2025-03-29 10:00

heldio #252. father と murder - th か d か?

#英語史 #英語学習 #比較言語学 #音韻対応 #発音
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サマリー

今回のエピソードでは、単語「father」と「murder」の発音や歴史的背景を掘り下げている。特に、両者の音の変化がどのように逆転し、言語学的に興味深い関係を築くに至ったのかが説明されている。

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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
fatherの音声学的変化
今回の話題は、father と murder-th か d か、という話題です。
これは何のことかと思われるかもしれませんね。
まず、father これ父親を表す日常的な単語ですが、これ th と続いて、th という有声摩擦音と音声学的には言いますが、th sound の濁ったバージョンですね。father となります。
それに対して、殺人を意味する murder ですね。
これは d で綴られますし、そもそも d の発音ですね。
th murder 有声破裂音ですね。
この2つのシーンは、お互い近い関係にありますね。摩擦音と破裂音ということで、th th th というのと、th th th ということで、音声学的にはそこそこ似ているということですね。
th の方は、空気が一応摩擦しながらも外に出るということですね。
d の場合は、一回咳き止めるんですね。
再び開いた時に、破裂する音、爆発する音、大げさに言えば、これが破裂音ということで、father というのと murder という違いになるわけですね。
これ自体は、スペリングも違いますし、発音もそもそも違うということはわかっていますので、何を問題にすることがあるのかと思うかもしれません。
ところが、歴史を紐解くと、この2つの単語ですね。他にもいくつかありますが、代表的なこの2つで考えていますが、これがですね、実は非常に面白い関係、反対の関係にあるということなんですね。
歴史を知らないと、何が問題なのかということすら気づかないところで、逆に歴史を知るとですね、これが面白い問題に見えてくる。
father と murder という、両方ともそこそこ日常的な単語なわけですが、ここに問題があるということが面白い気づきなんですね。
何なのかと言いますと、古英語に遡ります。これ2つともですね、本来的な英単語ですので、古英語に対応する形、祖先の形があるんですが、これがなんとですね、father の方は、今 th サウンドなわけですが、かつて d だったんです。
そして逆に murder の方は、今 d なんですけれども、当時は th ずっていう音だったんです。つまりあたかもひっくり返ったかのようになってしまってるんですね。で、何が起こったのかということなんです。
ではまず father の方から行きたいと思います。この単語は、古英語では father, father っていうふうに d で綴って、しかも発音もですね d だったわけです。father といったんですね。
それが歴史の過程で、中英語期くらいにですね、この d という音が、本来破裂音なわけです。これが摩擦音化して th サウンドになる、d の音になるという変化をたどったんですね。つまり d が th になったということです。
murderの音声学的変化
で、他にこの種のですね、単語を他に挙げますと、まずすぐ思いつくのが mother ですね。これも古英語ではもうどるというふうに d なんです。ところが今は mother っていうふうに th サウンドになってますね。つまり father と mother っていうのは、同じような歴史をたどっている。この問題の死因に関する限り、同じような歴史をたどったということになりますね。
他にはですね、現代の発音で紹介しますと gather, together, weather, hither, whither, thither という単語群ですね。これらはすべて th を含みます。th のスペリングと、そして発音も th ということなんですけれども、かつては、古英語ではいずれも d だったんですね。
今と同じ順番で読み上げますと gather, together, weather, hither, whither, thither の通りですね。
このように、古英語時代には d だったものが、中英語期あたりの音の変化、摩擦音化という過程を経て、現在では th で綴られるし、実際発音もされるという具合になったわけです。
この代表選手が father ということですね。これはもともとは father だったのが father というふうに th サウンドになった。
このように、古英語の d は th に変わる傾向があるんだということを確認したわけなんですが、確認したばかりなのに、逆に苦労するかのように反対の音変化も起こっていたという不思議な現象があるんですね。
古英語では th で綴られ、th の音で発音されていたものが、今度は近代語とか現代語の対応語を見てみると d で綴られている。もちろんこれ d で発音されているという逆転現象が起こっている、そういう単語があるんですね。
その代表選手が murder なわけです。これは古英語では murder というふうに th なんです。この th が d に変わって、今 murder というふうになっているわけですね。
では他に同じような類の単語としてどういうのがあるか。これもまず現代英語の発音としていくつか単語を読み上げたいと思うんですね。まずは burden, could, fiddle, needle, rudder, spider, staddle, swaddle のようにすべて d が聞こえると思うんですね。
これらすべて古英語の対応する形、千年ほど前の形では th だったということなんですね。
同じ順でいきますと burden, could, fiddle, needle, rudder, spider, staddle, swaddle というふうに th で綴られて、そして th の音だったということになります。
さあではこの father と murder ですね。またかも発音変化の方向がクロスしたような形なわけなんですけれども、どうももともとの faddle が father になったという d から th これはですね15世紀頃にどうやら起こったと。
一方ですねその逆の murder の方ですね。th だったものが d に変わる。これはですねもう少し早く12世紀頃に起こったと。つまりクロスしたと言ってもですね時代も違うということなんですね。
この辺がまたややこしい。いろいろと調査されているんですけれども、はっきりしたことはわかってないことも多いんですね。実際その今述べた15世紀、12世紀に変わったと言ってもですね、実際上は変わる傾向を強く示したということで、その前後の時代からですねそのようなきざし、その変化が早く起こり始めていたし、
しかも15世紀、12世紀を超えてですね、元の古い方の発音も同時に存続していたんです。つまり並行して2つの発音が走っていたというのが事実なんですね。で、徐々に古い発音が消えていって新しい発音の時代がやってきたという風に、発音変化っていうのは実際には非常に時間をかけてですね、ゆっくり進むものなので、共存していた時期っていうのがあるんですよ。
例えばですね、バーデン、マーダー、ラダーなんていうのは今Dなわけですね。で、古英語ではTHだったと言いました。ところがですね、このTHの発音もかなり遅くまで、近代英語記まで並存していたっていうのも事実で、例えばシェイクスピアあたりではですね、まだバーデンとかマーダーがTHのスペリングで出ている。これも割と普通に見られたことなんです。
ですので、こうした単語だとですね、元の古い方の発音が結果的にですね、残るということだって十分歴史的にはあり得たし、何がどう転ぶかっていうのは、蓋を開けてみないとわからないっていうところも一方であるわけですよね。
さあ、今回の教訓なんですけれども、冒頭に述べたように、fatherとmother、これスペリングも発音も現代的には違いますので、何もこの二つをですね、並べて問題がないように感じる。ところが歴史を見ると問題が潜んでいるということです。
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