BC050 1年で表現する『超圧縮 地球生物全史』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『超圧縮 地球生物全史』をメインの題材にしつつ「46億年の地球を1年にたとえて俯瞰する地球史」について語ります。本編でも冒頭に話していますが、人間の直感では「1万年前」のことも「1億年前」のこともどっちも「すごい昔」以上の区別ができません。それを相対的に俯瞰する方法として素晴らしいな、と思うのが地球の46億年を「1年」という期間に変換して考えてみること。この変換をしてざっと計算をすると、1万年前は12月31日の23時59分ごろの出来事で、1億年前は12月23日ごろになります。地球の年齢を元に大ざっぱに計算するとだいたい以下のような計算結果が出てきます。6月まではほとんどなにもない時代上記表を元にして地球全史を振り返ると、まずわかるのが地球が存在していた期間の半分くらいはいわゆる「生き物」は存在していませんでした。6月になってミトコンドリアを含んだ真核生物が誕生して、そこからさらに月日は流れ、動き回れる動物が生まれたのが11月半ば。4本足の生き物が誕生したのは12月に入ってからのこと。恐竜がだいたい12月15日から26日くらいまで存在していて、2足歩行の人類が登場するのは12月31日の午前6時。火を使い始めたのが午後9時で、農業を始めたのは23時59分の出来事。23時59分50秒くらいに聖徳太子が生まれて、23時59分59秒にようやく明治時代が始まった、というくらいの計算です。こういうふうに地球の歴史を振り返ってみると、生物の「進化」という言葉一つ取っても見えてくるものの距離感が変わってくるように感じます。「歴史」は複数の本をつなげるのが簡単年に1回の頻度でこういう感じで「今まで読んできた本を横断的にまとめる」ということをやっていますが、今回の「1年でまとめる」というやつはまとめるのが非常に楽しい行為でした。また、BC049「物語」とどう付きあうかのように複数の本の「つながり」を見つけるのは難しいかもしれないですが、今回のような「時間軸」でまとめるだけのことであれば簡単です。手間暇はかかるかもしれませんが、それぞれの出来事をどこに位置づければよいかは小学校の算数の能力さえあれば問題なし。ある意味で「アトミックな読書メモ作り」の第一歩としてこういうノートのまとめ方は中々よい練習にもなるのではないかな、ということも思った次第です。今回の参考文献なお、今回の話は『超圧縮地球全史』以外は主に以下の本の内容を参考にしています。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC049「物語」とどう付きあうか
テーマは”「物語」とどう付きあうか”。以下の二冊を取り上げました。* 『ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する』* 『物語のカギ : 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』二冊の書誌情報『ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する』* 著者* ジョナサン・ゴットシャル* ワシントン&ジェファーソン大学英語学科特別研究員* 邦訳されているものだと他に『人はなぜ格闘に魅せられるのか――大学教師がリングに上がって考える』がある。* 前著にあたる『The Storytelling Animal』は未邦訳。* 翻訳* 月谷真紀 * 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』も訳されています。* 出版社* 東洋経済新報社* 出版日* 2022/7/29* 目次* 序 章 物語の語り手を絶対に信用するな。だが私たちは信用してしまう* 第1章 「ストーリーテラーが世界を支配する」* 第2章 ストーリーテリングという闇の芸術* 第3章 ストーリーランド大戦* 第4章 「ニュース」などない。あるのは「ドラマ」のみである* 第5章 悪魔は「他者」ではない。悪魔は「私たち」だ* 第6章 「現実」対「虚構」* 終 章 私たちを分断する物語の中で生きぬく『物語のカギ : 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』* 著者* 渡辺 祐真/スケザネ* 東京のゲーム会社でシナリオライターとして勤務する傍ら、2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。* YouTubeチャンネル「スケザネ図書館」主催。* 『季刊 アンソロジスト』『スピン/spin』* 出版社* 笠間書院* 『“深読み”の技法』(小池陽慈)という本も* 出版日* 2022/7/27* 目次* はじめに* 序章 なんで物語を読むのか? 物語を味わうってどんなこと?* 第一章 物語の基本的な仕組み* 第二章 虫の視線で読んでみる* 第三章 鳥の視点で読んでみる* 第四章 理論を駆使してみる* 第五章 能動的な読みの工夫* おわりにストーリー・パラドックスジョナサン・ゴットシャルの主張は以下の二つにまとめられます。* 私たちにとって物語は必要不可欠であるが、場合によっては毒にもなりうる* 現代社会の「物語の技術」はすさまじいものがあるので注意が必要情報としての物語は、複雑で無秩序なさまざまな出来事に秩序と構造を与えて、私たちが把握・理解しやすいようにしてくれます。たとえば、その人が勧善懲悪な物語ばかりに触れていたら、現実の認識はだいたい「敵と味方」の構図に落とし込まれるでしょう。言い換えれば、その人が持つ物語のバリエーションが、その人の現実認識のバリエーションに直結するのです。『啓蒙思想2.0』の言い方を借りれば、物語それ自体が一つの「外部足場」であって、それを使って私たちは現実を理解し、どのように反応するのかを決定しているのです。どれだけ優れた科学知識を持っていても、それをどのように用いるのかまでは「科学」は決めてくれません。それを支えるのは、まさしく「物語」です。この世に生まれる人と人の対決は、それぞれの価値観を醸成している物語と物語の対決として捉えることもできるでしょう。ミームとしての物語、というわけです。かといって、私たちは「脱物語」的に生きていくことができません。伊藤計劃の『ハーモニー』は、そうしたことが可能になる世界の可能性を描いていますが、残念ながら現代の科学技術はそうした段階には至っていませんし、至っていたとしても人類がそれを選択すべきなのかは、別途倫理的な議論が必要でしょう。なんにせよ、現時点では私たちは物語と付き合い続けていくしかありません。では、どうすれば好ましく物語と付きあっていけるのか?それは、多様な(あるいは多様に)物語を楽しむことです。物語を楽しむ本編では部分的にしか言及できなかったので、『物語のカギ』のカギ一覧をリストしておきます。* 1. 多義性を知ろう!* 2. 多義性から「物語文」を作れ!* 3. 内容と語りに分けよう* 4. 時間の進行を計れ!* 5. 人称ってなに?* 6. 焦点化ってなに?* 7. 語り手の種類を知ろう!* 8. 語り手を信頼するな!* 9. ジャンルを意識してみよう* 10. 作者の死* 11. メタファーを使いこなせ!* 12. 書き出しを楽しもう* 13. 小道具に着目してみよう* 14. 自然描写の想起するイメージを掴め!* 15. 五感をフル稼働させよう!* 16. 書かれたことをそのまま受け取るべからず!* 17. 結末を味わい尽くせ!* 18. 言葉を味わおう!* 19. 自分の人生を賭して読んでみよう!* 20. キーワードを設定してみよう!* 21. 二項対立を設定してみよう!* 22. 二項対立を打ち破れ!* 23. 隠されたものを復元せよ!* 24. 他ジャンルを使ってみよう!* 25. 作家の伝記を調べてみよう!* 26. 比較・変遷をたどれ!* 27. 元ネタを探ろう* 28. 理論の使い方や歴史を知ろう* 29. ケアに気を配ろう* 30. 自然の視点に立ってみよう* 31. ジェンダーについて考えよう* 32. 時代背景を考えよう!* 33. 時代背景を考えよう!* 34. 暗記してみよう* 35. 書き込みをしてみよう* 36. 注釈を活用してみよう* 37. 再読をしよう* 38. 翻訳を読み比べてみよう!「本の読み方」はあまり教えてもらわないものです。本好きの人が、少しずつ身につけていく「伝統の技法」感が若干あります。しかし、それらは言語化できないわけではありません。上記のように、さまざまな技法=技術が概念化可能です。一冊の本を読むにも、さまざまな視点・観点の取り方が可能ですし、複数の本を読んで見ることで浮かび上がってくる情報もあります。そうしたことを体験的に知れば、私たちは一回一回の読書において没頭し、ときに理性を置き去りにしてしまったのとしても、そこから帰ってきたときに別様のまなざしをその本に向けることができるようになるでしょう。でもって、それと同じ態度は、この社会を流れるさまざまな情報(物語)にも適用できるものだと思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC048『はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で』
『はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で』(五藤 晴菜)ゲストは、五藤晴菜さん。* Twitter:@haruna1221 * Newsletter:iPad Workers Newsletter* YouTubeチャンネル:ごりゅごcast* Amazon著者ページ書誌情報* 発売日:2022/9/13* 出版社:インプレス目次* Chapter0 Introduction* Chapter1 iPad でアイデアを出す* Chapter2 iPadで企画書作成のヒント* Chapter3 iPadで会議を制する* Chapter4 iPadでプレゼン攻略* Chapter5 iPadで時間・タスク・データ管理内容と特徴iPadの取り扱い説明書ではなく、特定のアプリの解説書でもない、これまでに無かったタイプのiPad本。実際の仕事のシチュエーションを想定し、それぞれの場面でどのようにiPadが「活きる」のかを紹介してくれる。具体的なTipsよりは、「どうiPadを使うのか」という考え方を提示してくれる点が特徴と言える。仕事と手書きとiPadどのくらいの人が所有しているかはわかりませんが、それでもiPadは「なんとなく欲しい」ガジェットの一つです。どういう用途で使うのかは具体的にイメージできないけども、なんかあると良さそう。そんな感覚がするガジェットなのです。そんな感覚のままiPadを購入すると、だいたいは「高性能ビュアー」がその居場所となります。なんといっても、便利でちょうどよいサイズ感なのです。動画を見る、PDFを読む、SNSをしながらゲームをする。高性能なスペックが、心地よい体験をもたらしてくれます。これは別に悪いことではありません。むしろ、純粋なiPadの使い方と言えるでしょう。つまり、「iPad単体の使い方」としては自然なものなのです。変化が生まれるのは、そこに「外付けキーボード」か「Apple Pencil 2」が加わったときです。そうしたとき、iPadは仕事道具に生まれ変わります。「外付けキーボード」を使えば、iPadはグッとパソコンに近づきます。文章入力をするための装置に化けるのです。さまざまな資料を参照しながら書くような文章は、画面を二つに分けられるiPadは──iPhoneと比べれば──非常に作成しやすいでしょう。パソコンに完全に並ぶほどではなくても、メールやら報告書といったものであれば、悠々と入力できます。一方で、「Apple Pencil 2」を使えば、iPadはデジタル文房具へと変身します。デジタルノート、あるいはデジタル手帳としての存在感が生まれはじめるのです。こちらの変化は、「外付けキーボード」によるミニ・パソコン化よりもはるかに強力です。なぜなら、ミニ・パソコンは機能の劣化が多少あるわけですが、デジタル文房具は、むしろアナログ文房具の強力版だからです。* やり直しができる* コピー&ペーストができる* テキストとして認識してくれる(なので検索できる)* 共有や送信がそのままできるアナログの文房具では不可能だったり、手間がかかりすぎていた行為が、iPadなら一気に簡単になります。でもって、そうやって仕事で活躍する文房具は、趣味の文房具とは違って「使えればそれでいい」ところがあります。実用性が最優先事項なのです。*もちろん、仕事の文房具に趣味を持ち込んではいけない、という話ではありません。その意味で、仕事におけるデジタル文房具としてのiPadは過不足がないどころか、一番良い働きをしてくれるとすら言えます。特に、普段仕事で手書き作業をよく行っているならばなおさらです。私も、仕事でよく手書きのメモを作っていますが、iPad Air + Apple Pencil 2 を導入して以降は、その比率がデジタルにかなり傾きました。iPad : アナログノート が 7:3 や 8:2 くらいになっています。むしろ「広い画面を一覧したい」という欲求がない場合は、ほとんどiPadを使っていると言ってもいいかもしれません。もちろん、私はデザイナーではないので、今日突然iPadが世界から消滅しても大きく困ることはありません。それよりも、MacOSとキーボードが消える方がはるかに困ります。それでも、この iPad + Apple Pencil 2 による「デジタル手書き体験」は、ずいぶんと大きいインパクトを持っています。世界が変わった感覚があるのです。合わせて言えば、私のように字が汚い人ほど──手軽に直したり、整形できるので──デジタル文房具の恩恵は大きいでしょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC047『リベラルアーツ 「遊び」を極めて賢者になる』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、久しぶり?な気がする「ごりゅごが普通に喋る会」でした。テーマは、タイトルにもある通り「リベラルアーツ」なんですが、個人的にはこの本はBC039「現代のインターネット環境と退屈の哲学」から繋がる「幸福論」の一つとして解釈した部分が多いです。きっかけは、ブックカタリストの読書会でこの本を紹介してもらい、そういえば自分は「リベラルアーツ」ということばの意味をきちんとわかってないし、考えたこともないかもしれないな、というところから。そんなことを考えながら読んでみて、もっとも自分の印象に残ったのが7章の「江戸に遊ぶ編」でした。ここは、主に(著者が大変好きであろう)杉浦日向子さんという、漫画家、江戸風俗研究家の方の著書を参考にしたエピソードも多く、杉浦日向子さんの著書を読んでみよう、と思えるきっかけにもなりました。今回は「こうやって読みたい本が増える」みたいなパターンの、もっとも典型的なものの一つを体験できたという感覚です。電子書籍を積んだ状態になっていた下記2冊なんかも、この本きっかけで「読んでみようかな」となっています。(2章が古代中国の六芸の説明)本の内容自体は「一言で結論を言ったらいかんやつ」「考えるという過程が大事」というタイプのものなので、リベラルアーツってなんなん、という「答え」は簡単に得られるものではないんですが、本の中身自体も「古代ギリシア・古代ローマ」的な話から古代中国や、日本の江戸時代。歴史的なところだけでも様々な時代から学ぼう、という幅広いもので、こうやって「いろいろなことを学ぶ」ことを通じて考えることがリベラルアーツに繋がる行為なんだろうな、ということを考えることはできるようになりました。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC046「オープンさと知的好奇心」
今回は、倉下が二冊の本を取り上げました。* 『OPEN(オープン):「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る (NewsPicksパブリッシング)』* 『子どもは40000回質問する~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~ (光文社未来ライブラリー)』一見異なる本から、関連する「トピック」を取り出すというシントピカル・リーディングの実践です。◇シントピカル・リーディング - BCBookReadingCircle 『OPEN(オープン): 「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る』書誌情報* 原題* 『OPEN:The Story of Human Progress』* 著者* ヨハン・ノルベリ * 『進歩: 人類の未来が明るい10の理由』(晶文社)* 翻訳* 山形浩生* 森本正史* 出版社* NewsPicksパブリッシング* 出版日* 2022/4/29* Amazonリンク* https://amzn.to/3cSOMNa開かれたグループ・組織・文化が持つ力を明らかにする。『子どもは40000回質問する~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~』書誌情報* 原題* 『CURIOUS:The Desire to Know and Why Your Future Depens on it』* 著者* イアン・レズリー* 『CONFLICTED~衝突を成果に変える方法~』(光文社)* 翻訳* 須川綾子* 出版社* 光文社(光文社未来ライブラリー)* 出版日* 2022/5/11* Amazonリンク* https://amzn.to/3QsaBkl人間を人間たらしめている能力である好奇心。それを深めることが、人生を豊かにし、また情報化社会で活躍するために必要である、と説く。オープンさと好奇心倉下は「開く・開かれている」という概念に興味があります。関心軸の一つと言っていいでしょう。そして、「閉じているよりは、開いている方がいいだろう」とイノセントに考えております。青年期にインターネットの洗礼を受けた経験があるからに違いありません。『伽藍とバザール』といったお話も大好きです。一方で、何でも開けっ広げにすればそれでいいだろうとも思っていません。誰しもが、心の内側に篭もれるドアを必要としてるでしょうし、細胞は細胞膜でおおわれていますし、なんといっても「私」は、私という閉じた存在です。「閉じ」というのは必要で、もっと言えばそれが基本的な在り方で、だからこそ逆向きのベクトルを持つ「開く」が有用なのだと言えるのかもしれません。そんなことを考えていると、そもそもどういう状態であれば「開いている」と言えるのかも面白い問題だと言えます。人間存在は一つの閉じた系ではあるものの、一方で人間の知識は外部の環境とセットで機能するわけですから、そこは開いていると言えます。この閉じと開きの微妙な関係が私の興味をそそるわけです。今回は二つの本を通じて、その「開いている」を考えてみました。一つは、一つの組織や文化としての「開き」。たとえば、科学は開かれた営みですが、陰謀論は閉じられた試みです。その二つで使われる単語が似ていたとしても、行われている営みはまったく反対の性質を持つのです。一人の人間の知識や能力や視点は限られている。だから、いろいろな人を集めた方がいい。そして、ただ集めるだけでなく、その中でさまざまな意見交換や能力の習得が行われた方がいい。そういった最近ではごく当たり前のように感じられる──これは私のバイアスでしょう──事柄が、人類の歴史をさかのぼって論証されていきます。『OPEN』における重要な指摘は、そうした自由な交流や精神が現在盛んに盛り上がっているのは、ほとんど奇跡に近い出来事である、という点です。それはきちんと守っていかないと、簡単に崩れていってしまうものなのです。さらに、その精神性は別段「西洋」と深いつながりがあるわけではない、という指摘も面白いものです。グローバリズムと西洋化を切り離したことで、西洋至上主義とは違った形でその普遍性を浮かび上がらせようとしています。知的好奇心は育む必要がある『子どもは40000回質問する』では、そうしたオープンさを個人のマインドセットに見出します。私なりの読み方をすれば、好奇心があるとは、心が開かれている状態です。他者に向けて関心を持ち、外部に向けて関心を持つ。それだけでなく、その対象を自分の内側に招待するような、そんなマインドセットが好奇心です。そのような状態のとき、私たちの心は「閉じていながらも、開かれている」という不思議な状態に置かれます。自分の底に他人がいて、他人の底に自分がいる。まるで西田幾多郎の哲学です。おそらく「確固たる自己」というのは、他人をまったく無視するものではなく、他人を視野に入れながらも維持されるアイデンティティが確立されている状態のことなのでしょう。「分人」の考え方を拝借すれば、たとえ誰と会っていても、共通して立ち上がってくる「自分」というものがある状態。それがしなやかなアイデンティティではないかと想像します。付け加えて言えば、『子どもは40000回質問する』の重要な指摘は知的好奇心は育む必要があり、また基盤となる知識がなければ創造力も思考力もろくに機能してくれない、という点です。言い換えれば、誰かが「自由に」考えられるようになるためには、一定の「押しつけ」(という名の教育)が欠かせないことになります。これだけみると、あまりにもパタナーリズムな感じがするかもしれません。しかし、たとえば「子どもの自由にさせよう」と思い、周りの大人が一切母国語を教えず(=話さず)、子どもが自分の「言語」を立ち上げるに任せているとしたらどうなるでしょうか。その子どもが、「自由に」考えられるようになるでしょうか。この点からも、「開く・開かれている」というのがそんなに簡単な話でないことがわかります。何も手を加えないことが「開く」ではありません。そうではなく、「開かれた状態」に持っていくことが「開く」なのでしょう。ということは、その前段階として「閉じる」ことが必要になります。ここが難しいところです。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC045『Obsidianでつなげる情報管理術』
ゲストはPouhonさん。* Twitter:@Pouhon158* Blog:Output 0.1* Amazon著者ページ『Obsidianでつなげる情報管理術』について数少ない、日本語で書かれたObsidianについての書籍です。ちなみにもう一冊、以下の本があります。『情報をまとめて・並べるだけ!超シンプルな「手帳」兼「アイデア帳」運用術: 文章を書き、考える人のためのObsidian活用術 情報整理大全』(choiyaki)個人的には、こんな風にいろいろな人がObsidianの使い方を公開していくと、きっと良い未来がやってくると感じます。コピペでコンテンツを切り売りするような「アウトプット」はもうおなかいっぱいですね。概要本書の目次は以下の通り。目次:* はじめに* 第一章 言葉の形、記憶のカタチ、メモのかたち* 第二章 Obsidianの準備* 間章 情報管理の課題と対策* 第三章 DiMFiTを構築する* 第四章 Obsidianの検索機能* 第五章 Obsidianアンチパターン* 第六章 実践 読書メモの作り方Obsidianの操作説明書ではなく、Obsidianの特性を活かす考え方を提示し、「こう使っていこうよ」と提案している一冊です。前半部分が非常に分析的であり、拙著『Scrapbox情報整理術』とも近しい雰囲気で楽しめます。DiMFiTについて本書の白眉はDiMFiT(ディムフィット)という概念でしょう。ググってみるとフランス・リヨンのスポーツジムに同じ名前のものがあるようですが、もちろんまったく関係ありません。以下の要素の頭文字 or 二文字目 を取った言葉です。*頭文字が全部大文字なので、普通につなげると言葉にしにくかったのだと推測します。* Daily note* Link* Metadata* Folder* Title* Tagデジタルノートにおける、「情報を引っ張り出すときに使用される要素」が簡潔に整理されています。でもって、これはObsidianに限らず、他のデジタルノートにおいても適用できる概念でしょう。ツールによって、それぞれの要素の強弱はありますが、何かしらの形でこれらが使われていることが確認できると思います。本書のこの部分は、実用的なノウハウを超えて、「知的生産の技術書」として今後も参照されることになると思います。関連ページ◇ぷーおんさんに聞きたいこと - BCBookReadingCircle This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC044 『アトミック・シンキング: 書いて考える、ノートと思考の整理術』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。本日は、いつもより早いタイミングで本を紹介させていただきます。今回は、ごりゅごが2022年頭から書き進めた本『アトミック・シンキング: 書いて考える、ノートと思考の整理術』が8月11日に発売となるので、その本について自ら語らせていただきました。かつてBC017で倉下さんが自分の本を紹介して以来の、セルフ・カタリストです。BC017『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』 - by 倉下忠憲@rashita2本編の中で倉下さんが「感想戦」ということばを使っていたのですが、今回話した内容は、まさに将棋の感想戦のような「書いた本について他の選択肢を検討してみる」という実に面白い、興味深い体験でした。今回できあがった本はこういう形になったけど、他にもこういう書き方もあったかもしれない。そうすると、こう展開が変わって、こんな人にも面白がってもらえるような書き方ができたかもしれない。感想戦を終えてからこれを家に持ち帰って「研究」し、次の対局(執筆)ではそれを踏まえた成果を披露できるようにする。「正しい本のプロモーション」としては、やはり「この本はこんなすごい本です!こういう効果があります。読めばこんなすごいことができますよ」ということを話すべきかもしれないんですが、それよりも、次にもっといい本を書けるようになりたいという思いが強く、結果として「感想戦」は非常によい体験になりました。まあ、そう言っておきながらも終盤は(できるだけブックカタリスト本編では突っ込みすぎないようにしている)デジタルツールの話なんかも盛り上がったりしてしまったわけですが、たまには、一応今回は特別な回ということで、生暖かくお聴きいただけましたら幸いです。本に関する意見、感想、質問などありましたら、別ニュースレターになりますが、質問用の場所も設けております。『アトミック・シンキング』に関する質問スレッド - by goryugo - ナレッジスタック内容に関しては、ここで可能な限り全力でお答えさせていただきます。また、いただいた感想には、可能な限り全力でハートボタンをクリックさせていただきます。是非こちらもお気軽にご利用ください。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC043『進化を超える進化 サピエンスに人類を超越させた4つの秘密』
今回の本は、実はこれまで紹介したことがなかった歴史系?進化論系?の本。個人的にはこの分野もわりと昔から好きなジャンルで、今回の本は読んでて『サピエンス全史』を思い出すようなワクワク感がありました。人間を人間たらしめるものは「火」「ことば」「美」「時間」という4つのものがあった。とした上で、それぞれどのような貢献をしてきたのか、というのをまとめた本。特に興味深かったのは、人類最初のテクノロジー「火」の話。人間は、火を手に入れたから他の動物と違う生き物になることができた。動物は火を恐れるが、人間は火を恐れない。小さい頃にそういう話を聞いて、ふーんそんなものなのか、と思った記憶があるんですが、今思えばそれってなんの説明にもなっていない!じゃあいったい、人は火を手に入れてなにが変わったのか。少なくともごりゅごは本書を読んでようやく納得できる説明を手に入れることができました。正直、火の話以降は少しずつまとまりがなくなり、最後のほうは「小ネタ集」「豆知識集」というような印象も受けたりもしました。が、それを差し引いても「火」がよかった。それだけで十分面白かった。そんな話です。また今回は『人体大全』という本に書かれていた話もたくさん登場しています。この本もある意味「豆知識集」なんですが、豆知識の量と深さが半端無く、これもまたオススメの一冊でもあったりします。今週も、サポーターの方向けにブックカタリスト本編で使った台本をお届けしています。【台本】BC043 - by goryugo - ブックカタリスト This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC042『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』
今回取り上げたのは、『超没入 メールやチャットに邪魔されない、働き方の正解』。タイトルはノウハウ書っぽい響きですが、実際は「デジタル時代のナレッジワークに必要なこと」を提言する一冊です。書誌情報* 著者:カル・ニューポート* 翻訳:池田真紀子* 原題:『A World Without Email: Reimagining Work in an Age of Communication Overload』* 出版社:早川書房* 出版日:2022/5/24概要大きく二つの部で構成されている。第一部は「メールが持つ問題」が指摘されるが、別段電子メールを使わないようにしようと著者は主張したいわけではない。そうではなく、メールによる常時接続性、不要なタスクの発生、返信しなければならないという心理的圧力が、働き手のポテンシャルを抑えてしまう点を問題視している。電子メールはあっという間に、私たちの「仕事」に入り込んだが、電子メールがどのような機能を持ち、私たちのワークフローにどのような影響を与えるのかがそれぞれの職場で検討された後はあまりうかがえない。むしろちょっとした会話はおしゃべりの代替として「するっと」入り込んできた、というのが実態に近いだろう。そんな運用では、いずれ破綻するのは目に見えているし、運用を変えないままにツールを替えたとしても状況は変わらず、むしろ悪化することも懸念される。電子メールを起点とした、「注意散漫な集合精神」はナレッジワーカーにとって百害あって一利くらいしかない(メールはなにしろ手軽なのだ)。その百害を理解した上で、変化を呼び込んでいかなければならない。そこで第二部では、どのようなワークフローを構築していけばいいのかについての原則が四つ示される。注意資本の原則知識産業の生産性は、人間の頭脳が持つ、情報に継続して価値を付け加える能力をこれまで以上に最適に活用できるようなワークフローを確立することにより、大幅な向上を望める。工程(プロセス)の原則洗練された生産工程のナレッジワークへの導入は、業績を大幅に向上させるとともに、ストレスを軽減する。プロトコルの原則職場で業務の調整をいつどのように行うかを最適化するルールの設計は、短期的には労力をようするが、長期的にははるかに生産的な行身という成果を生む。専門家の原則* ナレッジワークでは、取り組む仕事の数を減らし、一つひとつの仕事の質を上げて結果に責任を負うことが、生産性を大幅に向上させるための土台になりうる。また、「効果的な生産工程に共通する特徴」として以下の三点を挙げる。* 作業ごとの担当者と進捗を容易に確認できる。* 散発的なコミニケーションが最小限でも作業が進む。* 工程の進行に合わせて担当者を更新する際の手続きがあらかじめ決められている。さて、皆さんの職場(あるいは自分の働き方)において、これらの原則や特徴はどの程度備わっているだろうか。もし備わっていないとしたら、何をどう買えれば、働き手が自らの注意を活用できるようになるだろうか。などと、考えるフックがたくさん含まれている本である。シン・ドラッカー私はドラッカーが大好きなので、著者が本書内でドラッカーをやや批判的に取り上げようとしているのを感じて、「ほほぅ、お手並み拝見」と挑発的な感じで読み進めていたが、著者の指摘は至極もとっともなものであった。ようは、知識労働者の「仕事の仕方」は管理者がコントロールすることはできないが、しかしすべての裁量を与えなければいけない、というわけではなく、むしろそうすると全体の生産性が下がってしまうことが十分に起こりえる、という点だ。「業務の遂行とワークフローを区別する」と著者は述べる。この場合の「業務の遂行」が、いわゆる知識労働者の領分であり、マネージャーが口出しすべきないものだ。アイデアを考えるのに、紙を使ってもいいし、散歩してもいいし、雑談してもいいし、本を読んでもいい。そんなことをいちいち管理するのは筋が悪い。一方で、組織の中で仕事がどう流れていくのかについては、マネージャーが全体的な視点で統括した方がいい。むしろそれがマネージャーという「知識労働者」の仕事であろう。こうした区別を設けるだけで、仕事の見通しはぐっとつきやすくなるだろう。でもってこれは実はフリーランスにおいても言えることだと思う。たとえば倉下は、「一冊の本を書き上げる」という行為をテンプレート的に進めていくことは毛嫌いするが、かといって一日のタスクをどう割り振り、進めるかということまで非管理的になってしまったらすぐさま破綻する。これまでこの二種類の異なる進め方をどう考えれば整合性を持たせられるかを考えていたが、上記のように捉えればずいぶんとスッキリする。書き手の私と、マネージャーの私は「異なるやり方」で仕事(執筆/マネジメント)に向かえば良いのだ。というわけで、基本的には組織の仕事向けの話ではあるが、もっと広く「ナレッジワークをどうデザインすればいいのか」という大きな視点で問題提起が為されている本である。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC041 『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』
今回の本は、なんだかこれまで紹介してきた本を全部まとめて一冊にしたかのような、すごくいろんなことが「THINK AGAIN」という一つのテーマにまとめられた本でした。個人的には書いてあったことはだいたい知ってたことではありました。ただ「ブックカタリストで紹介した本から一冊だけお勧めを選べ」と言われたら『独学大全』かこの『THINK AGAIN』を選ぶのではないか、というくらい網羅性が高い本でした。ざっと思いつく範囲で、以下の回で語った内容と大きく関連した話が出てきます。* BC037『現代思想入門』 - by 倉下忠憲@rashita2 - ブックカタリスト* BC036『CONFLICTED 衝突を成果に変える方法』 - by 倉下忠憲@rashita2 - ブックカタリスト* BC030 『パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる』 - by goryugo - ブックカタリスト* BC029『NOISE: 組織はなぜ判断を誤るのか?』 - by 倉下忠憲@rashita2 - ブックカタリスト* BC023 『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』 - by goryugo - ブックカタリスト* BC014 『How to Take Smart Notes』 - by goryugo - ブックカタリスト* BC011 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』 - by goryugo網羅性だけでなく、本の中に出てくる事例は素晴らしいものが多く、本編でも長々と語った「学習」についてのエピソードは、様々な場面に応用できそうな素晴らしいものでした。「再考」というものがベースのテーマにあるんですが、たとえば「決めつけてはいけない」(バイナリーバイアスに気をつける)だとか「リレーションシップ・コンフリクトとタスク・コンフリクト」という2種類の人間関係の衝突についてなど、事例や考え方に対する名付けの上手さも注目できる内容でした。たくさんの理由を連ねるより一つだけの理由の方が効果が高い、なんていうのもなかなかに興味深い話。1冊で450ページもあって、正直これは「長いわ」とは思うんですが、それでも10冊分くらいのブックカタリストで紹介してきた本の中身が凝縮されてる、と考えれば長くはないと言えるのかもしれないです。(これまで紹介してきた本を全部読まれている方であれば、興味深いところだけ読むような読み方で十分だとも言えます) This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe