相続税の悩み
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
職場の休憩室で、いつも通り部署の仲のいいメンバーとお昼を食べていると、森山さんが大きなため息をついた。
どうしたの?森山さん。
ごめんなさい。考え事していたらつい。
考え事?
市川さんが尋ねた。
先月、母が亡くなったじゃないですか。
ああ、大変だったよね。というか、今も大変か。
それで、相続の手続きをしていたら、思っていたより相続税がかかりそうで。
相続税?あれってお金持ちが払うものじゃないんですか?森山さんって実はいいお家の人だったんですか?
市川さんが驚いている。
うちは、家と土地だけがあって、お金は全然ないんです。
だから関係ないって思っていたら、最近土地の値段が上がっているじゃないですか。
ニュースになっているよね。
いろいろ書類の準備とかしていたら、相続税払わなきゃってなって、でも現金ないから実家を売らなくちゃいけないっぽくて。
森山さんってご兄弟いないんでしたっけ?
そう、一人娘なんです。
今は職場に近いところに住んでいますけど、歳をとったら実家に住もうかなとか思っていたのに。
それに、両親との思い出も残っているじゃないですか。
それをいきなり税金払え、家を売れ、だなんて急すぎて気持ちの整理がつかなくて。
森山さんは涙ぐんでしまった。
家族との会話
うちの実家の相続税、いくらなんだろう。
夕飯を食べながら、気になってしまったことが口から出てしまった。
急にどうした?
今日、会社の人からさ、相続税のために実家を売ることになったって話を聞いて、心配になっちゃって。
あー、最近多いよな。俺の同級生でもそういうやついたよ。
もともと売る予定だったとしてもさ、やっぱり自分が育った家がなくなるって辛いよね。
まあな、でも転勤族の人とかはさ、自分が過ごした家なんていちいち覚えてなかったりするだろ。
考えすぎだよ。
うーん。
それに、俺たちの家はもうここにあるんだからさ、あの家はどうせ売るんだろ。
え?私はそんなこと考えたこともなかったのに、夫はなぜそう思ったのだろう。
私はその夜、こっそりスマホで実家の相続税がどれぐらいかかりそうか調べてみた。
そうは言っても、正確な土地の広さや建物の価値なんてわからないから、本当になんとなくの概算に過ぎない。
そうしたら、1000万円と出てしまった。
お父さんとお母さんはさ、将来この家をどうしたいとかってある?
将来?私たちに将来なんてないわよ。
母は笑いながらそう言った。
そういうことじゃなくて、やっぱりね、お父さんとお母さんの大事な家でしょ。私は残しておきたいって思っているの。
でも双葉はもう自分の家があるじゃない。私たちがいなくなったらさっさと売っちゃっていいわよ。
そうだよ。双葉には双葉の生活があるんだから、俺たちのことは考えなくていいんだよ。
そんなものなの?お父さんとお母さんにとってこの家はそれっぽっちの思い入れしかないの?
そんなこと言ってるんじゃないのよ。ねえ、お父さん。
そうだよ。俺たちだってずっとずっとここにいたいけど、そうはいかないだろ。
私は涙がこぼれてきた。家族を大切にしていたつもりだったけど、ただ執着していただけなのだろうか。
母と娘のビール
はいこれ。金曜日の夜、洗い物も終わってソファーに座ると、マナが缶ビールを差し出してきた。
ありがとう。
マナは隣に座り、自分の分の缶ビールをプシュッと開けた。
カンパイ。マナが缶ビールを差し出してくるので、私もカンパイと言って缶をぶつけた。
仕事はどう?
わかんないことだらけ。
最初はそんなもんよね。ママもそうだった?
そうね。ママの時はさ、まだ女の人の仕事なんて補助的なものだと思われていたし、自分たちも思っていたし、まさかこんなにずっと働き続けるとは思わなかったかな。
うーん。あれ?ママってずっと正社員?
マナを産むときに一回辞めたけど、小学校4年生になるときに契約社員になって、中学入るときに正社員にしてもらったの。
そうだったんだ。
私は運が良かったわ。ママの友達だとさ、ずっと派遣社員とか契約社員の人もいるもん。
偉いよね。私正社員しながら子供育てるとか想像つかない。
そうね。でもマナに何でもやらせてあげたかったし。
そりゃどうも。
それに私も一人娘だからさ、あんたのおじいちゃんおばあちゃんのこと、私が全部なんとかしなくちゃって思って、パパには頼れないって思って、お金稼いで貯めなくちゃって思ってたの。
うーん、パパに頼っちゃダメなの?だってパパにだってご両親はいるし、パパはママの実家に関係ないもの。
うーん、でもちょっとは頼っていいんじゃないかな。
なんで?
ここだけの話だけど、パパがママにひどいこと言ったかもって落ち込んでた。
え、そうなの?
あと、おじいちゃんとおばあちゃんもママの気持ちをわかってあげられなかったかもってわざわざ私にメッセージしてきた。
おじいちゃんとおばあちゃんが?
あ、だからビール?
マナはこくりとうなずいた。
金曜だから飲みたかったのもあるけど。
そっかー、パパは頼ってあげたら喜ぶと思う。
わざわざマナを通さなくてもいいのに。
子はかすがいってね。
マナの顔は少し赤かった。
娘に慰められる日が来るなんて思ってもみなかった。
長生きも悪くないものだ。
夫婦の決意
ヨウジ君、ちょっといい?
土曜日、朝ごはんを食べ終わった後、夫に声をかけた。
夫は少し緊張した面持ちでこちらを見た。
うん、聞くよ。
あのね、私、実家のこと、もうちょっとちゃんと考えたい。
うん、そうだと思って調べてみた。
夫はプリントした紙を何枚か差し出してきた。
調べてくれたの?
この間、俺、双葉の気持ちを全然わかってなかったと思って、
私こそ、感情的になってごめん。
家族で悩んでばかりだけど、この人たちと家族でよかった。
エンディング
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。