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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
Ebonics論争の発端
今回取り上げる話題は、Ebonics論争についてです。
この黒人英語をめぐる、Ebonics論争と呼ばれているある論争が、1996年にアメリカで起こりました。
これについて、ざっと紹介したいと思うんですね。
今日のこの話題提供は、実は数日前に始めたYouTubeのチャンネルがありまして、
慶応義塾大学文学部英米文学専攻の井上一平先生と一緒に私がオープンしたもので、
井上一平堀田隆一英語学言語学チャンネルというものですね。
そしてこれが、昨晩2回目の放送が流れましてオープンになりまして、
タイトルは標準英語がイギリスの○○方言だったら日本人楽だったのに、英語学への入り口ほったへん、
と題する第2回が昨晩一般公開されました。
そこで様々な方向に話が飛んだんですけれども、
これまず私の自身の関心である複数形のSから始まって、
同じSつながりだということで、動詞の三単元のSですね。
あれに話が及んだと。
そうすると標準英語では三単元Sをつけるけれども、
イギリスのある方言では実は三単元のSなんてつけないんだという話になり、
方言の話になったんですね。
イギリスの方言の話から今度はアメリカの方言の話になって、
地域方言だけではなくてですね、社会方言。
いわゆる人種によって喋る英語が違うというような社会方言のところにまで話題が及んで、
その中でですね、出てきた話題の一つがエボニックスという黒人英語。
アメリカの黒人の人々が喋る英語ですね。
いわゆるブラックイングリッシュというものですが、
これがですね、ある社会問題に発展した、論争に発展したということがありまして、
その紹介ということになります。
YouTubeのチャンネルでは詳しく話していないわけなんですが、
教育委員会の決議
この同じタイミングでですね、このVoicyでこのエボニックス論争を紹介したいと思います。
これは何か、どういう事件かと言いますと、
時は1996年、場所はアメリカのカリフォルニア州です。
オークランドの教育委員会がある決議をしました。
何かと言いますと、教室、学校の教室で、
エボニックスとの後に呼ばれることになるんですが、いわゆる黒人英語ですね、ブラックイングリッシュです。
教室で黒人英語を正式に使うということを認知する。
そしてそれを使い続けるということをですね、許可する、決定するということなんですね。
これはどういう状況かと言いますと、黒人の子供たちに、
当然彼らは母語、ネイティブラングウィッチは、スタンダードイングリッシュではなくて、ブラックイングリッシュということですね。
普段ブラックイングリッシュを使っているし、それが第一言語としてピックアップした言語であるということです。
とすると教育においては当然ながら、母語によって教育を受けた方が成績がいい、飲み込みが早い。
これ当然ですよね。
例えば日本語を母語とするものとして生まれたらですね、日本語で教室で教わった方が、
英語で外国語で教わるよりは当然飲み込みが早いという非常に当たり前のことなわけなんですが、
黒人の子供たちにとってスタンダードイングリッシュというのはネイティブではない、母語ではないんですね。
普段接していることは非常に多いとは思いますが、それでもやはり普段使いしているのは自分たちの母語であるブラックイングリッシュであるということですね。
つまりこれを黒人の母語としてブラックイングリッシュを認め、それを公教育ですね、公の教育の中で教室で使うということを認めようという決議でした。
一言、ブラックイングリッシュという言い方についてなんですが、これは現在でも通りはいいということで、
黒人英語そのままの訳ですし、ブラックイングリッシュ、これ自体が何か差別的であるとか、そういう用語でも特にないんですが、
一般的には言語学上はAAVEというふうに省略して書いて、アフリカン・アメリカン・ヴァナキュラー・イングリッシュというふうに言うAVEなんていうことが多くなってきていると思うんですが、
当時この議論といいますかね、論争が起こったときに新たに用語を生み出してですね、エボニックスという同じ黒人英語を指す言葉として、この論争の象徴としてですね、キーワードエボニックスというのが出てきたんですね。
これ自体は、エボニーというのは黒炭の木ですね、黒い木ですね。それにソニックス、音声、発音ぐらいにですね、つまりブラックイングリッシュの発音ぐらいの意味で、これを2つ合わせてエボニックスという一つの象徴的なキーワードが生み出されたということになるんですね。
これでこの論争の名前にもなっているわけなんですが、ポイントは教育委員会という非常に公的な機関がですね、学校の教育教室において、エボニックス、ブラックイングリッシュあるいはAVEを認知し、保持して使用することを決定したということだったんです。
反対意見と議論
しかしこれに対して様々な強い反対意見も出されました。だからこそ論争になったわけですが、例えば翌年の1997年の1月にですね、アメリカ上院の省委員会の校長会では、このオークランドの教育委員会の決議に対してですね、黒人からも白人からも非難の声が上がったということです。
つまりオークランド教育委員会としては、母語で教えるのがなぜ悪いのか、母語で教える方が成績が伸びるという趣旨で当然決議したわけなんですけれども、一方で教室でまでエボニックス、ブラックイングリッシュを使い続けては、最終目的地であるスタンダードイングリッシュ、ちゃんとした英語のスキルが磨かれないではないかというような趣旨も大きいですね。
ですがもちろんここには単なる教育の言語は何であるべきかという問題だけではなく、根強くある差別意識、黒人差別という問題が入り込んでいましたし、さらに言語学的に言っても、スタンダードイングリッシュ、標準英語というものとこのエボニックスはどういう関係なのかという問題ですね。
つまりスタンダードイングリッシュをブロークに崩したのがエボニックスだということになると序列ができますよね。スタンダードイングリッシュがやはり偉くて、そして下の堕落した言語がエボニックスだという考え方になります。
一方言語学ではそういう社会的差別意識というのを込めずにですね、単にスタンダードイングリッシュはこういう特徴がある。それに対してエボニックスはこういう言語特徴があるということを記述してですね、2つは異なるものなんだと。
関係する言語ではあるけれども異なるものなんだ、あるというのが言語学、理論上の言語学者としての態度であるというようなこともあってですね、いろんな方向にこう議論が飛び散るっていうことですね。
そう簡単な問題ではないっていうのがわかるかと思うんですが、そう簡単な問題ではないのに、同じその1997年の1月なんですが、アメリカ言語協会ではいろいろ議論する前にですね、万丈一致の支持を得た、つまりオークランドの教育委員会の決議ですね。万丈一致の賛成を得たということになるんですね。
ですがこれはやや早急なところがあって、やはり議論すべきだったのではないかということで、このアメリカ言語協会に対する批判と言いますかね、専門家集団のはずなのに、非専門的な判断を下したというような批判を浴びたということなんですね。
ここにはもうある意味ドロドロの言語学上あるいは比較言語学上のこの2つの問題となっている言語は、本当に1つの言語の2つの表れなのかそれとも異なる言語なのかという2つの言語編集がですね、方言同士なのかあるいは異なる言語なのか、さらに第三のものなのかという非常に頭の痛い言語学上の問題と、
さらに社会的な差別ですね、国民差別の問題とが絡まったそういう論争ということなんですね。ではまた。