品詞転換の基本概念
おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶應義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な議論に、英語史の観点からお答えしていきます。
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今回取り上げる話題は、lower, better ― 比較級が動詞に品詞転換、という話題です。
英語には、品詞転換と呼ばれる現象があります。
これは形のまま動詞の意味になったり、あるいは動詞のまま名詞になったりというふうに、同じ語形が複数の品詞にまたがって使われるということ。
これ、英語では決して珍しくないわけですね。
その中で、割とあるタイプが、さっき述べた形容詞。
本来形容詞なんだけれども、それがそのまま動詞としても使えるというものですね。
例えば、calm ― これは、落ち着いたという意味の形容詞ですが、落ち着かせるという意味にもなりますね。
つまり、形容詞の意味にするとか、なるというのが一般的かと思うんですが、これ非常に多くあります。
例えば、dirty ― humble ― dry ― empty ― narrow ― のような、本来的にはこれいずれも形容詞という意味なわけですが、そのまま〇〇にする、〇〇になるぐらいの意味でですね、動詞としてもそのまま使えるということですね。
これは非常に数があって珍しくもないんですけれども、あるときふと気づいたんですね。
形容詞といえば、比較級というのがあるだろうと。
比較級の形、つまり本来の言及の形というよりも、そこから派生してできた比較級の形がそのまま動詞に転換するというのは、普通に考えるとありそうもないという感じになるわけなんですけれども、
タイトルに挙げたようにlowerとかbetterというのは、これ自体当然ながら、形容詞の比較級なわけですね。lowの比較級でlower、そしてgoodの比較級でbetterということですが、これがそのまま実際には動詞で用いられるわけですよ。
lowerの使用例
下げるとか下ろすですね、低くするという意味のlower、それから良くする、改善するという意味のbetterです。
確かに意味的にはありそうなんですね。
より低いとかより良いということなので、変化と相性が良いはずですね。
より良くするとかより良くなるとかということでいうと、比較級というのはむしろ動詞と相性が良い、意味的にも親和性があるというふうに、こういうふうにも考えることができそうなんですけれども、これは面白い現象だなと思って調べてみたんですね。
このlowerとbetterについてですが、動詞としての使い方、例文をいくつか挙げてみたいと思います。
ではまずlowerからいきますね。
Do you think we should lower the price?というふうにlower the price、値段を下げるということですね。
これはよく使いそうですね。
それからShe lowered her voice as they approachedのように声を落とすということですね。
字動詞としてもHis voice loweredのような使い方があります。
他には物理的に文字通り下げる、低くするということで、例えばThe flags were lowered to half-mastのような言い方ですね。
He lowered himself carefully down from the top of the wallのような言い方もありますね。
lowerの例文をいくつか挙げてみました。
では次、better、よくするということなんですが、この例文をいくつか挙げてみましょう。
例えば地位を上げる、自分のポジションを上げるなんていうときに
Thousands of Victorian workers joined educational associations in an attempt to better themselvesのような言い方ですね。
それから成績委員などで上回る、さらに高い成績を取るのような言い方で
例えばThe work he produced early in his career has never really been betteredのような言い方ですね。
受け身であるとか、最近代名詞を伴って使われることがどうも多いようですけれども、このような使い方で
lower、better、それぞれ比較級に基づいて品質転換を起こした動詞ということになりますね。
betterの使用例と独立性
なかなか面白い珍しいタイプです。
他にいろいろあるんだろうかと思って、少し調べてみたんですね。
例えば、betterがあるのであれば、worseというのもあるのではないかということでこれを調べてみると
実は小英語から動詞として使われていた例があるんです。
ところが19世紀には廃用となっています。
さらに比較級といえばmoreとかlessですね。
これ自体がmany、muchの比較級だったり、littleの比較級だったりするわけなんですが、
これは現在ではさすがにこの比較級の形で動詞にもなるという用法はないんですが、
lessに関しては13世紀から17世紀まで動詞として用いられていたということが分かっています。
さらにmoreについても14世紀、15世紀には使用例があったということなんですね。
つまりむしろ昔の方が自由に品種転換できた、
比較級がそのまま動詞として使われるという例がもしかしたら昔の方があったかもしれない。
ところが歴史の途中であまり使われなくなって、
今残っている、そこそこ使われるものとしてはlowerとかbetterくらいになってしまったということかもしれません。
なぜこのような状況になったのか、そして今はlower、betterくらいなのかということで、
はっきりしたことはよく分からないんですけれども、このlowerにせよbetterにせよ、
確かに元の形容詞の比較級ではあります。
ところがただの比較級というよりは絶対的な使い方、形容詞としての絶対的な用法というのがありまして、
例えば何々より低いという本来の比較級の意味のほかに、上部に対して下部の、つまりupperに対してlowerという使い方がありますね。
程度を比較するというよりは、例えば左右とか東西であるとか上下であるとか、
こうした2つのものの互いに対比させるような語であるということですね。
upperに対してlowerということで、確かに形状はerがついて比較級なんですけれども、それ自体が独立した語として認定されている。
つまりlowとは独立したものとしてlowerという形容詞があるんだというふうに考えることもできるわけですよね。
なのでこれは形容詞があり、それが比較級になり、それが動詞に品種転換したというよりは、
このルート自体は疑いようがないんですが、lowからlowerになったところで、一旦閉じてlowerというのが独立した形容詞になったという解釈のもとに、
新しくできた独立した形容詞lowerが改めて動詞へ品種転換したのように考える方が妥当かもしれません。
例えばthe lower lip、これ下唇ですね。それに対してthe upper lipというような使い方です。
the lower nailに対してthe upper nail、ナイル側の下流と上流というような対比的な使い方ですよね。
betterについても同じような事情があるのではないか。
確かにbetterというのはgoodの比較級ということですね。
この比較級が動詞になったというわけなんですけれども、比較級というところがポイントというよりも、
betterとなった時点で既に一つの独立した単語である、独立した形容詞である。
語形も全く違うわけですね。goodに対してbetter。
まずbetterとなったところで一つの独立した形容詞の地位を得た。
その上でその独立した形容詞を動詞に変換した、品種転換したというのが、
このより良くするという改善するという意味のbetter。
こういうふうに捉えた方が良いのかもしれません。
今回は変わったタイプの品種転換というのを見てみました。
多いタイプの品種転換はやはり動詞が名詞になったり、形容詞から名詞になったり、名詞から動詞になったり、名詞から形容詞になったりということなんですが、
今回は形容詞から動詞の中でもちょっとした変わりな音について取り上げてみました。
様々な品種転換の例というのが英語にはありますので、変わったものを探せばいろいろと出てくるかもしれませんね。
それではまた。