BC110『エスノグラフィ入門』
今回は、倉下が『エスノグラフィ入門』を紹介しました。倉下のこれからの本の書きかたについて、消しきれぬインパクトがあった一冊です。目次はじめに第1章 エスノグラフィを体感する第2章 フィールドに学ぶ第3章 生活を書く第4章 時間に参与する第5章 対比的に読む第6章 事例を通して説明するおわりに――次の一歩へ本編で読み上げるのを断念した「最終的な説明」は以下です。エスノグラフィは、経験科学の中でもフィールド科学に収まるものであり、なかでも[* ①不可量のもの]に注目し記述するアプローチである。不可量のものの記述とは、具体的には[* ②生活を書くことに]よって進められる。そして生活を書くために調査者は、フィールドで流れている[* ③時間に参与する]ことが必要になる。こうしておこなわれたフィールド調査は、関連文献を[* ④対比的に読むこと]で着眼点が定まっていく。そうしてできあがった[* ⑤事例の記述を通して]、特定の主題(「貧困」「身体」など)についての洗練された説明へと結実させる。これが具体的にどういうことなのかを一つひとつの章を通り抜ける中で確認していく形式になっています。収録時に倉下が見ていた読書メモは以下のページで確認できます。◇ブックカタリストBC110用メモ | 倉下忠憲の発想工房エスノグラフィとはエスノグラフィとはそのまま訳せば「民族誌」で、人類学で発展してきた手法が社会学でも使われるようになっているようです。倉下が一番注目したのはその手法が「生活を書くこと」に主眼を置いている点。"革命的"なものって派手で注目されやすいのですが、それでも私たちの人生の大半を構成しているのは間違いなく生活です。「地に足のついた」という表現で意識されるのも、生活(感覚)との接続でしょう。人びとの生活のディティールを描くこと。それはごりゅさんがおっしゃられたように小説(文学)との営みとも重なってきます。そこには、人の「生」を考える上で決して捨象してはいけないものが含まれているといっても過言ではありません。倉下はいわゆるライフハックな話題が大好きですが、結局それも「人生」=「生活」がその基盤にあるからです。日々の生活から考えること。日々の生活を判断の基準にすること。派手なものに目を奪われやすいからこそ、むしろそうしたものにより注意深く視線を向ける必要があるのではないかと考えます。自分の仕事にひきつけてもう一点、自分の仕事に引きつけて考えたときに、「大きな方法」に注目するのではなく、むしろ日常にあるさまざまな小さな方法とそのディティールに注目する方が、実は「役に立つ」のではないかと考えることができるようになりました。ときどき思うのです。大上段で理論を打ち立てるノウハウが、その語りの中で自分の方法以外をすべて「役立たず」だと切り捨てているのって何か変ではないかな、と。純化された理論に説得力を持たせるためには必要な修辞なのでしょうが、実践は(つまり日常は)さまざまに雑多なもので満たされています。そうした場面において、純粋な理論は参考にはなっても、そのままの形で適用できるものではありません。だからこそ、むしろディティールの語りからはじめ、そのディティールを通して何かしらの理論にアクセスすること。その順番が大切ではないかと思います。なぜなら、そのようにすれば一つの理論に回収できないものが雑多な形で残ってくれるからです。昨今のノウハウ書のあまりにもthinな感じは、整合的に整えようとしすぎたあまりに、実践の中にある雑多さを悉くそぎ落としてしまった結果ではないか、なんてことを考えています。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC109『脳と音楽』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『脳と音楽』について語りました。なんだかんだ、音楽シリーズはこれで3回目くらいになるでしょうか?BC076 『音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか (ブルーバックス)』 - by goryugoBC087 『音楽の人類史:発展と伝播の8億年の物語』 - by goryugo - ブックカタリストそもそも世間一般で「音楽の本」なんてジャンルの比率がけっして多くないことを考えれば、圧倒的に偏ってます。でもまあ、ブックカタリストは「面白かった本」を語る場です。ごりゅごの好みが音楽に偏っていれば、そういう本を面白いと感じるのは当然。それこそが「らしさ」だと思います。で、そういうことを踏まえての今回の本ですが、とにかく興味深かったのが「音」の研究は「心理学」であるという観点でしょうか。今回の話に限って言えば、離した内容の大半は人体の仕組みに関する話ですが、次回話そうと思ってる「音」の話って、その音に対して人間がどう感じるか、というもの。これ、やっぱり確かに心理学です。そして、今回学んだ内容は、どストレートではないんだけど、自分の音楽能力アップ、というのに確実に役に立ってくれています。たとえば今回の話とかだと「高い音は、確かにわざと半音でぶつけること、するよな」とか。こういうのが、音楽の知識ではなくて「脳科学の知識」という観点からも理解ができる。大抵の音楽やってる人とか、たぶんこういうことには興味がないと思うんだけど、自分的にはこの科学や人文学の知識と、音楽的な知識の両方が繋がるということが、とても楽しい。今年一番最初に読み終えた本なんですが、いきなりこれは「今年一番面白かった本」になるかもしれない。そんなことも感じています。今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC108『「学び」がわからなくなったときに読む本』
今回は『「学び」がわからなくなったときに読む本』を取り上げました。7つの対談が収められたすべての章が面白いので、今回は各章から話題をピックアップし、ごりゅごさんと話し合いながら進めるといういつもと違った形を採用しております。おそらくこのポッドキャストを好きな方ならば、「学び」がたくさんある本だと思います。あらためて「学び」についてというような感じで、私たちは日常的に「学び」という言葉を使っています。上記のように「学びがある」という形が多いでしょうか。その言葉のニュアンスを探るなら、「有益な知見が得られた。示唆に富む内容だった」あたりでしょうか。素晴らしい体験です。でも、おそらくそのままでは知識が増えただけです。ネットワーク的に言えば、どこかのノードに子どものノードが一つか二つ増えただけ。ネットワーク全体の組み換えなどは起きていないでしょう。言い換えれば、すでに自分が所有している文脈に引きつけて情報を理解した、ということです。それ自体はまったく問題ありません。問題は、そこからどうするのか、です。* 関連する情報も探りまくる* 似たような問題を考えまくる* 実際に自分でやってみまくる何らかの心情に突き動かされて、そういうことをやってみる。時間と手間をかけてみる。他の人からみたら、「なんでそんなに熱心にやっているの?」と思われる(あるいはあきれられる)ことをやってみる。そうすると、単に知識がインクリメントされるのとは違った経験がやってきます。考え方や物の見方そのものが変質してくるのです。『勉強の哲学』は、その一次的な変化を「キモくなる」と呼びました。実際そのとおりなのです。知識が増えただけなら蘊蓄を披露する回数が増えるだけですが、考え方や物の見方が変わったら、それまでうまく調和していた場(≒人のネットワーク)から外れることになります。こういう風に記述すると、ちょっと怖さを感じてしまうかもしれません。それは自然な反応でしょう。やすやすとできることではない。それが自然にできるレアな人もいるでしょうが、自分が属する場からはじかれてしまうことに深いレベルで恐怖を感じることは多いかと思います。だからこそ「場」が大切なのだ、と私は思います。「最近、こういうことをに興味を持っているんです」「へぇ〜、面白いですね」という何気ないやりとりが行われる場は、「キモくなる怖さ」を緩和してくれるように思います。もちろんその場はスペシフィックな、あるいなアドホックな場であることが望ましいです。言い換えれば、その場がその人の人生そのものにはならないこと。一時的・限定的にそこにいくけども、そこから帰っていく別の場もある。生活の場。そのような往還が、二次的な変化を呼び込みます。そのような往還を繰り返す中で、自分自身を変えながら、同時により自分自身であり続けること。つまり、訂正可能性(BC106参照)が示す開きと綴じの可能性がそこにあるわけです。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC107 『結婚の社会学』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『結婚の社会学』について語りました。たぶん、今までごりゅごが語った中で一番社会派の話です。日常的にずっとこういうことを考えてる、ってわけではないし、常にこんな高尚な問題意識を持って生活してる、なんてことは全然ないんですが、人生の中で時々はこういうことを考える時間があった方が、長い目で見て豊かな生活を送れるのではないか。そんなことは思います。なによりも、本編でも語ってることなんですが、自分はまずこの本でかかれていたようなことをまったくもって「知らなかった」人間、知らないことについて考えることはできません。だからこそ、まず第一歩としてこういう考え方があるんだな、ということを知っておく。これだけでも、今後の人生でなにかこの本の中身と関連するような出来事があった時の大きな判断の助けになるような気がしています。今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC106『訂正可能性の哲学』と自己啓発
今回は『訂正可能性の哲学』を取り上げました。主に紹介したのは第1部の内容で、最後に少し倉下の考え(自己啓発の課題)も提示してあります。本編は 07:30 あたりからスタート。倉下の読書メモは以下のページで確認できます。◇ブックカタリストBC106用メモ | 倉下忠憲の発想工房家族と思想本書で一番ビビっときたのが、エマニュエル・トッドの家族と社会体制の関係を補助線にしながら、私たちは「家族」的なものの外側には出られないのではないか、と提示された部分です。家族の外に出たと思ったら、そこにも家族があった。フラクタルな構造としても面白いですし、私たちの思考・思想が生まれ育った環境に強く制約されているという点でも示唆に富む提示です。その上で、です。私たちたちが生まれ育つ環境そのものが動いている、という点も見逃せません。生活の実態として「家族」的なものが今後変化していくならば、私たちの共同体の思想もその土台から動いていくことが考えられます。おそらくそれは、希望を形作る可能性でしょう(もちろん、絶望に転じる可能性も同時にあるわけですが)。たとえば、金田一蓮十郎の『ラララ』では、恋愛ではない形で結婚した夫婦が養子を迎え入れるという「家族」の形を提示していますが、そのようなさまざまな形態の家族が増えていけば、私たちの共同体思想も変わっていくのかもしれません。訂正可能性本書の中心となるのが「訂正可能性」であり、それは「閉じていながら、開いている」という二重の性質を持ちます。また、「訂正可能性」を持つためには、つまり「訂正される」という可能性を担保するためには、それが持続・継続していく必要があります。開きと閉じの二重性、そして継続性・持続性。そうした性質が大切だよ、ということを真理の追究や功利主義などとは違った立場から本書は提示してくれています。ごく卑近な実感としてもその提示には頷けるものがあります。たとえばこの「ブックカタリスト」は、あるブックカタリストっぽさを維持して続けていくことが大切でしょう。ある日聴いたら「楽にめっちゃ儲けられる方法」などが語られていたら残念感が半端ありません。一方で、そのブックカタリストっぽさは常に更新され続けていくことも必要です。同じでありながら、変化もすること。それがシンボル(ないしブランド)にとって重要な要素です。それと共に、やっぱり配信を続けていくことも大切です。というよりも、同じでありながら、変化もすることは続けていくからこそ可能なのです。単に続ければいいというものではないし、単に変化すればいいものでもないし、単に変わらなければいいものでもない。これらの複合において、はじめて可能になるものがある。そういう意味で、本書の提案は哲学的面白さ以上に、実践的活動において大切な話だと個人的には感じました。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC105 2024年の配信を振り返る(後半)
いよいよ年末です。今回も前回に引き続き一年間の配信を振り返ってみました。7月から11月までの配信の振り返りです。2024年の配信(後半)* 2024年07月02日:BC093「自分の問い」の見つけ方* 2024年07月16日:BC094 『熟達論』* 2024年07月31日:BC095『BIG THINGS』から考える計画問題 * 2024年08月13日:BC096 人間の色覚と色について* 2024年08月27日:BC097『生産性が高い人の8つの原則』* 2024年09月24日:BC098 『ATTENTION SPAN(アテンション・スパン) デジタル時代の「集中力」の科学』* 2024年10月08日:BC099 論文を書くとはどういうことか* 2024年10月22日:BC100ブックカタリスト・ビギンズ* 2024年11月05日:BC101 『プリズナー・トレーニング』* 2024年11月19日:BC102 積ん読の効能* 2024年12月03日:BC103 『肥満の科学』こうして振り返ってみると、7月からの倉下の紹介本はかなり「実用書」に偏っていたと思います。言い換えれば、思想・哲学的な話が少なかった印象。ごりゅごさんも同様に、「体」の話が多かったですね。こういうのはテーマ・リーディングというほど明確な目的意識がないにしても、なんとなくそうなっちゃうという感じがあります。そのときそのときの自分の勢いとか流れみたいなものが傾向をつくるわけですね。そういう流れは、意識的に生み出すのもそう簡単ではないので、そういう波がやってきたら素直に乗ってみるのも一興だと思います。「そのとき読みたい本を読む」というのは、そういう駆動力を最大限に活かす読み方です。というわけで、今年もありがとうございました。そして、来年からもよろしくお願いいたします。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC104 2024年の配信を振り返る(前半)
いよいよ年の瀬です。今回は一年間の配信を振り返ってみました。さすがに量が多いので、前後編に分けてお送りします。今回は前編で、1月から6月までの配信の振り返りです。2024年の配信(前半)* 2024/01/02:BC080『観光客の哲学』と『哲学の門前』から考える読書について* 2024/01/16:BC081 『ピダハン』と『ムラブリ』から考える価値観への文化の影響* 2024/01/30:BC082『思考を耕すノートのつくり方』から考えるノウハウのつくり方* 2024/02/13:BC083 『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』と『残酷すぎる人間法則』の2冊から考える人間関係* 2024/02/27:ゲスト回BC084 jMatsuzaki さんと『先送り0(ゼロ)』* 2024/03/12:BC085『文学のエコロジー』から考える文学の効用* 2024/03/26:BC086『体育館の殺人』から考える新しい読書について* 2024/04/04:BC087 『音楽の人類史:発展と伝播の8億年の物語』* 2024/04/23:BC088『CHANGE 変化を起こす7つの戦略』* 2024/05/07:BC089『たいていのことは20時間で習得できる』と『成功する練習の法則』から考えるスキルを獲得するというマインドの獲得* 2024/05/21:BC090『人生が整うマウンティング大全』と『話が通じない相手と話をする方法』から考える「話の聞き方」* 2024/06/04:BC091『センスの哲学』* 2024/06/18:BC092 『Mine! 私たちを支配する「所有」のルール』全体として、脈絡がぜんぜんないような、それでいて何かしらの通奏低音は感じられるようなそんなラインナップでした。たとえば、BC083の人間関係と、BC090のコミュニケーションの話はつながっています。加えて、BC088の人の行動に変化を与えるときに小さな集団に注目するという話も関係しているでしょう。もっと言えば、BC081の文化と価値観の話も、自分自身と所属している共同体との関係としても拡張できそうです。そんな感じで、まったく同一のテーマの本ではなくても、「近場をうろうろする」ように読書をしていると新たなつながりが見えてくるものですし、それは「より大きな視点で捉えること」「自分なりのテーマを語ること」にもつながってきます。というわけで、本を読むこととは本を読み続けることである、という倉下のテーゼが出てくるわけですが、それ以上に、自分が話したはずのことをぜんぜん覚えていないという体験は、読書に限らず年末に一年の振り返りをしているとたびたび起こる楽しい体験で、だからこそ積極的に記録を残していきたいなという気持ちが高まってきます。皆さんも、ぜひ一年の活動の振り返りをやってみてください。あと、「ブックカタリストの配信で、これが今年印象に残った!」といったコメントもお待ちしております。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC103 『肥満の科学』
面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、プリズナー・トレーニングに続いての「運動・健康シリーズ」として『肥満の科学』について語りました。前回紹介したプリズナートレーニングは、想像以上に多くの人が興味を持っていただけたみたいで、ごりゅごも仲間が増えてとても嬉しくなっています。そして、自分の興味関心というのはやはり波があるもので、筋肉を付ける、強くなる、という部分に興味を持つと、そのまま似たようなことへのアンテナ感度が高まってきます。で、今回のテーマは「肥満」です。人は、なぜ太るのか。そして、なぜ運動が重要なのか。約2年前にも、なぜ太るのか。なぜ運動が重要なのか、という話は紹介しています。BC056 『運動の神話(上)』 - by goryugo and 倉下忠憲@rashita2 - ブックカタリストBC060『運動しても痩せないのはなぜか』『科学者たちが語る食欲』が、今回はこれとはまた違った観点での紹介であったところが面白い。結果的には、どの本も同じようなことを言っているんだけれども、それぞれちょっとずつ、理由や、やることが違う。結局のところ、人体は超複雑です。現代の科学で「すべてを解き明かす」なんてことはおそらく出来ないし、仕組みがすべて分かったとしても、ひとりの人間の認知の能力で、それを理解して、コントロールし切ることは不可能だろうな、とも思います。と同時に、だからこそ人体の仕組みを知ろうとすることは面白いし、そこから学んだことを実践して「うまくいく」ときが面白い。自分がこの分野に興味を持つ大きな理由は、そういう部分なのかな、と感じます。今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC102 積ん読の効能
今回のテーマは「積ん読の効能」。『積ん読の本』で語られていたことを眺めながら、本を積むこと、本棚に本を並べることについて考えます。積ん読とは何か?「積ん読」は、なんとなく意味がつかめる言葉ではありますが、本を読む生活を送っている人の感覚からすれば、「読むつもりはあるが、まだ読めていない」状態をさすことが多いようです。辞書などのようにそもそも読了するような目的を持たない本が読み切られていなくても、それは──感覚として──積ん読とは呼ばないわけです。言い換えれば、読もうと思って買ってはいるが、その思いがまだ達成されていないわけで、そこに罪悪感が発生する余地があるわけですが、その点を気に病んでいる方はほとんどいらっしゃいませんでした。そんなことを気にしていても埒が明かないということはたしかです。では、なぜそんな状態が生まれてしまうのか。つまり、読もうと思って買っているのに、読めていないという「読書の渋滞」のようなことが生まれてしまうのか。本書を読めば多方面からの分析が可能だとわかります。* 本を読む経験が増えると、読みたい本が等比級数的に増える* 新刊で見つけたうちに買っておかないと書店からなくなる* 書店からなくなると「見えなくなる」ので本の存在自体を忘れる* 絶版になれば入手も難しくなる* 日常的に広告情報に触れているので「読もう、読みたい」と思える本の数が増えている* 大人になると忙しくなるので本を読むための時間が減少する以上のような複合的な要因で、読むスピード > 買う本の量 という「積ん読不等式」が成立してしまうわけです。でも、たとえそうであっても構わない。その主張を補強する理由もさまざまなものが本書では見つけられます。知のインデックスそうした理由のうち、私個人として採用したいのが「知のインデックス」をつくるという山本貴光さんの意見です。何かしらの本があり、何某氏が書いており、何かしらの主張がなされている、ということがとりあえず自分の脳内に入っている。そういうインデックスができていれば、必要になったときにその本に手を伸ばすことができます。現在ではほどんどの本の書誌情報はググれば見つけられますが、逆に言えばググらなければ出てきません。そして、脳内の発想はググらずに起こる現象なのです。自分の脳の奥深くに沈んでいるもの。別のメタファで言えば、記憶のネットワークに織り込まれているもの。それが「使える知識」であり、知のインデックスはその文脈において役立ちます。そう考えると、私の知的関心はある本の中にどんな記述があるのかよりも、たとえばGTDとツェッテルカステンとPARAとメタ・ノートがあるとして、それらはどのような連関にあって、その連関から何が言えるのかを考えることにあります。いつ誰が、どのように論じてきたのか。そういう流れを踏まえることも大切にしたい。そんな風にして「本々」(Books)を眺めようと思ったときに、本棚も「自分のノート」として使っていこうとする試みは、はたいへん面白いと感じました。というわけで、私は「私の本棚」の運用についてヒントを得たわけですが、他の方は他の形で違ったヒントが得られる本だと思います。本の収集癖を強く持っていない方でも楽しめる一冊です。 This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe
BC101 『プリズナー・トレーニング』
プリズナー・トレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ→Amazon:https://amzn.to/47B8nvq面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、プリズナー・トレーニングについて語りました。ブックカタリストの配信回数も3桁に到達し、気分的には「ブックカタリスト2.0」というところ。そのスタートに(個人的にはとてもふさわしいと思っている)本を運良くいいタイミングで紹介することが出来たな、と感じています。ブックカタリストでこれまで紹介してきた本は大半が「真面目な本」だったんですが、ブックカタリストのテーマは「面白かった本について語るPoadcast」であり、それがマジメっぽい本であるとか、むずかしそうな本、賢そうな本であると言うこととはなんの関係性もないのです。とは言え、100回も回数を重ねていると、どうしても方向性が固まってきてしまい、そこから外れた本を選びづらくなってしまうと言うのもまた事実。101回の今回は、そこを打破する為にもいつもとはちょっと違う感じである、ということが重要だと感じていたのです。とは言え、個人的には内容と言うか本編のノリ自体は基本的にほぼいつもと同じ感じにはなっていると思うし、なによりも今回の本はこれまでの「運動」「ダイエット」「練習」などといったテーマで紹介してきたブックカタリストの本の「実践編」みたいな見方も出来るわけです。なによりも、実際にごりゅごはこの本を多いに楽しんで読めているし、読み終えてからも常に手元ですぐに読めるようにしていて、筋トレを行う前や後など、折りに触れてしょっちゅう何回も読み返しています。「運動しないとなー」みたいな感覚はもう10年以上も持っていて、これまではずっと「健康の為にしゃーないから運動する」でした。これが今はついに(大人になってから初めて?)楽しくて、やりたくて、自分自身で積極的に筋トレをする、ということができるようになりました。諦めない気持ちというのは、わりと大事なのかもしれない。今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you'd like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe