ハナボウズの山ログ
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ハナボウズの山ログ

ハナボウズ 42 Episodes
なかじままさひろ

ハナボウズの園主・中島が、畑への道中や作業の合間に残す音声の記録です。

その日の気温や風の具合、土の匂い、花の状態。気分も変わります。うまくいった日も、思うようにいかなかった日も、言葉にしてそのまま残していきます。

ここに積み重なったログは、ハナボウズの畑を知る「AI園主」の素材になっていく予定です。
ゆくゆくはオブザーバーとしての知見を受け継ぐ道祖神のような存在になるかもしれない。

https://listen.style/p/hanaboze92?Y5d1uTfJ

https://podcasters.spotify.com/pod/show/masahiro-nakajima

番組の魅力・推薦

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まだ分からない

まだ分からない

Apr 21, 2026 09:57 なかじままさひろ

四月の晴れた日。Kのハウスの石のベンチに座ると、風が思ったより冷たかった。桜はもう散り始めている。この日の中島は、灌水の確認をしながら、明日から始まるアルケミラとアストランティアの収穫に向けて気持ちを整えていた。花楽の里の寺田さんから「いかつくてデカくなる」と言われたジョーパイウィードの株をもらい、栗の木の下に植え付けた。畑には数日前から広げたかった堆肥があった。昨晩から雨が降ってくれた。雨の直後は土がゴロゴロになる。乾きすぎてもパサパサになる。耕すベストなタイミングを、まだ体で知らない。明日にしよう、と決めた。チョウジソウが顔を出し、アスチルベは遅霜にやられ、水場にはスマートな体つきの茶色いカエルがいた。午後には、Instagramで連絡をくれた花屋志望の人が農場に来る予定だった。

5歳の誕生日と石のベンチ

5歳の誕生日と石のベンチ

Apr 19, 2026 09:07 なかじままさひろ

K圃場の石のベンチから録音している。山桜が満開で、四月の陽光は急に真夏の顔をしていた。今日は娘の五歳の誕生日で、夕方には義理の両親が訪れる。妻が家の中で掃除と料理の準備に追われているのを知りながら、中島は畑仕事を口実に外へ出てきた。農家の時間は、人の都合より先に動いている。先週読んだカラスの本から、一つの仮説が浮かんでいる。ハシブトガラスは山にも都会にも棲む。山には人が少なく、木と野生動物だけがある。都会には人が多すぎて、誰も自分を気にとめない。どちらも「ひとりでいられる場所」という意味において、山と都会は似ているのかもしれない。エキナセア(グアバアイス)をハウス一棟目に植え付け、灌水を入れた。そしてアルケミラが、今週あたりからいよいよ切り花として出荷できそうだ。冬の間ずっと待ち続けた、最初の一束。そわそわとした期待が、午後の暑気の中に混じっている。

反省と感謝の1週間

反省と感謝の1週間

Apr 17, 2026 07:07 なかじままさひろ

畑でスタックしていた牧場主のホイールローダーを、ようやく救出できた。土木屋さんのおかげで作業は15分で片がついた——けれど、急いで返しに行ったせいで、腹についた黒土を落とすのを忘れていた。指摘されてはじめて気づいた。「早く返す」という気持ちだけが先走って、丁寧さが追いつかなかった。動噴で泥を落とし、洗い直して届けた。リース料の一部を申し出たら、穏やかに断られた。Kの石のベンチで今日を振り返りながら、ふと気づいたことがある。アストランティアが今年やたら早い。来週には切れそうだ。セダムハウスの電照の光が、隣のハウスにも届いていたんじゃないか——そんな仮説が浮かんだ。植物は、見ていると勝手に問いを投げてくる。水場に近づいたら、ヤゴがいた。まだいる。春の命数は、人の焦りとは無関係に進んでいく。

山桜の下に作物が植わっている

山桜の下に作物が植わっている

Apr 15, 2026 06:26 なかじままさひろ

四月の曇り空の下、中島はハウスでアルケミラとアストランティアに水をやりながら、今年と昨年の植物の伸びの逆転に気づく。Kの露地畑では山桜が二分咲き、その後ろにはスタックしたままのWA100。春の景色と積み残した仕事が、静かに並んでいる。そして今朝、録りためた山ログをまっさAIに読み込ませたら、思いのほかいい返答が返ってきた。その対話の一部を下に貼り付ける。気分スコア2。疲れた日も、ログは続く。【以下、私とまっさAIとの会話】私「今日は雨降りそうだよ」まっさAI「そうか、雨か。朝からハウスの外が白っぽくて、霧なのか雲なのか判断つかない感じがあった。雨の日はハウスの中の作業が捗るようで、でも頭のどこかはずっと外の音を聞いてる気がする。土が水を吸う音って、実際には聞こえないはずなのに、なんとなくわかる気がするのが不思議だ。雨の日、あなたは何をしてる?」私「ビニールハウスの中の草取りしようかな」まっさAI「いいな、雨の日の草取りは外の音がハウスの屋根でまろくなって、なんか集中できるんだよな。セダムの株元とかに細い草がちょこちょこ入り込んでくると、あいつらも生きようとしてるなあって思いながら抜く。雑草も一次資料の一部というか、この圃場で何が生えてきたかって記録にもなりうるんだけど、まあ邪魔なもんは邪魔だ。草取りしながら、何か考えごとしたりする?」私「草取り中はポッドキャスト聴くことが多いよ。考えていることもあるけど何考えていたか、今はパッと出てこないや」まっさAI「わかる、あの感じ。手が動いてる間に頭が半分どこかに行ってて、でも後から『あれ、何考えてたっけ』ってなる。ポッドキャストと自分の思考が混ざり合って、どこまでが聴いた話でどこからが自分の考えかも曖昧になってたりする。草取りしながら浮かんだことって、記録しないと霧みたいに消えていくんだよな。俺が音声で山ログ残そうとしてるのも、たぶんそういう消えていくものへの抵抗なんだと思う。消えてった思考の中に、残しておきたかったやつがあったりする?」私「山や畑、ポッドキャストから取り込んだ情報が圧縮されてほんの一部分だけ澱のように記憶に積み重なっていく感じかな」まっさAI「そうそう、その澱って言葉がしっくりくる。全部は残らないけど、残ったものだけが本当に自分の中に落ちてきたやつなんだろうな。ポッドキャストの話も、霧の中で見た景色も、草取りしながらぼんやり考えたことも、99%は流れていって、沈んだ1%が次の何かの土台になっていく感じ。それって植物の種みたいなもんで、全部が発芽しなくていい、むしろしないほうが自然なのかもしれない。200年後の人が俺の山ログ読んでも、澱の部分しか伝わらないんだろうなとも思う。その澱って、どんなタイミングで『あ、これ残ったな』って気づく?」

マキタの充電式チェーンソー

マキタの充電式チェーンソー

Apr 14, 2026 08:24 なかじままさひろ

チェーンソーのボタンを押す朝がある。エンジン式のような儀式は要らない。ただ音が立ち上がり、気持ちが少しだけ前へ動く。今回のログは、G圃場でのディアボロ(フィソカルパス)の剪定作業。昨年の丸坊主から、今年は切り株状に整える。先輩の言葉が手に宿っている。足元では、先週挿した赤弦240株の芽がすでに動き始めていた——一度雪に生けてから挿した方が活着がいい、という仮説をそっと抱えながら。昨日はPTA総会。中之条町の「メディアコントロールチャレンジ」について話し合われた。禁止ではなく、付き合い方の話。我が家では将棋とボードゲームが動いている。37歳、子供相手に本気になってしまう自分が少し可笑しい。林が近い。鳥の声が四方から来る。録っていなければ、気づかなかったかもしれない。

山の残雪は馬の形に見える

山の残雪は馬の形に見える

Apr 13, 2026 06:51 なかじままさひろ

Kの石のベンチに腰を下ろす。右手には牧場長から借りてきたWA100がスタックしていて、今週金曜に引き上げ作業の重機が揃う見通しが立った——という安堵と、また別の重さが同時に肩に乗ってくる月曜日の朝。昨日はホンダさんからいただいたアカツルをG(ゴリラの岩の畑)に全部挿し終えた。3年後以降に冬季作物として回収できれば、という話。今日は露地のセダム防除を開始して、ヒメヒマワリとヘレニウム(リトルヘンリー)の移植という新しい課題も積み上がった。でも優先順位は決めた。セダムとアルケミラを先に。久しぶりに浅間山をちゃんと見たら、残雪が馬の形になっていた。山桜も綻び始めていて、季節が急いでいる。午後はPTAの総会で、前年度会長として引き継ぎの挨拶をする。その前に坊主頭を刈って、シャワーを浴びる。おじさんなりの矜持がある。

石のベンチ

石のベンチ

Apr 12, 2026 06:26 なかじままさひろ

晴れた朝、K畑のハウス東側、石のベンチに腰を下ろした中島の視界の右手には、牧場から借りた小松のWA100が、ぬかるみに沈んだまま動かずにいる。一昨日の雨の中で起きたそのスタックは、まだ解決されていない。見るたびに、少し重たいものが胸に落ちてくる。ただ、怪我はなかった。ヤマギワさんも、中島も、無事だった。その事実をひとつの着地点として、中島は今日の畑へと向かう。昨日は、そのホイールローダーを横目に見ながら手を動かした。ヒメヒマワリをK路地に1条。ルドベキア・リトルヘンリーを約50株、丁寧に株分けして植え付けた。アムソニア・フブリヒティを40株ほど、アガスターシェも半分に割って増やし、畑の奥へと並べた。株が落ち着くまで、怪しそうなものだけジョロで手灌水した。今朝も同じように見てまわった。今日はYのスギナ対策の除草を終え、セダムの灌水をしながら、まだ植え付けられていない実験株の行き場を考えている。それから、道路に残った土も片付けなければ。近所の小林さんに指摘されて、気づいた。トラブルの混乱の中で、手が届いていなかった。先のことを考えると、少し憂鬱にもなる。でも体は動いている。風は気持ちいい。気分は3。それで十分、畑へ戻る。

ホイールローダーが畑でスタックしたよ

ホイールローダーが畑でスタックしたよ

Apr 10, 2026 04:09 なかじままさひろ

午後、雨が戻ってきた。牧場から借りたホイールローダーコマツのWA100、何トンあるんだろう、でかい機械だ——で堆肥を畑に入れるところまでは、うまくいっていた。バケットで直接圃場に突っ込んで、量は落とせた。問題はその帰り道だった。水場と畑と水源が作る三角形の中で展開しようとしたとき、ホイールローダーが畑の道でスタックした。気分スコアは「1」。テンションは、なぜか高い。トラブルに見舞われると人間はそわそわする、と中島は自分を観察した。焦っているのに頭は妙に冴えていて、できることとできないことの仕分けが素早くなる。まず近所のヤマギワさんに電話した。除雪作業を担ってくれている、いつかブルーベリー農園をやりたいと移住してきた人だ。見てもらい、牧場まで一緒に戻り、牧場主と話した。7トンのユンボがある、という。ヤマギワさんがそのユンボを運転してスタック現場まで来てくれることになった。待ち時間に、中島は音声を録っている。スタックしたホイールローダーの前で、雨の中。人間にできることはもうあまりない。だからこそ、このそわそわした状態の自分を記録しておこうと思った。スタックした人が聞いたら怒るかもしれない、とも思いながら。ヤマギワさんが来るまでの間、ホイールローダーの移動中に路上にこぼれた堆肥を、ほうきと手で片付けに行くことにした。今の自分にできること、それは道を掃除することだった。寒い。雨だ。

やる気の出し方

やる気の出し方

Apr 10, 2026 08:25 なかじままさひろ

朝は雨だった。だから今日はゆっくりできると思っていた。ところが空はそんな段取りを無視して、急に晴れ始めた。中島は慌てて畑へ向かい、ハウスを開け、アルケミラへ水をやった。最悪を避けるために、とにかく体を動かす。それだけのことだったが、動いているうちに不思議と気分が上向いてくるのがわかった。やる気というのは、待っていれば湧いてくるものではないのかもしれない。昨日のK圃場での掘り上げ作業で残った筋肉痛が、むしろ心地よかった。今日の出発点は気分スコア「5」。アムソニア・フブリヒティ(イトバチョウジソウ)という宿根草がある。セリでも市場でも評価が高く、おぎはら植物園を訪れたとき、この苗だけが売り切れていた。面白い品目はすぐ真似される。圧倒的な量と質で先行するか、それとも「その時期、その市場に自分だけが存在する」ピンポイントの品目を持つか——考え始めたところで、自分で笑った。経営語り、だるいな、と。バプテシアの移植には手こずった。2年据え置いた株は根がマダコのように地中へ広がっていた。掘り上げて割り、Kの2棟目セダムハウス前に一列。その隣では、前の地主が植えたと思われる品種不明の芍薬が、ピョコピョコと顔を出していた。誰かが丁寧に育てた植物が、土の中でずっと待っていたかのように。午後は牧場からもらった堆肥をYのハウスへ運ぶ。その段になって気分が「4」に下がった気がする——と苦笑した。けれど、体を動かせばやる気は戻ってくる。今日それはもう、経験として知っている。

ステレオ録音にしてみた

ステレオ録音にしてみた

Apr 9, 2026 05:20 なかじままさひろ

四月九日の朝、霜柱が残っていた。夜が晴れれば地は冷える。春はまだ、仕事の途中だ。前日の夕方、アルケミラとセダムへの防除を終えた。アルケミラにはもう花茎が上がってきている。花をかじられる前に手を打つ。段取りは、いつも前日から始まっている。今日は妻と二人で、試験栽培してきた苗を土の中から掘り起こす日。ヒオウギ、バプテシア、アガスターシェ。調子がよかったものを選んで、次につなぐ。午後はG圃場で挿し木の予定。Kの圃場で昔、堆肥を入れすぎた話をした。就農二、三年目のこと。ホイールローダーで何杯分も。その冬の土壌診断でEC値が跳ね上がって、驚かれた。数値は正直だが、正直すぎることもある。今は土がふかふかだから、それでいい。圃場を歩いていたら、イノシシの糞が落ちていた。昨日採ったヤゴは、画像検索でオニヤンマ系とわかった。この山では、人間だけが主役ではない。今回から録音をステレオに切り替えた。ノイズキャンセルが鳥の声まで消していた、という気づきから。二百年後に誰かがこの音声を聞くとき、その朝に何が鳴いていたかも、記録のうちだと思っている。気分は4。コーヒーをゆっくり飲める朝だった。

透明マント

透明マント

Apr 8, 2026 08:12 なかじままさひろ

四月の風は冷たく、ダウンベストをパーカーの下に重ねて畑へ向かう。アストランティアに水をやり、枯れ草を刈り払い、体を動かすうちに気分が2から3へ上がっていく。農作業には、薬より早く効くものがある。Kのハウスに入るたびに、気づけば草を1本抜いている。特に決めたわけじゃない。ただ来るたびに1本。いつの間にかそれが習慣になっていて、いつの間にかハウスは綺麗になっていた。意志よりも、動線の方が人を動かす。水場でヤゴを見つけた。大きい。オニヤンマかギンヤンマか、まだわからない。去年の夏、帽子にオニヤンマの模型をつけてアブ対策をしていた話をする。効果はあったかもしれない。でも正直なところ、もっとも効果を感じたのはフマキラーのベープだった。吸血昆虫の「索敵」を妨げる成分が入っているらしい。見えているのに見えない。透明マントだ、と思った。トラクターを持っていない。近所の同期や地主さんの形見のボロボロの3台を、タイミングよく借りながらこの5年をやってきた。使いたい時期がかぶる不便はある。でも2300万の投資をしていない、という事実もある。「持たないこと」も、れっきとした選択だ。昨日は妻と二人で、イノシシに掘り返された軽の日扇を掘り上げた。早稲より奥手の方が球根の形が綺麗だった。その差を手で確かめながら、1芽ずつ植え直す。農業の判断は、いつもこういう細部の感触からできている。声を録り終えたら、図書館の鳥図鑑の返却期限が今日だと思い出した。録っていなかったら、きっと忘れていた。偶然のありがたさ、と中島は笑う。ヤゴの写真を画像検索した、オニヤンマ科かもしれない。

町内会に参加してきた

町内会に参加してきた

Apr 6, 2026 09:28 なかじままさひろ

土日、畑に行けなかった。でもそれには理由がある。ナマス地区の町内会に出席していた。昨年度の会計報告、今年度の草刈り計画、そして飲み会。今年は町営住宅の班長も引き受けることになったので、先人たちに話を聞く絶好の機会でもあった。「地域の人に敵だと思われないためにも、顔を出すのは大事」——農家としてだけじゃなく、住民としての中島の話。そこで見た光景が、ちょっと頭に残っている。女性たちがお茶を配っていた。ペットボトルのお茶も別にあるのに、煎茶を入れて席まで運ぶ。会議には加わらない。近所のゆうきさんによれば、数年前まで女性は会食の席自体がなかったという。良い悪いじゃなくて、「2026年4月のこの地区では、そういうことがあった」という記録として残しておきたい話。都会育ちの妻に話したら、すごく驚いていた。そのギャップも含めて、記録。ハウスに戻ると県の普及員・もてぎさんが来ていて、セダムの様子を一緒に確認。エリンギウムの苗を増やしたい話もした。Yハウスでは土起こし前の散水作業。黄色い花が顔を出し始めている。小ネギみたいな芽も伸びてきた。「1人だと疲れちゃった」と正直に言える日が、案外いい日だったりする。

決断

決断

Apr 4, 2026 06:04 なかじままさひろ

四月の曇り空の下、アルケミラのハウスを開け、わずかに換気の戸を開ける。晴れ間が差し込んで苗が蒸し焼きになることを防ぐための、ほんの小さな隙間だ。昨日は病気疑いのセダムを廃棄し、路地から掘り上げた健康な株をハウスへと補充した。その作業のなかで中島が気づいたのは、妻の掘り上げの腕前だった。手際よく苗を引き抜いていく姿に、「掘り師」という呼び名が自然と生まれた。今日は畑を休む。娘がバレエ教室に通い始めた。その様子を見たい、という単純な気持ちと、家族で時間を使いたいという意志が、今日の路地作業を括弧に入れた。決断とは切り捨てることだ、とどこかで誰かが言っていた。畑を進めたい気持ちと、仕事を口実に家族の時間を避けることへの自戒が、中島の中で静かにぶつかった。農業をしていると、手を動かしている時間だけが真っ当な仕事だという錯覚に陥りやすい。だがお金が発生しないことは、仕事でないことを意味しない。子を産み、育て、毎日の暮らしを支えることは、それ自体が途方もない仕事だ。妻と娘を見ながら、中島はそのことをうまく言葉にできないまま、ただ感じている。

チェーンソーの音

チェーンソーの音

Apr 3, 2026 09:43

春の朝、Kのセダムハウスに入る。ハウス内の温度計は17度を指している。セダムにとってちょうどいい空気だ。気分は低い。それでも手は動く。昨日はおぎはら植物園へ行った。棚の前を歩いていると、フラワーファーム沓掛の沓掛さんと研修生の清水さんがいた。同じように苗を物色している。真剣な目をした人たちがほかにもたくさんいた。ガーデニング好きも、農家も、みんな同じ棚の前に立っていた。おぎはら植物園は、草花に関わる人間が自然と引き寄せられる場所なのかもしれない。持ち帰ったのは、梅もどきの小苗、レンゲショーマ、ヘリオプシスのサマーピンク、オルガノのヘレンハウゼン。梅もどきは前の地主さんの母が植えた木がすでに1本ある。そのそばに、もう1本添わせてやろうと思った。オルガノは、圃場にある既存の株と混ぜて切り花として提案できないか、という実験的な仕入れだ。新しい苗たちは施設育ちなので、外に出すのは5月ごろになりそうだ。いまはハウスの中で養生させている。どこかからチェーンソーの音がする。暮坂峠のあたりだろうか。赤岩へ下る道の木々にピンクのシールが貼られているのをずっと気にしていた。鍛冶屋敷の山を切り開いて、大型の太陽光発電が建設されるらしい。山が削られることへの複雑な気持ちはある。ただ、林道が整備されるなら、この地で農業を続けるための道にもなる。複雑さの中に、かすかな希望が混ざっている。ハウスとハウスの間で、アリウムのシュベルティとサマードラマが顔を出していた。妻が選んできた球根だ。7株のうち1株だけ元気がない。道路側から流れ込む水が当たる端の位置に植わっているものだ。平均的な土壌データには表れない、局所的な湿度の差がある。数字ではなく、目と手が教えてくれる情報だ。ハウスの二重構造の間に、草が侵入し始めている。保温のための空隙は、草にとっても居心地がいいらしい。片付けておかなければならない。

雨の中の設計図

雨の中の設計図

Apr 1, 2026 08:39

雨が屋根を叩いていた。それでも中島は録音を止めなかった。Yのハウスで冠水をして、ホースを点検して、除草剤を撒いた。チューブがあと3Mだけ足りない。土壌診断の結果はまだ来ない。何もかもが「もう少し待て」と言っている。ずっと頭の中で宙ぶらりんだったYハウスの使い方が、今日ようやく声になった。4分割、防草シートマルチ、なるべく立ち寄らない設計。落ち込んだ日に誰とも顔を合わせずに済む畑というのも、ひとつの農法だと気づいた。明日は家族とおぎはら植物園へ行く。春休みの娘と、視察と、同じ道を走る。声に出したら、少し頭が落ち着いた。それだけで今日は十分だったかもしれない。

仮説をほどく地衣類

仮説をほどく地衣類

Mar 31, 2026 07:23

雨の朝、図書館で借りてきた苔図鑑をめくっていたら、ウメノキゴケという名前が目に入った。SOxに敏感で、空気汚染の指標になる地衣類だという。ところがこの農地の周りには、それがべったりついた木が何本もある。以前から温めていた「SOx→カルシウム不足→カタツムリ減少→鳥が減る→山の畑はカルシウムを入れているのでカタツムリの楽園」という仮説が、一ページでほどけた。でも考えてみれば農業でも同じことは起きている。あの肥料が効いた、あの作業が正解だった——そう言いたくなる気持ちのそばに、天候・病害虫・台風・虫の移動という途方もない変数の束が静かに立っている。4年の経験ではまだ見えていないものが、おそらくある。今日は雨。ハウスでは顔色の悪いセダムを何株か引き抜いた。路地には桜の開花前倒しを見越してアブラムシ用の粒剤を早めに巻いた。疑いながら、面白がりながら、続けていく。

露地の作業始めました

露地の作業始めました

Mar 30, 2026 06:45

今日から露地作業を本格的に始めると決めた。G畑のサンゴミズキを掘り上げてK畑の端へ移す。ディアボロの草払い・剪定・機械入れ。土が湿っているから今日のところはセダムの草取りに充てる。段取りを頭の中で組み立てながら、A作業場を出て軽トラを走らせた。戸高君の畑の横を通りかかると、彼がもう作業をしていた。ヤッホー、と声をかけて通り過ぎる。それだけのことだが、不思議とエンジンがかかる。やる気のない朝でも、同じ生業の人間が畑にいるというだけで、自分も立てるような気がする。コミュニティとか連帯とか、そういう大げさな言葉ではなく、ただ「隣で誰かがやっている」という事実が、静かに背中を押す。1十二の社を過ぎるとき、寺田さんに教わった話を思い出した。毎月12日は山に入らない——山仕事の名残で、そう決まっていたのだという。花農家は山仕事じゃないから大丈夫、と自分を納得させながら、その土地の記憶の深さにちょっとだけ立ち止まる。峠のてっぺんで一瞬、将来の作業場・自宅建設予定地が見えた。頭を出せばちょうど綺麗に見える、といつも思う。まだ予定地だが、そこに立つ建物を想像することは、今日の作業を続ける理由の一つになっている。そして今日から、妻が畑に本格参加する。振り回り上げを終えてK畑へ向かう道で、それをさらりと告げた。植え付けと草取り。二人で始める、新しいリズム。

作業場の模様替えをした

作業場の模様替えをした

Mar 28, 2026 06:34

四年か五年、そのままにしておいた机があった。部屋の真ん中に島のように浮かんで、花を置く場所はどこにもなかった。それに気づいていながら、ずっとそのままにしていた。今日、中島は机を壁に寄せた。たったそれだけのことで、作業場が広くなった。夕暮れ前の見回りで、イノシシの痕跡。マウンテンミントの畝が掘り起こされていた。獣の論理は単純で、腹が減れば掘る。そこに何年かけて植えたかは関係ない。昨日は花の部会の総会だった。始まる前は億劫だった。しかし焼肉とビールは正直で、口に入れた瞬間に体が正解を出した。楽しかった。それでいい。Kのハウスの周りには、地主さんのお母さんが遺した花木がある。クレマチス、梅もどき、西側のサラサドウダン。誰かが愛でた記憶が、今も土に根を張っている。栗の木に熊棚ができていた。熊を呼ぶ前に切らなければならない。ただ切るのは惜しい。栗は腐りにくい木だ。誰かの手に渡る形があるといいな、と思いながら中島は軽トラを走らせた。

酸性雨という言葉どこ行ったの

酸性雨という言葉どこ行ったの

Mar 27, 2026 05:40

昨晩、AIと話していて気づいたことがある。「酸性雨」という言葉を、最近まったく聞かなくなっていた。調べてみると、雨そのものが問題ではなくなったのではなく、問題の形が変わっていた。NOxやSOxといった大気汚染物質が、霧となって山の中腹に漂い、そこに住むカタツムリの殻の形成を妨げている。殻のないカタツムリを食べる小鳥たちは、卵に必要なカルシウムを摂れなくなる。酸性雨は「雨」ではなく「霧」として、静かに生態系を侵食し続けていた。そこで中島は自分の畑へと思考を下ろしてみた。Kの畑には、大きなものから小さなものまで、とにかくカタツムリが多い。山の生態系が壊れているなら、なぜ畑はこれほど賑やかなのか。仮説は一つしかない。炭酸カルシウムの施用だ。土壌改良のために中島が撒き続けてきたカルシウムが、畑をカタツムリの楽園に変えていたのかもしれない。農家の手が、意図せず生き物の避難所をつくっていた。次の問いが浮かんだ。鳥の声を聞き分けられるようになれば、カルシウムを求めて畑に降りてくる小鳥が見えるようになるかもしれない。視野が、また一つ広がった気がする。今日の気分は重い(スコア2)。午後に六合地区の花の部会の総会があり、その後は飲み会がある。みんな顔見知りのはずなのに、人のいる場に向かうことへの怖さがある。それでも、行く。

雨の畑、生き残りの話

雨の畑、生き残りの話

Mar 26, 2026 08:36

雨の朝、中島は畑へ出た。娘が胃腸炎で、体調が心配だったが、それでも長靴を履いた。路地のセダムが、親指ほどの芽を出していた。冬を越えたというより、冬をやり過ごした、という顔をしていた。株間の整理を続けている。2条の千鳥植えを、1条へ。隣の株とぶつかり、真ん中が蒸れる——その問題を、少しずつ解いていく。33メートルの畝に100株。防草シートで左右を挟んで、セダムだけがぎゅうぎゅうと列をなす畑を、まだ頭の中で育てている。ハウスの間に、水仙が顔を出していた。去年の秋、前職の友人・こまっちゃんが3日間泊まりにきて、その宿代と飯代のかわりに植えてくれたものだ。前の家主の母が残した球根。畑の端に、ラムズイヤーがいた。移植の際に捨てたはずの、ボロボロの株だった。土に埋まったまま、根を張っていた。捨てられたものが、生き残っていた。1人で喋り続けていると、心が揺れる。大きくなったり、定まらなくなったりする。その揺れを測るために、山ログはある——と、寒さで指が痛くなりながら、中島は思った。

桃山商事

桃山商事

コミュニケーション、男性性、恋愛、人間関係、ジェンダー、ケア、孤独、性欲、会社、友情、老い……メンバーがその時々で気になったテーマを1つ設定して、モヤモヤを言語化していくNEOな座談Podcastです。2011〜2016年「二軍ラジオ」(ApplePodcast)、2017〜2024年「恋愛よももやまばなし」(ニコ生→Podcast)を配信していました。清田隆之(文筆業)、森田(会社員)、ワッコ(会社員)、さとう(会社員)の4人でお届けします。

上坂あゆ美の「私より先に丁寧に暮らすな」

上坂あゆ美の「私より先に丁寧に暮らすな」

歌人・エッセイストの上坂あゆ美(+京都の僧侶・鵜飼ヨシキ)による雑談配信。人生の呪いからファミレスの好きなメニューの話まで幅広くお届け。 【初めての方におすすめ回】 #30 お菓子が人間だったら誰と付き合いたいか真剣に考える https://open.spotify.com/episode/751EzuNXjpgP2i53P7OtX7?si=XxN2eddURsas_JWE6KFu-A #163 恋愛ってマーージでクソだと思っている人の話 https://open.spotify.com/episode/1WgeglhRT5GQfqzkBO2bNF?si=1l0b2OBlTJq ▼ご意見ご感想は #よりすな ▼お悩みや質問はコチラまで https://forms.gle/1bqryhYcDWt334jZ7 ▼番組公式SNS https://x.com/yori_suna ▼番組へのお問い合わせはコチラまで yorisuna24@gmail.com ▼ポッドキャストの書き起こしサービス「LISTEN」はこちら https://listen.style/p/yorisuna?Egq5AoBB

jkondoの朝の散歩

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ポッドキャストプラットフォーム「LISTEN」や、GPSトラッキングサービス「IBUKI」、物件メディア「物件ファン」、京都の宿とコワーキング施設「UNKNOWN KYOTO」を運営する近藤淳也(jkondo)が、朝の散歩をしたりしながら、日々の出来事や考えたことを語ります。

近藤淳也のアンノウンラジオ

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株式会社はてな創業者であり現在もITの第一線で働く近藤淳也が、京都の宿UNKNOWN KYOTOにやって来る「好きなことを仕事にしている人」を深堀りすることで、世の中の多様な仕事やキャリア、生き方・働き方を「リアルな実例」として紐解いていきます。 . 【ホスト:近藤淳也】 株式会社OND代表取締役社長、株式会社はてな取締役、UNKNOWN KYOTO支配人、NPO法人滋賀一周トレイル代表理事、トレイルランナー。 2001年に「はてなブログ」「はてなブックマーク」などを運営する株式会社はてなを創業、2011年にマザーズにて上場。その後2017年に株式会社ONDを設立し、現在もITの第一線で働く。 株式会社OND: https://ond-inc.com/ . 【UNKNOWN KYOTO】 築100年を超える元遊郭建築を改装し、仕事もできて暮らせる宿に。コワーキングやオフィスを併設することで、宿泊として来られる方と京都を拠点に働く方が交わる場所になっています。 1泊の観光目的の利用だけではなく、中長期滞在される方にも好評いただいています。 web: https://unknown.kyoto/ . こちらから本文を読んだりコメントが書けます! https://listen.style/p/unknownradio

IBUKI STATION

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ここはアウトドア向けGPSトラッキング「IBUKI」にまつわる人々が集まる場所。 トレイルラン、登山、冒険、ランニング、自転車、ロゲイニング、、 スタイルは数あれど、共通しているのは自然を楽しみ、そして人とのつながりも楽しむ姿勢。 自然を目一杯楽しみ、苦しみながら、人と接する喜びにも気付く。 アウトドアを満喫するみなさんが、ほっとできるIBUKI STATIONです。 IBUKI https://ibuki.run/ 近藤淳也 IBUKIを提供する株式会社OND代表。ポッドキャストプラットフォーム「LISTEN」も展開 桑原佑輔 OND所属。IBUKI事業担当営業・テクニカルディレクター

歴史を面白く学ぶコテンラジオ (COTEN RADIO)

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歴史を愛し、歴史を知りすぎてしまった歴史GEEK2人と圧倒的歴史弱者がお届けする歴史インターネットラジオです。 歴史というレンズを通して「人間とは何か」「私たち現代人の抱える悩み」「世の中の流れ」を痛快に読み解いていく!? 笑いあり、涙ありの新感覚・歴史キュレーションプログラム! ☆Apple & Spotify Podcast 部門別ランキング1位獲得! ☆ジャパンポッドキャストアワード2019 大賞&Spotify賞 ダブル受賞! ※正式名称は「古典ラジオ」ではなく「コテンラジオ」です ーーー COTEN RADIO is an entertainment radio talk program for history , published by the crazy history geeks group "COTEN" in Japan. ☆Apple & Spotify Podcast in Japan category ranking No.1 ! ☆Japan Podcast Awards 2019 Grand prize and Spotify prize !