令和8年1月9日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会において、選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集の結果への対応方針が示されました。この対応方針は、令和7年9月に報告された343件の意見を踏まえたものです。本稿では、医療機関の実務に影響を与える見直し内容を解説します。
今回の見直しは4つの分野に及びます。第一に、近視進行抑制薬が新たに選定療養に追加されます。第二に、時間外の指導管理や調剤、リハビリテーションの回数制限に関して、既存の選定療養の対象範囲が拡大されます。第三に、予約システム利用料やキャンセル料など、療養の給付と直接関係ないサービス等が明確化されます。第四に、長期収載品の患者負担が価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられます。
近視進行抑制薬が選定療養に新規追加
令和6年12月に薬事承認されたアトロピン硫酸塩水和物が、選定療養の対象として追加されます。この医薬品は近視の進行抑制を効能・効果としていますが、薬価収載はされていません。
背景には、小中学生の近視増加があります。裸眼視力1.0未満の小中学生の割合は年々増加しており、近視の進行抑制に対する患者ニーズは高まっています。
選定療養への追加により、保険診療との併用が可能になります。例えば、コンタクトレンズの処方目的で受診した患者が、アトロピン硫酸塩水和物の処方も希望した場合を考えます。従来は、コンタクトレンズ処方のための検査が保険診療である一方、近視進行抑制薬の処方は保険外診療であり、療養担当規則に抵触するおそれがありました。選定療養に追加されることで、この問題が解消され、患者は近視に係る治療を円滑に受けられるようになります。
既存の選定療養の対象範囲が拡大
既存の選定療養について、2つの類型で対象範囲が拡大されます。
時間外の指導管理・調剤が対象に追加
「保険医療機関が表示する診療時間以外の時間における診察」の対象が拡大されます。具体的には、医師の診察と別日に実施される時間外の指導管理が追加されます。対象となる指導管理は、外来栄養食事指導料、心理支援加算、がん患者指導管理料、乳腺炎重症化予防ケア・指導料などです。また、緊急性のない保険薬局の開店時間外における調剤も追加されます。
この見直しの背景には、国民の生活時間帯の多様化があります。緊急性のない患者都合による時間外の指導管理や調剤には一定のニーズがある一方で、診療時間内の受診・調剤を働きかけることで、医療関係職種の負担軽減と医療の質向上が期待されます。ただし、緊急やむを得ない事情による時間外の指導管理・調剤については、現行の時間外診察と同様に、特別の料金徴収は認められません。
リハビリテーションの回数超過が対象に追加
「医科点数表等に規定する回数を超えて受けた診療」の対象に、摂食機能療法とリンパ浮腫複合的治療料が追加されます。現行では、疾患別リハビリテーションについて、患者の治療意欲を高める必要がある場合に、規定回数を超えた診療への特別料金徴収が認められています。今回の見直しにより、疾患別リハビリテーション以外のリハビリテーションについても、一定の患者ニーズに応えることが可能となり、患者の治療意欲向上が期待されます。
療養の給付と直接関係ないサービス等が明確化
療養の給付と直接関係ないサービス等として、4つの項目が追加・明確化されます。なお、費用徴収に当たっては、患者への明確かつ懇切な説明と同意確認が必要であり、徴収費用は社会的に妥当適切なものとすることが求められています。
予約・オンライン診療のシステム利用料
予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料が明確化されます。システムの利用により、患者は医療機関の診療時間に関係なく診療予約が可能となり、通院負担の軽減など利便性が向上します。
予約キャンセル料
予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料が認められます。対象となるのは、診察日の直前にキャンセルした場合に限定されます。また、傷病が治癒したことによるキャンセルは対象外です。これは、疾病治癒時のキャンセル料徴収を可能とすると、不要な診療を惹起するおそれがあるためです。予約診察では患者ごとに適切な診療体制が確保されており、キャンセルに伴う医療機関の機会損失に対応する措置となります。
Wi-Fi利用料
Wi-Fi利用料について、既存の「インターネットの利用」と同様の取扱いであることが明確化されます。
在留外国人の多言語対応費用
在留外国人の診療に当たり必要となる多言語対応費用が追加されます。対象となる費用は、通訳の手配料や翻訳機の使用料などです。在留外国人が増加する中、言語の問題で診療に多くの人員・時間を要することがあります。在留外国人が診療内容を的確に理解し、納得した上で医療を受けられる環境整備を目的としています。
薬剤自己負担の在り方も見直し
今回の意見募集では、薬剤自己負担の在り方に関する意見も寄せられました。令和8年度予算編成過程を踏まえ、以下の対応方針が示されています。
長期収載品の患者負担が引き上げ
長期収載品の選定療養について、患者負担の水準が価格差の4分の1相当から2分の1相当へ引き上げられます。この見直しは、後発医薬品の供給状況や患者負担の変化にも配慮しつつ、創薬イノベーションの推進と後発医薬品の更なる使用促進を目的としています。
バイオ後続品は継続検討
バイオ後続品のある先行バイオ医薬品については、中医協においてバイオ医薬品に係る一般名処方のルール整備や、医療機関・薬局における備蓄等の体制評価について議論が進められています。社会保障審議会医療保険部会においても引き続き検討するとされており、必要に応じて中医協でも議論される予定です。
OTC類似薬は新たな仕組みを創設
OTC類似薬の薬剤自己負担については、選定療養への追加ではなく、別途の保険外負担(特別の料金)を求める新たな仕組みが創設されます。令和7年12月24日の大臣折衝事項において、令和8年度中(令和9年3月)に実施することが示されました。対象となるのは、OTC医薬品の対応する症状に適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品のうち、他の被保険者の保険料負担により給付する必要性が低いと考えられるものです。まずは77成分(約1,100品目)を対象とし、薬剤費の4分の1に特別の料金が設定されます。引き続き議論の状況を注視しつつ、必要に応じて中医協でも議論される予定です。
まとめ
今回の中医協総会では、選定療養に関する4分野の見直し方針が示されました。近視進行抑制薬の新規追加、時間外指導管理・調剤とリハビリ回数超過への対象拡大、システム利用料等の明確化、そして長期収載品の患者負担引き上げです。医療機関においては、これらの見直しに対応した体制整備と患者への説明準備が求められます。特に、選定療養に係る費用徴収に当たっては、サービス内容や料金等について患者に明確かつ懇切に説明し、同意を確認することが重要です。
Get full access to 岡大徳のメルマガ at www.daitoku0110.news/subscribe
感想
まだ感想はありません。最初の1件を書きましょう!
サマリー
令和8年1月の選定療養の見直しにおいて、医療の選択肢が増える一方で、患者自身がより多くの費用を負担する重要な変更点が紹介されています。特に、子どもや働く世代への影響や医療制度の持続可能性について考察されています。
コメント
似ているエピソード
タイトル・AI要約・文字起こしの話題をもとにおすすめしています。
-
【令和8年度改定】入退院支援加算等の見直し7つのポイントを徹底解説
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
本エピソードでは、令和8年度診療報酬改定における入退院支援加算等の見直しについて、7つの主要な変更点を解説しています。2040...
-
【令和8年度改定】入院医療の見直し4項目を総まとめ|地域包括医療・回復期リハ・療養・障害者施設
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
令和8年度診療報酬改定では、地域包括医療病棟や回復期リハビリテーション病棟など入院医療の4項目が大幅に見直されます。これに...
-
令和8年度診療報酬改定に向けた中長期的検討課題3選:持参薬・重症度評価・包括医療の見直しポイント
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
令和8年度の診療報酬改定に向け、持参薬、重症度評価、包括医療の3つの課題が取り上げられています。これらは医療体制やコスト管...
-
令和8年度診療報酬改定の基本方針を解説|4つの視点と重点課題
岡大徳のポッドキャスト
共通する話題: 医療制度
令和8年度診療報酬改定における価格の見直しや医療体制の構築について解説されています。医療制度の持続可能性と、患者支援のた...
-
【令和8年度改定まとめ】円滑な入退院の実現に向けた4項目の見直しポイントを徹底整理
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
令和8年度診療報酬改定では、入院前から退院後の生活を見据えた関係機関との連携強化や専門人材の柔軟な活用が重視されています...
-
【令和8年度改定】短期滞在手術・回リハ・ICU・オンライン精神療法の4論点を解説
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
令和8年度の医療改定に向け、短期滞在手術やICUなど4つの論点が解説されています。これらの議論を通じて、医療の効率化やアクセ...
-
【令和8年度改定】入院医療の評価見直し3項目|看護補助加算・除外薬剤・DPC/PDPSを解説
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
令和8年度診療報酬改定における入院医療評価の見直し3項目について解説しています。高額薬剤の包括払い除外や看護補助加算の拡充...
-
【令和8年度改定まとめ】「治し、支える医療」の実現|後方支援・入退院・リハ栄養口腔の11項目を総整理
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
令和8年度診療報酬改定は、「治し、支える医療」の実現を目指し、入院初日から退院後の生活を見据えた多職種連携を推進します。...
-
療養・就労両立支援指導料の見直し|令和8年度改定の4つのポイント
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
令和8年度診療報酬改定では、療養・就労両立支援指導料の見直しが行われます。対象疾患の限定撤廃や算定可能期間の延長により、...
-
【中医協解説】令和8年度改定に向けた4つの重要論点|訪問看護・特定疾患療養管理料・身体的拘束・廃用症候群
岡大徳のポッドキャスト
同じ番組の関連エピソード
令和8年度改定に向けて、中医協では訪問看護や特定疾患療養管理料など4つの重要論点が議論されています。これらのテーマは、制度...