BC015 アフタートーク

Jul 6, 2021 goryugo

おたよりコーナーを始めました最近、非常にたくさんのコメントなどをいただけるようになってきて嬉しかったので、お便りコーナー的なものをアフタートークで話すようにしてみました。ハッシュタグ#ブックカタリスト をつけてTwitterで呟いていただいたコメントは全て確認させていただいております(ありがとうございます)試しにやってみたお便りコーナーなんですが、これのおかげで前回紹介した本を再度振り返ることができるようになり、これまでよりもさらにもう1段階1つの本について掘り下げることができるようになったと感じています。今後も#ブックカタリスト付きのタグは可能な限り紹介させていただきます。また、Twitterでのコメント以外にも、このページにコメントをつけていただいたり、このメールに返信していただくことでも、ごりゅごと倉下にご連絡いただけます。ご活用ください。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC015『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

Jun 29, 2021 goryugo

今回はマイケル・サンデルの『実力も運のうち 能力主義は正義か?』を取り上げます。ちなみに、すごく売れている本ですが、結構難しいというか噛みごたえのある本です。関連情報本書の内容の序盤に関しては、以下の動画をみれば掴めると思います。ただし、本書の一番の論点は後半部分にあるので、できればそちらも押さえておきたいところです。TED:能力主義の横暴倉下の読み日本語のタイトルは『実力も運のうち 能力主義は正義か?』ですが、原題は『The Tyranny of Merit: What’s Become of the Common Good?』です。* Tyranny:専制政治,横暴* Merit:値する,優れた価値、功績、* Meritism:実力主義・能力主義* Common Good:共通善イギリスの社会学者のマイケル・ヤングが1958年の『The Rise of the Meritocracy』ですでに予見していた「能力主義」(Meritism)が持つ弊害を、現代の状況において確認し、その打開策を探る、というのが本書のテーマです。で、原題に注目してみると、「Common Good」(共通善)という言葉が出てきます。倉下の読みでは、この言葉こそが本書の鍵です。日本語のタイトルに引きつければ、「能力主義は正義か。もし正義でないとしたら、何が正義になりうるのか」を論じた本、ということ。その点を見過ごして、能力主義が良くないものだと主張しているだけの本だと捉えると、本書の大切な部分を読み過ごしていることになります。でもって、そこから論じられる展開こそが、コミュニタリアニズムを主張する著者の思想に合流するものです。そして、もっとつっこんだことを言えば、「能力主義は正義ではない。実はこれこそが正義なのだ」という議論しかできないならば、それは王様の首をすげ替えているにすぎません。そうではなく、「私たちにとっての正義とは何だろうか」という議論を始めるためのきっかけを提供することが本書の一番の贈り物だと思います。なので、「この本では具体的な代替が提示されていない」のような批判はまったく読み落としです。そうではなく、そうした代替がトップダウンで提示されてしまう状況そのものが、私たちの協同的な議論を棄損してしまっているというのが、現代的な状況なのだと倉下は考えます。目次* 序論―入学すること* 第1章 勝者と敗者* 第2章 「偉大なのは善良だから」―能力の道徳の簡単な歴史* 第3章 出世のレトリック* 第4章 学歴偏重主義―何より受け入れがたい偏見* 第5章 成功の倫理学* 第6章 選別装置* 第7章 労働を承認する* 結論―能力と共通善著者の他の著作と関連回* 『これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)』* 『完全な人間を目指さなくてもよい理由-遺伝子操作とエンハンスメントの倫理』* 『公共哲学 政治における道徳を考える (ちくま学芸文庫)』* 『それをお金で買いますか 市場主義の限界』* ◇BC005『これからの「正義」の話をしよう』 - ブックカタリスト This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC014 アフタートーク&倉下メモ

Jun 22, 2021 goryugo

『How to Take Smart Notes』倉下メモ全体的にねじれた印象を覚えた本でした。まず、きわめて有用な本という印象。それでいてなんだか読みにくいという印象。目次を見ても、何が書いてあるのかはわかるのですが、それら一つひとつの文章が全体においてどういう位置づけを持ってくるのかがわかりませんし、また実際に読んでいてもこの話は全体の趣旨にどう貢献しているのかが掴みづらい感じがずっとしていました。逆に、これらの章がWebに置かれていて、目次がindex.htmlだったらそこまで違和感はなかったかもしれません。興味があるページのリンクを踏んで読んでいく、というスタイルならむしろ抜群にハマりそうな気がします。でもってこれが、「ネットワーク型」ということの意義であり、たぶん私たちの脳の自然なスタイルでもあるのでしょう。言い換えれば、情報に構造を与えるというのは「人工的」な行為なわけです。しかし倉下は、(一応プロの物書きとして)そうした人工さが必要ではないかと感じた次第です。でももしかしたら、それは古い考えなのかもしれません。全体の中から興味がある部分を読み、それ以外の部分は簡単に済ませる、というのが「技術書」にとっては必要な形式なのかもしれません。むしろ、著者が強い構造を作ってしまうのは──つまり、はじめからおわりまで読まなければ意味が取れない文章を作るのは──ひどい押しつけなのかもしれません。とはいえ個人的には、少しずつ読み進めていくうちに、読み手の脳内に構造ができてきて、おおぉそうか!と楽しめるような、一種小説的な本が(技術書であっても)好きだったりします。これはもう、サガというか欲求にすぎないので普遍性を論じるものではありませんが。でもまあ、「考える上で、書くことは欠かせない」という話はとても大切だと思います。英語なので若干近寄りがたいと思われる人は、2021年7月に発売予定の倉下の新刊にも似た話が出てきますので、そちらもご期待ください(突然の宣伝)。ちなみに「Zettelkasten」は、カードボックス、という意味でした(倉下の勘違いでした)。次の本の候補『実力も運のうち 能力主義は正義か?』前回も候補として挙げましたが、読み終えた上でやっぱり紹介したい気持ちが強まっていますので、こちらにしようかと思います。『理不尽な進化』ただこの本もめっちゃ面白いですし、サンデル本と共時するようなテーマもあるので可能なら両方に言及してみたいと思います。無理なら、この本だけでも一回使いたいくらい面白い本であることは書いておきます。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC014 『How to Take Smart Notes』

Jun 15, 2021 goryugo

面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第14回の本日は『How to Take Smart Notes』について語ります。今回の本は、デジタルガーデン、エバーグリーンノートなど、最近ごりゅごが注目している新しいデジタルノートの手法に大きく影響を与えた、と言われている2017年の書籍。日本語版がなく、DeepLと一緒になって苦労しながら読んだ本でした。なぜ書くか どうやって書くか どういう事を書くかこの本を一言で説明するならば「書く」ことについての本。書くことにどんな効果があるのか。それによってどんなメリットがあるのか。どういうことを書いたらいいのか。それらについてひたすらに掘り下げた本で、ある意味では前回紹介した『Learn Better』の「ノート特化本」とも言えます。BC011 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』 - ブックカタリストまた、あえて別のタイトルをつけるのならば『ニクラス・ルーマンのノート術』38冊の本と数百の論文を書いた社会学者ニクラス・ルーマンの「Zettelkasten(本書ではスリップボックスと呼ばれる)」という手法について徹底的に解説した本、という見方もできます。書くことは「勘違い」されている本書冒頭では、まず「書く」という行為の前提条件から話が始まります。世の中は「書く」ということを見下しすぎており、同時に「書く」ということを神聖視しすぎている。ノートを書くということはスキルが必要な「高度な行為」であるにも関わらず、書くということについて論じた本は少ない。また、小説や本の書き方などが議論になることはあっても、普段のノートについて書かれた本はほとんどない。そして、これらの本というのは、いつも必ず「白紙の状態」から本を書く、ということになっている。まず、この前提条件がおかしい。書くということは、白紙からスタートするものではない、というところから話が始まります。その上で、書くということをはどういう効果があるのか、なぜ書くのか。そしてそれを「習慣にする」ことがいかに重要なのか、ということをひたすらに論じているのがこの本のほぼ全て。本の影響で6章までの読書メモを作り直したちなみにごりゅごは、主にこの本の影響を受けて、6章くらいまでの読書メモを一旦放棄。引用ばかりだった6章までの読書メモは、もう1回その部分を読みなおし、読書メモを「自分の言葉で書きなおす」ということをやりました。自分の言葉で書くことがいかに重要なのか、という本を読んでいるくせに、ブックカタリストのようの読書メモが「引用」になっていてはなんの意味もないだろう。そう思ってやり直してみたんですが、改めて「自分の言葉で」「書く」ということがいかに読書や学習で重要なのかということを痛感させられました。(これだけでも、この本を読んだ価値はあったと言える)まとめノートの効能などの詳細まではここで触れませんが、ごりゅごが重要だと感じたことは以下の3点。* 自分の言葉でノートを書く* それだけ読んでわかるように書く* ちょっとずつ進める(習慣にする)正直、1冊の本としての構成は非常にごちゃごちゃでわかりにくいです。これは、本に書かれていることが難解というわけではなく、ただ単純に構成が悪いとしか思えないもの。また、書かれている英語も(著者がドイツ圏の人だからか)非常に理解しづらい部分が多く、そういった意味でもなかなかに読むのに骨が折れる本でした。ただ、ごりゅごは確かに間違いなくこの本からも大きく影響を受けてるんですよね。『Learn Better』と同じく、読み終えてノートにまとめていくうちに『How to Take Smart Notes』の評価は上がってきています。この本のおかげで自分がまとめるノートというものは「よくなった」と実感しているし、ノートの書き方というものが1段階上のレベルに到達できたような感じはします。本当にこの本が素晴らしいのかと言われると悩ましいところで「わかりにくいものを苦労しながら読んだ」おかげで多くのものが得られた、と考えることもできてしまいます。仮にそうだったとしても、それはそれで「独学テキスト」として素晴らしいものだったということもできるわけで、やっぱりいい本だったという結論になるのかな。好きか嫌いかの意見は分かれそうですが、たくさんの影響を受けた、ということだけは間違いないものになりそうです。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC013アフタートーク

Jun 8, 2021 goryugo

次回紹介予定の本『英語独習法』なんだかんだ、この本はすごく面白かったです。英語学習用の『Learn Better』という感じ。『How to take smart Notes』いまのごりゅごの興味の大半を占める「エバーグリーンノート」その流れを作り出したと言われている本。まだ半分くらいしか読んでなくて、しかも英語の本でいろいろ大変なんですが、今日興味ど直球の本なので、こういう機会を生かしてなんとか読んで、次回話せるようにしたいと思います。『生命はデジタルでできている』遺伝子系の本は色々読んでいます。その中で、一番最初に読み終えることができた本がこれ。まだまだ難しいし、わからないことは多いんですが、この本で「最低限の基礎」みたいなことが少し理解できたものでした。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC013『コンヴァージェンス・カルチャー』

Jun 1, 2021 goryugo

今回は『コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化』について。『コンヴァージェンス・カルチャー』原題『Convergence Culture:Where Old and New Media Collide』Convergenceは、「一点に集まること」のイメージ。集約する、集合する、収斂する、収束する。Collideは、「ぶつかる、衝突する」のイメージ。新旧メディアがどこで衝突するのか。これは二つのニュアンスがあり、「どの場所で出会うのか」と、「どの利害でぶつかり合うのか」という二つの観点が含まれていると感じる。著者ヘンリー・ジェンキンズ南カリフォルニア大学教授。コミュニケーション&ジャーナリズム研究科、映画芸術研究科、ならびに教育研究科で、デジタル時代の参加型文化やファンダム、若者教育などを教えている。同校着任以前はマサチューセッツ工科大学(MIT)にて比較メディア研究プログラムを立ち上げ、ディレクターを長らく務めた。注意点原著は2006年であり、現代から見て最新の話題を扱っているわけではない。また、メディア研究の事例が基本的にアメリカなので、日本と合わない部分も当然出てくる。その点は留意が必要。主要なテーマインターネットが登場して、メディアが変化した。双方向になっただけではなく、これまで単なる受信者であった人々が発信者としての役割も担いはじめた。その変化によって、単に古いメディアが死に、新しいメディアが台頭するという単純な変化ではなく、コンテンツがどのように流通し、生産され、消費されるのか、そして利益をどのような形で作っていけばいいのか、というメディアを取り巻く全体像に大きな変化が訪れている。その変化は、拒絶しようと思ってもできるものではなく、考えられるのは「それとどう付き合うか」だけであろう。本書では、実際のメディア研究をベースにしながら、いかなる行動が情報の送り手(トップダウンの主体者)と情報の受け手(草の根の実践者)の間で生まれていたのかを考察している。2006年からみた「新しいメディア」との付き合い方を考える上で非常に示唆に富むであっただろうし、現代においても示唆に富む内容ではある。コンバージェンスの転換一つの端末にあらゆるコンテンツが集まるという意味での「コンバージェンス」ではなく、メディア企業がコングリマットになったり、一つのコンテンツがさまざまなプラットフォーム&流通ルートを持ったり、コンテンツのもとに多様な視聴者が集まったりするような、ある種の多様性が生まれる状況が「コンバージェンス」であると、見方の転換が提示されている。実際のメディアの状況から言っても、この見立ては極めて正しいと言える目次* イントロダクション「コンヴァージェンスの祭壇で祈ろう」* 第1章 『サバイバー』のネタバレ* 第2章 『アメリカン・アイドル』を買うこと* 第3章 折り紙ユニコーンを探して* 第4章 クエンティン・タランティーノの『スター・ウォーズ』?* 第5章 どうしてヘザーは書けるのか* 第6章 民主主義のためのフォトショップ* 結論 テレビを民主化する? ──参加の政治学* あとがき ──YouTube時代の政治を振り返る倉下の見立て日本では「メディアミクス」という考え方がもうあたり前であり、さらには情報の受け手を巻き込んだコンセプトも珍しくなくなっている。その意味で、本書が描いたレールは、たしかに現代にまで続いていると言える。言い換えれば、現代の「あたり前」がどのように生まれてきたのかを巡る旅にも本書はなる。一方で、現代のインターネット with メディアが全般的にうまくいっていない部分もあり、一体そこで何が損なわれてしまったのかを考える起点にもなる。その意味で、『遅いインターネット』や『ゲンロン戦記』などと合わせて読んでもよさそうである。最後にはそうしたメディアが民主主義→社会にもたらしうるインパクトも考察されているのだが、やはりこの点も現状は厳しいと言わざるを得ない。むしろゲームの中ですら「政治」や「社会」を体験する場が減っていると感じられる。この点は、おそらく目に見えている状況よりも、一段深いところに問題があるのだろう(日常の中から、政治的な煩わしいものが徹底的に排除されつつある、ということだと思われる)。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC012アフタートーク

May 21, 2021 goryugo

今回は、はじめて「ゲストの方に来ていただいて、その人に本を紹介してもらう」という形でした。3人でPodcast、というのもほとんど経験がなく、なかなかにチャレンジングなものではありましたが、結果として「いつもと違う感じのもの」が作れて、良い刺激になりました。個人的には、よく名前をきいていて、でも良くわかってなかった「フリーライティング」というものについて本編中に話が聞けたおかげで、これに刺激を受けて「書く練習」という行為についてよく考えています。機会があればまたゲストの方に登場していただく、ということもやってみたいと考えているので、自薦、他薦問わず、リクエストなどあれば #ブックカタリストでツイートしていただくか、コメント欄などにコメントをよろしくお願いします。メールで届いている方ならば、このメールに返信していただくことでもご連絡いただけます。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

ゲスト回BC012『思考のエンジン』

May 14, 2021 goryugo

思考のエンジン オンデマンド (ペーパーバック)ゲストはTak.さん。* Twitter:@takwordpiece* Blog:Word Piece* Amazon著者ページ『思考のエンジン』について著者は奥出直人さん。青土社の思想系雑誌『現代思想』の連載を書籍化したもの。同じ著者の本に『物書きがコンピュータに出会うとき―思考のためのマシン』もあるが、こちらは入手が若干難しい。目次は以下の通り。* 思考の道具としてのタイプライター* ライティング・エンジンとしてのワードプロセッサー* エクリチュールとライティング・エンジン* パレルゴンとエルゴン* 論理的ディスコースのダイナミズム* コンピュータ上のソクラテス―「ソウトライン」を使う* 情報を俯瞰する装置―アウトライン・プロセッサーを使う* プロセスとしてのテクスト* 迷宮としてのデータベース* 補遺の連鎖とハイパーテキスト―ハイパーメディア・ライブラリーとライティング* 思考のエンジンとしてのハイパーテキスト* マニエリスムとアカデミズム今回は主に前半部分に関してお話いただきました。タイプライター的思考『思考のエンジン』にはこうあります。タイプライター的思考とは、タイプライターをペン代わりに使う思考のことではない。タイプライターを含む一九世紀末的な効率と生産性を可能にする思考を意味している。部分をつなぎ全体を考え、資料はファイルにきちっと整理され、巨大な辞書が備えられている、そんな環境がタイプライター的思考の場所である。つまり、物事をきわめてシステマチックに進めていくアプローチであり、それをエンハンスするのがタイプライターという機械です。もう一ヶ所引用します。また、書くという問題を考えるとき、全体の統一性を考えながらばらばらな部分を寄せ集め、つないでいくタイプライター的思考の限界についても考えておく必要がある。人間の思考はもっと複雑なものである。これらの記述でなんとなくタイプライター的思考の輪郭線が見えてくるでしょう。タイプライターからの逸脱では、タイプライター的思考ではない思考(およびそこに付随する執筆)とはどのようなものでしょうか。以上の手書きのエクリチュールにこだわる作家の意見をまとめてみると、書くという作業を創造的な行為とみなし、分かりきった意識を前もって準備した構造に合わせて説明するのではなく、明確に意識化できていないことを書くという作業、すなわちエクリチュールによって意識化しようとしていることが分かる。さらに、一度書き上げた原稿を推敲して仕上げていく楽しみも強調している。おおむねここが一番の力点でしょう。でもって、シェイクに象徴されるTak.さんが提示されるプロセスが強調しているのもこのような行い(あるいは営み)です。あらかじめ構造をしっかり作りそこに向かって書いていくことは、「分かりきった」ことを扱う行為であり、「明確に意識化できていないことを書くという作業」──つまり、発見や創造とはひどく違っていて、そしておそらく楽しみも少ないのではないか。そのような疑問を『思考のエンジン』を読んでいると感じられますし、まさにその問題意識を持ってTak.さんの著作を読んでみると、「なるほど、そういうことか」と腑に落ちることが多く出てきます。なので、Tak.さんの本を好ましいと感じる方ならば、よりディープに踏み込むために『思考のエンジン』はぜひとも読んでみたいところです。難しい言葉とは言え、この本は一筋縄ではいきません。すでに登場していますが、「エクリチュール」も知らないと意味が取りづらいですし、「パレルゴン」やら「ヘゲモニー」やら各種哲学者の用語がばんばん登場します。文章自体は晦渋ではないのですが、用語の感触を把握していないと、「うっ」と気後れする部分は間違いなくあります。それを乗り越えるのが知的トレーニングである、というといかにもマッチョな発想にも思えますが、それでも自分が知らない世界から流れ込んでくる空気を一度胸いっぱい吸い込んでみるのは悪くない体験です。それに用語がわからないからといって全体の意味が汲み取れないこともありません。ですので、そういう本だと思ってチャレンジされると良いでしょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC011 アフタートーク&倉下メモ

May 7, 2021 goryugo

『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』倉下メモ話を聞いている間、ずっと「そうだよな〜」という思いでいっぱいの回でした。納得fullな一冊。でもって、ちょうど倉下が今書いている本も「書くことを通して考える」ことの大切さに言及しているので、重複感がハンパなかったです。本書が提示する学び方に関しては、『独学大全』や『How to Take Smart Notes』も類書としてあげられると思います。あと、今井むつみさんの学習に関する本も同様のことを論じています。結局、自分の手を動かし、頭を動かさないと前には進めない、という点では、『妄想する頭 思考する手』にも通じるものがあるかもしれません。ちなみに、本書がKindleでセール対象になっていたので、倉下もさっそく買いました。また読んでみたいと思います。次の本の候補『実力も運のうち 能力主義は正義か?』最近話題の本。サンデルさんの本は以前も取り上げたので、その流れとして(あるいは話題に乗っかっていく意味で)。『コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化』『ゲンロン戦記』や『ヒューマン・ネットワーク』などで、「あるグループを作るとはどういうことか、インターネットでいかにそれを実践するのがよいのか」という問題意識が出ているので、その流れで買った本です。かなり分厚いのでなかなか手ごわそうですが、次回の倉下のターンはこちらにしようと思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC011 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』

Apr 30, 2021 goryugo

面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第11回の本日は『Learn Better』について語ります。今回の本は、副題が「頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ」というもの。本書では、この6つのステップそれぞれに1章ずつ割り当て、それぞれの要素を深掘りしていきます。人は、短期記憶が少ない6つのステップを順に解説するよりも何よりも、本書を読んで1番のキモであると私が感じたのが「人は、短期記憶が少ない」ということ。この事実が、この本で出てくるありとあらゆる「学びが深まる方法」と繋がっています。そもそもの「6つのステップ」すら、1回でスムーズに覚えることはほとんど無理。人間の短期記憶というのはその程度のものであり、これを長期記憶へと変換する行為こそが「学びが深まる」ことを意味しているとも言えます。学びが深まる6つのステップ一応念のため6つのステップを書いておきます。* 価値を見出す* 目標を決める* スキルと知識を伸ばす* 発展させる* 関連付け* 再考する目を瞑ってこの6個をすぐに暗唱できるか確かめてみると、自分の短期記憶がどんなものなのか理解しやすくなるかもしれません。もちろん「覚えておくことだけ」に全力を注げば、この6つを覚えるだけならば無理ではないと思いますが、もちろんこれを丸暗記したところで「学びが深まる」わけではないし「頭の使い方が変わる」とは思えません。以下の3つを意識して行動する上記6つのそれぞれについての内容は、本を読んでください、Podcast聴いてみてください、という感じなのですが、チャチャッと要点だけ知りたい方向けにまとめると、以下の3つのことを意識する(&行動する)というのが重要なことだと考えます。* 自分の言葉で書く* 1つずつ確実にやっていく* 間隔を空けて何回もやるこの本、何回も色んなところで語ってるんですが、とにかく言ってることは「ごもっとも!!!」ということの連発。全然知らなかった!みたいな驚きはほとんどないんですが、それでも自分がこれまでブックカタリストで紹介してきた中で一番影響を受けた本です。ひょっとしたら人生で一番影響を受けた本、くらいになるかもしれないという、噛めば噛むほど味が出る本です。自分がこれまでブックカタリストで話した中でも一番面白い話ができたと思うし、これまで紹介した中で一番読んでみてほしいと思う本です。そして、読んだ本について「自分の言葉で書く」是非ともそこまで試してみて欲しいと思います。Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ🌱読んだ本の内容を「ずっと使えるノート」としてまとめる - ナレッジスタック This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe