【2025年福祉制度改革】第31回福祉部会が示す5つの論点と検討の方向性
令和7年11月17日、第31回社会保障審議会福祉部会が開催されました。本部会では、地域共生社会の在り方検討会議や2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会の議論を踏まえ、福祉制度改革の具体的な方向性が示されました。本稿では、これまでのご意見を踏まえた論点に関する議論の状況について解説します。福祉部会で示された論点は5つの柱で構成されています。第1に、地域共生社会の更なる展開として、包括的な支援体制整備の推進と過疎地域向けの新たな仕組みの創設が検討されています。第2に、身寄りのない高齢者等への対応として、日常生活自立支援事業を拡充・発展させた新たな第二種社会福祉事業の創設が提案されています。第3に、社会福祉連携推進法人制度の見直しとして、一定の要件下での社会福祉事業の実施が可能となる方向性が示されました。第4に、災害福祉支援体制の強化として、DWAT(災害派遣福祉チーム)の法制化が検討されています。第5に、共同募金事業について、寄附募集禁止規定の撤廃と準備金使途の拡大が提案されています。地域共生社会の更なる展開について地域共生社会の実現に向けた取組として、包括的な支援体制整備の推進と過疎地域等における新たな仕組みの創設が検討されています。2040年に向けて人口減少と単身世帯の増加が進む中、地域で支え合う社会の実現がより一層重要となっています。包括的な支援体制整備については、重層的支援体制整備事業の質の向上が課題となっています。現状では、事業実施に向けた検討プロセスや事業評価が十分に行われていない状況が見られます。検討の方向性として、事業実施にあたって地域資源の把握や関係者との対話等の検討プロセスを経ることを要件とすべきとされています。重層的支援体制整備事業実施計画についても、必須記載事項として目標・評価等に関する事項を追加し、計画の定期的な見直しを行うことが求められています。市町村における体制整備の推進も重要な論点です。重層的支援体制整備事業を実施していない市町村においても支援会議の活用を可能とする等により、体制整備を促進すべきとされています。地域住民等と支援関係機関の連携・協働を図るため、市町村が協力団体を委嘱できる仕組みの創設等も検討されています。過疎地域等における新たな仕組みについては、介護・障害・こども・生活困窮分野の相談支援・地域づくり事業を一本化する方向性が示されています。過疎地域等では担い手不足が深刻化しており、現行の重層的支援体制整備事業の実施が困難な状況にあります。新たな仕組みでは、分野横断的な配置基準を設け、一次相談対応と専門的相談対応を構造化することで、小規模自治体でも実施可能な体制を構築することが目指されています。身寄りのない高齢者等への対応・成年後見制度の見直しへの対応について身寄りのない高齢者等が地域で安心して自立した生活を続けられるよう、新たな第二種社会福祉事業の創設が検討されています。頼れる身寄りがいないことにより、入院・入所の手続等支援や死後事務支援などが必要とされる高齢者等への対応が課題となっています。新たな事業の概要として、日常生活自立支援事業を拡充・発展させた事業が提案されています。判断能力が不十分な人や頼れる身寄りがいない高齢者等に対して、日常生活支援、円滑な入院・入所の手続支援、死後事務支援などを提供することが想定されています。この事業は、資力が十分でなくても利用できるよう、利用者のうち一定割合以上が無料又は低額の料金で利用できる事業とする方向性が示されています。自治体の役割についても明確化が検討されています。身寄りのない高齢者等への支援は社会福祉法第106条の3に基づく「地域生活課題」に含まれることを明確化し、大臣指針や市町村地域福祉計画の計画策定ガイドラインにおいて、支援に係る事項を明記する方向性が示されています。事業者に対するチェック体制として、運営適正化委員会による助言・勧告の実施や、適正な事業運営の確保策を盛り込んだガイドライン等の策定も検討されています。社会福祉法人制度・社会福祉連携推進法人制度の在り方について社会福祉連携推進法人制度の活用を一層促進するため、制度の見直しが検討されています。人口減少が進む過疎地域等では、法人単独では事業を実施することが困難な状況にあり、複数の法人間での連携・協働による経営基盤の強化が求められています。社会福祉連携推進法人による社会福祉事業の実施について、一定の要件を満たす場合には可能とする方向性が示されています。現行制度では社会福祉連携推進法人は社会福祉事業を行うことができませんが、地域住民に必要不可欠な事業を維持し、利用者を保護する観点から、第二種社会福祉事業及び社会福祉事業以外の社会福祉を目的とする福祉サービスの実施を可能とすることが検討されています。その際、当該地域において福祉ニーズを充足できていないこと、他のサービス事業主体の参入が期待できないこと、連携推進業務を行う体制が確保されていることが要件として示されています。既存施設の土地・建物の有効活用についても検討が進められています。社会福祉連携推進法人が社員法人間の土地・建物の貸付に関する支援業務を行うことや、社会福祉法人の解散時における残余財産の帰属先の拡大が議論されています。解散した社会福祉法人の土地・建物について、社会福祉事業を現に行っていない地方公共団体であっても、地域に不可欠な事業の維持のために有効活用する場合には帰属を受けることができるようにする方向性が示されています。災害に備えた福祉的支援体制について令和6年能登半島地震の教訓を踏まえ、平時からの災害福祉支援体制の整備とDWATの法制化が検討されています。災害救助法の改正により災害時の福祉支援は法定化されましたが、平時からの体制整備については未だ法制化されていない状況にあります。平時からの連携体制の構築について、包括的な支援体制の整備において「防災」との連携を加えることが提案されています。地域福祉計画の記載事項に災害福祉に関する事項を追加し、市町村地域福祉計画においては防災関連施策や災害ボランティア活動との連携・協力内容、福祉サービス提供体制の維持方策等を記載することが求められる方向性が示されています。都道府県地域福祉支援計画においては、DWATの整備状況や災害時における役割・実施内容について記載することが検討されています。DWATの法制化については、災害時における福祉従事者の確保を可能とするため、登録制度の整備と研修・訓練の実施に関する規定を設けることが提案されています。国が登録名簿の管理や研修を実施するとともに、都道府県においても研修・訓練の機会提供等を行うよう努めることとする方向性が示されています。DWATチーム員の派遣元使用者に対する配慮義務や、チーム員への秘密保持義務についても規定を設けることが検討されています。共同募金事業の在り方について共同募金事業が地域福祉を支える役割を果たし続けられるよう、寄附募集禁止規定の撤廃と準備金使途の拡大が検討されています。共同募金事業は戦後間もなく開始されて以降、地域福祉の推進に大きな役割を果たしてきましたが、時代の変化に対応した見直しが求められています。寄附募集禁止規定については、共同募金の配分を受けた者に対する制限を撤廃する方向性が示されています。現行では配分を受けた者への寄附募集が制限されていますが、共同募金の配分の有無によって公平性を考慮する必要性が薄れつつあることに加え、この制限が民間支援に逆行し時代にそぐわなくなってきているとの認識が示されています。撤廃にあたっては、共同募金事業が引き続き包括指定寄附金の対象となることを前提に検討を行うべきとされています。準備金の使途についても拡大が検討されています。現行では災害時に限定されている準備金の積立について、公的制度だけでは対応困難な社会課題への取組や地域のモデル的な取組など、一定規模の継続事業に対しても取崩ができるようにすることが提案されています。その際、使途の透明性の確保や準備金不足とならないよう一定の取崩上限の目安を設定することが求められています。まとめ第31回福祉部会では、2040年に向けた福祉制度改革の具体的な方向性が示されました。地域共生社会の更なる展開として、包括的な支援体制整備の推進と過疎地域向けの新たな仕組みの創設が検討されています。身寄りのない高齢者等への対応として、新たな第二種社会福祉事業の創設が提案され、社会福祉連携推進法人制度については社会福祉事業の実施を可能とする見直しが進められています。災害福祉支援体制の強化としてDWATの法制化が検討され、共同募金事業については規制緩和による活性化が目指されています。これらの論点について、今後さらに具体的な検討が進められる見込みです。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
【速報】令和8年度診療報酬改定の基本方針|4つの視点と重点課題を徹底解説
令和7年11月20日、第204回社会保障審議会医療保険部会において、令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)が示されました。本稿では、この骨子案の内容を解説します。今回の骨子案は、4つの基本認識と4つの基本的視点で構成されています。基本認識では、物価・賃金上昇への対応、2040年を見据えた医療提供体制の構築、医療DXの推進、制度の持続可能性確保が掲げられました。基本的視点では、物価・賃金・人手不足への対応を「重点課題」に位置付け、医療機関の機能分化・連携、安心・安全で質の高い医療の推進、効率化・適正化の4つの方向性が示されています。改定に当たっての4つの基本認識骨子案では、令和8年度改定の前提となる4つの基本認識が示されています。第一に物価・賃金上昇への対応、第二に2040年を見据えた医療提供体制の構築、第三に医療DXとイノベーションの推進、第四に制度の安定性・持続可能性の確保です。第一の基本認識は、日本経済が新たなステージに移行しつつある中での物価・賃金上昇、人口構造の変化や人口減少の中での人材確保、現役世代の負担抑制努力の必要性です。医療分野は公定価格によるサービス提供が太宗を占めるため、経済社会情勢の変化に機動的な対応を行うことが難しい状況にあります。このため、医療機関等の経営の安定や現場で働く幅広い職種の賃上げに確実につながる的確な対応が必要とされています。第二の基本認識は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築です。85歳以上人口が増加し、高齢者人口には地域差が生じることが見込まれます。こうした変化に対応するため、「治す医療」と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療提供体制を構築する必要があります。第三の基本認識は、医療の高度化や医療DX、イノベーションの推進による安心・安全で質の高い医療の実現です。デジタル化された医療情報の利活用促進や、AI・ICT等の活用による医療DXの推進が、効果的・効率的かつ安心・安全で質の高い医療の実現に重要とされています。第四の基本認識は、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保と経済・財政との調和です。国民皆保険を堅持し次世代に継承するため、経済・財政との調和を図りつつ、効率的・効果的な医療政策を実現することが不可欠とされています。【重点課題】物価・賃金・人手不足への対応4つの基本的視点のうち、「物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応」が重点課題に位置付けられました。医療機関等の経営悪化と人材確保の困難さを踏まえ、物価高騰への対応と医療従事者の処遇改善が急務とされています。医療機関等が直面する課題として、人件費、医療材料費、食材料費、光熱水費及び委託費等の物件費の高騰が挙げられています。2年連続で5%を上回る賃上げ率となった春闘等により全産業において賃上げ率が高水準となる中、医療分野では事業収益の悪化を背景に全産業の賃上げ水準から乖離し、人材確保も難しい状況にあります。この視点における具体的方向性は、物件費高騰への対応と医療従事者の人材確保に向けた取組の2つです。物件費高騰については、医療機関等が直面する人件費や物件費の高騰を踏まえた対応が求められています。人材確保については、医療従事者の処遇改善、ICT・AI・IoT等の利活用による業務効率化、タスク・シェアリング/タスク・シフティングの推進、医師の働き方改革の推進・診療科偏在対策、診療報酬上求める基準の柔軟化が具体的方向性として示されました。2040年を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域包括ケアシステムの推進第二の視点は、中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの変化を見据えた医療提供体制の構築です。入院医療を始めとして、外来医療・在宅医療、介護との連携を図ることが重要とされています。この視点では8つの具体的方向性が示されています。第一に、患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価です。患者のニーズ、病院の機能・特性、地域医療構想を踏まえた医療提供体制の整備と、人口の少ない地域の実情を踏まえた評価が含まれます。第二に、「治し、支える医療」の実現です。在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能を担う医療機関の評価、円滑な入退院の実現、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等の高齢者の生活を支えるケアの推進が具体的内容として挙げられています。第三から第八は、かかりつけ医機能・かかりつけ歯科医機能・かかりつけ薬剤師機能の評価、外来医療の機能分化と連携、質の高い在宅医療・訪問看護の確保、人口・医療資源の少ない地域への支援、医療従事者確保の制約が増す中で必要な医療機能を確保するための取組、医師の地域偏在対策の推進です。安心・安全で質の高い医療の推進第三の視点は、患者の安心・安全を確保しつつ、イノベーションを推進し、新たなニーズにも対応できる医療の実現です。第三者による評価やアウトカム評価等の客観的な評価を進めることが求められています。この視点における具体的方向性は9つあります。第一に、患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価として、身体的拘束の最小化の推進と医療安全対策の推進が挙げられています。第二に、アウトカムにも着目した評価の推進として、データを活用した診療実績による評価の推進が示されました。第三に、医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価、第四に質の高いリハビリテーションの推進が挙げられています。第五に、重点的な対応が求められる分野として、救急医療、小児・周産期医療、がん医療及び緩和ケア、精神医療、難病患者への医療への適切な評価が示されました。第六から第九は、感染症対策や薬剤耐性対策の推進、口腔疾患の重症化予防等の歯科医療の推進、地域の医薬品供給拠点としての薬局機能の評価、イノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の確保等です。効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上第四の視点は、医療費増大が見込まれる中、国民皆保険を維持するための制度の安定性・持続可能性を高める取組です。医療資源を効率的・重点的に配分する観点が重要とされています。この視点における具体的方向性は7つあります。第一に後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、第二にOTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直し、第三に費用対効果評価制度の活用、第四に市場実勢価格を踏まえた適正な評価です。第五に、電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働の取組による医薬品の適正使用等の推進です。重複投薬、ポリファーマシー、残薬への対応、医師及び薬剤師の適切な連携による医薬品の効率的かつ安全で有効な使用の促進が具体的内容として挙げられています。第六に外来医療の機能分化と連携(再掲)、第七に医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価(再掲)が示されました。今後の課題と基本方針策定スケジュール骨子案では、診療報酬制度だけでなく総合的な政策対応の必要性や、物価高騰・賃金上昇局面における適時適切な報酬措置の検討、診療報酬制度の分かりやすさの向上が今後の課題として示されています。今後のスケジュールとしては、11月下旬に医療部会でも骨子案が議論され、12月上旬に基本方針(案)が両部会で審議される予定です。基本方針の発表は12月上旬が見込まれています。まとめ令和8年度診療報酬改定の基本方針骨子案では、物価・賃金・人手不足への対応を重点課題とし、4つの基本認識と4つの基本的視点が示されました。医療機関経営者は、物価高騰対応と処遇改善、2040年を見据えた機能分化・連携、医療DXの推進、効率化・適正化という改定の方向性を踏まえ、経営戦略を検討する必要があります。今後の基本方針の確定と中央社会保険医療協議会における具体的な議論の動向に注目が必要です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
入院時の食費・光熱水費見直しへ|物価高騰で18年ぶりの大改定検討中
令和7年11月20日、第204回社会保障審議会医療保険部会が開催されました。この部会では、食材費や光熱水費の継続的な高騰を受けて、入院時の食費と光熱水費の標準負担額の見直しについて議論されました。入院時の食費については、令和6年6月と令和7年4月に計50円の引上げを実施したにもかかわらず、令和7年4月以降も物価高騰が続いています。入院時の光熱水費については、平成18年の制度創設時から基準額(総額)が据え置かれており、昨今の光熱水費の大幅な高騰により病院経営に影響を及ぼしています。この見直しは、患者の負担と病院経営の両立という観点から進められています。入院時の食費では、令和7年4月以降も食材費等の高騰が続いており、更なる標準負担額の見直しが検討されています。入院時の光熱水費では、令和6年度介護報酬改定で多床室の居住費が60円引き上げられたことにより、介護保険の居住費と医療保険の光熱水費の間で負担額に差が生じています。中央社会保険医療協議会でも、基準額(総額)の観点から並行して議論が進められており、患者負担への影響を慎重に検討する必要があります。入院時の食費をめぐる現状と課題入院時の食費は、令和6年6月に1食当たり30円、令和7年4月に1食当たり20円の計50円が引き上げられました。この見直しは、食材費等の高騰に対応するために実施されたものです。しかし、令和7年4月以降も食材費等の高騰は続いており、医療機関の経営を圧迫している状況が明らかになっています。この見直しに伴い、医療機関は給食提供体制の変更を余儀なくされました。全面委託を行っている医療機関では、約5割が「給食委託費を増額した」と回答しています。一部委託や完全直営の医療機関では、約5割が「給食の内容を変えて経費の削減を行った(食材料を安価なものに変更等)」と回答しています。さらに、令和6年6月以降、全面委託の約7割、一部委託の約5割の医療機関では、委託事業者から値上げの申し出がありました。これらの医療機関は、委託事業者との契約変更に対応しています。完全直営の医療機関では3.6%(22施設)が、給食運営を委託から完全直営に切り替える対応を取っています。これらの状況を踏まえ、社会保障審議会医療保険部会では、更なる入院時の食費の標準負担額の見直しについて検討が進められています。中央社会保険医療協議会においても、食費の基準額(総額)の観点から並行して議論されています。入院時の光熱水費をめぐる現状と課題入院時の光熱水費は、平成18年に入院時生活療養費制度が創設されて以来、基準額(総額)が据え置かれています。この基準額は398円(1日当たり)で設定されており、18年以上変更されていません。一方で、昨今の光熱・水道費は特に足下で大きく高騰しており、病院経営に少なからず影響を及ぼしている状況です。入院時の光熱水費は、療養病床に入院する65歳以上の者について入院時生活療養費の光熱水費として評価されています。一般所得者の場合、1日当たりの総額398円のうち、自己負担額は370円、保険給付額は28円です。一般病床、精神病床、療養病床に入院する65歳未満の者については、入院料の中で評価されています。平成29年10月と平成30年4月には、介護保険の居住費に係る基準費用額を勘案して、自己負担額の段階的な引上げが行われました。この見直しでは、基準額(総額)を維持した上で、医療区分Ⅰの者の自己負担額を320円から370円に引き上げました。医療区分ⅡⅢの者の自己負担額も、0円から200円、その後370円へと段階的に引き上げられました。しかし、これらの見直し後も光熱水費の高騰は続いており、基準額(総額)の据え置きが病院経営を圧迫する要因となっています。中央社会保険医療協議会においても、基準額(総額)の観点から議論が進められています。介護保険との負担格差と均衡の必要性介護保険では、令和6年度介護報酬改定において、多床室の居住費の基準費用額・負担限度額が60円引き上げられました。この見直しは、令和4年の家計調査によれば高齢者世帯の光熱・水道費が令和元年家計調査に比べて上昇していることを踏まえたものです。在宅で生活する者との負担の均衡を図る観点や、令和5年度介護経営実態調査の費用の状況等を総合的に勘案して実施されました。この見直しにより、介護保険の居住費と医療保険の光熱水費の間で負担額に差が生じています。介護保険では、全ての居室類型で1日当たり60円分が増額されました。従来から補足給付の仕組みにおける負担限度額を0円としている利用者負担第1段階の多床室利用者については、負担限度額を据え置き、利用者負担が増えないように配慮されています。健康保険法第85条の2では、入院時生活療養費の額を定める際、介護保険法第51条の3第2項第2号に規定する居住費の基準費用額に相当する費用の額を勘案することが規定されています。介護保険法第51条の3第3項では、厚生労働大臣は居住費の基準費用額を定めた後に、施設における居住等に要する費用の状況その他の事情が著しく変動したときは、速やかにそれらの額を改定しなければならないとされています。こうした法的な枠組みを踏まえ、社会保障審議会医療保険部会では、近年の光熱・水道費の高騰を踏まえた対応を行う観点から、入院時の光熱水費の標準負担額の見直しについて議論が進められています。家計における光熱・水道支出を勘案して行われた令和6年度介護報酬改定による多床室の居住費の基準費用額の引上げを踏まえた対応が検討されています。今後の議論の方向性と患者負担への影響入院時の食費と光熱水費の見直しは、社会保障審議会医療保険部会と中央社会保険医療協議会の両方で並行して議論が進められています。社会保障審議会医療保険部会では、標準負担額(患者の自己負担額)の見直しが論点となっています。中央社会保険医療協議会では、基準額(総額)の観点から技術的な検討が行われています。入院時の食費については、令和6年6月と令和7年4月の2回の見直し後も、引き続き食材費等の高騰が続いている状況を踏まえた更なる見直しが検討されています。医療機関では、委託事業者からの値上げ申し出への対応や、給食内容の変更による経費削減など、様々な対応が取られています。患者の栄養管理の質を維持しながら、持続可能な給食提供体制を構築することが課題となっています。入院時の光熱水費については、近年の光熱・水道費の高騰を踏まえた対応が検討されています。家計における光熱・水道支出を勘案して行われた令和6年度介護報酬改定により、介護保険では居住費が60円引き上げられました。この引上げを踏まえ、医療保険における光熱水費についても見直しが論点となっています。病院経営の持続可能性を確保しながら、患者の負担増を最小限に抑える方策が求められています。これらの見直しが実施される場合、入院患者の自己負担額が増加する可能性があります。特に、長期入院を要する患者や、住民税非課税世帯などの低所得者層への影響に配慮した制度設計が重要です。高額療養費制度や、指定難病患者への医療費助成、こども医療費助成などの各種医療費助成制度との整合性も考慮する必要があります。まとめ令和7年11月20日の第204回社会保障審議会医療保険部会では、入院時の食費と光熱水費の標準負担額の見直しについて議論されました。入院時の食費は、令和6年6月と令和7年4月に計50円の引上げを実施したにもかかわらず、物価高騰が続いており、更なる見直しが検討されています。入院時の光熱水費は、平成18年の制度創設時から基準額が据え置かれており、令和6年度に介護保険の居住費が60円引き上げられたことを踏まえた対応が論点となっています。今後、中央社会保険医療協議会での技術的な検討も踏まえながら、患者負担と病院経営の両立を目指した制度改革が進められていきます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
標準的な出産費用の自己負担無償化へ:医療保険部会が示す給付体系見直しの方向性
令和7年11月20日に開催された第204回社会保障審議会医療保険部会において、医療保険制度における出産に対する支援強化の議論が本格化しました。この部会では、令和8年度を目途とした標準的な出産費用の自己負担無償化に向け、給付体系の骨格を令和7年冬頃までにとりまとめる方針が示されました。議論の焦点は、現在の出産育児一時金という現金給付から、妊婦の自己負担が発生しない給付方式への転換、そして地域差・施設差がある出産費用への対応という2つの論点です。本稿では、部会で提示された給付体系見直しの方向性、産科医療機関の経営実態を踏まえた制度設計の課題、令和7年冬のとりまとめに向けた今後のスケジュールの3点を解説します。この制度改革は、妊婦の経済的負担軽減と周産期医療提供体制の維持という2つの政策目的を同時に実現する必要があり、特に経営困難に直面する一次施設への配慮が重要な検討事項となっています。制度設計では、出産費用の見える化を進め、妊婦が十分な情報に基づいて意思決定できる環境整備も求められています。出産支援強化の背景と制度見直しの必要性令和7年5月に公表された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」の議論の整理において、令和8年度を目途に標準的な出産費用の自己負担無償化に向けた具体的な制度設計を進めることが示されました。この方針を受けて、社会保障審議会医療保険部会で給付体系の見直しについての検討が開始されています。制度見直しの背景には、現行の出産育児一時金制度に対する当事者からの指摘があります。部会の議論では、出産育児一時金の引き上げが行われるたびに、医療機関側も出産費用を値上げする傾向があり、結果として妊婦の負担軽減につながっていないという意見が示されました。この構造的な課題を解決するため、給付方式の抜本的な見直しが必要とされています。見直しの目的は、妊婦が経済的負担を心配せずに安心して出産できる環境を整備することです。具体的には、標準的なケースで妊婦の自己負担が発生しない仕組みへの転換を目指しています。この転換により、出産費用の高額化に伴う不安を解消し、子供を産みたいと考える人々への支援を強化します。給付体系見直しの2つの主要論点部会では、給付体系見直しに関する2つの主要論点が提示されました。第一の論点は、給付方式の在り方についてです。現在の出産育児一時金は現金給付の仕組みですが、これを標準的なケースで妊婦の自己負担が発生しないような給付方式に転換することが検討されています。給付方式の転換では、現物給付化が一つの選択肢として議論されています。部会での意見では、現金給付から現物給付への移行により、出産費用の直接的な支援が可能になるという指摘がありました。現物給付化により、医療機関への支払いを医療保険制度が直接行う仕組みとなり、妊婦の経済的負担が軽減されます。第二の論点は、給付の内容についてです。出産費用には地域差や施設差が存在する現状があり、これらの差異に配慮した給付内容の設計が求められています。また、産科医療機関の経営状況も踏まえた検討が必要とされています。給付内容の検討では、標準的な出産費用の範囲をどう定めるか、その後の検証をどのように行うかという点も議論の対象となっています。標準的な出産費用の範囲設定における課題標準的な出産費用の範囲設定は、給付体系見直しにおける最も重要な検討課題の一つです。部会での議論では、負担とのバランスを考慮しながら、今後報告される出産費用に関するさらなるデータを踏まえて検討を進める必要性が指摘されました。範囲設定では、妊婦が十分な情報に基づいて出産に関する自己決定を行える環境整備が前提となります。部会では、出産にかかる費用とサービスの関係が不明確であるという妊産婦からの声が紹介されました。この課題に対応するため、出産費用の見える化をより一層進めることが求められています。見える化により、妊婦は提供されるサービスの内容とその費用を明確に理解でき、納得感のある選択が可能になります。標準的な出産費用には、地域差と施設間格差への対応という2つの論点があります。地域による医療資源の違いや、施設ごとの設備・人員体制の差異が出産費用に影響を与えています。また、無痛分娩などの妊婦のニーズが高いサービスを標準の範囲に含めるかどうかも議論の対象です。無痛分娩については、リスクやデメリットもあるため、まず安全に提供できる体制整備が必要であり、慎重な検討が求められるという意見が示されました。産科医療機関の経営実態と周産期医療体制の維持給付体系の見直しにおいて、産科医療機関の経営実態への配慮は極めて重要な検討事項です。日本医師会総合政策研究機構の調査によれば、2022年度の産科医療機関の経常利益では赤字施設が全体の41.9%を占め、2023年度には42.4%へと拡大しています。この経営悪化の背景には、少子化の進行と物価高騰があります。地域の周産期医療を支えているのは一次施設です。一次施設は、正常分娩を取り扱う診療所や病院を指します。部会での議論では、一次施設が機能しなくなれば、お産難民が今以上に増加するという懸念が示されました。そのため、制度設計では一次施設を守るという観点が最優先されるべきとの意見が複数の委員から出されています。現在、分娩を取り扱う一次施設の減少により、三次施設にローリスクの妊産婦が集中する状況が生じています。三次施設とは、ハイリスク妊娠や重症新生児に対応する総合周産期母子医療センターです。この集中により、三次施設では人員確保や病床確保が困難になっています。制度設計では、地域の一次施設を守り、拙速な集約化を招かないよう、特に丁寧な検討を進める必要があります。妊産婦の多様なニーズへの対応と選択の保障新たな給付体系では、妊産婦の多様なニーズに対応し、選択を制限しない仕組みが求められています。部会での議論では、出産に関しては医療的な安全確保とともに、助産師による助産ケアを通じて妊産婦の不安を軽減することが重要であるという指摘がありました。妊産婦の選択を保障するためには、出産費用とサービス内容の関係を明確にする必要があります。検討会のヒアリングでは、何のために費用を払っているのか、なぜ病院ごとに費用が違うのかが当事者には分からないという声が上がっていました。この情報の非対称性を解消するため、出産費用の見える化を前提とした制度設計が求められています。妊産婦の多様なニーズには、助産所における出産や無痛分娩など、様々な出産スタイルへの希望が含まれます。部会では、助産所における出産を含め、全ての出産の場が新たな枠組みの中に適切に位置づけられることへの期待が示されました。また、WHO(世界保健機関)が推奨するエビデンスに基づいた産痛緩和ケアを標準の範囲に含める方向での検討も提案されています。ただし、こうしたサービスの標準化にあたっては、安全性の確保と体制整備が前提条件となります。税と保険料の役割分担と財源確保の課題給付体系の見直しでは、税と保険料の性格の違いを踏まえた財源確保の議論も重要です。部会では、限りある保険医療財政を踏まえ、それぞれの目的に応じた施策を検討していくべきという意見が示されました。財源確保の議論では、周産期医療提供体制の確保という課題をどう位置づけるかが論点となっています。一部の委員からは、周産期医療提供体制の確保は国としての体制整備の問題であり、出産に対する給付体系の見直しとは切り離して別途解決を図るべきという意見が出されました。この意見は、産科医療機関の経営支援と妊婦の負担軽減を別の政策として整理すべきという考え方を示しています。保険料を負担する被保険者の納得感も重要な検討事項です。標準的な出産費用の範囲を設定する際には、保険診療の考え方や保険料負担者の理解が得られる内容とする必要があります。部会では、こうした観点も念頭に置いて議論を深めていくべきという指摘がありました。また、出産費用の自己負担無償化が子育て支援策なのか、出産費用の負担抑制策なのかについても整理が必要という意見が示されています。今後のスケジュールと制度施行に向けた検討プロセス医療保険部会における今後の議論の進め方は、段階的なアプローチが採用されています。令和7年冬頃までの議論では、給付体系の骨格の在り方について整理することを目指しています。この骨格には、給付方式と給付内容の基本的な枠組みが含まれます。給付体系の骨格が固まった後、産科臨床現場で行われる個々の対応についての具体的な当てはめなど、個別具体的な内容については制度施行に向けてさらに議論を深める予定です。このように、まず大枠を決定し、その後に詳細を詰めていくという二段階のプロセスが採用されています。検討プロセスでは、出産費用に関するさらなるデータの報告も予定されています。これらのデータは、標準的な出産費用の範囲設定や地域差・施設差への対応策を検討する際の基礎資料となります。データに基づいた議論により、実態を踏まえた制度設計が可能になります。最終的に令和8年度を目途として、産科医療機関等の経営実態等にも十分配慮しながら、標準的な出産費用の自己負担無償化に向けた具体的な制度設計が完成する見込みです。まとめ第204回社会保障審議会医療保険部会では、医療保険制度における出産支援強化の方向性が示されました。制度見直しの焦点は、給付方式の転換と給付内容の設定という2つの論点です。令和7年冬頃までに給付体系の骨格をとりまとめ、令和8年度を目途に標準的な出産費用の自己負担無償化を実現する方針です。制度設計では、妊婦の経済的負担軽減と産科医療機関の経営実態への配慮、特に一次施設の維持という課題の両立が求められています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
OTC類似薬の保険給付除外に9つの患者団体が反対表明【第204回医療保険部会】
2025年11月20日に開催された第204回社会保障審議会医療保険部会において、OTC類似薬の保険給付の在り方について患者団体からのヒアリングが実施されました。厚生労働省がOTC類似薬を保険給付の対象から外すことを検討している背景には、医療費の適正化があります。この提案に対し、患者の立場から具体的な懸念と問題点を提示する必要性が生じました。3つの患者団体グループ(合計9団体)がOTC類似薬の保険給付除外に反対する意見を表明しました。全国がん患者団体連合会は、がんや難病患者がOTC類似薬を長期継続使用している実態と、保険適用除外による数十倍の負担増を指摘しました。7つのアレルギー関連団体(一般社団法人アレルギー及び呼吸器疾患患者の声を届ける会、認定NPO法人日本アレルギー友の会など)は連名で、難治・重症アレルギー患者への影響と国民皆保険制度の理念との矛盾を提起しました。ささえあい医療人権センターCOMLは、OTC類似薬の範囲設定の困難さと医療用医薬品とOTC医薬品の違いを明らかにしました。全国がん患者団体連合会が指摘する4つの影響と代替案の提示全国がん患者団体連合会は、OTC類似薬を保険給付の対象から外すことによる4つの重大な影響を指摘しました。同団体は、がんや難病患者がアセトアミノフェン、ロキソニンテープ、酸化マグネシウムなどのOTC類似薬を日常的に、あるいは長期にわたり継続して使用している実態を示しました。第一の影響は、患者負担の大幅な増加です。保険給付から外れると、メーカー希望小売価格と比較した場合には数十倍の負担増となります。市場価格の最安値と比較した場合でも、過重な負担増となる可能性があります。第二の影響は、各種医療費助成制度の対象外になることです。保険給付から外れると、高額療養費、指定難病患者への医療費助成、こども医療費助成、小児慢性特定疾病児童等への医療費助成など、各種の医療費助成の対象とならなくなります。第三の影響は、医療機関への受診機会の喪失です。負担増により、医療機関への受診機会の喪失、あるいは遅延が生じ、健康被害が生じる可能性があります。第四の影響は、処方シフトの問題です。患者負担割合はより安価であるが、薬価がより高い薬剤が処方されるようになる可能性があります。代替案として、同団体は具体的な提案を行いました。どうしても見直しが必要な場合には、公的な保険給付の対象から外すのではなく、患者の自己負担割合を変更する対応を検討すべきであると提案しました。この方法であれば、公的な薬価が維持され、患者の負担増は一定程度抑えられ、高額療養費や各種の医療費助成の対象であることも維持され、医療機関への受診機会も確保される可能性があります。ただし、患者の自己負担割合の変更でも、患者の負担増となることは避けられず、処方シフトなどの問題が生じる可能性も依然として残ります。7つのアレルギー関連団体が連名で懸念を表明7つのアレルギー関連団体は連名で、OTC類似薬の保険適用除外が国民皆保険制度の理念に反する可能性を指摘しました。提出団体は、一般社団法人アレルギー及び呼吸器疾患患者の声を届ける会、認定NPO法人日本アレルギー友の会、NPO法人環境汚染等から呼吸器病患者を守る会、NPO法人アレルギーを考える母の会、NPOアレルギー児を支える全国ネット「アラジーポット」、NPO法人ピアサポートF.A.cafe、NPO法人アレルギーの正しい理解をサポートするみんなの会です。これらの団体は、国民皆保険制度は社会全体で医療費を分担する仕組みであり、経済的な理由で医療を受けられない人を減らすという理念のもとに成り立っていることを強調しました。難治・重症アレルギー患者への深刻な影響が予想されます。喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、標準治療のもとで多くの患者が症状をコントロールできるようになっています。しかし、一部の難治・重症患者は高額な生物学的製剤などを長期にわたって使う必要があり、医療費の増加は治療継続を困難にし、生活や就業に深刻な影響を及ぼします。子どものアレルギー治療における家計負担の増加も重大な問題です。OTC類似薬の保険適用除外は、特に子どものアレルギー治療において家計に大きな負担を強いることになります。この負担増は、子どもの健全な成長や家庭生活に悪影響を及ぼす可能性があります。具体的な懸念として、ステロイド外用薬の問題があります。アトピー性皮膚炎治療の標準治療であるステロイド外用薬は、効果の強度により5段階に分類されています。現在は医師が症状の重症度を判定し、適切な薬を処方していますが、薬局で購入する場合、強度を認識せずに使用して副作用が出たり、症状に対して弱すぎるために効果が出ず、炎症が持続して重症化してしまう可能性があります。これらの団体は3つの要望を提出しました。高額療養費制度の自己負担限度額引き上げは、家計への影響を考慮し、治療継続が可能となるよう見直すことです。OTC類似薬の保険適用除外は、アレルギー疾患の標準治療に使われる薬剤・保湿剤には適用しないことです。制度改正にあたっては、患者の声を適切に反映することです。ささえあい医療人権センターCOMLが提起する制度設計上の課題ささえあい医療人権センターCOMLは、OTC類似薬の範囲を病名や病状で線引きすることの困難さを指摘しました。同団体は、医療用医薬品とOTC医薬品では効能・効果のみならず、成分や用量が異なるなかで「OTC類似薬」と一括りに判断できないこと、しかも患者にはその違いや判断ができないことを明らかにしました。医師の診療上の判断への影響も懸念されます。他の疾患との関連で使用している医薬品の場合、一部が保険外になることで医師の診療上の判断が適切にできない場合も生じかねません。医師の管理下を離れることで、患者が自己判断で量や服用頻度などを変える可能性もあります。配慮すべき対象の範囲の問題もあります。「こどもや慢性疾患、低所得者に配慮」すれば対象は激減し、特に慢性疾患患者が多いことから本来の目的を果たせない改革になる可能性があります。「近隣に薬局がない」「インターネットで購入できない高齢者」など、購入の利便性の地域差・個人差もあります。同団体は、混在している議論を整理する提案をしました。医療用医薬品の代わりにOTCを患者に購入してもらう案では、患者が使用するのはOTCであり、医師の管理下を離れ、成分や用量が異なる、利便性の差があるなど問題が多いと指摘しました。OTCにもあるような医療用医薬品の保険負担を検討する案では、患者が使用するのは医療用医薬品であり、医師の管理下で安全は保たれますが、OTC類似薬を10割負担にすると患者負担が重くなりすぎるため、追加負担を求めるとしても患者負担が重くなりすぎないように配慮が必要であると提案しました。医師の判断で医薬品を処方せず患者がOTC薬を購入することになると、費用が高くなるので購入しない患者が出て「治療」が成立しなくなり、症状悪化でさらに高い医療費が必要な治療が必要になる可能性があります。ほかに医薬品を使用している場合の飲み合わせや相互作用の判断ができない問題もあり、現在のドラッグストアの薬剤師や登録販売者の実態では対応不可能ではないかという懸念も示しました。まとめ3つの患者団体グループ(合計9団体)は、OTC類似薬の保険給付除外について、患者への重大な影響と制度設計上の課題を指摘しました。全国がん患者団体連合会は数十倍の負担増と医療費助成対象外になる問題を、7つのアレルギー関連団体は連名で国民皆保険制度の理念との矛盾と子どもへの影響を、ささえあい医療人権センターCOMLは範囲設定の困難さと医師の管理下を離れる問題を提起しました。今後の医療保険部会での議論において、これらの患者の声がどのように反映されるかが注目されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
マイナ保険証の利用率が37%超に|12月の経過措置終了に向けた対応を解説
令和7年11月13日に開催された第203回社会保障審議会医療保険部会において、マイナ保険証の利用促進等に関する報告が行われました。本報告では、マイナ保険証の利用状況、12月1日の経過措置終了に向けた対応、国民と医療機関への周知活動の3点が示されました。マイナ保険証の利用率は令和7年10月時点で37.14%に達し、レセプト件数ベースでは44.40%を記録しました。12月1日には全保険者で発行済みの健康保険証が利用できる経過措置が終了するため、国民への登録促進と医療機関への運用体制整備が急務となっています。厚生労働省は多様な媒体を通じた周知活動を展開し、円滑な移行を目指しています。マイナ保険証の利用状況と直近の実績マイナ保険証の利用状況は着実な増加傾向を示しています。令和7年10月のオンライン資格確認の利用件数は総計2億7,460万件に達し、このうちマイナ保険証による利用は1億199万件でした。利用率は37.14%となり、前月から1.52ポイント上昇しました。オンライン資格確認の利用件数を施設類型別に見ると、医科診療所が最も多く1億1,572万件を記録しました。薬局は1億1,151万件、病院は2,334万件、歯科診療所は2,401万件と続いています。マイナ保険証の利用率は施設類型により差があり、病院では57.00%と高い水準に達する一方、医科診療所は36.17%、薬局は31.22%となっています。レセプト件数ベースの利用率は、実際に医療機関を受診した人数に基づく指標として重要です。令和7年9月時点でのレセプト件数ベース利用率は44.40%に達し、前月から1.23ポイント上昇しました。レセプトの枚数は受診月から2か月遅れの数字となるため、10月分の実績は12月に判明する予定です。この利用率は令和6年1月の3.99%から継続的に上昇しており、マイナ保険証が着実に浸透していることが確認できます。診療情報等の閲覧状況も活用が進んでいます。令和7年10月には、特定健診等情報が3,070万件、薬剤情報が2,292万件、診療情報が5,936万件閲覧されました。医療機関や薬局が患者の過去の診療情報を活用することで、より質の高い医療提供が可能になっています。12月の経過措置終了に向けた対応令和7年12月1日をもって、全保険者で発行済みの健康保険証が利用できる経過措置が終了します。経過措置終了後は、マイナ保険証が医療機関での資格確認の基本となるため、国民と医療機関の双方に準備が求められています。経過措置終了後の資格確認方法には3つの選択肢があります。第一に、資格確認書による確認です。資格確認書は保険者から発行される書面で、マイナ保険証を持参できない場合に利用できます。第二に、マイナ保険証と「資格情報のお知らせ」の組み合わせによる確認です。第三に、マイナ保険証とマイナポータルの資格情報画面の組み合わせによる確認です。医療機関はこれらの方法で適切に資格確認を行う必要があります。被用者保険の加入者約7,700万人については、12月1日に健康保険証の有効期限が切れます。厚生労働省は、被用者保険の保険者が活用できるリーフレットを作成し、マイナ保険証のメリットや健康保険証の有効期限、利用登録状況の確認方法、電子証明書の有効期限等について周知しています。保険者を通じた周知活動により、加入者への情報伝達を強化しています。医療機関と薬局には、マイナ保険証を基本とした運用への移行準備が求められています。受付窓口における患者の動線や職員体制の確認、顔認証付きカードリーダーの不具合対応、マイナ保険証で資格確認ができない場合の請求方法など、具体的な運用面での準備が必要です。厚生労働省は、医療機関と薬局向けに詳細なガイドラインを提供し、円滑な移行を支援しています。周知広報の取り組みと今後の展開厚生労働省は、マイナ保険証への円滑な移行を目的として、多様な媒体を通じた周知活動を展開しています。周知活動は、継続的に実施しているもの、現在実施中のもの、今後実施予定のものの3段階に分類されています。継続的に実施している周知活動には、医療機関と薬局向けの取り組みと国民向けの取り組みがあります。医療機関と薬局向けには、支払基金から各施設への周知メールの配信、毎月のオンライン請求時のポップアップ画面表示、受診方法や電子証明書の有効期限に関するリーフレットの作成と周知を行っています。国民向けには、自治体への周知広報物の配布、厚生労働省ホームページでのリーフレットとポスターの掲載、SNSによる周知を継続しています。現在実施中の周知活動では、より幅広い層への情報伝達を目指しています。厚生労働省作成の12月の切替えに関するリーフレットを保険者を介して周知依頼し、各種縦型動画をYouTubeでショート動画として配信しています。LINE広告での周知も実施しており、多くの国民にリーチする体制を整えています。健康保険組合連合会による広報として、「私たちをもっと守る、マイナ保険証」のテレビCMやデジタル広告も展開されています。今後実施予定の周知活動として、11月中旬には医療機関と薬局向けに今後の資格確認方法などに関するオンラインセミナーを実施します。11月下旬には、国民向けに12月以降の資格確認方法等に関する記者勉強会を開催します。12月初旬にはYahoo!バナー広告を展開し、12月中旬には医療機関と薬局向けに資格確認方法に関するポスターなどを郵送します。段階的な周知活動により、移行期における混乱を最小限に抑える方針です。まとめマイナ保険証の利用率は37.14%に達し、レセプト件数ベースでは44.40%を記録しました。12月1日には全保険者で発行済みの健康保険証が利用できる経過措置が終了するため、国民への登録促進と医療機関への運用体制整備が急務となっています。厚生労働省は継続的な周知活動、現在実施中の施策、今後実施予定の取り組みを通じて、マイナ保険証への円滑な移行を支援しています。医療機関と国民の双方が適切な準備を行うことで、デジタル化された効率的な医療提供体制の実現が期待されます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
医療機関の業務効率化・職場環境改善:2040年に向けた4つの論点
令和7年11月13日に開催された第203回社会保障審議会医療保険部会において、医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する論点が議論されました。2040年に向けて高齢者人口がピークを迎える一方、15歳~64歳人口が減少する中、医療従事者の確保はますます困難となることが見込まれます。厚生労働省は2019年に「医療・福祉サービス改革プラン」をとりまとめており、2040年時点で単位時間当たりのサービス提供を5%(医師は7%)以上改善することとしています。この状況を踏まえ、医療界全体での実効ある取組を進めるための制度的枠組みが検討されています。本稿では、業務のDX化推進、タスク・シフト/シェアの推進、医療従事者の養成体制確保、環境整備という4つの論点について、現状認識、具体的な取組、今後の方向性を説明します。DX化については、省力化投資促進プランに基づく先進的医療機関の事例と支援策の必要性を示します。タスク・シフト/シェアについては、看護師の特定行為研修制度とオンライン診療の活用を取り上げます。養成体制については、遠隔授業やサテライト化の活用を紹介します。環境整備については、医師の時間外労働削減目標と看護職員の超過勤務時間削減目標に基づく賃上げの実施と多様な働き方の推進を述べます。業務のDX化推進:省力化投資促進プランに基づく取組業務のDX化については、2025年6月に策定された「省力化投資促進プラン(医療分野)」に基づき、医療界全体での取組が求められています。現状では、物価や賃金の上昇等の影響で投資を行う余力がない医療機関がある一方、先進的な医療機関が成果を上げています。先進的医療機関では、ICT機器の導入や生成AIサービスの活用によって、文書や記録作成等の業務を効率化し、超過勤務時間の減少や職場満足度の向上といった結果につなげています。省力化投資促進プランでは、看護業務の効率化に資する機器等の導入支援、医師の労働時間短縮に資する機器等の導入支援、医療DXの推進のための情報基盤の整備を多面的な促進策として掲げています。目標として、省力化機器を導入している医療機関数の増加、AMED事業による医療機器等の研究開発支援における採択課題数の増加、電子カルテ情報共有サービスの普及が設定されています。サポート体制の整備として、省力化投資を通じた看護業務効率化のためのサポート体制、看護師養成におけるDX促進のための支援、省力化投資を通じた勤務環境改善のためのサポート体制が用意されています。先進的医療機関の取組をさらに加速化させるとともに、業務効率化に取り組む医療機関の裾野を広げるために、支援や制度的枠組みの整備が必要です。医療部会では、業務効率化を実現した場合の人員配置基準の緩和を検討すべきとの指摘がありました。人員配置基準が医療従事者確保の足かせになっているならば、見直しや緩和を検討すべきとの意見が示されています。医療機関が適正な価格でICT機器等を導入できるような環境整備も重要であり、医療機関の経営を圧迫することなく、現場で使いこなしていけるように、国や自治体による支援体制のさらなる構築が求められています。タスク・シフト/シェアと人材確保:時間外労働削減の数値目標タスク・シフト/シェアについては、医師の働き方改革に関する具体的な数値目標が設定されています。2024年4月から医師の時間外労働に関する上限規制が施行されており、地域医療確保暫定特例水準適用医師の時間外労働の目標時間数は、現状の上限1,860時間から2029年度までに上限1,410時間へと削減することが目標とされています。看護職員の月平均超過勤務時間については、現状5.1時間から2029年度までに2027年度比で月平均超過勤務時間の減少を目指すこととされています。看護師の特定行為研修制度については、本年9月に「看護師の特定行為研修制度見直しに係るワーキンググループ」が設置され、見直しに向けた議論が開始されました。特定行為研修を修了した看護師の活躍促進に向けて、どのような取組が必要かが検討されています。医師の働き方改革の推進に伴い、タスク・シフト/シェアの取組を進めてきていますが、これまでの取組の定着化が必要です。医療職一人一人が専門性を十分に発揮できるよう、タスク・シフト/シェアやチーム医療に加えて、多職種連携も促進する必要があります。医療の質や安全の確保を前提に、医療従事者の業務効率化という観点から、オンライン診療などを適切に普及・推進することも重要です。いわゆる「D to P with N」等によるオンライン診療を推進するためにどのような対応が考えられるかが議論されています。医療従事者でなければできない患者への直接的なケアやコミュニケーションに時間を割くためにも、AIやICTの活用、DXを積極的に進めるべきとの意見が示されています。限られた人材で安全かつ効率的な医療を提供するためには、タスク・シフト/シェア、ICTの活用、多職種連携等が不可欠です。医療従事者の養成体制確保:地域の実情に応じた環境整備地域における医療従事者の養成体制の確保については、養成校の定員充足率の低下傾向と18歳以下人口の減少が課題です。多くの医療関係職種の養成校の定員充足率は低下傾向にあり、今後、地域によっては18歳以下人口の減少が急激に進むところもあります。医療関係職を目指す若者が地域において必要な教育を受けられる体制を安定的に確保することが必要です。養成体制の安定的確保のために、多様な学び手のニーズを踏まえた学習環境の整備が求められています。養成校における遠隔授業の活用、地域や養成校の実情に応じたサテライト化の活用など、柔軟な対応が必要です。実際に、沖縄県名護市の北部看護学校では、学校設置者変更により2026年4月に公立大学法人名桜大学附属北部看護学校として公立化される予定であり、学費の負担軽減、教育環境の充実、地域への貢献などが期待されています。医療従事者の需給の状況を見通しつつ、都道府県等が養成体制の確保のために講ずることが考えられる施策のメニューを整理していくことも重要です。地域の実情に応じた多様な施策を用意することで、医療従事者の安定的な供給を図ることができます。看護師養成におけるDX促進のための支援など、時代に即した取組も進められており、省力化投資促進プランのサポート体制の一環として位置づけられています。環境整備と支援体制:賃上げと多様な働き方の推進医療従事者の確保に資する環境整備については、賃上げの継続実施と多様な働き方の推進が重要です。15~64歳人口の減少が急激に進む地域では、医療機関等における医療従事者の確保が難しくなるほか、医療から他産業への人材流出が進んでいるとの指摘があります。2017年から2019年当時と比べ、医療従事者の不足状況は悪化しているとともに、新型コロナウイルス感染症等による医療需要の動向の変化や、物価や賃金の上昇など、医療機関をとりまく状況はさらに変わってきています。現在の医療従事者が医療の現場に定着し、今後も就業者が安定的に医療分野に参入する環境の整備が必要です。他産業と遜色ない賃上げを継続的に実施できるようにするとともに、医療水準を維持しつつ、より少ない人員でも必要な医療が提供できる環境整備を進める必要があります。省力化に伴う生産性の向上を、賃金の増加に的確に結びつけていくことも重要です。働き方改革については、時間外労働の上限規制だけでなく、多様な働き方の選択肢を導入して、担い手を増やす取組を進めていくべきとの意見が示されています。医療勤務環境改善支援センターによる支援体制の活用も重要です。医療勤務環境改善支援センターは、医療従事者の勤務環境改善を促進するための拠点として、各都道府県が設置しています。医療労務管理アドバイザーや医業経営アドバイザーが配置され、医療機関からの相談に応じて、勤務環境改善や医師の働き方改革の取組を支援しています。医療機関に対するアンケート調査の実施、多職種による意見交換会の実施、タスク・シフト/シェアやICTの導入等に関する助言など、多様な支援が提供されています。医師に関する適切な労務管理に関する助言、副業・兼業、研鑽、宿日直許可取得後の適切な労務管理等の支援も行われています。まとめ第203回社会保障審議会医療保険部会では、医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する4つの論点が議論されました。業務のDX化については、2025年6月に策定された省力化投資促進プランに基づき、先進的医療機関の取組を医療界全体に広げるための支援や制度的枠組みが必要です。タスク・シフト/シェアについては、2024年4月から施行された医師の時間外労働上限規制に基づき、地域医療確保暫定特例水準適用医師の時間外労働を現状1,860時間から2029年度までに1,410時間へ削減すること、看護職員の月平均超過勤務時間を現状5.1時間から2029年度までに削減することが目標とされています。医療従事者の養成体制については、遠隔授業やサテライト化の活用など、多様な学び手のニーズを踏まえた環境整備が求められています。環境整備については、賃上げの継続実施と多様な働き方の推進、医療勤務環境改善支援センターの活用が重要とされています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
医療保険の不公平を是正!金融所得勘案の制度改革が2026年度から実行へ
令和7年11月13日、第203回社会保障審議会医療保険部会が開催されました。議題は「医療保険における金融所得の勘案について」です。現在の医療保険制度では、株式の配当や譲渡益などの金融所得について、確定申告の有無で保険料や窓口負担が変わる不公平が生じています。2040年頃の高齢者人口ピークを見据え、全世代が安心できる社会保障制度を構築するため、この不公平を是正する制度改革が進められています。本制度改革の概要は以下の3点です。第一に、確定申告を行わない金融所得についても、保険料や窓口負担の算定に反映させることで、応能負担を徹底します。第二に、法定調書を活用した情報把握の仕組みを構築し、マイナンバーの付番やオンライン提出の義務化などの課題に取り組みます。第三に、2026年度からの実施を目指し、税制改正や関係者との調整を含めた具体的な制度設計を進めます。現行制度における不公平の実態現行制度では、同じ収入でも確定申告の有無により保険料負担が大きく異なる問題があります。株式等の配当や譲渡益などの金融所得は、源泉徴収で課税関係を終了させ確定申告を行わない場合、市町村民税の課税所得に含まれません。このため、保険料や窓口負担等の算定においても勘案されず、不公平な取扱いとなっています。この不公平の具体例として、70代後半で配偶者がおり、収入280万円の方のケースがあります。パターン①は年金230万円に加えて金融資産2500万円からの配当50万円があるケースです。パターン②は金融所得がなく年金のみ280万円のケースです。確定申告を行わない場合、パターン①の窓口負担割合は1割ですが、パターン②は2割となります。保険料額も、パターン①は年118,928円(月9,911円)ですが、パターン②は年169,978円(月14,165円)と年間約5万円の差が生じます。同じ収入でも、金融所得の確定申告の有無により、窓口負担割合や保険料額が変わるこの状況は、負担の公平性の観点から問題です。制度改革の背景と政策的位置づけ制度改革の必要性は、複数の政策文書で明確に示されています。令和7年6月11日に署名された自由民主党・公明党・日本維新の会の三党合意では、「現役世代に偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底」が掲げられました。三党合意では、税制における確定申告の有無により負担等が変わる不公平な取扱いを是正する必要性が指摘されています。三党合意を踏まえ、令和7年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)でも、同様の改革方針が示されました。骨太方針2025では、「OTC類似薬」を含む薬剤自己負担の見直しとともに、金融所得の反映などの応能負担の徹底が明記されています。さらに、令和7年10月20日に署名された自由民主党・日本維新の会の連立政権合意書においても、社会保障全体の改革の一環として金融所得の反映が位置づけられています。これらの政策文書では、税制における金融所得に係る法定調書の現状を踏まえつつ、マイナンバーの記載や情報提出のオンライン化等の課題、負担の公平性、関係者の事務負担等に留意しながら、具体的な制度設計を進めることとされています。令和5年12月22日に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」では、「加速化プラン」の実施が完了する2028年度までに実施について検討する取組として位置づけられており、2026年度からの早期実現が目指されています。金融所得勘案の具体的方法金融所得を保険料や窓口負担の算定に反映させる方法として、法定調書を活用する仕組みが検討されています。法定調書とは、税制上、金融機関等が税務署に提出する支払調書のことです。この法定調書の情報を活用し、確定申告されていない金融所得についても、保険者が把握できる仕組みを構築します。法定調書方式のイメージでは、金融機関等が法定調書を提出し、その情報を法定調書データベース(仮称)に集約します。保険者は、市町村民税の課税所得に加えて、法定調書データベースから計算された金融所得の情報を取得します。両者を合算した所得に基づいて、保険料の算定や窓口負担区分の決定を行います。この方式により、確定申告の有無にかかわらず、金融所得を適切に勘案できるようになります。この実現には、いくつかの実務面の課題があります。第一に、法定調書のオンライン提出義務化を進める必要があります。第二に、法定調書へのマイナンバーの付番と正確性の確保が必要です。第三に、法定調書データベースや保険者のシステム整備が必要です。第四に、金融機関、税務当局、保険者など関係者との調整が必要です。特に国民健康保険制度については、地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化のスケジュールに留意する必要があります。これらの課題について、コストとスケジュールを含めた検討が進められています。制度改革の論点と今後の方向性制度改革における主要な論点は3点あります。第一に、高齢者人口がピークを迎える2040年頃を見据え、全世代が安心できる社会保障制度を構築する必要があります。制度の持続可能性を高める観点から、負担能力に応じた負担と給付内容の不断の見直しが必要です。後期高齢者の金融所得が増加している中、確定申告を行わない場合に課税所得に含まれない不公平な取扱いの是正に取り組む必要があります。第二に、金融所得を勘案する方式として、税制における法定調書を活用し、社会保険における保険料や窓口負担等の算定に活用することが考えられます。実務面では、法定調書のオンライン提出義務化、法定調書へのマイナンバーの付番・正確性確保、システムの整備、関係者との調整など、コストとスケジュールの検討が必要です。第三に、制度間のバランスへの配慮が必要です。後期高齢者医療制度は一律に75歳以上の高齢者が対象となります。一方、国民健康保険制度は後期高齢者医療制度と同じく市町村の税情報をベースに賦課しますが、賃金をベースに保険料等を賦課する被用者保険とのバランスについても検討が必要です。年齢に関わらず負担能力に応じた負担を目指す観点から、現役世代から後期高齢者への支援金負担の軽減にも配慮します。まとめ医療保険における金融所得の勘案は、全世代型社会保障の構築に向けた重要な改革です。確定申告の有無により保険料や窓口負担が変わる不公平を是正し、応能負担を徹底することで、制度の公平性と持続可能性を高めます。法定調書を活用した具体的な仕組みの構築が進められており、2026年度からの実施が目指されています。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
2025年医療制度改革の焦点:高齢者の「現役並み所得」基準見直しで変わる負担構造
2025年11月13日に開催された第203回社会保障審議会医療保険部会において、高齢者医療における負担の在り方が議論されました。現役世代の負担増が加速する中、世代内・世代間の公平性を確保する全世代型社会保障の構築が喫緊の課題となっています。本稿では、19年ぶりの見直しが検討されている「現役並み所得」の判断基準について、その背景、現状の課題、見直しの方向性を解説します。医療保険部会では、平成18年以降見直されていない「現役並み所得」の判断基準を抜本的に見直す方向性が示されました。現在の基準では課税所得145万円以上かつ世帯収入520万円以上(単身383万円以上)が「現役並み所得」とされ、該当者は窓口負担3割となります。この基準は現役世代の平均所得を基に設定されましたが、給与所得控除と公的年金等控除の両方が積み上げられており、現役世代との公平性に課題があります。さらに現役並み所得者の医療給付費には公費負担がなく、全額が現役世代の支援金で賄われるいびつな財源構造となっています。今回の見直しでは、賃金・物価上昇の反映に加え、基準設定の在り方自体を問い直す議論が求められています。「現役並み所得」判断基準の現状と課題「現役並み所得」の判断基準は、平成18年に設定されて以降19年間見直されていません。現在の基準は、課税所得145万円以上かつ世帯収入520万円以上(単身383万円以上)という2つの要件で構成されています。課税所得要件は平成16年度の政管健保の平均標準報酬月額に基づく平均収入額から、夫婦2人世帯をモデルとした諸控除を差し引いて算出されました。収入要件は課税所得を元に高齢者の総収入に換算して設定されています。この基準には3つの構造的な問題があります。第一に、給与所得控除と公的年金等控除の両方が積み上げられており、年金収入と給与収入の両方を有する高齢者世帯では高い控除額が反映されています。第二に、賃金や物価が上昇している局面でも基準額が更新されていないため、実質的な基準が低下しています。第三に、現役並み所得者に該当する高齢者は全体の約7%にすぎず、現役世代との公平性の観点から課題があるとの指摘があります。基準の硬直性により、高齢者の所得状況が変化しても制度が対応できていません。全体に占める所得が低い層や年金受給額が低い層の割合は低下傾向にあり、高齢者全体でみると所得は増加・多様化しています。年齢階級別の一人当たり医療費は高齢になるにつれ高くなりますが、一人当たり自己負担額は60代後半をピークに70代以降は低く抑えられており、医療費と自己負担額の逆転が生じています。現役世代への過重な負担構造「現役並み所得」の判断基準を見直す際の最大の課題は、現役世代の負担構造にあります。現役並み所得を有する後期高齢者の医療給付費には公費負担がなく、その分は現役世代の支援金による負担となっています。このため、「現役並み所得」の対象拡大のみを行う場合、現役世代の支援金の負担が増加することとなります。後期高齢者の医療給付費の財源構成をみると、一般の後期高齢者の給付費は公費約5割、現役世代の支援金約4割、後期高齢者の保険料約1割で構成されています。一方、現役並み所得者の給付費は公費負担がなく、現役世代の支援金約9割と後期高齢者の保険料約1割で賄われています。この財源構造は平成14年の旧老人保健制度における公費負担割合引き上げの際に設けられたものです。現役世代の負担は加速度的に増加しています。後期高齢者医療制度の創設以降、高齢者世代と現役世代の人口バランスが大きく変化し、制度の支え手である現役世代に対する負担が増大しています。令和7年度中に具体的な骨子について合意し、令和8年度中に具体的な制度設計を行うことが、自由民主党・日本維新の会の連立政権合意書において示されています。新たに「現役並み所得」に該当する場合の影響判断基準の見直しにより新たに「現役並み所得」に該当することとなる高齢者には、2つの影響が生じます。第一に、窓口負担割合が1割または2割から3割に引き上げられます。第二に、高額療養費制度の区分も1つ上の区分が適用されることとなり、月額上限が引き上がるとともに、外来特例の対象から外れることとなります。高額療養費制度における現役並み所得者の自己負担上限額は、収入に応じて80,100円から252,600円に、医療費から一定額(267,000円から842,000円)を控除した金額の1%を加算した額となっています。多数回該当の場合は44,400円から140,100円となります。一方、一般区分(課税所得28万円未満で1割負担)の場合、外来のみの上限は月18,000円(年間14.4万円)、外来及び入院を合わせた上限は57,600円(多数回該当44,400円)となっており、両者の差は大きいものとなっています。このため、判断基準の見直しを検討する際には、窓口負担割合の見直しの施行状況等を注視する必要があります。令和4年10月に施行された一定以上所得のある方への2割負担の導入の影響を確認しながら、慎重に進めることが求められています。窓口負担は受益に応じて負担する仕組みであり、高額療養費は高額な医療や長期の療養が必要な場合のセーフティネットとして、それぞれの制度の役割分担を考慮した検討が必要です。見直しに向けた論点と今後の方向性医療保険部会では、「現役並み所得」の判断基準の見直しに関する複数の論点が示されています。第一に、賃金や物価上昇、税制等を踏まえた時点更新のみではなく、基準設定の在り方自体を見直す必要があるという点です。財政制度等審議会からは、課税要件の撤廃とともに、世帯収入要件については「年金収入プラスその他合計所得金額」へと変更することを軸に検討すべきとの指摘がありました。第二に、現役世代の支援金と公費の取扱いの在り方に係る課題への対応です。現役並み所得者の給付費に公費負担がないいびつな負担構造を是正する方策が求められています。公費の投入を行うべきとの意見がある一方、財政的制約の中でどのように実現するかが課題となっています。第三に、高齢者の受診の状況等は様々であり、経済状況も多様であることを踏まえた見直しが必要という点です。高齢者は一般的に所得が低い一方で医療費が高い傾向にあります。所得が低い層や年金受給額が低い層も一定数存在し、これらの方々への配慮が必要です。一方で、高齢者の受診状況等は改善傾向にあり、全体でみると所得は増加・多様化しています。医療保険部会では、低所得者に配慮した自己負担の設定を前提としながら、負担能力に応じたきめ細かい制度設計を進める方向性が示されています。まとめ第203回社会保障審議会医療保険部会では、19年ぶりに「現役並み所得」の判断基準の見直しが本格的に議論されました。現在の基準は給与所得控除と公的年金等控除の両方が積み上げられており、現役世代との公平性に課題があります。現役並み所得者の給付費に公費負担がなく全額が現役世代の支援金で賄われるいびつな財源構造も、早急な是正が求められています。見直しに当たっては、窓口負担割合と高額療養費制度の両面での影響、高齢者の多様な経済状況への配慮、現役世代の負担への留意が必要となります。令和7年度中の骨子合意、令和8年度中の制度設計に向けて、世代内・世代間の公平性を確保する全世代型社会保障の構築が進められます。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
医療DXと病院DXの違いとは?成功の鍵となる3つのRを解説
国はマイナンバーカードと健康保険証の一体化や全国医療情報プラットフォームの構築など、データヘルス改革として医療DXを推進しています。この医療DXは、患者にもメリットがありますが、それ以上に行政や財政の効率化を目的としています。一方で、病院が取り組むべきDXは、医療の質向上と組織の効率化という異なる目的を持ちます。全日本病院協会の会長である神野正博氏は、この違いと病院DXを成功させるための本質を解説しています。病院DXの本質は、医療の質向上と病院組織の効率化にあります。国が推進する医療DXは、マイナンバーカードと健康保険証の一体化、診療報酬改定DXなど、行政・財政の効率化が中心です。病院DXを成功させるには、リデザイン(業務の仕組みをゼロから見直す)、リダクション(不要な業務の削減)、リスキリング(スキルの見直しとキャリアチェンジ)という三つのRが必要です。外部からDX人材を募集することはもちろん重要ですが、それだけでなく、既存のスタッフに学習の機会を提供し、キャリアチェンジを促すことが重要です。医療DXと病院DXの目的の違い国が推進する医療DXは、患者にもメリットがありますが、それ以上に行政や財政の効率化を目的としています。マイナンバーカードと健康保険証の一体化が進められています。全国医療情報プラットフォームの構築では、いくつかの文章や情報を、どこの病院・医療機関にかかっても見えるようにすることが目指されています。診療報酬改定DXでは、2年に1回の改定の度に発生する膨大な作業に対し、非常に負担がかかるという課題に対応するため、国がシステムを作っていく流れです。これらの医療DXに対し、病院の現場では、それ以上に病院DXに注力する時代になりつつあります。病院DXの主戦場は、医療の質を良くすること、患者の安全のため、チームや地域の連携のため、業務効率・生産性アップのため、働き方改革のためにあります。医療の質向上と病院組織の効率化が本質です。病院にとってのDXのゴールは、技術ではなく、信頼と安心の再構築です。医療DXには対応しつつも、病院は病院DXに注力することが求められています。病院DXを成功させる三つのR病院DXを成功させるには、リデザイン、リダクション、リスキリングという三つのRが重要です。これらは医療分野だけでなく、他の業界でも共通して重要な要素です。第一のRであるリデザインは、仕事のやり方そのもの、仕組みそのものを変えることを意味します。DXは業務のやり方や仕組みをゼロから見直し、業務組織を改革することが必要です。単に既存の業務をデジタル化するだけでなく、業務そのものを変革することが求められます。第二のRであるリダクションは、やめること、削減すること、減らすことを指します。現在の医療は、質の向上と高回転(短い日数で治さなければならない)が求められています。働き方改革も進み、質をよくしなければならないという課題もあります。これらすべてをやろうと思っても、もう回っていかない状況です。捨てる覚悟、業務削減、仕事の棚卸は必須です。第三のRであるリスキリングは、スキルの見直しを意味します。業務を見直し、キャリアを変えることも必要になります。DXを進めるには、このようなスキルの見直しとキャリアチェンジの視点が不可欠です。DX人材の育成とキャリアチェンジの可能性DX人材はすべての業界で不足しています。外部に向かってDX人材を募集することは、もちろんとても大事です。しかし、それだけではなく、今いる人の中で、パソコンが得意な方に学習の機会を与えることによって、キャリアを変えていただくことも有効です。医療の場合、看護師でパソコンが得意な人がいるならば、その看護の技術や医療の知識をもとにして、DX人材になっていただくことが考えられます。これがまさにキャリアチェンジです。このような人材育成の視点を持ちながらDXを進めていくことが重要です。看護の技術や医療の知識を持つ人材がDX人材になることで、現場のニーズを理解したシステムやツールの導入が可能になります。外部からの採用と内部からの育成を組み合わせることで、病院DXを効果的に推進できます。まとめ病院DXの本質は、医療の質向上と組織の効率化にあります。国の医療DXは行政・財政の効率化が中心ですが、病院は医療DXに対応しつつも、それ以上に病院DXに注力する時代になりつつあります。リデザイン、リダクション、リスキリングという三つのRを実践し、外部からのDX人材募集だけでなく、今いるスタッフに学習の機会を提供してキャリアチェンジを促すことが重要です。DXのゴールは技術ではなく、信頼と安心の再構築です。 Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe