BC026『Humankind 希望の歴史』
今回はオランダのジャーナリスト:ルトガー・ブレグマンによる『Humankind 希望の歴史』を紹介します。ハードカバーで上下巻と若干手に取るハードルが高い本ですが、それに見合う価値がある本です。概要目次は以下。上巻* 序章 第二次大戦下、人々はどう行動したか* 第1章 あたらしい現実主義* 第2章 本当の「蝿の王」* Part 1 自然の状態(ホッブズの性悪説 VS ルソーの性善説)* 第3章 ホモ・パピーの台頭* 第4章 マーシャル大佐と銃を撃たない兵士たち* 第5章 文明の呪い* 第6章 イースター島の謎* Part 2 アウシュヴィッツ以降* 第7章 「スタンフォード監獄実験」は本当か* 第8章 「ミルグラムの電気ショック実験」は本当か* 第9章 キティの死下巻* Part 3 善人が悪人になる理由* 第10章 共感はいかにして人の目を塞ぐか* 第11章 権力はいかにして腐敗するか* 第12章 啓蒙主義が取り違えたもの* Part 4 新たなリアリズム* 第13章 内なるモチベーションの力* 第14章 ホモ・ルーテンス* 第15章 民主主義は、こんなふうに見える* Part 5 もう一方の頬を* 第16章 テロリストとお茶を飲む* 第17章 憎しみ、不正、偏見を防ぐ最善策* 第18章 兵士が塹壕から出るとき* エピローグ 人生の指針とすべき10のルール全体を通して「人間とは何か」が考察されていく。肝となるのは、"ほとんどの人間は本質的にかなり善良だ"という主張なのだが、しかし現代社会はそれとは逆の想定で制度が作られている。それはなぜか。その疑問についてさまざまな領域を渡り歩きながら論考していく。* 本書が手を伸ばしている領域は実に広い。* 思想/哲学* ホッブズ VS ルソー* ジャーナリズム* 第二次世界大戦* リアル「蝿の王」* 文明論* イースター島の歴史* 進化生物学* ホモ・パピー* 心理学/行動経済学* スタンフォード監獄実験* ミルグラムの電気ショック実験* キティの死(都会の傍観者)* 経営・統治論* テイラー* マキアヴェリ簡単に列挙しただけでもこれだけある(実際はもっと多い)。しかも、単にさまざまな領域を論じているだけでなく、これまであたり前だと思われていた認識について、「それは本当なのか?」という問いを行い、著者自らが反論している。それはたいへん勇気がいる言論であろう。倉下メモ二つ大切な話があります。まず「なぜ私たちは人間を悪者だと考えるのか?」という点。これは、人間が「ネガティブな情報」に反応するからでしょう。ポジティブな情報よりもネガティブな情報の方が、私たちの注意を強く引きつけますが、「人間が悪しき存在である」という情報ほどネガティブな情報はないでしょう。根源的であり、再帰的な情報です。だから私たちはニュースメディアをつい見てしまう傾向がありそうです。そうして自分の「信念」を強固にしていくのです。そうして確立された「信念」が、現実的に力を持ってしまう、というのが二つ目の大切な話です。本書ではプラセボ効果/ノセボ効果やピグマリオン効果/ゴーレム効果などが紹介されていますが、「信じたことが、結果に影響を与える」というのは(いささかスピリチュアルな響きがあるものの)無視できない話でしょう。緊張しすぎて力が発揮できない、心身症、疑心暗鬼によるコミュニケーションの不成立……こうした出来事は、「行動」だけを見る視点ではまったく見えてきません。どんな信念を持っているのかが、つまり「心」が重要な意味を持つ、ということです。行動主義は科学的な分析には秀でていますが、しかしそれは現実の状況を過剰にモデル化する経済学と同じ危うさがあるのかもしれません。『知っているつもり』の回でも紹介しましたが、人間は自分の「外」にある情報を利用して思考します。他人の知識が使えるのもそうですし、他者に共感を覚えるのもそうです。もうこの時点で、利己主義が想定する「自分のことしか考えない」はまったく当てはまりません。むしろ私たちは、常に自分以外のことを考えている生き物とすら言えるでしょう。しかし、資本主義、あるいは過剰な個人主義は、そのような人間の思考の傾向をまったく無視しています。人間観がかなり偏ってしまっているのです。人間の行動が「心」に影響を受けるのだとしたら、「人間が人間のことをどう考えているのか」はきわめて重い意味を持つでしょう。そうした「人間に関する認識」の再構築がこれから始まっていくのかもしれません。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC025 『生命はデジタルでできている』『LIFESPAN』『LIFE SCIENCE』ほか
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第25回の本日は『生命科学に関係する本たくさん』について語ります。1年の総括として複数の本を語る今回のブックカタリストは、ごりゅごの1年の総括、今年興味を持った分野の本を複数まとめて整理する、ということをやってみました。意識したのは「できるだけたくさんの分野にまたがる話にすること」あらゆる学問分野はすべて「つながって」いるもので、ほかの分野のことを知っていれば必ずなにかの役にたつ。今回で言えば、生命科学、有機化学、コンピュータサイエンス、長寿によって生まれる社会問題など、ごりゅごがこの1年で学んだことがどう繋がって面白かったのかを伝えるのが目標でした。正直、本を1冊紹介するのと違って、構成の段階から考えないといけないのはすごく大変だったんですが、これはこれで非常に有意義な体験でした。今回の話に関しては、私が勘違いしている点や、伝わりやすくするために正確ではない表現なども含まれているかと思います。参考にした書籍は複数ありますが、内容に関してはすべてごりゅごの責任です。何か問題があれば、できるだけ優しく、そっとご指摘いただけましたら幸いです。主な参考書籍(参考にした要素が多い順) This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
お便りコーナー(第一回)
今回は、Twitterのハッシュタグ「#ブックカタリスト」に頂いたコメントをご紹介します。しばらく読み上げをしていなかったので、かなりのストックがあり、今回はすべてをご紹介できませんでしたが、倉下&ごりゅごはすべてのコメントをありがたく拝読させていただいております。感謝です。引き続き、感想、コメント、思ったこと、考えたこと、関連する本、リクエスト、本会参加希望、などなどを募集中です。ブックカタリストの年間割引は11月21日で終了します。気になっている方はお早めに!ブックカタリストのサポータープランについて This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC024『知ってるつもり: 無知の科学』
今回は、最近文庫版が発売になった『知ってるつもり: 無知の科学』を紹介します。 『知ってるつもり: 無知の科学 (ハヤカワ文庫 NF 578) 』ちなみに、『知ってるつもり~「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方~』ではないのでご注意を。書誌情報単行本は2018年4月、文庫は2021年9月に発売。著者のスティーブン・スローマンとフィリップ・ファーンバックは共に認知科学者。原題は「The Knowledge Illusion:why we never Think Alone」。「知識幻想:なぜ私たちは"独り"で考えられないか」あたりか。邦題はすばらしくキャッチーに仕上がっている。主題は「なぜ人類は原爆などの高度な技術を持つにもかかわらず、愚かしい行動を取るのだろうか」。あるいは「私たちは愚かであるにもかかわらず、なぜ高度な技術を持てているのか」。非常に興味深い主題。その主題を「無知」「知識の錯覚」「知識のコミュニティ」という観点から読み解いていく。まず人間は無知である。たくさんの情報を保有していない。それで別段困ることはないのだが、「自分がどれくらい無知なのか」についても無知である。それが知識の錯覚を引き起こす。実際の程度以上に自分は知っていると思ってしまう。「知ってるつもり」になる。それが、ときに愚かしい判断を引き起こす。一方で著者らはそれを「愚かしさ」だけでは片づけない。そうした「知っているつもり」になれることで、私たちは他者が有する知識にアクセスできるルートを持てる。また、むやみやたらに複雑な現実に直面しなくても済むようになっている(おそらく真なる複雑さに直面したら精神が壊れる)。人間が「思考」を行うのは、「行動」のためであり、よき行動を出せることが(進化的に)よい思考だと言える。無駄に複雑な現実に直面して何も決定できなくなるのは(進化的に)望ましくはない。詳細にすべてを正確に把握するのではなく、行動を決定するに足りる情報だけが得られればよい。抽象的な特徴だけを把握できれば、長い人類の歴史において困ることはなかった。また人間は社会生活を行うように発展してきたので、他者が「知っている」ことを利用できる。これは認知的分業と呼ばれる。それが可能であるからこそ、私たちは「高度なテクノロジーが集まることでしか実現できないテクノロジー」の恩恵を受けている。これらの事実が示すのは、私たちはフラスコの中の「脳」だけで思考しているわけではない、ということ。むしろ私たちは外界(脳の外)にある情報をうまく利用して思考を行っている。これはもともと思考が外界とのインタラクションのために生み出されたと考えればごく自然なこと(動物と植物の違いは動くこと=外界が変化すること)。私たちは"他者"を使って考えている。だから"we never Think Alone"。物を使って考え、他人を使って考え、文字を使って考える(だからノートを書こう)。よって、「知性」の捉え方も変わらざるを得ない。フラスコの中の「脳」の情報処理能力だけを見ても「知性」はわからない。そうではなく、外界とのインタラクションをどれだけうまく行えるのかが鍵を握る。知識がコミュニティにあるとしたら、そのコミュニティといかなる関係性を結べるのかが「知性」の在り方だと言える。ピーター・F・ドラッカーは、知識労働者は他者に貢献してはじめて仕事が為せると喝破したが、見事な指摘である。あらゆる知識は、「他者と共にある」。"we never Think Alone"。また、知識のコミュニティはそこに所属する個人の考えや価値観に強い影響を与えるので、個人を「事実」で説得してもほとんど効果がない(BC023参照)。一番レバレッジがかかるのが、知識のコミュニティを変えることだ。だからこそメディア(マスメディア)は第四の権力と呼びうるし、情報プラットフォームは第五の権力と呼びうる。どちらも知識のコミュニティに強くかかわっているから。以上のように、私たちと「知識/情報」がいかなる関係性を築いていけばいいのかに強い示唆を与えてくれる一冊。倉下メモこの本はいろいろな話のハブになるので、枝を広げていけばキリがありません。それはまたどこかでまとめてみたいと思います。ちなみに、「行動と思考」の関係を考えると、「幸福と思考」の関係もぼんやり見えてきます。人が幸福な状態でいるときは変化(行動)を必要としないので、思考は要請されません。逆に言えば、思考が要請されないなら幸福な状態といえるのです。とは言え、思考を抑制すれば、それが幸福といえるかは別の話でしょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC023 『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第23回の本日は『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』について語ります。今回の本は、メモをまとめればまとめるほど、書かれている内容について考えさせられることが多く、心からもっと多くの人に知ってほしいと思った本でした。人は、いかに人の話を聞かないのか。なぜ聞かないのか。話を聞いて意見を変えることが絶望的に難しいことがわかる本。もちろん、どうやって話を聞いてもらうか、という話はあるが、全体的に「そういうもんだ」ということを知る本でした。英語タイトルは『The Influential Mind ~What the Brain Reveals About Our Power to Change Othes』というもので、あえてへたへた翻訳をするならば『影響力があるマインド私たちが他者を変えるパワーについて脳が明らかにしたこと~』というもの。邦題の『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』というのは、どちらかというと「1章のタイトル」という印象です。ごりゅご自身もよく家庭内で「人の話聞いてない」「人に言われても意見が変わらない」みたいなことをよく言われるんですが、ある意味「それが当たり前」なんだということもよくわかりました。自分ではそういうつもりがなくても、自分も本に書かれてるまんまの特性を持ってるってことでしょう。本は全体で9章の構成。基本的に、1章1項目で以下の要素が「考えに影響を与える」という話がされます。(他人に2章使っているのと、最後の章は「未来」の話)* 事前の信念* 感情* インセンティブ* 主体性* 好奇心* 心の状態* 他人「なぜワクチンを打ちたくない人がこんなにもたくさんいるのか」という疑問から手に取った本でしたが、興味深いエピソード満載でした。以下、強く書籍で印象に残った内容* 情報が十分にある現代は以前よりも意見を変えることは難しい* 間違いを証明するのではなく共通点に基づいて話をする* 行動を起こさせるには飴、行動をやめさせるには鞭* 人間は結果を早く知りたがるが、自分に不安な考えをもたらす情報は避けようとする* ストレスの目的は「生存にリソース全振り」すること This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC022『英語の読み方』『英語の思考法』『伝わる英語表現法』
今回は、近年発売された英語学習に関する新書を三冊セットでご紹介します。* 『英語の読み方-ニュース、SNSから小説まで (中公新書 2637)』* 『英語の思考法 ――話すための文法・文化レッスン (ちくま新書)』* 『伝わる英語表現法 (岩波新書)』『英語の読み方-ニュース、SNSから小説まで (中公新書 2637)』発売は2021年3月25日。著者は北村一真(きらむらかずま)さん。大学受験塾講師をやっておられて、現在は杏林大学外国語学の準教授とのこと。目次は以下。* 第1章 英文を読む前に―日本人に適した英語の学び方* 第2章 英文に慣れる―インターネットを活用したリーディング* 第3章 時事英文を読む―新聞、ニュースに挑戦* 第4章 論理的文章を読み解く―スピーチ、インタビュー記事から論文まで* 第5章 普段使いの英文解釈―SNS、コミック、小説を読みこなす* 巻末付録 「一歩上」に進むための厳選例文60タイトルの通り「英語の読み方」を提示した一冊で、英語をどう読解していくのかが実況中継的に語られている。文法の解説というよりは、文読解の理路とその手がかりが提示されていて、「そうそう、まさにこういうのが知りたかったんだよ」と膝を打った。基礎的な文法などを理解しているのが前提の本だが、そこからの次の一歩にちょうどよい一冊。『英語の思考法 ――話すための文法・文化レッスン (ちくま新書)』発売は2021年7月8日。著者は井上逸兵(いのうえいっぺい)さん。慶応大学文学部教授で社会言語学や英語学が専門とのこと。NHKのEテレ「おもてなしの基礎英語」という番組を担当されていた(倉下は未視聴)。目次は以下。* 序章 英語の核心* 第1章 英語は「独立」志向である* 第2章 英語は「つながり」を好む* 第3章 英語にも「タテマエ」はある* 第4章 英語の世界は奥深い“応用編”* 第5章 英語を使ってみる“実践編”英語の核を「独立」「つながり」「対等」の三つに据えて、英語話者のマインド(価値観)を紹介していく。Excuse me/usの使い分けの例示が非常にビビッドで、以下に英語が「個」を大切にしているのかが伝わってくる。 『伝わる英語表現法 (岩波新書)』発売は2001年12月20日なのだが最近復刊されてネットで大人気になっている本(今はかなり入手しやすい状況)。著者は長部三郎(オサベサブロウ)さん。アメリカ国務省言語部勤務で日本語通訳担当という経歴をお持ちの方。文法を解剖して、正確に意味を移していく、という「訳す」姿勢ではなく、話者の言いたいことを、適切に聴衆に伝えるという本書を貫く姿勢は、その業務で育まれたのではないかと推測。目次は以下。* 第1章 英語と日本語の違い* 第2章 日本語は名詞、英語は動詞―日本語の名詞から英語を考える* 第3章 日本語は抽象的、英語は具体的―日本語の文(センテンス)から英語を考える* 第4章 「一事一文」の原則―日本語の文章から英語を考える* 第5章 英語の構造と日本語* 終章 体験的英語教育―私の提言とにもかくにも「英語と日本語は、まったく異なる言語である」というひとつの大きなメッセージが貫かれている。その異なる言語の移動において、いかに「言いたいこと」を「伝える」のかの方法が解説されている。倉下メモこの三冊は、 倉下の「英語観」を刷新してくれました。言い換えれば、「英語的感覚」というものがどういったもので、それが日本語といかに異なっているのかがじんわりと感じさせてくれた三冊です。本書らのおかげで、英語を読むときにまず単語/品詞ごとに注目して意味を「分解」していくのではなく、まず文全体を捉えるように意識が切り替わりました。また、たとえば自分の原稿について考えているときに「 1章、2章の見通しが立った」という「思い」があるときに、それを英語で言おうとするときに「見通し」という言葉を辞書で引くのではなく、「この見通しってどういうことだろう?」と考え、たとえば「I got a way I would go.」などと言えば私の伝えようとしていることが伝わりそうだな、などと考えるようにもなりました。この表現が文法的・単語的にどれだけ適切なのかはわかりませんが、それでも「言わんとすること」を伝えられる文にはなっていると想像します。そういうマインドセットの切り替えを後押ししてくれた本たちでした。その後買った英語学習本ついでに新しく買い足した本もご紹介。『シンプルな英語』『英文解釈のテオリア~英文法で迫る英文読解入門』 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC021 『幸せをお金で買う5つの授業』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第21回の本日は『幸せをお金で買う5つの授業』について語ります。今回の本は、色々な点で『Learn Better』を思い出す本でした。BC011 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』 - by goryugo - ブックカタリスト書いてある内容自体は、全然知らなかった!みたいな驚きはほとんどないです。どれも読んでて、うん!確かにその通り!という話が多くを占めています。ただ、書いてあることを言語化して整理してまとめると、すごく色々身に沁みる内容ばかり。結果的に、この本からは大きな影響を受けて、日常生活の意識が大きく変わっています。(具体的なエピソードなどはPodcast内で語っています)どんなことにお金を使うと「幸福」になれるのか本書で書かれている「幸福になれるお金の使い方」は以下の5つ。* 経験を買う* ご褒美にする* 時間を買う* 先に支払う* 他人に投資する最後の「他人に投資する」という項目だけは「へえそうなんだ」という感覚がありますが、あとは大抵「どこかで聞いたことがありそうなもの」に感じます。ただ時短を目指せばいいというわけではない5つの章の中で最も興味深かったのが3章の「時間を買う」という項目でした。⏱時間が貴重だと思うほど時間に追われる感覚になる - by goryugo - ナレッジスタック↑にも少しまとめたのですが、まず興味深いのは「どうすれば時間があると感じることができるのか」たとえば、人には「ファストフードのロゴを見るだけでせっつかれた気分になる」という性質があり、早くする、ということを考えるだけで何もかもを「急がねばならない」という感覚になってしまう、とのこと。時間がないという感覚で「早くしないと」と考えることが脳に「急いだ感情」をもたらし、これがさらに「時間がない」という感覚を生み出す。「ファストフードのロゴを見るだけでせっつかれた気分になる」のと同じように、時短製品を買って時短を目指す場合でも、同じように「せっつかされた気分になる」可能性は極めて高いわけです。そう考えると、単純に「時間を買う」という行為一つを考える場合でも「がむしゃらに時短製品を買うことが正解ではない」ということを教えてくれます。その他、時間がお金に変わっていることを意識すればするほど、目の前の時間が楽しめなくなるということ。時給労働者は、より時間をお金だと感じやすくなるので、そういった感覚になりやすいこと。この効果は、仕事をやめても2年続くというような、興味深い話も多数ありました。ブックカタリストのサポーターの方には、この本についての読書メモや、本編で利用した台本などもお送りいたします。(別のメールでお届けします)サポーターについての詳細は、下記をご覧ください。ブックカタリストのサポータープランについて - by goryugo - ブックカタリスト This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC020『理不尽な進化』
今回は吉川浩満さんの『理不尽な進化 増補新版』を。すごく面白い本なのですが、あまりにも土俵が広いので、倉下の説明ではぜんぜんその面白さが伝え切れていない感がいっぱいです。これはもう、本当に読んでみてください。概要などよりも、まずこの本の論旨を追いかけていく体験そのものが Good & Happy です。著者は?著者は、文筆業・編集者さんです。現在は晶文社にお勤めとのこと。以前『闇の自己啓発』を紹介した回の後半で言及した、『人文的、あまりに人文的』の共著者の一人。「哲学の劇場」という動画番組も。https://www.youtube.com/tetsugekiこの本は?本書は「進化論」の本ですが、進化論の一般向け解説書ではありません。むしろ、私たちと「進化論」という概念との関係を扱った本です。本書は絶滅に目を向けますが、これまでに滅んでいった注目すべき(ないしはひどく奇妙な)生物を紹介する本ではありません。むしろ「絶滅」という現象の方にまなざしを向けています。まず、この点だけイメージしておいてください。「進化論」の本と聞いたときに、イメージする本とはずいぶん違っていると思います。目次* まえがき* 序章 進化論の時代* 進化論的世界像――進化論という万能酸* みんな何処へ行った――?種は冷たい土の中に* 絶滅の相の下で――敗者の生命史* 用語について――若干の注意点* 第一章 絶滅のシナリオ* 絶滅率九九・九パーセント* 遺伝子か運か* 絶滅の類型学* 理不尽な絶滅の重要性* 第二章 適者生存とはなにか* 誤解を理解する* お守りとしての進化論* ダーウィン革命とはなんだったか* 第三章 ダーウィニズムはなぜそう呼ばれるか* 素人の誤解から専門家の紛糾へ* グールドの適応主義批判――なぜなぜ物語はいらない* ドーキンスの反論――なぜなぜ物語こそ必要だ* デネットの追い討ち――むしろそれ以外になにが
BC019 アフタートーク
今回は、2回目の「ゲストの方に来ていただいて、その人に本を紹介してもらう」という形でした。まだまだこの形に慣れず、3人でうまくやる方法をどうするか?あるいはゲスト回の聞き役は、どちらか一人でもいいのでは?なんてことも考えたりもしています。なお、アフタートークは次回以降、サポータープランに加入いただいている方限定の配信になります。もしアフタートークで聞きたい話題、ごりゅごや倉下への質問などがありましたら、このメールに返信していただくか、コメント欄などに質問をお寄せください。サポータープラン限定の場所であれば、ある程度踏み込んだ話などもできると思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC019『心の仕組み 上』
ゲストはPADAone(パダワン)さん。* Twitter:@pd1xx* Site:アンキヨリハジメヨ『心の仕組み 上』について著者は、スティーブン・ピンカー。この界隈ならまず外せないほどの有名人。代表作は『言語を生みだす本能』。ノーム・チョムスキーというこれまた著名な言語学者の影響を受け、「言語」が進化的に獲得された能力(本能)だと説きつつ、しかしそれが他の脳の機能の「副産物」ではなく、言語機能そのものがメインだったと主張しているのが彼の言説の特徴。その著者が、心(というよりも精神)の働きに注目したのが本書。原題は『How the Mind Works』で1997年に出版されている。日本語訳はNHKブックスの単行本と、ちくま学芸文庫の二種類がある。共に上下巻。今回はちくま学芸文庫バージョンを取り上げる。上巻の目次は以下。* 第1章 心の構造―情報処理と自然淘汰(ロボットをつくるための課題 精神活動を逆行分析する ほか)* 第2章 思考機械―心を実感するために(宇宙のどこかに知的生命体はいないのか 自然演算 ほか)* 第3章 脳の進化―われら石器時代人(賢くなる 生命の設計者 ほか)* 第4章 心の目―網膜映像を心的記述に転じる(ディープ・アイ 光、影、形 ほか)放送では上巻のみが取り上げられているが、下巻の目次もついでに。第5章 推論―人は世界をどのように理解するか(生態学的知能 カテゴリー化 ほか)第6章 情動―遺伝子の複製を増やすために(普遍的な情熱 感じる機械 ほか)第7章 家族の価値―人間関係の生得的動機(親類縁者 親と子 ほか)第8章 人生の意味―非適応的な副産物(芸術とエンタテインメント 何がそんなにおかしいのか? ほか)ざっと目次を眺めると、精神のメカニズム(それが何をしていて、なぜそうするのか)が論考されているのがわかる。逆に、脳という物質からどのようにして精神現象が立ち上がっているのか(なぜ立ち上がったのかではなく、どのようにして立ち上がっているのか)については言及されていないように見えるので、まさに「Mind」がいかに「Work」しているのかを考える本なのだろうと推測できる。進化心理学ある意味では、極めてシンプルな主張をする学問。以下は日本語版ウィキペディアからの引用。進化心理学(しんかしんりがく、英語:evolutionary psychology)は、ヒトの心理メカニズムの多くは進化生物学の意味で生物学的適応であると仮定しヒトの心理を研究するアプローチのこと。適応主義心理学等と呼ばれる事もある。 人間が持つ「心理メカニズム」は自然淘汰の結果獲得されたものである、ということ。人の心は、白紙の状態で生まれて、成長の中でそこにいろいろ「書き込まれていく」というスタンスとは異なるというのがポイントになる。前者は生得論的な捉え方で、後者は経験論的な捉え方と言える。後者はたとえば、ジョン・ロックのタブラ・ラサが代表例である。正直この二つのどちらが「正しいのか」という議論は生産的ではないだろう。生得的な部分があり、文化的に獲得される部分があり、その二つ以外によって獲得される部分がある、と捉えるほうが自然である。一方で、どの部分がどれほどの割合を持つのか、あるいは強さを持つのか、という主張はありえるし、それによって「人間の心」をどのように扱うのかも変わってくる。でもって、それは政治的なスタンスに関わるので、これは結構議論を呼ぶ分野である。付言もし、「進化」について知識の枝を伸ばしていくならば、まずリチャード・ドーキンスは欠かせないし、分厚い本がお好みならダニエル・デネットに手を伸ばすのもありだろう。心身問題(心脳問題)であれば、古くはデカルトを起点として、新しくは脳科学を起点として(たとえば『意識はいつ生まれるのか 脳の謎に挑む統合情報理論』など)、枝を伸ばすのが面白い。とにかくこの分野は話題がいろいろ出てくるので、結構沼である。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe