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#067 鍋の中身を見ていた人
2026-04-18 09:30

#067 鍋の中身を見ていた人

端から見れば不合理を続ける人がいます。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

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#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本 #小説 #モノエフ朗読
#仕事 #牛丼屋 #働き方
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サマリー

牛丼屋の店長は、夜勤スタッフの急な欠勤により、朝から深夜まで長時間労働を強いられる。パートの佐藤さんの助けを借りながらも、疲労困憊で家に帰っても両親から小言を言われる始末。翌朝、出勤してきたバイトの沢田くんに「何から逃げているのか」と問われ、店長は過去の就職活動から逃げた自分を省みる。彼は目標を持たず、ただ今日を乗り越えることだけを考えてこの仕事を続けていると語る。

長時間労働の始まり
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、様々な人がいることをテーマにお送りいたします。
事務所で発注作業をしていて、ふと画面端の時間を見ると、もう15時55分になっていた。
まずいまずいと立ち上がり、フロアにいる佐藤さんに声をかける。
佐藤さん、もう就業時間ですよ。
佐藤さんは、店内の時計を見上げた。
本当だ。ありがとうございます。お疲れ様でした。
佐藤さんは、この店で一番長いパートさんらしい。
慣れているけど手を抜くこともないし、影でこそこそ悪口を言うこともないし、
空いていれば任せて事務仕事をできるから助かる存在だった。
今日の俺のシフトは朝の7時から夜の21時まで。
多分事務仕事が残るから、実際に帰るのは22時くらいになるんだろう。
明日も朝からシフトに入っているが、
今日も明日も慣れているバイトさんたちが入ってくれているから何とかなるだろう。
ゴスさん!
年配の男性が立ち上がり、店を出ていく。
夜の時間によく来る客だ。
ありがとうございました。
店内にバイトの平川さんの声が響く。
夜のピークが過ぎ、少し店内は落ち着き始めていた。
沢田さん、遅いですね。
平川さんがつぶやく。
確かにそろそろ夜勤の沢田くんが来るはずの時間だ。
何かあったのかな。
俺はそう言って事務所に戻った。
スマホを見るとメッセージが入っていた。
店長ごめん、レポート終わんない。
マジか。
俺はスマホをデスクに放り投げた。
どうかしました?
平川さんが事務所を覗き込んでいった。
沢田くん、レポート終わんないって。
えっ、じゃあ夜勤誰がやるんですか?
俺か。
店長、今日朝からですよね。
もっと早く言ってよ。
正直、4時以降の記憶はない。
客がいない時間はただただ寝ないようにするために変な踊りを踊ったりしていた。
5時過ぎに作業服の中年男性がささっと食べて出ていった。
きっとこれから仕事なんだろう。
ああ、みんな働いているんだな、とぼんやり思った。
店長、どうかしました?
夜勤スタッフの欠勤
佐藤さんが出勤してきた。
ああ、9時だ。ようやく9時だ。
昨日、夜勤が飛びまして。
えっ、じゃあ店長夜勤やけ?
そういうことです。
じゃあもう帰って寝なきゃ。
いや、今日昼勤佐藤さんだけなんで帰れないっす。
店長、死にますよ。
俺はとりあえず佐藤さんに店番を頼み、コンビニに行った。
エナジードリンク2本と栄養ドリンクも3本買った。
裏で寝ててもいいですよ。
佐藤さんは哀れみの目で俺を見ている。
発注して、シフト作らないと。
フロアは私、全部やっておきますから。
確かにこの日の佐藤さんはすごかった。
昼のピークの30分以外、一人で回していた。
俺は正直ピークの30分は一応キッチンにいたが、とんでもない役立たずだったと思う。
牛肉と玉ねぎの入った鍋を見ていた記憶はある。
しかし、自分がご飯に牛丼の具をかけた記憶はいまいちない。
佐藤さんじゃなかったら終わっていた。
店長の過去と現状
店長、もしかして帰ってないんですか?
平川さんの出勤後、第一声だった。
俺はただ大きくなずいた。
分かっていましたけど、ブラックですね。
仕組み上、仕方ない。
店長はなんで牛丼屋さんの店長なんかになっちゃったんですか?
俺だって別に好きで牛丼屋になったわけじゃない。
たまたま学生時代にバイトしていただけだ。
工学部で機械関係の仕事に就くつもりだった。
でも、就活が面倒くさすぎてフラフラしていた。
そうしたら、当時のマネージャーに社員にならないか?と言われた。
就活しなくてラッキー!くらいな気持ちだった。
あれからもう10年。
気がつけば店長だった。
ただいま。
家に着いたのは夜の12時を回っていた。
ソファーに倒れ込み、意識が遠のいていく。
遅かったじゃない。
昨日どうしたの?どこか行っていたの?
失いかけた意識の向こう側から母親の声が聞こえる。
夜勤が急に来れなくなって。
え?昨日の朝から今日の夜まで働いていたの?
なんでそんな無茶なことを。
だって、うちの店、正社員俺しかいないし。
そういうことじゃなくて。
なんだこんな時間に。
親父の声も聞こえてきた。
カズトシ、昨日の朝から今まで働いていたんですって。
昔はそれくらいよくあった話だ。
あなたは別に猛烈社員なんて世代じゃないでしょ。
どの時代もサラリーマンはそうやって稼ぐものなんだ。
でもカズトシの会社、全然お給料あげてくれないじゃない。
牛丼屋なんかに就職するからだ。
何のために工学部に行かせてやったと思っているんだ。
メーカーにでも就職していれば今頃倍の給料をもらえたかもしれないのに。
親父は今日も好き勝手なことを言っているが、
俺はもう何も言い返せなかった。
逃げ続ける日々
アラーム音に驚いて飛び起きた。
朝の5時半。
まずい、あと30分で家を出なくては。
俺はソファーの上で寝ていたようだ。
慌ててシャワーを浴び歯を磨いて家を飛び出した。
お、店長、おはようございます。
おはよう沢田くん。レポートは大丈夫だったの?
おかげさまでご迷惑おかけしました。
本当だよ。
いやーでも店長、なんかやつれましたね。
誰のせいだよ。
店長って何でこの仕事続けてるんですか?
目標とかあるんですか?
ないよ。俺はね目標なんか持ちたくないし、
未来のことを考えるのが嫌いなの。
この仕事は今日をどう乗り越えるかだけ考えていればいいから、
俺にはあっているんだよ。
何それ。店長は何から逃げてるんですか?
逃げてる?俺が?
沢田くんの一言にドキッとした。
就活から逃げたときから、
俺は何も変わっていないのかもしれない。
それでも俺はこのまま変わりたくないのだ。
番組の締めくくり
いかがでしたでしょうか?
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
09:30

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