BC090『人生が整うマウンティング大全』と『話が通じない相手と話をする方法』から考える「話の聞き方」
今回は『人生が整うマウンティング大全』と『話が通じない相手と話をする方法――哲学者が教える不可能を可能にする対話術』を紹介しながら、コミュニケーションにおいて「話を聞く」ことの大切さを確認しました。書誌情報などは、以下のメモページからリンクを辿ってご覧ください。◇ブックカタリストBC090用メモ - 倉下忠憲の発想工房相互ケアとしてのマウンティング受容ある程度、社会的な素養(これが具体的に何を意味するのかはわかりませんが)を持っている人にしてみれば、マウンティングするのは基本的にダサい行いです。教養主義、あるいは啓蒙思想的な立場であれば、虚栄心にまみれた態度であり、ぜひとも修正しなければならない行いだとされるでしょう。ようは、そんな風に人の上に立とうとする態度をやめて、お互いにフラットに話し合おうではないか。それがこうした考え方のベースになっているでしょうし、基本的には私もそう思います。一方で、あまりにもその理念が強くなりすぎると、その「ゲーム」にうまく乗れない人を排斥することにもなりかねない危険性があります。それはそのまま、自分たちが気に入らない主義主張の人たちを「差別主義者」と切り捨てることが可能な”最強の道具”になってしまう可能性にもつながっていきます。『人生が整うマウンティング大全』は、そうした理路とは違った違ったアプローチを持ちます。マウンティングしてしまうのは人間的に(あるいは動物的に)どうしようもないので、それを受け入れてお互いにマウンティングを受容しようではないか。これは人の「弱さ」を受け入れる態度であり、ケア的な行いだとも言えるでしょう。その関係性では、単にフラットに横に並んでいるのではなく、あるときは上に立とうとするが、別のときでは下にいることを許容するという変化を持つ(平均としての)フラットさが醸成されるでしょう。別段こうした話が本書で展開されているわけですが、「マウンティングはよくない」という態度自体が、一種のマウンティングになりかねない状態において、別の仕方でコミュニケートを考えるきっかけを与えてくれた一冊でした。僕たちは「聞く訓練」をしていない『話が通じない相手と話をする方法』では、めちゃくちゃ具体的なノウハウが難易度別に紹介されていて、本編ではそのごく一部、入門的内容を紹介しました。で、「話がうまくなりたい」と思うなら、喋るテクニックよりも先にこの聞く技術・態度を身につけたほうがいいです。本当にそれくらい、私たちは聞く訓練をしてきていません。たまたま相手が聞く訓練をしてきている人ならば、「会話」(conversation)は成り立ちますが、そうでないと一方通行の伝令が二人いるだけの状態になって、もはや会話とも呼べない何かになってしまいます。それくらい、私たちは相手の話を聞いていません。そのことは、カフェとかで繰り広げられる雑談を耳にすればよくわかります(あまり礼儀はよくありませんが)。しかし逆に言うと、日常のやりとりは相手の言うことを真剣に聞いていなくても成立するものです。そこでは相手と場や空間を共有し、敵対的な意志を持っていないという最低限のことさえ表明すれば、あとは何を言ってもOKなのです。私たち人間はとてもファジーに意思疎通している。だからこそ、きちんと聞くことができないのです。聞かなくても大丈夫だから、真剣に訓練されることがない。でもって、そうした日常的な「やりとり」が会話のすべてだと思ってしまう。今この文章も、かなり伝令的になっているな〜という感じがふつふつと湧いてきました。そんな感じでついつい伝令的になってしまう(あるいはマウンティングしようとしてしまう)人間性を前提として受け入れて、じゃあどうしたらいいのかを考え、対策をとることが「人間的」な振るまいなのだろうなと思います。一つの指摘本編の中で、ごりゅごさんが「それって前回の話とつながりますよね。つまり何かを学ぶときの姿勢と同じ」という旨の指摘をしてくださりました。この指摘が非常に心に残って、今もまだそのことについて考えています。何かを学習するときには、興味・好奇心を持つことがまず大切であり、人の話を真剣に聞く場合もそれが重要である。これは会話というものが「お互いに学び合う場」(共同的な学習)であるとして捉えるならば必然的に生まれる共通性ではあるでしょう。それを踏まえた上で、学習とは学習対象との「コミュニケーションである」という逆向きの方向からも話が組み立てられそうです。そうすると、一見異なる二つの要素(学習とコミュニケーション)を下位項目に含む、一つ上の階層について考えられることができるかもしれません。実にワクワクしてきますね。こんな感じで、私がごりゅごさんに本の内容を紹介しているのに、学んでいるのは(変化しているのは)私の考えの方、というのが開かれた会話の面白さです。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC089『たいていのことは20時間で習得できる』と『成功する練習の法則』から考えるスキルを獲得するというマインドの獲得
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『たいていのことは20時間で習得できる 忙しい人のための超速スキル獲得術』と『成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール (日本経済新聞出版)』を踏まえた「スキルを手に入れるというマインド」について語りました。今回は「自分の体験を整理するために読んだ本を土台にして語る」という感じの内容を意識しました。ごりゅごの今年のブックカタリストのテーマ「つなげる」と絡めて言うのであれば、これまでの自分の人生と、読んだ本をつなげて考えてみる、という感じでしょうか。この2〜3年、おそらく自分が40代になってから、自分の考え方や価値観みたいなものがけっこう変化してきていて、振り返ってみるとかなり大きな変化になっています。そんな変化が、どんなところから起こったのか。その変化によって何が得られたのか。そんなことを「本をテーマにして語る」ことを目指してみました。かつてごりゅごのブログのテーマは「だいたい言いたいだけ」だったんですが、なんかそれに近い「言いたいことを言うために本を素材にする」という手法を使ってみた、という実験。かつて自分が好きだったことを思い出し、それを少しアレンジして今の自分に当てはめてみる。今年はそんなことをする機会が多いんですが、今回のブックカタリストなんかもまさにそういう感じの内容だと言えるのかもしれません。今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC088『CHANGE 変化を起こす7つの戦略』
今回はデイモン・セントラの『CHANGE 変化を起こす7つの戦略: 新しいアイデアやイノベーションはこうして広まる』を取り上げました。書誌情報* 原題* 『CHANGE:How to Make Big Things Happen』* 出版日* 2024/1/25 (原著:2021)* 出版社:* インターシフト* 著* デイモン・セントラ* ペンシルヴェニア大学のコミュニケーション学、社会学、工学の教授。* 翻訳* 加藤万里子* 『アナログの逆襲』など目次や今回の内容に関係する倉下の読書メモは以下のページにまとめてあります。◇ブックカタリストBC088用メモ - 倉下忠憲の発想工房「弱い絆」を再考する昨今のビジネス書などでは、「弱い絆」が重要だとよく言われます。弱い絆とは、日常の人間関係よりも少し「薄い」関係性のことで、そうした人たちは自分の日常と異なった環境で生活しており、異なる情報を持っていることが多いので、そこにアクセスしましょう、というわけです。また、そうした弱い絆で人々がつながるSNSは、情報の拡散に貢献することはよく知られています。プロモーションなどで「発信力」のある人に仕事が集まるのは、そうした人たちならばより効果的に情報を拡散してくれるだろうと期待してのことでしょう。そのような情報の拡散モデルは、「情報はウイルスのように広まる」という観念が前提にあるわけですが、本書はそこに異議を唱えます。たしかにそうした伝播の仕方もあるが、そればかりではないだろう。単に情報を広めるだけでなく、行動や信念を変えるような変化が広がっていくのは、「ウイルス」のようなモデルとはまったく違っているんだ、という議論が実例を通しながら検討されていきます。本書において学べることはたくさんあるわけですが、「弱い絆」至上主義を再検討してみることはその中でももっとも重要なことかもしれません。たしかに強い絆しかない状態よりは、弱い絆があった方がいい。しかしそれは、弱い絆が強い絆を代替してくれることを意味しない。むしろ、土台として強い絆があるからこそ、弱い絆の力が活かせるのではないか。そんな風に考えることができるでしょう。その他、表面的なプロモーションではなく、より深くコミットした新しい動き(運動)を起こしてみたい人には有用な知見が多く見つけられると思います。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC087 『音楽の人類史:発展と伝播の8億年の物語』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は(最初はシンセサイザーの話をしようと思ってたのにいつのまにかその導入部分が広がって)『音楽の人類史:発展と伝播の8億年の物語』のごく一部の部分だけを紹介しました。ごりゅごの今年のブックカタリストのテーマは「つなげる」だって言っといて、今度は逆に「一回で一冊分を取り上げていない」というこの感じ。これは、次回と「つなげる」ことを目指しているが故に起こった現象です。こういう屁理屈が得意になったのも、ブックカタリストを長年続けてできるようになったことです。次回の予定は(ごりゅご回は約一ヶ月後の公開ですが)「シンセサイザー」なんかの話の予定です。それはおそらく「物理と音楽」をつなげる話。今回は「歴史と音楽」をつなげる話。今年はけっこう音楽に関連する本を読んでることが多いんですが、音楽という分野もいろんな分野と大きくつながっている。そういうことを、こうやって色々な観点で紹介する中で「つなげて」話せたら面白いな、と思ってます。今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC086『体育館の殺人』から考える新しい読書について
今回は二人が読んだ『体育館の殺人』というミステリー小説から「本の読み方」について考えます。「読者への挑戦状」への挑戦発端は、倉下が『体育館の殺人』を読んで「読者への挑戦状」にきちんと挑戦しよう、という試みです。そこにいたる流れは二つありました。まず一つは、アニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』で青崎有吾さんに興味を持ち、以前から面白い作品を書く人だと聞き及んでいたので、じゃあ一作目の『体育館の殺人』を読んでみようという流れ。もう一つは、一冊の本を一年かけて複数人で読んでいこうという環読プロジェクトや、毎日少しずつ本を読みその読書日記を書くという「ゆっくり本を読む」という自分の中でのマイテーマな流れ。その二つが合流することで、ミステリー小説の「読者への挑戦状」にガチンコで挑戦しようと思いたちました。ちなみに、これまでもミステリー小説は読んできましたが、本気で「推理」したのはこれがはじめてです。つまり、何回も再読し、状況をメモしていって、そこから推論を展開していくという試みは倉下読書人生史上初だったわけです。で、やってみて思いました。「楽しい」と。仕事で書いている原稿のためでもなく、自分の環境改善のためにプログラミングを書くのでもない。ただただ純粋に「頭を使う」という行為はすばらく楽しいものです。純粋な娯楽という感じがふつふつと湧いてきますね。続きのページを見れば答えが書いてあるものを、それこそ10日以上もかけて考える。その間は、他の本の読書も止まってしまう。コスパはぜんぜんよくありません。しかし、コスパが悪いからこそ、そこには純粋な楽しみが立ち上がってくることも間違いありません。つまり、コスパを気にしているのは、「コスパゲーム」をしているので、目の前のゲーム(推理やらなんやら)に十全に没頭できないのでしょう。この辺は、昨今の情報環境の大きな問題に関わっていると思います。というわけで、一冊の本を十全に味わうためには、ゆっくりと時間をかけ、それこそ読書メモなんかを取りながら読む「スロー・リーディング」がいいよ、というのがお話の半分です。「読書メモ」の練習になるもう半分が、そうやってミステリーの犯人を当てるために作る「読書メモ」が、より敷延した「読書メモ・ノート」作りの練習に最適ではないのか、という話です。本を読んでメモやらノートを書く、というのは初めてだと存外に難しいものです。特に、普段メモやノートを取らない人ならばなおさらでしょう。「どう書くのか」と「何を書くのか」の二つが課題としてのしかかってきます。その点、「ミステリーの犯人を当てるため」という目標が固定されているならば、何が必要で何が必要でないのかの判別はしやすいでしょう。あとはそれを「どう書くのか」です。もちろん、「どう書くのか」も簡単というわけではありません。いろいろ試行錯誤は必要でしょう。ただ、うまくかけているのかどうかという判断は簡単にくだせます。推理がうまく進んでいるなら、メモもうまく書けているといえるし、そうでないならうまく書けていないと言える。わかりやすいですね。一般的に「賢くなるため」の読書メモやノートは、賢くなることが瞬間的・瞬発的な結果ではなく、それはつまりメモがうまくかけているかどうかのフィードバックにかなり時間がかかることを意味します。そういうものが「上達」するのって、難しいのです。その意味で、限定された目的を持つ推理用メモは、本を読み、メモを書くということの練習としてうまく機能するのではないか、というのがごりゅごさんのアイデアで、倉下もたしかにそうかもしれないな、と感じました。もちろん、推理用メモの書き方がすべての読書メモに通じるわけではありません。それぞれに書き方は違ってくるでしょう。それでも、そうやって手を動かすことに慣れることさえできれば、応用はもっとずっと容易いのではないかと想像します。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC085『文学のエコロジー』から考える文学の効用
今回取り上げるのは、山本貴光さんの『文学のエコロジー』です。本書を通して、「文学を読むときに何が起きているのか?」を考えてみます。書誌情報* 著者:山本貴光* 哲学の劇場でもおなじみ* 『記憶のデザイン』『文学問題F+f』などがある * 出版社:講談社* 出版日:2023/11/23* 目次:* プロローグ* 第I部 方法——文学をエコロジーとして読む 19* 第1章 文芸作品をプログラマーのように読む 20* 第II部 空間 49* 第2章 言葉は虚実を重ね合わせる 50* 第3章 潜在性をデザインする 74* 第4章 社会全体に網を掛ける方法 97* 第III部 時間 117* 第5章 文芸と意識に流れる時間 118* 第6章 二時間を八分で読むとき、何が起きているのか 139* 第7章 いまが紀元八〇万二七〇一年と知る方法 161* 第IV部 心 183* 第8章 「心」という見えないものの描き方 184* 第9章 心の連鎖反応 207* 第10章 関係という捉えがたいもの 232* 第11章 思い浮かぶこと/思い浮かべることの間で 254* 第12章 「気」は千変万化する 276* 第13章 「気」は万物をめぐる 300* 第14章 文学全体を覆う「心」 321* 第15章 小説の登場人物に聞いてみた 342* 第V部 文学のエコロジー 367* 第16章 文学作品はなにをしているのか 368* エピローグ 395* あとがき 418本書に加えて、『ChatGPTの頭の中 (ハヤカワ新書 009)』と『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)』を補助線として挙げておきます。倉下のメモは以下のページをご覧ください。◇ブックカタリストBC084用メモ - 倉下忠憲の発想工房以降は常体でお送りします。エコロジーとシミュレーションエコロジーとは「生態学」のこと。静止した対象ではなく、対象と環境の相互作用に関心を向ける態度が生態学。つまり本書は、「生態学における文学」という意味ではなく、文学を生態学的な観点から眺めてみよう、という態度で書かれている。面白いのは、そこに「シミュレーション」の視点が加わる点。小説で描かれる世界を、もしコンピュータ・シミュレーションで立ち上げるとしたらどのようになるか。そのような対比を対比を経ることで、そもそも私たちが文学を読んでいるときに何が起きているのかが再発見されていく。その意味で、本書は具体的なレベルでは「文学には何がどのように書かれているのか」が検討されるのだが、そうした検討の先に「文学を読むときに何が起きているのか?」という大きな問いに取り組んでいる。個々の文学作品に対する批評というよりも、「そもそも文学とは何か」(何でありうるか)を探る文学論であると本書は位置づけられるだろう。生きることとシミュレーションここからは倉下の意見がかなり入ってくるが、人は「世界」をシミュレーションして生きている。世界のそのものを捉えているのではない(物自体にはアクセスできない)。私たちは世界についての「モデル」を持ち、そのモデルをベースに世界はこうであろうと演算している(ただし意識的な計算ではない)。小説作品は「世界」を描いている。もっと言えば、提示される作品を読者が読むときに、そこに読者なりの「世界」が立ち上がっていく。「世界」がシミュレートされるというわけだ。そのシミュレートは、もしかしたら読者がもともと持っている「世界」シミュレート.appとは違う動作かもしれない。その動作が、読者のシミュレートにフィードバックし、それまでとは違った仕方でシミュレートすることを可能にするのではないか。本があり、読者がいて、その読者が読むことを通して変容していくこと。それこそが「文学」という営みの生態系であろう。文学を静止的・局所的に捉えるのではなく、読み手の存在と文学によって媒介される変化を合わせて捉えること。それが文学のエコロジーであるように思う。だからこそ文学は「生き方」を変える。というよりも、「生きる」という営みの励起の仕方を変えていくのだ。「生きるとはどういうことか」ということを根本的に揺り動かせるのは、文学が私たちのシミュレートに影響を与えているからだ、というのは何の確証もないけれども、今後時間をかけて考えていきたい命題である。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
ゲスト回BC084 jMatsuzaki さんと『先送り0(ゼロ)』
今回は、jMatsuzaki さんをゲストにお迎えして、新刊『先送り0(ゼロ)―「今日もできなかった」から抜け出す[1日3分!]最強時間術』についてお話をうかがいました。書誌情報* 出版社* 技術評論社* 出版日* 2024/2/24* 著者* jMatsuzaki* 1986年生まれ。クラウドサービス「TaskChute Cloud」開発者。jMatsuzaki株式会社 /jMatsuzaki Deutschland UG代表取締役。一般社団法人タスクシュート協会 理事。* システム系の専門学校を卒業後、システムエンジニアとして6年半の会社員生活を経て独立。会社員時代にjMatsuzakiの名で始めたブログが「熱くて有益」と人気を博し、最高で月間80万PVに達する。現在は会社経営のかたわら、サービス開発や執筆、講演活動をしている。2018年よりドイツ在住。* ◇TaskChute Cloud by jMatsuzaki Inc* https://taskchute.cloud/users/top* 佐々木正悟* 目次* 序章 時間に追われ、先送り癖に悩まされている人へ* 第1章 先送りゼロを習慣化するための3つのルール* 第2章 先送りゼロを支えるメソッド「タスクシュート」* 第3章 先送りゼロを実現するシステムの全容* 第4章 スモールスタートで先送りゼロの成功体験を重ねる* 第5章 先送りゼロを実現する考え方のポイント* 第6章 長続きする習慣を支えるログの活用法* 第7章 複数のタスクからなるプロジェクトで先送りゼロを実現するには* 第8章 うまくいかないときのために「タスクシュート」というメソッドに入門するための一冊ではありますが、その道のりの先には「時間の使い方=生き方」の変化が見据えられています。その「タスクシュート」はかなり偏った印象で捉えられることが多いメソッドなのですが、そこに含まれる有用なコンセプトを、より広く受け入れてもらえるように本書ではさまざまな工夫がほどこされています。そうした工夫は、陥りやすい挫折をケアしてくれるでしょう。また、これはタスクシュートに限ったことではありませんが、タスク管理的な行為を行うときに、当人の「完璧主義」「理想主義」が暴走している状態では、何をどうやってもうまくいくことはありません、この場合の「うまくいく」とは、結果に納得できる、満足感や幸福感を得られるというような意味です。たしかに作業はたくさんこなせるようになったけども、常に焦りの気持ちを覚えているというのでは、「成功」とは言えないでしょう。本書はそうした焦りに対する処方せんも与えてくれます。その意味で、本書の「先送りゼロ」とは、物事を後回しにすることが何一つ起こらない状態というよりも、「先送りしてしまった」という感覚が生みだす罪悪感や自責の念をゼロにできる状態、という方が近しいでしょう。先送りを繰り返すことで発生する、自分の心への攻撃を止めることが大切なわけです。もちろん、たとえ1分であっても何かしら着手することは物事を確実に前に進めるわけですから、実際的(あるいは能率的)な意味でも効果があると言えます。ちなみに、本書で提示される三つのルールは以下。* 1日の初めに今日やることを決める* 1日の終わりにその中で先送りしたものの数を数える* 1分でも手をつけたら「先送り」とはしないばかばかしいと思われるかもしれませんが、これはかなり有効です。『ロギング仕事術』もルール自体は違うものの、似たコンセプト(実際にやったことを重視する)を持っていると言えます。すべてはログ/ノートからはじまるのです。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC083 『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』と『残酷すぎる人間法則』の2冊から考える人間関係
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』と『残酷すぎる人間法則』の2冊から考える人間関係をテーマに語りました。ごりゅごの今年のブックカタリストのテーマは「つなげる」です。ブックカタリスト本編の中で、2冊の本をつなげて語りつつ、その内容は前回ともつながることを意識しています。3年くらいブックカタリストを続けて、ようやくこういう切り口で本を紹介できるようになったぞ、という感じがしています。これ、3年前に同じことをやったとしても、もっと「無理やり」な感じになったような気がします。今年公開した2回は、よい意味で「無理してつながりを見つけようとして読んでいない」本で、3年分の読書メモの蓄積があって、そこから自然に「この2冊を組み合わせたら面白いかもな」と思えたもの。そういう意味では、2024年は「ちょっと進歩したごりゅご」をお見せするのが今年のテーマだといえるのかもしれません。今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC082『思考を耕すノートのつくり方』から考えるノウハウのつくり方
今回は、2023年11月に発売となった『思考を耕すノートのつくり方』を著者自身が紹介します。書誌情報* 著者* 倉下忠憲* 出版社 * イースト・プレス* 出版日* 2023/11/17* 目次* はじめに* Chapter 1 知的道具としてのノート* 「頭の中だけ」は限界がある/頭の使い方のサポート/気軽に、自由に使う* Chapter 2 使い方のスタイル* ノートの種類/罫線の意味/サイズ/紙質と使い心地/ページ/タイムスタンプの重要性/ナンバリングの利便性/貼りつける etc.* Chapter 3 書き方のスタイル* 日記/作業記録/メモ(アイデアメモ)/講義ノート/タスクリスト/* 会議・打ち合わせノート/着想ノート/思考の整理/研究ノート/読書記録/ライフログノート/振り返りノート/フリーライティング etc.* Chapter 4 ノートQ&A* 何からはじめるのか/いつ見返すか/記入量の増やし方/ノートの使い分け/デジタル情報とのつきあい方 etc.* 付 録 ノートをさらに使うためのブックガイド* おわりに ノートを自由に使う本書は、著者独自のノート術を紹介するのではなく、「ノート術」というのがどのような部品で成り立っているのかを細かく紹介することで、読んだ人一人ひとりが自分なりのノート術をつくりあげることを手助けする本です。ノウハウは「つくる」もの世の中を見渡してみると、たくさんのノウハウが見つかります。「ノート術」ひとつ取ってすらそうです。Aさんは「このノート術が最高だ」といい、Bさんは「このノート術こそが真に成果をあげるための方法」だと言います。そのまま進めば"宗教戦争"になりかねない勢いです。一方で、少し引いてみれば、Aさんは自分のやり方で成果を挙げているのだし、Bさんもまた自分のやり方で成果を挙げているのだと言えます。ある方法を使わなければ成果を挙げられない、というわけではありません。人はそれぞれに違いがあるわけで、その人に適した方法も違っているというのは考えてみれば当たり前の話でしょう。そのように考えれば、「成果を挙げる究極の方法」を追い求めるのはやや虚しいかもしれません。いつまで経っても手に出来なさそうですし、無用な論争も起きるでしょう。そうした探究を進める代わりに、「自分がうまくやれる方法」、もっと言えば「今の自分がうまくやれる方法」を見つける方が、生産的だし健全な気がします。そうした考え方を実用主義的ノウハウ呼び、理想主義的ノウハウと区別してみるとまったく新しい「ノウハウ観」が生まれてきます。行為の主体者は、究極的に存在するノウハウを「身につける」のではなく、そのときそのときのニーズに合わせたノウハウを「つくっていく」のだという観点です。本書はそうしたノウハウ観をベースに書かれています。ノウハウ書の問題点もう一点つけ加えると、私が考えるに最近のノウハウ書はいくつかの「問題」を抱えています。まず「理想的過ぎる」点です。あれをこうしたら、こうなりますよね。やった! という感じ。そこには現実に起こりうるさまざまな抵抗や不具合がまったく無視されています。簡単に言えば「そんなにうまくいくなら、始めから困っていないよ」というツッコミを入れたくなるのです。で、理想的な状況だけが語られているので、不具合に遭遇したときにまったく対処ができません。それでは実行はおぼつかないでしょう。次に、「発案者に最適化されすぎている」点です。ある人にとって、最高の効果を上げられる方法は、むしろ性質や傾向が違う人にとって効果を上げにくい方法になっている可能性があります。それ自体は別に構わないのですが、「このやり方でうまくいく。このやり方でないとうまくいかない」という形で説明されていると、効果を上げにくい部分をアレンジすることができません。そうなると、微妙にうまくいかない部分を抱え続けなければならなくなります。これはけっこうストレスで、それが挫折の原因になったりもします。最後に「過程がなさすぎる」問題です。ノウハウは「つくっていく」ものであって、そこには経過があります。言い換えれば歴史があります。極端なことを言えば、ある人が何かしら成果を挙げられているのは、有効な方法を手にしていることだけでなく、むしろその方法を確立にするに至ったプロセスが背景にあるからです。そのプロセスの中で、何が効果があり、何が効果がないのかを体験的に理解してきたからこそ、そこにある方法を十全に使えている点があるでしょう。また、そうした理解があるからこそ、手持ちの方法が不具合を起こしたときにでも、新しく変容させていける対応力も持ちます。一方で、「はい、これが完成品です」と手渡されたらどうなるでしょうか。そこには経過もなく、ということはそこからの変化もありません。そこにある完成品に、自分自身を合わせるしかなくなるわけです。これはかなり窮屈なことです。だから本書は、ノート術の本でありながら、「成功した著者のノートの使い方を真似すれば、明日からあなたも成功者になれる」的なスタンスではなく、非常に技術的な視点(エンジニアリング的な視点)においてノート術を紹介しています。もちろん、特定の誰かのノート術をノウハウとして紹介することに意味がないと言いたいわけではありません。そうした情報から学ぶことはたくさんあります。一方で、それは「お手本」でもなければ「理想的」でもなく、ましてや「こうでなければならない」という絶対的なルールではありません。一つのヒントであり、もっと言えば行動を促す「触媒」でしかないのです。世の中のノウハウをそのような姿勢を受け取ることができるならば、現代は「自分のノウハウ」をつくるためのヒントがいくらでも見つけられる環境だと言えるでしょう。個人的には、そうした見方が少しでも広がればいいな、と願っております。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC081 『ピダハン』と『ムラブリ』から考える価値観への文化の影響
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『ピダハン』と『ムラブリ』という2つの民族から考える新しい価値観について語りました。ムラブリは読んでから半年以上、ピダハンは1年以上経過している本ですが、どちらも今でも強く印象に残っていて、読書メモもそれなりにきちんと残っています。そのおかげで、メモを見ながらであれば、だいたいのことを思いだすことができて、だいたいのことは「語る」ことができるようになったな、と実感した回でした。ブックカタリストを始めて、現在で大雑把に3年くらいが経過。やはり、そのくらいの期間続けていると、いろいろなことが「スキル」として身に付いてきたな、と感じられています。今回は(たぶんごりゅごとしては珍しく)テーマを設けて、そのテーマに従って本の紹介をするというスタイルでした。こういう形式で本を紹介できるようになったことも、これまた今までとは違う本の読み方ができるようになったからなのかもしれません。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe