令和8年度診療報酬改定の全体像|中医協が示す4つの重点課題と改定方針
中央社会保険医療協議会(中医協)総会は令和8年1月9日、令和8年度診療報酬改定に係る「これまでの議論の整理(案)」を公表しました。この資料は、令和7年12月9日に社会保障審議会医療保険部会・医療部会でとりまとめられた「令和8年度診療報酬改定の基本方針」を踏まえて作成されたものです。今回の議論の整理では、物価高騰への対応と医療従事者の処遇改善、2040年を見据えた医療提供体制の整備、医療DXの推進、医療保険制度の持続可能性向上の4つが重点課題として示されました。具体的には、初・再診料や入院基本料等の見直し、ICT・AI活用による業務効率化、地域包括医療病棟の評価見直し、後発医薬品の使用促進などが主要な改定項目となっています。本稿では、この議論の整理の全体像を解説します。Ⅰ 物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応令和8年度診療報酬改定の第1の柱は、医療機関等が直面する物価高騰と人材確保の課題への対応です。この分野では、診療報酬による経済的支援と業務効率化の両面から施策が講じられます。物件費高騰への対応医療機関等が直面する人件費、医療材料費、食材料費、光熱水費、委託費等の高騰に対して、初・再診料等及び入院基本料等の見直しが行われます。令和8年度及び令和9年度における物件費の更なる高騰にも対応するため、医療機能を踏まえた新たな評価が導入されます。入院時の食費及び光熱水費の基準額も引き上げられ、嚥下調整食への新たな評価や特別料金の要件見直しも実施されます。医療従事者の処遇改善看護職員、病院薬剤師その他医療関係職種の賃上げを更に推進するため、賃上げに係る評価が見直されます。令和6年度改定で入院基本料や初・再診料により賃上げ原資が配分された職種についても、他の職種と同様に賃上げ措置の実効性が確保される仕組みが構築されます。看護職員の夜勤負担軽減を目的として、看護職員夜間配置加算等における負担軽減計画の立案・体制整備に関する要件も明確化されます。ICT・AI・IoT等の利活用推進業務効率化の観点から、ICT機器等を組織的に活用した場合の入院基本料等における看護職員配置基準の柔軟化が図られます。医師事務作業補助体制加算の人員配置基準も柔軟化され、診療に係る様式の簡素化や署名・記名押印の見直し、施設基準等に係る届出・報告事項の見直しも行われます。「様式9」についても、病棟における勤務時間に算入できる内容の見直しや小数点以下の処理方法の整理が実施されます。タスク・シェアリング/タスク・シフティングの推進生産年齢人口の減少に伴う医療従事者確保の制約に対応するため、重症度、医療・看護必要度の高い高齢者等が主に入棟する病棟において、看護職員や他の医療職種が協働して病棟業務を行う体制について新たな評価が行われます。医師の働き方改革と診療科偏在対策外科医師の減少等に対応するため、診療科偏在による医師数減少が課題となっている診療科の医師の勤務環境・処遇改善と、高度医療を提供する医療機関等への新たな評価が導入されます。地域医療体制確保加算の要件見直しや、処置・手術に係る休日加算1、時間外加算1、深夜加算1の要件見直しも実施されます。診療報酬上の基準の柔軟化人手不足の状況下で質の高い医療提供体制を維持するため、公共職業安定所等を活用して平時から看護職員確保の取組を行っているにもかかわらず一時的に確保できない場合の配置基準柔軟化が図られます。医療安全管理加算、感染対策向上加算、入院栄養管理体制加算における専従要件の見直しや、常勤職員の所定労働時間数の見直しも行われます。摂食嚥下機能回復体制加算の言語聴覚士専従要件や、疾患別リハビリテーション等における理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の従事可能業務範囲の拡大・明確化も実施されます。Ⅱ 2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進第2の柱は、2040年頃の医療需要を見据えた医療提供体制の整備です。入院医療、外来医療、在宅医療それぞれにおいて、機能分化と連携の強化が図られます。入院医療の評価見直し地域で病院が果たしている救急搬送受入や手術等の急性期機能に着目し、病院機能に着目した施設基準と新たな評価が導入されます。重症度、医療・看護必要度による評価方法も見直され、総合入院体制加算及び急性期充実体制加算の見直しと新たな評価が行われます。特定機能病院入院基本料の区分見直しも実施されます。特定集中治療室管理料については、救急搬送件数及び全身麻酔手術件数に関する病院実績の要件化、宿日直医師が含まれる治療室の範囲・施設基準見直し、重症度・医療・看護必要度の項目見直し、SOFAスコア要件の見直しなどが行われます。ハイケアユニット入院医療管理料、救命救急入院料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料についても同様の見直しが実施されます。地域包括医療病棟では、高齢者の中等症までの救急疾患等の幅広い受入を推進するため、平均在院日数、ADL低下割合、重症度・医療・看護必要度の基準見直しが行われます。回復期リハビリテーション病棟入院料、療養病棟入院基本料、障害者施設等入院基本料等についても、それぞれの機能に応じた評価の見直しが実施されます。DPC/PDPSについては、診断群分類点数表の改定、医療機関別係数の設定、算定ルールの見直し等が講じられます。人口の少ない地域への配慮医療資源の少ない地域に配慮した評価を適切に行うため、対象地域及び経過措置の見直しが行われます。人口の少ない地域における外来・在宅を含む医療提供機能を確保するため、地域の外来・在宅医療確保の支援を行い緊急入院患者を受け入れる体制を有する医療機関への新たな評価も導入されます。歯科巡回診療車を用いた巡回診療についても新たな評価が行われます。「治し、支える医療」の実現介護保険施設や在宅医療機関の後方支援について、協力医療機関に求めている情報共有・カンファレンスの頻度の見直しが行われます。地域包括医療病棟入院料及び地域包括ケア病棟入院料について、高齢者救急・在宅医療・介護保険施設の後方支援体制及び実績を持つ医療機関を更に評価する仕組みが導入されます。入退院支援では、関係機関との連携、生活に配慮した支援、入院前からの支援を強化するため、入退院支援加算等の評価・要件見直しが行われます。介護支援等連携指導料の要件見直しや、回復期リハビリテーション病棟入院料への高次脳機能障害患者退院支援体制要件の追加も実施されます。リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的取組を更に推進するため、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の算定要件見直しが行われます。入院患者の口腔状態への対応を推進するため、医科点数表により診療報酬を算定する保険医療機関が歯科医療機関と連携体制を構築した場合の新たな評価も導入されます。かかりつけ医機能等の評価かかりつけ医機能に係る体制整備を推進するため、機能強化加算の要件等見直しが行われます。生活習慣病管理料(Ⅰ)及び(Ⅱ)、特定疾患療養管理料、地域包括診療加算等についても、それぞれの目的に沿った要件見直しが実施されます。時間外対応加算の評価見直しも行われます。歯科分野では、歯科疾患管理料、小児口腔機能管理料、口腔機能管理料の要件・評価見直しと対象患者範囲の拡大、歯周病安定期治療及び歯周病重症化予防治療の評価体系見直しが行われます。かかりつけ薬剤師指導料及び服薬管理指導料についても評価体系の見直しが実施されます。外来医療の機能分化と連携紹介患者・逆紹介患者の割合が低い特定機能病院等を紹介状なしで受診した患者等に係る初診料及び外来診療料について、逆紹介割合基準の引き上げや対象患者の見直しが行われます。診療所又は200床未満の病院において特定機能病院等からの紹介を受けた患者に対する初診を行った場合の新たな評価や、連携強化診療情報提供料の評価体系見直しも実施されます。在宅医療・訪問看護の充実訪問看護ステーションに対して、指定訪問看護の実施に係る記録書の記載内容明確化、安全管理や適正請求に関する運営基準への新規定追加が行われます。療養担当規則には、特定の訪問看護ステーション等を利用するべき旨の指示等を行うことの対償として財産上の利益を収受することを禁止する規定が新設されます。在宅緩和ケア充実診療所・病院加算の名称変更・要件・評価見直し、往診時医療情報連携加算の要件見直し、退院直後の訪問栄養食事指導への新たな評価、連携型機能強化型在宅療養支援診療所の評価見直しなどが行われます。在宅療養支援診療所・病院の災害時診療体制確保要件の見直し、在宅時医学総合管理料等の要件見直し、医師・薬剤師同時訪問への新たな評価も導入されます。訪問歯科診療では、歯科訪問診療1の評価見直し、歯科訪問診療4・5の施設基準新設、在宅療養支援歯科病院・歯科診療所の施設基準見直しなどが行われます。在宅薬学総合体制加算、在宅患者訪問薬剤管理指導料の要件・評価見直しも実施されます。訪問看護分野では、特別地域訪問看護加算の対象要件見直し、在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料算定利用者の訪問看護回数見直し、ICTを活用した計画的管理への新たな評価、精神科訪問看護の質向上に係る機能強化型訪問看護ステーションへの新たな評価などが行われます。乳幼児加算の評価見直し、訪問看護管理療養費の評価見直し、訪問看護基本療養費(Ⅱ)等の日数・人数に応じたきめ細かな評価への見直し、高齢者住まい等併設訪問看護ステーションの包括評価体系新設も実施されます。医師の地域偏在対策改正医療法に基づき都道府県知事が行う医療提供要請に応じず保険医療機関の指定が3年以内とされた医療機関については、機能強化加算、地域包括診療加算、地域包括診療料の対象としないなど、評価の見直しが行われます。Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進第3の柱は、患者にとっての安心・安全と医療の質向上です。医療技術の評価、医療DXの推進、重点分野への対応など多岐にわたる施策が講じられます。患者の安心・安全のための体制評価治療と仕事の両立推進の観点から、療養・就労両立支援指導料の対象患者・算定期間・評価の見直しが行われます。健診等受診後の保険診療に係る初再診料等の算定方法の明確化も実施されます。手術等の医療技術については、医療技術評価分科会の検討結果を踏まえた新規技術の評価・既存技術の再評価、新規医療材料等の準用点数からの独立評価、外保連試案を参考にした外科的手術等の評価見直し、STEM7分類に基づく整形外科領域Kコードの分類見直しが行われます。ロボット手術の年間手術実績に応じた新たな評価、全身麻酔の麻酔深度・気道確保デバイス・管理体制に応じた評価見直しも実施されます。遺伝学的検査・療養指導に係る評価の要件見直し、指定難病診断に必要な遺伝学的検査の対象疾患拡大、フィブリノゲン測定への新たな評価、新規臨床検査の独立評価、骨塩定量検査の算定回数見直し、近視進行抑制医薬品処方に係る検査への新たな評価なども行われます。心不全治療による再入院予防を推進するため、急性心不全入院患者への早期多職種介入・退院後地域連携への新たな評価が導入されます。人工腎臓に関する腎代替療法情報提供・災害対策・シャントトラブル連携等への新たな評価、経皮的シャント拡張術・血栓除去術の算定要件見直し、在宅自己腹膜灌流指導管理料の算定要件見直しも実施されます。身体的拘束の最小化身体的拘束の最小化に向けた取組を更に推進するため、質の高い取組を行う場合の体制への新たな評価と、身体的拘束を行った日の入院料評価の見直しが行われます。認知症ケア加算についても評価の見直しが実施されます。医療安全対策の推進患者への安心・安全な医療提供を更に推進するため、医療安全対策加算の要件及び評価の見直しが行われます。アウトカム評価の推進回復期リハビリテーション病棟のリハビリテーション実績指数の算出方法・除外対象患者基準の見直しが行われます。入院基本料・特定入院料における平均在院日数・在宅復帰率の計算対象の明確化、短期滞在手術等基本料3算定患者の特定入院料計算からの除外、1病棟で届出可能な特定入院料種類数の明確化も実施されます。データ提出加算に係る届出を要件とする入院料の範囲拡大、外来医療のデータ提出評価見直し、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料・終夜睡眠ポリグラフィーの要件・評価見直しも行われます。医療DX・ICT連携の推進医療DX関連施策の進捗を踏まえ、診療録管理体制加算、医療情報取得加算、医療DX推進体制整備加算の評価見直しが行われます。電子処方箋システムについては、情報通信機器を用いた診療で向精神薬を処方する場合の重複投薬等チェック要件化、情報通信機器を用いた医学管理で電子処方箋を発行する場合の新たな評価が導入されます。オンライン診療では、チェックリストのウェブサイト掲示・医療広告ガイドライン遵守等の施設基準追加、D to P with Nによる診療時の看護職員訪問評価・併算定方法の明確化、D to P with Dの対象疾患見直し・入院及び訪問診療における新たな評価などが行われます。外来栄養食事指導料の情報通信機器・電話による指導の評価見直し、在宅振戦等刺激装置治療指導管理料の情報通信機器使用時の新たな評価、在宅療養指導料の要件見直し、プログラム医療機器等指導管理料の情報通信機器使用規定新設も実施されます。質の高いリハビリテーションの推進退院時リハビリテーション指導料の対象患者要件見直し、医療機関外における疾患別リハビリテーション料の上限単位数見直し、運動器リハビリテーション料等の上限緩和対象患者見直し、疾患別リハビリテーション料の訓練内容に応じた評価見直しが行われます。リハビリテーション総合計画評価料の評価見直し、リンパ浮腫複合的治療料の評価見直しも実施されます。発症早期からのリハビリテーション介入を推進するため、より早期に開始するリハビリテーションへの評価が導入されます。休日におけるリハビリテーションについても新たな評価が行われます。救急医療の充実救急医療機関における夜間休日を含めた応需体制構築と地域救急医療への取組を踏まえ、院内トリアージ実施料・夜間休日救急搬送医学管理料等の見直しと、救急外来医療を24時間提供するための人員・設備・検査体制等に応じた新たな評価が行われます。救急患者連携搬送料の要件・評価見直しも実施されます。小児・周産期医療の充実母体・胎児集中治療室管理料の要件見直し、新生児特定集中治療室管理料2の低出生体重児新規入院患者数基準見直し、難病外来指導管理料の要件見直し、小児入院医療管理料等・小児科外来診療料の見直しが行われます。分娩件数減少に伴う産科における管理や妊娠・産後を含む継続ケア体制への新たな評価、無菌製剤処理加算の評価対象見直しも実施されます。がん医療・緩和ケアの評価外来腫瘍化学療法診療料の要件見直しと皮下注射実施時の評価、がんゲノムプロファイリング評価提供料・検査の要件・評価見直し、がん診療連携拠点病院等における遠隔医師との放射線治療計画共同作成要件の見直しが行われます。がん患者指導管理料の算定要件見直し、遺伝性乳癌卵巣癌症候群患者へのBRCA1/2遺伝子検査要件見直し、無菌製剤処理料の閉鎖式接続器具使用時の新たな評価も実施されます。緩和ケアについては、末期呼吸器疾患患者及び終末期腎不全患者を対象に加え、緩和ケア病棟入院料の包括範囲見直しが行われます。精神医療の評価急性期等入院料における精神保健福祉士・作業療法士・公認心理師の病棟配置への新たな評価、小規模医療機関等が質の高い入院医療・外来医療・障害福祉サービス等を一体的に提供する場合の新たな評価が導入されます。精神科リエゾンチーム加算の要件・評価見直し、慢性身体合併症への精神科以外医師による診療体制への新たな評価、維持透析を必要とする精神病床入院患者への包括範囲見直しなども行われます。精神科救急医療体制加算の要件・評価見直し、精神科救急急性期医療入院料等の医療保護入院等割合要件の見直し、長期入院患者に対する評価見直し、通院・在宅精神療法の要件・評価見直し、精神保健福祉士の専従配置要件見直しなどが実施されます。心理支援加算、認知療法・認知行動療法の要件・評価見直し、臨床心理技術者に係る経過措置見直し、児童思春期支援指導加算・早期診療体制充実加算の要件・評価見直し、情報通信機器を用いた精神療法の要件見直しも行われます。難病患者等への対応脳死臓器提供管理料の評価見直し、臓器採取術・臓器移植術への新たな評価、臍帯血移植の評価見直し、抗HLA抗体スクリーニング検査の対象患者見直しが行われます。感染症対策・薬剤耐性対策抗菌薬適正使用推進のため、薬剤感受性検査の要件見直しと一部感染症検査の要件見直しが行われます。感染対策向上加算1について、微生物学的検査室を有する医療機関への新たな評価が導入されます。結核病棟のユニット化病床・モデル病床等における重症度、医療・看護必要度等の対象患者範囲見直し、特定感染症入院医療管理加算・特定感染症患者療養環境特別加算の対象疾病範囲見直しも実施されます。歯科医療の推進障害者歯科治療を専門に担う歯科医療機関が歯科医学的管理を行った場合の新たな評価、新製有床義歯管理料の算定単位・要件見直し、小児保隙装置の調整・修理・製作への新たな評価が行われます。歯科矯正治療の対象患者への連続3歯以上先天性欠損歯患者の追加、周術期等口腔機能管理計画策定料等の評価見直しなども実施されます。歯科衛生士による実地指導推進のため口腔機能指導加算の評価体系・要件見直し、歯科技工士連携加算の評価範囲・施設基準見直し、CAD/CAMインレー・CAD/CAM冠の要件見直し、光学印象への新たな評価、3次元プリント有床義歯への新たな評価などが行われます。薬局機能に応じた評価保険薬局が立地に依存する構造から脱却し薬剤師の職能発揮を促進するため、調剤基本料の見直しが行われます。特別調剤基本料Aの対象薬局要件見直し、地域支援体制加算の要件見直し、調剤管理料の見直し、重複投薬・相互作用等防止加算等の見直しも実施されます。吸入薬管理指導加算の要件・評価見直し、服用薬剤調整支援料の要件・評価見直し、類似する算定項目の統合による調剤報酬の簡素化も行われます。イノベーション評価・安定供給確保医薬品・医療機器等のイノベーションの適切な評価や安定供給確保等のため、「令和8年度薬価制度改革の骨子」「令和8年度保険医療材料制度改革の骨子」に基づく対応が行われます。Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上第4の柱は、医療保険制度の持続可能性向上です。後発医薬品の使用促進、費用対効果評価の活用、医薬品の適正使用などの施策が講じられます。後発医薬品・バイオ後続品の使用促進後発医薬品の使用促進等のため、処方等に係る評価体系の見直しが行われます。バイオ後続品使用体制加算の要件見直し、医薬品の安定供給に資する体制への新たな評価、薬局におけるバイオ後続品の調剤体制整備・患者説明への新たな評価が導入されます。長期収載品の選定療養について、後発医薬品の供給状況や患者負担の変化に配慮しつつ、患者負担の見直しが行われます。費用対効果評価制度の活用「令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子」に基づく対応が行われます。市場実勢価格を踏まえた適正な評価「令和8年度薬価制度改革の骨子」「令和8年度保険医療材料制度改革の骨子」に基づく対応が行われます。衛生検査所検査料金調査による実勢価格等を踏まえ、検体検査の実施料等の評価見直しも実施されます。医薬品の適正使用等の推進ポリファーマシー対策が途切れることを防止するため、病院薬剤師による施設間の薬剤情報連携が促進されるよう薬剤総合評価調整加算の要件・評価見直しが行われます。病棟薬剤業務実施加算について、薬剤総合評価調整や退院時薬剤情報管理指導の実績に応じた評価への見直しも実施されます。患家に残薬がある場合の保険医療機関・保険薬局連携による処方内容調整のため、処方箋様式の見直しが行われます。長期処方及びリフィル処方箋による処方を適切に推進するため、医学管理料の要件見直しと処方箋様式の見直しが実施されます。保険給付の適正化のため、栄養保持を目的とした医薬品の保険給付要件の見直しも行われます。まとめ令和8年度診療報酬改定の議論の整理は、医療機関等を取りまく環境変化への対応、2040年を見据えた医療提供体制の整備、安心・安全で質の高い医療の推進、医療保険制度の持続可能性向上の4つの柱で構成されています。物価高騰への対応として初・再診料等及び入院基本料等の見直しが行われ、医療従事者の処遇改善とICT・AI活用による業務効率化が推進されます。2040年に向けては、入院医療の機能分化、かかりつけ医機能の強化、在宅医療・訪問看護の充実が図られます。医療の質向上では、医療DXの推進、リハビリテーションの充実、重点分野への対応が進められます。医療保険制度の持続可能性向上のため、後発医薬品の使用促進や医薬品の適正使用が推進されます。今後、中央社会保険医療協議会における議論を経て、必要な変更が加えられることとなります。医療機関の経営者や実務担当者は、今回示された方向性を踏まえ、自院の体制整備に向けた準備を進めることが重要です。 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近視進行抑制薬が薬事承認|処方時の検査評価を中医協が検討
令和8年1月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、近視進行抑制薬の処方に係る検査の評価が議題となりました。令和6年12月に薬事承認された「近視の進行抑制」を効能・効果とするアトロピン硫酸塩水和物(リジュセアミニ点眼液)について、処方時に必要な検査の診療報酬上の取り扱いが検討されています。中医協では、関係学会のガイドラインを踏まえた検査評価の在り方が論点として示されました。近視進行抑制薬による治療開始時および治療中には屈折検査等の実施が推奨されており、これらの検査に対する適切な評価が求められています。本稿では、近視進行抑制薬の概要、学会指針に基づく検査手順、そして今後の診療報酬上の対応について解説します。近視進行抑制薬の概要と選定療養への追加令和6年12月27日、「近視の進行抑制」を効能・効果とする医薬品が薬事承認されました。この医薬品は一般名をアトロピン硫酸塩水和物といい、販売名は「リジュセアミニ点眼液0.025%」です。用法・用量は1回1滴、1日1回就寝前の点眼となっています。この薬剤の有効性は国内第Ⅱ/Ⅲ相試験で確認されています。試験では5歳から15歳の近視患者299例を対象に、無作為化二重遮蔽並行群間比較が実施されました。投与24ヵ月後における調節麻痺下の他覚的等価球面度数の変化量について、本剤群はプラセボ群と比較して統計学的に有意な差が認められ、優越性が検証されました。本剤群の変化量は-1.006D、プラセボ群は-1.643Dであり、群間差は0.637D(p
【令和8年1月】選定療養の4つの見直しポイント|近視治療薬から長期収載品まで
令和8年1月9日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集の結果への対応方針が示されました。この対応方針は、令和7年9月に報告された343件の意見を踏まえたものです。本稿では、医療機関の実務に影響を与える見直し内容を解説します。今回の見直しは4つの分野に及びます。第一に、近視進行抑制薬が新たに選定療養に追加されます。第二に、時間外の指導管理や調剤、リハビリテーションの回数制限に関して、既存の選定療養の対象範囲が拡大されます。第三に、予約システム利用料やキャンセル料など、療養の給付と直接関係ないサービス等が明確化されます。第四に、長期収載品の患者負担が価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられます。近視進行抑制薬が選定療養に新規追加令和6年12月に薬事承認されたアトロピン硫酸塩水和物が、選定療養の対象として追加されます。この医薬品は近視の進行抑制を効能・効果としていますが、薬価収載はされていません。背景には、小中学生の近視増加があります。裸眼視力1.0未満の小中学生の割合は年々増加しており、近視の進行抑制に対する患者ニーズは高まっています。選定療養への追加により、保険診療との併用が可能になります。例えば、コンタクトレンズの処方目的で受診した患者が、アトロピン硫酸塩水和物の処方も希望した場合を考えます。従来は、コンタクトレンズ処方のための検査が保険診療である一方、近視進行抑制薬の処方は保険外診療であり、療養担当規則に抵触するおそれがありました。選定療養に追加されることで、この問題が解消され、患者は近視に係る治療を円滑に受けられるようになります。既存の選定療養の対象範囲が拡大既存の選定療養について、2つの類型で対象範囲が拡大されます。時間外の指導管理・調剤が対象に追加「保険医療機関が表示する診療時間以外の時間における診察」の対象が拡大されます。具体的には、医師の診察と別日に実施される時間外の指導管理が追加されます。対象となる指導管理は、外来栄養食事指導料、心理支援加算、がん患者指導管理料、乳腺炎重症化予防ケア・指導料などです。また、緊急性のない保険薬局の開店時間外における調剤も追加されます。この見直しの背景には、国民の生活時間帯の多様化があります。緊急性のない患者都合による時間外の指導管理や調剤には一定のニーズがある一方で、診療時間内の受診・調剤を働きかけることで、医療関係職種の負担軽減と医療の質向上が期待されます。ただし、緊急やむを得ない事情による時間外の指導管理・調剤については、現行の時間外診察と同様に、特別の料金徴収は認められません。リハビリテーションの回数超過が対象に追加「医科点数表等に規定する回数を超えて受けた診療」の対象に、摂食機能療法とリンパ浮腫複合的治療料が追加されます。現行では、疾患別リハビリテーションについて、患者の治療意欲を高める必要がある場合に、規定回数を超えた診療への特別料金徴収が認められています。今回の見直しにより、疾患別リハビリテーション以外のリハビリテーションについても、一定の患者ニーズに応えることが可能となり、患者の治療意欲向上が期待されます。療養の給付と直接関係ないサービス等が明確化療養の給付と直接関係ないサービス等として、4つの項目が追加・明確化されます。なお、費用徴収に当たっては、患者への明確かつ懇切な説明と同意確認が必要であり、徴収費用は社会的に妥当適切なものとすることが求められています。予約・オンライン診療のシステム利用料予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料が明確化されます。システムの利用により、患者は医療機関の診療時間に関係なく診療予約が可能となり、通院負担の軽減など利便性が向上します。予約キャンセル料予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料が認められます。対象となるのは、診察日の直前にキャンセルした場合に限定されます。また、傷病が治癒したことによるキャンセルは対象外です。これは、疾病治癒時のキャンセル料徴収を可能とすると、不要な診療を惹起するおそれがあるためです。予約診察では患者ごとに適切な診療体制が確保されており、キャンセルに伴う医療機関の機会損失に対応する措置となります。Wi-Fi利用料Wi-Fi利用料について、既存の「インターネットの利用」と同様の取扱いであることが明確化されます。在留外国人の多言語対応費用在留外国人の診療に当たり必要となる多言語対応費用が追加されます。対象となる費用は、通訳の手配料や翻訳機の使用料などです。在留外国人が増加する中、言語の問題で診療に多くの人員・時間を要することがあります。在留外国人が診療内容を的確に理解し、納得した上で医療を受けられる環境整備を目的としています。薬剤自己負担の在り方も見直し今回の意見募集では、薬剤自己負担の在り方に関する意見も寄せられました。令和8年度予算編成過程を踏まえ、以下の対応方針が示されています。長期収載品の患者負担が引き上げ長期収載品の選定療養について、患者負担の水準が価格差の4分の1相当から2分の1相当へ引き上げられます。この見直しは、後発医薬品の供給状況や患者負担の変化にも配慮しつつ、創薬イノベーションの推進と後発医薬品の更なる使用促進を目的としています。バイオ後続品は継続検討バイオ後続品のある先行バイオ医薬品については、中医協においてバイオ医薬品に係る一般名処方のルール整備や、医療機関・薬局における備蓄等の体制評価について議論が進められています。社会保障審議会医療保険部会においても引き続き検討するとされており、必要に応じて中医協でも議論される予定です。OTC類似薬は新たな仕組みを創設OTC類似薬の薬剤自己負担については、選定療養への追加ではなく、別途の保険外負担(特別の料金)を求める新たな仕組みが創設されます。令和7年12月24日の大臣折衝事項において、令和8年度中(令和9年3月)に実施することが示されました。対象となるのは、OTC医薬品の対応する症状に適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品のうち、他の被保険者の保険料負担により給付する必要性が低いと考えられるものです。まずは77成分(約1,100品目)を対象とし、薬剤費の4分の1に特別の料金が設定されます。引き続き議論の状況を注視しつつ、必要に応じて中医協でも議論される予定です。まとめ今回の中医協総会では、選定療養に関する4分野の見直し方針が示されました。近視進行抑制薬の新規追加、時間外指導管理・調剤とリハビリ回数超過への対象拡大、システム利用料等の明確化、そして長期収載品の患者負担引き上げです。医療機関においては、これらの見直しに対応した体制整備と患者への説明準備が求められます。特に、選定療養に係る費用徴収に当たっては、サービス内容や料金等について患者に明確かつ懇切に説明し、同意を確認することが重要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定における物価対応の全体像:外来・入院別の配分方法を解説
令和8年1月9日に開催された中央社会保険医療協議会 総会(第640回)において、診療報酬改定における物価対応の具体的な配分方法が示されました。本稿では、大臣折衝で決定された物価対応分+0.76%の配分について、外来・入院それぞれの対応方法と、施設類型ごとの配分の考え方を解説します。今回の改定では、物価対応分+0.76%と緊急対応分+0.44%の2つの枠組みで対応が行われます。物価対応分+0.76%の内訳は、令和8年度以降の物価上昇への対応(+0.62%)と高度医療機能を担う病院への特例的対応(+0.14%)です。これに加えて、令和6年度改定以降の経営環境悪化を踏まえた緊急対応分として+0.44%が別途措置されます。外来診療では初・再診料とは別に物価上昇に関する評価を新設し、入院診療では令和元年の消費税補填の手法を参考に入院料ごとの物件費率等をもとに配分額を算出する方針です。大臣折衝で決定された物価対応の枠組み令和7年12月24日の大臣折衝において、令和8年度診療報酬改定の物価対応に関する基本的な枠組みが決定されました。物価対応分として+0.76%(令和8年度+0.55%、令和9年度+0.97%の2年度平均)が設定され、診療報酬に特別な項目を設定することで対応する方針が示されています。令和8年度以降の物価上昇への対応には+0.62%が充てられます。この財源は施設類型ごとの費用関係データに基づき、病院+0.49%、医科診療所+0.10%、歯科診療所+0.02%、保険薬局+0.01%と配分されます。病院の中でも、担う医療機能に応じた配分を行うこととされています。高度医療機能を担う病院への特例的対応として+0.14%が措置されます。大学病院を含むこれらの病院は、医療技術の高度化等の進展の影響を先行的に受けやすい特性があります。汎用性が低く価格競争原理の働きにくい医療機器等を調達する必要性から、物価高の影響を受けやすいことが考慮されました。令和6年度改定以降の経営環境悪化を踏まえた緊急対応分として+0.44%が配分されます。配分に当たっては、令和7年度補正予算の効果を減じることのないよう、施設類型ごとのメリハリを維持することとされています。具体的には、病院+0.40%、医科診療所+0.02%、歯科診療所+0.01%、保険薬局+0.01%の配分となります。外来診療における物価上昇対応の方法外来診療に関する物価上昇への対応について、中医協総会では大臣折衝における考え方を踏まえた具体的な方法が提案されました。対応方法は、物価上昇の時期によって2つに区分されています。令和8年度以降の物価上昇への対応については、初・再診料等とは別に物価上昇に関する評価を新設する方針です。この評価は、初・再診時等に算定できる独立した項目として設定されます。段階的に対応する必要があることを踏まえ、令和8年度に設定された評価は令和9年度には2倍となることが想定されています。初・再診料に加え、訪問診療料や初・再診料の評価が包括される診療報酬項目も対象に含まれます。令和6年度診療報酬改定以降の経営環境悪化への対応分については、令和8年度改定時に初・再診料等の評価に含める方式が採用されます。これは、令和7年度補正予算による物価上昇支援を診療報酬に置き換えるものです。評価の水準については、医科診療所・歯科診療所の改定率を踏まえて設定されます。こうした2段階の対応方式により、物価上昇の性質に応じた適切な評価が可能となります。令和8年度以降の物価上昇は継続的な対応が必要であるため独立した評価項目を設定し、経営環境悪化への対応は基本診療料への組み込みで恒久的な措置とする考え方です。入院診療における物価上昇対応の方法入院診療に関する物価上昇への対応についても、外来と同様に2段階の対応方式が提案されています。入院料等(入院基本料、特定入院料及び短期滞在手術等基本料3)の算定時に算定可能な評価を設定する方針です。令和8年度以降の物価上昇への対応については、入院料等とは別に物価上昇に関する評価を設定します。この評価は外来における物価上昇対応と同様に段階的な対応が行われ、令和8年度の評価は令和9年度には2倍となることが想定されています。評価の水準は、病院の改定率(入院・外来を含む)から外来診療における物価上昇対応の評価を差し引いた規模となるよう調整されます。令和6年度改定以降の経営環境悪化への対応分については、令和8年度改定時に入院料等の評価に含める方式が採用されます。配分の算出に当たっては、令和元年の消費税補填における対応が参考にされます。グループ分けした入院料毎の物件費率等をもとに、入院料毎の1人1日の入院診療報酬に占める物件費を算出して上乗せする評価を設定することが検討されています。高度医療機能を担う病院への特例的な対応分については、その趣旨に沿ってそうした機能を担う病院への評価に上乗せする方針です。今後の関係調査において実績等を検証し、所要の対応を図ることとされています。病院における外来物価上昇対応の補正病院・有床診療所の外来における物価上昇分への対応については、診療所とのコスト構造の違いを考慮した補正が行われます。外来における物価上昇分の評価は診療所と同一の初再診時の評価が適用されますが、病院における外来は診療所とコスト構造が異なるため、実際の物価上昇分と一致しないことが想定されます。初再診時の評価での対応で不足する外来における物価上昇分については、入院時の評価に当たって補正する方式が提案されています。具体的には、病院における実際の物価上昇分から外来の物価上昇に関する評価を差し引き、その差額を入院時の評価に含める形となります。逆に、初再診時の評価が外来で対応すべき物価上昇分より大きい場合には、入院時に対応すべき物価上昇分から差し引いて入院時の評価を算出することとなります。このような補正により、病院全体として適切な物価上昇対応が実現されます。入院料への配分方法と令和7年度補正予算との整合性令和6年度改定以降の経営状況悪化に対する対応については、令和7年度補正予算による支援の考え方を踏まえた配分方法が採用されます。大臣折衝において、補正予算の効果を減じることのないよう施設類型ごとのメリハリを維持することが明記されています。回復期、精神、慢性期については、入院1日当たり定額を配分する方式が採用されます。これは補正予算における1床あたりでの支援の考え方を踏襲したものです。入院料の種類にかかわらず一律の配分となるため、簡潔な仕組みとなります。急性期については、財源を一体化した上で3つの類型に配分する方式が採用されます。第1類型は特定機能病院の急性期病床、第2類型は急性期病院の急性期病床、第3類型はその他の病院の急性期病床です。各類型への配分額は補正予算の配分額に応じて算出され、さらに入院料ごとの物件費等の額に応じて配分額が決定されます。補正予算では救急加算として救急搬送件数に応じた支援が行われていました。診療報酬においてもこの考え方を踏まえた対応が検討されており、精神科病院への救急搬送件数に応じた必要な対応についても検討が進められています。まとめ令和8年度診療報酬改定における物価対応は、大臣折衝で決定された+0.76%の物価対応分と+0.44%の緊急対応分を、外来・入院それぞれの特性に応じて配分する方針です。外来では初・再診料とは別に物価上昇に関する評価を新設し、入院では令和元年の消費税補填の手法を参考に入院料ごとの物件費率等をもとに配分額を算出します。病院については外来と入院で一体的に補正を行い、補正予算の効果を維持しつつ施設類型ごとのメリハリある配分が実現されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|支払側・診療側の意見を徹底解説
中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、令和8年度診療報酬改定に向けた支払側(1号委員)と診療側(2号委員)の意見書が提出されました。本稿では、両者の意見を整理し、今回の改定における論点を解説します。物価高騰・賃上げへの対応、入院医療の機能分化、かかりつけ医機能の強化が共通の重要テーマとなっています。両者は「物価・賃上げへの確実な対応」と「医療DXの推進」で方向性が一致しています。一方、支払側が「適正化・効率化」を重視するのに対し、診療側は「基本診療料の引上げ」を強く求めており、財源配分の優先順位に違いがみられます。以下、医科・歯科・調剤の各分野について、両者の主張を対比しながら解説します。基本的考え方|両者の共通認識と相違点支払側と診療側は、現下の経済状況への対応について共通の認識を持っています。両者とも物価高騰と賃上げへの対応を重点課題と位置づけ、医療従事者の処遇改善が不可欠であると主張しています。支払側は「国民皆保険制度と医療提供体制の持続可能性の両立」を基本方針に掲げています。具体的には、外来受診の適正化、残薬対策、短時間・頻回な訪問看護の是正、門前薬局や敷地内薬局の合理化を通じた適正化の徹底が不可欠と主張しています。2040年頃を見据えた医療提供体制の再構築も意識し、メリハリのある診療報酬により政策課題の解決に取り組むべきとしています。診療側は「国民皆保険という財産を守り抜き、次世代へつなぐ」ことを基本理念としています。急激な物価高騰の中、診療報酬改定が追いついておらず、医療機関の経営状況が著しくひっ迫していると訴えています。診療報酬は国民にとって安心・安全で質の高い医療を提供するための原資であり、賃金や物価の動向が適切かつ十分に反映されるべきと主張しています。入院医療|機能分化と評価体系の見直し入院医療については、機能分化・連携の推進という方向性で両者は一致しています。ただし、具体的な施策の優先順位や評価の考え方には違いがあります。支払側は、病院機能を重視した評価体系への見直しを提案しています。全身麻酔手術と救急搬送受入れの実績を主な指標として、これまで以上に病院機能を重視した評価体系に見直すことで、病院の再編・統合につなげるべきとしています。急性期一般入院料1については、救急搬送受入れと全身麻酔手術の基準を導入し、実績に応じて評価を細分化すべきと主張しています。診療側は、医療機関の運営継続を可能とする評価体系を求めています。重症度、医療・看護必要度については、改定のたびに評価項目を変更すること自体が医療現場にとって大きな負担となっており、今改定での大幅な見直しは避けるべきと主張しています。各医療機関が地域の医療提供体制も踏まえながら、時間をかけて対応できる仕組みを求めています。地域包括医療病棟については、両者とも高齢者救急への対応強化を認めています。支払側は令和6年度改定で新設したコンセプトを損なう見直しは行うべきでないとしつつ、内科系疾患の評価見直しは合理的と述べています。診療側は施設基準が全般的に厳しく、要件緩和を求めています。外来医療|かかりつけ医機能と管理料の評価外来医療では、かかりつけ医機能の強化について両者の方向性は一致しています。ただし、既存の管理料の評価については見解が分かれています。支払側は、かかりつけ医機能報告制度と整合的な評価体系への移行を提案しています。機能強化加算について、現行の地域包括診療料等と紐づいた仕組みから離れ、かかりつけ医機能報告制度と整合的な仕組みへと発展的に組み替えるべきとしています。生活習慣病管理料については、診療実績に基づく適正化や、継続受診率が低い場合の減算導入を求めています。外来管理加算については、再診料に含まれる当然の行為であり、加算としての評価を廃止すべきと主張しています。診療側は、かかりつけ医機能の評価に係る点数の重要性を強調しています。外来管理加算や特定疾患療養管理料等は、質の高い生活習慣病の治療・管理に貢献してきた経緯があり、これまでの運用を軽視するような見直しはすべきでないと主張しています。かかりつけ医は患者が自由に選択できるものであり、フリーアクセスを阻害するような評価とならないよう注意が必要としています。歯科医療|口腔機能管理とデジタル化歯科医療については、口腔機能管理の充実と歯科治療のデジタル化推進で両者は共通しています。支払側は、ライフステージに応じた口腔機能管理の評価を支持しています。高齢者の口腔機能低下症や小児の口腔機能発達不全症について、学会の診断基準に基づく対象範囲の拡大は合理的としています。歯科疾患管理料については、初診減算の廃止と合わせて再診時の評価を適正化すべきと主張しています。光学印象やCAD/CAM冠の活用拡大など、歯科治療のデジタル化推進も求めています。診療側は、初診料・再診料の大幅引上げを最優先課題としています。昨今の急激な物価上昇により歯科医療機関の経営状況は悪化しており、ホスピタルフィーである初診料・再診料での評価拡充が不可欠と訴えています。歯科衛生士等の給与水準は一般病院の医療技術員よりも低く、処遇改善が急務としています。歯科用貴金属材料を用いないデジタル技術の適用拡大は喫緊の課題と認識しています。調剤|薬局機能と医薬品供給体制調剤については、かかりつけ薬剤師機能の強化という方向性で一致していますが、薬局の立地や経営効率に関する評価では見解が分かれています。支払側は、門前薬局・敷地内薬局の適正化を強く求めています。敷地内薬局の定義を厳格化し、医療モールを含めて特別な関係にある場合には全て特別調剤基本料Aを適用することを原則とすべきとしています。後発医薬品調剤体制加算は廃止して減算の仕組みに移行し、後発医薬品の数量割合の維持は地域支援体制加算の基準として位置付けることも提案しています。かかりつけ薬剤師指導料・包括管理料は廃止し、実施した業務の内容を評価すべきとしています。診療側は、薬局の経営基盤強化を優先課題としています。物価高騰・賃上げ等の影響により薬局の経営は年々厳しさを増しており、医薬品の仕入価高騰や「逆ザヤ」品目の急増により経営状況は極めて逼迫していると訴えています。調剤基本料とその加算による医薬品供給拠点としての機能評価の充実を求めています。かかりつけ機能を活用した薬学管理指導の評価充実も重要としています。在宅医療|訪問看護と多職種連携在宅医療については、ニーズ増加への対応と適切な評価の両立が課題となっています。支払側は、短時間・頻回な訪問看護の適正化を重点課題としています。高齢者住宅等に隣接する訪問看護ステーションにおいて、短時間の訪問看護が頻回に続けて提供され医療費が高額化している実態があるため、一連の訪問看護を包括評価する仕組みを導入すべきとしています。精神科訪問看護についても、機能強化型3の訪問看護ステーションによる対応を推進すべきと主張しています。診療側は、在宅医療の評価充実を求めています。機能強化型在宅療養支援診療所における病床の有無による点数格差の是正や、下り搬送を受け入れた側の医療機関への評価を提案しています。多様で複雑な疾患をもつ患者が増加しており、在宅医療のさらなる推進のためには月に複数回の訪問診療料の算定を可能とすべきとしています。賃上げ・物価対応|確実な処遇改善に向けて賃上げと物価上昇への対応については、両者とも確実な対応を求める点で一致しています。支払側は、検証可能な仕組みの創設を求めています。看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料は幅広い職種を対象とし、統合した分かりやすい報酬体系とすることを提案しています。月額給与の引上げに伴い賞与を減額する等の不適切な運用が生じないよう、正当な処遇改善を担保する要件設定も必要としています。物価上昇への対応については、医療機関の機能等により影響が異なることを踏まえ、費用構造の違いを反映した手当てとすべきとしています。診療側は、基本診療料を中心とした上乗せを求めています。ベースアップ評価料は対象職種が限定されている等の課題があり、基本診療料への上乗せで対応すべきとしています。春闘賃上げ2年連続5%超えに比べて診療報酬改定によるベースアップ評価料は低い水準に留まっており、医療機関に従事するすべての職員を対象とした適切な評価の見直しを求めています。まとめ|令和8年度改定の焦点令和8年度診療報酬改定において、支払側と診療側は「物価・賃上げへの対応」「医療DXの推進」「かかりつけ機能の強化」で方向性が一致しています。一方、具体的な財源配分については、支払側が「適正化・効率化によるメリハリある評価」を重視するのに対し、診療側は「基本診療料の引上げによる経営基盤の安定」を優先しており、調整が必要な状況です。今後の中医協における議論では、医療機関の経営実態と医療費の適正化をどうバランスさせるかが焦点となります。特に入院医療の機能分化、外来管理料の見直し、調剤報酬の体系整理については、両者の主張に隔たりがあり、具体的な点数設定に向けた詰めの議論が注目されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|診療側委員が示す7つの基本方針と具体的要望を解説
中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度診療報酬改定に対する二号(診療側)委員の意見が提出されました。この意見書は、医科・歯科・調剤の3分野にわたり、物価高騰・賃上げへの対応を最重点課題として位置づけています。診療側委員は、医療機関の経営がひっ迫する現状を踏まえ、診療報酬の適切な引上げと制度の簡素化を強く求めています。本稿では、令和7年12月26日に提出された二号委員意見の内容を解説します。意見書は、医科において7つの基本方針と12の具体的検討事項を示しています。歯科は4つの基本方針と23の具体的検討事項、調剤は保険薬局と病院・診療所に分けて方針を提示しています。これらの意見は、今後の中医協における議論の土台となります。医科分野|国民皆保険を守り抜くための7つの基本方針診療側委員は、医科分野において7つの基本方針を掲げています。これらの方針は、急激な物価高騰と人件費上昇のなかで医療機関の経営を安定させ、国民に安心・安全で質の高い医療を提供するための原資として診療報酬を位置づけています。第1の方針は「診療報酬体系の見直し」です。医療機関の創意工夫による運営を可能とする告示・通知等の見直し、施設基準等の簡素化や要件緩和、人件費・医療材料費・食材料費・光熱水費・委託費等の高騰を踏まえた適切な対応を求めています。第2の方針は「あるべき医療提供体制コスト等の適切な反映」です。「もの」と「技術」の分離の促進、医学・医療の進歩への速やかな対応、無形の技術を含めた基本的な技術評価の重視を掲げています。医療DXやICT連携、業務効率化のためのAI・IoT等に必要な経費への確実な手当も求めています。第3の方針は「大病院、中小病院、診療所の機能評価と地域医療の安定化」です。急性期から慢性期に至るまで良好に運営できる診療報酬体系の整備、救急医療等の不採算医療を引き受けてきた医療機関への評価、地域の診療所や中小病院のかかりつけ医機能への手厚い評価を要望しています。第4の方針は「医師・医療従事者の働き方改革対応」です。医師等の働き方改革の推進、医療従事者の負担軽減策や勤務環境の改善への評価、タスク・シェア・タスク・シフトの推進を掲げています。第5の方針は「小児・周産期医療の充実」、第6の方針は「不合理な診療報酬項目の見直し」、第7の方針は「その他必要事項の手当」です。医科分野|初・再診料から入院医療までの具体的検討事項診療側委員は、12の領域にわたる具体的検討事項を示しています。これらの検討事項は、医療現場の実態を踏まえた切実な要望です。初・再診料については、医師の技術料の最も基本となる部分として適切な評価の引上げを求めています。具体的には、同一医療機関における同一日複数科受診の評価見直し、医療DX推進のための評価、かかりつけ医機能のさらなる評価、外来感染対策向上加算の見直しなどを挙げています。かかりつけ医機能については、フリーアクセスを阻害しないよう注意が必要であり、過度な機能分化やかかりつけ医の制度化は導入しないことを求めています。入院基本料については、急激な物価高騰・光熱費等の高騰に対応するとともに、多職種協働によるチーム医療の推進を踏まえた医療従事者の人件費の適切な評価を求めています。重症度、医療・看護必要度については、改定のたびに評価項目を変更すること自体が医療現場の大きな負担となっており、今改定での大幅な見直しは避けるべきとしています。入院中の患者の他医療機関受診時の減算については、懲罰的な規則であり、国民の受療する権利を阻害していると指摘しています。入院基本料等加算・特定入院料については、医師事務作業補助体制加算の算定病棟拡大と外来診療所での算定、特定集中治療室管理料等の臨床現場の実態に合致した評価への見直し、地域包括医療病棟入院料の施設基準の要件緩和、精神科地域包括ケア病棟入院料の経過措置期間の再設定などを求めています。医科分野|在宅医療から処置・手術までの具体的検討事項在宅医療については、機能強化型在宅療養支援診療所における病床の有無による点数格差の是正を求めています。有床・無床にかかわらず医療行為は同等であり、無床診療所では連携後方支援病院への入院依頼などの対応が発生していることから、同等の点数とすることを要望しています。また、下り搬送を受け入れた側の医療機関への評価、在宅患者訪問診療料の要件緩和、小児在宅医療の充実、終末期に向けての意思決定支援管理料の新設なども求めています。検査・画像診断については、DPC病院を退院した月と同月の外来における検査料の算定要件緩和、原材料費の高騰に伴う検査料の見直し、休日夜間の緊急遠隔読影における医師の要件見直しを求めています。投薬・注射については、7種類以上の内服薬処方時等の減算の撤廃を要望しています。多数の疾患を抱える患者、特に高齢者をかかりつけ医が担当するためには多剤投与が必要となるケースは避けられず、かかりつけ医機能を発揮する観点からも減算の廃止を求めています。処置・手術・麻酔については、手術料の適正な評価として、9割以上の術式において外保連手術試案上の人件費のみで実際の診療報酬額を上回っていることから、一層の増点を求めています。同一手術野で実施する複数手術の評価については、主たる手術の所定点数のみならず、同時併施手術すべての所定点数を加えることを要望しています。また、第11部麻酔の通則における休日・時間外・深夜加算の新設も求めています。ベースアップ評価料については、対象職種が限定されている等の課題があることから、基本診療料を中心として上乗せすることを求めています。春闘賃上げ2年連続5%超えに比べて、診療報酬改定によるベースアップ評価料は低い水準に留まっており、医療機関に従事するすべての職員を対象とした適切な評価の見直しを要望しています。歯科分野|口腔の健康と健康寿命の延伸に向けた要望歯科分野では、口腔の健康が全身の健康及び健康寿命の延伸に寄与するエビデンスが示されるなか、歯科医療の果たす役割は非常に大きいとの認識を示しています。ライフコースに応じたう蝕や歯周病を含めた口腔疾患の重症化予防及び口腔機能の獲得・維持・向上に資する歯科医療を「かかりつけ歯科医」が中心となって提供することが重要としています。重点課題として、物価や賃金、人手不足等の医療機関を取り巻く環境の変化への対応を掲げています。医療経済実態調査の結果から、個人立歯科診療所においては収入の増加を費用の増加が上回り、設備投資やスタッフの処遇改善もままならない厳しい経営状況が続いていることが明らかになりました。歯科衛生士等の給与水準は一般病院の医療技術員よりも低い水準にとどまっており、個人立歯科診療所における歯科衛生士の賃上げ状況は、2025年春季労使交渉の平均賃上げ率5.26%に到底及んでいません。求人倍率も高止まりしている状況です。具体的検討事項として、ホスピタルフィーである初診料・再診料での評価拡充、歯科衛生士等の処遇改善、歯科診療所と病院歯科の機能分化・連携の強化、周術期等口腔機能管理の更なる推進、医療DXに係る診療報酬上の評価の導入などを求めています。また、歯科用貴金属の代替材料の開発・保険収載についても、金パラ価格が最高値を更新し続けていることから、市場価格の影響を受けやすい歯科用貴金属に代わる材料の開発・保険収載・適用拡大を推進することを要望しています。調剤分野|薬局経営の安定と医薬品供給体制の確保調剤分野は、保険薬局における調剤報酬関係と病院・診療所における薬剤師業務関係の2つに分けて意見を示しています。保険薬局については、物価高騰・賃上げ等の影響により薬局の経営が年々厳しさを増しており、医薬品の仕入価の高騰、「逆ザヤ」品目の急増及び毎年の薬価改定により、経営状況は極めて逼迫しているとの現状認識を示しています。保険薬局における基本方針として、薬局における物価高・賃上げ対応、医薬品供給拠点としての経営基盤・機能の強化、かかりつけ薬剤師・薬局機能の推進、医療機関や介護施設と薬局の連携強化、対物業務を基盤とした対人中心業務の推進、多職種連携による在宅薬剤管理指導の推進、医薬品の適正使用や医療安全確保のための病診薬連携の推進、医薬品供給不足問題への対応と後発医薬品・バイオ後続品の更なる普及促進、医療DXの推進や薬局業務の見直しによる働き方の効率化など10項目を掲げています。病院・診療所における薬剤師業務関係については、6つの基本方針と7つの具体的検討事項を示しています。高齢化に伴う医療・介護ニーズの変化や物価の高騰・人件費の増加等、医療機関を取り巻く環境の厳しさが増していること、令和6年4月から実施された第8次医療計画には薬剤師の確保が明記されているものの、医療機関に従事する薬剤師の不足及び偏在問題は深刻であることを指摘しています。具体的検討事項として、病院・診療所薬剤師の処遇改善、転院・転所時のポリファーマシー対策を含めた薬剤関連情報の連携に関する評価、回復期リハビリテーション病棟等での病棟薬剤業務の評価、救急外来における薬剤業務の評価、外来腫瘍化学療法診療料の算定対象拡大、訪問診療への薬剤師の同行訪問に関する評価などを求めています。まとめ|診療報酬改定に向けた今後の議論の方向性令和8年度診療報酬改定に対する二号(診療側)委員の意見は、物価高騰と人件費上昇のなかで医療機関の経営を安定させることを最重要課題として位置づけています。意見書では、診療報酬は国民に安心・安全で質の高い医療を提供するための原資であり、2年間の賃金や物価の動向が適切かつ十分に反映されるものでなければならないとの認識が示されました。医科・歯科・調剤の3分野に共通するのは、初・再診料等の基本診療料の引上げ、医療従事者の処遇改善、医療DXの推進に対する評価の充実、施設基準等の簡素化です。これらの要望は、これまで中医協で検討してきた項目を踏まえつつ、医療機関が置かれている窮状を認識した上での優先順位を前提としています。今後の中医協における議論では、支払側(一号委員)の意見との調整が行われ、具体的な点数設定が検討されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定|支払側が求める「6つの重点事項」と適正化の方向性
中央社会保険医療協議会(中医協)は、令和7年12月26日の総会(第639回)において、令和8年度診療報酬改定に向けた各号意見を取りまとめました。本稿では、健康保険組合や事業主の立場を代表する支払側(1号側)委員が提出した意見書の内容を解説します。支払側は、賃上げと物価高への確実な対応を求める一方、医療費適正化の徹底と病院機能の再編を強く主張しています。支払側の意見は6つの重点事項で構成されています。医科については、入院医療における病院機能の分化・連携・集約化と、外来医療におけるかかりつけ医機能報告制度と整合した評価体系への移行を求めています。歯科については、口腔機能管理の対象範囲拡大とメリハリのある評価を主張しています。調剤については、敷地内薬局の定義厳格化と門前薬局の適正化を要求しています。在宅医療については、短時間・頻回な訪問看護の是正を求めています。賃上げと物価への対応については、検証可能な仕組みの創設を主張しています。なお、意見書には個別事項として医療DXや救急医療等の11項目も含まれています。基本的考え方:適正化と持続可能性の両立支払側は、診療報酬改定の基本姿勢として、賃上げと適正化の両立を求めています。診療報酬本体の引上げ財源は、その大部分を賃上げと物価高への対応に充当することが大臣折衝で合意されました。支払側は、この合意を踏まえ、医療サービスの対価としての正当性を担保するため、確実な賃上げときめ細かい物価高への対応を行い、その結果を検証できる仕組みにすべきであると主張しています。一方で、国民皆保険制度と医療提供体制の持続可能性を両立することも重要であると指摘しています。そのために必要な適正化策として、外来受診の抑制、残薬対策、短時間・頻回な訪問看護の是正、門前薬局や敷地内薬局の合理化を挙げています。これらの適正化を通じて、メリハリのある診療報酬により政策課題の解決に取り組むべきであるとしています。医科・入院医療:病院機能の再編と集約化を促進入院医療については、病院機能の分化・連携・集約化を強力に推進するよう求めています。高度急性期については、選択と集中が必要であると主張しています。専門性の高い人材や高額な医療機器は基幹病院に集約化し、重篤な救急搬送の受入れや難易度の高い全身麻酔手術等を集中的に実施する拠点的な急性期機能を確立すべきであるとしています。この拠点的機能を担う病院は、物価・賃金上昇による影響を最も大きく受けるため、財源を重点配分すべきであると述べています。急性期一般病棟については、評価体系の見直しを求めています。急性期一般入院料1について、救急搬送受入れと全身麻酔手術の基準を導入し、実績が一定以上の場合のみ看護配置7対1の拠点的な急性期一般病棟として認める等、評価を細分化すべきであるとしています。看護配置7対1と10対1の差分を多職種配置で補充する場合には、看護職による病棟マネジメントと業務負担のモニタリングの仕組みを実装すべきであるとしています。DPC/PDPSについては、全ての急性期病棟への参加義務付けを求めています。急性期医療の標準化を徹底する観点から、現在は任意参加となっているDPC制度への参加を義務化すべきであるとしています。標準病院群については、救急搬送の受入れ件数が少ない病院で包括範囲出来高点数が特に低い傾向を踏まえ、細分化して基礎係数を設定すべきであるとしています。地域包括医療病棟については、令和6年度改定で新設したコンセプトを維持すべきであると主張しています。平均在院日数の基準やADL低下患者5%未満の要件は一律に緩和せず、限定的な対応にとどめるべきであるとしています。ただし、内科系症例において医療資源投入量が十分に評価されていない実態を踏まえ、内科系疾患の高齢者救急の受入れを阻害しないよう、きめ細かな評価体系に見直すことは合理的であるとしています。医科・外来医療:かかりつけ医機能と適正化の推進外来医療については、かかりつけ医機能の評価体系の見直しと各種管理料の適正化を求めています。かかりつけ医機能については、機能強化加算の抜本的な見直しを主張しています。現行の地域包括診療料や在宅療養支援診療所等と紐づいた仕組みから離れ、かかりつけ医機能報告制度と整合的な仕組みへと、名称を含めて発展的に組み替えるべきであるとしています。一次診療が可能な診療領域や疾患の範囲、研修受講、学生実習・研修医の受入れ、BCP等を指標とし、機能の充実度に応じた評価体系とすべきであるとしています。生活習慣病管理料については、適正化と減算の導入を求めています。長期処方・リフィル処方をより積極的に活用して、状態が安定した患者の受診間隔を延長し、通院負担を軽減すべきであるとしています。療養計画書を定期的に交付していない場合やガイドラインに沿った検査を実施していない場合、継続受診率が低い場合には減算を導入すべきであるとしています。外来管理加算については、廃止または包括化を求めています。地域包括診療加算や特定疾患療養管理料等との計画的な管理の重複評価は依然として解消されておらず、是正すべきであるとしています。算定要件である「丁寧な問診や詳細な診察、懇切丁寧な説明」等は再診料に含まれる当然の行為であり、加算としての評価を廃止すべきであるとしています。歯科:口腔機能管理の拡大とメリハリある評価歯科については、ライフステージや患者の特性に応じたメリハリのある評価を求めています。口腔機能管理については、対象範囲の拡大を認めています。高齢者の口腔機能低下症や小児の口腔機能発達不全症について、機能的な特性だけでなく、通常と異なる特別な管理を行うのであれば、学会の診断基準に基づき口腔機能管理料や小児口腔機能管理料の対象範囲を拡大することは合理性があるとしています。歯科疾患管理料については、初診減算の廃止と再診時評価の適正化を求めています。歯科医師の手間が初診と再診で変わらないのであれば、初診減算の廃止と合わせて再診時の評価を適正化すべきであるとしています。継続的な歯科疾患の管理という趣旨が徹底されるよう、算定対象となる患者像を明確化し、初診時に管理計画を患者に説明して理解を得ることも必要であるとしています。歯周病治療については、財政中立での統合を求めています。患者に違いが分かりにくい歯周病安定期治療と歯周病重症化予防治療は財政中立で統合するとともに、実質的に3か月毎のメンテナンスとして運用されている状況を改め、病態に応じた治療を運用面で担保すべきであるとしています。多職種連携については、医科との連携強化を求めています。周術期等口腔機能管理計画を変更する際も評価することや、医科のリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算や生活習慣病管理料における歯科受診勧奨の受け皿となった場合の評価が考えられるとしています。障害者歯科については、専門施設による重点的な対応を新たに評価する場合には、口腔保健センター等の専門施設が障害児や障害者に対して歯科医学的管理を実施した場合に限る等、適切な運用を担保すべきであるとしています。へき地等の特に人口が少ない地域の患者に必要な歯科医療を提供する観点から、巡回診療車の活用も考えられるとしています。歯科治療のデジタル化については、推進を求めています。業務の効率化や貴金属価格の影響を受けないようにする観点から、光学印象やCAD/CAM冠の活用を拡大する等、歯科治療のデジタル化を推進すべきであるとしています。調剤:門前・敷地内薬局の適正化と薬局機能の強化調剤については、門前薬局や敷地内薬局の適正化と、かかりつけ薬剤師機能の見直しを求めています。敷地内薬局については、定義の厳格化を求めています。医療モールを含めて特別な関係にある場合には、全て特別調剤基本料Aを適用することを原則とすべきであるとしています。医療モールにある薬局は、処方箋枚数が上位3番目までに限らず、モール内にある全ての医療機関を集中率の分子に含めるべきであるとしています。調剤基本料については、門前薬局の損益率が高いことを踏まえた適正化を求めています。将来的に薬局の立地が変わっていく中で調剤基本料を一本化することが望ましいが、当面は経営効率に応じた評価の徹底が必要であり、調剤基本料2を適正化すべきであるとしています。調剤処方箋600回超かつ集中率85%の小規模薬局については、特に損益率が高い大都市の場合は調剤基本料1から除外し、薬局の集約化・大規模化につなげるべきであるとしています。後発医薬品調剤体制加算については、減算の仕組みへの移行を主張しています。後発医薬品の使用は相当程度まで上昇したことを踏まえ、加算の仕組みを継続する妥当性は低いとしています。地域の医薬品供給拠点機能を評価する他の加算があることを踏まえ、減算を中心とする仕組みに切り替えるべきであるとしています。かかりつけ薬剤師指導料については、廃止を求めています。かかりつけ薬剤師として実施した業務の内容を評価する仕組みに見直すべきであるとしています。在宅医療:効率性を踏まえた適正化在宅医療については、訪問診療・往診、訪問看護、歯科訪問診療、訪問薬剤管理指導の各分野で適正化を求めています。在宅療養支援診療所については、よりきめ細かい評価体系への見直しを求めています。機能強化型については、在宅緩和ケア充実加算の要件を上回る実績がある医療機関が多いことを踏まえ、在宅緩和ケア充実加算を統合する形で、実績・体制・役割の違いに着目して評価を細分化し、更に積極的な機能の発揮を促すべきであるとしています。連携型の機能強化型については、24時間体制に協力する度合いに応じて評価にメリハリを付けるべきであるとしています。訪問看護については、短時間・頻回な訪問看護の是正を強く求めています。高齢者住宅等に隣接する訪問看護ステーションにおいて、医療機関に入院中の患者への看護に似た形で短時間の訪問看護が頻回に続けて提供されることにより、加算が積み上がって医療費が高額化している実態があると指摘しています。効率性を踏まえて適正化する観点から、一連の訪問看護を包括評価する仕組みを導入すべきであるとしています。頻回な訪問看護が必要な場合には主治医の指示書に明記することを求めるべきであるとしています。歯科訪問診療については、診療時間に応じた適正化を求めています。歯科訪問診療料について、同一建物に居住する多人数を訪問して1人当たり診療時間が20分未満の場合、適切な処置等が実施されていないと考えられるため、適正化すべきであるとしています。訪問歯科衛生指導料についても、同一建物の患者数が多いほど指導時間が短い傾向を踏まえ、時間区分によるメリハリのある評価体系に見直すべきであるとしています。訪問薬剤管理指導については、時間外対応の要件化を求めています。訪問薬剤管理指導を実施している薬局に夜間や休日に連絡がつかず、他の薬局が代わりに対応する事例がみられることを踏まえ、訪問薬剤管理指導料の要件に時間外対応を位置づけるべきであるとしています。在宅薬学総合体制加算2については、無菌製剤処理の実績が極めて乏しく、高い加算を算定するために無菌調剤設備を設置している可能性があることから、施設基準から無菌調剤設備を除外すべきであるとしています。賃上げと物価への対応:検証可能な仕組みの創設賃上げへの対応については、検証が可能な手当ての仕組みを創設すべきであると主張しています。看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料については、幅広い職種を対象とし、統合した分かりやすい報酬体系とすることを求めています。夜勤における人材確保に向けて夜勤手当の増額等の対応も考えられるとしています。月額給与の引上げに伴い賞与を減額する等の不適切な運用が生じないよう、正当な処遇改善を担保する要件を設定することも必要であるとしています。物価上昇への対応については、費用構造の違いを反映した手当てを求めています。医療機関の機能等により物価高の影響が異なることを踏まえ、費用構造の違いを反映した手当てとすべきであるとしています。物価水準は常に変動するものであり、長期推移も念頭に置き、物価上昇率の見込み値と実績値に差異が生じることを想定した検討も必要であるとしています。まとめ:メリハリある改定で持続可能性を確保支払側の意見は、賃上げと物価への確実な対応を求めつつ、医療費適正化の徹底を強く主張する内容となっています。医科の入院医療については、病院機能の分化・連携・集約化を促進し、急性期病棟の評価を実績に応じて細分化することで、拠点的な機能を担う病院への財源重点配分を求めています。医科の外来医療については、かかりつけ医機能報告制度との整合性を重視し、各種管理料の適正化と減算の導入を主張しています。歯科については、口腔機能管理の対象範囲拡大を認めつつ、歯科疾患管理料や歯周病治療の適正化を求めています。調剤については、門前・敷地内薬局の適正化と後発医薬品調剤体制加算の減算への移行を求めています。在宅医療については、短時間・頻回な訪問看護の是正に加え、歯科訪問診療や訪問薬剤管理指導の適正化も求めています。これらの意見は、2040年を見据えた医療提供体制の再構築と、国民皆保険制度の持続可能性確保を目指すものといえます。 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令和8年度薬価制度改革の骨子を解説|革新的新薬薬価維持制度など5つの重要変更点
中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度薬価制度改革の骨子(案)が示されました。この骨子案は、「経済財政運営と改革の基本方針2025」で掲げられた「国民負担の軽減と創薬イノベーションの両立」を実現するための具体策を定めています。本稿では、医療機関や製薬企業に影響を与える主要な変更点を解説します。令和8年度薬価制度改革の骨子案では、5つの重要な変更が示されています。第一に、新薬創出・適応外薬解消等促進加算が「革新的新薬薬価維持制度(PMP)」へ名称変更されます。第二に、長期収載品の薬価は後発品上市後5年でG1が適用され、段階的に引き下げられます。第三に、AG(オーソライズド・ジェネリック)およびバイオAGの薬価は先発品・バイオ先行品と同額に設定されます。第四に、年間販売額が3,000億円を超え急拡大した高額医薬品には、引き下げ幅上限が66.7%に引き上げられます。第五に、後発品の安定供給確保のため、価格帯集約ルールが見直されます。革新的新薬薬価維持制度(PMP)への名称変更と制度見直し新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度は、「革新的新薬薬価維持制度」へ名称変更されます。この変更は、特許期間中の革新的な新薬の薬価維持という制度趣旨を明確化するためです。英語名は「Patent-period price Maintenance Program for Innovative Drugs(PMP)」となります。品目要件については、透明性向上の観点から見直しが行われます。具体的には、「新規作用機序医薬品又は新規作用機序医薬品に相当すると認められる効能若しくは効果が追加されたものであって、別表10の基準に該当する医薬品」などの要件が削除されます。この変更は、今後新たに薬価収載される品目に適用されます。一方、乖離率が平均乖離率を超える品目を対象外とする要件は維持されます。累積額の控除と薬価の下支えに係るルールの適用順序も見直されます。従来どおり改定前薬価と市場実勢価格に基づく改定額との差額の累積額は控除されます。ただし、累積額控除により最低薬価未満となる事態を防ぐため、累積額控除を適用した後に薬価の下支えルールを適用する順序に変更されます。長期収載品の薬価の更なる適正化長期収載品の薬価については、後発品置換え期間が5年に設定されます。この変更は、長期収載品に依存するビジネスモデルからの脱却を促進する目的で実施されます。5年経過後は後発品置換率によらずG1が適用され、後発品の加重平均薬価を基準として段階的に引き下げられます。従来のZ2およびG2は廃止されます。また、Cも廃止され、G1の補完的引下げは後発品置換率によらず一律2.0%となります。G1による引下げ後の額と2.0%の補完的引下げ後の額のうち、いずれか低い額が適用されます。後発品の加重平均薬価まで価格を引き下げた長期収載品については、G1の適用対象外となります。バイオ先行品についても、バイオシミラーが収載されている場合はG1が適用されます。引下げの下限および円滑実施措置は原則廃止されますが、令和8年度は大きな制度変更であることから、経過措置として適用されます。AG・バイオAGの新たな薬価ルールバイオAGの新規収載時の薬価は、バイオ先行品と同額に設定されます。この変更は、バイオシミラーとの適切な競争環境を形成・維持する観点から導入されます。バイオAGとは、先行品と有効成分、原薬、添加物、製法等が同一のバイオ医薬品であって、後発品として薬事承認を受けたものを指します。AG(オーソライズド・ジェネリック)についても同様の措置が講じられます。先発品と有効成分、原薬、添加物、製法等が同一の後発品(AG)の薬価は、先発品と同額となります。この変更も、後発品の適切な競争環境の形成・維持を目的としています。AGであるか否かの客観的判断が困難なため、薬価基準収載希望書にAGである旨の記載を製造販売業者に求める運用が導入されます。薬価改定時には、AG・バイオAGと先発品・バイオ先行品の価格帯集約が行われます。先発品の薬価と同額で算定されたAG又はバイオAGについては、当該AGおよび先発品、当該バイオAGおよびバイオ先行品の薬価をそれぞれ加重平均し、価格帯を集約することになります。高額な医薬品に対する対応強化年間1,500億円の市場規模を超える高額な医薬品への対応が強化されます。市場拡大再算定の特例は「持続可能性特例価格調整」(英語名:Special Price Adjustment for Sustainable Health System and Sales Scale(SPA-SSS))に名称変更されます。この名称変更は、イノベーション評価と国民皆保険維持の両立という趣旨を明確化するためです。持続可能性特例価格調整の引き下げ幅上限が引き上げられます。年間販売額が予測販売額から10倍以上かつ3,000億円超に急拡大した場合に限り、従来の上限50%から66.7%(2/3)に引き上げられます。この措置により、予想を大幅に超えて市場が拡大した高額医薬品に対して、より強い価格調整が可能となります。市場拡大再算定の類似品への適用は廃止されます。企業の予見可能性を確保し、国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する観点から、この変更が行われます。一方、市場拡大再算定対象品目の薬理作用類似薬については、効能追加等の有無に関わらず、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)により使用量を把握し、薬価改定以外の機会も含めて再算定が実施されます。後発品の安定供給確保のための対応後発品の価格帯集約ルールが見直されます。注射薬およびバイオシミラーについては、同一規格・剤形内の品目数が少ない状況を踏まえ、最高価格の30%を下回る薬価のものを除き、価格帯集約の対象外となります。G1品目に係る後発品の1価格帯集約は廃止されます。薬価の下支え制度も充実されます。最低薬価については、外用塗布剤に規格単位に応じた最低薬価が設定されます。点眼・点鼻・点耳液には点眼剤の最低薬価が適用されます。最低薬価の水準自体も引き上げられますが、前回調査における最低薬価品目の平均乖離率を超えた乖離率であった品目は引き上げ対象外となります。不採算品再算定の要件も緩和されます。従来の「全ての類似薬について該当する場合に限る」という要件が削除され、該当する類似薬のシェアが5割以上であれば対象となります。対象品目は、基礎的医薬品と同一の品目、重要供給確保医薬品、極めて長い使用経験があり供給不足の影響が大きい品目などに限定されます。まとめ令和8年度薬価制度改革の骨子案は、国民負担の軽減と創薬イノベーションの両立を目指した包括的な制度改正です。革新的新薬薬価維持制度(PMP)への名称変更により特許期間中の薬価維持の趣旨が明確化されます。長期収載品は後発品上市後5年でG1適用となり、段階的に引き下げられます。AG・バイオAGは先発品・バイオ先行品と同額で収載され、適切な競争環境が形成されます。高額医薬品への対応は強化され、急拡大した場合の引き下げ幅上限は66.7%となります。後発品の安定供給確保のため、価格帯集約の見直しと下支え制度の充実が図られます。医療機関および製薬企業は、これらの変更点を踏まえた対応が求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【令和8年度改定】保険医療材料制度改革の骨子案|7つの改革ポイントを徹底解説
令和7年12月26日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回)において、令和8年度保険医療材料制度改革の骨子案が示されました。物価上昇による原材料費高騰が続く中、実勢価格が償還価格を上回る「逆ザヤ」の機能区分が全体の35%に達しています。このような状況を踏まえ、今回の改革ではイノベーション評価の厳格化、プログラム医療機器の評価基準整備、医療機器の安定供給確保など7つの柱で制度見直しが行われます。今回の骨子案は、医療機器産業と医療現場の双方に大きな影響を与える内容です。チャレンジ申請におけるRCT(ランダム化比較試験)の原則化、体外診断用医薬品の評価基準の厳格化、逆ザヤ機能区分への市場シェアに応じた対応など、実務に直結する改定が多く含まれています。この記事では、医療機関の経営者や医療機器メーカーの担当者が押さえるべきポイントを解説します。改革の背景:逆ザヤ機能区分が35%に増加保険医療材料制度を取り巻く環境は大きく変化しています。物価上昇による原材料費の高騰を背景に、実勢価格が償還価格を上回る「逆ザヤ」状態の機能区分が急増しているためです。逆ザヤとは、医療機関と卸業者との間の価格交渉で形成される実勢価格が、保険償還価格を上回る状態を指します。特定保険医療材料価格調査によると、逆ザヤの機能区分数は平成30年度の260(全体の22%)から令和7年度には460(同35%)へと増加しました。この5年間で割合は1.6倍に拡大しています。今回の制度改革は、この逆ザヤ問題への対応を含め、イノベーションの適切な評価、医療機器等の安定供給、内外価格差の是正、保険適用手続の効率化という4つの観点から検討が行われました。その結果、7つの柱からなる具体的な改革内容が示されています。1. イノベーション評価:チャレンジ申請と補正加算の厳格化イノベーション評価では、チャレンジ申請の要件厳格化と補正加算の定量的評価の明確化が行われます。データの質と客観性を高めることで、真に革新的な医療機器を適切に評価する狙いがあります。チャレンジ申請(使用成績を踏まえた再評価に係る申請)については、3つの点で要件が厳格化されます。第一に、製造販売業者が提出する研究計画には原則として比較試験を求めます。具体的にはRCT(ランダム化比較試験)が望ましいとされていますが、RCTが困難な場合は、バイアスのリスクを軽減する方法を十分に検討した研究計画の提示が必要です。第二に、データの客観性担保のため、査読付き論文として公表されたデータの提出を審議の前提とします。製造販売業者による独自の解析は評価対象外となります。第三に、RCTで実現可能性の高い研究計画については、事務局確認と保材専委員長の承認により、保材専への報告のみでチャレンジ権を付与できます。補正加算(画期性加算、有用性加算、改良加算)については、定量的評価の試行案が明確化されます。評価項目ごとにポイント制が導入され、臨床上有用な新規の機序、類似材料に比した高い有効性・安全性、対象疾病の治療方法の改善などが点数化されます。平成28年から令和7年9月まで該当品目がなかった改良加算の「ロ」「ト」「チ」については、引き続き試行案として取り扱われます。2. 体外診断用医薬品の評価基準明確化体外診断用医薬品については、臨床上の有用性を重視した評価基準が明確化されます。療養担当規則の趣旨を踏まえ、区分E3(新項目、改良項目)の保険適用希望品目に対して、より厳格な審査が行われます。F区分(保険適用しない)となる条件は、以下の3つのいずれかに該当する場合です。第一に、臨床上の位置づけ(対象患者、実施時期)が不明確な場合です。対象患者が明らかでなく、スクリーニングとして実施することが想定される場合がこれに該当します。第二に、臨床上の位置づけに応じた性能を有していない場合です。確定診断に用いるとした体外診断用医薬品の特異度が低く、確定診断が困難と認められる場合などが該当します。第三に、当該検査の結果により治療が変化する等の臨床上の有用性が示されていない場合です。検査結果に関わらず同じ診断・治療を行う場合がこれに該当します。希少疾病等の検査に用いる体外診断用医薬品については、評価対象が拡大されます。想定される検査回数が少ない再生医療等製品の適応判定の補助に必要な検査にも適用が拡大されます。技術料の見直しにおいては、希少性が重複評価されることを避けるため、参照する準用技術料は保険収載時に準用した技術料であることが明確化されます。3. プログラム医療機器の評価基準整備プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)の評価については、令和6年度改定で示された基準を踏まえ、引き続き整備が進められます。臨床アウトカムの向上と医療従事者の負担軽減という2つの観点から評価が行われます。診療報酬上の評価は、患者の臨床アウトカムの向上が示された場合に限り、加算による評価を検討します。医療従事者の労働時間短縮や人員削減等を実現するプログラム医療機器については、施設基準の緩和等による評価を検討します。これにより、治療効果を高めるものと業務効率を改善するものとで、評価の方向性が明確に区別されます。特定保険医療材料として評価されるプログラム医療機器の算定方法も明確化されます。初・再診料、プログラム医療機器指導管理料(導入期加算を含む)、その他の医学管理料等、特定保険医療材料料を組み合わせて算定できることが示されます。選定療養の活用については、保険適用期間終了後に患者希望で使用する場合の特別料金の説明を、アプリケーション内で行うことも可能となります。4. 医療機器の安定供給確保:小児用医療機器と不採算品再算定医療機器の安定供給確保では、小児用医療機器への配慮と不採算品再算定の対象拡大が行われます。対象患者数が少ない分野での供給継続を支援する施策です。小児用医療機器については、その特殊性への配慮が明記されます。成長に伴い使用する医療機器のサイズが変化すること、対象患者数が少ないことなどを考慮し、新規機能区分の基準材料価格が外国平均価格の0.8倍以下となる場合は、原価計算方式による算定を製造販売業者が希望できるようになります。機能区分の細分化(「小児用」と「成人用」の区分分け)についても、業界要望を踏まえつつ検討が続けられます。不採算品再算定の対象選定基準も見直されます。「代替するものがないこと」という要件について、市場シェア状況に応じた3つのパターンが設定されます。パターン1(1社でシェアの大半を占める場合)は既に令和6年度改定で対象となっています。今回新たにパターン2(上位2社でシェアの大半を占める場合)も、両者が供給困難となった場合に安定供給に支障をきたすため、代替困難性の要件を満たすこととなります。パターン3(シェアが分散している場合)は、他社による供給補完の可能性があるため対象外です。5. 逆ザヤ機能区分への対応と内外価格差是正市場実勢価格が償還価格を上回る逆ザヤ機能区分への対応は、市場シェア状況に応じて異なる方針がとられます。競争的市場かどうかによって、価格引き上げの可否が判断されます。パターン1・2(1社または上位2社でシェアの大半を占める場合)では、供給側の価格決定力が強いことが想定されるため、市場実勢価格に基づく保険償還価格の引き上げは行われません。一方、パターン3(シェアが分散している場合)では、競争的市場と判断され、市場実勢価格の加重平均値や物価変動等を参考にしつつ保険償還価格が設定されます。内外価格差の是正については、外国価格再算定の算出方法が見直されます。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアの各国平均価格は、外国価格調査の結果に加え、国内での使用状況等を考慮した加重平均により算出されます。外国平均価格は従来どおり各国の平均価格を相加平均して算出します。6. 市場拡大再算定と保険適用手続の効率化市場拡大再算定については、特定保険医療材料と技術料包括の医療機器・体外診断用医薬品の双方で、基準年間販売額の決定方法や技術料の見直し計算方法が整備されます。特定保険医療材料の市場拡大再算定では、機能区分の見直し時における基準年間販売額の取扱いが明確化されます。名称のみ変更の場合は変更前の設定時期や予想年間販売額を確認します。機能区分が新設された場合は、見直し前機能区分の設定から10年経過前後で異なる対応がとられます。チャレンジ申請により再評価を受け、原価計算方式以外で算定された特定保険医療材料も、市場拡大再算定の対象となり得ることが明確化されます。技術料包括の医療機器・体外診断用医薬品については、見直しの計算方法が特定保険医療材料の市場拡大再算定に準じて設定されます。計算式では、医療機器等に係る金額の割合(β)と市場規模拡大率(X)を用いて改定後の技術料が算出されます。7. 保険適用手続の合理化保険適用手続については、医療技術評価分科会での評価対象の明確化、適用時期の見直し、様式の簡素化など、複数の改善が行われます。患者アクセスの確保と手続の効率化を両立させる狙いです。医療技術評価分科会での評価を要するものの例示が見直されます。類似する既存技術との評価の整合性から当該技術の評価も見直す必要があるもの、保険適用されていない医療技術を実施するための医療機器等、オンライン診療での実施を目的とする医療機器等、管理料の新設についての審議が必要なものなどが対象となります。評価療養の対象期間は「保険適用希望書の受理から2年まで」から、直近の診療報酬改定の次の改定での保険適用を想定した期間に見直されます。医薬品等の適応判定を目的として使用される体外診断用医薬品等については、中医協で了承された保険適用日から保険適用されます。保険適用希望書の様式は、製品の有効性・安全性に係るデータや加算項目への該当性など重要な論点を簡潔に整理して記載するよう見直されます。製造販売業者からの不服申し立ては、原則として翌月に2回目の保材専を実施し、同意が得られない場合は取り下げとして扱われます。まとめ令和8年度保険医療材料制度改革の骨子案は、逆ザヤ問題への対応を中心に、イノベーション評価の厳格化、プログラム医療機器の評価基準整備、医療機器の安定供給確保、内外価格差の是正、市場拡大再算定の見直し、保険適用手続の効率化という7つの柱で構成されています。医療機器メーカーにとっては、チャレンジ申請におけるRCT原則化や査読付き論文の必須化など、開発段階からのエビデンス構築がより重要になります。医療機関にとっては、逆ザヤ機能区分への対応方針を踏まえた調達戦略の検討が必要です。今後の中医協での審議を注視しながら、令和8年4月の施行に向けた準備を進めることが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子案を解説|3つの改革ポイントと今後の展望
中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第639回、令和7年12月26日開催)において、「令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子(案)」が議論されました。2019年の制度導入から6年が経過し、72品目が評価対象となり53品目が評価を終了した実績を踏まえ、制度の透明性・公平性の向上と更なる活用に向けた見直しが示されています。今回の改革は、制度検証の結果、分析方法の見直し、分析体制の充実の3つを柱としています。特に注目すべきは、追加的有用性が示されない品目に対する価格調整範囲の拡大です。本稿では、骨子案の内容を解説し、医療機関や製薬企業への影響を考察します。費用対効果評価制度の検証結果費用対効果評価専門部会において、これまでの運用状況が客観的に検証されました。制度導入後の新規収載数は、医薬品が年間50品目前後、医療機器が25品目前後で推移しています。2025年9月1日までに費用対効果評価に指定された67品目の予測市場規模(ピーク時)は、中央値156億円/年でした。この数値は、25パーセンタイル117億円/年、75パーセンタイル249億円/年と分布しており、市場規模の大きい品目が対象となっていることがわかります。評価終了した49品目のうち、実際に分析が実施されたのは39品目でした。このうち公的分析が実施されず企業分析が受け入れられたものが2品目あり、費用対効果評価専門組織の決定に対して製造販売業者から不服申立てがあったものは20品目に上りました。価格調整が行われた38品目では、価格全体に対する調整額の割合が中央値-4.29%となっています。今後は令和8年9月に中医協での検証報告の議論を行い、関係業界からの意見も踏まえた技術的な議論を継続します。分析方法に関する見直し分析プロセスと価格調整方法について、複数の重要な見直しが示されました。品目指定手続きの簡素化として、費用対効果評価終了後に新たな知見が得られた品目の再指定について、薬価算定組織等での手続きを不要とします。費用対効果評価専門組織からの提案を中医協総会で直接承認する方式に変更されます。比較対照技術の設定方法も明確化されました。臨床的に幅広く用いられているもののうち治療効果がより高いものを1つ選定することが原則となります。一意的に決められない場合は、費用対効果の観点から相対的に安価なものを選択することもあり得ますが、他の考慮要素を踏まえて決定します。用語の明確化として、「追加的有用性」を「比較技術に対する健康アウトカム指標での改善」と表現することになりました。これは薬価算定における「有用性」との混同を防ぐための措置です。介護費用の取扱いについては、レケンビの事例で指摘された技術的・学術的な課題を踏まえ、諸外国の状況も参考にしながら引き続き研究を進めます。価格調整の対象範囲の見直し価格調整方法について、制度の更なる活用に向けた重要な変更が示されました。価格引き上げの条件が変更されます。従来の「薬理作用等が比較対照技術と著しく異なること」という要件は、「比較対照技術と異なり、臨床上有用な新規の作用機序を有すること」に改められます。医療機器についても同様に、「基本構造や作用原理が著しく異なる」から「臨床上有用な新規の機序を有する」に変更されます。追加的有用性が示されずICERの区分が「費用増加」となった品目の価格調整方法も見直されます。現行の有用性系加算部分に価格調整係数を乗じる方法ではなく、例えば比較対照技術の1日薬価を評価対象技術の1日薬価で除した比を価格に乗じる方法を含め、政策決定の透明性や説明責任を高める方向で見直しが図られます。価格調整後の下限は、価格全体の85%(調整額15%)を基本に引き続き議論されます。なお、令和8年4月以降に評価結果が中医協に報告された品目については、令和8年9月の検証報告の議論終了後に具体的な方法を定めた上で価格調整を実施します。分析体制の充実公的分析を担う体制の強化が課題として挙げられました。現在は立命館大学と慶應義塾大学の2大学が公的分析班として分析を担当しています。対象品目の増加が予想される中、体制の充実が必要です。公的分析結果の学術的な取扱いとして、国立保健医療科学院がホームページで公開している分析結果を論文形式で公的刊行物に掲載する取組を継続します。厚生労働省は関係学会等への制度周知、人材育成、分析体制への支援を通じて、公的分析班の人材確保と組織充実を図ります。国際的な知見の取り入れも推進されます。海外の評価実施機関における実務経験や研究機会を通じて、国際標準となっている知見をより早期に導入するための支援が検討されます。評価結果の活用促進費用対効果評価の結果を医療現場で活用するための取組も進められます。厚生労働省と国立保健医療科学院は、関係学会や関係機関に対して必要な情報提供を行います。各学会における診療ガイドラインへの経済性評価の反映を促進し、診療現場での普及を目指します。まとめ令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子案は、6年間の運用実績に基づく制度の最適化を目指しています。72品目の評価対象指定と53品目の評価終了という実績を踏まえ、制度の透明性・公平性の向上、分析プロセスの効率化、分析体制の充実が図られます。特に追加的有用性のない品目への価格調整範囲拡大は、費用対効果評価制度の更なる活用に向けた重要な一歩となります。令和8年9月の検証報告を経て、具体的な運用方法が確定する予定です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe