協会けんぽが健診制度を大幅拡充|20代からの予防・健康づくり強化へ

Dec 17, 2025 岡大徳

令和7年12月12日、第207回社会保障審議会医療保険部会において、協会けんぽにおける予防・健康づくりの取組等について議論が行われました。協会けんぽは約3,954万人が加入する日本最大の保険者であり、中小企業で働く方々の健康を支える重要な役割を担っています。今回の部会では、現役世代への取組強化を目的とした健診制度の見直しが提案されました。協会けんぽは、令和7年度から順次、予防・健康づくりの取組を大幅に強化します。主な施策は3つあります。第一に、35歳以上の被保険者を対象とした人間ドックへの定額補助(25,000円)を新設します。第二に、20歳・25歳・30歳の若年層を対象とした健診を新たに実施します。第三に、40歳以上の偶数年齢の女性を対象とした骨粗鬆症検診を追加します。これらの施策により、令和8年度には約280億円の費用増加が見込まれています。協会けんぽの概要と現状協会けんぽ(全国健康保険協会)は、主に中小企業で働く労働者とその家族が加入する医療保険です。平成20年10月に設立され、政府管掌健康保険を国から引き継いで運営しています。健康保険組合を自ら設立することが困難な中小・零細企業の従業員を対象としており、被用者保険のセーフティネットとしての役割を果たしています。協会けんぽの加入者数は、令和5年度末時点で約3,954万人に達しています。内訳は被保険者が約2,521万人、被扶養者が約1,433万人です。加入者の平均年齢は38.7歳であり、1人当たりの年間医療費は21.0万円となっています。加入事業所の規模は、中小企業が中心となっています。約267万事業所のうち、従業員9人以下の事業所が全体の約84%を占めています。具体的には、従業員2人以下が約56%、従業員3~4人が約14%、従業員5~9人が約14%という構成です。協会けんぽの財政状況は、近年安定的に推移しています。令和5年度の平均保険料率は10.0%であり、平成24年度(2012年度)以降維持されています。準備金残高は令和6年度時点で約5.9兆円に達しており、保険給付費等の約6.6ヵ月分に相当します。予防・健康づくりの取組の一層の強化協会けんぽは、医療費の適正化と加入者の健康保持増進を目的として、健診体系の見直しを進めています。これまでは35歳以上の被保険者を対象とした生活習慣病予防健診、40歳以上の被扶養者を対象とした特定健診を中心に保健事業を展開してきました。今回の見直しでは、20代からの健康意識の醸成と、加入者の特性に応じたきめ細かい予防・健康づくりを実現することを目指しています。見直しの背景には、若年層への早期介入の必要性があります。就労等により生活習慣が大きく変化する20代から健康意識を醸成し、加入者の自主的な健康増進と疾病予防の取組を推進することが求められています。また、医療DXのインフラを活用して健診結果を若年から経年的に保有し、ビッグデータを活用した保健事業の推進も視野に入れています。人間ドックに対する補助の実施令和8年度から、35歳以上の被保険者を対象に人間ドックへの定額補助(25,000円)を実施します。この施策は、年齢や性別による健康課題に対する健診の選択肢を拡大し、健康意識の醸成と健診実施率の向上を図ることを目的としています。人間ドック補助を実施する健診機関には、一定の要件が設けられています。全日本病院協会、日本総合健診医学会、日本人間ドック・予防医療学会/日本病院会等が実施する第三者認証を取得していることが条件となります。また、特定保健指導の実施体制を有することも求められています。若年層を対象とした健診の実施令和8年度から、20歳・25歳・30歳の被保険者を対象とした健診を新たに実施します。この健診は、就業等により生活習慣が大きく変化する若年層に対して、早期に生活習慣病対策を行うことを目的としています。検査項目は、生活習慣病予防健診の項目から胃・大腸がん検診を除いた内容となります。国の指針等を踏まえて設定されており、若年層の健康リスクに対応した検査が行われます。生活習慣病予防健診の項目等の見直し令和8年度から、生活習慣病予防健診の項目等を見直します。健康日本21(第三次)の内容を踏まえ、40歳以上の偶数年齢の女性を対象に骨粗鬆症検診を新たに実施します。検査項目や健診単価についても、見直しが行われます。協会発足以来、検査項目や健診単価の見直しは行われていませんでした。今回、国の指針やマニュアル、人件費の高騰や診療報酬改定等を踏まえ、健診の内容と費用について検証・見直しを実施します。被扶養者に対する健診の拡充令和9年度から、被扶養者に対する健診を拡充します。被保険者に対する見直し後の人間ドックや生活習慣病予防健診と同等の内容に拡充することで、被扶養者の健康管理体制を強化します。なお、現行の特定健診の枠組みは維持されます。重症化予防対策の充実令和7年度から、重症化予防対策を強化します。胸部X線検査において要精密検査・要治療と判断されながら医療機関への受診が確認できない者に対して、受診勧奨を実施します。この取組は、令和6年度に北海道・徳島・佐賀の3支部で先行的に実施されており、外部有識者の助言を得ながら進められています。メンタルヘルス対策も強化されます。事業所に対するメンタルヘルスに関するセミナーと出前講座の実施体制を整備し、働く人のこころの健康を支援します。施策実施に伴う費用見込み予防・健康づくりの取組強化に伴い、段階的に費用が増加します。令和7年度は約0.1億円程度、令和8年度は約280億円程度、令和9年度は約160億円程度の増加が見込まれています。毎年度の収支見通しの作成協会けんぽの財政運営に関して、毎年度の収支見通しの作成を明確化することが検討されています。現行制度では、2年ごとに今後5年間の被保険者数・総報酬額の見通し、給付費・保険料額等の収支見通しを作成し公表することとされています。実態として、協会けんぽは毎年収支見通しを作成しています。この収支見通しを踏まえて保険料水準の設定等を行っており、実務上は毎年度の収支見通し作成が定着しています。今回の検討では、この実行上の措置を制度として明確化することが提案されています。まとめ協会けんぽは、令和7年度から令和9年度にかけて、予防・健康づくりの取組を段階的に強化します。人間ドックへの25,000円補助、20歳・25歳・30歳を対象とした若年層健診、40歳以上の偶数年齢の女性への骨粗鬆症検診など、加入者の特性に応じたきめ細かい施策が導入されます。これらの取組により、約3,954万人の加入者の健康保持増進と医療費の適正化が期待されています。また、毎年度の収支見通し作成の明確化により、財政運営の透明性も向上する見込みです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

出産育児一時金が「現物給付」へ|第207回医療保険部会で議論された新制度の全容

Dec 16, 2025 岡大徳

令和7年12月12日、第207回社会保障審議会医療保険部会が開催され、医療保険制度における出産に対する支援の強化について議論が行われました。正常分娩の出産費用は年々上昇を続けており、現行の出産育児一時金(原則50万円、産科医療補償制度掛金1.2万円を含む)では妊婦の経済的負担をカバーしきれない状況が生じています。本稿では、この会議で議論された新制度の方向性と今後の課題について解説します。新制度の方向性については概ね一致しつつあります。現行の出産育児一時金に代えて現物給付化を行い、給付水準は全国一律とすることが基本方針です。手厚い人員体制を整備している施設やハイリスク妊婦を積極的に受け入れる施設には加算で評価します。アメニティ等のサービス費用は無償化の対象から除外し、費用の見える化を徹底することで妊婦が納得感を持ってサービスを選択できる環境を整備します。一方で、妊婦本人への現金給付の在り方や新制度への移行時期については、引き続き議論が必要とされています。出産費用の現状と課題正常分娩の出産費用は過去10年以上にわたり上昇を続けています。令和6年度の全国平均出産費用は約52万円に達しており、現行の出産育児一時金50万円を上回っています。平成24年度の約42万円から約10万円の増加となっており、妊婦の経済的負担は確実に増大しています。出産費用には大きな地域間格差が存在します。令和6年度のデータによると、最も高いのは東京都で648,309円、最も低いのは熊本県で404,411円でした。その差は約24万円に及びます。妊婦合計負担額で見ると、東京都は754,243円、熊本県は460,634円であり、約29万円の差があります。施設類型別にも費用の差が見られます。私的病院の平均出産費用は約53.7万円、公的病院は約48.4万円、診療所(助産所含む)は約52.6万円となっています。分娩時に診療報酬を算定している割合は全体の約8割に達しており、多くの出産で何らかの医療行為が行われている実態があります。新制度の基本的な方向性新制度では、保険診療以外の分娩対応を現物給付化し、全国一律の給付水準を設定します。分娩の経過は多様であることを踏まえ、特定のケースを「標準」とするのではなく、基本単価を設定して支給する方式が検討されています。軽微な医療行為などは引き続き保険診療として対応します。手厚い体制を整備している施設への加算評価が設けられます。安全な分娩のために人員体制や設備を充実させている施設、ハイリスク妊婦を積極的に受け入れる体制を整備している施設が対象となります。身体的リスクだけでなく、精神的・社会的リスクを持つ妊産婦への支援体制も評価の対象として検討されています。アメニティ等のサービス費用は無償化の対象から除外されます。お祝い膳、写真撮影、エステなどのサービスは、妊婦自身が選択できる形とし、費用の見える化を義務付けます。現状では多くの施設でこれらのサービス費用が入院料等に含まれており、妊婦が選択しにくい状況にあるため、この点の改善が図られます。今後の議論のポイント妊婦本人に対する現金給付については意見が分かれています。現行の出産育児一時金は出産に伴う一時的な経済的負担全体の軽減を目的としており、その性格を引き継ぐべきという意見がある一方、法改正により給付の性格が変更される以上、引き継ぐ必要はないとの意見もあります。出産費用が50万円を下回る場合に発生していた差額の取り扱いも論点となっています。新制度への移行時期についても議論が続いています。妊婦の自己負担が年々上昇する中、できる限り早い段階での施行を求める声がある一方、拙速な制度変更により周産期医療供給体制が崩壊することを懸念する意見もあります。妊婦が希望に応じて施設を選択できるようにした上で、可能な施設から段階的に新制度へ移行する方策が検討されています。地域の周産期医療提供体制への配慮も重要な課題です。過疎地域の小規模施設が赤字により撤退すれば、妊婦に長距離移動という身体的リスクを強いることになります。分娩件数が減少している地域であっても、施設の体制維持に係るコストが確実に賄えるような制度設計が求められています。まとめ第207回医療保険部会では、出産育児一時金の現物給付化を軸とした新制度の方向性について議論が行われました。全国一律の給付水準の設定、手厚い体制を整備した施設への加算評価、アメニティ費用の見える化という3つの柱については方向性が概ね一致しつつあります。今後は、妊婦本人への現金給付の在り方、新制度への移行時期、地域の周産期医療提供体制への配慮について、さらに議論を深めていくことが予定されています。出産を控えた妊婦にとって経済的負担の軽減は切実な課題であり、関係者の合意形成と速やかな制度構築が期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定の基本方針を解説|4つの視点と重点課題

Dec 15, 2025 岡大徳

令和7年12月9日、社会保障審議会医療保険部会および医療部会において、令和8年度診療報酬改定の基本方針が決定されました。物価高騰や賃金上昇が続く中、医療機関の経営安定と人材確保が喫緊の課題となっています。本稿では、この基本方針の全体像と具体的方向性を解説します。今回の改定は、物価や賃金、人手不足等への対応を重点課題として位置づけています。基本方針では4つの基本的視点が示されました。第一に、医療従事者の処遇改善と人材確保への取組が重点課題となります。第二に、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携が推進されます。第三に、医療DXの活用による安心・安全で質の高い医療が推進されます。第四に、効率化・適正化を通じた医療保険制度の持続可能性向上が図られます。改定に当たっての基本認識基本方針では、令和8年度診療報酬改定に当たって4つの基本認識が示されました。これらの認識は、今回の改定全体を貫く基盤となっています。第一の認識は、日本経済が新たなステージに移行しつつある中での物価・賃金の上昇と人材確保の必要性です。日本経済は30年続いたコストカット型経済から脱却しつつあります。一方で医療分野は公定価格によるサービス提供が中心であるため、経済社会情勢の変化に機動的な対応が難しく、サービス提供や人材確保に大きな影響を受けています。第二の認識は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築です。2040年頃に向けては、生産年齢人口が減少する一方、85歳以上人口が増加していきます。こうした変化に対応するため、「治す医療」と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療提供体制を構築する必要があります。第三の認識は、医療の高度化や医療DX、イノベーションの推進による安心・安全で質の高い医療の実現です。医療技術の進歩を国民に還元するとともに、ドラッグ・ラグやデバイス・ラグへの対応が求められています。第四の認識は、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保と経済・財政との調和です。国民皆保険を堅持し次世代に継承するため、現役世代の保険料負担の抑制努力を踏まえながら、効率的・効果的な医療政策を実現することが不可欠です。重点課題:物価や賃金、人手不足等への対応今回の改定では、物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応が重点課題に位置づけられました。医療機関等は厳しい経営環境に直面しており、的確な対応が急務となっています。医療機関等は現下の持続的な物価高騰により、事業収益の悪化が続いています。人件費、医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等の物件費が増加しているためです。また、全産業で賃上げ率が高水準となる中、医療分野では賃上げ水準から乖離し、人材確保が困難な状況にあります。この重点課題に対する具体的方向性は、2つの柱で構成されています。第一の柱は、医療機関等が直面する人件費や物件費の高騰を踏まえた対応です。第二の柱は、賃上げや業務効率化・負担軽減等の業務改善による医療従事者の人材確保に向けた取組です。第二の柱である人材確保に向けた取組には、5つの具体的施策が含まれています。まず、医療従事者の処遇改善です。次に、ICT・AI・IoT等の利活用による業務効率化の推進です。さらに、タスク・シェアリング/タスク・シフティングとチーム医療の推進です。加えて、医師の働き方改革の推進と診療科偏在対策です。最後に、診療報酬上求める基準の柔軟化です。2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携第二の基本的視点として、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進が掲げられました。中長期的な人口構造や医療ニーズの変化を見据えた医療提供体制の構築が求められています。この視点における具体的方向性は、8つの分野に整理されています。第一に、患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価です。地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備や、人口の少ない地域の実情を踏まえた評価が含まれます。第二に、「治し、支える医療」の実現です。在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能を担う医療機関の評価、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等の高齢者の生活を支えるケアの推進が進められます。第三に、かかりつけ医機能、かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能の評価です。第四に、外来医療の機能分化と連携として、大病院と地域のかかりつけ医機能を担う医療機関との連携が推進されます。第五に、質の高い在宅医療・訪問看護の確保です。第六に、人口・医療資源の少ない地域への支援です。第七に、医療従事者確保の制約が増す中で必要な医療機能を確保するための取組です。第八に、医師の地域偏在対策の推進です。安心・安全で質の高い医療の推進第三の基本的視点は、安心・安全で質の高い医療の推進です。患者の安心・安全を確保しつつ、医療技術の進展や疾病構造の変化等を踏まえた取組の評価が進められます。この視点における具体的方向性は、9つの分野にわたります。第一に、患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価として、身体的拘束の最小化や医療安全対策の推進が含まれます。第二に、アウトカムにも着目した評価の推進です。第三に、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価です。電子処方箋システムの利活用やオンライン診療の推進が進められます。第四に、質の高いリハビリテーションの推進として、発症早期からの介入や土日祝日の実施体制充実が図られます。第五に、重点的な対応が求められる分野への適切な評価です。救急医療、小児・周産期医療、がん医療、精神医療、難病患者への医療が対象となります。第六から第九として、感染症対策・薬剤耐性対策の推進、歯科医療の推進、薬局機能の評価、イノベーションの適切な評価等が挙げられています。効率化・適正化を通じた制度の持続可能性向上第四の基本的視点は、効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上です。医療費増大が見込まれる中、国民皆保険を維持するための不断の取組が必要とされています。この視点における具体的方向性として、7つの取組が示されました。第一に、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進です。第二に、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直しです。第三に、費用対効果評価制度の活用です。第四に、市場実勢価格を踏まえた適正な評価です。医薬品、医療機器、検査等について効率的かつ有効・安全な利用体制の確保が図られます。第五に、電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働による医薬品の適正使用等の推進です。重複投薬、ポリファーマシー、残薬への対応が含まれます。第六に、外来医療の機能分化と連携です。第七に、医療DXやICT連携を活用する体制の評価です。今後の課題と展望基本方針では、今後取り組むべき課題も示されました。持続可能な「全世代型社会保障」の実現に向けて、診療報酬制度のみならず総合的な政策が求められています。今後の課題として、5つの点が挙げられています。第一に、診療報酬制度のみならず、医療法や医療保険各法等の制度的枠組み、補助金等の予算措置を含めた総合的な政策の必要性です。第二に、持続的な物価高騰・賃金上昇局面における適時適切な報酬措置の検討です。第三に、患者にとって身近で分かりやすい医療提供体制の実現と、国民の医療保険制度に対する納得感の向上です。第四に、予防・健康づくりやセルフケアの推進、ヘルスリテラシーの向上です。住民、医療提供者、保険者、民間企業、行政等の全ての関係者が協力・連携して国民一人一人を支援することが求められています。第五に、医療DXの推進です。医療DXへの投資は業務負担の軽減や医療の質の向上につながるため、国民の健康増進と安心・安全で質の高い医療サービスの実現に向けた推進が必要です。まとめ令和8年度診療報酬改定の基本方針は、物価高騰・賃金上昇への対応を重点課題として位置づけました。医療従事者の処遇改善と人材確保への取組、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携、医療DXを活用した安心・安全で質の高い医療の推進、効率化・適正化による制度の持続可能性向上という4つの基本的視点から、具体的な方向性が示されています。今後、中央社会保険医療協議会において、この基本方針に基づいた具体的な診療報酬点数等の議論が進められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【2025年成立】医療法等改正法の3つの柱|地域医療構想・医師偏在・医療DX

Dec 14, 2025 岡大徳

令和7年12月8日、第122回社会保障審議会医療部会において、医療法等の一部を改正する法律の成立が報告されました。この改正法は、高齢化に伴う医療ニーズの変化と人口減少を見据え、地域での良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を構築することを目的としています。改正法は3つの柱で構成されています。第1の柱は、2040年頃を見据えた地域医療構想の見直しです。第2の柱は、医師偏在是正に向けた総合的な対策です。第3の柱は、医療DXの推進であり、令和12年までに電子カルテ普及率約100%の達成を目指します。施行期日は令和9年4月1日を基本とし、一部規定は段階的に施行されます。地域医療構想の見直し等地域医療構想は、病床機能に限定せず、医療提供体制全体を対象とする構想へと拡大されます。改正法では、入院・外来・在宅医療、さらに介護との連携を含む将来の医療提供体制全体の構想として位置づけられました。この見直しにより、2040年頃の医療ニーズに対応できる体制の構築が可能となります。地域医療構想調整会議の構成員として市町村が明確化されました。在宅医療や介護との連携等を議題とする場合には、市町村の参画が求められます。この変更により、地域の実情に即した議論が促進されます。医療機関機能報告制度が新設されます。報告の対象となる機能は、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能等です。この制度により、各医療機関の役割が明確化され、地域全体での機能分化が進みます。オンライン診療が医療法に定義されました。具体的には、手続規定やオンライン診療を受ける場所を提供する施設に係る規定が整備されます。衆議院の附帯決議では、過剰な規制を設けないことが求められています。美容医療を行う医療機関における定期報告義務等も新設されます。この規定は公布後2年以内に政令で定める日から施行されます。病床数削減に関する支援事業も創設されました。都道府県は、地域の実情を踏まえ、医療機関の経営安定のために緊急に病床数を削減する事業を行うことができます。参議院の附帯決議では、医療費削減ありきではなく、各地域の医療の質の確保を前提とすることが求められています。医師偏在是正に向けた総合的な対策医師偏在の是正に向けて、経済的インセンティブと規制的措置の両面から対策が講じられます。具体的には、重点区域の設定、医師手当事業の創設、外来医師過多区域への対応強化、保険医療機関管理者の要件設定の4つの措置が盛り込まれました。「重点的に医師を確保すべき区域」を都道府県知事が医療計画において定めることができるようになりました。この区域では、保険者からの拠出による医師の手当支給に関する事業が実施されます。附帯決議では、手当増額に使途を限定し、保険者が実施状況を確認・検証できる体制の確保が求められています。外来医師過多区域の無床診療所への対応が強化されます。新規開設の事前届出制が導入されるほか、要請勧告の公表や保険医療機関の指定期間の短縮等の措置が設けられます。施行後3年を目途として、効果検証を行い、必要に応じて所要の措置を講ずることとされています。保険医療機関の管理者に新たな要件が設けられます。保険医として一定年数の従事経験を持つ者であること等が要件となり、管理者としての責務も課されます。この規定は令和8年4月1日から施行されます。医療DXの推進医療DXの推進は、電子カルテ情報の共有、医療情報の二次利用、推進体制の整備の3つの施策で構成されます。政府は、令和12年12月31日までに電子カルテの普及率が約100%となることを達成するよう、先端技術の活用を含めた情報の電子化を実現しなければならないとされました。電子カルテ情報共有サービスが整備されます。必要な電子診療録等情報の医療機関での共有が可能となるほか、感染症発生届の電子カルテ情報共有サービス経由の提出も可能となります。附帯決議では、普及率が最低でも5割程度に達するまでの基盤整備期間中は、国による必要な財政支援を行うことが求められています。医療情報の二次利用が推進されます。厚生労働大臣が保有する医療・介護関係のデータベースについて、仮名化情報の利用・提供が可能となります。この規定は公布後3年以内に政令で定める日から施行されます。社会保険診療報酬支払基金が医療DXの運営母体として改組されます。名称、法人の目的、組織体制等の見直しが行われます。また、厚生労働大臣は医療DXを推進するための「医療情報化推進方針」を策定します。附帯決議では、審査支払機能を十分に果たせる人員配置と運営体制の確保が求められています。施行期日と今後の展望施行期日は規定ごとに異なります。基本となる施行日は令和9年4月1日です。オンライン診療の定義、外来医師過多区域への対応、保険医療機関管理者の要件等は令和8年4月1日から施行されます。地域医療構想の見直しに関する一部規定は令和8年10月1日から施行されます。衆参両院の附帯決議には重要な指摘が含まれています。オンライン診療については過剰な規制を設けないこと、医師手当事業については保険料負担の抑制を図ること、電子カルテ情報共有サービスについては国による財政支援を行うこと等が求められています。介護・障害福祉従事者の処遇改善についても、早急な措置を講ずることが決議されました。まとめ医療法等の一部を改正する法律は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築を目指す包括的な制度改革です。地域医療構想の見直しにより病床から医療提供体制全体への視野拡大が図られ、医師偏在是正により地域間の医療格差の解消が進められ、医療DXの推進により電子カルテ普及率100%を目指す基盤整備が行われます。医療機関の経営者や医療従事者は、段階的な施行スケジュールを踏まえ、計画的な対応準備を進めることが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【総額1兆368億円】令和7年度補正予算案「医療・介護等支援パッケージ」の全容を解説

Dec 13, 2025 岡大徳

令和7年12月8日に開催された第122回社会保障審議会医療部会において、令和7年度補正予算案が報告されました。本予算案は、物価上昇や人手不足といった医療機関の経営課題に対応し、地域に必要な医療提供体制を確保することを目的としています。本稿では、医療分野に総額1兆368億円を投じる「医療・介護等支援パッケージ」の概要を解説します。主要な支援策は6つあります。賃上げ・物価上昇対策に5,341億円、病床数適正化に3,490億円、福祉医療機構による優遇融資に804億円、施設整備促進に462億円、生産性向上に200億円、産科・小児科支援に72億円がそれぞれ計上されています。賃上げ・物価上昇に対する支援(5,341億円)最大の予算枠である5,341億円は、医療機関・薬局における処遇改善と物価上昇対策に充てられます。この支援は、救急医療を担う医療機能の特性を踏まえつつ、物価を上回る賃上げの実現を目指すものです。病院に対する基礎的支援は、1床あたり賃金分7.2万円、物価分1.3万円の計8.5万円です。有床診療所は1床あたり賃金分8.4万円、物価分11.1万円が交付されます。医科無床診療所・歯科診療所には1施設あたり賃金分15.0万円、物価分17.0万円の計32.0万円が支給されます。保険薬局への支援は、1法人あたりの店舗数に応じて傾斜配分されます。5店舗以下は1施設あたり計23.0万円、6〜19店舗は18.0万円、20店舗以上は12.0万円となっています。訪問看護ステーションには1施設あたり22.8万円が交付されます。救急医療を担う病院には、受入件数に応じた加算があります。救急車受入件数1件以上1,000件未満で500万円、1,000件以上で1,500万円、2,000件以上で3,000万円、3,000件以上で9,000万円、5,000件以上で1.5億円、7,000件以上で2億円の加算です。三次救急病院については、受入件数5,000件未満の場合は一律1億円が加算されます。手術・分娩実績に基づく加算も設けられています。全身麻酔手術件数または分娩取扱数(分娩取扱数は3を乗じた数で算定)が800件以上の病院には1施設あたり2,000万円、2,000件以上の病院には8,000万円が加算されます。ただし、この加算は救急車受入件数3,000件未満の病院が対象であり、救急加算との併給はできません。病床数の適正化に対する支援(3,490億円)二番目に大きな予算枠である3,490億円は、病床数の適正化を進める医療機関への支援に充てられます。この支援は、「病床数適正化緊急支援基金」を新たに創設して実施されます。支援対象は、医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化を進める医療機関です。交付額は、病院(一般・療養・精神)および有床診療所の病床削減に対して1床あたり約410万円です。休床の場合は1床あたり約205万円となります。削減目標として約11万床が設定されています。この内訳は、一般病床・療養病床の必要病床数を超える約5.6万床と、精神病床の基準病床数を超える約5.3万床です。令和6年度補正予算では約1.1万床分が措置済みであり、今回の予算で残りの削減を加速します。福祉医療機構による優遇融資等(804億円)804億円は、物価高騰の影響を受けた医療機関の資金繰り支援に充てられます。独立行政法人福祉医療機構による無利子・無担保等の優遇融資を実施するための体制整備費用です。この支援は、福祉医療機構に対する出資金および運営費交付金として措置されます。融資財源は別途財政融資資金から措置されます。地域の基幹的な民間病院に対しては、資本性劣後ローンを提供し、民間金融機関と連携しながら経営改善を図ることも可能です。施設整備の促進に対する支援(462億円)462億円は、物価高騰により施設整備が困難となっている医療機関への支援に充てられます。この支援により、地域医療構想の推進と救急・周産期医療体制の確保を図ります。支援対象は、医療提供体制施設整備交付金、医療施設等施設整備費、地域医療介護総合確保基金の交付対象となる新築・増改築等を行う医療機関です。交付額は「(市場価格-補助事業単価)×国負担分相当」として算出され、㎡数に応じた建築資材高騰分等が補助されます。生産性向上に対する支援(200億円)200億円は、業務効率化・職場環境改善に取り組む医療機関への支援に充てられます。医療分野の生産性向上を図り、人材確保・定着につなげることが目的です。支援対象は、「業務効率化推進委員会(仮称)」を設置し、ICT機器等の導入など業務効率化・職場環境改善に取り組む病院です。総事業費は1病院あたり1億円であり、このうち交付額の上限は8,000万円です。負担割合は国が3分の2、都道府県が3分の1となっています。生産性向上に資する取組の具体例として、スマートフォンによるカルテ閲覧・情報共有、インカム、インタラクティブ・ホワイト・ボード等の導入が挙げられています。これらにより、DX化による情報伝達の効率化を実現します。産科・小児科への支援(72億円)72億円は、出生数・患者数の減少等を踏まえた産科・小児科への支援に充てられます。地域でこどもを安心して生み育てることができる周産期医療・小児医療体制の確保が目的です。支援は4つの事業で構成されています。分娩取扱施設支援事業は、分娩数が減少している施設に対して1施設あたり580万円〜1,740万円を補助します。地域連携周産期支援事業(分娩取扱施設)は、集約化が困難な地域の施設に最大約1,125万円を補助します。地域連携周産期支援事業(産科施設)は、妊婦健診等を行い近隣施設と連携する施設の整備・設備費用を補助します。小児医療施設支援事業は、地域の小児医療拠点病院に対して小児科部門の病床1床あたり約21万円〜約105万円を補助します。まとめ令和7年度補正予算案における医療・介護等支援パッケージは、物価上昇と人材確保という医療機関が直面する二大課題に対応するものです。総額1兆368億円の予算は、賃上げ・物価対策、病床適正化、資金繰り支援、施設整備、生産性向上、産科・小児科支援の6分野に配分されます。予算成立後は速やかに実施される予定であり、各医療機関は自院の状況に応じた支援策の活用を検討することが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【200億円支援決定】医療機関のDX化推進|厚労省が示す業務効率化の新方針

Dec 12, 2025 岡大徳

2040年に向けて生産年齢人口が減少し、医療従事者の確保がますます困難になることが見込まれています。政府は令和7年6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025改訂版」において、人手不足が深刻な12業種の生産性向上が必要として「省力化投資促進プラン(医療分野)」を策定しました。この流れを受け、第122回社会保障審議会医療部会(令和7年12月8日開催)では、医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する方向性が示されました。本稿では、この方向性の内容を解説します。厚生労働省が示した方向性は、大きく2つの柱で構成されています。第1の柱は、医療機関の業務のDX化推進です。この柱には、令和7年度補正予算案200億円の計上、効果測定のためのエビデンス蓄積、診療報酬基準の柔軟化検討、機器・サービスの透明性確保と技術開発推進、支援体制の強化、病院の公的認定制度創設、医療法・健保法における責務の明確化が含まれます。第2の柱は、タスク・シフト/シェアの推進と医療従事者の養成体制確保です。この柱には、DX化と連動したタスク・シフト/シェアの推進、養成校の遠隔授業やサテライト化の活用、養成課程の柔軟化が含まれます。医療機関の業務のDX化推進厚生労働省は、業務効率化に取り組む医療機関の裾野を広げるため、国・自治体による支援と医療機関の責務明確化の両面から対応を進めます。その際、全ての医療機関が直ちにDX化に対応できるわけではないことを考慮し、現場の理解を得ながら丁寧に進めるとしています。国・自治体による支援等国・自治体による支援は、財政支援、エビデンス蓄積、診療報酬基準の柔軟化検討、機器・サービスの透明性確保と技術開発推進、支援体制の強化、認定制度の創設の6つの施策で構成されます。財政支援については、令和7年度補正予算案において200億円が計上されました。この予算は、これまでの試行的・先進的な取組への支援だけでなく、業務のDX化に取り組む多くの医療機関を支援することを目的としています。さらに、業務のDX化による効果の発現には一定の期間を要することを踏まえ、継続的な支援の在り方も検討されます。エビデンス蓄積については、統一的な基準によるデータ収集・分析が行われます。収集対象は、労働時間の変化、医療の質や安全の確保、経営状況に与える影響等です。データ収集の際には、医療機関の負担が過度なものにならないよう留意し、できるだけ簡便な形で収集できる方法が検討されます。また、医療機関の情報システムと連携できるよう、医療情報の標準化にも留意しながら進められます。診療報酬基準の柔軟化検討については、エビデンスの蓄積を行いながら進められます。医療の質や安全の確保と同時に、持続可能な医療提供体制を維持していくことが重要という視点から、業務の効率化を図る場合における診療報酬上求める基準の柔軟化が検討されます。ただし、第121回医療部会では、業務効率化を診療報酬の人員配置基準の緩和へつなげるには時期尚早との意見も出されています。機器・サービスの透明性確保と技術開発推進については、2つの取組が進められます。1つ目は、医療機関が業務効率化に資する機器やサービスの価格や機能、効果を透明性をもって把握できる仕組みの構築です。2つ目は、業務効率化に資する新たな技術開発等の推進です。支援体制の強化については、都道府県の医療勤務環境改善支援センターの体制拡充・機能強化が図られます。同センターは従来、労務管理等の支援を行ってきましたが、今後は業務効率化の助言・指導等も行うことが明確化されます。地域医療介護総合確保基金を活用した同センターへの支援もさらに促進されるとともに、国から都道府県への技術的助言が行われます。認定制度の創設については、業務効率化・職場環境改善に計画的に取り組む病院を公的に認定する仕組みが、地域医療介護総合確保法に創設されます。この認定を受けることで、医療従事者の職場定着にプラスとなり、労働市場における医療従事者の確保面でより有利になることが期待されています。認定の仕組みは透明性がある分かりやすいものとし、医療従事者の視点を入れることも検討されます。医療機関の責務の明確化医療機関の責務は、医療法と健保法の両面で明確化されます。医療法上の責務については、病院又は診療所の管理者が業務効率化に取り組むよう努める旨が明確化されます。現在、管理者は医療従事者の勤務環境の改善その他の医療従事者の確保に取り組む措置を講ずるよう努めることとなっていますが、今後はこれらに業務効率化が加わります。健保法上の責務については、保険医療機関の責務として業務効率化・勤務環境改善に取り組むよう努める旨が明確化されます。ただし、第121回医療部会では、医療機関の管理者に業務効率化の責務を付すことで医療機関に負担がかかるようなことは避けるべきとの意見も出されています。タスク・シフト/シェアの推進と養成体制確保厚生労働省は、タスク・シフト/シェアの推進、養成体制の確保、養成課程を含めた環境整備の3つの施策を進めます。タスク・シフト/シェアの推進タスク・シフト/シェアは、DX化と連動して推進されます。医療機関が業務のDX化に取り組む際には、併せてタスク・シフト/シェアの実施や業務プロセス自体の見直しを進めることが求められます。第121回医療部会では、タスク・シフト/シェアにより本来業務ではない部分で業務が停滞することのないよう、AIやロボット等によるDX化があることを明確にすべきとの意見も出されています。養成体制の確保養成体制の確保は、地域の実情に応じた対応が進められます。医療関係職種の養成校の定員充足率は近年低下傾向にあり、地域差も大きい状況です。今後は、各地域の人口減少の推移や今後の地域医療構想等を踏まえた各医療関係職種の需給状況を見通しつつ、遠隔授業の実施やサテライト化の活用などをはじめとした検討が進められます。養成課程を含めた環境整備養成課程を含めた環境整備は、3つの観点から進められます。第1の観点は、参入しやすい養成課程の整備です。医療関係職種の各資格間において現在でも可能となっている既修単位の履修免除の活用や、養成に係る修業年限の柔軟化などが検討されます。まずは課題等を把握し、各職種の状況に応じた支援の在り方が検討されます。第2の観点は、キャリア支援と環境整備です。意欲・能力やライフコースに合わせて、更なるキャリア・スキルの向上を目指す者や、育児・介護等の事情を抱えて働く者への支援が検討されます。セカンドキャリアとして働く上でのマネジメントに関するリカレント教育等の在り方についても、具体的に検討が進められます。第3の観点は、歯科関係職種の業務範囲等の検討です。歯科衛生士・歯科技工士の業務範囲や、歯科技工の場所の在り方については、現在進めているそれぞれの業務のあり方等に関する検討会において具体的に検討が進められます。まとめ第122回社会保障審議会医療部会で示された方向性は、医療機関の業務のDX化推進とタスク・シフト/シェアの推進・養成体制確保の2つの柱で構成されています。DX化推進では、200億円の補正予算、エビデンス蓄積、診療報酬基準の柔軟化検討、機器・サービスの透明性確保と技術開発推進、支援体制強化、認定制度創設、法改正による責務明確化が進められます。タスク・シフト/シェア推進・養成体制確保では、DX化と連動した推進、遠隔授業やサテライト化の活用、養成課程の柔軟化、キャリア支援が進められます。これらの施策は、「省力化投資促進プラン(医療分野)」を踏まえ、2040年に向けた医療従事者の安定的確保と質の高い効率的な医療提供体制の構築を目指すものです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

令和8年度診療報酬改定の基本方針を解説|4つの視点と重点課題

Dec 11, 2025 岡大徳

令和7年12月8日、第122回社会保障審議会医療部会において、令和8年度診療報酬改定の基本方針(案)が示されました。今回の改定は、持続的な物価高騰と賃金上昇が続く経済環境のもと、医療機関の経営安定と医療従事者の処遇改善が喫緊の課題となっています。本稿では、この基本方針の全体像と4つの改定視点について解説します。今回の基本方針の要点は次の4点です。第一に、物価・賃金・人手不足への対応が「重点課題」に位置づけられました。第二に、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進が掲げられています。第三に、医療DXやイノベーションによる安心・安全で質の高い医療の実現が示されました。第四に、効率化・適正化を通じた医療保険制度の持続可能性向上が求められています。改定に当たっての基本認識今回の基本方針では、改定の前提となる4つの基本認識が示されています。これらの認識は、日本の医療制度が直面する構造的課題を反映しています。第一の認識は、物価・賃金上昇と人材確保の課題です。日本経済は30年続いたコストカット型経済から脱却し、新たなステージに移行しつつあります。しかし医療分野は公定価格によるサービス提供が大宗を占めるため、経済情勢の変化に機動的な対応が難しい状況にあります。この結果、医療機関では全産業の賃上げ水準から乖離が生じ、人材確保が困難になっています。第二の認識は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築です。2040年頃に向けては、生産年齢人口が減少する一方、85歳以上人口は増加していきます。この人口構造の変化に対応するため、限りある医療資源を最適化しながら、「治す医療」と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化する必要があります。第三の認識は、安心・安全で質の高い医療の実現です。医療技術の進歩や高度化を国民に還元するとともに、ドラッグ/デバイス・ラグ/ロスへの対応が求められています。デジタル化された医療情報の利活用やAI・ICT等の活用による医療DXの推進も重要な課題です。第四の認識は、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保です。国民皆保険を堅持し次世代に継承するためには、経済・財政との調和を図りつつ、現役世代の保険料負担の抑制努力が必要です。重点課題:物価・賃金・人手不足への対応今回の改定では、「物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応」が重点課題に位置づけられました。この重点課題は、医療機関の経営安定と人材確保という2つの柱で構成されています。医療機関の経営状況は厳しさを増しています。持続的な物価高騰により、人件費や、医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等といった物件費が増加しています。この結果、事業収益の増加以上に事業費用が増加し、収益が悪化している状況にあります。人材確保も深刻な課題となっています。2年連続で5%を上回る賃上げ率となった春闘等により、全産業の賃上げ水準が高まる中、医療分野では収益悪化を背景に賃上げが進んでいません。この賃上げ水準の乖離が、医療従事者の確保を一層困難にしています。具体的方向性として、次の5つが示されています。第一に、物件費高騰を踏まえた対応です。第二に、医療従事者の処遇改善です。第三に、ICT・AI・IoT等の利活用による業務効率化です。第四に、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進です。第五に、医師の働き方改革の推進と診療報酬上の基準の柔軟化です。2040年を見据えた医療機関の機能分化・連携第二の視点は、2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域における医療の確保です。この視点では、地域医療構想に基づく医療提供体制の構築が中心的なテーマとなっています。入院医療については、患者の状態と必要な医療機能に応じた評価が求められています。患者のニーズ、病院の機能・特性、地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備が必要です。人口の少ない地域の実情を踏まえた評価も重要な課題です。「治し、支える医療」の実現に向けた取組も示されています。在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能を担う医療機関の評価、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等の高齢者の生活を支えるケアの推進が具体的方向性として挙げられています。外来・在宅医療に関しては、かかりつけ医機能、かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能の評価が求められています。大病院と地域のかかりつけ医機能を担う医療機関との連携による外来患者の逆紹介の推進も重要です。質の高い在宅医療・訪問看護の確保、人口・医療資源の少ない地域への支援、医師の地域偏在対策の推進も具体的方向性に含まれています。安心・安全で質の高い医療の推進第三の視点は、安心・安全で質の高い医療の推進です。この視点では、患者の安心・安全を確保しつつ、イノベーションを推進し、新たなニーズに対応できる医療の実現を目指しています。患者の安全確保に関しては、身体的拘束の最小化や医療安全対策の推進が示されています。アウトカムに着目した評価として、データを活用した診療実績による評価の推進も求められています。医療DXの推進も重要な方向性です。電子処方箋システムによる重複投薬等チェックの利活用の推進、外来・在宅医療等におけるオンライン診療の推進が具体的に挙げられています。質の高いリハビリテーションの推進も求められています。発症早期からのリハビリテーション介入の推進、土日祝日のリハビリテーション実施体制の充実が具体的方向性として示されています。重点的な対応が求められる分野として、救急医療、小児・周産期医療、がん医療・緩和ケア、精神医療、難病患者への医療が示されています。感染症対策や薬剤耐性対策の推進、歯科医療の充実、薬局・薬剤師業務の対人業務の充実化、イノベーションの評価や医薬品の安定供給確保も具体的方向性に含まれています。効率化・適正化による制度の持続可能性向上第四の視点は、効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上です。高齢化や技術進歩、高額な医薬品の開発等により医療費の増大が見込まれる中、医療資源の効率的・重点的な配分が求められています。医薬品に関する取組として、後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直しが示されています。費用対効果評価制度の活用、市場実勢価格を踏まえた適正な評価も重要な方向性です。医薬品の適正使用に向けては、電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働が求められています。重複投薬、ポリファーマシー、残薬への対応、医学的妥当性や経済性の視点を踏まえた処方の推進が具体的に挙げられています。外来医療の機能分化と連携、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制評価も再掲されています。今後の課題基本方針では、今後の課題として5つの事項が示されています。これらの課題は、診療報酬制度だけでは解決できない構造的な問題への対応を求めるものです。第一に、総合的な政策の必要性です。持続可能な「全世代型社会保障」の実現には、診療報酬制度のみならず、医療法、医療保険各法等の制度的枠組みや補助金等の予算措置を含めた総合的な対応が求められます。第二に、物価高騰・賃金上昇への適時適切な対応です。諸経費や設備投資の増加、処遇改善への支援を、保険料負担の抑制努力にも配慮しつつ、報酬措置においても適時適切に行える仕組みの検討が必要です。第三に、国民の納得感の向上です。診療報酬制度を分かりやすくする取組の継続、社会保障制度の意義に関する丁寧な説明、国民が議論の場へ参加する機会の確保が重要とされています。第四に、予防・健康づくりの推進です。住民、医療提供者、保険者、民間企業、行政等の全ての関係者が協力・連携して国民一人一人を支援することが求められています。第五に、医療DXへの投資です。医療DXは医療機関のコスト増加だけでなく、業務負担の軽減や医療の質の向上につながるものであり、国民の健康増進や地域医療連携の円滑化に寄与するとされています。まとめ令和8年度診療報酬改定の基本方針は、物価・賃金上昇への対応を重点課題に位置づけ、医療機関の経営安定と医療従事者の処遇改善を最優先としています。同時に、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築、安心・安全で質の高い医療の推進、医療保険制度の持続可能性向上という3つの視点も示されています。今後、この基本方針に基づき、中央社会保険医療協議会において具体的な点数設定等の議論が進められる見込みです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度改定】人口減少地域の医療確保と救急体制強化の方向性|中医協第631回総会

Dec 10, 2025 岡大徳

令和7年11月28日に中央社会保険医療協議会総会(第631回)が開催され、令和8年度診療報酬改定に向けた個別事項(その10)として「人口・医療資源の少ない地域」「救急医療」「業務の簡素化」の3テーマが議論されました。人口減少と医師の高齢化が進む地域での医療提供体制の維持が喫緊の課題となる中、オンライン診療の活用や医療機関間の連携強化が検討されています。今回の議論では、主に3つの方向性が示されました。第一に、医療資源の少ない地域の対象範囲を見直すとともに、小規模二次医療圏における外来診療確保のための新たな評価の検討です。第二に、救急外来における体制評価の充実と救急患者連携搬送料の運用改善です。第三に、施設基準届出のオンライン化推進と計画書等の署名省略による業務負担軽減です。人口・医療資源の少ない地域における医療提供体制人口・医療資源の少ない地域では、診療所数の減少と医師の高齢化が深刻化しています。中医協では、対象地域の見直しと小規模二次医療圏への支援強化を軸に検討が進められています。人口規模が小さい二次医療圏においては、2012年から2022年にかけて診療所数が減少傾向にあり、従事する医師の高齢化も進んでいます。全二次医療圏の人口平均値は約28.2万人、中央値は約22.3万人であり、人口密度が全国平均以下の二次医療圏は194医療圏に上ります。医療資源の少ない地域の要件については、令和5年医療施設静態調査等を用いた見直しシミュレーションが行われました。その結果、現在該当する37医療圏のうち32医療圏が引き続き該当し、7医療圏が新たに該当する一方、5医療圏が除外となります。これにより、令和8年度改定では対象が39医療圏となる見込みです。除外される医療圏の医療機関については、運営の安定性を担保する観点から、経過措置期間の延長が検討されています。小規模な二次医療圏における外来診療体制の確保に向けて、3層構造の支援イメージが示されました。第1層は過疎地域等に所在する「へき地診療所等」で、巡回診療や医師派遣、D to P with N・D to P with Dを含むオンライン診療を活用して基礎的な医療を提供します。第2層は「へき地診療所等への支援を実施する病院」で、地域の救急患者や入院患者を受け入れながら、オンライン診療を含む巡回診療や医師派遣を行います。第3層は「拠点的機能を有する病院」で、急性期の拠点機能を担いながら地域全体への医師派遣を調整します。オンライン診療の活用については、へき地医療拠点病院358施設のうち83施設が情報通信機器を用いた診療の届出を行っています。オンライン診療による巡回診療を実施した医療機関は7施設にとどまりますが、実施した巡回診療のほとんどをオンライン診療で行っている先進事例も存在します。D to P with Nは看護師の同席により検査・処置の実施や患者状況の把握が可能となる利点があり、今後の評価のあり方について議論が求められています。救急医療体制の充実と連携強化救急医療については、過去最多となった救急搬送件数への対応と、救急外来における体制評価の充実が主な検討課題となっています。令和6年中の救急自動車による救急出動件数と搬送人員は、昭和38年の集計開始以降で最多となりました。年齢区分別では高齢者の搬送が増加しており、現場到着所要時間および病院収容所要時間は新型コロナウイルス感染症発生以降大幅に延長し、令和5年においても以前の水準には戻っていません。救急患者連携搬送料については、令和6年度改定で新設されたものの、課題が指摘されています。算定患者が多い医療機関がある一方で、ほとんどの医療機関では実際に搬送・受入を行った患者数は少数にとどまっています。また、急性疾患に対する治療を終了し、必ずしも緊急自動車等による搬送が必要でない可能性のある患者が一定程度含まれていることも判明しました。総務省消防庁では、病院救急車や患者等搬送事業者の活用による転院搬送体制の整備が検討されています。救急外来応需体制に対する評価として、夜間休日救急搬送医学管理料と院内トリアージ実施料があります。夜間休日救急搬送医学管理料の算定回数は令和2年以降増加傾向にあり、令和6年には月間約15.6万回に達しています。高次の救急医療機関ほど、地域の救急医療に関する取組への参加割合や24時間検査体制を有する割合が高い傾向にあります。救急外来における体制については、専用の区画を有し、救急患者に対応できる医師・看護師・薬剤師等を配置し、24時間検体検査・画像検査・処方等を実施できる体制の評価が検討されています。現行では、救急外来従事者の配置や地域救急医療への取組参加について直接的な評価がないことから、体制の充実に向けた議論が進められています。業務の簡素化による負担軽減業務の簡素化については、診療に係る業務と届出に係る業務の2つの観点から検討が進められています。医療機関の事務負担軽減と医療従事者の働き方改革を推進する観点から、様式の見直しや電子化が主要な論点となっています。診療に係る業務で簡素化の必要性があるものについて調査を行ったところ、施設として最も多かったのは「計画書作成」(44.2%)で、次いで「DPCデータ(様式1)の作成」(38.2%)でした。病棟では「計画書作成」に次いで「患者や家族等による署名・記名押印」が多く挙げられました。入院診療計画書については、法令上は短期間で退院が見込まれる場合は作成不要とされていますが、診療報酬上は全患者に作成を求めています。規制改革推進に関する答申では、医療機関等の負担軽減の観点から、診療報酬上の書面について署名または記名・押印を不要とすることの可否検討が求められており、代替方法で担保できるものは廃止する方向で議論されています。届出に係る業務については、施設基準等届出のオンライン化が段階的に進められています。令和4年4月から開始され、令和7年度中に326件の届出についてオンライン化が実施予定であり、令和10年度の全届出オンライン化を目指して改修が進んでいます。様式9については、記載にあたって参考にすべき注意事項が多く、看護要員等の算出における小数点以下の処理方法が項目によって異なるなど、作成が煩雑であるとの指摘があります。注意事項の記載整理や小数点以下の処理の統一等の見直しが検討されています。毎年の報告様式についても、他に代替方法がないものや次期改定に必要なものに限定し、添付書類を省略するなどの簡素化が検討されています。妥結率等にかかる報告書では大部な添付書類が必要とされており、医療機関等の負担軽減が求められています。まとめ:令和8年度改定に向けた方向性令和8年度診療報酬改定に向けて、人口減少地域における医療提供体制の維持、救急医療体制の充実、医療機関の業務負担軽減の3つの方向性が示されました。人口・医療資源の少ない地域については、対象地域の見直しに加え、小規模二次医療圏における外来診療確保のための新たな評価体系の構築が検討されています。救急医療については、救急外来における体制評価の充実と救急患者連携搬送の運用改善が課題となっています。業務の簡素化については、施設基準届出のオンライン化推進と計画書等の署名省略による負担軽減が進められる見通しです。今後の中医協総会における議論の進展に注目が必要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度改定】薬局の無菌製剤処理加算とポイント付与規制の2つの論点を解説

Dec 9, 2025 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第631回)において、令和8年度診療報酬改定に向けた調剤に関する議論が行われました。今回の資料では、薬剤調製料の無菌製剤処理加算と、患者誘引につながるポイント付与・配送料無料の問題が取り上げられています。この資料では、2つの論点が示されました。第一の論点は、無菌製剤処理加算の対象年齢を6歳未満から15歳未満へ拡大するかどうかです。第二の論点は、ポイント付与や配送料無料の広告による患者誘引への対策をどう講じるかです。いずれも令和8年度改定に向けて、今後の議論が注目されます。無菌製剤処理加算の対象年齢拡大が論点に無菌製剤処理加算について、現行では6歳未満の乳幼児のみが加点対象ですが、6歳以上15歳未満の小児への拡大が検討されています。この背景には、小児に対する注射薬の調製において、年齢や体重に応じた投与量調整が必要となる実態があります。現行の無菌製剤処理加算は、乳幼児への無菌調製を評価する仕組みです。乳幼児では、乳幼児用の製剤がないことや体内動態が成人と異なることから、個々の患者に応じた無菌調製が必要となります。この調製を評価するため、通常は中心静脈栄養法用輸液で1日につき69点、抗悪性腫瘍剤で79点、麻薬で69点が加算されます。6歳未満の乳幼児の場合は、それぞれ137点、147点、137点と約2倍の点数が設定されています。しかし、医薬品の添付文書では「小児」は7歳以上15歳未満の児を指すとされています。15歳未満の患者に対する注射薬の調製においても、体重ごとに投与量調整が必要となることが多いのが実態です。たとえば、静脈経腸栄養ガイドラインによると、7〜12歳では60〜75kcal/kg/day、12〜15歳では40〜60kcal/kg/dayと、成人とは異なるエネルギー投与量が必要となります。こうした状況を踏まえ、中医協では「6歳以上の小児の薬剤調製の実情に鑑み、無菌製剤処理加算に加点する患者対象年齢の範囲について、どのように考えるか」という論点が示されました。ポイント付与と配送料無料による患者誘引が問題視患者誘引につながるポイント付与や配送料無料の問題について、中医協で対策が議論されています。調剤報酬は中医協での議論を経て公定されており、ポイントのような付加価値を付与することは医療保険制度上ふさわしくないとされています。ポイント付与については、平成29年の事務連絡で指導対象となる行為が明確化されています。指導対象となるのは、ポイントを用いて調剤一部負担金を減額すること、調剤一部負担金の1%を超えてポイントを付与すること、ポイント付与について建物外の看板やテレビCMなどで大々的に宣伝することの3つです。また、処方箋ネット受付を利用した「トンネルを通じた経済的利益の提供」も問題視されています。具体的には、処方箋受付サイトを通じて調剤を求めた患者にアンケート回答後の謝礼としてギフトカードを提供するケースです。アンケート謝礼という名目であっても、薬局が支払う手数料が原資となっている以上、患者への経済上の利益の提供にあたるおそれがあります。配送料無料の問題も同様の観点から指摘されています。令和7年度の薬局業務実態調査によると、1,133薬局のうち58薬局が患者希望により配送料無料で薬剤を配送しています。このうち22.4%がHP等で配送料無料であることを周知していました。HP等で宣伝した上で患者希望により薬剤を配送した場合、患者への経済上の利益の提供にあたるおそれがあります。薬担規則に基づく規制の枠組みこれらの患者誘引行為は、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(薬担規則)で禁止されています。薬担規則第二条の三の二では、健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、患者が自己の保険薬局において調剤を受けるように誘引してはならないと定められています。中医協委員からは、郵送料無料などの取扱いについて令和8年度改定の議論で取り上げるよう要望が出されました。患者が保険薬局を選択する際には、薬局が親切丁寧に調剤を担当し、薬剤師が調剤・薬学的管理・服薬指導の質を高めることが本旨であるべきとの考えが示されています。一方で、欠品等の薬局都合による配送については患者誘引に該当しないと考えられています。調査では、薬局都合で配送料無料としている薬局が720件あり、これはHP等での宣伝を伴っていないため問題とはされていません。まとめ令和8年度診療報酬改定に向けて、無菌製剤処理加算の対象年齢拡大と患者誘引対策の2つが論点として示されました。無菌製剤処理加算については、15歳未満の小児への投与量調整の実態を踏まえた対象年齢の見直しが検討されます。患者誘引対策については、ポイント付与や配送料無料の広告に対する規制強化の方向性が議論されています。薬局経営者は、今後の中医協での議論の動向に注視する必要があります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe

【令和8年度改定】調剤報酬の対人業務見直し3つの論点|調剤管理料・吸入指導・かかりつけ薬剤師

Dec 8, 2025 岡大徳

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第631回)において、調剤報酬における対人業務の見直しが議論されました。令和8年度診療報酬改定に向け、薬局薬剤師の対人業務を適正に評価する観点から、調剤管理料関係、服薬管理指導関係、かかりつけ薬剤師関係の3分野で論点が提示されています。今回の議論では、調剤管理料の日数による点数区分の見直し、インフルエンザ等急性疾患に対する吸入薬指導の評価、かかりつけ薬剤師指導料のノルマ問題への対応が主要な検討事項となりました。本記事では、これら3つの論点について、現状の課題と今後の方向性を解説します。調剤管理料関係:日数区分と加算の見直し調剤管理料関係では、処方日数に応じた点数区分の妥当性、調剤管理加算のポリファーマシー対策との整合性、重複投薬・相互作用等防止加算の再評価という3つの論点が示されました。調剤管理料の日数区分については、令和4年度改定で調剤料が廃止された際、対人業務を評価する薬学管理料として新設されました。現行の点数は、7日分以下が4点、8日分以上14日分以下が28点、15日分以上28日分以下が50点、29日分以上が60点と設定されています。この日数区分は、旧調剤料の激変緩和措置として引き継がれたものですが、支払側からは「基本は一律点数が望ましい」との意見が出されています。調剤管理加算については、ポリファーマシー対策に逆行する可能性が指摘されています。この加算は、複数の医療機関から6種類以上の内服薬が処方された患者に対する薬学的分析を評価するものです。令和4年度改定時にも同様の懸念が示され、初めて薬局に来た患者や処方変更の患者に限定する措置が取られました。今後、さらなる見直しが検討される見込みです。重複投薬・相互作用等防止加算については、医療DXの進展に伴う再評価が求められています。オンライン資格確認の普及により、重複投薬や禁忌薬剤の使用が機械的にチェックできる環境が整いつつあります。その一方で、検出された問題について薬学的に判断し、医師に疑義照会を行う業務は依然として薬剤師の専門的判断を要します。単なる情報収集ではなく、疑義照会の要否判断や処方変更に至った専門的業務をどう評価するかが論点となっています。服薬管理指導関係:吸入指導とフォローアップの評価服薬管理指導関係では、吸入薬指導加算の対象拡大と、調剤後フォローアップ業務の評価が論点となりました。吸入管理指導加算の対象拡大については、インフルエンザ等の急性疾患への適用が検討されています。現行の吸入管理指導加算は、喘息やCOPDなどの慢性疾患に対する吸入薬指導を評価するものです。しかし、インフルエンザ吸入薬の指導にも同程度の時間を要することが調査で明らかになりました。さらに、感染症対策として個室を整備すること、患者の目の前で実際に吸入させて服用を確認すること、薬剤師自身の曝露リスクへの対応など、急性疾患特有の負担があります。これらの労力に対する評価が現状では存在しないため、見直しが求められています。調剤後フォローアップ業務については、副作用検出率の向上効果を踏まえた評価が検討されています。調査によると、患者フォローアップ未実施の場合の副作用検出率は3.36%であるのに対し、フォローアップ実施群では5.37〜6.95%と有意に上昇しています。患者側の評価も、フォローアップを受けた患者の97.8%が「よかった」と回答しています。その理由として「服薬後の症状や体調の経過に問題ないことを確認してもらい安心できた」が最も多く挙げられました。こうしたエビデンスを踏まえ、フォローアップ業務に対する調剤報酬上の評価のあり方が議論されています。かかりつけ薬剤師関係:患者選択の確保とノルマ問題かかりつけ薬剤師関係では、かかりつけ薬剤師指導料の算定に関するノルマ問題と、患者が主体的に選択できる仕組みへの転換が論点となりました。かかりつけ薬剤師指導料のノルマ問題については、深刻な実態が明らかになっています。調査によると、業務ノルマを課している薬局の約半数で、かかりつけ薬剤師指導料の算定回数や同意件数にノルマが設けられていました。患者からは「初めて会ったような薬剤師から同意を求められた」「薬局に行くたびに同意を求められるので苦痛」といった声が寄せられています。かかりつけ薬剤師は本来、患者の意思により選択されるべきものであり、現行の仕組みが患者本位の制度設計になっていない点が問題視されています。かかりつけ薬剤師機能の推進については、「患者のための薬局ビジョン」の目標達成状況も議論されました。2025年を目標年次として全ての薬局がかかりつけ薬局となることが掲げられていましたが、「かかりつけ機能が実際に発揮されているか、対物業務から対人業務へのシフトが進んだかについては、十分に達成されたとは感じられない」との厳しい評価が示されています。かかりつけ薬剤師指導料を算定していない理由についても調査が行われました。かかりつけ薬剤師業務を実施しているにもかかわらず算定していない薬剤師のうち、「従来よりかかりつけ薬剤師指導を実施しており、患者に上乗せの料金を請求できないため」との回答が一定数ありました。制度創設前から同様の業務を行っていた薬剤師にとって、追加料金を患者に請求することへの抵抗感があることがうかがえます。まとめ:対人業務の適正評価に向けて今回の中医協総会では、薬局薬剤師の対人業務を適正に評価するための論点が整理されました。調剤管理料の日数区分の見直し、急性疾患に対する吸入薬指導の評価、フォローアップ業務の評価充実、かかりつけ薬剤師制度の患者本位への転換という4つの方向性が示されています。令和8年度診療報酬改定に向け、これらの論点について引き続き議論が進められる見込みです。薬局経営者および薬剤師の皆様におかれては、今後の議論の動向を注視しつつ、対人業務の質的向上に取り組まれることをお勧めいたします。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe