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S2E37 別の生物を操る遺伝子
2025-04-10 21:27

S2E37 別の生物を操る遺伝子

生物の遺伝子はその個体の体だけでなく、その外にまで影響を及ぼすことがあります。

寄生生物の遺伝子が、宿主である植物、運び屋である昆虫をコントロールする仕組みを調べた話です。

https://elifesciences.org/articles/98992


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あの、拡張された表現形っていう言い方があるんですね。表現形っていうのは、遺伝子が働いてその結果を切る、目に見える、何らかの作用のことを言います。
例えば、何か病気の遺伝子を持っていた時に、その病気の症状が出るっていうのが、その遺伝子の表現形です。
あるいは、鳥は翼を作る遺伝子を持っているので、その結果、翼を持っていて飛ぶことができる、これも表現形です。
こんなふうに、特定の生物が持っている遺伝子によって、その生物の性質が決められているわけです。
だから、通常表現形っていうのは、その生物の体に現れるわけです。しかし、遺伝子はその個体の外にまで影響を及ぼすことがあります。
リチャード・ドーキンスは、1982年に出版された著書の中で、このような個体外への影響をエクステンディッド・フィノタイプと呼んでいます。
日本語だと、拡張された表現形、もしくは延長された表現形と訳されます。
この例としては、ビーバーが作るダムとか、鳥が作る巣なんかがあります。
こういったものは、遺伝子の働きが個体の体外に現れたものと捉えることができます。
他に、拡張された表現形の面白いものとして、寄生生物がその寄生先の生物、宿主に及ぼす影響があります。
トキソプラズマは、哺乳類を宿主とする寄生生物で、いろいろな動物の中で増えることができます。
しかし、感染力の高い状態になるためには、最終宿主である猫の中で、寄生生殖で増える必要があるんですね。
猫の体内で増えたトキソプラズマは、糞便中に排出されて、環境の中で長時間感染力を持った状態で存在します。
これが、例えば人とかネズミなんかに感染するんですが、猫以外の中間宿主で増えたトキソプラズマは、あんまり感染力が強くないんです。
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それで、その動物の肉を別の動物が食べた時ぐらいしか感染しないんです。
なので、ネズミが猫に食べられてくれると、感染しているトキソプラズマにとっては都合がいいわけなんです。
でも、普通はネズミは猫から逃げるわけです。しかし、トキソプラズマはネズミの行動を操ることがわかっています。
感染したトキソプラズマは、ネズミの脳の中へも入っていって、神経細胞にタンパク質を送り込みます。
そうすると、ネズミが猫を避けなくなって、逆に猫に近づくようになるんです。
これは、ネズミの脳内で特定の部位が影響を受けて、恐怖が低下するためだと考えられています。
このように、トキソプラズマは動物を操ることによって、最終宿主へ移動するための乗り物として使っているわけです。
寄生生物は、その生存を他の生物に完全に依存するので、宿主の生き物を操る巧妙な戦略を進化させてきました。
今日は、そんな戦略の一つとして、植物の病原菌が植物を使って、乗り物になる昆虫を操るっていうものを紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ。サトシです。
今日紹介するのは、ジョン・インネスセンターのジグムンズ・オルロフスキスらによる研究で、2025年1月にeライフに発表されたものです。
この研究で対象にしているのが植物の病原菌で、ファイトプラズマという細菌です。
この菌は、菊花の一年層を中心に様々な植物に感染します。感染すると、ファイトプラズマから植物の中に何種類かのタンパク質が送り込まれます。
この研究では特に、SAP54というタンパク質に注目しているのですが、このタンパク質の作用で植物に異常が生じて、花の部分が葉っぱのようになるのです。
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そうすると、植物は種を作れなくなるのです。
その結果、ただ生きて体内に寄生生物であるファイトプラズマを増やすだけのゾンビのようになるわけです。
また、このように花が葉っぱのようになることが植物に昆虫をおびき寄せていると考えられていました。
具体的にはリーフホッパーと呼ばれる虫で、体長が4ミリ程度の小さな植物の樹液を吸うような昆虫です。
この昆虫が植物の葉っぱに卵を産むのですが、生まれた幼虫がファイトプラズマのいる葉っぱを食べて成長します。
そして、成長になったリーフホッパーが別の植物のところまで移動していって幹線を広げるというわけです。
ですから、ファイトプラズマはSAP-54を植物に導入して、花を葉っぱにすることで昆虫をおびき寄せるというふうに、幹線を広げていくための乗り物を植物を使って操っているという考えだったわけです。
でも最近、花の形態の変化は、昆虫がやってくるのには関係ないという証拠が出てきていました。
事件としては、植物にファイトプラズマを感染させるのではなくて、SAP-54タンパク質の遺伝子を植物に導入して、植物に作らせるということをしています。
これで、SAP-54の作用だけを見ることができるわけです。
このSAP-54を作る植物ですが、花が葉っぱになるし、普通の植物よりもリーフホッパーを引き付けるわけなんです。
なので、SAP-54単独で花を変化させることができるというのがわかります。
さらにわかったのが、成熟する前の花のない段階でもリーフホッパーはこの植物に引き寄せられているということです。
ということは、花と昆虫を引き寄せることというのは別で、SAP-54は花を葉にするのとは別にリーフホッパーを引き寄せる作用があるということになります。
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じゃあ、これはどんな作用なのかというのを調べていったのが、今回紹介する研究になります。
まず最初にやったのが、リーフホッパーのオスとメスで引き寄せられるのが違うかを調べるということです。
その植物の反応が卵を産むメスとそうでないオスでは違うという話があるので、性別による違いを調べることにしました。
具体的には先ほどのSAP-54を発現する植物とそうでない植物を並べて置いておいて、リーフホッパーがどちらを選ぶか、どちらの葉に卵を産むかを調べるんですが、
それをメスだけ、もしくはオスとメスが両方いるときで調べたということになります。
その結果ですが、まずオスとメス両方がいたときは、SAP-54がある植物の方によりたくさん卵が産んであったんです。
これはファイトプラズマのSAP-54があるとリーフホッパーが引き寄せられるというこれまでの研究と一致した結果だったわけです。
でも意外だったのは、メスだけだった場合には、SAPがある植物でもない植物でも、産みつけられた卵の数がだいたい同じだったんです。
だからリーフホッパーのメスは、メスだけのときにはSAP-54のある植物を特に好むということはなくて、
SAP-54がある方でもない方でも同じように卵を産むんだけど、オスがいるときにはSAP-54がある植物の方に好んで卵を産むようになるということなんです。
何かよくわからないけど、SAP-54があるときとないときでは植物の何かが違っていて、その違いが現れるのはオスがいるときだけっていうことなんです。
じゃあその違いは何なのかについて次に調べていきます。
具体的には、SAP-54があるときないとき、オスがいるときいないときで植物のすべての遺伝子の発現がどう変化しているかを解析しています。
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そのどの遺伝子が働いているのかを見れば、植物がどのような状態にあるかがわかるわけなんです。
ここではシロイヌナズナっていう植物を使っているんですが、この植物の持つ1万7千個くらいのすべての遺伝子について複数の条件で調べています。
ですから非常にたくさんのデータが取れているわけなんですが、主要な結果としては、SAP-54がある植物ではオスに対する反応が変わっていて、ストレス反応に関係する遺伝子の反応が低下していたっていうことでした。
病原菌やウイルスみたいな他の生物がやってきたときに、植物はそれに対応するために反応を起こすんですが、これが生態ストレス反応と呼ばれます。
リーフホッパーのオスに対する生態ストレス反応が、SAP-54がある植物では低下していたっていうことです。
この結果からどういうことが考えられるのかというと、こんな感じです。
SAP-54のない正常な植物では、オスのリーフホッパーがやってくるとストレス反応が起きて、防御システムが働き出します。
昆虫も樹液を吸う敵だから、この防御システムで昆虫を追い払おうとするっていうことです。
このように防御システムを働かせている植物は、メスもあまり好きではないっていう形です。
でも、SAP-54があるときは、この生態ストレス反応が低下しているっていうことですから、オスがやってきてもあまり防御システムが働かないっていうことになります。
そうすると、SAP-54がある植物と、SAP-54がない植物が並べてあった場合には、SAP-54がある植物の方が防御システムが働いてないわけですから、こちらの方にメスは寄っていくっていうわけです。
この実験では、SAP-54を植物に遺伝子導入しているわけですが、ファイトプラズマが感染すると植物にSAP-54を送り込むっていうことですから、ファイトプラズマに感染している植物でも同じことが起こって、感染している植物にメスが卵を産むと考えられるわけです。
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なので、花が葉っぱになるのとは別の仕組み、防御システムのコントロールっていう形で、ファイトプラズマが昆虫を操る仕組みがこの研究で示唆されたわけです。
最後に、SAP-54がどういうふうにして植物体内でストレス反応に関わる遺伝子の働きをコントロールしているのかについても少し調べています。
ここで調べているのが植物の持っているSVPっていうタンパク質で、これは遺伝子の発現を調節する転写因子っていうタイプのタンパク質です。
まずわかったのが、SAP-54が存在するとSVPが不安定になって分解してなくなってしまうっていうことです。
だからSVPはSAP-54の影響を受けるっていうことが分かりました。
でもこれだけではSVPがリーフホッパーが寄ってくるのに関係あるかどうかは分かりません。
実際にそうなのかを調べるために、SVPが作れない変異体の植物を使っています。
だからこの植物をリーフホッパーが好むかどうか調べているんですけれども、この変異体に好んで卵を産むっていう結果でした。
これがどういう意味かというと、まず普通の植物はSVPを持っているわけです。
SAP-54があるとSVPが分解されるっていう話でしたから、ファイトプラズマに感染した植物ではSVPが分解してなくなっていると考えられます。
もしSVPがリーフホッパーに寄ってくるかどうかに関係あるのであれば、ファイトプラズマに感染していなくて、
SAP-54を持ってなくてもSVPがなくなるっていう変異体であればリーフホッパーが寄ってくるはずです。
実際にやってみたらその通りだったっていうことなんです。
この結果でもって植物のSVPがリーフホッパーをおびき寄せるのに関係あるとわかったわけです。
さらにSVPがストレス応答に関わる遺伝子発現の変化にも関係があるっていうことをさらに実験をして確認しています。
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というわけで、以上の結果からファイトプラズマが植物の状態を変化させることで昆虫の行動にまで影響を及ぼしていることがわかります。
ファイトプラズマは植物に感染すると思っているタンパク質を植物に送り込みます。
その結果植物の持っているSVPっていうタンパク質が分解されてしまいます。
SVPは植物の防御反応に関わっていて、通常はリーフホッパーのオスがやってくると防御反応が働いてその結果メスがやってこなくなるんだけど
SVPが分解してしまったせいで防御反応が弱くなってメスが寄ってきて卵を生みつけるようになるというわけです。
卵がかえると幼虫が葉っぱを食べてファイトプラズマを体の中に持つ状態で生虫まで成長して他の植物個体に感染を広げるということになります。
ですからファイトプラズマは自身の増殖に有利になるように別の生物を操っているわけです。
SVP54の遺伝子はファイトプラズマが持っています。
それが宿主である植物の性質を変え、さらには運び屋である昆虫の行動までも変えるということで、
ファイトプラズマはこのような拡張された表現系を持つ遺伝子を進化の過程で獲得したということになります。
今回の発見は一応植物表現体の性質を明らかにしているので、農業的応用への可能性もあります。
でもそのような応用的価値を除いても、ただそれだけで面白くて、進化の力の偉大さを感じさせる研究だと思いました。
昨年はゴールデンウィークの数週間の休みの後シーズン2が始まってたんですが、
今年も同じ形にする予定で、4月中にシーズンフィナーレ、何週間か休んだ後にシーズン3として再開を考えています。
一応事前のご連絡でした。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。
21:27

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