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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
再帰代名詞の定義と他言語との比較
今回取り上げる問題は、 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退、
という英語史上の話題です。
英語には再帰代名詞を用いる動詞表現ですね。動詞とその目的のに再帰代名詞が来るという、それは典型なんですが、
例えば、Help oneselfであるとか、Behave oneselfであるとか、Pride oneself on
といった表現が少なからずあります。
ただあるとは言っても、英語の近隣の他の言語、例えばフランス語であるとかドイツ語などに比べると少ないですね。
これ実際にフランス語を学習している学生から質問を受けたことなんですが、
フランス語には動詞、そしてそれに再帰代名詞が来るというパターンの組み合わせですね。
これが非常に多い。あまりに多いので、文法用語として代名動詞という一つの動詞のタイプとして括られている。
ですが代名動詞という用語であるとか概念というのは英語にはない。
これは何でかというようなことなんですね。つまり英語にもないわけではない。
Help oneself、Behave oneself、Pride oneself on、これはフランス語でいうところの代名動詞にかなり近いものですね。
しかも由来と言いますか、そこにいずれにせよ遡るわけですから、そのレベルまでいくとどうも中間体というですね、
つまり能動体や受動体に対して中間体、ミドーボイスというものがあるんですが、
これに遡るものが多いということで、根っこは一緒なので、フランス語でもドイツ語でも英語にも似たようなものがあるというのは想像できるわけなんですけれども、
それにしても数で比べると、種類の数で比べると英語には少ないということですね。
フランス語やドイツ語ではかなり普通に見られるのに、英語ではあったとしても少ない。
これはなぜかという問いにつながってくるかと思うんですね。
歴史的変遷と表現の減少
実は英語でもですね、古い段階ではこのタイプの動詞プラス最近代名詞みたいな、いわゆるフランス語の代名動詞に相当するものはもっともっとたくさんあったんです。
それがどうもですね、近代そして現代に近づくにつれてどんどん減ってきている。
今でもまあ残ってはいるわけなんですけれども、昔に比べればぐっと数が減ってきているというのが実態なんですね。
実際ですね、英語でもこの種の表現が非常に多くあったんですが、多動詞プラス最近代名詞みたいなものは想像しやすいと思うんですが、実はですね、次動詞プラス最近代名詞という類のものがうんとたくさんあったんですね。
例えばgoに最近代名詞の形がすぐ後ろにくるという形で、例えばhe went himselfみたいな言い方です。
古くは特にあの最近代名詞というセルフがついた形だけでなくて単体ですね、この場合he went himみたいな形でもよく出ました。
最適的に使われる普通の形の代名詞ですけれども、これも合わせて考えると非常に豊かにこの種類の動詞と代名詞の組み合わせというのがあったんですね。
he went himなんて言い方なんですね。
このhimは何なのかっていうと、なかなか難しくてgoと合わさって、それで結果的にgoと同じ意味という、つまりないならないで良いというような位置付けのものなんですが、
この種の表現ですね、まさにフランス語で言うところの代名動詞に近い使い方なんですけれども、これがあった。
goだけではなくて、運動や姿勢を表す動詞ですね。だからgo, return, run, sit, stand, turnなんていう動詞と代名詞ですね、最近代名詞。
これが凶器しやすかったんですね。
他には心的状態を表す動詞ということで、例えばdoubt, dread, fear, remember、こんなのも後ろに最近代名詞が来ることが多かった。
それから獲得ですね。得る、手に入れる系の動詞です。buy, choose, get, make, procure, seek, seize, stealのような場合に最近代名詞が来て、意味的にはto oneselfとかfor oneselfぐらいの意味、少し添えるっていうぐらいですけどね。
その他諸々なんですが、例えばbear, bethink, rest, revenge, sport, stay、このような非常に多くの動詞が、実は最近代名詞とタグを組んでですね、二語でもって一つの意味を表すというようなものがたくさんあった。
ところがこれが近代英語気候に徐々に廃れていって、この最近代名詞の部分を脱落させて、動詞単体で意味を成すようになった。この流れがどうも続いてきたということなんですね。
現代英語でもですね、この最近代名詞が脱落していくという流れは観察されます。つまり今まで続いてるんですね。
例えばadjust oneself toという熟語のように覚えている句ですね、動詞表現なんですけれども、これはone selfの部分を省略、脱落させてadjust toと言ってもほぼ同じ。
同じようにbehave oneself, dress oneself, hide oneself, identify oneself with, prepare oneself for, prove oneself to be, wash oneself, worry oneselfなどでは、最近代名詞のない方の形ですね。
形態的理由と受け身の構造
つまりadjust to, behave, dress, hide, identify with, prepare for, prove to be, wash, worryのように動詞単体で済ませてしまう。むしろそちらの方が単純な構造の方が好まれる傾向があります。
もともとは最近代名詞を取っていたんですが、それがですね、取っても取らないでもいいよと、どっちかというと取らない方が普通だよという方向になってきたということですね。
こんな動詞をsemi-reflexive verb、半分最近代名詞動詞というような言い方で読んでいます。
確かに例えばprepareで考えますと、prepare for the worst、最悪なことを覚悟せよ、用意しておけということなんですが、もちろんこれprepare yourself for the worstと言ってもいいんですが、一般的にはですね、このyourselfの部分を省略してprepare for the worstのように言うことの方が多いんではないかと。
one selfを入れるとほぼ同じ意味ですが、少し強調できない意味は出るのかなという気がしないでもありませんが、一般的には省略される方が普通になってきてますよね。
ではなぜ英語では中世までは非常によく使われていたこの手の表現が近代そして現代にかけて減ってきたのかということなんですが、つまりフランス語やドイツ語では今でもかなり現役で非常に多く使われるわけですよね。
なぜ英語では減ってきたんだろうか。これはなかなか英語史上難しい問題で、私もしっかり研究したことはないんですけれども、one self、あってもなくてもいいというさっきの例えばprepareみたいなタイプではone selfを用いた方が、当然だから二音節も長くなるわけですよね。
なので重々しくなって少し硬いと言いますが意味が重いということにはつながりそうなんですが、このなんとかselfという英語の最奇代名詞は二音節必要なんですね。結構重たいということです。
ここがフランス語なんかだと一音節、一音節というのはsuだけで三人称の場合は終わってしまいますね。seと書いてsuとだけです。ドイツ語でも大抵一音節だと思うんですね。
これが英語では最奇代名詞というものは絶対selfをつけなければいけないということになって、必ず二音節、重いんですね。めんどくさいと言えばめんどくさいですし省略できるのであれば意味の強調もないのであれば落ちてもらったほうが良いといった形態的な理由も一部あるのではないかと考えています。
ただもちろんそれだけでは全く説明できないと思うんですね。最奇代名詞を用いた動詞表現というのは、裏を返せば目的語として最奇代名詞を取るということなので目的語を取る構文であるということが受け身にもなるんですね。
しかも主語と同じものが目的語になるわけですから受け身にするとストレートにいくと。つまり他にも統合的に言い方があると言い換え方があるということがポイントになってくるのかなとも考えています。それではまた。