BC030 『パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第30回の本日は『パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる』について語ります。「ビッグファイブ」という概念(人間のパーソナリティは5種類に分類できる、という心理学分野での一つの発見)を知り、その定番本がこの本だということで読んだ本でした。ちょっと古い(10年くらい前。こういう分野は10年で大きく変化してそう)ことを心配し、あまり大きな期待をせずに読んだ本だったんですが、これがものすごく興味深い内容。「本」としても「こういう研究結果がある」ということを紹介するだけでなく、私たちはこういう特性があると知った上で、それでも「主観的なストーリーは受け取り方次第で変わる」「時代遅れの概念に自分のあるべき姿を映しださないようにする」などの後半のポジティブなメッセージが素晴らしく、そういった点でも是非多くの人に読んで欲しい、と感じた本でした。電子版が存在せず、書籍の単価はわりと高い(約3000円)のですが、図書館なども駆使してみれば、案外容易に手に取ることは可能なので、是非皆様も図書館等も駆使してご覧いただけましたら幸いです。血液型診断や占いは存在自体が有害なんじゃないかくらいの感情しか持てないごりゅごですが、この本は「脳神経科学」的な脳内物質との反応性、というところまで踏み込んであって納得感が高いです。分野としてはまだまだ発展途上で、今後も楽しみなもの。次回のアフタートークでも語っているんですが、過去の価値観から脱却し、自分の読書ワールドを一つ新しい世界に持っていってくれた本にもなってくれました。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC029『NOISE: 組織はなぜ判断を誤るのか?』
今回は、三人の行動経済学者による『NOISE: 組織はなぜ判断を誤るのか?』を紹介します。『NOISE 上: 組織はなぜ判断を誤るのか?』『NOISE 下: 組織はなぜ判断を誤るのか?』上下巻の本ですが、話題が巧みなのでさくさく読める本になっています。概要行動経済学では、これまでずっとバイアス(認知バイアス)がフォーカスされてきた。しかし、ヒューマン・エラーを構成するのはバイアスだけではない。ノイズもある。バイアスが「偏り」だとすれば、ノイズは「ばらつき」となる。そのノイズも、悪影響を及ぼすし、その大きさは想定されているよりもずっと大きい。にもかかわらず、ノイズにはあまり注目が集まっていない。それはまずプロフェッショナルが下す判断が、統計的に検証されることが少ないので、そもそもノイズが見いだされにくいのと、もう一つには、後から振り返ったときに、私たちは判断が適切であったのだとという物語(因果論的思考)を作りやすいからである。本書は、そうしたノイズの性質を解き明かすと共に、その具体的な測定方法を明示し、その上でどうすればノイズが減らせるのかの施策を提示している。論調としては、著者らは「人間らしい」判断ではなく、シンプルなルール、アルゴリズム、機械学習などの判断を用いることを進めている。そうした判断にも課題はあるが、少なくともノイズがない、という点では大きな意義がある。しかしながら、組織にそうした機械的判断を導入するのは簡単ではない。特に、マネジメント層が行う判断であればあるほどその傾向が出てくる。よって、著者らは人間が判断を下すことを前提とした上で、ノイズの提言に役立つ方法を紹介する。目次* 二種類のエラー* 第1部 ノイズを探せ(犯罪と刑罰;システムノイズ ほか)* 第2部 ノイズを測るものさしは?(判断を要する問題;エラーの計測 ほか)* 第3部 予測的判断のノイズ(人間の判断とモデル;ルールとノイズ ほか)* 第4部 ノイズはなぜ起きるのか(ヒューリスティクス、バイアス、ノイズ;レベル合わせ ほか)* 第5部 よりよい判断のために(よい判断はよい人材から;バイアスの排除と判断ハイジーン ほか)* 第6部 ノイズの最適水準(ノイズ削減のコスト;尊厳 ほか)* まとめと結論 ノイズを真剣に受け止める* ノイズの少ない世界へ倉下メモポイントは、人間が判断を下すと、避けがたくノイズが生まれる、という点。判断のための具体的な指針が定まっていない対象について、人間は恣意的な重みづけを行うのですが、それが「揺れる」ことによってノイズが生じてしまう。機械的(あるいは官僚的)と呼ばれるような判断でない限り、常にその危険性はつきまといます。そこで第一として、「人間が判断しない。あるいは機械的に人間が判断する」という方策が出てくるのですが、個人的にはあまり楽しくない方向性です。効率的かつコストも安いでしょうが、逆に言えばわくわくするような面白さがそこにはありません。また、本書でも簡単に触れられていますが、『あなたの支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』で指摘されているような怖さもあります。今後、プロフェッショナルの判断領域に機械的な判断がどんどん導入されていくだろう流れは止められないでしょうが、そうではない判断領域、もっと言えば個人の人生における判断において、そうした機械的なものを導入するのではない方向性も考えておきたいところ。その視点から言うと、本書の後半で提示される「尺度」を定めることはおそらく有効でしょう。また、「積極的に開かれた思考態度」は、日常的な情報処理や知的生産活動においても活用できるものだと思います。どういう施策を取るにせよ、人間の判断にはノイズが入り込む、ということを前提として、まさに本書が提示するように「手洗い」のようにノイズ削減に取り組む、という姿勢が大切なのでしょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC028 『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第28回の本日は『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』について語ります。(オープニングで27回って間違えてました)お酒をやめた自分に喪失感を感じるなら依存症の手前ここ2〜3年、なんとなくい「お酒飲まないほうがいいこと多いよなあ」って思いながらも変化がない人生を送っていたごりゅごを大きく変えてくれたきっかけになる本でした。特に最初にインパクトを感じたのが、以下のように感じるならばすでにアルコール依存症の一歩手前だという説明。* 「大事な何かを失ったような気がする」* 「晩酌しないと、1日が終わった気がしない」* 「人生の楽しみが半減しそうで味気ない やはり禁酒は無理だ」わたくし、見事に「お酒を飲まないのは人生の彩りが減ってしまう」と感じていた人間でした。序盤のそういった導入から、お酒に強い、弱いとはどういう状態なのか。アルコールとアセトアルデヒドの作用の違いといった基本的なお酒の知識を身に付ける段階を経て、最終的にはお酒やめられるといいよね、という感じの、ある意味きわめて普通の本です。たまたま手に取ったタイミングと、自分の思いが一致しただけ、という言い方もできそうなんですが、少なくともこれを読んでから明確に酒量を減らせています。別に、この本を読んだからって「お酒をやめるべきである」なんて思う必要はないと思いますが、知ってて飲むのと、知らずに飲むのは大違い。このままいけば「ここ数年でもっとも人生を変えた本」になるかもしれないです。「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC027 2021年を振り返る
今回は、2021年に配信した回を二人で振り返ってみます。プロトタイプ回まずはお試しで行ったのが以下の二回。それぞれ自分のポッドキャスト番組で試験放送しております。Nov 24, 2020 ◇【ブックカタリスト 】愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学 by ごりゅごcastNov 10, 2020 ◇第四十九回:ごりゅごさんと『フードテック革命』について by うちあわせCastBC001 ~ 005スタート近辺の回。進め方など探り探りな感じがうかがえます。Dec 11, 2020◇BC001 『ダーウィン・エコノミー』 - ブックカタリストDec 25, 2020◇BC002『独学大全』 - ブックカタリストJan 8, 2021◇BC003『功利主義入門』 - ブックカタリストJan 22, 2021◇BC004『ゲンロン戦記』 - ブックカタリストFeb 5, 2021◇BC005『これからの「正義」の話をしよう』 - ブックカタリストBC006 ~ 010少し慣れてきたあたり。『闇の自己啓発』 の回で『人文的、あまりに人文的』を紹介するなど、アレンジも出てきています。Feb 19, 2021◇BC006『闇の自己啓発』 - ブックカタリストMar 5, 2021◇BC007 『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』 - ブックカタリストMar 19, 2021◇BC008『ヒューマン・ネットワーク』 - ブックカタリストApr 2, 2021◇BC009 『妄想する頭 思考する手』 - ブックカタリストApr 16, 2021◇BC010『世界は贈与でできている』 - ブックカタリストBC011 ~ 015録音環境が徐々に整いつつあるところ。ゲスト回を行うなど、さらなる模索が進んでいます。Apr 30, 2021◇BC011 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』 - ブックカタリストMay 14, 2021◇ゲスト回BC012『思考のエンジン』 - ブックカタリストJun 1, 2021◇BC013『コンヴァージェンス・カルチャー』 - ブックカタリストJun 15, 2021◇BC014 『How to Take Smart Notes』 - ブックカタリストJun 29, 2021◇BC015『実力も運のうち 能力主義は正義か?』 - ブックカタリストBC016 ~ 020だいぶ整い出した頃。ゲスト回二回目があり、倉下の本を紹介するイレギュラー回もあり。だいたい慣れてくると、そこにアレンジを加える傾向がありますね。Jul 13, 2021◇BC016 『英語独習法』 - ブックカタリストJul 27, 2021◇BC017『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』 - ブックカタリストAug 10, 2021◇BC018 『WILLPOWER 意志力の科学』 - ブックカタリストAug 24, 2021◇ゲスト回BC019『心の仕組み 上』 - ブックカタリストSep 7, 2021◇BC020『理不尽な進化』 - ブックカタリストBC021 ~ 026直近。新書三冊回や、一年学習レポート回など変化球あり。Sep 21, 2021◇BC021 『幸せをお金で買う5つの授業』 - ブックカタリストOct 12, 2021◇BC022『英語の読み方』『英語の思考法』『伝わる英語表現法』 - ブックカタリストOct 26, 2021◇BC023 『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』 - ブックカタリストNov 9, 2021◇BC024『知ってるつもり: 無知の科学』 - ブックカタリストNov 23, 2021◇BC025 『生命はデジタルでできている』『LIFESPAN』『LIFE SCIENCE』ほかDec 7, 2021◇BC026『Humankind 希望の歴史』 - ブックカタリスト倉下メモこうして眺めてみると、基本的にパターンを繰り返しているようで、ところどころでアレンジやら変化球が入っていますね。これは基本的に、倉下が飽きっぽい(同じことを繰り返すのが苦手)からなんですが、たぶんごりゅごさんも同じような傾向をお持ちなのでしょう。また、オープンになっていないところでは、clubhouseにおける読書会なども実施されていて、それを含めての変化もこれらか少しずつ起きてきそうな気がします。楽しみですね。では、来年もまたよろしくお願いいたします(倉下)。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC026『Humankind 希望の歴史』
今回はオランダのジャーナリスト:ルトガー・ブレグマンによる『Humankind 希望の歴史』を紹介します。ハードカバーで上下巻と若干手に取るハードルが高い本ですが、それに見合う価値がある本です。概要目次は以下。上巻* 序章 第二次大戦下、人々はどう行動したか* 第1章 あたらしい現実主義* 第2章 本当の「蝿の王」* Part 1 自然の状態(ホッブズの性悪説 VS ルソーの性善説)* 第3章 ホモ・パピーの台頭* 第4章 マーシャル大佐と銃を撃たない兵士たち* 第5章 文明の呪い* 第6章 イースター島の謎* Part 2 アウシュヴィッツ以降* 第7章 「スタンフォード監獄実験」は本当か* 第8章 「ミルグラムの電気ショック実験」は本当か* 第9章 キティの死下巻* Part 3 善人が悪人になる理由* 第10章 共感はいかにして人の目を塞ぐか* 第11章 権力はいかにして腐敗するか* 第12章 啓蒙主義が取り違えたもの* Part 4 新たなリアリズム* 第13章 内なるモチベーションの力* 第14章 ホモ・ルーテンス* 第15章 民主主義は、こんなふうに見える* Part 5 もう一方の頬を* 第16章 テロリストとお茶を飲む* 第17章 憎しみ、不正、偏見を防ぐ最善策* 第18章 兵士が塹壕から出るとき* エピローグ 人生の指針とすべき10のルール全体を通して「人間とは何か」が考察されていく。肝となるのは、"ほとんどの人間は本質的にかなり善良だ"という主張なのだが、しかし現代社会はそれとは逆の想定で制度が作られている。それはなぜか。その疑問についてさまざまな領域を渡り歩きながら論考していく。* 本書が手を伸ばしている領域は実に広い。* 思想/哲学* ホッブズ VS ルソー* ジャーナリズム* 第二次世界大戦* リアル「蝿の王」* 文明論* イースター島の歴史* 進化生物学* ホモ・パピー* 心理学/行動経済学* スタンフォード監獄実験* ミルグラムの電気ショック実験* キティの死(都会の傍観者)* 経営・統治論* テイラー* マキアヴェリ簡単に列挙しただけでもこれだけある(実際はもっと多い)。しかも、単にさまざまな領域を論じているだけでなく、これまであたり前だと思われていた認識について、「それは本当なのか?」という問いを行い、著者自らが反論している。それはたいへん勇気がいる言論であろう。倉下メモ二つ大切な話があります。まず「なぜ私たちは人間を悪者だと考えるのか?」という点。これは、人間が「ネガティブな情報」に反応するからでしょう。ポジティブな情報よりもネガティブな情報の方が、私たちの注意を強く引きつけますが、「人間が悪しき存在である」という情報ほどネガティブな情報はないでしょう。根源的であり、再帰的な情報です。だから私たちはニュースメディアをつい見てしまう傾向がありそうです。そうして自分の「信念」を強固にしていくのです。そうして確立された「信念」が、現実的に力を持ってしまう、というのが二つ目の大切な話です。本書ではプラセボ効果/ノセボ効果やピグマリオン効果/ゴーレム効果などが紹介されていますが、「信じたことが、結果に影響を与える」というのは(いささかスピリチュアルな響きがあるものの)無視できない話でしょう。緊張しすぎて力が発揮できない、心身症、疑心暗鬼によるコミュニケーションの不成立……こうした出来事は、「行動」だけを見る視点ではまったく見えてきません。どんな信念を持っているのかが、つまり「心」が重要な意味を持つ、ということです。行動主義は科学的な分析には秀でていますが、しかしそれは現実の状況を過剰にモデル化する経済学と同じ危うさがあるのかもしれません。『知っているつもり』の回でも紹介しましたが、人間は自分の「外」にある情報を利用して思考します。他人の知識が使えるのもそうですし、他者に共感を覚えるのもそうです。もうこの時点で、利己主義が想定する「自分のことしか考えない」はまったく当てはまりません。むしろ私たちは、常に自分以外のことを考えている生き物とすら言えるでしょう。しかし、資本主義、あるいは過剰な個人主義は、そのような人間の思考の傾向をまったく無視しています。人間観がかなり偏ってしまっているのです。人間の行動が「心」に影響を受けるのだとしたら、「人間が人間のことをどう考えているのか」はきわめて重い意味を持つでしょう。そうした「人間に関する認識」の再構築がこれから始まっていくのかもしれません。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC025 『生命はデジタルでできている』『LIFESPAN』『LIFE SCIENCE』ほか
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第25回の本日は『生命科学に関係する本たくさん』について語ります。1年の総括として複数の本を語る今回のブックカタリストは、ごりゅごの1年の総括、今年興味を持った分野の本を複数まとめて整理する、ということをやってみました。意識したのは「できるだけたくさんの分野にまたがる話にすること」あらゆる学問分野はすべて「つながって」いるもので、ほかの分野のことを知っていれば必ずなにかの役にたつ。今回で言えば、生命科学、有機化学、コンピュータサイエンス、長寿によって生まれる社会問題など、ごりゅごがこの1年で学んだことがどう繋がって面白かったのかを伝えるのが目標でした。正直、本を1冊紹介するのと違って、構成の段階から考えないといけないのはすごく大変だったんですが、これはこれで非常に有意義な体験でした。今回の話に関しては、私が勘違いしている点や、伝わりやすくするために正確ではない表現なども含まれているかと思います。参考にした書籍は複数ありますが、内容に関してはすべてごりゅごの責任です。何か問題があれば、できるだけ優しく、そっとご指摘いただけましたら幸いです。主な参考書籍(参考にした要素が多い順) This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
お便りコーナー(第一回)
今回は、Twitterのハッシュタグ「#ブックカタリスト」に頂いたコメントをご紹介します。しばらく読み上げをしていなかったので、かなりのストックがあり、今回はすべてをご紹介できませんでしたが、倉下&ごりゅごはすべてのコメントをありがたく拝読させていただいております。感謝です。引き続き、感想、コメント、思ったこと、考えたこと、関連する本、リクエスト、本会参加希望、などなどを募集中です。ブックカタリストの年間割引は11月21日で終了します。気になっている方はお早めに!ブックカタリストのサポータープランについて This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC024『知ってるつもり: 無知の科学』
今回は、最近文庫版が発売になった『知ってるつもり: 無知の科学』を紹介します。 『知ってるつもり: 無知の科学 (ハヤカワ文庫 NF 578) 』ちなみに、『知ってるつもり~「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方~』ではないのでご注意を。書誌情報単行本は2018年4月、文庫は2021年9月に発売。著者のスティーブン・スローマンとフィリップ・ファーンバックは共に認知科学者。原題は「The Knowledge Illusion:why we never Think Alone」。「知識幻想:なぜ私たちは"独り"で考えられないか」あたりか。邦題はすばらしくキャッチーに仕上がっている。主題は「なぜ人類は原爆などの高度な技術を持つにもかかわらず、愚かしい行動を取るのだろうか」。あるいは「私たちは愚かであるにもかかわらず、なぜ高度な技術を持てているのか」。非常に興味深い主題。その主題を「無知」「知識の錯覚」「知識のコミュニティ」という観点から読み解いていく。まず人間は無知である。たくさんの情報を保有していない。それで別段困ることはないのだが、「自分がどれくらい無知なのか」についても無知である。それが知識の錯覚を引き起こす。実際の程度以上に自分は知っていると思ってしまう。「知ってるつもり」になる。それが、ときに愚かしい判断を引き起こす。一方で著者らはそれを「愚かしさ」だけでは片づけない。そうした「知っているつもり」になれることで、私たちは他者が有する知識にアクセスできるルートを持てる。また、むやみやたらに複雑な現実に直面しなくても済むようになっている(おそらく真なる複雑さに直面したら精神が壊れる)。人間が「思考」を行うのは、「行動」のためであり、よき行動を出せることが(進化的に)よい思考だと言える。無駄に複雑な現実に直面して何も決定できなくなるのは(進化的に)望ましくはない。詳細にすべてを正確に把握するのではなく、行動を決定するに足りる情報だけが得られればよい。抽象的な特徴だけを把握できれば、長い人類の歴史において困ることはなかった。また人間は社会生活を行うように発展してきたので、他者が「知っている」ことを利用できる。これは認知的分業と呼ばれる。それが可能であるからこそ、私たちは「高度なテクノロジーが集まることでしか実現できないテクノロジー」の恩恵を受けている。これらの事実が示すのは、私たちはフラスコの中の「脳」だけで思考しているわけではない、ということ。むしろ私たちは外界(脳の外)にある情報をうまく利用して思考を行っている。これはもともと思考が外界とのインタラクションのために生み出されたと考えればごく自然なこと(動物と植物の違いは動くこと=外界が変化すること)。私たちは"他者"を使って考えている。だから"we never Think Alone"。物を使って考え、他人を使って考え、文字を使って考える(だからノートを書こう)。よって、「知性」の捉え方も変わらざるを得ない。フラスコの中の「脳」の情報処理能力だけを見ても「知性」はわからない。そうではなく、外界とのインタラクションをどれだけうまく行えるのかが鍵を握る。知識がコミュニティにあるとしたら、そのコミュニティといかなる関係性を結べるのかが「知性」の在り方だと言える。ピーター・F・ドラッカーは、知識労働者は他者に貢献してはじめて仕事が為せると喝破したが、見事な指摘である。あらゆる知識は、「他者と共にある」。"we never Think Alone"。また、知識のコミュニティはそこに所属する個人の考えや価値観に強い影響を与えるので、個人を「事実」で説得してもほとんど効果がない(BC023参照)。一番レバレッジがかかるのが、知識のコミュニティを変えることだ。だからこそメディア(マスメディア)は第四の権力と呼びうるし、情報プラットフォームは第五の権力と呼びうる。どちらも知識のコミュニティに強くかかわっているから。以上のように、私たちと「知識/情報」がいかなる関係性を築いていけばいいのかに強い示唆を与えてくれる一冊。倉下メモこの本はいろいろな話のハブになるので、枝を広げていけばキリがありません。それはまたどこかでまとめてみたいと思います。ちなみに、「行動と思考」の関係を考えると、「幸福と思考」の関係もぼんやり見えてきます。人が幸福な状態でいるときは変化(行動)を必要としないので、思考は要請されません。逆に言えば、思考が要請されないなら幸福な状態といえるのです。とは言え、思考を抑制すれば、それが幸福といえるかは別の話でしょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC023 『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第23回の本日は『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』について語ります。今回の本は、メモをまとめればまとめるほど、書かれている内容について考えさせられることが多く、心からもっと多くの人に知ってほしいと思った本でした。人は、いかに人の話を聞かないのか。なぜ聞かないのか。話を聞いて意見を変えることが絶望的に難しいことがわかる本。もちろん、どうやって話を聞いてもらうか、という話はあるが、全体的に「そういうもんだ」ということを知る本でした。英語タイトルは『The Influential Mind ~What the Brain Reveals About Our Power to Change Othes』というもので、あえてへたへた翻訳をするならば『影響力があるマインド私たちが他者を変えるパワーについて脳が明らかにしたこと~』というもの。邦題の『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』というのは、どちらかというと「1章のタイトル」という印象です。ごりゅご自身もよく家庭内で「人の話聞いてない」「人に言われても意見が変わらない」みたいなことをよく言われるんですが、ある意味「それが当たり前」なんだということもよくわかりました。自分ではそういうつもりがなくても、自分も本に書かれてるまんまの特性を持ってるってことでしょう。本は全体で9章の構成。基本的に、1章1項目で以下の要素が「考えに影響を与える」という話がされます。(他人に2章使っているのと、最後の章は「未来」の話)* 事前の信念* 感情* インセンティブ* 主体性* 好奇心* 心の状態* 他人「なぜワクチンを打ちたくない人がこんなにもたくさんいるのか」という疑問から手に取った本でしたが、興味深いエピソード満載でした。以下、強く書籍で印象に残った内容* 情報が十分にある現代は以前よりも意見を変えることは難しい* 間違いを証明するのではなく共通点に基づいて話をする* 行動を起こさせるには飴、行動をやめさせるには鞭* 人間は結果を早く知りたがるが、自分に不安な考えをもたらす情報は避けようとする* ストレスの目的は「生存にリソース全振り」すること This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC022『英語の読み方』『英語の思考法』『伝わる英語表現法』
今回は、近年発売された英語学習に関する新書を三冊セットでご紹介します。* 『英語の読み方-ニュース、SNSから小説まで (中公新書 2637)』* 『英語の思考法 ――話すための文法・文化レッスン (ちくま新書)』* 『伝わる英語表現法 (岩波新書)』『英語の読み方-ニュース、SNSから小説まで (中公新書 2637)』発売は2021年3月25日。著者は北村一真(きらむらかずま)さん。大学受験塾講師をやっておられて、現在は杏林大学外国語学の準教授とのこと。目次は以下。* 第1章 英文を読む前に―日本人に適した英語の学び方* 第2章 英文に慣れる―インターネットを活用したリーディング* 第3章 時事英文を読む―新聞、ニュースに挑戦* 第4章 論理的文章を読み解く―スピーチ、インタビュー記事から論文まで* 第5章 普段使いの英文解釈―SNS、コミック、小説を読みこなす* 巻末付録 「一歩上」に進むための厳選例文60タイトルの通り「英語の読み方」を提示した一冊で、英語をどう読解していくのかが実況中継的に語られている。文法の解説というよりは、文読解の理路とその手がかりが提示されていて、「そうそう、まさにこういうのが知りたかったんだよ」と膝を打った。基礎的な文法などを理解しているのが前提の本だが、そこからの次の一歩にちょうどよい一冊。『英語の思考法 ――話すための文法・文化レッスン (ちくま新書)』発売は2021年7月8日。著者は井上逸兵(いのうえいっぺい)さん。慶応大学文学部教授で社会言語学や英語学が専門とのこと。NHKのEテレ「おもてなしの基礎英語」という番組を担当されていた(倉下は未視聴)。目次は以下。* 序章 英語の核心* 第1章 英語は「独立」志向である* 第2章 英語は「つながり」を好む* 第3章 英語にも「タテマエ」はある* 第4章 英語の世界は奥深い“応用編”* 第5章 英語を使ってみる“実践編”英語の核を「独立」「つながり」「対等」の三つに据えて、英語話者のマインド(価値観)を紹介していく。Excuse me/usの使い分けの例示が非常にビビッドで、以下に英語が「個」を大切にしているのかが伝わってくる。 『伝わる英語表現法 (岩波新書)』発売は2001年12月20日なのだが最近復刊されてネットで大人気になっている本(今はかなり入手しやすい状況)。著者は長部三郎(オサベサブロウ)さん。アメリカ国務省言語部勤務で日本語通訳担当という経歴をお持ちの方。文法を解剖して、正確に意味を移していく、という「訳す」姿勢ではなく、話者の言いたいことを、適切に聴衆に伝えるという本書を貫く姿勢は、その業務で育まれたのではないかと推測。目次は以下。* 第1章 英語と日本語の違い* 第2章 日本語は名詞、英語は動詞―日本語の名詞から英語を考える* 第3章 日本語は抽象的、英語は具体的―日本語の文(センテンス)から英語を考える* 第4章 「一事一文」の原則―日本語の文章から英語を考える* 第5章 英語の構造と日本語* 終章 体験的英語教育―私の提言とにもかくにも「英語と日本語は、まったく異なる言語である」というひとつの大きなメッセージが貫かれている。その異なる言語の移動において、いかに「言いたいこと」を「伝える」のかの方法が解説されている。倉下メモこの三冊は、 倉下の「英語観」を刷新してくれました。言い換えれば、「英語的感覚」というものがどういったもので、それが日本語といかに異なっているのかがじんわりと感じさせてくれた三冊です。本書らのおかげで、英語を読むときにまず単語/品詞ごとに注目して意味を「分解」していくのではなく、まず文全体を捉えるように意識が切り替わりました。また、たとえば自分の原稿について考えているときに「 1章、2章の見通しが立った」という「思い」があるときに、それを英語で言おうとするときに「見通し」という言葉を辞書で引くのではなく、「この見通しってどういうことだろう?」と考え、たとえば「I got a way I would go.」などと言えば私の伝えようとしていることが伝わりそうだな、などと考えるようにもなりました。この表現が文法的・単語的にどれだけ適切なのかはわかりませんが、それでも「言わんとすること」を伝えられる文にはなっていると想像します。そういうマインドセットの切り替えを後押ししてくれた本たちでした。その後買った英語学習本ついでに新しく買い足した本もご紹介。『シンプルな英語』『英文解釈のテオリア~英文法で迫る英文読解入門』 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe