医療DXと働き方改革の本質|労働時間削減と生産性向上を両立する5つの方法
労働基準法の厳格化とワークライフバランスの推進により、医療現場では労働時間の削減が求められています。労働時間を減らしながら業績を維持するには、仕事のやり方を変える必要があります。全日本病院協会の神野正博会長が解説する動画「医療のトリセツ 第6回『医療DXと働き方改革』」では、この課題に対する具体的な解決策が示されています。神野会長は、働き方改革を生産性向上改革と定義し、5つの具体的方法を提示しています。ミッションの明確化により本来業務を特定します。タスクシフティングとタスクシェアリングにより業務を適切に分配します。効率化活動により無駄を排除します。最善の標準治療工程表により最短時間で最高の質を実現します。DXによりICT、AI、ロボットを活用します。労働時間と生産性の関係が医療機関の業績を決定する労働時間と生産性の関係は、医療機関の業績に直結します。神野会長は「労働時間×労働生産性=業績」という関係式を提示し、この方程式が働き方改革の本質を表していると説明しています。労働時間を減らすだけでは業績は低下します。労働基準法が厳格化され、ワークライフバランスの推進により労働時間の削減が求められている現状では、従来と同じ仕事のやり方を続けていては医療機関の業績は必ず下がります。労働時間の削減を補うには、生産性の向上が不可欠です。労働時間を少なくする代わりに、仕事のやり方を変えることで、業績を維持または向上させることが可能になります。この認識が、働き方改革を成功させる出発点となります。生産性を向上させる5つの具体的方法が医療現場を変革する生産性向上には、体系的なアプローチが必要です。神野会長は、医療現場で実践可能な5つの方法を提示し、働き方改革を生産性向上改革として位置づけています。第一の方法はミッションの明確化です。本来業務が何であるかを明確に定義し、本当に自分がやらなければならない仕事を特定します。第二の方法はタスクシフティングとタスクシェアリングです。本来業務でない仕事を他者に移管し、複数の担当者で業務を分担します。第三の方法は効率化活動です。TQC(トータルクオリティコントロール)、TQM(トータルクオリティマネジメント)、改善活動により、業務プロセスの無駄を排除します。第四の方法は最善の標準治療工程表の作成です。クリティカルパスと呼ばれるこの手法により、最短時間、最小資源で最高の質を目指します。第五の方法はDXの活用です。ICT、AI、ロボットといった技術を導入し、業務の自動化と効率化を推進します。タスクシフティングをカスケード構造で理解すると業務分担の本質が見えるタスクシフティングの成功には、業務の適切な流れが重要です。神野会長は、この概念を「カスケード(小さな滝)」という比喩で説明し、業務分担の理想的な形を示しています。医師の仕事を看護師に移管します。看護師の仕事を次の担当者に移管します。この流れを継続的に下位に展開することで、小さな滝のように業務が段階的に流れていきます。一か所に仕事が集中すると危険です。誰かが業務を抱え込んで次に渡さない状態は、ダムのように業務を堰き止めることになります。このダムが決壊すると、下流に大洪水が発生し、医療現場に深刻な影響を及ぼします。DXが最終的な受け皿となります。業務を下位に流し続けた結果、最終的に人間が受け取れなくなった段階で、デジタル技術が業務を引き受けます。この構造により、働き方改革とDXの関係が明確になります。まとめ|働き方改革の成功は生産性向上にかかっている働き方改革を成功させるには、労働時間削減と生産性向上を同時に実現する必要があります。神野会長が提示した5つの方法を体系的に実践することで、医療機関は業績を維持しながら労働環境を改善できます。タスクシフティングをカスケード構造で理解し、DXを最終的な受け皿として活用することが、持続可能な医療提供体制の構築につながります。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
なぜ今、医療DXが必要なのか?全日本病院協会会長が語る医療の未来
社会の文化が急速に変化する中で、医療の分野でもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が求められています。このメールマガジンでは、全日本病院協会会長の神野正博氏による解説動画「医療のトリセツ 第5回『なぜ医療DXが必要なのか』」をご紹介します。神野氏は、動画の中で医療DXの必要性と、医療の未来を想像することの重要性について語っています。神野氏は、医療DXを理解するために、デジタル化の進化を3つの段階に分けて解説しています。第一段階のデジタイゼーションは、紙カルテを電子カルテに変えるデータ化の段階です。第二段階のデジタライゼーションは、電子カルテのデータを業務効率化に活用する段階です。第三段階のデジタルトランスフォーメーションは、AIの診療支援や遠隔医療を通じて医療提供の仕組み自体を再構築する段階です。神野氏は、変化する社会に応じて医療の文化を変革していく必要性を強調しています。デジタル化進化の3段階を理解するデジタル化の進化は、一般社会でも医療現場でも、3つの段階を経て発展します。神野氏は、カメラの進化を例に挙げてこの3段階を分かりやすく説明しています。第一段階は「デジタイゼーション」です。デジタイゼーションは、フィルムカメラがデジタルカメラになるような、アナログからデジタルへのデータ化を指します。情報をデジタル形式で保存できるようになる段階です。第二段階は「デジタライゼーション」です。デジタライゼーションは、デジタルカメラで撮影したデータをクラウドに保存したり、SNSで共有したりする段階です。デジタル化されたデータを活用して、業務や生活を効率化します。第三段階は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。デジタルトランスフォーメーションは、画像とAIやIoTが融合して新たな価値を共創する段階です。医療では画像診断への応用や、自動車では自動運転技術などがこの段階に該当します。医療現場におけるデジタル化の3段階を知る医療現場では、3段階のデジタル化がそれぞれ異なる形で展開されています。神野氏は、一般論で説明した3段階を医療現場に当てはめて具体的に解説しています。第一段階の医療現場におけるデジタイゼーションは、紙カルテを電子カルテに変換する取り組みです。紙で管理していた情報を電子的に保存することで、情報の検索性や保管性が向上します。データ化そのものが目的となる段階です。第二段階のデジタライゼーションは、電子カルテのデータを診療・検査・看護などの各業務と連携させる段階です。電子カルテに蓄積されたデータを活用することで、ミスの防止や時間短縮が実現します。業務の効率化・自動化を通じて、働き方改革にもつながる生産性向上のフェーズです。第三段階のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、AIの診療支援や遠隔医療、地域連携などを通じて、医療提供のあり方や文化そのものを変革する段階です。医療の仕組みを根本から再構築することで、より質の高い医療提供体制を目指します。医療文化の変革に向けた展望を描く神野氏は、医療DXの推進において、医療の未来を想像することの重要性を強調しています。社会の文化が急速に変化する中で、医療の分野も変革が求められています。医療の未来を想像することが極めて重要になっています。神野氏は、私たちの身の回りの文化がどんどん変わってきていることを指摘しています。デジタル技術の進化により、日常生活のあらゆる場面で変化が起きています。医療提供者は、変化する社会に応じて、医療の文化を変えていく必要があります。神野氏は、医療DXが単なる技術導入ではなく、医療提供のあり方そのものを見直す契機になると述べています。社会の変化に対応することで、これからの時代に求められる医療を実現できます。まとめ医療DXは、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという3つの段階を経て、医療の仕組みそのものを変革する取り組みです。全日本病院協会会長の神野正博氏による解説動画「医療のトリセツ 第5回」では、なぜ医療DXが必要なのかを分かりやすく学べます。社会の文化が変化する中で、医療の文化も変革していく必要性を理解する機会として、ぜひご覧ください。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【2025年医療保険改革】長期収載品・バイオ医薬品・OTC類似薬の保険給付見直しで何が変わる?
令和7年11月6日に開催された第202回社会保障審議会医療保険部会において、薬剤給付の在り方に関する重要な議論が行われました。医療保険制度の持続可能性を確保するため、長期収載品の選定療養の更なる活用、先行バイオ医薬品の保険給付の在り方、OTC類似薬の保険給付範囲の見直しという3つの重要なテーマが検討されています。今回の議論では、令和6年10月から施行された長期収載品の選定療養制度の効果検証が示されました。後発医薬品の使用割合は数量ベースで90%以上に上昇し、一定の効果が確認されています。この成果を踏まえ、患者負担額の引き上げや対象範囲の拡大が論点となりました。先行バイオ医薬品については、バイオ後続品への置き換え率が金額ベースで33.7%と低いことから、使用促進に向けた選定療養の導入が検討されています。OTC類似薬については、医療機関における必要な受診の確保、子どもや慢性疾患を抱える方への配慮、低所得者の負担増加への対応という3つの重要な配慮事項が示されました。長期収載品の選定療養制度の効果と今後の方向性長期収載品の選定療養制度は、令和6年10月に施行されました。この制度は、患者が後発医薬品ではなく長期収載品を希望する場合に、両者の価格差の4分の1を患者が追加負担する仕組みです。施行後約5ヶ月が経過した令和7年3月時点で、後発医薬品の使用割合は数量ベースで90.6%に達しており、後発医薬品の使用促進に一定の効果を示しています。制度の運用状況を見ると、長期収載品の銘柄名で処方された医薬品のうち73.6%が後発医薬品へ変更されています。残りの25.4%で長期収載品が調剤された理由は、医療上の必要性による変更不可が23.3%、患者希望が17.8%、後発医薬品の在庫不足が43.9%でした。この結果から、供給不安が依然として医療現場の課題となっていることがわかります。一方で、薬局からは患者への説明負担が大きいという指摘があります。長期収載品の選定療養制度導入による影響を尋ねた調査では、78.9%の薬局が患者への説明や質問対応に係る負担が大きいと回答しました。制度そのものや特別料金の計算がわかりづらいという意見も寄せられており、現場への配慮が求められます。医療保険部会では、後発医薬品使用促進をさらに進めるため、選定療養の更なる活用が議論されました。具体的には、現在の価格差4分の1という患者負担を、2分の1、4分の3、全額へと段階的に引き上げる案が示されています。複数の委員から価格差全額を患者負担とすべきという意見が出された一方、後発医薬品の供給不安定が解消されていない現状への配慮を求める意見もありました。先行バイオ医薬品への選定療養導入に向けた課題先行バイオ医薬品のバイオ後続品への置き換えは、低分子医薬品の後発医薬品への置き換えと比較して大幅に遅れています。令和6年の薬価調査によると、バイオ後続品への置き換え率は金額ベースで33.7%にとどまります。政府目標では、2029年度までにバイオ後続品が80%以上を占める成分数を全体の60%以上とすることを掲げていますが、現状では22.2%と大きく乖離しています。バイオ医薬品が後発医薬品と異なる特性を持つことが、置き換えの障壁となっています。バイオ医薬品は製造工程が複雑で、細胞株由来のばらつきが生じる可能性があります。先行品と後続品は同質・同等性が確認されていますが、完全な同一性は認められていません。このため、低分子医薬品のように処方変更や変更調剤で対応することが困難です。さらに、バイオ医薬品には先行品と後続品に共通の一般名が存在せず、一般名処方加算の仕組みが適用できません。後発医薬品調剤体制加算に相当する評価も存在しないため、医療機関や薬局がバイオ後続品を積極的に使用するインセンティブが限られています。保存や運搬にも特別な配慮が必要で、安定供給の確保が課題です。医療保険部会では、バイオ後続品への置き換えが一定程度進んでいる先行バイオ医薬品について選定療養の対象とすべきという意見が複数示されました。高額療養費制度の持続可能性確保の観点からも検討が必要という指摘があります。ただし、急性期で一時的に使用する薬と、自己注射のように患者が継続使用する薬では対応が異なるため、デバイスの使用方法の違いなども考慮した丁寧な制度設計が求められます。OTC類似薬の保険給付見直しにおける3つの配慮事項OTC類似薬の保険給付の在り方見直しは、骨太方針2025および三党合意で示された重要課題です。医療保険制度の持続可能性確保と現役世代の保険料負担軽減を実現するため、令和7年末までに十分な検討を行い、令和8年度からの実施を目指しています。検討に当たっては、医療機関における必要な受診の確保、子どもや慢性疾患を抱える方・低所得者の患者負担への配慮、成分や用量がOTC医薬品と同等のOTC類似薬の扱いという3つの視点が示されました。医療機関における必要な受診の確保については、複数の懸念が指摘されています。OTC類似薬を保険適用から外した場合、受診遅延による健康被害が生じる可能性があります。医療の基本は早期発見・早期治療であり、軽症段階での対応を困難にすれば、結果として重症化により多額の医療費を要することになりかねません。薬の過剰摂取や飲み合わせリスクも考慮が必要です。へき地では医療機関にアクセスできても薬局がない地域があり、OTC医薬品の入手自体が困難な場合があります。スイッチOTC化された医薬品についても、単に保険給付の対象から外すだけではセルフメディケーションの適切な実施は難しく、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師と相談しながら薬歴管理を行う体制が望ましいという意見が出されました。子どもや慢性疾患を抱える方、低所得者への配慮も重要な論点です。過度な負担や急激な変化が生じないよう十分な配慮が必要です。難病や心身障害のある方にとっては、一般用医薬品が医療用医薬品の10倍以上の価格になることもあり、負担が非常に重くなる可能性があります。医療保険部会では、こうした方々への配慮が必須という認識が共有されました。OTC医薬品と医療用医薬品の違いにも留意が必要です。有効成分が一致していても、用法・用量、効能・効果、対象年齢、投与経路・剤形などに違いがあります。配合剤で包装単位が決まっている大多数のOTC医薬品は、医療用医薬品のように患者個々の量に対応して提供できません。OTC医薬品の安定供給も十分ではなく、全薬局で一律な対応ができない状況も指摘されています。まとめ:医療保険制度の持続可能性確保に向けた取組の方向性薬剤給付の在り方見直しは、医療保険制度の持続可能性確保と現役世代の負担軽減という重要な政策目標を実現するための取組です。長期収載品については選定療養制度が一定の効果を示しており、更なる活用が検討されています。先行バイオ医薬品についてはバイオ後続品への置き換えを促進するための環境整備が課題です。OTC類似薬については、必要な受診の確保と患者への配慮を前提とした慎重な検討が求められます。いずれの課題についても、医療の質の維持とアクセスの確保を図りながら、効率的で持続可能な制度設計を進めることが重要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
高額療養費制度の見直し議論が本格化―3つの論点と患者負担への影響を徹底解説
令和7年11月6日に開催された第202回社会保障審議会医療保険部会では、高額療養費制度の在り方について重要な議論が行われました。高齢化の進展と医療の高度化により医療費が増大する中、制度を将来にわたって維持するための改革が求められています。医療保険部会では、高額療養費制度の在り方に関する専門委員会での議論を踏まえ、自己負担限度額の見直し、70歳以上の外来特例の在り方、所得区分の細分化という3つの論点を中心に検討を進めています。議論の焦点は、制度の持続可能性と現役世代の保険料負担軽減の必要性、年齢によらない負担能力に応じた負担の実現、長期療養患者や低所得者への配慮というセーフティネット機能の維持という3点にあります。専門委員会では患者団体や保険者からのヒアリングを丁寧に実施し、具体的な患者の医療費負担の実態を踏まえた検討が行われました。本制度の見直しは、全世代型社会保障の構築に向けた医療保険制度改革全体の中で位置づけられており、今後の改革の方向性が注目されています。高齢化と医療高度化により増大する医療費への対応医療費は高齢化の進展と医療の高度化により今後も増大が見込まれます。専門委員会では、人口構造の変化や医療費の高騰という状況を踏まえると、高額療養費制度を現行のままで維持していくことは困難という認識が示されました。医療の高度化や高額薬剤の普及により高額療養費制度の重要性が増している一方で、制度を支える加入者の保険料負担も増加しています。専門委員会での議論では、現役世代の保険料負担を軽減していくことが非常に重要という意見が出されました。この観点から、医療保険制度全体の改革を進めていくことが不可欠であり、高額療養費制度についても改革項目の一つとして一定程度の見直しを行うべきとされています。ただし、見直しに当たっては、利用者の家計の破綻につながらないよう十分配慮することが求められています。一方で、患者団体からは切実な声も寄せられています。患者やその家族、医療者からは、自己負担限度額を上げられたらもう治療を受けられなくなるという意見が出されました。特に希少疾患患者にとって、病気の責任は自身になく必要に迫られて医療を利用しているのであり、過度な負担は公的保険制度の公平性を損なうおそれがあるという指摘もありました。現行制度においても医療費負担が極めて厳しい状況にある患者がいる一方で、制度を将来にわたって維持する必要性も認識されています。制度を見直す際は、仮のモデルを設定した負担のイメージやデータを踏まえる必要があるという意見が出されており、丁寧な検討が求められています。具体的には、年収約200万円未満の乳がん患者の事例では、総医療費約658.2万円に対して高額療養費制度により自己負担は約44.7万円となっていますが、年間収入に占める割合は決して軽くない負担となっています。年齢によらない負担能力に応じた負担の実現全世代型社会保障を目指す中で、年齢ではなく負担能力に応じた負担という考え方が重要視されています。専門委員会では、70歳以上の高齢者のみに設けられている外来特例の在り方が主要な論点となりました。外来特例は、高齢者の外来受診時の自己負担限度額を引き下げる仕組みですが、世代間の公平性の観点から見直しが必要という意見が出されています。外来特例の見直しについては、複数の視点から議論されています。医療者からは、抗がん剤治療において高齢者は外来特例により一定の負担で治療を受けられる一方で、現役世代、特に子育て世代は厳しい経済環境の中でその治療を受けることができないという公平性の問題が指摘されました。年齢階級別のデータでは、一人当たり医療費が年齢とともに増えている一方で、一人当たり自己負担額は70歳を境に大きく減っており、この点について世代間の公平性の議論が求められています。一方で、外来特例の必要性を主張する意見もあります。一定の年齢になると疾病数が増え医療機関にかかる回数が多くなるという高齢者の特性を踏まえた仕組みは必要ではないかという指摘です。高齢者は若い世代と違って失った所得を回復させることが難しく、また病気になる確率が高いという事情があり、これらを考慮する必要があるとされています。所得区分の在り方も重要な論点となっています。負担能力に応じたきめ細かい制度設計をしていく観点から、現行制度において大括りとなっている所得区分について、低所得者に配慮した自己負担の設定を前提としながらも細分化が必要ではないかという意見が出されました。所得区分を細分化する方向は合理的と考えられていますが、細分化しすぎたり複雑なものにしすぎると国民にも分かりにくく、市町村窓口などの現場で混乱が生じることにもなりかねないため、制度設計に当たっては留意が必要とされています。他方で、一定の所得を有する方は応分の保険料を負担している中において、給付面の応能負担をこれ以上強めることは制度への納得性を損なうのではないかという意見もありました。負担能力という観点では、所得のみならず資産も勘案する必要があるという指摘もなされています。セーフティネット機能を維持した制度設計の在り方高額療養費制度はセーフティネット機能として患者にとってなくてはならない制度であり、今後もこの制度を堅持していく必要性については認識が一致しています。専門委員会では、制度を将来にわたり維持していく観点から、仮に自己負担限度額の見直しを行っていく場合であっても、特に長期にわたって継続して治療を受けられる方や所得が低い方の負担が過重なものとならないよう配慮すべきという意見が多く出されました。長期療養患者への配慮は特に重要視されています。難病やがんなどの慢性疾患を有する方で長期間療養を必要とする方への配慮が、現行の多数回該当制度だけでは弱いのではないかという指摘がなされました。多数回該当制度は、直近12か月以内に3回以上高額療養費の支給を受けた場合に4回目から自己負担限度額が引き下げられる仕組みですが、年間上限を設けてはどうかといった追加的な配慮の必要性が議論されています。既に現行制度においてもWHOが定義する「破滅的医療支出」を大きく超えている患者が存在するという実態も示されました。今後の持続可能性の観点だけではなく、患者の過重な負担にならないという観点からは、こうした患者が既に存在していることに十分配慮しながら制度の検討を行う必要があるとされています。具体的な事例として、年収約200万円未満の20歳代女性の白血病患者では、多数回該当により自己負担は約14.5万円となっていますが、年間収入に占める割合は依然として重い負担となっています。制度設計に当たっては、医療の質を落とさずに患者が治療を継続できることが前提となります。これまでのヒアリングや提示されたモデルも参考に、実態を踏まえて丁寧に検討することが求められています。悪性腫瘍や難病の患者のような長期療養の方々の医療へのアクセスが妨げられないような制度設計とすべきという意見が出されており、セーフティネット機能の維持と制度の持続可能性の両立が課題となっています。現役世代においても高額療養費制度が活用されており、制度変更により家計に対する医療費の自己負担が過重なものとならないようにすることが重要とされています。年収約410万円の30歳代男性が超高額医薬品(薬価約3,265万円)を使用した事例では、高額療養費制度により自己負担は約40.4万円に抑えられていますが、家計調査によれば年間の税・社会保険料が約66.7万円であることを考えると、決して軽い負担ではありません。まとめ高額療養費制度の見直し議論は、制度の持続可能性の確保、全世代型社会保障の実現、セーフティネット機能の維持という3つの要請のバランスを取ることが求められています。医療保険部会では、高齢化の進展や医療の高度化等により増大する医療費への対応、年齢によらない負担能力に応じた負担の実現、患者の経済的負担に配慮したセーフティネット機能の在り方という3つの論点を中心に、今後さらに議論を深めていくことが必要とされています。制度改革は医療保険制度全体の中で検討されており、患者団体や保険者、医療関係者の意見を踏まえた丁寧な制度設計が期待されています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
短期滞在手術の外来移行促進:中医協が示す診療報酬見直しの3つのポイント【2026年改定】
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会(第625回)で、入院から外来への移行に関する診療報酬の見直しが議論されました。2026年度診療報酬改定に向けて、短期滞在手術における入院と外来の評価体系を見直し、医療の効率化を図ることが目的です。本稿では、この見直しの背景、具体的な検討内容、医療機関への影響を解説します。中医協では短期滞在手術等基本料の見直しが3つの視点から検討されています。第一に、主として外来で実施される手術について入院と外来の点数差を縮小します。第二に、複数の算定方法が混在している現状を統一します。第三に、短期滞在手術等基本料1の包括評価を診療実態に合わせて調整します。これらの見直しにより、特に内視鏡的大腸ポリープ切除術と白内障に対する水晶体再建術の外来実施率向上が期待されます。短期滞在手術等基本料3の見直し:入院・外来の点数差縮小短期滞在手術等基本料3の対象手術のうち、主として外来で実施される手術について、入院と外来の点数差を縮小する方向で見直しが検討されています。現状では、内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術(長径2センチメートル未満)と水晶体再建術(眼内レンズを挿入する場合、その他のもの)について、入院で実施した場合の総請求点数が病院の外来で実施した場合より高くなっています。この点数差が、臨床的に入院で実施する必要性が乏しい症例でも入院を選択する要因となっています。医療機関ごとの分析では、外来実施率が0パーセントの医療機関が一定数存在します。特に白内障に対する水晶体再建術については、第165回社会保障審議会医療保険部会において、OECD諸外国と比較して日本の外来実施率が低いことが指摘されました。点数差を縮小することで、医療機関が臨床的必要性に基づいて入院・外来を選択しやすい環境を整備します。これにより、患者の利便性向上と医療資源の効率的活用が両立します。短期滞在手術等基本料の算定方法統一化短期滞在手術等の算定方法については、短期滞在手術等基本料をはじめ、複数の算定方法が混在しています。病院がDPC対象病院であるかどうかにより算定方法が異なり、医療機関の事務負担が増大しています。中医協では、病院がDPC対象病院であるかどうかにかかわらず、短期滞在手術等基本料3を算定するよう見直すことが検討されています。算定方法を統一することで、医療機関の事務処理が簡素化されます。患者にとっても、医療機関の種別によらず同じ評価体系で診療を受けられるため、わかりやすい制度になります。この統一化により、医療機関は診療報酬の算定業務に要する時間を削減できます。削減された時間を患者ケアの質向上に振り向けることが可能になります。短期滞在手術等基本料1の評価適正化短期滞在手術等基本料1については、令和4年度診療報酬改定において施設基準等の見直しを行った結果、特に診療所での算定回数が著しく増加しました。短期滞在手術等基本料1は検査料等を包括した点数として設定されています。短期滞在手術等基本料1を算定する場合と算定しない場合の手術実施月の総請求点数の差は、短期滞在手術等基本料1の点数と同程度でした。短期滞在手術等基本料1が一部検査料等を包括して評価している一方で、包括評価による効率化の効果は限定的でした。中医協では、手術実施月の点数の差等を踏まえ、診療の実態に見合った評価とすることが検討されています。評価を適正化することで、包括評価の本来の目的である医療の効率化を実現します。医療機関にとっては、適切な診療報酬を得ながら質の高い医療を提供できる環境が整います。入院実施の臨床的背景と今後の課題内視鏡的大腸ポリープ切除術と水晶体再建術を原則外来で実施している医療機関が入院で実施する理由として、「臨床上、入院での周術期管理を行う必要性が高いため」が最多でした。具体的には、前者については出血リスクの高い症例等が、後者については全身麻酔を行う必要性が高い症例等が挙げられました。水晶体再建術を全身麻酔で実施する理由としては、「臨床上、局所麻酔での実施が困難であるため」が最多でした。具体的な理由としては「認知症により安静を保つことが困難」といった回答が多くみられました。今回の見直しは、こうした臨床的必要性を否定するものではありません。臨床的必要性が高い症例では引き続き入院での対応が可能です。一方、臨床的必要性が乏しいにもかかわらず点数差により入院を選択している症例については、外来への移行を促します。医療機関は、個々の患者の状態を適切に評価し、最適な診療形態を選択することが求められます。まとめ中医協が提案する短期滞在手術の外来移行促進策は、入院・外来の点数差縮小、算定方法の統一化、評価の適正化という3つの柱で構成されています。これらの見直しにより、医療資源の効率的活用と患者の利便性向上が期待されます。医療機関は臨床的必要性に基づいて入院・外来を適切に選択し、質の高い医療を提供することが求められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
入院時の光熱水費398円、18年ぶりの見直し検討へ【中医協総会速報】
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会(第625回)において、入院時の光熱水費の見直しが議論されました。現行の基準額398円は平成18年の制度創設時から据え置かれています。近年の光熱・水道費の高騰により病院経営が圧迫されている状況があります。令和6年8月施行の介護報酬改定で介護保険の居住費が引き上げられ、医療保険との間に自己負担の差が生じています。今回の議論は、基準額の見直しの必要性を検討することを目的としています。今回の議論では4つの重要なポイントが示されました。第一に、現行制度では療養病床に入院する65歳以上の者について1日当たり総額398円(自己負担370円、保険給付28円)が設定されています。第二に、平成18年以降、基準額が一度も改定されていない中で光熱・水道費が大きく高騰しています。第三に、令和6年8月施行の介護報酬改定では多床室の居住費が60円引き上げられ、医療保険との間に自己負担の差が生じています。第四に、家計における光熱・水道支出を勘案した基準額の見直しが論点となっています。入院時の光熱水費制度の現状入院時の光熱水費は、療養病床に入院する患者と一般病床に入院する患者で評価方法が異なります。療養病床に入院する65歳以上の者については、入院時生活療養費として1日当たりの総額と自己負担を国が定めています。一般所得者の場合、総額398円のうち自己負担が370円、保険給付が28円です。一般病床、精神病床、療養病床に入院する65歳未満の者については、光熱水費を入院料中で評価しています。この制度は、介護保険との均衡を図る観点から平成18年10月に創設されました。介護保険では平成17年10月より、介護病床を含む介護保険3施設における食費および居住費が原則として保険給付外とされました。この改定に伴い、同じ「住まい」としての機能を有する介護病床(介護保険)と療養病床(医療保険)の患者負担の均衡を図るため、入院時生活療養費が創設されました。制度創設時の基準額は総額398円(自己負担320円)でした。平成29年10月には、介護保険の居住費に係る基準費用額を勘案し、基準額(総額)を維持した上で自己負担額を50円引き上げ、370円としました。光熱水費を巡る現在の課題現行制度には3つの課題が指摘されています。第一の課題は、基準額の長期据え置きです。入院時生活療養費の光熱水費の基準額(総額)398円は、平成18年の創設時から据え置かれています。この間、光熱・水道費は大きく高騰しました。基準額が据え置かれていることが、病院経営に少なからず影響を及ぼしている状況です。第二の課題は、介護保険との負担差の拡大です。介護保険では、令和6年8月施行の介護報酬改定において対応が行われました。家計調査によると、高齢者世帯の光熱・水道費は令和元年調査に比べて上昇しています。この状況を踏まえ、介護保険では在宅で生活する者との負担の均衡を図る観点から、基準費用額(居住費)を60円引き上げました。この結果、介護保険の居住費の自己負担(430円)と医療保険の光熱水費の自己負担(370円)の間で、60円の差が存在しています。第三の課題は、医療機関の経営環境の悪化です。昨今の光熱・水道費は特に足下で大きく高騰しています。基準額が据え置かれている中での費用増加は、医療機関の経営を圧迫する要因となっています。療養病床を有する病院にとって、光熱水費の実費と基準額との乖離が経営課題となっています。今後の検討の方向性今回の中医協総会では、基準額見直しに向けた論点が示されました。論点は、近年の光熱・水道費の高騰を踏まえた対応を行う観点から、基準額の見直しについてどのように考えるかというものです。具体的には、家計における光熱・水道支出を勘案して行われた令和6年8月施行の介護報酬改定による多床室の居住費の基準費用額の引上げを踏まえた検討が求められています。検討にあたっては、複数の要素を総合的に勘案することが必要です。第一に、家計調査における高齢者世帯の光熱・水道費の動向です。令和4年の家計調査によれば、高齢者世帯の光熱・水道費は令和元年調査に比べて上昇しています。第二に、介護保険との整合性です。医療保険と介護保険は同じ社会保障制度の中で、患者・利用者の負担の均衡を図る必要があります。第三に、病院経営への影響です。療養病床を有する医療機関の経営実態を踏まえた検討が求められています。今後の診療報酬改定に向けて、これらの論点について議論が深められることが予想されます。基準額の見直しは、患者負担と病院経営の両面に影響を与える重要な課題です。中医協での議論を注視していく必要があります。まとめ中央社会保険医療協議会総会において、入院時の光熱水費の基準額見直しが議論されました。平成18年の制度創設以来据え置かれてきた基準額398円について、近年の光熱・水道費の高騰と令和6年8月施行の介護報酬改定を踏まえた対応が検討されています。家計における光熱・水道支出、介護保険との整合性、病院経営への影響を総合的に勘案した見直しが論点となっており、今後の診療報酬改定に向けた議論の動向が注目されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和8年度診療報酬改定に向けた議論:入院時の食費制度の現状と課題を中医協資料から読み解く
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会第625回では、入院時の食費・光熱水費について議論されました。令和7年4月に実施された食費基準額の引き上げを振り返るとともに、令和8年度診療報酬改定に向けた検討が行われています。食材費の高騰が続く中、医療機関が提供する食事の質を確保する観点から、1食あたり20円の引き上げが実施され、基準額は690円となりました。入院時の食費は医療の一環として提供されるものです。令和7年4月改定により、一般所得者の患者負担は1食510円、住民税非課税世帯は240円、低所得高齢者は110円に据え置かれました。医療機関は入院時食事療養(Ⅰ)または(Ⅱ)を選択でき、(Ⅰ)を届け出た場合は特別食加算や食堂加算を算定できます。特別食加算は1食76円で腎臓食や糖尿食などの疾病治療に必要な食事に適用され、現在32.5%の算定率となっています。入院時の食費制度の基本的な仕組み入院時に必要な食費は国が定めた仕組みで運用されています。この仕組みは、1食あたりの総額を「食事療養基準額」として設定し、患者が負担する「標準負担額」との差額を保険給付として支給するものです。入院時食事療養費は、保険給付額が食事療養基準額から標準負担額を差し引いた金額として計算されます。この制度は入院患者の年齢と病床の種類により区分されています。一般病床、精神病床、療養病床に入院する65歳未満の患者には入院時食事療養費が適用されます。一方、療養病床に入院する65歳以上の患者には、入院時生活療養費の食費部分として評価されます。療養病床の入院患者は食費に加えて居住費も負担することが特徴です。入院患者に提供される食事は医療の一環として位置づけられています。各患者の病状に応じて必要な栄養量が提供され、食事の質の向上と患者サービスの改善が求められます。管理栄養士や栄養士による専門的な栄養管理のもとで、医師との連携により個別的な医学的・栄養学的管理が行われています。令和7年4月に実施された食費基準額引き上げの内容食材費の継続的な高騰を受けて、令和7年4月に入院時の食費基準額が1食あたり20円引き上げられました。この引き上げは、令和6年6月に実施された30円の引き上げに続くもので、医療機関が質の高い食事を提供し続けるための措置です。基準額は670円から690円へと引き上げられ、医療機関の経営安定化が図られました。患者負担額は所得区分に応じて異なる設定となりました。一般所得者の自己負担は490円から510円へと20円引き上げられました。住民税非課税世帯の患者負担は230円から240円へと10円の引き上げにとどめられ、所得への配慮がなされました。住民税非課税世帯かつ所得が一定基準に満たない70歳以上の患者については、110円に据え置かれ、低所得高齢者への負担増加が回避されました。保険給付額は基準額と患者負担額の差額として自動的に調整されます。一般所得者の保険給付は180円、住民税非課税世帯では450円、低所得高齢者では580円となります。この仕組みにより、所得が低い患者ほど保険給付の割合が高くなり、医療へのアクセスが確保されています。入院時食事療養(Ⅰ)と(Ⅱ)の評価体系入院時食事療養には(Ⅰ)と(Ⅱ)の2つの区分があります。入院時食事療養(Ⅰ)は1食690円で評価され、届出を行った医療機関が算定できます。この区分では流動食のみを提供する場合は625円となります。入院時食事療養(Ⅱ)は届出が不要で、1食556円で算定されます。流動食のみの場合は510円です。入院時食事療養(Ⅰ)を届け出るには一定の要件を満たす必要があります。常勤の管理栄養士または栄養士が食事療養の責任者となることが求められます。医師、管理栄養士または栄養士による検食が毎食行われることも必須要件です。食事療養関係の各種帳簿の整備、病状により特別食を必要とする患者への特別食の提供、適時の食事提供、保温食器等を用いた適温の食事提供などが義務づけられています。令和6年時点で7,761施設が入院時食事療養(Ⅰ)を届け出ています。これらの医療機関では、質の高い食事療養を提供する体制が整備されています。多くの病院がこの基準を満たすことで、入院患者に適切な栄養管理と食事サービスが提供されています。特別食加算と食堂加算の算定要件特別食加算は疾病治療の直接手段として提供される食事に対する評価です。この加算は1食につき76円で、1日3食を限度として算定できます。医師が発行する食事箋に基づき、腎臓食、肝臓食、糖尿食、胃潰瘍食、貧血食、膵臓食、脂質異常症食、痛風食などの特別食が提供された場合に適用されます。令和6年の社会医療診療行為別統計では、入院時食事療養(Ⅰ)において32.5%の算定率となっています。特別食加算が適用される食事は厚生労働大臣が定めた基準を満たす必要があります。てんかん食、フェニールケトン尿症食、楓糖尿症食、ホモシスチン尿症食、ガラクトース血症食、治療乳、無菌食、特別な場合の検査食も対象です。単なる流動食や軟食は対象外となります。流動食のみを提供する患者には特別食加算を算定できません。食堂加算は入院患者の食事環境を評価する加算です。一定基準を満たす食堂を備えた病棟または診療所において、入院患者に食事が提供された場合に1日につき50円を算定できます。この加算は療養病棟に入院している患者を除くすべての入院患者が対象となります。食堂の設置や食器への配慮など、食事の提供を行う環境の整備が求められています。特別メニューの食事提供と患者負担入院患者に提供される食事に関する多様なニーズに対応するため、特別メニューの食事を提供することができます。患者から特別の料金の支払を受ける特別メニューの食事を別に用意し、一定の要件を満たした場合に妥当な範囲内の患者負担を求めることが認められています。複数メニューの選択では、1食あたり17円を標準とした社会的に妥当な額の支払を受けることができます。特別メニューの食事提供では患者への十分な情報提供が必須です。患者の自由な選択と同意に基づいて提供する必要があり、患者の意に反した提供は禁止されています。患者の同意がない場合は標準食を提供しなければなりません。各病棟内等の見やすい場所に特別メニューの食事のメニューおよび料金を掲示し、文書を交付してわかりやすく説明することが求められます。特別メニューの食事は通常の入院時食事療養の費用では提供が困難な内容でなければなりません。高価な材料を使用し特別な調理を行う場合や、標準食の材料と同程度の価格でも異なる材料を用いるため別途費用がかかる場合が該当します。当該患者の療養上支障がないことについて、診療を担う保険医の確認を得る必要があります。医療機関は特別メニューの食事を提供することにより、それ以外の食事の内容および質を損なうことがないように配慮しなければなりません。まとめ入院時の食費制度は食材費の高騰に対応しながら、医療の質を維持し、低所得者への配慮を両立させる仕組みです。令和7年4月に実施された基準額引き上げにより、一般所得者の患者負担は1食510円、住民税非課税世帯は240円、低所得高齢者は110円に据え置かれ、所得区分に応じた負担設定となりました。医療機関は入院時食事療養(Ⅰ)を届け出ることで、特別食加算や食堂加算を算定でき、質の高い食事療養を提供する体制が評価されています。中医協では令和8年度診療報酬改定に向けて、この制度の効果検証と今後の方向性について議論が続けられています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
中医協第625回で議論されたオンライン診療の評価見直し:3つの診療形態と個別課題を解説
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会第625回において、情報通信機器を用いた診療についての議論が行われました。本議論では、オンライン診療の適正な推進と評価拡大を目的として、3つの診療形態における現状課題と今後の方向性が示されました。今回の議論の要点は、第一にD to P(医師対患者)における適正推進のための評価のあり方、第二にD to P with D(患者が医師といる場合)の対象拡大と評価見直し、第三にD to P with N(患者が看護師等といる場合)の評価明確化、第四に外来栄養食事指導料等の個別事項についての制度改善です。D to P:オンライン診療の適正推進に向けた課題と対応D to Pは医師と患者が情報通信機器を用いて直接診療を行う形態です。この形態では、患者側に医療従事者が同席せず、医師が初診料・再診料・外来診療料、各種医学管理料を算定できます。情報通信機器を用いた診療に係る報告書によると、「自身では対応困難な疾患・病態の患者や緊急性がある場合」として他の医療機関へ紹介を実施した割合は、患者の所在が医療機関と同一の場合で0.49%、患者の所在が医療機関と異なる場合で0.59%でした。この結果から、緊急時や対応困難な症例における他医療機関との連携体制に課題があることが明らかになりました。具体的には、事前合意なく患者に他医療機関への受診を指示していた事例や、医師が国外から診療を実施した事例が報告されています。オンライン診療の適切な実施に関する指針や医療広告ガイドラインを遵守していない事例も確認されました。これらの課題を踏まえ、中医協では直接の対面診療を行える体制の整備状況について、施設基準の更なる明確化を検討する方針が示されました。D to P with D:遠隔連携診療の対象拡大と評価見直しD to P with Dは患者が医師といる場合にオンライン診療を行う形態です。現在の診療報酬では、遠隔連携診療料として、難病患者及びてんかん患者に対する専門医との連携が評価されています。遠隔連携診療料は令和2年度に新設されて以降、算定回数は限られています。令和6年度入院・外来医療等における実態調査によると、過去1年間にD to P with Dによるオンライン診療を実施した医療機関は1.0%(3,546施設中37施設)でした。遠隔連携診療料を算定できる状況以外でも、医療的ケア児との連携が26.9%、訪問診療における眼科・皮膚科・耳鼻科等の専門医との連携が15.4%の施設で実施されていました。D to P with D型やD to D型の遠隔医療については、緊急性が高い状況や専門の医師による対面診療が困難な状況下において、有用性が高いことが考えられます。オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針における遠隔医療に期待される役割を踏まえ、中医協ではD to P with D型及びD to D型の遠隔医療の診療報酬上の評価を一定の考え方を踏まえて検討する方針が示されました。皮膚科領域における活用事例として、日本臨床皮膚科医会及び日本看護協会が実施した調査結果が示されました。この調査では、訪問看護を利用する566名の在宅療養者のうち399名(70.5%)が何らかの皮膚疾患を有していました。そのうち114名(28.1%)が未治療であり、理由として「近くに往診する皮膚科医がいない」「皮膚科は往診しないと思っていた」等が挙げられています。このような地域における皮膚科医療へのニーズに対応するため、オンライン診療の活用により皮膚科の専門的医療へのアクセスを改善することが有益であると考えられます。D to P with N:看護師等遠隔診療補助の評価明確化D to P with Nは患者が看護師等といる場合にオンライン診療を行う形態です。令和6年度診療報酬改定では、へき地診療所及びへき地医療拠点病院において、適切な研修を修了した医師がD to P with Nを実施できる体制を確保している場合の評価として、看護師等遠隔診療補助加算(50点)が新設されました。規制改革実行計画(令和7年6月13日閣議決定)において、D to P with Nにおける診療報酬の算定方法に不明確な部分があるとの指摘がありました。D to P with Nとして想定される診療形態には、看護師等の所属や定期的な訪問の有無等の違いがあります。訪問看護については介護保険との整理に留意が必要です。令和7年度厚生労働科学特別研究事業の調査によると、D to P with Nで実際に実施している診療の補助行為として、検査では採血、咽頭拭い液を用いた検査、尿検査、心電図等が挙げられました。処置・注射としては点滴注射、創傷処置、皮膚科軟膏処置等が挙げられました。中医協では、看護師等の所属や定期的な訪問時に行われるか等の看護の提供形態の違いを踏まえて、看護師の訪問に係る評価を明確化する方針が示されました。個別事項:外来栄養食事指導料の評価明確化外来栄養食事指導料については、令和2年度から初回の情報通信機器等の活用が評価され、令和4年度からは2回目以降も算定可能となっています。しかし、算定回数は極めて少なく、規制改革実施計画において、オンライン診療の特性を十分に活かした活用が進まない算定要件となっていると指摘されています。外来栄養食事指導料は、管理栄養士が医師の指示に基づき、初回は概ね30分以上、2回目以降は概ね20分以上の栄養指導を行った場合に算定できます。情報通信機器等を用いる場合の要件として、事前に対面による指導と情報通信機器等による指導を組み合わせた指導計画を作成することが求められています。中医協では、情報通信機器を活用した外来栄養食事指導料の推進の観点から、オンラインのみでの実施も可能であることの明確化や、電話と情報通信機器を同様としている取扱いについて検討する方針が示されました。この見直しにより、栄養指導におけるオンライン診療の活用が進むことが期待されます。まとめ:遠隔医療の推進に向けた評価見直しの方向性中医協第625回総会では、情報通信機器を用いた診療について、D to P、D to P with D、D to P with Nの3つの診療形態と個別事項における現状課題と今後の方向性が議論されました。今後の診療報酬改定では、オンライン診療の適正推進と評価拡大により、地域医療における専門医へのアクセス改善や、へき地医療における医療提供体制の充実が期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
療養・就労両立支援指導料の見直し:算定率0%の現状から考える制度改善の方向性
令和7年11月7日に開催された中央社会保険医療協議会総会において、療養・就労両立支援指導料の見直しが議論されました。この指導料は平成30年度に新設されましたが、算定回数が極めて低調な状況が続いています。中医協は、がん診療連携拠点病院等における算定率が0%という実態調査結果を踏まえ、制度の抜本的な見直しを論点として提示しました。今回の議論では、対象疾患の限定撤廃と算定期間の延長という2つの主要論点が示されました。対象疾患については、現在は悪性新生物、脳梗塞や脳出血などの急性発症した脳血管疾患、慢性肝疾患、心疾患、糖尿病、若年性認知症、指定難病その他これに準ずる疾患に限定されていることが、両立支援を必要とする多くの患者を排除している問題があります。算定期間については、初回から3月以内という制限が実態と乖離しており、実際の平均指導期間は6.8ヶ月となっています。これらの課題解決に向けた制度改善が、次期診療報酬改定での重要な検討事項となります。療養・就労両立支援指導料の制度概要と算定実績療養・就労両立支援指導料は、就労中の患者の療養と就労の両立を支援するため、平成30年度診療報酬改定で新設された評価項目です。この指導料の算定要件は、患者と事業者が共同作成した勤務情報を踏まえた療養指導の実施、患者の事業場の産業医等への情報提供、情報提供後の勤務環境変化を踏まえた継続的な療養指導という3つの要素から構成されています。初回算定で800点、2回目以降は初回算定月またはその翌月から起算して3月を限度として400点を算定できます。この指導料の算定回数は、新設以降増加傾向にあるものの極めて低調な水準です。令和6年8月審査分のデータによると、初回算定が116回、2回目以降の算定が89回にとどまっています。相談支援加算の届出医療機関数は965施設(病院457施設、診療所508施設)まで増加しましたが、算定回数は月31回と、届出施設数に対して著しく少ない状況が続いています。この乖離は、制度を整備しても実際の運用段階で多くの課題が存在することを示しています。がん診療連携拠点病院等を対象とした実態調査では、令和6年8月から10月の期間に療養・就労両立支援指導料を算定した施設は0%でした。算定しない理由として、専門職員の確保困難が52.6%で最も多く、就労上の留意点指導が困難が28.9%、患者から勤務情報を受け取ることが困難が26.3%と続きました。これらの結果は、制度設計と現場の実態が大きく乖離していることを明確に示しています。対象疾患の限定がもたらす課題現行制度における対象疾患は、悪性新生物、脳梗塞や脳出血などの急性発症した脳血管疾患、慢性肝疾患、心疾患、糖尿病、若年性認知症、指定難病その他これに準ずる疾患に限定されています。この限定は平成30年の制度新設時から段階的に拡大されてきましたが、就労の状況を考慮した療養指導を必要とする患者はこれらの疾患に限られていません。両立支援コーディネーター基礎研修修了者へのフォローアップ調査によると、実際に両立支援に携わった疾患は、がんが24%で最も多いものの、うつ病などのこころの病気が21%と高い割合を占めています。この調査結果は、現行の対象疾患では精神疾患が含まれていないという重要な課題を浮き彫りにしています。脳卒中が12%、指定難病が11%、糖尿病が9%、心疾患が9%、骨折などの外傷が7%という結果を見ると、対象疾患に含まれない疾患でも相当数の両立支援ニーズが存在することがわかります。特に精神疾患については、厚生労働省が令和7年3月に「メンタルヘルス不調者の主治医向け支援マニュアル」を作成しており、両立支援の枠組みが整備されつつあります。厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の参考資料として、主な疾患の留意事項を作成しています。がん、難病、肝疾患、脳血管疾患、心疾患、糖尿病については既に留意事項が整備されており、令和7年10月には慢性腎臓病の手引きも作成されました。これらの疾患別ガイドラインの整備状況を考慮すると、対象疾患の限定を見直し、より幅広い疾患を対象とすることが妥当と考えられます。算定期間の制限と実態の乖離現行制度では、2回目以降の指導について初回算定日の属する月またはその翌月から起算して3月を限度としています。この期間制限は、令和2年度診療報酬改定で2回目以降の評価が新設された際に設定されたものです。制度新設当初は初回のみの評価でしたが、診療情報提供後の勤務環境変化を踏まえた継続的な指導の重要性が認識され、2回目以降の評価が追加されました。入院・外来医療等における実態調査によると、算定期間の要件を満たさなかったため算定できなかった事例の平均指導期間は6.8ヶ月でした。この結果は、実際の両立支援では3月を超える継続的な指導が必要とされていることを示しています。疾患の治療経過や職場復帰のプロセスを考慮すると、3月という期間は実態に合っていない可能性があります。特に、治療の副作用が長期にわたる場合や、段階的な職場復帰を支援する場合には、より長期の指導期間が必要となります。両立支援の実務においては、初回の勤務情報提供と主治医意見書の作成だけでなく、その後の勤務環境の調整状況の確認、治療計画の変更に伴う就労上の配慮事項の見直し、患者の心理的支援など、多岐にわたる継続的なサポートが求められています。厚生労働省の両立支援ガイドラインでも、企業、労働者、主治医、産業医等の連携による継続的な支援プロセスが示されており、3月という期間制限はこの支援プロセスの実態と整合していません。専門職員確保の困難性と施設基準の課題療養・就労両立支援指導料の算定には、就労上の留意点に係る指導を医師または医師の指示を受けた看護師、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師が行う必要があります。相談支援加算を算定する場合には、これらの専門職を専任で配置し、かつ厚生労働省の定める両立支援コーディネーター養成研修を修了していることが求められます。がん診療連携拠点病院等の実態調査では、専門職員の確保困難が算定しない理由の52.6%を占め、最大の課題となっています。この専門職員確保の困難性には、複数の要因が存在します。両立支援コーディネーター養成研修の受講機会が限られていること、専任配置の要件が厳しいこと、そもそも看護師や社会福祉士等の専門職が不足していることなどが挙げられます。特に、患者サポート体制充実加算との兼任が認められているとはいえ、実際には両立支援業務に専念できる職員を確保することが困難な医療機関が多くあります。就労上の留意点に係る指導が困難という回答が28.9%を占めたことも、重要な課題を示しています。両立支援には、医学的知識に加えて労働法規や産業保健の知識、企業との調整能力など、多様な専門性が求められます。現場の医療従事者がこれらの知識やスキルを習得し、実践することは容易ではありません。厚生労働省は各疾患のマニュアルを整備していますが、これらを効果的に活用するための研修体制の充実が必要です。患者からの勤務情報入手の課題患者から勤務情報を記載した文書を受け取ることが困難という回答が26.3%を占めたことは、両立支援の入口段階での課題を示しています。療養・就労両立支援指導料の算定には、患者と事業者が共同して作成した勤務情報を記載した文書が必要です。この文書には、現在の勤務状況、就業上の配慮が必要な事項、事業者の確認などが含まれ、両立支援の基礎となる重要な情報が記載されます。患者が勤務情報を医療機関に提出できない理由として、職場に病気を開示していないケース、企業側の協力が得られないケース、患者自身が両立支援制度を知らないケースなどが考えられます。厚生労働省は「治療と仕事の両立支援カード」を作成し、従来の勤務情報提供書よりも簡便な手続きで両立支援を進められる仕組みを整備しました。このカードは、患者が配慮を受けたいという意思表示をすることから始まり、企業の産業医等または人事労務担当者等の確認を経て主治医に提出される流れとなっています。両立支援を推進するためには、医療機関だけでなく企業側の理解と協力が不可欠です。厚生労働省は、都道府県の産業保健総合支援センターによる企業支援、地域両立支援推進チームの設置、ポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」による情報発信など、多面的な取組を進めています。これらの取組により、企業側の両立支援に対する理解が深まり、患者が勤務情報を提出しやすい環境が整備されることが期待されます。中医協が示した見直しの論点中医協は、療養・就労両立支援指導料について2つの主要な論点を提示しました。第一の論点は、指導に至るプロセスや対象疾患の限定を見直すことです。現行制度では対象疾患が7疾患に限定されていますが、就労の状況を考慮した療養指導を必要とする患者はこれらの疾病に限られていません。患者に関する勤務情報が事業者の確認を受けた上で医療機関に提供されることや、就業の継続に配慮が必要な患者が対象となることなどを前提として、療養と就労の両立支援をさらに推進する観点から見直しを検討するとしています。第二の論点は、2回目以降指導の算定上限の見直しです。実態調査では、算定期間の要件である3月以上の期間にわたって指導が継続されている実態が明らかになりました。平均指導期間が6.8ヶ月という結果は、現行の3月という算定上限が実態と大きく乖離していることを示しています。継続的な両立支援の重要性を考慮すると、算定上限の延長は妥当な方向性といえます。これらの論点は、療養・就労両立支援制度を実効性のあるものにするための重要な見直しです。対象疾患の拡大により、精神疾患や慢性腎臓病、骨折などの外傷など、現在対象外となっている疾患の患者も制度を利用できるようになります。算定期間の延長により、治療の長期化や段階的な職場復帰に対応した継続的な支援が可能となります。これらの見直しにより、制度の利用促進と両立支援の質の向上が期待されます。まとめ療養・就労両立支援指導料は、治療と仕事の両立という重要な社会課題に対応する制度として平成30年度に新設されましたが、算定実績が極めて低調な状況が続いています。中医協が示した実態調査結果は、専門職員の確保困難、就労上の留意点指導の困難性、患者からの勤務情報入手の困難性という3つの主要な課題を明らかにしました。これらの課題は、制度設計と現場の実態が乖離していることを示しており、抜本的な見直しが必要です。中医協が提示した2つの論点、すなわち対象疾患の限定見直しと算定期間の延長は、制度を実効性のあるものにするための重要な方向性です。対象疾患の拡大により、現在制度の対象外となっている精神疾患などの患者も両立支援を受けられるようになり、算定期間の延長により実態に即した継続的な支援が可能となります。次期診療報酬改定において、これらの論点がどのように具体化されるか、注目が集まっています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
令和6年度診療報酬改定の総括:外来診療評価の5つの重要改定ポイント
令和7年7月16日に開催された中央社会保険医療協議会総会第612回では、外来診療に係る診療報酬上の評価について重要な議論が行われました。高齢化の進展と生産年齢人口の減少を背景に、外来医療提供体制の再構築が急務となっています。今回の議論では5つの重点テーマが設定されました。初・再診料等の基本診療料の評価、令和7年4月施行のかかりつけ医機能報告制度を踏まえた評価体系、令和6年度改定で大幅に見直された生活習慣病管理の評価、特定機能病院等における外来機能分化の推進、そして情報通信機器を用いた診療の適切な推進です。本稿では、これら5つのテーマについて診療報酬上の評価の現状と今後の方向性を詳しく解説します。初・再診料等の評価:病診機能分化を促進する基本診療料体系初・再診料は外来診療の基本となる診療報酬であり、医療機関の機能分化を促進する重要な役割を担っています。令和6年度現在、初診料は診療所291点、病院216点と設定されています。この評価は、診療所が地域における日常的な医療を担い、病院が専門的・入院医療を担うという機能分化を反映したものです。平成24年度改定以降、病院と診療所で異なる評価体系が維持され、外来医療における役割分担が明確化されてきました。再診料と外来管理加算の評価体系も同様の考え方に基づいています。再診料は診療所75点、病院76点となっており、外来管理加算は73点です。外来管理加算は、処置やリハビリテーションを行わずに計画的な医学管理を行った場合に算定できる評価です。特定機能病院や大規模病院においては、紹介割合・逆紹介割合による減算規定が設けられています。令和4年度改定では紹介受診重点医療機関が追加され、一般病床200床以上の医療機関が対象となりました。この仕組みにより、高度専門医療を担う医療機関への患者集中を防ぎ、地域の診療所との連携を促進しています。令和6年度の調査では、対象病院における紹介割合・逆紹介割合は令和5年度と比較して不変またはやや増加しており、制度が一定の効果を上げていることが確認されています。かかりつけ医機能の評価:報告制度施行を見据えた体制整備の推進かかりつけ医機能の評価は、地域包括ケアシステムの構築において中核的な役割を果たしています。令和7年4月から医療法に基づく「かかりつけ医機能報告制度」が施行されます。この制度は、各医療機関が担うかかりつけ医機能の内容を都道府県に報告し、国民・患者への情報提供を強化するものです。診療報酬においても、この制度整備を踏まえた評価体系の見直しが議論されています。現行の診療報酬では、機能強化加算と地域包括診療料・加算がかかりつけ医機能を評価する中心的な項目です。機能強化加算は初診時に80点を算定でき、地域包括診療料・加算、小児かかりつけ診療料、在宅時医学総合管理料等の届出を要件としています。この加算は、服薬管理、専門医療機関への紹介、健康管理に係る相談、時間外診療に関する情報提供等を評価するものです。令和3年までは届出医療機関数が増加傾向でしたが、近年は横ばいとなっています。地域包括診療料・加算は、複数の慢性疾患を有する患者に対して継続的かつ全人的な医療を提供することを評価します。対象疾患は高血圧症、糖尿病、脂質異常症、慢性心不全、慢性腎臓病、認知症の6疾病のうち2つ以上です。地域包括診療料1は1,660点、地域包括診療料2は1,600点で月1回算定できます。地域包括診療加算1は28点、加算2は21点で1回につき算定可能です。これらの評価には、24時間対応体制の整備、在宅医療の提供、介護保険制度との連携など、包括的な要件が設定されています。小児かかりつけ診療料は、継続的に受診する未就学児に対して包括的な小児医療を提供する体制を評価するものです。処方箋を交付する場合の初診時652点、再診時458点など、小児の特性に配慮した評価体系が設けられています。生活習慣病管理の評価:検査包括型と非包括型の二本立て体系令和6年度診療報酬改定では、生活習慣病管理の評価が大幅に見直されました。最も重要な変更は、生活習慣病管理料が生活習慣病管理料(Ⅰ)と生活習慣病管理料(Ⅱ)の二本立てとなったことです。生活習慣病管理料(Ⅰ)は検査等を包括する従来型の評価で、脂質異常症610点、高血圧症660点、糖尿病760点となっています。新設された生活習慣病管理料(Ⅱ)は検査等を包括せず333点で、医療機関が患者の状態に応じて柔軟に選択できる仕組みです。この改定に伴い、特定疾患療養管理料の対象疾患から糖尿病、脂質異常症、高血圧が除外されました。その結果、特定疾患療養管理料の算定回数は令和4年の約2,632万回から令和6年には約1,021万回へと大幅に減少しました。一方、生活習慣病管理料の算定回数は約31万回から約1,392万回へと大幅に増加しています。算定医療機関数も、生活習慣病管理料では約3,550施設から約6万351施設へと大幅に増加しました。主傷病名が糖尿病、高血圧症、脂質異常症である外来患者の算定状況を見ると、令和4年では外来管理加算が最も多く算定されていましたが、令和6年では生活習慣病管理料(Ⅱ)が最多となっています。この変化は、新たな評価体系が医療現場に浸透していることを示しています。生活習慣病管理料の要件も簡素化されました。療養計画書の記載項目が整理され、令和7年から運用開始される電子カルテ情報共有サービスを活用する場合は血液検査項目の記載が不要となりました。また、月1回以上の総合的な治療管理を行う要件が廃止され、医療機関の負担軽減が図られています。一方で、多職種との連携が望ましい要件として追加され、糖尿病患者への歯科受診推奨が明確化されるなど、包括的な疾病管理の重要性が強調されています。外来機能分化の推進:紹介・逆紹介による医療連携の強化外来機能の分化は、医療資源の効率的配分と患者の適切な医療機関選択を実現するための重要な政策です。病院の1日平均外来患者数は長期的に減少傾向にあります。紹介なしで外来受診した患者の割合も減少しており、令和5年は特定機能病院で34.1%、地域医療支援病院で58.5%となっています。これらのデータは、医療機関間の機能分化と連携が徐々に進展していることを示しています。紹介割合・逆紹介割合による初診料・外来診療料の減算規定は、外来機能分化を推進する主要な仕組みです。対象となる医療機関は、特定機能病院、地域医療支援病院(一般病床200床以上)、紹介受診重点医療機関(一般病床200床以上)、許可病床400床以上の病院(一般病床200床以上)です。令和6年度の調査では、これらの医療機関における紹介割合・逆紹介割合は令和5年度と比較して不変またはやや増加していました。減算規定の対象病院における再診患者の約6割以上は2年以内に初診料の算定がない患者であり、平均して8割程度の患者が直近6か月以内に再診を受けています。外来診療料を算定した患者の主傷病名を見ると、特定機能病院では悪性腫瘍が約18%、指定難病が約4%、小児慢性特定疾病が約16%を占めています。これらのデータは、継続的な専門医療を必要とする患者が一定数存在することを示しています。医療機関間の連携を促進する評価として、診療情報提供料(Ⅰ)、診療情報提供料(Ⅱ)、連携強化診療情報提供料が設けられています。診療情報提供料の算定回数は令和2年に低下しましたが、令和3年以降は増加しています。特に連携強化診療情報提供料は令和6年に算定回数が大きく増加しており、医療機関間の情報連携が強化されていることがうかがえます。逆紹介を行う上での課題として、治療管理上の不安を持つ患者の理解を得ることの困難さや、複数科を受診している患者の診療科間調整の難しさが挙げられています。いわゆる「2人主治医制」など、病院の専門医師と地域のかかりつけ医師が連携しながら共同で継続的に治療管理を行う取組も一部で実施されており、今後の展開が注目されます。情報通信機器を用いた診療の評価:オンライン診療の適切な推進令和4年度診療報酬改定では、オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しを踏まえ、情報通信機器を用いた診療の評価が大幅に見直されました。情報通信機器を用いた初診料は251点、再診料は73点、外来診療料は73点と設定されています。初診料の点数水準は、対面診療の初診料288点と新型コロナウイルス感染症の時限的・特例的対応の214点の中間程度に設定されました。この水準設定は、オンライン診療では触診・打診・聴診等が実施できない一方で、オンライン診療のみで診療を終え得ることや、国民にオンラインでも適切に診療を届けていくことの重要性を勘案したものです。情報通信機器を用いた診療の届出医療機関数は増加傾向にあり、初・再診料等の算定回数も令和5年4月以降増加しています。令和5年における情報通信機器を用いた初診料等の算定回数は初・再診料等全体の0.063%を占めています。年齢階級別では、対面診療と比較して若年者の算定割合が高く、再診料・外来診療料では年齢構成に地域差が見られます。オンライン診療の算定要件では、オンライン診療の適切な実施に関する指針に沿った診療の実施が求められています。保険医療機関においては対面診療を提供できる体制を有すること、患者の状況によって対応が困難な場合には他の医療機関と連携して対応できる体制を有することが要件となっています。医療機関と患者との間の時間・距離要件や、オンライン診療の実施割合の上限については要件として設定されていません。遠隔連携診療料(D to P with D)は令和2年度に新設されましたが、算定回数は限られています。過去1年間にD to P with Dによるオンライン診療を実施した医療機関は1.0%にとどまっています。しかし、医療的ケア児に対する診療や訪問診療における眼科・皮膚科・耳鼻科等の専門医との連携など、遠隔連携診療料を算定できる状況以外でも連携事例が見られます。令和6年度診療報酬改定では看護師等遠隔診療補助加算(D to P with N)が新設されました。届出医療機関数は令和7年4月1日時点で78施設、研修受講者は合計約4,000名程度となっています。規制改革実行計画では、D to P with Nにおける診療報酬の算定方法に不明確な部分があるとの指摘があり、今後の明確化が期待されています。まとめ:外来医療提供体制の再構築に向けて中医協総会第612回で議論された外来診療に係る診療報酬上の評価は、今後の外来医療提供体制の方向性を示す重要な内容でした。初・再診料等による医療機関の機能分化、かかりつけ医機能報告制度を踏まえた評価体系の整備、生活習慣病管理の効率化と充実、特定機能病院等における外来機能分化の推進、オンライン診療の適切な推進という5つのテーマは、いずれも高齢化の進展と生産年齢人口の減少という社会構造の変化に対応するための重要な施策です。令和6年度診療報酬改定の影響を検証しつつ、次期改定に向けた継続的な議論が求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe