大母音推移の概要
おはようございます。慶應義塾大学の堀田隆一です。 本日は、普段とちょっと趣向を変えてですね、気分を変えてと言いますか
散歩しながら、リラックスしながら収録しています。 その割にはですね、タイトルは大母音推移ということで、がっつりした話題をお届けしようと思っていますが、この
大母音推移、これはですね、英語史上のおそらくベスト3に入るキーワードではないかと。 場合によってはベスト1かもしれないんですけれども、非常によく知られた大きな言語変化なんですね。
英語ではGreat Vowel Shiftというふうに、それぞれ大文字で書くんですね。Great Vowel Shiftということで、それぐらい偉大な壮大な変化だということが暗示されているわけなんですけれども、ではこのGreat Vowel Shift、大母音推移というのはどんな現象なのかということについて、概要を今日はお話しします。
まずですね、5W1Hで考えていきたいと思うんですが、まず起こったことをファットですね。何が起こったかと言いますと、母音の体型にですね、大きな変化がもたらされたということなんですね。ただのチェンジ変化ではなくて、大母音推移というところがポイントで、英語でもシフトですね。
ある音が別の音になり、その音がまた別の音になりという形のシフト、連鎖的な母音変化を指すわけなんですけれども、これはどういう単語で言いますかね、音の環境で起こったかと言いますと、強制のある張母音に無条件で作用した、起こった変化だということなんですね。
この強制のある張母音で無条件、この3つがポイントなんですけれども、強制あるというのは英語の単語はですね、アクセントのあるところないところってのははっきりしてますよね。アクセントのある場合、ある音節にのみ働きました。そしてまた張母音、単母音ではなく張母音にのみ働きました。
ですから、例えば、アーには働いたけれども、アーという短い母音の場合は、この大母音推移は起こっていないということです。さらに言えば、無強制のウッウッウッのような音ですね、シュワーと呼ばれる音、これにも働いていません。強制のある張母音に働いた。
そして3つ目の無条件に、これが非常に大きいことなんですけれども、つまりこの問題の音を含んでいる単語であれば、すべての単語で一律にということです。例外なくということですね。作用した。では具体的にどういう音の変化、母音の変化が起こったかと言いますと、複数の変化ですね。これが一連の変化として起こったということなんで、いくつかあるわけなんですが、
まずですね、アーの音です。強制のある長いアーの音ですね。これ音声学的に言いますと、口が一番開いた状態の母音がこのアーなんですね。下の位置が低いという言い方もできますし、口の開きが大きいという言い方もできるわけなんですけれども、このアーの音がですね、一段高くなるって言い方しますね。
下の位置が高くなる。口の開きで言えば、一段階狭くなるということで、これがですね、アーが少し狭くなる。下の位置が高くなると、エーになります。アーからエーになりますね。そしてじゃあ、このエーの音はどうなるかというと、エーの音はエーという音になります。
日本語の感覚では、二つとも同じエに聞こえるかもしれませんが、エにも広いエと狭いエがあって、広いものから狭いものになったんですね。つまりエーがエーになりました。エーがエーになったっていうことですね。
そして狭いエーは次どうなったかというと、イーになります。一段階ずつ下の位置が上がっていく。口の開きが狭くなるという変化ですね。アーエーエーイーここまできました。
ではイーはどうなってしまうかというと、これ以上狭めることはできないんですね。下の位置を高くすると、口の中の上の天井ですね、口蓋と言いますが、ここにぶつかっちゃう。そうするともう母音であることをやめて、死音という括りになっちゃうんですね。
じゃあイーはここで止まるのかというと止まらずに、イーは二重母音に変化するという形で、死音になることを回避したということですね。イーはエイエイエイになりました。
後の現代の英語におけるアイという二重母音になるわけなんですけれども、イーがエイエイエイエイアイアイとなったということです。
今述べたアーからの系列ですね。アーエーエーイーエイっていうのは、口のどちらかというと前寄りの方で発音される音なんですが、実は同じような一段ずつ上に上がっていくっていうのはですね、口の奥の方の音、後ろ舌母音というんですが、これでも起こっていまして、どうなったかというと、
まず開いたオですね。口を大きく開けるオーオーオーというもの。これが一段狭まってオーオーオーになります。これも日本語では同じオのように聞こえるかもしれませんが、開いたオと狭いオということで区別はつくと思うんですね。
オーに対してオーになったと。そしてこの狭いオーは一段上に上がると、今度ウーになります。ウーということですね。そしてこのウーはもう既に高い母音、口の開きが狭い母音ですので、これ以上上がることはできないということで、先ほどのイーの場合と一緒でですね、二重母音化します。
オーオーになります。つまりウーはオーオーオーオーオーオーと、現代語のアウという発音につながっていきます。つまりですね、英語の母音系列が全体として一段階上がった、あるいはすでに一番高かったものは二重母音化したということが起こったんです。
具体的な単語の変化
さあ、これを具体的な単語の中で見てみましょう。まずですね、ネイム、名前を意味するネイムですが、これはもともとですね、スペリングから分かる通りですね、文字通りにはナーネって発音だったんですね。
ところが、これアーという母音が含まれてますね。強制のある長母音です。これが一段上がってエーになります。なので、ネーム、ネーム、つまりナームだったものがネーム、ネームになったということなんですね。
次に食べるを意味するイートですが、これEATと書くことから分かる通りですね、もともとはこれエート、エートという広いエートの音でした。エート、エート、これが狭い音になりました。
エート、エート、エート。実はですね、これがもう一段階、この場合は上がってEになっちゃうんですね。A、A、Eというふうに二段階上がった形になってEATとなるわけです。
まず一段階なんですが、この箇所に関してはですね、少し変なことが起こっていて二段階上がってるんですね。そして狭いAだったものはどうなったかというと一段階だけ上がってEになります。
例えば、見るを意味するSEEですね。SEE、これセー、セー、セーと狭いAで発音されていたんですが、これが一段上がってC、C、Cというわけです。そして見つけるを意味するFINDで考えてみましょう。
FINDというのが本来の発音でした。このEが二重分化してA、A、A、I、Iとなりました。なのでFINDが今FINDになっているということです。さあ、後ろの系列でも確認してみましょう。
例えばですね、GOALを考えたいと思います。GOALですね。これGOALというスペリングでOAですね。これ典型的に古い発音ではGOAL、GOALというふうに広いOだったんですね。それが狭いOになってGOAL、GOAL、GOAL。やがてGOALという発音に二重分化後にしたんですけれども、こうなりました。
そしてFOODこれを考えてみましょう。FOODと綴りますね。なので文字通りFOODだったわけなんですけれども、これが一段上がってFOODになったということです。そして最後に家を意味するHOUSEで考えてみましょう。
これはHOUSEと綴りますが、これで昔はですね、うーという発音だったんです。HOOSEこれが二重分化してHOUSE、HOUSE、HOUSE、HOUSEということです。これが15世紀から17世紀にかけて起こった大ボイン推移です。