BC010アフタートーク 贈与を受け取ってしまったら語りたくなる
ブックカタリスト収録後のフリートーク&次回の本をどうするか、の打ち合わせトークです。アフタートークで出てきた本のリストもこちらでご紹介します。じわじわ効いてくるラーンベターいろんなところで何回も話しているんですが、最近とにかく『ラーンベター』から影響を受けたことが多いです。どれもこれも書いてある内容は「普通」の、それは確かにそうだよね、ってことばかりなんですが、あらゆることが「確かにそうだ」と感じる。ここまでブックカタリストで紹介してきた本の中で一番「あらゆることがつながるようになった」本です。遺伝子ブックカタリスト007 『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』 - ブックカタリストこれを読んでから生命科学に興味が出てきて、新しくこの本を読み始めました。前半は、簡単で面白いけど、だんだんわからんことが増えて難しくなってきています。フィンガードラム入門ブックカタリストも10回続き、ちょっと毛色が違うものもありなのではないか、というところで思い出した「本」これも紹介するのもアリかもね、なんて話してましたが、結局ボツ(というかラーンベターを紹介したい)ここで話してて、自分には「ゲームや音楽を公開したい意欲がない」これは何故だろう、と考えたときに今回の『世界は贈与でできている』と繋がって、自分は「受け取った贈与を返したい」が情報発信欲求の根底にあることがわかったのでした。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC010『世界は贈与でできている』
今回は『世界は贈与でできている』について。副題:資本主義の「すきま」を埋める倫理学著者:近内悠太(ちかうち・ゆうた)1985年神奈川県生まれ。教育者。哲学研究者。慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業、日本大学大学院文学研究科修士課程修了。専門はウィトゲンシュタイン哲学。リベラルアーツを主軸にした統合型学習塾「知窓学舎」講師。教養と哲学を教育の現場から立ち上げ、学問分野を越境する「知のマッシュアップ」を実践している。デビュー著作となる本書『世界は贈与でできている』(NewsPicksパブリッシング刊)で第29回山本七平賞・奨励賞を受賞。倉下が見た本書のテーマ資本主義に抗する倫理学* 「お金では買えないもの」を語る言葉を求める。贈与とは何か──現代的な意義の確認* 贈与の原理を見出す。ピックアップキーワード* 贈与論 (マルセル・モース)* 贈与* “お金で買うことができないもの、およびその移動”* エマニュエル・レヴィナス/内田樹* 贈与の失敗としての『ペイ・フォワード』* デリダの誤配(「行方不明の郵便物」)* 贈与の象徴としてのサンタクロース* レヴィ=ストロース『火あぶりにされたサンタクロース』* ウィトゲンシュタインの言語ゲーム* 小松左京のSF* 想像力* 逸脱的思考と求心的思考* アンサング・ヒーロー概要人間は社会的な動物として(他者の存在を前提として)進化してきた。しかし、資本主義=交換の理論は他者の存在を必要としない。その理論は、自分もまた他者から必要とされないことを意味する。一方で、贈り物はそのような交換の理論には当てはまらない。経済学はこの贈与を語るための言葉を持たない。では、その言葉とは何なのか。「お金では買えないもの」という否定の表現ではない言葉を本書は探究する。贈与は、非時間的な交換とは違い、時間的な要素を生み出す。それはつながりを生み出すということ。しかし、贈与であるかのように見える親から子への呪いもある。その呪い性は「これは贈与である」と告げられることで発生してしまう。つまり、贈与とは贈与としての名乗りを持たないものでなければならない。贈与だとラベル付けされない贈与は、受け取った者が、その「意味」に後から気がつくことで成立する。そして、「意味」を扱う行為は、言語であり、コミュニケーションである。哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、言語活動をゲームとして捉えた。言語の「意味」を、特定のゲームにおける機能として理解せよ、という主張である。そうしたゲームを念頭に置かず、ただ「意味」だけを議論しても詮無いことである、と。私たちは言葉を扱うとき、何かしらのゲームに参加している。私たちの日常は、何かしらのゲームの内側で行われている。「意味」はそのゲーム内で規定される。ここで、贈与という行為の「意味」に後からが気がつく、という話に返ってみる。贈与は、名乗りを持たずに行われる。よって、私たちは通常であればその行為に気がつかない。しかし、自分が参加しているゲームにおいて、どうしても説明のつかない行為が目に入ったとしたら? そのような異物を本書ではアノマリーと呼び、その性質こそが「あれは贈与だった」と気がつける起点になると述べる。資本主義=交換の理論が支配的な中で暮らしている私たちにとって、明らかに異質に見える行為はそれだけで「目を引く」。そこから想像力が働けば、「あの行為は贈与だったのだ」と気がつくことができる。名乗りを持たないものの価値を、見出すことができる。→価値とは見出されるものであるそのとき、私たちは「すでに受け取ってしまったもの」となり、負債を背負って生きていくことになる。その負債感は、資本主義=交換の理論ではどうしても説明のつかない行為を引き起こし、それがまだ別の誰かにとっての贈与となり、世界は贈与で埋め尽くされてく。本書のポイントは、贈与とは「贈与として贈られたもの」を指すのではなく、後から振り返ったときに「あれは贈与だったのだ」と思えるものが贈与になる、という物の見方のシフトである。そのシフトを経験すれば、この世界そのものが、「あれは贈与だったのだ」と思えるもので満ちてくる。本書のタイトルが示すものは、おそらくそういういことだろう。これはただ受動的に生きているだけでは、贈与は見つからないことも意味する。贈与を見つけるための、違和感に気がつくための、そこから行為について想像するための、ある知的な能力が必要である。もし何かを教養と呼ぶならば、そうした能力こそがふさわしいと言えるだろう。関連コンテンツ* 映画『ペイ・フォワード』* 『それをお金で買いますか?』* 『火あぶりにされたサンタクロース』* 『復活の日』* 『存在論的、郵便的』* 『ゲンロン戦記』 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC009 アフタートーク&倉下メモ
『妄想する頭 思考する手』(暦本純一)倉下メモ本書の妄想とは何か。たとえば、「被害妄想」のようなネガティブなものではない。今この社会には存在していないものであり、それを他者に語ると「はあ?」とあきれられるくらいに今の価値観から乖離してしまっているもの、というくらいのニュアンス。他人に語ったときに、「ああ、それって便利だよね」と共感されるならば、既存のものの改良でしかなく(それはそれですごいわけだが)、イノベーションには至れない。言い換えれば、そのときの価値観を書き換えてしまうようなプロダクトこそがイノベーションと言える。私たちは自分が持つ価値観=世界観=パラダイムをフレームにして物事を考え判断するので、それが世間様と完璧に合致するならば、新しいものは何も生まれてこない。逆に世間様と完全に違っているなら話が通じない。だからこそ少しだけ「ズレ」ているものを思いつく価値観は貴重である。「はあ?」とあきれられる妄想を抱けるのは一つの希有な力なのだ。日本の画一的な教育と、単一指標による評価は、そうした希有な力の持ち主を貶め、規格化しようとする点でイノベーティブな芽を刈り取っているのではないか、とまでは本の中で直接書かれていないが、そういうニュアンスは受け取れる。すごく良かった箇所の引用同じようなアイデアは、自分以外にも思いつくことができる。でもその妄想を阻む壁を乗り越えられるのは自分しかいないかもしれないし、乗り越え方に自分らしさが出せるかもしれない。そう思うと、一回やってみて失敗するぐらいのほうが、やり甲斐のある面白いアイデアのように思えるのだ。失敗が重要なのは、それが「自分が取り組んでいる課題の構造を明らかにするプロセス」だからだ。次の本の候補『世界は贈与でできている』『クララとお日さま』 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC009 『妄想する頭 思考する手』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第9回の本日は『妄想する頭 思考する手』について語ります。著者は、東京大学大学院情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長という肩書きを持つ、いわゆる研究職での最強エリートとも言える暦本純一さんの「アイデアの作り方」について書かれた本。iPhoneの誕生に大きくヒントを与えたとされているマルチタッチシステムSmartSkinの発明者でもある著者が語った本というだけでも、注目に値する書籍だと言えます。とは言え内容的にすごく難しいことが書かれている本というわけではなく、書かれている言葉も、コンテンツ自体も素直で読みやすいものです。少なくともごりゅごがブックカタリストで紹介してきた本の中では、今までで一番素早く読み終えることができた本でした。妄想と言語化じゃあすぐに読み終えることができたから簡単な本なのか、というと決してそういうわけでもなく、ちゃんと紹介しようと思うと無数の読みどころがあり、逆に紹介しようと思っても仕切れない、という感じの本でもあります。例えばごりゅごが一番影響を受けたのは「それはなにか」ということを1行で説明するクレームというものの重要性。(日本語でクレーム、というと「文句をいう」と言うニュアンスがあるが、Claimは英語では「主張」という意味を持つ)クレームというのは検証できる、決着が想定できる形で書かないといけないし、高機能、次世代、効率的、効果的、新しいというような正しいけれど曖昧な表現はダメ。この本では「クレーム」というのはアイデアに対してのこととして書かれていますが、これはいくらでも自分のことに応用できるな、と思いいろんなことを考えています。たとえばこのブックカタリストにしても、1行で、人が興味を持ってもらえるようにするにはどう言う説明がいいだろうか、みたいな感じ。人間が作る妄想の未来から希望と楽しさまたこの本は、ごりゅごが前回紹介した『2030年』とある意味で同じ「未来について語った本」でもあるんですが『2030年』に比べてなんか未来、というのが明るく楽しい、夢と希望に満ち溢れる気持ちにさせてくれる本でもありました。ブックカタリスト007 『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』 - ブックカタリストこれは、一体何が違うんだろう、というようなこともPodcastの中で語っていたりもするので、是非ともPodcast本体の妄想トークも一緒にお楽しみ下さい。参考リンクHuman Augmentation人間拡張のScrapboxNeil Harbisson: ニール・ハービソン:「僕は色を聴いている」 | TED Talkカメラを人体にくっつけた人のTEDトーク。「人間拡張」というものが人間の感覚まで変えうる、という体験を語ってくれていて、非常に面白い。妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方 (単行本) | 暦本 純一 |本 | 通販 | Amazon This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC008 アフタートーク
ブックカタリストのアフタートーク。今回はごりゅごが、次回紹介しようと思っている本などについて語りたいと思います。化学を全然知らないことに気がつく『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』 に出てきた、現代の医療、長寿に関することを読んでいたら、実はごりゅごは「化学」というものの知識が相当足りない、ということを気がつきました。(よく考えたら、理系の大学に入学したけど、入試に化学の成績は「実質不要」で、しっかり勉強した記憶もない)ただ、遺伝子、DNAのことをちゃんと知ろうと思ったら、この手の知識はほぼ必須とも言えるものでもあるわけです。で、そんなタイミングでこんな本を見つけてしまいました。現在上巻を半分くらい読んだところですが、この本はどうやら「遺伝子の歴史書」っぽく、非常に読みやすく、面白い。まあ、ちょっと次回の紹介には間に合わなさそうですが、近いうちに取り上げたいと思っています。すごい人は権威を笠に着ない次回紹介予定なのは、こっちの本。帯にコメント書いてる石井さんのお話を以前聞いたことがあるのですが、登場シーンからものすごい「気さくなおっちゃん」で現れて、1発で引き込まれた記憶があります。めっちゃすごい人というのは権威を笠に着るようなことってないよねえ。そういいうことするの中途半端に偉い人だよねえ、なんてことを思い出しました。その他、紹介した本やリンクなど終盤に触れた、ワクチンのリバースエンジニアリングの話[翻訳] BioNTech/Pfizer の新型コロナワクチンを〈リバースエンジニアリング〉する|柞刈湯葉 Yuba Isukari|note今回出てきた3冊は、どれもちゃんとまとめてブックカタリストで語りたいものばかり。次回は『妄想する頭 思考する手』を紹介する予定ですが、残り2冊も(この後よっぽど面白い本が出てこない限り)ちゃんと紹介したいな、と思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC008『ヒューマン・ネットワーク』
今回は『ヒューマン・ネットワーク』について。副題:人づきあいの経済学原題:『The Human Network: How Your Social Position Determines Your Power, Beliefs, and Behaviors』著者:マシュー・O・ジャクソンスタンフォード大学教授、サンタフェ大学客員教授。プリンストン大学で学士号、スタンフォード大学で博士号を取得。主な関心はゲーム理論、ミクロ経済学、社会・経済に関するネットワークの科学など。2015年ケネス・アローやリチャード・セイラーも受賞した、ライク・ラズロ・カレッジが与える2015年度ジョン・フォン・ノイマン賞を受賞。*書籍のリンクはすべてAmazonアフィリエイトのリンクです。どんな本?人間的ネットワークの特徴とその形成のメカニズムを論じ、さらに個々の人の振るまいがいかにそうしたネットワークの影響を受けるのかを検討した一冊。倉下お薦めのネットワーク論系書籍* 『ソーシャル物理学』* 『ウェブはグループで進化する』* 『経済は「予想外のつながり」で動く』ネットワークに注目個々人の特性に注目するのではなく、その人が所属しているネットワークに注目することは、人の行動を一つの系として捉えることになる。上記で紹介した本は、そうした観点を持つが本書は、そうしたネットワークが「いかに形成されるのか」も踏まえて検討している点が興味深い。ネットワークの種類一口にネットワークといってもその形はさまざまであって、考え得るバリエーションは多岐にわたる。たとえば、30人のクラスの中でいかなるネットワークが築かれるかは、「誰も友達ではない」から「全員が全員と友達」であるの間に巨大なバリエーションを持つ。友達のペアは435個考えられ、そのペアの組み合わせは、2の435乗である。そうしたネットワークを個別に検討することはできないが、それぞれのネットワークの重要な特性に注目し、パターンを想定することはできる。ありうる関係のうちどのくらいの割合が実際に結ばれているか、参加者の間で関係が均等に結ばれているか、どこかに偏りがあるか、に基づいて分類するのはその例だ。そうしたパターンを追求することで、経済的不平等や非流動性、政治の分極化、金融危機の伝播などの問題も解明しやすくなる。物事をこうした視点で捉えることを「ネットワーク思考」だと呼ぶならば、本書はその思考法を開示するための一冊だと言える。外部性重要な話は盛りだくさんだが、一番重要なのは「外部性」の概念である。ネットワークの一部であるとき、ある決定や行動はネットワークの他の要素に影響を与える。たとえば、倉下は五藤さんにヘッドセットを薦めてもらい、それを買った。すると誰かがそのヘッドセットを見て、「あっ、あれいいな」と思う可能性が出てくる。その人がそれを買うと、さらに「あっ、あれいいな」と思う可能性が出てきて……という感じで、個人の決定がネットワーク全体に広がっていくことが起こり得る。むしろそのような影響が皆無であるならば、ネットワークを研究する価値はない。外部性があるからこそ、ネットワークは研究対象として興味深く、また価値があるものになる。一人の人間の選択は、基本的に自由であり、その選択は最大限尊重されるべきであろう。一方でそれは、一人の人間の選択が外部性を持たないことを意味はしない。社会制度・道徳・倫理観といったものが要請されるのもこうした側面があるからだろう。「自分の人生なんだから、自分勝手でいいじゃないか」と言い切れない視点がネットワーク思考には含まれる。*しかし、共同体を至上におく共産主義とも異なるのがポイントである。ネットワークの現れ方の違い一人の人間がたくさんの人と交流を持っていても、それがインフルエンザウイルスなのか、HIVウイルスなのかによって立ち現れるネットワークは異なる。また、流れるものが情報の場合でも、政治的信念と明日の天気とお得なセール情報と銀行倒産のうわさ話では、流れ方が異なる。ある面において一つのネットワークが現れたとしても、それが万事に通じるわけではない。流れるものによって、現れ方が変わってくる。また、ネットワーク上のポジション(≒持ち得る力)も、単純には測定できない。友達が多いのか、友達が多い人を友達に持っているのかは、単純にどちらが「すごい」のかはわからない。そこを流れるものによって変わってくる。この点において、「フォロワー数がn万人ならなんちゃら」と考えるのはあまりに単純すぎることがわかる。ネットワークの規模だけでなく、その性質に注目することは欠かせない。ネットワークと個人の立ち振る舞い本書は面白い話が多いのだが、深刻なものとして個人の立ち振る舞いや可能性がその人が属するネットワークに強い影響を受ける、という点がある。この話は、ピエール・ブルデューのハビトゥスを想起させるが、おおむね似通っていると言ってよい。ハビトゥスは、行動の傾向(気質のシステム)にフォーカスしているが、入手できる情報やそうした情報に対する評価もネットワークからの影響を受ける点が本書では指摘されていて、それが極めて重要だろう。なぜならば、経済学が想定する「合理的な経済人」や、ジョン・ロールズの「無知のヴェール」が根本的に無理な要請である可能性が示唆されるからだ。とは言え、本書でそれが論じられているわけではなく、あくまで倉下の観点である。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC007 アフタートーク&倉下メモ
『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』倉下メモ冒頭に紹介された「融合」というキーワードが気になりました。以下の本も気になっています。『コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化』フードテックやフィンテックなどは、食品業界や金融業界とテクノロジーの融合だったわけですが、そうしたhogeテック的なものが増えてくると、今度はそれぞれのhogeテックが融合して、さらに新しいものを生み出していく、という捉え方は個人的に魅力的です。ただし、そのようなボトムアップ的変化は、最終的にどうなるのかはまったくわからない、という見通しの悪さも伴う点には注意が必要そうです。倉下の個人的な感想としては、たしかにテクノロジーはとんでもなく進化していくだろうけども、「それって本当に大丈夫なの?」と問う姿勢を欠いてはいけないなと感じた次第です。倫理×テクノロジーの ethitech が必要なのかもしれません。たぶんそれは、VRによる「仮想的な現実体験によって、いかに倫理観を醸成するのか」という方向で実現されるのでしょう。次の本の候補* 『ヒューマン・ネットワーク』(←こっちになりました)* 『英語独習法』 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC007 『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第7回の本日は『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』について語ります。あらゆる分野の「未来」が網羅された1冊一言で言って、非常に夢溢れる、これからの未来が楽しみになる本でした。(そもそもこういう本が好き)細かな翻訳で気になる点や、あえて詳細を省略している(不都合だからなの?伝わりやすくするためなの?)と感じる点などはありましたが、楽しむ分には問題はないかな。対象とする範囲が非常に広いために、これだけボリュームがある書籍でも、1つ1つの分野の説明は「ライト」な感じです。その分野の本を多少知っていれば「だいたい知ってる」って感じになりがちですが、1冊の本でこれだけ全体がまとまっている」ということに価値がある本だと思います。ついにクルマが空を飛ぶ時代が来る本の始まりは、UberのCPO ジェフ・ホールデンが「空飛ぶ車を作る」という話をするところから。1960年代や70年代に創造した21世紀って、全然今と違うよね。空飛ぶ車とか、お手伝いロボットとか、ボタンを押したら料理を作ってくれるとか、そういうのってどこ行ったの?著者は、そういう時代が「すぐに来る」と言っています。なぜなら、これからさらに変化が加速するから。さまざまな技術がデジタル化され、技術は、エクスポネンシャルな加速(指数関数的な加速)をし、それらの技術が「コンバージェンス」(融合)することで、進化がより加速する。本に書いてる横文字をそのまま並べるとなんかアレなんですが、この「指数関数的な加速」と「技術の融合」というのがこの本が伝える「加速が加速していく」大きな理由です。今まではCPUに「ムーアの法則」というのがあって、コンピュータは1.5年で性能が2倍になる、ということが起こっていた。このムーアの法則というものが、デジタル化からの進化によって「ありとあらゆるジャンルで適用されるようになる」振り返ってみると、10年前に10万円で空飛ぶドローンが手に入る時代は想像もしてなかったし、10年前にまさか囲碁で人間がコンピュータに負けるのが今実現するなんて思ってもみなかった。(20年前には、コンピュータが囲碁で人間に勝つにはあと100年かかる、などと言われていた気がする)この10年で「信じられない変化」がすでに起きていることを考えたら、これからの10年がもっと信じられない変化が起こっても、確かにおかしいことはない。VRと3Dプリンティング、パーソナライズ本全体を通して最も多くの分野に影響を与えそうなものが、VRと3Dプリンティング、パーソナライズいう3つのキーワードでした。VRによって教育も買い物も「その場で体験ができる」ようになり、広告は今までと次元が違うものが現れる。不動産なんかはVRで内見ができるようになる、という変化だけでなく「その場で体験ができる」時代になることで「そもそものいい土地」というものの定義すらも変わってしまう。3Dプリンティングはすでにありとあらゆる材料でプリントが行えるようになっており、人間の臓器も、食べ物も、家も「プリント」で作れるようになっている。1また、これらに「パーソナライズ」という要素が加わることで、教育ならば生徒一人一人に最適化した授業を与えられるし、広告も「超パーソナライズされたもの」が配信可能(ディストピア?)一人一人に最適化した移植用臓器などは低コストで3Dプリンターで作れる。保険や金融も個人に最適化され、パーソナライズが進めば「保険」という概念も無くなってしまうかもしれない。医療と遺伝子そして個人的に最も衝撃が大きかったのが「医療」の分野。本の中では9章の「医療の未来」に加えて、次の10章では寿命延長というものについて丸々1章使ってさまざまな寿命延長の方法について書かれています。現時点で「人はなぜ老化するか」「なぜ死ぬか」ということはかなりの部分がわかってきている。そして、わかってきたということは対策もできるようになってくるということ。この分野に関しては、自分の知識がほとんどなかったことも関係していると思いますが「マジでもうこんなことできるのか!」という話だらけでした。確かに、つい100年前は人間は50になる頃には大抵死んでたんだし、原子時代は30歳でもう死んでいた、なんて話も聞く。(平均年齢ではない)それが今80まで生きるのは普通で、ここから技術が加速するならばまだまだ寿命が伸びる可能性は十分ある…個人的には技術の進歩は可能な限り見てみたいので、長生きできることは嬉しいんですが、人生設計というものは確実に考え直さなければならなくなりそう。60で引退してあと60年は「余生過ごす」ではないよな…100歳の人を再び60歳に戻すこと、すなわち人間の生存期間を大幅に延ばすことは、すでに「できるかどうか」から「いつできるか」の問題に移った。章の最後に書かれてるこんな言葉を見ると、本当にいろんなことに「備える」必要があることを思い知らされます。2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ | ピーター・ディアマンディス, スティーブン・コトラー, 山本 康正, 土方 奈美 |本 | 通販 | Amazon* 金属、ゴム、プラスチック、ガラス、コンクリート、細胞、皮革、チョコレートなどはすでにプリントできるらしい。 ↩︎ This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC006 アフタートーク 意外に気が付かないApple Booksの便利なところ
ブックカタリスト収録後のフリートーク&次回の本をどうするか、の打ち合わせトークです。アフターショーで出てきた本のリストもこちらでご紹介します。次回紹介しようと思ってる本2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ (NewsPicksパブリッシング) | ピーター・ディアマンディス, スティーブン・コトラー | 工学 | Kindleストア | AmazonLearn BetterLearn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ | アーリック・ボーザー, 月谷真紀 | ビジネス・経済 | Kindleストア | Amazon「読まなくてもいい本」の読書案内「読まなくてもいい本」の読書案内 ──知の最前線を5日間で探検する (ちくま文庫) | 橘玲 | Kindle本 | Kindleストア | Amazon最近Apple Booksを使っているという話Kindleアプリが最近めっちゃ使いづらい(アプリがよく固まる、起動が遅い)などの理由でApple Booksを使いはじめました。漫画の一覧が「買ってないやつ」まで全部並ぶ。Macでメモが章ごとに並ぶ。この辺りはメリットだと思います。その他、AppleやAmazonには「愛」があるかどうか、みたいなことも話しています。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC006『闇の自己啓発』
(音声ファイル抜きで配信してしまいましたので、再配信です)今回は『闇の自己啓発』について。*書籍のリンクはすべてAmazonアフィリエイトのリンクです。以下倉下のメモ闇の自己啓発会とは以下の四人による読書会。* 江永泉(えながいずみ)* 木澤佐登志(きざわさとし)* ひでシス* 役所暁(やくしょあかつき)本書はその読書会(闇の自己啓発会)の内容を書籍化したもの。「闇の自己啓発会」はのれん分けを行っており、自分で立ち上げることも可能。以下の記事を参照のこと。読書会【闇の自己啓発会】〈のれん分け〉キャンペーン|江永泉|note共著者の一人、木澤佐登志は以下の本の執筆および序文の寄稿を行っている。* 『ニック・ランドと新反動主義』* 『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』* 『暗黒の啓蒙書』(ニック・ランド)の序文『ダークウェブ・アンダーグラウンド』は、本書の第1部でも取り上げられており、また「暗黒」/「闇」という部分でも本書に響き合う一冊。目次本書の目次とは、すなわち本書が取り上げる本のリストでもある。* 第1部 闇の社会* ダークウェブ―課題図書 * 木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド―社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』* 中国―課題図書 梶谷懐/高口康太『幸福な監視国家・中国』* 雑談1 『天気の子』と神新世* 第2部 闇の科学* AI・VR―課題図書 海猫沢めろん『明日、機械がヒトになる―ルポ最新科学』* 宇宙開発―課題図書 稲葉振一郎『銀河帝国は必要か?―ロボットと人類の未来』* 雑談2 『ジョーカー』のダンス* 第3部 闇の思想* 反出生主義―課題図書 『現代思想』2019月11月号 特集「反出生主義を考える」* アンチソーシャル―課題図書 レオ・ベルサーニ/アダム・フィリップス『親密性』* 雑談3 ゼロ年代から加速して―加速主義、百合、シンギュラリティ* 補論 闇の自己啓発のためにどれも現在・現代の「当たり前」の感覚から遠く離れた地点から発せられ、ぐおんぐおんとそれを揺さぶるような内容の本である。暗黒啓蒙(The Dark Enlightenment)と闇の自己啓発近代の歩みとしての啓蒙主義に疑問を投げかけ、いっそそれを破壊しかねないベクトルを持つ思想。その思想の流れは、木澤佐登志の『ニック・ランドと新反動主義』が面白く読める。近代〜現代がイノセントに前提にし、また称揚してきた考え方を揺さぶるという点では非常に力のある思想ではあるが、しかし、それが結局のところ「啓蒙」の形でしか足られないことに構造的限界を感じる。一方「闇の自己啓発」は、暗黒啓蒙と同じ疑問を持つが、しかしその歩み方が違う。彼らは本を読み、それについて各々が語り合う。その人自身の形で。それがつまり、Dark Self-Enlightenmentである。そんなビッグブラザーの支配する中で、自己を奪われないためには何をすればよいのか。私は読書会こそがその答えであると思う。ひとりで思考し、学び続けることが難しくても、ともに語り、学び、思考する共犯者がいることで、自己を失わずに、思考することが続けやすくなる。その語り合いの中では、差し出される光=闇に自己を融和させる必要がない。むしろ語り合いの中でこそ、いっそお互いの輪郭線がはっきりし、また溶け合うというアンビバレントな状況が起こり得る。大衆になり切れず、かといって孤独に生きていくほどのタフさを持たない人間にとって、それこそが救いなのではないか。そんな風に倉下は感じた。読書会の本同じく読書会(的な)本として『人文的、あまりに人文的』がある。哲学の劇場 - YouTube こちらはもっと人文寄りのセレクトで、小気味よくたくさんの本を紹介してくれている。人がいて、その人が本について語る。連鎖的・連想的にその他たくさんの本やコンテンツに言及する。特定の分野を読み深めるのではなく、いろいろな本の発見現場としては、そのような語られ方が一番楽しいと感じる。誤配がそこら中で起きるから。その他言及した本『ハーモニー』(伊藤計劃)小説とアニメ映画がある。アニメ映画は沢城みゆきさんがとても良いが、それはそれとしてこの作品を生(き)で味わうなら小説の方が良いだろう。タグ付けされた小説は、それ自体にメッセージを有しているから。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe