名詞の複数形の歴史
英語に関する素朴な疑問。なぜ名詞の複数形も動詞の3単現も同じsなのですか。
この質問は、小学生、特に中高生の英語学習者からよく寄せられる質問です。 思い返してみますと、私もですね、中学生ぐらいの時に同じ疑問を持っていたように思うんですね。
確かに名詞の場合は複数形、英語というのは単数と複数をしっかり区別する言語ですが、 名詞の場合には複数形の時にsが付くということになっています。
ところが、動詞の場合は主語が3単現、3人称単数現在、単数の時にのみ、 動詞にsが付くということになります。
つまりこれ、ちぐはぐなんですね。名詞の時は複数形で付けろ。 ところが動詞の場合には単数形の時に付けろというわけですね。
これどうなっているの?というのは自然な疑問のように思います。 これを後に英語詞を勉強してからですね、同じ問題を考えたら、
評価しました。 なぜそうなるのかというのが理解できたような気がします。
それについて今日は簡単に解説します。 まず名詞の方からいきます。
歴史的に言いますと、古英語、1000年ぐらい前の英語の姿ですが、 確かにこの時代にもですね、名詞の複数形を作るのにsを付けるというものがありました。
しかし今ですね、どんな名詞でも99%で小数の例外を除いて s を付ければ複数形になるということですが、そのような状態ではなかったんですね。
あくまで3分の1程度の名詞ですね。 古英語の時代にはあくまで3分の1程度の名詞が s を付けて、厳密にはasと書いてasという形でしたが、これを付けて複数形を作ったんです。
他にもつまり3分の2の名詞は別の語尾で複数形を作ったのであって、決して s イコール複数という現代的な発想はまだまだ芽生えてなかったんですね。
3分の1って小さくはないですが、だから絶対的な規則ではなかった。 s イコール複数名詞という発想は必ずしもなかったということです。
それが次の中英語期以降、そして近代語になるにつれてどんどんですね、今まで複数形を作るのに s を取っていなかった名詞がどんどんと s に乗り換えていったんです。
その結果、中英語の終わりぐらいまでにはもう現代の状況に達していました。つまり99%の名詞がとにかく s を付ければ複数なんだよという発想になったんですね。
したがって現在の s イコール複数名詞という発想の起源は小英語にはなくて、その後の中英語ぐらいにたまたまこの s が拡大した
ゆえにですね s イコール複数名詞という発想が生まれたということです。 だから歴史の
経過の結果ですね、歴史の半分ぐらい偶然です。結果は今、複数形名詞といえば s、s といえば複数形名詞というような発想になったということになります。
動詞の三単元の変遷
これが名詞の話です。 一方、動詞の三単元についてはどうでしょうか。
これは現在は三単元では s をつけましょうねということになっていますが、これもやはり歴史の偶然なんです。
もともと小英語ではですね s ではなくて th の語尾でした。 確かに音としては似ている。
日本語母語とするものはこの th と f の区別が苦手だと言いますが、英語では完全違う音です。
もともとはこの三単元は実は th だったんですね。 これが中英語以降、特に近代英語にかけて s になってきます。
これは我々から見ると音が近いから変わったんだねというように受け取りがちですが、そうではありません。
音としてはやはり英語的には全く違う音ですので、th の音が s にだんだんと似ているから変わっていったってことではなく、
全く別の理由で s に置き換えられたと考えるべきです。 徐々に音が近いから変わっていったのではなくて、置き換えられたということです。
この経緯については英語誌でも諸説でありますので、ここでは詳しくは踏み込みませんが、
もともと th だったものが歴史的な仮定で s に置き換えられたということです。
つまりこれも半分ぐらいはたまたま偶然ということです。
こうして近代期以降ですね、名詞の複数形も s だし、三単元に対応する動詞の形も s ということになった。
これはたまたま言語的変化の結果として s に合わさってしまったというだけで、完全なら偶然といっていいと思います。
もちろんこれは偶然といっても数に関する話です。
単数だったらどうとか複数だったらどうという関係なので、これは全くの偶然ではないという見解もあったりはしますけれども、
基本的にはですね、歴史の仮定でもともと違ったものが、違かったものがたまたま名詞の複数形でも動詞の三単元でも同じ s に合わさってしまったというのが実態だというふうに私は考えています。
これに関しては、逆の発想に関しましては、1576番の記事をご覧ください。