小さなちょんちょんから始まった一歩。 今日は生活の中にあった感動についてお話しします。
年少さんになって初めて保育園で集団生活を始めた、A子ちゃんのお話です。 A子ちゃんは好き嫌いが多く、食べることがあまり得意ではありませんでした。
入園の時、お母さんから、家でもあまりご飯を食べないんです。 お菓子は食べるんですけどね、と聞いていました。
年少さんになったばかりのA子ちゃんは、まだ3歳です。 新しい場所、新しい先生、初めて一緒に過ごす友達、毎日が初めてのことばかりです。
そんなA子ちゃんにとって、給食の時間もまた、慣れないことの一つだったのだと思います。
私たちの園では、主食は家から持ってきてもらっていました。 おにぎりの日もあれば、パンの日もあります。
A子ちゃんは、持ってきたご飯と、お味噌汁の汁は口にすることがありました。 でも、おかずはほとんど食べません。
特に野菜は苦手でした。 給食の時間になると、それまでの元気いっぱいな姿が、少しずつ静かになっていきました。
食べることが好きな子なら、楽しみに待つ時間かもしれません。 でも、A子ちゃんにとっては、苦手なものが目の前に並ぶ時間でした。
私たちは、どうしたらA子ちゃんが少しでも、安心して給食の時間を過ごせるだろう、と考えました。
おかずを小さくしてみたり、一口だけでもいいよ、と声をかけてみたりしました。
食べられそうな大きさにして、そっとお皿に置いてみることもありました。
それでもA子ちゃんは、口を開けようとしません。 食べ物を口元に持っていくと、顔をぷいっと横に向けます。
一口だけでもいいよ、そう言っても、A子ちゃんには、一口がとても大きなことだったのかもしれません。
私たちが食べてほしいと思う気持ちだけでは、A子ちゃんの心を動かすことはできませんでした。
そこで、クラスの先生たちと話し合いました。
一口食べることを目標にするのではなく、まずは食べ物に触れるところから始めてみよう。
口に入れなくてもいい。お箸でちょんと触れられたら、それで十分だよね。
私たちは、A子ちゃんが無理をせずにできることを一緒に考えました。
最初は、自分のお箸で苦手なおかずに触れてみること。
次は、そのお箸を自分で口元まで持っていくこと。
口に入らなくても、口元まで運べたら、それで大丈夫。
今日はここまでできたね。
そうやって、小さな一歩を大事にしていくことにしました。
そう言いながらもB子ちゃんは自分で口に運びました。
でも頑張って食べる。そう言ってパクッと食べたのです。
A子ちゃんはその様子をじっと見ていました。
私たち保育士もA子ちゃんがどうするのか静かに見守っていました。
先生たちは目を合わせ、A子ちゃんどうするかなと言葉には出さずに見守っていました。
するとA子ちゃんは野菜炒めのキャベツにお箸を伸ばしました。
そしてキャベツを前歯でガジッと噛んだのです。
その瞬間、私たちは驚きました。
でもそこで大きな声で、食べられたねと声をかけることはしませんでした。
せっかく自分で選んだ一歩を注目されることで負担に感じてほしくなかったからです。
私たちは目を合わせながらA子ちゃんの姿を見守りました。
給食が終わり、お昼寝の前に私はA子ちゃんにそっと声をかけました。
A子ちゃん、今日はキャベツをガジッとしていたね。
A子ちゃんは舌を向いて小さくなずきました。
先生たちみんなで見ていたよ。頑張ったね。
そう伝えるとA子ちゃんは少し照れくさそうににっこり笑いました。
私はそれ以上は何も言いませんでした。
食べられたね。次も頑張ろうねと続けるのではなく、見ていたことと頑張ったことを伝える。
それで十分だと思ったのです。
その後もA子ちゃんの食べる量は少しずつ変わっていきました。
入院して1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、夏が近づく頃には自分でご飯を食べたり、おかずを口にしたりする姿が増えていきました。
そこで私たちはA子ちゃんが食べられる分を自分で決める方法を取り入れました。
どのくらい食べられそうかな。
一人分を全部食べることを目標にするのではなく、ピーマンを一かけらにするのか、スプーンいっぱいにするのか、A子ちゃん自身に決めてもらいます。
自分で決めた量を食べ切る。食べられたら食べられたという経験になる。
その経験がA子ちゃんの自信につながっていきました。
自分で選んだ量を食べ終えると、A子ちゃんは食べたよ、食べられたよと伝えてくれるようになりました。
自分で決めて、自分で食べて、できたことを感じる。その積み重ねが次の日の一歩につながっていたのだと思います。
もちろん毎日同じ量を食べられるわけではありません。その日の体調や気分によって食べられる量は変わります。
けれど、A子ちゃんが自分で決めた量を食べられる日が増えていくにつれて、その量も少しずつ増えていきました。