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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
THの音の疑問
今回取り上げる話題は、THと2文字使ってスとかズってどういうわけ?
という素朴な疑問です。 以前の放送でも、このTHに関する話題というのは色々扱ってきたんですが、今回はこの2文字で綴るTH。
それなのに、詩音としては一つの詩音ですね。ズ。 あるいはこれが濁ってズという形になるわけですが、なぜわざわざ2文字を使う必要があるのかというような素朴な疑問にお答えしたいと思います。
このスズリ字でTHと書くこの音ですね。スとかズという音なんですが、これは英語としては非常に頻度の高い詩音の一つなんですね。
というのは、ザとかゼイとか非常に重要な単語、そして日常的な機能語ですよね。これ頻度が非常に高いんです。
There, Then, Though, Thing。非常によく出てくる単語なわけで、文字として見てもTHというのは非常に目につく組み合わせということになります。
音としては一音、あくまで一つの詩音なんですね。 なので、これが1文字で表されていてもいいはずです。
ちょうどスという音がSで表されるのと一緒ですよね。あるいはクというのがTで表される。 1文字で表されるのと一緒でTHで表されるこのスズという音もですね。
1文字で表せたら、これは非常に効率がいいわけです。 しかも頻度が高いので、例えばですね印刷したページを見るとザとかザットとか必ず現れますよね。
これがザで言いますと3文字なわけですが、もしTHの部分が1文字で済むのであれば、ザは2文字で書けるということになります。
そうするとザに関しては3分の1の印刷スペースで済むということですよね。 これバカになりません。ザというのは非常に頻度の高い単語ですので。
ですが、我々はすっかり見慣れてしまっているので、ザといえばTHEとこれで落ち着くという見栄えになっていますけれども、なぜわざわざこのスという1音をTH2文字で表さなければならないのかというところですね。
これはすでに見慣れている文字ですので、普通こんな素朴な疑問ってわからないと思うんですね。 むしろ素朴でも何でもない。普通思いつかない問題だというかもしれませんが、英語紙をひも解くと非常にこれが疑問だということがわかるんです。
というのは、古英語ではなんとこれは1文字で表されていたからなんです。 そして中英語までもこの文字が存在したんですけれども、その後消えて2文字THで綴られるようになったということです。
なのである意味これは素朴な疑問というよりも、英語紙について知っていると、特に古英語について知っていると、初めてなんで現代英語はこうなんだろうというような疑問なんですね。
ただ1回知ってしまうと、やはりこれは素朴な疑問になるわけですよ。なぜ1文字で十分だったのに、実際に1文字でやっていたのに、わざわざ2文字、つまり効率が悪くなったわけですよね。なぜ2文字になったんだろうかというのは、こういう問いになってくるわけです。
それでは、古英語の時代に遡ってみましょう。古英語の時代には、音自体はあったんです。このスとかズということですね。これは今と同様にあったわけなんですが、これを表現するのに、つまり書き言葉上を表現するのに、実は特別な1文字があったんです。
これはですね、文字の名前としてはthornといって、いわゆるトゲを意味するあのthornと名付けられている文字なんですけれども、形としてはですね、これラジオなんで難しいんですが、小文字のpがありますね。この縦棒の部分がもっとずっと上に突き抜けている感じです。
別の言い方をすれば、縦棒があって、その真ん中あたりに右に向けてループが出ているっていう形ですね。これthornという文字で、古英語、そして中英語では現役で使われていました。
なので、例えば中英語でtheという漢詩を書きたいときは、このthornの文字にeというふうに2文字で済んだんですね。もちろんこれはですね、pと形が似ているといえば似ているので、しばしば間違えられることがあったりしたということも、1つ後にthで置き換えられた理由なのかもしれませんが、ただこれずっと古英語、中英語と現役で普通に使われていたんですね。
実はもう1つ文字がありまして、1文字なんですけれども、これevという名前で呼ばれていたんですが、これはですね、ちょうどdの総書体、dの小文字ですね。
この総書体にこのtの横バーのような、あのバーがですね、上の方にちょんとあるっていうことで、これは実は発音記号で皆さん、辞書なんかで見たことがある例のvという発音を表す、発音記号の元が実はこのevという文字なんですね。
これも全く同じく、今でいうthに相当するものとして使われていました。
なので、現在のthに対応する古英語の文字っていうのは2つありまして、先ほどのphoneというものですね。
これは実はローマ字より以前にですね、ゲルマン語の世界で使われていたルーン文字から引っ張ってきたものです。
それから2つ目はesですね。このdの総書体にバーを付けたものということで、これはですね、アイルランドのこのdの総書体に由来するものです。
英語はもともとローマ字でですね、ラテン語を表すローマ字を借りて、英語も書き記そうとしたわけなんですが、ラテン語にはこのthの発音もありませんし、
当然それに対応する文字もなかったので、英語は自分で何らかの方法でこのthの音を表す方法を考えなきゃいけなかったということですね。
その1つの方法がルーン文字から対応する文字を持ってきたということであったし、もう1つはアイルランドの総書体で、
dに似た音であると、dに対してd、d、dという音ですね。似てる音なので、それを代用したと、ちょっと変えて使ったということで、この2つの文字ですね。
中英語以降の変化
2種類の文字、それぞれ1文字なわけですが、これを使ってthの代わりとしていたということなんですね。
1音なので、1文字で表すというのは、この表音文字、特にこのアルファベットといわれる単音文字を使う世界では、その発音のはずなんです、本来は。
1音に対して1文字。小英語ではちゃんとそれをやっていたと。ところが、中英語期になって事情が少し変わってきます。
中英語期でも、小英語期からずっと続いて、ソ音とエズが使われていました。ただ、エズは早いうちに衰退していくんですね。
同じ役割を果たす文字が2つあってもしょうがないので、ということもあったんだろうと思いますが、エズが消えて、ソ音が基本的にこのthを表す文字として一般的になっていったんですけれども、
中英語も後期になってきますと、ここにthと今続く形がですね、表われてくるわけです。
これどこから来たのかと言いますと、実はフランス語からということですね。これ大元はラテン語なんです。
先ほどラテン語にはthというのはなかったんだと言い方しましたが、もう少し正確に言うと、実はラテン語が非常に多くの釈用語を借りてきたですね、大元の言語であるギリシャ語にはこのthに相当するものがあって、それをラテン語はthと音者したわけです。
ギリシャ語の音をthで書く習わしにしたということです。これをフランス語が受け継ぎ、そしてそれをさらに英語が受け継いだということなんですね。
そこでthという2文字でギリシャ語の音を表すというような結び付きができたところでですね、中英語の後期、英語そのものにも実はthの音があるんだよねということで、このthという2文字の組み合わせを英語の本来のthサウンドにも適用したということなんです。
それまで1文字でちゃんとあったのに、フランス語をはじめとする外国語の影響で、なんと1文字から2文字に増やしてしまったというのが英語の歴史です。ではまた。