令和8年度診療報酬改定では、持続的な物価高騰により増加した医療機関等の物件費負担に対応するため、基本診療料の引上げと新たな加算の新設が行われました。この対応は、医科・歯科・調剤・訪問看護の全領域に及びます。
今回の物件費高騰への対応は、大きく3つの柱で構成されています。第1に、令和6年度改定以降の経営環境の悪化に対する緊急対応として、初再診料等と入院基本料等の点数が引き上げられました。第2に、令和8年度以降の物価上昇に段階的に対応するため、「物価対応料」という新たな加算が新設されました。第3に、高度機能医療を担う特定機能病院や急性期病院には、物価高の影響を受けやすいことを踏まえた特例的な評価が設けられました。以下、それぞれの内容を詳しく解説します。
改定の背景——改定率+0.76%の物価対応分と+0.44%の緊急対応分
今回の物件費高騰への対応を理解するには、まず改定率の構造を押さえる必要があります。令和8年度診療報酬改定の改定率+3.09%(令和8年度・9年度の2年度平均)には、賃上げ分(+1.70%)、食費・光熱水費分(+0.09%)など複数の対応が含まれますが、このうち物価対応に関する財源は2つに分かれています。
1つ目の財源は、物価対応分+0.76%です。この+0.76%のうち+0.62%が令和8年度以降の物価上昇への対応に充てられ、残りの+0.14%が高度機能医療を担う病院への特例的な対応に使われます。この+0.62%の配分は、施設類型ごとの費用関係データに基づき、病院+0.49%、医科診療所+0.10%、歯科診療所+0.02%、保険薬局+0.01%と定められました。
2つ目の財源は、令和6年度改定以降の経営環境の悪化を踏まえた緊急対応分+0.44%です。この緊急対応分の配分は、令和7年度補正予算の効果を減じないよう施設類型ごとのメリハリが維持され、病院+0.40%、医科診療所+0.02%、歯科診療所+0.01%、保険薬局+0.01%となっています。
これら2つの財源の使い分けが、改定内容の理解を難しくしているポイントです。外来では、緊急対応分は初再診料等の引上げで対応し、物価上昇分は新設の「物価対応料」で対応します。入院では、緊急対応分は入院基本料等の引上げに含め、物価上昇分は同じく「物価対応料」の入院区分で対応するという構造になっています。
初再診料等の引上げ——経営環境の悪化への緊急対応
経営環境の悪化への緊急対応として、医科・歯科ともに初再診料等の点数が引き上げられました。
医科の初再診料については、再診料が75点から76点に1点引き上げられました。初診料は291点で据え置きです。初診料が包括されるその他の点数、訪問診療料、各種入院料等についても同様の引上げが行われています。なお、再診料の2科目の場合は38点から39点に、妥結率が低い場合の再診料は55点から56点に、それぞれ1点引き上げられています。
歯科の初再診料については、歯科初診料が267点から272点に5点、歯科再診料が58点から59点に1点、それぞれ引き上げられました。地域歯科診療支援病院歯科初診料は291点から296点に5点、同再診料は75点から76点に1点引き上げられています。届出未実施の場合の点数も同様に引き上げられています。なお、歯科再診料の情報通信機器を用いた場合は51点で変更ありません。
入院基本料等の引上げ——医療機能に応じた増点
入院基本料等についても、経営環境の悪化への緊急対応と物価上昇を踏まえた増点が行われました。入院料の引上げ幅は、医療機能に応じて異なります。
一般病棟入院基本料の急性期一般入院料では、入院料1が1,688点から1,874点へ186点の増点となりました。入院料2は1,644点から1,779点へ135点、入院料3は1,569点から1,704点へ135点、入院料4は1,462点から1,597点へ135点、入院料5は1,451点から1,575点へ124点、入院料6は1,404点から1,523点へ119点の増点です。急性期一般入院料1の増点幅が最も大きい点が特徴です。
地域一般入院基本料では、入院料1が1,176点から1,290点へ114点、入院料2が1,170点から1,282点へ112点、入院料3が1,003点から1,097点へ94点の増点となりました。特別入院基本料は612点から704点へ92点の増点です。
高度機能病院への特例的対応——急性期病院入院基本料の新設と特定機能病院の再編
高度機能医療を担う病院への特例的な対応として、2つの大きな見直しが行われました。
1つ目は、急性期病院一般入院基本料の新設です。これは、急性期病院として高度な機能を担う病院を対象とした新たな入院基本料です。急性期病院A一般入院料は1,930点、急性期病院B一般入院料は1,643点と設定されました。急性期病院精神病棟入院基本料も併せて新設され、A・Bそれぞれに10対1、13対1、15対1の区分が設けられています。
2つ目は、特定機能病院入院基本料の再編です。従来の一本の区分から、特定機能病院A・B・Cの3区分に細分化されました。一般病棟7対1の場合、特定機能病院A入院基本料は2,146点、Bは2,136点、Cは2,016点です。従来の7対1入院基本料(1,822点)と比較すると、A区分では324点の大幅な増点となっています。この再編は、医師派遣等の地域医療への貢献度や、高度な教育・研究機能など、特定機能病院の担う役割に応じた評価を行うものです。結核病棟・精神病棟についても同様にA・B・Cの3区分で点数が設定されています。
物価対応料の新設——令和8年度・9年度の物価上昇に段階的に対応
令和8年度以降の物価上昇に段階的に対応するため、基本診療料・調剤基本料等の算定に併せて算定可能な加算として、「物価対応料」が新設されました。この物価対応料は、医科、歯科、調剤、訪問看護のそれぞれに区分が設けられています。
医科の物価対応料は、外来・在宅と入院に分かれています。外来・在宅物価対応料は、初診時2点、再診時等2点、訪問診療時3点です。入院物価対応料は、算定する入院料の種類に応じて点数が異なります。急性期病院A一般入院料の場合は66点、急性期病院B一般入院料の場合は58点、急性期一般入院料1の場合は58点、急性期一般入院料2~4の場合は45点(入院料4で看護・多職種協働加算算定時は58点)、急性期一般入院料5は36点、入院料6は34点、地域一般入院料1・2は32点、地域一般入院料3は23点、特別入院基本料(一般病棟)は17点です。
歯科外来物価対応料は、初診時3点、再診時1点です。調剤物価対応料は1点で、3月に1回に限り算定できます。訪問看護物価対応料は、訪問看護物価対応料1(訪問看護管理療養費算定時)が月の初日60円・2日目以降20円、訪問看護物価対応料2(包括型訪問看護療養費算定時)が20円です。
この物価対応料の最大の特徴は、段階的に引き上げられる点です。令和9年6月以降は、所定点数の100分の200に相当する点数が算定されます。つまり、上記の全ての点数が2倍になります。たとえば外来・在宅物価対応料の初診時は2点から4点に、入院物価対応料の急性期病院A一般入院料は66点から132点になります。
調剤報酬・訪問看護療養費の引上げ
調剤報酬と訪問看護療養費についても、物件費の高騰を踏まえた引上げが行われました。
調剤基本料については、調剤基本料1が45点から47点に2点、調剤基本料2が29点から30点に1点、調剤基本料3のイが24点から25点に1点、ロが19点から20点に1点、ハが35点から37点に2点、それぞれ引き上げられました。
訪問看護管理療養費については、月の初日の訪問の場合、機能強化型1が13,230円から13,760円に530円、機能強化型2が10,030円から10,460円に430円、機能強化型3が8,700円から9,030円に330円引き上げられました。また、機能強化型4が9,030円で新設されました。それ以外の場合は7,670円から7,710円に40円の引上げです。月の2日目以降の訪問の場合についても、単一建物居住者の人数に応じた新たな区分が設けられ、きめ細かな評価が行われています。また、新設の包括型訪問看護療養費にも物価上昇を踏まえた点数が設定されています。
まとめ
令和8年度診療報酬改定の物件費高騰への対応は、3つの柱で構成されています。第1に、経営環境の悪化への緊急対応として初再診料等と入院基本料等が引き上げられました。第2に、令和8年度以降の物価上昇に段階的に対応するため、物価対応料が新設されました。第3に、高度機能医療を担う病院には特例的な評価が設けられました。
特に注意すべきは、物価対応料が令和9年6月以降に全区分で点数が2倍になる点です。経済・物価動向が令和8年度改定時の見通しから大きく変動した場合には、令和9年度予算編成において加減算を含めた更なる調整が行われる可能性もあります。各医療機関は、自施設が算定する入院料の区分に応じた物価対応料の点数を確認し、令和9年6月以降の収入変化も見据えた対応が求められます。
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サマリー
2026年度診療報酬改定は、現在の物価高騰への緊急対応と将来の物価上昇への段階的対応という二つの財源で構成されています。緊急対応として初再診料や入院基本料が引き上げられ、特に高度機能病院には手厚い評価が導入されました。将来の物価上昇に備え「物価対応料」が新設され、令和9年6月以降には点数が2倍になるという画期的な仕組みが導入された点が特徴です。