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#081 バイト先に父親が来た人
2026-10-31 08:45

#081 バイト先に父親が来た人

「向かった卓にはおしぼりで顔をゴシゴシ拭いているパパがいた」

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
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◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

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#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本 #小説 #モノエフ朗読
#バイト #大学生 #家族
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サマリー

アルバイト先の居酒屋に父親が客として現れ、娘のエリーは気まずさを感じる。店長は父親に名刺を渡し、料理をサービスして安心してもらおうとする。翌朝、両親が楽しそうに店へ行きたがる一方、大学の友人・チセは両親の不仲や経済的な苦しさを語り、エリーを「恵まれていて世間知らず」と言う。母親は、社会の不平等を受け入れながら可能な限り公平に努めること、相手を「かわいそう」と見る感情には見下しが含まれうることをエリーに伝える。

バイト先に現れた父親
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
すいません。お願いします。
はーい。
新規の宅から声がした。急いで注文を取りに行く。
あれ?パパ?
向かった宅には、おしぼりで顔をゴシゴシ拭いているパパがいた。
エリー、何してるんだ、こんなところで。
何って?バイト。
え?なになに?部長の娘さん?
パパの向かいに座っている男性が驚いている。
ちょっとパパ、お手拭きで顔拭かないでよ。汚いな。
気持ちいいんだからいいじゃないか。
ごめんね、お嬢さん。おじさんって基本汚いからさ、すぐ拭いちゃうんだよね。
岡田、お前俺が汚いって言ってるのか?
いや、その…
それで、ご注文は?
生2つお願いします。
かしこまりました。
バイト先にパパが来るなんて思っても見なかった。
店長、4宅のお客さん、うちの父でした。
え?お父さん?
フライパンを振っていた店長の手が一瞬止まった。
あ、やべ、え、4宅って言った?挨拶行かなきゃ。
店長のサービスと家族の楽しさ
いいですよ、別に。だめだよ、大事な娘さんを預かってるんだから。
何それ、大丈夫ですよ。うちの父はそんなこと気にしません。
私は生ビールの準備をして、パパのいる宅へ向かった。
お待たせしました。
お、娘さん、あざーす。
重いので気をつけてくださいね。
新村さんのお父さんですか?
店長がパパに声をかけた。
あなたは?
娘さんにお世話になってます。店長の杉原です。
店長はパパに名刺を差し出した。
いや、本当に新村さんは働き者で助かってるんですよ。
お父さんに会えて嬉しいです。これサービスなんでたくさん飲んでってくださいね。
店長はポテトサラダを宅に置いていった。
やりすぎなんじゃないだろうか。
じゃ、ごゆっくりどうぞ。
とりあえず私もキッチンに戻った。
店長、別にサービスなんてしなくていいのに。
いいんだよ、こういうのは気持ちなんだから。
お父さんが安心してくれればそれでいいんだ。
大人というのはよくわからない生き物だ。
いや、いい店長さんだな。
次の日の朝、パパはなんだかご機嫌だった。
お料理もおいしかったでしょ?
どれもおいしかったよ。いい店だった。
何よ、一人で楽しんじゃって。
ママがコーヒーを入れながら羨ましがっている。
じゅんこも今度行こう。エリー、シフト教えてくれよ。
やだよ、恥ずかしい。
いいじゃない。私もエリーの働いてるところ見てみたい。
もう、子供じゃないんだから。
パパとママはなんだか楽しそうだ。
友人が語る家庭の違い
何がそんなに楽しいのかよくわからなかった。
パパとママがさ、一緒にバイト先に来たいって言ってるの。
授業の空き時間に、知瀬と学生スペースにいた。
えー、めっちゃ仲いいじゃん。
えー、そんなことないよ。普通だよ。
普通、うちらの両親の世代って仲悪くない?
夫婦が仲いいのなんて新婚だけだよ。
そんなことないでしょ。
うちなんてお父さんとお母さん、家で会話しないもん。
用事があるときは私に言わせんの。
ご飯とかはどうするの?一緒に食べるでしょ?
食べるわけないじゃん。
お父さんなんか自分の食べたいものしか食べないから、
毎日スーパーで揚げ物とか買ってきて食べてる。
お金もったいなくない?
そういう問題じゃないんだもん。
お父さんは毎日パチンコ行って、
帰りにスーパーでお酒と揚げ物買ってそれを食べてるの。
お母さんは?
お母さんは夕飯作って私と食べてる。
信じられない。
そうだろうね。
エリみたいに恵まれてる人にはわからないだろうね。
そんな私恵まれてなんかいないよ。
恵まれてるよ。
両親仲が良くてお金にも困ってないんでしょ?
今の日本にそんな恵まれてる人滅多にいないよ。
そんなことないよ。
エリには見えないだけだよ。世間知らずだから。
なんでそんな言い方されなくちゃいけないんだろうという気持ちと、
確かに私は何もわかっていないのかもしれないという気持ちが
私の中でぐるぐるしていた。
ママ、私は恵まれてるの?
夕飯を食べ終わった後、ママに聞いてみた。
パパは今日残業で遅くなるらしい。
どうしたの?突然。
恵まれていることと公平さ
ママは食器を真空に運びながら言った。
大学でさ、チセにエリは恵まれていて世間知らずって言われたの。
ああ、なるほど。それはママにとっては褒め言葉ね。
どういうこと?
そのチセちゃんってお友達に羨ましいって思ってもらえる家庭を築けたってことだもの。
チセは羨ましいと思ってるの?
エリはチセちゃんにそう言われてどう思ったの?
なんかモヤモヤしてるの。
なんでそんな言い方されなくちゃいけないのって気持ちと、
何も知らなくて申し訳ないって気持ちと、
何も知らなくて申し訳ないって気持ちはチセちゃんを見下してる感情だから気をつけなさい。
見下してる?
そう、かわいそうって感情は相手を見下してるときにしか出てこない。
でも、かわいそうって感情がないとできないこともある。
どうすればいいの?
どうしようもない。
え?
残念だけど、社会は全然平等じゃない。
私たちにできるのは、それを受け入れつつ、可能な限り公平になるように努力すること。
え?難しすぎるよ。
私はもう、チセとは当たり障りのない話しかできないのだろうという予感に寂しさを感じていた。
でも、この寂しささえもチセを見下している感情なのかもしれない。
エンディング
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
08:45

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