するなんて、つまらないですよね。というような(なかなか複雑な)話が展開されている本です。万人受けするのかどうかはまったくわかりませんが、それでも著者自身が星5をつけられる本になりました。よろしければチェックしてみてください。目次* はじめに ノートをめぐる冒険* 第一章 ノートと僕たち 人類を生みだしたテクノロジー* 第二章 はじめるために書く 意志と決断のノート* 第三章 進めるために書く 管理のノート* 第四章 考えるために書く 思考のノート* 第五章 読むために書く 読書のノート* 第六章 伝えるために書く 共有のノート* 第七章 未来のために書く ビジョンのノート* 補章 今日からノートをはじめるためのアドバイス* おわりに 人生をノートと共に関連ページ◇『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』 - 倉下忠憲の発想工房 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC016 アフタートーク&倉下メモ

Jul 20, 2021 goryugo

『英語独習法』倉下メモ倉下も読んでいた本ですが、ほとんどすっかり内容を忘れておりました。今回はいい感じで復習できたと思います。* 言語を使うことにおいては「スキーマ」がメチャ重要* 言葉(知識)は関係性を持っている(共起・似た言葉)* ともかく語彙を増やそう* 勉強は目的とコストを考えてたとえば、「Zettelkasten」という言葉があるのですが、いまだに倉下はこの言葉が覚えられません。なぜかというと発音できないからなんですね。これはドイツ語に限らず、読みづらい英単語とか漢字とかでも起きます。逆に言うと、読めるものは思い出しやすい。つまり、文字・意味・音という三つの記憶が結びついていると覚えやすい(あるいは思い出しやすい)のです。一つの単語レベルでも、複数の情報が組み合わさっています。また、共起語のように、ある言葉とよく一緒に使われる言葉というのもあって、ズボンは履くで、服は着るというのは本編でも出てきましたが、他にもそのニュアンスならこの言い方といったチョイスもすべてこの共起関係にあると言えます。イディオムなんかは固定化された共起性とも言えるでしょう。文の構成レベルでも似たようなことはあって、「Aは少々高い。しかし、」という文があったら、読み手は必然的に「性能も高いのでそれでも満足できる」とか「Bはもっと高いので比較的お得である」のような文が来るだろうと(無意識に)予想します。この無意識の予想がスキーマなわけですが、それは「Aは少々高い。しかし、明日の天気は晴れだ」という文章があまりにも不自然に感じられることからもわかるでしょう。文法的に何一つ誤りがなくても、文章としてはヘンだと感じる何かがあるわけです。この例はかなり極端ですが、そういう「ヘンな感じ」を避けようと思ったら、逆に「どういう文ならヘンとは感じられないのか」を体感するしかありません。知識としてではなく、実感としてそれがわかるようになる必要がある、ということです。この辺の話は、ウィトゲンシュタインの「言語ゲーム」の話にも通じているでしょう。でもって、類似の単語レベルでも関係性があります。「歩く」と「ふらふら歩く」と「ちょこまかと歩く」という言葉の(あるいはそのニュアンスの)違いが知覚できるのは、そうした類似の言葉があるからです。「赤」という色が認識できるのは、赤い以外の色を知っているから、というのに近しいでしょう。類似する言葉との差異の中で、その言葉の意味が際立つ。そんな風に言えるかもしれません。だからまあ、語彙を増やすのは、特にネットワークとして語彙を増やすのは大切なのだと思います。それは何も類義語を覚えよというだけの話ではなく、一つの文(あるいは文章)もまた言葉のネットワークを形成していると考えれば、文(文章)に触れることも大切なのだ、という話に接続します。ちなみに、中公新書の『英語の読み方 ニュース、SNSから小説まで』(北村一真)では、英文の「こういう文の構造がきたら、次はこう来るよね、ほらやっぱり」という本来言語化されていないスキーマ的予想が、非常にわかりやすく言語化されているので、まさに「英語の読み方」の参考書として有用です。あと、ちくま新書の『英語の思考法 ――話すための文法・文化レッスン』は最近買って、これから読むところです。この三つを、英語学習新書御三家と呼ぶ……かどうかは、読み終えてから判断するとします。次の本の候補『理不尽な進化』がすごく面白かったのでぜひ取り上げようとも思いましたが、倉下は著作業を営んでおり、ちょうど新刊が発売されるので、その本を著者自らが紹介する、という試みをやってみようと思います。『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC016 『英語独習法』

Jul 13, 2021 goryugo

面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第16回の本日は『英語独習法』について語ります。今回の本は、読み終えてから比較的時間が経ったものでした。ただ最近は「読書メモを整理して1ノート1要素にまとめる」ということをやっているおかげで、読んでから時間が経った本の方が中身についてじっくり考えを深められるようになっています。実はこれ、『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』も同じような状態で収録したもので、そういう意味でもLearn Betterと同じようにうまく話せたのではないか、という自負もあったりします。英語学習版『Learn Better』でありつつ「世界の見え方が変わる本」『英語独習法』大きく2つの点が素晴らしかったです。1つは英語に特化した『Learn Better』のような、どのように学習をすることが、英語を学ぶのに有効な手法なのか、というのを学術的な観点で話してくれるところ。特に最も痛快だったのは‌「目標を決める」ことの重要さを語った上で、できるようになりたいは目標ではないという言葉でぶった斬ってくれたこと。世の中にある英語学習コンテンツの多くが「これだけでいい」「簡単」というようなお手軽感満載のタイトルで溢れていることに対して、『英語独習法』では以下のように「覚悟を決めろ」と迫ってきます。できるようになりたい、というのは目標ではなくただの願望。どのレベルまで、どこまで時間と労力を使う覚悟があるか、ということをきちんと考えて、自分の目指すものを考える。『Learn Better』でも出てくるんですが、学びを深めるための基本は「価値を見出し」「目標を決める」こと。これを「どこまで時間と労力を使う覚悟があるか」と語ってくれる本は信頼できる。そしてもう1つ、この本が興味深いのは「英語という言語での世界の捉え方」を教えてくれること。Did you see "the" broken headlight?Did you see "a" broken headlight?本編でも語った話ですが、ネイティブの人は"the"なのか"a"なのかで答えが変わる、という話などなど、英語を話している人が感じている世界、というものがいかに自分と異なるものなのか、という実例を見せてくれた、大変興味深いものでした。この部分に関して言えば、英語に興味がなくとも、言語というものがいかに興味深いものなのか。それを知ることができる点だけでも一読の価値はあると感じています。いろんな本が自分の中でNo1判定されているんですが、これは「今年一番短い期間で読み終えた本」No1です。本編中に紹介した本* 英語の読み方 ニュース、SNSから小説まで (中公新書) | 北村一真 | 英語 | Kindleストア | Amazon This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC015 アフタートーク

Jul 6, 2021 goryugo

おたよりコーナーを始めました最近、非常にたくさんのコメントなどをいただけるようになってきて嬉しかったので、お便りコーナー的なものをアフタートークで話すようにしてみました。ハッシュタグ#ブックカタリスト をつけてTwitterで呟いていただいたコメントは全て確認させていただいております(ありがとうございます)試しにやってみたお便りコーナーなんですが、これのおかげで前回紹介した本を再度振り返ることができるようになり、これまでよりもさらにもう1段階1つの本について掘り下げることができるようになったと感じています。今後も#ブックカタリスト付きのタグは可能な限り紹介させていただきます。また、Twitterでのコメント以外にも、このページにコメントをつけていただいたり、このメールに返信していただくことでも、ごりゅごと倉下にご連絡いただけます。ご活用ください。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC015『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

Jun 29, 2021 goryugo

今回はマイケル・サンデルの『実力も運のうち 能力主義は正義か?』を取り上げます。ちなみに、すごく売れている本ですが、結構難しいというか噛みごたえのある本です。関連情報本書の内容の序盤に関しては、以下の動画をみれば掴めると思います。ただし、本書の一番の論点は後半部分にあるので、できればそちらも押さえておきたいところです。TED:能力主義の横暴倉下の読み日本語のタイトルは『実力も運のうち 能力主義は正義か?』ですが、原題は『The Tyranny of Merit: What’s Become of the Common Good?』です。* Tyranny:専制政治,横暴* Merit:値する,優れた価値、功績、* Meritism:実力主義・能力主義* Common Good:共通善イギリスの社会学者のマイケル・ヤングが1958年の『The Rise of the Meritocracy』ですでに予見していた「能力主義」(Meritism)が持つ弊害を、現代の状況において確認し、その打開策を探る、というのが本書のテーマです。で、原題に注目してみると、「Common Good」(共通善)という言葉が出てきます。倉下の読みでは、この言葉こそが本書の鍵です。日本語のタイトルに引きつければ、「能力主義は正義か。もし正義でないとしたら、何が正義になりうるのか」を論じた本、ということ。その点を見過ごして、能力主義が良くないものだと主張しているだけの本だと捉えると、本書の大切な部分を読み過ごしていることになります。でもって、そこから論じられる展開こそが、コミュニタリアニズムを主張する著者の思想に合流するものです。そして、もっとつっこんだことを言えば、「能力主義は正義ではない。実はこれこそが正義なのだ」という議論しかできないならば、それは王様の首をすげ替えているにすぎません。そうではなく、「私たちにとっての正義とは何だろうか」という議論を始めるためのきっかけを提供することが本書の一番の贈り物だと思います。なので、「この本では具体的な代替が提示されていない」のような批判はまったく読み落としです。そうではなく、そうした代替がトップダウンで提示されてしまう状況そのものが、私たちの協同的な議論を棄損してしまっているというのが、現代的な状況なのだと倉下は考えます。目次* 序論―入学すること* 第1章 勝者と敗者* 第2章 「偉大なのは善良だから」―能力の道徳の簡単な歴史* 第3章 出世のレトリック* 第4章 学歴偏重主義―何より受け入れがたい偏見* 第5章 成功の倫理学* 第6章 選別装置* 第7章 労働を承認する* 結論―能力と共通善著者の他の著作と関連回* 『これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)』* 『完全な人間を目指さなくてもよい理由-遺伝子操作とエンハンスメントの倫理』* 『公共哲学 政治における道徳を考える (ちくま学芸文庫)』* 『それをお金で買いますか 市場主義の限界』* ◇BC005『これからの「正義」の話をしよう』 - ブックカタリスト This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC014 アフタートーク&倉下メモ

Jun 22, 2021 goryugo

『How to Take Smart Notes』倉下メモ全体的にねじれた印象を覚えた本でした。まず、きわめて有用な本という印象。それでいてなんだか読みにくいという印象。目次を見ても、何が書いてあるのかはわかるのですが、それら一つひとつの文章が全体においてどういう位置づけを持ってくるのかがわかりませんし、また実際に読んでいてもこの話は全体の趣旨にどう貢献しているのかが掴みづらい感じがずっとしていました。逆に、これらの章がWebに置かれていて、目次がindex.htmlだったらそこまで違和感はなかったかもしれません。興味があるページのリンクを踏んで読んでいく、というスタイルならむしろ抜群にハマりそうな気がします。でもってこれが、「ネットワーク型」ということの意義であり、たぶん私たちの脳の自然なスタイルでもあるのでしょう。言い換えれば、情報に構造を与えるというのは「人工的」な行為なわけです。しかし倉下は、(一応プロの物書きとして)そうした人工さが必要ではないかと感じた次第です。でももしかしたら、それは古い考えなのかもしれません。全体の中から興味がある部分を読み、それ以外の部分は簡単に済ませる、というのが「技術書」にとっては必要な形式なのかもしれません。むしろ、著者が強い構造を作ってしまうのは──つまり、はじめからおわりまで読まなければ意味が取れない文章を作るのは──ひどい押しつけなのかもしれません。とはいえ個人的には、少しずつ読み進めていくうちに、読み手の脳内に構造ができてきて、おおぉそうか!と楽しめるような、一種小説的な本が(技術書であっても)好きだったりします。これはもう、サガというか欲求にすぎないので普遍性を論じるものではありませんが。でもまあ、「考える上で、書くことは欠かせない」という話はとても大切だと思います。英語なので若干近寄りがたいと思われる人は、2021年7月に発売予定の倉下の新刊にも似た話が出てきますので、そちらもご期待ください(突然の宣伝)。ちなみに「Zettelkasten」は、カードボックス、という意味でした(倉下の勘違いでした)。次の本の候補『実力も運のうち 能力主義は正義か?』前回も候補として挙げましたが、読み終えた上でやっぱり紹介したい気持ちが強まっていますので、こちらにしようかと思います。『理不尽な進化』ただこの本もめっちゃ面白いですし、サンデル本と共時するようなテーマもあるので可能なら両方に言及してみたいと思います。無理なら、この本だけでも一回使いたいくらい面白い本であることは書いておきます。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC014 『How to Take Smart Notes』

Jun 15, 2021 goryugo

面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第14回の本日は『How to Take Smart Notes』について語ります。今回の本は、デジタルガーデン、エバーグリーンノートなど、最近ごりゅごが注目している新しいデジタルノートの手法に大きく影響を与えた、と言われている2017年の書籍。日本語版がなく、DeepLと一緒になって苦労しながら読んだ本でした。なぜ書くか どうやって書くか どういう事を書くかこの本を一言で説明するならば「書く」ことについての本。書くことにどんな効果があるのか。それによってどんなメリットがあるのか。どういうことを書いたらいいのか。それらについてひたすらに掘り下げた本で、ある意味では前回紹介した『Learn Better』の「ノート特化本」とも言えます。BC011 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』 - ブックカタリストまた、あえて別のタイトルをつけるのならば『ニクラス・ルーマンのノート術』38冊の本と数百の論文を書いた社会学者ニクラス・ルーマンの「Zettelkasten(本書ではスリップボックスと呼ばれる)」という手法について徹底的に解説した本、という見方もできます。書くことは「勘違い」されている本書冒頭では、まず「書く」という行為の前提条件から話が始まります。世の中は「書く」ということを見下しすぎており、同時に「書く」ということを神聖視しすぎている。ノートを書くということはスキルが必要な「高度な行為」であるにも関わらず、書くということについて論じた本は少ない。また、小説や本の書き方などが議論になることはあっても、普段のノートについて書かれた本はほとんどない。そして、これらの本というのは、いつも必ず「白紙の状態」から本を書く、ということになっている。まず、この前提条件がおかしい。書くということは、白紙からスタートするものではない、というところから話が始まります。その上で、書くということをはどういう効果があるのか、なぜ書くのか。そしてそれを「習慣にする」ことがいかに重要なのか、ということをひたすらに論じているのがこの本のほぼ全て。本の影響で6章までの読書メモを作り直したちなみにごりゅごは、主にこの本の影響を受けて、6章くらいまでの読書メモを一旦放棄。引用ばかりだった6章までの読書メモは、もう1回その部分を読みなおし、読書メモを「自分の言葉で書きなおす」ということをやりました。自分の言葉で書くことがいかに重要なのか、という本を読んでいるくせに、ブックカタリストのようの読書メモが「引用」になっていてはなんの意味もないだろう。そう思ってやり直してみたんですが、改めて「自分の言葉で」「書く」ということがいかに読書や学習で重要なのかということを痛感させられました。(これだけでも、この本を読んだ価値はあったと言える)まとめノートの効能などの詳細まではここで触れませんが、ごりゅごが重要だと感じたことは以下の3点。* 自分の言葉でノートを書く* それだけ読んでわかるように書く* ちょっとずつ進める(習慣にする)正直、1冊の本としての構成は非常にごちゃごちゃでわかりにくいです。これは、本に書かれていることが難解というわけではなく、ただ単純に構成が悪いとしか思えないもの。また、書かれている英語も(著者がドイツ圏の人だからか)非常に理解しづらい部分が多く、そういった意味でもなかなかに読むのに骨が折れる本でした。ただ、ごりゅごは確かに間違いなくこの本からも大きく影響を受けてるんですよね。『Learn Better』と同じく、読み終えてノートにまとめていくうちに『How to Take Smart Notes』の評価は上がってきています。この本のおかげで自分がまとめるノートというものは「よくなった」と実感しているし、ノートの書き方というものが1段階上のレベルに到達できたような感じはします。本当にこの本が素晴らしいのかと言われると悩ましいところで「わかりにくいものを苦労しながら読んだ」おかげで多くのものが得られた、と考えることもできてしまいます。仮にそうだったとしても、それはそれで「独学テキスト」として素晴らしいものだったということもできるわけで、やっぱりいい本だったという結論になるのかな。好きか嫌いかの意見は分かれそうですが、たくさんの影響を受けた、ということだけは間違いないものになりそうです。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe