言語接触の基本概念
おはようございます。英語の歴史の研究者、そして英語のなぜに答える初めての英語史の著者の堀田隆一です。
8月21日、日曜日です。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
連日の放送でコメントや質問をたくさんいただきましてありがとうございます。本日もですね、ある特定のコメント・質問を取り上げつつ、
一般的な話題なんですけれども、言語接触の結果、何が起こるのかという話題でお届けします。本日もどうぞよろしくお願いいたします。
先日、カミンさんよりいただいた質問です。全体としてフランス語と英語のですね、歴史の比較ということになりまして、長文いただいたんですけれども、
それをかいつまんだ形で全体をまず紹介したいと思うんですね。まず最初の部分は読み上げたいと思います。
古代末期から中世にかけて、グレートブリテン島も大陸のフランスも多民族の侵入によって、その地域で話されている主要言語の交代が起こっています。
しかし、多民族の侵入と支配があっても、主要言語が入れ替わらないこともあります。どのような状況によって言語が入れ替わったり入れ替わらなかったりするのでしょうか。
というご質問なんですね。その後にフランスでの状況、そしてブリテン島での状況というのを要約していただいているんですけれども、
ざっと言うとこういうことだと思うんですね。フランス語ではもともとケルト語系のガリア語が話されていた、そこにローマ帝国の職種が及んでですね、ローマ帝国で話されていたラテン語に置き換わります。
ガリアナマリではありましたが、ラテン語が主要な言語となるんですね。その後フランク族、ゲルマン民族ですね、これがやってきて支配されることになるので、
フランク語、英語のある意味仲間です。この言語によってラテン語が影響を受けて少々変質すると、ただ大きくは変わらない。
ラテン語はラテン語のままだと、そしてそのラテン語がだんだんとロマンス語化して、いわゆる現代のフランス語につながるようなものに変質していくということですね。
その後、ノルマン語なんかも入ってきますけれども、大きな影響は与えずに、結局ですね、ラテン語の系列を引くフランス語が今でも話されているっていう、これがフランスでの状況ですよね。
次にブリテントの話なんですけれども、まさに英語史の話題ですが、そもそもはケルト語が話されていた、ケルト系のブリトン語というのが話されていた。
そこに5世紀になって、いわゆるニシゲルマンのアングロサクソン、ジュートという三部族がやってきて、この島を乗っ取った。
ケルト系の言語は橋に追いやられて、事実上言語が交代したっていうことになりますね。英語に変わったっていうことになります。
その後、北欧のバイキングの影響で英語が変質しますが、英語そのものは保たれたっていうことですね。変質はしながらも。その後、ノルマン征服によって、フランス語のノルマン方言というのが正確ですが、これによって影響を受けたわけですね。
影響を受けたといっても、主に語彙的な影響ということで、やはり本体の英語は変わらずに残ったっていうことですね。そして今、ブリテン島の主要な言語が英語になっているっていう。これがフランスとグレイトブリテンでの全体的な言語接触の流れっていうことだと思うんですね。
さあ、この辺りをカミンさんが要約していただきまして、最後に非常に長くなってしまいすいません。中世のブリテン島の言語史において、主要言語の入れ替えが起こったあるいは起こらなかった要因としては、どういうものが考えられますでしょうかという、かなり大きな大規模な質問をいただきました。
英語とフランス語の対象言語史というような、そういう話題でもあって、大変エクサイティングで、ここで数分で答えられるような話題ではないんですけれども、非常に刺激的なご質問ありがとうございました。
まず、この分野、言語、2言語、あるいは3言語以上っていうこともあるんですが、ここは話を単純化するために2言語と考えたいんですが、2言語が触れ合ったときにいろんなことが起こるんですね。これ言語接触というふうに、language contactというふうに呼んでますけれども、そしてこの問題、実は非常に今、言語学の中でもあるいは歴史言語学の中でも盛り上がっていて、
ここ3、40年ぐらいで一気に来てますね。昔からこういう話題はあったんですけれども、一つの領域って言いますかね、contact linguisticsみたいな言い方、接触言語学なんて呼ばれるような形で、体系的に領域として意識されるようになったのはここ3、40年ということで、実はなかなか盛り上がっている。英語史で言っても盛り上がっている分野なんです。
それから話を進める前に、言語が交代するということですね。置き換わるとか入れ替えが起こるって言い方がありましたが、これ専門的には言語交代、language shiftというふうに言いますので、この言語交代という用語を使っていきたいと思うんですが、要するに2つの言語が接触したときに、どっちかがメインになってlanguage shiftです。
言語交代が起きる、あるいは起きないというようなことが、フランスでの歴史を見ても、それからグレートブリテン島での歴史を見ても、いろんなパターンがあると、これ何によって決まるんだ、どういう条件が関わってくるんだろうかということですね。
英語とフランス語の言語史
これがまさに、接触言語学ではかなり大きな問題、一般的な問題になっていまして、類型論的な観点から、世界のさまざまな事例を集めて、そこから共通項をくくり出すというような、そういう研究とか考察っていうのがあるんですね。
そうすると、本当に世界の個々の東西の言語を見ていると、言語接触の際にどんなことが起こるかっていうのは、本当にケースバイケースだっていうことがわかるんですね。
そうしますと、例えば英語で起こったこととか、フランス語で起こったことっていう、ある種特殊例ですよね。特殊例だけを見ていても、やはりなかなか答えが出てこないので、全体として類型的に見て、その後で英語はこういうケースだった、フランス語での言語接触はこういうケースだったんだみたいに、後から理解するみたいな順番のほうが視野としては広くなるのかなっていう気がするんですね。
そのさらに後に、普通の言語接触の結果みたいなものを付き合わせて比べてみると、もっと面白くなるのかなと思うんですね。ここでは簡単に全部の作業をすることはもちろんできませんので、大変一般的な言い方になりますが、言語接触の結果、どういうことが起こり得るのかっていう類型論をですね、
今分かっている段階で研究が進んでいる段階のところを解説的に示すということで、とりあえず今回は済ませるということにしたいと思うんですけれども、AとBの言語が接触した、言語接触っていうのは本来的には言語同士の接触と考えるよりは、
それぞれAとBの言語を母語としてしゃべっている集団同士の社会的接触ということが背景にあるわけですけれどもね、ただそれはショートカットでAとBの言語が接触したという言い方をし続けていきたいと思うんですけれども、AとBが共存し続けるっていうケースもありますね。
あるいはAがBを飲み込んでしまって、つまりBの母語話者からするとAに繰り返すと言語交代するということになりますね。そういうことが起こることもあります。そして逆もありますね。BがAを飲み込む、つまりAの母語話者がB言語へ母語を乗り換えてしまうということもあったりしますね。
あとはですね、AとBの言語特徴が混ざった形になって、いわゆるビジンとかクレオール語みたいな、いわゆる混合言語みたいな形になって、新たなCみたいな言語ができるとか、実はいろんなパターンがあるんですね。
さらに単にAとBが並び立つっていう場合でも、やはり何らかの影響はお互いに与え合うもので、それが例えば語彙、釈用語を受け入れた、AがBから釈用語を受け入れたとか、その程度で済むものもあれば、文法までから発音までというような、かなり言語のコアの部分まで受け入れるっていうようなこともあったりします。
では様々なパターンの結果があり得るんですが、それが何によって決められるか。ここがとっても大事なことなんですが、大きく分けて社会的な条件というのと、もう一つは言語的な条件っていうのがあります。
ただ、私が様々な文献論文などで、この問題について読んでみる以上は、多くの論者が圧倒的に強いのは社会的な条件の方であると。私もそう思うんですね。
言語的な条件っていうのは、要するにA、Bの2つの言語がどれくらい似ているであるとか、どれくらい同じ派閥に属しているとか、違う派閥だとか、その辺ですね。全く聞かないというつもりは私もないんですけれども、それよりも、もう圧倒的に社会的な条件の方が強さとしては、聞きが強い。
これは多分言えると思うんですね。では、どういう社会的条件、あるいは社会的要因が言語接触の結果に効いてくるのかというところなんですが、いくつかパラメーターが挙げられています。まず一つは、接触の強さという、言ってしまえばそれはそうだろうなというようなパラメーターなんですが、接触の強さっていうことですね。
接触の濃密さと言ってもいいと思うんですが、これ自体がいろんなファクターから実はなると思うんですよ。まず、AとBのそれぞれの集団の規模っていうのは関係するでしょうね。圧倒的にBの方が大きかったりすると、やっぱりBがAを飲み込むということになりがちかと思いますし、ただですね、数だけの問題ではない。人口の問題だけではなくて、少ない集団であっても圧倒的な社会的地位がある。
あるいは軍事的な強さであるとか、権威のようなものがあれば、人口に関わらず、Aの方が大きいとしてもBの方が小さいとしても、Bが影響力があればAを飲み込んでしまうということもあり得る。つまり、このAとBの集団の規模という量的な問題だけではなく質というのが関わりますよね。
それからですね、AがBに乗り換えたり、BがAに乗り換えるっていう言語交代が起こるっていう時には、なんだかの形で言語を学ぶってことになりますよね、相手の言語。今のような教育っていうのはない古代中世のお話ですが、やはり言語を習得するという過程は減るわけなんですが、その習得の過程がパーフェクトなのかインパーフェクトなのかっていうそこのパラメーターですね。
ここも大きいと思うんですね。完全に習得して事実上のバイリンガルになるのか、それとも中途半端な習得で済んでしまうのかという、これはいわばですね、何のパラメーターっていうんですかね。広くは社会的と言っていいと思うんですけれども、どれくらい相手の言語に乗り換える、本当の意味で乗り換える必要があるかというような圧力の問題ということが関係してくるのかなと思いますね。
そして、第三の社会的パラメーターですが、これが実は一番重要なんではないかと私は思っているんですが、話者の態度。態度って言うと結局心理的なものなんで、ここがファイナルなんではないかと実際には私なんか疑っているところがありまして、相手の言語に対して確かに権威はあるかもしれない。
だけど嫌いだとか、そこまで学ぶ必要もないわと思ったら、それはその個人にとってはもう習得するっていうことはできないというか、諦めるというか、そもそもする気がないっていうことになりますよね。
一方で、権威がある、威信がある。だからそれにあやかりたいという気持ちがあれば、それに乗っかっていくと言語交代が進む。これが個人レベルでなくて、集団レベルで同じような態度を持っていれば、全体として同じような方向、例えばAがBを飲み込むとか、あるいは飲み込まれるとか、あるいは距離を置いてAとBが共存するとか、いろんなパターンが出てくると思うんですが。
この3つぐらいのパラメーター、社会的な要因ということで、まずそのAとB言語の接触の強さ、濃密さという一般的な話です。これは量的にも質的にも考えることができると思います。
そして2点目は、習得が絡みますので、その習得が完全だったのか、それとも不完全だったのか、つまり完全バイリンガル化するような形で学んだのか、それとも中途半端な語学力で終わってしまうのかという側面ですね。
そして3点目は、各個人、あるいは個人を集めた集団の相手言語に対する態度ということです。好きか嫌いかと、非常にざっくり言ってしまえばそういうことなんですけれども、これも社会心理的な問題になりますので、非常に厄介ですね、一般化するのが。
社会的条件の重要性
この3つが、2言語接触の結果、何が起こるかというその結果、季節に影響を及ぼす3社会要因ということになるかと思うんです。他にも言語的な要因であるとか、さまざまなパラメータ他にもですね、やはりあるとは思うんですけれども、私が考えるところ、最も一般化できるのは、今述べたようなですね、社会的な3パラメータ。
ということなんではないかと、今のところ考えています。
今回、カミンさんからいただいた、この大きな質問ですね。これ、お題としては、大変追求しがいがあるということで、今後もですね、何らかの形で続けて継続して議論していきたい、考えていきたいなと思うところではあるんですけれども。
ここで非常にカジュアルな形ですけれども、私が考えている、英語における言語接触の歴史とフランス語、あるいはフランスですかね、フランスにおける言語接触の歴史というものをざっくりと比べてみますと、それぞれいくつかの言語接触の歴史を経てきたっていうのは、先に概略を述べた通りなんですけれども。
上下っていうはっきりした関係になる場合もあれば、実は横並びの関係になるっていう言語接触もあるんですね。英語の場合は、それ英語とコーノールド語、バイキングに攻められた時です。これはバイキングに攻められたって意味では、軍事的にバイキングの方が上というふうに考えられはするんですが、言語的影響とか文化的影響ってことを考えると、かなり横並び、どっちがずば抜けて強いっていう感じではないので横並びだったんですね。
ちょうど似たようなことが言えるのは、フランス側はフランス語と、あるいはフランス語になる前ですからラテン語ですね。ラテン語の段階とフランク語だと考えてるんですね。フランク族は確かに征服したわけですので、軍事的に。その意味では上。
そしてラテン語が下という時があったというふうに考えることはできるんですが、ただ文化レベルであるとか言語レベルで言うと、割と同等に近いって言いますかね。なのでお互いに影響を及ぼしたっていう感じが強いんじゃないか。
結局その後残ったのは、ブリテン島側では英語のほうがベースになって、結局現在は続いているし、フランス語側もですね、やはりラテン語側が勝利してと言いますか、結局生き残り、それがフランス語に発展しという形でフランク語は影の薄い存在として消されていったようなところはありますけれども、当時の状況を考えると割と横並び的でお互いに影響を与えあっていたんじゃないかなっていうふうに考えているというのが、
そのように考えているというのが一点ですね。もう一つは最終的にブリテン島でラテン語が根付かなかったというのは、これはフランスとの最も大きな違いだと思うんですね。
もともとケルト人がいたっていう条件は一緒。そこにラテン語が乗っかっていこうとしたっていうところは一緒なんですが、ブリテン島では完全置き換えっていうのは起こらなかった。
ところがフランスガリアでは完全置き換えと言いますかね、が起きて結局今の今までラテン系、ロマンス系の言語としてやっているっていう、そこはかなり大きな分岐点だったと思うんですけれども、これももちろん個々の接触のスタイルであるとか歴史に追うところが多いんですが、ものすごくざっくり私のですね、考えているところを述べますと、
ブリテン島はローマから遠かったということなんだろうと思うんですね。地理的にです。ガリアは近かった。海峡を挟むとか挟まないっていうのもそこにリンクしてくると思うんですけども、やっぱり遠かっただと思うんですね。
これはあっけないほど簡単な理由で子供じみた理由のように思われるかもしれませんが、私はそこが肝なんではないかっていうふうに思っています。
今回のご質問についてはですね、そこから発展し得る様々な面白い話題が出てくると思うんですね。今後も取り上げていきたいと思います。
このチャプターに参考になりそうなヘログの記事いくつか貼り付けておきたいと思いますので、URLですね。そちらからジャンプしてお読みいただければと思います。
エンディングです。今日はリスナーのカミンさんからいただいた非常に深遠な大きな話題だったんですけれども、こちらに答えすると言いますかコメントするという形で放送いたしました。最後まで聞いていただきましてありがとうございます。
ちょうど昨日の放送のエンディングでこの私の英語の語源がミニスクラジオですね。このチャンネルというのはボイシーの中ではハウツー学習という名前のカテゴリーの1放送1チャンネルということになってるんですね。
その中でもいくつか分かれていて語学っていうのがあって、いわゆる語学の仲間としてこのチャンネルがあって、そこに入っているチャンネルはですね、大体いわゆるスキル系だったりするんですね。リスニングとかあるいはスピーキングですかね。発音練習を練習しようっていうような。
いわばラジオですから、そういったスキル系ですね。語学にはなかなかご相応しいようなメディアですので当然だなと思うんですが、その中ではですね、このチャンネルのような歴史を扱うというような直接スキルにつながるのかなとちょっと怪しい系のものっていうのはあんまりないんですね。
なので一人目立ちしてるっていう感じで、ちょうど昨日のエンディングでもそんなことを言って、やや寂しいんですが、皆さんのおかげで続けられていますということを述べたんですが、そんなちょうど昨日なんですけど、Twitterでボイシーの公式からですね、ツイートが来まして、この語学部門の7月かな。
7月の語学部門のランキングで、このチャンネルが4位に入っているということで、腰抜かしそうになったんですね。
もちろんめちゃくちゃ嬉しいので、嬉しいですって反応みたいなことをしたんですけれども、嬉しい驚きって感じで驚きが大きかったですね。
聞いていただいているんだということで、非常に驚き喜び嬉しいという感じで、私もますますやる気になってきたぞということで、これ7月の統計ということで注目度ランキングっていうんですよね。
単なる聞かれた数とかフォロワー数じゃなくて、なんかアルゴリズムがあるんだと思うんで、その辺ブラックボックスなんでどうなってるのという感じはするんですけれども、少なくとも元気づけられはしました。
これからも皆さんの応援聞いていただいているということをエネルギー源としてですね、毎日面白い話題に提供していきたいと思っております。
引き続きよろしくお願いいたします。
皆さんからのコメントや質問もこのチャンネルをですね、動かしていく上での動力源って言いますか、エネルギーの源となっていますので、ぜひですね、ご意見ご感想ご質問を寄せいただければと思います。
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それでは今日日曜日ですけれども、皆さんとって素敵な1日となりますように、もったいうちがお届けしました。また明日。