漢詩の使い分け
英語の歴史の研究者、そして英語のなぜに答える初めての英語史の著者の堀田隆一です。
9月3日、土曜日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
英語の語源が身につくラジオヘルディオ。本日お届けする話題は、リスナーさんからいただいた質問に、いいお答えする形でお話したいと思います。
worth a try と worth the wait です。本日もどうぞよろしくお願いいたします。
一昨日、ありひまさんよりご質問いただきました。読み上げます。
おはようございます。いつも楽しく聞いています。
さて、ツイッターで漢詩の使い分けについて、普通の考え方ではお手上げっぽい事例が流れてきました。
英語史の観点から見ると、面白いかもと思ったのですが、ご教授願えないでしょうか。
it's worth a try と it's worth the wait と、ほぼ同じ形で漢詩が異なるのはなぜかというものです。よろしくお願いします。
ということで、このツイッターへのリンクとともに、コメントを寄せていただいたわけなんですが、同じものをこちらのチャプターにもツイッターへのリンクですけれども、貼り付けておきます。
ツイッターの例文というんですかね、投稿で示されている文脈がちょっとわからないということと、
ツイッターですから短いということで、何とも文脈全体はうっすらとしかわからないので、そういうこともあるんですが、そもそも本質的に難しい問題になるんだと思うんですね。
学術的な視点
なので今日はですね、私は解決することはできませんと述べつつ、考えるヒントと言いますか、考え方をいくつかはぎれ悪く紹介するにとどまると言いますか、それで終わってしまう気が今からしているんですけれども、
ただ問題としては非常に面白くてですね、いろいろな英語史というよりは英語学の観点から迫ってみるにふさわしい話題なんではないかということなんですね。
つまり、This question is worth a tryということになると思うんですが、なぜあなのか、そして、待つに値する、待ってもいい代物だということで、worth the waitですね。この場合は、theが使われるということなんですけれども。
私は英語のネイティブでもありませんので、この漢詩の使い分けっていうのは、私も本当に英作文でしょっちゅう間違えては直されるということを繰り返していますので、まず直感は働きませんし、理屈上もですね、簡単に説明できるものではないということはですね、英語学、英語史、学んでいますけれども、これは最も難しい問題の一つだと思うんですね。
言い訳をしているわけなんですけれども、その上で、Twitter上でですね、交わされている議論と言いますか、意見として、これは慣習的なものであって、一つの言い方なんだと、worth a tryっていうのと、worth the waitということですね。なので、覚えてしまうしかない。覚えるのが一番だということ。
これは英語の習得という観点から見ると、確かにその通りだと思うんですね。ここは考えてもわからないことがあったり、文法的に必ずしも全てが説明できるわけではないということはあるかと思うんですね。
一方で、私は学術的に英語というものに接していますので、やはりできることならば、これなんとか執着してですね、解決したいという思いがあるわけですね。ちょろっとコーパスなんかで調べてみますと、実はworth the tryという表現ですね。
こっちは圧倒的に稀なんですけれども、ないわけではないということも見つけるにつれですね、やはりこの違いというのは解決したいと思うわけですね。ちなみにworth a waitは今のところ見つけていませんが、あり得ると思うんですね。
これは漢用的な、イディオム的には確かにですね、worth a tryとworth the waitということで間違いないので、学習上これを覚えておけばいいということになるんですが、漢詩はその名詞の捉え方ですから、これはですね、条件さえ整えば、あがざんなったり、だがあんなったりということは常に生きた言語ではあり得るんですね。
なので、そのような観点からもですね、考える必要があるんではないかということで、いくつかこの問題の見方を紹介したいと思います。
まず一つ目、英語詞的な視点なんですけれども、質問者の有嶋さんも英語詞の観点から見ると面白いかもと思ったというふうにおっしゃっているんですが、私がちょっと調べた限りではですね、あまり英語詞の観点から言えることはどうも少なさそうだなという感触です。
名詞としてのtryとかwaitですね、これ自体はそこそこ古いんですね。tryは17世紀ぐらいでしょうかね、waitはもっと早くて13世紀ぐらいっていうふうに、古くからこの形で名詞としての使い方があるんですが、このworth a tryとかworth the waitのようにworthと共に用いられる例というのは、そんなにすごく古いというわけでもどうもなさそうなんですね。
worth a tryというのは、19世紀後半あたりには例がちらほらとあるようなんですけれども、worth the waitの方はアメリカ英語のコーパスなんか見ますと、本当にこの数十年、1980年代以降に使われるようになりだしたというかなり新しい表現のようなんですね。
英語詞の観点からしますと、この漢詞の使い方という問題については何か光を当ててくれるかなというと、ちょっと怪しいというのが今のところ私の印象なんですけどもね。そこで視点をいくつか変えてみたいと思うんですけれども。
worth a tryという表現について、例文を集めていたところですね。worth the tryというものが一つ見つかりました。これがですね、文脈上はある映画館に映画を見に行ったんだけれども、閉まっていたと。で、無駄足だったというようなその話をしている、それについての会話をしているところで。
Well, as my dad said, it was worth a tryという言い方なんですね。もちろんこの文脈でit was worth a tryということも文法的にはもちろん可能なんですが、やはり意味が違うんではないかと思われるんですよね。表現が違うということは意味が違うんではないかということです。
文脈としては映画を見に行って、それをやっていなかったということで、お父さんが言うには、it was worth the tryということだったわけですよね。これがもし、it was worth a tryというふうに不定漢詞を使っていたら、言い換えればですね、it was a good tryということだと思うんですよ。
それに対して、it was worth the tryというふうに定漢詞を使った場合は、言わんとしていることは、the try was goodということだと思うんですよね。これ、違い感じられるんではないかと思うんですよ。
前者は人生というのは、いろいろトライ、挑戦して生きていくものだけれども、今回のはなかなかいいトライだったよというような言い方で、it was a nice tryに近い感じだと思うんですね。それに対して、the try、今回のトライはなかなか良かったという意味になるのが、it was worth the tryなんではないかと思うんですね。
不定漢詞と定漢詞はですね、ざっくり言いますと、新情報と旧情報というふうに言われたりするわけなんですが、そのあたりの違いっていうのが、今回見つけた一つの例文、it was worth the tryから読み取れるんではないかというのが一つ提案です、考え方です。
もう一つの視点なんですけれども、これはですね、動詞のアスペクト、層の問題が絡んでるんではないかという感じがするんですね。これ何かと言いますと、tryもwaitも元々は動詞なわけですよ。この動詞に由来する、そこから生まれた名詞ということなんですね。
ゼロ発声とか品詞転換とか言いますが、動詞の形と全く同じ形で名詞としても使われるっていうことだと思うんですね。こういった場合、元の動詞の意味属性というものが名詞にも持ち越されることが多いんですね。そうじゃないこともあるんで絶対ではないんですけれども、持ち越されることが多いと思うんです。
それを前提に考えますと、try、挑戦する、試すという動詞とwait、待つという動詞の間にはですね、だいぶ異なる性質と言いますか、意味属性があるんではないかと考えられます。対象にもよるんですけれども、普通tryする対象というのはですね、1回ではなくて複数回チャンスが巡ってくるということで、
a try、2 try、3 tryというふうに潜在的には何回も挑戦できるっていう類のものだと思うんですね。その場合、当然複数が前提となっていて、その中の1回ということなので、aがふさわしいということになります。一方、待つということは、ある目標、待っている目標は人生で1回しか訪れないんですね。ここと関係しているんではないかと考えています。
エンディングの考察
おだしょー エンディングです。今日も最後まで放送を聞いていただきましてありがとうございました。最後の方はですね、アスペクトの話で、もう少し引っ張りたかったなという、議論したかったなというところもあるんですが、ただ、今私の頭の中でもあまりきれいにはまとまっていないので、あまり追求してごちゃごちゃになりそうだということであれば止めておこうということで、
一つの観点ということですね。元の動詞のアスペクトに関する意味属性みたいなところから迫ることができるんではないかなというふうにちらっと考えてはいます。
簡単な問題でないということは、とてもよくわかりました。歯切れの悪い回答と言いますか、説明になっていたかと思いますが、有嶋さんありがとうございました。
この問題、もう少し考え続けてはみたいなと思っています。多分解決の糸口はあるんだろうと思います。
もしですね、この問題に対してご意見であるとか、とりわけ専門家の方でもし聞いていてですね、言いたいことがあるということであれば、ぜひぜひご意見、ご議論をシェアしていただければと思います。
このチャンネル、英語の語源が身につくラジオヘルディオでは、あなたのご意見、ご感想、ご質問をお待ちしています。チャンネルで取り上げてほしいトピックなども歓迎です。
Voicyのコメント機能、あるいはチャンネルプロフィールにリンクを貼っています。専用フォームを通じてお寄せください。
チャンネルをフォローしていただきますと、更新通知が届くようになりますので、ぜひフォローをお願いいたします。また、面白かった、ためになった、などと感じましたら、ぜひいいねもよろしくお願いいたします。
それでは、今日も良い1日になりますように。ほったり市がお届けしました。また明日!