英語スペリングの特徴
おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。 このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。 今回取り上げる話題は、英語スペリングの原理らしくない原理7点
という話題です。 英語のスペリング、発音と一致していないというのが悩みなわけで、学習者としても非常に厄介な英語の書き言葉の特徴ということになっていますが、
この一見めちゃくちゃに見える英語のスペリングにも、原理と呼ばれるものがあるんだという話なんですね。
これは、ヴェネスキーという人がですね、The American Way of Spellingという本をですね、1999年に出しているんですが、そこでですね、
General Principles of English Orthography、英語聖書法の一般原理、複数形ですけどもね、
これを提案しているんですね。
そうすると、一般原理ということなので、7つあるんですけどもね、この7つを押さえればスペリングについての問題が解決されるかというと、そういうわけでもないんですね。
この一般原理、General Principlesとかなり大きく出ていますが、実際にはですね、一般原理というよりはですね、
英語のスペリングが持っている正確ぐらいのものでですね、ちょっと原理は言い過ぎかな、原理らしくない原理、これが7つ挙げられているんですね。
なので、期待しすぎると外れてしまいますので、あまり期待はしないでください。
この7点について、簡単にいくつか例を挙げながらですね、解説してみたいと思います。
原理の具体例
まず一つ目の原理というものですが、Variation is toleratedということになってますね。
これは、バリエーションは許容されるんだということですね。
つまり、一つの単語についてですね、一つの決まったスペリングがあるというわけではなくて、2つ以上ある場合もありますよということです。
つまり、このレベルの原理ということなんですけどね。
例えば、一番分かりやすいのがAベーサーですよね。
スペリングにはAベーサーがあるものがあって、例えば名誉を表すHONOR。
これアメリカのスペリングではHONORとなって、最後がORなんですね。
ところがイギリスではHONOURということで、最後の部分がOURになるということですね。
これはCOLORなんかでも一緒ですね。
OURとなるのがイギリスで、そしてORとなるのがアメリカ式ということで、一つの語に対して、これはAベーの方言差ということなんですけれども、
2つの綴り方があるっていうことがあり得ますよという原理ですね。
この辺りからも、これを原理と呼ぶのかっていうことで失望が始まるわけなんですが。
さあ次、原理2です。
Letter Distribution is Capriciously Limitedというもので、これは何かというと、文字の並びには自由でいいわけではなくて、あくまで文字の並び方には制限がある。
ただその制限のかけ方というのが、どうも気まぐれであるっていうことなんですね。
例えば、母音字を重ねてEEという繋がり、これはよく見ますね。
だからOOっていうのもよくあると思うんですね。
ところがAAっていうのは普通ないんですね。
だからUUっていうのもありません。
基本的にはっていうことですよ。
非常に稀な単語とか外来語なんかではあったりしますが、よく使われる組み合わせっていうのは限られてる。
ただ、なんでEEはOKなのにAAだとダメなのかということですね。
これは理屈では説明できませんと、気まぐれなんですと言ってしまってるわけですね。
さあ3つ目の原理です。
Letters represent sounds and mark graphemic, phonological and morphemic features.
これは何のことかと言いますと、大抵文字は音に対応してます。
だから文字をそのまま発音記号のように読んでくれれば結構です。
しかしそれ以外に文字には役割がありまして、音を表すだけではなくて、その他諸々の役割があるんですというような原理ですね。
例えば典型的なのがMagic Eと呼ばれる語末に付けられるE。
Eというのは普通はエと読めば良さそうなんですが、語末に来る場合、例えばNAMEっていう単語ですね。
NAMEと続きますが、このEは読まないわけですよ。
なので音を表しているわけではなくて、あくまで前の母音ですね。
NAMEのAの部分、Aの文字で表されるものは、発音としてAではなくAなんだということを後ろから遠隔操作的に制御するのがこの語末のE、Magic Eと呼ばれているものなんですね。
これ自体に音の価値があるわけではなくて、他の部分に指令を与えているというような役割ですね。
このように文字は純粋に音を表すという働きだけではなくて、別のもしくはコードなっていますかね、働きをする場合があるというような原理です。
そして4番目の原理、Etymology is honored。
語源が尊ばれるということで、これは典型的にはDoubtのBのような問題ですね。
このVoicyでも以前話したことがありますが、語源にかつてBがあったからこそDoubtのBが入っているのであって、これは音を表すわけではない。
Doubtのような、ぶと読みなさいという意味ではなくて、あくまで語源を示しているというぐらいの役割ですね。
このDoubtのタイプの黙字というんですかね、黙る字ですね。
書いてあるのに読まないというのはこういうケースも結構あると思うんですね。
このように語源が重んじられて、スペリングの中にある文字が発音もされないのに入り込んでしまうということは英語にはあるんですよということを述べている、これも原理とは言えないような原理ですけれどもね。
そして5番目、Regularity is based on more than phonology。
これは例え同じ発音、つまり同音異義語みたいなものですね。
発音は一緒でも違う単語、違う使い方という場合がある。
これはしっかりとスペリング上を分けておこうというようなケースがこれにあたります。
例えば全知のinというのはinですが、全く同じ発音で宿屋という意味の名詞がありますね。
inですがこれはinというふうに綴るわけです。
他には普通名詞で使われているときと固有名詞で使われているときに小文字始まりのものと大文字始まり、これはよくあると思うんですね。
例えばうというと、これ土、地面ということで小文字で始めるとうですね、そういう意味になるんですが、大文字で始まるとこれは地球、惑星としての地球という意味になったりするということですね。
7番目、Visual identity of meaningful word parts takes precedence over letter-sound simplicityということで、
長い原理いいですが言ってみればですね、例えばprecedeという動詞がありますね。
この名詞形はprecedenceというふうにアクセントの位置も変わるし、母音も変わるんです。
当然関係する単語なんですが、precedeに対してprecedenceということですね。
学習者への影響
音はだいぶ違うにもかかわらず、やはりprecedeの関係語だよということを表すために、precedeという部分はきっちり同じスペリングでこの名詞形のprecedenceにも残っているということです。
音というよりは、語と語の関係、これが派生関係にあるよということをむしろ表すことに注力しているということですね。
なのでこのprecedeの部分は変えないという原則です。
さあ最後7番目です。
English orthography facilitates word recognition for the initiated speaker of the language, rather than being a phonetic alphabet for the non-speaker.
ということで、既に英語を知っている読者にとって語の認識がしやすいという、そういうスペリングシステムなんだと。
つまり先に英語を知っていない人々、多く我々ですよね、英語学習者にとってはわかりにくい、少なくとも語の認識がしづらいスペリングなんだという、絶望的なことを語ってくれているということなんですね。
この原理らしくない原理7点でした。