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goryugo 116 Episodes
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倉下忠憲
魚住惇

面白かった本について語るポッドキャスト&ニュースレターです。1冊の本が触媒となって、そこからどんどん「面白い本」が増えていく。そんな本の楽しみ方を考えていきます。

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BC077『言語はこうして生まれる』

BC077『言語はこうして生まれる』

Nov 21, 2023 1:16:06 goryugo

前回に続いて今回も二人共が読了した本です。『言語はこうして生まれる』紹介しようしようと思いながら、なかなか全体がまとめきれないので時間がかかってしまいました。非常にエキサイティングで、抜群に知的好奇心が刺激される一冊です。書誌情報* 原題* 『THE LANGUAGE GAME:How Improvisation Created Language and Changed the World』* 著者* モーテン・H・クリスチャンセン* デンマークの認知科学者* 米コーネル大学のウィリアム・R・ケナンJr.心理学教授* オーフス大学言語認知科学の教授*  ニック・チェイター*   イギリスの認知科学者・行動科学者*   『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)』*  翻訳* 塩原通緒(しおばらみちお)* 『暴力の人類史』など* 出版社 * 新潮社* 出版日* 2022/11/24* 目次* 序章 世界を変えた偶然の発明* 第1章 言語はジェスチャーゲーム* 第2章 言語のはかなさ* 第3章 意味の耐えられない軽さ* 第4章 カオスの果ての言語秩序* 第5章 生物学的進化なくして言語の進化はありえるか* 第6章 互いの足跡をたどる* 第7章 際限なく発展するきわめて美しいもの* 第8章 良循環――脳、文化、言語* 終章 言語は人類を特異点から救う 相手に何かを伝えるため、人間は即興で言葉を生みだす。それは互いにヒントを与えあうジェスチャーゲーム(言葉当て遊び)のようなものだ。ゲームが繰り返されるたびに、言葉は単純化され、様式化され、やがて言語の体系が生まれる。神経科学や認知心理学などの知見と30年におよぶ共同研究から導きだされた最新の言語論。複雑な眼差し倉下が作った読書メモは以下です。◇ブックカタリストBC077用メモ - 倉下忠憲の発想工房本が興味深いのは、提示される捉え方が実に複雑な点です。たとえば、言語は遺伝子由来という見方を否定します。しかし、遺伝子がまったく無関係ともいいません。人間の生物的な限界(もちろんそれは遺伝子によって規定される)に晒されながら、その人間が使える形で言語は生み出され、また変化していく。そうした言語の変化もまた、遺伝子の自然淘汰に影響を与える。二つの要素が考慮されています。また、言語が「即興」のジェスチャーゲームであるにしても、そのゲームが「繰り返される」ことで一定の様式や秩序を獲得していく流れが提示されます。即興というのは、「その場限り」や「一度きりの」というニュアンスがあるわけですが、それが繰り返されることで別様に変化していく。ここでは一見するとアンビバレントな要素が組み合わされて新しい概念が生成されています。実に面白いですね。全体的に、トップダウンの言語生成を否定し、ボトムアップの進化論的言語観が提示されている本書ですが、その射程は幅広く、枝葉がつながる他の本がいくつも見つかりそうです。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC076 『音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか (ブルーバックス)』

BC076 『音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか (ブルーバックス)』

Nov 7, 2023 1:05:40 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか (ブルーバックス)』について語りました。今回は、ごりゅごが5月にギターを始めてから、約半年で学んだ「音楽の面白さ」の集大成みたいな話をしました。「音楽の上達」を目指してギターを独学する体験を通じて、ブックカタリストのように「本を読んで何かを語る」というものとはまた違う、新しい「学び方」を知ることができています。一般的に読書という行為には、肉体的な技能の重要性はほとんどありません。このジャンルの「学び方」は、これまでにけっこういろいろな本を読んで学んできましたが、ギターを弾くみたいな、肉体的な技能を身に付ける方法はきちんと考えたことがありませんでした。ただ、ギターの練習を通じてわかったのは、こうした技能の上達においても、今まで学んできたような「学び方」は十分に応用できる、ということだったのです。そもそも、たとえばギターを練習するという場合に、なにを「練習」すればいいのか。楽譜を手に入れて、音楽を聴いて、でてくるフレーズがスムーズに演奏できるようにすることは「練習」なんだろうか?結局どんな練習も「きちんと考える」ことが超重要で、それこそが今自分が考える「大人の趣味理論」のコアになる部分なんだろうということもわかりました。かつての自分は「うまく体を動かす」ことばかり注目していたんですが、そもそも「理想の動かし方」をわかる重要性を理解していなかった。特に音楽(アドリブ演奏)の場合は、音楽を聴いてリアルタイムに「こういう音を出したいと考えることができること」それと同時に「この音を出したい時にどうやって体を動かせばいいのか」がわかること。これができるようになって、自分のやりたい「演奏」ができるようになるんじゃないか。そういうことが、すこしわかってきたような感じがしています。そして、この話は今回本編で話した内容とはほとんどなにも関係がありません。今回の話は、是非五度圏の図を見ながら聞いていただけるともう一段階楽しめると思います。→五度圏 - Google 検索(画像検索)今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC075『悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』

BC075『悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』

Oct 24, 2023 1:14:18 goryugo

今回は、倉下とごりゅごさんが両方とも読んでいる本だったので、二人で語り合う形になりました。とりあげたのは、『悪意の科学』です。書誌情報* 著者* サイモン・マッカーシー=ジョーンズ* ダブリン大学トリニティ・カレッジの臨床心理学と神経心理学の准教授。* 翻訳* プレシ南日子* アレックス・バーザ『狂気の科学者たち』* サンドラ・アーモット&サム・ワン『最新脳科学で読み解く0歳からの子育て』など* 出版社* インターシフト* 出版日* 2023/1/24* 目次* はじめに・・人間は4つの顔をもつ* 第1章・・たとえ損しても意地悪をしたくなる* 第2章・・支配に抗する悪意* 第3章・・他者を支配するための悪意* 第4章・・悪意と罰が進化したわけ* 第5章・・理性に逆らっても自由でありたい* 第6章・・悪意は政治を動かす* 第7章・・神聖な価値と悪意* おわりに・・悪意をコントロールする倉下は2023年2月に一旦読了し、この配信のために読書メモをつけながらもう一度読みました。簡単な読書メモは以下のページをどうぞ。◇ブックカタリストBC075用メモ - 倉下忠憲の発想工房以下では、本書のさわりをざっと確認します。悪意について狭義の「悪意」は、「悪意のある行動とは、他者を傷付け害を与え、かつその過程で自分にも害が及ぶ行動」(心理学者デヴィッド・マーカ)で、もう少し広く意味を取ると「自分の利益につながらないにもかかわらず、他者に害を与えるためにする行動」も含まれる。これらの定義により、敵対的行動やサディスティックな行動とは区別される。また、人間の行動をコストと利益から考えると以下の四つの区分が可能。* 協力行動* 共に利益をもたらす* 利己的行動* 自分だけが利益を得るように* 利他的行動* 自分がコストを負担して他者に利益を与える* 悪意のある行動* 自己と他者の沿うほうに害を及ぼす行動この4つめの行動に注目しようというのが本書のテーマ。悪意の合理性ではなぜ悪意に注目するのか。それは、人類は協力によって文明を前に進めてきたから。にもかかわらず悪意ある行動は、その協力関係を弱めてしまうように思われる。進化論的な観点で言えば、そのような生存に貢献しない性質は淘汰されていてもおかしくない。これをどう考えるのか。もちろん、進化論的に考えれば、「そこには何かしらの合理性があったからだ」というのが仮説になる。その仮説的観点を、さまざまな角度から検討していくのが本書の大きな内容。悪意が生じる理由と共に、その「機能」についても注目していく。各章で面白い話が多いが、全体を通して感じるのは、私たち人間は生物的に「悪意」の元となる感情の働きを持ってしまっている、ということ。そして、その働きは現代まで悪意が生き残っていたことが示すように、一定の(そして有用な)機能を持つ、ということ。その意味で、悪意を完全に捨て去ることが最上である、という考え方はそのまま素直に信じないほうが良い。むしろ「いかに悪意とつき合うべきか」という問いの方が現実的かつ実際的であろう。どのような状態や環境なら悪意が発露されやすく、またどんな悪影響が起こりうるのか。それを踏まえた上で、どう悪意を「使っていく」のか。そうした判断ができるようになれば、悪意に振り回されないようになるだろう。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC074『ロギング仕事術』

BC074『ロギング仕事術』

Oct 10, 2023 1:09:20 goryugo

今回は、倉下の直近の新著『ロギング仕事術』を著者自身が紹介しました。本の内容の直接的な紹介というよりは、この本の背後にあった想いを多めに語っております。本の主題「記録をしながら、仕事をしよう」という新しいワークスタイルを提案しています。そのワークスタイルによって、* 行為実行中の注意の舵が取れるようになる(短期の効能)* 情報が保存され、再利用可能になる(中期の効能)* 「考える」が起こりやすくなる(長期の効能)といった「うれしいこと」が起こりやすくなります。倉下が考えるに、この「うれしいこと」は現代において切実にその必要性が高まっている要素です。なので、仕事のやり方を変えたい、仕事をもっとうまく進められるようになりたいという方は、ぜひ「記録をしながら、仕事をする」をやってみてください。三つの想い:その1で、本書では実用性を主軸において、倉下特有の理屈めいた話はまるっと抜いておりますが、三つの考えたことが背景にあります。一つは「原初のライフハック」としての記録です。さまざまなライフハックを見てきましたが、「記録すること」を使わないものなどほとんどありません。特に何かしらの効果を上げているものは皆一様に「記録をどう使うか」という点を持っています。最終的にできあがるノウハウの形が違うのは、どのような記録を、どんな風に残すかという点が違っているからです。それが違うのは当然でしょう。それぞれの人が違った傾向を持っているからです。むしろ、そうした形の違うメソッドが出てくること自体が、「ライフハック的」だと言えます。ライフハックは、原理主義というよりはブリコラージュのマインドセットがあるものなのです。そこで本書では、あらゆる記録の起点となるようなベーシックなスタイルを提案しました。この記録から始めて、あとは個人の趣味嗜好に合わせてアレンジしてけば、最終的に「その人の方法」になるような、そんなテンプレート/フレームワーク感のあるノウハウをセットアップした次第です。この思想を支えているのは、「たいそうな方法でなくてもよい。当たり前の方法で構わない(むしろその方がよい)という観点です。おどろきを感じるような、斬新な「方法」があれば、自分が抱えている問題をまるっと解決してくれるような気がしますが、それは幻想です。むしろ、他の人がごく当たり前に利用している方法を、自分の中にも(自分なりの形で)定着化させることが、一番まっとうなルートです。というか、それ以外にはない、とすら言えるかもしれません。当たり前の、ライフハックを。それが2020年代のライフハック観です。三つの想い:その2二つ目は、「考えるを取り戻す」です。非常に大雑把な話になりますが、他人を「管理」したければ相手に考えさせないのが一番です。そうして「言う通りに」行動させれば、管理の手間は最小化します。逆に言えば、そうした状態のとき、自分は「考える」という行為を剥奪されているわけです。それって、ほんとうに好ましいのでしょうか。また、適切に「仕事」をするためには、どうしてもいろいろ考えなければなりません。毎日がまったく同じ動作だけで成立する仕事ならばそれでもいいでしょうが、手順ややり方を改良していくことは仕事の質を向上させる上でも必要ですし、「なんのための仕事か」といったことを考えることは、成果の方向性を定めるのにも有効です。そうやって考えることをしていると──管理の方向性に逆らうことになるので──面倒なことも起きてくるわけですが、それでも5年、10年のスパンで捉えたときに、そうした思考の有無は大きな違いを生むだろうと思います。さらに言えば、組織的な管理とは別の意味で、私たちは「考える」を奪われつつあります。速度反応を求める昨今情報環境のせいです。「考える」ためには、少なくとも時間と注意が必要です。刹那的に反応を繰り返しているだけでは「考える」ことはできません。情報機器、ITツールなどを無防備に使っていれば、どんどんその「考える」機会が喪失されていくでしょう。自分の手で記録を書く、という行為はほとんど無理やりにその時間と注意を取り戻させてくれます。むしろ、そこまでしないと確保すら難しいというのが現代なのかもしれません。三つの想い:その3最後の三つ目が、「自分を知る」です。倉下がセルフ・スタディーズ(自分の研究)と呼んでいるものです。最新の情報や世界の動向にどれだけ詳しくても「自分がどんな人間であるのか」が分かっていなければ、人生の決定は難しく、また下した決定に納得感を得るのは難しいでしょう。そこまで大げさな話でなくても、「どんな情報整理ツールを使ったら嬉しいか」ということも、自分についての理解が浅いとまったく決められません。そういうときほど、他人の欲望に影響を受けやすくもなってきます。で、混乱が深まっていくわけです。選択肢が多い時代であればあるほど、自分のことをわかっておくことの有用性は高まります。自分はどんな人間であって、どんな人間ではないのか。そんな当たり前のように思えることですら、私たちはよく知っていないのです。だからこそ、自分の記録を残すのです。「自分の研究」ためのフィールドワークのようなものです。よく観察し、ときには質問し、その結果から分析を行うのです。その価値は、ほんとうにもっとずっと後になって、じわじわと実感されることでしょう。おそらく最強の「コスパ」はここにあります。さいごにというようなことを背後に考えながら、それでも「実用性」を一番念頭において『ロギング仕事術』を書きました。よろしければ読んでみてください。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC073『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション (光文社新書)』

BC073『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション (光文社新書)』

Sep 26, 2023 1:03:55 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション (光文社新書)』について語ります。今回は、前回の『会話の哲学』つながりというか、科学で考えた「会話」を、哲学の方面でも考えてみよう、みたいなのがメインテーマです。最近のブックカタリストは、本編での「対話」によって、事前準備とはまったく違う新しい思いつきがたくさん出てくるようになり、これまで以上に収録が非常に面白いものになってきています。たとえば「規範的である」ことが人間関係に動影響するのか。この辺の話は事前に準備していたものでなく、話してる流れで自然に出てきたものです。「あえて規範的でない行動をすること」ってたしかに人が仲よくなるためには大きな作用なのかもしれないよね。いい子ちゃん同士では確かに人間関係って上っ面だけになりがちで「腹を割る」って規範を破ることなのかもしれないよね。さらに、我々が心地よく生きていけるようになるためには、そういう規範的でない行動、発言が許されるような場所って重要なんじゃないかな?読んだ本について語ってたら、思ってもみなかったようなことを思いついたりする。そういうのもまた「会話」だから生まれるもので、一人だけだったらこんなことにはなってないよな、と思います。今回出てきた本はこちらで紹介しています。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC072『ふつうの相談』

BC072『ふつうの相談』

Sep 12, 2023 1:06:40 goryugo

今回は東畑開人さんの 『ふつうの相談』を紹介しました。倉下の考え方に大きな影響を与えてくれた一冊です。書誌情報* 著者* 東畑開人* 1983年東京生まれ。専門は、臨床心理学・精神分析・医療人類学* 博士(教育学)・臨床心理士* 『心はどこへ消えた』『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』『聞く技術 聞いてもらう技術』など著作多数* 出版社* 金剛出版* 出版日* 2023/8/16基本的に、ケアの現場で働く人向けの内容であり、それも少し硬めの構成になっています。著者の一般向けの著作(『心はどこへ消えた』や『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』)に比べると、少しだけ対象読者は絞られています。それでも、難解な理論展開などはなく、理路も明晰なので、じっくり読んでいけば著者の主張は十分理解できるでしょう。また本書では、「専門的な知」と「一般的な私たちの生活」をどう接続するのかという大きな枠組みが提示されており、「知」の在りようについて興味を持っている人にも面白く読める一冊になっています。読書メモ収録前に私が作った読書メモが以下です。ポッドキャスト本編中の私(倉下)の話があまりうまくまとまっていなかったので、ここで少しだけ整理しておきます。まず、心のケアに関する学問というのがある。それは大きく学派的心理療法論と、現場的心理療法論の二つに分かれる。前者が理念的で体系的なもので、後者が実践的でやや雑多さを含むものである。この二つは、二つの極に配置されて整理されることが多い。学派的心理療法論を一番の右端とし、現場的心理療法論を左端として、左に行くほど「純粋さが薄れていく」という考え方がそれに当たる。これは冶金スキームと呼ばれる。純粋な金属が、合金に変わっていくプロセスがイメージされている形だ。この見方が、心理療法論の分野では一般的だったらしいが著者はそれに疑問を投げ掛ける。はたしてこれで十分だろうか、と。臨床の現場で働く著者は、現場にさまざまに存在している「ふつうの相談」を目撃し、その有用性を実感している。著者自身も、専門である精神分析ではない〈ふつうの相談〉を行う割合の方が多いらしい。そして、世の中に目を向ければ、そうした「ふつうの相談」は山ほどあふれ返っているし、そこで何らかの効果を上げている。冶金スキームは、そうした状況をうまく汲み取れていないのではないか。冶金スキームでは、専門性が高く純化された知の体系が至上とされ、それに劣る形で現場的な実践が位置づけられる。「ふつうの相談」はその最極端に置かれるか、むしろその外側に配置されて見えなくなってしまう。それは、臨床の現場から見ればあまりに不自然な構図であろう。よって、著者はその見方をひっくり返す新しい枠組みを提出する。それが精練スキームだ(本編中で倉下は”れんせい”と言っているが、”せいれん”の間違い)。冶金スキームでは、精神分析などの学派的心理療法論が起点となり、その純粋性が落とされる形で現場的な適用は位置づけられる。しかし、精練スキームにおいて起点になるのはふつうの相談だ。私たちが日常的に行っているふつうの相談。それが原初のケアとして位置づけられる(これがふつうの相談0と呼ばれる)。このふつうの相談0という雑多な(あるいは総合的な)ものの一部をどんどん精練していき、純化させたものが学派的心理療法論だと位置づけるのが精練スキームの主要な特徴である。ここでのポイントは、私たちは特定の学派的心理療法論ができる前からお互いにケアし合っていた、という点である。私たちは日常的に相談し、多くの問題を解決してきた。民藝ならぬ、民ケアがごく一般的に存在してきたし、それは今でも存在している。日本中、世界中にあるふつうの相談が、人間の心のケアを行っているのである。もちろん、そうしたふつうの相談では十分に対処できない問題というのはある。そうしたときに活躍するのが学派的心理療法論などの専門セクターであり、あるいは民芸セクターである。よって、これらの分野は別段対立するものではなく、担っている役割が違っているだけだ。本書の土俵の大きさはここにあるだろう。本編中では私が十分に言及できなかったが、本書は「ふつうの相談こそが一番偉いのだ」ということを言いたいわけではない。学派的心理療法論の頂点をひっくり返す、というような革命的な視点ではなく、「ふつうの相談」というより広く大きいものを巻き込むことで、さまざまな分野の「知」の在りようを統合しようという試みなのだ。「ふつうの相談」というものがさまざまな学派的心理療法論の起点になっているとすれば、各種の学派的心理療法論が断絶していたとしても(理論が持つ理念性を考えると断絶は必然的に生じる)、「ふつうの相談」を巻き込むことで、それらの根っこが見出されることになり、より包括的な"地図"が描かれることになる。それは、その分野の探索をより現実的なものにしていくだろう。ある意味で、そうした在りようはごく「ふつう」のことかのかもしれない。実践の現場にいれば、そういう統合は自然と行われるだろう。一方で、「専門家」というのは、知のタコツボに嵌まりがちであるし、それに引きずられるように師事するたちも視野が狭まっていく。その点は、私が興味を持つノウハウの分野でもまったく同じだ。何かしらの方法論を提示する人は、それ以外のやり方をまったく認めないところがある。それは理論家としては必要な姿勢だろうが、実践のレベルではさすがに視野が狭すぎる。だからこそ、「理論ではこうなっているけども、実際はこういう形で」という運用が、卑下を伴わない形で行われることが望ましいと言える。それは何かを合金しているのではない。むしろ、理論が純化を押し進めているに過ぎないのだ、と。もちろん、「ふつうの相談」だって、普通さがすれ違うところではうまくいかないことが多い。だから、「ふつうの相談」を特権的に扱ってしまえば、やっぱり不都合は起きる。その意味で、さまざま知の在りようを統合的に見るということは、何かを特権的に見るのではなく、それぞれの知の役割を見据えることで、その「処方」を適切に行えるようにする、ということだろう。本書は最後に「臨床学」という大きな枠組みを提示しているが、それと同じように私が興味関心を持っている分野もノウハウというのではなく「実践学」という大きな枠組みで整理できるのではないか、などと考えるに至った次第だ。……というような話を本編で展開しようと思っていたのですが、たぶんそんなにスムーズにはできていません。ちょっと読書会をやってみてもいいかもしれませんね。編集後記(ごりゅご)今回から編集ツールをLogic Proに変えてみています。(実験中)なんとなく、前より聞きやすくなるようにできたかな、と思うんですがどうでしょうかね? This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC071 『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』

BC071 『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』

Aug 29, 2023 1:02:11 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『会話の科学』について語ります。今回は、なんだか久しぶりにごりゅごが普通に本を紹介する回だった印象です。(自分の本の紹介とか、ゲスト回などが多かった)最近は、ブックカタリストで紹介する本がどんどん「今でも印象に残っている本」という方向に変化してきています。読み終えた直後におお!すごい!と感じた本ではなく、読み終えて数ヶ月経って、この本は面白かったなあ、と思えるような本を紹介しているようなイメージです。あくまでも自己評価なんですが、そういう本を紹介する方が自分の頭がきちんと整理されて、結果いい感じに紹介が出来るようになってきたような感じがします。さらに言うと、そういう本は「普通にちゃんと読書メモを残す」ことさえしていれば、ブックカタリストのためだけの準備もさほど必要なく、少ない負荷で本の紹介が出来てます。(もちろん、一冊一冊の本を読んでから、よいと思った本にはけっこうな時間と手間をかけて読書メモを残しているとは思います)読書メモさえきちんと残っていれば、読んでから数ヶ月が経過してもちゃんと「語れる」という、『アトミック・リーディング』で触れたようなことが、本当に自然に実践できるようになってきているのだなあ、ということが実感できた回でもありました。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC070『HELP! 「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案』

BC070『HELP! 「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案』

Aug 15, 2023 1:00:29 goryugo

今回は、オリバー・バークマンの『HELP! 「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案』を取り上げました。バークマンの本は、『限りある時間の使い方』に続いて二回目です。長く続けていると徐々にこういうかぶりも出てきますね。それもまたよしです。書誌情報* 著:オリバー・バークマン* 1975年リヴァプール出身* 『限りある時間の使い方』かんき出版 (2022/6/22)* 『ネガティブ思考こそ最高のスキル』河出書房新社 (2023/3/25)* 原題* Help !How to become slightly happier and get a bit more done* 翻訳:下隆全* 出版社:河出書房新社* 出版日:2023/4/26* 2014年8月東邦出版『HELP!最強知的"お助け"本』の改題・復刊 自己啓発は、self-enlightenmentでもあるわけですが、self-helpでもあります。その「help」から本書の原題は来ているのでしょう。 ちなみに、自己啓発でいうと『自己啓発の罠:AIに心を支配されないために』という本を以前取り上げていますが、本書の趣は少し違います。 世の中にある「自己啓発的言説」を、著者の実際の経験も交えながら批評的な切り口でばっさりやるというのが本書のテーマで、そこでは「悪しき自己啓発」がやり玉に上がっています。 一方『自己啓発の罠』は、健全な自己啓発が持つ危険性を指摘するもので(フーコー的なまなざしです)、「悪しき自己啓発」ではないものがやり玉にあがっています。批判の観点が異なるわけです。 とは言え、この二つのまなざしは重ねることができるのかもしれません。 本書のメッセージは原題の副題(slightly happier and get a bit more done)にもあるように、今よりも少しだけ幸福に近づけたり、できることが増えたすることを目指す、というものです。完全な幸福や無限の生産性に近づくものではありません。そういう幻想を追い続けると、結果的に幸福ではなくなってしまう、という観点がさまざま形で語られています。 でもってそれは、「健全な自己啓発」であっても、それを突き詰めてしまえば上記のような「反-幸福」につながってしまうとは言えるでしょう。つまり、あからさまな「悪しき自己啓発」ではないものだったとしても、何もかもを完全にコントロールし、理想的な自我の形に近づいてかなければならない、というような思いに囚わているのだとしたら、それは完全にオーバーコントロールになり、人間が持つ自由さや矛盾性を抑圧する結果になりかねないというわけです。 結果的に、「健全な自己啓発」であってもほどほどに留めておく必要があり、逆に言えばそれがほどほどに留まっている間ならば、人間にとって好ましい効用をもたらしてくれるのではないか、という風に考えられます。 つまり、「悪しき自己啓発」を退ける上でも、「健全な自己啓発」がもたらす危うさと距離を置くためにも、「ほどほどマインドセット」が大切だ、という風に二つのまなざしが重ねられるわけです。 ちなみに本編では上記のような話はせずに、本書から特に面白かった項目を紹介していますので、興味があればぜひ本編をお聴きください。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC069 『アトミック・リーディング』

BC069 『アトミック・リーディング』

Aug 1, 2023 1:00:01 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『アトミック・リーディング』について語ります。『アトミック・リーディング』(内容紹介)今回紹介する本は、去年ごりゅごが書いた本『アトミック・シンキング』の続編的な内容のものです。(去年書いた本の紹介はこちら→BC044 『アトミック・シンキング: 書いて考える、ノートと思考の整理術』)去年書いた本の中で一番反応が多かった「読書と書くこと」についてをより深めた、という感じの内容です。と同時に、この本を書いた理由と言うのは世の中でよく見かける「速読」「多読」「コスパ」「タイパ」みたいな用語に対するアンチテーゼ的な思いもたくさん込めています。そして、こうやって自分が思ってたことを本にぶつけると、自分の感情が書くことによって整理されるからなのか「不満」「怒り」みたいなものは見事に消え去って、同時に本の中身も「丸く」なっていきます。Kill 'Em All コスパ・タイパ、とか思ってても、そのSt.AngerがBatteryになって執筆が進み、書き終えればPurifyされるのです。メタリカを思いだして適当なことを書いてしまいましたが「書くことで気持ちが整理される」という効果が、ノートを書くという小さな単位だけで起こるのではなく、本を書くというわりと規模の大きなことでも自分に起こったということ。自分自身の体験としてこの感情の変化を実感できたのは、とても興味深いものでした。そう考えると、やはり今の自分が安定した気持ちで生きていくことができているのは「書いている」からなんだろうなあ。そういえばもっと若い頃は世の中のいろんなことに対して意味もなく不満をぶちまけていたなあ、ということを思いだしたりもしました。この本を通じて、より多くの人に「書く」ことの効果を実感していただけたら嬉しいです。(読書の本なのに今回もテーマは「書く」ことです)『アトミック・リーディング』(はじめに、などをこちらからご覧いただきます) This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC068「忘却と知的生産」

BC068「忘却と知的生産」

Jul 18, 2023 1:03:22 goryugo

今回のテーマは「忘却と知的生産」。以下の二冊の本を題材に、知的生産において「忘れる」ことがいかに大切なのかを考えてみます。* 『まちがえる脳 (岩波新書 新赤版 1972)』* 『忘却の整理学 (ちくま文庫 と-1-10)』Scrapboxのページは以下。◇ブックカタリストBC068用メモ - 倉下忠憲の発想工房書誌情報* 『まちがえる脳 (岩波新書 新赤版 1972)』* 著者* 櫻井芳雄* 出版社* 岩波書店* 出版日* 2023/4/24* 内容紹介* 人はまちがえる。それは、どんなにがんばっても、脳がまちがいを生み出すような情報処理を行っているから。しかし脳がまちがえるからこそ、わたしたちは新たなアイデアを創造し、高次機能を実現し、損傷から回復する。そのような脳の実態と特性を、最新の研究成果をふまえて解説。心とは何か、人間とは何かに迫る。* 目次* はじめに* 序章 人は必ずまちがえる* 第1章 サイコロを振って伝えている?──いい加減な信号伝達* 第2章 まちがえるから役に立つ──創造、高次機能、機能回復* 第3章 単なる精密機械ではない──変革をもたらす新事実* 第4章 迷信を超えて──脳の実態に迫るために* おわりに* 『忘却の整理学 (ちくま文庫 と-1-10)』* 著者* 外山滋比古* 出版社* 筑摩書房* 出版日* 2023/3/13* 内容紹介* 驚愕の270万部突破、時代を超える〈知のバイブル〉『思考の整理学』の続編、待望の文庫化!* 「忘れる」ことはイケないこと、それはとんでもない勘違いだった……〈忘却〉はあなたにとって最大の武器だ!* 目次* Ⅰ* 忘却とは* 選択的記憶と選択的忘却* 忘却は内助の功* 記憶の変化・変貌* 入れたら出す* 知的メタボリック症候群* 思考力のリハビリ* 記憶と忘却で編集される過去* ハイブリッド思考* Ⅱ* 空腹時の頭はフル回転* 思考に最適 三上・三中* 感情のガス抜き* 風を入れる* カタルシスは忘却* スクリーニングが個性を作る* 継続の危険性* 解釈の味方* Ⅲ* よく遊びよく学べ* 一夜漬けの功罪* メモはしないほうが良い* 思い出はみな美しい* ひとつでは多すぎる* 〝絶対語感〞と三つ子の魂* 無敵は大敵* 頭の働きを良くする脳とコンピュータ全体を通して言いたいことはたった一つです。脳とコンピュータは違った器官/機械である。ただこれだけ。違った器官なのですから、比較しても仕方がないでしょう。ラグビーと日本舞踊のどちらが優れているかを比較しても意味がありません。にもかかわらず、あたかも脳とコンピュータが同じようなものであると捉えられ、その上コンピュータの能力を起点として、脳の性能が劣っているかのように語られるのは物事の価値基準が大きく歪んでいると言わざるを得ません(これは最近環読プロジェクトで読み進めている『人を賢くする道具』と問題意識が共通しています)。たしかに脳は、コンピュータに比べれば「忘れっぽい」と言えるでしょう。それは脳が無意識で情報処理を行ってくれているから起きることであり、そうした情報処理があるからこそ私たちは高次の処理に向かえるのです。知的生産においては「忘れるためにメモする」という観点があって、これも間違いなく重要なのですが、ここで考えているのはもっと積極的な忘却の肯定です。情報を事細かく正確に覚えることを是とするような価値観からの反転とも言えるかもしれません。たとえば正確な記憶が重要であれば、このブックカタリストは読み終えた直後の本を紹介するのがベストでしょう。しかし、私はそういうやり方にはなっていません(たぶんごりゅごさんも同じでしょう)。結構時間が経ってから、それこそ細かい部分を結構忘れてしまってから本を紹介する準備を始めるようなところがあります。その方がうまくいく感じがあるのです。このことが感覚的に肯定できるならば、それは「正確な記憶が一番重要なものである」という価値観ではないものを持っていると言えるでしょう。「正確な記憶が一番重要なものである」という価値観だと、ともかく情報を集めることに注力してしまうはずです。しかし、それは精神的な健康面でもよくないことでしょうし、その人なりの考えを持った表現(エクスプレッション)をする上でも弊害があると考えます。当たり前ですが、正確な記録が重要ではない、という話をしたいわけではありません。そういうものはすべてコンピュータに任せればいいのです。そうなったとき、じゃあこの私の脳はいったい何をするのか。それを考える上で、「忘却」というのは一つの鍵を握っているのだと思います。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC067『逆境に負けない 学校DX物語』

BC067『逆境に負けない 学校DX物語』

Jul 4, 2023 58:23 goryugo 倉下忠憲 魚住惇

今回はゲスト回です。『逆境に負けない 学校DX物語』の著者である魚住惇さんをお招きして、本に関するお話をお聞きしました。書誌情報* 著者* 魚住 惇(うおずみ・じゅん)* Twitter:@jun3010me* Blog:さおとめらいふ – 魚住惇のブログ* Substack:こだわりらいふ Newsletter* プロフィール:* 1986年愛知県春日井市生まれ。* 日本福祉大学を卒業後、期限付任用講師、非常勤講師、塾講師を経て2015年より愛知県立高等学校の情報科教諭となる。iPadとHHKBが大好き。iPadはProモデルを毎年買い替える。趣味は珈琲と読書とサーバーいじり。WordPressの勉強として大学時代から書き続けているブログ「さおとめらいふ」は15年目を迎え、2021年からは Newsletter「こだわりらいふ」を毎週水曜日に配信している。* 出版社* 学事出版 * 出版日* 2023/6/2* 目次* 序章-魚住はこうして嫌われた* 第1章 なぜ、学校DXが必要なのか* 第2章 できそうなところから導入を試みる* 第3章 まずはここからDX* 第4章 やっとここまでDX* 第5章 なぜDXが進まないのかGIGAスクール構想GIGAスクール構想については「名前だけ知っている」くらいの状態だったので、この機会にちょっと調べてみました。◇GIGAスクール構想の実現について:文部科学省文部科学大臣メッセージの「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育 ICT 環境の実現に向けて」というPDFが上のサイトからダウンロードできます。1人1台端末環境は、もはや令和の時代における学校の「スタンダード」であり、特別なことではありません。これまでの我が国の 150 年に及ぶ教育実践の蓄積の上に、最先端の ICT 教育を取り入れ、これまでの実践と ICT とのベストミックスを図っていくことにより、これからの学校教育は劇的に変わります。この新たな教育の技術革新は、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びや創造性を育む学びにも寄与するものであり、特別な支援が必要な子供たちの可能性も大きく広げるものです。また、1人1台端末の整備と併せて、統合型校務支援システムをはじめとした ICT の導入・運用を加速していくことで、授業準備や成績処理等の負担軽減にも資するものであり、学校における働き方改革にもつなげていきます。全体として素晴らしいメッセージが込められていると思います。まず教育においては、画一的な教育の提供ではなくそれぞれの子どもに合った方法を提供できるようになること。それこそ教室に行けない子どもであっても自宅で学習ができるようになる環境を提供できることは、デジタルツールを通して授業を行うからこそ実現できることでしょう。また社会に出れば、デジタル端末を使い、情報を操作する場面が避け難く出てきます。それは仕事の場面だけでなく生活の隅々にまで顔をのぞかせるはずです。デジタル端末を扱うことは特別なものではなく、日常的なものである。そうした視点で教育環境も再構築していくことには利点も多いでしょう。そして、「創造性を育む」学びです。デジタル端末を使うことでどうやってその学びが育まれるのかはこのメッセージからでは見えてきませんが、そうした素養が重要だと認識されていることは大切でしょう。さらに教育以外でも教員の負担軽減にも言及されています。忙しすぎる先生の問題はよく見聞きしますし、ICTの導入によってそれが解決するならば万万歳です。というわけで、基本的に前向きで評価できるメッセージなわけですが、一点だけ気にかかることがあります。「これまでの我が国の 150 年に及ぶ教育実践の蓄積の上に、最先端の ICT 教育を取り入れ、これまでの実践と ICT とのベストミックスを図っていくこと」もちろん、これまでの蓄積を無視するのはもったいないものです。またこの文言によってそれまでの教育方針に自負を持つ先生方を置き去りにしないよ、という心意気も添えられているのだとは思います。しかし、上記のような「ベストミックス」は、一歩間違えれば二階建ての建物に無理やり三階を増改築するみたいなことになりかねません。たいへんいびつで不安定な建物になってしまうのです。そうなると、だったらゼロから作ったほうが早いとなるわけですがそうなると疎外される人たちが出てきて侃々諤々の争いが勃発します。既存の知見をベースに新しい技術を導入するというのは、一つの創造的な営みです。それは間違いなくクリエイティブな仕事なのです。「ベストミックス」という表現では、ちょっと混ぜたらうまくいくんじゃないみたいな感覚が生まれてしまいますが、そんなに簡単なものではないでしょう。でもって、学校という現場においてそういうクリエイティブな営みがどれだけ可能なのか、というのが私が一番引っかかったところです。クリエイティブな営みはそれにてきした土壌が必要で、その土壌を育んでいなければなかなか花咲かせることは難しいでしょう。ファーストペンギンの悲劇 というわけで、著者の魚住先生は侃々諤々ストリームに巻き込まれてしまったわけですが、これはもう避け難いことだったのでしょう。ゆっくり進めば波風が立たなかった物事でも、その変化の角度が急激になれば、一気に慌ただしくなります。人間の心には慣れが必要で、慣れには時間が必要だからです。もちろん、その他もろもろの環境的な要因もあったと思います。管理する人がどういう人なのか、改革を担った人がどういう立ち回りをしたのかも影響を与えます。しかし、そうしたものもやっぱり時間というパラメータが強く影響しています。だからまあ──当人には申し訳ないのですが──これはもうしょーがないのだなと思いました。あるいは「しょーがないと思うしかない」くらいが正確なのかもしれません。なんであれ、魚住先生がファーストペンギンになったことで、たしかに変化が起きたことが重要です。一つの土壌が、あるいはそのための種が蒔かれたのだと言えます。あとはそこからどんな芽がはえてくるのか。それは時間をかけて見守るしかありません。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC066 『Remember 記憶の科学:しっかり覚えて上手に忘れるための18章』

BC066 『Remember 記憶の科学:しっかり覚えて上手に忘れるための18章』

Jun 20, 2023 1:08:13 goryugo 倉下忠憲

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『Remember 記憶の科学:しっかり覚えて上手に忘れるための18章』について語ります。今回の本は、いわゆる「記憶」系のことを学ぶ一冊目として非常に素晴らしい、と感じた本でした。そして、本編でも語っていることですが、記憶について考えるときに重要なのは「忘れる」ということ。それについてもきちんと忘れずにカバーされている、というのも本書の好印象の理由になっています。私たちがものごとを「理解」できるのは、見たこと聞いたことすべてを覚えておくことができないから。一部を「忘れる」から、それを自分の中で整理して、自分自身に取り込んでいける。結局のところ、人類の大半の脳が「忘れる仕様」になっている(本書では「なにもかも覚えている人」が登場します)ということは、結局そういう「忘れる脳」を持った生物の方が生き残りやすかった、ということでしょう。そのことをきちんと理解した上で、忘れる自分を受け入れて、覚えたいことを覚える工夫をする。なによりも大事なのは「注意を払う」ことです。結局そうなると、なにかを覚えようと思ったら「素早く」「効率的に」行うことは果たして正解なのか。そのあたりのことも、一度考えてみても良いのかもしれません。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC065「英語・数学・プログラミングを学ぶ」

BC065「英語・数学・プログラミングを学ぶ」

Jun 6, 2023 1:05:04 goryugo 倉下忠憲

今回は好例の三冊セットでお送りします。* 『英語は10000時間でモノになる ~ハードワークで挫折しない「日本語断ち」の実践法~』* 『こころを旅する数学: 直観と好奇心がひらく秘密の世界』* 『プログラマー脳 ~優れたプログラマーになるための認知科学に基づくアプローチ』書誌情報などは、以下のページ(のリンク)からどうぞ。ブックカタリストBC065用メモ - 倉下忠憲の発想工房『英語は10000時間でモノになる』ポイントは、知識英語ではなく感覚英語を身につけよう、という姿勢です。言い換えれば「英語を使おう」ということ。英語を「学んで」使えるようになるのではなく、使おうとすることを通して使えるようになる、という道筋はしごくまっとうなものと言えます。で、その「使おう」という姿勢を維持するならば、「日本語を極力使わないようにする」というアプローチもごく自然に思えます。日本語が使えるから日本語を使う→英語を使わない、が起こるのですからその日本語使用を抑制すれば英語を使うようになってきます(≒使わざるを得ないようになってくる)。ちょっとした背水の陣です。さらに「学ぶ」のではなく、「使う」ことを考えたら、なるべく楽しい対象を狙うことが必要でしょう。楽しいことでなければ「使おうとすること」は続かないからです。頭に「知識」をどんどんストックし続けたら、いつか「英語」がマスターできる、という感覚だとその道中は苦しいものになるでしょうし、試験以外の日常的な場面で英語を「使う」ことはそんなに簡単にはならないでしょう。不完全でもいいからともかく英語を「使ってみる」こと。それを続けていけば英語が「使える」ようになる、というのは私たちの母国語学習のやり方からみてもごく"当たり前"なやり方と言えるかもしれません。『こころを旅する数学』ポイントは、数学は身体活動である、という主張です。論理や公式を暗記すれば、いつか「数学」がマスターできるというのではなく、子どもがスプーンの使い方を学ぶように数学の「やり方」も後天的に学習できる、という主張は上記の英語学習と重なる部分が多いでしょう。著者は、とにかく直観が鍵なのだと何度も主張します。まずパッと閃く直観がどれだけ適切に機能するのか。それによって数学の世界における成果が変わってくる。しかし、直観というのは間違いやすい(バイアスを持つ)と散々言われていて、頼りにするにはあまりにも不安定な存在だと昨今では認識されています。そこで著者が提案するのが「システム3」です。システム1とシステム2を独立的で不干渉な存在だと捉えるのではなく、システム1の直観をシステム2のフィードバックによって鍛えていく、というやり方。でもってそれはあらゆる学習の基本的な在り方であり、数学的直観にも適用できる、というのが本書の面白い主張です。本書は数学を題材にしていますが、実際は「人の知性とはどのようなものか」を扱う非常に射程の広い話です。その分、少し分厚めになっていますが、通して読むだけの価値がある本です。『プログラマー脳』プログラミングの教材では、プログラミングの基礎知識を教えてもらえます。四則演算や変数の宣言、forやifといった構文の書き方。あらゆるプログラミングは、そうした基礎の組み合わせでできているのは間違いありません。では、そうした知識があればどんなプログラムでも書くことができ、どんなプログラムでも読めるようになるかというと、これが無理なのです。「ちょっとわからない」から「まったく意味不明」のレベルまで、読めない困難はさまざまに登場します。で、プログラム(≒コード)が読めないと、それを使うことも、一部分だけ拝借することも、多少カスタマイズすることもできません。「使え」ないのです。本書の著者はそうしたコードの読解における三つの困難を提示しました。長期記憶、短期記憶、ワーキングメモリ、の三つの記憶に関係する困難です。それぞれの困難を意識し、具体的な対策やトレーニングをすることで私たちのプログラミング読解力があがり、引いてはそれがコーディングの能力アップにもつながっていく。そんな期待感を持つことができます。現在は、ほとんどコピペだけでプログラムが書けてしまう時代ですが、だからこそ「コードを読めて、書ける」という基礎的な能力が存外に大切になってくるかもしれません。細かい部分ではなく、大きな部分で差を生むのがそうした能力だからです。というわけで、今回は三冊の本を紹介しました。どれもビビッドに「学び方」についての考えをゆさぶってくれる良書です。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC064 『体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』

BC064 『体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』

May 23, 2023 1:01:19 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』について語ります。前回の「運動することと食べること、痩せること」シリーズに続く「テクノロジー×身体」がテーマになった本です。今回の本は(今のところ)今年読み終えた中で一番面白かった本でした。内容は決して難しいというわけでなく、でも同時に読みながら関連した様々な考えを引き出させる。あらためて自分が好きな本のジャンルは「テクノロジー」を応用してなにか世の中をよくする話なんだな、ということがわかりました。そして最後の結論。これもまたごりゅごの好みというか、自分が伊藤亜紗さんを好きだなーと思うところは、この結論の落とし込み方。みんなについて優しく、もっとよい世の中になることが期待できるような話で締めてくれるところ。これもまたこの本が「(今のところ)今年一番よかった」と思った本である理由とも言えるのでしょう。📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC063 『再読こそが創造的な読書術である』

BC063 『再読こそが創造的な読書術である』

May 9, 2023 58:19 goryugo

今回は、永田希さんの『再読こそが創造的な読書術である』を取り上げます。書誌情報* 著者* 永田希ながた・のぞみ* 著述家、書評家。1979年、アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。書評サイト「Book News」主宰。著書に『積読こそが完全な読書術である』(イースト・プレス)、『書物と貨幣の五千年史』(集英社新書)。* 出版社* 筑摩書房* 出版日* 2023/3/20* 目次* 第一章 再読で「自分の時間」を生きる* 第二章 本を読むことは困難である* 第三章 ネットワークとテラフォーミング* 第四章 再読だけが創造的な読書術である* 第五章 創造的になることは孤独になることである倉下のScrapboxメモネットワークとテラフォーミング本書で語られる内容をごく端的に、しかも自己啓発的に言えば「再読することで自分を作ろう」という話ですが、これではあまりにも乱暴すぎるでしょう。本書ではもっと繊細なメッセージが綴られています。まず、現代を生きる私たちは情報の濁流に飲み込まれやすい環境にあります。これは単に情報の量が多いだけではなく、人の注意を惹きつけ、ある行動へと動員させる力を持った情報に取り囲まれている、ということです。メディアはメッセージでもありマッサージでもあるので、一つの方向に過剰に力がかかっている状態だと言えるでしょう。すると自分がどんな方向に進みたいのか、といった認識がかき乱されます。にもかかわらず、どこかに向かって進んでしまうのですから非常に厄介な状態だと言えるでしょう。結果、「自分が求めているのはこういうことではなかった」という残念感が生じます。「自分の時間」を消失した状態です。そうなると、その「自分の時間」を回復させることが急務だと感じられるようになるわけですが、注意したいのは「さあ、自分の時間を回復しましょう」というメッセージもまたマッサージになり、人を誘因してしまうことです。妙なたとえになりますが、独裁をふるう王様を退場させて、別の独裁する王様を据えたのと同じなのです。「民主主義」のようなそれまでとはまったく違うプロセスが確立されたわけではありません。大雑把に言えば別に何も変わっていないのです。倉下の印象ですが、本書ではそうしたメッセージの取り扱いが非常に慎重に行われています。著者は大切なことを伝えようとしているが、しかしそれを「通りの良い形」ではなく、何か別種の変換を通さないと受容できないような形で伝えている。そんな印象です。で、本題に戻るとそうした「自分の時間」の回復のために再読という営みが一定の役割を果たすことが語られるわけですが、ポイントは本書において創造がゼロからのクリエーションではなく既存の要素の再配置として位置づけられている点です。再びよくある自己啓発的メッセージでは「明日から本当の自分の人生を生きる」的なことが語られていて、あたかもそこでは今までの自分とまったく自分がクリエーションされる雰囲気があるわけですが、もちろんそんな魔法のようなことが簡単に実現するわけではありません。できることは、今の自分を少しだけ変えていくことだけです。「今の自分」を捨てることなく、時間をかけて変化させていくこと。「自分の時間」を回復させるとは、そのようなプロセスを受容することでしょう。つまり、まったく新しい「自分」の創造に駆り立てられるのではなく、今そこにある「自分」について知り、新しいものを取り込んで、少しばかりの差異を生じさせること。その結果を吟味し気に入ったら採用し、そうでなければ抑制する。そうした行為全体に時間を使っていくこと。それこそが「自分の時間」の回復であり、情報の濁流に対して別の軸を立てるために必要なことだと感じます。■一冊の本は誰かが書いたものであり、その本を読む行為は──直接的ではないにせよ──その著者との対話を試みている営みだと言えます。しかし一方では、その本のどこにも「著者」なる存在はいません。書かれた文章を読み取り(≒読み解き)、メッセージをくみ出すのは読者その人です。よって、本を読むことは半分では著者との対話でありながら、もう半分では自分自身との対話でもあるのです。だからこそ、本を読むこと、読み込んでいくことは自分を知ることにつながり、自分を「創造」することにつながります。と、すでに倉下バイアスでかなり強めのメッセージに置き換えられていますが、きっと皆さんが本書を読んだ印象はまた違ったものになるでしょう。そう、その差異こそが「自分」の源泉なのです。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC062『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』

BC062『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』

Apr 25, 2023 1:01:01 goryugo

今回は『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』を取り上げました。本書は二人とも読んでいた本だったので、いつもとは違ったスタイルになっております。書誌情報* 著者* ラッセル・A・ポルドラック * スタンフォード大学心理学部教授。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にてPh.D.を取得。2014年より現職。人間の脳が、意思決定や実行機能調節、学習や記憶をどのように行っているのかを理解することを目標としている。計算神経科学に基づいたツールの開発や、よりよいデータの解釈に寄与するリソースの提供を通して、研究実践の改革に取り組んでいる。著書にThe New Mind Readers What Neuroimaging Can and Cannot Reveal about Our Thoughts(Princeton University Press, 2018)がある。* 翻訳・監訳* 児島修(訳)* 英日翻訳者。1970年生。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。主な訳書に『サイコロジー・オブ・マネー』(2021)『DIE WITH ZERO』(2020、以上ダイヤモンド社)、『ハーバードの心理学講義』(2016、大和書房)など。* 神谷之康 (監訳)* 京都大学 大学院情報学研究科・教授、ATR情報研究所・客員室長(ATRフェロー)。専門は脳情報学。奈良県生まれ。東京大学教養学部卒業。カリフォルニア工科大学でPh.D.取得。機械学習を用いて脳信号を解読する「ブレイン・デコーディング」法を開発し、ヒトの脳活動パターンから視覚イメージや夢を解読することに成功した。SCIENTIFIC AMERICAN誌「科学技術に貢献した50人」(2005)、塚原仲晃賞(2013)、日本学術振興会賞(2014)、大阪科学賞(2015)。サーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)でのピエール・ユイグの展示 「UUmwelt」(2018)への映像提供など、アーティストとのコラボレーションも行う。* 出版社* みすず書房* 出版日* 2023/2/14* 目次* 第I部 習慣の機械――なぜ人は習慣から抜け出せないのか* 第1章 習慣とは何か?* 第2章 脳が習慣を生み出すメカニズム* 第3章 一度習慣化すれば、いつまでも続く* 第4章 「私」を巡る闘い* 第5章 自制心――人間の最大の力?* 第6章 依存症――習慣が悪さするとき* 第II部 習慣を変えるには――行動変容の科学* 第7章 新しい行動変容の科学に向けて* 第8章 成功に向けた計画――行動変容がうまくいくための鍵* 第9章 習慣をハックする――行動変容のための新たなツール* 第10章 エピローグ* 簡単な概要* 「習慣」とは何であり、それはどのようなメカニズムによって形成されるのか。脳科学や認知心理学の知見をベースにしながら検討される。また、その知見を元にいかにして行動変容を起こすのか、という科学的な視点からの提案もなされる。* 随所に「科学的な知見とどのように付き合えばよいのか」という話題が差し込まれていて、ポピュラー・サイエンス的な読み物としても楽しめる。ポイント本書は「習慣」がいかにねばり強く私たちの行動に影響を与えるか、という話が主旨なのですが、それとは別に「二つの学習メカニズム」の話が出てきて、倉下の興味はそこに強く惹きつけられました。一つは、この世界が固定的なものだとしてその世界と効率的に付き合う方法で、習慣が相当します。もう一つは、この世界の変化に対応する方法で、宣言的な(言葉によって表現される)知識として扱うものです。記憶の領域で言えば、前者は手続き的記憶で後者が宣言的記憶に相当するでしょう。たしかにこの世界はほとんど変化しない部分があり、しかし変化する部分もあります。そして、人類が築き上げてきた文明は概ね変化する部分を増やしてきたと言えるでしょう。そうした状況は習慣的なものだけでは対応できないから、現代では「言葉」の扱いが重要になっている、とも言えます。この話からは他にもいろいろな教訓が引き出せると思いますが、やはり重要なのは「固定に対応するもの」と「変化に対応するもの」という二区分で、しかもそれらを一つのシステムの中で組み合わせて使う、という視点です。静的なものと動的なものの両方が必要で、しかもそれらを支えるメカニズムは違っている。そのように捉えると物事の構図はもっと立体的になっていくでしょう。私たちはついつい単一の原理性で物事を片付けたくなりますが、解像度を上げればそこにはさまざまなベクトルが働いています。その観点は忘れないようにしたいものです。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC061『+iPad ちょっとした場面で使えるかんたん活用アイデアノート』

BC061『+iPad ちょっとした場面で使えるかんたん活用アイデアノート』

Apr 11, 2023 58:29 goryugo

今回は、五藤晴菜さんをゲストにお迎えして5月30日発売予定の『+iPad ちょっとした場面で使えるかんたん活用アイデアノート』をご紹介頂きました。◇+iPad ちょっとした場面で使えるかんたん活用アイデアノート | SBクリエイティブ書誌情報* 著者* 五藤晴菜* 出版社* SBクリエイティブ* 発売日* 2023年5月30日(火)* ISBN* 978-4-8156-1793-6* サイズ* A5判* ページ数* 192* 目次* Chapter0 iPadの魅力を最大限に生かすためには* Chapter1 使いこなすために必ず覚えておきたい基本操作と設定* Chapter2 メモならiPadにお任せ!誰もが使えるiPadのメモ術* Chapter3 効率を格段にアップさせるちょっとしたテクニック* Chapter4 ちょっとした業務がはかどるiPad 活用術!* Chapter5 作業がさらにはかどる周辺機器の活用* Chapter6 おすすめアプリ目次や紹介ページを拝見した感じだと、標準アプリや無料アプリをベースにiPadの「使い方」が紹介されている本のようで、いわゆる「ライフハック」的な話題が好きな人なら本書はマッチしそうという印象です。本編でも述べていますが、標準アプリのメモ・カレンダー・リマインダー(地図や連絡帳を加えてもいいでしょう)はいわゆる"手帳"を構成する要素であり、その探求は仕事術・ライフハックの系譜でもあります。その意味でおそらく「デジタル仕事術」の一冊に位置づけることもできるのではないかと現時点では予想しています。生産性の高さもう一つ興味深いのは、五藤晴菜さんは2022年の9月に『はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で』を出版されており、単純な期間で言えば半年くらいで二冊目の本を書かれています。そういうスピード感もまた、仕事術・ライフハックが求める生産性と重なる部分ではあるでしょう。◇はたらくiPad いつもの仕事のこんな場面で | 五藤 晴菜 |本 | 通販 | Amazonそういう仕事のやり方や考え方そのものも、一つの学びの対象になるかもしれません。メタな学びというやつです。ともあれ、まだ本自体が出版されていないので、今からを読むのが楽しみです。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC060『運動しても痩せないのはなぜか』『科学者たちが語る食欲』

BC060『運動しても痩せないのはなぜか』『科学者たちが語る食欲』

Mar 29, 2023 58:10 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『運動しても痩せないのはなぜか: 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」』と、『科学者たちが語る食欲』の2冊を語ります。2023年が始まってからごりゅごがずっと続けてきた「運動することと食べること、痩せること」シリーズの最後の回です。今回はちょうどごりゅごが花粉症の症状が最悪レベルのときと重なって、自分で聞いててかわいそうな声になっておりました。このシリーズの目論見というか、これらの本を読みながら考えていたことの一つとして、運動すれば無駄な炎症反応が減るので、花粉症の症状も出にくくなすはず、という考えなんかもあったりします。今年は、Podcast収録ちょっと前まで花粉症の症状はほとんど現れず、去年に比べて運動してるからなー、バランスボール椅子も使ってるからなー、なんて考えてたんですが、そう簡単に思った通りの結果は出せませんでした。なかなかに今年も花粉症がつらいです……とは言え、これはアフタートークで話したことなんですが、調子が悪いからって動かずに何もしないとどんどん調子が悪くなるのに対して、多少調子が悪くなっても体を動かすことで症状が改善しているように感じられる、ということも実感としては存在しています。運動によって、花粉症に対する効果は「あると思う」けど、やっぱり難しい……それだけでは説明しきれないのかもしれません(今はほとんど症状なし)📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC059『Chatter(チャッター): 「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』

BC059『Chatter(チャッター): 「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』

Mar 14, 2023 57:48 goryugo

今回取り上げるのは、『Chatter(チャッター): 「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』。やっかいな「頭の中の声」と付きあうための方法が提示される一冊です。書誌情報以下のページにまとめました。ブックカタリストBC059用のメモ - 倉下忠憲の発想工房チャッターとは人間には特殊な能力がある。目の前の現実から離れて、別の対象について思いを巡らせる能力だ。過去の出来事を思い出し、あのときはこうしておけばもっとよい結果が得られだろう、などと考えたり、未来の目標を設定し、今はこれに取り組むべきだ、などと考えたりできる。そのような思考は言語というフォーマットを用いて行われるが、たいてい口に発することなく内面の声を通すことになる。つまり、内面の声とは、セルフコミュニケーションのツールなわけだ。さて、他の人とのコミュニケーションでも良き関係とそうでない関係がある。他者が適切なメンターになったり、厳しい批判者になったりする。厳しい批判者は、人を萎縮させ、過剰なストレスを与え、ときに過剰な防衛反応を呼んだりもする。同じことがセルフコミュニケーションでも起きる。それが本書がいうChatter(チャッター)である。本来は、"自分"(行為主体者)を適切に導くためのセルフコミュニケーション=内面の声なわけだが、環境や状況が悪ければその役割は一変してしまう。あたかもタロットカードの向きが逆になるかのように。内面の声は、自発的な注意の対象の変更をもたらすが、それが無意識的な体の動きを阻害したり、行為主体者にネガティブな対象にだけ注意を向けるように促してしまう。そのようなネガティブな結果が訪れると、さらにChatterは声を大きくし、「ほら、やっぱりダメじゃん。ここがダメなんだよ」とさらにネガティブな要素に注意を向けさせる。循環構造の中にはまりこんでしまうわけだ。内面の声そのものは、有益な働きを持つが、かといって完璧なものではない。馬の近くで大きな音を立てると制御不能になるという話を聞くがそれに似ているだろう。音を立てる→馬が暴れる→周りが慌てる→さらに馬が驚いて暴れる→……。そうしたときは、むしろすごく落ち着いて対処する厩務員が必要だろう。内面の声でも同じなのだ。本書ではさまざまなテクニックが紹介されているが基本的には「距離を置くこと」がコンセプトになっている。心理的な距離、時間的な距離。形は多様だが、どれも引きつけられた注意をズームアウトすることによって、チャッターの声を静めることを目指す。そう。人間は、たしかに考える能力を持つ。システム2は(特殊な状況を除けば)誰しもが持っている。あとはそれが発揮させやすい環境にあるかどうかだ。あるいは、そういうものがあり、環境によって発揮されたりされにくかったりするのだ、という知識(というよりも知恵)を有しているかだ。よって本書は「内面の声」とのつき合い方を提示する本でもあるが、さらにいえば「アテンション・マネジメント」に関する本でもある。注意をどのように制動するのか。そこで重要な鍵を握るのが「ズームインとズームアウト」だ。これは、倉下が最近考えている「思考のための道具」の重要なツールセットになるだろう。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

BC058 『運動の神話 下』

BC058 『運動の神話 下』

Feb 28, 2023 1:05:26 goryugo

面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は、『運動の神話』の「下巻」について語ります。今回は、はじめての「前後編に分かれたシリーズ」の後編であり、全3回を予定している「運動と食事を改めて考える」シリーズの中編でもあります。こうやって連続ものにしてみたら「次の本はなにを紹介しよう」と考えることに使うエネルギー全部を内容のブラッシュアップに使える、ということに気がつきました。また、ある程度の長期にわたる(3ヶ月の見込み)シリーズなので、その期間ずっと「1つのテーマについて考え続けることが出来た」というのもよかったところの1つかもしれません。なお、運動に関する内容についていうと、本書の結論はきわめて「普通」です。もちろんその結論にたどり着くまでのいろいろな話が面白いのは間違いないんですが「効率」を求めるのであれば特に読む必要はない、という言い方も出来てしまう本です。ただ、人の心を変えるのは「効率」ではないんですよね。少なくともごりゅごはこの本から得られた科学的知見という物語から「運動の意義」は理解、納得ができました。「何で運動しないといけないんだろう」「運動するとどういういいことがあるんだろう」という理由は、どんなダイエット本よりも参考になりました。おそらくブックカタリストを聞いてくれている方はごりゅごと同じように感じるタイプの人も多いはずで、そういう点では「非常に素晴らしいダイエット本」だとも言える本でした。 This is a public episode. If you’d like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit bookcatalyst.substack.com/subscribe

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