ハナボウズの山ログ
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ハナボウズの山ログ

ハナボウズ 55 Episodes
なかじままさひろ

ハナボウズの園主・中島が、畑への道中や作業の合間に残す音声の記録です。
その日の気温や風の具合、土の匂い、花の状態。気分も変わります。うまくいった日も、思うようにいかなかった日も、残していきたいです。
SHUREのMV88マイクによるステレオ録音で、声だけでなく山の中にある畑の環境ごと記録しています。カエルの声、鳥の声、風の向き、遠くのチェーンソー音、この山に生きているものたちの気配もログとして残せたらいいなと思います。
いつか誰かがこれを聞くとき、その朝に何が鳴いていたかも、記録のうちだと思っています。

https://listen.style/p/hanaboze92?Y5d1uTfJ

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花火と古傷と生物音響学

花火と古傷と生物音響学

Jun 1, 2026 10:31 なかじままさひろ

石のベンチに腰を下ろす。晴れた空の下、ハウスの中は蒸し暑く、セダムやジャーマンカモミール、センダイハギ、イガグリスゲを刈り取り、本数の足りない品目を組み合わせて一箱に収める算段を立てる。農の現場では、足し算と引き算が静かに繰り返されている。土曜日は岩崎さんの農場でバーベキュー。戸高くんと炭火を囲んだが、オーストラリアンキャットルドッグが吠えながら駆け寄るたびに左肩の古傷が疼いた——かつてチャウチャウに噛まれ、ERへ運ばれたあの夜の記憶が。距離を保ちながら肉を食い、酒を飲んだ。誰も怪我がなかったことが、何よりのごちそうだった。日曜夜は戸高くん家で座談会。その後、ポッドキャスト収録という名目のおじさん会——「しょうがない」を言い訳に作業部屋へ籠もれる、それがまた良い。そして最近新しい遊びを見つけた。ステレオマイクで収めた音声を生物音響学的に解析してみると、シュレーゲルアオガエルやガビチョウの声が、静かに音の中に隠れていた。姿は見えなくても、声は届いている。畑の奥の森に、まだ知らない世界がある。マイクはそれを、ただ静かに記録していた。

コロコロ変わる方針

コロコロ変わる方針

May 26, 2026 07:01 なかじままさひろ

五月二十六日、九時二十四分。空の九割を雲が覆い、雨上がりの温みだけが残る朝。出荷の箱詰めを終えて、切り終えたばかりのアルケミラのハウスへ。乾いた土にかん水をして、石のベンチに腰を下ろす。気分は、五段階のうち三。露地でいちばん美しいのは、いまはチョウジソウ。球根の花たちが去ったあと、咲き進みの遅い青を拾うように昨日百本を切った。少し遅いかと思いながら、今日それを出荷してみる。寺田さんから譲り受けたオニスゲは、畑の山側に置いておいたら思いがけず花を付けてくれた。Yのハウスでは、二週間前に播いたキキョウの種がちらほらと顔を出しはじめている。けれど朝の声が何度も立ち戻るのは、やはり草のことだ。四月にはあれほど整っていた畑が、雨と温みに乗じて一変する。草と戦うのではなく、作物がぎりぎり切れるところまで草を抑える——勝つことではなく、均衡を保つこと。方針は今日もまた揺れる。アストランティアは一気に咲いて手が回らないから、Yの四分の一をアルケミラに変えようか。コロコロ変わる、と笑いながら、そのつど手と市場を見て決めていく。五年目の畑の、これが正直なところなのだろう。・カッコウ……出だしから語りの合間にかけて、二音節のさえずりが遠くからクリアに。五月に飛来する夏鳥で、この標高・この季節にちょうど活発になる。・ウグイス……中盤から後半、少し離れた山林からホーホケキョと、谷渡りの鋭い声。繁殖の最盛期にあたる。・シジュウカラなどのカラ類……ツツピー、チッチッという高い声が、ハウスのすぐ近くから間欠的に。営巣・育雛期で、親鳥が餌を探して農地まで来ている。

敵ではないという表明

敵ではないという表明

May 22, 2026 08:38 なかじままさひろ

雨から曇りへと移ろった暮れ方、橋を渡って花の部会へと向かう。こうした会の前には決まって憂鬱が訪れる。裁判にかけられるわけでも、検察に詰められるわけでもないのに——それでも歩を進めるのは、この部会に身を置くこと自体が、自分は敵ではない、ここにいる、という地域への小さな表明だからだ。橋の上から屋根が見える。平成末に建てられた自宅と、それより古い昭和築の隣家。錆びはじめた自分のトタンを眺めながら、家の年輪を読む数分間。午後までの一日は土と向き合っていた。母の日に活躍したアストランティア・ローマの株分けと植え付け、Y圃場の八分の一ほどまでの定植、ハウスへのアマランサスの播種。そして作業の途中、枝変わりかこぼれ種か、大ぶりの白花に緑の縁を持つアストランティアが数株。「グリーンヘイロー」という仮の名を与えて掘り上げる。緑の縁と、太陽のコロナのように滲む光輪。三株出たならば固定種かもしれない——名づけは観察の始まりであって、結論ではない。昼に手繰ったののやの蕎麦は、舞茸天のひとつがこしあぶらに替わっていた。一皿のなかで、山の季節が静かに差し替わっていく。​カジカガエル(河鹿蛙)の美しいコーラス 背景で「コロコロコロ…」と優しく響く細かな振動音。正体は、清流を好むカジカガエルたちの歌声です。5月に繁殖の最盛期を迎える彼らは、川の流れる音にかき消されないよう、通りの良い高周波の美声で鳴き交わします。​夕暮れの鳥たちの気配 川の音を突き抜けるように時折聞こえる「ピピッ」「チッチッ」という短い声。橋脚や河川敷を縄張りにするセキレイ類やツバメたちが、巣に戻る前に交わす一瞬のコミュニケーションかもしれません。​川の轟音という自然のノイズの中で、かき消されまいと独自の周波数で声を届かせようとする生き物たちの「音の住み分け(ニッチ)」。​初夏の心地よい夜風と、移り変わる山の季節を、耳から感じてみてください。

出荷を待つ花たちの前で

出荷を待つ花たちの前で

May 19, 2026 08:13 なかじままさひろ

母の日が過ぎた集荷場には、息継ぎのような静けさが流れている。クリスマスローズ、チョウジソウ、アストランティア、アルケミラ……並ぶ箱の名から、誰かの一週間の手の動きが浮かぶ。だがセダムを出している人は、まだいない。同じ場所に同じ季節が来ても、人それぞれに別の時間が流れているのだと、中島は思う。住宅に戻れば、玄関先に娘の鉢。一年前に「これがいい」と娘が選んだエキナセア「ブルーベリーチーズケーキ」だ。しおれかけると、つい水をやってしまう。世話をやめれば命が消えるという経験を、小さな鉢のなかでさせてあげるべきだったのかもしれない——と一瞬よぎる。けれど中島は決める。幼いころ虫かごのなかで殺してしまった虫たちの業を、いまこの鉢に水をやることで少しずつ返しているのだ、そう思っておこう。償いはいつも、思いがけないところで姿を変えて現れる。来週末のバーベキュー、二日酔いの体、集荷場で交わした言葉、そしてなぜか立ち上がってくる古い犬の記憶。五月の晴れた日、Yハウスへ向かう前の、午前中の独白。

今年も帽子を忘れた

今年も帽子を忘れた

May 17, 2026 08:48 なかじままさひろ

K圃場の石のベンチに腰を下ろしながら、中島は今年最初の草刈りを終えた余韻の中で録音を始める。例年なら6月を待って刃を入れる斜面が、今年は暖かさに背中を押されて早々と草を伸ばしていた。刈払機(ビーバー)を手に、作物周り・歩道・軽トラ通路をなんとか確保したものの、前掛けを忘れてきた。作業服に積もった草の粉は、準備とはいつも後から気づくものだということを、静かに証明している。露地ではチョウジソウが咲き、カマシアを市場に送り出した。チョウジソウは去年切りすぎたせいか丈が伸びず、今年は花ではなく葉の紅葉を狙うことにした。目標を変えることは敗北ではなく、植物との交渉の結果だ。Kハウス1棟目に植え付けたエキナセアは風と陽気に乾かされ、灌水しながら草刈りを続ける。凍み上がりから息を吹き返したジャーマンカモミールには、近いうちアブラムシ対策を施す予定だ。Yハウスには防草システムを四分の一ほど敷き、アンモビウムを直蒔きし、残りにはアマランサスを入れる構想が続く。保育参観で中島は一人で出かけた金曜日、中之条町のメディアコントロールチャレンジに関わる脳科学の先生の講演を聴き、その後は園庭での子どもたちの時間を見守った。娘が同じクラスの子とモグラ叩きゲームの順番を争う場面があった。相手が「じゃんけんで決めよう」と言うと、娘は「にらめっこで決めたい」と言い返した。相手の土俵に乗ることを、こんなに幼くして拒む。帰宅してから妻と笑った。遺伝子のせいかもしれない、と中島は少し誇らしそうに、少し申し訳なさそうに言う。そして坊主頭に日差しが刺さった。去年も同じ目に遭って、先生から手ぬぐいを借りた記憶がある。それでも帽子を忘れてきた。刈払機の前掛けも忘れてきた。人は成長しないものだ、と中島は笑う。成長しないことを、こうして記録に残す。

防草シートと筋肉痛

防草シートと筋肉痛

May 14, 2026 06:33 なかじままさひろ

晴れた五月の朝、中島はYハウスの中に立ち、防草シートに水が染みていくのをじっと見ていた。思いつきから生まれた「防草シートマルチシステム」——シートに穴を開け、灌水チューブごと巻き込み、土を作ったらまた戻す。残渣を捨て、片付け、そして再び始める。この単純な循環が、管理の手間を減らすかもしれない。風で飛ばされないか少し心配だが、まずやってみる。農作業においては、妄想を現実に変えるのは、いつも「やってみよう」の一言だ。一昨日は手押しの耕運機でYハウスの100坪全体を耕した。今、両腕の上腕二頭筋が悲鳴を上げている。昨日は1000本の花を切り、箱詰めまで終えた。体は疲れているが、仕事は着実に進んでいる。Yハウスの設計図が頭の中で少しずつ固まってきた。4分の1にアンモビウム、半分にアマランサス、北側にはアストランティア・ローマ。アルケミラは育苗組合の他の農家とバッティングするため外した。競合を避けながら、自分の色を出していく——それもまた農家の知恵だ。午後は出荷を済ませ、車のサイドミラーのリコール対応で車屋へ向かう。待ち時間には、スマホを置いて本を読むつもりだ。知らない場所で、コーヒーを片手に。何もしない時間を、無理して作る。それが今日の贅沢だ。

地域清掃の後昼間から酒を飲む

地域清掃の後昼間から酒を飲む

May 11, 2026 07:05 なかじままさひろ

母の日が終わった。花の値段がガクッと落ちる、その瞬間がある。六合地区は晴れ、風はちょうどよく、中島はK圃場ハウスの灌水をしながら音声を録った。昨日は町営住宅12世帯のうち4軒で道路清掃をした。一輪車、スコップ、竹箒。参加者は少なかったが、生活道路はきれいになった。昼から同期就農者とお酒を飲んだ。繁忙期が終わったから、いいだろうと。自分で建てたハウス1棟目には歪みがある。だからアルケミラは中心から先に育ち、端はまだ蕾が硬い。母の日で半分切り、土曜と今日でまた少し切った。残りは4分の1ほど。今週末までかけて、ゆっくり出していく。アストランティア・ローマはハウス分が今日で終わり。注文に応えられない分が出てしまったので、サポートへ謝罪の連絡を入れることになった。今日の収穫はアルケミラ、アストランティア、セダム、セダム・リジー——合わせて1,000本弱。母の日期間中、九州と関西への便でヒートショックが出た。クール便のはずが、温度変化でアストランティアとアルケミラが傷んでしまった。花屋さんに届いてしまったことへの申し訳なさは、言葉にならない。ただ、明日からは作業場から直接ピックアップし、長野あたりで積み替えてコールドチェーンに乗せる便が通ることになった。問題は、動いている。伐採予定の栗の木、新芽が展開してきた。ワインのハウスでは株分けと移植をしたい。草刈りも防除もある。モチベーションは少し下がっている——一安心した、ということかもしれない。

花と風邪と、カエルの声

花と風邪と、カエルの声

May 6, 2026 08:09 なかじままさひろ

五月の石のベンチに座って、千本近い花を前に録音している。アストランティアが一バケツ、アルケミラが四バケツ、セダムを少し。母の日前の最後の収穫が終わった。今年はハウスを二月十四日から閉め始めた。例年より一ヶ月遅らせた判断は、今年の暖かな春に救われた。無加温のままで、母の日に間に合った。GW中は、娘からもらった風邪をズビズビしながら、解熱剤を飲んで箱詰め作業を続けていた。妻と娘は昨日、五日ぶりに帰ってきた。じいじ・ばあばと過ごした娘の言葉の出力が、少し変わっていた。今期から佐川クール便で関西・九州への出荷を始めたが、草花の蒸れが発生している。コールドチェーンの断絶と湿気の結露が原因ではないか、と仮説を持っている。答えはまだない。圃場の端で、カエルの声が録れた。「ケケケケケ」というやつ。種はわからない。でも録れた。

母の日に花を贈ったことはあるか?

母の日に花を贈ったことはあるか?

May 2, 2026 12:39 なかじままさひろ

花を育てて五年、初めて「母の日」という祭りに正面から飲み込まれた。アルケミラとアストランティアとセダムを切り、夜まで箱に詰めながら、中島はふと思う。花が美しいとされているから花農家が成り立つのか、花農家がいるから花が美しくなるのか——答えは出ないまま、伝票を貼り、明朝の便に乗せる。昨日銀行の金融担当者から電話があり、住宅ローンの審査が落ちた。節税が信用を食う。農家の帳簿はそういう構造をしている。土壌診断を開けば、石灰は基準の四倍近く積み重なっていた。長年の習慣が土の底に堆積している——それは帳簿の話とどこか似ている。「ゲロを吐きながらでも働く」という言葉が出てくる。父から受け継いだ体の話であり、信用の話であり、農業の話でもある。焼酎を飲みながら、鼻を詰まらせながら、一人のリビングで録音する深夜。花は今夜、箱の中で眠っている。

澱んだ水槽

澱んだ水槽

Apr 28, 2026 08:59 なかじままさひろ

先週行ったJAの支店の水槽が、ずっと引っかかっている。去年はグラミーもエビもいた水槽が、今は藻とシダと黒いプラティ一匹だけ。中島はそこに、地域農協というインフラが静かに変質していくメタファーを見た。ローン申請で訪ねた金融担当者もやつれていた。共同出荷は物流コストを下げてくれるが、価格決定権は渡したまま。自分たちで価値を出せる場所——直売、マルシェ、古物商のBASEショップ——を、もっと面白がりながら続けていかないといけない。澱んだ水槽にも、見えないエビはいたかもしれない。気分スコア2の朝、石のベンチに腰かけながらそんなことを考えた。

散った桜と、個体差の話

散った桜と、個体差の話

Apr 26, 2026 06:55 なかじままさひろ

石のベンチは冷たかった。四月末の山は、まだそういう朝を持っている。出荷を終え、ハウスを開け、植えたばかりのラムズイヤーとエキナセアに水を引く。曇天の日の換気は加減が難しい。焼けさせず、しかし蒸らさない程度に。気分スコアは1。娘の鼻詰まりで夜眠れなかった。けれど前の日の午後、その娘はプチ発表会のステージに立っていた。三歳から中学生まで、みんなが同じ振り付けで踊るのを特等席で見ながら、中島は農業に近い何かを感じていた。体格が違えば、重心が違う。筋肉の記憶のされ方が違う。その人にしか出ない動きが生まれる——品種の個体差と、ほとんど同じことだと思った。帰宅後は家族三人でレジェンドダンサーの動画を見て、夜はみんなで踊った。プリエの練習もした。午前中はこれから、集落の電牧の補修作業に加わる。午後は体力次第で、株分けと種まきができれば。Kの畑の桜は散り終え、セダムの株間に花びらが積もっている。春が、一段落しようとしている。

薄着で寒い山を舐めてはいけない

薄着で寒い山を舐めてはいけない

Apr 24, 2026 04:28 なかじままさひろ

四月の晴天は、しかし欺く。Kの石のベンチに腰を下ろした中島の背には、吾妻の風が容赦なく吹き付けていた。薄着のまま働き通した一日の末、体は冷えを芯まで受け取っていた。今日は妻とふたりで路地に出た。ヘレニウムとフロックス——その根元に絡みつく草を、ひとつひとつ手でほぐすように取り除く作業。フロックスはかつて植えた場所に、誰に頼まれたわけでもなく根を張り直し、気がつけば株を増やしていた。土の記憶というものは、植えた人間よりも長く続く。掘り上げた株は、火曜か日曜に改めて植え付けてやるつもりだ。午前中にはセダム(オータムジョイ)の防除も行った。昨年導入したタッチダウンチークの周囲にも草が伸び始めている。他の株と同じく、防草シートで挟んでやれば足元が落ち着くだろう。路地を歩けば、アルケミラとアストランティアが盛んに花をつけていた。明日は収穫日になる。正直なところ少し憂鬱だと中島は言う——それでも、売れたときの喜びを思えば、腰はおのずと上がるのかもしれない。明日の午前には、娘の習い事の発表会がある。ハウスを開けたらそちらへ向かい、午後から注文分・市場分の収穫にかかる。夜遅くまでかかりそうだ。発表会の先生には、今日畑で摘んだ花を持っていく。前処理に浸けておいたアルケミラとアストランティアを、帰宅した妻に託した。四月の晴天は、しかし欺く——それでも、花は待たない。

初切り

初切り

Apr 23, 2026 08:58 なかじままさひろ

桜が散り始めた4月の朝、Kフィールドの石のベンチに腰を下ろした中島は、今季はじめての出荷を終えた手のひらを眺めていた。アストランティア40本、アルケミラ100本。数字は乾いているが、その重さは確かに、今年という一年の口を開けていた。このエピソードでは、初収穫の報告とともに、花屋を目指す若者との出会い、グリーンパルの総会で気づいた「農業5年目」という実感、そして新規就農者たちの現実について話す。土地も機械も流通も手探りのまま始まる苦労と、辞めていく農家の資源を次の世代へ引き継ぐ仕組みへの想い。師匠の福島さんが縮小を口にしていることも、その背景にある。雨を避けてハウスに入り、ラムズイヤーのバラし植えに取りかかりながら、中島はセダムのことを考える。「在圃性が高い」——自分の気持ちが整った時に収穫できる作物。花が「今だ」と迫ってくるのではなく、こちらのペースで向き合える鈍さの中に、ここでの農業のリズムがある。研修生の頃にはわからなかったその感覚が、5年かけてようやく体に馴染んできた。

まだ分からない

まだ分からない

Apr 21, 2026 09:57 なかじままさひろ

四月の晴れた日。Kのハウスの石のベンチに座ると、風が思ったより冷たかった。桜はもう散り始めている。この日の中島は、灌水の確認をしながら、明日から始まるアルケミラとアストランティアの収穫に向けて気持ちを整えていた。花楽の里の寺田さんから「いかつくてデカくなる」と言われたジョーパイウィードの株をもらい、栗の木の下に植え付けた。畑には数日前から広げたかった堆肥があった。昨晩から雨が降ってくれた。雨の直後は土がゴロゴロになる。乾きすぎてもパサパサになる。耕すベストなタイミングを、まだ体で知らない。明日にしよう、と決めた。チョウジソウが顔を出し、アスチルベは遅霜にやられ、水場にはスマートな体つきの茶色いカエルがいた。午後には、Instagramで連絡をくれた花屋志望の人が農場に来る予定だった。

5歳の誕生日と石のベンチ

5歳の誕生日と石のベンチ

Apr 19, 2026 09:07 なかじままさひろ

K圃場の石のベンチから録音している。山桜が満開で、四月の陽光は急に真夏の顔をしていた。今日は娘の五歳の誕生日で、夕方には義理の両親が訪れる。妻が家の中で掃除と料理の準備に追われているのを知りながら、中島は畑仕事を口実に外へ出てきた。農家の時間は、人の都合より先に動いている。先週読んだカラスの本から、一つの仮説が浮かんでいる。ハシブトガラスは山にも都会にも棲む。山には人が少なく、木と野生動物だけがある。都会には人が多すぎて、誰も自分を気にとめない。どちらも「ひとりでいられる場所」という意味において、山と都会は似ているのかもしれない。エキナセア(グアバアイス)をハウス一棟目に植え付け、灌水を入れた。そしてアルケミラが、今週あたりからいよいよ切り花として出荷できそうだ。冬の間ずっと待ち続けた、最初の一束。そわそわとした期待が、午後の暑気の中に混じっている。

反省と感謝の1週間

反省と感謝の1週間

Apr 17, 2026 07:07 なかじままさひろ

畑でスタックしていた牧場主のホイールローダーを、ようやく救出できた。土木屋さんのおかげで作業は15分で片がついた——けれど、急いで返しに行ったせいで、腹についた黒土を落とすのを忘れていた。指摘されてはじめて気づいた。「早く返す」という気持ちだけが先走って、丁寧さが追いつかなかった。動噴で泥を落とし、洗い直して届けた。リース料の一部を申し出たら、穏やかに断られた。Kの石のベンチで今日を振り返りながら、ふと気づいたことがある。アストランティアが今年やたら早い。来週には切れそうだ。セダムハウスの電照の光が、隣のハウスにも届いていたんじゃないか——そんな仮説が浮かんだ。植物は、見ていると勝手に問いを投げてくる。水場に近づいたら、ヤゴがいた。まだいる。春の命数は、人の焦りとは無関係に進んでいく。

山桜の下に作物が植わっている

山桜の下に作物が植わっている

Apr 15, 2026 06:26 なかじままさひろ

四月の曇り空の下、中島はハウスでアルケミラとアストランティアに水をやりながら、今年と昨年の植物の伸びの逆転に気づく。Kの露地畑では山桜が二分咲き、その後ろにはスタックしたままのWA100。春の景色と積み残した仕事が、静かに並んでいる。そして今朝、録りためた山ログをまっさAIに読み込ませたら、思いのほかいい返答が返ってきた。その対話の一部を下に貼り付ける。気分スコア2。疲れた日も、ログは続く。【以下、私とまっさAIとの会話】私「今日は雨降りそうだよ」まっさAI「そうか、雨か。朝からハウスの外が白っぽくて、霧なのか雲なのか判断つかない感じがあった。雨の日はハウスの中の作業が捗るようで、でも頭のどこかはずっと外の音を聞いてる気がする。土が水を吸う音って、実際には聞こえないはずなのに、なんとなくわかる気がするのが不思議だ。雨の日、あなたは何をしてる?」私「ビニールハウスの中の草取りしようかな」まっさAI「いいな、雨の日の草取りは外の音がハウスの屋根でまろくなって、なんか集中できるんだよな。セダムの株元とかに細い草がちょこちょこ入り込んでくると、あいつらも生きようとしてるなあって思いながら抜く。雑草も一次資料の一部というか、この圃場で何が生えてきたかって記録にもなりうるんだけど、まあ邪魔なもんは邪魔だ。草取りしながら、何か考えごとしたりする?」私「草取り中はポッドキャスト聴くことが多いよ。考えていることもあるけど何考えていたか、今はパッと出てこないや」まっさAI「わかる、あの感じ。手が動いてる間に頭が半分どこかに行ってて、でも後から『あれ、何考えてたっけ』ってなる。ポッドキャストと自分の思考が混ざり合って、どこまでが聴いた話でどこからが自分の考えかも曖昧になってたりする。草取りしながら浮かんだことって、記録しないと霧みたいに消えていくんだよな。俺が音声で山ログ残そうとしてるのも、たぶんそういう消えていくものへの抵抗なんだと思う。消えてった思考の中に、残しておきたかったやつがあったりする?」私「山や畑、ポッドキャストから取り込んだ情報が圧縮されてほんの一部分だけ澱のように記憶に積み重なっていく感じかな」まっさAI「そうそう、その澱って言葉がしっくりくる。全部は残らないけど、残ったものだけが本当に自分の中に落ちてきたやつなんだろうな。ポッドキャストの話も、霧の中で見た景色も、草取りしながらぼんやり考えたことも、99%は流れていって、沈んだ1%が次の何かの土台になっていく感じ。それって植物の種みたいなもんで、全部が発芽しなくていい、むしろしないほうが自然なのかもしれない。200年後の人が俺の山ログ読んでも、澱の部分しか伝わらないんだろうなとも思う。その澱って、どんなタイミングで『あ、これ残ったな』って気づく?」

マキタの充電式チェーンソー

マキタの充電式チェーンソー

Apr 14, 2026 08:24 なかじままさひろ

チェーンソーのボタンを押す朝がある。エンジン式のような儀式は要らない。ただ音が立ち上がり、気持ちが少しだけ前へ動く。今回のログは、G圃場でのディアボロ(フィソカルパス)の剪定作業。昨年の丸坊主から、今年は切り株状に整える。先輩の言葉が手に宿っている。足元では、先週挿した赤弦240株の芽がすでに動き始めていた——一度雪に生けてから挿した方が活着がいい、という仮説をそっと抱えながら。昨日はPTA総会。中之条町の「メディアコントロールチャレンジ」について話し合われた。禁止ではなく、付き合い方の話。我が家では将棋とボードゲームが動いている。37歳、子供相手に本気になってしまう自分が少し可笑しい。林が近い。鳥の声が四方から来る。録っていなければ、気づかなかったかもしれない。

山の残雪は馬の形に見える

山の残雪は馬の形に見える

Apr 13, 2026 06:51 なかじままさひろ

Kの石のベンチに腰を下ろす。右手には牧場長から借りてきたWA100がスタックしていて、今週金曜に引き上げ作業の重機が揃う見通しが立った——という安堵と、また別の重さが同時に肩に乗ってくる月曜日の朝。昨日はホンダさんからいただいたアカツルをG(ゴリラの岩の畑)に全部挿し終えた。3年後以降に冬季作物として回収できれば、という話。今日は露地のセダム防除を開始して、ヒメヒマワリとヘレニウム(リトルヘンリー)の移植という新しい課題も積み上がった。でも優先順位は決めた。セダムとアルケミラを先に。久しぶりに浅間山をちゃんと見たら、残雪が馬の形になっていた。山桜も綻び始めていて、季節が急いでいる。午後はPTAの総会で、前年度会長として引き継ぎの挨拶をする。その前に坊主頭を刈って、シャワーを浴びる。おじさんなりの矜持がある。

石のベンチ

石のベンチ

Apr 12, 2026 06:26 なかじままさひろ

晴れた朝、K畑のハウス東側、石のベンチに腰を下ろした中島の視界の右手には、牧場から借りた小松のWA100が、ぬかるみに沈んだまま動かずにいる。一昨日の雨の中で起きたそのスタックは、まだ解決されていない。見るたびに、少し重たいものが胸に落ちてくる。ただ、怪我はなかった。ヤマギワさんも、中島も、無事だった。その事実をひとつの着地点として、中島は今日の畑へと向かう。昨日は、そのホイールローダーを横目に見ながら手を動かした。ヒメヒマワリをK路地に1条。ルドベキア・リトルヘンリーを約50株、丁寧に株分けして植え付けた。アムソニア・フブリヒティを40株ほど、アガスターシェも半分に割って増やし、畑の奥へと並べた。株が落ち着くまで、怪しそうなものだけジョロで手灌水した。今朝も同じように見てまわった。今日はYのスギナ対策の除草を終え、セダムの灌水をしながら、まだ植え付けられていない実験株の行き場を考えている。それから、道路に残った土も片付けなければ。近所の小林さんに指摘されて、気づいた。トラブルの混乱の中で、手が届いていなかった。先のことを考えると、少し憂鬱にもなる。でも体は動いている。風は気持ちいい。気分は3。それで十分、畑へ戻る。

LISTEN NEWS

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LISTENは、AI文字起こしとコミュニティで、ポッドキャストを「聴く・配信する・つながる」ためのプラットフォームです。 公式番組「LISTEN NEWS」では、開発の裏話や近況も交えつつ、最新情報をお届けします。 LISTENはこちら→ https://listen.style/

私より先に丁寧に暮らすな

私より先に丁寧に暮らすな

東京の歌人・上坂あゆ美と、京都の僧侶・鵜飼ヨシキによる雑談配信。人生の呪いからファミレスの好きなメニューの話まで幅広くお届け。 【初めての方におすすめ回】 #30 お菓子が人間だったら誰と付き合いたいか真剣に考える https://open.spotify.com/episode/751EzuNXjpgP2i53P7OtX7?si=XxN2eddURsas_JWE6KFu-A #163 恋愛ってマーージでクソだと思っている人の話 https://open.spotify.com/episode/1WgeglhRT5GQfqzkBO2bNF?si=1l0b2OBlTJq ▼ご意見ご感想は #よりすな ▼お悩みや質問はコチラまで https://forms.gle/1bqryhYcDWt334jZ7 ▼番組公式SNS https://x.com/yori_suna ▼番組へのお問い合わせはコチラまで yorisuna24@gmail.com ▼ポッドキャストの書き起こしサービス「LISTEN」はこちら https://listen.style/p/yorisuna?Egq5AoBB

近藤淳也のアンノウンラジオ

近藤淳也のアンノウンラジオ

株式会社はてな創業者であり現在もITの第一線で働く近藤淳也が、京都の宿UNKNOWN KYOTOにやって来る「好きなことを仕事にしている人」を深堀りすることで、世の中の多様な仕事やキャリア、生き方・働き方を「リアルな実例」として紐解いていきます。 . 【ホスト:近藤淳也】 株式会社OND代表取締役社長、株式会社はてな取締役、UNKNOWN KYOTO支配人、NPO法人滋賀一周トレイル代表理事、トレイルランナー。 2001年に「はてなブログ」「はてなブックマーク」などを運営する株式会社はてなを創業、2011年にマザーズにて上場。その後2017年に株式会社ONDを設立し、現在もITの第一線で働く。 株式会社OND: https://ond-inc.com/ . 【UNKNOWN KYOTO】 築100年を超える元遊郭建築を改装し、仕事もできて暮らせる宿に。コワーキングやオフィスを併設することで、宿泊として来られる方と京都を拠点に働く方が交わる場所になっています。 1泊の観光目的の利用だけではなく、中長期滞在される方にも好評いただいています。 web: https://unknown.kyoto/ . こちらから本文を読んだりコメントが書けます! https://listen.style/p/unknownradio

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Dos Monosの荘子itと哲学者の福尾匠によるPodcast 毎週月曜更新。 📍番組のフォローをお願いします ・ Spotify ・Apple Podcasts 📣疎の街 ⁠⁠コチラ⁠⁠からお越しください 📍X シットとシッポ @shitshippo 荘子it @ZoZhit 福尾匠 @tweetingtakumi

jkondoの朝の散歩

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ポッドキャストプラットフォーム「LISTEN」や、GPSトラッキングサービス「IBUKI」、物件メディア「物件ファン」、京都の宿とコワーキング施設「UNKNOWN KYOTO」を運営する近藤淳也(jkondo)が、朝の散歩をしたりしながら、日々の出来事や考えたことを語ります。

IBUKI STATION

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ここはアウトドア向けGPSトラッキング「IBUKI」にまつわる人々が集まる場所。 トレイルラン、登山、冒険、ランニング、自転車、ロゲイニング、、 スタイルは数あれど、共通しているのは自然を楽しみ、そして人とのつながりも楽しむ姿勢。 自然を目一杯楽しみ、苦しみながら、人と接する喜びにも気付く。 アウトドアを満喫するみなさんが、ほっとできるIBUKI STATIONです。 IBUKI https://ibuki.run/ 近藤淳也 IBUKIを提供する株式会社OND代表。ポッドキャストプラットフォーム「LISTEN」も展開 桑原佑輔 OND所属。IBUKI事業担当営業・テクニカルディレクター