ain'tの語源と使用法
おはようございます。英語の歴史の研究者、ヘログ英語史ブログの管理者、 そして英語のなぜに答える初めての英語史の著者の堀田隆一です。
英語史の面白さを伝え、裾野を広げるべく日々配信しています。 今日は11月1日火曜日です。
ついに今年も残すところ2ヶ月となってしまいました。毎年ながら時間の経つのがとても早い。
参っていますけれども、皆さんにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか。 英語の語源が身につくラジオheldio。本日取り上げる話題は、
低俗な短縮形aintは、なんと100年前にはお上品だった。 と題してお話しいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
今日の話題はaintという否定の短縮形についてなんですけれども、 今日の配信、どんな話題でお届けしようかなと毎日ながら悩みながら話題を選ぶんですけれども、
昨日いただいたコメントをリスナーのkkさんからいただきました。 読み上げさせていただきますが、
いつも楽しく聞いています。ありがとうございます。質問させてください。 かなり砕けた口語でaintという否定表現がありますが、いつごろ生まれたものなのでしょうか。
というご質問で、 これについては
調べたこともありますし、少ししゃべれるかなということで、 今日はこれでいこうということなんですね。いつもネタ欠乏症に悩んでいますので、このようにリスナーの皆さんから話題を振っていただけると、
ピタッとはまる場合ですね。今日のように既にしゃべれることがあるという場合には、 割と本当にすぐに取り上げたりすることができます。
そうじゃないケースもあって、調べるのに時間がかかったりしたり、 これもタイミングということもあるわけなんですけれども、今日はこのaintという表現を取り上げたいと思います。
これは非常に口語的な表現ですので、例えば映画であるとか、 あるいは歌詞なんかでも、皆さんも聞く機会というのはあるんではないかと思うんですけれども、
あるいは読む機会すらですね、小説などであるんではないかと思うんですけれども、 非常に便利なんですね。便利っていうのはどういう意味かと言いますと、
be動詞のam not、それからis not、そしてare not、これすべての短縮形としてaintが使えてしまうんですね。
つづりではain'tという書き方なんですけれども、 例えばですね、it's easy ain't itのような言い方ですね。
it's easy isn't itっていうのが標準的な言い方なんですが、非標準的口語俗語、 そしてかなり野暮った言い方で無強要な言い方というふうにだいたいレッテルを貼られますね。
他にshe ain't goingなんて言うと、she isn't goingということになりますね。
I ain't happyみたいな言い方もできるわけです。 さらにですね、have not, has not、標準的に言えばこれは短縮にするとhaven't, hasn'tということなんですが、
この代わりにもやはり口語的、俗語的な響きはありますが、 ain'tっていうのが使えちゃうんですね。
I ain't got no moneyみたいな言い方が可能なわけなんですね。 今の例文はain'tを使っている以上、俗語、口語的な文脈ということですので、二重否定も絡んでます。
I ain't got no moneyという言い方ですよね。 さらにこれはAfrican American Vernacular English、ARVと呼ばれるいわゆる黒人英語のことなんですけれども、
黒人英語に関してはなんとですね、don't, doesn'tの代わりにも使えてしまうんです。 このain'tはですね。
そうするともうオールマイティーですよね。 否定の短縮と言ったらですね、このain't、これを一つ覚えておけば良いということになるからです。
ただ、いかんせん、先ほども述べたように、そしてKKさんも最初に指摘されたようにですね、非標準的なんです。
俗語的で砕けていて、口語で、 いわばランクが低いんですね。
社会言語学的に言うと威信が低いということなので、これを使った途端にですね、場合によってはかなり誤解される。
誤解されるというのは文法的に理解されないという意味ではなくて、 あなた、無教養ですねというような社会的に低いレッテルを張られるという可能性があるわけですね。
実際のところネイティブの教養人でも、口語的な文脈では発したりするのでですね、それだけを捉えて、もちろん教養、無教養って話では全然ないわけなんですが、ただそのようなレッテルが張られているっていうことですね。
これは注意する必要があると思うんです。つまり、我々が典型的に英語を国際コミュニケーションのツールとして学んでいるものにとってはですね、
不要意に使ってしまって、妙な誤解を与えてしまう可能性がありますので、やはり規範的な立場から言えば使うことはですね、少なくとも不要意に使うということは避けたほうがいいということになりますけれども、実際には非常に口語的な文脈でよく使われるというのも事実です。
したがって、聞いて理解する、読んで理解することができるっていうことは重要だと思うんですね。そして、このエイントの歴史なんですけれども、そんなに古いものではありません。ざっと250年ぐらい、18世紀の後半になって現れた否定の短縮形ということになるんですね。
こうした短縮形っていうのは、だいたい近代英語記、1500年以降っていうことですね、に現れてるんです。例えば、don'tなんていうのも17世紀ですね、1600年代に現れています。ちなみに、b動詞で言いますとisn't、aren'tというのはあるんですけれども、amn'tっていうのはありませんよね。これ、歴史的にはあったんですが、定着していないっていうことです。
amn'tのmとnがつながってしまって、発音しづらいということもありますし、ここでmがnに飲み込まれて、そして前の母音が短くなると、結局、aren'tの発音が近くなるんですね。ですので、例えば、I'm happy, aren't I?みたいな言い方が現在でも残っています。
aren't I?というふうに、am notではなくてaren'tを使うというですね、こんなことが起こっているわけなんですけれども、こうした短縮形の否定ですけれどもね、近代英語記以降に生じて、その一連の短縮否定形の中でも、終わりの方に生まれた。
したがって、新しい現代の観点から見ると、割と若い短縮形っていうのがain'tなんですね。この起源なんですけれども、実は諸説あってですね、はっきりしていないんです。
社会的な影響と誤解
Is, am, are, have, has。この否定形、notがついた形なんですけれども、これがですね、ain'tに合流してしまうっていうのは、全体を一緒にしてしまえというモチベーションからというよりも、おそらくなんですけれども、一つ一つの否定形、短縮形ですよね。
ここから音声変化を経て、それぞれ独立にain'tという音に近づいてきたということらしいんですね。かなり近いところまで行って、あとはain'tとまとめてしまえという力はもしかしたらあったかもしれません。この辺りを巡っていろいろと議論があるんですけれども、考えてみれば、いずれのbe動詞、have動詞ですけれども、形を考えると、当然、母音が含まれてるんですよ。
その後にnotがつくんで、これがin'tになるわけですよね。その間にシーンみたいのがあったとしても、これが消えてしまってですね、ntのnに飲み込まれる形で消えてしまうと。そして母音もある程度変異を許しますので、その過程で全てからですね、aren'tとかain'tあたりの語形、音形っていうのが、ある意味引き出せてしまう。
isn'tがin'tになり、このiがどうにかして母音が変わっていけばain'tに近づくわけですよ。それからaren'tと先ほど述べたamn'tっていうのもそうですよね。それからhave、hasについては、そもそも弱く読まれる詩音のhっていうのを持っていますよね。これが落ちちゃうわけですよ。そうするとhave、hasですからaっていう母音が残りますよね。
そして、vも実は、詩音の中では少し母音性が高いと言いますか、弱まってですね、前後の母音に飲み込まれてしまうというようなこともありますので、結果的にですね、このあたりからain'tに繋がる音の変化っていうのがあったとしても、これ不思議ではないんですね。
さあ、このようにいくつか説はありますが、生まれたのはせいぜい250年前、ain'tに限れば250年ぐらい前なんです。そして今でこそ負のレッテル、マイナスのレッテルが張られていますが、なんとですね、100年ぐらい前までは割と上流階級の人々も普通に用いていたんです。
19世紀のイギリスの小説などでもですね、上品な人々が普通にain'tを使っている。こういう証拠があるんですね。語法の社会的な価値って逆転することがあるっていうことです。エンディングです。今日も最後まで放送を聞いていただきましてありがとうございました。
最後の最後に大事な部分って言いますか、確信に触れたんですけれども、ある語法にそれまでは性の価値が付与されていたんだけれども、ある時を境にですね、後の時代になって不のレッテル、不の価値を付されるようになるっていう例ですね。
こういった例はですね、決して多くはないとはいえ、稀ではないんです。逆もまたしんなりで、不のレッテルを張られていたものが性のレッテルを張られるようになる。あるいは少なくともニュートラルぐらいにはなるという例ですね。これもよくあります。
つまり価値の転換、あるいは価値の中立化と言ってもいいと思いますが、この価値の変化っていうのは語法にせよ発音にせよ文法語彙、言語のあらゆる側面で実は起こり得るんですね。時代によって変わるっていうことです。
言葉の歴史を学ぶ意味って一つこれがあるんですね。現在ある表現、ある言語校に付与されている社会的価値、端的に言えばプラスかマイナスかポジティブかネガティブかっていうことなんですが、これは必ずしも昔からそうだったわけではないということなんです。
さらに言えば未来にかけてこの価値が逆転したり少なくとも中立化するっていう可能性は今後もあるっていうことです。つまり現在我々が感じている価値観っていうのは相対的なもんだっていうことなんですね。
この発見、気づきっていうのは非常に大きいです。すべてに通じますよね。いわゆる常識と言われているもの。言葉を見ることでこの気づきが得られます。あるいは既に気づいていた場合にはそれを強化してくれる。そういう事例が言葉から得られるっていうことなんです。言葉の歴史からっていうことですけどね。
これが一つ英語の歴史を学ぶ重要な価値だというふうに私は思っています。
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