指示詞の基礎
おはようございます。英語の歴史の研究者、ヘログ英語史ブログの管理者、 そして英語のなぜに答える初めての英語史の著者の堀田隆一です。
10月6日、木曜日です。いかがお過ごしでしょうか。 英語の語源が身につくラジオ heldio。本日の話題は、指示詞 this, that, these, those の語源です。
どうぞよろしくお願いいたします。 今日はリスナーさんからのコメントを受けて、指示詞の話題をお届けしたいと思います。
485回でしたかね。関係代名詞の歴史、意外と遅かった who という関係代名詞を扱った回で、the についても触れたんですね。
いわゆる定関詞 the です。これにつきまして、リスナーの h74さんから次のようなコメントをいただきました。読み上げます。
毎日貴重なお話をありがとうございます。 that が the の活用形の一つだと初めて知りました。
知的好奇心を喚起させる内容でした。そうすると this はどこからどのように出現したと考えれば良いでしょうか。
というご質問ですね。 h74さんありがとうございました。
このいわゆる指示詞の問題なんですけれども、実は語源がかなり込み入っていまして、一言で説明できるか、うまく説明できるかというのはあまり自信がないんですけれども、
トライしてみたいと思います。 指示し、指示するっていうことですね。指を指すっていうことなので、近いものであれば this を使って、遠いものであれば
that を使う。それぞれ近象、遠象、近いものと遠いものっていう言い方をしますね。 このように指を指して表現できるような、これを言葉に変えたようなものを指示し
demonstrative というわけですね。 日本語の場合にはこれ、あれという近象、遠象があって、それからその真ん中的な位置付けっていうんですかね
それというのがあります。英語の場合は近いと遠いっていう二項対立ですね。 日本語の三項対立とは違って
二項対立になるわけですね。 this と that っていうことです。 中間的なものに相当するものは日本語のそれに相当するものはなくて、これは
遠い方の that で対応するというのが英語の仕組みですね。 ちなみに it これそれと訳すじゃないかっていうんですが、これはあくまで指示しではなくて代名詞です。
i とか u とか he、she と同列の it っていうことで指を指してそれというわけではないんですね。
前に出てきたものを指してそれという意味で指差しとは関係ないという意味で指示しではないっていうことに注意してください。
英語では近いものと遠いものっていうことで近象遠象で this that この二系列があるっていうことがまず重要なポイントですね。
thatの語源
そしてこの this と that がどのように生まれたかということなんですけれども、 先日の放送でも見た通りですね、まず that の方、これは the の
中性の形なんです。 小英語には男性女性中性という文法上の性、ジェンダーというのが分かれていまして、その中性の形が
that だったんですね。小英語の発音ではさっとというふうに濁らなかったんですけれども、さっとですね。
つまり the の一つの活用形だったということになります。 そしてこの the なんですけれども、
現代の英語ですと定感詞というふうにすぐに思い浮かぶわけなんですが、 当時小英語当時はですね、確かに定感詞的な役割もあったんですが、同時に
縁章としての、支持詞としての役割ですね、これもあったんです。 つまり the という単語一つで、今でいうとこの the の意味と that の意味
the と that の役割を共有していた、それが the だったわけです。 後の歴史でこの the は定感詞的な役割に特化することになりました。
一方、小英語の時代にはこの the に宿っていたもう一つの機能、 支持詞としての役割ですね。つまり今でいう that の役割、これが分化して
the の一形態である中性形ですね、 that に乗り移った形で、そこに受け継がれた形で現代まで来ているということなんですね。
つまり the の二つの役割が形を変えて、二つになってですね、それぞれ一つの単語につき、一つの意味という比較的分かりやすい形になって現在に受け継がれたということです。
縁章の that の方は、まずこのようにして生まれたということになりますね。 次に近章の this の方に行きたいと思うんですけれども、これも th で始まっていることから分かる通り
やはりですね、根本的には the と関係があるんですよ。
the に近いですよっていう印ですね。近章の印みたいな、お尻に語尾みたいのをつけたのが、いわば this の原型です。
小英語ではその中性の形、that と同じです。中性の形っていうのがありまして、これが this だったんですね。濁らない音ですが、後に濁って this になります。
そしてこれはつまり近章っていうのは、そもそも近章専門の支持として小英語からちゃんと存在したっていうことになります。
この点では先ほどの that と違いますね。 that は the から分かれた形で独立したんですが、
this の場合はもともと this という形で小英語から存在し、それがそのまんま語頭シーンが少しだけ濁ったっていう変化はありましたけれども、このまま this に繋がっているっていうことで、あまり変化がないっていうことになりますね。
this については分かりやすいです。さて、単数系列はこんな感じなんですね。
ところが英語の支持詞 this that 近章遠章にはそれぞれ複数形っていうのがありますね。
this の方は these そして that の方は those となっています。この複数形がどのようにして現れたかっていうのは、
実は英語史でも意外と揉めてきたところなんです。小英語でも支持詞の系列はですね、ちゃんと屈折表、活用表がありまして、複数形というのもあるんです。
なので、そこのマス目にはまっている複数形がそのまま these、those になったんではないかと考えられそうなんですが、そう簡単でもないんですね。
というのは、まず the の方ですが、that の元となった the ですね。これの複数形は何かっていうとさーという形なんです。
この形がいわばですね、the の複数形であり、当時の that の役割も含んでいたthe の複数形だったわけなんですが、これがもし受け継がれていたら
挿し詰め those とか、こんな形になっているはずなんですよ、今頃。ですが those という支持詞の複数形は普通使われていません。
一方、小英語からすでに支持詞、謹称の支持詞だった these についてはどうかと言いますと、この複数形は those という形なんです。
この those という形が、もし順当に音変化を経て現代に受け継がれていたらどうなるかというと、なんとこれが those になるんですね。
つまり謹称である this の複数形が発達した形ですね。その結果としての those が
円称の複数形になっちゃってる。that の複数形になっちゃってるっていうちぐはぐなことが起こってるんですね。この辺がややこしい。
じゃあ本来の this の複数形、これらは、という時に
今 these なわけですが、これはどこから出てきたんだという話になるわけですね。英語史では一般的にこのように考えられています。
この these という形は、謹称の単数形 this の後ろに e という複数形語尾をつけたものだという解釈です。
this をつけるんですね。これで these。最初のところの母音は実はどこから出てきたんだという問題はあるんですけれども、ここでは簡略化して説明しますと、基本的には this に
形容詞の複数語尾 e をつけたものなんだと。古くは英語では、形容詞もきちんと屈折しまして、例えば複数形っていうのがあったんですね。
そして形容詞の場合、典型的には語尾に e をつけるっていうのが、複数形を作る最も普通の方法だったんです。
そして指示詞っていうのは、例えば this is a pen のように単独で this を指示代名詞として使うときもありますけれども、
this book is interesting のように、いわばブックを収束する形容詞の一種として使われることもありますよね。
ですから形容詞的な役割があるということで、ここでも形容詞の複数語尾である e がつくという説明が可能になりそうだと、そういうわけなんですね。
ということで、なかなか込み入っているんですけれども、this, that, these, those のうち3つまで、つまり this, these, those までが、
小英語の this から発していて、そして that のみが小英語の the から発しているということなんですね。
エンディングです。今日も最後まで放送を聞いていただきましてありがとうございました。
今回は指示詞 this, that, these, those の語源、起源に迫ってみたんですが、このように日常的に使う当たり前の単語ですね。
しかも、いわゆる内容のある語、内容語ではなくて機能語という文法的な役割を果たすことの多い語だと思うんですね。
こういう指示詞っていうのは。こういうのこそですね、起源が複雑だったりします。
そして、今日の放送の中ではあまりに細かすぎるので割愛しましたが、小英語以降ですね、中英語、近代英語と実はいろいろな
this, that, these, those に相当する単語ですね、主に複数形ですかね、が共存していたんですね。
その中から最終的に標準的なものとして確立したものが複数形でいうと these, those ということで、
ここに至るまでにもそういった問題がいろいろあったっていうことなんですね。このように単語の変化っていうのは、
一直線で昔から現代までつながっていることはむしろ、もしかしたら珍しいのかもしれません。
特にこういった機能語のようなものはですね、いろいろと曲がりくねった道を歩んで、そして様々なものが捨てられ、
そしてあるものが標準として選ばれて現在に至るということで、その道筋をですね、生き残った、つまり成功したものの道筋を描いてみると、なかなか複雑だっていうことがよくあるということなんですね。
このあたりが英語史の面白さ、魅力であり、そしてまた難しさでもあるのかなというふうに思います。
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それでは今日も良い1日になりますように。
ほったりうちがお届けしました。また明日!