令和8年度診療報酬改定では、医療DXへの対応と業務の簡素化を図る観点から、診療に係る様式や届出・報告の仕組みが大きく見直されます。この見直しは、医療機関の現場で長年課題とされてきた事務負担の軽減を目的としています。本記事では、個別改定項目「Ⅰ-2-2 業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進―③ 医療機関等における事務等の簡素化・効率化」の内容を解説します。
今回の改定では、5つの分野で簡素化が進みます。第1に、各種様式の共通項目の記載が統一されます。第2に、入院診療計画書をはじめとする計画書の様式簡素化と署名・押印の廃止が行われます。第3に、施設基準の届出様式の削減とオンライン化が推進されます。第4に、地方厚生局等への定例報告が必要最小限に限定されます。第5に、歯科診療報酬における事前承認の対象が縮小されます。
1. 各種様式の共通項目の記載統一
医療DXへの対応を見据え、既存の様式も含めた各種様式の共通項目について、可能な範囲で記載の統一が図られます。
現在、診療報酬算定に係る留意事項通知で示す各種様式には、生年月日や要介護度などの共通項目が含まれています。しかし、これらの共通項目は様式ごとに記載方法が異なっており、統一されていませんでした。今回の改定では、診療報酬改定DX対応方針の一環として作成された76様式のデータテーブルを活用し、共通項目の標準化が進められます。この標準化により、将来的な「標準様式のアプリ化とデータ連携」への対応が容易になります。
2. 計画書の様式簡素化と署名・押印の廃止
入院診療計画書のような業務負担の大きい計画書について、様式の簡素化や運用の見直しが行われます。あわせて、各種様式の署名または記名・押印のうち、代替方法で担保できるものは廃止されます。
入院診療計画書については、2つの運用変更が行われます。ひとつは、入院前の外来で文書を提供し説明した場合でも、入院後7日以内に行ったものと同様の取扱いとなる点です。もうひとつは、入院期間が2日以内と見込まれる場合や、3日以上の入院予定が2日以内となった場合に、診療に支障がないと認められる患者に対しては、総合的な入院診療計画の策定と文書による説明・交付を省略できる点です。この場合は、診療録にその旨を記載します。
署名・押印については、医師および患者等の署名が不要となります。署名がない場合は、説明日および説明者を診療録に記載する運用に変わります。署名がある場合は、従来どおり説明日・説明者の記載は不要です。また、入院診療計画書の様式から本人・家族の署名欄が削除されます。
この見直しの背景には、令和7年度の入院・外来医療等における実態調査があります。同調査では、簡素化の必要性がある業務として「計画書作成」が施設・病棟のいずれでも最多でした。病棟では「患者や家族等による署名・記名押印」も45.1%と高い割合を示していました。規制改革推進に関する答申でも、医療機関等の負担軽減の観点から署名・押印を不要とすることの検討が求められていました。
3. 施設基準届出の様式削減とオンライン化の推進
施設基準等届出のオンライン化が引き続き進められます。あわせて、円滑なオンライン化のために、届出様式の削減や届出項目の最小化が行われます。
施設基準等届出(令和6年度改定時:約1,100件)のオンライン化は、令和4年4月から段階的に実施されてきました。令和6年度までに116件、令和7年度には新たに210件が追加され、合計326件のオンライン化が予定されています。今後も令和10年度の全届出オンライン化に向けて改修が進められる計画です。
今回の改定では、オンライン化を円滑に進めるため、届出様式そのものの削減と記載項目の最小化が図られます。これにより、紙での届出からオンライン届出への移行がスムーズになることが期待されます。
4. 定例報告の限定と添付書類の省略
施設基準等の適合性や診療報酬に関する実績を確認するために毎年求めている報告様式について、対象が限定されます。具体的には、他に代替方法がないものや次期報酬改定に必要なものに絞り込まれるとともに、添付書類の省略等の簡素化が図られます。
現行制度では、施設基準の届出を行った保険医療機関は、毎年8月1日現在で適合性を自己点検し、その結果を地方厚生(支)局に報告する義務があります。この報告には、厚生労働省への提出様式(全32様式)や地方厚生局への提出様式(病院33様式、有床診療所15様式など)が含まれ、大量の書類作成が必要でした。しかし、適合性や実績の確認には、適時調査やDPCデータ、NDBデータなど他の把握方法も存在します。
今回の改定では、こうした代替手段を活用し、報告の対象を真に必要なものに絞ることで、医療機関の事務負担が軽減されます。
5. 歯科診療報酬における事前承認対象の縮小
歯科診療報酬において保険適用の事前承認を求めている項目のうち、通知等で明確化されているものが事前承認の対象から除外されます。
現行制度では、一定のブリッジや小児義歯を保険適用する場合、あらかじめ理由書や模型、エックス線フィルム等を地方厚生(支)局長に提出し、保険適用の判断を求める必要がありました。今回の改定では、この事前承認制度について2つの変更が行われます。
ひとつは、クラウン・ブリッジ維持管理料に関する変更です。装着日から2年以内に外傷や腫瘍等によりやむを得ず抜歯しブリッジを製作する場合、従来は事前に理由書等を厚生局に提出する必要がありました。改定後は、診療報酬明細書の摘要欄に算定の理由を記載する運用に簡素化されます。また、やむを得ない抜歯の除外事由について、従来の「歯周病が原因である場合」に加え、「う蝕」および「根尖性歯周炎」が原因である場合も除外対象に追加されます。
もうひとつは、小児義歯に関する変更です。先天性疾患以外の疾患で小児義歯を適用する場合の事前承認が不要となります。改定後は、診療録および診療報酬明細書に小児義歯が必要となった理由を記載する運用に変わります。あわせて、小児義歯の範囲から小児保隙装置(可撤式保隙装置に限る)が除外される旨が明確化されます。
まとめ
令和8年度診療報酬改定における事務等の簡素化・効率化は、5つの分野で進められます。各種様式の共通項目の記載統一、入院診療計画書等の様式簡素化と署名・押印の廃止、施設基準届出の様式削減とオンライン化の推進、定例報告の対象限定と添付書類の省略、歯科診療報酬における事前承認対象の縮小です。いずれも、医療DXへの対応と医療従事者の事務負担軽減という2つの目的を踏まえた見直しです。各医療機関においては、改定内容を確認し、運用の変更に備える必要があります。
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サマリー
令和8年度診療報酬改定では、医療機関の事務負担を軽減するため、5つの主要な簡素化ポイントが導入されます。これにより、医療現場は長年の紙文化から脱却し、医療DXを推進しながら、より患者中心のケアへと移行することを目指します。特に、計画書の様式簡素化や署名・押印の廃止は、形式的な同意から対話による真の理解へと、医療における同意の概念を問い直す大きな変化となります。