面白かった本について語るポッドキャスト&ニュースレターです。1冊の本が触媒となって、そこからどんどん「面白い本」が増えていく。そんな本の楽しみ方を考えていきます。
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BC013アフタートーク
次回紹介予定の本『英語独習法』なんだかんだ、この本はすごく面白かったです。英語学習用の『Learn Better』という感じ。『How to take smart Notes』いまのごりゅごの興味の大半を占める「エバーグリーンノート」その流れを作り出したと言われている本。まだ半分くらいしか読んでなくて、しかも英語の本でいろいろ大変なんですが、今日興味ど直球の本なので、こういう機会を生かしてなんとか読んで、次回話せるようにしたいと思います。『生命はデジタルでできている』遺伝子系の本は色々読んでいます。その中で、一番最初に読み終えることができた本がこれ。まだまだ難しいし、わからないことは多いんですが、この本で「最低限の基礎」みたいなことが少し理解できたものでした。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC013『コンヴァージェンス・カルチャー』
今回は『コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化』について。『コンヴァージェンス・カルチャー』原題『Convergence Culture:Where Old and New Media Collide』Convergenceは、「一点に集まること」のイメージ。集約する、集合する、収斂する、収束する。Collideは、「ぶつかる、衝突する」のイメージ。新旧メディアがどこで衝突するのか。これは二つのニュアンスがあり、「どの場所で出会うのか」と、「どの利害でぶつかり合うのか」という二つの観点が含まれていると感じる。著者ヘンリー・ジェンキンズ南カリフォルニア大学教授。コミュニケーション&ジャーナリズム研究科、映画芸術研究科、ならびに教育研究科で、デジタル時代の参加型文化やファンダム、若者教育などを教えている。同校着任以前はマサチューセッツ工科大学(MIT)にて比較メディア研究プログラムを立ち上げ、ディレクターを長らく務めた。注意点原著は2006年であり、現代から見て最新の話題を扱っているわけではない。また、メディア研究の事例が基本的にアメリカなので、日本と合わない部分も当然出てくる。その点は留意が必要。主要なテーマインターネットが登場して、メディアが変化した。双方向になっただけではなく、これまで単なる受信者であった人々が発信者としての役割も担いはじめた。その変化によって、単に古いメディアが死に、新しいメディアが台頭するという単純な変化ではなく、コンテンツがどのように流通し、生産され、消費されるのか、そして利益をどのような形で作っていけばいいのか、というメディアを取り巻く全体像に大きな変化が訪れている。その変化は、拒絶しようと思ってもできるものではなく、考えられるのは「それとどう付き合うか」だけであろう。本書では、実際のメディア研究をベースにしながら、いかなる行動が情報の送り手(トップダウンの主体者)と情報の受け手(草の根の実践者)の間で生まれていたのかを考察している。2006年からみた「新しいメディア」との付き合い方を考える上で非常に示唆に富むであっただろうし、現代においても示唆に富む内容ではある。コンバージェンスの転換一つの端末にあらゆるコンテンツが集まるという意味での「コンバージェンス」ではなく、メディア企業がコングリマットになったり、一つのコンテンツがさまざまなプラットフォーム&流通ルートを持ったり、コンテンツのもとに多様な視聴者が集まったりするような、ある種の多様性が生まれる状況が「コンバージェンス」であると、見方の転換が提示されている。実際のメディアの状況から言っても、この見立ては極めて正しいと言える目次* イントロダクション「コンヴァージェンスの祭壇で祈ろう」* 第1章 『サバイバー』のネタバレ* 第2章 『アメリカン・アイドル』を買うこと* 第3章 折り紙ユニコーンを探して* 第4章 クエンティン・タランティーノの『スター・ウォーズ』?* 第5章 どうしてヘザーは書けるのか* 第6章 民主主義のためのフォトショップ* 結論 テレビを民主化する? ──参加の政治学* あとがき ──YouTube時代の政治を振り返る倉下の見立て日本では「メディアミクス」という考え方がもうあたり前であり、さらには情報の受け手を巻き込んだコンセプトも珍しくなくなっている。その意味で、本書が描いたレールは、たしかに現代にまで続いていると言える。言い換えれば、現代の「あたり前」がどのように生まれてきたのかを巡る旅にも本書はなる。一方で、現代のインターネット with メディアが全般的にうまくいっていない部分もあり、一体そこで何が損なわれてしまったのかを考える起点にもなる。その意味で、『遅いインターネット』や『ゲンロン戦記』などと合わせて読んでもよさそうである。最後にはそうしたメディアが民主主義→社会にもたらしうるインパクトも考察されているのだが、やはりこの点も現状は厳しいと言わざるを得ない。むしろゲームの中ですら「政治」や「社会」を体験する場が減っていると感じられる。この点は、おそらく目に見えている状況よりも、一段深いところに問題があるのだろう(日常の中から、政治的な煩わしいものが徹底的に排除されつつある、ということだと思われる)。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC012アフタートーク
今回は、はじめて「ゲストの方に来ていただいて、その人に本を紹介してもらう」という形でした。3人でPodcast、というのもほとんど経験がなく、なかなかにチャレンジングなものではありましたが、結果として「いつもと違う感じのもの」が作れて、良い刺激になりました。個人的には、よく名前をきいていて、でも良くわかってなかった「フリーライティング」というものについて本編中に話が聞けたおかげで、これに刺激を受けて「書く練習」という行為についてよく考えています。機会があればまたゲストの方に登場していただく、ということもやってみたいと考えているので、自薦、他薦問わず、リクエストなどあれば #ブックカタリストでツイートしていただくか、コメント欄などにコメントをよろしくお願いします。メールで届いている方ならば、このメールに返信していただくことでもご連絡いただけます。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC012『思考のエンジン』
思考のエンジン オンデマンド (ペーパーバック)ゲストはTak.さん。* Twitter:@takwordpiece* Blog:Word Piece* Amazon著者ページ『思考のエンジン』について著者は奥出直人さん。青土社の思想系雑誌『現代思想』の連載を書籍化したもの。同じ著者の本に『物書きがコンピュータに出会うとき―思考のためのマシン』もあるが、こちらは入手が若干難しい。目次は以下の通り。* 思考の道具としてのタイプライター* ライティング・エンジンとしてのワードプロセッサー* エクリチュールとライティング・エンジン* パレルゴンとエルゴン* 論理的ディスコースのダイナミズム* コンピュータ上のソクラテス―「ソウトライン」を使う* 情報を俯瞰する装置―アウトライン・プロセッサーを使う* プロセスとしてのテクスト* 迷宮としてのデータベース* 補遺の連鎖とハイパーテキスト―ハイパーメディア・ライブラリーとライティング* 思考のエンジンとしてのハイパーテキスト* マニエリスムとアカデミズム今回は主に前半部分に関してお話いただきました。タイプライター的思考『思考のエンジン』にはこうあります。タイプライター的思考とは、タイプライターをペン代わりに使う思考のことではない。タイプライターを含む一九世紀末的な効率と生産性を可能にする思考を意味している。部分をつなぎ全体を考え、資料はファイルにきちっと整理され、巨大な辞書が備えられている、そんな環境がタイプライター的思考の場所である。つまり、物事をきわめてシステマチックに進めていくアプローチであり、それをエンハンスするのがタイプライターという機械です。もう一ヶ所引用します。また、書くという問題を考えるとき、全体の統一性を考えながらばらばらな部分を寄せ集め、つないでいくタイプライター的思考の限界についても考えておく必要がある。人間の思考はもっと複雑なものである。これらの記述でなんとなくタイプライター的思考の輪郭線が見えてくるでしょう。タイプライターからの逸脱では、タイプライター的思考ではない思考(およびそこに付随する執筆)とはどのようなものでしょうか。以上の手書きのエクリチュールにこだわる作家の意見をまとめてみると、書くという作業を創造的な行為とみなし、分かりきった意識を前もって準備した構造に合わせて説明するのではなく、明確に意識化できていないことを書くという作業、すなわちエクリチュールによって意識化しようとしていることが分かる。さらに、一度書き上げた原稿を推敲して仕上げていく楽しみも強調している。おおむねここが一番の力点でしょう。でもって、シェイクに象徴されるTak.さんが提示されるプロセスが強調しているのもこのような行い(あるいは営み)です。あらかじめ構造をしっかり作りそこに向かって書いていくことは、「分かりきった」ことを扱う行為であり、「明確に意識化できていないことを書くという作業」──つまり、発見や創造とはひどく違っていて、そしておそらく楽しみも少ないのではないか。そのような疑問を『思考のエンジン』を読んでいると感じられますし、まさにその問題意識を持ってTak.さんの著作を読んでみると、「なるほど、そういうことか」と腑に落ちることが多く出てきます。なので、Tak.さんの本を好ましいと感じる方ならば、よりディープに踏み込むために『思考のエンジン』はぜひとも読んでみたいところです。難しい言葉とは言え、この本は一筋縄ではいきません。すでに登場していますが、「エクリチュール」も知らないと意味が取りづらいですし、「パレルゴン」やら「ヘゲモニー」やら各種哲学者の用語がばんばん登場します。文章自体は晦渋ではないのですが、用語の感触を把握していないと、「うっ」と気後れする部分は間違いなくあります。それを乗り越えるのが知的トレーニングである、というといかにもマッチョな発想にも思えますが、それでも自分が知らない世界から流れ込んでくる空気を一度胸いっぱい吸い込んでみるのは悪くない体験です。それに用語がわからないからといって全体の意味が汲み取れないこともありません。ですので、そういう本だと思ってチャレンジされると良いでしょう。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC011 アフタートーク&倉下メモ
『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』倉下メモ話を聞いている間、ずっと「そうだよな〜」という思いでいっぱいの回でした。納得fullな一冊。でもって、ちょうど倉下が今書いている本も「書くことを通して考える」ことの大切さに言及しているので、重複感がハンパなかったです。本書が提示する学び方に関しては、『独学大全』や『How to Take Smart Notes』も類書としてあげられると思います。あと、今井むつみさんの学習に関する本も同様のことを論じています。結局、自分の手を動かし、頭を動かさないと前には進めない、という点では、『妄想する頭 思考する手』にも通じるものがあるかもしれません。ちなみに、本書がKindleでセール対象になっていたので、倉下もさっそく買いました。また読んでみたいと思います。次の本の候補『実力も運のうち 能力主義は正義か?』最近話題の本。サンデルさんの本は以前も取り上げたので、その流れとして(あるいは話題に乗っかっていく意味で)。『コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化』『ゲンロン戦記』や『ヒューマン・ネットワーク』などで、「あるグループを作るとはどういうことか、インターネットでいかにそれを実践するのがよいのか」という問題意識が出ているので、その流れで買った本です。かなり分厚いのでなかなか手ごわそうですが、次回の倉下のターンはこちらにしようと思います。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC011 『Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第11回の本日は『Learn Better』について語ります。今回の本は、副題が「頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ」というもの。本書では、この6つのステップそれぞれに1章ずつ割り当て、それぞれの要素を深掘りしていきます。人は、短期記憶が少ない6つのステップを順に解説するよりも何よりも、本書を読んで1番のキモであると私が感じたのが「人は、短期記憶が少ない」ということ。この事実が、この本で出てくるありとあらゆる「学びが深まる方法」と繋がっています。そもそもの「6つのステップ」すら、1回でスムーズに覚えることはほとんど無理。人間の短期記憶というのはその程度のものであり、これを長期記憶へと変換する行為こそが「学びが深まる」ことを意味しているとも言えます。学びが深まる6つのステップ一応念のため6つのステップを書いておきます。* 価値を見出す* 目標を決める* スキルと知識を伸ばす* 発展させる* 関連付け* 再考する目を瞑ってこの6個をすぐに暗唱できるか確かめてみると、自分の短期記憶がどんなものなのか理解しやすくなるかもしれません。もちろん「覚えておくことだけ」に全力を注げば、この6つを覚えるだけならば無理ではないと思いますが、もちろんこれを丸暗記したところで「学びが深まる」わけではないし「頭の使い方が変わる」とは思えません。以下の3つを意識して行動する上記6つのそれぞれについての内容は、本を読んでください、Podcast聴いてみてください、という感じなのですが、チャチャッと要点だけ知りたい方向けにまとめると、以下の3つのことを意識する(&行動する)というのが重要なことだと考えます。* 自分の言葉で書く* 1つずつ確実にやっていく* 間隔を空けて何回もやるこの本、何回も色んなところで語ってるんですが、とにかく言ってることは「ごもっとも!!!」ということの連発。全然知らなかった!みたいな驚きはほとんどないんですが、それでも自分がこれまでブックカタリストで紹介してきた中で一番影響を受けた本です。ひょっとしたら人生で一番影響を受けた本、くらいになるかもしれないという、噛めば噛むほど味が出る本です。自分がこれまでブックカタリストで話した中でも一番面白い話ができたと思うし、これまで紹介した中で一番読んでみてほしいと思う本です。そして、読んだ本について「自分の言葉で書く」是非ともそこまで試してみて欲しいと思います。Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ🌱読んだ本の内容を「ずっと使えるノート」としてまとめる - ナレッジスタック This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC010アフタートーク 贈与を受け取ってしまったら語りたくなる
ブックカタリスト収録後のフリートーク&次回の本をどうするか、の打ち合わせトークです。アフタートークで出てきた本のリストもこちらでご紹介します。じわじわ効いてくるラーンベターいろんなところで何回も話しているんですが、最近とにかく『ラーンベター』から影響を受けたことが多いです。どれもこれも書いてある内容は「普通」の、それは確かにそうだよね、ってことばかりなんですが、あらゆることが「確かにそうだ」と感じる。ここまでブックカタリストで紹介してきた本の中で一番「あらゆることがつながるようになった」本です。遺伝子ブックカタリスト007 『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』 - ブックカタリストこれを読んでから生命科学に興味が出てきて、新しくこの本を読み始めました。前半は、簡単で面白いけど、だんだんわからんことが増えて難しくなってきています。フィンガードラム入門ブックカタリストも10回続き、ちょっと毛色が違うものもありなのではないか、というところで思い出した「本」これも紹介するのもアリかもね、なんて話してましたが、結局ボツ(というかラーンベターを紹介したい)ここで話してて、自分には「ゲームや音楽を公開したい意欲がない」これは何故だろう、と考えたときに今回の『世界は贈与でできている』と繋がって、自分は「受け取った贈与を返したい」が情報発信欲求の根底にあることがわかったのでした。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC010『世界は贈与でできている』
今回は『世界は贈与でできている』について。副題:資本主義の「すきま」を埋める倫理学著者:近内悠太(ちかうち・ゆうた)1985年神奈川県生まれ。教育者。哲学研究者。慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業、日本大学大学院文学研究科修士課程修了。専門はウィトゲンシュタイン哲学。リベラルアーツを主軸にした統合型学習塾「知窓学舎」講師。教養と哲学を教育の現場から立ち上げ、学問分野を越境する「知のマッシュアップ」を実践している。デビュー著作となる本書『世界は贈与でできている』(NewsPicksパブリッシング刊)で第29回山本七平賞・奨励賞を受賞。倉下が見た本書のテーマ資本主義に抗する倫理学* 「お金では買えないもの」を語る言葉を求める。贈与とは何か──現代的な意義の確認* 贈与の原理を見出す。ピックアップキーワード* 贈与論 (マルセル・モース)* 贈与* “お金で買うことができないもの、およびその移動”* エマニュエル・レヴィナス/内田樹* 贈与の失敗としての『ペイ・フォワード』* デリダの誤配(「行方不明の郵便物」)* 贈与の象徴としてのサンタクロース* レヴィ=ストロース『火あぶりにされたサンタクロース』* ウィトゲンシュタインの言語ゲーム* 小松左京のSF* 想像力* 逸脱的思考と求心的思考* アンサング・ヒーロー概要人間は社会的な動物として(他者の存在を前提として)進化してきた。しかし、資本主義=交換の理論は他者の存在を必要としない。その理論は、自分もまた他者から必要とされないことを意味する。一方で、贈り物はそのような交換の理論には当てはまらない。経済学はこの贈与を語るための言葉を持たない。では、その言葉とは何なのか。「お金では買えないもの」という否定の表現ではない言葉を本書は探究する。贈与は、非時間的な交換とは違い、時間的な要素を生み出す。それはつながりを生み出すということ。しかし、贈与であるかのように見える親から子への呪いもある。その呪い性は「これは贈与である」と告げられることで発生してしまう。つまり、贈与とは贈与としての名乗りを持たないものでなければならない。贈与だとラベル付けされない贈与は、受け取った者が、その「意味」に後から気がつくことで成立する。そして、「意味」を扱う行為は、言語であり、コミュニケーションである。哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、言語活動をゲームとして捉えた。言語の「意味」を、特定のゲームにおける機能として理解せよ、という主張である。そうしたゲームを念頭に置かず、ただ「意味」だけを議論しても詮無いことである、と。私たちは言葉を扱うとき、何かしらのゲームに参加している。私たちの日常は、何かしらのゲームの内側で行われている。「意味」はそのゲーム内で規定される。ここで、贈与という行為の「意味」に後からが気がつく、という話に返ってみる。贈与は、名乗りを持たずに行われる。よって、私たちは通常であればその行為に気がつかない。しかし、自分が参加しているゲームにおいて、どうしても説明のつかない行為が目に入ったとしたら? そのような異物を本書ではアノマリーと呼び、その性質こそが「あれは贈与だった」と気がつける起点になると述べる。資本主義=交換の理論が支配的な中で暮らしている私たちにとって、明らかに異質に見える行為はそれだけで「目を引く」。そこから想像力が働けば、「あの行為は贈与だったのだ」と気がつくことができる。名乗りを持たないものの価値を、見出すことができる。→価値とは見出されるものであるそのとき、私たちは「すでに受け取ってしまったもの」となり、負債を背負って生きていくことになる。その負債感は、資本主義=交換の理論ではどうしても説明のつかない行為を引き起こし、それがまだ別の誰かにとっての贈与となり、世界は贈与で埋め尽くされてく。本書のポイントは、贈与とは「贈与として贈られたもの」を指すのではなく、後から振り返ったときに「あれは贈与だったのだ」と思えるものが贈与になる、という物の見方のシフトである。そのシフトを経験すれば、この世界そのものが、「あれは贈与だったのだ」と思えるもので満ちてくる。本書のタイトルが示すものは、おそらくそういういことだろう。これはただ受動的に生きているだけでは、贈与は見つからないことも意味する。贈与を見つけるための、違和感に気がつくための、そこから行為について想像するための、ある知的な能力が必要である。もし何かを教養と呼ぶならば、そうした能力こそがふさわしいと言えるだろう。関連コンテンツ* 映画『ペイ・フォワード』* 『それをお金で買いますか?』* 『火あぶりにされたサンタクロース』* 『復活の日』* 『存在論的、郵便的』* 『ゲンロン戦記』 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC009 アフタートーク&倉下メモ
『妄想する頭 思考する手』(暦本純一)倉下メモ本書の妄想とは何か。たとえば、「被害妄想」のようなネガティブなものではない。今この社会には存在していないものであり、それを他者に語ると「はあ?」とあきれられるくらいに今の価値観から乖離してしまっているもの、というくらいのニュアンス。他人に語ったときに、「ああ、それって便利だよね」と共感されるならば、既存のものの改良でしかなく(それはそれですごいわけだが)、イノベーションには至れない。言い換えれば、そのときの価値観を書き換えてしまうようなプロダクトこそがイノベーションと言える。私たちは自分が持つ価値観=世界観=パラダイムをフレームにして物事を考え判断するので、それが世間様と完璧に合致するならば、新しいものは何も生まれてこない。逆に世間様と完全に違っているなら話が通じない。だからこそ少しだけ「ズレ」ているものを思いつく価値観は貴重である。「はあ?」とあきれられる妄想を抱けるのは一つの希有な力なのだ。日本の画一的な教育と、単一指標による評価は、そうした希有な力の持ち主を貶め、規格化しようとする点でイノベーティブな芽を刈り取っているのではないか、とまでは本の中で直接書かれていないが、そういうニュアンスは受け取れる。すごく良かった箇所の引用同じようなアイデアは、自分以外にも思いつくことができる。でもその妄想を阻む壁を乗り越えられるのは自分しかいないかもしれないし、乗り越え方に自分らしさが出せるかもしれない。そう思うと、一回やってみて失敗するぐらいのほうが、やり甲斐のある面白いアイデアのように思えるのだ。失敗が重要なのは、それが「自分が取り組んでいる課題の構造を明らかにするプロセス」だからだ。次の本の候補『世界は贈与でできている』『クララとお日さま』 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC009 『妄想する頭 思考する手』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第9回の本日は『妄想する頭 思考する手』について語ります。著者は、東京大学大学院情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長という肩書きを持つ、いわゆる研究職での最強エリートとも言える暦本純一さんの「アイデアの作り方」について書かれた本。iPhoneの誕生に大きくヒントを与えたとされているマルチタッチシステムSmartSkinの発明者でもある著者が語った本というだけでも、注目に値する書籍だと言えます。とは言え内容的にすごく難しいことが書かれている本というわけではなく、書かれている言葉も、コンテンツ自体も素直で読みやすいものです。少なくともごりゅごがブックカタリストで紹介してきた本の中では、今までで一番素早く読み終えることができた本でした。妄想と言語化じゃあすぐに読み終えることができたから簡単な本なのか、というと決してそういうわけでもなく、ちゃんと紹介しようと思うと無数の読みどころがあり、逆に紹介しようと思っても仕切れない、という感じの本でもあります。例えばごりゅごが一番影響を受けたのは「それはなにか」ということを1行で説明するクレームというものの重要性。(日本語でクレーム、というと「文句をいう」と言うニュアンスがあるが、Claimは英語では「主張」という意味を持つ)クレームというのは検証できる、決着が想定できる形で書かないといけないし、高機能、次世代、効率的、効果的、新しいというような正しいけれど曖昧な表現はダメ。この本では「クレーム」というのはアイデアに対してのこととして書かれていますが、これはいくらでも自分のことに応用できるな、と思いいろんなことを考えています。たとえばこのブックカタリストにしても、1行で、人が興味を持ってもらえるようにするにはどう言う説明がいいだろうか、みたいな感じ。人間が作る妄想の未来から希望と楽しさまたこの本は、ごりゅごが前回紹介した『2030年』とある意味で同じ「未来について語った本」でもあるんですが『2030年』に比べてなんか未来、というのが明るく楽しい、夢と希望に満ち溢れる気持ちにさせてくれる本でもありました。ブックカタリスト007 『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』 - ブックカタリストこれは、一体何が違うんだろう、というようなこともPodcastの中で語っていたりもするので、是非ともPodcast本体の妄想トークも一緒にお楽しみ下さい。参考リンクHuman Augmentation人間拡張のScrapboxNeil Harbisson: ニール・ハービソン:「僕は色を聴いている」 | TED Talkカメラを人体にくっつけた人のTEDトーク。「人間拡張」というものが人間の感覚まで変えうる、という体験を語ってくれていて、非常に面白い。妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方 (単行本) | 暦本 純一 |本 | 通販 | Amazon This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC008 アフタートーク
ブックカタリストのアフタートーク。今回はごりゅごが、次回紹介しようと思っている本などについて語りたいと思います。化学を全然知らないことに気がつく『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』 に出てきた、現代の医療、長寿に関することを読んでいたら、実はごりゅごは「化学」というものの知識が相当足りない、ということを気がつきました。(よく考えたら、理系の大学に入学したけど、入試に化学の成績は「実質不要」で、しっかり勉強した記憶もない)ただ、遺伝子、DNAのことをちゃんと知ろうと思ったら、この手の知識はほぼ必須とも言えるものでもあるわけです。で、そんなタイミングでこんな本を見つけてしまいました。現在上巻を半分くらい読んだところですが、この本はどうやら「遺伝子の歴史書」っぽく、非常に読みやすく、面白い。まあ、ちょっと次回の紹介には間に合わなさそうですが、近いうちに取り上げたいと思っています。すごい人は権威を笠に着ない次回紹介予定なのは、こっちの本。帯にコメント書いてる石井さんのお話を以前聞いたことがあるのですが、登場シーンからものすごい「気さくなおっちゃん」で現れて、1発で引き込まれた記憶があります。めっちゃすごい人というのは権威を笠に着るようなことってないよねえ。そういいうことするの中途半端に偉い人だよねえ、なんてことを思い出しました。その他、紹介した本やリンクなど終盤に触れた、ワクチンのリバースエンジニアリングの話[翻訳] BioNTech/Pfizer の新型コロナワクチンを〈リバースエンジニアリング〉する|柞刈湯葉 Yuba Isukari|note今回出てきた3冊は、どれもちゃんとまとめてブックカタリストで語りたいものばかり。次回は『妄想する頭 思考する手』を紹介する予定ですが、残り2冊も(この後よっぽど面白い本が出てこない限り)ちゃんと紹介したいな、と思います。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC008『ヒューマン・ネットワーク』
今回は『ヒューマン・ネットワーク』について。副題:人づきあいの経済学原題:『The Human Network: How Your Social Position Determines Your Power, Beliefs, and Behaviors』著者:マシュー・O・ジャクソンスタンフォード大学教授、サンタフェ大学客員教授。プリンストン大学で学士号、スタンフォード大学で博士号を取得。主な関心はゲーム理論、ミクロ経済学、社会・経済に関するネットワークの科学など。2015年ケネス・アローやリチャード・セイラーも受賞した、ライク・ラズロ・カレッジが与える2015年度ジョン・フォン・ノイマン賞を受賞。*書籍のリンクはすべてAmazonアフィリエイトのリンクです。どんな本?人間的ネットワークの特徴とその形成のメカニズムを論じ、さらに個々の人の振るまいがいかにそうしたネットワークの影響を受けるのかを検討した一冊。倉下お薦めのネットワーク論系書籍* 『ソーシャル物理学』* 『ウェブはグループで進化する』* 『経済は「予想外のつながり」で動く』ネットワークに注目個々人の特性に注目するのではなく、その人が所属しているネットワークに注目することは、人の行動を一つの系として捉えることになる。上記で紹介した本は、そうした観点を持つが本書は、そうしたネットワークが「いかに形成されるのか」も踏まえて検討している点が興味深い。ネットワークの種類一口にネットワークといってもその形はさまざまであって、考え得るバリエーションは多岐にわたる。たとえば、30人のクラスの中でいかなるネットワークが築かれるかは、「誰も友達ではない」から「全員が全員と友達」であるの間に巨大なバリエーションを持つ。友達のペアは435個考えられ、そのペアの組み合わせは、2の435乗である。そうしたネットワークを個別に検討することはできないが、それぞれのネットワークの重要な特性に注目し、パターンを想定することはできる。ありうる関係のうちどのくらいの割合が実際に結ばれているか、参加者の間で関係が均等に結ばれているか、どこかに偏りがあるか、に基づいて分類するのはその例だ。そうしたパターンを追求することで、経済的不平等や非流動性、政治の分極化、金融危機の伝播などの問題も解明しやすくなる。物事をこうした視点で捉えることを「ネットワーク思考」だと呼ぶならば、本書はその思考法を開示するための一冊だと言える。外部性重要な話は盛りだくさんだが、一番重要なのは「外部性」の概念である。ネットワークの一部であるとき、ある決定や行動はネットワークの他の要素に影響を与える。たとえば、倉下は五藤さんにヘッドセットを薦めてもらい、それを買った。すると誰かがそのヘッドセットを見て、「あっ、あれいいな」と思う可能性が出てくる。その人がそれを買うと、さらに「あっ、あれいいな」と思う可能性が出てきて……という感じで、個人の決定がネットワーク全体に広がっていくことが起こり得る。むしろそのような影響が皆無であるならば、ネットワークを研究する価値はない。外部性があるからこそ、ネットワークは研究対象として興味深く、また価値があるものになる。一人の人間の選択は、基本的に自由であり、その選択は最大限尊重されるべきであろう。一方でそれは、一人の人間の選択が外部性を持たないことを意味はしない。社会制度・道徳・倫理観といったものが要請されるのもこうした側面があるからだろう。「自分の人生なんだから、自分勝手でいいじゃないか」と言い切れない視点がネットワーク思考には含まれる。*しかし、共同体を至上におく共産主義とも異なるのがポイントである。ネットワークの現れ方の違い一人の人間がたくさんの人と交流を持っていても、それがインフルエンザウイルスなのか、HIVウイルスなのかによって立ち現れるネットワークは異なる。また、流れるものが情報の場合でも、政治的信念と明日の天気とお得なセール情報と銀行倒産のうわさ話では、流れ方が異なる。ある面において一つのネットワークが現れたとしても、それが万事に通じるわけではない。流れるものによって、現れ方が変わってくる。また、ネットワーク上のポジション(≒持ち得る力)も、単純には測定できない。友達が多いのか、友達が多い人を友達に持っているのかは、単純にどちらが「すごい」のかはわからない。そこを流れるものによって変わってくる。この点において、「フォロワー数がn万人ならなんちゃら」と考えるのはあまりに単純すぎることがわかる。ネットワークの規模だけでなく、その性質に注目することは欠かせない。ネットワークと個人の立ち振る舞い本書は面白い話が多いのだが、深刻なものとして個人の立ち振る舞いや可能性がその人が属するネットワークに強い影響を受ける、という点がある。この話は、ピエール・ブルデューのハビトゥスを想起させるが、おおむね似通っていると言ってよい。ハビトゥスは、行動の傾向(気質のシステム)にフォーカスしているが、入手できる情報やそうした情報に対する評価もネットワークからの影響を受ける点が本書では指摘されていて、それが極めて重要だろう。なぜならば、経済学が想定する「合理的な経済人」や、ジョン・ロールズの「無知のヴェール」が根本的に無理な要請である可能性が示唆されるからだ。とは言え、本書でそれが論じられているわけではなく、あくまで倉下の観点である。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC007 アフタートーク&倉下メモ
『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』倉下メモ冒頭に紹介された「融合」というキーワードが気になりました。以下の本も気になっています。『コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化』フードテックやフィンテックなどは、食品業界や金融業界とテクノロジーの融合だったわけですが、そうしたhogeテック的なものが増えてくると、今度はそれぞれのhogeテックが融合して、さらに新しいものを生み出していく、という捉え方は個人的に魅力的です。ただし、そのようなボトムアップ的変化は、最終的にどうなるのかはまったくわからない、という見通しの悪さも伴う点には注意が必要そうです。倉下の個人的な感想としては、たしかにテクノロジーはとんでもなく進化していくだろうけども、「それって本当に大丈夫なの?」と問う姿勢を欠いてはいけないなと感じた次第です。倫理×テクノロジーの ethitech が必要なのかもしれません。たぶんそれは、VRによる「仮想的な現実体験によって、いかに倫理観を醸成するのか」という方向で実現されるのでしょう。次の本の候補* 『ヒューマン・ネットワーク』(←こっちになりました)* 『英語独習法』 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC007 『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』
面白かった本について語るPodcastブックカタリスト。第7回の本日は『2030年すべてが「加速」する世界に備えよ』について語ります。あらゆる分野の「未来」が網羅された1冊一言で言って、非常に夢溢れる、これからの未来が楽しみになる本でした。(そもそもこういう本が好き)細かな翻訳で気になる点や、あえて詳細を省略している(不都合だからなの?伝わりやすくするためなの?)と感じる点などはありましたが、楽しむ分には問題はないかな。対象とする範囲が非常に広いために、これだけボリュームがある書籍でも、1つ1つの分野の説明は「ライト」な感じです。その分野の本を多少知っていれば「だいたい知ってる」って感じになりがちですが、1冊の本でこれだけ全体がまとまっている」ということに価値がある本だと思います。ついにクルマが空を飛ぶ時代が来る本の始まりは、UberのCPO ジェフ・ホールデンが「空飛ぶ車を作る」という話をするところから。1960年代や70年代に創造した21世紀って、全然今と違うよね。空飛ぶ車とか、お手伝いロボットとか、ボタンを押したら料理を作ってくれるとか、そういうのってどこ行ったの?著者は、そういう時代が「すぐに来る」と言っています。なぜなら、これからさらに変化が加速するから。さまざまな技術がデジタル化され、技術は、エクスポネンシャルな加速(指数関数的な加速)をし、それらの技術が「コンバージェンス」(融合)することで、進化がより加速する。本に書いてる横文字をそのまま並べるとなんかアレなんですが、この「指数関数的な加速」と「技術の融合」というのがこの本が伝える「加速が加速していく」大きな理由です。今まではCPUに「ムーアの法則」というのがあって、コンピュータは1.5年で性能が2倍になる、ということが起こっていた。このムーアの法則というものが、デジタル化からの進化によって「ありとあらゆるジャンルで適用されるようになる」振り返ってみると、10年前に10万円で空飛ぶドローンが手に入る時代は想像もしてなかったし、10年前にまさか囲碁で人間がコンピュータに負けるのが今実現するなんて思ってもみなかった。(20年前には、コンピュータが囲碁で人間に勝つにはあと100年かかる、などと言われていた気がする)この10年で「信じられない変化」がすでに起きていることを考えたら、これからの10年がもっと信じられない変化が起こっても、確かにおかしいことはない。VRと3Dプリンティング、パーソナライズ本全体を通して最も多くの分野に影響を与えそうなものが、VRと3Dプリンティング、パーソナライズいう3つのキーワードでした。VRによって教育も買い物も「その場で体験ができる」ようになり、広告は今までと次元が違うものが現れる。不動産なんかはVRで内見ができるようになる、という変化だけでなく「その場で体験ができる」時代になることで「そもそものいい土地」というものの定義すらも変わってしまう。3Dプリンティングはすでにありとあらゆる材料でプリントが行えるようになっており、人間の臓器も、食べ物も、家も「プリント」で作れるようになっている。1また、これらに「パーソナライズ」という要素が加わることで、教育ならば生徒一人一人に最適化した授業を与えられるし、広告も「超パーソナライズされたもの」が配信可能(ディストピア?)一人一人に最適化した移植用臓器などは低コストで3Dプリンターで作れる。保険や金融も個人に最適化され、パーソナライズが進めば「保険」という概念も無くなってしまうかもしれない。医療と遺伝子そして個人的に最も衝撃が大きかったのが「医療」の分野。本の中では9章の「医療の未来」に加えて、次の10章では寿命延長というものについて丸々1章使ってさまざまな寿命延長の方法について書かれています。現時点で「人はなぜ老化するか」「なぜ死ぬか」ということはかなりの部分がわかってきている。そして、わかってきたということは対策もできるようになってくるということ。この分野に関しては、自分の知識がほとんどなかったことも関係していると思いますが「マジでもうこんなことできるのか!」という話だらけでした。確かに、つい100年前は人間は50になる頃には大抵死んでたんだし、原子時代は30歳でもう死んでいた、なんて話も聞く。(平均年齢ではない)それが今80まで生きるのは普通で、ここから技術が加速するならばまだまだ寿命が伸びる可能性は十分ある…個人的には技術の進歩は可能な限り見てみたいので、長生きできることは嬉しいんですが、人生設計というものは確実に考え直さなければならなくなりそう。60で引退してあと60年は「余生過ごす」ではないよな…100歳の人を再び60歳に戻すこと、すなわち人間の生存期間を大幅に延ばすことは、すでに「できるかどうか」から「いつできるか」の問題に移った。章の最後に書かれてるこんな言葉を見ると、本当にいろんなことに「備える」必要があることを思い知らされます。2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ | ピーター・ディアマンディス, スティーブン・コトラー, 山本 康正, 土方 奈美 |本 | 通販 | Amazon* 金属、ゴム、プラスチック、ガラス、コンクリート、細胞、皮革、チョコレートなどはすでにプリントできるらしい。 ↩︎ This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC006 アフタートーク 意外に気が付かないApple Booksの便利なところ
ブックカタリスト収録後のフリートーク&次回の本をどうするか、の打ち合わせトークです。アフターショーで出てきた本のリストもこちらでご紹介します。次回紹介しようと思ってる本2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ (NewsPicksパブリッシング) | ピーター・ディアマンディス, スティーブン・コトラー | 工学 | Kindleストア | AmazonLearn BetterLearn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ | アーリック・ボーザー, 月谷真紀 | ビジネス・経済 | Kindleストア | Amazon「読まなくてもいい本」の読書案内「読まなくてもいい本」の読書案内 ──知の最前線を5日間で探検する (ちくま文庫) | 橘玲 | Kindle本 | Kindleストア | Amazon最近Apple Booksを使っているという話Kindleアプリが最近めっちゃ使いづらい(アプリがよく固まる、起動が遅い)などの理由でApple Booksを使いはじめました。漫画の一覧が「買ってないやつ」まで全部並ぶ。Macでメモが章ごとに並ぶ。この辺りはメリットだと思います。その他、AppleやAmazonには「愛」があるかどうか、みたいなことも話しています。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC006『闇の自己啓発』
(音声ファイル抜きで配信してしまいましたので、再配信です)今回は『闇の自己啓発』について。*書籍のリンクはすべてAmazonアフィリエイトのリンクです。以下倉下のメモ闇の自己啓発会とは以下の四人による読書会。* 江永泉(えながいずみ)* 木澤佐登志(きざわさとし)* ひでシス* 役所暁(やくしょあかつき)本書はその読書会(闇の自己啓発会)の内容を書籍化したもの。「闇の自己啓発会」はのれん分けを行っており、自分で立ち上げることも可能。以下の記事を参照のこと。読書会【闇の自己啓発会】〈のれん分け〉キャンペーン|江永泉|note共著者の一人、木澤佐登志は以下の本の執筆および序文の寄稿を行っている。* 『ニック・ランドと新反動主義』* 『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』* 『暗黒の啓蒙書』(ニック・ランド)の序文『ダークウェブ・アンダーグラウンド』は、本書の第1部でも取り上げられており、また「暗黒」/「闇」という部分でも本書に響き合う一冊。目次本書の目次とは、すなわち本書が取り上げる本のリストでもある。* 第1部 闇の社会* ダークウェブ―課題図書 * 木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド―社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』* 中国―課題図書 梶谷懐/高口康太『幸福な監視国家・中国』* 雑談1 『天気の子』と神新世* 第2部 闇の科学* AI・VR―課題図書 海猫沢めろん『明日、機械がヒトになる―ルポ最新科学』* 宇宙開発―課題図書 稲葉振一郎『銀河帝国は必要か?―ロボットと人類の未来』* 雑談2 『ジョーカー』のダンス* 第3部 闇の思想* 反出生主義―課題図書 『現代思想』2019月11月号 特集「反出生主義を考える」* アンチソーシャル―課題図書 レオ・ベルサーニ/アダム・フィリップス『親密性』* 雑談3 ゼロ年代から加速して―加速主義、百合、シンギュラリティ* 補論 闇の自己啓発のためにどれも現在・現代の「当たり前」の感覚から遠く離れた地点から発せられ、ぐおんぐおんとそれを揺さぶるような内容の本である。暗黒啓蒙(The Dark Enlightenment)と闇の自己啓発近代の歩みとしての啓蒙主義に疑問を投げかけ、いっそそれを破壊しかねないベクトルを持つ思想。その思想の流れは、木澤佐登志の『ニック・ランドと新反動主義』が面白く読める。近代〜現代がイノセントに前提にし、また称揚してきた考え方を揺さぶるという点では非常に力のある思想ではあるが、しかし、それが結局のところ「啓蒙」の形でしか足られないことに構造的限界を感じる。一方「闇の自己啓発」は、暗黒啓蒙と同じ疑問を持つが、しかしその歩み方が違う。彼らは本を読み、それについて各々が語り合う。その人自身の形で。それがつまり、Dark Self-Enlightenmentである。そんなビッグブラザーの支配する中で、自己を奪われないためには何をすればよいのか。私は読書会こそがその答えであると思う。ひとりで思考し、学び続けることが難しくても、ともに語り、学び、思考する共犯者がいることで、自己を失わずに、思考することが続けやすくなる。その語り合いの中では、差し出される光=闇に自己を融和させる必要がない。むしろ語り合いの中でこそ、いっそお互いの輪郭線がはっきりし、また溶け合うというアンビバレントな状況が起こり得る。大衆になり切れず、かといって孤独に生きていくほどのタフさを持たない人間にとって、それこそが救いなのではないか。そんな風に倉下は感じた。読書会の本同じく読書会(的な)本として『人文的、あまりに人文的』がある。哲学の劇場 - YouTube こちらはもっと人文寄りのセレクトで、小気味よくたくさんの本を紹介してくれている。人がいて、その人が本について語る。連鎖的・連想的にその他たくさんの本やコンテンツに言及する。特定の分野を読み深めるのではなく、いろいろな本の発見現場としては、そのような語られ方が一番楽しいと感じる。誤配がそこら中で起きるから。その他言及した本『ハーモニー』(伊藤計劃)小説とアニメ映画がある。アニメ映画は沢城みゆきさんがとても良いが、それはそれとしてこの作品を生(き)で味わうなら小説の方が良いだろう。タグ付けされた小説は、それ自体にメッセージを有しているから。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC005 アフタートーク&倉下メモ
ブックカタリスト第五回の倉下メモ『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデルアメリカの政治哲学者。コミュニタリアニズム(共同体主義)の代表的論者。名前が似ているが、コミュニズム(共産主義)とは異なるので注意が必要。その他の著作に以下がある。* 『完全な人間を目指さなくてもよい理由-遺伝子操作とエンハンスメントの倫理-』* 『それをお金で買いますか 市場主義の限界』* 『公共哲学 政治における道徳を考える (ちくま学芸文庫)』また、本書のヒットにってさまざまな「教室もの」の書籍が多数出版された。出版業界では、ときどきこうしたブームの火付け役となる本が生まれる(最近の大全ブームなどが記憶に新しい)。共同体主義共同体主義は、自由主義(リベラリズム)に対抗する思想だが、しかし共産主義のようにコミュニティーを最上価値として個人の自由を認めないような形はとらず、むしろ根本的には個人の尊厳を重視する。ただ、それが際限なきレベルまで拡大されることを認めない。対比させると、以下。「ジェファソニズム=共同体的自己決定主義=共同体主義」「ハミルトニズム=自己決定主義=自由主義」私たちが共同体の一部である(あるいは共同体があってこそ個人が生活し、成果を出せる)と認識した上で、自己決定を行うこと。であれば、共同体を滅亡に追いやるような個人の自由は制限されることになる。その制限が必要なのか、それともそれは行きすぎた制約(パターナリズム)なのかで、この二つの思想が分かれる。この対比は実際的にも重要で、人間は置かれた文脈によって選択を変えてしまうのだから、自分を自由な個人として見るか、それとも共同体の上に存在するものとして見るかによって、「自由な選択」もまた変わってしまうだろう。トロッコ問題本書で有名になった問題。トロリー問題とも呼ぶ。5人がトロッコにひき殺されそうになっているとき、一人の命を犠牲にすればその5人が助かるとき、倫理的に「正しい」判断はどのようなものか、というもの。この「正しさ」は、個人がその選択に納得できるかという側面と、その行為を法律がどのように捌くのかという二つの側面があり、前者が倫理・道徳方面と、後者が政治哲学と関わっている。このトロッコ問題はさまざまなバリエーションがあり、それだけで本が書かれている。* 『「正義」は決められるのか? 』* 『太った男を殺しますか?』倉下が考えるに、たとえ結果的に法律が罰さなくても、目の前の人間を突き落とすことに人の心は耐えられないだろう。一方で、遠隔操作でボタンを押すならばそれよりも軽度の影響で済むと想像する。紹介した漫画* 『はたらく細胞』* 『ヒストリエ』次の本の候補* 『記憶のデザイン』* 『闇の自己啓発』* 『思考の教室』 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC005『これからの「正義」の話をしよう』
「功利主義」を学んで、哲学・倫理繋がりで「過去に挫折した本を読もう」って感じで読み始めたんですが、読み返してみて改めて長くて難しい本だと感じました。(当時挫折したのが頷ける)章単位で見るとすごく面白いくてわかりやすい。ただ、1個1個のエピソードはすごく面白いけど、著者の主張をちゃんと理解しようと思うと難しい。(難しかった)全体をしっかりと理解していないと著者の主張の論拠がはっきりとは見えてこない。そして、全体を理解しようとすると本のボリュームが多いので、理解しておきたい項目も多くて大変、という感じでした。全ての内容が血肉になるまで理解できていないから、全部の話をうまく繋げることができない、みたいなイメージというのかな。とはいえ、ある程度理解ができると、著者の構成のうまさに感服します。この本は哲学全体の歴史を大きくなぞりながら、それぞれの考え方の弱点、批判点を挙げていき、最後最後に著者の主張を登場させて「ほら、こうすると全部納得できるでしょ」という話につなげます。この流れを構成する際に、著者は「哲学の歴史・時間の流れ」を完全に無視して話を展開。(古代ギリシアのアリストテレスが登場するのは最終盤)これが、実に見事。著者の意見に賛同するかは置いといて、この構成で生で話をされたら仲間になっちゃうわ、という「プレゼン力」の点でもすごく参考になる本でした。予備知識10年前の自分は、以下のような予備知識なしで読んだため「よくわからなかった」という感想を持ちました。同じような経験をしないためにも、私が「読む前に知っておいたらより楽しめたと思う」内容を簡単にまとめます。(全体をざっくり把握しておくとわかりやすさがかなり違う)哲学の大きな時系列での流れ(この本で触れられている範囲)古代ギリシア(B.C.400–300頃)にいた偉人。ソクラテス、プラトン、アリストテレス。(こういう人がいた、くらいがわかればいい)19世紀イギリスの「功利主義」「最大多数の最大幸福」というのが「道徳的に正しい」という考え方が生まれる。同時期のドイツに「カント」という哲学者も現れる。「本当の意味での自由とはなんなのか」ということを考えたり、ある行動が道徳的かどうかはその行動がもたらす結果ではなく、その行動を起こす意図で決まる、という主張などを行う。1970年代の「ジョン・ロールズ」正義とは何か。公正とはどういうことか、ということを「原初状態」という状態をもとにして考えるべきだ、という話をして「リベラリズム」が再び見直される。著者はジョン・ロールズが言う「正義」というものが「これまでの正義」だと考えていて『これからの「正義」の話をしよう』と言っている。「正義」と「善」と「道徳」もう一つ日本語で難しいのが「正義」と「善」と「道徳」と言う言葉。「正義」は「Justice」の訳で、日本語でいう「法律的に正しい、公平」というような意味。「善」と「道徳」と言う言葉は、ある意味「それがなんなのか」を考える行為こそが哲学で、哲学者によって「善とはなにか」は意見が分かれる。(そしてここ最近の哲学界全体の流れとして、「善」と対する答えを出すのは難しいから、まずは「正義」について考えようとなっている印象)と、こんな感じで捉えておくと考えやすいです。あとがき色々と学んで理解できたことをまとめていますが、まだまだ理解できていない部分はたくさんあります。最近はこういった分野のことも少しずつ「Anki」を使って整理しており、時間が経ってからもう一度読んでみたら見え方が変わってきそうで、それもまた楽しみです。これからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) | マイケル・サンデル, 鬼澤 忍, 忍, 鬼澤 | Kindle本 | Kindleストア | Amazon This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC004 アフターショー
ブックカタリスト収録後のフリートーク&次回の本をどうするか、の打ち合わせトークです。アフターショーで出てきた本のリストもこちらでご紹介します。今回の本「功利主義入門」を読んで、わかるということの奥深さ、何をもって「わかる」と言えるのか、といったことについて考えさせられました。大学という組織の凄さ、重要さ、というものを思い知った出来事でもありました。また、最近はいろんなところで「Anki」の話をしているんですが、ここでもAnkiの話をしています。590.Ankiを使って英語を聞き取れるようになる by ごりゅごcast • A podcast on Anchor今回登場した本Pythonで学ぶ音源分離Pythonで学ぶ音源分離 機械学習実践シリーズ | 戸上 真人 | 工学 | Kindleストア | Amazon数学っていうのがこんな役に立つんだよ、ってのが自分の興味と重なって、こういう理由なら数学の勉強できるかな、っていう。音源分離は、スマートスピーカーの音声認識にすごく使われている技術らしいです。ティム・クック-アップルをさらなる高みへと押し上げた天才ティム・クック-アップルをさらなる高みへと押し上げた天才 | リーアンダー・ケイニー, 堤 沙織 | ビジネス・経済 | Kindleストア | Amazon(Podcastの中で「自伝」と発言してますが「伝記」の間違いです。ティムクックは、基本的に私生活を表に出さない人です)世界史を大きく動かした植物世界史を大きく動かした植物 | 稲垣 栄洋 | 農学 | Kindleストア | Amazon内容的にはライトなんですが、1個1個の事例が面白くて一気に読めました。「鳥はトウガラシを食べても辛くない」という話。トウガラシの作戦も「誤配」だった、という話なども。これからの「正義」の話をしようこれからの「正義」の話をしよう ──いまを生き延びるための哲学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) | マイケル・サンデル, 鬼澤 忍, 忍, 鬼澤 | Kindle本 | Kindleストア | Amazon This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC004『ゲンロン戦記』
今回は『ゲンロン戦記』について。『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ) 』*書籍のリンクはすべてAmazonアフィリエイトのリンクです。以下倉下のメモ東浩紀さんの代表的な著作* 1998年『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』(第21回サントリー学芸賞(思想・歴史部門)受賞) * 2001年『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』* 2007年『ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2』* 2009年『クォンタム・ファミリーズ 』(第23回三島由紀夫賞)* 2010年『思想地図β』創刊(3万部を超えるヒット)* 2011年『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』* 2015年『弱いつながり 検索ワードを探す旅』(紀伊國屋じんぶん大賞2015「大賞」)* 2017年『ゲンロン0―観光客の哲学』(ブクログ大賞人文書部門大賞・第71回毎日出版文化賞)フランス現代思想に興味があり、やや難しい文章でも大丈夫なら『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』から行きましょう。難しいですが難解ではありませんし、晦渋さもマイルドです。現代のインターネットと情報環境、それに市民や民主主義について興味があるなら『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』は抜群に面白いです。インターネットに民主主義の未来を期待するその視点は、2021年の私がまだ諦め切れていない希望でもあります。ちなみに上記二冊は、ジャック・デリダやルソーのまっすぐな(あるいは定番の)解説書を超えて、むしろ「大胆に読み替える」という姿勢があり、それが実にスリリングです。哲学というものが、単に歴史的な研究に留まるものでないことが体感できます。文章として一番やわらかいのが『弱いつながり』でしょう。これまた現代におけるインターネットとの付き合い方を提示してくれる本だと思います。むろん、『ゲンロン戦記』から読み始めてもOKです。むしろ、その方がその他の著作に興味を抱きやすいかもしれません。郵便と誤配『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』より。デリダを読解する軸のひとつとして、以下私たちは「郵便(poste)」の隠喩を選ぶとしよう。郵便的隠喩に引きつけて整理すれば、「エクリチュール」とは結局、情報の不可避的かつ不完全な媒介のことだと考えられるだろう。情報の伝達が必ず何らかの媒介(ルビ:メディア)を必要とする以上、すべてのコミュニケーションはつねに、自分が発信した情報が誤ったところに伝えられたり、その一部あるいは全部が届かなかったり、逆に自分が受け取っている情報が実は記された差出人とは別の人から発せられたものだったり、そのような自己の可能性に曝されている。「手紙はつねに宛先に届く」とラカンは述べる。デリダが最も注意する点がそこである。デリダに言わせれば、手紙は「届かないかも知れない」。(前略)ここで「エクリチュール」とはコミュニケーションの脆弱さ、つまり誤配可能性一般を意味している。他方「多義性」と「散種」は前章で述べたように、特殊性と単独性、確定記述の束とそれを超える剰余に理論的にほぼ等しい。したがってこのデリダの命題は私たちの文脈では、コミュニケーションの失敗こそが固有名の剰余を生じさせると述べたものだと解釈される。「あてにならない郵便制度」の中で、手紙は届くかもしれないし、届かないかもしれない。誤った手紙の配達(誤配)は、しかし「思いもよらぬ」ことを引き起こす可能性も持つ。完璧な郵便制度のもとでは、すべての「思い」はそのまま結実し、人は「思い」の中に閉じこもってしまう。「思いもよらぬ」ことは生まれえない。冗長性・余剰(剰余)といった、効率性を考える上でまっさきに削られるものが、しかし可能性の展望を開く。言葉によるコミュニケーションはその最たるものだが、コミュニケーションを「私と世界の接面」の一つだと捉えれば、他のさまざまな接面においても同じことが言えるだろう。非クリエイティブな作業の重要性会社の本体はむしろ事務にあります。研究成果でも作品でもなんでもいいですが、「商品」は事務がしっかりしていないと生み出せません。研究者やクリエーターだけが重要で事務はしょせん補助だというような発想は、結果的に手痛いしっぺ返しを食らうことになります。たとえば、私はフリーランスですが、「本業」以外のやることがいっぱいあって、それをやらないことには本業は回りません。これは当たり前のことです。で、セルフパブリッシングは出版にまつわる活動すべてを(出版社ではなく)個人が行うわけですが、たとえどれだけ良い本を作ったとしても、それを売るためのさまざまな活動を手抜きしてしまうと売れる本も売れなくなります。言い換えれば、それが「良い本」だと思ってもらえないのです。じゃあ、そうした活動を外注すればいいじゃないか、と思うでしょう。しかし、自分が営業やら宣伝活動をやったことがないと、何がよくて何がよくないのかが感覚としてわかりません。「ちょっと炎上することを書けば、PVなんてすぐに集まりますよ」という広告代理店の提案の是非が判断できないのです。別の視点で言うと、たとえば出版社さんの会議では「営業の意見」が重視される場面も多いようです。これはもう必然的な話で、なんといってもそうしてできた本を「売る」のは彼らなわけで、その意見が重視されるのはむしろ必須ですらあるでしょう。つまり、作ることと売ることはつながっています。あるいは、作られたものの性質と、売りものにもつながりがあります。そうしたものの全体によって、商品を取り巻くコンテキストが成立していくわけです。よって、本を作ることと、売ることを切り離して考えることはできません。というか、切り離してしまうと途端に有効性が失われてしまう物事なのです。事務方や営業という基盤や土台がしっかりとしており、それとつながる形で本を書くといったクリエーターの仕事が成立する。そのような見方が大切だと思います。だからこそ、一時期言われていた「一億総クリエーター」は誤解というかかなり大ざっぱな話でしょう。クリエーターばかりが増えても、それを支える存在がいなければ、活動を続けていくことは困難だからです。観客の不在クリエーター以外の存在で言えば、「観客(観光客)」の存在も重要です。現場のど真ん中にいる当事者でもなく、ぜんぜん無関心な第三者でもない、中間的な存在。そうした流動的な存在は、フルでないコミットでも現場に影響を与えられる点で層としての厚みを持ちえますし、無関心な第三者を中間的な存在へ巻き込む可能性を持つ点でも重要です。自由に動き回る電子は、結合する可能性を持つ。ゲンロンが、観客を必要としていて、観客はまず商品(サービス、作品)に注目するという点も重要でしょう。良い作品が提供されなければ、観客はいずれ去っていってしまう。それがフルでないコミットということですし、それは薄情にも見えますが、だからこそ活動には一定の緊張感が伴います。ある程度期待を持って向かい入れてくれるだろうという予感と、しかしダメな作品ならダメだと評価されるであろう予感。その二つの綱引きによって、傲慢や増長は抑制できます。前者だけでも、後者だけでもダメなのです。しかしながら、そのような観客的態度は、案外現代のインターネット環境では失われつつあるのかもしれません。観客ではなく、傍観者や野次馬的態度が目につきます。観客によって文化や作られ、育まれるのだとしたら、文化の衰退はまさに観客の衰退によって引き起こされるのかもしれません。おそらくですが、そのような態度は「身銭を切らない」ことによって発生しています。言い換えれば、お金を払うという行為は、ちょうどよいコミットメントのサイズなのでしょう。Googleが広告と引き換えに提供している無料のサービスたち、そしてフリーミアムとして謳われたしかしその裏で単に売り抜けることが目標とされていたサービスたちが、そうしたコミットメントの在り方やそのまっとうな評価を崩してしまいました。二週目のインターネットについて考える際には、この点にこそ注目すべきでしょう。▼関連書籍:* 『遅いインターネット』(宇野常寛)* 『身銭を切れ――「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質』(ナシーム・ニコラス・タレブ)倉下の印象に残った文章本書ではいろいろなことを話しますが、もっとも重要なのは、「なにか新しいことを実現するためには、いっけん本質的でないことこそ本質的で、本質的なことばかりを追求するとむしろ新しいことは実現できなくなる」というこの逆説的なメッセージかもしれません。今年の手帳に書き留めました。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
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