BC056 『運動の神話(上)』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『運動の神話』の「上巻」について語ります。今回は、はじめての「前後編に分かれたシリーズ」です。というか、最初は「複数回を使って複数の本を紹介しつつ、全体で大きなテーマを含んだもの」にする予定だったんですが、最初に紹介しようとする『運動の神話』がものすごく面白く、しかもこの本は「上下2冊構成の本」それなら「1エピソードで1冊紹介」という切り口でも面白いかな、と2回に分けて1冊を語ることにしました。また、今回からブックカタリストサポーターの方向けには、アーリーアクセス的なサービスとして、最速で無編集バージョンの動画を公開していきます。BC056 アーリーアクセス - by goryugo - ブックカタリストブックカタリストの収録は(ほとんどの場合)隔週火曜日の午後。ここから動画を書き出して、さらにSubstack側での動画処理などなんやかんや時間がかかることを済ませて、公開できるのはだいたい20時だとか21時だとかになるんですが、おそらくこれからは毎回アーリーアクセスコンテンツをお届けできるようになるかと思います。(ごりゅごのターンでは同時に台本もここに加えています)それと同時に、各配信の文字起こしPDFも配信に添付していく予定です。このあたりのプロジェクトについては冒頭でも軽く話しているので、そちらもご視聴いただけたら幸いです。今回の文字起こしバージョンはこちらです。プロジェクトの一環として、githubでも文字起こしデータの公開をしていますので、過去分などはこちらをご覧ください。goryugocast/bookcatalyst_transcription: ブックカタリストの文字起こしデータを共有し、それを使って様々な場面で活用できるようにするという感じでブックカタリストシーズン3となる2023年は、こんな感じでいろいろと新しいことにも調整しています。これらのプロジェクトを応援いただける方は、サポーターの加入もご検討いただけると嬉しいです。ということで本編。今回のテーマは「運動すること」「食べること」「ダイエット」というものについて複数の本から学んだことをじっくりまとめて考えてみよう、というものです。そして、運動の神話というタイトルでありながら今回はその「神話的要素」について触れただけで、あとは運動の前段階「座る」「睡眠」についての話だけで終わってしまいました。ただ、今回話した「座る」についてはいきなり今回のシリーズで「一番面白いと思った部分」であり、一番影響を受けて行動を変えた部分でもあります。影響を受けてこんな感じのバランスボールを使い始めたり、新しくバランスボールクッションなんかも購入して、これを使いながらアメフトを観る、なんてことをするようになりました。(片足立ちでバランスとりながらテレビを観る。さらにこれを使うことで集中して1試合を観戦できるようになった)また、今回は時間的な理由や難易度的な理由で省略しましたが、上巻の後半にかかれている「ATPを使ったエネルギー発生の仕組み」というのも非常に興味深いものでした。現代科学の目線で見ると、人間が体を動かすには「エネルギー」が必要です。そこまでは直感的にもよくわかるんですが、そのエネルギーを発生させているのは「化学反応」です。このあたりの仕組みについての解像度も、本書を読んで一段階理解が深まったような感じがします。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish(改めて紹介した本を順番にまとめる予定) This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC055『限りある時間の使い方』から考える「時間の使い方」
今回は『限りある時間の使い方』を起点にして、「時間の使い方」について考えてみました。以下が倉下が作ったメモのScrapboxページです。◇ブックカタリストBC055用のメモ - 倉下忠憲の発想工房書誌情報* 著者:オリバー・バークマン* Oliver Burkeman - Wikipedia* オリバー・バークマン は英国の作家兼ジャーナリストであり、以前はガーディアン紙の週刊コラム This Column Will Change Your Life を執筆していました。* 翻訳:高橋璃子* 『エッセンシャル思考』『エフォートレス思考』『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門』(小社刊)、『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(河出書房新社)など* 出版社:かんき出版* 発売日:2022年6月22日目次は、上記のScrapboxページに記載してあります。限られた時間をどう「使う」のか、という問い「ファスト映画」や「ファスト教養」など、時間効率を求める姿勢(タイパと言うらしいです)は現代特有の傾向でしょうが、しかし人の人生が限られているという点においては、人類が生まれてからずっと続いている「性質」ではあります。人生の時間が限られており、しかし達成したいことがたくさんあるならば、「もっとはやく」「もっと多く」となってしまうのは仕方がないのかもしれません。そうしたとき活躍するのが「タイムマネジメント」です。アメリカでもたくさんの著作が刊行されているでしょうが日本も負けていません。何かしらの時間管理手法を使えば──つまり時間の「使い方」がうまくなれば──、「もっとはやく」「もっとたくさん」を叶えることができる。そんなことを謳う本は枚挙にいとまがありません。しかし、それは困難な問いから目を背けているだけだと著者であるオリバー・バークマンは述べます。私たちは限られた存在であり、何かを手にすれば別の何かを捨てなければなりません。言い換えれば、そこで私たちは「何を選ぶのか」を問われることになります。そんな問いに答えるのは簡単ではありませんし、自分で決めてしまえばそこに「責任」のようなものが発生してしまいます(他人のせいにできない、ということです)。だから私たちは、そうした問いと取り組む代わりに、「なんでもできる」という幻想を貸与してくれるノウハウに惹かれてしまうというわけです。著者はハイデガーを引きながら、そもそもそうした「時間をうまく使う」という考えから脱却することが大事なのではないかと説き、そのためのアプローチを提示してくれます。その考えを端的にまとめるとすれば、人生に何かを求めるのではなく、人生に何を与えるのかを考えよ、となるでしょう。私たちは(だいたい)4000週間という人生の時間を「与え」られます。望んだものであるかどうかは別にして私たちの生はそのようにして貸与されたものなのです。これは時間は「自分のもの」ではなく神のものであるといった話ではありません。私という存在そのものが、その時間によって成り立っている、という話です。私=時間。ハイデガー風に言えば現存在となるでしょうか。私は時間としてただそこに在るのです。そうした込み入った議論はさておくにしても、「人生に何かを求めるのではなく、人生に何を与えるのかを考える」というある種のコペルニクス的転回は、現代においてせわしなく追い立てられ、結果的に孤独になりがちな私たちにおいて有用なものでしょう。別にたいそうなことをせよ、という話ではありません。貪欲に求めるよりも、自分が為せることを為す方が、きっと気分良く生きていける。それだけの話です。ちなみに、つい最近書店にいったら『限られた時間を超える方法』(リサ・ブローデリック)という本を見かけました。思わず「そういうとこだぞ」とツッコミを入れてしまいました。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC054 『語学の天才まで1億光年』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。2023年最初の更新は、『語学の天才まで1億光年』をメインの題材に「外国語を学ぶこと」について語ります。今年は「ブックカタリストシーズン3」として、これまでと同じようなことを続けながら、同時にちょっとだけ新しいことを試し続けていく、ということをテーマに、毎度隔週火曜日の更新を続けていく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。ごりゅご個人のテーマとしては、メインで取り上げる本は1冊なんだけど、その本に書いてあることだけでなく、できるだけ「他の本とつなげて話す」ということを主眼にして、いい意味で「1冊の本を紹介するだけではない」というスタイルを目指していこうと思っています。で、今回取り上げた『語学の天才まで1億光年』について。ごりゅごは、著者高野秀行氏のファンであり、この本に出てくるさまざまな地域を舞台にした著作をほとんど読んでいます。そういう観点で読むと、まずこの本は「舞台裏を垣間見る」という楽しみ方があります。そして、高野さんが訪れている地域は多くが「日本人にとって一般的ではない場所(アフリカのコンゴだとか、ミャンマーのカチン州だとか)」であるために、単純に旅行記として読んでも非常に物珍しくて面白い。最後に、高野さんは大抵それらの地域を訪れる際には「その地域の言語を勉強してから」訪れており、そうやって大量の言語を学んだ経験を元にした「語学の学び方を学ぶ本」としての楽しみ方。ブックカタリスト本編では全般的に「語学の学び方を学ぶ本」という観点で紹介しましたが、この本は「そういう難しいこと抜きにして単純にエンターテイメントとして非常に楽しい」本です。こういうちょっとまじめな切り口で紹介して、同じような「高野秀行ファン」が増えることを目指した更新でもあるのです。みんなして"人の行かないところへ行き、人のやらないことをやり、それを面白おかしく書く辺境作家"を応援しましょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC053 2022年の振り返り
今年最後の回となります(アフタートークの配信は残っております)。一年間の配信リストは以下のScrapboxページにまとめてみました。◇2022年ブックカタリスト配信リスト - BCBookReadingCircleまず、全体を通して言えるのが「とにかく続けることができた」という点です。物事において一番難しいといっても過言ではないのが「継続」なので、それが為せたことは(手前みそですが)功績と言えます。こういう活動は、一人でも続けるのが難しいのですが、二人以上となるとさまざまな問題が発生して余計に続けにくくなるかのように思えますが、案外「自分ではない相手」がいることで続けられる効果があるような気もします。自分ひとりでやるのは自由なのですが、その「自由」はきっと限定的な力しか持たないのでしょう。この辺の話は、私の昨今のテーマとも重なります。で、そのテーマですが、私(倉下)は「個人・教養・自己啓発のこれから」が大きな括りになるでしょう。そこには、知的生産/知的生活、啓蒙主義、私たちの社会における知性(あるいは理性)の役割、といくつものサブテーマが重なり合っています。『啓蒙思想2.0』で論じられているように、私たちの理性はそこまで強大な存在でも完璧な存在でもありません。一方で、それ抜きにしては現代の文明社会はほとんど成立しないことも確かです。であれば、いかにその「理性」なるものを発揮させられるようにするのか。それを個人や環境の側面から考えていくことが、私の大きな関心事になりそうです。一方でごりゅごさんは、哲学から広がって社会の有り様に目を向けつつ、私たち生物やもっと大きく地球の歴史にも関心を広げておられました。哲学というものが、目の前の「生」から視点を動かし、より広い視野・深い視座で物事を考える知的営為だとするならば、遺伝子や生物史に目を向けるのは同じような視点の動きだと言えるかもしれません。あと、ここでも「歴史」に関心を持たれているのが印象的です。なにかしらの歴史・ログ・足跡といったものに惹かれる傾向をお持ちなのかもしれません。大きな議題さて、一年の配信を振り返って考えたいのが、「一体この番組は何なのか」という話です。「面白い本を紹介する」という漠然としたテーマでスタートした当番組ですが、今のブックカタリストの有り様は単純にそれだけでは無いような気がしています。「面白い本を読んで、紹介する」は依然としてあるものの、「本を面白く読む姿勢」も関係していますし、それ以上に「本を読んでどうするのか」という部分も関わっている気がします。不思議な話で、主催者である私たちもこの番組が一体何なのがわかっていません。むしろ試行錯誤しながら何か新しいものを作ろうとしている、というのが正確なところでしょう。先駆的に答えがないものに取り組んでいるわけです。というわけで、今後も少しずつ何かを変えながら、「一体この番組は何なのか」という答えを模索していこう思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC052『私たちはどう学んでいるのか』
ゲストにtksさんをお迎えして、『私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)』をご紹介頂きました。tksさんのプロフィール* Twitter:@tks_1988b* Scrapbox:公開練習場* 『私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書)』 - 公開練習場* tks - BCBookReadingCircle書誌情報私たちはどう学んでいるのか: 創発から見る認知の変化 (ちくまプリマー新書 403)* 著者:鈴木宏昭* 1958年生まれ。東京大学大学院単位取得退学。博士(教育学)。東京工業大学助手、エジンバラ大学客員研究員を経て、現在青山学院大学教授。認知科学が研究領域であり、特に思考、学習における創発過程の研究を行っている。日本認知科学会(元会長等)、人工知能学会、日本心理学会、Cognitive Science Society各会員.* 他の著作* 『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス) 』* 『類似と思考 改訂版 (ちくま学芸文庫) 』* 出版社:筑摩書房* レーベル:ちくまプリマー新書* 出版日:2022/6/9* 目次:* はじめに* 第1章 能力という虚構* 第2章 知識は構築される* 第3章 上達する* 第4章 育つ * 第5章 ひらめく* 第6章 教育をどう考えるか概要本書は私たちがどのように学んでいるのかを認知科学の視点から検討する。キーワードとして挙げられるのは以下の三点。* 認知的変化* 無意識的なメカニズム* 創発ここでの"認知的変化"はいわゆる「学習」なのだが、本書ではあえてその言葉が使われていない。それは私たちが「学習」と聞いて思い浮かべるイメージが日本の学校教育のイメージと強く重なっているからである。誰かから正解を教えられ、それを覚え、筆記試験でテストされる、といったタイプの学習だけが人間の学びではない。その点に注意を促す意味で本書では認知的変化と呼ばれている。残り二つの要素は本編でも詳しく紹介されているのでそちらを参照されたい。ともあれ本書では「認知的変化に働く無意識的なメカニズムを創発という観点」から検討しているのが特徴と言える。いわゆる「勉強法」などよりは抽象度の高い話が展開される。その意味で、少し取っつきにくい側面はあるかもしれない。その分、そのメカニズムや性質に理解すれば、特定の科目や分野に限定されない「学び方」へと目が開かれる。何かを学ぶ前に、まず「学ぶとはどういうことか」を学ぶことは非常に有用だろう。もちろん、本書が適切に述べるように「知識は伝わらない」。本書の内容が理解できたとしても、その知識が使えるようになったわけではない。それでも「どう考えたらいいのか」という知見は、すぐれて実用的である。言い換えれば、自身の勉強観・学習観を変えることは、具体的に取り組む勉強やその結果についての理解(≒物語・意味づけ)を変えることにつながる。学習というものを、直線的・固定的・還元的に捉えるのではなく、流動的かつ創発的な視点で捉えることで、日々の学びはよりしなやかになっていくだろう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC051『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』
今回は、マーク・クーケルバーク の『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』を取り上げました。日本の危ない「自己啓発セミナー」についてではなく、もっと"健全"な自己発展が持つ危険性について論じた一冊です。書誌情報* 著者:マーク・クーケルバーク* ウィーン大学哲学部メディア・技術哲学分野教授。バーミンガム大学博士。イギリス・デモンフォート大学コンピューターと社会的責任研究センター非常勤教授も兼務。1975年ベルギー生れ。国際技術哲学会会長、ヨーロッパ委員会の人工知能に関する高度専門家会議委員なども歴任。AIやロボットに関する倫理学、哲学の第一人者* 邦訳されている他の著作* 『AIの倫理学』* 翻訳者:田畑暁生* 『ブラックボックス化する社会──金融と情報を支配する隠されたアルゴリズム』* 『監視文化の誕生 社会に監視される時代から、ひとびとが進んで監視する時代へ』* 出版社:青土社* 出版日:2022/10/26* 目次:* 1. 現象* 自己啓発の強制* 2. 歴史* 自己知や完全性を求めた古代の哲学者、聖職者、人文主義者* 3. 社会* 近代の自己執着 ルソーからヒップスター実存主義まで* 4. 政治経済* ウィルネス資本主義の下での自己馴致と搾取* 5. テクノロジー* カテゴリー化、測定、数値化、強化、もしくは、なぜAIは私たちについて私たち自身より知っているのか* 6. 解決策(第一部)* 関係性自己と社会変化* 7. 解決策(第二部) * 私たちについて異なった物語を語るテクノロジー倉下のScrapboxページ◇ブックカタリストBC051用のメモ - 倉下忠憲の発想工房概要原題は『Self-Improvement: Technologies of the Soul in the Age of Artificial Intelligence』。直訳すれば「自己改善:人工知能時代における魂のテクノロジー」。著者の専門を考えると、AIと私たちの関係が論じられるのだろうと予想されるが、実際は西洋思想をさかのぼり、そこにある「自己啓発」的な要素を現代までの射程で捉え、しかしそこにある差異を取り出そうとする試みが展開されていく。まずタイトルから。「Self-Improvement」は、「自己改善」が日本語としてはふさわしいだろう。邦訳の「自己啓発」とは少しニュアンスが違う。自己啓発は、「人間として高い段階に至ろうとする試み」であり、そこには明白に「何が高い段階であるか」という審級が内在化されている。自己啓発は、英語では「Self-Enlightenment」であり、enlightは啓発を意味しつつ、それはlightの語感の通りに「照らす」という含意がある。無知蒙昧な闇に置かれた状態(プラトンの洞窟のメタファー)に、光を照らして真理へと至る。そういったニュアンスにおいては、真理=何が正しいのか、という絶対的な基準が先駆的に存在している。それに対して、「Self-Improvement」≒自己改善には、そのような絶対的な規範はない。改善は、今ある悪いところを少し直す、くらいのニュアンスである。何か絶対的に正しいものに向かっていく行為ではないわけだ。しかしながら、それが「(今の状態よりも)より良くする」というスタンスで行われる限り、自己啓発が持つ問題と同じ構造が立ち現れる。その意味で、本書において「自己啓発」と呼ばれているものは、感覚的に「自己改善」と呼びうるようなごく些細なものも含まれていると考えてよい。アプリを使って精神を整え、ストレスの多い職場に立ち向かうといった行為ですらも本書がまなざしを注ぐ「自己啓発」であるわけだ。もう一点タイトルに関して、原題は「罠」に相当する言葉はない。一方で内容を読めば、本書に"自己啓発"への批判が込められていることは間違いない。ここは難しいところだ。本書は全体的に「自己啓発」という営みそのものを断絶させようとはしていない。新しい形の「自己啓発」のスタイルを模索し、そこにこれまでとは別の仕方でAI≒テクノロジーとの関係性を紡いでいけないかと検討している。そのような大局的な視点だからこそ、著者は「Self-Improvement」とつけたのだろう。一方で、仮に日本語のタイトルで「自己啓発」という本が出たら、上記のような内容だとはとても思われないだろう。よって、フックとして「自己啓発の罠」という邦訳の選択は絶妙だと言える。ただし著者の主張を汲まずにタイトルだけからこの本が自己啓発を抹消しようとしている本だと理解しない方がよい。その点は注意が必要だろう。さて、長くなってしまったが、本書そのものはあまり長くない。この手の本にしては珍しくソフトカバーだし、150ページ前後の内容である。思想や哲学を扱っているが晦渋な文章は出てこない。いくつかの予備知識がないとわかりにくい箇所はあるだろうが、それでも著者の主張ははっきり汲み取れる。簡単にそれをまとめれば以下のようになる。古代ギリシャの時代からヘレニズム思想的なものには全般的に「個人とその内面」に注力する傾向があった。その傾向は近代化と共に強まり、個人主義の跋扈とテクノロジーの強力化と共に「自己啓発ビジネス」へと発展した。かつては人文主義者は「印刷された本」というテクノロジーを使い、人々を啓蒙しようと(あるいは、啓蒙を目指す人々の数を増やそうと)してきたが、現代のインターネットテクノロジーはそうした人文主義的なものと基本的なマインドセットの点で違っている。それは自己を知り、自己を愛するというあり方ではなく、「他人にとっての自分や、他人からどう見られるか」に強い関心が注がれている。それはますます利己的な自己を強めるばかりである。そのような"自己啓発"は現代のテクノロジーの力を借り、さらに強まっている。そこでは、私たち以上に私たちのことを知るAIが登場する。言い換えれば、私たちはもうそれ以上自分について知る必要がない。すべてAIが設定し、なすべきことと決めたアプローチに沿って"改善"を進めていけばいい。これは古代ギリシャ時代に掲げられた「汝自身を知れ」とはまったく異なる(むしろ逆の)アプローチである。私たちは、AIの檻に入りながら、自分のことを何も知らないままに万能感と物足りなさという両極する要素を抱えたまま生きていくことになる。はたしてその未来は、私たちが望む未来なのであろうか。上記のような視点において、著者は問題提起している。自己を扱う「テクノロジー」についてはフーコーが、対抗文化が文化に飲み込まれていくのは『反逆の神話』が、AIに完全に依託した人間がどうなるのかは『PSYCHO-PASS』シリーズが、自分が扱う自分の記録については拙著『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』がそれぞれ参考になるだろう。日本における自己啓発受容については、牧野智和の『日常に侵入する自己啓発』や大澤絢子の『「修養」の日本近代』が面白い。というように、短い本でありながらも、さまざまな事柄に枝葉が伸びる内容になっている。「自分を高めていくこと」を正しいこと、まっとうなことだと信じて疑わない人ほど、本書はささるのではないだろうか。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC050 1年で表現する『超圧縮 地球生物全史』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『超圧縮 地球生物全史』をメインの題材にしつつ「46億年の地球を1年にたとえて俯瞰する地球史」について語ります。本編でも冒頭に話していますが、人間の直感では「1万年前」のことも「1億年前」のこともどっちも「すごい昔」以上の区別ができません。それを相対的に俯瞰する方法として素晴らしいな、と思うのが地球の46億年を「1年」という期間に変換して考えてみること。この変換をしてざっと計算をすると、1万年前は12月31日の23時59分ごろの出来事で、1億年前は12月23日ごろになります。地球の年齢を元に大ざっぱに計算するとだいたい以下のような計算結果が出てきます。6月まではほとんどなにもない時代上記表を元にして地球全史を振り返ると、まずわかるのが地球が存在していた期間の半分くらいはいわゆる「生き物」は存在していませんでした。6月になってミトコンドリアを含んだ真核生物が誕生して、そこからさらに月日は流れ、動き回れる動物が生まれたのが11月半ば。4本足の生き物が誕生したのは12月に入ってからのこと。恐竜がだいたい12月15日から26日くらいまで存在していて、2足歩行の人類が登場するのは12月31日の午前6時。火を使い始めたのが午後9時で、農業を始めたのは23時59分の出来事。23時59分50秒くらいに聖徳太子が生まれて、23時59分59秒にようやく明治時代が始まった、というくらいの計算です。こういうふうに地球の歴史を振り返ってみると、生物の「進化」という言葉一つ取っても見えてくるものの距離感が変わってくるように感じます。「歴史」は複数の本をつなげるのが簡単年に1回の頻度でこういう感じで「今まで読んできた本を横断的にまとめる」ということをやっていますが、今回の「1年でまとめる」というやつはまとめるのが非常に楽しい行為でした。また、BC049「物語」とどう付きあうかのように複数の本の「つながり」を見つけるのは難しいかもしれないですが、今回のような「時間軸」でまとめるだけのことであれば簡単です。手間暇はかかるかもしれませんが、それぞれの出来事をどこに位置づければよいかは小学校の算数の能力さえあれば問題なし。ある意味で「アトミックな読書メモ作り」の第一歩としてこういうノートのまとめ方は中々よい練習にもなるのではないかな、ということも思った次第です。今回の参考文献なお、今回の話は『超圧縮地球全史』以外は主に以下の本の内容を参考にしています。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC049「物語」とどう付きあうか
テーマは”「物語」とどう付きあうか”。以下の二冊を取り上げました。* 『ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する』* 『物語のカギ : 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』二冊の書誌情報『ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する』* 著者* ジョナサン・ゴットシャル* ワシントン&ジェファーソン大学英語学科特別研究員* 邦訳されているものだと他に『人はなぜ格闘に魅せられるのか――大学教師がリングに上がって考える』がある。* 前著にあたる『The Storytelling Animal』は未邦訳。* 翻訳* 月谷真紀 * 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』も訳されています。* 出版社* 東洋経済新報社* 出版日* 2022/7/29* 目次* 序 章 物語の語り手を絶対に信用するな。だが私たちは信用してしまう* 第1章 「ストーリーテラーが世界を支配する」* 第2章 ストーリーテリングという闇の芸術* 第3章 ストーリーランド大戦* 第4章 「ニュース」などない。あるのは「ドラマ」のみである* 第5章 悪魔は「他者」ではない。悪魔は「私たち」だ* 第6章 「現実」対「虚構」* 終 章 私たちを分断する物語の中で生きぬく『物語のカギ : 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』* 著者* 渡辺 祐真/スケザネ* 東京のゲーム会社でシナリオライターとして勤務する傍ら、2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。* YouTubeチャンネル「スケザネ図書館」主催。* 『季刊 アンソロジスト』『スピン/spin』* 出版社* 笠間書院* 『“深読み”の技法』(小池陽慈)という本も* 出版日* 2022/7/27* 目次* はじめに* 序章 なんで物語を読むのか? 物語を味わうってどんなこと?* 第一章 物語の基本的な仕組み* 第二章 虫の視線で読んでみる* 第三章 鳥の視点で読んでみる* 第四章 理論を駆使してみる* 第五章 能動的な読みの工夫* おわりにストーリー・パラドックスジョナサン・ゴットシャルの主張は以下の二つにまとめられます。* 私たちにとって物語は必要不可欠であるが、場合によっては毒にもなりうる* 現代社会の「物語の技術」はすさまじいものがあるので注意が必要情報としての物語は、複雑で無秩序なさまざまな出来事に秩序と構造を与えて、私たちが把握・理解しやすいようにしてくれます。たとえば、その人が勧善懲悪な物語ばかりに触れていたら、現実の認識はだいたい「敵と味方」の構図に落とし込まれるでしょう。言い換えれば、その人が持つ物語のバリエーションが、その人の現実認識のバリエーションに直結するのです。『啓蒙思想2.0』の言い方を借りれば、物語それ自体が一つの「外部足場」であって、それを使って私たちは現実を理解し、どのように反応するのかを決定しているのです。どれだけ優れた科学知識を持っていても、それをどのように用いるのかまでは「科学」は決めてくれません。それを支えるのは、まさしく「物語」です。この世に生まれる人と人の対決は、それぞれの価値観を醸成している物語と物語の対決として捉えることもできるでしょう。ミームとしての物語、というわけです。かといって、私たちは「脱物語」的に生きていくことができません。伊藤計劃の『ハーモニー』は、そうしたことが可能になる世界の可能性を描いていますが、残念ながら現代の科学技術はそうした段階には至っていませんし、至っていたとしても人類がそれを選択すべきなのかは、別途倫理的な議論が必要でしょう。なんにせよ、現時点では私たちは物語と付き合い続けていくしかありません。では、どうすれば好ましく物語と付きあっていけるのか?それは、多様な(あるいは多様に)物語を楽しむことです。物語を楽しむ本編では部分的にしか言及できなかったので、『物語のカギ』のカギ一覧をリストしておきます。* 1. 多義性を知ろう!* 2. 多義性から「物語文」を作れ!* 3. 内容と語りに分けよう* 4. 時間の進行を計れ!* 5. 人称ってなに?* 6. 焦点化ってなに?* 7. 語り手の種類を知ろう!* 8. 語り手を信頼するな!* 9. ジャンルを意識してみよう* 10. 作者の死* 11. メタファーを使いこなせ!* 12. 書き出しを楽しもう* 13. 小道具に着目してみよう* 14. 自然描写の想起するイメージを掴め!* 15. 五感をフル稼働させよう!* 16. 書かれたことをそのまま受け取るべからず!* 17. 結末を味わい尽くせ!* 18. 言葉を味わおう!* 19. 自分の人生を賭して読んでみよう!* 20. キーワードを設定してみよう!* 21. 二項対立を設定してみよう!* 22. 二項対立を打ち破れ!* 23. 隠されたものを復元せよ!* 24. 他ジャンルを使ってみよう!* 25. 作家の伝記を調べてみよう!* 26. 比較・変遷をたどれ!* 27. 元ネタを探ろう* 28. 理論の使い方や歴史を知ろう* 29. ケアに気を配ろう* 30. 自然の視点に立ってみよう* 31. ジェンダーについて考えよう* 32. 時代背景を考えよう!* 33. 時代背景を考えよう!* 34. 暗記してみよう* 35. 書き込みをしてみよう* 36. 注釈を活用してみよう* 37. 再読をしよう* 38. 翻訳を読み比べてみよう!「本の読み方」はあまり教えてもらわないものです。本好きの人が、少しずつ身につけていく「伝統の技法」感が若干あります。しかし、それらは言語化できないわけではありません。上記のように、さまざまな技法=技術が概念化可能です。一冊の本を読むにも、さまざまな視点・観点の取り方が可能ですし、複数の本を読んで見ることで浮かび上がってくる情報もあります。そうしたことを体験的に知れば、私たちは一回一回の読書において没頭し、ときに理性を置き去りにしてしまったのとしても、そこから帰ってきたときに別様のまなざしをその本に向けることができるようになるでしょう。でもって、それと同じ態度は、この社会を流れるさまざまな情報(物語)にも適用できるものだと思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC048『はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で』
『はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で』(五藤 晴菜)ゲストは、五藤晴菜さん。* Twitter:@haruna1221 * Newsletter:iPad Workers Newsletter* YouTubeチャンネル:ごりゅごcast* Amazon著者ページ書誌情報* 発売日:2022/9/13* 出版社:インプレス目次* Chapter0 Introduction* Chapter1 iPad でアイデアを出す* Chapter2 iPadで企画書作成のヒント* Chapter3 iPadで会議を制する* Chapter4 iPadでプレゼン攻略* Chapter5 iPadで時間・タスク・データ管理内容と特徴iPadの取り扱い説明書ではなく、特定のアプリの解説書でもない、これまでに無かったタイプのiPad本。実際の仕事のシチュエーションを想定し、それぞれの場面でどのようにiPadが「活きる」のかを紹介してくれる。具体的なTipsよりは、「どうiPadを使うのか」という考え方を提示してくれる点が特徴と言える。仕事と手書きとiPadどのくらいの人が所有しているかはわかりませんが、それでもiPadは「なんとなく欲しい」ガジェットの一つです。どういう用途で使うのかは具体的にイメージできないけども、なんかあると良さそう。そんな感覚がするガジェットなのです。そんな感覚のままiPadを購入すると、だいたいは「高性能ビュアー」がその居場所となります。なんといっても、便利でちょうどよいサイズ感なのです。動画を見る、PDFを読む、SNSをしながらゲームをする。高性能なスペックが、心地よい体験をもたらしてくれます。これは別に悪いことではありません。むしろ、純粋なiPadの使い方と言えるでしょう。つまり、「iPad単体の使い方」としては自然なものなのです。変化が生まれるのは、そこに「外付けキーボード」か「Apple Pencil 2」が加わったときです。そうしたとき、iPadは仕事道具に生まれ変わります。「外付けキーボード」を使えば、iPadはグッとパソコンに近づきます。文章入力をするための装置に化けるのです。さまざまな資料を参照しながら書くような文章は、画面を二つに分けられるiPadは──iPhoneと比べれば──非常に作成しやすいでしょう。パソコンに完全に並ぶほどではなくても、メールやら報告書といったものであれば、悠々と入力できます。一方で、「Apple Pencil 2」を使えば、iPadはデジタル文房具へと変身します。デジタルノート、あるいはデジタル手帳としての存在感が生まれはじめるのです。こちらの変化は、「外付けキーボード」によるミニ・パソコン化よりもはるかに強力です。なぜなら、ミニ・パソコンは機能の劣化が多少あるわけですが、デジタル文房具は、むしろアナログ文房具の強力版だからです。* やり直しができる* コピー&ペーストができる* テキストとして認識してくれる(なので検索できる)* 共有や送信がそのままできるアナログの文房具では不可能だったり、手間がかかりすぎていた行為が、iPadなら一気に簡単になります。でもって、そうやって仕事で活躍する文房具は、趣味の文房具とは違って「使えればそれでいい」ところがあります。実用性が最優先事項なのです。*もちろん、仕事の文房具に趣味を持ち込んではいけない、という話ではありません。その意味で、仕事におけるデジタル文房具としてのiPadは過不足がないどころか、一番良い働きをしてくれるとすら言えます。特に、普段仕事で手書き作業をよく行っているならばなおさらです。私も、仕事でよく手書きのメモを作っていますが、iPad Air + Apple Pencil 2 を導入して以降は、その比率がデジタルにかなり傾きました。iPad : アナログノート が 7:3 や 8:2 くらいになっています。むしろ「広い画面を一覧したい」という欲求がない場合は、ほとんどiPadを使っていると言ってもいいかもしれません。もちろん、私はデザイナーではないので、今日突然iPadが世界から消滅しても大きく困ることはありません。それよりも、MacOSとキーボードが消える方がはるかに困ります。それでも、この iPad + Apple Pencil 2 による「デジタル手書き体験」は、ずいぶんと大きいインパクトを持っています。世界が変わった感覚があるのです。合わせて言えば、私のように字が汚い人ほど──手軽に直したり、整形できるので──デジタル文房具の恩恵は大きいでしょう。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC047『リベラルアーツ 「遊び」を極めて賢者になる』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、久しぶり?な気がする「ごりゅごが普通に喋る会」でした。テーマは、タイトルにもある通り「リベラルアーツ」なんですが、個人的にはこの本はBC039「現代のインターネット環境と退屈の哲学」から繋がる「幸福論」の一つとして解釈した部分が多いです。きっかけは、ブックカタリストの読書会でこの本を紹介してもらい、そういえば自分は「リベラルアーツ」ということばの意味をきちんとわかってないし、考えたこともないかもしれないな、というところから。そんなことを考えながら読んでみて、もっとも自分の印象に残ったのが7章の「江戸に遊ぶ編」でした。ここは、主に(著者が大変好きであろう)杉浦日向子さんという、漫画家、江戸風俗研究家の方の著書を参考にしたエピソードも多く、杉浦日向子さんの著書を読んでみよう、と思えるきっかけにもなりました。今回は「こうやって読みたい本が増える」みたいなパターンの、もっとも典型的なものの一つを体験できたという感覚です。電子書籍を積んだ状態になっていた下記2冊なんかも、この本きっかけで「読んでみようかな」となっています。(2章が古代中国の六芸の説明)本の内容自体は「一言で結論を言ったらいかんやつ」「考えるという過程が大事」というタイプのものなので、リベラルアーツってなんなん、という「答え」は簡単に得られるものではないんですが、本の中身自体も「古代ギリシア・古代ローマ」的な話から古代中国や、日本の江戸時代。歴史的なところだけでも様々な時代から学ぼう、という幅広いもので、こうやって「いろいろなことを学ぶ」ことを通じて考えることがリベラルアーツに繋がる行為なんだろうな、ということを考えることはできるようになりました。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe