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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
強意複数の概念
今回取り上げる話題は、強意複数の pities, skies という話題です。
強意複数、複数の強調の意味ということですね。強調の意味で使う複数形、名詞の複数形というのがあるんだということですね。
あまり知られた文法事項ではないんですが、大きめの本格的な文法書を紐解くと、よく現れてきます。
強意複数、intensive plural というものですね。
これはどういうことかというと、本来的には普通の使い方としては、抽象的な概念を表すので、
不加算名詞である、抽象名詞であるというようなものがですね、
強調をする場合には、突然加算名詞であるかのような振る舞い方をして、強調ですから複数になるんですよね。
つまり通常は抽象名詞ですので、単数形でというか s がつかない形でですね、現れるのが普通。
これが一番よく見慣れている形なんですけれども、ある文体的なレトリカルな使い方ではですね、
これが加算名詞に分けて、そしてしかも複数形になり s がつくと。
こういう使い方っていうのがあるんですね。
何でもいいわけではなくて、だいたい限られた名詞ではあるんですけれども、
例えばですね、pity っていう単語です。
これ哀れみ、憐憫ということで、本来的には抽象名詞です。
例えば、I listen to her story with pity みたいな言い方ですね。
本当に言うとですね、すでに加算名詞化して、what a pity という言い方もありますし、
加算名詞としての使い方もあるわけなんですけれども、少なくとも what a pity のように、
a を使うことが多いんですが、これがですね、複数形で pities として現れることっていうのがあるんですね。
例えば例文です。
It is a thousand pities that you don't know it のような文ですね。
これ、大げさな表現というのはとてもよくわかりますよね。
A thousand pities、千個の哀れみなんだと。
That you don't know it、あなたがそれを知らないなんて、ということで、非常に大げさな表現だということがよくわかると思うんですね。
いわゆるこれを脅威、複数というふうに呼んでいます。
この種の感情を表す、この pity であるとかですね、他に terror なんかもそうですが、こういったものがですね、通常、感情を表す中小名詞ですので、
複数形なんか普通取るわけがない言い訳なんですが、これが加算化して、そして複数形を取るっていうような、ちょっと大げさな表現として使われることがありますね。
その terror の例文を挙げますと、She was routed to the spot with terrors のようにですね。
もちろんこれ、with much terror とか、with a lot of terror というふうに、本来の中小名詞、複数名詞として強調することだって可能なわけなんですが、
それをあえて加算化して s をつけるというのも、これは一つ、よく効いてるわけですね、このレトリックが効いてる感じがする。
s っていうのは複数形、複数形ってことは大きい、大きいってことは程度が大きいというふうな、一種のレトリカルな表現なわけですね。
で、他にもこのような感情を表すものとしては、例えば despairs, doubts, ecstasies, fears, hopes, rages なんていうのもあります。
こういった感情的な、心理的な名詞ですね、中小名詞で、この教育数っていうのは使われることが、監修的には多いわけなんですが、他にもう一つですね、
希少用語っていうんですかね、希少関係の用語でもありますね。 例えば sky っていうのは、これ空ですから、これ普通は数えないわけですね。
いくつも空があるわけではないということですね。 しかし、あえてそれを加算名詞化して、そしてさらに複数形にすることで、
まあ脅威っていうんですかね、を表現するということで、例えば sky を複数形にしたこんな表現があります。
We had gray skies throughout our vacation. これは休暇中、ずっとですね、gray skies ですから、要するに曇り空が広がっていたということで、この曇り空を毎日毎日繰り返されるわけですし、
強調するって意味で gray skies と表現すると。 いいよな、こんな使い方ですね。
次、sand、砂を使ったらいいです。 They walked on across the burning sands of the desert.
これもわかりますね。いいけどもいいけども、とにかく砂ばっかりというイメージが喚起されるわけですよ。 普通は、sand、数えないわけなんですけれども、これをあえて数えられるものとして複数形にする。
これも脅威複数の一例だと思います。 それから次、snow、雪ですよね。
Where are the snows of last year? 小園の雪、今、伊豆湖という感じですかね。
これは、snowというのは、普通は数えたりしないものなんですが、たくさん降ったというニュアンスを出すためにですね、あえて加算名しかし、それを s で表す。
他に気象現象に関するものとして、clouds、fogs、heavens、mists、rains、waters なんていうのもありますね。
常にこれ、教育複数、どんな抽象名詞でも使えるかというと、そういうわけではなくて、今述べたようにですね、あえて感情を表す心理的な単語であったり、
それから気象現象に関するものであったり、というものがあって、慣習的にある程度決まっているということですね。
で、それ以外の分野からは、非常によく使われて、日常的にもなっているものとして、一番身近なのは多分、thanks ですよね。
感謝ですから、これはいかにも抽象名詞っていう感じがするんですが、これは、many thanks というように、thanks a lot というぐらいの意味ですよね。
これ、thanks と複数形にすると、いっぱいある感じがする。これは、教育複数です。
他には、謝辞ということで、本の最初なんかにあるんですが、acknowledgements これは必ず複数ですね。
acknowledgements と、単数形だと、また違う意味になっちゃうわけですよ。
本来の承認、辞任ということで、いわゆる感謝という意味にはならないわけですね。
これを感謝という意味に、ある種変えるために s をつける。教育複数を使うというような、これは完全に慣習化された使い方ですけどね。
acknowledgements ということです。
さあ、このような用法が英語にはあるわけなんですけれども、教育複数という用法ですね。
歴史的背景の考察
これ、歴史的に探るとどうなのかと言いますと、中英語期までは、あまりこれに相当するものがないんですね。
そもそも、加算名詞、不加算名詞という区別自体がですね、近代語区にかけて出来上がったものなんで、
そもそもこういう区別というのが、なかったというのが中英語期までですね。
つまり、それ以降に発展したんだろうなと考えられるわけなんですけれども、実際ですね、ちょっと調べてみると、どうもこれはラテン語の表現法をそのまま模倣したもの。
つまり、ラテン語ではこの感情を表す名詞ですね、こういったものが複数形で使われるということがあったんですね。
これを英語でも真似てと言いますか、なぞってですね、本来の英語的には中小名詞っぽく、定関詞もつかなければ s もつかないというような、そういうタイプの単語として使われてきたんですが、
ラテン語で複数形がある、複数形として用いられているというようなところを借りてきたということですね。
これによって、どうも脅威複数というのが、使われる例が16世紀後半、近代初期ですね、この時期の作家の文章にレトリカルに使われているんですね。
文体的な技巧として使われているということが観察されるんですね。
ここから、まあ、hopes とか、fears とか、さらには loves なんていうのは、ラテン語の amores という複数形、これをどうも真似た形で loves みたいな形で使われていると、こういうのがあるんですね。
これが、当時16世紀はイングランドのルネサンス期です。この時期にラテン語を真似たこういった表現が流行したと、英語でも s をつけるという、これがですね、一種の伝統、慣習となって、その余韻が近現代英語にもですね、レトリカルなものとして残っていると、どうもそういう事情のようなんですね。
それではまた。