友情の形成と幸せな少年時代
はい、tantotの時々読書日記、第41回です。
随分と間が空いてしまいました、という前置きを毎回している気がしますが、最近。
今日はですね、ちょっとこの夏、結構いろいろ本を読んでいるので、できるだけいろいろ喋っていきたいなと思うんですけど、今日は
ヘラ・S・ハーセというオランダの作家の、ウールフ、黒い湖という作品、こちらについて話してみたいと思います。
これ、多分なかなか知られていない、日本だとオランダ文学とかってなかなか知られていないと思うんですけど、
これ知ったのが、ポッドキャストの翻訳文学試食会っていう、ポッドキャスト結構好きでちょこちょこ聞いてるんですけど、
それが、翻訳文学のちょっと短編中編ぐらいのものを、いろいろ紹介していく、中年の男性2人、文学研究家の方、研究者の方2人が紹介していくみたいな、
そういう掛け合いも面白いんですけど、そのようなポッドキャストで、その中で紹介されてて、
ちょっとピンときて読んでみたという感じになってます。
どんな話かっていうと、このヘラ・S・ハーセっていうオランダの作家は、
オランダ植民地時代の東インド、まず今のインドネシアですね。
オランダでは東インドって呼ばれてた時代ですね。
そこで育ったオランダ人の作家で、この小説の舞台もオランダ領、東インドになってます。
それで語り手の僕というのが、僕はオランダ人ですね。
オランダ人で父親が役人ですかね、東インドに来て赴任していて、そこで育っているというような感じの子で、
もう一人すごい重要な人物がウールフ、タイトルにもなってるウールフ。
別に一瞬狼って思うんですけど、全然狼とか関係なくて、インドネシア語らしいですね。
このウールフっていう名前も、これ別にインドネシアでよくある名前っていうわけでもなくて、全然関係ないです。
インドネシア語の単語なんですけど、スンダ語かな?
この名前の由来についても結構面白いので、
これは書者の跡書きとか役者の跡書きにも書かれていて、そこにも一つ物語があるような感じなので、
ぜひ興味のある人は本を手に取って読んでみてもらえるといいのかなと思います。
ウールフっていうのは、現地の人です。現地の子供。
おそらくこの語り手の僕の家に雇ってる現地の人の家族の子供みたいな感じで、
ちょうど年齢が近いので、生まれてからずっとウールフと一緒に二人で遊ぶような感じだったというような感じの間柄です。
話としては語っていくと結構長くはなってしまうので、かいつまんで言うとね。
ざっくり言うと、僕とウールフは本当にずっと一緒に育って一緒に遊んでいて、
いろいろ経緯があって、ウールフも僕の父親がお金を出して、
僕と同じような学校、当時の植民地の現地の子供に対してはかなりいい教育を受けさせてもらっているという感じなんですけど、
同じ学校に行って、その学校でもやっぱりウールフとずっと一緒にいて、
僕としてはすごく自分の分身というか、本当にウールフなしでの子供時代なんて考えられないというような、
そういう関係性、間柄で育ってきた。
僕もオランダ人ではあるんですけど、生まれてずっと東インドでずっと育っているので、
この東インドの自然の中でウールフと一緒に遊んだりとか、そういったところが僕の人生の根っこのところにある記憶になっているという感じです。
ただ、やっぱりなんとなくこの話の植民地時代の、一方は創始国の人間、一方は現地の人間が仲良くなっているってなると、
ある程度想像はつくかなと思うんですけど、どこかでその二人ってずっと一緒にはいられないんですよね。
歴史の激動と別れ
で、あるところでウールフは、また別のリダっていう女性が出てくるんですけど、その女性がウールフにすごく目をかけてくれて、
その女性がお金を出して、ウールフは結構すごく成績優秀で見込みがあるっていうところで、医者としての教育を受けて、
特にインドネシアの、東インドの現地の人を相手とする医者としてになるというところで勉強を続けていくというような感じです。
どうもこの時代、オランダとしても植民地を削除するだけではなく、ちゃんと現地の人たちを教育して、その中で人材を育成していこうみたいな、
そういうことも少し植民地系の方針転換があったみたいで、
そういう中でウールフもそういった学校に通っていたと。
ただその後、僕は僕で、僕は機械系なんですかね、エンジニアになりたいみたいな感じで勉強していったと。
ただそこで、戦争があるわけですよね。
ちょっと前に読んだので、少し細かい流れを忘れちゃったんですけど、最終的に二人は別れ別れになってしまう。
確か僕は一度ヨーロッパに行ったんですかね。
そうですね、ヨーロッパに行って、その後は結構激動で、ちょうど第二次大戦の時なのでヨーロッパに行く。
オランダ本国は本国でドイツに攻められてナチスに占領されてみたいな話が状態になったり、
東インドは東インドで日本軍が攻めてきて、日本軍が占領して、かなり激動で、なかなか東インドに行くことはかなわなかったという感じで、
その後第二次大戦が終わって、日本軍が降伏すると、一応東インドはオランダの元に戻るのかな。
そこからインドネシアの独立運動が始まり、そのくらいの頃に僕が東インドに戻るんですよね。
そこでウールフに出会ったのか出会ってなかったのかみたいなところはあるんですけど、
ウールフはおそらく独立運動のほうに、わりと現地で教育を受けた指導者層に近いところだと思うので、
オランダに対して独立運動として戦う、ある意味敵に対する関係になっているというようなところで、
最後、僕がウールフに出会ったのか、出会ったのはウールフだったのかウールフじゃなかったのか、そのあたりは曖昧なまま終わるんですが、
そういうかつてあった、ある意味ですごく平和な平和で、民族の違いなどということを意識しなかった。
それは僕が意識しなかっただけであって、ウールフが意識してなかったのかどうかとか、
その植民地の作種の中でのいろんな作種の関係とかそういったものはあったと思うんですけど、
少なくとも僕の視点から見ると、別にそういったことは全く関係ない幸福な少年時代からいろいろ世の中の世界の動きに振り回されて、
結局その時に本当に自分の分身のように2人で1人みたいな感じで仲良くしていたウールフというものと、存在とバラバラになってしまった。
それだけじゃなくて、ここがポイントなんですけど、この僕って東インドで生まれたのかな?
ほぼ東インド、ちょっと生まれたのはどっちだったかっていうのだったんですけど、ずっと東インドで育っていて、
オランダ人なんですけど、オランダの本国の方は子供のときほとんど行ったことも何度か行ったことがあるぐらいの場所で、
心の故郷は東インドの方にある。東インド、当時で言う東インドの方にある。
ところが、第二次大戦以来、植民地の独立がありという中で、東インド、インドネシアにおいて、自分は完全によそ者になってしまった。
故郷の喪失と悲しみ
自分の場所であったはずの東インドが自分の場所でなくなってしまった。
それはウールフに象徴される子供時代の自分の傍れみたいなものであり、インドネシアの自然だったり、この山々だったり、湖だったりという、
そういった場所というふるさとを完全に失ってしまったという、その悲しみみたいなものが結構この話の一番のポイントなのかなというふうに思いました。
長くなっている。
という意味で言うと、これ実は今話しながら思ったんですけど、ちょうど前回で読んだ、「風と共に去りぬ」も実は少し似たような構図で、
あれも南部の奴隷制というもので支えられたスカーレットにとっての幸福な時代が、戦争を通じて完全に失われてしまって、その故郷であるところのタラが荒廃してしまったというようなものと、ちょっと近い似ているものがあるのかなと。
スカーレットのほうは、とはいえタラというふるさとにもう一回戻って、そこでやり直すというふうになったんです。
それに対して、このウールフの少年は、その故郷、そういったことはできず、結局インドネシアにとってオランダ人というのはもう独立した以上、よそ者であり、追い出すべき存在であるみたいな、そういうふうになってしまっている。
というところで、故郷に戻る、故郷、自分のいた故郷というのは完全に失われてしまった。
一方でオランダ、本国も別にすごく故郷として、めちゃくちゃそこに対する大きな貴族意識があるわけでもなく、すごく宙ぶらりんの存在になってしまったみたいなところで、そういうところは違うかなと思うんですけど。
しかもそれが奴隷制度に支えられているのか、植民制度に支えられているのか、ある種の見えない搾取の対戦に支えられた幸せな時代は、本当に何かのきっかけで簡単に失われてしまうという、そういった悲しみについてのお話という意味では、ちょっと共通しているところがあるのかなと思います。
もちろん、それを幸せな時代というふうに呼ぶのって、ある意味で搾取している側の人間の言い分であるというところはもちろん前提としつつも、
やっぱりそういう幸せな子供時代、無邪気だった時代が失われてしまう悲しみっていうのは、何かしら普遍的なテーマであり、
誰しも、実は多かれ少なかれ、そういう経験というのはどこかでしてしまう。
やっぱりこうやって世の中の世界の動きがどんどん変わっていく中で、あの時当たり前に存在していたものが、実はもう二度と手に入らなくなってしまうみたいなことって、
実は普遍的なものであって、その悲しみっていうところはすごく共感できる部分っていうのはあるんじゃないかなというふうには思いました。
文学と文化の理解
もちろんこのお話を多分インドネシア、それこそウールフの視点から見ると、また全然違う話になるんじゃないかなというふうには思うんですけれども、
このお話は、それはそれで一つ、こういう視点っていうところはすごく普遍的なテーマとして心に響くものだったなというふうに思っています。
話としても結構短めで、単行本で一冊で出てるんですけど、後半分強ぐらいで、残りはあと書きと役者解説、結構丁寧な役者解説みたいな感じなので、
本編自体は単行本で127ページとかなので、すごく読みやすくまとまってますし、
僕が、インドネシアの自然の環境だとか風物、人々の風俗的なところも含めて描く、描かれ方っていうその筆記も非常に上手いというか、
目に浮かぶような感じだなというふうに思うので、すごく読みやすく、とてもいい小説だなというふうに思いました。
一応、役者解説によると、このヘラハーフェはオランダでは知らない人はいないぐらいの大作家だということで、
なかなかオランダ文学を読む機会なんてないので、結構いい出会いだったなというふうに思います。
というような感じで、計らずも直前、一つ前の風と共に狩人との共通点を見つかったというふうに思いますし、
幸福な時代は失われてしまう、それはすごく悲しいことであると。
そういうような点というところも見えてきたなというところで、今日はこの辺でお話終わりにできればなと思います。
では、ありがとうございました。