大山
よろしくお願いします。
ひとし
居場所ってなんですか?
大山
ひとことで言ってしまうと、こども・若者が「居たい・行きたい・やってみたい」と思う場所です。
はるか
「居たい・行きたい・やってみたい」
大山
場所って言っちゃったんですけど、空間に限った話じゃなくて、
例えばすごく信頼ができる人がいて、それは大人かもしれないですし、
同世代の友達かもしれないですし、
そういう、「この人といっしょにいるときだったらホッとできるな」っていう人がいたら、
その人の存在自体が居場所になっていくとかっていうことも考えられますし。
あるいは例えば、とにかく「三度の飯より野球が好きで」みたいな子が、
「バットとボールがあれば、なにもいらない」とか言ったら、
もしかしたら場所とかですらなくて、
今度はバットとボールがある場所がその子にとっては居場所になるかもしれない。
そういうようなかたちで、いわゆる空間的な場所だけではなくて、
人との関係性とか、あるいは体験そのものとか、
あらゆるものが居場所になっていく可能性をもっているっていうふうに考えています。
ひとし
だいぶもう認識がアップデートされました。
はるか
アップデートされました。
その居場所って、例えば英語でいうと、とかあったりするんですか?海外の。
大山
いい質問をいただいたなと思いますけれども、
はるか
ありがとうございます。
大山
これすごく難しいんです。
はるか
やっぱりそうなんですね。
大山
居場所っていうものが、そもそもいま、国としてはちょうど1年ちょっと前ですね、
令和5年の12月に閣議決定をされた『こどもの居場所づくりに関する指針』というものがありまして、
これをもとに居場所づくりを進めていくんだっていうことになっているんですけれども、
こういうふうに政府の文言になったっていうことは、
対外的に英語化しなきゃいけない瞬間が来るということなんですが、
「これどうやって英語にする?」っていうのをすごく悩ましく思っていて、
結局アルファベットの「IBASHO」になっています。
はるか
日本独特、特有の概念になっているんですね。
大山
そのあとにカッコつきで「こういう場所だよ」って説明を加えてはいるんですけれども、
一単語でポンと訳すむのがすごく難しいっていうのが我々としても、いま認識をしているところです。
はるか
そもそもこの、こども家庭庁さんとして居場所づくりをしようってなった背景とかは、
どんな背景があるんですか?
大山
そうですね。政策的な話としては、こども家庭庁の設立の前から文書が出てきていて、
居場所づくりしっかりしなきゃねっていう話なんかは出てきてはいたんですけど、
そういうつまらない話じゃなくて、なんでそもそもっていうふうなことを考えると、
ひとことで言ってしまうと、こどもたちの居場所に対するニーズは
昔から変わらないと思っています。というのは、どんなこどもでも、どんな若者でも、
あるいは大人でもそうだと思うんですけど、どっかにやっぱり居場所が欲しい。
居場所があると心安らぐし安心できるしっていうのは、誰にとっても同じことですよね。
ひとし
「居たい・行きたい・やってみたい」ですもんね。
大山
そうです。
ひとし
それは欲しいですもんね。
大山
そういう場所を持てるかどうかっていう環境が、だいぶ社会的に変わってきているんじゃないかっていうふうに言われてまして、
大きく、それこそさっき言った指針の中で、いま指針としてわざわざ策定をする必要が出てきた理由っていうのが3つ指摘されています。
1つは、社会の環境が変化してきていて、昔であったら例えばわざわざ作らなくても、
「公園に行って遊ぼうぜ」とか、ドラえもんとかの世界ですね。
「あそこの空き地で野球しようぜ」みたいなことがあったりして、
意識的にそういう場を作らなくても、ある種、社会の隙間のようなところなんかも含めて、
こどもたちが自分の居場所を見つける余地がいっぱいあったし、
あるいはそれこそ、例えば駄菓子屋のおっちゃんとかが、
なんかあったかく見守ってくれつつ、ちょっと口汚く、
「いや。ああでもねぇ、こうでもねぇ」ってやりとりをしていくっていうと、
「あのおっちゃんのとこに行って10円で駄菓子買いながら、
1時間くらいだべってようぜ」みたいなことが起こったりとか、
そういうこともやっぱり大事な居場所だったんですよね。
ただそういう、何もしなくても当たり前のようにあったこどもたちの居場所、
ある種の社会の隙間のようなものかもしれないですけど、
そういったものがどんどん失われてきてしまっていて、
意識的に作ってあげる必要が出てきているのが、現代社会じゃないかと。
これが1つ目の理由です。
はるか
それが減ってきたっていうのは、なんでなんですかね。
大山
なかなかそれも難しいですよね。
理由付けっていうとなかなか難しいですけれども、
ただ実際にそういう調査をされている先生もいらっしゃって、
そういう調査でいうと、その先生は例えば神奈川県とかあっちの方で調査をされていると、
本当にこの40年50年ちょっと長いスパンで見ていきますけれども、
こどもたちが自由に遊べていたそういうスペース、空間っていうのは、
本当にその期間の間で、ものすごい急に減ってきていて、
社会全体が効率化を進めているっていうことも影響しているのかもしれないですけれども、
例えば昔であれば道端で、道にちょっと「ケンケンパ」とかチョークで書いてやって遊んでいたりとか、
縄跳びで遊んでいたりとか、そういったことも当たり前に行われていましたけど、
いまそれやっていると「危ないだろう」って言われたりしますよね。
はるか
それもあるのか。
大山
道路でキャッチボールをしているなんていう光景もめっきり減ったなというふうに思いますし。
ということを考えたときに、やっぱりその余白の部分が減ってきているっていうのは、
やっぱり1つの理由なんだろうなというふうに思います。
2つ目が、厳しい状況に置かれているこども・若者の数もまた一方で増えてきていると。
はるか
厳しい状況。
大山
これ単純な数値の話としてもそうなんですけど、
例えば不登校生徒数がどうなっているのか、
児童虐待の相談件数がどうなっているのか、
若年のこども・若者の自殺者数がどうなっているのか、
こういったものって数字としては基本的に、
残念ながら右肩上がりが続いていたりするものが多い状況になっています。
こういういろんな要因があって、
生きづらさというようなものを感じるようなこども・若者が増えてしまっている。
もっと言うと、そういう生きづらさを感じるこども・若者ほど、
居場所が本来必要であるし、
そういう繋がりによって、ホッとすることによって、
そういうしんどさから一旦抜け出るっていうことに繋がっていくはずなんだけれども、
そういう空間が持てなくなっている、場が持てなくなっている。
もっというと、しんどくなればなるほど
繋がるのもまたしんどくなっていく。
はるか
負のスパイラルがおきるんですね。
大山
そうなんですね。
っていう状況が発生しているんじゃないかと。
だからニーズ必要性って意味では、
むしろ上がっているって言えるような面も出てきている。
で、3つ目が多様性がどんどん増えてきている。
外国にルーツがあるお子さんなんかも、いますごく増えてきていますし、
あとはいわゆるLGBTみたいな話なんかも含めて、
こども・若者の持っている価値観っていうのも、
一人一人全然違うよねっていうふうにいわれる社会になってきていますし、
実際そうなってるんだろうなっていうふうに思います。
そういったときに、もともとだったら、
例えば「ここが君たちの居場所になる場所だよ」みたいなことを、
1個ボンと作ってやったときに、
なんとなくみんなが同じような目線を持っていて、
その後の人生のイメージなんかも
同じようなイメージを持ち得ているような社会だったら、
ある程度同質的な空間でも、
ある程度みんな納得して適合していくっていうことができたのかもしれないですけど、
そのときも実はもうちょっと多様性あったような気はするんですけれども、
ただいまは社会的にももっともっと多様であるべきだし、
「多様性って必要だし重要だよね」っていうことを言われる社会になってきている中で、
こどもたち、若者たちにも、
「それぞれそのこどもにあった適合した居場所、
その子が求める居場所ってなんなんだろうか」ということを、
1個ボンと大きなものを作るだけじゃなくて、
多種多様に作っていくことが求められる社会になってきているというふうに考えていまして、
そうなってくるとやっぱり意識的に居場所っていうものを作りやすい、
作るっていうのも政府とか自治体とか行政が何か作ってやるっていう、
「ここにおいで」みたいなことを言うって話ではなくて、
本当にこども・若者もそこに関わりながら、
地域の大人の皆さんにも関わっていただきながら、
本当に気軽なレベルからでいいので、
さっき言った駄菓子屋のおじちゃんみたいなレベルからで全然構わないので、
こどもたちが安心して居ることができる場や関係性、
そういったものを地域社会の中に多種多様に作りやすい環境をやっぱり作っていく必要が出てきているんじゃないかっていうのが、
居場所作りとして、いま我々が考えている大きな流れ、方向性になっています。
はるか
なるほど。
その居場所っていうのを新しく作る方向に進んでいくのか、
あるいは、いまある学校とかであったりとか、
家庭っていうのを居やすくするためにアップデートしていくのかみたいな、
いろいろな方向があると思うんですけど、
大山
であると同時に、いまあるものだけじゃなくて新しく立ち上げていく。
いま、例えばこども食堂なんかすごい急に増えてますけど、全国で。
ああいったものも新しく地域の中で立ち上げていただくとか、
そういった取り組みもどんどん後押しをしていって、
量も質もどっちも改善を続けていくっていうことが居場所づくりにおいては必要だなっていうふうに思ってます。
ひとし
その量を増やしていこうとかってなったときに、
こども家庭庁さんとしては、そこの量を増やすこととか質を上げることに、どう関わっていこうっていうスタンスなんですか?
大山
まず前提としてどんな居場所が必要かっていうのは、
まず何よりもこども・若者の視点が大事になってきますし、
あとはその地域性ってすごく大きく影響するんですよね。
それが例えばじゃあ、都市部でビルがいっぱい並んでいるような
この霞が関のど真ん中で居場所を作るのか、
それとももうちょっと地方都市とか、
あるいは農村、漁村といわれるような地域になるのかとか、
それによってもぜんぜん求められるものって変わってくると思っています。
だからその地域のいる人たち、こども・若者自身も含めて、
自分たちで何が必要なんだろうかっていうことを考えて、
それを実践して作っていくことができるような、
その取り組みを後押ししてお手伝いしていくっていうのが、
国としてはまずやるべきことで、
「こういうものを作りなさい」みたいなことを、
一律の決まりきった箱物みたいなかたちで提示して、
「これをやってくださいね」っていうふうに言うことは
できるだけ避けたいなっていうのが、我々のいま進めているところになってます。
で、そのうえでですね、「何してるの?」っていう話になるんですけれども、
1つは『こどもの居場所づくり支援体制強化事業』っていう、
要はこれ何かっていうと、
どういう居場所を作っていくかっていうときに、
この事業は3つの取り組みをやってまして、
1つはその地域のことを知らないと、そもそも何していいかわからないよねと。
「どこにどんな資源があるの?」
「学校はどんな様子なの?」
「公民館とか、あるいは地域、そもそも地域の中で、
そういったことに関心を持ってくれている住民の方って、
どこにどんなふうにいるの?」
「すでに取り組んでいる人は何をやっているの?」
っていうこと。
あとは、「その地域に住んでいるこども・若者っていうのは、
どんな子たちで、いま何を感じていて、
どこにニーズがあるの?」っていうこと。
こういったことをまず知らないと、
ちゃんと意味のある居場所づくりの取り組みっていうのは
なかなか進められないだろうと思ってます。
だからその調査をするための
費用助成ですね、これは。
一応対象としては市町村レベルとか、
自治体レベルで手を挙げていただくことになるんですけれども、
「市とか市町村とかの担当の方で、
もうちょっと地域のことをちゃんと調べて、
その情報をその地域住民とか、
これから取り組もうと思っている人にも公開して
いろいろと進めていこうと思っているんですっていうふうにやってくださいね」
っていうことをお願いをしていて、
それをやっていただくときには、
調査にかかる費用っていうのは、
国である程度もちますよというような、
そういう仕組みを作っています。
大山
2つ目が、どんなにいい場所があっても
そもそもこどもたちが知らないとつながれないし、
意味がないということなので、
各自治体には、「その地域でこどもたちの居場所づくりっていうのが
どういうふうに取り組まれているんだろうかということは、
情報として取りまとめて、
こどもたちにも届くように発信をしてくださいね」
っていうふうにお願いをしています。
これについても、いわゆる広報とかですね、
居場所マップみたいな感じで作っていただくとか、
あるいはポータルサイトみたいな感じで作っていただくとか、
方法はやりやすい方法、意味のある方法で
それぞれ工夫していただければと思うんですけれども、
そういう広報活動とかするための費用っていうのも
国がある程度助成をして出しますよっていう、
そういう仕組みを作っています。
3つ目が、一般的にモデル事業っていわれるものですけれども、
「居場所づくり、どういうふうにやればいいのか分からない」っていうのは、
やっぱりそういう方が多いと思うんですけど、
すごく先進的な事例で、
「こういうことをとりあえずやってみたいんだけど」
っていうふうに手を挙げていただくところに対して、
ぜひちょっと1回やってみてください。
その部分のかかるお金っていうのは
国の方である程度もつので、
1回試しにやってみて、
その報告っていうのをしっかり上げていただいて、
「こういうおもしろいことをやっているところが、
実は日本でもどっかにあるんですよ」と。
「ぜひ参考にして、
これに続いていろいろやってみてください」っていう
情報公開をしていくっていう、
そういう取り組みの一環として、
モデル事業というものをやっています。
ひとし
若者が「どういう居場所、欲しいよね」っていう調査の費用を負担していたり、
広報をやっていたり、
モデル事業を推進していたり。
大山
やっています。
あともう1個、じつは事業がありまして、
こどもの居場所づくりのコーディネーターを各地で
配置してもらおうということをしています。
要するに居場所っていうのも、
居場所づくりやっていたり、
関心を持っていただいているっていう人が
地域の中に点在をしていても、
あんまりそこからの広がりっていうのが得られないっていうことが
往々にしてあるんですけれども、
そういう人たちを横につないでいって、
この地域そもそもどういう人がいて、
どういう取り組みをやっている人が、
例えば近くには実はいたんだみたいなことをつないでいって、
地域全体の取り組みにしていくっていう、
その音頭取りをしていただく方っていうのを、
『居場所づくりコーディネーター』っていうかたちで
配置をしていただこうと思っています。
そういう取り組みを、いましています。
はるか
いままで聞いて、居場所っていうのを
「居たい、行きたい、やってみたい」っていうことで、
すごくこどもたちにとって重要であるってことは
分かってきたんですけど、
まだイメージを持てていない部分も多くて。
大山さんが思う、
「この居場所おもしろいな」とか、
「いいな」って思ったとことか、
ありました?事例の中で。
大山
ありますね。
はるか
聞きたいです、ぜひ。
思い浮かんだのでいいので。
大山
例えばですね、
世田谷区はけっこうおもしろい取り組みをやっているな
っていうふうに思っています。
で、1つは『青少年交流センター』っていうのを
いま、区内3館作っていますけれども、
ここは小・中・高、
まぁ、中学生・高校生ぐらいが多い施設になるんですけれども、
あとその上の若者世代まで
ずっと居続けることができる。
何をするでもなくて居ることができて、
そこから街に繋がっていくっていうこともできるような
仕組みをいっぱい作っているというのもありますし、
あともう1個、非常に世田谷区がおもしろいなって思うのは、
こどもの居場所づくり『フローター』っていう制度を
作っているんですね、あそこ独自で。
はるか
フローター。
大山
我々がやろうと思っているコーディネーターとかなり近い概念で、
うちとはちょっと別枠でオリジナルの事業として
世田谷区さんやってますけれども、
児童館とかを拠点にしながら、
本当に地域のいろんなところ、
さっき言った駄菓子屋のおっちゃんレベルから
こどもたちがちょっといる可能性があるところに
本当にふらーっと職員が出ていって、
顔と名前を繋いでっていうことをずっと繰り返していると、
いつの間にか地域全体がだんだんワンチームになって
こどもに向き合って、こどものことを見守る体制を
作っていこうみたいなことがだんだんできてくるっていう、
そういう地域全体にだんだん波及していくような、
そういう場づくりを進めるための、
すごく大事な先進事例を示していただいたな
っていうふうに思っています。
あとはそうですね、できればうちの事業を
使っていただいたところをご紹介したいな。
ひとし
そうか、いまのは普通に知ってるっていう。
大山
そう知ってるし、わたしがもともと出身だから知ってるし
おもしろいところなんですけど、うちの事業を
残念ながら使っていただいているところではないので。
ひとし
そのこども家庭庁さんが、うちを使っているって言っている表現というのは
何を使っているっていう。
大山
先ほどの支援体制強化事業にこれまでにもお申し込みいただいて、
その資金を使いながら活動していただいているので、
そうすると「こんなことやったよ」っていう成果の報告が
うちにも上がってくるので、
情報としてうちらとしてもいただいているっていう
そういう状況ですね。
ひとし
なるほど。
大山
そうですね、うちの事業に関わっていただいたところで言うと、
例えば鳥取県の鳥取市さんなんかは
いわゆる『こども食堂』を非常に幅広に
使っていただいていて、
すごくおもしろい取り組みをしているんですよね。
こども食堂って言い方はそこはもうしなくて
『地域食堂』っていうんですよね。
で、それはこどもだけじゃなくて
こどものための場所っていうふうな名目は
もちろんあっていいし、それは大事なことなんだけれども
そうすると結局、地域のおっちゃん・おばちゃんも含めて
みんないろんな人がわーって集まってきて
地域のコミュニティの拠点になっていくっていう。
それを大事にしていて
だからどうしてもこども食堂って言うと
「貧困状態にあるこどもたちのための場所だよね」とか
そういうイメージ、いまだに強いといえば強いんですけれども、
そうじゃなくて、誰でも来ていいし
来た人たちがみんなが顔つなぎできて
友達仲間になっていく
そういう場所としてこども食堂、地域食堂というのを
運用していくんだっていうのを
大山
それは非常におもしろい意見だなと思って伺っていました。
はるか
ありがとうございます。
僕も学校に行かない子たちの学びを作っていくうえで
居場所っていうものが
いろんな意見があるなっていうふうに感じていて。
例えば本来だったら
自分で努力して頑張っていた、
ある程度の負荷を乗り越えながら頑張っていたこどもたちも、
短期的に「こっちのほうが楽しそうだな」と思って
その居場所というものを利用する。
で、その「居場所というところに居ることによって
頑張ろうとしなくなるんじゃないかな」
とかっていった、批判的な意見もあったりするんですよね。
その辺、どういうふうにお考えですか?
ひとし
批判的な意見があえてあるとしたら、
例えば「学校に保健室がなかったら、
保健室登校なんて存在しないじゃん」みたいな、
例えば「社会にそういう居心地の良すぎる居場所があるから
頑張ろうとする場所に向かうエネルギーがなくなるんじゃないか」みたいな、
たぶんそういう懸念が、意見としては出ている。
はるか
教育現場でけっこう多くて。
ひとし
それに対してどう整理しているのかとか、気になるなと思っています。
大山
厳密な意味での整理は
居場所の現場ごとにやっていることもあると思うので、
居場所としての統一見解みたいなものはあるわけでは、たぶんないとは思うんですけれども、
大事なことは、その場所を本当に自分にとって居心地がいい場所にしていくためには
こども・若者自身の関わり、参画も本来必要で
誰かに1から10まで全部用意してもらった居場所って
これ、わたしの経験則でもあるんですけど
じつは案外、居心地よくないんですよね。
ただもう一方で、
例えば、対人関係とかにすごくしんどくなって疲れ切っていて、
いまはとりあえずここだったら居ることを許してもらえるし、
何かを心配することなく一旦ここで心を休めることができるっていう
そういう空間を必要としているこどもも間違いなくいて、
そういうときに、とにかくまずは場を用意してあげて
「ここにいていいんだよ」って言ってあげるっていうことは
意味があることなんだろうなとも思ってます。
ただそのうえで、だんだんだんだん回復していく中で
あるいは場所の性質にもよるんですけれども、
「ちょっといま、しんどいな」っていう子もいれば
そうじゃなくて「いろんなことやってみよう」ってしてる子もいる。
そういう子たちがいい意味でも混ざり合っていく中で
横目でちょっと見ているなんてことはけっこう、
わたしも居場所の運営の現場にいたこともあるんですけれども、
やっぱりそういうのが混ざっていくってけっこう大事なことだなと思っていて。
一番、楽しそうにしてるこどもって
自分でそれこそ遊んでる子なんですよね。
主体的に「これやってみたらいいんじゃない」
「これできたらおもしろいよね」って言って
「とりあえずやってみようぜ」ってやってるやつが一番楽しそうにしてて、
それを横目で見てるやつが
「ああ、いいな。僕もあんなことちょっとやってみたいな。
あれできるかな?」みたいなことをやっていくっていう、
そういう連鎖が起こり得るっていうのはとても大事なことだなって思うので、
そういう意味では居心地のいい場所を全部用意してあげていることによって
次の頑張ろうっていう気にならないんじゃないかっていうのは、
わたしはそういうふうに確かにご指摘があることは知ってますし、
分からないではないんですけれども、
でもむしろそういう居場所があることによって
「あれもできるんじゃない?これもできるんじゃない?」っていうのを
仲間の背中を見ながら学んでいくっていうことによって
むしろ次の一歩、次の一歩っていうことを踏み出しやすくなる場になっていくのも
大事なことだなっていうふうに思っています。
はるか
「やってみたい」って思えるまでのステップが相当重要だなって思って。
例えば「ここに居たい」とかだったら、
こどもたちが好きなゲームとか
あとバーチャル空間とかですごく楽しめると思うんですけど、
一歩そこから「やってみたい」であったりとか
さらには「外に出て自分のしたいことをチャレンジしたい」
とかって思うためのきっかけとか種まきがすごく重要だなと思うんですけど、
そういったのをうまくやってるなと思った場所とかあったりします?
大山
そうですね。
例えば高校生とかの支援をしながら
街のコミュニティカフェみたいな感じでやってるところに行ったことがあって、
あそこすごいおもしろかったんですよね。
高校生とかそのぐらいの世代のこどもたちに対しては
基本はカフェ運営なので、
その地域の大人なんかも当たり前のように入ってきてるんですよ。
なんだけど、カフェだから大人とかは入れば基本的には何か注文するんだよね。
だいたい入って席は占拠したはいいけど
何も注文しないお客さんっていうのは基本的にNGなわけで、
それはそこも同じなんですけど、
高校生はそれが許されるんですよね。
本当にお金を使わずに
注文するとしたら飲み物とか取ってきてもいいんですよ。
だけどそれをしなくてもいいし、
コンセントとかWi-Fiも使ってもいいし、
本当にたまり場にして好きに使ってていいよ、と。
ただ同じ空間に街の大人も、それこそお茶を飲みに来ていたりしていて。
そこでワイワイ話をしてるときに、
スタッフがいろいろ関わって
つながるきっかけは作るようにしてるんですけど
つながるのを強要するわけではなくて。
出会っていく中で
「じゃあこういうことができそうだね」とか「おもしろそうだね」っていうのを
できるだけ拾い上げていく。
その実現に地域の大人が気がつくと巻き込まれていくみたいな
そういう仕組みづくりをしてるところがあって、
あれは非常におもしろかったですね。
例えば、高校生がその街がちょっと地方都市の方で、いわゆる
「映えスポットが少ないから、
映えスポットとか作りたいよね」っていうと、
気がつくと街の電気屋のおっちゃんが巻き込まれて
街中イルミネーションしながら写真を撮りまくる企画を作ったりとか、
なんかそういうふうにいろんな人を巻き込んでいくのを
自然とできるように設計されてる空間っていうのは
やっぱり非常におもしろいなっていうふうに思いますね。
ひとし
これまでも、こども家庭庁ができる前も
そういう居場所への取り組みとかはあったんですか?
大山
ありましたね。
ひとし
そっからはどう変わったとか聞けると
理解が深まりそうだなと思ったんですけど、
どうですか?
大山
どうなんでしょうね。
どうなんでしょうねっていうのは、
そもそも、「こども・若者にとって居場所が必要だよね」っていうのは、
時代を問わず、これまでもずっと同じことだったんですよね。
居場所っていう言葉自体はむしろ1990年ぐらいから
ずっと言われ続けてきている言葉でもあるとされてまして、
そういったことを考えた時に、むしろ国の施策として
この2年ぐらいでようやくある程度固まってきたっていうのは
かなり後発なんだろうなとも思ってます。
民間ですでに動いていただいている方っていうのが
いっぱいいた状況っていうのは間違いがないんだろうなと思っていて、
先ほどから触れているような事例っていうのはわりとそういう
先行してすでにやっていただいている事例が
けっこう多くあるのかなっていうふうに思っています。
ただそのうえでいうと、既存のものを磨いていくっていうことと
新しく増やすっていうのを両輪でやっていくんだっていう話をしましたけど、
磨くっていうところについてはまたしっかり考えなきゃいけないし、
いま我々としても取り組みをどうしようか、って考えているところですけど、
これまで以上に増やしていくっていうところについては
支援体制強化事業とか、そういったものを使いながら
少しずつでも取り組んでいただいているのかなっていうふうに思いますし、
あとは居場所づくりっていうのがさっき言ったように
地域全体で多種多様に取り組んでいただくっていうことを目指すとなると、
「そういったことにこれまで関心なかったよ」とか、そういった地域の方にも幅広に
「なんか居場所っていうものがあるらしい」
「居場所づくりっていうものを頑張っている人がいるらしい」っていうことを
まず知っていただくっていうところがとても大事だなと思っていて、
ちょっとずつそれは浸透しているのかなっていうふうには思っています。
ひとし
確かに、居場所っていう言葉の認知が増えていってるっていうのは
体感としてもわかる気がします。
こども家庭庁さんの中で「居場所づくりって何されてるんですか?」って聞かれたときに
わかりやすく言うとしたら、なんになりますか?
大山
こども家庭庁としてですよね、それは。
それは「各地で居場所づくりに取り組もうと思っている人たちの、後押しをしてます」
っていう言い方になるのかなと思います。
ひとし
なるほど。
僕はイメージ、けっこうできる気はしますね。
一住民の見え方としては、かなり遠いですよね。
なので居場所を作ってるというよりは、居場所を作る人が
どうやったら適切に居場所を作っていけるかをサポートしてるっていう。
大山
そうですね。
ひとし
一歩先にいるみたいなイメージですよね。
大山
たぶん、二歩か三歩、先にいます。
っていうのは、居場所を地域で作りた、あの
住民の視点として考えると、
ひとし
なるほど。
大山
ちょっと見えにくいっていうのは、確かにそうかなと思います。
ひとし
すごい興味なんですけど、
かなり一住民の方々との距離があるって時に、
大山さんは自分の、こども家庭庁での行いで
やりがいを感じる瞬間とかどこにあるのかなっていうのが
すごい興味があるんですけど、どうですか?
大山
わたし、けっこうありがたいことに全国各地の現場とか
「国の方針を説明してよ」みたいなことを言っていただいたりとかした時に
わりと飛び回る時にお声掛けいただくポジションに、いまいるんですね。
この間も関西の方からお呼びがかかって、
居場所についていろいろ取り組んでいる方とか
関心がある方が集まる、そういうイベントをやるので、
そこで「国の政策とか、どういう考え方してるのっていうことを説明してよ」
って言われて
「わかりました、行きます‼」って喜んで行ったら
その地域で居場所に取り組んでいる、関心を持っている方が
100人規模でダーッといるところにお呼びいただいてて、
そうするとやっぱりそこで話をして、一方的に話すだけじゃなくて
既に取り組んでいる方、関心を持っている方と
その会場でやり取りをする機会なんかも、けっこう恵まれてるなって思ってます。
そうするとやっぱり、「何を求められてるのかな?」
「どういうことをやると本当にそういう方々の支えになることができるのかな?」
ということを考えるきっかけはもらえますし、
かなり率直なご意見とか、
「ありがとうございます」って言っていただけることもあるし
「もっとこうしてよ」って言われることもあるし、
それはそれでどちらもありがたいご意見だなというふうに思うんですけど、
そういったやり取りしているときに、やっぱりやりがいというか
無駄な仕事でやっぱないなっていうのは感じられるかなって思います。
ひとし
なるほど。
はるか
その中で、こどもたちの
「こういう居場所があったらやってみたいと思える」とかっていう声とかも
拾える仕組みがあったりするんですか?
大山
それは本当に、
1つはこのあとたぶん来る、『いけんひろば』なんかは
国の仕組みとしてはあると思うんですけれども、
ただ国とか行政レベルのそういう仕組みっていうのは
ちょっと硬すぎるところもあるのかなとちょっと思ってはいて、
これもまた現場の人と話をしてて
よく出てくる話だなと思ってますし
わたしも大事だなって思っているのは、
意見表明って確かにすごく大事なんです。
なんだけど意見表明って
じつはすごくハードルの高い話でもあって。
っていうのは、急にマイクを向けられて
「あなたの声を聞かせてください」
「考えを聞かせてください」って言われても、
大人にとってもなかなかしんどかったりするんですよね。
大抵の場合ってもっともっと本当に言語化もできない、
言葉にならない、もやもやした思いみたいなところから
スタートする場合がほとんどなんで、
意見表明って大事だけど
意見表明の前に本当は、意見形成をしっかり支援する必要があるんだと。
「いったい自分は何を思っているんだろうか?」
「なんかすごく最近イライラするけど
このイライラは一体何なんだろうか?」とか、あるいは
「ちょっと最近テンション上がって嬉しいな。
これはなんでいま、ちょっとこんなにワクワクしてるんだろうか?」とか、
それは本人がそもそも自覚というか
言語化がなかなかまだ難しかったりするところもいっぱいあるので、
それをどういうふうに読み解いていくのかっていうところが
とっても大事だなと思ってますし、
こどもの日常生活に伴走していく、
居場所っていうのが果たす役割って、本当はそこだと思うんですよね。
ひとし
意見をもてるっていうこと。
大山
そうそう、そうです。
居場所やってる知り合いの方で、
同じような視点で
「意見をこどもといっしょに紡ぐ」って言い方してた方がいて、
いい言葉だなと思ってよく使ってるんですけれども、
糸がごちゃごちゃしてるものを
ちょっとずつちゃんと紡ぎ出していく。
「僕の思いってこれだったんだな」っていうのを
その子がある種、自覚化し
必要に応じて言語化して伝えられるように練り上げていくところにも
しっかり伴走していくっていうのが
居場所の大きな役割のひとつなんだろうなっていうふうには思っています。