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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を見失っていただければと思います。
carryの意味の変化
さて、本日の話題は、carで運んだから carryー意味の一般化と特殊化、という話です。
carry、これ運ぶということなんですが、実はこれ語源的にはですね、この最初のcarと綴られる部分、carryのcarの部分は、車のあのcarなんですね。
もともとはラテン語の単語なんですが、これがフランス語を経由して英語に入ってきました。
このcarにせよ、それの一種、動詞形と言ってもいいわけですが、carryですね。
車で運ぶという意味なんですが、今日はですね、この意味の変化ということに焦点を当てたいと思うんですね。
単語の意味が変わってきたということです。
どういうことかと言いますと、車、carで運んだからcarryということで、車で運ぶというのがもともとの本来のcarryの意味だったわけですが、今はですね、使う乗り物が車でなくてもですね、何でもいい。
しかも別に乗り物じゃなくて、手で運んでもいいわけですよ。手でというか足でというか、乗り物を使わなくてもいい。
つまり、車輪のある乗り物の限定で、それを手段として物を運ぶというような、ある意味限定された意味だったものが、今では何を手段として使うかというのは問わずに、
とにかくただ運ぶ、AからBへと物を動かすということですね。
この意味に使えるようになった。つまり意味が一般的になったということです。
限定されていた使い方から、広く一般的にとにかく運ぶということであれば、何でも使えるということになりました。
このような意味の変化を一般化と、generalizationというふうに呼んでいます。
これなどは言われないと気づかないというタイプのことなんですが、この手の単語の意味の変化というのは、それこそ無数に起こってきています。
言葉の変化の中で最もよく変わるものは何かというと、一つ候補として挙がるのがこの意味なんですね。
新しい単語ができるとか、古い単語が廃れていくとか、そういうのももちろん変化なんですが、実は気づかないところで単語の意味が変わる。
単語そのものは生き残っていますし、変わるのはあくまでその中身、目に見えない意味という中身なので、変わったことに気づきにくいんですが、
実は最も頻繁に起こっている言語変化なんではないかと考えられます。
そのような単語の意味の変化にもタイプがあるんですね。いろいろとタイプがあって分け方もあるんですけれども、
今回紹介したいのはキャリーのような意味が一般化する、限定されていたものが一般化してくるというものと、
逆のタイプですね、特殊化、スペシャリゼーションなんて言っていますが、意味が広かったものが限定された意味になってしまうという逆の例もありますので、
一般化の例
いくつか紹介していきたいと思います。まずキャリーと同じタイプの一般化からです。
これは昨日の放送でホリデイというのを話題にしました。これ語源的にはホリデイということなので、もともとは聖なる日で祝日ということなんですが、
かなり限定された、同じ休日でも限定された聖なる日としての休日ということだったのが、今では聖なるという部分が取っ払われました。
むしろ、世俗的に使うことが多いですよね。つまり、休みの日であればとにかくホリデイ、その根拠が聖なる日だからということに限らず、
一般的に休みであればホリデイと使えるようになったという意味では、実はこのホリデイもキャリーと同じ一般化の例です。
他には、ボックス、これ箱ですよね。何のことない、どんな箱でもさせる、今は広くさせる箱ですが、もともとボックスというのはボックスウッドという木です。
ツゲの木ですが、これでできた、この木を材料として作られた箱のことしかさせなかったんですね。
ところが、他の木材で作っても今ではボックスと呼べますし、別に生地じゃなくてプラスチックでも金属でもとにかくボックスといえば箱のことになって、これも意味が一般化したということになります。
他にはですね、ブッチャー、肉屋さんですね。ブッチャーと言いますが、これは本来ヤギを屠殺してする業者というか人のことだったんですね。
つまりヤギの肉を相手にしていたんですが、現代では牛でも豚でもですね、とにかく肉を扱う業者をブッチャーというので、
これも別にヤギに限定されなくなったという意味では意味の一般化の例です。
そしてクライシス、クライシスという単語ですね。これはもともと病気のターニングポイントと言いますかね。
つまり峠ですね、峠を越すというときの、この病気で危機的な状況のことを言うんですが、現代では別に病気に限らず、とにかく状況が危機的であればそれをクライシスと言います。
病気に限定されないということですね。
例えばこのような例が上がってきます。一般化、Generalizationですね。
特殊化の例
じゃあ逆です。もともと広い意味だったものが、どういうわけか限定的に用いられるようになったという例ですね。
特殊化の例をいくつか挙げたいと思います。
最初に挙げるのはOther、Otherという単語ですね。
これは魔虫とか鎖蛇という蛇の一種ある種を指すわけですね。
これ実はもともとは蛇を一般に指す、今でいうスネークに相当する一番広い範囲ですね、蛇を指す語だったんです。
それがその一種に過ぎない、限定的な一種に過ぎない鎖蛇を表すようになってきたということですね。
これなども特殊化の例として挙げられると思うんですね。
同じような例がですね、実はHoundになります。
Houndというのは猟犬ですよね。猟をする犬ということです。
犬もいろいろいますけれども、その中で猟をするタイプの犬のことをHoundと言っているわけですが、
これも実は特殊化を経て、このように限定的な猟犬だけを指すようになったんですね。
もともとの意味は普通に犬、一般だったんです。
現代で言うDogに相当する広い範囲の犬を指し示す、通常の犬って意味ですね。
現代でもドイツ語では同じ語源の単語でHundとありますが、これ広く犬を表しますね、ドイツ語では。
英語でも昔はHound、広く意味を持っていて犬ということだったんですが、
それが限定的に使われるようになったということですね。
それからLustです。
これは一般的な望み、希望という意味だったのが、
今では主に限定的にSexual Desireと言いますか、性欲のことを指すというふうに、
つまり広くさせた欲望を指せたものが性的な欲望というふうに意味が限定された形で、
現代に伝わっているということですね。
そしてMeat、肉のMeatですが、これは肉、食べ物の一種なわけですけれども、
もともとの意味は食べ物一般、つまりフードぐらいの意味だったんですね。
それが野菜もさせたわけですよね、他の食べ物も。
ところがこれが食肉、食べる肉に限定されるようになったという意味で、
特殊化のもう一個の例です。
最後にSermon、Sermon言いたいと思いますね。
これは説教、キリスト教の説教ということなんですが、
これもキリスト教の文脈で使われる説教という、かなり限定された意味になってしまったんですが、
もともとはSpeech、Discourse、つまり単なる話、全般だったんですね。
それが宗教とキリスト教の文脈における説教という意味に縮小したといいますか、特殊化したということです。
このように普段使っている何気ない単語でもですね、昔は意味が違かった。
それが歴史の過程で一般化を経たり特殊化を経たりして今に至っているというものが実はとても多いということなんですね。
それではまた。